しかしながら、上述した特許文献1及び特許文献2に記載の技術は、何れも車両前方からの衝突時の衝撃を吸収する技術であり、車両の他の方向、例えば車両側方からの衝突時には衝撃を吸収することができないという問題がある。
また、特許文献1に記載の技術は、衝突時にシャーシと車体部分がスライドガイド機構によって車両前後方に相対移動することを前提としているが、衝突した瞬間のシャーシと車体部分の相対移動を可能とするためには、どちらも大きな構造体であるシャーシ及び車体部分の各々に或る程度の剛性をもたせる必要があると共に、相対移動を可能とするスライドガイド機構等の部材にも高い剛性をもたる必要があり、車両の重量が嵩むと共に、大きなスペースを占有するので小型車等のスペースの限られる車両に搭載することが困難であるという問題もある。
また、特許文献2に記載の技術は、衝突荷重をワイヤの張力へ変換した後に車体側へ分散させる構成であり、ワイヤの張力は衝突荷重が入力された瞬間に非常に高くなるので、この瞬間に、ワイヤの切断やワイヤ支持ブラケットの破損、ワイヤ支持ブラケットが取り付けられた部分の破損等を起こすことなく車体側へ衝突荷重を伝達するためには、ワイヤやワイヤ支持ブラケット等の部材に加え、ワイヤ支持ブラケットを取り付ける部分にも非常に高い剛性をもたせる必要がある。このため、特許文献2に記載の技術についても、特許文献1に記載の技術と同様に車両の重量が嵩むという問題があり、また衝突荷重を吸収するのみの目的でワイヤやワイヤ支持ブラケット等の部材を設ける必要があるので、小型車等のスペースの限られる車両に搭載することも困難である。
本発明は上記事実を考慮して成されたもので、互いに異なる複数の方向からの衝突による衝撃を分散吸収することが可能な衝撃吸収装置を得ることが目的である。
上記目的を達成するために請求項1記載の発明に係る衝撃吸収装置は、互いの中間部が回動可能に連結された一対の第1の荷重伝達部材と、互いの一端部が回動可能に連結され他端部が互いに異なる前記第1の荷重伝達部材の一端部に回動可能に連結された一対の第2の荷重伝達部材と、互いの一端部が回動可能に連結され他端部が互いに異なる前記第1の荷重伝達部材の他端部に回動可能に連結された一対の第3の荷重伝達部材と、から成り、前記一対の第2の荷重伝達部材の連結部が前記車体又は該車体の骨格部材の車両前後方向一端部付近に、前記一対の第3の荷重伝達部材の連結部が車両の車体又は前記骨格部材の車両前後方向他端部付近に各々連結され、前記第1の荷重伝達部材と前記一対の第2の荷重伝達部材のうちの一方との連結部、及び、前記第1の荷重伝達部材と前記一対の第3の荷重伝達部材のうちの一方との連結部が前記車体又は前記骨格部材の車両幅方向一端部付近に各々連結され、前記第1の荷重伝達部材と前記一対の第2の荷重伝達部材のうちの他方との連結部、及び、前記第1の荷重伝達部材と前記一対の第3の荷重伝達部材のうちの他方との連結部が前記車体又は前記骨格部材の車両幅方向他端部付近に各々連結され、車両前後方向からの荷重に対し、前記一対の第2の荷重伝達部材の連結部と前記一対の第3の荷重伝達部材の連結部との間隔が縮小し、かつ前記一対の第2の荷重伝達部材の各々と前記第1の荷重伝達部材との連結部の間隔、及び、前記一対の第3の荷重伝達部材の各々と前記第1の荷重伝達部材との連結部の間隔が各々拡大する第1の変位が生じることで、前記車両前後方向からの荷重を、前記車体又は前記骨格部材の車両前後方向の両端部の間隔が縮小する変形を生じさせる力と、前記車体又は前記骨格部材の車両幅方向の両端部の間隔が拡大する変形を生じさせる力と、に分散して前記車体又は前記骨格部材に入力し、車両幅方向からの荷重に対し、前記一対の第2の荷重伝達部材の各々と前記第1の荷重伝達部材との連結部の間隔、及び、前記一対の第3の荷重伝達部材の各々と前記第1の荷重伝達部材との連結部の間隔が各々縮小し、かつ前記一対の第2の荷重伝達部材の連結部と前記一対の第3の荷重伝達部材の連結部との間隔が拡大する第2の変位が生じることで、前記車両幅方向からの荷重を、前記車体又は前記骨格部材の車両前後方向の両端部の間隔が拡大する変形を生じさせる力と、前記車体又は前記骨格部材の車両幅方向の両端部の間隔が縮小する変形を生じさせる力と、に分散して前記車体又は前記骨格部材に入力する荷重伝達機構を含んで構成されている。
請求項1記載の衝撃吸収装置は、互いの中間部が回動可能に連結された一対の第1の荷重伝達部材と、互いの一端部が回動可能に連結され他端部が互いに異なる第1の荷重伝達部材の一端部に回動可能に連結された一対の第2の荷重伝達部材と、互いの一端部が回動可能に連結され他端部が互いに異なる第1の荷重伝達部材の他端部に回動可能に連結された一対の第3の荷重伝達部材と、から成る荷重伝達機構を備えている。そして、この荷重伝達機構は、一対の第2の荷重伝達部材の連結部が車体又は車体の骨格部材の車両前後方向一端部付近に、一対の第3の荷重伝達部材の連結部が車両の車体又は骨格部材の車両前後方向他端部付近に各々連結され、第1の荷重伝達部材と一対の第2の荷重伝達部材のうちの一方との連結部、及び、第1の荷重伝達部材と一対の第3の荷重伝達部材のうちの一方との連結部が車体又は骨格部材の車両幅方向一端部付近に各々連結され、第1の荷重伝達部材と一対の第2の荷重伝達部材のうちの他方との連結部、及び、第1の荷重伝達部材と一対の第3の荷重伝達部材のうちの他方との連結部が車体又は骨格部材の車両幅方向他端部付近に各々連結されている。
上記構成により、上記の荷重伝達機構が搭載された車両が車両前後方向一端側から衝突した場合、衝突荷重は第1の方向からの荷重として荷重伝達機構に入力され、荷重伝達機構に第1の変位が生ずる。第1の変位は、荷重伝達機構の第1の方向の両端部の間隔が縮小し、かつ荷重伝達機構の第2の方向の両端部の間隔が拡大する変位であるので、荷重伝達機構が連結された車体又は骨格部材には、荷重伝達機構に入力された衝突荷重が、車両前後方向の両端部の間隔を縮小する力(圧縮力)と車両幅方向の間隔を拡大する力(引張力)に分散されて入力されることになり、衝突した部分以外の部分を含む車体又は骨格部材の各部分の変形等によって衝突荷重を吸収できると共に、衝突荷重の分散入力に伴って車体又は骨格部材の各部分の変形量も小さく抑制することができる。
また、荷重伝達機構が搭載された車両が車両幅方向一端側から衝突した場合、衝突荷重は第2の方向からの荷重として荷重伝達機構に入力され、荷重伝達機構に第2の変位が生ずる。第2の変位は、荷重伝達機構の第2の方向の両端部の間隔が縮小し、かつ荷重伝達機構の第1の方向の両端部の間隔が拡大する変位であるので、荷重伝達機構が連結された車体又は骨格部材には、荷重伝達機構に入力された衝突荷重が、車両前後方向の両端部の間隔を拡大する力(引張力)と車両幅方向に間隔を縮小する力(圧縮力)に分散されて入力されることになり、衝突した部分以外の部分を含む車体又は骨格部材の各部分の変形等によって衝突荷重を吸収できると共に、衝突荷重の分散入力に伴って車体又は骨格部材の各部分の変形量も小さく抑制することができる。
従って、請求項1記載の発明によれば、互いに異なる複数の方向からの衝突による衝撃を分散吸収することが可能となり、複数の方向からの衝突時に乗員に加わる加速度を各々軽減することができる。また、本発明に係る荷重伝達機構は、第1の方向からの荷重を第1の変位によって車体又は骨格部材に分散入力させると共に、第2の方向からの荷重を第2の変位によって車体又は骨格部材に分散入力させるために、或る程度の剛性が必要となり重量も嵩むことになるが、本発明に係る荷重伝達機構は、請求項3にも記載したように、それ自体を車両の骨格部材としても機能させることが可能であり、この場合、車両の重量が嵩むことを防止できると共に、荷重伝達機構を設けるためのスペースを骨格部材と別に設ける必要も無くなり、小型車等のスペースの限られた車両にも容易に搭載することができる。更に、本発明に係る荷重伝達機構の第1の変位及び第2の変位は、何れも第1の方向及び第2の方向のうちの一方の方向の両端部の間隔が縮小した場合に、他方の方向の両端部の間隔が拡大する変位であるので、本発明に係る荷重伝達機構を車両の車室の直下の領域を含む範囲に設けた場合、車両衝突時の車室内への侵襲も抑制することができる。
なお、請求項1記載の発明に記載の荷重伝達機構は、具体的には、例えば図1(A)にも示すように、互いの中間部が回動可能に連結された一対の第1の荷重伝達部材10と、互いの一端部が回動可能に連結され他端部が互いに異なる第1の荷重伝達部材10の一端部に回動可能に連結された一対の第2の荷重伝達部材12と、互いの一端部が回動可能に連結され他端部が互いに異なる第1の荷重伝達部材10の他端部に回動可能に連結された一対の第3の荷重伝達部材14と、から成り、一対の第2の荷重伝達部材12の連結部が車体又は骨格部材16の車両前後方向一端部付近に、一対の第3の荷重伝達部材14の連結部が車体又は骨格部材16の車両前後方向他端部付近に各々連結され、第1の荷重伝達部材10と第2の荷重伝達部材12又は第3の荷重伝達部材14の連結部が車体又は骨格部材16の車両幅方向端部付近に各々連結された構成を適用することができる。
