JP5010407B2 - ロータ素材鍛造用金型およびロータ素材の鍛造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、円筒体の外周面にベーン収納溝を有するロータ素材を鍛造するための鍛造用金型、およびこの鍛造用金型を用いるロータ素材の鍛造方法に関する。
コンプレッサーのロータやブレーキ制御用のロータリー式真空ポンプのロータは、円筒体の外周面に軸線に平行なベーン収納溝を形成したものが一般的である。また、自動車に搭載する空調用ロータリー式コンプレッサーのロータやブレーキ制御用のロータリー式真空ポンプのロータは、軽量化を目的としてアルミニウム合金製が主流になっている。図4はこの種のロータ(2)の一例であり、シャフトを貫通させるセンター穴(3)を有する円筒体の外周面に複数のベーン収納溝(4)が前記センター穴(3)に偏心して設けられている。前記ロータは、一般に鍛造によって製作される(特許文献1、2参照)。
図9(A)(B)(C)は、従来の鍛造方法によってロータを製造する工程の一例である。鍛造用金型の下金型(50)は、ベース(51)と、成形孔(52)内にベーン収納溝成形用の羽根部(53)を有する下金型本体(54)(図10(B)参照)と、前記成形孔(52)と同径の装填穴を有するブッシュ(55)とにより構成されている。そして、まず、図9(A)に示すように所定温度に加熱された円柱形の鍛造用素材(49)を下金型(50)のブッシュ(55)に装填する。次いで、図9(B)に示すように、上方より上金型(57)を降下させてブッシュ(55)内の鍛造用素材(49)を加圧し、材料を下金型本体(54)の成形孔(52)内に充填することにより、ベーン収納溝(4)を成形し、ロータ素材(59)とする。その後、図9(C)に示すように、下方からノックアウトピン(58)によってロータ素材(59)が排出される。鍛造されたロータ素材(59)には、下金型(50)と上金型(57)型との間に余肉部(60)が生じているので、機械加工により余肉部(60)を切除するとともに、センター穴(3)を穿設すると、図4に示す形状のロータ(2)となる。
また、材料歩留まりを向上させるために、下金型(54)の成形孔(52)内にセンター穴(3)成形用のセンターピンを配置しておき、ベーン収納溝(4)とセンター穴(3)とを同時に成形する場合もある。
特開平11−230068号公報 特開2000−220588号公報
前記ロータ(2)において、ベーン収納溝(4)は、溝幅に対して溝深さ(外周面から内方への距離)および溝の長さ(円筒体の高さ)が大きく、下金型本体(54)のベーン収納溝成形用の羽根部(53)は薄板形状である。このため、図10(A)(B)に示すように鍛造時に羽根部(53)が押しのけた金属が成形孔(52)の壁面と羽根部(53)との間の狭い領域に流れ込み(矢印α1)、このメタルフロー(α1)が羽根部(53)を変形させる力(矢印α2)となってたおれ変形またはねじれ変形が生じさせ、ベーン収納溝(4)の寸法精度を低下させるという問題があった。このような現象は、羽根部(53)のオフセット寸法が大きくなるほど顕著に現れる。
かかる問題に対し、図11に示すように、鍛造するロータ素材の外径(D2)、即ち成形孔(52)の直径(D2)を目的のロータの外径(D1)よりも大きく設計し、羽根部(53)の根元を太くして強度を高めることで対処している。また、ロータ素材の外径(D2)を大きくすることで外径(D2)に対するオフセット寸法の比率が小さくなるので、変形を軽減することができる。
しかしながら、鍛造後の後加工で目的の外径(D1)となるように切除しなければならず、ロータ素材の外径(D2)を大きくするほど加工代が大きくなって材料歩留まりが低下するという問題が生じる。
