JP5035582B2 - 医薬組成物 - Google Patents

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Description

技術分野
本発明は、各臓器の虚血などの酸化ストレス、ショック、感染症、重大な外傷、火傷、出血性ショック、虚血再灌流後障害、多臓器不全、劇症肝炎、呼吸停止、アナフィラキシーショック、移植片対宿主反応病(GVHD)などの救急的、全身的炎症から、末梢組織の緩徐な炎症、アレルギーまで含めた、各臓器・組織・細胞の様々な傷害を防護・修復する物質を含む医薬組成物およびそのような物質を探索するスクリーニング方法に関する。
背景技術
多くの疾患は、各臓器・組織の傷害、細胞のネクローシス・アポトーシスにより発症する。様々な外来異物の摂取や感染などにより惹起される、生体の炎症が、これら傷害の引き金となるし、更には修復過程の始まりともなる。外来異物として、薬物や環境ホルモンなどの化学物質、ウイルス・細菌・原虫など、また紫外線・電磁波など、また他人から移植される様々な臓器・輸血される血液成分など、更には心理的ストレスを起す環境や人からのシグナルなどがあげられる。今日、多くの研究からNOや活性酸素などのROS(reactive oxygene species)といわれるラジカル類による酸化ストレスが、生体の傷害の元凶とされるに至った。
これらROS類による酸化ストレスに対抗する、レドックス(redox)系が生体には備わり、生体の恒常性が保たれている。カタラーゼやSODなどの抗酸化性の酵素が生体中には存在し、また我々は抗酸化性のビタミン類やフラボン類を摂取する。レドックス系を制御する蛋白質類は、前記の酵素以外にも数多く発見されてきている。チオレドキシン類、ペルオキシレドキシンと総称されるチオレドキシンペルオキシダーゼ類(ナチュラルキラー細胞活性化因子として同定されたNKEFなどが含まれる)、チオレドキシンレダクターゼ類、protein disulfide isomerase類、probable protein disulfide isomerase類、グルタチオン類、グルタチオンペルオキシダーゼ類、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ類、グルタチオンレダクターゼ類、ハイドロパーオキシドペルオキシダーゼ類やメタルチオネイン類がそれである(佐藤英世、坂内四郎:生化学71、333−337、1999)。またグリセロアルデヒド−3−ホスフェートデヒドロゲナーゼ類は、虚血状態でアップレギュレイトされる蛋白質であることが知られている(J LabClinMed 1998Dec;132:456−63)。またホスファチジルエタノールアミン結合蛋白質は、tumor necrosis factor−α(TNF−α)誘導の細胞死に対する抵抗性にかかわる因子であることが示唆されている(Electrophoresis 2000;21:660−664)。
ステロイド剤の抗炎症効果の発見と、ステロイド神話などのステロイドの乱用の歴史が医療の現場にはあり、ステロイドへの警鐘をきっかけに、前世紀に合成されたアスピリンを上回るような、非ステロイド性の抗炎症剤の研究・開発が過去40年ほど、盛んに行われ、数多くのNSAIDが、臨床医療に適応されてきた。最近では、COX−2阻害剤、PLA2阻害剤などに研究の目が向けられ、新薬が開発・承認されてきている。
ところが、炎症を引き起こす酸化ストレスに対抗し、炎症を緩和し、生体を防御する前記のレドックス制御に関わる蛋白質類を発現誘導するメカニズムの研究は、緒についたばかりである。それ故、これら蛋白質類をアップレギュレイトする薬物の報告は、本発明者の知る限りない。
発明の開示
