JP5014535B2 - カニクイザル由来胚性幹細胞 - Google Patents

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【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、霊長類、特にヒト、サルにおける発生学的研究、疾患研究、臨床応用、実験モデル等に有用な、サル由来胚性幹細胞;該サル由来胚性幹細胞を高い収率で得ることが可能な、サル由来胚性幹細胞の生産方法;所望の分化細胞又は分化組織を得るのに有用な、組織又は細胞の特異的分化を行なうための試薬のスクリーニング方法;並びに分化細胞又は分化組織に関する。
【0002】
【従来の技術】
胚性幹細胞(以下、ES細胞ともいう)とは、多分化能と自己複製能とを有する未分化細胞である。また、前記ES細胞は、損傷後の組織修復力を有することが示唆されている。このため、かかるES細胞は、各種疾患の治療用物質のスクリーニング、再生医療分野等において有用であるとして、さかんに研究されている。
【0003】
現在、マウス由来のES細胞は、遺伝子ターゲティング法による特定遺伝子の改変マウスの作製等に広く利用されている。しかしながら、マウス由来のES細胞をヒトの疾患モデルとして応用する場合、a)マウスとヒト胚では発現の時期が異なる遺伝子がある、b)胎盤等の胚体外組織の構造や機能が異なる、及びc)着床初期胚の胚体組織の構造が異なる、等の点から、必ずしも期待される効果が得られない場合がある。
【0004】
一方、サル由来のES細胞は、マウス由来のES細胞に比べて、よりヒトに近縁であるため、ヒトの疾患に利用するにあたって好適である。
【0005】
従来、世界中でおよそ200種類のサルが知られているが、日常の実験に用いられている種類は限られているのが現状である。高等霊長類は、以下の2グループに大別される:
(1)新世界霊長類(New World Primates)
マーモセット(Callithrix jacchus)が広く知られ、実験用霊長類の一つとして用いられている。新世界霊長類の発生は、胚や胎盤の構造が旧世界霊長類のものと異なる面もあるが、基本的には類似する。
(2)旧世界霊長類(Old World Primates)
旧世界霊長類はヒトに極めて近縁な霊長類である。アカゲザル (Macaca mulatta) やカニクイザル(Macaca fascicularis) が知られている。ニホンザル(Macaca fuscata)はカニクイザルと同じ属(マカカ属)である。旧世界霊長類の発生は、ヒトの発生に酷似する。
【0006】
現在、サル由来のES細胞として、マーモセットES細胞〔トームソン(Thomson, J.A.) ら、Biol. Reprod. 55, 254-259, (1996) 〕及びアカゲザルES細胞〔トームソン(Thomson, J.A.) ら、Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 92, 7844-7848, (1995) 〕が樹立されている。しかしながら、前記したように、マーモセットは、ヒトとは系統が離れた新世界霊長類に属するものであり、胚や胎盤の構造が異なる面もある。さらに、マーモセットは、体が小さいため、各種実験操作が容易ではなく、さらにバックグラウンドデータも少ないのが現状である。一方、前記アカゲザルは、実験動物として日本及びヨーロッパでの使用は極めて少なく、また繁殖に季節性があり、年間を通して排卵がみられるわけではない。さらに、マーモセットES細胞及びアカゲザルES細胞の作製には、卵子の回収に時間を要し、回収の効率が低いという欠点がある。
【0007】
また、ヒトのES細胞も開発されているが、倫理的な観点から、使用に制限がある場合がある。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、前記従来の技術に鑑みてなされたものであり、霊長類、特にヒト、サルにおける発生学的研究、疾患研究、臨床応用、実験モデル等に有用な、サル由来胚性幹細胞;該サル由来胚性幹細胞を高い収率で得ることが可能な、サル由来胚性幹細胞の生産方法;所望の分化細胞又は分化組織を得るのに有用な、組織又は細胞の特異的分化を行なうための試薬のスクリーニング方法;並びに分化細胞又は分化組織を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明の要旨は、
〔1〕 (a)サルの卵子とサルの精子とを用いて、体外受精法又は顕微授精法により受精を行なって受精卵を得る工程、
(b)工程(a)で得られた受精卵を用いて体外培養法により胚盤胞期胚を発生させる工程、及び
(c)工程(b)で得られた胚盤胞期胚を用いて胚性幹細胞を樹立する工程、を含むプロセスを行なうことにより得られうるサル由来胚性幹細胞、
〔2〕 (a)サルの卵子とサルの精子とを用いて、体外受精法又は顕微授精法により受精を行なって受精卵を得る工程、
(b)工程(a)で得られた受精卵を用いて体外培養法により胚盤胞期胚を発生させる工程、及び
(c)工程(b)で得られた胚盤胞期胚を用いて胚性幹細胞を樹立する工程、を含む、サル由来胚性幹細胞の生産方法、
〔3〕 下記特性:
(i)未分化状態を維持したまま増殖継代可能である、
(ii) 起源のカニクイザル個体と同じ染色体数を有する、
(iii) 8〜12週齢のSCIDマウス又はヌードマウスの皮下、腎皮膜下又は精巣に移植することにより、多分化能が認められる、
(iv) SSEA−1陰性であり、かつSSEA−3とSSEA−4とに対して陽性である、及び
(v) アルカリホスファターゼ活性が検出される、
を呈する、樹立されたカニクイザル由来細胞、
〔4〕 被検物質の存在下に、前記〔1〕記載のサル由来胚性幹細胞及び前記〔3〕記載のカニクイザル由来細胞からなる群から選択された細胞を維持することを特徴とする、組織又は細胞の特異的分化を行なうための試薬のスクリーニング方法、並びに
〔5〕 前記〔1〕記載の胚性幹細胞及び前記〔3〕記載のカニクイザル由来細胞からなる群から選択された胚性幹細胞から分化してなる分化細胞又は分化組織、
に関する。
【0010】
【発明の実施の形態】
本発明に用いられる「サル」とは、霊長類、具体的には、新世界霊長類及び旧世界霊長類をいう。なかでも、旧世界霊長類は、ヒトに極めて近縁な霊長類であり、かつヒトの発生に類似しているので、ヒトに近い疾患モデル動物や種々の疾患治療剤のスクリーニング系として利用されることが期待される。したがって、本発明においては、旧世界霊長類が望ましく、具体的には、ニホンザル、カニクイザル等が挙げられ、特にカニクイザルが好ましい。
【0011】
前記ニホンザル及びカニクイザルは、よりヒトに近い系統であり、ニホンザルは、中型(体重:5〜15kg)のため、外科的手術を容易に行なうことができ、体力も十分であるという点で有利である。さらに、ニホンザルは、温順な性格であり、トレーニング効果も大きいため、無麻酔下での各種実験が可能であるという利点がある。一方、カニクイザルは、小型(体重:3〜6kg)であるため、種々の動物実験において取り扱い易く、日本及びヨーロッパで実験動物としての使用例が多く、バックグラウンドデータも多く取得されているという利点を有する。また、カニクイザルは、年間を通して排卵が見られるため、排卵に季節性があるアカゲザルよりも生殖生理実験に有用であるという利点がある。
【0012】
本発明のサル由来胚性幹細胞は、(a)サルの卵子とサルの精子とを用いて、体外受精法又は顕微授精法により受精を行なって受精卵を得る工程、
(b)工程(a)で得られた受精卵を用いて体外培養法により胚盤胞期胚を発生させる工程、及び
(c)工程(b)で得られた胚盤胞期胚を用いて胚性幹細胞を樹立する工程、を含むプロセス(以下、サル由来胚性幹細胞の生産方法という)により得られうる。かかるサル由来胚性幹細胞の生産方法も本発明の範囲に含まれる。
【0013】