また、センター穴を鍛造で成形する場合は、成形孔内に立設されたセンターピンにねじれ変形が生じ易く、短尺のロータ鍛造以外では鍛造によるセンター穴形成は困難である。このため、材料歩留まりが悪くても機械加工によってセンター穴を形成しているのが現状である。しかも、図12(A)(B)に示すように、短尺のロータ素材(61)においてセンター穴(3)を鍛造で形成しても、上金型がフラットであるために余肉部(62)がセンター穴(3)とベーン収納溝(4)とで繋がりかつ厚いものとなる。このため、鍛造でセンター穴(3)を形成しても切除部分の割合が多く、材料歩留まりを十分に向上させることは困難であった。
本発明は上述した技術背景に鑑み、寸法精度に優れ、かつ材料歩留まりも良いロータ素材を鍛造するためのロータ素材鍛造用金型、およびこのロータ素材鍛造用を用いるロータ素材の鍛造方法の提供を目的とする。
即ち、本発明のロータ素材鍛造用金型およびロータ素材の鍛造方法は下記[1]〜[10]に記載の構成を有する。
[1]下金型と成形用の荷重を付与する上金型とを備え、センター穴を有する円筒体の外周部に軸線に平行なベーン収納溝を有するロータ素材を鍛造する金型であって、
前記下金型は、成形孔内に突出するベーン収納溝成形用の羽根部と、成形孔の中心に配置されるセンター穴成形用のセンターピンとを有し、
前記上金型は、前記下金型のセンターピンおよび羽根部以外の部分に主荷重を付与する上金型本体と、前記上金型本体に穿設された孔に進退自在に嵌入されて前記センターピンに第1副荷重を付与するピンと、前記上金型本体に穿設された孔に進退自在に嵌入されて前記羽根部に第2副荷重を付与する扁平板とを有することを特徴とするロータ素材鍛造用金型。
[2]前記ピンの上部に設けられて第1副荷重を付与するための副荷重付与手段、および前記扁平板の上部に設けられて第2副荷重を付与するための副荷重付与手段を備える前項1に記載のロータ素材鍛造用金型。
[3]前記副荷重付与手段はガスクッションである前項2に記載のロータ素材鍛造用金型。
[4]前記上金型本体の孔と下金型のセンターピンとの間の隙間が0.1〜3mmであり、前記上金型本体の扁平孔と下金型の羽根部との間の隙間が0.1〜3mmである前項1〜3のいずれかに記載のロータ素材鍛造用金型。
[5]センター穴を有する円筒体の外周部に軸線に平行なベーン収納溝を有するロータ素材を、成形孔内に突出するベーン収納溝成形用の羽根部と、成形孔の中心に配置されたセンター穴成形用のセンターピンとを有する下金型と、成形用荷重を付与するための上金型とを用いて鍛造する方法であって、
前記上金型において、前記下金型のセンターピンおよび羽根部以外の部分に付与する主荷重に対し、前記センターピンに主荷重よりも小さい第1副荷重を付与するとともに、前記羽根部に主荷重よりも小さい第2副荷重を付与することを特徴とするロータ素材の鍛造方法。
[6]前記第1副荷重および第2副荷重はそれぞれ29〜89MPaである前項5に記載のロータ素材の鍛造方法。
[7]前記第1副荷重および第2副荷重を独立して制御する前項5または6に記載のロータ素材の鍛造方法。
[8]前記センターピンの断面積が大きいほど第1副荷重を小さくする前項7のいずれかに記載のロータ素材の鍛造方法。
[9]前項1〜4のいずれかに記載のロータ素材鋳造用金型を用い、上金型本体により主荷重を付与し、ピンにより第1副荷重を付与し、扁平板により第2副荷重を付与する前項5〜9のいずれかに記載の記載ロータ素材の鍛造方法。
[10]前記ロータ素材はアルミニウムまたはアルミニウム合金製である前項5〜9のいずれかに記載の記載ロータ素材の鍛造方法。
上記[1][2][3]に記載の各ロータ素材鍛造用金型によれば、下金型のセンターピンおよび羽根部に主荷重とは異なる第1副荷重および第2副荷重を付与することができ、ひいてはセンターピンおよび羽根部のたわみ変形およびねじれ変形を抑制できる。
上記[4]に記載のロータ素材鍛造用金型によれば、適正な厚さの余肉部を形成することができる。