このような研究情況で、本発明者らは、そのような活性をもつ薬剤を探索することを企画し、低分子化合物で、毒性の弱い物質を探索したところ、本発明者が、先に、サル、ウシ,ヒツジ、イヌ、ネコ、ウサギ、モルモット、ハムスター、ラット、マウス、ニワトリ等において、各臓器・組織・細胞の損傷・破壊を食いとめる作用・効果をもつことを見出した血清胸腺因子(serum thymic factor、FTSnonapeptide、FTS)(文献1−15および101−128)が、前記のレドックス制御に関わる蛋白質類や、組織・細胞傷害の防御に関わる蛋白質類や、エネルギー供給系に関わる蛋白質類等を発現誘導するか、あるいは活性化するかあるいはモジュレイトする活性・機能を持つことを、新たに見出し、医薬として、価値ある物質であることを、確認して、本発明の所期の目的を達成し、本発明を完成した。
即ち、本発明は、生体内レッドクス系を制御する蛋白質類、ATP合成酵素類、グリセロアルデヒド−3−ホスフェートデヒドロゲナーゼ類、マレートデヒドロゲナーゼ類、heterogenous nuclear ribonucleoprotein A1類、14−3−3蛋白質類、トリオースホスフェートイソメラーゼ類、ホスファチジルエタノールアミン結合蛋白質類、sm22−アルファーホモローグ類、ペプチジル−プロリルシス−トランスイソメラーゼ類から選ばれる蛋白質類を発現誘導するか、あるいは活性化するかあるいはモジュレイトする物質を含む医薬組成物を提供する。
本発明の好ましい態様においては、生体内レドックス系を制御する蛋白質類がチオレドキシン類、ペルオキシレドキシンと総称されるチオレドキシンペルオキシダーゼ類、チオレドキシンレダクターゼ類、チオレドキシン依存パーオキシドレダクターゼ類、protein disulfide isomerase類、probable protein disulfide isomerase類、グルタチオン類、グルタチオンペルオキシダーゼ類、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ類、グルタチオンレダクターゼ類、ハイドロパーオキシドペルオキシダーゼ類、NADH−チトクロームB5レダクターゼ類、スーパーオキサイドジスムターゼ類、カタラーゼ類、ヘムオキシゲナーゼ類、メタルチオネイン類から選ばれる蛋白質類である前記の医薬組成物を提供する。
さらに本発明の好ましい態様においては、前記の蛋白質類(但し、スーパーオキサイドジスムターゼ類、カタラーゼ類を除く)を発現誘導するか、あるいは活性化するかあるいはモジュレイトする物質が、血清胸腺因子といわれるFTSノナペプチド、あるいはそれと同様の生物活性を持つように、アミノ酸配列を、改変したり、修飾したり、アミノ酸を加入したり、欠失させたペプチド類である前記の医薬組成物を提供する。
さらに本発明の好ましい態様においては、前記の蛋白質類を発現誘導するか、あるいは活性化するかあるいはモジュレイトする物質が、FTSノナペプチドあるいはFTSノナペプチドの前駆体をリガンドとするレセプターに対するアゴニスト、モジュレーターである前記の医薬組成物を提供する。
また本発明は、前記の蛋白質類を発現誘導するか、あるいは活性化するかあるいはモジュレイトする物質を、前記蛋白質類のアミノ酸配列、該蛋白質類をコードするヌクレオチド配列、該蛋白質類の活性又は該蛋白質類に対する抗体に対しての反応性を指標として、スクリーニングすることを特徴とするスクリーニング方法を提供する。
発明を実施するための最良の形態
