以下図面に基づいて本発明の実施の形態を詳述する。
(1)可変焦点液体レンズ
(1−1)可変焦点液体レンズの構成
図1において、1は全体としてマイクロデバイスとしての可変焦点液体レンズを示し、この可変焦点液体レンズ1は、アレイ状に配置された複数の液体レンズ部2から構成されている。
この可変焦点液体レンズ1は、透明なガラス基板3の一面に第1の電極としてのITO(Indium Tin Oxide)電極4を複数貼り付けている。このITO電極4は、長手方向を所定方向に延ばし、隣接するITO電極4と等間隔を空けて平行に配設され、規則的な所定パターンを形成している。
また、このITO電極4には、円形状に形成された載置領域4aが所定間隔を空けて複数設けられており、各載置領域4aにシリコンオイル膨出部6が形成されている。液体膨出部としてのシリコンオイル膨出部6は、透明な液体であるシリコンオイルからなり、所定量のシリコンオイルが各載置領域4aにそれぞれ載置されることにより、図2に示すように、表面張力によってITO電極4の表面から湾曲状に膨出するように形成されている。
実際上、この実施の形態の場合、載置領域4a以外のITO電極4の表面と、ガラス基板3の表面との領域(以下、これらをまとめて単に非載置領域と呼ぶ)8には、非晶質透明フッ素樹脂からなる、ITO電極4より撥油性が高い薄膜(以下、これを撥油膜と呼ぶ)9が形成されている。
このように非載置領域8には、撥油膜9による撥油処理が施されていることにより、シリコンオイルの液滴がはじかれて正確に載置領域4aにのみシリコンオイル膨出部6を配置し得ると共に、表面張力により所定量のシリコンオイルのみを載置領域4a内に正確に載置し得るようになされている。
そして、これらシリコンオイル膨出部6、ITO電極4及びガラス基板3の表面には、ポリパラキシリレン(商品名パリレン)をコーティング材料として、高真空CVD(Chemical Vapor Deposition))を用いて500〜1000[nm]程度の厚さで堆積してなる保護膜10が形成され、これがシリコンオイル膨出部6をガラス基板3に固定し、かつ保護するようになされている。
保護膜10の表面には、図1に示したように、ガラス基板3に設けられたITO電極4の載置領域4aに対向し、かつシリコンオイル膨出部6を被うような可変領域12aを複数備えた透明な金膜12が成膜されている。実際上、第2の電極としての金膜12は、厚さが5[nm]程度からなり、長手方向がITO電極4の長手方向と直交するように配置され、隣接する金膜12と等間隔を空けて平行に配設されている。これによりITO電極4と金膜12とは格子状に配置され得るようになされている。
そして、これらITO電極4と金膜12とは電気的に接続されており、当該ITO電極4及び金膜12間に設けられた電源部15から所定の電圧が印加されることにより金膜12に静電気力を発生させ、図3に示すように、当該静電気力によって金膜12を成膜した保護膜10の曲率を制御し、これに伴いシリコンオイル膨出部6の曲率も変えることにより焦点距離を調整し得るようになされている。
図4に、ITO電極4と金膜12との間に印加する電圧と、焦点距離の変化率(焦点距離/初期の焦点距離)との一例を示す。印加する電圧が0[V]時には静電気力がはたらかず、図2に示したように金膜12がなだらかな湾曲状に形成され得る。これに対して電圧を印加した場合には、図3に示したように、静電気力によって金膜12の周辺部分が内方に押されると共に、中心部分が外方へ膨らむように変形することによりシリコンオイル膨出部6の曲率を大きくし、焦点距離を小さくさせ得る。このように金膜12は、ITO電極4との間に印加される電圧値に応じて変形し、シリコンオイル膨出部6での曲率を変化させ得る。
このようにして、可変焦点液体レンズ1は、ITO電極4及び金膜12間に印加する電圧値を調整することにより、金膜12を成膜した保護膜10に生じるひずみの度合いを調整し、シリコンオイル膨出部6における曲率を調整することができる。
ここで、この実施の形態の場合、図5に示すように、可変焦点液体レンズ1は、ITO電極4と金膜12とが格子状に配置されていることから、例えばITO電極4の第1列目La1及び第2列目La2のうち第2列目La2と、金膜12の第1列目Lb1及び第2列目Lb2のうち第2列目Lb2との間に電圧を印加することにより、ITO電極4の第2列目La2と金膜12の第2列目Lb2とが直接接続している1つの液体レンズ部2aの焦点距離を大きく可変させることができる。またこのとき、液体レンズ部2a以外の液体レンズも少しではあるが変形する。これを防ぐためには、個々のレンズへ直列にダイオードを挿入すればよい。
(1−2)可変焦点液体レンズの製造手順
ここで、かかる構成の可変焦点液体レンズ1は、図6〜図12に示す以下の手順により製造することができる。
まず図6(A)及び図6(A)のA−A´位置での断面図である図6(B)に示すように、載置領域4aを有するITO電極4をガラス基板3の一面に貼着し、この後図7(A)及び図7(A)のB−B´位置での断面図である図7(B)に示すように、載置領域4a以外の非載置領域8のみに非晶質透明フッ素樹脂によって撥油膜9を形成して撥油処理を施す。
実際上、非晶質透明フッ素樹脂として例えば旭硝子株式会社製のサイトップ(商品名)を用いて非載置領域8のみに撥油膜9を形成する場合には、まずガラス基板3をアセトンで超音波洗浄を行った後、エタノールでリンスすることにより脱脂を行い、110℃で2分間ベークを行なう。
続いて、ガラス基板3の一面に非晶質透明フッ素樹脂の溶液からなる液膜をスピンコート法によって均一に形成し、ガラス基板3の一面を非晶質透明フッ素樹脂によってコーティング処理した後、これをベークしてガラス基板3上に撥油膜9を形成する。
次いで、撥油膜9にアルミニウム膜を堆積させた後、当該アルミニウム膜上にフオトレジストを形成し、このフオトレジストをパターニングすることにより当該フオトレジストをマスクとしてアルミニウム膜をエッチングする。
そして、このようにしてパターニングされたアルミニウム膜をマスクとして、撥油膜9をプラズマエツチングし、載置領域4aにおいて撥油膜9をエッチングしてITO電極4を露出させ、載置領域4a以外の非載置領域8のみを撥油膜9で被膜する。その後、フオトレジスト及びアルミニウム膜を順次除去することにより、図7(A)及び(B)に示したように、ITO電極4の載置領域4aのみが露出し、非載置領域8が撥油膜9で被覆されたガラス基板3が形成される。
続いて、図8(A)及び図8(A)のC−C´位置での断面図である図8(B)に示すように、所定量のシリコンオイルを載置領域4aに滴下した後、スピンコート法により各載置領域4aにおいて余分なシリコンオイルを省いて均一な液量とし、かつ撥油膜9上のシリコンオイルを遠心力で排除する。かくして、ガラス基板3上の各載置領域4aには、表面張力によりITO電極4から湾曲状に膨出した所定量のシリコンオイルからなるシリコンオイル膨出部6が形成され得る。なお、スピンコート法については、検証結果を含めて下記の「(1−4)スピンコート法について」において詳述する。
次いで、図9(A)及び図9(A)のD−D´位置での断面図である図9(B)に示すように、高真空CVD法によって非載置領域8における撥油膜9の表面と、載置領域4aにおけるシリコンオイル膨出部6の液表面とに、透明薄膜部材としてのポリパラキシリレンからなる厚さ500〜1000[nm]程度の保護膜10を積層形成する。
ここでシリコンオイルとしては例えばメチルフェニルシリコンオイルが好適である。また、絶縁性、透明性、耐熱性及び耐真空性に優れ、CVD(Chemical Vapor Deposition)法による薄膜形成処理の際に蒸発せずに残る液体であれば、シリコンオイルの代わりに種々の液体を用いることができる。シリコンオイルは、耐熱性に優れ、広い温度範囲に亘って粘度変化が少なく、蒸発量が極めて小さいことから、高真空CVD法による薄膜形成処理の際にも液体の状態を維持することができ、かくして当該高真空CVD法によりシリコンオイル膨出部6の液表面に保護膜10を成膜できる。
実験によれば、シリコンオイルとして、液体において真空耐久性が10−7〜10―22[Torr]、沸点が5[Torr]で210[℃]、比重が1.065、屈折率が1.555、動粘度が37[mm2/s]であるメチルフェニルシリコンオイルを用いてシリコンオイル膨出部6を形成した。
