JP5036610B2 - 擬似位相整合波長変換デバイスの製造方法 - Google Patents
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Description
擬似位相整合波長変換デバイスの材料としては、リチウムナイオベート(LiNbO3)やリチウムタンタレート(LiTaO3)などの自発分極を有する強誘電体結晶が広く用いられている。これらの強誘電体結晶は、分極方向に電界を印加して分極の向きを周期的に反転させてやることにより、上記の擬似位相整合を実現させる。
しかしながら、上記強誘電体結晶を用いた擬似位相整合波長変換デバイスでは、変換できる波長領域が0.3〜5μmに制限されていた。これは、上記変換できる波長領域が当該材料の透明波長領域によって制限されるためで、材料として強誘電体結晶を用いている限り、0.3μmよりも短波長のレーザ光や、5〜20μmの長波長のレーザ光を得ることは困難である。更に、強誘電体結晶では、光損傷閾値(光損傷が起こり始める入射レーザ光のパワー)が十分に大きくないため、高出力の波長変換デバイスを製造するには限界がある。なお、光損傷は、結晶の屈折率が変化したり、結晶構造そのものが破壊されることをいう。
そこで、GaAsのプレートを、プレート面内の結晶方位を180°反転させながら順に接着して、交互に積層された積層体を作製すれば、さまざまな波長のレーザ光を高出力でかつ効率良く発生させることのできる擬似位相整合波長変換デバイスを得ることができると考えられる。
GaAsのプレート同士を接着した例としては、CrをドープしたGaAsの単結晶を[111]方向に垂直に切断したプレートの表面をケミカルエッチングした後、プレート同士を圧着させたものがある(例えば、非特許文献1参照)。
また、真空中でかつ高温(500〜840°C)環境下で、GaAs表面の酸化膜を除去した後にプレート同士を接合する拡散接合法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
一方、副格子交換エピタキシーを用いて擬似位相整合させる方法が提案されている。具体的には、GaAs基板上に非反転層である第1のGaAs層を分子線エピタキシー法(MBE法)で成長させた後、この第1のGaAs層の表面にGe層を成長させ、このGe層の上に反転層である第2のGaAs層を成長させる。次に、上記第2のGaAs層をストライプ状にエッチングし、このエッチング部分に上記第1のGaAs層の表面を露出させた後、非反転層から成る第3のGaAs層を形成する。最後に表面を研磨して平滑にすることにより、反転層である第2のGaAsと非反転層である第3のGaAs層とがストライプ状に交互に並んだ積層体を得る(例えば、特許文献2参照)。
D.E.Thompson et.al" Second-harmonic generation in GaAs stack of plates using high-power CO2 laser radiation";Applied Physics Letters,Vol.29,No2,15 July1976:pp113-115
また、拡散接合法は原子レベルでの接合が可能であるが、接合温度が高いためにAsの一部が飛んでしまうなどして、材料が劣化するといった問題点がある。
一方、副格子交換エピタキシーを用いて擬似位相整合させる方法では、高品質なデバイスを製造することはできるものの、厚さが数μm程度であるため、デバイスを高出力化するには限界がある。
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の擬似位相整合波長変換デバイスの製造方法において、上記対向するプレートのプレート面を(110)面としたことを特徴とする。なお、上記プレート面は、プレートの厚さ方向に垂直な面を指す。
請求項3に記載の発明は、請求項1または請求項2に記載の擬似位相整合波長変換デバイスの製造方法であって、上記2枚のプレートの間隔が1〜5mmであることを特徴とする。
請求項4に記載の発明は、請求項1〜請求項3のいずれかに記載の擬似位相整合波長変換デバイスの製造方法であって、上記活性化処理に用いられる原子ビームはArビームであり、このArビームの広がり角が10°〜30°の範囲にあることを特徴とする。
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の擬似位相整合波長変換デバイスの製造方法であって、上記Arビームの照射エネルギー密度が90〜1200J/cm2の範囲にあることを特徴とする。
