JP5008852B2 - トリシクロデカン誘導体の異性体混合物 - Google Patents

トリシクロデカン誘導体の異性体混合物 Download PDF

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本発明は、新規なトリシクロデカン誘導体の異性体混合物に関する。
少なくとも2種の成分を含み、第1の成分の少なくとも一部がジオキシメチルトリシクロ[5.2.1.02,6]デカンのジ(メタ)アクリレートからなり、第2の成分がラジカル生成剤又は光照射によるラジカル生成化合物からなり、必要に応じて充填剤、安定剤、顔料を混和した充填補綴用の歯科用材料が提案されている(特許文献1特許請求の範囲1)。
上記の第1の成分の構成成分であるトリシクロデカンのジ(メタ)アクリレートは、ジオキメチルトリシクロデカンと遊離アクリル酸とを所要の触媒の存在下で反応させてエステル化するか、或いはジオキメチルトリシクロデカンとメタクリル酸メチルエステル等の低級アルコールのアクリル酸エステルとのエステル交換反応により、合成される(特許文献1第3頁第5欄第3〜9行)。このトリシクロデカンのジ(メタ)アクリレートは、歯科材料用として特に好適な重合性成分であり、寸法安定性の良い重合体を与えるとのことである(特許文献1第2頁第4欄第5〜13行)。
また、下記化1で表される2−メタクリロイルオキシエチルリン酸が、歯科材料用の接着性単量体として、「ライトエステルP−2M」(共栄社化学製)、「カヤマーPM」(日本化薬製)等の商品名で上市されている。
Figure 0005008852
特公昭63−1281号公報
特許文献1に記載されているトリシクロデカンのジ(メタ)アクリレートは、ビス(ヒドロキシメチル)−トリシクロ[5.2.1.02,6]デカンの2個の水酸基がいずれも(メタ)アクリレート化されていて、リン酸基を有しない。このため、この重合性単量体は、その重合体(硬化物)の歯科被着体(陶材、象牙質など)に対する接着性が極めて低く、接着性重合性単量体としては使用し得ない。
一方、2−メタクリロイルオキシエチルリン酸は、エチレングリコールの2個の水酸基のうちの一方の水酸基がメタクリレート化され、他方の水酸基がリン酸エステル化された構造を有し、重合性基のみならずリン酸基(ホスホノ基)を有する。しかしながら、2−メタクリロイルオキシエチルリン酸は、これを歯科用接着剤として用いた場合は、歯質、特に象牙質に対する接着力が不充分である。
本発明は以上の事情に鑑みなされたものであって、その目的とするところは、新規なトリシクロデカン誘導体の異性体混合物を提供することにある。
上記の目的を達成するための請求項1記載の発明に係るトリシクロデカン誘導体の混合物は、3,8−、4,8−、又は3,9−ビス(ヒドロキシメチル)−トリシクロ[5.2.1.02,6]デカンの2個の水酸基のうちのいずれか一方の水酸基を(メタ)アクリル酸エステル化し、次いで他方の水酸基をリン酸エステル化して得られた異性体混合物である。
請求項2記載の発明に係る異性体混合物は、4,8−ビス(ヒドロキシメチル)−トリシクロ[5.2.1.02,6]デカンの2個の水酸基のうちのいずれか一方の水酸基を(メタ)アクリル酸エステル化し、次いで他方の水酸基をリン酸エステル化して得られた、4−(メタ)アクリロキシ−8−ホスホノ−トリシクロ[5.2.1.02,6]デカンと4−ホスホノ−8−(メタ)アクリロキシ−トリシクロ[5.2.1.02,6]デカンとを含有する異性体混合物である。
請求項3記載の発明に係る重合性組成物は、請求項1又は2記載の異性体混合物を含有する。
請求項4記載の発明に係る歯科用重合性組成物は、請求項1又は2記載の異性体混合物を含有する。
新規なトリシクロデカン誘導体の異性体混合物が提供される。本発明に係るトリシクロデカン誘導体の異性体混合物の用途は特に限定されない。それらの硬化物の陶材、象牙質などに対する接着性が極めて高い。したがって、例えば、歯科用プライマー、歯科用接着剤等の歯科用重合性組成物に配合する接着性重合性単量体又はその異性体混合物として有用である。
以下、本発明の実施形態について説明する。本発明に係るトリシクロデカン誘導体の異性体混合物は、3,8−、4,8−、又は3,9−ビス(ヒドロキシメチル)−トリシクロ[5.2.1.02,6]デカンの2個の水酸基のうちのいずれか一方の水酸基を(メタ)アクリル酸エステル化し、次いで他方の水酸基をリン酸エステル化することにより得られた、3,8−、4,8−、又は3,9−ビス(ヒドロキシメチル)−トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン骨格の3位又は4位の水酸基が(メタ)アクリル酸エステル化され、かつ同骨格の8位又は9位の水酸基がリン酸エステル化されたトリシクロデカン誘導体と、同骨格の8位又は9位の水酸基が(メタ)アクリル酸エステル化され、かつ同骨格の3位又は4位の水酸基がリン酸エステル化されたトリシクロデカン誘導体とを含有する異性体混合物である。
好ましいトリシクロデカン誘導体の異性体混合物としては、4,8−ビス(ヒドロキシメチル)−トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン骨格の4位の水酸基が(メタ)アクリル酸エステル化され、かつ同骨格の8位の水酸基がリン酸エステル化されたトリシクロデカン誘導体と、同骨格の8位の水酸基が(メタ)アクリル酸エステル化され、かつ同骨格の4位の水酸基がリン酸エステル化されたトリシクロデカン誘導体とを含有する異性体混合物が挙げられる。