上記[5]に記載のロータ素材の鍛造方法によれば、下金型のセンターピンおよび羽根部に対応する部分に主荷重よりも小さい第1副荷重および第2副荷重を付与することにより、これらにかかる付与される力が緩和される。このため、成形孔(12)の壁面と羽根部(13)との間のメタルフローおよびこのメタルフローによって羽根部を内方に変形させる力が緩和され、さらにセンター穴成形時に外周に向かうメタルフローが羽根部を内方に変形させる力と逆方向に働くので、これらの力の均衡を保つことによって、センターピンおよび羽根部のたわみ変形およびねじれ変形を抑制することができ、寸法精度の良いロータ素材を鍛造できる。また、寸法精度を確保するためにロータ素材の外径を拡大する必要がないので材料歩留まりが良い。さらに、金型の変形が抑制されることで金型寿命が長くなる。
上記[6]に記載のロータ素材の鍛造方法によれば、上記[5]に記載の効果を顕著に奏することができる。
上記[7]に記載のロータ素材の鍛造方法によれば、センターピンおよび羽根部に形状や寸法に応じて第1副荷重および第2副荷重を個別に設定でき、センター穴成形時に外周に向かうメタルフローと材料羽根部を内方に変形させる力との均衡をより確実に保つことができる。
上記[8]に記載のロータ素材の鍛造方法によれば、上記[7]の効果をさらに確実に奏することができる。
上記[9]に記載のロータ素材の鍛造方法によれば、上金型の上金型本体、ピン、扁平板によって、主荷重、第1副荷重、第2副荷重を付与することができ、上記[5]〜[8]に記載の効果を奏することができる。
上記[10]に記載のロータ素材の鍛造方法によれば、寸法精度に優れたアルミニウムまたはアルミニウム合金のロータ素材を、材料歩留まり良く鍛造することができる。
図1および図2は本発明のロータ素材鍛造用金型の一実施形態である。図3はこの鍛造用金型によって鍛造されるロータ素材(2)であり、図4はこのロータ素材(2)に後加工を施して製作したロータ(2)である。
ロータ(2)は、中心にシャフトを貫通させるセンター穴(3)を有する概略円筒体であり、外周面に溝底が断面円形に拡大された5つのベーン収納溝(4)を有する。これらのベーン収納溝(4)は、円筒体の軸線に平行で両端面に貫通し、前記センター穴(3)に偏心して内方に切り込むように設けられている。また、図5に示すように、前記ベーン収納溝(4)のオフセット量(U)は、溝幅方向の中心線(L1)と、この中心線(L1)と平行でロータ(2)の軸線を通る直線(L2)との距離で表される。ロータ(2)の材料としては一般にアルミニウムまたはアルミニウム合金が用いられ、その一例としてSi:14〜16質量%、Cu:4〜5質量%、Mg:0.45〜0.65質量%、Fe:0.5質量%以下、Mn:0.1質量%以下、Ti:0.2質量%以下を含有し、残部がAlおよび不可避不純物からなるアルミニウム合金を挙示できる。
鍛造用金型は、下金型(10)と成形用荷重を付与する上金型(30)とを備えている。これらの金型材料には周知の金型用鋼材が用いられる。
下金型(10)は、成形孔(12)を有する下金型本体(11)と、下金型本体(11)の下側に配置されるベース(15)と、下金型本体(11)の上側に配置されるブッシュ(19)とに分割される。
前記下金型本体(11)の成形孔(12)内には、孔壁からベーン収納溝(4)を成形するための5つの羽根部(13)が突出している。前記羽根部(13)は、ベーン収納溝(4)の断面形状に対応し、端に円形部を有する薄板状である。前記ベース(15)はプレート状であり、中心にロータ(2)のセンター穴(3)を成形するためのセンターピン(16)が固定され、このセンターピン(16)を囲むようにノックアウトピン(17)用の貫通孔(18)が穿設されている。前記ブッシュ(19)は、下金型本体(11)の成形孔(12)と同径で上下に貫通する装填穴(20)を有する環状体である。