上記構成において、第1の方向からの荷重が入力された場合、各部材が図1(B)に矢印で示すように回動することで、第1の方向の両端部の間隔が縮小しかつ第1の方向に交差する第2の方向の両端部の間隔が拡大する第1の変位が生じることになり、入力された荷重を車体又は骨格部材の各部分の変形等によって分散吸収することができ、車体又は骨格部材の各部分の変形量も小さく抑制できる。また、第2の方向からの荷重が入力された場合、各部材が図1(C)に矢印で示すように回動することで、第2の方向の両端部の間隔が縮小しかつ第1の方向の両端部の間隔が拡大する第2の変位が生ずることになり、入力された荷重を車体又は骨格部材の各部分の変形等によって分散吸収することができ、車体又は骨格部材の各部分の変形量も小さく抑制できる。上記構成の荷重伝達機構は、請求項6にも記載したように、本発明に係る荷重伝達機構を車両の骨格部材としても機能させる場合に好適である。
また、車両衝突時、車両の車体のうち車両前後方向中央部かつ車両幅方向中央部に相当する中央部領域(コア領域ともいう、例えば図1(A)にハッチングで示す領域)に対しては通常圧縮力のみが加わるが、上記構成の荷重伝達機構を設けた場合、衝突時(第1の方向からの荷重入力時及び第2の方向からの荷重入力時)には、中央部領域に対して第1の方向及び第2の方向のうちの一方の方向には圧縮力が、他方の方向には引張力が加わる。このため、例えば車両の車体又は当該車体の骨格部材を、荷重伝達機構を介して衝突荷重が入力された際に、中央部領域以外の領域の変形を許容する一方で、中央部領域の変形を阻止するように各部分の剛性を設定することで、通常は車室が設けられている車体の中央部領域の変形を阻止することができる。
請求項2記載の発明に係る衝撃吸収装置は、互いの中間部が回動可能に連結された一対の第4の荷重伝達部材と、互いの中間部が回動可能に連結され一端部が互いに異なる前記第4の荷重伝達部材の一端部に回動可能に連結された一対の第5の荷重伝達部材と、から成り、前記一対の第4の荷重伝達部材の各々の他端部が車両の車体又は該車体の骨格部材の車両前後方向一端側の互いに異なる角部付近に、前記一対の第5の荷重伝達部材の各々の他端部が前記車体又は前記骨格部材の車両前後方向他端側の互いに異なる角部付近に各々連結され、前記一対の第4の荷重伝達部材のうちの一方と前記一対の第5の荷重伝達部材のうちの一方との連結部が前記車体又は前記骨格部材の車両幅方向一端部付近に連結され、前記一対の第4の荷重伝達部材のうちの他方と前記一対の第5の荷重伝達部材のうちの他方との連結部が前記車体又は前記骨格部材の車両幅方向他端部付近に連結され、車両前後方向からの荷重に対し、前記一対の第4の荷重伝達部材の各々の他端部と前記一対の第5の荷重伝達部材の各々の他端部との間隔が縮小し、かつ前記一対の第4の荷重伝達部材の各々の他端部の間隔、前記一対の第5の荷重伝達部材の各々の他端部の間隔、及び、前記一対の第4の荷重伝達部材のうちの一方と前記一対の第5の荷重伝達部材のうちの一方との連結部と、前記一対の第4の荷重伝達部材のうちの他方と前記一対の第5の荷重伝達部材のうちの他方との連結部と、の間隔が各々拡大する第1の変位が生じることで、前記車両前後方向からの荷重を、前記車体又は前記骨格部材の車両前後方向の両端部の間隔が縮小する変形を生じさせる力と、前記車体又は前記骨格部材の車両幅方向の両端部の間隔が拡大する変形を生じさせる力と、に分散して前記車体又は前記骨格部材に入力し、車両幅方向からの荷重に対し、前記一対の第4の荷重伝達部材の各々の他端部の間隔、前記一対の第5の荷重伝達部材の各々の他端部の間隔、及び、前記一対の第4の荷重伝達部材のうちの一方と前記一対の第5の荷重伝達部材のうちの一方との連結部と、前記一対の第4の荷重伝達部材のうちの他方と前記一対の第5の荷重伝達部材のうちの他方との連結部と、の間隔が各々縮小し、かつ前記一対の第4の荷重伝達部材の各々の他端部と前記一対の第5の荷重伝達部材の各々の他端部との間隔が拡大する第2の変位が生じることで、前記車両幅方向からの荷重を、前記車体又は前記骨格部材の車両前後方向の両端部の間隔が拡大する変形を生じさせる力と、前記車体又は前記骨格部材の車両幅方向の両端部の間隔が縮小する変形を生じさせる力と、に分散して前記車体又は前記骨格部材に入力する荷重伝達機構を含んで構成されている。
請求項2記載の発明に係る荷重伝達機構は、具体的には、例えば図2(A)にも示すように、互いの中間部が回動可能に連結された一対の第4の荷重伝達部材18と、互いの中間部が回動可能に連結され一端部が互いに異なる第4の荷重伝達部材18の一端部に回動可能に連結された一対の第5の荷重伝達部材20と、から成り、一対の第4の荷重伝達部材18の各々の他端部が車体又は骨格部材16の車両前後方向一端側の互いに異なる角部付近に、一対の第5の荷重伝達部材20の各々の他端部が車体又は骨格部材16の車両前後方向他端側の互いに異なる角部付近に各々連結され、第4の荷重伝達部材18と第5の荷重伝達部材20の連結部が車体又は骨格部材16の車両幅方向端部付近に各々連結された構成を適用することができる。
図示は省略するが、この構成においても、第1の方向からの荷重が入力された場合には第1の変位が生じる。これにより、車両前後方向からの荷重が、車体又は骨格部材の車両前後方向の両端部の間隔が縮小する変形を生じさせる力と、車体又は骨格部材の車両幅方向の両端部の間隔が拡大する変形を生じさせる力と、に分散されて車体又は骨格部材に入力され、車体又は骨格部材に、車両前後方向の両端部の間隔が縮小しかつ車両幅方向の両端部の間隔が拡大する変形が生じことに伴い、入力された荷重を分散吸収することができ、車体又は骨格部材の各部分の変形量も小さく抑制できる。また、第2の方向からの荷重が入力された場合には第2の変位が生じる。これにより、車両幅方向からの荷重が、車体又は骨格部材の車両前後方向の両端部の間隔が拡大する変形を生じさせる力と、車体又は骨格部材の車両幅方向の両端部の間隔が縮小する変形を生じさせる力と、に分散されて車体又は骨格部材に入力され、車体又は骨格部材に、車両前後方向の両端部の間隔が拡大しかつ車両幅方向の両端部の間隔が縮小する変形が生じることに伴い、入力された荷重を分散吸収することができ、車体又は骨格部材の各部分の変形量も小さく抑制できる。
従って、請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明と同様に、互いに異なる複数の方向からの衝突による衝撃を分散吸収することが可能となり、複数の方向からの衝突時に乗員に加わる加速度を各々軽減することができる。また、請求項2記載の発明に係る荷重伝達機構についても、請求項3にも記載したように、本発明に係る荷重伝達機構を車両の骨格部材としても機能させる場合に好適である。
また、上記構成の荷重伝達機構を設けた場合にも、衝突時(第1の方向からの荷重入力時及び第2の方向からの荷重入力時)には、中央部領域(コア領域ともいう、例えば図2(A)にハッチングで示す領域)に対して第1の方向及び第2の方向のうちの一方の方向には圧縮力が、他方の方向には引張力が加わるので、例えば車両の車体又は当該車体の骨格部材を、荷重伝達機構を介して衝突荷重が入力された際に、中央部領域以外の領域の変形を許容する一方で、中央部領域の変形を阻止するように各部分の剛性を設定することで、通常は車室が設けられている車体の中央部領域の変形を阻止することができる。
また、請求項1〜請求項3の何れかに記載の発明において、例えば請求項4に記載したように、荷重伝達機構に第1の変位又は第2の変位が生じた際に変位される部材に設けられた孔又は切欠にピンの先端部が入り込むことで、荷重伝達機構を第1の変位及び第2の変位が生じない状態でロックすると共に、車両が物体と衝突することで加わった荷重により、荷重伝達機構に第1の変位又は第2の変位を生じさせようとする力が閾値以上となった場合に、前記ピンの先端部が前記孔又は前記切欠から離脱することで、前記ロックを解除する状態に切り替わる第1のロック手段を設けることが好ましい。これにより、荷重伝達機構を搭載した車両が物体と衝突する迄の間は、第1の方向や第2の方向から荷重が入力されても荷重伝達機構に第1の変位や第2の変位が生じないので、本発明に係る荷重伝達機構を車両の高剛性の骨格部材(又はその一部)として好適に用いることができる。
また、請求項1〜請求項3の何れかに記載の発明において、請求項4に記載した第1のロック手段に代えて、例えば請求項5に記載したように、荷重伝達機構の一対の荷重伝達部材の一方に設けられたピンの先端部が、前記一対の荷重伝達部材の他方に回動可能に設けられたロッドの先端部に穿設された孔に入り込むことで、荷重伝達機構を、外部からの荷重に拘わらず第1の変位及び第2の変位が生じない状態でロックする第1の状態と、前記ピンが前記孔から離脱することで前記ロックを解除する第2の状態に切替可能な第2のロック手段と、前記ロッドを回動させることで、第2のロック手段を前記第1の状態から前記第2の状態へ切り替える第1の駆動手段と、車両が物体と衝突するか否かを予測する予測手段と、予測手段によって車両が物体と衝突することが予測される迄の間は第2のロック手段を第1の状態に保持させると共に、予測手段によって車両が物体と衝突することが予測された場合に、第1の駆動手段によって第2のロック手段を第1の状態から第2の状態へ切り替えるロック制御手段と、を設けてもよい。この場合も、車両が物体と衝突することが予測手段によって予測される迄の間は、第1の方向や第2の方向から荷重が入力されても荷重伝達機構に第1の変位や第2の変位が生じないので、本発明に係る荷重伝達機構を車両の高剛性の骨格部材(又はその一部)として好適に用いることができる。
