JP5013033B2 - 環状オレフィン付加重合体の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、環状オレフィン付加重合体の製造方法に関する。さらに詳しくは、分子量が制御され、かつ、重合体末端に芳香族ビニル基を有するノルボルネン系環状オレフィン付加重合体の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、電子機器の小型・軽量化、高密度化の要求に伴い、光学材料、電子材料の分野の樹脂化が進むにつれ、光学透明性のほか、熱安定性、機械的強度、耐吸湿性、寸法安定性、耐溶剤性などに優れた樹脂が求められている。
例えば、従来ガラス製の基板が使用されていた液晶表示素子は、軽量化や落下の際の破損を軽減するために、最近ではプラスチック製基板が使用されるようになってきているが、その製造工程上、使用される材料には非常に高い熱安定性が求められる。
【0003】
上記の高い透明性、熱安定性などを有するプラスチック材料として、ノルボルネン系環状オレフィンの重合体が提案されている。ノルボルネン系環状オレフィンの重合体としては、これまで、開環重合体の水素化物(特開昭60−26024号公報、特許第3050196号公報、特開平1−132625号公報、特開平1−132626号公報など)や、ノルボルネン系環状オレフィンとエチレンとの付加共重合体[特開昭61−292601号公報、Makromol. Chem. Macromol. Symp. Vol.47,83(1991)など]、ノルボルネン系環状オレフィンの付加重合体(特開平4−63807号公報、特開平8−198919号公報、特表平9−508649号公報、特表平11−505880号公報など)などが提案されている。
【0004】
これらのうち、開環重合体の水素化物は、200℃以上のガラス転移温度のものの製造が困難であり、耐熱性の点で必ずしも満足のいくものではなかった。
また、分子鎖中に水素化されない二重結合が微量に残留することが多く、高温にて着色するなど、熱安定性の上で欠点がある。
また、ノルボルネン系環状オレフィンとエチレンとの付加共重合体は、エチレン連鎖の結晶化により透明性に劣るものとなることが多い。さらには、よく使用されるジルコニウム、チタンなどを含む触媒成分が極性基を含む単量体に対して極端に低い重合能しか持たないため、極性基による接着性などの機能の付与が困難である。
【0005】
それらに対し、環状オレフィンの付加重合体は、200℃を超えるガラス転移温度のものの製造が可能であり、非常に高い耐熱性が要求される用途にも好適に使用され得る。また、単量体成分の選択によってガラス転移温度の制御や機能の付与が可能である。
【0006】
一方、環状オレフィンの付加重合は、一般に、連鎖移動が起こりにくいことは周知である。そのため、分子量の制御の方法として、重合に用いる触媒量の調節や分子量調節剤の添加によるものが利用されている。これらのうち、触媒量の調節による方法は、目標とする分子量によっては多量の触媒を必要とするためコスト高となり、また残留する触媒成分を光学あるいは電子材料用途に要求される程度にまで低減させるに多大な労力を必要とするため、実用的ではない。さらには、多量の重合触媒によって、ときには重合温度の制御が困難となることがある。
【0007】
VIII族遷移金属化合物を重合触媒とする系において、ノルボルネン官能性付加ポリマーの分子量を調節する連鎖移動剤として、α−オレフィン類を用いる方法が開示されている(特表平9−508649号公報)。この方法によれば、ノルボルネン系環状オレフィン付加重合体を任意の分子量に制御することが可能となる。また、この方法では、α−オレフィンの挿入と、それに続くβ−水素脱離機構により連鎖移動が起こるため、ノルボルネン系環状オレフィン付加重合体の末端基部分にオレフィン性不飽和結合が生成する。しかし、この公報においては、利用できる連鎖移動剤は限られており、スチレンなどの芳香族ビニル化合物は明らかに除外されている。そのため、この技術によっては重合体の分子鎖末端に選択的に芳香族置換基を導入することはできない。
【0008】
また、特表平11−505877号公報においては、VIII族遷移金属を含む触媒による、ノルボルネン型モノマーとカチオン重合性モノマーとの共重合についてを開示している。しかしながら、この公報において芳香族ビニル化合物は、カチオン重合性モノマーからも、連鎖移動剤からも除外されている。
【0009】
一方、芳香族ビニル化合物は、特定の重合触媒により、ノルボルネン系環状オレフィンと共重合することが報告されている。例えば、特開平1−311109号公報においては、炭化水素可溶性バナジウムおよび有機アルミニウムとから形成される触媒を用いた、ノルボルネン系モノマーとスチレン系モノマーとの共重合体の製造方法が開示されている。
また、特開平4−45113号公報においては、ニッケル化合物成分と、アルミノキサン成分とを主成分とする触媒を用いた、共重合体の製造方法が開示されている。すなわち、いずれの公報においてもスチレン系モノマーは重合体を構成する単位の一つであり、重合体の分子鎖中に導入される。分子量調節の方法としては水素の使用を示唆しているが、芳香族ビニル化合物を分子量調節に用いることについては、記載も示唆もしていない。
【0010】
また、上記の特開平4−45113号公報中において、ノルボルネン系モノマーの置換基としては、炭化水素基のほか、酸素原子あるいは窒素原子を含むものが規定されている。しかしながら、実施例において、かかるモノマーは使用されておらず、従って、該公報の方法によって極性基を有するノルボルネン構造単位を含む共重合体が得られるという記述はない。さらには、該公報においてスチレン系モノマー上に規定されている置換基は、炭化水素基およびハロゲン原子に限定されており、極性基を有する芳香族置換基を重合体に導入する方法については記載されていない。
【0011】
特開2001−19723号公報においては、環状オレフィンとイオン解離基が導入されたスチレンとの共重合体の製造方法が開示されている。しかしながら、この公報の方法は、環状オレフィンとスチレンとの共重合体をあらかじめ製造する工程と、共重合体へスルホン酸基などイオン解離基を導入する工程からなっており、芳香族置換基へと導入できる極性基はごく一部に限られる。さらに、この公報においてもスチレンは単量体として取り扱われており、実施例において使用されている重合触媒を用いては、分子量を制御することはできず、芳香族置換基を重合体の末端に選択的に導入することもできない。
【0012】