そして、高真空CVD法を利用して、25[°C]かつ0.1[Torr]の条件下、0.5[g]のパリレンC(ポリモノクロルパラキシリレンの商品名、ユニオンカーバイド社製)を真空チャンバ(図示せず)内に30[min]間供給することにより、シリコンオイル膨出部6を構成するシリコンオイルが蒸発せずに、当該シリコンオイル膨出部6の液表面に1000[nm]程度の厚さの保護膜10を成膜できることが確認できた。
ここで、仮にシリコンオイル膨出部6を保護膜10で被覆しなかった場合には、図10(A)に示すように、液体レンズ部2を約45度に傾斜させると、シリコンオイル膨出部6自体の自重によって下方側にシリコンオイルが集まって変形してしまう。その結果、図10(B)に示すように、この状態のまま液体レンズ部2を用いて裏面に配置した格子状の模様を視認すると、当該模様が変形してしまうという問題が生じる。
これに対して、上述したようにシリコンオイル膨出部6を保護膜10で被覆した場合には、図11(A)に示すように、液体レンズ部2を約45度だけでなく、約90度にまで傾斜させても、当該保護膜10によってシリコンオイル膨出部6が自重によって変形することを防止でき、かくして図11(B)に示すように、裏面に配置した格子状の模様を変形させることなく視認することができる。よって可変焦点液体レンズ1として最適に機能させることができる。
次いで、図12(A)及び図12(A)のE−E´位置での断面図である図12(B)に示すように、所定のマスキング部材17をガラス基板3の一面側に設け、この状態のまま金を蒸着させることにより、可変領域12aを備えた金膜12を積層形成する。
かくして、図12(C)に示すように、シリコンオイル膨出部6に対して高真空CVD法によって保護膜10を積層形成し、シリコンオイル膨出部6の一方面にITO電極4を配置すると共に、他方面に保護膜10を介して金膜12を配置した液体レンズ部2を得ることができる。
最後にガラス基板3のITO電極4と金膜12とを電源部15に接続することにより、各液体レンズ部2における金膜12を静電気力で変形させてシリコンオイル膨出部6の曲率を変化させて焦点距離を変化させ得る可変焦点液体レンズ1を得ることができる。
(1−3)動作及び効果
以上の構成において、可変焦点液体レンズ1では、シリコンオイル膨出部6が耐熱性に優れ、高真空の中でも蒸発量が少ないシリコンオイルによって形成されているため、高真空状態で成膜する高真空CVD法を用いても、シリコンオイル膨出部6を構成するシリコンオイルが蒸発することなく、当該シリコンオイル膨出部6の液表面に保護膜10を積層形成することができる。
従って、可変焦点液体レンズ1では、ガラス基板3上にシリコンオイル膨出部6を所望の位置に配置させた状態のまま、保護膜10によってITO電極4にシリコンオイル膨出部6を固定させることができるので、種々のデザインが可能となり、アレイ状に容易に配置できる。
また、可変焦点液体レンズ1では、シート部材を用いる場合に比して格段的に厚みが薄い保護膜10をシリコンオイル膨出部6の液表面に成膜できることから、保護膜10を薄く形成できることにより当該保護層10を静電気力によって容易に変形させることができる。
よって、可変焦点液体レンズ1では、静電気力を発生させる簡易な構成の駆動装置を用いて保護膜10を変形させることができるので、シリコンオイル膨出部6の液量を調整するポンプや液量を調整するための流路等を必要とせず、その分だけ装置全体を簡易な構成にでき、かくして小型の光学機器に対し簡単に集積・埋め込みが可能となる。
さらに、このように可変焦点液体レンズ1では、保護膜10による弾性力と、静電気力とによって保護膜10を変形させることができるので、ヒステリシスを生じるような摩擦等がなく、シリコンオイル膨出部6の曲率を正確に制御することができる。
また、可変焦点液体レンズ1では、高真空CVD法を用いてシリコンオイル膨出部6及び撥油膜9に保護膜10を成膜するようにしたことにより、従来のように液滴の液表面に別途シート部材を貼着する煩雑な組立工程を省くことができるので、その分生産性を向上させることができる。
さらに、可変焦点液体レンズ1は、シリコンオイル膨出部6に保護層を形成する際に高真空CVD法を用いることで、保護膜10の膜厚を正確に設定できると共に、当該所望の領域にのみ保護膜10を正確に成膜でき、さらに膜厚が均一で残留応力も少ない保護膜10を成膜できる。
また、この実施の形態の場合、可変焦点液体レンズ1では、載置領域4a以外の非載置領域8に撥油膜9を成膜するようにしたことにより、表面張力により湾曲状に膨出したシリコンオイル膨出部6を載置領域4aのみに形成できると共に、最適な液量のシリコンオイルのみからなるシリコンオイル膨出部6を形成できる。
また、可変焦点液体レンズ1では、従来における第2の可変焦点液体レンズのように絶縁性液体及び導電性液体の2層の液体から構成しておらず、当該導電性液体の代りに機械的強度がある保護膜10を用いていることから、衝撃や重力などによってシリコンオイル膨出部6が変形してしまうことを防止でき、種々の環境下において一段と安定して用いることができる。
以上の構成によれば、耐熱性に優れ、高真空でも蒸発量が少ないシリコンオイルによってシリコンオイル膨出部6を形成したことで、高真空CVD法を用いて、液体状のシリコンオイル膨出部6の液表面に保護膜10を積層形成できるようにした。
この結果、保護層10を静電気力によって変形させることができるので、ポンプや液量を調整するための流路等を必要とせず、その分だけ装置全体を簡易な構成にでき、かくして簡易な構成で小型化、薄型化を図ることができる。
また従来のように別途シート部材を貼着する煩雑な組立工程を省くことができるので、その分生産性を向上させることができる。
さらに、ヒステリシスを生じるような摩擦等がなく、シリコンオイル膨出部6の曲率を正確に制御することができると共に、保護膜10を用いていることから、衝撃や重力などによってシリコンオイル膨出部6が変形してしまうことを防止でき、一段と信頼性の高い可変焦点液体レンズ1を提供できる。
(1−4)スピンコート法について
以下、上述したスピンコート法について説明する。ここでは、図13に示すように、例えば500[μm]の間隔を空けてアレイ状に設けられた直径1500[μm]の円形状でなる載置領域20aを有する基板20を用意し、最適な液量でなるシリコーン溶液又は流動パラフィンを載置領域20aに載置する場合について検証を行った。
この場合、図14(A)に示すように、撥油膜20bが形成された基板20上をシリコーン溶液又は流動パラフィンで浸して、基板20上に所定厚さの液体層21を形成した。
次いで、基板20を所定の角速度で回転させることにより、図14(B)に示すように、表面張力により湾曲状に膨出した液体膨出部22を載置領域20aのみに形成し得るようになされている。
そして、図15(A)に示すように、直径2rが1500[μm]でなる液体膨出部22の厚さ(以下、液滴厚さと呼ぶ)tと、スピンコートの角速度との関係について、シリコーン溶液及び流動パラフィンを用いてそれぞれ調べた結果、図16に示すような関係となった。このことより、基板20を低速度で回転させたときには、流動パラフィンよりもシリコーン溶液のほうが、液滴厚さtが厚くなることが分かった。
ここで、図15(A)に示したように、液体膨出部22の表面形状は球面の一部の形状となるため、断面の液滴厚さtは、直径2rと角度θとによって決められる。また、角度θには上限が存在する。角度θの上限θ1は、図15(B)に示すように、液体膨出部22の製作に用いられる液体と表面処理素材である撥油膜20bとの接触角の大きさで決まる。すなわちθ≦θ1となる。
ここで、角度θには下限が存在する。図15(C)及び(D)に示すように、接触角θ2より小さくなると、表面処理素材の真空蒸着の間、液体膨出部22と基板3の接触面の直径が2rより小さくなる。この接触角θ2は液体膨出部22の製作に用いられる液体と基板3の素材との接触角である。言い換えると、液体の量が少ない場合には、全体の液体パターン幅を覆うことができず、パターンされた液体を、真空に置いて安定させるときに、液体の表面張力が働き、エネルギー的に安定な形に液体を戻す。すなわち、角度θを基板3との接触角θ2になすように液体パターンの幅が小さくなる。そのため、デザインされた直径2rにするためには、液体の量がある程度多くなければならない。θ2が角度θの下限値である。すなわちθ2≦θとなる。
