古典的な治療手順の学際的な方法および徹底的な使用にもかかわらず、癌は、尚、死の主要な原因の1つである。一層最近の治療的概念は、組換え腫瘍ワクチンおよび他の特定の手段、例えば抗体療法を用いることにより、患者の免疫系を全体の治療的概念中に導入することを目的としている。このような方策の成功のための必要条件は、エフェクター機能が介入的に増強されるべき患者の免疫系による、腫瘍特異的または腫瘍関連抗原もしくはエピトープの認識である。腫瘍細胞は、起源であるこれらの悪性でない細胞とは、生物学的に実質的に異なる。これらの差異は、腫瘍発育の間に必要とされる遺伝子的変化のためであり、特にまた、癌細胞における定性的または定量的に変化した分子構造の形成をもたらす。
腫瘍保有宿主の特定の免疫系により認識される、この種類の腫瘍関連構造は、腫瘍関連抗原として言及される。腫瘍関連抗原の特異的認識は、2つの機能的に相互連結された単位である細胞性および体液性機構を伴う:CD4+およびCD8+Tリンパ球は、それぞれMHC(主要組織適合性複合体)クラスIIおよびI分子に提示された、プロセシングされた抗原を認識する一方、Bリンパ球は、プロセシングされていない抗原に直接結合する循環抗体分子を産生する。腫瘍関連抗原の潜在的な臨床的−治療的重要性は、免疫系による腫瘍性細胞における抗原の認識により、細胞障害性エフェクター機構の開始がもたらされ、ヘルパーT細胞の存在下で、癌細胞の消失を生じ得るという事実から起因する(Pardoll, Nat. Med. 4:525-31, 1998)。
従って、腫瘍免疫学の中心的な目的は、これらの構造を分子的に明らかにすることである。これらの抗原の分子的性質は、長期間にわたり謎であった。適切なクローン化手法の開発の後にのみ、細胞障害性Tリンパ球(CTL)の標的構造を分析することにより(van der Bruggen et al., Science 254:1643-7, 1991)、またはプローブとして循環自己抗体(Sahin et al., Curr. Opin. Immunol. 9:709-16, 1997)を用いることにより、腫瘍関連抗原のための腫瘍のcDNA発現ライブラリーを系統的にスクリーニングすることが可能であった。このために、cDNA発現ライブラリーを、新鮮な腫瘍組織から作成し、好適な系中のタンパク質として組換え的に発現させた。患者から単離された免疫エフェクター(immunoeffector)、即ち腫瘍特異的溶解パターンを有するCTLクローンまたは循環する自己抗体を、それぞれの抗原をクローン化するために用いた。
近年、多数の抗原が、これらの方法により、種々の腫瘍において明らかにされた。癌/精巣抗原(CTA)の種は、ここでは、大いに興味深い。CTAおよびこれらをコードする遺伝子(癌/精巣遺伝子またはCTG)は、これらの特徴的発現パターンにより定義される[Tureci et al, Mol Med Today. 3:342-9, 1997]。これらは、精巣および胚細胞を除いて、正常な組織においては見出されず、多くのヒトマリグノーマ(malignoma)において、腫瘍タイプ特異的にではなく、極めて異なる起源の腫瘍実体において異なる頻度で発現している(Chen & Old, Cancer J. Sci. Am. 5:16-7, 1999)。CTAに対する血清反応性はまた、健康な対照においては見出されず、腫瘍患者においてのみ見出される。この種の抗原は、特にこの組織分布により、免疫治療プロジェクトに特に有用であり、現在の臨床的患者研究において試験されている(Marchand et al., Int. J. Cancer 80:219-30, 1999; Knuth et al., Cancer Chemother. Pharmacol. 46:p46-51, 2000)。
しかし、上記で例示した古典的な方法における抗原同定のために用いられるプローブは、通常はすでに進行した癌を患っている患者からの免疫エフェクター(循環自己抗体またはCTLクローン)である。多くのデータは、腫瘍により、例えば、T細胞の寛容化およびアネルギー化(anergization)がもたらされ得、疾患の経過の間に、特に有効な免疫認識を生じ得るこれらの特異性が、免疫エフェクターレパートリーから失われることを示している。現在の患者の研究によっては、以前に見出され、用いられた腫瘍関連抗原の真実の作用の確かな証拠が、未だ何も得られていない。従って、自発的な免疫応答を惹起するタンパク質が、誤った標的構造であることは、無視できない。
本発明の目的は、癌の診断および療法のための標的構造を提供することにあった。
本発明において、この目的は、特許請求の範囲の主題により達成される。
本発明において、腫瘍に関連して発現される抗原およびこれらをコードする核酸を同定し、提供する方策が、追求された。この方策は、通常は成体の組織において無変化である、実際には精巣および従って胚細胞特異的遺伝子が、腫瘍細胞中で、異所性のおよび禁じられた方式で再活性化されるという事実に基づいている。先ず、データマイニングにより、すべての既知の精巣特異的遺伝子のリストが、可能な限り完全に得られ、これを次に、腫瘍におけるこれらの異常な活性化について、特定のRT−PCRによる発現分析により評価する。データマイニングは、腫瘍関連遺伝子を同定する既知の方法である。しかし、慣用の方策において、正常な組織ライブラリーのトランスクリプトームは、通常、腫瘍組織ライブラリーから電子的に減じられ、残りの遺伝子が腫瘍特異的であることが推測される(Schmitt et al., Nucleic Acids Res. 27:4251-60, 1999; Vasmatzis et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 95:300-4, 1998. Scheurle et al., Cancer Res. 60:4037-43, 2000)。
しかし、はるかに一層好首尾であることが明らかになった、本発明の概念は、データマイニングをすべての精巣特異的遺伝子を電子的に抽出するために用い、次に前記遺伝子を腫瘍における異所性の発現について評価することに基づいている。
従って、本発明は、1つの観点において、腫瘍において示差的に発現される遺伝子を同定するための方策に関する。前述の方策は、公開されている配列ライブラリーのデータマイニング(「インシリコ(in silico)」)をその後実験室実験的(「ウェットベンチ(wet bench)」)試験を評価することと組み合わせる。
本発明において、2種の異なる生物情報学的スクリプトに基づく、組み合わされた方策により、癌/精巣(CT)遺伝子群の新たな要素を同定することが可能になった。これらは、以前に、純粋に精巣、胚細胞または精子特異的であると分類されていた。これらの遺伝子が、腫瘍細胞において異常に活性化されるという発見により、これらが、実質的に新たな性質に機能的暗示を付与することが可能になる。本発明において、これらの腫瘍関連遺伝子およびこれによりコードされた遺伝子産物は、免疫原性作用とは独立して、同定され、提供された。
本発明により同定された腫瘍関連抗原は、(a)配列番号:1〜5、19〜21、29、31〜33、37、39、40、54〜57、62、63、70、74、85〜88からなる群から選択された核酸配列を含む核酸、この一部または誘導体、(b)(a)の核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸、(c)(a)または(b)の核酸に対して縮重している核酸、および(d)(a)、(b)または(c)の核酸に相補的な核酸からなる群から選択された核酸によりコードされたアミノ酸配列を有する。好ましい態様において、本発明により同定された腫瘍関連抗原は、配列番号:1〜5、19〜21、29、31〜33、37、39、40、54〜57、62、63、70、74、85〜88からなる群から選択された核酸によりコードされたアミノ酸配列を有する。他の好ましい態様において、本発明により同定された腫瘍関連抗原は、配列番号:6〜13、14〜18、22〜24、30、34〜36、38、41、58〜61、64、65、71、75、80〜84、89〜100、101〜117からなる群から選択されたアミノ酸配列、この一部または誘導体を含む。
本発明は、一般的に、本発明により同定された腫瘍関連抗原もしくはこの一部、これらをコードする核酸または前述のコード核酸に対して用いられる核酸または本発明により同定された腫瘍関連抗原に対する抗体もしくはこの一部の、療法および診断への使用に関する。この使用は、個別のもの、しかしまた2種または3種以上のこれらの抗原、機能的フラグメント、核酸、抗体などの組み合わせ、また1つの態様において他の腫瘍関連遺伝子並びに診断、療法および進行抑制のための抗原との組み合わせに関していてもよい。
療法および/または診断のための好ましい疾患は、本発明において同定された1種または2種以上の腫瘍関連抗原が、選択的に発現しているか、または異常に発現しているものである。
腫瘍における遺伝子の異所性の活性化はまた、これらのヌクレオチド配列の変化した遺伝子メチル化パターンから由来し得る。例えば、シトシンのメチル化の変化は、これに寄与することが記載されている(De Smet et al., 1996および1999)。
本発明はまた、腫瘍細胞に関連して発現され、既知の遺伝子の変化したスプライシング(スプライスバリアント)または代替のオープンリーディングフレームを用いての変化した翻訳により産生される、核酸および遺伝子産物に関する。前述の核酸は、配列表の配列番号:2〜5、20、21、31〜33、54〜57、85〜88による配列を含む。さらに、遺伝子産物は、配列表の配列番号:7〜13、23、24、34〜36、58〜61、89〜100による配列を含む。本発明のスプライスバリアントを、本発明において、腫瘍疾患の診断および療法のための目的として用いることができる。
極めて異なる機構、例えば
−可変転写開始部位の使用、
−追加のエクソンの使用、
−1つまたは2つまたは3つ以上のエクソンからの完全な、または不完全なスプライシング、
−突然変異(新たなドナー/アクセプター配列の欠失または発生)により変化したスプライス調節配列、
−イントロン配列の不完全な除去
により、スプライスバリアントが産生され得る。
遺伝子の変化したスプライシングにより、変化した転写配列(スプライスバリアント)が得られる。この変化した配列の領域におけるスプライスバリアントの翻訳の結果、もとのタンパク質とは構造および機能において明確に異なり得る、変化したタンパク質が得られる。腫瘍関連スプライスバリアントにより、腫瘍関連転写物および腫瘍関連タンパク質/抗原が産生され得る。これらを、腫瘍細胞の検出、および腫瘍の治療的標的化の両方のための分子マーカーとして用いることができる。例えば血液、血清、骨髄、痰、気管支洗浄、体の分泌物および組織生検における腫瘍細胞の検出を、本発明において、例えばスプライスバリアント特異的オリゴヌクレオチドでのPCR増幅による核酸の抽出の後に、行うことができる。本発明において、すべての配列依存的検出システムは、検出に適する。これらは、PCRは別として、例えば遺伝子チップ/マイクロアレイシステム、ノーザンブロット、RNAseプロテクションアッセイ(RDA)および他のものである。
すべての検出システムは、検出が、少なくとも1種のスプライスバリアント特異的核酸配列との特異的なハイブリダイゼーションに基づくという点で共通する。しかし、腫瘍細胞はまた、本発明において、スプライスバリアントによりコードされた特定のエピトープを認識する抗体により検出され得る。前述の抗体は、前述のスプライスバリアントに特異的な免疫化ペプチドを用いることにより産生され得る。免疫化に好適なのは、特に、エピトープが、好ましくは健康な細胞中で産生される遺伝子産物のバリアント(1種または2種以上)とは明確に異なるアミノ酸である。腫瘍細胞の抗体での検出を、ここでは、患者から単離された試料に対して、または静脈内に投与された抗体での画像化として行うことができる。診断的使用可能性に加えて、新たな、または変化したエピトープを有するスプライスバリアントは、免疫療法のための魅力的な標的である。本発明のエピトープを、治療的に活性なモノクローナル抗体またはTリンパ球を標的化するために用いることができる。受動免疫療法において、スプライスバリアント特異的エピトープを認識する抗体またはTリンパ球は、ここで養子移入される。
他の抗原の場合におけるように、抗体を、また、これらのエピトープを含むポリペプチドを用いた標準的な技術(動物の免疫化、組換え抗体の単離のためのパニング方策)を用いることにより、生じさせることができる。あるいはまた、前述のエピトープを含むオリゴまたはポリペプチドをコードする核酸を免疫化するために用いることが可能である。エピトープ特異的Tリンパ球のインビトロまたはインビボでの産生のための種々の手法は、知られており、例えば(Kessler JH, et al. 2001, Sahin et al., 1997)に詳細に記載されており、同様に前述のオリゴもしくはポリペプチドをコードするスプライスバリアント特異的エピトープまたは核酸を含むオリゴあるいはポリペプチドを用いることに基づく。前述のポリペプチドをコードするスプライスバリアント特異的エピトープもしくは核酸を含むオリゴまたはポリペプチドを、また、活性免疫療法(ワクチン接種、ワクチン療法)における薬学的に活性な物質としての使用に用いることができる。
1つの観点において、本発明は、本発明により同定された腫瘍関連抗原を認識し、好ましくは、本発明により同定された腫瘍関連抗原の発現または異常な発現を有する細胞に選択的である剤を含む医薬組成物に関する。特定の態様において、前述の剤は、細胞死の誘発、細胞増殖の減少、細胞膜に対する損傷またはサイトカインの分泌を生じ得、好ましくは腫瘍阻害活性を有する。1つの態様において、この剤は、腫瘍関連抗原をコードする核酸と選択的にハイブリダイズするアンチセンス核酸である。他の態様において、この剤は、腫瘍関連抗原に選択的に結合する抗体、特に腫瘍関連抗原に選択的に結合する補体活性化抗体である。
他の態様において、この剤は、各々異なる腫瘍関連抗原を選択的に認識し、この少なくとも1種が本発明により同定された腫瘍関連抗原である2種または3種以上の剤を含む。認識は、活性の阻害または抗原の発現を直接伴う必要はない。本発明のこの観点において、腫瘍に選択的に限定される抗原は、好ましくは、この特異的な位置に対するエフェクター機構を補強するための標識として作用する。好ましい態様において、この剤は、HLA分子上の抗原を認識し、このようにして標識された細胞を溶解する細胞障害性Tリンパ球である。他の態様において、この剤は、腫瘍関連抗原に選択的に結合し、従って前述の細胞に対する天然の、または人工的なエフェクター機構を補強する抗体である。他の態様において、この剤は、前述の抗原を特異的に認識する他の細胞のエフェクター機能を増強するヘルパーTリンパ球である。
1つの観点において、本発明は、本発明により同定された腫瘍関連抗原の発現または活性を阻害する剤を含む医薬組成物に関する。好ましい態様において、この剤は、腫瘍関連抗原をコードする核酸と選択的にハイブリダイズするアンチセンス核酸である。他の態様において、この剤は、腫瘍関連抗原に選択的に結合する抗体である。他の態様において、この剤は、各々異なる腫瘍関連抗原の発現または活性を選択的に阻害し、この少なくとも1種が、本発明により同定された腫瘍関連抗原である、2種または3種以上の剤を含む。
本発明において同定された腫瘍関連抗原の活性は、タンパク質またはペプチドのすべての活性であってもよい。1つの態様において、活性は、酵素活性、例えばLDHCに関連する配列の場合における乳酸脱水素酵素活性である(例1を参照)。他の態様において、この活性は、TPTEに関連する配列の場合におけるような、細胞移動および/または転移における関与に関する(例2を参照)。従って、本発明の療法および診断の方法はまた、この活性の阻害もしくは低減またはこの活性の試験を目的とし得る。
本発明は、さらに、投与された際に、HLA分子と、本発明により同定された腫瘍関連抗原からのペプチドエピトープとの間の複合体の量を選択的に増大させる剤を含む、医薬組成物に関する。1つの態様において、この剤は、(i)腫瘍関連抗原またはこの一部、(ii)前述の腫瘍関連抗原またはこの一部をコードする核酸、(iii)前述の腫瘍関連抗原またはこの一部を発現する宿主細胞、および(iv)前述の腫瘍関連抗原からのペプチドエピトープとMHC分子との間の単離された複合体からなる群から選択された1種または2種以上の成分を含む。1つの態様において、この剤は、各々MHC分子と異なる腫瘍関連抗原のペプチドエピトープとの間の複合体の量を選択的に増大させ、この少なくとも1種が本発明により同定された腫瘍関連抗原である、2種または3種以上の剤を含む。