本発明におけるトリシクロデカン誘導体は、(メタ)アクリル酸エステル基((メタ)アクリレート基)を一種類含有するものであってもよく、二種類以上を含有するものであってもよい。(メタ)アクリル酸エステル基としては、一般式CH2 =C(R1)−C(=O)−O−〔式中、R1は水素原子、置換基を有することがあるアルキル基又はシアノ基を表す〕で表されるものが好ましい。本発明に係るトリシクロデカン誘導体の異性体混合物は、歯科用接着剤の接着性成分として特に好ましい。その用途に使用する場合は、トリシクロデカン誘導体の重合体を含む皮膜の強度および皮膜と基材(被着体)の接着性の点で、上記の一般式で表される(メタ)アクリル酸エステル基の中でも、(メタ)アクリレート基及びシアノアクリレート基がより好ましく、(メタ)アクリレート基が最も好ましい。
また、本発明におけるトリシクロデカン誘導体は、リン酸エステル基を含有する。リン酸エステル基としては、リン酸エステル基(I):R3O−P(=O)(−OR4)−O−〔式中、R3およびR4は、各独立して、水素原子、置換基を有することあるアルキル基、置換基を有することあるシクロアルキル基、置換基を有することあるアリール基又は置換基を有することあるアラルキル基を表す。〕又はホスホン酸エステル基(II):R5 O−P(=O)(−OR6 )−〔式中、R5 およびR6 は、各独立して、水素原子、置換基を有することがあるアルキル基、置換基を有することがあるシクロアルキル基、置換基を有することがあるアリール基又は置換基を有することがあるアラルキル基を表す。〕が挙げられる。本発明におけるリン酸エステル基としては、接着性および長期保存安定性の点で、R3およびR4が共に水素原子であるリン酸基又はR5 およびR6 が共に水素原子であるホスホン酸基が好ましく、R3およびR4が共に水素原子であるリン酸基が最も好ましい。
(メタ)アクリル酸エステル基は連結基X1を介してトリシクロデカン骨格に結合し、リン酸エステル基は連結基X2 を介してトリシクロデカン骨格に結合する。連結基X1および連結基X2 としては、炭素数1〜10の2価の有機基が好ましい。連結基X1および連結基X2 は互いに同一であってもよく、異なっていてもよい。上記炭素数1〜10の2価の有機基の好適な具体例を化2に示す。
Figure 0005008852
上記の中でも、連結基X1および連結基X2 としては、化学式―(CH2i―〔式中のiは1〜10の整数〕で表される2価の有機基が好ましく、式中のiが1〜4の整数の2価の有機基がより好ましく、原料の入手が容易であるなどの点で、メチレン基(i=1)が最も好ましい。
一般的なリン酸エステル基含有化合物の合成方法については、いくつかの方法が公知である。例えば、リン酸又はその活性な誘導体とアルコールとのエステル化反応が公知である。その具体例としては、五酸化リンとアルコールとの反応が挙げられる。本発明におけるトリシクロデカン誘導体は、不飽和カルボン酸エステル基およびリン酸エステル基をそれぞれ少なくとも1個含有する。本発明に係るトリシクロデカン誘導体の合成方法としては、着色の原因となる物質やイオン性物質の混入を可及的に抑制し得る合成プロセスを採用することが望ましい。こういった観点から、水酸基を2個以上有するトリシクロデカン骨格を有する化合物を、(メタ)アクリル酸誘導体を用いて、少なくとも1個の水酸基を残して(メタ)アクリル酸エステル化を行うことにより得た水酸基を少なくとも1個有する(メタ)アクリレート化合物を原料とし、この(メタ)アクリレート化合物の水酸基を、オキシハロゲン化リンを用いてリン酸エステル化する方法が好ましい方法として挙げられる。この方法の中でも特に経済的で、しかも簡便な方法は、オキシハロゲン化リンとしてオキシ塩化リンを用いる方法である。この方法は、オキシ塩化リンと水酸基を有する(メタ)アクリレート化合物とを、トリエチルアミンなどの三級アミンを脱塩化水素試薬として加えて反応させ、次いで水を加えてP−Cl結合を加水分解してリン酸基として、目的とするトリシクロデカン誘導体を得る方法である。
原料に用いる水酸基を2個以上有するトリシクロデカン骨格を有する化合物は、下記化3で表されるビス(ヒドロキシメチル)−トリシクロ[5.2.1.02,6]デカンである。
Figure 0005008852
ビス(ヒドロキシメチル)−トリシクロ[5.2.1.02,6]デカンの通常の製造方法では、3位又は4位のいずれかの位置に1個のヒドロキシメチル基と、8位又は9位のいずれかの位置に1個のヒドロキシメチル基を有するジオール体が得られる。例えば、Aldrich社からは、4,8−ビス(ヒドロキシメチル)−トリシクロ[5.2.1.02,6]デカンが販売されている。この化合物は、本発明に係るトリシクロデカン誘導体の異性体混合物を合成する際の出発物質として好適である。
以下、本発明におけるトリシクロデカン誘導体の合成方法、特にリン酸モノエステルの合成方法を中心に、トリシクロデカン骨格を有するジオール体を出発物質として用いる場合を例にして、そのプロセス毎に順を追って詳述する。
(A)(メタ)アクリル酸モノエステルの合成
(メタ)アクリル酸とジオールとのエステル化反応を、無溶媒で、又はベンゼン、トルエン、ハロゲン化ベンゼン等の不活性溶媒中で、酸触媒存在下にて130°C以下で行い、(メタ)アクリル酸モノエステルを合成する。ここで(メタ)アクリル酸に対するジオールの仕込み量が極端に少ない場合は、最終的に不要となる(メタ)アクリル酸ジエステルが副生しやすくなり、(メタ)アクリル酸エステル混合物中のモノエステル/ジエステルのモル比が2以下になりやすくなるので好ましくない。このため、(メタ)アクリル酸1モルに対するジオールの仕込み量は1〜5モルが好ましく、1〜3モルがより好ましい。
酸触媒としては、硫酸、スルホン酸、p−トルエンスルホン酸、リン酸等の強酸を用いる。酸触媒は、全仕込み量に対して0.1〜15重量%加える。また、エステル化反応中の重合を防止するために、ハイドロキノンモノメチルエーテル(MEHQ)、ハイドロキノン、2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール(BHT)などの重合禁止剤もしくは重合抑制剤を(メタ)アクリル酸に対して50〜10000ppm加える。さらに、空気又は酸素を反応液に吹き込み、重合防止を図るが、反応温度が130°Cを超えるとなお重合する危険がある。従って、130°C以下、好ましくは100°C以下で反応を行うのが好ましい。反応は常圧で行ってもよいが、生成水の留出を促して反応の進行を早めるために減圧下で行ってもよい。