また、請求項1〜請求項3の何れかに記載の発明において、車両の衝突時に、第1の方向又は第2の方向からの荷重として本発明に係る荷重伝達機構に入力された衝突荷重は、当該衝突荷重が荷重伝達機構を介して分散入力された車体又は骨格部材の各部分の変形等によって吸収することも可能であるが、例えば請求項6に記載したように、荷重伝達機構に第1の変位又は第2の変位が生じた際に間隔が変化する、荷重伝達機構の互いに異なる部位に両端部が連結されたダンパから成り、車両の衝突に伴う外部からの荷重によって荷重伝達機構に生じる変位を抑制することで、荷重伝達機構に前記荷重として加えられた衝突エネルギーを減衰させる減衰手段を更に設けることが好ましい。これにより、衝突荷重が分散入力された車体又は骨格部材の各部分の変形(車室内への侵襲)を抑制できると共に、より大きな衝突エネルギーを吸収することも可能となる。
また、請求項6記載の発明において、減衰手段の減衰力の大きさは一定であってもよいが、例えば請求項7に記載したように、減衰手段は衝突エネルギーを減衰させる減衰力の大きさを変更可能とされ、車両の車室内における加速度が閾値を越えないように減衰手段の減衰力を制御する減衰力制御手段を更に設けることが好ましい。減衰力の大きさを変更可能な減衰手段としては、例えば磁界の強さに応じて粘度が変化するMR(Magneto-Rheological)流体等の機能性流体が封入されたダンパ等を適用することができる。これにより、車両衝突時の各時期(例えば衝突初期/中期/終期)における減衰手段の減衰力を最適化することが可能となり、車両衝突時に乗員の負担を軽減することができる。なお、減衰力制御手段による減衰力の制御は、具体的には、例えば車両の車室内における加速度(乗員に加わる加速度)が過大となり易い衝突初期には、前記加速度が抑制されるように減衰手段の減衰力が比較的小さくなるように制御する一方、衝突中期から終期にかけては、車室内への侵襲が抑制されるように減衰手段の減衰力が比較的大きくなるように制御することができる。
また、請求項7記載の発明において、例えば請求項8に記載したように、車室内における加速度を検出する加速度検出手段、又は、荷重伝達機構の複数の荷重伝達部材の相対速度を検出する相対速度検出手段を設け、減衰力制御手段は、加速度検出手段によって検出された加速度又は相対速度検出手段によって検出された相対速度に基づいて、減衰手段の減衰力を制御するように構成することができる。
また、車両衝突時の衝突エネルギーは、車両が衝突する物体の質量や相対速度等によって大きく相違することを考慮すると、請求項7記載の発明において、例えば請求項9に記載したように、車両が物体と衝突するか否かを予測する予測手段と、予測手段によって車両と衝突すると予測された物体の属性情報として前記物体の種別又は相対速度を取得する取得手段を更に設け、減衰力制御手段は、取得手段によって取得された属性情報に基づき、衝突エネルギーの大きさを推定し、推定した衝突エネルギーの大きさに応じて減衰手段の減衰力を制御することが好ましい。これにより、車両が衝突する物体の質量や相対速度等によって大きく相違する車両衝突時の衝突エネルギーに応じて減衰手段の減衰力を最適化することができ、車両衝突時に乗員に加わる最大加速度及び車室内への侵襲をより確実に抑制することができる。
また、請求項1〜請求項3の何れかに記載の発明において、例えば請求項10に記載したように、両端部が荷重伝達機構の互いに異なる部位に連結され長さを変更可能な伸縮部材の長さを変更するアクチュエータを備え、前記アクチュエータによって前記伸縮部材の長さを変更することで、荷重伝達機構に第2の変位を生じさせる第2の駆動手段と、車両が物体と衝突するか否かを予測すると共に車両の衝突箇所を予測する予測手段と、予測手段によって車両の車両前後方向一端部側が物体と衝突すると予測された場合に、車両の車両前後方向一端部側が物体と衝突する前に、第2の駆動手段によって荷重伝達機構に第2の変位を生じさせる駆動制御手段と、を更に設けることが好ましい。請求項10記載の発明では、車両の車両前後方向一端部側が物体と衝突すると予測された場合に、車両の車両前後方向一端部側が物体と衝突する前に、衝突時の荷重伝達機構の変位方向(第1の変位の方向)と逆方向(第2の変位の方向)に荷重伝達機構を予め変位させるので、車両の車両前後方向一端部側が物体と衝突した際の荷重伝達機構の第1の変位の変位量(ストローク)を大きくすることができ、車両の車両前後方向一端部側が物体と衝突する際に乗員に加わる最大加速度及び車室内への侵襲をより確実に抑制することができる。
また、請求項10記載の発明において、例えば請求項11に記載したように、第2の駆動手段は、前記伸縮部材の長さを、前記アクチュエータにより荷重伝達機構に第2の変位を生じさせる場合と逆方向に変更することで、荷重伝達機構に第1の変位を生じさせることも可能とされ、駆動制御手段は、予測手段によって車両の車両幅方向の何れか一方の端部側が物体と衝突すると予測された場合に、車両の車両幅方向の何れか一方の端部側が物体と衝突する前に、第2の駆動手段によって荷重伝達機構に第1の変位を生じさせるように構成することが好ましい。請求項11記載の発明では、車両の車両幅方向の何れか一方の端部側が物体と衝突すると予測された場合に、車両の車両幅方向の何れか一方の端部側が物体と衝突する前に、衝突時の荷重伝達機構の変位方向(第2の変位の方向)と逆方向(第1の変位の方向)に荷重伝達機構を予め変位させるので、車両の車両幅方向の何れか一方の端部側が物体と衝突した際の荷重伝達機構の第2の変位の変位量(ストローク)を大きくすることができ、車両の車両幅方向の何れか一方の端部側が物体と衝突する際に乗員に加わる最大加速度及び車室内への侵襲もより確実に抑制することができる。
また、請求項10又は請求項11記載の発明において、例えば請求項12に記載したように、予測手段によって車両と衝突すると予測された物体の属性情報として前記物体の種別又は相対速度を取得する取得手段を更に設け、駆動制御手段を、取得手段によって取得された属性情報に基づいて、荷重伝達機構に荷重として加えられる衝突エネルギーの大きさも予測し、予測した衝突エネルギーの大きさに応じて、車両が物体と衝突する前に第2の駆動手段によって荷重伝達機構に変位を生じさせるか否かを切り替えるか、又は、車両が物体と衝突する前に第2の駆動手段によって荷重伝達機構に生じさせる変位の大きさを変化させるように構成してもよい。
以上説明したように本発明は、第1の方向からの荷重に対し、第1の方向の両端部の間隔が縮小しかつ第1の方向に交差する第2の方向の両端部の間隔が拡大する第1の変位が生じ、第2の方向からの荷重に対し、第2の方向の両端部の間隔が縮小しかつ第1の方向の両端部の間隔が拡大する第2の変位が生ずるように、長尺状の複数の荷重伝達部材が回動可能に連結されて成り、第1の方向の両端部が車両の車体又は該車体の骨格部材のうち車両前後方向に沿った異なる部分に連結されると共に、第2の方向の両端部が車体又は骨格部材のうち車両幅方向に沿った異なる部分に連結された荷重伝達機構を設けたので、互いに異なる複数の方向からの衝突による衝撃を分散吸収することが可能となる、という優れた効果を有する。
以下、図面を参照して本発明の実施形態の一例を詳細に説明する。
〔第1実施形態〕
図3及び図4には、車両30に搭載された衝撃吸収フレーム32が示されている。衝撃吸収フレーム32は一対の第1フレーム34,36を備えており、第1フレーム34,36は、互いの中間部が回転ジョイント38を介して回動可能に連結されている。また、衝撃吸収フレーム32は一対の第2フレーム40,42を備えており、第2フレーム40,42は、互いの一端部が回転ジョイント44を介して回動可能に連結されている。また、第2フレーム40の他端部は第1フレーム34の一端部と回転ジョイント46を介して回動可能に連結されており、第2フレーム42の他端部は第1フレーム36の一端部と回転ジョイント48を介して回動可能に連結されている。更に、衝撃吸収フレーム32は一対の第3フレーム50,52を備えており、第3フレーム50,52は、互いの一端部が回転ジョイント54を介して回動可能に連結されている。また、第3フレーム50の他端部は第1フレーム36の他端部と回転ジョイント56を介して回動可能に連結されており、第3フレーム52の他端部は第1フレーム34の一端部と回転ジョイント58を介して回動可能に連結されている。