以上より、液体バターンの直径2rが一定のとき、スピンコート法の回転速度により液滴厚さtを調整できる範囲は、θ2≦θ≦θ1(θ1:液体膨出部22の製作に用いられる液体と撥油膜20bである表面処理素材との接触角、θ2:液体膨出部22の製作に用いられる液体と基板3との接触角)で決まる。また、撥油膜20bである表面処理素材が決まったら、接触角θ1は不変であるので、断面の液滴厚さtの最大値は直径2rに依存する。基板3が決まったら、接触角θ2は不変であるので、断面の液滴厚さtの最小値は2rに依存する。
(1−5)可変焦点液体レンズの変形特性
上述した製造方法により、例えば直径が10[mm]の可変焦点液体レンズを製造し、その変形特性を検証した。ここでは、図17に示すように、カメラ等の撮像手段Cmのレンズ前方に、直径10[mm]の可変焦点液体レンズ25を配置して、当該可変焦点液体レンズ25から45[cm]離して円柱状の第1の被撮像体Im1を前方に配置し、さらに当該第1の被撮像体Im1から45[cm]離して立方体状の第2の被撮像体Im2を前方に配置した。
そして、可変焦点液体レンズ25に電圧を印加して液滴厚さを可変させ、このときの第1の被撮像体Im1及び第2の被撮像体Im2を撮像手段Cmにより撮像した。
検証の結果、可変焦点液体レンズ25の電極に電圧を印加していない場合には、図18(A)に示すように、第1の被撮像体Im1よりも遠方に配置した第2の被撮像体Im2に焦点を合わせることができた。
一方、可変焦点液体レンズ25の電極に電圧を印加した場合には、図18(B)に示すように、第2の被撮像体Im2よりも近方に配置した第1の被撮像体Im1に焦点を合わせることができた。このように、可変焦点液体レンズ25では電圧の印加に応じて焦点を可変できることが確認できた。
次に、図2との対応部分に同一符号を付して示す図19(A)と、図19(B)とに示すように、半径rが500[μm]であって、シリコンオイル膨出部6の底部から頂部までの距離t1と、保護膜10及び金膜12aの膜厚dとが異なる3種類の可変焦点液体レンズ(図19(B)及び図20中、単に(A)(B)(C)と示す)を用意し、図20に示すように、各可変焦点液体レンズ(A)、(B)及び(C)で印加電圧を変化させたときの各焦点距離の変化率(焦点距離f/初期の焦点距離fo)を計測した。
なお、図19(A)におけるRは、シリコンオイル膨出部6の曲率半径を示し、図20内にあるRoは、シリコンオイル膨出部6の初期の曲率半径を示すものである。このとき、f/fo=R/Roとなる。
図20に示した結果から膜厚dが同じである場合には、シリコンオイル膨出部6の液滴厚さt1が小さい方が焦点距離の変化率が大きいことが分かった。また膜厚dが薄い方が焦点距離の変化率が大きいことが分かった。
(1−6)他の実施の形態
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、種々の変形実施が可能である。
例えば、上述した実施の形態において、液体として、シリコンオイルを適用するようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、流動パラフィンやグリセリン等のように室温での蒸気圧が0.1[Torr]より低い液体であればこの他種々の液体を適用するようにしても良い。
なお、ここで液体は、室温での蒸気圧が0.1[Torr]より高いと、CVD法による薄膜形成処理の際に蒸発量が多くなる。従って液体は、CVD法による薄膜形成処理の際に蒸発せずに残るように、室温での蒸気圧が0.1[Torr]より低いことが好ましい。
また、図2との対応部分に同一符号を付して示す図21の可変焦点液体レンズ26のように、撥油膜27の表面がITO電極4の表面よりも高い位置に配置されるようにしても良い。
この場合、基板3上には、撥油膜27間に窪み部分が形成され、当該撥油膜27にとり囲まれた窪み部分が載置領域27aとなることから、載置領域27aのみにシリコンオイルを一段と容易に載置させることができる。
実際上、パターニングされたアルミニウム膜をマスクとして、撥油膜27をプラズマエツチングし、図22(A)に示すように、ITO電極4の外周領域を除いて中央領域のみを露出させた載置領域27aを形成し、当該ITO電極4の外周領域を撥油膜27で被覆する。
これにより、図22(B)に示すように、載置領域27aに滴下した所定量のシリコンオイルを、スピンコート法により各載置領域27aから余分なシリコンオイルを省いて均一な液量とする際、撥油膜27がとり囲んだ窪んだ各載置領域27aにシリコンオイルが留まり易くなり、各載置領域27aにシリコンオイル膨出部6を容易に形成できる。
また、上述した実施の形態においては、マイクロデバイスとして、可変焦点液体レンズとした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、マイクロプリズムやマイクロミラー等の光学素子、マイクロ流路、マイクロポンプ、スイッチ付マイクロ流路、マイクロチャンバ、ディスプレイ用マイクロ素子等この他種々のマイクロデバイスに適用するようにしても良く、また光学素子以外のマイクロ流路やマイクロポンプ等のように光を透過させる必要がないマイクロデバイスについては、基板や電極等を非透明部材により形成するようにしても良い。
(2)マイクロプリズム
図23(A)及び(B)において、30はマイクロプリズムを示し、このマイクロプリズム30は、基台31の側部に支柱32が設けられ、この支柱32の先端に基台31の上面と対向するように水平部33を有し、これら基台31と水平部33との間にプリズム部35が設けられている。
プリズム部35は、基台31上にシリコンオイルが滴下されてシリコンオイル膨出部36が形成され、このシリコンオイル膨出部36の両側部にガラスプレート37a,37bが所定角度で設けられる。
シリコンオイル膨出部36は、頂点に電極38を設け、当該電極38に基づいて生じる表面張力により変形した状態で、当該シリコンオイル膨出部36の液体表面に高真空CVD法により、ポリパラキシリレンからなる保護膜40が積層形成されている。そして、さらに保護膜40の表面に金を蒸着させて金膜41を成膜し、電極38を水平部33に支持すると共に、当該電極38と金膜41とを電源部15に接続し得るようになされている。
これにより、マイクロプリズム30では、一方のガラスプレート37aに光Lを照射して基台31で反射させ、他方のガラスプレート37bを透過させ得るようになされている。このようなマイクロプリズム30においても、電極38と金膜41とに電圧を印加することにより保護膜40を静電気力によって変形させ、ガラスプレート37a,37bの角度を調整し得る。
かくして、マイクロプリズム30では、シリコンオイル膨出部36が耐熱性に優れたシリコンオイルによって形成されているため、高真空状態で被膜を成膜する高真空CVD法を用いて、当該シリコンオイル膨出部36の液表面に保護膜40を積層形成することができる。また保護膜40をシリコンオイル膨出部36の液表面に成膜できることから、静電気力によって保護膜40を変形させることができるので、当該静電気力を発生させる簡易な構成の駆動装置を用いることができ、またシリコンオイル膨出部36の液量を調整するポンプ等を必要としないことから、その分だけ装置全体として簡易な構成にできる。かくしてマイクロプリズム30は上述した製造手順で製造できると共に、上述した実施の形態と同様の効果を得ることができる。
(3)マイクロミラー
図24(A)及び(B)に示すように、50はマイクロミラーを示し、このマイクロミラー50は、基板51の表面に立設した支持部としての電極52a,52b間に当該基板51上から膨出したシリコンオイル膨出部53が形成されており、当該シリコンオイル膨出部53の液表面に高真空CVD法によりポリパラキシリレンからなる保護膜54が積層形成され、ミラープレート55が保護膜54に載置されている。そして、保護膜54の表面には金膜56が蒸着されており、両電極52a,52bと金膜56とがスイッチ58a,58bを介して電源部15a,15bに接続されている。
これによりマイクロミラー50では、例えばスイッチ58aだけを電気的に接続して一方の電源部15aのみから所定の電圧を印加することにより、保護膜56の一端側のみを静電気力によって変形させ、これによりミラープレート55を傾斜させることができる。このようなマイクロミラー50でも上述した製造手順で製造できると共に、上述した実施の形態と同様の効果を得ることができる。
さらに、図24(A)及び(B)との対応部分と同一符号を付して示す図25(A)及び(B)のように、60は他の実施の形態によるマイクロミラーを示し、このマイクロミラー60は、上述したマイクロミラー50とは電極61a,61bの配置が異なるもので、基板51に電極61a,61bが連設された構成を有する。