請求項6に記載の発明は、請求項1〜請求項5のいずれかに記載の擬似位相整合波長変換デバイスの製造方法であって、上記化合物は、III−V族化合物半導体もしくはII−VI族化合物半導体であることを特徴とする。
また、上記対向するように設置された2枚のプレートの間隔を1〜5mmとすれば、活性化処理後の界面の状態がクリーンな状態で常温接合できるので、変換効率を向上させることができる。
また、上記活性化処理に用いる原子ビームとして、広がり角が10°〜30°の範囲にあるArビームを用いれば、プレートの表面を均一にエッチングできるだけでなく、ケミカルエッチングのように、不要に深くエッチングすることがないので、表面を適正に活性化処理できる。したがって、原子レベルでの接合を確実に行うことができ、変換効率を向上させることができる。
また、Arビームの照射エネルギー密度を90〜1200J/cm2の範囲とすれば、不要なエッチングをすることがなく、表面を確実に活性化処理することができる。
まず、エピタキシャル成長させたGaAsの単結晶から所定の大きさ(ここでは、一辺が5mm、厚さが0.1mm)のプレートを複数枚切り出す(ステップS10)。このとき、上記切り出されたプレートの厚さ方向に垂直な面(プレート面)を(110)面とする。なお、ここでは、6枚のプレートを接合する例について説明する。
次に、上記プレートのうちの2枚を、図2に示すように、常温接合装置10の真空チャンバー11内に設置された第1及び第2の試料ホルダー12,13に、上記プレートの面内の[001]方向が互いに180°異なるように、それぞれ取付ける(ステップS11)。ここで、上記第1及び第2の試料ホルダー12,13の試料取付面12a,13aを水平面とし、この面に垂直な方向を上下方向とする。なお、本例では、上記第1の試料ホルダー12を可動ホルダーとし、上記第2の試料ホルダー13を固定ホルダーとした。上記第1の試料ホルダー12は、図示しない昇降機構により、上記第2の試料ホルダー13方向に上下動する。
上記真空チャンバー11内の上記第1及び第2のホルダー12,13の側面側には、Arビームを照射するビーム源14が設置されている。このビーム源14から照射されるArビームの中心は、固定ホルダーである上記第2の試料ホルダー13の試料取付面13aから所定距離離れたところにある。
ここで、上記Arビームの広がり角ωをω=10°〜30°とし、上記2枚のプレート21,22の間隔dを1〜5mmとすることが好ましい。また、上記Arビームの照射エネルギー密度としては90〜1200J/cm2の範囲とすることが好ましい。これにより、プレート21,22の表面21a,22aを均一にエッチングできるだけでなく、ケミカルエッチングのように、不要に深くエッチングすることがないので、上記表面21a,22aを適正に活性化処理することができる。したがって、原子レベルでの接合を確実に行うことができ、変換効率を向上させることができる。
その後、真空ポンプを停止させるとともに、上記真空チャンバー11内に不活性ガスを導入して、上記真空チャンバー11内を大気圧に戻した後、上記真空チャンバー11を開けて、プレート21と上記プレート22とが接合された複合プレート20Dを取り出す(ステップS16)。次に、上記複合プレート20Dを可動側の試料ホルダーである第1の試料ホルダー12に取付ける。また、固定側の試料ホルダーである第2の試料ホルダー13には、新たなプレート23を取付ける(ステップS17)。このとき、上記第2の試料ホルダー13に取付けられた新たなプレート23のプレート面内の[001]方向と、上記第1の試料ホルダー12に取付けられた複合プレート20Dの上記プレート23に対向する側のプレート22のプレート面内の[001]方向とが互いに180°反転するように取付ける。
そして、上記ステップS12〜ステップS14までの操作を行い、図3(c)に示すように、上記新たなプレート23の表面23aと複合プレート20Dの表面(上記プレート22の裏面)22bとを活性化処理した後、ステップS15に進み、図3(d)に示すように、上記新たなプレート23と複合プレート20Dとを常温接合する。
このような操作を、所定回数n=5だけ繰り返すことにより、図4に示すような、複数のプレート21〜26が、隣接するプレート同士の面内の[001]方向が互いに180°異なるように接合されてGaAs擬似位相整合波長変換デバイス(以下、波長変換デバイスという)20を作製することができる。
なお、GaAsの接合枚数はいずれも6枚で、デバイスの長さは0.6mmである。
また、本発明による波長変換デバイスの作製条件は以下の通りである。
真空度……2.0×10-6Torr
Arビーム……電流:2mA、電圧:5kV、
広がり角:20°、照射時間:60秒
試料間距離……2mm
ビーム−試料間の距離……10mm