反応中の混合物は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)又はガスクロマトグラフィー(GC)などの分析手段を用いて逐次追跡する。反応開始と同時に(メタ)アクリル酸のモノエステルとジエステルの生成が始まるが、反応初期の段階ではモノエステルの生成速度が速く、反応が進むにつれて逆にジエステルの生成速度が速くなる。
上記の反応で得られた反応混合物は、目的とする(メタ)アクリル酸モノエステルの他、副生物である(メタ)アクリル酸ジエステルおよび未反応のジオールを含む。この反応混合物中に含まれる未反応のジオールは、未反応のジオールを溶解しない無極性の有機溶剤(n−ヘキサン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエンなど)を用いて、反応液を2〜10倍に希釈して、析出してくるジオールを濾別することにより除去できる。この方法による濾別が困難な場合は、次に述べる方法を使用する。すなわち、上記有機溶媒で反応液を希釈することにより、ジオールを含む油状物質が容器底部に沈降する。そこで、その油状物質を含まないように、(メタ)アクリル酸モノエステルおよび(メタ)アクリル酸ジエステルが溶解した有機溶媒のみをデカンテーションによって、別の容器に移す。この操作を複数回繰り返すことによって、未反応のジオールを反応混合物から除去することができる。なお、この未反応のジオールは回収して原料として再使用することも可能である。
副生した(メタ)アクリル酸ジエステルは、各種溶剤に対する溶解性が(メタ)アクリル酸モノエステルと類似しているので、有機溶媒に対する溶解性の相違を利用した上記の方法では分離が困難である。したがって、モノエステルはジエステルとの混合物として次の工程で使用されることになる。
ジオールを除去して得られた、(メタ)アクリル酸モノエステルおよび(メタ)アクリル酸ジエステルを含む溶液は、必要に応じて活性炭などを用いて脱色処理を行ってもよい。さらに脱色処理と同時に、硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、モレキュラーシーブ等の乾燥剤を投入して脱水操作を行ってもよい。以上の操作で配合した有機溶媒、脱色剤および乾燥剤は、全ての操作が終了した後に除去する。
なお、(メタ)アクリル酸モノエステルは、ジオールと(メタ)アクリル酸とのエステル化反応だけでなく、ジオールと(メタ)アクリル酸メチルとのエステル交換反応、ジオールと(メタ)アクリル酸クロリドの脱塩化水素縮合などによっても合成できる。例えば、(メタ)アクリル酸メチル又は(メタ)アクリル酸クロリド1モル量に対してジオールを1〜5倍モル量反応させ、(メタ)アクリル酸メチル又は(メタ)アクリル酸クロリドの反応率を60〜90%にすることによって、(メタ)アクリル酸モノエステルを合成することができる。
(B)リン酸モノエステルの合成
先の工程(A)で未反応のジオールを除去した後、本工程(B)で(メタ)アクリル酸モノエステルの水酸基をリン酸エステル化する。基本的には多数存在する公知技術のいずれを利用しても良いが、簡単で収率の良い方法としてオキシ塩化リン(P(O)Cl3)を利用する次に示す方法がある。この工程(B)は次に示す(i)および(ii)の二段階に分けられる。
(i)−P(O)Cl2基を有する化合物(リン酸モノエステル塩化物)の合成(アミンの第一滴下工程)
反応式を下式(m)に示す。
X−O−R−OH+P(O)Cl3
→X−O−R−O−P(O)Cl2+HCl …(m)
〔式中、X−O−R−OHは(メタ)アクリル酸モノエステルを、Xは(メタ)アクリロイル基を、Rはトリシクロデカン骨格を有する有機残基を、それぞれ表す。〕
上式(m)に示すように、(メタ)アクリル酸モノエステルにオキシ塩化リンを反応させる。(メタ)アクリル酸モノエステルは純度の高いものを用いることが好ましい。上記(A)で合成した(メタ)アクリル酸モノエステルと(メタ)アクリル酸ジエステルとの混合物を用いてもよい。反応温度は、0°C以上ではリン酸ジエステルが副生しやすくなり、一方−60°C以下では反応速度が著しく遅くなる。したがって、反応速度は−60〜0°Cが好ましく、−50〜−10°Cがより好ましい。
上式(m)の反応においては、生成する塩化水素を回収するために、反応助剤としてアミン化合物を加える。アミン化合物としては、塩基性が強く塩酸塩を生成しやすい点で、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ピリジン等の第三級アミンが好ましく、中でも、精製の際に容易に除去できる点でトリエチルアミンが特に好ましい。
オキシ塩化リンおよびアミン化合物をあまり多量に使用すると、イオン性物質が増加して最終生成物であるリン酸モノエステルの保存安定性が低下する原因となるので、それぞれ(メタ)アクリル酸モノエステルに対して等モル量乃至若干過剰量を使用することが好ましい。
具体的には、−60〜0°Cにおいて、上記工程(A)で合成した(メタ)アクリル酸のモノエステルとジエステルの混合物に、混合物中のモノエステル1モルに対してオキシ塩化リン1〜2モルと、アミン化合物、好ましくはトリエチルアミン1〜1.2モルとを反応させる。