このようなマイクロミラー60でも、例えばスイッチ58aだけを電気的に接続して一方の電源部15aのみから所定の電圧を印加することにより、保護膜56の一端側のみを静電気力によって変形させ、これによりミラープレート55を傾斜させることができ、上述した製造手順で製造できると共に、上述した実施の形態と同様の効果を得ることができる。
(4)マイクロポンプ
図26に示すように、70はマイクロポンプを示し、このマイクロポンプ70は、基板71上にITO電極72が設けられていると共に、ITO電極72の帯状に延びた載置領域73にシリコンオイルを載置して、表面張力によりITO電極72上から膨出したシリコンオイル膨出部74が形成されている。なお、基板71において載置領域73以外の非載置領域75には撥油膜76が成膜され、製造時にシリコンオイルを容易に載置領域73にのみ載置し得るように構成されている。
また、このマイクロポンプ70では、高真空CVD法によりポリパラキシリレンからなる保護膜76がシリコンオイル膨出部74及び基板71上に積層形成され、当該シリコンオイル膨出部74上の保護膜76に等間隔を空けて複数の電極78a,78b,78cが設けられている。
これにより、図27(A)〜(E)に示すように、マイクロポンプ70では、所定の順番でこれら電極78a,78b,78cに電圧を印加することにより、当該シリコンオイル膨出部74上の保護膜76を波状に動かし、内部のシリコンオイル膨出部74を一方側へ移動させ得るようになされている。
実際上、このようなマイクロポンプ70では、図27(A)に示したように、先ず、供給流路(図示せず)側にある一端側の電極78a及び排出流路(図示せず)にある他端側の電極78cに電圧を印加して流路を閉塞する。次いで、図27(B)に示すように、一端の電極78aにはそのまま電圧を印加しつつ、他端の電極78cに対しては電圧の印加を停止して流路を開口させた後、図27(C)に示すように、一端の電極78a及び中央の電極78bに電圧を印加して流路を閉塞し、当該中央の電極78bの領域にあるシリコンオイル膨出部74を他端の電極78c側へ押し出すことにより移動させる。
さらに、図27(D)に示すように、一端の電極78a、中央の電極78b及び他端の電極78c全てに電圧を印加することにより、他端の電極78cにおけるシリコンオイル膨出部74をさらに押し出して移動させた後、図27(E)に示すように、一端の電極78a及び中央の電極78bに対する電圧の印加を停止し、流路を開口することにより新たにシリコンオイルが供給されてシリコンオイル膨出部74が形成され得る。かくして、マイクロポンプ70は、図27(A)〜(E)の動作を繰り返すことにより、シリコンオイル膨出部74を一端の電極78a側(供給流路側)から他端の電極78c側(排出流路側)へ向けて移動させ、液体の流れを制御し得るようになされている。
そして、マイクロポンプ70は、製造後においてシリコンオイル膨出部74を排出し、他の液体をマイクロポンプ70内に供給すれば、一端側から他端側に液体を移動させることもできる。
このように本発明のマイクロポンプの製造方法では、液体が流動するマイクロ流路と一体的にマイクロポンプを形成することができるので、従来のようにマイクロ流路とマイクロポンプ装置とを接続させる工程や接続部品が不要となり、その分だけ簡易な構成となり、かつ容易にマイクロポンプを製造できる。
(5)スイッチ付マイクロ流路
図28(A)において、80は本発明によるスイッチ付マイクロ流路を示し、このスイッチ付マイクロ流路80は、液体Liqが供給される供給流路81と、当該供給流路81に供給された液体Liqを排出する排出流路82とが基板83に形成されている。
実際上、スイッチ付マイクロ流路80は、直線状の供給流路81の所定位置に直線状の排出流路82の端部が一体形成され、当該供給流路81と排出流路82とが連通した構成を有する。なお、この実施の形態の場合、スイッチ付マイクロ流路80は例えば全体としてT字状に形成されている。
図28(A)と、図28(A)のF−F´位置での断面図である図28(B)のように、供給流路81及び排出流路82は、基板83と、基板83を被覆する保護膜84とによって空間が形成されており、基板83に沿って形成された所定パターンの空間に液体Liqが流れるように構成されている。
供給流路81には、一端に第1のスイッチ85aが設けられ、排出流路82を挟んだ他端に第2のスイッチ85bが設けられている。第1のスイッチ85a及び第2のスイッチ85bは、ITO電極86a,86bと、保護膜84全体を被覆した電極87とから構成されている。
因みに、この実施の形態の場合、保護膜84全体に電極87を被覆した場合について述べたが、本発明はこれに限らず、ITO電極86a,86bに対向した領域の保護膜84にのみ電極87を被覆しても良い。
なお、供給流路81の一端に設けた第1のスイッチ85aと、他端に設けた第2のスイッチ85bとは、その構成が同一であるため、以下、第1のスイッチ85aに着目して説明する。ITO電極86aは、帯状からなり、供給流路81と交わるよう(直交)に設けられ、電極87と電気的に接続されている。
これにより、例えば第1のスイッチ85aは、図示しない電源部からITO電極86a及び電極87に所定の電圧が印加されることにより電極87に静電気力を発生させる。
これにより、ITO電極86aと対向する領域の電極87は、図29(A)及び(B)に示しように、静電気力によって内方に押されて保護膜84を折り曲げることにより、供給流路81の一端側の流路を閉塞し得るようになされている。
例えば、この実施の形態の場合、第1のスイッチ85aは、電極87に印加する電圧が0[V]時、図29(A)に示したように、静電気力がはたらかず、電極87の頂部が直線状となり液体Liqが流れ易い流路を形成する。
これに対して電極87に電圧を印加した場合には、図29(B)に示したように、静電気力によってITO電極86aに対向する領域の電極87の頂部がITO電極86aと接触するように内方に押され、流路を閉塞し得る。
このようにして、スイッチ付マイクロ流路80は、第1のスイッチ85aのITO電極86a及び電極87間にのみ電圧を印加することにより、第1のスイッチ85aによって供給流路81の一端側を閉塞し、当該供給流路81の他端から供給された液体Liqのみを排出流路82に導くようになされている。
また、スイッチ付マイクロ流路80は、第2のスイッチ85bのITO電極86b及び電極87間にのみ電圧を印加することにより、第2のスイッチ85bによって供給流路81の他端側を閉塞し、当該供給流路81の一端から供給された液体Liqのみを排出流路82に導くようになされている。
次に、このようなスイッチ付マイクロ流路80の製造方法について以下説明する。なお、ここでの製造方法については第1のスイッチ85aの部分に着目して説明する。
図30(A)に示すように、一面の所定位置に帯状のITO電極86aを貼着した基板83を用意し、流路となる載置領域88aを除いた非載置領域88bのみに非晶質透明フッ素樹脂によって撥油膜89を形成して撥油処理を施す。
次いで、基板83をシリコンオイルに浸して、必要に応じてスピンコートにより余分なシリコンオイルを基板83上から除去し、図30(B)に示すように、ITO電極86aと交差した流路となる載置領域88aに、シリコンオイルが表面張力によりITO電極86a上から膨出したシリコンオイル膨出部90を形成する。
また、図30(C)に示すように、高真空CVD法によりポリパラキシリレンからなる保護膜84がシリコンオイル膨出部90及び基板83上に積層形成された後、図30(D)及び図28(B)に示すように、保護膜84上に電極87を被覆して設ける。
次いで、図30(E)に示すように、ITO電極86a及び電極87には、それぞれ電線91が接続され、当該電線91を介して電源部が電気的に接続され得る。
以上の構成において、スイッチ付マイクロ流路80では、シリコンオイル膨出部90の領域に新たなシリコンオイルや、他の異なる流体が供給流路81から供給されると、これらシリコンオイルや流体を排出流路82へ導いて排出することができる。
このとき、スイッチ付マイクロ流路80では、第1のスイッチ85a又は第2のスイッチ85bのいずれか一方のITO電極86a,86b間にのみ電圧を印加することにより、第1のスイッチ85a又は第2のスイッチ85bによって供給流路81の一端側又は他端側を閉塞し、当該供給流路81の両端から供給されるシリコンオイル又は流体のうちいずれか一方のみを排出流路82に導き、流体等の流れを制御できる。