本実施形態において、衝撃吸収フレーム32は車両30の骨格部材として機能するように、回転ジョイント44側が車両前後方向前側に、回転ジョイント54側が車両前後方向後側に位置するように配置されており、回転ジョイント44は車両30の車体の前端部(詳しくは前端部に配置されたバンパ60)に、回転ジョイント54は車両30の車体の後端部(詳しくは後端部に配置されたバンパ62)に各々連結されている。また、図4に示すように、回転ジョイント46は車両30の車体の右端のうち右前輪64の配置位置付近に連結され、回転ジョイント48は車両30の車体の左端のうち左前輪66の配置位置付近に連結され、回転ジョイント56は車両30の車体の右端のうち右後輪68の配置位置付近に連結され、回転ジョイント58は車両30の車体の左端のうち左後輪70の配置位置付近に連結されている。
なお、衝撃吸収フレーム32は請求項1に記載の荷重伝達機構に対応しており、一対の第1フレーム34,36は請求項1に記載の一対の第1の荷重伝達部材に、一対の第2フレーム40,42は請求項1に記載の一対の第2の荷重伝達部材に、一対の第3フレーム50,52は請求項1に記載の一対の第3の荷重伝達部材に各々対応している。
また、回転ジョイント46と回転ジョイント48の間には車両幅方向に沿って減衰力可変ダンパ72Aが配置されており、減衰力可変ダンパ72Aの一端は回転ジョイント46に、減衰力可変ダンパ72Aの他端は回転ジョイント48に各々連結されている。また、回転ジョイント56と回転ジョイント58の間には車両幅方向に沿って減衰力可変ダンパ72Bが配置されており、減衰力可変ダンパ72Bの一端は回転ジョイント56に、減衰力可変ダンパ72Bの他端は回転ジョイント58に各々連結されている。更に、回転ジョイント38と回転ジョイント44の間には車両前後方向に沿って減衰力可変ダンパ72Cが配置されており、減衰力可変ダンパ72Cの一端は回転ジョイント38に、減衰力可変ダンパ72Cの他端は回転ジョイント44に各々連結されている。また、回転ジョイント38と回転ジョイント54の間には車両前後方向に沿って減衰力可変ダンパ72Dが配置されており、減衰力可変ダンパ72Dの一端は回転ジョイント38に、減衰力可変ダンパ72Dの他端は回転ジョイント54に各々連結されている。
例として図10にも示すように、通常のダンパは、ピストンロッド76の先端に取り付けられオリフィス84が設けられたピストン82が、作動流体74が封入されたケース80内を摺動移動可能に配置されて成り、ピストン82の摺動移動時に作動流体74がオリフィス84を通過することで減衰力が発生するが、減衰力可変ダンパ72は、作動流体74がオリフィス84を通過する際の抵抗を変化させることで、減衰力を変更可能に構成されている。減衰力可変ダンパ72は、減衰力を外部から制御するための電気信号を伝送する電気配線が外部へ延設されており、この電気配線は後述するダンパ制御部138(図6参照)に接続されている。なお、減衰力可変ダンパ72は請求項6(詳しくは請求項7)に記載の減衰手段に対応している。
減衰力可変ダンパ72としては、例えば磁界の強さに応じて粘度が変化するMR流体を作動流体74として用い、MR流体に作用させる磁界の強さを変化させることで減衰力を変更可能なMRダンパが好適であるが、アクチュエータによってオリフィスの径を変化させることで減衰力を変更する等の他の構成を適用してもよい。以下では、減衰力可変ダンパ72としてMRダンパ72を適用した態様を説明し、減衰力可変ダンパ72をMRダンパ72と称する。
また、図5(A)〜(C)に示すように、一対の第1フレーム34,36の間には変位ロック機構90が設けられている。変位ロック機構90は、第1フレーム36の上面に間隔を空けて立設された一対のブラケット92と、一対のブラケット92の間に掛け渡された回転軸94と、第1フレーム34の上面に立設されたストッパピン96と、一端側が回転軸94を中心として回動可能に軸支され他端側にストッパピン96が入り込む孔98A(図5(C)参照)が穿設されたロッド98と、から構成されている。図5(B)に示すように、ロッド98の孔98Aにストッパピン96が入り込んだ状態では、一対の第1フレーム34,36が回転ジョイント38を中心として回動することが阻止されるので、衝撃吸収フレーム32は外部からの荷重が入力されても変位が生じない状態でロックされる。
変位ロック機構90のロッド98は通常、ロッド98の自重により図5(B)に示す状態(孔98Aにストッパピン96が入り込んだ状態)で保持されており、ロッド98が図5(B)に示す状態で保持されている間(すなわち、後述のように車両30が他の物体と衝突することが予測される迄の間)、衝撃吸収フレーム32は車両30の高剛性の骨格部材として機能する。また、上記のように通常時は衝撃吸収フレーム32が車両30の高剛性の骨格部材として機能することに基づき、本実施形態に係る車両30は衝撃吸収フレーム32を主要な骨格部材として用いており、衝撃吸収フレーム32以外の主要な骨格部材を省略している。これにより、車両30を軽量に構成できると共に、車両30が小型車等のスペースの限られた車両であったとしても、衝撃吸収フレーム32を容易に搭載することができる。
また、第1フレーム34の上面のうち、ロッド98の孔98Aにストッパピン96が入り込んだ状態でロッド98の先端部(回動可能に軸支された側と反対側の端部)の下側となる位置には、ロック解除ACT(アクチュエータ)100が設けられている。ロック解除ACT100はモータ(図示省略)を内蔵し、モータの駆動力を駆動力伝達機構を介して伝達することで、昇降ピン100Aを昇降移動可能とされている。ロック解除ACT100が昇降ピン100Aを上昇させると、昇降ピン100Aの上面がロッド98の先端部の下面に当接し、更に回転軸94を中心としてロッド98が回動することで、ストッパピン96がロッド98の孔98Aから抜け出た状態となり(図5(C)参照)、一対の第1フレーム34,36が回転ジョイント38を中心として回動可能となり、衝撃吸収フレーム32は外部から入力された荷重に応じた変位が生じる状態となる。
なお、変位ロック機構90は請求項5に記載の第2のロック手段に対応しており、図5(B)に示す状態は請求項5に記載の第1の状態に、図5(C)に示す状態は請求項5に記載の第2の状態に各々対応している。また、ロック解除ACT100は請求項5に記載の第1の駆動手段に対応している。なお、変位ロック機構90は回転ジョイントを介して回動可能に連結された衝撃吸収フレーム32の全てのフレームの間に各々設けてもよいし、一部のフレームの間に選択的に設ける(例えば一対の第1フレーム34,36の間に加え、一対の第2フレーム40,42の間、一対の第3フレーム50,52の間に各々設ける等)ようにしてもよい。
次に、車両30に搭載されている車両制御システム102について、図6を参照して説明する。車両制御システム102は、互いに異なる制御を行う複数の電子制御ユニット(コンピュータを含んで構成された制御ユニットであり、以下ECUと称する)が各々接続されたバス104を備えている。
車両制御システム102はABS(Anti-lock Brake System) ECU106を備えており、このABS ECU106にはABS ACT(アクチュエータ)108及び車両の各車輪の周速度を検出する車輪速センサ110が接続されている。なお、ABS ACT108は、車両の各車輪に設けられたブレーキ装置のホイールシリンダに対応して各々設けられ、ABS ECU106から入力された駆動信号に応じて、ホイールシリンダをマスタシリンダと連通させると共にリザーバから遮断する通常状態(増圧状態)から、ホイールシリンダをマスタシリンダ及びリザーバと遮断する保持状態又はホイールシリンダをリザーバと連通させマスタシリンダから遮断する減圧状態へ切り替わる電磁バルブ等で構成することができる。またバス104には、超音波ドップラ式又は空間フィルタ式で車両30の対地車体速度を検出する対地車速センサ112が接続されている。ABS ECU106は、対地車速センサ112によって検出される車体速度と車輪速センサ110によって検出される各車輪の周速度との差が所定値未満となるように、各車輪のホイールシリンダに対応する電磁バルブによってブレーキフルードの油圧を減圧、増圧、保持させることで、各車輪毎に設けられたブレーキ装置のホイールシリンダにより各車輪に加えられる制動トルクを制御する、所謂ABS制御を行う。
また、車両制御システム102は介入ブレーキ制御ECU114を備えており、この介入ブレーキ制御ECU114には介入ブレーキ制御ACT116が接続されている。なお、介入ブレーキ制御ACT116としては、運転者によるブレーキ操作を代替する油圧を発生させる液圧ポンプ等で構成することができる。介入ブレーキ制御ECU114は、後述するプリクラッシュ制御ECU128からプリクラッシュ制御信号が入力され、かつ運転者によるブレーキ操作が行われていない場合に、所定の目標油圧に応じて液圧ポンプを駆動させることで、運転者に代わって自車両を制動・減速させる介入ブレーキ制御を行う。
