しかしながら、従来の技術では、予め決められた特定の圧力水準でのみ噴射量学習が行われ、学習圧力以外の圧力についての燃料噴射量の補正については、学習圧力についての補正値をもとにした補間によって得られる補正値を用いて行われるため、各学習圧力間の隔たりが大きい場合に、補間によって得られる補正値の補正精度が低下してしまうという問題が生じ得る。
特に、コモンレール方式のディーゼルエンジンにおいては、燃料圧力が広範囲にわたって分布し得ることから、上述の学習圧力も広範囲をカバーできるようにそれぞれ散らして設定する必要があり、各学習圧力間の隔たりが大きくなり易い。従って、コモンレール方式のディーゼルエンジンの燃料噴射制御を行う燃料噴射制御装置では、各学習圧力間の隔たりが大きくなって、補間によって得られる補正値の補正精度が低下してしまうという問題がより生じ易い。
また、各学習圧力間の隔たりを小さくすることによって、補間によって得られる補正値の補正精度の低下を低減させようとした場合であっても、各学習圧力間の隔たりを小さくすることによって学習圧力の数が増加するため、噴射量学習に必要となる演算量の増加や学習結果の記憶に必要となるメモリ容量の増加といった装置の負荷の増大の問題が生じてしまう。
本発明は、上記従来の問題点に鑑みなされたものであって、その目的は、コモンレール方式のディーゼルエンジンの燃料噴射制御を行う燃料噴射制御装置において、装置の負荷の増大をより抑えながら、燃料噴射量の補正をより精度良く行わせることを可能にすることにある。
請求項1の燃料噴射制御装置は、上記課題を解決するために、燃料圧力を検出する圧力検出部と、設定された複数の特定の圧力水準について実際の燃料噴射量が目標とする燃料噴射量となるような燃料噴射量を学習によってそれぞれ求める学習部と、前記学習部で求めた各燃料噴射量とこれらの各燃料噴射量にそれぞれ対応する前記特定の圧力水準とを対応付けた対応関係データを格納する対応関係データ格納部と、前記圧力検出部で検出した燃料圧力と前記対応関係データ格納部に格納されている前記対応関係データとに基づいて、当該燃料圧力についての燃料噴射量を補正する燃料噴射量補正部と、を備え、前記燃料噴射量補正部で得られた燃料噴射量に従った量の燃料噴射をコモンレール方式のディーゼルエンジンにおいて行わせる燃料噴射制御装置であって、予め固定して設定されている複数の特定の圧力水準ごとに、それぞれの圧力水準の値を含む所定の圧力の値の範囲である圧力帯を各々対応付けて設定している第1設定部と、前記圧力検出部で検出した燃料圧力をもとに、所定の期間内に前記圧力帯のそれぞれで何回燃料噴射が行われたかをカウントすることによって、前記圧力帯に対応する前記圧力水準のそれぞれについての頻度を算出する頻度算出部と、前記頻度算出部で算出した頻度に基づいて、前記予め固定して設定されている複数の特定の圧力水準のうち、前記頻度が所定の高さ以上であった圧力水準を細分して設定する第2設定部と、を備え、前記学習部は、前記第2設定部で設定された圧力水準について前記学習を行うことを特徴としている。
これによれば、コモンレール方式のディーゼルエンジンでの燃料噴射時に使用される頻度の高い圧力帯に対応する圧力水準を細分して設定した複数の特定の圧力水準について学習を行うことが可能になるので、実使用頻度の高い圧力の周辺について重点的に細かく学習を行って、実使用頻度の高い圧力の周辺についての、実際の燃料噴射量が目標とする燃料噴射量となるような燃料噴射量をより精度良く求めることを可能にすることができる。
例えば、市街地のみの低速運転に多用される運転パターンや郊外の高速運転に多用される運転パターンといった各運転パターンに即して、実使用頻度の高い圧力の周辺について重点的に細かく学習を行って、実使用頻度の高い圧力の周辺についての、実際の燃料噴射量が目標とする燃料噴射量となるような燃料噴射量をより精度良く求めることが可能になるので、ドライバビリティの向上や燃焼効率の向上による排気ガス浄化を実現することが可能になる。