そして、このようなスイッチ付マイクロ流路80では、耐熱性に優れ、高真空でも蒸発量が少ないシリコンオイルによってシリコンオイル膨出部90を形成したことで、高真空CVD法を用いて、液体状のシリコンオイル膨出部90の液表面に保護膜84を積層形成できる。
この結果、スイッチ付マイクロ流路80では、保護層84を静電気力によって変形させることができるので、供給流路81に供給される液体Liqを停止させるためのバルブ等を必要とせず、その分だけ装置全体を簡易な構成にでき、かくして簡易な構成で小型化、薄型化を図ることができる。
また、スイッチ付マイクロ流路80では、シート部材を別途貼着して保護膜を形成する煩雑な組立工程を省くことができるので、その分生産性を向上させることができる。
さらに、本発明の製造方法では、高真空CVD法を用いてポリパラキシリレンからなる保護膜84を形成したことから、重力などによって保護膜84が変形してしまうことを防止でき、一段と信頼性の高いスイッチ付マイクロ流路80を提供できる。
(6)マイクロ流路
(6−1)マイクロ流路の構成
図31及び図32において、100は本発明によるマイクロ流路を示し、複数のU字状に湾曲した屈曲流路101が連通して複雑な形状に形成されている。このようなマイクロ流路100は、上述したスイッチ付マイクロ流路80(図28)とはITO電極86a,86b及び電極87が設けられていない点で相違している。
実際上、このようなマイクロ流路100を形成する場合には、図33(A)に示すように、液体の流れる領域たる載置領域88a以外の非載置領域88bのみに非晶質透明フッ素樹脂によって撥油膜89を形成して撥油処理を施す。
続いて、基板83をシリコンオイルに浸した後、スピンコート法により載置領域88aから余分なシリコンオイルを省いて均一な液量とし、かつ撥油膜89上のシリコンオイルを遠心力で排除する。
かくして、図33(B)に示すように、基板83上には、帯状に延びた載置領域88aに沿って、表面張力により基板83から湾曲状に膨出したシリコンオイル膨出部90が形成され得る。
次いで、図33(C)に示すように、高真空CVD法によって非載置領域88bにおける撥油膜89の表面と、載置領域88aにおけるシリコンオイル膨出部90の液表面とに、薄膜部材としてのポリパラキシリレンからなる所定厚さの保護膜84を積層形成し、かくしてマイクロ流路100を形成する。
その後、マイクロ流路100では、シリコンオイル膨出部90を形成しているシリコンオイルが抜かれ、シリコンオイル膨出部90が形成されていた空間に、供給流路側から新たなシリコンオイルや、他の種々の液体や気体等の流体が供給されて、排出流路側へ流体を搬送し得るように構成されている。
(6−2)動作及び効果
以上の構成において、マイクロ流路100では、シート状の部材を用いる場合に比して格段的に厚みが薄い保護膜84をシリコンオイル膨出部90の液表面に成膜できることから、保護膜84を薄くした分だけ小型化、薄型化を図ることができる。
また、このようなマイクロ流路100では、高真空CVD法を用いてシリコンオイル膨出部90及び撥油膜89に保護膜84を単に成膜するようにしたことにより、液滴の液表面に別途シート状の部材を貼着する組立工程や、基板表面を削り流路を形成する切削工程等のような煩雑な工程を省くことができるので、その分だけ簡易な構成となり、生産性を向上させることができる。
さらに、このようなマイクロ流路100の製造方法では、高真空CVD法を用いて成膜される保護膜84に機械的強度があることから、衝撃や重力などによって保護膜84が変形してしまうことを防止でき、種々の環境下において一段と安定して用いることができ、かくして流体を確実に搬送できる信頼性の高いマイクロ流路100を提供できる。
さらに、本発明の製造方法では、マイクロ流路100の形状がフォトレジストグラフィ技術だけに制限されるので、複雑な流路形状であっても容易に形成することができる。
(6−3)他の実施の形態
なお、上述した実施の形態においては、U字状の屈曲流路101が複数連通した形状からなるマイクロ流路100を適用するようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、種々の形状のマイクロ流路を適用するようにしても良い。
すなわち、本発明の製造方法によれば、単に撥油処理を施して基板上に所定パターンの載置領域を形成等、流体が流れる流路がフォトレジストグラフィ技術を用いて形成されることから複雑な形状のマイクロ流路であっても容易に製造できる。
例えば、図34及び図35に示すように、O字状の環状流路106が直線流路107を介して複数連通した形状からなるマイクロ流路105についても容易に製造できる。
また、図36に示すように、涙滴形で窄まった先端付近の両側部が三角状に膨らんだ形状でなる第1の液貯め部110と、円形状でなる第2の液貯め部111とが細長い連通流路112で連通されたマイクロ流路113についても容易に製造できる。
特に、図36に示したマイクロ流路113においては、フォトレジストグラフィ技術を用いて形成できることから、例えば流路幅5[μm]、流路長さ14[mm]程度の細長い連通流路112を容易に形成することができ、またこれと同時に当該連通流路112に比較して大きく広がった第1の液貯め部110及び第2の液貯め部111を容易に形成できる。なお、連通流路112の最大長さは、流路幅に制限されないので、流路幅がμmオーダーでも流路長さが数十mmの細長い流路を形成できる。
(6−4)マイクロ流路における接続供給部の接続構造
図37に示すように、例えばマイクロ流路100には、接続供給部120を設けることもでき、当該接続供給部120を介してシリコンオイルや他の液体、気体等の各種流体121を、基板83及び保護膜84間の空間(すなわち、シリコンオイル膨出部90(図33(C)が形成されていた空間)に供給し得るようになされている。
接続供給部120は、例えば金属材料で円筒形状や角筒形状でなる筒状部材122が、UV(紫外線)粘着剤やPDMS(ポリジメチルシロキサン)等の粘着性のある粘着部材123により、基板83上の表面変形パターン部124に固定されている。
また、接続供給部120は、筒状部材122の一端開口部にフレキシブルチューブ125が嵌着されており、当該フレキシブルチューブ125から送り出された流体121を、筒状部材122の他端開口部から排出してマイクロ流路100の基板83及び保護膜84間の空間へ送り込むようになされている。
保護膜84は、例えばポリパラキシリレンからなり、厚さ500〜1000[nm]程度で、基板83と、基板83上に流れる流体121と、筒状部材122と、粘着部材123とを一体的に被覆し得る。これにより、筒状部材122と、基板83及び保護膜84間の空間とが連通して、接続供給部120からの流体121がマイクロ流路100へ供給され得る。
このような接続供給部120は、以下の工程によりマイクロ流路100と共に形成できる。図38(A)に示すように、基板83には、基板83表面に撥油性を有する表面変形パターン部(撥油膜)124が設けられており、この表面変形パターン部124の所定箇所に筒状部材122が位置決めされる。
実際上、筒状部材122は、図38(B)に示すように、表面変形パターン部124に位置決めされた状態で、粘着部材123によって基板83上に所定角度で固定される。
次いで、図38(C)に示すように、例えばシリコンオイルが筒状部材122の一端開口部から供給され、他端開口部から排出されることにより、当該シリコンオイルが表面変形パターン部124で形成された基板83上の凹部に流し込まれ、必要に応じてスピンコート法により液量を調節したシリコンオイル膨出部90が形成され得る。
なお、この実施の形態の場合、液体として、シリコンオイルを適用しているが、要はCVD法による薄膜形成処理の際に蒸発せずに残る液体であれば良く、流動パラフィン等この他種々の液体を用いるようにしても良い。
そして、図38(D)に示すように、この状態のまま筒状部材122、粘着部材123、シリコンオイル膨出部90及び外部に露出した基板83の各表面全体に、高真空CVD法によってポリパラキシリレン等からなる薄膜部材で厚さ500〜1000[nm]程度の保護膜84を積層形成する。
次いで、図38(E)に示すように、筒状部材122の一端開口部を被覆している保護膜84だけを切除することにより、保護膜84によって閉塞した筒状部材122の一端開口部を開口させ、図37に示したように、この一端開口部にフレキシブルチューブ125を嵌着させる。