以上より明らかなとおり、環状オレフィンの付加重合体を任意の分子量に制御し、かつ、分子鎖末端に選択的に芳香族置換基を導入することは、従来の技術によっては達成し得なかった。また、環状オレフィン付加重合体の分子鎖末端に極性基を有する芳香族置換基を導入することについても、同様に達成し得なかった。
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上述の問題に鑑みなされたもので、分子量が制御され、末端に芳香族置換基を有する環状オレフィン付加重合体を提供することを目的とする。
【0014】
【課題を解決するための手段】
本発明は、環状オレフィンを、(i)周期律表第8〜10族遷移金属化合物成分、(ii)強ブレンステッド酸化合物および/またはルイス酸化合物、ならびに(iii)有機アルミニウム成分を含む重合触媒の存在下、炭化水素溶媒中にて付加重合を行なうに際し、連鎖移動剤として、少なくとも1種の芳香族ビニル化合物を添加することを特徴とする環状オレフィン付加重合体の製造方法に関する。
【0015】
【発明の実施の形態】
本発明の環状オレフィン付加重合体の製造方法は、強ブレンステッド酸化合物および/またはルイス酸化合物成分などの特定の成分を含む重合触媒の存在下、芳香族ビニル化合物を重合系中に添加し、環状オレフィンの付加重合を行うことで、分子鎖末端に芳香族置換基を有する環状オレフィン付加重合体を任意の分子量にて得るものである。さらには、本発明は、極性基を有する置換ノルボルネンを構造単位として含み、かつ、分子鎖末端に芳香族置換基を有する環状オレフィン付加重合体を任意の分子量にて得るためのものである。さらにまた、本発明は、分子鎖末端に極性基を有する芳香族置換基を有する環状オレフィン付加重合体を任意の分子量にて得るためのものである。
【0016】
本発明の方法によれば、環状オレフィン付加重合体の分子量を任意に調整でき、かつ、芳香族置換基を分子鎖末端に導入することができる。
本発明者らの鋭意検討の結果、付加重合反応における系中の芳香族ビニル化合物の濃度の上昇に伴い、ゲル・パーミエーションクロマトグラフィーにより測定されるノルボルネン系環状オレフィン付加重合体の分子量が低下することが明らかになった。ここでは、その機構について詳細に述べることは行わないが、従来からよく知られている機構と同様に、芳香族ビニル化合物の挿入と、続いて起こるβ−水素脱離によるものと考えられる。この機構によれば、芳香族置換基が分子鎖末端に導入されると共に、オレフィン性二重結合が生成する。例えば、ノルボルネンを単量体とし、スチレンにより連鎖移動を行った場合、芳香族置換基が付加重合体に結合していることは、赤外吸収スペクトルにおいて700cm-1付近に、弱い吸収を観測することで確認される。興味深いことに、付加重合体の核磁気共鳴スペクトル(NMR)において、芳香族ビニル化合物に帰属される吸収は、付加重合体1分子あたり1個のみ導入されたと考えられるに相当する強度で観測されたのみであった。すなわち、分子鎖中に導入される芳香族ビニル化合物は存在しないか、ほとんど無視できる程度であり、分子鎖末端に選択的に導入されたと考えることが妥当であるといえる。
【0017】
また、本発明の方法によれば、アルコキシシリル基のような極性基を有する芳香族ビニル化合物をも、連鎖移動剤として用いることができる。例えば、前述の特開平4−45113号公報の実施例にて例示されている、ニッケル化合物成分と、アルミノキサン成分とを主成分とする触媒は、本発明者らの検討の結果、5−アルコキシシリルスチレンのごとき極性を有する芳香族ビニル化合物に対し、ほとんど重合能を示さないか、もしくは著しく付加重合活性が低下した。ところが、本発明の方法によれば、実用的な活性を維持したまま、付加重合が進行することが分かった。
【0018】
ここで、芳香族ビニル化合物としては、例えば、スチレンおよび置換スチレン、α−メチルスチレン類、1−ビニルナフタレン類、1−ビニル−5,6,7,8−テトラヒドロナフタレン類などが挙げられる。望ましくは、スチレンおよび置換スチレンが使用され、置換スチレンの具体例としては、2−メチルスチレン、2−エチルスチレン、2−イソプロピルスチレン、2−t−ブチルスチレン、2−ヘキシルスチレン、2,3−ジメチルスチレン、2,3−ジメチルスチレン、2,3−ジエチルスチレン、2,4,6−トリメチルスチレン、2−フェニルスチレン、2−クロロスチレン、2−ブロモスチレン、2−フルオロスチレン、2−トリメトキシシリルスチレン、2−トリエトキシシリルスチレン、2−ジメトキシメチルシリルスチレン、2−ビニルアニソール、2−メトキシメチルスチレン、2−(2−メトキシエチル)スチレン、1,4−ジビニルベンゼン、およびこれらの幾何異性体を挙げることができる。
これらは、単独で、または2種以上を混合して使用することができる。
【0019】
本発明の方法によって分子鎖末端に導入される、芳香族置換基およびオレフィン性二重結合は、さらに公知の方法で別の官能基を導入したり、変換してもよい。例えば、芳香族置換基のアルキル化、ハロゲン化、スルホン化、アシル化、水素添加や、オレフィン性二重結合のエポキシ化、ヒドロシリル化、ヒドロホウ素化、ヒドロホルミル化、ジオール化、マレイン酸無水物の付加、グラフト化などを行うことができる。
【0020】
芳香族ビニル化合物の添加量は、環状オレフィンの総量に対し、モル比で0.01%以上であり、望ましくは0.1%〜10%の範囲である。
0.01%より少ない場合は、芳香族ビニル化合物の添加の効果が非常に小さなものとなる。
【0021】
本発明の方法により得られる環状オレフィン付加重合体は、環状オレフィンに由来する構造単位よりなるものである。