本発明は、さらに、医薬組成物であって、(i)本発明により同定された腫瘍関連抗原またはこの一部、(ii)本発明により同定された腫瘍関連抗原またはこの一部をコードする核酸、(iii)本発明により同定された腫瘍関連抗原またはこの一部に結合する抗体、(iv)本発明により同定された腫瘍関連抗原をコードする核酸に特異的にハイブリダイズするアンチセンス核酸、(v)本発明により同定された腫瘍関連抗原またはこの一部を発現する宿主細胞、および(vi)本発明により同定された腫瘍関連抗原またはこの一部とHLA分子との間の単離された複合体からなる群から選択された1種または2種以上の成分を含む、前記医薬組成物に関する。
本発明により同定された腫瘍関連抗原またはこの一部をコードする核酸は、医薬組成物において発現ベクター中に存在し、プロモーターに機能的に結合していてもよい。
本発明の医薬組成物中に存在する宿主細胞は、腫瘍関連抗原またはこの一部を分泌し、これを表面上で発現することができるか、またはさらに、前述の腫瘍関連抗原またはこの前述の一部に結合するHLA分子を発現することができる。1つの態様において、宿主細胞は、HLA分子を内在性に発現する。他の態様において、宿主細胞は、HLA分子および/または腫瘍関連抗原またはこの一部を、組換え方式で発現する。宿主細胞は、好ましくは非増殖性である。好ましい態様において、宿主細胞は、抗原提示細胞、特に樹状細胞、単球またはマクロファージである。
本発明の医薬組成物中に存在する抗体は、モノクローナル抗体であってもよい。他の態様において、抗体は、キメラまたはヒト化抗体、天然の抗体または合成抗体のフラグメントであり、このすべては、結合手法により製造することができる。この抗体を、治療的に、または診断的に有用な剤に結合させることができる。
本発明の医薬組成物中に存在するアンチセンス核酸は、6〜50、特に10〜30、15〜30および20〜30の、本発明により同定された腫瘍関連抗原をコードする核酸の近接する(contiguous)ヌクレオチドの配列を含むことができる。
他の態様において、本発明の医薬組成物により提供された腫瘍関連抗原またはこの一部は、直接または核酸の発現を介して、細胞の表面上のMHC分子に結合し、前述の結合は、好ましくは、細胞溶解性応答を生じ、および/またはサイトカイン放出を誘発する。
本発明の医薬組成物は、薬学的に適合性の担体および/またはアジュバントを含むことができる。アジュバントは、サポニン、GM−CSF、CpGヌクレオチド、RNA、サイトカインまたはケモカインから選択することができる。本発明の医薬組成物を、好ましくは、腫瘍関連抗原の選択的発現または異常な発現により特徴づけられる疾患の処置のために用いる。好ましい態様において、疾患は、癌である。
本発明は、さらに、1種または2種以上の腫瘍関連抗原の発現または異常な発現により特徴づけられる疾患を処置または診断する方法に関する。1つの態様において、処置は、本発明の医薬組成物を投与することを含む。
1つの観点において、本発明は、本発明により同定された腫瘍関連抗原の発現または異常な発現により特徴づけられる疾患を診断する方法に関する。この方法は、(i)腫瘍関連抗原もしくはこの一部をコードする核酸の検出、および/または(ii)腫瘍関連抗原もしくはこの一部の検出、および/または(iii)腫瘍関連抗原もしくはこの一部に対する抗体の検出、および/または(iv)患者から単離された生物学的試料中の腫瘍関連抗原もしくはこの一部に特異的な、細胞障害性もしくはヘルパーTリンパ球の検出を含む。特定の態様において、検出は、(i)生物学的試料を、腫瘍関連抗原もしくはこの一部をコードする核酸、前述の腫瘍関連抗原またはこの前述の一部、腫瘍関連抗原またはこの一部に特異的な抗体または細胞障害性もしくはヘルパーTリンパ球に特異的に結合する剤と接触させること、および(ii)この剤と、核酸またはこの一部、腫瘍関連抗原またはこの一部、抗体または細胞障害性もしくはヘルパーTリンパ球との間の複合体の形成を検出することを含む。
1つの態様において、疾患は、2種または3種以上の異なる腫瘍関連抗原の発現または異常な発現により特徴づけられ、検出は、前述の2種もしくは3種以上の異なる腫瘍関連抗原をコードする2種もしくは3種以上の核酸、またはこの一部の検出、2種もしくは3種以上の異なる腫瘍関連抗原またはこの一部の検出、前述の2種もしくは3種以上の異なる腫瘍関連抗原またはこの一部に結合する2種もしくは3種以上の抗体の検出あるいは前述の2種もしくは3種以上の異なる腫瘍関連抗原に特異的な2種もしくは3種以上の細胞障害性もしくはヘルパーTリンパ球の検出を含む。他の態様において、患者から単離された生物学的試料を、相当する正常な生物学的試料と比較する。
本発明の診断方法はまた、例えば細胞の移動挙動および従って疾患の悪化した経過を試験し、これにより、特に一層攻撃的な療法を計画することを可能にすることにより、本発明において同定された腫瘍関連抗原の、転移を予測するための予後のマーカーとしての使用に関し得る。特に、TPTEに関する配列(例2を参照)は、この目的のために有用である。これらはまた、尚良性の変化、例えば過形成の範囲を、すでに望ましくないと査定されるべき腫瘍前段階から定め、および従って、侵襲性の腫瘍が形成する前に、癌についての傾向を予測するのに、有用である。
この態様において、本発明は、本発明において同定された腫瘍関連抗原の発現または異常な発現により特徴づけられる疾患を診断する方法であって、該方法が、患者からの細胞の移動挙動の決定を含む、前記方法に関する。特に好ましい態様において、この方法は、転移および/またはリンパ節転移および/または遠隔転移の程度を決定し、またはこれを予測する作用を奏し、ここで、特定の態様における細胞の増大した移動挙動は、試験されている患者が、本発明において同定された腫瘍関連抗原の発現または異常な発現により特徴づけられる疾患を患っており、前述の疾患に罹患し、かつ/またはこのような疾患についての可能性を有するという事実を示す。
特に好ましい態様において、増大した移動挙動は、転移および/またはリンパ節転移の形成および/または遠隔転移またはこの可能性を示す。この態様において、本発明において同定された腫瘍関連抗原は、好ましくは、以下のものからなる群から選択された核酸によりコードされた配列を有する:(a)配列番号:19〜21および54〜57からなる群から選択された核酸配列を含む核酸、この一部または誘導体、(b)(a)の核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸、(c)(a)または(b)の核酸に対して縮重している核酸、および(d)(a)、(b)または(c)の核酸に相補的な核酸。腫瘍関連抗原は、好ましくは、配列番号:22〜24、58〜61、81、82および103〜105からなる群から選択されたアミノ酸配列、この一部または誘導体を含む。
この観点における本発明の処置方法は、好ましくは、移動挙動を正常にするか、または好ましくは阻害する、医薬組成物の投与を目的とする。
他の態様において、本発明は、本発明において同定された腫瘍関連抗原の発現または異常な発現により特徴づけられる疾患を診断する方法であって、該方法が、腫瘍関連抗原をコードする核酸配列を含む核酸内の、特にこの非コード領域内の、さらに好ましくはこのプロモーター領域内の、メチル化パターンおよび/またはメチル化の程度の決定を含む、前記方法に関する。
好ましくは、本発明において同定された腫瘍関連抗原は、以下のもの:(a)配列番号:19〜21および54〜57からなる群から選択された核酸配列を含む核酸、この一部または誘導体、(b)(a)の核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸、(c)(a)または(b)の核酸に対して縮重している核酸、および(d)(a)、(b)または(c)の核酸に相補的な核酸からなる群から選択された核酸によりコードされる配列を有し、決定は、好ましくはこのプロモーター領域内の、特に配列番号:822に示す配列内の、特に配列番号:822に示す配列の位置121〜540のヌクレオチド内の、当該核酸に関して行われる(染色体21上のTPTEのプロモーター配列、転写の開始に関する位置−368/+952)。
腫瘍関連抗原は、好ましくは、配列番号:22〜24、58〜61、81、82および103〜105からなる群から選択されたアミノ酸配列、この一部または誘導体を含む。対照のメチル化の程度よりも低いメチル化の程度またはメチル化されていないことは、好ましくは、試験されている患者が、本発明において同定された腫瘍関連抗原の発現または異常な発現により特徴づけられる疾患を患っており、前述の疾患に罹患し、かつ/またはこのような疾患についての増大した可能性を有するという事実を示す。
この観点における本発明の処置方法は、好ましくは、メチル化パターンおよび/またはメチル化の程度を正常化し、好ましくは増大させる医薬組成物の投与を目的とする。
他の観点において、本発明は、本発明により同定された腫瘍関連抗原の発現または異常な発現により特徴づけられる疾患の退行、経過または発症を決定する方法であって、該方法が、前述の疾患を患っているか、または前述の疾患に罹患していることが疑われる患者からの試料を、(i)腫瘍関連抗原またはこの一部をコードする核酸の量、(ii)腫瘍関連抗原またはこの一部の量、(iii)腫瘍関連抗原またはこの一部に結合する抗体の量、および(iv)腫瘍関連抗原またはこの一部とMHC分子との間の複合体に特異的な細胞溶解性T細胞またはヘルパーT細胞の量からなる群から選択された1種または2種以上のパラメーターに関してモニタリングすることを含む、前記方法に関する。
この方法は、好ましくは、第1の時点における第1の試料および第2の時点におけるさらなる試料におけるパラメーター(1または2以上)を決定することを含み、ここで疾患の経過を、前記の2種の試料を比較することにより決定する。特定の態様において、疾患を、2種または3種以上の異なる腫瘍関連抗原の発現または異常な発現により特徴づけ、モニタリングは、(i)前述の2種または3種以上の異なる腫瘍関連抗原またはこの一部をコードする2種または3種以上の核酸の量、および/または(ii)前述の2種または3種以上の異なる腫瘍関連抗原またはこの一部の量、および/または(iii)前述の2種または3種以上の異なる腫瘍関連抗原またはこの一部に結合する2種または3種以上の抗体の量、および/または(iv)前述の2種または3種以上の異なる腫瘍関連抗原またはこの一部とMHC分子との間の複合体に特異的な、2種または3種以上の細胞溶解性T細胞またはヘルパーT細胞の量をモニタリングすることを含む。
本発明において、核酸もしくはこの一部の検出または核酸もしくはこの一部の量のモニタリングを、前述の核酸もしくはこの前述の一部に特異的にハイブリダイズするポリヌクレオチドプローブを用いて行うことができるか、または、前述の核酸もしくはこの前述の一部の選択的増幅により行うことができる。1つの態様において、ポリヌクレオチドプローブは、6〜50、特に10〜30、15〜30および20〜30の、前述の核酸の近接するヌクレオチドの配列を含む。
特定の態様において、検出するべき腫瘍関連抗原またはこの一部は、細胞内に、または細胞表面上に存在する。本発明において、腫瘍関連抗原もしくはこの一部の検出または腫瘍関連抗原もしくはこの一部の量のモニタリングを、前述の腫瘍関連抗原またはこの前述の一部に特異的に結合する抗体を用いて、行うことができる。
他の態様において、検出するべき腫瘍関連抗原またはこの一部は、MHC分子、特にHLA分子との複合体中に存在する。
本発明において、抗体の検出または抗体の量のモニタリングを、前述の抗体に特異的に結合するタンパク質またはペプチドを用いて行うことができる。
本発明において、細胞溶解性T細胞もしくはヘルパーT細胞の検出または、抗原もしくはこの一部とMHC分子との間の複合体に特異的な、細胞溶解性T細胞もしくはヘルパーT細胞の量のモニタリングを、前述の抗原またはこの前述の一部とMHC分子との間の複合体を提示する細胞を用いて、行うことができる。
検出またはモニタリングのために用いられる、ポリヌクレオチドプローブ、抗体、タンパク質またはペプチドまたは細胞を、好ましくは、検出可能な方式で標識する。特定の態様において、検出可能なマーカーは、放射活性マーカーまたは酵素的マーカーである。Tリンパ球を、さらに、これらの増殖、これらのサイトカイン産生並びにMHCおよび腫瘍関連抗原またはこの一部の複合体での特定の刺激により誘発されるこれらの細胞障害性活性を検出することにより、検出することができる。また、Tリンパ球を、組換えMHC分子または、他に1種もしくは2種以上の腫瘍関連抗原の特定の免疫原性フラグメントを負荷させ、特定のT細胞レセプターを接触させることにより特定のTリンパ球を同定することができる、2種もしくは3種以上のMHC分子の複合体により、検出することができる。
他の観点において、本発明は、本発明により同定された腫瘍関連抗原の発現または異常な発現により特徴づけられる疾患を処置し、診断し、またはモニタリングする方法であって、該方法が、前述の腫瘍関連抗原またはこの一部に結合し、治療剤または診断剤と結合した抗体を投与することを含む、前記方法に関する。抗体は、モノクローナル抗体であってもよい。他の態様において、抗体は、キメラもしくはヒト化抗体または天然の抗体のフラグメントである。
本発明はまた、本発明により同定された腫瘍関連抗原の発現または異常な発現により特徴づけられる疾患を患っている患者を処置する方法であって、該方法が、(i)免疫反応性細胞を含む試料を前述の患者から採取すること、(ii)前述の試料を、前述の腫瘍関連抗原またはこの一部を発現する宿主細胞と、前述の腫瘍関連抗原またはこの一部に対して、細胞溶解性T細胞の産生を好む条件下で接触させること、および(iii)細胞溶解性T細胞を、患者中に、腫瘍関連抗原またはこの一部を発現する細胞を溶解するのに適する量で導入することを含む、前記方法に関する。本発明は、同様に、腫瘍関連抗原に対する細胞溶解性T細胞のT細胞レセプターをクローン化することに関する。前述のレセプターを、このようにして所望の特異性を受け、(iii)の下でのように、患者中に導入することができる他のT細胞に移送することができる。
1つの態様において、宿主細胞は、HLA分子を内在性に発現する。他の態様において、宿主細胞は、HLA分子および/または腫瘍関連抗原またはこの一部を、組換え的に発現する。宿主細胞は、好ましくは非増殖性である。好ましい態様において、宿主細胞は、抗原提示細胞、特に樹状細胞、単球またはマクロファージである。
他の観点において、本発明は、腫瘍関連抗原の発現または異常な発現により特徴づけられる疾患を患っている患者を処置する方法であって、該方法が、(i)本発明により同定された腫瘍関連抗原をコードし、前述の疾患に関連する細胞により発現された核酸を同定すること、(ii)宿主細胞に、前述の核酸またはこの一部をトランスフェクトすること、(iii)トランスフェクトした宿主細胞を、前述の核酸の発現のために培養すること(これは、高い速度のトランスフェクションが得られる際には、必須ではない)、および(iv)宿主細胞またはこの抽出液を、患者中に、疾患に関連する患者の細胞に対する免疫応答を増大させるのに適する量で導入することを含む、前記方法に関する。この方法は、さらに、腫瘍関連抗原またはこの一部を提示するMHC分子を同定することを含み、宿主細胞は、同定されたMHC分子を発現し、前述の腫瘍関連抗原またはこの一部を提示する。免疫応答は、B細胞応答またはT細胞応答を含むことができる。さらに、T細胞応答は、腫瘍関連抗原もしくはこの一部を提示する宿主細胞に特異的であるか、または前述の腫瘍関連抗原もしくはこの一部を発現する患者の細胞に特異的である、細胞溶解性T細胞および/またはヘルパーT細胞の産生を含むことができる。
本発明はまた、本発明により同定された腫瘍関連抗原の発現または異常な発現により特徴づけられる疾患を処置する方法であって、該方法が、(i)異常な量の腫瘍関連抗原を発現する細胞を患者から同定すること、(ii)前述の細胞の試料を単離すること、(iii)前述の細胞を培養すること、および(iv)前述の細胞を患者中に、細胞に対する免疫応答を誘発するのに適する量で導入することを含む、前記方法に関する。