以下に、本発明を詳細に説明する。本発明者らは、文献1−15にあるような、様々な組織・細胞の培養を行い、薬物を添加したり、酸化ストレスを加えて、細胞に傷害を惹起し、細胞死の起こり方や消長する蛋白質類の動態を観察した。ついでFTSノナペプチドを加えた群と、FTS非添加群とを比較したところ、FTS添加群で特に、レドックス制御系の蛋白質類や組織・細胞傷害の防御に関わる蛋白質類、pエネルギー供給系に関わる蛋白質類等が、発現誘導され、活性化され、場合によりモジュレイトされることを見出した。ミトコンドリアが傷害された細胞において、レドックス制御系の蛋白質類の発現が低くなっている場合、FTS添加群では、それが、正常化することも見出された。これら蛋白質の変動は、蛋白質遺伝子のmRNA量や蛋白質量、蛋白質の生物活性や、これら蛋白質類に対する抗体に対しての反応性等の測定により、検索できる。他の有効な薬物の探索にも、これらを指標にしたスクリーニング法を応用できる。mRNA量は、RT−PCR法やNorthern blot法等で解析できる。また、外来異物であるウイルス、細菌や抗癌剤などの薬物を、感染させたり、投与した動物を2群に分け、FTS投与群とFTS非投与群とし、動物の生存率を比較し、臓器傷害の程度を、組織学的に、また生化学的に観察した。すると、FTS投与群では、既に報告しているように、動物の生存率が高く、各組織の傷害の程度が軽いことが、再確認された。それと平行して、FTS投与群では特に、組織染色でも、レドックス制御系の蛋白質類や組織・細胞傷害の防御に関わる蛋白質類、エネルギー供給系に関わる蛋白質類等の発現が強く観察され、またこれら蛋白質類のmRNAの発現も高いことが明らかにされた。一方、場合により、それらの発現が、モジュレイトされることが分かった。また、何の処置もしていない、マウスをはじめ動物類に、FTSを投与して、様々な臓器を取り出し、蛋白質遺伝子のmRNA量や蛋白質量や、蛋白質の生物活性や、これら蛋白質類に対する抗体に対しての反応性を調べると、前記の蛋白質類のそれらの発現量や活性が、FTS非投与群に比べて、増加したり、モジュレイトされることが分かった。個々の蛋白質については、それぞれの細胞において、それぞれの蛋白質の発現に、消長・増減の固有のピークがあり、推移するので、これら蛋白質類を発現誘導するか、あるいは活性化するかあるいはモジュレイトする物質の探索には、それぞれの細胞のそれぞれの蛋白質に至適な反応条件や、反応時間の選択が必要であり、動物試験においては、薬物の至適な投与法・投与スケジュール・評価時点を選択するなどの工夫が必要である。
これら実験系で有効性が確認された薬物の好ましい1例としてFTSノナペプチドがあげられる。FTSは、文献1−15および101−128に記載があるように、体外からの微量な投与量で、生体内で、生理学的活性濃度に達し、様々な生理学的な効果を生体で現していることが分かる。多くの合成物質が、in vitro実験で、たとえ強い効果があっても、動物に投与した場合、生理学的作用を発揮する至適な濃度に達しなかったり、他の副反応を惹起させる作用点とも反応し、所望の薬効が得られず、副作用を顕著に現すことが多い。FTSの場合、生体内に備わった、生体由来物質でもあるため、望ましい生理学的濃度の範囲で、いくつかの作用点に働くにしても、生体内で調和ある作用を発揮し、有用な薬効を現す。
実験に用いた細胞は、表皮細胞、ランゲルハンス細胞、上皮細胞、血管平滑筋細胞、血管内皮細胞のような内皮細胞、心臓・血管系の混合細胞、繊維芽細胞、筋肉細胞、神経細胞、グリア系細胞、脳・脊髄・神経系の他の細胞、胸腺や脾臓由来の免疫系細胞、血液中の各細胞、骨髄細胞、骨細胞、軟骨細胞、滑膜細胞、骨芽細胞、破骨細胞、各組織の間質系細胞、膵臓β細胞、胆嚢細胞、肝臓細胞、肝星細胞、脂肪細胞、肥満細胞、腎臓細胞、メサンギウム細胞、肺細胞等呼吸器系細胞、、生殖器系細胞、精子、卵子、泌尿器系細胞などである。また、組織の生化学的、病理学的検討に用いた組織は、動物個体の各臓器・体液から、摘出・分離した。