また、車両制御システム102はウェビング巻取ECU118を備えており、このウェビング巻取ECU118には、個々のウェビング巻取装置に各々設けられウェビングに張力を与えるプリテンショナから成るウェビング巻取ACT28が接続されている。ウェビング巻取ECU118は、後述するプリクラッシュ制御ECU128からプリクラッシュ制御信号が入力されると、ウェビング巻取ACT28としてのプリテンショナを作動させることで、車両の各乗員に巻き掛けられているウェビングの巻き取りを行わせる。
更に、車両制御システム102はエアバッグECU122を備えており、このエアバッグECU122には、エアバッグECU122と共にエアバッグ装置を構成するエアバッグACT124が接続されている。バス104には、車両の走行によって車体に加わる加速度や衝突等によって車体に加わる加速度を検出するGセンサ126が接続されており、エアバッグECU122はGセンサ126によって検出された加速度が閾値を越えた場合に、エアバッグACT124によってエアバッグを展開させる。またエアバッグECU122は、プリクラッシュ制御ECU128からプリクラッシュ制御信号が入力されると、上記の加速度の閾値を変更設定する。
また、車両制御システム102はプリクラッシュ制御ECU128を備えており、このプリクラッシュ制御ECU128にはレーダ装置130が接続されていると共に、画像処理装置132を介して2台のCCDカメラ134が接続されている。本実施形態では、レーダ装置130として、ミリ波を探知波とし、連続波(CW)に周波数変調(FM)を施した送信信号を用いるFM−CWレーダ装置を用いている。レーダ装置130は、自車両に搭載され、自車両の周囲(例えば車両左右方向の角度範囲が10゜〜20゜、最遠方探知距離が200mの範囲内)に存在する車両や道路標識等の周囲存在物を検出し、周囲存在物と自車両の相対位置関係及び相対速度を同時に取得可能とされている。レーダ装置130ではアダプディブアレーアンテナフィルタが用いられるとともに、デジタル・ビーム・フォーミング(DBF)技術によるアンテナビームの形成および走査が行われ、周囲存在物が点情報として検出される。
また、レーダ装置130は、マイクロプロセッサ等から成り一定周期(例えば数十msec)で行われる周囲存在物の探知結果を処理する処理装置を内蔵しており、周囲存在物の探知結果は処理装置に入力される。処理装置は直近の複数回の探知結果を基に、相対位置関係や相対速度の変化等に基づいてノイズやガードレール等の路側物等を監視対象から除外し、先行車両や路上に存在する停止車両等の特定の周囲存在物を監視対象物として追従監視する処理を行う。個々の監視対象物との相対位置関係や相対速度等の情報は、画像処理装置132に送られると共に、プリクラッシュ制御ECU128からの要求に応じてプリクラッシュ制御ECU128へ出力される。
また、2台のCCDカメラ134は一対のドアミラー、フロントグリルの両端部等、車幅方向に離間した位置に、各々自車両の前方を含む自車両の周囲を撮像可能に配置されており、画像処理装置132には、2台のCCDカメラ134が自車両の周囲を撮像することで得られた画像が各々入力される。画像処理装置132は、レーダ装置130から入力された個々の監視対象物との相対位置関係等の情報に基づいて、CCDカメラ134から入力された画像のうち個々の監視対象物に相当する画像部を認識する。そして、認識した画像部の前記画像上での全体位置及び車両左右方向に沿った端部の位置に基づき、三角測量の原理により個々の監視対象物の中心位置及び幅寸法を検出する。画像処理装置132は上記処理を一定周期(例えば数十msec)で繰り返すことで、レーダ装置130と同様に特定の周囲存在物を追従監視すると共に、個々の監視対象物の中心位置及び幅寸法の検出結果を、プリクラッシュ制御ECU128の要求に応じてプリクラッシュ制御ECU128へ出力する。
一方、プリクラッシュ制御ECU128は、レーダ装置130から入力される個々の監視対象物との相対位置関係や相対速度等、画像処理装置132から入力される個々の監視対象物の中心位置及び幅寸法等の情報に基づき、自車両の周囲に存在する周囲存在物と自車両との相対位置関係等を把握しつつ、周囲存在物までの到達距離や到達時間を演算して衝突等の緊急状態に至る可能性を予測判断し、車両が緊急状態に至る可能性が高いことが予測される場合には、介入ブレーキ制御ECU114、ウェビング巻取ECU118及びエアバッグECU122へプリクラッシュ制御信号を出力すると共に、例えばインスツルメントパネルに設けられたワーニングランプを点灯或いは点滅させたり、ブザーの鳴動や案内メッセージを音声で発する等により、車両が緊急状態に至る可能性が高いことを運転者に警告するプリクラッシュ制御処理を行う。
なお、本実施形態に係るプリクラッシュ制御ECU128は、後述する衝撃吸収コントローラ136に対しても、上記のプリクラッシュ制御信号を出力すると共に、上述したプリクラッシュ制御処理によって自車両と衝突する可能性が高いと認識した周囲存在物の属性情報(周囲存在物の種別(例えば乗用車/トラック/自動二輪車/自転車/歩行者/電柱等の固定物体等)や相対速度等)及び自車両と周囲存在物の衝突方向(自車両の前方から衝突するか、自車両の側方から衝突するか等)を表す衝突方向情報も併せて出力する。なお、周囲存在物の種別については、CCDカメラ134から入力された画像のうち衝突する可能性が高いと認識した周囲存在物に対応する画像部に対し、例えばパターンマッチング等の画像処理を行うことで認識することができる。このように、プリクラッシュ制御ECU128は、レーダ装置130、画像処理装置132及びCCDカメラ134と共に、請求項5及び請求項9に記載の予測手段に対応している。
プリクラッシュ制御ECU128からプリクラッシュ制御信号が入力された場合、介入ブレーキ制御ECU114は運転者によるブレーキ操作が行われていなければ介入ブレーキ制御ACT116を制御して車両を制動・減速させ、ウェビング巻取ECU118はウェビング巻取ACT28を制御してウェビングを巻き取ることで乗員保護力を強化し、エアバッグECU122はエアバッグの展開の可否を規定する閾値をより小さい値へ変更することで、車両が緊急状態に至ったときのエアバッグの展開タイミングを早くさせる。上記のプリクラッシュ制御により、車両が衝突などの緊急状態に至ったときに、より確実に乗員を保護することができる。
また、車両制御システム102のバス104には、ECUから成る衝撃吸収コントローラ136が接続されている。衝撃吸収コントローラ136はフラッシュメモリ等から成る不揮発性の記憶部を内蔵しており、この記憶部には、衝撃吸収コントローラ136で後述する衝撃吸収制御処理を行うためのプログラムが記憶されている。詳細は後述するが、本第1実施形態において、衝撃吸収コントローラ136は請求項5に記載のロック制御手段及び請求項7に記載の減衰力制御手段として機能する。また、衝撃吸収コントローラ136には、個々のMRダンパ72A〜72Dから延設された電気配線と各々接続され個々のMRダンパ72A〜72Dで発生される磁界の強さを制御するダンパ制御部138と、先に説明したロック解除ACT100が各々接続されている。
また、バス104には車室内Gセンサ140と衝撃吸収フレームGセンサ142も接続されている。車室内Gセンサ140は車両30の車室内に設置され、車室内における加速度を検出し、検出結果を衝撃吸収コントローラ136へ出力する。車室内Gセンサ140は請求項8に記載の加速度検出手段に対応している。また、衝撃吸収フレームGセンサ142は衝撃吸収フレーム32を構成する個々のフレームに加わる加速度を検出可能に衝撃吸収フレーム32に取り付けられており、検出結果を衝撃吸収コントローラ136へ出力する。衝撃吸収フレームGセンサ142による検出結果は個々のフレームの相対変位速度の演算に用いられる(後述)ので、衝撃吸収フレームGセンサ142は請求項8に記載の相対速度検出手段に対応している。
次に本第1実施形態の作用として、プリクラッシュ制御ECU128からプリクラッシュ制御信号が入力された場合に衝撃吸収コントローラ136で実行される衝撃吸収制御処理について、図7を参照して説明する。
図7に示す衝撃吸収制御処理では、まずステップ200において、ロック解除ACT100の昇降ピン100Aを上昇移動させる。これにより、昇降ピン100Aの上面がロッド98の先端部の下面に当接し、更に回転軸94を中心としてロッド98が回動することで、ストッパピン96がロッド98の孔98Aから抜け出た状態となり(図5(C)参照)、一対の第1フレーム34,36が回転ジョイント38を中心として回動可能となることで、衝撃吸収フレーム32のロック状態が解除され、外部から入力された荷重に応じて衝撃吸収フレーム32に変位が生じる(衝撃吸収フレーム32を構成する各フレームが回動する)状態となる。
次のステップ202では、自車両と衝突する物体(周囲存在物)の属性情報及び衝突方向情報を、プリクラッシュ制御ECU128からバス104を介して取得する。このステップ202は請求項9に記載の取得手段に対応している。そしてステップ204では、プリクラッシュ制御ECU128から取得した属性情報に基づいてMRダンパ72の初期減衰力(MRダンパ72に封入されているMR流体の当初の粘度)を決定する。このMRダンパ72の初期減衰力の決定は、具体的には、例えば以下のようにして行うことができる。