好ましくは、本発明において用いる宿主細胞は、非増殖性であるか、または非増殖性とされる。腫瘍関連抗原の発現または異常な発現により特徴づけられる疾患は、特に癌である。
本発明は、さらに、核酸であって、(a)配列番号:2〜5、20〜21、31〜33、39、54〜57、62、63、85〜88からなる群から選択された核酸配列を含む核酸、この一部または誘導体、(b)(a)の核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸、(c)(a)または(b)の核酸に対して縮重している核酸、および(d)(a)、(b)または(c)の核酸に相補的な核酸からなる群から選択されている、前記核酸に関する。本発明は、さらに、核酸であって、配列番号:7〜13、14〜18、23〜24、34〜36、58〜61、64、65、89〜100、101〜107からなる群から選択されたアミノ酸配列、この一部または誘導体を含むタンパク質またはポリペプチドをコードする、前記核酸に関する。
他の観点において、本発明は、本発明の核酸のプロモーター配列に関する。これらの配列は、他の遺伝子に、好ましくは発現ベクターにおいて機能的に連結されていてもよく、従って前述の遺伝子の適切な細胞中での選択的発現が確実になる。
他の観点において、本発明は、本発明の核酸を含む組換え核酸分子、特にDNAまたはRNA分子に関する。
本発明はまた、本発明の核酸または本発明の核酸を含む組換え核酸分子を含む、宿主細胞に関する。
宿主細胞はまた、HLA分子をコードする核酸を含むことができる。1つの態様において、宿主細胞は、HLA分子を内在性に発現する。他の態様において、宿主細胞は、HLA分子および/または本発明の核酸またはこの一部を、組換え的に発現する。好ましくは、宿主細胞は、非増殖性である。好ましい態様において、宿主細胞は、抗原提示細胞、特に樹状細胞、単球またはマクロファージである。
他の態様において、本発明は、本発明により同定された核酸とハイブリダイズし、遺伝子的プローブとして、または「アンチセンス」分子として用いることができるオリゴヌクレオチドに関する。本発明により同定された核酸またはこの一部とハイブリダイズする、オリゴヌクレオチドプライマーまたは競合性試料の形態での核酸分子を、本発明により同定された前述の核酸に対して相同的な核酸を見出すために用いることができる。PCR増幅、サザンおよびノーザンハイブリダイゼーションを、相同的な核酸を見出すために用いることができる。ハイブリダイゼーションを、低いストリンジェンシー(stringency)の下で、一層好ましくは中程度のストリンジェンシーの下で、最も好ましくは高いストリンジェンシー条件の下で行うことができる。本発明における用語「ストリンジェントな条件」は、ポリヌクレオチド間の特異的なハイブリダイゼーションを可能にする条件を意味する。
他の観点において、本発明は、タンパク質またはポリペプチドであって、(a)配列番号:2〜5、20〜21、31〜33、39、54〜57、62、63、85〜88からなる群から選択された核酸配列を含む核酸、この一部または誘導体、(b)(a)の核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸、(c)(a)または(b)の核酸に対して縮重している核酸、および(d)(a)、(b)または(c)の核酸に相補的な核酸からなる群から選択されている核酸によりコードされた、前記タンパク質またはポリペプチドに関する。好ましい態様において、本発明は、タンパク質またはポリペプチドであって、配列番号:7〜13、14〜18、23〜24、34〜36、58〜61、64、65、89〜100、101〜107からなる群から選択されたアミノ酸配列、この一部または誘導体を含む、前記タンパク質またはポリペプチドに関する。
他の観点において、本発明は、本発明により同定された腫瘍関連抗原の免疫原性フラグメントに関する。前述のフラグメントは、好ましくは、ヒトHLAレセプターまたはヒト抗体に結合する。本発明のフラグメントは、好ましくは、少なくとも6個、特に少なくとも8個、少なくとも10個、少なくとも12個、少なくとも15個、少なくとも20個、少なくとも30個または少なくとも50個のアミノ酸の配列を含む。
他の観点において、本発明は、本発明により同定された腫瘍関連抗原またはこの一部に結合する剤に関する。好ましい態様において、この剤は、抗体である。他の態様において、この抗体は、結合手法により産生されたキメラ、ヒト化抗体もしくは抗体であるか、または抗体のフラグメントである。さらに、本発明は、(i)本発明により同定された腫瘍関連抗原またはこの一部、および(ii)本発明により同定された前述の腫瘍関連抗原またはこの前述の一部が結合したMHC分子の複合体に選択的に結合する抗体に関し、前述の抗体は、(i)または(ii)単独には結合しない。本発明の抗体は、モノクローナル抗体であってもよい。他の態様において、抗体は、キメラもしくはヒト化抗体または天然の抗体のフラグメントである。
本発明は、さらに、本発明により同定された腫瘍関連抗原もしくはこの一部または本発明の抗体に結合する本発明の剤と、治療または診断剤との間の複合体に関する。1つの態様において、治療または診断剤は、毒素である。
他の観点において、本発明は、本発明により同定された腫瘍関連抗原の発現または異常な発現を検出するためのキットであって、このキットが、(i)腫瘍関連抗原もしくはこの一部をコードする核酸、(ii)腫瘍関連抗原もしくはこの一部、(iii)腫瘍関連抗原もしくはこの一部に結合する抗体、および/または(iv)腫瘍関連抗原もしくはこの一部とMHC分子との間の複合体に特異的なT細胞の検出のための剤を含む、前記キットに関する。1つの態様において、核酸またはこの一部の検出のための剤は、前述の核酸の選択的増幅のための核酸分子であり、これは、特に、6〜50、特に10〜30、15〜30および20〜30の、前述の核酸の近接するヌクレオチドの配列を含む。
発明の詳説
本発明において、腫瘍細胞において選択的にまたは異常に発現され、腫瘍関連抗原である遺伝子が、記載される。
本発明において、これらの遺伝子またはこれらの誘導体は、治療的方法に好ましい標的構造である。概念的に、前述の治療的方法は、選択的に発現された腫瘍関連遺伝子産物の活性を阻害することを目的とすることができる。これは、前述の異常なそれぞれの選択的な発現が腫瘍病理学において機能的に重要である場合、およびこの連結が対応する細胞の選択的損傷に伴う場合に、有用である。他の治療的概念は、腫瘍関連抗原を、腫瘍細胞に選択的に細胞損傷能力を有するエフェクター機構を補強する標識として意図する。ここで、標的分子自体の機能および腫瘍進展におけるこの作用は、完全に無関係である。
核酸の「誘導体」は、本発明において、単一の、または多数のヌクレオチド置換、欠失および/または付加が、前述の核酸中に存在することを意味する。さらに、用語「誘導体」はまた、ヌクレオチド塩基、糖またはリン酸塩における核酸の化学的誘導体化を含む。用語「誘導体」はまた、天然に存在しないヌクレオチドおよびヌクレオチド類似体を含む核酸を含む。
本発明において、核酸は、好ましくは、デオキシリボ核酸(DNA)またはリボ核酸(RNA)である。核酸は、本発明において、ゲノムDNA、cDNA、mRNA、組換え的に産生された、および化学的に合成された分子を含む。本発明において、核酸は、一本鎖または二本鎖および直線状または共有的な閉環分子として、存在することができる。
本発明において記載されている核酸は、好ましくは単離されている。用語「単離された核酸」は、本発明において、核酸が、(i)インビトロで、例えばポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により増幅され、(ii)クローン化により組換え的に産生され、(iii)例えば切断およびゲル電気泳動的分画により精製され、または(iv)例えば化学的合成により合成されたことを意味する。単離された核酸は、組換えDNA手法により操作するのに利用できる核酸である。
核酸は、2つの配列がハイブリダイズして、互いに安定な二重鎖を形成することができ、ハイブリダイゼーションが、好ましくは、ポリヌクレオチド間の特異的なハイブリダイゼーションが可能である条件(ストリンジェントな条件)下で行われる場合に、他の核酸と「相補的」である。ストリンジェントな条件は、例えば、Molecular Cloning: A Laboratory Manual, J. Sambrook et al., Editors, 第2版、Cold Spring Harbor Laboratory press, Cold Spring Harbor, New York, 1989またはCurrent Protocols in Molecular Biology, F.M. Ausubel et al., Editors, John Wiley & Sons, Inc., New York中に記載されており、例えば、65℃におけるハイブリダイゼーション緩衝液(3.5×SSC、0.02%フィコール(Ficoll)、0.02%ポリビニルピロリドン、0.02%ウシ血清アルブミン、2.5mM NaH2PO4(pH 7)、0.5% SDS、2mM EDTA)中でのハイブリダイゼーションを意味する。SSCは、0.15M塩化ナトリウム/0.15Mクエン酸ナトリウム、pH7である。ハイブリダイゼーションの後に、DNAがトランスファーされた膜を、例えば、2×SSC中で、室温において、次に0.1〜0.5×SSC/0.1×SDS中で、68℃までの温度において、洗浄する。
本発明において、相補的核酸は、少なくとも40%、特に少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%および好ましくは少なくとも95%、少なくとも98%または少なくとも99%の同一のヌクレオチドを有する。
腫瘍関連抗原をコードする核酸は、本発明において、単独で、または他の核酸、特に非相同性核酸と組み合わせて、存在し得る。好ましい態様において、核酸は、前述の核酸に対して相同性であるかまたは非相同性であってもよい発現制御配列または調節配列に、機能的に連結されている。コーディング配列および調節配列は、これらが、前述のコーディング配列の発現または転写が、前述の調節配列の制御下または影響下にあるように、互いに共有結合している場合には、互いに「機能的に」連結されている。コーディング配列が機能的なタンパク質に翻訳されるべきである場合には、前述のコーディング配列に機能的に連結された調節配列と共に、前述の調節配列の誘導により、前述のコーディング配列の転写がもたらされ、コーディング配列または、所望のタンパク質もしくはペプチドに翻訳することができない前述のコーディング配列におけるフレームシフトを生じない。
用語「発現制御配列」または「調節配列」は、本発明において、遺伝子の発現を調節するプロモーター、エンハンサーおよび他の制御要素を含む。本発明の特定の態様において、発現制御配列を、調節することができる。調節配列の正確な構造は、種または細胞の種類の機能として変化し得るが、一般的に、それぞれ転写および翻訳の開始に関与する5’非転写および5’非翻訳配列、例えばTATAボックス、キャッピング配列、CAAT配列などを含む。さらに特に、5’非転写調節配列は、機能的に連結された遺伝子の転写制御のためのプロモーター配列を誘発するプロモーター領域を含む。調節配列はまた、エンハンサー配列または上流活性化配列を含むことができる。
従って、一方で、本明細書中に例示した腫瘍関連抗原を、すべての発現制御配列およびプロモーターと組み合わせることができる。しかし他方、本明細書中に例示した腫瘍関連遺伝子産物のプロモーターは、本発明において、すべての他の遺伝子と組み合わせることができる。これにより、これらのプロモーターの選択的活性を用いることが可能になる。
本発明において、核酸は、さらに、宿主細胞からの前述の核酸によりコードされたタンパク質またはポリペプチドの分泌を制御するポリペプチドをコードする、他の核酸と組み合わせて存在することができる。本発明において、核酸はまた、コードされたタンパク質またはポリペプチドを、宿主細胞の細胞膜上に固定させるか、または前述の細胞の特定の細胞小器官に区画化させるポリペプチドをコードする、他の核酸と組み合わせて、存在することができる。
好ましい態様において、組換えDNA分子は、本発明において、適切な場合にはプロモーターを有するベクターであり、これは、核酸、例えば本発明の腫瘍関連抗原をコードする核酸の発現を制御する。用語「ベクター」は、本明細書中では、この最も一般的な意味で用いられ、前述の核酸が、例えば原核および/または真核細胞中に導入され、適切な場合には、ゲノム中に組み込まれるのを可能にする核酸のための、すべての媒介ビヒクルを含む。この種類のベクターは、好ましくは、細胞中で複製され、および/または発現される。媒介ビヒクルは、例えば、電気穿孔において、微粒子での銃において、リポソーム投与において、アグロバクテリウム(agrobacteria)を用いた導入において、またはDNAもしくはRNAウイルスを介しての挿入において用いるように適合させることができる。ベクターは、プラスミド、ファージミドまたはウイルスゲノムを含む。
本発明により同定された腫瘍関連抗原をコードする核酸を、宿主細胞のトランスフェクションのために用いることができる。核酸は、ここでは、組換えDNAおよびRNAの両方を意味する。組換えRNAを、DNA鋳型のインビトロ転写により製造することができる。さらに、これを、適用の前に配列を安定化し、キャッピングおよびポリアデニル化することにより改変することができる。本発明において、用語「宿主細胞」は、外来性核酸で形質転換またはトランスフェクトすることができるすべての細胞に関する。用語「宿主細胞」は、本発明において、原核細胞(例えば大腸菌)または真核細胞(例えば樹状細胞、B細胞、CHO細胞、COS細胞、K562細胞、酵母細胞および昆虫細胞)を含む。特に好ましいのは、哺乳類細胞、例えばヒト、マウス、ハムスター、ブタ、ヤギ、霊長類からの細胞である。この細胞は、多数の種類の組織に由来し、初代細胞および細胞株を含むことができる。特定の例は、ケラチノサイト、末梢血白血球、骨髄の幹細胞および胚幹細胞を含む。他の態様において、宿主細胞は、抗原提示細胞、特に樹状細胞、単球またはマクロファージである。核酸は、宿主細胞中に、単一のコピーまたは2つもしくは3つ以上のコピーの形態で存在することができ、1つの態様において、宿主細胞で発現される。
本発明において、用語「発現」は、この最も一般的な意味で用いられ、RNAまたはRNAおよびタンパク質の産生を含む。これはまた、核酸の部分的発現を含む。さらに、発現は、一過性に、または安定に行うことができる。哺乳類細胞における好ましい発現系は、pcDNA3.1およびpRc/CMV(Invitrogen, Carlsbad, CA)を含み、これは、選択的マーカー、例えばG418に対する耐性を付与する(および従って安定にトランスフェクトした細胞株を選択することを可能にする)遺伝子およびサイトメガロウイルス(CMV)のエンハンサープロモーター配列を含む。
HLA分子が腫瘍関連抗原またはこの一部を提示する、本発明の場合において、発現ベクターはまた、前述のHLA分子をコードする核酸配列を含むことができる。HLA分子をコードする核酸配列は、腫瘍関連抗原もしくはこの一部をコードする核酸と同一の発現ベクター上に存在することができるか、または、両方の核酸は、異なる発現ベクター上に存在することができる。後者の場合において、2種の発現ベクターを、細胞中にコトランスフェクトする(cotransfect)ことができる。宿主細胞が、腫瘍関連抗原またはこの一部も、HLA分子も発現しない場合には、これをコードする両方の核酸を、同一の発現ベクターまたは異なる発現ベクターのいずれかにより、細胞中にトランスフェクトさせる。細胞が、すでにHLA分子を発現する場合には、腫瘍関連抗原またはこの一部をコードする核酸配列のみを、細胞中にトランスフェクトすることができる。