また、実使用頻度の高い圧力の周辺についてのみ重点的に細かく学習を行うことが可能になるので、燃料圧力の分布の全範囲にわたって細かく学習を行う場合に比べ、学習に必要となる演算量の増加や学習結果の記憶に必要となるメモリ容量の増加といった装置の負荷の増大を抑えることが可能となる。
従って、以上の構成によれば、コモンレール方式のディーゼルエンジンの燃料噴射制御を行う燃料噴射制御装置において、装置の負荷の増大をより抑えながら、燃料噴射量の補正をより精度良く行わせることが可能になる。
また、請求項2の燃料噴射制御装置では、前記第2設定部は、前記圧力水準を細分して設定する場合に、さらに、当該圧力水準についての前記頻度の高さに応じて細分する数を決定することを特徴としている。
これによれば、実使用頻度の特に高い圧力の周辺について特に重点的に細かく学習を行って、実使用頻度の特に高い圧力の周辺についての、実際の燃料噴射量が目標とする燃料噴射量となるような燃料噴射量をさらに精度良く求めることを可能にすることができる。また、以上の構成によっても、実使用頻度の高い圧力の周辺についてのみ重点的に細かく学習を行うことが可能になるので、燃料圧力の分布の全範囲にわたって細かく学習を行う場合に比べ、学習に必要となる演算量の増加や学習結果の記憶に必要となるメモリ容量の増加といった装置の負荷の増大を抑えることが可能となる。
従って、以上の構成によれば、コモンレール方式のディーゼルエンジンの燃料噴射制御を行う燃料噴射制御装置において、装置の負荷の増大をより抑えながら、燃料噴射量の補正をさらに精度良く行わせることが可能になる。
また、請求項3の燃料噴射制御装置では、前記第2設定部は、さらに、前記頻度が所定の高さ以上でなかった圧力水準については設定を行わない決定を行うことを特徴としている。
これによれば、実使用頻度の高くない圧力水準については学習を行わなくすることが可能になるので、学習に必要となる演算量や学習結果の記憶に必要となるメモリ容量を低減することが可能となる。また、実使用頻度の高くない圧力水準について学習を行わなくした場合であっても、実使用頻度の高くない圧力水準の周辺の燃料圧力についての燃料噴射量を補正する機会は少ないので、燃料噴射量の補正の精度の低下への影響が少なく、以上の構成によっても、燃料噴射量の補正をより精度良く行わせることを実現することが可能となる。
なお、上記請求項3に記載の構成の場合においては、実使用頻度の高い圧力の周辺についての学習に偏り過ぎることもあるので、運転状態が変わって実使用頻度の高くなかった圧力の周辺で燃料噴射を行うことになった場合に、燃料噴射量の補正を精度良く行わせることができなくなることも考えられる。
ここで、実使用頻度の高い圧力の周辺についての学習に偏り過ぎることによって燃料噴射量の補正を精度良く行わせることができなくなる問題点を解決する態様として、例えば、請求項4および5の態様がある。
請求項4の燃料噴射制御装置では、前記第2設定部は、前記頻度が所定の高さ以上でなかった圧力水準について設定を行わない決定が行われた場合であっても、前記予め固定して設定されている複数の特定の圧力水準のうち、圧力水準の値が最大であるものと最小であるものとについては、常に設定を行うことを特徴としている。
これによれば、前述の予め固定して設定されている複数の特定の圧力水準のうち、圧力水準の値が最大であるものと最小であるものとについては、常に学習が行われるので、運転状態が変わって実使用頻度の高くなかった圧力の周辺で燃料噴射を行うことになった場合にも、上述の圧力水準の値が最大であるものと最小であるものとについての学習結果を利用することによって、燃料噴射量の補正の精度の低下を抑えることが可能になる。
また、請求項5の燃料噴射制御装置では、前記第2設定部は、前記頻度が所定の高さ以上でなかった圧力水準について設定を行わない決定が行われた場合であっても、前記予め固定して設定されている複数の特定の圧力水準のうち、圧力水準の値が中間値であるものについても、常に設定を行うことを特徴としている。