すなわち、自車両が他の物体(衝突物体)と衝突することで自車両に衝突荷重が加わっている衝突期間のうち、その初期の期間(衝突初期)には、例として図9に破線でも示すように、自車両の車室内に位置している乗員に過大な加速度が加わり易い。このため、MRダンパ72の初期減衰力はデフォルトが比較的低い値、すなわち入力された衝突荷重に対して衝撃吸収フレーム32の比較的大きな変位を許容する代わりに、衝突初期に乗員に加わる加速度を抑制できる値に設定されており、このMRダンパ72の初期減衰力のデフォルト値を読み出し、読み出したデフォルト値を属性情報に基づいて変更することで、MRダンパ72の最終的な初期減衰力を決定する。
また、MRダンパ72の初期減衰力のデフォルト値を属性情報に基づいて変更することは、具体的には、例えば、まず属性情報のうち衝突物体の種別に基づいて衝突物体のおおよその質量を推定した後に、衝突物体の推定質量が大きくなるに従ってMRダンパ72の減衰力が大きくなり(MR流体の粘度が高くなり)、属性情報のうち衝突物体との相対速度が高くなるに従ってMRダンパ72の減衰力が大きくなるように初期減衰力のデフォルト値を変更することで行うことができる。これにより、MRダンパ72の最終的な初期減衰力を、衝突物体の質量や衝突物体との相対速度等に依存して変化する衝突エネルギーの大きさに応じて最適化することができる。
なお、自車両が衝突物体と自車両の側方から衝突する場合は、自車両が衝突物体と自車両の前方から衝突する場合と比較して、自車両の衝突箇所と乗員の位置との距離が小さいので、衝撃吸収フレーム32の許容最大変位量も小さくなる可能性が高い。これを考慮すると、例えばMRダンパ72の初期減衰力のデフォルト値を自車両と衝突物体の衝突方向(前方/側方)毎に設定しておき(衝突方向が側方の場合の初期減衰力のデフォルト値を衝突方向が前方の場合よりも大きく設定しておく)、プリクラッシュ制御ECU128から取得した衝突方向情報に基づき、自車両と衝突物体との今回の衝突方向に対応する初期減衰力のデフォルト値を読み出して用いるようにしてもよい。
また、MRダンパ72の初期減衰力の決定方法は、上記のようにデフォルト値を適宜変更して用いることに限られるものではなく、衝突物体の種別や衝突物体との相対速度(及び衝突方向)の少なくとも1つが互いに異なる多数種の衝突条件について、MRダンパ72の初期減衰力の値を予め各々設定しておき、自車両と衝突物体との今回の衝突条件に対応する初期減衰力の値を読み出してそのまま用いるようにしてもよい。また、本実施形態では、衝突期間の間中、個々のMRダンパ72A〜72Dの減衰力を互いに同一の大きさに制御する態様を説明するが、一部又は全てのMRダンパ72の減衰力が他のMRダンパ72と相違するように制御してもよい。
次のステップ206では、MRダンパ72で発生される磁界の強さがステップ204で決定したMRダンパ72の初期減衰力に応じた大きさとなるようにダンパ制御部138を制御する。これにより、MRダンパ72のMR流体の粘度が、磁界の強さに応じた値に制御され、ステップ204で決定したMRダンパ72の初期減衰力に一致するようにMRダンパ72の減衰力が変更されることになる。
その後、自車両が衝突物体に衝突すると、衝突方向が前方であれば、バンパ60(図3参照)を介して車両30の前方より衝撃吸収フレーム32に衝突荷重が入力される。これにより、衝撃吸収フレーム32はMRダンパ72A〜72Dで発生される減衰力に抗して図8(A)に示すように変位する。すなわち、まず回転ジョイント44を中心として、第2フレーム40が反時計回りに回動する一方、第2フレーム42は時計回りに回動し、回転ジョイント46,48の間隔が拡大される。また、回転ジョイント46,48の間隔の拡大に伴い、回転ジョイント38を中心として、第1フレーム34は時計回りに回動する一方、第1フレーム36は反時計回りに回動し、回転ジョイント56,58の間隔も拡大される。更に、回転ジョイント56,58の間隔の拡大に伴い、回転ジョイント54を中心として、第3フレーム50は時計回りに回動する一方、第3フレーム52は反時計回りに回動する。そして、上述した衝撃吸収フレーム32の変位に伴い、回転ジョイント44,54の間隔は縮小される。なお、図8(A)は車両30が前方より衝突物体に衝突した場合を示しているが、後方より衝突物体に衝突した場合にも衝撃吸収フレーム32は同様の変位が生ずる。
このように、自車両が前方(又は後方)から衝突物体に衝突した場合、衝撃吸収フレーム32には、回転ジョイント46,48の間隔及び回転ジョイント56,58の間隔(第2の方向の両端部の間隔に相当)が拡大しかつ回転ジョイント44,54の間隔(第1の方向の両端部の間隔に相当)が縮小する変位(第1の変位に相当)が生ずるので、衝撃吸収フレーム32の変位に伴い、衝撃吸収フレーム32に連結された車両30の車体には、衝撃吸収フレーム32に入力された衝突荷重が、車両幅方向の長さを拡大する方向の引張力と、車両前後方向の長さを縮小する方向の圧縮力と、に分散されて入力される。従って、衝撃吸収フレーム32に衝突荷重として入力された衝突エネルギーは、その一部がMRダンパ72A〜72Dで発生される減衰力に抗して衝撃吸収フレーム32を変位させることによって消費(吸収)され、残りは、衝撃吸収フレーム32から車両30の車体に分散入力される引張力及び圧縮力により、車両30の車体が図8(A)に破線で示す状態から実線で示す状態へ変形していく過程で消費(吸収)される。
また、自車両が側方から衝突物体に衝突した場合、車体の側部を介して車両30の側方より衝撃吸収フレーム32に衝突荷重が入力される。この場合、衝撃吸収フレーム32はMRダンパ72A〜72Dで発生される減衰力に抗して図8(B)に示すように変位する。すなわち、まず回転ジョイント38を中心として、第1フレーム34は反時計回りに回動する一方、第1フレーム36は時計回りに回動し、回転ジョイント46,48の間隔及び回転ジョイント56,58の間隔が各々縮小される。また、回転ジョイント46,48の間隔の縮小に伴い、回転ジョイント44を中心として、第2フレーム40が時計回りに回動する一方、第2フレーム42は反時計回りに回動する。また、回転ジョイント56,58の間隔の縮小に伴い、回転ジョイント54を中心として、第3フレーム50は反時計回りに回動する一方、第3フレーム52は時計回りに回動する。そして、上述した衝撃吸収フレーム32の変位に伴い、回転ジョイント44,54の間隔は拡大される。なお、図8(B)は車両30が車両30の右方より衝突物体に衝突した場合を示しているが、車両30の左方より衝突物体に衝突した場合にも衝撃吸収フレーム32は同様の変位が生ずる。
このように、自車両が側方(右方又は左方)から衝突物体に衝突した場合、衝撃吸収フレーム32には、回転ジョイント46,48の間隔及び回転ジョイント56,58の間隔(第2の方向の両端部の間隔に相当)が縮小しかつ回転ジョイント44,54の間隔(第1の方向の両端部の間隔に相当)が拡大する変位(第2の変位に相当)が生ずるので、衝撃吸収フレーム32の変位に伴い、衝撃吸収フレーム32に連結された車両30の車体には、衝撃吸収フレーム32に入力された衝突荷重が、車両幅方向の長さを縮小する方向の圧縮力と、車両前後方向の長さを拡大する方向の引張力と、に分散されて入力される。従って、衝撃吸収フレーム32に衝突荷重として入力された衝突エネルギーは、その一部がMRダンパ72A〜72Dで発生される減衰力に抗して衝撃吸収フレーム32を変位させることによって消費(吸収)され、残りは、衝撃吸収フレーム32から車両30の車体に分散入力される引張力及び圧縮力により、車両30の車体が図8(B)に破線で示す状態から実線で示す状態へ変形していく過程で消費(吸収)される。
このように、本実施形態に係る衝撃吸収フレーム32を搭載した車両30は、前方(又は後方)から衝突物体に衝突した場合にも、側方から衝突物体に衝突した場合にも、衝突による衝撃(衝突エネルギー)を分散させて吸収することができる。また、車両30が前方(又は後方)から衝突物体に衝突した場合、車両30の車体には、車両前後方向の長さを縮小する方向の圧縮力が入力される一方で、車両幅方向の長さを拡大する方向の引張力も入力され、車両30が側方から衝突物体に衝突した場合、車両30の車体には、車両幅方向の長さを縮小する方向の圧縮力が入力される一方で、車両前後方向の長さを拡大する方向の引張力も入力される。従って、車両30が衝突物体に衝突した場合、その衝突方向に拘わらず車室内への侵襲も抑制することができ、衝突後の車室内の容積を確保することができる。