環状オレフィンの具体例としては、2−ノルボルネン、7−オキサノルボルネン、2,5−ノルボルナジエン,5−メチル−2−ノルボルネン、5−エチル−2−ノルボルネン、5−プロピル−2−ノルボルネン、5−ブチル−2−ノルボルネン、5−ペンチル−2−ノルボルネン、5−ヘキシル−2−ノルボルネン、5−ヘプチル−2−ノルボルネン、5−オクチル−2−ノルボルネン、5−デシル−2−ノルボルネン、5−ドデシル−2−ノルボルネン、5,5−ジメチル−2−ノルボルネン、5,6−ジメチル−2−ノルボルネン、5−メチル−5−エチル−2−ノルボルネン、5−フェニル−2−ノルボルネン、5−ビニル−2−ノルボルネン、5−アリル−2−ノルボルネン、5−エチリデン−2−ノルボルネン、5−イソプロピリデン−2−ノルボルネン、5−シクロヘキシル−2−ノルボルネン、5−シクロヘキセニル−2−ノルボルネン、5−フェニル−2−ノルボルネン、5−フルオロ−2−ノルボルネン、5−クロロ−2−ノルボルネン、5−ブロモ−2−ノルボルネン、5−フルオロメチル−2−ノルボルネン、5−クロロメチル−2−ノルボルネン、5−(1−クロロエチル)−2−ノルボルネン、5−(2−クロロエチル)−2−ノルボルネン、5−トリメトキシシリル−2−ノルボルネン、5−クロロジメトキシシリル−2−ノルボルネン、5−ジクロロメトキシシリル−2−ノルボルネン、5−クロロメトキシメチルシリル−2−ノルボルネン、5−メトキシメチルヒドロシリル−2−ノルボルネン、5−ジメトキシヒドロシリル−2−ノルボルネン、5−メトキシジメチルシリル−2−ノルボルネン、5−トリエトキシシリル−2−ノルボルネン、5−クロロジエトキシシリル−2−ノルボルネン、5−ジクロロエトキシシリル−2−ノルボルネン、5−クロロエトキシメチルシリル−2−ノルボルネン、5−ジエトキシヒドロシリル−2−ノルボルネン、5−エトキシジメチルシリル−2−ノルボルネン、5−エトキシジエチルシリル−2−ノルボルネン、5−トリプロポキシシリル−2−ノルボルネン、5−トリイソプロポキシシリル−2−ノルボルネン、5−トリフェノキシシリル−2−ノルボルネン、5−ジフェノキシメチルシリル−2−ノルボルネン、5−トリフルオロシリル−2−ノルボルネン、5−トリクロロシリル−2−ノルボルネン、5−トリブロモシリル−2−ノルボルネン、5−(2’,6’,7’−トリオキサ−1’−シラビシクロ[2.2.2]オクチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−(4’−メチル−2’,6’,7’−トリオキサ−1’−シラビシクロ[2.2.2]オクチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−(1’−メチル−2’,5’−ジオキサ−1’−シラシクロペンチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−トリメトキシシリルメチル−2−ノルボルネン、5−(1−トリメトキシシリル)エチル−2−ノルボルネン、5−(2−トリメトキシシリル)エチル−2−ノルボルネン、5−(1−クロロジメトキシシリル)エチル−2−ノルボルネン、5−(2−クロロジメトキシシリル)エチル−2−ノルボルネン、5−トリエトキシシリルメチル−2−ノルボルネン、5−(1−トリエトキシシリル)エチル−2−ノルボルネン、5−(2−トリエトキシシリル)エチル−2−ノルボルネン、5−(1−クロロジエトキシシリル)エチル−2−ノルボルネン、5−(2−クロロジエトキシシリル)エチル−2−ノルボルネン、5−(1−トリメトキシシリル)プロピル−2−ノルボルネン、5−(2−トリメトキシシリル)プロピル−2−ノルボルネン、5−(3−トリメトキシシリル)プロピル−2−ノルボルネン、5−(1−トリエトキシシリル)プロピル−2−ノルボルネン、5−(2−トリエトキシシリル)プロピル−2−ノルボルネン、5−(3−トリエトキシシリル)プロピル−2−ノルボルネン、5−ノルボルネン−2−カルボン酸トリメトキシシリルプロピル、5−ノルボルネン−2−カルボン酸トリエトキシシリルプロピル、5−ノルボルネン−2−カルボン酸ジメトキシメチルシリルプロピル、2−メチルー5−ノルボルネン−2−カルボン酸トリメトキシシリルプロピル、2−メチル−5−ノルボルネン−2−カルボン酸ジメトキシメチルシリルプロピル、2−メチル−5−ノルボルネン−2−カルボン酸トリエトキシシリルプロピル、2−アセチル−5−ノルボルネン、5−ノルボルネン−2−カルボン酸メチル、5−ノルボルネン−2−カルボン酸エチル、5−ノルボルネン−2−カルボン酸−t−ブチル、2−メチル−5−ノルボルネン−2−カルボン酸メチル、2−メチル−5−ノルボルネン−2−カルボン酸エチル、2−メチル−5−ノルボルネン−2−カルボン酸−t−ブチル、2−メチル−5−ノルボルネン−2−カルボン酸トリフロロメチル、酢酸5−ノルボルネン−2−イル、酢酸2−メチル−5−ノルボルネン−2−イル、アクリル酸2−メチル−5−ノルボルネン−2−イル、メタクリル酸2−メチル−5−ノルボルネン−2−イル、5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸、5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸ジメチル、5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸ジエチル、5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物、5−ノルボルネン−N−フェニル−2,3−ジカルボンイミド、3−トリシクロ[4.3.0.12,5]デセン、3,7−トリシクロ[4.3.0.12,5]デカジエン(ジシクロペンタジエン)、3−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデセン、8−メチル−3−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデセン−8−カルボン酸メチル、および下式に示すようなスピロ環化合物などが挙げられる。
【0022】
【化3】
【0023】
これらは、単独で、または2種以上を混合して使用することができる。
【0024】
本発明の方法によれば、環状オレフィン付加重合体は、極性置換基を有する環状オレフィンに由来する構造単位を含むことができる。例えば、前述の特開平4−45113号公報の実施例にて例示されている、ニッケル化合物成分と、アルミノキサン成分とを主成分とする触媒は、本発明者らの検討の結果、5−アルコキシシリル−2−ノルボルネンや8−メチル−3−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデセン−8−カルボン酸メチルのごとき極性を有する単量体が付加重合系中に存在すると、ほとんど重合しないか、もしくは著しく付加重合活性が低下した。ところが、本発明の方法によれば、実用的な活性を維持したまま、付加重合が進行することが分かった。極性置換基を有する環状オレフィンとしては、前述の環状オレフィンの中でも、望ましくは下記式(1)で表される極性置換基を有する環状オレフィンが使用される。
【0025】
【化4】
【0026】