本発明はまた、腫瘍関連抗原をコードする核酸の増幅のためのキットを含む。このようなキットは、例えば、腫瘍関連抗原をコードする核酸にハイブリダイズする増幅プライマーの対を含む。プライマーは、好ましくは、6〜50、特に10〜30、15〜30および20〜30の、核酸の近接するヌクレオチドの配列を含み、非重複性であって、プライマー二量体の形成を回避する。プライマーの1つは、腫瘍関連抗原をコードする核酸の1本の鎖にハイブリダイズし、他方のプライマーは、腫瘍関連抗原をコードする核酸の増幅を可能にする配置において、相補的な鎖にハイブリダイズする。
「アンチセンス」分子または「アンチセンス」核酸を、核酸の発現を調節、特に減少させるために用いることができる。用語「アンチセンス分子」または「アンチセンス核酸」は、本発明において、オリゴリボヌクレオチド、オリゴデオキシリボヌクレオチド、改変オリゴリボヌクレオチドまたは改変オリゴデオキシリボヌクレオチドであり、生理学的条件下で、特定の遺伝子を含むDNAまたは前述の遺伝子のmRNAにハイブリダイズし、これにより前述の遺伝子の転写および/または前述のmRNAの翻訳を阻害するオリゴヌクレオチドを意味する。本発明において、「アンチセンス分子」はまた、核酸またはこの一部を、この天然のプロモーターに関して逆の配向で含むコンストラクトを含む。核酸またはこの一部のアンチセンス転写物は、酵素を特定し、従ってmRNAの活性酵素への蓄積または翻訳を抑制する、天然に存在するmRNAとの二重鎖を形成することができる。他の可能性は、核酸を不活性化させるためのリボザイムを用いることである。本発明において好ましいアンチセンスオリゴヌクレオチドは、6〜50、特に10〜30、15〜30および20〜30の、標的核酸の近接するヌクレオチドの配列を有し、好ましくは、標的核酸またはこの一部に完全に相補的である。
好ましい態様において、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、N末端または5’上流部位、例えば翻訳開始部位、転写開始部位またはプロモーター部位とハイブリダイズする。他の態様において、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、3’非翻訳領域またはmRNAスプライシング部位とハイブリダイズする。
1つの態様において、本発明のオリゴヌクレオチドは、リボヌクレオチド、デオキシリボヌクレオチドまたはこれらの組み合わせからなり、1つのヌクレオチドの5’末端および他のヌクレオチドの3’末端は、互いに、ホスホジエステル結合により結合している。これらのオリゴヌクレオチドは、慣用の方法で合成するか、または組換え的に産生することができる。
好ましい態様において、本発明のオリゴヌクレオチドは、「改変された」オリゴヌクレオチドである。ここで、オリゴヌクレオチドは、極めて異なる方法で改変することができ、その標的に結合する能力を損ねず、例えばその安定性または治療効率を増大させる。本発明において、用語「改変されたオリゴヌクレオチド」は、(i)このヌクレオチドの少なくとも2つが、互いに、合成ヌクレオシド間結合(即ち、ホスホジエステル結合ではないヌクレオシド間結合)により結合しており、および/または(ii)通常は核酸中には見出されない化学基が、オリゴヌクレオチドに共有結合しているオリゴヌクレオチドを意味する。好ましい合成ヌクレオシド間結合は、ホスホロチオエート、アルキルホスホネート、ホスホロジチオエート、リン酸エステル、アルキルホスホノチオエート、ホスホラミデート(phosphoramidate)、カルバメート、カーボネート、リン酸トリエステル、アセトアミデート、カルボキシメチルエステルおよびペプチドである。
用語「改変されたオリゴヌクレオチド」はまた、共有的に改変された塩基および/または糖を有するオリゴヌクレオチドを含む。「改変されたオリゴヌクレオチド」は、例えば、3’位において水酸基以外の低分子量有機基および5’位においてリン酸基に共有結合した糖残基を有するオリゴヌクレオチドを含む。改変されたオリゴヌクレオチドは、例えば、リボース、例えばアラビノースの代わりに2’−O−アルキル化されたリボース残基または他の糖を含むことができる。
好ましくは、本発明において記載したタンパク質およびポリペプチドは、単離されている。用語「単離されたタンパク質」または「単離されたポリペプチド」は、タンパク質またはポリペプチドが、この天然の環境から分離されていることを意味する。単離されたタンパク質またはポリペプチドは、本質的に精製された状態であってもよい。用語「本質的に精製された」は、タンパク質またはポリペプチドが、本質的に、これが天然にまたはインビボで関連する他の物質を本質的に含まないことを意味する。
このようなタンパク質およびポリペプチドは、例えば、抗体の産生において、および免疫学的もしくは診断学的アッセイにおいて、または治療薬として用いることができる。本発明において記載したタンパク質およびポリペプチドを、生物学的試料、例えば組織または細胞ホモジネートから単離することができ、また、多数の原核または真核発現系において組換え的に発現することができる。
本発明の目的のために、タンパク質もしくはポリペプチドまたはアミノ酸配列の「誘導体」は、アミノ酸挿入バリアント、アミノ酸欠失バリアントおよび/またはアミノ酸置換バリアントを含む。
アミノ酸挿入バリアントは、アミノおよび/またはカルボキシ末端融合およびまた1個の、または2個もしくは3個以上のアミノ酸の、特定のアミノ酸配列中の挿入を含む。挿入を有するアミノ酸配列バリアントの場合において、1個または2個以上のアミノ酸残基が、アミノ酸配列中の特定の部位中に挿入されるが、得られた産物の適切なスクリーニングを伴う無秩序な挿入がまた、可能である。アミノ酸欠失バリアントは、配列からの1個または2個以上のアミノ酸の除去により特徴づけられる。アミノ酸置換バリアントは、配列中の少なくとも1個の残基が除去され、他の残基がこの場所に挿入されることにより、特徴づけられる。好ましいのは、相同性のタンパク質またはポリペプチド間に保存されないアミノ酸配列中の位置にある改変である。好ましいのは、アミノ酸を、同様の特性、例えば疎水性、親水性、電気陰性度、側鎖の大きさなどを有する他のもので置換することである(保存的置換)。保存的置換は、例えば、1個のアミノ酸の、置換されるべきアミノ酸と同一の群における、以下に列挙する他のアミノ酸での交換に関する:
1.小さい脂肪族、無極性またはわずかに極性の残基:Ala、Ser、Thr(Pro、Gly)
2.負に帯電した残基およびこれらのアミド:Asn、Asp、Glu、Gln
3.正に帯電した残基:His、Arg、Lys
4.大きい脂肪族無極性残基:Met、Leu、Ile、Val(Cys)
5.大きい芳香族残基:Phe、Tyr、Trp。
タンパク質構造物中のこれらの特定の部分のために、3種の残基を、かっこ中に示す。Glyは、側鎖を有しない唯一の残基であり、従って鎖に柔軟性を付与する。Proは、通常でない幾何学的形状を有し、これは、鎖を大いに制限する。Cysは、ジスルフィド架橋を形成することができる。
上記に記載したアミノ酸バリアントを、既知のペプチド合成手法を用いて、例えば固相合成(Merrifield, 1964)および同様の方法または組換えDNA操作により、容易に製造することができる。置換突然変異体を、所定の部位において、既知の、または部分的に既知の配列を有するDNA中に導入するための手法は、十分知られており、例えばM13変異原性を含む。置換、挿入または欠失を有するタンパク質を製造するためのDNA配列の操作は、例えばSambrook et al. (1989)中に詳細に記載されている。
本発明において、タンパク質またはポリペプチドの「誘導体」はまた、酵素に関連するすべての分子、例えば炭水化物、脂質および/またはタンパク質またはポリペプチドの単一の、または多数の置換、欠失および/または付加を含む。用語「誘導体」はまた、前述のタンパク質またはポリペプチドのすべての機能的な化学的な等価物に拡張される。
本発明において、腫瘍関連抗原の一部またはフラグメントは、これに由来するポリペプチドの機能的特性を有する。このような機能的特性は、抗体との相互作用、他のポリペプチドまたはタンパク質との相互作用、核酸の選択的結合および酵素活性を含む。特定の特性は、HLAとの複合体を形成する能力であり、適切な場合には、免疫応答を発生する。この免疫応答は、細胞障害性またはヘルパーT細胞を刺激することに基づくことができる。本発明の腫瘍関連抗原の一部またはフラグメントは、好ましくは、少なくとも6個、特に少なくとも8個、少なくとも10個、少なくとも12個、少なくとも15個、少なくとも20個、少なくとも30個または少なくとも50個の、腫瘍関連抗原の連続したアミノ酸の配列を含む。
本発明において、腫瘍関連抗原の好ましい部分またはフラグメントは、好ましくは、本発明において同定された腫瘍関連抗原から由来する、以下に列挙した配列の1つを有し、これらは、好ましくは、本発明においてインビボで細胞障害性Tリンパ球を刺激するのに、およびまたエクスビボでの治療的な養子移入のための拡張され、刺激されたTリンパ球を調製するのに特に有用である、ペプチドエピトープである。これらの配列は、特に、以下に列挙するMHCクラスI対立遺伝子のためのペプチドエピトープである:
腫瘍関連抗原をコードする核酸の一部またはフラグメントは、本発明において、核酸の一部に関し、これは、上記に定義したように、少なくとも腫瘍関連抗原および/または前述の腫瘍関連抗原の一部またはフラグメントをコードする。
腫瘍関連抗原をコードする遺伝子の単離および同定はまた、1種または2種以上の腫瘍関連抗原の発現により特徴づけられる疾患の診断を可能にする。これらの方法は、腫瘍関連抗原をコードする1種または2種以上の核酸を決定すること、および/またはこれに由来する、コードされた腫瘍関連抗原および/またはペプチドを決定することを含む。核酸を、ポリメラーゼ連鎖反応または標識したプローブとのハイブリダイゼーションによるものを含む、慣用の方法において、決定することができる。これから由来する腫瘍関連抗原またはペプチドを、抗原および/またはペプチドを認識することに関して患者の抗血清をスクリーニングすることにより、決定することができる。これらを、また、患者のT細胞を、対応する腫瘍関連抗原に対する特異性についてスクリーニングすることにより、決定することができる。
本発明はまた、前述の腫瘍関連抗原の抗体および細胞結合パートナーを含む、本明細書中に記載した腫瘍関連抗原に結合するタンパク質を単離することを可能にする。
本発明において、特定の態様は、腫瘍関連抗原に由来する「ドミナントネガティブ(dominant negative)」ポリペプチドを提供することを含むべきである。ドミナントネガティブポリペプチドは、細胞機構と相互作用することにより、活性タンパク質を細胞機構とのこの相互作用から追い出し、または活性タンパク質と競合し、これにより前述の活性タンパク質の効果を減少させる、不活性なタンパク質バリアントである。例えば、リガンドに結合するが、リガンドへの結合に対する応答としてのシグナルを発生しない、ドミナントネガティブレセプターは、前述のリガンドの生物学的効果を低減し得る。同様に、通常は標的タンパク質と相互作用するが、前述の標的タンパク質をリン酸化しない、ドミナントネガティブの触媒的に不活性なキナーゼは、細胞シグナルに対する応答としての前述の標的タンパク質のリン酸化を減少させ得る。同様に、遺伝子の制御領域中のプロモーター部位に結合するが、前述の遺伝子の転写を増大させない、ドミナントネガティブの転写因子は、正常な転写因子の効果を、転写を増大させずに、プロモーター結合部位を占有することにより低減し得る。
細胞中のドミナントネガティブポリペプチドの発現の結果は、活性タンパク質の機能の減少である。当業者は、タンパク質のドミナントネガティブのバリアントを、例えば慣用の変異原性方法により、およびバリアントポリペプチドのドミナントネガティブの効果を評価することにより製造することができる。
本発明はまた、腫瘍関連抗原に結合するポリペプチドなどの物質を含む。このような結合物質を、例えば、腫瘍関連抗原および腫瘍関連抗原のこれらの結合パートナーとの複合体を検出するためのスクリーニングアッセイにおいて、並びに前述の腫瘍関連抗原およびこれらとこれらの結合パートナーとの複合体の精製において、用いることができる。このような物質を、また、腫瘍関連抗原の活性を阻害するために、例えばこのような抗原に結合することにより、用いることができる。
従って、本発明は、腫瘍関連抗原に選択的に結合することができる結合物質、例えば抗体または抗体フラグメントを含む。抗体は、慣用の方式で製造されるポリクローナルおよびモノクローナル抗体を含む。
抗体分子の小さい部分であるパラトープのみが、抗体のこのエピトープへの結合に関与することは、知られている(Clark, W. R. (1986), The Experimental Foundations of Modern Immunology, Wiley & Sons, Inc., New York; Roitt, I. (1991), Essential Immunology, 第7版、Blackwell Scientific Publications, Oxfordを参照)。pFc’およびFc領域は、例えば、完全なカスケードのエフェクターであるが、抗原結合に関与しない。F(ab’)2フラグメントと呼ぶ、pFc’領域が酵素的に除去されたか、またはpFc’領域を有せずに産生された抗体は、完全な抗体の両方の抗原結合部位を有する。同様に、Fabフラグメントと呼ぶ、Fc領域が酵素的に除去されたか、または前述のFc領域を有せずに産生された抗体は、インタクトな(intact)抗体分子の1つの抗原結合部位を有する。さらに、Fabフラグメントは、抗体の共有結合した軽鎖およびFdと呼ぶ、前述の抗体の重鎖の一部からなる。Fdフラグメントは、抗体特異性の主要な決定因子であり(単一のFdフラグメントは、10個までの異なる軽鎖と、抗体の特異性を変化せずに関連することができ)、Fdフラグメントは、単離された際に、エピトープに結合する能力を維持する。
抗体の抗原結合部位内に位置するのは、抗原エピトープおよびフレームワーク領域(FRs)と直接相互作用し、パラトープの三次構造を維持する、相補性決定領域(CDRs)である。重鎖のFdフラグメントおよびIgG免疫グロブリンの軽鎖の両方は、各々の場合において、3つの相補性決定領域(CDR1〜CDR3)により分離された、4つのフレームワーク領域(FR1〜FR4)を含む。CDRおよび、特にCDR3領域および尚一層特定的には、重鎖のCDR3領域は、かなりの程度で、抗体特異性に関与する。
哺乳類抗体の非CDR領域は、同一の、または異なる特異性を有する抗体の同様の領域により置換されていてもよく、もとの抗体のエピトープについての特異性は維持されると知られている。これにより、非ヒトCDRがヒトFRおよび/またはFc/pFc’領域に共有結合して、機能的抗体を産生する、「ヒト化された」抗体を発生させることが可能になった。
例えば、WO 92/04381には、少なくとも一部のマウスFR領域が、ヒト由来のFR領域で置換された、ヒト化マウスRSV抗体の産生および使用が記載されている。抗原結合能力を有するインタクトな抗体のフラグメントを含むこの種類の抗体は、しばしば、「キメラ」抗体と呼ばれる。
本発明はまた、Fcおよび/またはFRおよび/またはCDR1および/またはCDR2および/または軽鎖CDR3領域が、相同性ヒトまたは非ヒト配列で置換された、抗体のF(ab’)2、Fab、FvおよびFdフラグメント、キメラ抗体、FRおよび/またはCDR1および/またはCDR2および/または軽鎖CDR3領域が、相同性ヒトまたは非ヒト配列で置換された、キメラF(ab’)2フラグメント抗体、FRおよび/またはCDR1および/またはCDR2および/または軽鎖CDR3領域が、相同性ヒトまたは非ヒト配列で置換された、キメラFabフラグメント抗体、およびFRおよび/またはCDR1および/またはCDR2領域が、相同性ヒトまたは非ヒト配列で置換された、キメラFdフラグメント抗体を提供する。本発明はまた、「単鎖」抗体を含む。
好ましくは、本発明において用いられる抗体は、配列表の配列番号:14〜18、80〜84または101〜116に示す配列の1つに対して送達され、かつ/またはこれらのペプチドでの免疫により得ることができる。