前記ベース(15)、下金型本体(11)およびブッシュ(19)を組み付けると、下金型本体(11)の成形孔(12)内にセンターピン(16)が挿入されて成形孔(12)内部がロータ(2)の反転形状となり、かつブッシュ(19)の装填穴(20)が成形孔(12)に連通する。また、図2(A)に示す鍛造の準備段階において、ノックアウトピン(17)はベース(15)の貫通孔(18)に挿入され、先端面がベース上面と同一高さとなる位置で待機している。
上金型(30)は、鍛造用素材(49)に主荷重(F)を付与するための上金型本体(31)と、副荷重(F1)(F2)を付与するための円形ピン(40)およびと扁平板(41)とに分割される。
前記上金型本体(31)は、下半体のパンチ部(32)が前記ブッシュ(19)の貫通穴(20)に対応する外径の概略円柱体に形成され、大径の上半体(33)には上面に凹部(34)が形成されている。この凹部(34)には、前記円形ピン(40)の断面形状に対応して該円形ピン(40)を進退可能に嵌入する1つの円形孔(35)と、前記扁平板(41)の断面形状に対応して該扁平板(41)を進退可能に挿入する5つの扁平孔(36)が形成されている。前記円形孔(35)および扁平孔(36)はいずれもパンチ部(32)の先端面に貫通するものであり、扁平孔(36)はパンチ部(32)の外周面にも開口している。また、前記円形孔(35)および扁平孔(35)の位置は下金型本体(11)におけるセンターピン(16)および羽根部(13)の位置に対応している。
前記円形ピン(40)は、下金型本体(11)のセンターピン(16)よりも径の大きい円形ピンであり、上端に前記円形孔(35)よりも径の大きい抜止め部(42)が一体に形成されている。前記扁平板(41)は、下金型本体(11)の羽根部(13)と同様に先端に円形部を有する薄板状であるが羽根部(13)よりもひとまわり大きく、上端に前記扁平孔(36)よりも断面積を拡大させた抜止め部(43)が一体に取り付けられている。
そして、図2(A)および図6に示すように、前記上金型本体(31)の凹部(34)から円形孔(35)に前記円形ピン(40)を嵌入するとともに、各扁平孔(36)に前記扁平板(41)を嵌入すると、上金型本体(31)、前記円形ピン(40)、前記扁平板(41)が合わさってパンチ部(32)の先端面および周面がそれぞれ連続し、一つの円柱体が形成される。
前記の円形ピン(40)および扁平板(41)の上方には、これらに付与する荷重を付与するためのガスクッション(45)が配置されている。前記ガスクッション(45)はシリンダ(46)内にピストンロッド(47)が進退自在に挿入され、ピストンロッド(47)に退入方向の力が加わると、内部に封入された圧縮ガスによって前記退入方向の力につり合う前進方向の力を生じるものであり、退入距離が大きくなるほど前進方向の力も大きくなる。前記各ガスクッション(45)はシリンダ(46)が取付盤(48)に固定され、ピストンロッド(47)の先端を円形ピン(40)および扁平板(41)の前記抜止め部(42)(43)に当接させて、円形ピン(40)および扁平板(41)にピストンロッド(47)の前進力による初期荷重を付与した状態で、上金型本体(31)と取付盤(48)とが組み付けられている。また、前記円形ピン(40)および扁平板(41)が上昇してピストンロッド(47)が退入すると、退入距離に応じた荷重が円形ピン(40)および扁平板(41)に付与される。従って、取付盤(48)は上金型(30)とともに昇降するが、円形ピン(40)および扁平板(41)に付与される副荷重(F1)(F2)は、主荷重(F)から独立してガスクッション(45)によって制御される。