本発明のサル由来胚性幹細胞の生産方法は、前記(a)〜(c)の工程を行なうことにより、約40〜46%という驚くべく高い確率で受精卵から胚盤胞期胚を得ることができるという、本発明者らの知見に基づく。さらに、それにより、本発明の生産方法によれば、優れた効率でサル由来胚盤胞期胚を発生させることができるという優れた効果を発揮する。したがって、従来の方法〔例えば、国際公開第96/22362号パンフレット等〕に比較しても、極めて高い収率でサル由来胚性幹細胞を得ることができるという優れた効果を発揮する。
【0014】
工程(a)において、サルの卵子は、従来行なわれてきた、開腹して、卵巣直視下で卵巣穿刺する方法、排卵卵子を卵管摘出した後、洗浄し、回収する方法等により得ることもでき、個体への負担の低減、手術後の創傷治癒に要する時間の短縮又は解消、個体における感染の危険性の低減の観点から、腹腔鏡観察下にサルから採卵することにより得ることが望ましい。腹腔鏡観察下での採卵においては、例えば、腹壁に約1cmの切開を施すのみで腹腔鏡を挿入し、腹壁を通して卵巣穿刺を行なえばよい。これにより、局所の拡大像が容易に得られるため、直視下に卵巣穿刺を行なう場合よりも、より正確に穿刺部位を捉えて採卵できるという利点もある。また、かかる腹腔鏡観察下での採卵によれば、採卵後は、腹壁を1糸縫合するのみであり、短時間で手術することができるため、動物福祉の観点から望ましい。
【0015】
採卵に用いるメスのサルの年齢は、サルの種類により異なる場合もあるが、定期的な月経周期を認めることが望まれるという観点から、3.5齢以上、好ましくは4齢以上であり、月経周期の終了前であるという観点から、20齢以下、好ましくは15齢以下であることが望ましい。具体的には、ニホンザルの場合、5〜15齢、カニクイザルの場合、4〜15齢であることが望ましい。
【0016】
採卵にあたっては、排卵誘発剤等を用いてもよい。前記排卵誘発剤としては、卵胞刺激ホルモン(FSH)、黄体形成ホルモン(LH)、ゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)等が挙げられ、具体的には、例えば、ゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)、妊馬血清ゴナドトロピン(PMSG)、ヒト閉経期尿性ゴナドトロピン(hMG)、ヒト繊毛性ゴナドトロピン(hCG)、黄体形成ホルモン放出ホルモン(LHRH)、卵胞刺激ホルモン(FSH)等が挙げられる。かかる排卵誘発剤の投与量及び投与期間は、個体の体重、用いる排卵誘発剤の種類により、排卵誘発効果が発揮される範囲で適宜選択することができる。
【0017】
前記工程(a)で用いられるサルの卵子は、成熟して、MII期に達しており、細胞質は均質であり弾力を有することが望ましい。かかる特性は、顕微授精又は体外受精の過程を観察することにより評価することができる。
【0018】
腹腔鏡観察下での採卵は、具体的には、下記のように行なうことができる:5〜15齢のニホンザルのメス又は4〜15齢のカニクイザルのメスにゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)1.8〜3.65mgを皮下投与する。GnRH投与2週間後から、妊馬血清ゴナドトロピン(PMSG)を25IU/kg又は、ヒト閉経期尿性ゴナドトロピン(hMG)10IU/kg又は卵胞刺激ホルモン(FSH)3IU/kgを1日1回、一定時刻に9日間連続で、筋肉内投与する。投与4〜5日後に、腹腔鏡(外径3mm)を用いて卵巣の観察を行い、卵胞の発育の有無を確認する。ここで、卵胞の発育の有無は、卵巣に白膜が薄く盛り上がったような形状をなすものが複数個見られ、そのため、卵巣自体が大きくなっており、さらに子宮も赤味を増してくることを指標として評価する。ついで、PMSG、hMG又はFSHを9日間投与し卵胞の発育が十分あることを確認した後、ヒト繊毛性ゴナドトロピン(hCG)400IU/kgを1回筋肉内投与する。hCG投与38〜42時間後に、採卵する。採卵については、卵巣を腹腔鏡(外径10mm)観察下において、約0.5mlの10% SSS (Serum Substitute Supplement)を含むα−MEM溶液を入れた60mmの19G又は20Gのカテラン針を付けた2.5mlの注射筒を用いて、卵胞を穿刺し吸引して卵胞液と共に卵子を回収することにより行なう。回収後、直ちに実体顕微鏡下で卵丘細胞に包まれた成熟卵子を分離し、0.3% BSA含有TALP中に移す。5% CO2 、5% O2 、90% N2 、37℃の条件下で3〜4時間前培養して、受精に用いられる卵子を得ることができる。
【0019】
また、サルの精子は、精巣上体から採取してもよく、電気刺激法により採取してもよい。前記電気刺激法としては、後述の実施例記載の直腸法、陰茎法等が挙げられる。具体的には、以下の通りである:
直腸法
塩酸ケタミン、塩酸キシラジン等に代表される麻酔剤を用いてオスのサルを麻酔し、仰臥位におく。電気刺激器に取り付けた棒状直腸電極にケラチンクリームを塗布し、該電極を前記サルの直腸に静かに挿入する。電気刺激器を交流電圧、5〜20Vにセットする。断続的に通電を行ない、陰茎の先から精液を採取する。
陰茎法
無麻酔下で、ケージ前面にオスのサルの四肢を保定し、陰茎を保持しやすい位置に設置する。電気刺激器の電極を陰茎にセットし、クリップで接続する。断続的に通電を行ない、陰茎の先から精液を採取する。
【0020】
前記工程(a)で用いられるサルの精子は、高い受精能を得る観点から、精子の活性化を行なうことが望ましい。精子の活性化は、例えば、カフェイン、dbC−AMP、フォルスコリン、ペントキシフィリン等の薬剤により精子を処理することにより行なうことができる。前記薬剤のなかでは、前進性を持つ活発な運動性や生存率の観点から、カフェインとdbC−AMPとの組み合わせが好適である。また、前記薬剤による精子の処理の後、Swim up 法により、より受精能の高い精子の獲得を行なってもよい。前記精子の活性化を行なうことにより、高い受精率を得ることができ、さらに未処理では運動性が乏しい精子を用いた場合でさえも、顕微授精によって高率に受精させることができるという優れた効果を発揮しうる。
【0021】
カフェイン及びdbC−AMPの使用量は、運動性を活性化させる観点から、精子1×107 個に対して10μM〜1mMであることが望ましい。
【0022】
前記Swim up 法とは、遠心分離により丸底試験管に精子を集めた後、カフェインとdbC−AMPとを含む培地(約0.5ml)を添加し、5% CO2 、37℃でインキュベーター内に静置することにより、約30〜60分後、上へ泳ぎ上がった精子を集める方法をいう。
【0023】
精子の活性化は、前進性を持つ活発な運動性を有することを指標として評価することができる。
【0024】
サルの精子の活性化は、例えば、以下のように行なうことができる:
精巣上体からの採取又は電気刺激法による採取により得られた精子が保存されたストローから凍結保存剤とともに精子を試験管に移した後、1mM カフェインと1mM dbC−AMPとを含有したBSA/BWW (Biggers, Whitten and Wittinghams) 液10mlを加え、30分間、5% CO2 、37℃の炭酸ガス培養器でインキュベートして、受精能獲得を行なう。その後、1,000rpm(200×g)で2分間遠心分離し、上清を捨てる。残部の精子に、新たに1mM カフェインと1mM dbC−AMPとを含むBSA/BWW約0.5〜10mlを加える。得られた精子溶液を、37℃の炭酸ガス培養器にて、60分間静置し、Swim Up した精子を集めて、精子の運動性と精子数とを確認する。なお、精子の運動性は、精子の前進性と活発性とを指標とする。これにより、精子の活性化を行なうことができる。
【0025】
工程(a)において、受精は、体外受精法又は顕微授精法により行なわれ得る。体外受精法は、トリイ(Torii, R. )ら [Primates, 41, 39-47 (2000)] に記載の方法に従って行なわれ得、顕微授精法については、ヒュウィットソン(Hewitson, L.)[Human Reproduction, 13, 3449-3455 (1998)]に記載の方法に従って行なわれ得る。
【0026】