本発明はまた、腫瘍関連抗原に特異的に結合するポリペプチドを含む。この種類のポリペプチド結合物質は、例えば、単に、固定された形態で溶液中に、またはファージディスプレイライブラリーとして製造することができる、縮重ペプチドライブラリーにより、提供することができる。同様に、1種または2種以上のアミノ酸を有するペプチドの組み合わせライブラリーを製造することも可能である。ペプトイドおよび非ペプチド性合成残基のライブラリーもまた、製造することができる。
ファージディスプレイは、本発明の結合ペプチドを同定するのに特に有効であり得る。これに関して、例えば、長さが4〜約80アミノ酸残基である挿入物を提示するファージライブラリーを製造する(例えば、M13、fdまたはラムダファージを用いて)。次に、腫瘍関連抗原に結合するインサートを有するファージを、選択する。このプロセスを、腫瘍関連抗原に結合するファージの再選択の2つまたは3つ以上のサイクルにより、繰り返すことができる。繰り返されたラウンドにより、特定の配列を有するファージの濃縮がもたらされる。DNA配列の分析を行って、発現されたポリペプチドの配列を同定することができる。腫瘍関連抗原に結合する配列の最小の直線状部分を、決定することができる。酵母の「ツーハイブリッドシステム(two-hybrid system)」を、また、腫瘍関連抗原に結合するポリペプチドを同定するために用いることができる。本発明において記載された腫瘍関連抗原またはこのフラグメントを、ファージディスプレイライブラリーを含むペプチドライブラリーをスクリーニングするために用いて、腫瘍関連抗原のペプチド結合パートナーを同定し、選択することができる。このような分子を、例えば、スクリーニングアッセイ、精製プロトコルのために、腫瘍関連抗原の機能の阻害および当業者に知られている他の目的のために、用いることができる。
上記に記載した抗体および他の結合分子を、例えば、腫瘍関連抗原を発現する組織を同定するために用いることができる。また、抗体は、腫瘍関連抗原を発現する細胞および組織を示すための特定の診断物質に結合させることができる。また、これらを、治療的に有用な物質に結合させることができる。診断物質には、非限定的に、硫酸バリウム、ヨーセタミン酸(iocetamic acid)、ヨーパノ酸、カルシウムイポデート(calcium ipodate)、ナトリウムジアトリゾエート(sodium diatrizoate)、メグルミンジアトリゾエート(meglumine diatrizoate)、メトリザミド(metrizamide)、ナトリウムチロパノエート(sodium tyropanoate)並びに陽電子放射体、例えばフッ素−18および炭素−11、ガンマ線放射体、例えばヨウ素−123、テクネチウム−99m、ヨウ素−131およびインジウム−111、核磁気共鳴のための核種、例えばフッ素およびガドリニウムを含む放射性診断薬が含まれる。
本発明において、用語「治療的に有用な物質」は、所望のように、抗癌剤、放射活性ヨウ素標識化合物、毒素、細胞分裂停止または細胞溶解薬などを含む、1種または2種以上の腫瘍関連抗原を発現する細胞に選択的に送達されるすべての治療分子を意味する。抗癌剤には、例えば、アミノグルテチミド、アザチオプリン、硫酸ブレオマイシン、ブスルファン、カルムスチン、クロラムブシル、シスプラチン、シクロホスファミド、シクロスポリン、シタラビジン、ダカルバジン、ダクチノマイシン、ダウノルビン、ドキソルビシン、タキソール、エトポシド、フルオロウラシル、インターフェロン−α、ロムスチン、メルカプトプリン、メトトレキセート、マイトタン、プロカルバジンHCl、チオグアニン、硫酸ビンブラスチンおよび硫酸ビンクリスチンが含まれる。他の抗癌剤は、例えば、Goodman and Gilman, "The Pharmacological Basis of Therapeutics", 第8版、1990, McGraw-Hill, Inc.、特に第52章(Antineoplstic Agents (Paul Calabresi and Bruce A. Chabner))に記載されている。毒素は、ヤマゴボウ抗ウイルスタンパク質、コレラ毒素、百日咳毒素、リシン、ゲロニン、アブリン、ジフテリア外毒素またはプソイドモナス(Pseudomonas)外毒素などのタンパク質であってもよい。毒素残基はまた、高エネルギーを放射する放射性核種、例えばコバルト−60であってもよい。
TPTEについて、本発明において、これは、膜に局在する唯一のタンパク質ではなく、また内部移行することができることを、示すことができる(例2を参照)。従って、TPTEに関する本発明において同定された腫瘍関連抗原は、これら自体、これに結合する物質、特に上記に記載した治療的抗体の、膜から細胞質への輸送の作用を奏し得、従って、内部移行のために、ここでこれらの物質は、好ましくは、これらの効果、例えば細胞破壊効果を奏する。
用語「患者」は、本発明において、ヒト、非ヒト霊長類または他の動物、特に哺乳類、例えばウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ネコまたはげっ歯動物、例えばマウスおよびラットを意味する。特に好ましい態様において、患者は、ヒトである。
本発明において、用語「疾患」は、腫瘍関連抗原が発現されるかまたは異常に発現されるすべての病理学的状態を意味する。「異常な発現」は、本発明において、発現が、健康な個体における状態と比較して、変化した、好ましくは増大したことを意味する。発現の増大は、少なくとも10%、特に少なくとも20%、少なくとも50%または少なくとも100%の増大を意味する。1つの態様において、腫瘍関連抗原は、罹患した個体の組織においてのみ発現される一方、健康な個体における発現は抑制されている。このような疾患の1つの例は、癌、特に精上皮腫、黒色腫、奇形腫、神経膠腫、大腸直腸癌、乳癌、前立腺癌、子宮癌、卵巣癌および肺癌である。
本発明において、生物学的試料は、組織試料および/または細胞試料であってもよく、本明細書中に記載した種々の方法において用いるために、慣用の方法で、例えばパンチ生検を含む組織生検により、および血液、気管支吸引液、尿、糞便または他の体液を採取することにより得ることができる。
本発明において、用語「免疫反応性細胞」は、好適な刺激で免疫細胞(例えばB細胞、ヘルパーT細胞または細胞溶解性T細胞)に成熟することができる細胞を意味する。免疫反応性細胞は、CD34+造血幹細胞、未成熟および成熟T細胞並びに未成熟および成熟B細胞を含む。腫瘍関連抗原を認識する細胞溶解性またはヘルパーT細胞の産生が望ましい場合には、免疫反応性細胞を、腫瘍関連抗原を発現する細胞と、細胞溶解性T細胞およびヘルパーT細胞の産生、分化および/または選択を好む条件下で、接触させる。抗原に暴露された際の、T細胞前駆体の細胞溶解性T細胞への分化は、免疫系のクローン的選択に類似する。
いくつかの治療方法は、患者の免疫系の反応に基づいており、これは、抗原提示細胞、例えば1種または2種以上の腫瘍関連抗原を提示する癌細胞の溶解をもたらす。これに関連して、例えば腫瘍関連抗原とMHC分子との複合体に特異的な自己細胞障害性Tリンパ球を、細胞的異常を有する患者に投与する。このような細胞障害性Tリンパ球のインビトロでの産生は、知られている。T細胞を分化させる方法の例は、WO-A-9633265中に見出すことができる。一般的に、血液細胞などの細胞を含む試料を、患者から採取し、細胞を、複合体を提示し、細胞障害性Tリンパ球の増殖を生じさせることができる細胞(例えば樹状細胞)と接触させる。標的細胞は、COS細胞などのトランスフェクトした細胞であってもよい。これらのトランスフェクトした細胞は、これらの表面上に所望の複合体を提示し、細胞障害性Tリンパ球と接触した際には、後者の増殖を刺激する。次に、クローン的に増殖した自己細胞障害性Tリンパ球を、患者に投与する。
抗原特異的な細胞障害性Tリンパ球を選択する他の方法において、MHCクラスI分子/ペプチド複合体の蛍光を発生する四量体を、細胞障害性Tリンパ球の特定のクローンを検出するために用いる(Altman et al., Science 274:94-96, 1996; Dunbar et al., Curr. Biol. 8:413-416, 1998)。可溶性MHCクラスI分子は、インビトロで、前述のクラスI分子に結合するβ2ミクログロブリンおよびペプチド抗原の存在下で折り畳まれる。MHC/ペプチド複合体を精製し、次にビオチンで標識する。四量体は、ビオチン化されたペプチド−MHC複合体を標識したアビジン(例えばフィコエリスリン)と、4:1のモル比で混合することにより、形成される。次に、四量体を、細胞障害性Tリンパ球、例えば末梢血液またはリンパ節と接触させる。四量体は、ペプチド抗原/MHCクラスI複合体を認識する細胞障害性Tリンパ球に結合する。四量体に結合した細胞を、蛍光制御されたセルソーティング(cell sorting)により分類して、反応性の細胞障害性Tリンパ球を単離することができる。次に、単離された細胞障害性Tリンパ球を、インビトロで増殖させることができる。
養子移入と呼ばれる治療方法において(Greenberg, J. Immunol. 136(5):1917, 1986; Riddel et al., Science 257:238, 1992; Lynch et al., Eur. J. Immunol. 21:1403-1410, 1991; Kast et al., Cell 59:603-614, 1989)、所望の複合体を提示する細胞(例えば樹状細胞)を、処置するべき患者の細胞障害性Tリンパ球と混ぜ合わせ、特定の細胞障害性Tリンパ球の増殖をもたらす。次に、増殖された細胞障害性Tリンパ球を、特定の複合体を提示する特定の異常な細胞により特徴づけられる、細胞異常を有する患者に投与する。次に、細胞障害性Tリンパ球は、異常な細胞を溶解し、これにより所望の治療効果が達成される。
しばしば、患者のT細胞レパートリーの中で、この種類の特定の複合体に対する低い親和性を有するT細胞のみが増殖し得る。その理由は、高い親和性を有するT細胞は、耐容性の発生により消滅したからである。ここで、代替物は、T細胞レセプター自体の導入であってもよい。また、このために、所望の複合体を提示する細胞(例えば樹状細胞)を、健康な個体の細胞障害性Tリンパ球と混ぜ合わせる。ドナーが特定の複合体と以前に接触したことがない場合には、これにより、高い親和性を有する特定の細胞障害性Tリンパ球の増殖がもたらされる。これらの増殖した特定のTリンパ球の高親和性T細胞レセプターをクローン化し、遺伝子導入により、例えばレトロウイルスベクターを用いて、所望のように他の患者のT細胞中に形質導入することができる。次に、養子移入を、これらの遺伝子的に変化したTリンパ球を用いて行う(Stanislawski et al., Nat Immunol. 2:962-70, 2001; Kessels et al., Nat Immunol. 2:957-61, 2001)。
上記の治療概念は、患者の異常な細胞の少なくともいくらかが、腫瘍関連抗原とHLA分子との複合体を提示するという事実から開始する。このような細胞を、自体公知の方法で単離することができる。複合体を提示する細胞が同定されると直ちに、これらを、細胞障害性Tリンパ球を含む、患者からの試料と混ぜ合わせることができる。細胞障害性Tリンパ球が、複合体を提示する細胞を溶解する場合には、腫瘍関連抗原が提示されていると推測することができる。
養子移入は、本発明において用いることができる療法の唯一の形態ではない。また、細胞障害性Tリンパ球を、インビボで、自体公知の方法で生成することができる。1つの方法は、複合体を発現する非増殖性細胞を用いる。ここで用いられる細胞は、通常複合体を発現する細胞、例えば照射された腫瘍細胞または複合体(即ち、抗原性ペプチドと提示HLA分子)の提示に必要な一方もしくは両方の遺伝子をトランスフェクトされた細胞である。種々の種類の細胞を用いることができる。さらに、目的とする遺伝子の一方または両方を有するベクターを用いることが、可能である。特に好ましいのは、ウイルス性または細菌性ベクターである。例えば、腫瘍関連抗原またはこの一部をコードする核酸を、特定の種類の組織または細胞において、前述の腫瘍関連抗原またはこのフラグメントの発現を制御するプロモーターおよびエンハンサー配列に、機能的に結合させることができる。
核酸は、発現ベクター中に導入することができる。発現ベクターは、外来性核酸を挿入することができる、改変されていない染色体外核酸、プラスミドまたはウイルスゲノムであってもよい。また、腫瘍関連抗原をコードする核酸を、レトロウイルスゲノム中に挿入することができ、これにより、核酸を、標的組織または標的細胞のゲノム中に組み込むことが可能になる。これらの系において、微生物、例えばワクシニアウイルス、ポックスウイルス、単純ヘルペスウイルス、レトロウイルスまたはアデノウイルスは、目的とする遺伝子を運び、事実上宿主細胞に「感染」させる。他の好ましい形態は、例えば、リポソームを用いた導入により、または電気穿孔により細胞中に導入することができる、組換えRNAの形態の腫瘍関連抗原の導入である。得られた細胞は、関連する複合体を提示し、次に増殖する自己細胞障害性Tリンパ球により認識される。
同様の効果を、腫瘍関連抗原またはこのフラグメントを、アジュバントと組み合わせて、インビボでの抗原提示細胞中への導入を可能にすることにより、達成することができる。腫瘍関連抗原またはこのフラグメントを、タンパク質として、DNA(例えばベクター内)として、またはRNAとして表すことができる。腫瘍関連抗原はプロセシングされ、HLA分子のためのペプチドパートナーを産生し、一方、このフラグメントを、さらなるプロセシングを必要とせずに提示することができる。後者は、特に、これらがHLA分子に結合することができる場合である。好ましいのは、完全な抗原がインビボで、樹状細胞によりプロセシングされる投与形態である。その理由は、これはまた、有効な免疫応答のために必要であるヘルパーT細胞応答を生じ得るからである(Ossendorp et al., Immunol Lett. 74:75-9, 2000; Ossendorp et al., J. Exp. Med. 187:693-702, 1998)。
一般的に、有効量の腫瘍関連抗原を、患者に、例えば皮内注射により投与することが可能である。しかし、注射をまた、リンパ節中に、節内に(intranodally)行うことができる(Maloy et al., Proc Natl Acad Sci USA 98:3299-303, 2001)。また、これを、樹状細胞中への取り込みを容易にする試薬と組み合わせて行うことができる。インビボでの好ましい腫瘍関連抗原は、同種癌抗血清または多くの癌患者のT細胞と反応するものを含む。しかし、特に興味深いものは、自発的免疫応答が予め存在しないものである。明らかに、腫瘍を溶解することができるこれらの免疫応答に対して誘発することが可能である(Keogh et al., J. Immunol. 167:787-96, 2001; Appella et al., Biomed Pept Proteins Nucleic Acids 1:177-84, 1995; Wentworth et al., Mol Immunol. 32:603-12, 1995)。
また、本発明により記載された医薬組成物を、免疫化のためのワクチンとして用いることができる。本発明において、用語「免疫化」または「ワクチン接種」は、抗原に対する免疫応答の増大または活性化を意味する。腫瘍関連抗原またはこれをコードする核酸を用いることにより、癌に対する免疫化効果を試験するために、動物モデルを用いることが可能である。例えば、ヒト癌細胞を、マウスに導入して、腫瘍を発生させることができ、腫瘍関連抗原をコードする1種または2種以上の核酸を、投与することができる。癌細胞に対する効果(例えば腫瘍の大きさの減少)を、核酸による免疫化の有効性についての基準として測定することができる。