これによれば、前述の予め固定して設定されている複数の特定の圧力水準のうち、圧力水準の値が最大であるものと最小であるものと中間値であるものについては、常に学習が行われるので、運転状態が変わって実使用頻度の高くなかった圧力の周辺で燃料噴射を行うことになった場合にも、上述の圧力水準の値が最大であるものと最小であるものと中間値であるものとについての学習結果を利用することによって、燃料噴射量の補正の精度の低下をさらに抑えることが可能になる。
また、請求項6の燃料噴射制御装置では、前記第2設定部は、設定後の圧力水準の数が、前記予め固定して設定されている複数の特定の圧力水準の数と同じ数になるように設定を行うことを特徴としている。
これによれば、実使用頻度の高い圧力帯に対応する圧力水準を細分して設定し、実使用頻度の高い圧力の周辺についてのみ重点的に細かく学習を行って、燃料噴射量の補正をより精度良く行わせるようにする場合であっても、学習を行うポイント自体は増えないので、学習に必要となる演算量や学習結果の記憶に必要となるメモリ容量の増大を抑えながら、燃料噴射量の補正をより精度良く行わせるようにすることができる。
また、請求項7の燃料噴射制御装置では、前記燃料噴射量補正部は、前記対応関係データ格納部に格納されている前記対応関係データをもとに線形補間を行うことによって、前記圧力検出部で検出した燃料圧力に対応する燃料噴射量を算出して、当該燃料圧力についての燃料噴射量を補正することを特徴としている。
この請求項7のように、燃料噴射量補正部は、対応関係データ格納部に格納されている対応関係データをもとに線形補間を行うことによって、圧力検出部で検出した燃料圧力に対応する燃料噴射量を算出して、当該燃料圧力についての燃料噴射量を補正する態様としてもよい。
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。図1は、本発明が適用されたコモンレール式燃料噴射システム1の概略的な構成を示すブロック図である。図1に示すコモンレール式燃料噴射システム1は、車両に搭載されるものであり、例えば自動車用エンジンとしてのディーゼルエンジンを制御対象にしている。
まず、図1を用いて、コモンレール式燃料噴射システム1の概略的な構成についての説明を行う。図1は、コモンレール式燃料噴射システム1の概略的な構成を示す図である。なお、本実施形態のエンジン40としては、4輪自動車用の多気筒(例えば4気筒)のディーゼルエンジンを想定している。
コモンレール式燃料噴射システム1は、ECU(電子制御ユニット)30が、各種センサからのセンサ出力を取り込み、それら各センサ出力に基づいて燃料供給系を構成する各装置の駆動を制御するように構成されている。
ここで、燃料供給系を構成する各装置は、燃料上流側から、燃料タンク10、燃料ポンプ11、およびコモンレール12の順に配設されている。そして、燃料タンク10と燃料ポンプ11とは、燃料フィルタ10bを介して配管10aにより接続されている。
そして、燃料ポンプ11は、低圧ポンプおよび高圧ポンプを有して構成され、燃料タンク10に蓄えられた燃料を、低圧ポンプによって汲み上げるとともに、汲み上げた燃料を高圧ポンプにて加圧して、この加圧された高圧燃料を、供給配管11cを介してコモンレール12に圧送する。
そして、燃料ポンプ11から圧送された燃料は、コモンレール12により高圧状態で蓄圧され、その蓄圧された高圧燃料が、エンジン40の気筒(つまり、シリンダ)ごとに設けられた配管14を通じて、各シリンダのインジェクタ(つまり、燃料噴射弁)20へそれぞれ供給されることになる。なお、コモンレール12と配管14との接続部分13には、配管14を通じてコモンレール12へ伝播される燃料脈動(主に噴射時にインジェクタ20の燃料噴射口にて発生)を軽減するオリフィスが設けられており、コモンレール12内の圧力脈動を低減して安定した圧力で各インジェクタ20へ燃料を供給することができるようになっている。