[式(1)中、A1,A2,A3,A4の少なくともひとつは−(CR1R2)qXで表される極性基であり、それ以外は、同一または異なり、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基、ハロゲン化アルキル基、アラルキル基、シクロアルキル基、アリール基より選ばれる基を示す。ここで、Xは−OR3,−C(O)R4,−OC(O)R5,C(O)OR6または−SiY1Y2Y3を表し、R1〜R6は同一または異なり、水素原子、炭素数1〜10の炭化水素基あるいはハロゲン化炭化水素基を表し、Y1〜Y3は同一または異なり、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜10の炭化水素基、ハロゲン化炭化水素基、アルコキシ基、アリロキシ基、あるいはシロキシ基を表し、互いに結合して5〜8員環を形成してもよい。A1とA2またはA1とA3は閉環してエーテル、ラクトン、酸無水物を形成してもよい。p,qは0〜3の整数を表す。]
【0027】
上記式(1)で表される極性置換基を有する環状オレフィンの具体例としては、5−トリメトキシシリル−2−ノルボルネン、5−クロロジメトキシシリル−2−ノルボルネン、5−ジクロロメトキシシリル−2−ノルボルネン、5−クロロメトキシメチルシリル−2−ノルボルネン、5−メトキシメチルヒドロシリル−2−ノルボルネン、5−ジメトキシヒドロシリル−2−ノルボルネン、5−メトキシジメチルシリル−2−ノルボルネン、5−トリエトキシシリル−2−ノルボルネン、5−クロロジエトキシシリル−2−ノルボルネン、5−ジクロロエトキシシリル−2−ノルボルネン、5−クロロエトキシメチルシリル−2−ノルボルネン、5−ジエトキシヒドロシリル−2−ノルボルネン、5−エトキシジメチルシリル−2−ノルボルネン、5−エトキシジエチルシリル−2−ノルボルネン、5−トリプロポキシシリル−2−ノルボルネン、5−トリイソプロポキシシリル−2−ノルボルネン、5−トリフェノキシシリル−2−ノルボルネン、5−ジフェノキシメチルシリル−2−ノルボルネン、5−トリフルオロシリル−2−ノルボルネン、5−トリクロロシリル−2−ノルボルネン、5−トリブロモシリル−2−ノルボルネン、5−(2’,6’,7’−トリオキサ−1’−シラビシクロ[2.2.2]オクチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−(4’−メチル−2’,6’,7’−トリオキサ−1’−シラビシクロ[2.2.2]オクチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−(1’−メチル−2’,5’−ジオキサ−1’−シラシクロペンチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−トリメトキシシリルメチル−2−ノルボルネン、5−(1−トリメトキシシリル)エチル−2−ノルボルネン、5−(2−トリメトキシシリル)エチル−2−ノルボルネン、5−(1−クロロジメトキシシリル)エチル−2−ノルボルネン、5−(2−クロロジメトキシシリル)エチル−2−ノルボルネン、5−トリエトキシシリルメチル−2−ノルボルネン、5−(1−トリエトキシシリル)エチル−2−ノルボルネン、5−(2−トリエトキシシリル)エチル−2−ノルボルネン、5−(1−クロロジエトキシシリル)エチル−2−ノルボルネン、5−(2−クロロジエトキシシリル)エチル−2−ノルボルネン、5−(2−トリメトキシシリル)プロピル−2−ノルボルネン、5−(3−トリメトキシシリル)プロピル−2−ノルボルネン、5−(2−トリエトキシシリル)プロピル−2−ノルボルネン、5−(3−トリエトキシシリル)プロピル−2−ノルボルネン、5−ノルボルネン−2−カルボン酸トリメトキシシリルプロピル、5−ノルボルネン−2−カルボン酸トリエトキシシリルプロピル、5−ノルボルネン−2−カルボン酸ジメトキシメチルシリルプロピル、2−メチルー5−ノルボルネン−2−カルボン酸トリメトキシシリルプロピル、2−メチル−5−ノルボルネン−2−カルボン酸ジメトキシメチルシリルプロピル、2−メチル−5−ノルボルネン−2−カルボン酸トリエトキシシリルプロピル、2−アセチル−5−ノルボルネン、5−ノルボルネン−2−カルボン酸メチル、5−ノルボルネン−2−カルボン酸エチル、5−ノルボルネン−2−カルボン酸−t−ブチル、2−メチル−5−ノルボルネン−2−カルボン酸メチル、2−メチル−5−ノルボルネン−2−カルボン酸エチル、2−メチル−5−ノルボルネン−2−カルボン酸−t−ブチル、2−メチル−5−ノルボルネン−2−カルボン酸トリフロロメチル、酢酸5−ノルボルネン−2−イル、酢酸2−メチル−5−ノルボルネン−2−イル、アクリル酸2−メチル−5−ノルボルネン−2−イル、メタクリル酸2−メチル−5−ノルボルネン−2−イル、5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸ジメチル、5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸ジエチル、5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物、8−メチル−3−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデセン−8−カルボン酸メチルおよび下記に示すようなスピロ環化合物などが挙げられる。
【0028】
【化5】
【0029】
これらの中でも、極性置換基を有する環状オレフィンとして、さらに望ましくは下記式(2)で表されるものが挙げられる。
【0030】
【化6】
【0031】
[式(2)中、Y1〜Y3は同一または異なり、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜10の炭化水素基、ハロゲン化炭化水素基、アルコキシ基、アリロキシ基、あるいはシロキシ基を表し、互いに結合して5〜8員環を形成してもよく、pは0〜3の整数を表す。]
【0032】