更に、本実施形態に係る車両30の車体は、車両30が衝突物体に衝突し、衝撃吸収フレーム32から衝撃(衝突エネルギー)を分散入力された場合に、衝突方向が前方(又は後方)か側方かに拘わらず、車室が設けられている中央部領域(コア領域:図1(A)や図2(A)にハッチングで示す領域)以外の領域の変形を許容する一方で、中央部領域の変形を阻止するように各部分の剛性が設定されている。これにより、本実施形態に係る衝撃吸収フレーム32から分散入力される衝撃(衝突エネルギー)が、上記の中央部領域に対しては、車両前後方向及び車両幅方向のうちの一方の方向には圧縮力として、他方の方向には引張力として加わることの相乗効果により、車体の中央部領域の変形を確実に阻止することができ、衝撃吸収フレーム32から車体に分散入力された衝撃(衝突エネルギー)は、車体の中央部領域以外の領域の変形によって消費(吸収)することができる。
一方、車両30が衝突物体に衝突し、衝撃吸収フレーム32が上記のように変位していくと共に、車両30の車体が上記のように変形していく間、衝撃吸収コントローラ136は、図7に示す衝撃吸収制御処理において、以下のような制御を行う。
すなわち、ステップ208では、車室内Gセンサ140によって検出された車両30の車室内における加速度をバス104経由で取り込む。次のステップ210では、ステップ208で取り込んだ車室内加速度が予め設定された閾値以上か否か判定する。判定が否定された場合はステップ212へ移行し、衝撃吸収フレームGセンサ142によって検出された衝撃吸収フレーム32を構成する個々のフレームの加速度をバス104経由で取り込み、取り込んだ加速度に対して積分演算を行うことで個々のフレームの相対変位速度を演算する。ステップ214では、ステップ212で演算した相対変位速度が予め設定された閾値以上か否か判定する。この判定も否定された場合はステップ220へ移行し、車両30と衝突物体の衝突(に伴う衝撃吸収フレーム32への衝突荷重の入力)が終了したか否か判定する。なお、この判定は、例えば車室内Gセンサ140によって検出された加速度が0又は0に近い所定値未満となったか否かを判断することで行うことができる。ステップ220の判定が否定された場合はステップ208へ戻り、ステップ208以降の処理を繰り返す。これにより、車両30と衝突物体の衝突が終了する迄の間、車室内における加速度が閾値未満で、衝撃吸収フレーム32を構成する個々のフレームの相対変位速度も閾値未満か否かが監視される。
前述のように本実施形態では、MRダンパ72の初期減衰力のデフォルト値を比較的低い値、すなわち入力された衝突荷重に対して衝撃吸収フレーム32の比較的大きな変位を許容する代わりに、衝突初期に乗員に加わる加速度を抑制できる値に設定しており、衝撃吸収フレーム32に衝突荷重が入力されることで衝撃吸収フレーム32が変位し始め、更に衝撃吸収フレーム32の変位の速度が大きくなってくると、前述のステップ214の判定が肯定されてステップ216へ移行する。ステップ216では、MRダンパ72の減衰力(MRダンパ72に封入されているMR流体の粘度)が所定量増大するように、ダンパ制御部138によってMRダンパ72で発生される磁界の強さを変更した後に、ステップ220へ移行する。これにより、衝撃吸収フレーム32を構成する各フレームの相対変位速度が減速され、車両30の車室内への侵襲が最終的に過大となることがないように衝撃吸収フレーム32の変位が抑制される。
また、MRダンパ72の減衰力を増大させると、これに伴って車室内加速度も増大するが、車室内加速度が閾値以上になると前述のステップ210の判定が肯定されてステップ218へ移行し、MRダンパ72の減衰力(MRダンパ72に封入されているMR流体の粘度)が所定量低下するように、ダンパ制御部138がMRダンパ72で発生される磁界の強さを変更した後に、ステップ220へ移行する。これにより、車室内加速度(車室内の乗員に加わる加速度)が過大となることが防止される。
車両30が衝突物体に衝突してから衝突が終了する迄の期間、衝撃吸収コントローラ136が、上記のように車室内加速度及び衝撃吸収フレーム32を構成する各フレームの相対変位速度に応じてMRダンパ72の減衰力を調整する制御を行うことで、例として図9に実線でも示すように、上記期間中に乗員に過大な加速度が加わったり、車室内への侵襲が過大となることを防止することができる。
〔第2実施形態〕
次に本発明の第2実施形態について説明する。なお、第1実施形態と同一の部分には同一の符号を付し、説明を省略する。
本第2実施形態では、図10に示すように、MRダンパ72に事前変位ACT(アクチュエータ)150が取り付けられている。事前変位ACT150は、衝撃吸収フレーム32を事前に(衝突前に)変位させるためのアクチュエータであり、ベース部材152に取り付けられたモータ154を備えている。なお、モータ154としては回転軸の回転量を制御可能なステッピングモータ等が好ましい。モータ154の回転軸にはウォームギア156が取り付けられており、MRダンパ72のピストンロッド76の中間部には、ウォームギア156と噛合するウォームギア158がピストンロッド76に対して回転可能に取り付けられている。ピストンロッド76は、ウォームギア158の取付位置を挟んで両側の2箇所がブラケット160を介してベース部材152に軸支され、ベース部材152に対して軸回りに回転可能かつ軸方向にスライド移動可能とされている。またベース部材152は、ピストンロッド76の軸方向にはスライド移動可能でかつピストンロッド76の軸回りには回転しないように、図示しない支持部材に支持されている。
事前変位ACT150は、通常時、ウォームギア156の長手方向中央に相当する位置でウォームギア158がウォームギア156と噛合している状態(中立状態)に保持されている。この中立状態でモータ154の回転軸が所定方向に回転されると、ウォームギア158はウォームギア156との噛合状態を維持したままMRダンパ72のケース80から離間する方向へスライド移動し、このウォームギア158のスライド移動に伴ってピストン82がケース80内を摺動移動すると共に、ピストンロッド76がケース80から引き出される方向へ移動することで、MRダンパ72の全長が伸長される(図10(B)に示す状態)。また、モータ154の回転軸が所定方向と逆方向に回転されると、ウォームギア158はウォームギア156との噛合状態を維持したままMRダンパ72のケース80に接近する方向へスライド移動し、このウォームギア158のスライド移動に伴ってピストン82がケース80内を摺動移動すると共に、ピストンロッド76がケース80内に押し込まれる方向へ移動することで、MRダンパ72の全長が縮小される(図10(C)に示す状態)。
図11に示すように、事前変位ACT150は衝撃吸収コントローラ136に接続されており、衝撃吸収コントローラ136によってモータ154の駆動が制御される。なお、本第2実施形態において、事前変位ACT150は請求項10(詳しくは請求項11)に記載の第2の駆動手段に対応しており、衝撃吸収コントローラ136は請求項10(詳しくは請求項11,12)に記載の駆動制御手段としても機能する。なお、事前変位ACT150はMRダンパ72A〜72Dの一部にのみ取り付けられていてもよいが、衝撃吸収フレーム32を変位させる(ことで車両30の車体を変形させる)には大きな駆動力が必要となるので、本実施形態では全てのMRダンパ72A〜72Dに事前変位ACT150が取り付けられており、個々の事前変位ACT150は衝撃吸収コントローラ136に各々接続されている。
次に図12を参照し、本第2実施形態に係る衝撃吸収制御処理について、第1実施形態で説明した衝撃吸収制御処理(図7)と異なる部分についてのみ説明する。本第2実施形態に係る衝撃吸収制御処理では、ロック解除ACT100の昇降ピン100Aを上昇移動させることで衝撃吸収フレーム32のロック状態を解除し(ステップ200)、プリクラッシュ制御ECU128から衝突物体の属性情報及び衝突方向情報を取得し(ステップ202)た後に、ステップ230において、プリクラッシュ制御ECU128から取得した衝突物体の属性情報及び衝突方向情報に基づいて、衝撃吸収フレーム32の事前変位方向及び事前変位量を決定する。
なお、衝撃吸収フレーム32の事前変位方向は、取得した衝突方向情報が表す衝突方向から衝突物体が衝突したときの衝撃吸収フレーム32の変位方向と逆方向となるように決定することができる。例えば衝突方向情報が表す衝突方向が前方であれば、衝突時に衝撃吸収フレーム32には第1の変位(図8(A)に示す方向の変位)が生ずるので、事前変位方向を第2の変位の方向(図8(B)に示す変位方向)に決定する。また、例えば衝突方向情報が表す衝突方向が側方であれば、衝突時に衝撃吸収フレーム32には第2の変位(図8(B)に示す方向の変位)が生ずるので、事前変位方向を第1の変位の方向(図8(A)に示す変位方向)に決定する。
また事前変位量については、衝突時の衝突エネルギーが大きくなるに従って事前変位量が大きくなるように、衝突物体の属性情報に基づいて決定する。具体的には、例えば、まず属性情報のうち衝突物体の種別に基づいて衝突物体のおおよその質量を推定した後に、衝突物体の推定質量が大きくなるに従って事前変位量が大きくなり、属性情報のうち衝突物体との相対速度が高くなるに従って事前変位量が大きくなるように、事前変位量を決定する。これにより、衝撃吸収フレーム32の事前変位量を、衝突物体の質量や衝突物体との相対速度等に依存して変化する衝突エネルギーの大きさに応じて最適化できる。なお、自車両が衝突物体と自車両の側方から衝突する場合は、自車両が衝突物体と自車両の前方から衝突する場合と比較して、自車両の衝突箇所と乗員の位置との距離が小さいので、これを補うために、衝突方向が側方の場合の衝撃吸収フレーム32の事前変位量を衝突方向が前方の場合よりも大きくしてもよい。