細胞や生体への傷害は、低酸素・虚血を物理的または化学的に起し、あるいはLPS、TNF、FasL/Fas系蛋白質類、過酸化水素、メチル水銀類、カドミウム、塩化コバルト、シスプラチン、アドリアマシン、5−フルオロウラシル類、シクロホスファミド、ブレオマイシン、メソトレキセート、ビンクリスチン、シトシンアラビノシド、ペニシラミン、ブシラミン、ゲンタマイシン、カナマイシン、ピューロマイシン、シクロスポリン、タクロリムス、アロキサン、ストレプトゾトシン、セルレイン、デキストラン硫酸、アミオダロン、セファロリジン、アクリルアミド等の試剤を添加ないし投与して惹起させ、また紫外線やX線の照射、更には、様々なウイルス感染、細菌感染、真菌感染、原虫感染等により起こした。動物実験においては、このような試剤を用いて人工的に傷害を起こしたり、脳・神経・筋肉系蛋白質やコラーゲンなどの生体蛋白質類を免疫して傷害を起こしたり、脾細胞を移入したりした病態動物や、先天的に障害・疾患を有する、老化促進マウス(SAM)やallyマウスやscidマウスや心筋症自然発症ハムスターなどや、外科的に個体表面や臓器に創傷・火傷を加えた動物や、遺伝子を改変したtgマウスやkoマウスなども用意した。
本発明の医薬組成物の医薬製剤のうちFTSについては、これまで本発明者が、出願してきた特許出願(文献1−15)に記述があるが、より改良した製剤を、本発明の医薬組成物が含むことは、しかるべきことである。FTS関連では、これまで分類的に、胸腺因子の仲間とされていた、thymosin類蛋白質、thymopentin、thymostimulin、thymomodulin等々の蛋白質の医薬製剤の改良も期待される。これらペプチド・蛋白質類とアミノ酸配列の相同性の高い、あるいは低いそれぞれのファミリーの蛋白質類などや、これ以外の化合物等の薬物については、経口、非経口の投与形態で、医薬組成物としてヒト、動物等に投薬できる。
本発明を、より詳細に以下に例をもって、説明するが、本発明は、何らこれらに限定されるものではないことは、勿論のことである。
実施例1
マウスインスリノーマ由来β細胞株Min6細胞(5x10/ml)をDulbecccos Modified Eagles medium(DMEM、4500mg/lグルコース添加)中で、37℃、5%CO+95%air気流下で培養した。48時間後、5%FBSを添加した培地に移し、50ng/mlのTNF−αと1ng/mlのFTSノナペプチドあるいはPBSを加え、60−mmプレート中で培養を開始した。6時間培養した細胞を集め、4℃でPBS中で洗い、とれたペレットを0.3mlの溶解バッファー[50mMTris・HCl(pH8.0)、150mMNaCl、0.02%sodium azide、100μg/mlPMSF、1μg/ml aprotinin、1%NP−40]中で溶解した。Lysates中の溶解した蛋白質は、4℃、15000xgで、30分間遠沈して分離した。溶解液中の蛋白質濃度は、Protein Assay kit(DC Protein Assay;Bio−Rad)で測定した。ついで、2xSDSgel−loadingバッファー[沸騰100mMTris/HCl(pH6.8)、200mMジチオスレイトール、4%SDS、0.2%ブロモフェノールブルー、20%グリセロール]を加え、沸騰させた後、20μgの蛋白質を8%のSDS−PAゲルに充填し、電気泳動した。ついで、15Vで30分間、PVDF膜上に泳動蛋白質をトランスファーした。次ぎに、銀染色あるいはクマシーブルー染色を行い、FTS添加群に特異的に観察されるか、量が増加した蛋白質、場合によって量がモジュレイトされる蛋白質のバンドの分子量を同定した。10数本のバンドの蛋白質を加水分解後、クロマトで分離し、多数のピークのペプチド断片のそれぞれいくつかずつを順次、シークエンシングしていった。