免疫化のための組成物の一部として、1種または2種以上の腫瘍関連抗原またはこの刺激フラグメントを、免疫応答を誘発するための、または免疫応答を増大させるための1種または2種以上のアジュバントと共に投与する。アジュバントは、抗原中に導入されるか、または後者と共に投与され、免疫応答を増大させる物質である。アジュバントは、免疫応答を、抗原貯留(細胞外またはマクロファージ中)を提供し、マクロファージを活性化させ、特定のリンパ球を刺激することにより増強することができる。アジュバントは、知られており、非限定的に、モノホスホリル脂質A(MPL, SmithKline Beecham)、サポニン類、例えばQS21(SmithKline Beecham)、DQS21(SmithKline Beecham; WO 96/33739)、QS7、QS17、QS18およびQS−L1(So et al., Mol. Cells 7:178-186, 1997)、不完全フロイントアジュバント、完全フロイントアジュバント、ビタミンE、モンタニド、アルム、CpGオリゴヌクレオチド(Kreig et al., Nature 374:546-9, 1995を参照)および生物学的に分解可能な油、例えばスクアレンおよび/またはトコフェロールから製造された、種々の油中水エマルジョンを含む。好ましくは、ペプチドを、DQS21/MPLとの混合物で投与する。DQS21のMPLに対する比率は、典型的には、約1:10〜10:1、好ましくは約1:5〜5:1および特に約1:1である。ヒトへの投与には、ワクチン配合物は、典型的には、DQS21およびMPLを、約1μg〜約100μgの範囲内で含む。
また、患者の免疫応答を刺激する他の物質を、投与することができる。例えば、ワクチン接種中のサイトカインを、リンパ球に対するこれらの調節特性により用いることが可能である。このようなサイトカインは、例えば、ワクチンの保護作用を増大することが示された、インターロイキン−12(IL−12)(Science 268:1432-1434, 1995を参照)、GM−CSFおよびIL−18を含む。
免疫応答を増強し、従ってワクチン接種において用いることができる、多くの化合物がある。前述の化合物は、タンパク質または核酸の形態で提供された同時刺激分子を含む。このような同時刺激分子の例は、樹状細胞(DC)上で発現され、T細胞上で発現されたCD28分子と相互作用する、B7−1およびB7−2(それぞれCD80およびCD86)である。この相互作用は、抗原/MHC/TCRにより刺激された(シグナル1)T細胞のための同時刺激(シグナル2)を提供し、これにより、前述のT細胞の増殖およびエフェクター機能を増強する。B7はまた、T細胞上のCTLA4(CD152)と相互作用し、CTLA4およびB7リガンドに関与する研究により、B7−CTLA4相互作用が、抗腫瘍免疫性およびCTL増殖を増強し得ることが実証される(Zheng, P. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95(11):6284-6289 (1998))。
B7は、典型的には、腫瘍細胞上では発現されず、従って、これらは、T細胞についての有効な抗原提示細胞(APCs)ではない。B7発現の誘発により、腫瘍細胞が、細胞障害性Tリンパ球の増殖およびエフェクター機能を、一層有効に刺激することが可能になる。B7/IL−6/IL−12の組み合わせによる同時刺激により、T細胞集団中のIFN−ガンマおよびTh1−サイトカインプロフィルの誘発が明らかになり、さらに増強されたT細胞活性がもたらされた(Gajewski et al., J. Immunol. 154:5637-5648 (1995))。
細胞障害性Tリンパ球の完全な活性化および完全なエフェクター機能は、前述のヘルパーT細胞上のCD40リガンドと、樹状細胞により発現されたCD40分子との間の相互作用を介した、ヘルパーT細胞の関与を必要とする(Ridge et al., Nature 393:474 (1998), Bennett et al., Nature 393:478 (1998), Schoenberger et al., Nature 393:480 (1998))。この同時刺激シグナルの機構は、おそらく、前述の樹状細胞(抗原提示細胞)によるB7産生および関連するIL−6/IL−12産生の増大に関連する。従って、CD40−CD40L相互作用は、シグナル1(抗原/MHC−TCR)およびシグナル2(B7−CD28)の相互作用を補完する。
樹状細胞を刺激するための抗CD40抗体の使用は、通常は炎症応答の範囲外にあるか、または非専門的抗原提示細胞(腫瘍細胞)により提示される腫瘍抗原に対する応答を直接増強すると予測される。これらの刺激において、ヘルパーTおよびB7同時刺激シグナルは、提供されない。この機構を、抗原でパルスされた樹状細胞に基づく療法と一緒に、またはヘルパーTエピトープが既知のTRA前駆体において明らかにされていない状態において、用いることができる。
本発明はまた、核酸、ポリペプチドまたはペプチドの投与を提供する。ポリペプチドおよびペプチドを、自体公知の方法で投与することができる。1つの態様において、核酸を、エクスビボ方法により、即ち細胞を患者から採りだし、前述の細胞を遺伝子的に改変して、腫瘍関連抗原を導入し、変化した細胞を患者中に再び導入することにより、投与する。これは、一般的に、遺伝子の機能的コピーを患者の細胞中にインビトロで導入し、遺伝子的に変化した細胞を患者中に再び導入することを含む。遺伝子の機能的コピーは、遺伝子が、遺伝子的に変化した細胞中で発現されることを可能にする調節要素の機能的制御の下にある。トランスフェクションおよび形質導入方法は、当業者に知られている。本発明はまた、核酸をインビボで、ウイルスなどのベクターおよび標的制御リポソームを用いることにより投与することを提供する。
好ましい態様において、腫瘍関連抗原をコードする核酸を投与するためのウイルスベクターを、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ワクシニアウイルスおよび弱毒ポックスウイルスを含むポックスウイルス、セムリキフォレスト(Semliki Forest)ウイルス、レトロウイルス、シンドビス(Sindbis)ウイルス並びにTyウイルス様粒子からなる群から選択する。特に好ましいのは、アデノウイルスおよびレトロウイルスである。レトロウイルスは、典型的には、複製欠乏性である(即ち、これらは、感染性粒子を発生することができない)。
種々の方法を用いて、本発明において、核酸を細胞中に、インビトロまたはインビボで導入することができる。この種類の方法は、核酸CaPO4沈殿物のトランスフェクション、DEAEと関連する核酸のトランスフェクション、目的とする核酸を担持する前述のウイルスでのトランスフェクションまたは感染、リポソーム媒介トランスフェクションなどを含む。特定の態様において、好ましいのは、核酸を特定の細胞に送達させることである。このような態様において、核酸を細胞(例えばレトロウイルスまたはリポソーム)に投与するために用いられる担体は、結合した標的制御分子を有することができる。例えば、標的細胞上の表面膜タンパク質に特異的な抗体または標的細胞上のレセプターに対するリガンドなどの分子を、核酸担体中に組み込むか、またはこれに付着させることができる。好ましい抗体は、腫瘍関連抗原に選択的に結合する抗体を含む。核酸のリポソームを介しての投与が望ましい場合には、エンドサイトーシスと関連する表面膜タンパク質に結合するタンパク質を、リポソーム配合物中に導入して、標的制御および/または取り込みを可能にすることができる。このようなタンパク質は、特定の種類の細胞に特異的なカプシドタンパク質またはこのフラグメント、内部移行するタンパク質に対する抗体、細胞内部位に向けられるタンパク質などを含む。
本発明の治療組成物を、薬学的に適合性の製剤において投与することができる。このような製剤は、通常、塩、緩衝物質、保存剤、担体、補充免疫性増強物質、例えばアジュバント、CpGおよびサイトカイン並びに、適切は場合には、他の治療的に活性な化合物の薬学的に適合性の濃縮物を含むことができる。
本発明の治療的に活性な化合物を、注射または注入によるものを含む、すべての慣用の経路により投与することができる。投与を、例えば、経口的に、静脈内に、腹腔内に、筋肉内に、皮下に、または経皮的に行うことができる。好ましくは、抗体を、肺エアロゾルにより治療的に投与する。アンチセンス核酸を、好ましくは、ゆっくりとした静脈内投与により投与する。
本発明の組成物を、有効な量で投与する。「有効な量」は、所望の反応または所望の効果を、単独で、またはさらなる用量と共に達成する量を意味する。1種または2種以上の腫瘍関連抗原の発現により特徴づけられる、特定の疾患または特定の症状の処置の場合において、所望の反応は、疾患の経過の阻害に関連する。これは、疾患の進行の低速化および、特に疾患の進行の中断を含む。また、疾患または症状の処置における所望の反応は、前述の疾患または前述の症状の発症の遅延または発症の抑制であってもよい。
本発明の組成物の有効な量は、処置されるべき症状、疾患の重篤度、年齢、生理学的状態、大きさおよび体重、処置の継続期間、随伴する療法のタイプ(存在する場合)、投与の特定の経路および同様の要因を含む患者の個別のパラメーターに依存する。
本発明の医薬組成物は、好ましくは無菌であり、所望の反応または所望の効果を生じさせるのに有効な量の治療的に活性な物質を含む。
本発明の組成物の投与される用量は、種々のパラメーター、例えば投与のタイプ、患者の症状、投与の所望の期間などに依存することができる。患者における反応が、最初の用量で不十分な場合には、一層高い用量(または異なる一層局所的な投与経路により達成される有効な一層高い用量)を用いることができる。
一般的に、1ng〜1mg、好ましくは10ng〜100μgの腫瘍関連抗原の用量を、処置のために、または免疫応答を発生させるか、もしくは増強するために処方し、投与する。腫瘍関連抗原をコードする核酸(DNAおよびRNA)の投与が望ましい場合には、1ng〜0.1mgの用量を、処方し、投与する。
本発明の医薬組成物を、一般的に、薬学的に適合性の量で、および薬学的に適合性の組成物中で投与する。用語「薬学的に適合性の」は、医薬組成物の活性成分の作用と相互作用しない無毒性物質を意味する。この種類の製剤は、通常、塩、緩衝物質、保存剤、担体および、適切な場合には、他の治療的に活性な化合物を含むことができる。医薬において用いる際には、塩は、薬学的に適合性でなければならない。しかし、薬学的に適合性ではない塩を、薬学的に適合性の塩を製造するために用いることができ、これは、本発明に含まれる。この種類の薬理学的および薬学的に適合性の塩には、非限定的に、以下の酸から製造されるものが含まれる:塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸、マレイン酸、酢酸、サリチル酸、クエン酸、ギ酸、マロン酸、コハク酸など。また、薬学的に適合性の塩を、アルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩、例えばナトリウム塩、カリウム塩またはカルシウム塩として調製することができる。
本発明の医薬組成物は、薬学的に適合性の担体を含むことができる。本発明において、用語「薬学的に適合性の担体」は、ヒトへの投与に適する1種または2種以上の適合性の固体または液体充填剤、希釈剤またはカプセル封入物質を意味する。用語「担体」は、活性成分が適用を容易にするために混ぜ合わされる、天然の、または合成の性質を有する有機または無機成分を意味する。本発明の医薬組成物の成分は、通常、所望の薬学的効能を実質的に損なう相互作用が発生しないようになっている。
本発明の医薬組成物は、好適な緩衝物質、例えば塩中の酢酸、塩中のクエン酸、塩中のホウ酸および塩中のリン酸を含むことができる。
医薬組成物は、適切な場合には、また、好適な保存剤、例えば塩化ベンザルコニウム、クロロブタノール、パラベンおよびチメロサールを含むことができる。
医薬組成物は、通常、均一な投薬形態で提供され、自体公知の方法で製造することができる。本発明の医薬組成物は、例えば、カプセル、錠剤、トローチ剤、懸濁液、シロップ、エリクシルの形態またはエマルジョンの形態であってもよい。
非経口投与に適する組成物は、通常、活性化合物の無菌の水性または非水性製剤を含み、これは、好ましくは、受容者の血液と等張である。適合性担体および溶媒の例は、リンガー溶液および等張塩化ナトリウム溶液である。さらに、通常無菌の、固定油(fixed oil)を、溶液または懸濁媒体として用いる。
本発明を、以下の図面および例により詳細に記載し、これは、例示目的でのみ用い、限定的であることを意味しない。この記載および例のために、本発明に同様に含まれるさらなる態様は、当業者により到達可能である。
図面:
図1:eCTのクローン化の図式的表示。この方法は、データベース中の候補遺伝子(GOI=「目的とする遺伝子(Genes of interest)」)を同定し、前述の遺伝子を、RT−PCRにより試験することを含む。
図2:LDH Cのスプライシング。オルタナティブスプライシング事象により、エクソン3(配列番号:2)、2つのエクソン3および4(配列番号:3)、エクソン3、6および7(配列番号:4)並びにエクソン7(配列番号:5)の欠如がもたらされる。ORF=オープンリーディングフレーム、aa=アミノ酸。
図3:可能なLDH−Cタンパク質のアライメント。配列番号:8および配列番号:10は、原型タンパク質(配列番号:6)のトランケートされた(truncated)部分である。配列番号7:配列番号:9、配列番号:11、配列番号:12および配列番号:13のタンパク質配列を、さらに変化させ、これは、腫瘍特異的エピトープ(太字で印刷した)のみを含む。触媒中心を枠で囲む。
図4:リアルタイムPCRによる種々の組織におけるLDH Cの定量。精巣以外の正常な組織において、転写物は検出されず、顕著なレベルの発現が、腫瘍において検出された。
図5:TPTEバリアントのエクソン構成。本発明において、スプライスバリアントを同定し(配列番号:20、配列番号:21、配列番号:54、配列番号:55、配列番号:56、配列番号:57)、これは、精巣組織において、および腫瘍において発現され、これは、フレームシフトしており、従って変化した配列領域を有する。
図6:可能なTPTEタンパク質のアライメント。オルタナティブスプライシング事象により、コードされたタンパク質の変化がもたらされ、リーディングフレームは、原則として保持されている。推定される膜貫通ドメインを、太字で記載し、触媒ドメインを枠で囲む。
図7:ヌクレオチドレベルでのTSBPバリアントのアライメント。本発明において見出されたTSBPバリアントのヌクレオチド配列(配列番号:31、配列番号:32、配列番号:33)の、既知の配列(NM_006781、配列番号:29)に対する差異を、太字で記載する。
図8:タンパク質レベルでのTSBPバリアントのアライメント。本発明において見出されたTSBPバリアントによりコードされるタンパク質(配列番号:34、配列番号:35、配列番号:36)において、フレームシフトにより、上記に記載したタンパク質(配列番号:30、NM_006781)に対する実質的な差異が生じ、これを、太字で示す。
図9:MS4A12についてのRT−PCR。発現を、精巣、大腸および大腸直腸癌腫(carcinoma)(大腸癌腫)においてのみ試験した組織において、検出した。示した6種の肝臓組織試料の1つにおいて、この試料が、大腸癌腫転移により浸潤していたため、陽性(positive)の検出を、MS4A12について行った。また、後の研究により、大腸癌腫転移における明確な発現が例証された。
図10:BRCO1についてのRT−PCR。BRCO1は、正常な乳腺組織における発現と比較して、乳房腫瘍において、明確に過剰発現されている。
図11:MORC、TPX1、LDHC、SGY−1についてのRT−PCR。種々の正常組織の研究により、精巣のみにおける発現が明らかである(1皮膚、2小腸、3大腸、4肝臓、5肺、6胃、7乳房、8腎臓、9卵巣、10前立腺、11甲状腺、12白血球、13胸腺、14ネガティブコントロール、15精巣)。腫瘍の試験(1〜17肺腫瘍、18〜29黒色腫、30ネガティブコントロール、31精巣)により、個別のeCTについての異なる頻度を有する前述の腫瘍における異所性発現が明らかである。
図12:MCF−7乳癌細胞株におけるLDHCのミトコンドリアの局在。MCF−7細胞に、LDHC発現プラスミドを、一過性トランスフェクトした。抗原をLDHC特異的抗体で検出し、これは、ミトコンドリア呼吸鎖酵素であるチトクロームCオキシダーゼとの明確な共局在(colocalization)を示した。
図13:MCF−7細胞の細胞表面におけるTPTEの予測されたトポロジー(topology)および細胞内局在。左側の図式は、4つの推定されるTPTE膜貫通ドメイン(矢印)を示す。MCF−7細胞にTPTE発現プラスミドを一過性にトランスフェクトした。抗原を、TPTE特異的抗体を用いて検出し、これは、細胞表面上に位置するMHC I分子との明確な共局在を示した。