オキシ塩化リンをエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、酢酸エチル、ジクロロメタン、クロロホルム、ベンゼン等の溶媒で希釈して、好ましくは−50〜−10°Cに保つ。(メタ)アクリル酸モノエステルおよびアミン化合物を、そのままか、或いはエーテル等の溶剤で希釈して、上記のオキシ塩化リンに加える。この時、(メタ)アクリル酸モノエステル、アミン化合物の順に加えても良いが、両者を混合した後、加えてもよい。両者を加えた後も−50〜−10°Cに保ち、30〜60分間攪拌を続ける。この段階で、上式(m)中の化学式X−O−R−O−P(O)Cl2で表されるリン酸モノエステル塩化物が生成する。
(ii)リン酸モノエステル塩化物の加水分解によるリン酸モノエステルの合成(アミン第二滴下工程)
反応式を下式(n)で示す。
X−O−R−O−P(O)Cl2+H2
→X−O−R−O−P(O)(OH)2+2HCl…(n)
〔式中、X、Rは上式(m)におけると同義である。)
上式(n)に示すように、リン酸モノエステル塩化物(X−O−R−O−P(O)Cl2)を加水分解してリン酸モノエステルを合成する。この反応を円滑に進めるためにアミン第一滴下工程よりも反応温度を上げる必要がある。しかし、あまり高温にしすぎると反応生成物の制御ができなくなる。好ましくは20°C以下、より好ましくは0〜10°Cで反応させる。水はオキシ塩化リンに対して過剰に加える。極端に多いと反応溶液が不均一になる恐れがある。オキシ塩化リン1モルに対して3〜30モル程度加えることが好ましい。
上式(n)の反応においても、生成する塩化水素を回収するためにアミン化合物を加える。アミン化合物は上式(m)の反応における理由と同様の理由でトリエチルアミンを使用するのが好ましい。第一滴下工程および第二滴下工程におけるアミン化合物の総量がオキシ塩化リン1モルに対して2.5〜2.9倍モル量となるように加える。また、水とアミンは順次添加してもよく、水とアミンの混合液を滴下してもよい。
この段階で、目的物であるリン酸モノエステルが生成するが、副生した塩化水素と反応したアミンの塩が含まれている。また、アミンの第一滴下工程の(メタ)アクリル酸モノエステルを(メタ)アクリル酸ジエステルとの混合物として上式(n)の反応をさせた場合は、反応混合物中には、(メタ)アクリル酸ジエステルも不純物として混入している。
(C)リン酸モノエステルの精製工程
上記工程(B)の(i)及び(ii)の段階を経て得た反応混合物中には、リン酸モノエステルとアルカリ金属やアミンとの塩、アミン塩酸塩、塩酸、リン酸等のイオン性物質が含まれている。特にリン酸モノエステルの塩は最も多量に存在している。
上記のイオン性物質を除去する場合、反応が進行するにつれて析出するアミン塩については、加水分解後に濾過で取り除くことができる。この外、シリカゲル等を担体としたカラムクロマトグラフィーによる精製分離や、活性炭やモレキュラーシーブ等の吸着剤を作用させる方法によっても取り除くことができる。しかしながら、イオン性物質を多量に含んだ反応混合物からイオン性物質を除去するための最も簡便で経済的な方法は、水洗を行うことによりイオン性物質を水層に抽出除去する方法である。例えば、エーテルやトルエンなどの有機溶剤にリン酸モノエステルを溶かし、得られた溶液に蒸留水を加えて攪拌、振とうしてイオン性物質を水層に抽出して除去する汎用されている方法がある。また、これに類似の方法として、反応混合物を大過剰の水と共に長時間攪拌して分散させ、得られた混濁液に有機溶剤を加えて、リン酸モノエステルだけを有機層に抽出する方法がある。水を用いてイオン性物質を抽出除去するこれらの方法においては、低濃度の強酸の水溶液で同様な抽出操作を行った後に、蒸留水で洗浄すると効果的である。この理由は、リン酸モノエステル中の陽イオンはリン酸モノエステルのリン酸基の塩として取り込まれており、強酸を加えることにより上記陽イオンが解離して水層に移行しやすくなるためと推察される。但し、この方法では、用いた強酸を後で十分除去しなければならない。常温で気体の塩酸等の酸を用いると、有機溶剤を減圧で留去する際に塩酸も同時に蒸散除去することができるので好都合である。
上述のイオン性物質の除去を行った後に、有機溶媒を留去する。この留去の際、必要に応じてBHT等の重合禁止剤を添加する。留去は、加熱のみ、減圧のみ、加熱と減圧の併用のいずれの雰囲気で行ってもよいが、リン酸モノエステルの分解を可及的に抑えて効率良く留去ができる点で、常温において減圧下で溶媒留去する方法が好ましい。また、必要に応じて留去の最終段階で減圧のまま40〜60°Cで留去することにより、加水分解で副生した塩化水素を短時間で除去することができる。
以上のようにして得られたトリシクロデカン骨格を有するリン酸モノエステルは、上記工程(A)で副生した(メタ)アクリル酸ジエステルを含む。この副生した(メタ)アクリル酸ジエステルを除去する方法は特に限定されない。例えば、シリカゲル等を担体としたカラムクロマトグラフィーによる精製分離などによって除去できるが、操作が簡便であるなどの点で、次の方法が好ましい。すなわち、(メタ)アクリル酸ジエステルは溶解するが、リン酸モノエステルは溶解せず、非極性の有機溶剤(n−ヘキサン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエンなど)を加えて、反応液を2〜10倍に希釈する。この希釈操作によって、リン酸モノエステルを含む油状物質が容器底部に沈降するので、その油状物質を含まないようにして、(メタ)アクリル酸ジエステルが溶解した有機溶媒のみをデカンテーションにより除去する。この操作を複数回繰り返すことによって、未反応のジオールを反応混合物から除去することができる。以上の操作を行うことにより、目的とする本発明におけるトリシクロデカン誘導体を単離精製することができる。