インジェクタ20は、シリンダごとに設けられており、コモンレール12に蓄圧された高圧燃料を各シリンダ内に噴射供給するものである。インジェクタ20は、コモンレール12に蓄圧された高圧燃料を各シリンダ内に噴射供給する燃料噴射ノズル、およびこの燃料噴射ノズル内に収容されたニードルのリフト制御を行う電磁弁(いずれも図示せず)等を搭載しており、電磁弁が開閉駆動されることで、コモンレール12に蓄圧された高圧燃料を、燃料噴射ノズルによりエンジンのシリンダの燃焼室へと噴射する。なお、燃料噴射に際しては、ニードルの軸方向上方へのリフト量の大小に応じて、燃料噴射ノズルから噴射される単位時間あたりの燃料量(噴射率)が可変となる。
また、インジェクタ20の燃料取込口には圧力センサ15が設けられており、この圧力センサ15によって、コモンレール12から供給されてくる高圧燃料の燃料圧力を検出する。よって、圧力センサ15は、請求項の圧力検出部として機能する。なお、本実施形態では、燃料圧力を検出する燃料圧力センサとして、インジェクタ20の燃料取込口に設けられる圧力センサ15を用いる構成を示したが、必ずしもこれに限らない。例えば、燃料圧力を検出する圧力センサとして、コモンレール12に設けられてコモンレール圧を検出するレール圧センサを用いる構成としてもよい。また、図1では4つあるインジェクタ20のうちの1つに圧力センサ15が設けられる構成を示したが、必ずしもこれに限らず、各インジェクタ20に圧力センサ15が設けられる構成としてもよい。
ECU30は、CPU、ROM、EEPROM、RAM、バックアップRAM等よりなるマイクロコンピュータを主体として構成され、種々のセンサの検出信号に基づいてROMに記憶された各種の制御プログラムを実行することで、前述したように燃料供給系を構成する装置に関する各種の制御を行う。ECU30は、例えば、エンジン運転状態に応じた燃料噴射量の算出、それに伴う噴射圧力の決定、燃料ポンプ11によるコモンレール12への燃料供給量の制御などの各種の処理を実行する。
また、ECU30は、電磁弁へ開弁駆動電流を与える駆動回路であるEDU(駆動ユニット)35を介して、電磁弁の通電/非通電を制御することで、その通電時間によりニードルのリフト量を可変とし、燃料噴射ノズルからの燃料噴射量を制御したりもする。なお、インジェクタ20では、ニードルのリフト量に係るパラメータ(通電時間や燃料圧力)を可変制御することで、噴射率や噴射量を制御することができるものとする。
さらに、ECU30は、設定された複数の特定の圧力水準について実際の燃料噴射量が目標とする燃料噴射量となるような燃料噴射量を学習によってそれぞれ求める学習処理も実行する。また、ECU30では、この学習処理で求めた燃料噴射量(以下、学習燃料噴射量と呼ぶ)の各々とこれらの各燃料噴射量にそれぞれ対応する特定の圧力水準とを対応付けた噴射量マップを例えばECU30のEEPROM等のメモリに格納する。よって、ECU30は、請求項の学習部および対応関係データ格納部として機能する。また、噴射量マップは、請求項の対応関係データに相当する。なお、設定された複数の特定の圧力水準について実際の燃料噴射量が目標とする燃料噴射量となるような燃料噴射量(以下、適切な燃料噴射量と呼ぶ)を学習によってそれぞれ求める学習処理については、周知の方法を用いる構成とすればよい。適切な燃料噴射量を求める学習の方法については、本発明の本質的な部分ではないため詳細な説明は行わないが、例えば、特許文献1に記載の学習処理によって得られる補正係数を用いて適切な燃料噴射量を求める構成としてもよいし、他の方法を用いて適切な燃料噴射量を求める構成としてもよい。
なお、コモンレール式燃料噴射システム1では、ECU30でこの学習処理を実行することによって、時々の状況に応じた適切な燃料噴射量を逐次学習している。そして、これにより、例えばコモンレール式燃料噴射システム1に用いられる部品(特にインジェクタ20)の個体差や経年変化等に起因して生じる制御誤差を、フィードバック補正するようにしている。