上記式(2)で表される極性置換基を有する環状オレフィンの具体例としては、5−トリメトキシシリル−2−ノルボルネン、5−クロロジメトキシシリル−2−ノルボルネン、5−ジクロロメトキシシリル−2−ノルボルネン、5−クロロメトキシメチルシリル−2−ノルボルネン、5−メトキシメチルヒドロシリル−2−ノルボルネン、5−ジメトキシヒドロシリル−2−ノルボルネン、5−メトキシジメチルシリル−2−ノルボルネン、5−トリエトキシシリル−2−ノルボルネン、5−クロロジエトキシシリル−2−ノルボルネン、5−ジクロロエトキシシリル−2−ノルボルネン、5−クロロエトキシメチルシリル−2−ノルボルネン、5−ジエトキシヒドロシリル−2−ノルボルネン、5−エトキシジメチルシリル−2−ノルボルネン、5−エトキシジエチルシリル−2−ノルボルネン、5−トリプロポキシシリル−2−ノルボルネン、5−トリイソプロポキシシリル−2−ノルボルネン、5−トリフェノキシシリル−2−ノルボルネン、5−ジフェノキシメチルシリル−2−ノルボルネン、5−トリフルオロシリル−2−ノルボルネン、5−トリクロロシリル−2−ノルボルネン、5−トリブロモシリル−2−ノルボルネン、5−(2’,6’,7’−トリオキサ−1’−シラビシクロ[2.2.2]オクチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−(4’−メチル−2’,6’,7’−トリオキサ−1’−シラビシクロ[2.2.2]オクチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−(1’−メチル−2’,5’−ジオキサ−1’−シラシクロペンチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エンが挙げられる。これらは、単独で、または2種以上を混合して使用することができる。
上記の極性置換基を有する環状オレフィンの構造単位は、全体に対し、モル比で0から30%、望ましくは0から20%の割合で含まれる。
【0033】
例えば、非置換ノルボルネンのみを構造単位としてなる環状オレフィン重合体は、非常に高いガラス転移温度を示し、かつ一般的な溶媒への溶解度が非常に低いため、成形加工時に問題を生じることがあるが、炭素数3〜10のアルキル置換ノルボルネンの構造単位を任意に含むことにより、得られる重合体のガラス転移温度を制御するなど成形加工性を改良でき、かつ得られる成形体に柔軟性を付与できる。また、アルケニル基、アルキリデン基、エステル基、アルコキシシリル基など官能基を持つノルボルネンの構造単位を含むことにより、ノルボルネン系環状オレフィン付加重合体に三次元網目構造を持たせるための架橋点や他材料との接着性、良分散性などの機能を付与することもできる。さらには、適度の割合のアルコキシシリル基を持つノルボルネンの構造単位を含むものは、シリカ、アルミナ、チタニアなどの金属酸化物との複合体に好適に使用することができる。
【0034】
本発明の方法により得られる環状オレフィン付加重合体は、さらには、任意に1種以上の単環式モノオレフィンを構造単位として含んでもよい。
【0035】
環状オレフィン付加重合体の分子量の調節は、本発明の芳香族ビニル化合物の添加量を調節することによって行うが、さらにα−オレフィン、水素、環状非共役ジエンなど、他の分子量調節剤の併用、重合触媒の量の調整、重合温度の制御、重合体への転化率の調整を同時に行ってもよい。
本発明の環状オレフィン付加重合体の分子量は、o−ジクロロベンゼンを溶媒とするゲル・パーミエションクロマトグラフィーで測定されるポリスチレン換算の重量平均分子量が10,000〜1,500,000、好ましくは50,000〜1,000,000である。重量平均分子量が10,000未満では、フィルム、薄膜およびシートなどに成形したときの破壊強度が不十分であったり、耐溶剤性、耐液晶性に劣るものとなる。一方、重量平均分子量が1,500,000を超えると、シート、フィルムの成形加工性が低下したり、キャストフィルムの製膜時、溶液粘度が高くなり、取扱いが困難となる。
【0036】
本発明の環状オレフィン付加重合体の製造は、以下の方法によって行われる。
すなわち、重合触媒としては、(i)周期律表第8〜10族遷移金属化合物成分、(ii)強ブレンステッド酸化合物および/またはルイス酸化合物、ならびに(iii)有機アルミニウム成分を含むものが使用される。
【0037】
(i)周期律表第8〜10族遷移金属化合物成分としては、ニッケル、パラジウム、コバルトの化合物が挙げられる。特には、2−エチルヘキサン酸ニッケル、ネオデカン酸ニッケル、ナフテン酸ニッケル、ニッケルカーボネート、ニッケルアセチルアセトネート、ニッケルヘキサフルオロアセチルアセトネート、ニッケルブロマイド−エチレングリコールジメチルエーテル錯体、ニッケルクロライド、ニッケルブロマイド、ニッケルアセテート、η3−アリルニッケルクロライド二量体、ビス(η3−アリル)ニッケル、[(η3−クロチル)(1,5−シクロオクタジエン)ニッケル]ヘキサフルオロフォスフェート、ビス(トリフェニルホスフィン)ニッケルクロライド、(η5−シクロペンタジエニル)ニッケルトリフェニルホスフィンクロライドなどのニッケル化合物が好適に用いられる。
【0038】
上記(i)遷移金属化合物成分は、(ii)強ブレンステッド酸化合物および/またはルイス酸化合物と組み合わせて使用される。強ブレンステッド酸化合物は、望ましくはヘキサフルオロアンチモン酸、ヘキサフルオロリン酸、テトラフルオロホウ酸、トリフルオロメタンスルホン酸、トリフルオロ酢酸より選ばれるものが用いられる。これらは、単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0039】
ルイス酸化合物としては、望ましくは三フッ化ホウ素、三フッ化アルミニウム、四塩化チタン、五フッ化アンチモン、トリス(ペンタフルオロフェニル)ホウ素、トリス(3,5−ビストリフルオロメチルフェニル)ホウ素より選ばれるものが用いられる。これらは,単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0040】
強ブレンステッド酸化合物およびルイス酸化合物は、どちらか一方のみを用いてもよく、また、併用してもよい。しかしながら、強ブレンステッド酸化合物およびルイス酸化合物の両方を併用することで、重合活性の向上をはかることができ、その効果は特に、極性置換基を有する環状オレフィンや、極性置換基を有するスチレンを使用する際に顕著である。強ブレンステッド酸化合物、ルイス酸化合物のいずれも、第8〜10族遷移金属化合物成分に対し、モル比で、1から10倍の範囲で使用されるのが望ましい。
【0041】
上記(i)遷移金属化合物成分は、さらには、(iii)有機アルミニウム成分と組み合わせて使用される。具体的には、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリオクチルアルミニウム、ジエチルアルミニウムクロライド、ジエチルアルミニウムセスキクロライド、エチルアルミニウムジクロライドや、メチルアルミノキサン、エチルアルミノキサンが好適に用いられる。これらは,単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができ、望ましくは、(i)第8〜10族遷移金属化合物成分に対し、モル比で1から100倍の範囲で使用される。