上述のとおり、本発明におけるトリシクロデカン誘導体は、ビス(ヒドロキシメチル)−トリシクロ[5.2.1.02,6]デカンを出発物質として合成される。通常の製造方法で得られるビス(ヒドロキシメチル)−トリシクロ[5.2.1.02,6]デカンは、3位又は4位のいずれかに1個のヒドロキシメチル基を有し、8位又は9位のいずれかに1個のヒドロキシメチル基を有するジオール体である。このジオール体を上述の工程(A)((メタ)アクリル酸モノエステルの合成)に用いた場合は、(メタ)アクリル酸とヒドロキシメチル基のエステル化反応は、3位又は4位のいずれかに結合した1個のヒドロキシメチル基と、8位又は9位のいずれかに結合した1個のヒドロキシメチル基とのいずれに対しても進行し、通常の合成方法では、選択性を有さない。このため、上述の方法で本発明のトリシクロデカン誘導体を合成することにより、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン骨格の3位又は4位に(メタ)アクリレート基が結合し、かつ同骨格の8位又は9位にリン酸エステル基が結合したトリシクロデカン誘導体と、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン骨格の8位又は9位に(メタ)アクリレート基が結合し、かつ同骨格の3位又は4位にリン酸残基が結合したトリシクロデカン誘導体との混合物である本発明に係る異性体混合物が得られる。特に、出発物質として、4,8−ビス(ヒドロキシメチル)−トリシクロ[5.2.1.02,6]デカンを用いた場合は、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン骨格の4位に(メタ)アクリレート基が結合し、かつ同骨格の8位にリン酸エステル基が結合したトリシクロデカン誘導体と、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン骨格の8位に(メタ)アクリレート基が結合し、かつ同骨格の4位にリン酸エステル基が結合したトリシクロデカン誘導体との混合物である、4−(メタ)アクリロキシ−8−ホスホノ−トリシクロ[5.2.1.02,6]デカンと4−ホスホノ−8−(メタ)アクリロキシ−トリシクロ[5.2.1.02,6]デカンとの異性体混合物が得られる。
本発明に係るトリシクロデカン誘導体の異性体混合物は、既述したように、シリカゲル等を担体としたカラムクロマトグラフィーなどにより精製分離を行うことが可能であるが、異性体混合物のまま各種用途に供することも可能である。トリシクロデカン骨格を含有する化合物は環状構造を有しているので分子の自由度が小さく立体規則性に優れるため、一般に結晶化しやすい。このため、この化合物を含む各種製品は、その形態が液状の場合は、長期間保存しているうちにトリシクロデカン骨格を含有する化合物が結晶化して析出してしまうことがある。かかる析出は、製品の品質の安定性を損なうばかりでなく、ノズル部の詰まりなど、トラブルの原因となることがある。これに対して、異性体混合物のままで用いた場合は、化合物の立体規則性が崩れ、結晶化が抑制されるので、上述の問題を回避できるという利点がある。
本発明に係るトリシクロデカン誘導体の異性体混合物は重合性組成物の重合性成分として好ましく用いられる。中でも、接着剤組成物、特に歯科用重合性組成物の主剤として有用である。本発明に係るトリシクロデカン誘導体の異性体混合物は、単独で歯科用接着性プライマー又は歯科用接着剤として用い得るが、粘度の調整あるいは硬化物の機械的強度の向上やその他の物性の調節のために、本発明におけるトリシクロデカン誘導体と共重合可能な他の重合性単量体を本発明に係る異性体混合物に混合して、歯科用重合性組成物として用いることもできる。また、リン酸エステル基と(メタ)アクリレート基を併有する機能が期待される他の歯科用材料にも使用される。さらに、各種の工業用接着剤の成分やフォトレジスト単量体としても使用される。
本発明におけるトリシクロデカン誘導体と共重合可能な重合性単量体としては、公知のものを特に制限なく用いることができる。通常、(メタ)アクリレート系モノマーが好適に用いられる。好適な(メタ)アクリレート系モノマーとしては、メチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸、4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシカルボニルフタル酸無水物等の単官能性(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAグリシジルジ(メタ)アクリレート(通称Bis−GMA)、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート2モルと2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネートの付加物(通称UDMA)等の二官能性(メタ)アクリレート、トリメチロールメタントリ(メタ)アクリレート等の三官能性(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート2モルと2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート1モルとの付加物等の四官能性(メタ)アクリレートが例示される。
本発明に係る歯科用重合性組成物には、その用途に応じて、公知の重合開始剤をさらに添加してもよい。例えば、加熱重合を行う場合には、ベンゾイルパーオキサイドなどを、常温重合(化学重合)を行う場合には、ベンゾイルパーオキサイド/アミン系、有機スルフィン酸又はその塩/アミン/過酸化物系等のレドックス(酸化還元)系触媒などを添加してもよい。
また、光重合を行う場合は、本発明に係る歯科用重合性組成物に、光重合開始剤を添加してもよい。光重合触媒としては、α−ジケトン/還元剤の外、ベンジルジメチルケタール、アシルホスフィンオキサイド等の紫外線重合触媒が例示される。