前記第1副荷重(F1)および第2副荷重(F2)の値はガスクッション(45)の作動荷重の設定によって調節することができ、かつ円形ピン(40)および扁平板(41)それぞれにガスクッション(45)が装備されているので、これらも独立して荷重制御することができる。即ち、前記上金型本体(32)に付与する主荷重(F)、円形ピン(40)に付与する第1副荷重(F1)、5つの扁平板(41)に付与する5つの第2副荷重(F2)はそれぞれ独立した荷重に設定することができる。
前記下金型(10)と上金型(30)とは、前記円形ピン(40)および扁平板(41)が下金型(10)のセンターピン(16)および羽根部(13)の対応位置に存在するように配置されている。従って、図7に示すように、第1副荷重(F1)はセンターピン(16)の真上に付与され、第2副荷重は羽根部(13)の真上に付与される。主荷重(F)はセンターピン(16)および羽根部(13)以外の部分に付与される。また、本発明において、前記第1副荷重(F1)および第2副荷重(F2)は主荷重(F)よりも小さい値に設定されている。
次に、前記鍛造用金型を用い、図4のロータ(2)を製造するためにロータ素材(2)を鍛造する工程について図2(A)〜(D)、図7、図8を参照しつつ説明する。
(1)鍛造の準備段階(図2(A)参照)
下金型(20)および上金型(30)の所要部分に潤滑剤を塗布し、円柱形の鍛造用素材(49)をブッシュ(19)の装填穴(20)に装填する。前記鍛造用素材(49)は、連続鋳造材を所定長さに切断する等の方法により製作されたものであり、必要に応じて所定温度に加熱されている。前記潤滑剤としては、水性黒鉛潤滑剤、油性黒鉛潤滑剤等を例示でき、鍛造用素材(49)と金型(20)(30)との間でカジリが発生しないようにするには、水性黒鉛潤滑剤と油性黒鉛潤滑剤を併用することが好ましい。塗布量はそれぞれ2〜10g程度である。また、鍛造用素材(49)がアルミニウム合金の場合の予備加熱温度は400〜450℃が好ましい。
(2)上金型の降下(図2(B)参照)
上金型(30)を主荷重(F)で降下させて下金型(10)に装填された鋳造用素材(49)を鍛造すると、鍛造用素材(49)が成形孔(12)内に充填される過程で、主荷重(F)よりも小さい第1副荷重(F1)を付与された円形ピン(40)および第2副荷重を付与された扁平板(41)が押し上げられ、円形孔(35)および扁平孔(36)内に材料が流入する。上金型(30)の下降に伴って円形ピン(40)および扁平板(41)が上昇し、ピストンロッド(47)の退入距離が大きくなるに従って、円形ピン(40)に付与される第1副荷重(F1)および扁平板(41)に付与される第2副荷重(F2)が増大する。このようにして、鍛造用素材(49)に対し、円形ピン(40)および扁平板(41)以外の部分には主荷重(F)が付与されるのに対し、円形ピン(40)および扁平板(41)に対応する部分には主荷重(F)から独立した第1副荷重(F1)および第2副荷重(F2)が付与される。
図2(B)に示すように、前記円形ピン(40)および扁平板(41)に主荷重(F)よりも小さい第1副荷重(F1)および第2副荷重(F2)を付与することによって、円形ピン(40)および扁平板(41)が上昇し、円形孔(35)および扁平孔(36)内に材料が流れ込む。円形孔(35)および扁平孔(36)内に材料が流れ込むことによって、下金型(10)のセンターピン(16)および羽根部(13)にかかる力が緩和される。その結果、図7(B)に示すように、成形孔(12)の壁面と羽根部(13)との間のメタルフロー(α1)およびこのメタルフロー(α1)によって羽根部(13)を内方に変形させる力(α2)が緩和され、さらにセンター穴(3)成形時に外周に向かうメタルフロー(α3)が羽根部(13)を内方に変形させる力(α2)と逆方向に働くので、これらの力(α2)(α3)の均衡を保つことによって、センターピン(16)および羽根部(13)のたわみ変形およびねじれ変形を抑制することができる。