それらの蛋白質のうち、約55kD蛋白質はATPシンターゼβ鎖、protein disulfide isomerase、約47kD蛋白質は、probable protein disulfide isomerase、35kDの蛋白質はグリセロアルデヒド−3−ホスフェートデヒドロゲナーゼ、マレートデヒドロゲナーゼ、heterogenous nuclear ribonucleoprotein A1、32kD蛋白質は14−3−3蛋白質ε、ATPシンターゼγ鎖、ヘムオキシゲナーゼ、28kD蛋白質はantioxidant enzyme(チオレドキシンペルオキシダーゼ)、トリオースホスフェートイソメラーゼ、26kD蛋白質はグルタチオン−S−トランスフェラーゼ、ミトコンドリアチオレドキシン依存パーオキシドレダクターゼ、24kD蛋白質はホスファチジルエタノールアミン結合蛋白質、sm22−アルファーホモローグ、チオレドキシンペルオキシダーゼ1、23kD蛋白質はヒドロペルオキシドグルタチオンペルオキシダーゼ、18kD蛋白質は、ペプチジル−プロリルシス−トランスイソメラーゼ、12kD蛋白質は、チオレドキシンであることが、内部配列のホモロジーサーチの結果、明らかになった。複数のペプチド断片ピークのシークエンシングを繰り返しても、同一の蛋白質と同定されることが多かった。更に、Lysatesを電気泳動後、各蛋白質を、自ら作製したこれら蛋白質類に対する抗体や、市販の抗体で、Western blottingすると、明瞭なバンドが検出された。
実施例2
マウスインスリノーマ由来β細胞株Min6細胞(5x10/ml)を実施例1と同様にして、60−mmプレート中で培養した。12時間後、TNF−αのみを加えた群では付着していた細胞のうち多くの細胞が、円形化し、剥離を起こし、培養上清中に浮遊してきた。この浮遊細胞を除き、付着細胞を、4℃で、100rpm、5分遠沈して、集めた。ペレットをHMWバッファー[100mM Tris−HCl(pH8.0)、0.5M NaCl、25mM EDTA、1%SDS]に再浮遊し、RNase(10mg/ml)とProteinase Kとで処理した。DNAをフェノール−クロロホルム法で抽出し、2.5倍量の100%エタノールで沈殿させた。沈渣を70%エタノールで洗い、TEバッファー[10mM Tris−HCl(pH8.0)、2.5mM EDTA−NaOH(pH8.0)]に、溶解した。FTS添加群では、細胞の剥離が多少観察されたが、FTS非添加群に比べて、その数はきわめて少なかった。FTS添加群あるいはFTS非添加群の細胞のDNA1μgを1.5%TAE(Tris−acetate/EDTA)アガロースゲルに充填し、電気泳動し、etidium bromide染色を行い、電気泳動パターンを解析・比較した。50ng/ml TNF−α単独添加群の細胞では、明瞭なDNAの断片化が観察され、oligonucleosomal DNA断片がladder状に並んでいた。一方、FTS添加群の細胞では、明確なDNA断片化は観察されなかった。FTSがTNF−αによるMin6細胞のアポトーシスを、強力に防御・抑制することを示すものである。この知見は、実施例1の、FTS添加群で格段に、発現が誘導される蛋白質類による作用・効果によるものであることが示唆された。
実施例3
糖尿病や心筋炎を発症させるencephalomyocarditis(EMCD)virus10pfuを、本発明者らの既報の方法[Arch Virol(1996)141、73−83]に従い、BALB/c AJclマウスに感染させた。感染2日前と1日前にFTSを50μgずつ腹腔内投与し、対照群には、生食を投与した。FTS投与群では、糖尿病も心筋炎も発症しなかったのに対して、対照群は、既報のように、発症した。各臓器を摘出して、組織のin situhybridizationを行い、また組織抽出物からtotal RNAを分取し、RT−PCRを行い、電気泳動し、Northern blottingを行い、蛋白質については、銀染色あるいはクマシーブルー染色、あるいは、Western blottingを行った。実施例1で示された結果と同様に、生体内レドックス系を制御する蛋白質類、ATP合成酵素、グリセロアルデヒド−3−ホスフェートデヒドロゲナーゼ、heterogenous nuclear ribonucleoprotein A1類、14−3−3蛋白質類、トリオースホスフェートイソメラーゼ、ホスファチジルエタノールアミン結合蛋白質、sm22−アルファーホモローグ類、ペプチジル−プロリルシス−トランスイソメラーゼなどに対応する、それぞれのバンドが検出された。