また、ECU30は、コモンレール式燃料噴射システム1を搭載した車両の運転パターンの傾向に応じて、前述の学習を行う特定の圧力水準の組み合わせを変更する圧力水準更新処理を行う。なお、ここで言うところの圧力水準とは、基準とする圧力値であって多少の幅(例えば、数MPa程度の幅)を持ったものであってもよい。また、圧力水準更新処理の詳細については後述する。
さらに、ECU30は、圧力センサ15によって逐次検出される燃料圧力と前述の噴射量マップとに基づいて、当該燃料圧力についての燃料噴射量を適切な値に補正する噴射量補正処理を実行する。よって、ECU30は、請求項の燃料噴射量補正部としても機能する。噴射量補正処理では、例えば圧力センサ15によって検出された燃料圧力に対応する適切な燃料噴射量を、噴射量マップ中の学習燃料噴射量を用いて線形補間することによって求める。具体例としては、圧力センサ15によって検出された燃料圧力が35MPaであって、噴射量マップ中でこの燃料圧力35MPaに近い圧力水準が30MPaと50MPaとであった場合には、噴射量マップ中の圧力水準30MPaに対応付けられた学習燃料噴射量と圧力水準50MPaに対応付けられた学習燃料噴射量とをもとに線形補間を行い、燃料圧力35MPaに対応する燃料噴射量を求める。
なお、本実施形態では、圧力センサ15によって検出された燃料圧力に対応する適切な燃料噴射量を、線形補間を用いて求める構成を示したが、必ずしもこれに限らない。例えば、圧力センサ15によって検出された燃料圧力に対応する適切な燃料噴射量を、他の補間方法を用いて求める構成としてもよい。また、補間を行わずに、噴射量マップ中で当該燃料圧力に最も近い圧力水準に対応付けられている学習燃料噴射量を当該燃料圧力に対応する燃料噴射量とする構成としてもよい。
また、ECU30は、前述の噴射量補正処理で得られた燃料噴射量に従った量の燃料噴射をインジェクタ20に行わせるように制御することによって、前述の噴射量補正処理で得られた燃料噴射量に従った量の燃料噴射をエンジン40において行わせる。
以上、本実施形態のコモンレール式燃料噴射システム1における燃料供給系の各種装置について説明した。次に、図2を用いて、コモンレール式燃料噴射システム1での学習処理・圧力水準更新処理に関する動作フローについての説明を行う。図2は、コモンレール式燃料噴射システム1での学習処理・圧力水準更新処理に関する動作フローを示すフローチャートである。なお、本フローは、例えば自車両のイグニッションスイッチがオンされてコモンレール式燃料噴射システム1が起動したときに開始される。
まず、ステップS1では、コモンレール式燃料噴射システム1における燃料供給系の各種装置が正常に作動しているか否かをECU30が判定する。そして、正常に作動していると判定した場合(ステップS1でYes)には、システム正常であるとしてステップS3に移る。また、正常に作動していると判定しなかった場合(ステップS1でNo)には、ステップS3に移る。
ステップS2では、エラー処理を行ってフローを終了する。エラー処理では、例えばエラー表示を図示しない表示装置に行うなどする。なお、この表示装置として、インジケーターランプのエンジン警告灯を用いる構成としてもよいし、車載ナビゲーション装置等の車載装置の表示装置を利用する構成としてもよい。
また、ステップS3では、ECU30がエンジン運転状態に応じた燃料噴射量の算出を行うとともに、算出結果に従った燃料噴射量となるような噴射圧力を決定して、ステップS4に移る。ステップS4では、ステップS3で決定した噴射圧力で燃料噴射が行われた回数をカウント(つまり、カウントアップ)し、ステップS5に移る。