本発明に係る歯科用重合性組成物は、重合開始剤を配合したものに限定されない。例えば、齲蝕部を除去して形成した窩洞面に本発明に係る歯科用重合性組成物をプライマーとして塗布し、その塗布面上に重合開始剤を含有するコンポジットレジンを塗布充填し、重合硬化させて治療を行う方法では、本発明に係る歯科用重合性組成物に重合開始剤が含まれていなくても、コンポジットレジンに含まれる重合開始剤が重合性組成物層に移行するか、或いはコンポジットレジンが重合する際に生じたラジカルが重合性組成物層に移行して、重合性組成物が重合硬化し、これにより接着作用が発現される。
本発明に係る歯科用重合性組成物の用途としては、歯科用プライマー、歯科用接着剤、歯科用セメント、小窩裂溝填塞材、歯科用コンポジットレジン、義歯床用レジンが例示される。
歯科用接着剤としては、本発明に係るトリシクロデカン誘導体の異性体混合物と、(メタ)アクリレート系モノマーと、公知の重合開始剤とを含む液体状の重合性組成物が例示される。中でも、水と親水性の(メタ)アクリレート系モノマーとが配合された均一な重合性組成物は、特に象牙質に対して優れた接着性を発現するセルフエッチング型のプライマーとして有用である。
歯科用コンポジットやセメントとして用いる場合は、本発明に係る歯科用重合性組成物に、フィラーを配合することが好ましい。
フィラーとしては、シリカ、シリカを主成分とするガラス(バリウムボロアルミノシリケートガラス、ストロンチウムボロアルミノシリケートガラス、フルオロアルミノシリケートガラスなど)、アルミナ等の無機フィラー、ポリメチルメタクリレート等の有機物の粉末、有機無機複合フィラーが例示される。
本発明に係る歯科用重合性組成物にフィラーを配合する場合は、モノマー組成物(液状)にフィラー(粉末)を混合してペースト状の1液型の組成物としてもよく、フィラーとモノマー組成物のそれぞれに酸化剤と還元剤を配合した2液型とし、使用する直前に両液を混和して触媒を活性化し化学重合を起こさせるようにしてもよい。
本発明に係る歯科用重合性組成物に、必要に応じて、溶剤、重合禁止剤、紫外線吸収剤、着色剤、抗菌剤などを添加してもよい。本発明に係る重合性組成物は、歯科用途の外、骨セメント、建築用接着剤、陶磁器用接着剤、封止材、フォトレジスト単量体などとしても有用である。
本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。本発明は下記の実施例に限定されるものではない。以下の実施例において「%」及び「部」は特に断りのない限り、それぞれ「重量%」及び「重量部」を意味する。
(実施例1)
〈ステップ1〉
ディーン・スターク装置とインレットとを装着した500mL三口フラスコに、70°Cの恒温槽で融解させた4,8−ビス(ヒドロキシメチル)−トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン100g(0.509モル)を注ぎ込んだ。次いで、メタクリル酸49g(0.570モル)、p−トルエンスルホン酸一水和物7.3g(0.039モル)、ハイドロキノンモノメチルエーテル200mgおよびトルエン約70mLを、この順に投入した。続いて、系内に酸素を導いて重合を抑制するために、ディーン・スターク装置の冷却管の上からアスピレータで系内を軽く減圧して反応系内に空気をインレットから吹き込んで泡立たせた。次いで、80°Cの油浴で系の加熱を開始した。加熱開始から3時間後と4時間後にディーン・スターク装置に備え付けられた目盛りを読み取ることにより、反応系内からの水の留出量を測定した。両時点における水の留出量が変化していないことを確認した後、三口フラスコを油浴から引き上げて加熱を停止し、反応系を室温まで冷却した。
室温まで冷却した反応系にヘキサン約180mLを添加し、三口フラスコ内に撹拌子を入れて反応系を激しく撹拌してから静置し、上層(ヘキサン層)をデカンテーションで分液ロートに移した。この操作を4回繰り返した。得られたヘキサン層を10%炭酸水素ナトリウム水溶液で3回洗浄して水層のpHが9程度になったことを確認した後、水で3回洗浄した。得られた有機層に無水硫酸ナトリウムを加えて一晩静置し、脱水を行った。脱水後の有機層にハイドロキノンモノメチルエーテル20mgを添加してから真空減圧してヘキサンをロータリーエバポレーターを用いて浴温度40°Cで減圧留去し、淡黄色の油状物質約60gを得た。HPLC(高速液体クロマトグラフィー)および重クロロホルムを溶媒とする1 H−NMR(核磁気共鳴)スペクトルの測定結果から、得られた油状物質は下記化4および化5でそれぞれ表されるモノメタクリレート(2a)および(2b)と、下記化6で表されるジメタクリレート(2c)との混合物((2a)および(2b)の総量と(2c)とのモル比は約1:1)であることを確認した。
Figure 0005008852
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〈ステップ2〉
50mLナスフラスコにステップ1で調製した油状物質((2a)、(2b)および(2c)の混合物)30gを移した。この油状物質を加えた50mLナスフラスコにトルエンを添加し、ロータリーエバポレーターを用いて浴温度40°Cでトルエンを減圧留去することで、この油状物質から水を共沸除去した。水を共沸除去した後、前記油状物質にトリエチルアミン5.7gおよび無水ジエチルエーテル20mLを添加し、均一な溶液になるように振り混ぜて溶液を調製した(以下、この溶液を「溶液−1」と称する。)。次いで、200mL三口フラスコに無水ジエチルエーテル20mLおよびオキシ塩化リン(POCl3 )8.65gを添加して溶液を調製し、メタノール−ドライアイス浴を用いて−40°Cまで冷却した(以下、この溶液を「溶液−2」と称する。)。