このようにして、フレキシブルチューブ125を嵌着した筒状部材122を有した接続供給部と、マイクロ流路100とを同時に製造することができ、当該フレキシブルチューブ125内を流れる液体をマイクロ流路100内に確実に排出し得るようになされている。
なお、上述した実施の形態においては、筒状部材122の軸方向を、マイクロ流路100の流れる方向と平行に配置した接続供給部120に適用した場合について述べたが、本発明はこれに限らず、図37との対応部分に同一符号を付して示す図39のように、筒状部材122の軸方向をマイクロ流路100の流れる方向と直交する位置に配置した接続供給部127等この他種々の位置に筒状部材122を設けた接続供給部を適用しても良い。
また、上述した実施の形態においては、粘着部材123及び表面変形パターン部124を用いて筒状部材122を基板83上に安定した状態で位置決めするようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、筒状部材122を基板83上に安定した状態で位置決めできれば、粘着部材123及び表面変形パターン部124を用いずに、基板83上に筒状部材122を直接設けるようにしても良い。
(7)マイクロチャンバ
図40において、130は本発明のマイクロチャンバを示し、上述した可変焦点液体レンズ1とはITO電極4及び金膜12を有しない点で異なるのみである。このマイクロチャンバ130は、円形状で基板131上に複数有し、アレイ状に配置されている。
このようなマイクロチャンバ130は以下の工程によって製造される。先ず、基板131の載置領域4aを除いた非載置領域8のみに、非晶質透明フッ素樹脂により撥油膜(図示せず)を形成し、これにより非載置領域8に撥油処理を施す。次いで複数の載置領域4aを有する基板131表面をシリコンオイルで浸す。
その後、スピンコート法により各載置領域4aから余分なシリコンオイルを省いて均一な液量とし、かつ撥油膜上のシリコンオイルを遠心力で排除して、これにより表面張力により湾曲状に膨出したシリコンオイル膨出部6が載置領域4aのみに形成され得る。
次いで、高真空CVD法によって撥油膜の表面と、載置領域4aにおけるシリコンオイル膨出部6の液表面とに、透明薄膜部材としてのポリパラキシリレンからなる所定厚さの保護膜10を積層形成し、かくして湾曲状に膨出した円形状のマイクロチェンバ130が複数形成され得る。
なお、上述した実施の形態においては、シリコンオイル膨出部6を円形状に形成したマイクロチャンバ130を適用するようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、図40との対応部分に同一符号を付した図41のように、シリコンオイル膨出部133を長方形状に形成したマイクロチャンバ132や、図40との対応部分に同一符号を付した図42のように、シリコンオイル膨出部136を正方形状に形成したマイクロチャンバ135等、シリコンオイル膨出部の形状をこの他種々の形状に形成したマイクロチャンバを適用しても良い。
(8)発光式ディスプレイ
図43において、140は発光式ディスプレイ(図示せず)の1画素(セル)を構成する本発明のディスプレイ用マイクロ素子を示す。なお、この場合、発光式ディスプレイの全体図は省略し、マイクロデバイスとしてのディスプレイ用マイクロ素子140の近傍部分についてのみ説明する。
ディスプレイ用マイクロ素子140は、プラスチックシート又はガラス基板等からなり、励起光L1を透過する基板141と、当該基板141の一面に形成された所定バターンの撥油膜142と、励起光L1を透過し、光変更部材としての蛍光ビーズ143が入った液体からなる液体膨出部144と、励起光L1を透過する保護膜145とから構成されている。このようなマイクロ発光素子140は、上述したマイクロチャンバ131(図40)と同様に製造することができる。
すなわち、ディスプレイ用マイクロ素子140が形成される基板141の一面の載置領域146a以外の非載置領域146bのみに非晶質透明フッ素樹脂によって撥油膜142を形成して撥油処理を施す。
続いて、蛍光ビーズ143が入った所定の液体で載置領域146aを浸した後、スピンコート法により載置領域146aから余分な液体を省いて均一な液量とし、かつ撥油膜146b上の液体を遠心力で排除する。
かくして、基板141上の載置領域146aには、表面張力により基板141の一面から湾曲状に膨出した液体膨出部144が形成され得る。
次いで、高真空CVD法によって撥油膜142の表面と、載置領域146aにおける液体膨出部144の液表面とに、薄膜部材としてのポリパラキシリレンからなる所定厚さの保護膜145を積層形成し、かくしてディスプレイ用マイクロ素子140を形成する。
なお、この実施の形態の場合、液体としては、CVD法による薄膜形成処理の際に蒸発せずに残る液体であれば良く、シリコンオイルや流動パラフィン等この他種々の液体を用いるようにしても良い。
以上の構成において、ディスプレイ用マイクロ素子140では、励起光L1が基板141の他面側から液体膨出部144に照射されることにより、当該励起光L1が液体膨出部144を透過し、当該液体膨出部144内の蛍光ビーズ143により蛍光L2に変わり、外方へ蛍光L2を発することができる。
そして、このようなディスプレイ用マイクロ素子140では、高真空CVD法を用いて液体膨出部144及び撥油膜145に保護膜145を成膜するようにしたことにより、液滴の液表面に別途シート部材を貼着する煩雑な組立工程を省き、簡易な構成にできるので、その分生産性を向上させることができる。
また、ディスプレイ用マイクロ素子140は、液体膨出部144に保護膜145を形成する際に高真空CVD法を用いることで、保護膜145の膜厚を正確に設定できると共に、当該所望の領域にのみ保護膜145を正確に成膜でき、さらに膜厚が均一で残留応力も少ない保護膜145を成膜できる。
さらに、ディスプレイ用マイクロ素子140では、耐熱性に優れ、高真空でも蒸発量が少ない液体によって液体膨出部144を形成したことで、高真空CVD法を用いて、液体膨出部144の液表面に保護膜145を積層形成できるので、所定の厚みを有したシート部材を用いない分だけ、小型化、薄型化を図ることができる。
また、本発明の製造方法では、保護膜145により衝撃や重力などによって液体膨出部144が変形してしまうことを防止できるので、一段と信頼性の高いディスプレイ用マイクロ素子140を提供できる。
なお、上述した実施の形態においては、蛍光ビーズ143を入れた液体を用いて液体膨出部144を形成したディスプレイ用マイクロ素子140を適用した場合について述べたが、本発明はこれに限らず、図44に示すように、光変更部材としての量子ドット150を入れた液体を用いて液体膨出部151を形成したディスプレイ用マイクロ素子152を適用しても良い。なお、この場合、基板141には電極153が設けられ、当該電極153に電圧を印加することにより量子ドット150が可変する。かくして、光を液体膨出部151に透過させることにより、量子ドット150によって光色等を調整できる。
また、図45に示すように、光変更部材としてのエレクトロクロミック材料155と、耐熱性に優れ、高真空でも蒸発量が少ない液体とからなる液体膨出部156を用い、当該液体膨出部156内においてエレクトロクロミック材料155が基板141に沿って配置し得るようなディスプレイ用マイクロ素子157を適用するようにしても良い。
このようなディスプレイ用マイクロ素子157では、基板141に設けた電極153に電圧を印加することにより、エレクトロクロミック材料155の形状が変化し、基板141の他面側から透過する光を、エレクトロクロミック材料155に透過、非透過させることにより可変させ得る。
なお、上述した実施の形態として、光変更部材として、蛍光ビーズ143、量子ドット150及びエレクトロクロミック材料155を適用した場合について述べたが、本発明はこれに限らず、光色等を変更できれば、この他種々の光変更部材を適用するようにしても良い。
(9)マイクロ伝送路
(9−1)マイクロ光導波路
図46において、170は本発明のマイクロ光導波路を示し、このマイクロ光導波路170は、一端側の入射面171へ光L4が所定角度で入射されると、所定方向に延びたシリコンオイル膨出部173に沿って光L4を進ませて他端側の出射面172まで伝送するように構成されている。