図14:細胞膜上のMS4A12の局在。腫瘍細胞に、GFPタグ付MS4A12コンストラクトを一過性にトランスフェクトし、これは、共焦点免疫蛍光顕微鏡観察において、原形質膜マーカーとの完全な共局在を示した。
図15:正常な組織におけるLDHCのウエスタンブロット検出。LDHCの発現は、精巣においてのみ検出可能であり、一方試験したすべての他の正常な組織は、陰性である。1−精巣、正常な組織、2−皮膚、正常な組織、3−乳房、正常な組織、4−肝臓、正常な組織、5−脾臓、正常な組織、6−大腸、正常な組織、7−肺、正常な組織、8−腎臓、正常な組織、9−リンパ節、正常な組織。
図16:細胞株HCT116DKOにおけるLDHCの発現。HCT116PおよびHCT116DKOを、LDHC特異的抗体を用いて染色した。内在性LDHCは、HCT116DKO細胞においてのみ検出可能である。
図17:MCF−7乳癌細胞株におけるLDHCのミトコンドリア局在。MCF−7細胞に、LDHC発現プラスミドを一過性にトランスフェクトした。抗原を、LDHC特異的抗体で検出し、ミトコンドリア呼吸鎖酵素であるチトクロームC−オキシダーゼとの明確な共局在を示した。
図18:細胞株において異種性に、および内在性に発現したTPTEの細胞膜上での局在。(左)NIH3T3細胞に、TPTE発現プラスミドを一過性にトランスフェクトした。TPTEを、特異的な抗体を用いて検出し、細胞表面上に位置するMHC I分子との明確な共局在を示した。(右)SK−Mel 37細胞中の内在性TPTEを、特異的な抗体を用いて検出し、明確な膜局在を示した。
図19:リアルタイムPCRによる種々の組織におけるTPTE mRNAの発現の定量。正常な組織における発現は、精巣においてのみ検出可能である。顕著な発現レベルはまた、腫瘍および腫瘍細胞株において見出される。
図20:抗体特異性の検出。精巣組織の切片を、TPTE特異的抗体で染色した。TPTEの特異的な検出は、抗体を、免疫化のために用いたペプチドで遮断することにより、阻害される(右)。
図21:気管支癌腫におけるTPTEの免疫組織化学的検出。気管支癌腫の切片を、TPTE特異的抗体で染色した。TPTEは、腫瘍全体において均一に発現され、細胞膜において局在している。
図22:生命細胞におけるTPTEの局在の検出。NIH3T3細胞に、TPTE発現プラスミドを一過性にトランスフェクトし、経時的顕微鏡検査法により分析した。細胞突起および仮足の膜上でのTPTEの局在の結果、それぞれの膜領域の即座の退縮がもたらされる。
図23:TPTEは、細胞移動を走化性勾配において増強する。(左)ボイデン(Boyden)チャンバーアッセイの図表示。NIH3T3/c−erbB−2細胞に、TPTE−eGFPをトランスフェクトし、細胞の移動を、トランスフェクトされていないかまたは空のpEGFPベクターをトランスフェクトした細胞と比較して決定した。(右上)TPTEの発現の結果、10%FCSを走化性剤として用いた場合に、4〜5倍増大した細胞の移動がもたらされる。(右下)TPTEの発現の結果、PDGFの極めて低い濃度においてさえも移動の顕著な増強がもたらされる。
図24:腫瘍におけるTPTEの発現は、転移と関連する。TPTEの発現と関連する58種の腫瘍試料のTNM段階の統計的評価は、TPTE陽性腫瘍が、顕著に高い頻度でリンパ向性の、および血行性の様式で転移することを示す。
図25:HCT116DKO細胞株におけるTSBPの発現。HCT116PおよびHCT116DKOを、TSBP特異的抗体で染色した。内在性TSBPは、HCT116DKO細胞においてのみ検出可能であり、核膜に関連する。
図26:組織におけるMS4A12mRNAの発現のRT−PCRおよびリアルタイムPCRによる検出。正常な組織におけるMS4A12の発現は、大腸、直腸、末端回腸および精巣に限定される。大腸癌腫の80%および大腸癌腫転移の80%は、MS4A12の顕著な発現レベルを示す。
図27:大腸および大腸癌腫におけるMS4A12のウエスタンブロット検出。特異的なバンドは、正常な大腸組織において、およびいくつかの大腸癌腫において検出可能である。N−マジックマーク(MagicMark)(Invitrogen)、1−大腸組織、正常、2〜6−大腸組織、腫瘍。
図28:細胞膜におけるMS4A12局在。腫瘍細胞に、MS4A12−eGFPを一過性にトランスフェクトし、これは、MS4A12特異的抗体を用いた共焦点免疫蛍光顕微鏡観察において、原形質膜における局在を示した。
図29:大腸および大腸癌腫におけるMS4A12の免疫組織化学的検出。組織切片を、MS4A12特異的抗体で染色した。正常な大腸においては、MS4A12は、尖端腸細胞においてのみ発現される。大腸癌腫においては、MS4A12の発現は、すべての腫瘍細胞において検出可能である。
図30:種々の組織におけるBRCO1mRNAの発現のリアルタイムPCRによる定量。正常な組織におけるBRCO1の発現は、乳房および精巣に限定される。BRCO1の顕著な発現レベルは、試験したすべての乳房癌腫において検出可能である。50%の腫瘍は、発現する正常な組織と比較した際に、BRCO1の過剰発現を示す。
図31:乳房癌腫におけるBRCO1の過剰発現。乳房癌腫および隣接する正常な組織におけるBRCO1についてのリアルタイムPCRアッセイは、50%の乳房癌腫におけるBRCO1の過剰発現を示した。
図32:種々の組織におけるPCSCmRNAの発現のリアルタイムPCRによる定量。正常な組織におけるPCSCの発現は、大腸、直腸および末端回腸に限定される。PCSCの発現は、すべての大腸癌腫において検出可能である。大腸癌腫転移の85%は、原発腫瘍と比較した際に、PCSCの顕著な過剰発現を示した。
図33:ゲノム脱メチル化によるTPTEの誘発可能性の検出。それぞれ2μMおよび10μMの5−アザ−2’−デスオキシシチジンでの細胞の処理の後の、非発現細胞株BT549およびHCT116並びにDNAメチルトランスフェラーゼが欠乏しているHCT116細胞における、TPTE発現のリアルタイムRT−PCR分析。
図34:正常な組織および腫瘍細胞株におけるTPTEのウエスタンブロット分析。LDHCの発現は、精巣および腫瘍細胞株(SK−Mel−37、LCLC−107、PC−3)においてのみ検出可能であり、一方試験したすべての他の正常な組織は、陰性である。抗体の特異性を、トランスフェクトしたNIH3T3細胞におけるTPTEの検出により確認する(TPTE−pcDNA3.1)。
図35:TPTEはPIP4,5と共局在する。TPTEをトランスフェクトされたNIH3T3/c−erb−2細胞を、PLC−デルタ1のPH−eGFPでコトランスフェクトし、TPTE特異的抗体で染色した。重ね合わせにより、PIP4,5についてのマーカーとしてのPLC−デルタ1−PH−eGFPを有するTPTEの明らかな共局在が示される。
図36:PC−3細胞におけるTPTE発現のRNAiを用いたノックダウン。PC−3細胞を、TPTEに特異的な1μMのsiRNAを用いて電気穿孔した。24時間後、mRNA発現を、リアルタイムRT−PCRにより定量した。電気穿孔していない細胞およびDsRed siRNAで電気穿孔した細胞を、対照とした。
図37:TPTE−siRNAでの電気穿孔の後のPC−3細胞の細胞移動の低減。ボイデンチャンバーアッセイにおける細胞移動の関連する低減を、1μMのTPTE−siRNAでの電気穿孔の48時間後に検出した。
図38:配列表の配列番号:822において示した配列における位置121〜540の領域。
例:
材料および方法
用語「インシリコ(in silico)」、「電子的」および「仮想(virtual)クローニング」は、単に、データベースに基づく方法を用いることを意味し、これはまた、実験室実験的プロセスを模擬するために用いることができる。
他に明確に定義しない限り、すべての他の用語および表現を、当業者により理解されるように用いる。述べた手法および方法は、自体公知の方法で行い、これは、例えば、Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 第2版(1989) Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y.に記載されている。キットおよび試薬を用いることを含むすべての方法は、製造者の情報に従って行う。
eCT(電子的にクローン化された癌/精巣遺伝子)を決定するためのデータマイニングに基づく方法
2種のインシリコ方法、即ちGenBankキーワード検索およびcDNAxProfilerを、組み合わせた(図1)。NCBI ENTREZ Search and Retrieval System(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/Entrez)を用いて、GenBank検索を、精巣組織中で特異的に発現するとして注釈を付された候補遺伝子について、行った(Wheeler et al., Nucleic Acids Research 28:10-14, 2000)。
キーワード「testis-specific gene(精巣特異的遺伝子)」、「sperm-specific gene(精子特異的遺伝子)」、「spermatogonia-specific gene(精原細胞特異的遺伝子)」でのクエリーを行って、候補遺伝子(GOI、目的とする遺伝子)を、データベースから抽出した。検索は、これらのデータベースの全体的な情報の一部に、生物体について「ホモサピエンス」、および分子のタイプについて「mRNA」の制限を用いることにより、限定された。
見出されたGOIのリストを、同一の配列について異なる名称を決定し、このような過剰なものを除去することにより、行った。
キーワード検索により得られたすべての候補遺伝子を、次に、これらの組織分布に関して、「電子的ノーザン」(eNorthern)方法により研究した。eNorthernは、EST(expressed sequence tag)(発現配列タグ))データベースを用いてGOIの配列をアライメントすることに基づく(Adams et al., Science 252:1651, 1991)(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST)。GOIに相同性であると見出された各々のESTの組織起源を、決定することができ、このようにして、すべてのESTの合計により、GOIの組織分布の予備的な評価が得られる。さらなる研究を、胎盤および胎性組織を除いて、非精巣正常組織からESTへの相同性を有しないGOIについてのみ、行った。また、公開されているドメインが、誤って注釈を付けられたcDNAライブラリーを含むというこの評価を、考慮した(Scheurle et al., Cancer Res. 60:4037-4043, 2000)(www.fau.edu/cmbb/publications/cancergenes6.html)。
用いた第2のデータマイニング方法は、NCBI Cancer Genome Anatomy ProjectのcDNA xProfiler (http://cgap.nci.nih.gov/Tissues/xProfiler) (Hillier et al., Genome Research 6:807-828, 1996; Pennisi, Science 276:1023-1024, 1997)であった。これにより、理論的オペレータにより互いに関連するべきデータベースにおいて蓄積されたトランスクリプトームのプールが可能になる。本発明者らは、精巣から作成されたすべての発現ライブラリーが、混合されたライブラリーを除いて割り当てられたプールAを、定義した。精巣、卵巣または胎性組織以外の正常な組織から作成されたすべてのcDNAライブラリーを、プールBに割り当てた。一般的に、すべてのcDNAライブラリーを、基礎を構成する作成方法とは独立して用いたが、>1000の大きさを有するもののみとした。プールBを、プールAから、BUT NOTオペレータによりデジタルに減じた。また、このようにして見出されたGOIのセットを、eNorthern研究に付し、文献研究により検証した。
この組み合わされたデータマイニングは、公共のドメインにおける約13000の全長遺伝子のすべてを含み、これらの遺伝子から、潜在的に精巣特異的発現を有する合計140の遺伝子を予測する。後者の中に、CT遺伝子群の25の以前から知られている遺伝子があり、これにより、本発明者らの方法の有効性が強調された。
すべての他の遺伝子を、先ず、特定のRT−PCRにより、正常な組織において評価した。非精巣正常組織において発現していることが明らかになった、すべてのGOIを、フォルスポジティブ(false-positive)と見なさなければならず、これを、さらなる研究から除外した。残りのものを、広範囲の腫瘍組織の大きいパネルにおいて研究した。以下に示す抗原は、ここでは、腫瘍細胞において異所的に活性化されたことが明らかになった。
RNA抽出、ポリ−d(T)プライマーを用いたcDNAの調製およびRT−PCR分析
全RNA(total RNA)を、生来の組織材料から、カオトロピック剤としてイソチオシアン酸グアニジウムを用いることにより抽出した(Chomczynski & Sacchi, Anal. Biochem. 162:156-9, 1987)。酸性フェノールで抽出し、イソプロパノールで沈殿させた後に、前述のRNAを、DEPC処理水に溶解した。
2〜4μgの全RNAからの一本鎖cDNA合成を、20μlの反応混合物において、Superscript II (Invitrogen)により、製造者の情報に従って行った。用いたプライマーは、dT(18)オリゴヌクレオチドであった。cDNAの完全性および品質を、p53の30サイクルPCR(センスCGTGAGCGCTTCGAGATGTTCCG、アンチセンスCCTAACCAGCTGCCCAACTGTAG、ハイブリダイゼーション温度67℃)における増幅により、チェックした。
一本鎖cDNAの記録を、多くの正常組織および腫瘍実体から作成した。発現研究のために、これらのcDNAの0.5μlを、30μlの反応混合物中で、GOI特異的プライマー(以下を参照)および1UのHotStarTaq DNAポリメラーゼ(Qiagen)を用いて、増幅した。各々の反応混合物は、0.3mMのdNTP、0.3μMの各々のプライマーおよび3μlの10×反応緩衝液を含んでいた。
プライマーを、2つの異なるエクソン中に位置するように選択し、フォルスポジティブの結果の理由となる、ゲノムDNAのコンタミネーションによる干渉がないことを、鋳型として逆転写されていないDNAを試験することにより確認した。HotStarTaq DNAポリメラーゼを活性化させるために95℃で15分後、35サイクルのPCRを行った(94℃で1分、特定のハイブリダイゼーション温度で1分、72℃で2分および72℃で6分の最終的な伸長)。
この反応のうちの20μlを、分画し、臭化エチジウムで染色したアガロースゲル上で分析した。
以下のプライマーを、対応する抗原の発現分析のために、示したハイブリダイゼーション温度で用いた。
ランダムヘキサマープライマーを用いたcDNAの調製および定量的リアルタイムPCR
LDHC発現を、リアルタイムPCRにより定量した。
ABI PRISM Sequence Detection System (PE Biosystems, USA)を用いた定量的リアルタイムPCRの原理は、蛍光レポーター染料の放出による、PCR産物の直接的および特定的な検出のためのTaq DNAポリメラーゼの5’−3’エキソヌクレアーゼ活性を用いる。センスおよびアンチセンスプライマーに加えて、PCRは、二重に蛍光的に標識したプローブ(TaqManプローブ)を用い、これは、PCR産物の配列にハイブリダイズする。プローブを、5’をレポーター染料(例えばFAM)で、および3’をクエンチャー染料(例えばTAMRA)で標識する。プローブが不変である場合には、レポーターのクエンチャーに対する空間的近接性により、レポーター蛍光の放出が抑制される。プローブがPCR産物に、PCRの間にハイブリダイズする場合には、前述のプローブは、Taq DNAポリメラーゼの5’−3’エキソヌクレアーゼ活性により切断され、レポーター蛍光の抑制が除去される。目的の増幅の結果としてのレポーター蛍光の増大を、各々のPCRサイクルの後に測定し、定量のために用いる。