接合時間……2秒
図5のグラフから、波長変換デバイスが動作を開始するポンプレーザ光のピークパワー(発振の閾値)は、拡散接合で作製した波長変換デバイスが320Wであるの対し、本発明の波長変換デバイスでは、130Wと発振の閾値が約60%も低減していることがわかる。また、スロープ効率(シグナル光のピークパワーの変化率)も、変換効率(ポンプ光のピークパワーに対するシグナル光のピークパワー)も大幅に向上している。
このように、発振の閾値が低く、かつ、スロープ効率及び変換効率が高いということは、本発明による波長変換デバイスは、接合部におけるレーザ光の散乱が少なく、かつ、接合部近傍でのレーザ光の吸収も少ないことを意味している。すなわち、本発明による作製方法の方が、従来の拡散接合に比較して、プレート間の接合状態が良好である。
また、本発明による波長変換デバイスは、必要とする入射パワーが少なくて済むので、発熱も小さい。したがって、動作が安定しているだけでなく、耐久性も向上するので、レーザ装置の小型化・省エネ化を図ることができる。
また、上記例では、接合するGaAsのプレート面を(110)面としたが、(111)面などの他の面を接合面としてもよい。
また、上記例では、複合プレート20Dと新たなプレート23とを接合したが、複合プレート20D同士を接合することも可能である。
また、上記例では、GaAsのプレート21,22の表面21a,22aをArの原子ビームでエッチングしたが、分子ビーム、もしくは、イオンビームを用いてもよい。
また、上記プレート21〜26を構成する材料は、GaAsに限定されるものではなく、GaPなどの他のIII−V族化合物半導体、あるいは、ZnSeなどのII−VI族化合物半導体、更には、SiCなどのIV−IV族化合物半導体、水晶などの誘電体結晶を用いても同様の効果を得ることができる。すなわち、本発明の擬似位相整合波長変換デバイスの製造方法に用いられる化合物単結晶材料としては、波長変換を行う波長領域で透明であり、かつ、空間反転対称性を有しない材料であれば、いずれも適用可能である。
13 第2の試料ホルダー、12a,13a 試料取付面、14 ビーム源、
20 GaAs擬似位相整合波長変換デバイス、20D 複合プレート、
21〜26 プレート。
Claims (6)
- 空間反転対称性を有しない化合物の単結晶から成る同じ結晶方位を持つ2枚のプレートを、プレート面内の結晶方位が180°反転するように対向させて設置してから、これら2枚のプレートの表面に原子ビーム、分子ビーム、もしくは、イオンビームを照射して上記表面を活性化処理する第1のステップと、
上記活性化処理されたプレートの表面同士を常温にて密着させて接合する第2のステップと、
上記常温接合されたプレートと上記化合物から成る活性化処理されていない同じ結晶方位を持つプレート、もしくは、上記第1及び第2のステップにより常温接合された2枚のプレート同士を、プレート面内の結晶方位が180°反転するように対向させて設置し、これら2枚のプレートの表面を活性化処理する第3のステップと、
上記活性化処理された表面同士を常温接合する第4のステップとを備え、
上記第1及び第3のステップでは、上記2枚のプレートの側面側に設置されたビーム源から原子ビーム、分子ビーム、もしくは、イオンビームを上記2枚のプレートの表面に照射して、上記2枚のプレートの表面を同時に活性化処理することを特徴とする擬似位相整合波長変換デバイスの製造方法。 - 上記対向するプレートのプレート面を(110)面としたことを特徴とする請求項1に記載の擬似位相整合波長変換デバイスの製造方法。
- 上記2枚のプレートの間隔が1〜5mmであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の擬似位相整合波長変換デバイスの製造方法。
- 上記活性化処理に用いられる原子ビームはArビームであり、このArビームの広がり角が10°〜30°の範囲にあることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載の擬似位相整合波長変換デバイスの製造方法。
- 上記Arビームの照射エネルギー密度が90〜1200J/cm2の範囲にあることを特徴とする請求項4に記載の擬似位相整合波長変換デバイスの製造方法。
- 上記化合物は、III−V族化合物半導体もしくはII−VI族化合物半導体であることを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれかに記載の擬似位相整合波長変換デバイスの製造方法。
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