次のステップ232では、MRダンパ72の減衰力(MRダンパ72に封入されているMR流体の粘度)が最小となるように、ダンパ制御部138によってMRダンパ72で発生される磁界の強さを変更する。そして次のステップ234では、ステップ230で決定した衝撃吸収フレーム32の事前変位方向及び事前変位量に従い、個々の事前変位ACT150について、モータ154の回転軸の回転方向及び回転量を制御する。
すなわち、自車両が前方から衝突物体と衝突する場合、事前変位方向は第2の変位の方向(図8(B)に示す変位方向)であるので、回転ジョイント38,44の間に設けられたMRダンパ72C及び回転ジョイント38,54の間に設けられたMRダンパ72Dについては、モータ154の回転軸を事前変位量に応じた回転量だけ所定方向へ回転させることで、ケース80から引き出される方向へピストンロッド76を移動させ、MRダンパ72の全長を伸長させる。また、回転ジョイント46,48の間に設けられたMRダンパ72A及び回転ジョイント56,58の間に設けられたMRダンパ72Bについては、モータ154の回転軸を事前変位量に応じた回転量だけ所定方向と逆方向へ回転させることで、ケース80内に押し込まれる方向へピストンロッド76を移動させ、MRダンパ72の全長を縮小させる。これにより、衝撃吸収フレーム32は衝突時の変位の方向と逆方向に変位し、車両30の車体は衝突時の変形方向と逆方向に(図8(B)に実線示すように)変形する。
また、自車両が側方から衝突物体と衝突する場合、事前変位方向は第1の変位の方向(図8(A)に示す変位方向)であるので、回転ジョイント38,44の間に設けられたMRダンパ72C及び回転ジョイント38,54の間に設けられたMRダンパ72Dについては、モータ154の回転軸を事前変位量に応じた回転量だけ所定方向と逆方向へ回転させることで、ケース80内に押し込まれる方向へピストンロッド76を移動させ、MRダンパ72の全長を縮小させる。また、回転ジョイント46,48の間に設けられたMRダンパ72A及び回転ジョイント56,58の間に設けられたMRダンパ72Bについては、モータ154の回転軸を事前変位量に応じた回転量だけ所定方向へ回転させることで、ケース80から引き出される方向へピストンロッド76を移動させ、MRダンパ72の全長を伸長させる。これにより、衝撃吸収フレーム32は衝突時の変位の方向と逆方向に変位し、車両30の車体は衝突時の変形方向と逆方向に(図8(A)に実線示すように)変形する。
上記のように、車両30が衝突物体と衝突する前に、事前変位ACT150によって衝撃吸収フレーム32を衝突時の変位の方向と逆方向に変位させ、車両30の車体を衝突時の変形方向と逆方向に変形させておくことで、車両30が衝突物体と衝突した際の衝撃吸収フレーム32の変位量(ストローク)を大きくすることができるので、衝撃吸収フレーム32を事前に変位させない態様(第1実施形態で説明した態様)と比較して、衝突期間内に乗員に加わる加速度が更に抑制されるように、衝突期間内におけるMRダンパ72の減衰力をより低い値に制御したとしても、車室内への侵襲が増大することを抑制することができる。
なお、事前変位ACT150のモータ154の回転軸はウォームギア156,158を介してMRダンパ72のピストンロッド76と繋がっているので、衝撃吸収フレーム32に衝突荷重が入力されて衝撃吸収フレーム32が変位することで、MRダンパ72の全長が伸縮した場合にも、ウォームギア156,158のセルフロックにより、事前変位ACT150はベース部材152を含めてピストンロッド76と一体に移動すると共に、この間にウォームギア156,158の相対位置が変化することもない。従って、衝撃吸収フレーム32に衝突荷重が入力された以降のMRダンパ72の伸縮を事前変位ACT150が阻害することはない。
また、本第2実施形態に係る衝撃吸収制御処理では、上記のように事前変位ACT150によって衝撃吸収フレーム32を事前に変位させた後に、MRダンパ72の初期減衰力の決定(ステップ204)、決定したMRダンパ72の初期減衰力に応じたMRダンパ72の減衰力の制御(ステップ206)を行うが、事前変位ACT150によって衝撃吸収フレーム32を事前に変位させる際にはMRダンパ72の減衰力を最小に調整しているので、衝撃吸収フレーム32を事前に変位させるための消費電力を節減することができる。なお、本発明はこれに限定されるものではなく、MRダンパ72の減衰力を未調整の状態や、MRダンパ72の減衰力を決定した初期減衰力に調整した状態で、衝撃吸収フレーム32の事前変位を行うようにしてもよい。
なお、上記では衝突期間内におけるMRダンパ72の減衰力の制御の一例として、車室内加速度及び衝撃吸収フレーム32を構成する各フレームの相対変位速度に応じてMRダンパ72の減衰力を制御する態様(図7,13のステップ208〜ステップ220)を説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、車室内加速度及び各フレームの相対変位速度の何れか一方に基づいてMRダンパ72の減衰力を制御するようにしてもよいし、衝突時間内の各時刻におけるMRダンパ72の減衰力を事前に決定し、決定した各時刻における減衰力に従い、MRダンパ72の減衰力を時間経過に伴って逐次変化させる制御を行うことも可能である。
また、上記では請求項6に記載の減衰手段の一例として、減衰力の大きさを外部から変更可能な減衰力可変ダンパの1つであるMRダンパ72を用い、MRダンパ72の減衰力を適宜変更する態様を説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、減衰力が一定の通常の油圧ダンパ等を減衰手段として適用することも可能である。
また、上記では衝撃吸収フレーム32の変位をロックする機構として、ロック解除ACT100によってロック状態を解除可能な変位ロック機構90を例に説明したが、変位をロックする機構はこれに限定されるものではない。例えば図13(A),(B)に示すように、回転ジョイント38を介して回動可能に連結された第1フレーム34,36のうちの一方(ここでは第1フレーム36)に、他方のフレーム(ここでは第1フレーム34)側へ突出するピン170を埋設すると共に、他方のフレームにはピン170の先端部が入り込む孔172を穿設し、ピン170と孔172の嵌合によって衝撃吸収フレーム32の変位をロックするロック機構を用いてもよい。このロック機構では、衝撃吸収フレーム32に衝突荷重が入力され、ピン170及び孔172に加わる荷重(回転ジョイント38を中心として第1フレーム34,36が回動しようとする力)が閾値以上になると、ピン170及び孔172の少なくとも一方が破損してロック状態が解除されるように、ピン170及び孔172の少なくとも一方を脆弱に構成しておく等により、衝突時の衝撃吸収フレーム32の変位を可能とすることができる。
また、例えば図13(C)に示すように、ダンパのピストンロッドの側方に、ピストンロッド側へ突出する一対のピン174を設けると共に、ピン174の先端部が入り込む切欠176をピストンロッドの側面に形成し、ピン174と切欠176の嵌合によって衝撃吸収フレーム32の変位をロックするロック機構を用いてもよい。このロック機構では、衝撃吸収フレーム32に衝突荷重が入力され、ピン174及び切欠176に加わる荷重(ピストンロッドが伸縮移動しようとする力)が閾値以上になると、ピン174が切欠176から外れてロック状態が解除されるように、意図的に低い保持力でピン174を保持するように構成しておく等により、衝突時の衝撃吸収フレーム32の変位を可能とすることができる。なお、図13に示した各ロック機構は請求項4に記載の第1のロック手段に対応している。
更に、上記では本発明に係る荷重伝達機構としての衝撃吸収フレーム32に加えて、本発明に係る減衰手段としてのMRダンパ72を設けた態様を説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、少なくとも本発明に係る荷重伝達機構が設けられていれば、荷重伝達機構が連結された車体又は骨格部材には、荷重伝達機構に入力された衝突荷重が、互いに異なる方向の引張力と圧縮力に分散されて入力され、車体又は骨格部材の各部分の変形等によって衝突荷重を吸収できるので、減衰手段を省略し、荷重伝達機構のみを車両に搭載するようにしてもよい。
また、上記では本発明に係る荷重伝達機構として、図1や図3に示す構成の衝撃吸収フレーム32を例に説明したが、荷重伝達機構(衝撃吸収フレーム)は図2に示す構成であってもよい。なお、図2に示す構成の荷重伝達機構は請求項2記載の発明に対応している。