前記第1副荷重(F1)と第2副荷重(F2)の適正値はセンターピン(16)および羽根部(13)の体積に応じて適宜設定する。これらの体積が大きくなるほど材料の逃がし量が増えるので、羽根部(13)の体積が一定ならば、センターピン(16)の体積が大きくなるほど第1副荷重(F1)を小さくして円形孔(35)への流入量を増やすことで均衡を保つことができる。
(3)成形完了(図2(C)参照)
上述した過程を経て上金型(30)が下死点まで降下すると、ロータ素材(1)の成形が完了する。
(4)鍛造品の取り出し(図2(D)参照)
上金型(30)を上昇させ、ノックアウトピン(17)を上昇させて鍛造されたロータ素材(1)を突き出す。円形ピン(40)および扁平板(41)がロータ素材(1)から離れて下方からの力が取り除かれると、ガスクッション(45)のピストンロッド(47)が初期位置に復帰する。
上述した工程において、下金型(10)のセンターピン(16)および羽根部(13)のたわみ変形およびねじれ変形が抑制されるため、図3に示すロータ用素材(1)はセンター穴(3)およびベーン収納溝(4)の寸法精度が高いものとなり、かつ変形を抑制することで金型寿命が長くなる。しかも、羽根部(13)の変形防止のために鍛造品の外径を拡大する必要がないので、後加工で切除する部分がなく材料に無駄が生じない。
また、第1副荷重(F1)および第2副荷重(F2)を主荷重(F)よりも小さい値に設定したことで、円形ピン(16)および羽根部(13)が押しのける材料が流動し易くなっているため、上金型(30)を、円形孔(35)および扁平孔(36)に円形ピン(16)および羽根部(13)が食い込む高さまで降下させることができる。このため、下金型(10)と上金型(30)との間に形成される余肉部(5)(6)の厚さを薄くすることができる。しかも、第1副荷重(F1)および第2副荷重(F2)は個別に付与されるので、円形孔(3)上の余肉部(5)とベーン収納溝(4)上の余肉部(6)が個別に形成され、これらの余肉部(5)(6)の平面形状は円形ピン(40)および扁平板(41)の断面形状に対応したものとなる。従って、余肉部(5)(6)の体積を従来の鍛造品よりも小さくすることができ、材料歩留まりを向上させることができる。
前記ロータ素材(1)は余肉部(5)(6)を切除して図4に示すロータ(2)となる。
上述したロータ素材の製造方法において、主荷重(F)、第1副荷重(F1)、第2副荷重(F2)は、ロータ素材の形状および各部の寸法、材料組成、加工温度等に応じて適宜設定する。例えば、アルミニウムまたはアルミニウム合金製で直径40〜70mm、高さ30〜60mmのロータを製造する場合の設定値として、主荷重(F):270〜325MPa、第1副荷重(F1)および第2副荷重(F2):29〜89MPaを例示できる。
また、第1副荷重(F1)および第2副荷重(F2)を小さく設定しすぎると余肉部(5)(6)が破断するおそれがあり、逆に大きく設定しすぎるとのセンターピン(16)および羽根部(13)にかかる力を緩和させる効果が小さく、たおれ変形およびねじれ変形を抑制する効果が小さくなる。上述したようにアルミニウム合金製ロータ素材を鍛造する場合は29〜89MPaが好ましく、さらに39〜49MPaの範囲が好ましい。また、ガスクッション(45)のようなバネ式の副荷重付与手段では上金型(30)の下降に伴って第1副荷重(F1)および第2副荷重(F2)が増大するが、上記好適範囲の荷重は初期荷重である。
また、第1副荷重(F1)および第2副荷重(F2)を付与するための副荷重付与手段は限定されないが、上金型(30)の昇降に追従して荷重を付与できるものが好ましい。かかる観点で、ガスクッションのようなバネ式のものが好ましく、他の副荷重付与手段として、機械式バネ、油圧機構、ショックアブソーバを例示できる。