【0042】
重合触媒成分は、それぞれ独立に付加重合を行う反応容器に導入してもよいし、二成分以上をあらかじめ混合してもよい。例えば、ニッケル化合物と強ブレンステッド酸化合物とを有機溶媒中にて混合したものと、ルイス酸化合物と、有機アルミニウム成分とを、それぞれ独立に反応容器へと導入する方法などを挙げることができる。
【0043】
重合溶媒としては、炭化水素溶媒を好適に用いることができる。例えば、シクロヘキサン、シクロペンタン、メチルシクロペンタンなどの脂環式炭化水素溶媒、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタンなどの脂肪族炭化水素溶媒、トルエン、ベンゼン、キシレンなどの芳香族炭化水素溶媒などから選ばれた溶媒が用いられる。これらは、単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。ただし、例えば、ある重合触媒成分が炭化水素溶媒に不溶であるなど、炭化水素溶媒のみでは重合操作に支障がある場合などに、ハロゲン化炭化水素やニトロメタンなどの非プロトン製溶媒を少量用いることを妨げるものではない。溶媒/モノマーの重量比は、1〜20の範囲で行われる。
【0044】
付加重合の方法として、窒素、またはアルゴン雰囲気下で、反応容器に溶媒と環状オレフィンからなる単量体と上記芳香族ビニル化合物、および上記重合触媒を添加して、−20℃〜100℃の範囲で重合を行う。
これらの重合操作は、バッチ式でも連続式でも実施することができる。
芳香族ビニル化合物の重合系への添加方法は、特に限定されないが、あらかじめ重合系中に添加してもよいし、溶媒や単量体、あるいは重合触媒とあわせて添加してもよい。
【0045】
重合の停止は、水、アルコール、有機酸、炭酸ガスなどから選ばれた化合物により行われる。必要なら、環状オレフィン付加重合体溶液からの重合触媒残さの分離・除去を行ってよく、公知の方法を適宜用いてよい。例えば、環状オレフィン付加重合体溶液を塩酸、硝酸、硫酸などの無機酸や、マレイン酸、フマル酸などの有機酸を添加し、水やアルコールの溶液で洗浄する方法などが挙げられる。
環状オレフィン付加重合体は、例えば、環状オレフィン付加重合体溶液をメタノール、エタノール、イソプロパノールなどのアルコール中に入れて、凝固し、減圧乾燥することにより得られる。この工程で、環状オレフィン付加重合体溶液に残存する未反応単量体も除去される。
【0046】
本発明の方法により製造される環状オレフィン付加重合体をシリカ、アルミナ、チタニアなどの金属酸化物との複合体として使用する場合は、混練り機を用いて固体状態で混合する方法、環状オレフィン付加重合体溶液と金属酸化物の溶媒分散体の混合・溶媒を除去する方法、あるいは環状オレフィン付加重合体の溶液とケイ素、アルミニウム、チタニウム、ジルコニウムなどのテトラアルコキシドおよびまたはアルキルトリアルコキド、アリールトリアルコキシドから選ばれた金属のトリアルコキシド、あるいはこれらの溶液を混合する前または混合後に、加水分解・重縮合する“ゾル−ゲル法”などの方法がとられる。複合体中の金属酸化物の割合は、5〜70重量%の割合で用いられ、金属酸化物の粒子径は一義的には決められないが、環状オレフィン付加重合体中に金属酸化物の粒径が100nm未満であると透明な複合体となる。環状オレフィン付加重合体中の金属酸化物の粒子径が100nm以上の割合が増加するに伴い、複合体の透明性が低下する。
【0047】
また、本発明の方法により製造される環状オレフィン付加重合体には、過酸化物、イオウ、ジスルフィド、ポリスルフィド化合物、ジオキシム化合物、テトラスルフィド、シランカップリング剤などを含む架橋剤を、環状オレフィン付加重合体100重量部に対して0.05〜5重量部添加し、熱などにより架橋体に変換することもできるし、直接、光、電子線により架橋体に変換することもできる。
【0048】
本発明の方法により製造される環状オレフィン付加重合体は、射出成形、ブロー成形、プレス成形、押出成形などの方法により成形体とすることもでき、また炭化水素溶媒、ハロゲン化炭化水素溶媒、ケトン、エーテル、エステル、アミン、アミド、尿素など極性溶媒から選ばれた溶媒に環状オレフィン付加重合体を溶解させ、キャスティング、蒸発工程を経て、薄膜、フィルムおよびシートにすることができる。また、これら溶媒により環状オレフィン付加重合体を膨潤させた後、押出し機で溶媒を蒸発させながら、フィルム、シートに成形・加工することもできる。
【0049】
本発明の方法により製造される環状オレフィン付加重合体は、また、他の熱可塑性樹脂、例えば、開環(共)重合体および/または当該(共)重合体の水素化物、環状オレフィンとエチレンおよび/またはα−オレフィンとの付加共重合体、ポリメチルメタクリレート、ポリアリレート、ポリエーテルサルフォン、ポリアリレンサルファイド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリアミド、石油樹脂などと配合された熱可塑性重合体組成物として使用することもできる。
【0050】
本発明の方法により製造される環状オレフィン付加重合体には、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、4,4’−チオビス−(6−t−ブチル−3−メチルフェノール)、1,1’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−t−ブチルフェノール)、2,5−ジ−t−ブチルヒドロキノン、ペンタエリスリチルテトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートなどのフェノール系、ヒドロキノン系酸化防止剤、さらにトリス(4−メトキシ−3,5−ジフェニル)フォスファイト、トリス(ノニルフェニル)フォスファイトなどのリン系酸化防止剤を添加して、酸化安定性を向上させることができる。
【0051】
本発明の方法により製造される環状オレフィン付加重合体は、優れた耐熱性、光学特性、耐溶剤性、耐薬品性、耐液晶性、均質性を有するので、液晶表示素子基板、エレクトロクロミック表示素子基板、各種窓材、偏光フィルム、位相差フィルム、液晶フィルム、反射防止フィルムなどの光学フィルム、OHPフィルム、プリント基板用基材などをはじめ、光ディスク、光ファイバー、レンズ、プリズム、光学フィルター、導光板、光導波路などの光学材料、半導体封止剤などの電子部品材料、医療機器、各種容器、コーティング剤、接着剤、バインダーなどに好適に用いられる。
【0052】