本発明のサル由来胚性幹細胞の生産方法においては、卵子への影響を低減させる観点から、前記体外受精法又は顕微授精法を行なう際、TALP(Tyrode-Albumin-Lactate-Pyruvate)液、TALP−HEPES液及びBWW液からなる群より選ばれた培養液を用いることが好ましい。TALP液及びTALP−HEPES液は、下記のように調製することができる:
【0027】
【表1】
Figure 0005014535
【0028】
ここで、TALP液調製の直前に、
ピルビン酸ナトリウム 0.5mM 0.0055g (100mlに対して)
ゲンタマイシン硫酸塩 (10mg/ml) 50μg/ml 50μl
BSA 3mg/ml 0.3g
を調製し、得られた試薬をフィルターで濾過滅菌する。
【0029】
一方、TALP−HEPES液調製の直前に、
ピルビン酸ナトリウム 0.1mM 0.0011g (100mlに対して)
BSA 3mg/ml 0.3g
を調製し、得られた試薬をフィルターで濾過滅菌する。
【0030】
なお、TALP−HEPES液を調製する際、50ml NaClとNa−HEPES(N−2−ヒドロキシエチルピペラジン−N’−2−エタンスルホン酸)、フェノールレッド、ペニシリンGを先に溶解させる。得られた溶液に、それぞれのストック溶液を規定量加え、最後にNaClストック溶液で100mlまでメスアップする。ついで、得られた溶液のpHを1M NaOHでpH7.4に調整する。乳酸ナトリウムストック溶液は、原液 (60%シロップ) と水とを1:35で混合する。得られた混合物に、1mg/mlのフェノールレッドを加えた後、得られた溶液のpHを1M NaOHでpH7.6に調整し、濾過滅菌する。得られた試薬は、4℃で1週間保存可能である。NaHPO4 ・H2 O 28mgは、10mlのグルコース溶液に溶解し、濾過滅菌する。得られた溶液は4℃で1週間保存可能である。
【0031】
ついで、表2にBWW(Biggers, Whitten and Whittingham)液の組成を示す。
【0032】
【表2】
Figure 0005014535
【0033】
体外受精又は顕微授精に際して用いる溶液は、ミネラルオイル等で表面を覆うことにより、卵子の溶液又は精子の溶液の乾燥を防止し、さらに温度、pH、CO2 、O2 濃度の変動を防止するという効果を得ることができる。
【0034】
また、工程(a)において、受精の際、卵子への影響を低減させる観点から、TALP液、TALP−HEPES液及びBWW液からなる群より選ばれた培養液を用いることが好ましい。
【0035】
受精の有無は、雌雄前核の存在を指標として、位相差の倒立顕微鏡下で目視することにより評価することができる。
【0036】
本発明において行なわれた体外受精法又は顕微授精法の一例を以下に示す:
体外受精法
プラスチックディッシュ内のミネラルオイルで覆われた50μlのBSA/BWWのドロップ中に、卵丘細胞に包まれた卵子1〜5個をいれる。ついでドロップ中に5.0×105 〜1.0×106 個(精子)/mlになるように精子懸濁液を移す。ドロップをミネラルオイルで覆い、ついで媒精を行なう。
【0037】
顕微授精法
(i)卵子の調製
回収された卵母細胞を、ミネラルオイル(Sigma Chem. Co.) で覆われた50μlの0.3% BSAを含むTALP(BSA/TALP)溶液スポット中に集めた後、約2〜4時間、37℃、5% CO2 、5% O2 、90% N2 の条件下で前培養する。
【0038】
卵子の成熟状態は、卵母細胞培養物を0.1%のヒアルロニダーゼで処理し、卵丘細胞を除去し、回収した卵子について倒立顕微鏡下で、以下のClass-1 〜4 の4種類に分類して、評価されうる。
Class-1 : 極体(PB)を持つ成熟卵子、
Class-2 : PBと卵核胞(GV)が観察されない成熟途上卵子、
Class-3 : GVが観察される未成熟卵子、
Class-4 : 形状の変形が著しいか、細胞質が変成、退行的変化を示している卵子
【0039】
Class-1 の卵子については、確認後、すぐに、顕微授精に供試する。Class-2 とClass-3 の卵子については、更にミネラルオイルで覆われた50μlのBSA/TALP溶液スポット中に集めた後、37℃、5% CO2 、5% O2 、90% N2 の条件下で継続培養する。この場合、前記と同様に卵子の成熟状態を確認する。未成熟卵子とClass-4 の卵子とについては、受精に用いないことが望ましい。
【0040】
(ii)精子の調製
体外受精に準じた方法で行なう。
【0041】
(iii) 顕微授精法
顕微授精は、マイクロマニュピュレーターを装備した倒立顕微鏡下で行なう。
【0042】
150mmディッシュに、スポット1:希釈精子を15μlと、スポット2:10% ポリビニルピロリドンPBS培養液〔PVP:平均分子量約360,000〕を5μl×3個とスポット3 :卵子操作用のTALP−HEPES(最終濃度3mg/ml BSA)溶液5μl×3個とを順に置き、表面をミネラルオイルで覆い乾燥を防ぎ、顕微授精のワーキング・フィールドとする。なお、操作温度を一定にする場合には、必要に応じて、加温ステージを用いてもよい。
【0043】
注入用のニードルを動作精度の高いアルカテルシリンジに接続する。注入用のニードルとしては、例えば、ヒト顕微授精用の傾斜角度30度のニードル等が挙げられる。
【0044】
卵子保持用ニードルとしては、前記ヒト顕微授精用の傾斜角度30度のニードル、マグネティック・プラー(PN−30、ナリシゲ社製)により作製した外径約100μm、先端の内径約15μmのニードルが挙げられる。前記卵子保持用ニードルは、2000μlのエアータイトシリンジを付けたインジェクターに接続して用いられる。
【0045】
精子は、スポット1でヒト顕微授精の基準に従い運動性のある精子を選んで吸引して、得られた精子をスポット2へ移し、排出する。スポット2ではPVPの粘性により、精子の運動性が低下する。その精子尾部をインジェクションニードルでこすりつけ、膜の一部を破壊し、精子の運動を停止させる。該精子を粘性の高い溶液とともに吸引し、スポット3へ移す。
【0046】
成熟卵子をスポット3に入れ、保持用ニードルを用いて、極体の下にある染色体を注入用ニードルで壊されないように、6時あるいは12時の位置に固定する。その後、注入用のニードルの先端に精子を置き、卵子へ刺し込む。ニードルが透明帯を通過したことを確認後、卵細胞膜を吸引する。膜の断裂が起こったことを確認して、注入用ニードル内の内容物(精子と卵子の細胞質)を注入する。精子と卵子の細胞質の注入に関する一連のこれらの操作を繰り返し行なう。一回の操作で2〜3個卵子に顕微授精を行なう。精子や卵細胞質により先端の内側が汚れた場合は、スポット2で洗浄する。
【0047】
前記工程(a)の後、(b)工程(a)で得られた受精卵を用いて体外培養法により胚盤胞期胚を発生させる工程を行なう。
【0048】
体外培養法としては、温度と炭酸ガス濃度の急激な変化を避ける観点から、ミネラルオイルで培養液をカバーすることを特徴とする微少懸滴培養法が挙げられる。かかる微少懸滴培養法は、ヒトでは通常行われず、マウスやウサギ等の実験動物で広く採用されている手法であるが、かかる培養法によれば、サル由来の胚盤胞期胚の発生に適用することによって、予想外に高い発生率を得ることができるという優れた効果を発揮する。
【0049】
受精卵の培養に際しては、培養経過の観察により引き起こされうる温度やpHの変化等の不要なストレスを避ける観点から、体外受精の場合、培養開始後7〜9日間、好ましくは、8日間、顕微授精の場合、培養開始後7〜10日間、好ましくは、9日間、胚盤胞期胚の出現が予測されるまで培養器の扉の開閉を止め密閉することが望ましい。
【0050】
胚盤胞期胚の出現は、初期分割の速度に比例する傾向にある。
【0051】
また、工程(b)における体外培養法においては、用いられた培養液、培養温度、培養気相にも1つの大きな特徴がある。
【0052】
工程(b)においては、CMRL−1066、TCM−199、DMEM、α−MEM等を用いて体外培養法を行なうことが好ましい。特にCMRL−1066を用いて体外培養法を行なうことが好ましい。なお、CMRL−1066液は下記のように調製することができる:
10mlのA液〔ペニシリンG(1000 単位) 、ゲンタマイシン硫酸塩(10mg/ml) 0.5ml、CMRL−1066(10×)(NaHCO3 及びL−グルタミン無) 10ml、NaHCO3 0.218g、乳酸ナトリウム (290mOsmol's stock) 6.7ml、水で100mlにメスアップ〕にL−グルタミン 0.014615g(1mM)を溶解する。ついで、得られた溶液を濾過滅菌する。滅菌後の溶液1mlにA液9mlを添加し、全量10mlのB液を得る。ピルビン酸ナトリウム 0.0055g(終濃度5mM)をB液に加えて溶解し、C液を得る。C液8mlとBCS(子牛血清)2mlとを混合する。得られた混合物を濾過滅菌して、CMRL−1066液を得る。
【0053】
さらに、培養液として、卵子への影響を低減させる観点から、TALP液、TALP−HEPES液及びBWW液からなる群より選ばれた培養液を用いることが望ましい。前記培養液としては、具体的には、TALPとCMRL−1066とを組み合わせた培養液が挙げられる。かかるTALPとCMRL−1066とを組み合わせた培養液によれば、受精確認後、該培養液を用いることにより、桑実胚から胚盤胞期胚への発生が見られ、かつ受精胚の40〜46%という極めて高い発生率を得ることができる点で有利である。
【0054】
培養温度は、発生に要する時間の短縮の観点及び桑実胚から胚盤胞期胚への発生を進行させる観点から、37℃以上であり、好ましくは37.5℃以上であることが望ましく、38.5℃以下であり、好ましくは38.2℃以下であることが望ましい。具体的には、38℃で培養を行なうことにより、体外受精では7日後に、顕微授精では8日後に、効率よく胚盤胞期胚を得ることができる。
【0055】
培養気相は、桑実胚から胚盤胞期胚への発生を進行又は向上させる観点から、低酸素の気相が好ましく、具体的には、通常ES細胞の作製の際に用いられる培養気相と比べてO2 濃度が低い、5% CO2 、5% O2 、90% N2 の気相によれば、驚くべく効率よく胚盤胞期胚を得ることができるという優れた効果を発揮する。
【0056】
さらに、(c)工程(b)で得られた胚盤胞期胚を用いて胚性幹細胞を樹立する工程を行なう。工程(c)においては、工程(b)で得られた胚盤胞期胚より得られる内部細胞塊をフィーダー細胞上又は白血球増殖抑制因子〔LIF、分化阻害因子(DIF)とも表記される)中で培養することにより胚性幹細胞を樹立することができる。
【0057】
胚盤胞期胚から内部細胞塊を取得する際、透明体が除去された胚盤胞期胚を用いればよい。前記透明体は、ヒアルロニダーゼ、プロナーゼ、酸性タイロード液等により処理することにより除去してもよい。ヒアルロニダーゼ、プロナーゼ、酸性タイロード液等で透明体を除去する場合、例えば、適切な濃度のヒアルロニダーゼ、プロナーゼ、酸性タイロード液等を含むM2培養液〔例えば、D. M. Gloverら編、DNA Cloning 4 Mammalian Systems A Practical Approach 第2版 (1995) 等を参照のこと〕中で胚盤胞期胚をインキュベートすればよい。透明体除去後、適宜、得られた胚盤胞期胚をリン酸緩衝化生理的食塩水により洗浄してもよい。
【0058】
透明体なしの胚盤胞期胚から内部細胞塊を分離するには、例えば、該胚盤胞期胚を免疫手術に供すればよい。さらに、内胚葉系の細胞をピペッティングにより剥がし、得られた内部細胞塊をフィーダー細胞上で1週間培養し、増殖した内部細胞塊をトリプシンで処理(例えば、0.25重量% トリプシン+0.5mMEDTA等での処理)して、約3〜4個の細胞からなる塊にし、さらに、これらの細胞をフィーダー細胞上で再度培養する。
【0059】
免疫手術に用いる抗血清としては、例えば、ウサギ抗サル血清、具体的にはウサギ抗ニホンザル血清、ウサギ抗カニクイザル血清等が挙げられる。かかる抗血清をM16培養液〔前記DNA Cloning 4 Mammalian Systems A Practical Approach等を参照のこと〕で20倍に希釈した溶液中に胚盤胞期胚を移し、37℃で30分インキュベートすることにより、内部細胞塊を分離することができる。また必要に応じて、ガラス針を用いて顕微鏡下で物理的に栄養外胚葉を除去してもよい。
【0060】
フィーダー細胞としては、妊娠12日〜16日目のマウス胎児の線維芽細胞の初代培養細胞、マウスの胎児線維芽細胞株であるSTO細胞等をマイトマイシンCやX線処理して得られた細胞等が挙げられる。かかるマウス由来のフィーダー細胞は、大量に調製できる点で実験等に有利である。
【0061】
前記フィーダー細胞の作製は、例えば、後述の実施例に記載の方法等により行なうことができる。
【0062】
フィーダー細胞は、例えば、MEM培地(Minimum Essential Medium Eagle)を用いて、ゼラチンコートした培養容器に播種する。フィーダー細胞は、培養容器を隙間無く覆う程度まで播種すればよい。
【0063】
前記内部細胞塊は、前記フィーダー細胞が播種された培養容器中のMEM培地をES細胞培養用の培地〔ES細胞培地、表3〕に交換したフィーダー細胞上に播種する。
【0064】
【表3】
Figure 0005014535
【0065】
細胞の培養条件は、マウスES細胞の培養条件として通常実施される条件であればよい。例えば、37℃、5% CO2 条件下で7日間培養すればよい。なお、内部細胞塊の着床を阻害しない観点から、培養開始から3日間は培養液の交換を行なわず、毎日顕微鏡下で着床状況を観察することが望ましい。また、細胞の増殖に従って、順次サイズの大きな培養皿に継代すればよい。
【0066】
ついで、胚性幹細胞の同定及び評価を行なう。なお、評価基準の例示は以下のとおりである。
【0067】
評価基準の例
核型(karyotype)
染色体数に異常がない。通常、起源としたサルの染色体数(2n=42)と同じ数であるか否かを調べる。
【0068】
多分化能
例えば、胚性幹細胞と思われる細胞(1×105 〜1×106 個)を、8〜12週齢のSCIDマウス又はヌードマウスの皮下、腎皮膜下又は精巣に注射し、5〜16週後に腫瘤の形成の有無を調べ、腫瘤が形成された場合には、該腫瘤について組織学的検査を行なうことにより、分化能を調べることができる。またフィーダー細胞を除去したり、あるいはレチノイン酸などの分化誘導剤を添加することにより、種々の分化能を調べることができ、多分化能を評価することができる。
【0069】
形態学的特徴
1.高い核/細胞質比、顕著な核小体、コロニー形成を呈する。
2.マウスES細胞に比べて、コロニー形態が扁平である。
かかる形態学的特徴の例を、図1並びに図2のパネルA及びパネルBに示す。
なお、かかる図1及び図2に対応する写真は、図面参照用写真として、別途提出する。
【0070】
細胞表面マーカーの発現
陰性対照:SSEA−1
陽性対照:SSEA−3、SSEA−4
前記細胞表面マーカーは、それぞれステージ特異的な胚性抗原である糖脂質細胞表面マーカーである。かかるマーカーを抗原として、各抗体を作製し、慣用の免疫染色等により検出できる。
【0071】
アルカリホスファターゼ活性
慣用のアルカリホスファターゼ染色により検出できる。
【0072】
本発明のサル由来胚性幹細胞としては、具体的には、下記特性:
(i)未分化状態を維持したまま増殖継代可能である、
(ii) 起源のカニクイザル個体と同じ染色体数を有する、
(iii) 8〜12週齢のSCIDマウス又はヌードマウスの皮下、腎皮膜下又は精巣に移植することにより、多分化能が認められる、
(iv) SSEA−1陰性であり、かつSSEA−3とSSEA−4とに対して陽性である、及び
(v) アルカリホスファターゼ活性が検出される、
を呈する、樹立されたカニクイザル由来細胞、具体的には胚性幹細胞、
が挙げられる。かかるカニクイザル由来胚性幹細胞は、 (vi) 高い核/細胞質比、顕著な核小体、コロニー形成を呈し、かつマウスES細胞に比べて、コロニー形態が扁平であるという形態学的特徴〔例えば、図1並びに図2のパネルA及びパネルBを参照のこと〕を有する。