実施例4
トランスジェニックマウス尿細管由来クローン細胞株(outer medullary collecting duct;OMCT細胞)をDulbecccos Modified Eagles medium(DMEM、4500mg/l グルコース添加)中で、37℃、5%CO+95%air気流下でコンフルエントまで培養した。細胞を24倍の培養面積になるように24ウエルプレートに移し、3時間後に、0、0.1、1、10μg/mlのFTSあるいは0、0.01、0.1、1、10μMのthymulin(FTS−Zn)を加え、6時間培養した。細胞に30μg/mlのcisplatin、0.5μg/mlのmethotrexateあるいは1.5mM Hを添加し、更に48時間培養した細胞をMayer’s hematoxylin solutionで染色し、細胞増殖への影響を検討した。OMCT細胞への0.1μg/mlのFTS添加あるいは0.01μMのthymulin添加はcisplatin、methotrexateあるいはHによる細胞増殖阻害効果をもっとも強く減少させた。毒性発現機構の異なる3種の化合物による細胞毒性を、同一の使用濃度のFTSあるいはthymulinが軽減したことは、FTSおよびthymulinは、細胞毒性を示す外来因子に対して、generalな細胞の抵抗性を高める働きがあることを意味する。これら細胞のlysatesを、実施例1と同様にして、電気泳動して、蛋白質を分離して、sequencingを行ったところ、実施例1と、同様の結果を得た。
実施例5
5週令雄性ICRマウスを7群に分け、第1群は、対照群で、生食を毎日皮下注した。第2群と第3群はFTS、0.5mg/kgあるいは1.0mg/kgを1日1回のみ皮下投与し、24時間後に屠殺して、いくつかの臓器をミンスし、蛋白質測定系のあるメタルチオネイン(MT)含量を測定した。第4群と第5群は、FTS、0.5mg/kgあるいは1.0mg/kgを3日間、1日1回ずつ皮下投与し、3日目の投与24時間後に、同様にMT含量を測定した。第6群と第7群は、FTS、0.5mg/kgあるいは1.0mg/kgを1日1回、5日間投与し、5日目の投与24時間後に、MT含量を測定した。肝臓、胸腺、脾臓のMT含量は、対照群に比べて、有意に増加した。肝臓では、FTS1回あるいは3回投与で、2用量とも、MTが1.7〜2.1倍に増加し、胸腺では、1回、3回、5回投与で、MT含量が3.7〜5.7倍に増加し、脾臓では、1回、3回、5回投与で、MT含量が2.0〜2.8倍に増加した。各臓器とも、MT含量は、FTS投与後6日目で、下限の倍率から減少することはなかった。
実施例6
11週齢雌BALB/cマウスに、生理食塩水50μlに溶解したFTS10μgを、また対照群のマウスには、生理食塩水50μlを、腹腔内に摂取した。20分、60分、180分後に胸腺を摘出し、total RNAを抽出してRT−PCR法にて遺伝子の発現を半定量的に解析した。その結果、FTS投与マウスでは、20、60、180分後のチオレドキシンmRNAやグルタチオン−S−トランスフェラーゼmRNAおよび、180分後のチオレドキシンペルオキシダーゼmRNAの発現が、対照群に比べて増大しているのがみられた。アクチンmRNAの発現量には有意な差はみられなかった。
産業上の利用可能性