ステップS5では、例えばフローが開始してから一定期間が経過したか否かをECU30が判定する。なお、一定期間が経過したか否かの判定は、前述の車両に設けられた距離センサ等のセンサからの出力をもとに、一定の距離以上を走行した場合に一定期間が経過したと判定する構成としてもよいし、前述の車両やこの車両に搭載された車載装置等に設けられた計時手段からの時刻情報をもとに、一定時間以上が経過した場合に一定期間が経過したと判定する構成としてもよい。そして、一定期間が経過したと判定した場合(ステップS5でYes)には、ステップS6に移る。また、一定期間が経過したと判定しなかった場合(ステップS5でNo)には、ステップS3に戻ってフローを繰り返す。なお、ここで言うところの一定期間とは、任意に設定可能な期間であって、数日や数週間等に設定してもよい。
ステップS6では、使用頻度計算処理をECU30が行って、ステップS7に移る。ECU30では、予め複数の特定の圧力水準を固定して設定しているとともに、この圧力水準ごとに、それぞれの圧力水準の値を含む所定の圧力の値の範囲である圧力帯を各々対応付けて設定しているマップ(以下、基準マップと呼ぶ)を、例えばROM等のメモリに格納している。そして、使用頻度計算処理では、前述の一定期間内にこの圧力帯のいずれにおいてそれぞれ何回燃料噴射が行われたかをカウントすることによって、各圧力帯に対応する圧力水準のそれぞれについての頻度(以下、使用頻度と呼ぶ)を算出する。なお、前述の一定期間内に何回燃料噴射が行われたかについては、エンジンECU30の燃料噴射の制御についてのデータをもとにすればよく、圧力帯のいずれにおいて燃料噴射が行われたかについては、圧力センサ15で検出する燃料圧力をもとにすればよい。よって、ECU30は、請求項の第1設定部および頻度算出部としても機能する。
ここで、図3を用いて、基準マップの具体例についての説明を行う。図3は、基準マップの一例を模式的に示す図である。図3の例では、20MPaごとに30MPaから210MPaまでの10個の圧力水準が固定して設定されている。また、圧力水準ごとに圧力水準の値を中心として前後に10MPaの幅を持った圧力帯が設定されている。圧力水準30MPaを例に挙げると、圧力水準30MPaでの圧力帯は20〜40MPaに設定されていることになる。
図2に戻って、ステップS7では、圧力水準更新処理をECU30が行って、ステップS8に移る。圧力水準更新処理では、ステップS6で算出した使用頻度に基づいて、基準マップで予め固定して設定されている複数の特定の圧力水準のうち、使用頻度が所定の高さ以上であった圧力水準を細分して設定するとともに、使用頻度が所定の高さ以上でなかった圧力水準のうち、常に設定を行う圧力水準(以下、必須圧力水準と呼ぶ)を除いた残りの圧力水準を設定しないマップ(以下、更新マップと呼ぶ)を得て、例えばEEPROM等の電気的に書き換え可能なメモリに格納する。よって、ECU30は、請求項の第2設定部としても機能する。例えば、使用頻度の高さが上位何番目(任意に設定可能)までに該当するといった場合や使用頻度が所定の閾値(任意に設定可能)以上であるといった場合に、使用頻度が所定の高さ以上であるとする構成とすればよい。なお、本実施形態では、使用頻度が0%よりも大きい場合に使用頻度が所定の高さ以上であるものとする場合の例を挙げて以降の説明を続ける。
また、圧力水準更新処理では、圧力水準を細分して設定する場合に、さらに、当該圧力水準についての使用頻度の高さに応じて細分する数を決定する。この場合、使用頻度の高さ順に応じて細分する数を決定してもよいし、使用頻度の高さの値に応じて細分する数を決定してもよい。一例としては、使用頻度の高さ順に応じて細分する数を決定する場合には、細分する圧力水準のうち、使用頻度の高さが一番高い圧力水準は3つに細分し、残りの圧力水準については2つに細分する構成としてもよい。また、一例として、使用頻度の高さの値に応じて細分する数を決定する場合には、使用頻度の高さが50%以上の圧力水準については3つに細分し、使用頻度の高さが0%よりも高く、且つ、50%未満の圧力水準については2つに細分する構成としてもよい。なお、本実施形態では、細分する圧力水準のうち、使用頻度の高さが一番高い圧力水準は3つに細分し、残りの圧力水準については2つに細分するものとする場合の例を挙げて以降の説明を続ける。