【0073】
本発明の樹立されたカニクイザル由来胚性幹細胞は、8〜12週齢のSCIDマウス又はヌードマウスの皮下、腎皮膜下又は精巣に移植した場合、外胚葉由来細胞、中胚葉由来細胞、内胚葉由来細胞等への分化能、より具体的には、例えば、ニューロン、グリア、筋肉、軟骨、骨、線毛上皮、腸管上皮等への分化能を呈する。
【0074】
本発明の樹立されたカニクイザル由来胚性幹細胞によれば、疾患モデル動物の作製のための該細胞の使用、移植用組織の作製のための該細胞の使用が期待される。
【0075】
本発明のサル由来胚性幹細胞によれば、組織又は細胞、特に好ましくは霊長類由来の組織又は細胞の特異的分化を行なうための試薬をスクリーニングすることができる。本発明には、組織又は細胞の特異的分化を行なうための試薬のスクリーニング方法も含まれる。
【0076】
本発明の組織又は細胞の特異的分化を行なうための試薬のスクリーニング方法は、被検物質の存在下に、本発明の胚性幹細胞を維持することを1つの特徴とする。
【0077】
本発明のスクリーニング法においては、本発明の胚性幹細胞を用いるため、霊長類、特にヒト、サルにおける発生学的研究、疾患研究、臨床応用、実験モデル等に有用であり、かつ所望の分化細胞又は分化組織を得るのに有用な試薬をスクリーニングすることができるという優れた効果を発揮する。
【0078】
本発明のスクリーニング法においては、胚性幹細胞から所望の組織又は細胞への特異的分化は、例えば、所望の組織又は細胞に発現するマーカーを指標として評価されうる。前記所望の組織又は細胞のマーカーとしては、組織又は細胞特異的抗原が挙げられる。前記所望の組織又は細胞のマーカーとしては、例えば、神経系細胞のマーカーとして、ニューロン特異的エノラーゼ、グリア線維性酸性タンパク質、ネスチン等、軟骨のマーカーとして、S−100タンパク質、酒石酸抵抗性酸ホスファターゼ等、筋肉のマーカーとして、デスミン、筋特異的アクチン等が挙げられる。かかる特異的マーカーは、該マーカーに対する抗体を用い、慣用のELISA、免疫染色等により検出してもよく、該マーカーをコードする核酸を用い、慣用のRT−PCR、DNAアレイハイブリダイゼーション等により検出してもよい。なお、「核酸」とは、ゲノムDNA、RNA、mRNA又はcDNAを意味する。
【0079】
前記スクリーニング法により得られた試薬は本発明の範囲に包含される。かかる試薬によれば、再生医学分野への応用が期待される。
【0080】
また、本発明の胚性幹細胞から分化された分化細胞又は分化組織も本発明の範囲に含まれる。
【0081】
前記分化細胞及び分化組織は、前記組織又は細胞に特異的なマーカーの発現、形態学的特徴の観察により同定することができる。
【0082】
本発明の分化細胞及び分化組織は、ヒトに近縁なサルの細胞及び組織であるため、種々の薬剤に対する各種試験の被検体としての利用、組織や細胞の移植モデルとしての利用等に好適である。
【0083】
【実施例】
以下、実施例等により、本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は、かかる実施例によりなんら限定されるものではない。なお、以下の実施例等において、「%」は、特に明記がない場合は、重量%を示すものとする。また、CO2 、O2 及びN2 における「%」表記は、体積%を示すものとする。
【0084】
実施例1 カニクイザルの胚盤胞期胚の作製方法
サル類は、マウスやラット、ウサギ等の実験動物と異なり、卵管や子宮環流による受精卵回収法は確立されていないのが現状である。また、排卵周期における体内受精卵を子宮内から回収する方法は効率が極めて悪いことが知られている。
【0085】
そこで今回は、胚性幹細胞を樹立するために好適な胚盤胞期胚を得るため、体外授精法及び顕微授精法により受精を行い、その後、体外培養法によって胚盤胞期胚に発生させる方法を検討した。
【0086】
(1)卵巣刺激法
カニクイザルのメス(4〜15齢)にゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)〔商品名:リュープリン(Leuplin) 、武田薬品工業(株)社製;又は商品名:スプレキュア(Sprecur)、ヘキスト・マリオン・ルセル(株)社製〕1.8mgを皮下投与した。GnRH投与2週間後から、妊馬血清ゴナドトロピン(PMSG)〔商品名:セロトロピン(Serotropin)、帝国臓器製薬(株)社製〕を25IU/kg、ヒト閉経期尿性ゴナドトロピン(hMG)〔パーゴナル(Pergonal)、帝国臓器製薬(株)社製〕10IU/kg又は卵胞刺激ホルモン(FSH)〔フェルティノーム (Fertinorm)、セローノ・ラボラトリーズ社製〕3IU/kgを1日1回一定時刻に9日間連続で、本実施例では夕刻に筋肉内投与した。投与5日後に、腹腔鏡(外径3mm)を用いて卵巣の観察を行い、卵胞の発育の有無を確認した。
【0087】
ついで、PMSG、hMG又はFSHを投与し卵胞の発育が十分あることを確認した後、ヒト繊毛性ゴナドトロピン(hCG)〔商品名:プベローゲン(Puberogen) 、三共(株)社製〕400IU/kgを1回筋肉内投与した。hCG投与40時間後に、採卵した。
【0088】
採卵は、卵巣を腹腔鏡(外径10mm)観察下において、約0.5ml の10% SSS(Serum Substitute Supplement, Irvine Scientific Sales Inc.製) を含むα−MEM(alpha-Modification of Eagles Medium, ICD Biomedical Inc. 製) 溶液を入れた60mmの19G又は20Gのカテラン針を付けた2.5mlの注射筒を用いて、卵胞を穿刺し吸引して卵胞液と共に卵子を回収することにより行なった。
【0089】
回収後、直ちに実体顕微鏡下で卵丘細胞に包まれた成熟卵子を分離し、0.3% BSA含有TALP(以下、BSA/TALPと示す)中に移し、5% CO2 、5% O2 、90% N2 、37℃の炭酸ガス培養器中にて3〜4時間前培養した。
【0090】
以上のように、腹腔鏡観察下での採卵は、腹壁に約1cmの切開を行なうのみでそこから腹腔鏡を挿入し、腹壁を通して卵巣穿刺を行なうものである。
【0091】
一方、採卵方法としては、通常、マウスでは卵巣、子宮摘出後、卵管灌流を行なう卵巣摘出法、またヒトでは超音波診断装置を用いた卵巣穿刺法により行なわれる。しかし、サル類は個体の数が限られていることから、卵巣摘出法を用いることができない場合がある。また、体躯がヒトに比べて小さいことから、超音波診断装置を用いる方法は極めて難しい。そのため、サル類の国内外での体外受精に用いられる未受精卵の回収方法としては通常、開腹による卵巣直視下で卵巣穿刺法が行われている。しかしこの方法は、▲1▼個体への負担が大きいこと、▲2▼手術後の創傷治癒に時間がかかること、▲3▼感染の危険性が大きいこと等の欠点がある。
【0092】
これに比べて、本実施例で行なった方法は、直視下よりもむしろ拡大された像が得られる。したがって、穿刺部位を正確にとらえて採卵が行なうことができる。また、採卵後、腹壁を1糸縫合するのみで時間も極めて短時間で終えることができるため、動物愛護の観点からも極めて有用な方法であることがわかった。
【0093】
(2)精子の採取
(i)精巣上体からの採取法
オスのカニクイザル(10〜15齢)の精巣上体を採取後、直ちに23Gの針を付けた1mlの注射筒を精管に挿入して、0.3% BSAを含むBWW(以下、BSA/BWWと示す)をゆっくり注入し、精巣上体尾部を切断し流出する精液を採取した。
【0094】
(ii)電気刺激法による採取法
i)直腸法
塩酸ケタミン+塩酸キシラジン(それぞれ、5mg/kg及び1mg/kg)でオスのカニクイザル(10〜15齢)に麻酔を施し、仰臥位においた。電気刺激器に取り付けた棒状直腸電極にケラチンクリームを塗布し、該電極を前記サルの直腸に静かに挿入した。陰茎を滅菌生理食塩水で洗浄し、ペーパータオル等でふき取り、陰茎の先を試験管(50ml)の中にいれた。ついで、電気刺激器を交流電圧、5Vにセットして、通電を行なった。通電を3〜5秒間行なった後、5秒間休止した。これを最大3回まで繰り返した。射精が見られた時は、その時点で終了した。射精が見られないときは、電圧を10Vにして同様の操作を行なった。さらに、射精が見られないときは、15V、20Vで実施した。