溶液−2を攪拌子とマグネチックスターラーを用いて攪拌をしながら、溶液−2に対して、溶液−1をシリンジを用いて約15分間かけて滴下した。そのまま反応系の温度を−40°Cに保持した状態で30分間撹拌し、次いで−20°Cの氷−食塩浴中で1時間撹拌し、さらに0°Cの氷浴中で4時間撹拌した。次に、反応系を0°Cに保ったまま、4.3mLの水を数分間かけて滴下し、次いでトリエチルアミン9.4gを20mLのジエチルエーテルに溶解させた溶液を、約15分間かけて滴下した。滴下終了後、反応系をそのまま氷浴中で一晩撹拌ししてから、ジエチルエーテルおよび0.4N塩酸水溶液を用いて反応系を分液ロートに移し、0.4N塩酸水溶液で3回洗浄を行った後、1回水洗した。得られた有機層にハイドロキノンモノメチルエーテル50mgを添加し、ロータリーエバポレーターを用いて浴温度35°Cで溶媒を減圧留去することで、黄色の油状物質を得た。
得られた黄色の油状物質に、ヘキサン100mLを加えてよく振り混ぜ、デカンテーションを行った。この操作を5回繰り返し行い、不純物であるジメタクリレートを除去した。その後、ハイドロキノンモノメチルエーテル50mgを添加して、ロータリーエバポレーターを用いて浴温度35°Cでヘキサンを減圧留去して、油状物質を得た。この油状物質にトルエンを加え、ロータリーエバポレーターを用いて浴温度40°Cでトルエンを減圧留去し、この油状物質から水を共沸除去した。その結果、淡黄色の油状物質が合計で約20g得られた。得られた油状物質の一部を採取して、重ジメチルスルホキシドを溶媒として1 H−NMR測定を実施したところ、原料に由来する水酸基の根元のメチレンプロトン(δ=3.4ppm)のシグナルの消失と、リン酸基中の水酸基に由来すると思われるシグナル(δ=10.1ppm)の出現から、目的とする下記化7で表される4−(メタ)アクリロキシ−8−ホスホノ−トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン(3a)と、下記化8で表される4−ホスホノ−8−(メタ)アクリロキシ−トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン(3b)とを含有する異性体混合物が得られたものと判断した。以下、この異性体混合物を「TCD−P」と称す。
Figure 0005008852
Figure 0005008852
(比較例1)
特許文献1の実施例1に準拠して、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカンのジメタクリル酸エステルを合成した。すなわち、4,8−ビス(ヒドロキシメチル)−トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン98.0gとメタクリル酸129gとシクロヘキサン200mLとを混合し、p−トルエンスルホン酸7gおよびピクリン酸0.3gの存在下で24時間加熱して形成水の蒸留を行った。次いで、反応生成物を2N−NaOHと水とで交互に洗浄し、アルミナで処理して脱色した。以上のようにして得た、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカンのジメタクリル酸エステルを含有するシクロヘキサン溶液に、ハイドロキノンモノメチルエーテル10mgを添加し、ロータリーエバポレーターを用いて浴温度35°Cでシクロヘキサンを減圧留去することにより、4,8−ビス(ヒドロキシメチル)−トリシクロ[5.2.1.02,6]デカンのジメタクリル酸エステル(油状物質)124gを得た。以下、このようにして得た4,8−ビス(ヒドロキシメチル)−トリシクロ[5.2.1.02,6]デカンのジメタクリル酸エステルを「TCD−dM」と称す。
〔実施例2〕
〈歯科用プライマーの調製〉
TCD−Pをアセトンに溶かして、TCD−Pの0.5重量%アセトン溶液を調製し、これを歯科用プライマーとして使用した。
〈接着試験供試サンプルの作製〉
流水下、回転研磨機にて#80、#600、#1000の順に被着体である陶材(ビタ社製、商品名「ビタ・セレイ ブロック」)をシリコン・カーバイド紙(日本研紙社製)にて研磨して平滑面を得た後、5分間超音波洗浄を行った。次いで、洗浄後の陶材を20秒間エアブローすることで乾燥させ、乾燥後の陶材表面に先に調製しておいた歯科用プライマーを一滴滴下し、20秒間静置して乾燥することにより、歯科用プライマー塗布サンプルとした。次いで、アセトン浴中でピンセットにて歯科用プライマー塗布サンプルを把持振とうして洗浄した後、エアブローを行ってサンプル表面に付着したアセトンを蒸散させた。
乾燥後の歯科用プライマー塗布サンプルに直径5mmの丸穴を有する厚さ約150μmの粘着テープを貼り付け、接着面積を規制した。その粘着テープの丸穴内に歯科充填用コンポジットレジン(クラレメディカル社製、商品名「クリアフィルAP−X」(登録商標))を塗布し、離型フィルム(クラレ社製、商品名「エバール」)で被覆した。次いで、その離型フィルムの上にスライドガラスを載置して押しつけ、歯科用可視光線照射器「JETライト3000」(J.Morita USA製)にて20秒間光照射して硬化させた。次いで、その硬化面に対して、市販の歯科用レジンセメント(クラレメディカル社製、商品名「パナビア21」)を用いて直径5mm、長さ1.5cmのステンレス製円柱棒の一方の端面(円形断面)を接着し、30分間静置して、試験片とした。次いで、試験片をサンプル容器内の蒸留水に浸漬した状態で、37°Cに保持した恒温器内に24時間放置して、接着試験供試サンプルを作製した。接着試験供試サンプルは全部で4個作製した。
〈接着試験〉
上記の4個の接着試験供試サンプルの引張接着強度を、万能試験機(島津製作所社製)にてクロスヘッドスピードを2mm/分に設定して測定し、平均値を引張接着強度とした。本実施例サンプルの引張接着強度は、8.9MPaであった。
〔比較例2〕