【実施例】
以下、本発明を実施例によってさらに具体的に説明するが、本発明はこれらによって何ら制限を受けるものではない。
環状オレフィン付加重合体中の単量体組成比(モル%)は、1H−NMRおよび/または13C−NMR法により測定した。
ポリスチレン換算重量平均分子量(Mw)とポリスチレン換算数平均分子量(Mn)は、o−ジクロロベンゼン中、米国ウォーターズ社製、ウォータース150CV型ゲル・パーミエーションクロマトグラフィーにより測定した。
【0053】
参考例1
触媒の調製
充分に乾燥し、窒素置換したポリテトラフルオロエチレン(米国デュポン社製、テフロン、以下同じ)製容器に、8.2ミリリットルのシクロヘキサンとn−ヘプタンの混合溶媒(混合比9:1)に溶解した2−エチルヘキサン酸ニッケル10ミリモルを入れ、氷浴にて冷却した。ポリテトラフルオロエチレン製マグネット式撹拌棒で撹拌しながら、ヘキサフルオロアンチモン酸3.0グラム(12.7ミリモル)を滴下、室温まで徐々に昇温した。20ミリリットルとなるまでトルエンを加え、不溶物をグラスフィルターで除去した。原子吸光光度法による分析で溶液中のニッケル濃度を測定し、重合に提供した。
【0054】
実施例1
充分に乾燥し、窒素置換したガラス製200ミリリットル耐圧容器に、乾燥トルエンに溶解して5.2モル/リットルの濃度とした2−ノルボルネンを19.3ミリリットル、乾燥トルエンを50ミリリットル仕込み、さらに、乾燥トルエン中1.0モル/リットルに調製したスチレンを0.2ミリリットル(0.2ミリモル)を加えた。撹拌しながら系の温度を30℃に調節した。0.2ミリリットルの乾燥トルエンに溶解したトリエチルアルミニウムを0.2ミリモルと、0.1ミリリットルの乾燥トルエンに溶解した三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体を0.1ミリモル加え、さらに、参考例1で調製したニッケル触媒成分をニッケル原子に換算して0.02ミリモル加えて重合を開始した。60分間反応を行った後、トルエン約30ミリリットルで希釈、イソプロピルアルコール1ミリリットルに溶解した乳酸0.4グラム加えて反応を停止した。精製水30ミリリットルで2度洗浄し、続いて約1リットルのイソプロピルアルコール中にて凝固、真空下90℃で40時間乾燥し、9.2グラム(97%)のノルボルネン付加重合体を得た。重量平均分子量(Mw)は455,000、数平均分子量(Mn)は177,000、Mw/Mnは2.6であった。1H−NMRによる分析では、スチレンに基づく吸収は、定量限界以下であった。
【0055】
実施例2〜4
加えるスチレンの量を変えた以外は、実施例1と同様の操作を行った。
表1に示した結果より明らかなとおり、加えたスチレンの量に応じて分子量は低下した。
【0056】
実施例5
スチレンに代えて、4−トリメトキシシリルスチレンを4ミリモル加えた以外は、実施例1と同様の操作を行い、6.8グラム(72%)のノルボルネン付加重合体を得た。重量平均分子量(Mw)は158,000、数平均分子量(Mn)は55,000、Mw/Mnは2.9であった。1H−NMRにより4−トリメトキシシリルスチレンの構造単位の含量を定量した結果、0.15モル%であり、重合体の1分子あたりに4−トリメトキシシリル基が1個結合したにほぼ相当するものであった。
【0057】
実施例6
スチレンに代えて、4−トリメトキシシリルスチレンを4ミリモル、トリエチルアルミニウムに代えて、乾燥トルエン中1.57モル/リットルに調製したメチルアルミノキサン(東ソーアクゾ社製)を0.2ミリモル加えた以外は、実施例1と同様の操作を行い、6.6グラム(70%)のノルボルネン付加重合体を得た。重量平均分子量(Mw)は162,000、数平均分子量(Mn)は62,000、Mw/Mnは2.6であった。1H−NMRにより4−トリメトキシシリルスチレンの構造単位を定量した結果、含量は0.14モル%であり、重合体の1分子あたりに4−トリメトキシシリル基が1個結合したにほぼ相当するものであった。
【0058】
実施例7
4−トリメトキシシリルスチレンを8ミリモル加えた以外は、実施例6と同様の操作を行い、5.5グラム(58%)のノルボルネン付加重合体を得た。重量平均分子量(Mw)は103,000、数平均分子量(Mn)は43,000、Mw/Mnは2.4であった。1H−NMRにより4−トリメトキシシリルスチレンの構造単位を定量した結果、含量は0.19モル%であり、重合体の1分子あたりに4−トリメトキシシリル基が1個結合したにほぼ相当するものであった。
【0059】
比較例1
スチレンを加えなかった以外は、実施例1と同様の操作を行い、9.3グラム(99%)のノルボルネン付加重合体を得た。重量平均分子量(Mw)は684,000、数平均分子量(Mn)は283,000、Mw/Mnは2.4であった。
【0060】
比較例2
充分に乾燥し、窒素置換したガラス製200ミリリットル耐圧容器に、乾燥トルエンに溶解して5.2モル/リットルの濃度とした2−ノルボルネンを19.3ミリリットル、乾燥トルエンを50ミリリットル仕込み、さらに、4−トリメトキシシリルスチレンを2ミリモル加え、乾燥トルエン中1.57モル/リットルに調製したメチルアルミノキサン(東ソーアクゾ社製)を2.55ミリリットル(4.0ミリモル)を加えた。撹拌しながら系の温度を30℃に調節した。さらに、トルエン中0.05モル/リットルに調製したニッケルアセチルアセトネートを0.4ミリリットル(0.02ミリモル)加えて重合を開始した。その後、実施例1と同様の操作を行ったが、こん跡量の重合体が得られたのみであった。
【0061】
実施例8
実施例1〜7および比較例1〜2で得られたノルボルネン付加重合体について、シクロヘキサン溶液からキャストし、真空下、200℃で3時間乾燥、膜厚0.20ミリメートルのフィルムを作成した。フーリエ変換赤外吸収分光分析により700cm-1の吸光度ピーク高さを測定したところ、実施例1〜4で得られた重合体については、表1に示した結果のとおり、スチレンの添加量に応じて吸光度ピークが増大した。スチレンを添加しなかった比較例1の付加重合体のフィルムでは、吸光度ピークは全く観測されなかった。また、4−トリメトキシシリルスチレンを連鎖移動剤として用いた実施例5〜7の重合体については、フーリエ変換赤外吸収分光分析において、明確に分離した吸収は観測されなかった。
【0062】
【表1】
【0063】
ST=スチレン
ST−Si(OMe)3=4−トリメトキシシリルスチレン
(*1)全環状オレフィン単量体に対する割合
(*2)赤外分光分析における700cm-1における吸光度ピーク高さ