【0095】
ii)陰茎法
無麻酔下で、ケージ前面にオスのカニクイザル(10〜15齢)の四肢を保定し、陰茎を保持しやすい位置に設置した。手術用ゴム手袋を装着し、陰茎を無菌生理食塩水で洗浄し、ペーパータオル等で拭き取った。電気刺激器を準備し、電極を陰茎にセットし、クリップで接続した。通電は、まず直流の電圧5Vで1秒間隔でON-OFFを繰り返しながら、徐々にその間隔を短くしていく操作とした。射精が見られない時は、同様の操作を10V、15V、20Vで行なった。さらに、射精が見られないときは、交流で同様の操作を繰り返した。
【0096】
(3)精液採取後の処理と凍結保存法(Torii et al, 1998)
直腸法又は陰茎法で採取した精液を、37℃炭酸ガス培養器内で約30分間静置した。液状成分のみを採取し、0.3% BSA含有BWW (Biggers, Whitten and Wittinghams) (BSA/BWW)培養液を約1〜2ml加えて精子溶液を調製した後、80% パーコール(American Permacia Biotech Inc. 製) 2.5mlと60% パーコール2.5mlの液の上に静かに重層した。得られたものを1,400rpmで20分、室温で遠心分離した後、試験管内の底部の約0.5mlを残して、上層を吸引除去した。さらに、BSA/BWWを約10ml添加して軽く混合した。得られた混合物を1,400rpmで3分、室温で遠心分離した後、底部の約0.5mlを残して上層を吸引除去した。
【0097】
得られた精子に、精子数約5×107 〜1.0×108 個/mlになるようにBSA/BWWを適量加えて精子溶液を調製した後、4℃で約60〜90分間静置した。その後、氷水中で精子溶液の1/5量のTTE−G溶液〔終濃度12%のグリセロールを含むTTE培地(培地100ml中の組成:Tes 1.2g、Tris−HCl 0.2g、グルコース 2g、ラクトース 2g、ラフィノース 0.2g、卵黄 20ml、ペニシリン−G 10,000IU、ストレプトマイシン硫酸塩 5mg)を静かに滴下し、5分間静置した。なお、前記のTTE−G溶液の滴下及び静置の操作を5回繰り返した。
【0098】
氷水中で60〜90分間放置した後、得られた精子溶液を0.25又は0.5mlのストローに入れた。ストローを、液体窒素の容器の上部で約5分間維持した後、液体窒素上面でさらに5分間維持した。前記ストローを液体窒素中に投入し、保存した。
【0099】
(4)体外受精用精子の調製
液体窒素から出したストローを一旦室温で30秒間保持した後、37℃の温浴中に30秒間投入して保存精子溶液を融解した。ついで、前記ストローに、1mM カフェイン(シグマ社製)と1mM dbC−AMP (シグマ社製)とを含有したBSA/BWW 10mlを加え、30分間37℃の炭酸ガス培養器でインキュベートして、受精能獲得を行なった。
【0100】
その後、1,000rpm(200g)で2分間、精子溶液を遠心分離し、上清を捨てた。ついで、新たに1mM カフェインと1mM dbC−AMPとを含有したBSA/BWW約0.5〜1mlを精子に加えた。得られた精子溶液を、37℃の炭酸ガス培養器にて、60分間静置し、Swim Up した精子を集めて、精子の運動性と精子数とを確認した。これにより体外受精用精子を得た。
【0101】
(5)受精方法
1)体外受精法
プラスチックディッシュ内のミネラルオイルで覆われた50μlのBSA/BWWのドロップ中に、卵丘細胞に包まれた卵子1〜5個をいれた。ついでドロップ中に5.0×105 〜1.0×106 個(精子)/mlになるように精子懸濁液を移した。ドロップをミネラルオイルで覆い、ついで媒精を行なった。
【0102】
その後、受精後の卵子を37℃、5% CO2 、5% O2 、90% N2 の炭酸ガス培養器にて培養した。媒精5時間後、BWW液からTALP液に交換し、受精の確認を行なった。その結果、約45%の高い受精率で受精卵が得られた。受精が確認された卵子について、約20時間培養して、その後CMRL−1066液に移し培養を継続した。
【0103】
2)顕微授精法
(i)卵子の調製
回収された卵母細胞を、ミネラルオイル(シグマ社製)で覆われた50μlの0.3% BSAを含むTALP(BSA/TALP)溶液スポット中に集めた後、約2〜4時間、37℃、5% CO2 、5% O2 、90% N2 の条件下で前培養した。
【0104】
卵子の成熟状態を確認するため、0.1%のヒアルロニダーゼ(シグマ社製)を含むTALP−HEPES溶液中に卵母細胞培養物を1分間さらした後、ピペッティングで卵丘細胞を除去した。回収した卵子は、倒立顕微鏡下で、以下のClass-1 〜4 の4種類に分類した。
Class-1 : 極体(PB)を持つ成熟卵子、
Class-2 : PBと卵核胞(GV)が観察されない成熟途上卵子、
Class-3 : GVが観察される未成熟卵子、
Class-4 : 形状の変形が著しいか、細胞質が変成、退行的変化を示している卵子
【0105】
Class-1 の卵子については、確認後、すぐに、顕微授精に供試した。Class-2 とClass-3 の卵子については、更にミネラルオイルで覆われた50μlのBSA/TALP溶液スポット中に集めた後、37℃、5% CO2 、5% O2 、90% N2 の条件下で継続培養した。培養後24時間で、卵子の成熟状態を確認した。成熟した卵子については、その時点で、顕微授精に供試した。残りの未成熟卵子とClass-4 の卵子とについては、受精には供試しなかった。
【0106】
(ii)精子の調製
体外受精に準じた方法で行なった。
【0107】
(iii) 顕微授精法
顕微授精を、ナリシゲ社製のマイクロマニュピュレーターを装備したオリンパスIX70倒立顕微鏡下で行なった。
【0108】
150mmディッシュに、スポット1:希釈精子を15μl、スポット2:10% ポリビニルピロリドンPBS培養液〔PVP:平均分子量約360,000、ナカライ テスク(株)社製〕5μl×3個とスポット3:卵子操作用のTALP−HEPES(最終濃度3mg/ml BSA)溶液5μl×3個を順に置き、表面をミネラルオイルで覆い乾燥を防ぎ、顕微授精用のワーキング・フィールドとした。なお、本実施例では、操作温度の変化には留意せず、加温ステージを用いなかった。
【0109】
注入用のニードルとしては、ヒト顕微授精用の傾斜角度30度のニードル(外径7〜8μm、内径5〜7μm、メディー・コンインターナショナル社製)を用いた。前記ニードルを動作精度の高いアルカテルシリンジに接続した。
【0110】
卵子保持用ニードルとしては、同じくヒト顕微授精用の傾斜角度30度のニードル、あるいはマグネティック・プラー(商品名:PN−30、ナリシゲ社製)により作製した外径約100μm、先端の内径約15μmのニードルを用いた。前記ニードルは、2000μlのエアータイトシリンジを付けたナリシゲのインジェクターに接続した。
【0111】
スポット1でヒト顕微授精の基準に従い運動性のある精子を選んで吸引して、得られた精子をスポット2へ移し、排出した。スポット2においては、PVPの粘性により、精子の運動性が低下した。前記精子尾部をインジェクションニードルでこすりつけ、膜の一部を破壊し、精子の運動を停止させる。該精子を粘性の高い溶液とともに吸引し、スポット3へ移した。
【0112】
成熟卵子をスポット3に入れ、保持用ニードルを用いて、極体の下にある染色体が注入用ニードルで壊されないように、6時又は12時の位置に固定した。その後、注入用のニードルの先端に精子を置き、該精子を卵子へ刺し込んだ。ニードルが透明帯を通過したことを確認した後、卵細胞膜を吸引した。膜の断裂が起こったことを確認した後、注入用ニードル内の内容物(精子と卵子の細胞質)を注入した。精子と卵子の細胞質の注入に関する一連のこれらの操作を繰り返し行なった。一回の操作で2〜3個卵子に顕微授精を行なうが、精子や卵細胞質により先端の内側が汚れた場合は、スポット2で洗浄する。