TCD−Pに代えて市販のリン酸モノマーである2−メタクリロイルオキシエチルリン酸(共栄社化学製「ライトエステルP−2M」)を用いたこと以外は実施例2と同様にして歯科用プライマーを調製し、この歯科用プライマーを用いて実施例2と同様にして接着試験供試サンプルを作製し、引張接着強度を測定した。本比較例サンプルの引張接着強度は、7.1MPaであった。
〔比較例3〕
TCD−Pに代えて比較例1で合成した4,8−ビス(ヒドロキシメチル)−トリシクロ[5.2.1.02,6]デカンのジメタクリル酸エステル(TCD−dM)を用いたこと以外は実施例2と同様にして歯科用プライマーを調製し、この歯科用プライマーを用いて実施例2と同様にして接着試験供試サンプルを作製し、引張接着強度を測定した。本比較例サンプルの引張接着強度は、4.9MPaであった。
以上に示すように、本発明に係る新規なトリシクロデカン誘導体(TCD−P)を含有する歯科用プライマーは、市販のリン酸モノマー(2−メタクリロイルオキシエチルリン酸)及び特許文献1に記載の歯科用材料(TCD−dM)を含有する歯科用プライマーに比べて、陶材に対して優れた接着改質性を発現した。
〔実施例3〕
〈一液型の歯科用接着剤の調製〉
TCD−P10重量部、2−ヒドロキシエチルメタクリレート30重量部、ビスフェノールAジグリシジルメタクリレート30重量部、水15重量部、エタノール15重量部、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド3重量部、dl−カンファーキノン2重量部、ジメチルアミノ安息香酸2−n−ブトキシエチル1重量部、トリエタノールアミン1.5重量部、ジブチルヒドロキシトルエン0.2重量部およびシリカ(日本アエロジル社製、商品名「アエロジルR972」)5重量部を混合して、一液型の歯科用接着剤を調製した。
〈接着試験供試サンプルの作製〉
ウシ下顎前歯の唇面を流水下にて#80シリコン・カーバイド紙(日本研紙社製)で研磨して象牙質の平坦面を得た後、流水下にて#1000のシリコン・カーバイド紙(日本研紙(株)製)でさらに研磨した。研磨終了後、表面の水をエアブローすることで乾燥した。乾燥後の平滑面に、直径3mmの丸穴を有する厚さ約150μmの粘着テープを貼着し、接着面積を規制した。先に調製しておいた一液型の歯科用接着剤を、上記の丸穴内に筆を用いて塗布し、20秒間放置した後、表面をエアブローすることで、塗布した一液型の歯科用接着剤の流動性が無くなるまで乾燥した。次いで、歯科用可視光線照射器「JETライト3000」(J.Morita USA製)にて10秒間光照射することにより、塗布した一液型の歯科用接着剤を硬化させた。
次いで、一液型の歯科用接着剤の硬化面に対して、歯科充填用コンポジットレジン(クラレメディカル社製、商品名「クリアフィルAP−X」(登録商標))を塗布し、離型フィルム(クラレ社製、商品名「エバール」)で被覆した後、その離型フィルムの上にスライドガラスを載置して押しつけ、歯科用可視光線照射器「JETライト3000」(J.Morita USA製)にて20秒間光照射して歯科充填用コンポジットレジンを硬化させた。さらに、この歯科充填用コンポジットレジンの硬化面に対して、市販の歯科用レジンセメント(クラレメディカル社製、商品名「パナビア21」)を用いて直径5mm、長さ1.5cmのステンレス製円柱棒の一方の端面(円形断面)を接着し、30分間静置して、試験片とした。次いで、この試験片をサンプル容器内の蒸留水に浸漬した状態で、37°Cに保持した恒温器内に24時間放置して、接着試験供試サンプルを作製した。接着試験供試サンプルは、全部で4個作製した。
〈接着試験〉
上記の4個の接着試験供試サンプルの引張接着強度を、万能試験機(島津製作所社製)にてクロスヘッドスピードを2mm/分に設定して測定し、平均値を引張接着強度とした。本実施例サンプルの引張接着強度は、13.4MPaであった。
〔比較例4〕
TCD−Pに代えて市販のリン酸モノマーである2−メタクリロイルオキシエチルリン酸(共栄社化学製「ライトエステルP−2M」)を用いたこと以外は実施例3と同様にして一液型の歯科用接着剤を調製し、この一液型の歯科用接着剤を使用して実施例3と同様にして接着試験供試サンプルを作製し、引張接着強度を測定した。本比較例サンプルの引張接着強度は、3.4MPaだった。
〔比較例5〕
TCD−Pに代えて比較例1で合成したTCD−dMを用いたこと以外は実施例3と同様にして一液型の歯科用接着剤を調製し、この一液型の歯科用接着剤を使用して実施例3と同様にして接着試験供試サンプルを作製し、引張接着強度を測定した。本比較例サンプルの引張接着強度は、1.8MPaだった。
以上に示すように、本発明に係る新規な異性体混合物(TCD−P)を含有する歯科用接着剤は、市販のリン酸モノマー(2−メタクリロイルオキシエチルリン酸)や特許文献1に記載の歯科用材料(TCD−dM)を含有する歯科用接着剤に比べて、象牙質に対して優れた接着性を発現した。

Claims (4)

  1. 3,8−、4,8−、又は3,9−ビス(ヒドロキシメチル)−トリシクロ[5.2.1.02,6]デカンの2個の水酸基のうちのいずれか一方の水酸基を(メタ)アクリル酸エステル化し、次いで他方の水酸基をリン酸エステル化して得られた異性体混合物。
  2. 4,8−ビス(ヒドロキシメチル)−トリシクロ[5.2.1.02,6]デカンの2個の水酸基のうちのいずれか一方の水酸基を(メタ)アクリル酸エステル化し、次いで他方の水酸基をリン酸エステル化して得られた、4−(メタ)アクリロキシ−8−ホスホノ−トリシクロ[5.2.1.02,6]デカンと4−ホスホノ−8−(メタ)アクリロキシ−トリシクロ[5.2.1.02,6]デカンとを含有する異性体混合物。
  3. 請求項1又は2記載の異性体混合物を含有する重合性組成物。
  4. 請求項1又は2記載の異性体混合物を含有する歯科用重合性組成物。
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