臓器・組織・細胞の損傷・破壊にもとずく多くの疾患・傷害を修復するため、対症療法的な薬物療法が盛んに行われている一方、組織・細胞の修復力・再生力を促進するような創傷治癒促進剤も提案されているが、高度な臓器傷害の治療には、臓器移植療法を超えるものはない。心筋梗塞、脳梗塞、脳虚血、脳出血、虚血再灌流後障害、激烈な感染症・敗血性ショック、重大な外傷、火傷、出血性ショック、多臓器不全、劇症肝炎、呼吸停止、アナフィラキシーショックや腎臓・肺臓・肝臓・膵臓・心臓・皮膚・角膜・脳細胞・神経組織等々の移植時の移植片対宿主反応病(GVHD)などの、緊急な、炎症、免疫学的、血管学的傷害を、防護し、傷害をできるだけ緩和するには、生体に備わったoxidative stress迎撃酵素類蛋白質や組織・細胞傷害の防御と再生に関わる蛋白質類やエネルギー供給系に関わる蛋白質類と、サイトカイン類や増殖・分化因子を、総動員する他はない。一方、日常的な、緩徐な生活習慣病(糖尿病、脂質代謝疾患、動脈硬化症、各種の顆粒球系傷害、交感神経優位状態連続の生活によるストレス、虚血性心疾患、脳・神経変性疾患、リウマチ、各種の腎臓疾患、各種の肝臓疾患、潰瘍性大腸炎、各種の自己免疫疾患、がん等々)や食物アレルギー、更には、多発性硬化症などの脱髄疾患、重症筋無力症、筋萎縮性側索硬化症、筋ジストロフィー、多発性神経炎、SLE、強皮症、ベーチェット病等の進行を、予防、阻止するのも、やはり、生体に備わった。oxidative stress迎撃酵素類蛋白質や組織・細胞傷害の防御と再生に関わる蛋白質類やエネルギー供給系に関わる蛋白質類である。生体中に元来存在するFTSのようなペプチド類は、そのような防護蛋白質類を、誘導するような機能を持った司令塔あるいはmediatorとして位置づけられる。FTSの如き、酸化ストレスを制御しうる物質を体外から投与できる薬物として、探索する研究はきわめて重要である。本発明で、開示したスクリーニング方法によって、選別される物質は、FTSと同様の作用をする薬物として捉えられ、FTSの如き、生体物質であり、かつ経口的、非経口的に生体に投与して、明確な薬効を示す薬物に、類似あるいは匹敵するような薬剤として、開発を吟味してゆく価値があるものとなろう。
文献
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113.Thymic atrophy in type 2 reovirus infected mice:Immunosuppression and effects of thymic hormone.Thymicatrophy caused by reo−2.Takashi Onodera,Toshiaki Taniguchi,Akira Awaya and Toshiharu Hayashi et al.:Thymus 18,95−109,1991.
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118.血清胸腺因子(FTS)の糖尿病発症抑制機序について 山内俊一、諸見里仁、入江久美子、粟屋 昭、宮下英夫、赤岡家夫、他:日本臨床代謝学会記録 Vol.30,124−125、1994.
119.マウス肺癌転移に対する血清胸腺因子(FTS)抑制効果とリポソームによる薬効制御 小島周二,野村崇治,久保田和彦,粟屋 昭,湯田 勉,丸山一雄,岩鶴素治:Drug Delivery System 8,39−44(1993).
120.FTS(facteur thymique serique)の実験膵炎に対する治療効果 大久保賢治,宮坂京子,自見厚郎,船越顕博,粟屋 昭,他:現代医療 Vol.25(増III):2947,1993.
121.血清胸腺因子(FTS)によるマウスアロキサン糖尿病に対する抑制効果とリポソームによる薬効制御 小島周二,粟屋 昭,丸山一雄,岩鶴素冶,他:Drug Delivery System 7,357−361(1992).
122.血清胸腺因子(FTS)によるタクロリムス腎障害の制御:中嶋厚子、多田 均、井上和幸、藤崎明希子、伊藤邦彦、鈴木敏夫、柳原せい子、粟屋 昭ファルマシア、35(10)1090、(1999).