コアとなるシリコンオイル膨出部173は、シリコンオイルからなり、図47(A)及び(B)に示すように、金属性で薄くフレキシブル構造からなる基板174と、クラッドとなる金属コーティング部177が被覆された保護膜176との間に形成されている。
次に、このようなマイクロ光導波路170の製造方法について以下簡単に説明する。基板174には、シリコンオイル膨出部173が形成される載置領域178aと、当該シリコンオイル膨出部173が形成されない非載置領域178bとが設けられており、非晶質透明フッ素樹脂によって撥油膜175が非載置領域178bのみに形成され、非載置領域178bに撥油処理が施される。
続いて、基板174をシリコンオイルに浸した後、スピンコート法により載置領域178aから余分なシリコンオイルを省いて均一な液量とし、かつ撥油膜175上のシリコンオイルを遠心力で排除する。
かくして、基板174上には、帯状に延びた所定パターンの載置領域178aに沿って、表面張力により基板174から湾曲状に膨出したシリコンオイル膨出部173が形成され得る。
次いで、高真空CVD法によって非載置領域178bにおける撥油膜175の表面と、反射面としての載置領域178aにおけるシリコンオイル膨出部173の液表面とに、薄膜部材としてのポリパラキシリレンからなる所定厚さの保護膜176を積層形成する。
最後に、保護膜176の外面に対し金属コーティングを施すことにより、保護膜176を金属コーティング部177で被覆し、かくしてマイクロ光導波路170を形成する。
以上の構成において、マイクロ光導波路170では、シート状の部材を用いる場合に比して格段的に厚みが薄い保護膜176をシリコンオイル膨出部173の液表面に成膜できることから、保護膜176を薄くした分だけ小型化、薄型化を図ることができる。
また、このようなマイクロ光導波路170では、高真空CVD法を用いてシリコンオイル膨出部173及び撥油膜175に保護膜176を単に成膜するようにしたことにより、液滴の液表面に別途シート状の部材を貼着する組立工程や、基板174表面を削り伝送路を形成する切削工程等のような煩雑な工程を省くことができるので、その分だけ簡易な構成となり、生産性を向上させることができる。
さらに、このようなマイクロ光導波路170の製造方法では、高真空CVD法を用いて成膜される保護膜176に機械的強度があることから、衝撃や重力などによって保護膜176が変形してしまうことを防止でき、種々の環境下において一段と安定して用いることができ、かくして入射面171から出射面172へ光L4を確実に伝送できる信頼性の高いマイクロ光導波路170を提供できる。
さらに、本発明の製造方法では、マイクロ光導波路170の形状がフォトレジストグラフィ技術だけに制限されるので、複雑な伝送路形状であっても容易に形成することができる。
さらに、マイクロ光導波路170では、フレキシブル構造に形成できるので使用状況においてその形状を変化させることができ、各種環境に対して用いることができる。
(9−2)他の実施の形態
なお、上述した実施の形態においては、反射膜として、金属コーティング部を適用した場合について述べたが、本発明はこれに限らず、この他種々の反射膜を適用しても良く、要は、コアとなる液体膨出部としてのシリコンオイル膨出部173よりも屈折率が低く、シリコンオイル膨出部173に照射された光L4を反射させることができる反射膜であれば良い。
また、上述した実施の形態においては、金属性の基板174を用い、かつ保護膜176を金属コーティング部177で被覆することで、基板174と金属コーティング部177とをクラッドとして機能させ光L4を反射させてコアとなるシリコンオイル膨出部173及び保護膜176に沿って光L4を伝送させるようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、基板及び保護膜をクラッドとして機能させてコアとなる液体膨出部に沿って光L4を伝送させるようにしても良い。
このように金属コーティング部177を形成せずに、基板及び保護膜により光を反射させる場合には、CVD法による薄膜形成処理の際に蒸発せずに残り、かつ基板及び保護膜の屈折率よりも低い屈折率を有した液体を用い、基板上に液体膨出部を形成すれば良い。
このようなマイクロ光導波路では、CVD法を用いて液体膨出部及び撥油膜に保護膜を成膜できると共に、入射面171に照射された光を、基板及び保護膜で反射させて液体膨出部に沿って伝えて出射面172まで伝送させることができる。また、この場合、基板は、屈折率が液体膨出部の屈折率よりも低ければ、種々の材質からなる基板を適用でき、また光を反射する反射面を基板上に別途成膜しても良い。
さらに、このように光を反射させるクラッドとして機能させた保護膜では、CVD法によって、液体膨出部と保護膜との境界面が凹凸なく平坦に形成されているので、当該保護膜内面において光を散乱させずにスムーズに伝送させることができる。
また、基板及び保護膜により光を反射させる他の実施の形態としては、入射面171又は出射面172からシリコンオイル膨出部173を排出し、これにより形成された空間に、屈折率が基板174及び保護膜176よりも高い液体を、新たに供給して液体膨出部を形成するようにしても良い。
そして、図48(A)及び(B)に示すように、このようなマイクロ光導波路180は、複雑な形状であっても容易に形成できることから、光ファイバー等の比較的大きな光源181と、光源181に比して格段的に小さいPhC(フォトニッククリスタル)デバイス182とを容易に連通させることもできる。
なお、上述した実施の形態においては、光源181及びPhC(フォトニッククリスタル)デバイス182とマイクロ光導波路180とを一体形成した場合について述べたが、本発明はこれに限らず、この他種々のマイクロデバイス等とマイクロ光導波路180とを一体形成しても良い。
なお、この場合、基板183上に光源181とマイクロデバイス182とを直接載置させた状態で、上述した「(6−4)マイクロ流路における接続供給部の接続構造」と同様の製造方法により、光源181とマイクロデバイス182とをマイクロ光導波路180と一体化して連通させることができる。
ここで液体膨出部は、CVD法による薄膜形成処理の際に蒸発せずに残り、かつ基板183及び保護膜185の屈折率よりも低い屈折率を有した液体で形成されている。なお、本発明はこれに限らず、保護膜185に金属コーティング部を形成するようにしても良く、この場合、液体膨出部はシリコンオイルにより形成できる。
そして、このようにマイクロ光導波路180は、カップリングするデバイス(この場合、光源181及びマイクロデバイス182)の大きさに係わらず、両デバイスをマイクロ光導波路180の端部に埋め込み一体化させることができ、一端の光源181から入射面に入射される全ての光を、他端の出射面に設けたマイクロデバイ182に確実に導き、光を効率良くマイクロデバイス182に導入させることができる。
また、上述した実施の形態においては、マイクロデバイスとして、光のみを伝送するマイクロ光導波路170,180を適用した場合について述べたが、本発明はこれに限らず、圧力を伝達したり、化学物質を搬送したり、電気信号を伝送する等、この他種々の情報を伝送するマイクロ伝送路に適用しても良く、また光の伝送のみならず、同時に圧力をも伝達させる等、複数の情報を同時にまとめて伝送するマイクロ伝送路に適用しても良い。
ここで、図49(A)及び(B)に示すように、マイクロ伝送路190は、一方の伝送元領域191から他方の伝送先領域192へ、伝送路領域193を介して光L5を伝送すると共に、同時に圧力Pを伝達し、これとは別に化学物質chをも搬送するように構成されている。
マイクロ伝送路190は、この伝送元領域191と伝送先領域192と伝送路領域193とからなる液体膨出部205が基板195上に設けられており、全体がフレキシブル構造となっている。また、伝送路領域193は、伝送元領域191及び伝送先領域192より細長い帯状に形成され、かつ伝送元領域191及び伝送先領域192を連通させ得る。
実際上、基板195には、光L5を発する光源196と、所定の化学物質chを排出する化学物質排出源197とが伝送元領域191に予め設けられていると共に、光L5を検出する光センサ199と、圧力Pを検出する圧力センサ200と、化学物質chを検出する化学物質センサ201とが伝送先領域192に予め設けられている。