また、ロータ素材(1)における余肉部(5)(6)の平面形状は、センターピン(16)および羽根部(13)の周囲に幅(t):0.1〜3mmの拡大部を加えた形状が好ましい。換言すれば、上金型本体(31)の円形孔(35)とセンターピン(16)との間の隙間、および扁平孔(36)と羽根部(13)との間の隙間が0.1〜3mmとなるように、前記円形孔(35)および扁平孔(36)を設定することが好ましい。前記幅(t)が0.1mm未満では鍛造時に材料流れが悪くなって余肉部(5)(6)が破断するおそれがあり、破断によって変形防止効果も低下するおそれがある。3mmを超えると、上金型(30)の円形孔(35)と扁平孔(36)が干渉し合うおそれがある。特に好ましい隙間は1〜2mmである。
〔実施例〕
図1および図2に示した鍛造用金型(10)(30)を用いて図3に示すロータ用素材(1)を鍛造した。前記ロータ素材(1)は、図4に示すアルミニウム合金製ロータ(2)を製作するための素材である。
前記ロータ(2)において、外径:52mm、高さ:50mm、センター穴(3)の直径:
10mm、ベーン収納溝(4)の数:5、溝幅:3mm、溝の深さ:15mm、オフセット寸法(U):10mmである。また、前記鍛造用金型において、上金型本体(31)の円形孔(35)と下金型本体(11)センターピン(16)との間の隙間、および扁平孔(36)と羽根部(13)との間の隙間はそれぞれ2mmである。また、材料合金はA390である。
そして、400℃に加熱した鍛造用素材(49)を下金型(10)に装填し、以下の成形荷重を付与してロータ素材(1)を鍛造した。この鍛造中に第1副荷重(F1)および第2副荷重(F2)が増大し、最終荷重はそれぞれの初期荷重の1.5倍であった。
主荷重(F)=325MPa
第1副荷重(F1)の初期荷重:32.9MPa(4.0kg/mm
第2副荷重(F2)の初期荷重:44.1MPa(4.5kg/mm
鍛造したロータ素材(1)は余肉部(5)(6)を切除してロータ(2)とした。
上記条件で30個のロータ素材(1)を鍛造してロータ(2)を製作し、センター穴(3)およびベーン収納溝(4)の寸法精度を調べた。センター穴(3)は高さ方向の上下で設計上の中心からのずれを測定し、上下の変形量の差により同軸度を評価した。また、ベーン収納溝(4)は高さ方向の上下でオフセット寸法(U)を測定し、上下のオフセット寸法(U)の差により変形量を評価した。表1に、これらの結果を表1に示す。
また、鍛造用素材(49)に対するロータ(2)の材料歩留まり(ロータ(2)の重量/鍛造用素材(49)の重量×100)は82.9%であった。
〔比較例〕
図9(A)(B)(C)に示す鍛造用金型を用いて、実施例と同じアルミニウム合金製のセンター穴のないロータ素材(59)を成形荷重:325MPaで鍛造し、後加工によりセンター穴(3)を形成した。
また、ベーン収納溝(4)の寸法精度を確保するためにロータ素材(59)の外径を2mm拡大し、後加工により外周部を切削して実施例と同じ外径のロータを製作した。
上記条件で30個のロータを製作し、実施例と同じ方法で寸法精度を調べ、その結果を表1に示す。
また、鍛造用素材(49)に対するロータ(2)の材料歩留まりは68.1%であった。
Figure 0005010407
以上のように、下金型のセンターピンおよび羽根部に付与する副荷重を主荷重よりも小さく設定することで、寸法精度の良いロータを製作でき、かつ材料歩留まりも向上させることができた。
本発明によれば、寸法精度の良いロータ素材を低コストで鍛造できるので、コンプレッサー等のロータの製造に適用できる。