(*3)NMRにより測定された4−トリメトキシシリルスチレンのモル含量
(*4)独立した吸収は観測されず
【0064】
実施例9
充分に乾燥し、窒素置換したステンレス製3リットル反応容器に、乾燥トルエンに溶解して4.8モル/リットルの濃度とした2−ノルボルネンを700ミリリットル(3.36モル)、5−トリエトキシシリル−2−ノルボルネンを28グラム(0.11モル)、乾燥トルエンを1.5リットル仕込み、さらに、スチレンを5.2グラム(50ミリモル)を加えた。撹拌しながら系の温度を20℃に調節した。5.0ミリリットルの乾燥トルエンに溶解したトリエチルアルミニウムを4.6ミリモルと、4.1ミリリットルの乾燥トルエンに溶解した三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体を4.1ミリモル加え、さらに、参考例1で調製したニッケル触媒成分をニッケル原子に換算して0.46ミリモル加えて100分間重合を行った。2リットルのトルエン中に反応混合物をあけ、乳酸5グラムをイソプロピルアルコール50ミリリットルに溶解したものを加え、精製水約2リットルで2度洗浄した。続いて約10リットルのイソプロピルアルコール中にて凝固、真空下90℃で40時間乾燥し、322グラム(94%)の環状オレフィン付加重合体を得た。重量平均分子量(Mw)は295,000、数平均分子量(Mn)は127,000、Mw/Mnは2.3であった。1H−NMRによる分析の結果、ノルボルネンの構造単位の含量は96モル%であり、スチレンに基づく吸収は、定量下限以下であった。
【0065】
実施例10
スチレンに代えて、4−トリメトキシシリルスチレンを9.0グラム(40ミリモル)を加えた以外は、実施例9と同様の操作を行い、293グラム(85%)の環状オレフィン付加重合体を得た。重量平均分子量(Mw)は355,000、数平均分子量(Mn)は155,000、Mw/Mnは2.3であった。1H−NMRによる分析の結果、ノルボルネンの構造単位の含量は、97モル%であった。また、4−トリメトキシシリルスチレンの構造単位の含量は0.06モル%であり、重合体の1分子あたりに4−トリメトキシシリル基が1個結合したにほぼ相当するものであった。
【0066】
実施例11
トリエチルアルミニウムに代えて、乾燥トルエン中1.57モル/リットルに調製したメチルアルミノキサン4.6ミリモルを加えた以外は、実施例9と同様の操作を行い、313グラム(91%)の環状オレフィン付加重合体を得た。重量平均分子量(Mw)は376,000、数平均分子量(Mn)は131,000、Mw/Mnは2.9であった。1H−NMRによる分析の結果、ノルボルネンの構造単位の含量は97モル%であり、スチレンに基づく吸収は定量下限以下であった。
【0067】
比較例3
スチレンを加えなかった以外は、実施例9と同様の操作を行い、329グラム(96%)の環状オレフィン付加重合体を得た。重量平均分子量(Mw)は831,000、数平均分子量(Mn)は335,000、Mw/Mnは2.5であった。1H−NMRによる分析の結果、ノルボルネンの含量は、97モル%であった。
【0068】
比較例4
スチレンを加えなかったこと以外は、実施例11と同様の操作を行い、325グラム(94%)の環状オレフィン付加重合体を得た。重量平均分子量(Mw)は852,000、数平均分子量(Mn)は334,000、Mw/Mnは2.6であった。1H−NMRによる分析の結果、ノルボルネンの含量は97モル%であった。
【0069】
比較例5
三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体を加えなかったこと、トリエチルアルミニウムに代えて、乾燥トルエン中1.57モル/リットルに調製したメチルアルミノキサン4.6ミリモルを加えたこと、参考例1で調製したニッケル触媒成分溶液に代えて、0.92ミリリットルのトルエンに溶解したニッケルアセチルアセトネート0.46ミリモルを加えた以外は、実施例10と同様の操作を行った。その結果、環状オレフィン重合体は、得られなかった。
【0070】
【発明の効果】
本発明の環状オレフィン付加重合体の製造方法によれば、分子量が制御され、かつ、分子鎖末端に芳香族置換基が導入された環状オレフィン付加重合体が得られる。さらには、分子量が制御され、極性基を有するノルボルネンを構造単位として含み、かつ、芳香族置換基を分子鎖末端に有する環状オレフィン付加重合体を得ることができる。さらにまた、分子量が制御され、かつ、極性基を有する芳香族置換基を分子鎖末端に有する環状オレフィン付加重合体を得ることができる。
Claims (6)
- 少なくとも1種の下記式(1)で表される置換ノルボルネンを含む環状オレフィンを、(i)周期律表第10族の遷移金属化合物であるニッケル化合物成分、(ii)強ブレンステッド酸化合物およびルイス酸化合物、ならびに(iii)有機アルミニウム成分を含む重合触媒の存在下、炭化水素溶媒中にて付加重合を行なうに際し、連鎖移動剤として、少なくとも1種の芳香族ビニル化合物を添加することを特徴とする環状オレフィン付加重合体の製造方法。
- 環状オレフィンが下記式(2)で表される置換ノルボルネンボルネンである、請求項1に記載の環状オレフィン付加重合体の製造方法。
- 芳香族ビニル化合物がスチレンもしくは置換スチレンである、請求項1または2に記載の環状オレフィン付加重合体の製造方法。
- 上記強ブレンステッド酸化合物がヘキサフルオロアンチモン酸、ヘキサフルオロリン酸、テトラフルオロホウ酸、トリフルオロメタンスルホン酸、トリフルオロ酢酸より選ばれるものであり、上記ルイス酸化合物が三フッ化ホウ素、三フッ化アルミニウム、四塩化チタン、五フッ化アンチモン、トリス(ペンタフルオロフェニル)ホウ素、トリス(3,5−ビストリフルオロメチルフェニル)ホウ素より選ばれるものである、請求項1から3いずれか1項に記載の環状オレフィン付加重合体の製造方法。
- 上記(i)遷移金属化合物成分がニッケル化合物成分である、請求項1から4いずれか1項に記載の環状オレフィン付加重合体の製造方法。
- 上記(iii)有機アルミニウム成分がアルキルアルミノキサン化合物である、請求項1から5いずれか1項に記載の環状オレフィン付加重合体の製造方法。
Priority Applications (7)
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---|---|---|---|
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