ここで、図4および図5を用いて、圧力水準更新処理の具体例について述べる。図4は、基準マップの各圧力水準および各圧力帯に対する使用頻度の一例を模式的に示した図である。また、図5は、基準マップをもとに更新マップを得る処理の一例を模式的に示した図である。なお、図5中の丸印が付いている圧力水準は、必須圧力水準を示している。なお、必須圧力水準は、図5の例では、基準マップ中の圧力水準のうち、最大値である圧力水準210MPaと最小値である圧力水準30MPaと中間値である130MPa(110MPaとしてもよい)との3つである。
図4の例では、圧力水準50MPaの使用頻度が20%、圧力水準90MPaの使用頻度が50%、圧力水準150MPaの使用頻度が30%であって、それ以外の圧力水準の使用頻度は0%となっている。従って、圧力水準50MPa、圧力水準90MPa、圧力水準150MPaについては、図5に示すように、圧力水準更新処理において細分して設定される。また、使用頻度の高さが一番高い圧力水準は圧力水準90MPaであるので、図5に示すように、圧力水準90MPaについては3つに細分して設定され、圧力水準50MPa、圧力水準150MPaについては2つに細分して設定される。なお、具体的には、圧力水準50MPaについては、圧力水準45MPa、圧力水準55MPaの2つに細分して更新マップに設定され、圧力水準90MPaについては、圧力水準80MPa、圧力水準90MPa、圧力水準100MPaの3つに細分して更新マップに設定され、圧力水準150MPaについては、145MPa、155MPaの2つに細分して更新マップに設定される。また、必須圧力水準である圧力水準30MPa、圧力水準130MPa、圧力水準210MPaについては、図5に示すように細分せずにそのまま更新マップに設定される。さらに、使用頻度が0%であって、必須圧力水準でもない圧力水準70MPa、圧力水準110MPa、圧力水準170MPa、圧力水準190MPaについては、図5に示すように更新マップには設定されない。
なお、図5に示されるように、圧力水準を細分して設定するとは、当該圧力水準の値を中心として当該圧力水準の値に前後する複数の圧力水準を含む新たな圧力水準を設定することと言い換えることができる。
ステップS8では、圧力水準更新処理で設定された更新マップ中の新たな圧力水準について、前述した学習処理をECU30が行い、ステップS9に移る。ステップS9では、学習処理によって、圧力水準更新処理で設定された更新マップ中の新たな圧力水準についての噴射量マップが得られた場合には、学習完了した(ステップS9でYes)ものとECU30が判定し、フローを終了する。また、圧力水準更新処理で設定された新たな圧力水準についての噴射量マップが得られていない場合には、学習完了していない(ステップS9でNo)ものとECU30が判定し、ステップS8に戻ってフローを繰り返す。
以上の構成によれば、実使用頻度の高い圧力の周辺について重点的に細かく学習を行って、実使用頻度の高い圧力の周辺についての、適切な燃料噴射量をより精度良く求めることを可能にすることができる。例えば、市街地のみの低速運転に多用される運転パターンや郊外の高速運転に多用される運転パターンといった各運転パターンに即して、実使用頻度の高い圧力の周辺について重点的に細かく学習を行って、実使用頻度の高い圧力の周辺についての、実際の燃料噴射量が目標とする燃料噴射量となるような燃料噴射量をより精度良く求めることが可能になるので、実使用域での燃料噴射量精度を向上させ、ドライバビリティの向上や燃焼効率の向上による排気ガス浄化を実現することが可能になる。
また、実使用頻度の高い圧力の周辺についてのみ重点的に細かく学習を行うことが可能になるので、燃料圧力の分布の全範囲にわたって細かく学習を行う場合に比べ、学習に必要となる演算量の増加や学習結果の記憶に必要となるメモリ容量の増加といったECUやメモリ等の装置の負荷の増大を抑えることが可能となる。従って、以上の構成によれば、コモンレール方式のディーゼルエンジンの燃料噴射制御を行う燃料噴射制御装置において、装置の負荷の増大をより抑えながら、燃料噴射量の補正をより精度良く行わせることが可能になる。なお、本実施形態では、圧力センサ15およびECU30がこの燃料噴射制御装置に相当する。