【0113】
顕微授精された卵子を、すぐに培養器へ戻し、37℃、5% O2 、5 % CO2 、90% N2 の条件下で培養を開始した。顕微授精後、すぐ、60mmノンコート培養皿に、50μlのCMRL−1066溶液のスポットを作り、それをパラフィンオイルでカバーした。なお、スポットと気相の平衡は、原則的には、3 時間以上行なった。顕微授精後24時間で、TALP溶液から前記CMRL−1066溶液のスポットに移し、炭酸ガス培養器中で37℃、5 % O2 、5 % CO2 、90% N2 の条件下で密封のまま8日間培養した。その結果、約75〜85%の高い受精率で受精卵が得られた。
【0114】
以上のように、サル類の体外受精、顕微授精を行なうにあたって、精子の活性化を行なった。マウスやヒトの場合には、通常の体外受精、顕微授精を行なう際に精子をそのまま用いるが、本実施例においては、より高い受精率を得るために、カフェインとdbC−AMPとによる活性化を行なった後、Swim up 法により、より受精能の高い精子の獲得を行なった。この操作を加えることにより、体外受精において、高い受精率を得ることが出来ることが判明した。さらに運動性が乏しく体外受精に不適な精子についても、同様の処理を行なうことにより、顕微授精で高率に受精させることができた。この方法は、受精率の悪い精子が供給された場合等には、極めて有効であることが判った。
【0115】
(6)培養方法
体外受精及び顕微授精において、受精を確認した後は、培養を行なうにあたって、温度と炭酸ガス濃度の急激な変化を避けるため、ヒトでは通常行なわれず、マウスやウサギ等の実験動物で広く採用されている、ミネラルオイルで培地をカバーする微少懸滴培養法を採用した。また、培養経過を観察することにより、温度やpHの変化による不要なストレスを与えることを避けるため、体外受精では培養開始後7日間、顕微授精では培養開始後8日間、胚盤胞期胚の出現が予測されるまで培養器の扉の開閉を行なわず、密閉して培養を行なった。
【0116】
ここで用いた培養液、培養温度、培養気相は以下の通りである。
【0117】
培養液:TALP&CMRL−1066
通常、マウスで用いられるBWWやヒトで用いられるPl(ナカメディカル社製)、Blast medium(ナカメディカル社製)及び新たに開発されたHFF (human folicular fluid 、扶桑薬品(株)社製)を用いた結果、受精と分割までは順調に進むが桑実胚までの発生にとどまることが判る。受精確認後、TALPとCMRL−1066の培養液と組み合わせて用いることにより、胚盤胞期胚への発生がみられ、かつその率は受精胚の40〜46%と極めて高率にみられることが判明した。培養器外の操作で、リン酸緩衝液系のPBSを使わずHEPES緩衝液系のTALPを用いたことにより、卵子への悪影響を減らしたと思われる。
【0118】
培養温度:38℃
マウスやヒトでは、通常37℃で行なうが、この温度では、発生が遅く、かつ桑実胚以降への発生は全くなかった。そこで、38.5℃で胚培養を行なうウシ等と同様に、38℃とやや高い温度で培養を行なうことにより、体外受精では7日後に、顕微授精では8日後に胚盤胞期胚を得た。
【0119】
培養気相:5% CO2 、5% O2 、90% N2
通常用いられる5% CO2 、95%空気の条件下では、桑実胚までの発生にとどまったが、5% CO2 、5% O2 、90% N2 で培養を行なうことにより、胚盤胞期胚への発生率が高い率で見られるようになった。
【0120】
実施例2 サルES細胞樹立法
(1)フィーダー細胞の作製
12.5日齢のマウス胚から得た初代胚線維芽細胞(以下、PEFsともいう)を、10%ウシ胎仔血清(FBS)を含むMEM培地でコンフルエントになるまで、初代〜3代目の間で培養した。ついで、最終濃度10μg/mlのマイトマイシンC(MMC)を含むMEM培地でPEFsを2〜3時間培養し、細胞分裂を不活性化した。その後、MMCを含む培地を除き、細胞をPBSで3回洗浄した。トリプシン処理(0.05% トリプシン、1mM EDTA)により、洗浄後の細胞を培養ディッシュから剥がし、細胞数をカウントした。
【0121】
ゼラチンコートした24穴培養ディッシュの各ウエルに2×104 個のMMC処理されたPEFsを播種した。
【0122】
得られた細胞について、実際にディッシュ上に播種し、適した細胞数であることを確認した上で、マウスES細胞を培養し、性質を調べた。その結果、増殖能が良好であり、未分化状態が維持されていたため、得られた細胞がフィーダー細胞として適していることが示された。また、3代目以下(初代〜3代目)までの培養のフィーダー細胞が、好適であった。
【0123】
(2)サル胚盤胞期胚からの内部細胞塊の分離
透明体除去のためにサル胚盤胞期胚を最終濃度0.5%プロナーゼまたはタイロードを含むM2培養液〔例えば、D. M. Gloverら編、DNA Cloning 4 Mammalian Systems A Practical Approach 第2版 (1995) 等を参照のこと〕に移し、37℃で10分インキュベートした。なお、透明体が残っている胚盤胞期胚について、さらに37℃で5分のプロナーゼ処理を行なった。透明体の除去を確認後、得られた胚盤胞期胚をPBSで2回洗浄した。
【0124】
ついで、ウサギ抗カニクイザルリンパ球血清をM16培養液〔前記DNA Cloning 4 Mammalian Systems A Practical Approach等を参照のこと〕で20倍に希釈した溶液中に胚盤胞期胚を移し、37℃で30分インキュベートした。その後、得られた胚盤胞期胚をPBSで3回洗浄した。補体をM16培養液で50倍に希釈した溶液中に胚盤胞期胚を移し、37℃で30分インキュベートした。得られた胚盤胞期胚をPBSで3回洗浄した。胚盤胞期胚の栄養外胚葉が完全に除去出来ない場合は、ガラス針を用いて顕微鏡下で物理的に栄養外胚葉を除去した。これにより、内部細胞塊 (Inner Cell Mass;ICM)を分離した。
【0125】
(3)サル内部細胞塊の培養
(1)で得られたフィーダー細胞を播種した24穴培養ディッシュからMEM培地を除き、ウエルごとにES細胞培地〔表3〕を800 μl ずつ加えた。
【0126】
ついで、(2)で得られたICMを、マイクロピペットを用いて各ウエルに1個ずつ移し、37℃、5% CO2 条件下で7日間培養した。ICMの着床を阻害しないために、培養開始から3日間は培地の交換を行なわず、毎日顕微鏡下で着床状況を観察した。
【0127】
培養7日目にICM細胞の解離を行なった。ウエルからES細胞培地を除き、PBSで1回洗浄した。300μlの0.25% トリプシン/0.02% EDTAをウエルに加え、直ちに取り除いた。ついで、24穴培養ディッシュを37℃で1分インキュベートした。顕微鏡下で細胞の解離を確認した後に、ウエルに500μlのES細胞培地を加えピペットマンでよくピペッティングした。
【0128】
フィーダー細胞を予め播種した24穴培養ディッシュのウエルに、上記の全細胞を移した。300μlのES細胞培地を加えて、あわせて800μlの培地量にした後に、細胞の播きムラが無いようによく混合した。2日に1回、ES細胞培地を交換した。解離後、7日以内にES細胞と思われる細胞集団が増殖し、コロニーとして出現するため、毎日観察した。
【0129】
ES細胞のコロニーが出現したら、24穴培養ディッシュ上の細胞をトリプシン処理し、継代増殖を繰り返した。この間、毎日または2日に1回の頻度でES細胞培地を交換した。その結果、カニクイザルの胚盤胞期胚から複数のES細胞株を得た。
【0130】
実施例3 サルES細胞の評価
(1)カニクイザルES細胞
核型(karyotype)
染色体数が正常(起源としたサルの染色体数と同じ数:2n=42)であるか否かを調べた。この結果、樹立したES細胞株は、正常の核型を保持していた。
【0131】
多分化能