このような基板195には、伝送元領域191、伝送先領域192及び伝送路領域193が形成される所定パターンの領域が載置領域203aとして形成されており、当該載置領域203a以外の非載置領域203bのみに非晶質透明フッ素樹脂によって撥油膜(図示せず)が形成されて撥油処理が施されている。
そして、このような基板195を所定の液体に浸した後、スピンコート法により載置領域203aから余分な液体を省いて均一な液量とし、かつ撥油膜上の液体を遠心力で排除し、載置領域203aに沿って、表面張力により基板195から湾曲状に膨出した液体膨出部205が形成され得る。
ここで、液体膨出部205を形成する液体は、高真空CVD法による薄膜形成処理の際に蒸発せずに残り、かつ基板195及び後述する保護膜206の屈折率よりも高い屈折率を有する。
これにより、高真空CVD法によって撥油膜89の表面と、載置領域88aにおける液体膨出部205の液表面とに、所定の薄膜部材により所定厚さの保護膜206を積層形成する。
かくして、基板195上には、光源196及び化学物質排出源197が保護膜206で被覆された液体膨出部205のうち伝送元領域191内に設けられると共に、光センサ199、圧力センサ200及び化学物質センサ201が保護膜206で被覆された液体膨出部205のうち伝送先領域192内に設けれる。
また、このとき、これら伝送元領域191及び伝送先領域192は、液体膨出部205の伝送路領域193で連通され得る。
以上の構成において、マイクロ伝送路190では、伝送元領域191の光源196が光L5を発すると、光源196から発した光L5が基板195及び保護膜206に反射しながら静止した液体膨出部205の伝送領域193に沿って伝送先領域192へ伝送される。
これにより、伝送先領域192の光センサ199は、液体膨出部20の伝送元領域191から伝送路193を伝送して伝送先領域192まで導かれた光L5を検出できる。
また、これと同時にマイクロ伝送路190では、伝送元領域191の保護膜206が指先Hで押圧されると、当該保護膜206が押圧された分だけ伝送路領域193の液体が伝送先領域192へ移動する。
これにより、伝送先領域192の圧力センサ200は、液体膨出部20の伝送先領域192から伝送先領域192へ液体が移動したことにより生じる圧力を検出し、伝送元領域191で保護膜206が指先Hで押圧されたときの圧力Pを検出できる。
一方、伝送元領域191から排出される化学物質chを検出する場合には、化学物質chと、液体膨出部205を形成する液体とが化学物質排出源197から排出され、当該化学物質chが液体膨出部205と共に伝送路領域193を通って伝送先領域192まで移動する。
これにより、伝送先領域192の化学物質センサ201は、液体膨出部205を形成する液体と共に、化学物質chを取り込み、当該液体膨出部205内の化学物質chを検出する。かくして化学物質センサ201は、離れた伝送元領域191の化学物質排出源197から排出された化学物質chを検出できる。
このようにマイクロ伝送路190では、複数の検出対象(この場合、光L5、化学物質ch及び圧力P)を1本の伝送路領域193を用いて一度に伝送することができるので、全体として簡易な構成の情報伝送装置を構築することができる。
また、マイクロ伝送路190は、全体がフレキシブル構造でなることから、外力により基板195が変形しても、これに応じて伝送元領域191、伝送先領域192及び伝送路領域193と、保護膜206とが破損することなく変形できる。
かくして、マイクロ伝送路190は、例えば動物に真似て滑らかな湾曲形状を有し、かつ複雑に動作する人型ロボットやペット型ロボット等の各種ロボットに対して、これら各種動作や形状に制約されることなく、種々の部位に設けることができ、これにより伝送元領域191から離れた所定位置の伝送先領域192へ各種検出対象を確実に伝送できる。
そして、このようなマイクロ伝送路190では、シート状の部材を用いる場合に比して格段的に厚みが薄い保護膜206を液体膨出部205の液表面に成膜できることから、保護膜206を薄くした分だけ小型化、薄型化を図ることができる。
また、このようなマイクロ伝送路190では、高真空CVD法を用いて液体膨出部205及び撥油膜89に保護膜206を単に成膜したことにより、液体の液表面に別途シート状の部材を貼着する組立工程や、基板195表面を削って伝送路を形成する切削工程等のような煩雑な工程を省くことができるので、その分だけ簡易な構成となり、生産性を向上させることができる。
さらに、このようなマイクロ伝送路190の製造方法では、高真空CVD法を用いて成膜される保護膜206に機械的強度があることから、衝撃や重力などによって保護膜206が変形してしまうことを防止でき、種々の環境下において一段と安定して用いることができ、かくして各種検出対象を確実に伝送できる信頼性の高いマイクロ伝送路190を提供できる。
さらに、上述した実施の形態においては、マイクロ光導波路170,180やマイクロ伝送路190の基板174,183,195や保護膜176,185等を変形可能なフレキシブル構造とした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、基板や保護膜等に変形が生じないが或いは生じたとしても僅かである非フレキシブル構造としても良い。
また、上述した実施の形態において、検出対象発生源として、光源196と化学物質排出源197とを適用した場合について述べたが、本発明はこれに限らず、保護膜206や液体膨出部205に圧力を与える圧力発生源等この他種々の検出対象発生源を適用しても良い。
さらに、上述した実施の形態において、検出手段として、光センサ199と圧力センサ200と化学物質センサ201とを適用した場合について述べたが、本発明はこれに限らず、電気信号を検出する信号検出手段等この他種々の検出手段を適用しても良い。
マイクロ伝送路190において、伝送路領域193の途中にスイッチを設けることで、伝送元領域191から伝送先領域192への各種検出対象の伝送を、オンオフすることもできる。このスイッチは、図29に示したものであればよい。
(9)他の実施の形態
なお、上述した可変焦点液体レンズ1の実施の形態においては、第1の電極としてITO電極4を適用すると共に、第2の電極として金膜12を適用するようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、種々の透明電極部材からなる第1の電極及び第2の電極を適用するようにしても良い。また上述した全ての実施の形態においても同様である。
さらに、上述した可変焦点液体レンズ1の実施の形態においては、透明基板部材からなる基板として、ガラス基板3を適用するようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、種々の透明基板部からなる基板や、フレキシブル構造でなる基板等この他種々の基板を適用するようにしても良い。また上述した全ての実施の形態においても各種基板を用いても良い。
さらに、上述した全ての実施の形態においては、保護膜として、ポリパラキシリレンからなる保護膜10等を適用するようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、絶縁性、透明性、柔軟性があり、常温から200度程度の温度でCVD蒸着できる材料であれば、保護膜の材料として適用することができる。
さらに、上述した実施の形態においては、CVD法として、高真空CVD法を適用するようにした場合について述べたが本発明はこれに限らず、熱CVD法や光CVD法、プラズマCVD法等この他種々のCVD法を適用するようにしても良い。
さらに、上述した全ての実施の形態において、液体として、主としてシリコンオイルを適用するようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、流動パラフィンやグリセリン等のように室温での蒸気圧が0.1[Torr]より低い液体であればこの他種々の液体を適用するようにしても良い。要はCVD法による薄膜形成処理の際に蒸発せずに残る液体であれば良い。
さらに、上述した実施の形態において、液体の表面張力によって基板上から膨出した液体膨出部を形成している場合においても、適宜、支持部を用いて液体を基板上から膨出させ、液体膨出部を形成するようにしても良い。
さらに、上述した実施の形態において、撥油性が高い薄膜としての撥油膜を形成する材料として、サイトップ(登録商標)やC4F8、自己組織化単分子膜(Self-assembled Monolayer:SAM)等この他種々の材料を用いても良い。