さらに、以上の構成によれば、圧力水準を細分して設定する場合に、使用頻度の高さに応じて細分する数を増やすので、実使用頻度の特に高い圧力の周辺について特に重点的に細かく学習を行って、実使用頻度の特に高い圧力の周辺についての、実際の燃料噴射量が目標とする燃料噴射量となるような燃料噴射量をさらに精度良く求めることを可能にすることができる。
また、以上の構成によれば、使用頻度が所定の高さ以上でなく、且つ、必須圧力水準でもない圧力水準を更新マップに設定しないので、実使用頻度の高くない圧力水準については学習を行わなくすることが可能になる。よって、以上の構成によれば、学習に必要となる演算量や学習結果の記憶に必要となるメモリ容量をさらに低減することが可能となる。なお、実使用頻度の高くない圧力水準について学習を行わなくした場合であっても、実使用頻度の高くない圧力水準の周辺の燃料圧力についての燃料噴射量を補正する機会は少ないので、燃料噴射量の補正の精度の低下への影響が少ない。
さらに、以上の構成によれば、基準マップ中の圧力水準の値が最大であるものと最小であるものと中間値であるものについては、更新マップに常に設定され、常に学習が行われることになるので、運転状態が変わって実使用頻度の高くなかった圧力の周辺で燃料噴射を行うことになった場合にも、上述の圧力水準の値が最大であるものと最小であるものと中間値であるものとについての学習結果を用いて線形補間して、その実使用頻度の高くなかった圧力の周辺での燃料噴射量を求めることによって、燃料噴射量の補正の精度の低下を抑えることが可能になる。従って、実使用頻度の高い圧力の周辺についての学習に偏り過ぎることによって燃料噴射量の補正を精度良く行わせることができなくなる状況を回避することが可能になる。
また、前述したように、基準マップの圧力水準の数(つまり、予め固定して設定されている複数の特定の圧力水準の数)と更新マップの圧力水準の数(つまり、設定後の圧力水準の数)とが常に同じ数になるように圧力水準更新処理を行う構成とすることが好ましい。なお、この場合には、基準マップの圧力水準の数から必須圧力水準の数を差し引いた残りの数を、使用頻度に応じて振り分けて設定するようにすればよい。
以上の構成によれば、実使用頻度の高い圧力帯に対応する圧力水準を細分して設定し、実使用頻度の高い圧力の周辺についてのみ重点的に細かく学習を行って、燃料噴射量の補正をより精度良く行わせるようにする場合であっても、学習を行うポイント自体は増えないので、学習に必要となる演算量や学習結果の記憶に必要となるメモリ容量の増大を抑えながら、燃料噴射量の補正をより精度良く行わせるようにすることができる。
なお、基準マップの圧力水準の数と更新マップの圧力水準の数とが異なる数となる構成としてもよい。
また、前述の実施形態では、必須圧力水準を基準マップ中の圧力水準の値が最大であるものと最小であるものと中間値であるものとする構成を示したが、必ずしもこれに限らない。例えば、必須圧力水準を基準マップ中の圧力水準の値が最大であるものと最小であるものとする構成としてもよい。この場合であっても、基準マップ中の圧力水準の値が最大であるものと最小であるものとについては、更新マップに常に設定され、常に学習が行われることになるので、運転状態が変わって実使用頻度の高くなかった圧力の周辺で燃料噴射を行うことになった場合にも、上述の圧力水準の値が最大であるものと最小であるものとについての学習結果を用いて線形補間して、その実使用頻度の高くなかった圧力の周辺での燃料噴射量を求めることによって、燃料噴射量の補正の精度の低下を抑えることが可能になる。
なお、本発明は、上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。