1×106 個のカニクイザルES細胞を、8週齢のSCIDマウスの鼠径部に皮下注射した。注射後5〜12週後に、腫瘤の形成が認められた。前記腫瘤をブアン液又はパラホルムアルデヒド液で固定後、薄切し、ヘマトキシリン−エオジン染色(HE染色)または免疫染色を施し、組織学的検査を行なった。なお、免疫染色においては、利用できるサル組織特異抗体が極めて少ないことから、ヒトのニューロン特異的エノラーゼ(NSE)に対する抗体、グリア線維性酸性タンパク質(GFAP)に対する抗体、S−100タンパク質に対する抗体及びデスミンに対する抗体を用いた。
【0132】
その結果、形成した腫瘤は、外胚葉(ニューロン、グリア)由来、中胚葉(筋肉、軟骨、骨)由来及び内胚葉(線毛上皮、腸管上皮)由来の細胞群で構成されるテラトーマであることがわかった。また、免疫組織学的検査において、ニューロンはNSEに対する抗体、グリアはNSEに対する抗体及びGFAPに対する抗体、末梢神経はNSEに対する抗体、軟骨はS−100タンパク質に対する抗体、筋肉はデスミンに対する抗体によってそれぞれ検出された。以上の結果から、カニクイザルES細胞が、外胚葉由来細胞、中胚葉由来細胞、内胚葉由来細胞等、より具体的には、ニューロン、グリア、筋肉、軟骨、骨、線毛上皮、腸管上皮等への多分化能を有することが明らかとなった。
【0133】
かかるHE染色後の顕微鏡観察の結果を図3のパネルA〜Hに、免疫染色後の顕微鏡観察の結果を図3のパネルI〜Mに、それぞれ示す。なお、かかる図3に対応する写真は、図面参照用写真として、別途提出する。
【0134】
形態学的特徴
1.高い核/細胞質比、顕著な核小体、コロニー形成を呈した。
2.マウスES細胞に比べて、コロニー形態が扁平であった。
かかる形態学的特徴を、図1並びに図2のパネルA及びパネルBに示す。
【0135】
細胞表面マーカーの発現
細胞表面マーカーであるStage-specific embryonic antigens (SSEA)の有無を確かめるために、SSEA−1(陰性対照)、SSEA−3、SSEA−4の各細胞表面マーカーに対する抗体を用いて、免疫染色を行なった。これらの抗体は、The Developmental Studies Hybridoma Bank of the National Institute of Child Health and Human Developmentより入手した。SSEAの各細胞表面マーカーについて、下記操作により評価した:4%パラホルムアルデヒドで固定した細胞と1次抗体とを反応させた。ついで、次にアミノ酸ポリマーにペルオキシターゼと2次抗体を結合させた標識ポリマー(シンプルステインPO、ニチレイ社製)を反応させた後、シンプルステインDAB 溶液(ニチレイ社製)を加えて検出した。
【0136】
その結果、SSEA−1は検出されず、SSEA−3及びSSEA−4が検出された。かかる免疫染色によるSSEA−4の検出結果を図2のパネルDに示す。
【0137】
アルカリホスファターゼ活性
Fast−Red TR SaHを基質として、アルカリホスファターゼ活性をHNPP(ロッシュ社製)を用いて測定した。その結果、アルカリホスファターゼ活性が検出された。かかる検出結果を図2のパネルCに示す。
【0138】
【発明の効果】
本発明のサル由来胚性幹細胞は、霊長類、特にヒト、サルにおける発生学的研究、疾患研究、臨床応用、実験モデルとして有用である。また、本発明のサル由来胚性幹細胞の生産方法によれば、前記サル由来胚性幹細胞を高い収率で得ることができるという優れた効果を奏する。さらに、本発明の組織又は細胞の特異的分化を行なうための試薬のスクリーニング方法によれば、所望の分化細胞又は分化組織を得るのに有用な、組織又は細胞の特異的分化を行なうための試薬をスクリーニングすることができるという優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、本発明のカニクイザル由来胚性幹細胞を顕微鏡観察した結果を示す図である。上段パネルは、低倍率(100倍) における観察結果を示し、下段パネルは、高倍率(200倍) における観察結果を示す。
【図2】図2は、本発明のカニクイザル由来胚性幹細胞を各種手法により観察した結果を示す図である。パネルA及びパネルBは、それぞれ、本発明のカニクイザル由来胚性幹細胞を顕微鏡観察した結果を示す〔パネルA:低倍率(Bar; 100 μm) 、パネルB:高倍率(Bar; 50μm) 〕。パネルCは、本発明のカニクイザル由来胚性幹細胞をアルカリホスファターゼ染色後に顕微鏡観察した結果を示す (Bar; 100μm) 。パネルDは、本発明のカニクイザル由来胚性幹細胞をSSEA-4に対する免疫染色後に顕微鏡観察した結果を示す (Bar; 100μm) 。
【図3】図3は、本発明のカニクイザル由来胚性幹細胞をマウスに皮下注射後、形成した腫瘤を各種染色後に顕微鏡観察した結果を示す図である。パネルA〜Hは、本発明のカニクイザル由来胚性幹細胞をマウスに皮下注射後、形成した腫瘤をHE染色後に顕微鏡観察した結果を示す。パネルA:腫瘤全体(Bar; 300 μm) 、パネルB:神経上皮 (Bar; 200μm) 、パネルC:グリア(Bar; 200 μm) 、パネルD:腺 (Bar; 200μm) 、パネルE:筋肉(Bar; 200 μm) 、パネルF:軟骨 (Bar; 400μm) 、パネルG:骨(Bar; 200 μm) 、パネルH:線毛上皮 (Bar; 150μm) 。パネルI〜Mは、前記腫瘤を免疫染色後に顕微鏡観察した結果を示す。パネルI:ニューロン及びグリアのNSEに対する免疫染色(Bar; 200 μm) 、パネルJ:グリアのGFAPに対する免疫染色 (Bar; 200μm) 、パネルK:末梢神経のNSEに対する免疫染色(Bar; 200 μm) 、パネルL:筋肉のデスミンに対する免疫染色 (Bar; 200μm) 、パネルM:軟骨のS−100タンパク質に対する免疫染色(Bar; 400 μm) 。

Claims (10)

  1. (a)カニクイザルの卵子とカニクイザルの精子とを用いて、体外受精法又は顕微授精法により受精を行なって受精卵を得る工程、
    (b)工程(a)で得られた受精卵を用いて体外培養法により胚盤胞期胚を発生させる工程であって、培養温度が38℃であり、かつ培養条件が5% CO 2 、5% O 2 、90% N 2 の条件である工程、及び
    (c)工程(b)で得られた胚盤胞期胚を用いて胚性幹細胞を樹立する工程、
    を含むプロセスを行なうことにより得られるカニクイザル由来胚性幹細胞。
  2. 工程(a)において、TALP液、TALP−HEPES液及びBWW液からなる群より選ばれた培養液を用いる、請求項1に記載の胚性幹細胞。
  3. 工程(b)における体外培養法が微少懸滴培養法である、請求項1又は2に記載の胚性幹細胞。
  4. 工程(b)においてCMRL−1066を用いて体外培養法を行なう、請求項1〜3いずれかに記載の胚性幹細胞。
  5. (a)カニクイザルの卵子とカニクイザルの精子とを用いて、体外受精法又は顕微授精法により受精を行なって受精卵を得る工程、
    (b)工程(a)で得られた受精卵を用いて体外培養法により胚盤胞期胚を発生させる工程であって、培養温度が38℃であり、かつ培養条件が5% CO 2 、5% O 2 、90% N 2 の条件である工程、及び
    (c)工程(b)で得られた胚盤胞期胚を用いて胚性幹細胞を樹立する工程、
    を含む、カニクイザル由来胚性幹細胞の生産方法。
  6. 工程(a)において、TALP液、TALP−HEPES液及びBWW液からなる群より選ばれた培養液を用いる、請求項に記載の方法。
  7. 工程(b)における体外培養法が微少懸滴培養法である、請求項5又は6に記載の方法。
  8. 工程(b)において、CMRL−1066を用いて体外培養法を行なう、請求項5〜7いずれかに記載の方法。
  9. 被検物質の存在下に、請求項1〜いずれかに記載のカニクイザル由来胚性幹細胞を維持することを特徴とする、組織又は細胞の特異的分化を行なうための試薬のスクリーニング方法。
  10. 請求項1〜いずれかに記載のカニクイザル由来胚性幹細胞から分化してなる分化細胞又は分化組織。
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