本発明のロータ素材鍛造用金型の一実施形態を示す分解斜視図である 図1の鍛造用金型を用いてロータ素材を鍛造する工程を示す模式的断面図であり、(A)は鍛造の準備段階、(B)は上金型の降下中の状態、(C)は成形完了時の状態、(D)は鍛造したロータ素材の排出を示している。 図1の鍛造用金型を用いて鍛造したロータ素材の斜視図である。 図3のロータ素材から製作したロータの斜視図である。 図3のロータにおいてベーン収納溝のオフセット量を示す図である。 上金型の組み立て斜視図である。 (A)は下金型への荷重付与状態を示す部分切欠斜視図であり、(B)は鍛造過程におけるメタルフローを示す図である。 (A)は図3のロータ素材の平面図であり、(B)は(A)における8B−8B線断面図である。 ロータ素材を鍛造する従来の工程を示す模式的断面図である。 (A)は従来の鍛造過程におけるメタルフローを示す図であり、(B)は下金型の部分切欠斜視図である。 従来の鍛造用金型の部分断面図である。 (A)は従来のロータ用素材の平面図であり、(B)は(A)における12B−12B線断面図である。
符号の説明
1…ロータ素材
2…ロータ
3…センター穴
4…ベーン収納溝
10…下金型(ロータ素材鍛造用金型)
11…下金型本体
12…成形孔
13…羽根部
16…センターピン
30…上金型(ロータ素材鍛造用金型)
31…上金型本体
35…円形孔(孔)
36…扁平孔
40…円形ピン(ピン)
41…扁平板
45…ガスクッション(副荷重付与手段)

Claims (10)

  1. 下金型と成形用の荷重を付与する上金型とを備え、センター穴を有する円筒体の外周部に軸線に平行なベーン収納溝を有するロータ素材を鍛造する金型であって、
    前記下金型は、成形孔内に突出するベーン収納溝成形用の羽根部と、成形孔の中心に配置されるセンター穴成形用のセンターピンとを有し、
    前記上金型は、前記下金型のセンターピンおよび羽根部以外の部分に主荷重を付与する上金型本体と、前記上金型本体に穿設された孔に進退自在に嵌入されて前記センターピンに第1副荷重を付与するピンと、前記上金型本体に穿設された孔に進退自在に嵌入されて前記羽根部に第2副荷重を付与する扁平板とを有することを特徴とするロータ素材鍛造用金型。
  2. 前記ピンの上部に設けられて第1副荷重を付与するための副荷重付与手段、および前記扁平板の上部に設けられて第2副荷重を付与するための副荷重付与手段を備える請求項1に記載のロータ素材鍛造用金型。
  3. 前記副荷重付与手段はガスクッションである請求項2に記載のロータ素材鍛造用金型。
  4. 前記上金型本体の孔と下金型のセンターピンとの間の隙間が0.1〜3mmであり、前記上金型本体の扁平孔と下金型の羽根部との間の隙間が0.1〜3mmである請求項1〜3のいずれかに記載のロータ素材鍛造用金型。
  5. センター穴を有する円筒体の外周部に軸線に平行なベーン収納溝を有するロータ素材を、成形孔内に突出するベーン収納溝成形用の羽根部と、成形孔の中心に配置されたセンター穴成形用のセンターピンとを有する下金型と、成形用荷重を付与するための上金型とを用いて鍛造する方法であって、
    前記上金型において、前記下金型のセンターピンおよび羽根部以外の部分に付与する主荷重に対し、前記センターピンに主荷重よりも小さい第1副荷重を付与するとともに、前記羽根部に主荷重よりも小さい第2副荷重を付与することを特徴とするロータ素材の鍛造方法。
  6. 前記第1副荷重および第2副荷重はそれぞれ29〜89MPaである請求項5に記載のロータ素材の鍛造方法。
  7. 前記第1副荷重および第2副荷重を独立して制御する請求項5または6に記載のロータ素材の鍛造方法。
  8. 前記センターピンの断面積が大きいほど第1副荷重を小さくする請求項7に記載のロータ素材の鍛造方法。
  9. 請求項1〜4のいずれかに記載のロータ素材造用金型を用い、上金型本体により主荷重を付与し、ピンにより第1副荷重を付与し、扁平板により第2副荷重を付与する請求項5〜のいずれかに記載の記載ロータ素材の鍛造方法。
  10. 前記ロータ素材はアルミニウムまたはアルミニウム合金製である請求項5〜9のいずれかに記載の記載ロータ素材の鍛造方法。
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