123.Administration of serum thymic factor(FTS)on cardiomyopathichamster.Mitsutoshi Kato,Masahito Tsuchiya,Nobuakira Takeda,Seibu Mochizuki,Makoto Nagano,Akira Awaya et al.:Journal of Molecular and CellularCardiology Vol.28,No.5,A66(260)、May 1996.
124.The effects of serum thymic factor(FTS)on cardiomyopathichamster.Mitsutoshi Kato,Masahito Tsuchiya,Nobuakira Takeda,Seibu Mochizuki,Makoto Nagano,Akira Awaya et al:Journal of Molecular and CellularCardiology Vol.27,No.11,A534(131)、November 1995.
125.Prevention of diabetes by thymic hormon in alloxane−treated rats.Toshikazu Yamanouchi,Hitoshi Moromizato,Shuji Kojima,Takaomi Shinohara,Hideo Miyashita,Ieo Akaoka et al.:European J Pharmacology 257(1994)39−46.
126.Reovirus type 2 induced diabetes prevented with immunosuppressionand thymic hormone.Onodera T.,Taniguchi T.,Yoshihara K.,Shimizu S.,Sato M.,Hayashi T.:Diabetologia 33;192−196(1990).
127.Suppression of acute experimental allergic encephalomyelitis by synthetic serum thymic factor.Kato S.Nakamura H.:Acta Neuropathol.,1988:75;337−344.
128.Intensive suppression of EAE by serum thymic factor and therapeuticimplication for multiple sclerosis.Nagai Y.,Osanai T.,Sakakibara K.:Japanese Journal of Experimental Medicine,1982:52;213−219.

Claims (3)

  1. 生体内レドックス系を制御する蛋白質類である、チオレドキシン、チオレドキシンペルオキシダーゼ、チオレドキシンレダクターゼ、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ、メタルチオネインから選ばれる蛋白質を発現誘導する、血清胸腺因子といわれるFTSノナペプチドを有効成分とする、食物アレルギーを防護・修復するための医薬組成物。
  2. 生体内レドックス系を制御する蛋白質類である、チオレドキシン、チオレドキシンペルオキシダーゼ、チオレドキシンレダクターゼ、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ、メタルチオネインから選ばれる蛋白質を発現誘導するための、血清胸腺因子といわれるFTSノナペプチドを有効成分とする薬剤。
  3. 生体内レドックス系を制御する蛋白質類である、チオレドキシン、チオレドキシンペルオキシダーゼ、チオレドキシンレダクターゼ、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ及びメタルチオネインから選ばれる蛋白質を発現誘導するための物質をスクリーニングすることを特徴とする、スクリーニング方法。以下の工程で行われる。
    A.マウスインスリノーマ由来β細胞株Min6細胞の培養液に、50ng/mlのTNF−αと、チオレドキシン、チオレドキシンペルオキシダーゼ、チオレドキシンレダクターゼ、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ及びメタルチオネインから選ばれる蛋白質を発現誘導するための物質をスクリーニングするために、各濃度の該検体物質を該培養液に加える工程。
    B.コントロールとしてMin6細胞の培養液に、50ng/mlのTNF−αと1ng/mlのFTSノナペプチドを加える工程。
    C.AおよびBの培養液それぞれから得られた蛋白質成分または核酸成分の中から、前記の生体内レドックス系を制御する蛋白質のアミノ酸配列、該蛋白質をコードするヌクレオチド配列、該蛋白質の活性又は該蛋白質に対する抗体に対しての反応性を指標として、前記の生体内レドックス系を制御する蛋白質の発現誘導を同定、検出する工程。
    D.Cの前記蛋白質の発現誘導を検出する工程で得られた各濃度の該検体物質のデータと、1ng/mlのFTSノナペプチドのデータとを比較して、FTSノナペプチドと同等以上の活性を持つ該検体物質を選択して、FTSノナペプチドに類似あるいは匹敵するような薬剤として選抜する工程。
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