目的遺伝子の発現を、絶対的に、または研究されるべき組織における定常的な発現を有するコントロール遺伝子の発現に対して定量する。LDHC発現は、試料を「ハウスキーピング」遺伝子としての18s RNAに対して標準化した後に、ΔΔ−Ct方法(PE Biosystems, USA)により計算した。反応を、二重鎖混合物において行い、デュプリケートで決定した。cDNAを、製造者の情報に従い、High Capacity cDNA Archive Kit (PE Biosystems, USA)およびヘキサマープライマーを用いて合成した。各々の場合において、5μlの希釈されたcDNAを、PCRに、25μlの合計容積中で用いた:センスプライマー(GGTGTCACTTCTGTGCCTTCCT)300nM;アンチセンスプライマー(CGGCACCAGTTCCAACAATAG)300nM;TaqManプローブ(CAAAGGTTCTCCAAATGT)250nM;センスプライマー18s RNA 50nM;アンチセンスプライマー18s RNA 50nM;18s RNA試料250nM;12.5μlTaqMan Universal PCR Master Mix;最初の変性95℃(10分);95℃(15秒);60℃(1分);40サイクル。エクソン1およびエクソン2の境界を越えての、128bp産物の増幅のために、記載したすべてのLDHCスプライスバリアントが、定量に含まれた。
TPTE、MS4A12、PCSCおよびBRCO1の発現をまた、リアルタイムPCRを用いて定量したが、PCR産物を、レポーター染料としてSYBR−グリーンを用いて検出した。SYBR−グリーンのレポーター蛍光は、溶液中で抑制され、染料は、二重らせんDNA断片への結合の後にのみ活性である。各々のPCRサイクルの後のGOI特異的プライマーによる特定の増幅によるSYBR−グリーン蛍光の増大を、定量のために用いる。標的遺伝子の発現の定量を、絶対的に、または研究するべき組織における一定の発現を有する対照遺伝子の発現と相対させて、行う。
LDHC発現を、試料を18s RNAに、「ハウスキーピング」遺伝子として正常化した後に、ΔΔ−Ct法(PE Biosystems, USA)により計算した。反応を、二重鎖混合物において行い、トリプリケートで決定した。クオンティテクトSYBR−グリーン(QuantiTect SYBR-Green)PCRキット(Qiagen, Hilden)を、製造者の指示に従って用いた。cDNAを、High Capacity cDNA Archive Kit (PE Biosystems, USA)および六量体プライマーを製造者の情報に従って用いて合成した。各々の場合において、5μlの希釈したcDNAを、PCRのために、25μlの合計容積で用いた:センスプライマー300nM、アンチセンスプライマー300nM、最初の変性95℃、15分;95℃、30秒;アニーリング30秒;72℃、30秒;40サイクル。
クローン化および配列分析
全長遺伝子および遺伝子フラグメントを、一般的な方法によりクローン化した。配列を、対応する抗原をpfuプルーフリーディング(proof-reading)ポリメラーゼ(Stratagene)により増幅させることにより、決定した。PCRの完了の後に、アデノシンを、HotStarTaq DNAポリメラーゼにより、単位複製配列の末端につないで、フラグメントをTOPO−TAベクター中に、製造者の情報に従ってクローン化した。市販のサービスにより、配列決定を行った。配列を、一般的な予測プログラムおよびアルゴリズムにより分析した。
ウエスタンブロット
標的タンパク質を含み得る細胞培養物(標的遺伝子の内在性発現もしくは、標的タンパク質をコードする発現ベクターのトランスフェクションに続く、標的タンパク質の合成)または組織試料からの細胞を、1%SDS溶液に溶解する。SDSは、溶解液中に含まれるタンパク質を変性させる。実験的構成の溶菌液を、大きさにより、タンパク質の予測された大きさに依存して8〜15%の変性ポリアクリルアミドゲル(1%のSDSを含む)上で、電気泳動的に分離する(SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動、SDS−PAGE)。その後、タンパク質を、ニトロセルロース膜(Schleicher & Schuell)に、半乾式エレクトロブロット(electroblot)手順(Biorad)を用いて移送し、この上で、所望のタンパク質を検出することができる。
膜を、先ず遮断し(例えば粉乳を用いて)、次に1:20〜1:200の希釈において(抗体の特異性に依存して)特異的な抗体と共に、60分間インキュベートする。膜を洗浄し、マーカー(例えば酵素、例えばペルオキシダーゼまたはアルカリホスファターゼ)と結合した第2の抗体と共にインキュベートし、これにより、第2の抗体は、第1の抗体を認識する。さらなる洗浄段階に続いて、標的タンパク質を、膜上で、色または化学発光反応(例えばECL、Amersham Bioscience)における酵素反応により視覚化する。結果を、好適なカメラで写真を撮影することにより記録する。
免疫蛍光
確立された細胞株の細胞を用い、これは、標的タンパク質を内在性に合成するか(RNAを、RT−PCRにおいて検出するか、もしくはタンパク質を、ウエスタンブロットにおいて検出する)、またはこれは、IFの前にプラスミドDNAでトランスフェクトされている。種々の方法が、細胞株をDNAでトランスフェクトするために、良好に確立されている(例えば、電気穿孔、リポソームに基づくトランスフェクション、リン酸カルシウム沈殿)(例えば、Lemoine et al. Methods Mol. Biol. 1997; 75: 441-7を参照)。免疫蛍光において、トランスフェクトされたプラスミドは、改変されていないタンパク質をコードすることができるか、または種々のアミノ酸マーカーを標的タンパク質に結合することができる。
最も重要なマーカーは、例えば、種々の明確に蛍光を発する形態における蛍光を発する「緑色蛍光タンパク質」(GFP)および高度にアフィン(affine)および特異性の抗体が有用である、6〜12個のアミノ酸の短いペプチド配列である。標的タンパク質を合成する細胞を、パラホルムアルデヒド、サポニンまたはメタノールを用いて固定する。次に、細胞を、所要に応じて洗浄剤(例えば0.2%トライトン(Triton)X−100)と共にインキュベートすることにより、透過処理することができる。固定/透過処理に続いて、細胞を、標的タンパク質または結合したマーカーの1種に送達された一次抗体と共にインキュベートする。洗浄段階に続いて、混合物を、蛍光マーカー(例えばフルオレセイン、テキサスレッド、dako)に結合した第2の抗体と共にインキュベートし、これにより、第2の抗体は、第1の抗体に結合する。
次に、このようにして標識した細胞を、グリセリンで被覆し、蛍光顕微鏡により、製造者の指示に従って分析する。これにより、特異的な蛍光発光が、用いられる物質に依存して、特異的な励起により達成される。この分析により、一般的に、標的タンパク質の正確な局在が可能になり、ここで、二重染色において、標的タンパク質に加えて、また、局在がすでに文献に記載されている、結合したアミノ酸マーカーまたは他のマーカータンパク質は、染色されて、抗体品質および標的タンパク質を立証する。直接励起され、自律的に蛍光を発し得るGFPおよびこの誘導体は、抗体が検出に必要ではないように、特別な場合を表す。
免疫組織化学
IHCは、(1)腫瘍の、および正常な組織中の標的タンパク質の量を概算することを可能にし、(2)腫瘍の、および健康な組織中のいくつの細胞が、標的遺伝子を合成するかを分析し、(3)標的タンパク質が検出可能である組織(腫瘍、健康な細胞)中の細胞のタイプを定める作用を奏する。
それぞれの抗体に依存して、種々のプロトコルを用いるべきである(例えば、"Diagnostic Immunohistochemistry by David J., MD Dabbs ISBN: 0443065667"または"Microscopy, Immunohistochemistry, and Antigen Retrieval Methods: For Light and Electron Microscopy ISBN: 0306467704"を参照)。
ホルマリン中に固定し(異なる固定:例えばメタノール)、パラフィン中に包埋し、約4μmの厚さを有する組織切片を、スライドガラス上に載置し、例えばキシロールを用いて脱パラフィンする(deparaffinate)。試料を、TBS−Tで洗浄し、血清で遮断する。次に、これらを、第1の抗体(1:2〜1:2000の希釈)と共に1〜18時間インキュベートし、これにより、一般的に、アフィニティー精製した抗体を用いる。洗浄段階に続いて、これらを、約30〜60分間、アルカリホスファターゼ(あるいはまた:例えばペルオキシダーゼ)に結合し、第1の抗体に対して送達される第2の抗体と共にインキュベートする。その後、これを、アルカリホスファターゼを用いて染色する(参考文献:Shi et al., J. Histochem. Cytochem. 1991, 39: 741-748; Shin et al., Lab Invest. 1991, 64: 693-702)。抗体特異性を検出するために、反応を、予め免疫原を加えることにより遮断することができる。
免疫化
(また、Philip Shepherd, Christopher DeanによるMonoclonal Antibodies: A Practical Approach ISBN 0-19-963722-9; Ed Harlow, David LaneによるAntibodies: A Laboratory Manual ISBN: 0879693142;Edward Harlow, David Lane, Ed HarlowによるUsing Antibodies: A Laboratory Manual: Portable Protocol NO ISBN: 0879695447を参照)。
以下において、抗体を製造する方法を、簡潔に記載し、これにより、詳細を、引用された刊行物から採用することができる。先ず、動物(例えばウサギ)を、所望の標的タンパク質の第1の注射により免疫化する。所定の期間(第1の免疫化の後約2〜4週間)内の第2の、または第3の免疫により、動物の免疫原への免疫応答を、増強することができる。種々の所定の期間(最初に4週間後の放血、次に約2週間おきに合計で5回までの採集)の後に、血液を、動物から採取し、免疫血清を、これから得る。
動物の免疫化を、一般的に、4種の十分に確立された手順の1種により行い、これにより、他の手順もまた存在する。免疫化を、標的タンパク質に特異的なペプチド、タンパク質全体、実験的にまたは予測プログラムにより同定され得るタンパク質の細胞外の部分的配列を用いて達成することができる。
(1)最初の場合において、KLH(キーホールリンペットヘモシアニン)に結合したペプチド(長さ:8〜12個のアミノ酸)を、標準化されたインビトロ手順により合成し、これらのペプチドを、免疫化のために用いる。一般的に、3種の免疫化を、5〜1000μg/免疫化の濃度を用いて行う。免疫化をまた、サービス供給者により行うことができる。
(2)あるいはまた、免疫化を、組換えタンパク質により行うことができる。このために、標的遺伝子のクローン化したDNAを、発現ベクターおよび標的タンパク質中に、合成したそれぞれの製造者(例えばRoche Diagnostics, Invitrogen, Clontech, Qiagen)の条件に従って、例えば細胞の不存在でインビトロで、細菌(例えば大腸菌)中で、酵母(例えばS. pombe)中で、昆虫細胞中で、または哺乳類細胞中でクローン化する。これらの系の1つにおける合成に続いて、標的タンパク質を精製し、これにより、精製を、一般的に標準化したクロマトグラフィー手順により行う。このために、また分子アンカーを有するタンパク質(例えばHis−tag、Qiagen;FLAG−tag、Roche Diagnostics;Gst融合タンパク質)を免疫化のために用いて、精製を補助することができる。複数のプロトコルを、例えば"Current Protocols in Molecular Biology" (John Wiley & Sons Ltd., Wiley InterScience)中に見出すことができる。
(3)所望のタンパク質を内在性に合成する細胞株が、入手可能である場合には、前述の細胞株を、特定の抗血清を製造するために用いることができる。免疫化を、各々約1〜5×107個の細胞を含む1〜3回の注射により行う。
(4)免疫化をまた、DNAを注入することにより、達成することができる(DNA免疫化)。このために、標的遺伝子を先ず、発現ベクター中にクローン化して、標的配列が強力な真核生物プロモーター(例えばCMVプロモーター)の制御の下にあるようにする。次に、5〜100μgのDNAを、免疫原として、血液を十分に供給された生物体(例えばマウス、ウサギ)の毛細管領域中に、「遺伝子銃」を用いて移送する。移送されたDNAを、動物の細胞により吸収し、標的遺伝子を発現させ、次に動物は、標的遺伝子に対する免疫応答を発生する(Jung et al., Mol Cells 12: 41-49, 2001; Kasinrerk et al., Hybrid Hybridomics 21: 287-293, 2002)。
アフィニティー精製
ポリクローナル血清の精製を、ペプチド抗体の場合において完全に、または組換えタンパク質に対する抗体の場合において、指示した会社によるサービスとして部分的に、行った。このために、両方の場合において、それぞれのペプチドまたは組換えタンパク質を、結合の後に未変性の緩衝液(native buffer)(PBS:リン酸緩衝生理食塩水)を用いて平衡にし、次に粗製の血清を用いてインキュベートしたマトリックスに共有結合させた。PBSを用いたさらなる洗浄に続いて、抗体を、100mMのグリシン、pH2.7を用いて溶出させ、溶離液を、2MのTRIS、pH8を用いて中和した。次に、このようにして精製した抗体を、ウエスタンブロットおよび免疫蛍光による標的タンパク質の特異的検出のために用いることができた。
ボイデンチャンバー移動アッセイ
ボイデンチャンバーは、走化性刺激への反応における細胞移動を定量するためのものである。チャンバーは、微小孔膜により分離された2つの区画からなる。最小培地中の細胞を、上方の区画に加え、一方下方の区画を、それぞれの走化性剤を含む培地で満たす。細胞は、膜を通って勾配に従って移動し、膜の底の側に付着する。固定に続いて、移動した細胞を、顕微鏡を用いて計数することができる。
移動アッセイを、TPTEのプロミグラトリー(promigratory)電位を決定するために用いた。TPTE−eGFPをトランスフェクトし、c−erbB2で形質転換したNIH3T3線維芽細胞を、用いた。トランスフェクトしていない細胞および空のeGFP−N3ベクターをトランスフェクトした細胞を、対照として用いた。8.0μmの孔膜を有するトランスウェル(Transwell)チャンバー(Becton Dickinson)を、アッセイのために用いた。400μlの無血清DMEM培地中の4×104個の細胞を、各々上方の区画に加えた。下方の区画を、10%のFCSまたはPDGF−BBを増大する濃度(10〜300ng/μl)で補足した800μlのDMEM培地で満たした。チャンバーを、40時間37℃でインキュベートした。次に、移動した細胞を、氷冷メタノール中で固定し、膜を切除し、顕微鏡スライド上に配置し、蛍光顕微鏡法のためにヘキスト(Hoechst)核染色(DAKO)と共に載置した。5つの視野(20倍の倍率)中の細胞を、各々の膜について計数した。すべての実験を、トリプリケートで行った。
RNA干渉(RNAi)
siRNAオリゴを、Tuschl規則に従って設計した(Elbashir et al., Nature 411(6836):428-9, 2001)。TPTE siRNAオリゴ(センス5’−CCCUGCCACAUGUUCAUAUdTdT−3’;アンチセンス5’−AUAUGAACAUGUGGCAGGGdTdT−3’)は、TPTE mRNA配列(NM_013315)のヌクレオチド2043〜2061を標的とした。無関連のDsRed蛍光タンパク質(AF506025)に特異的であるsiRNAオリゴを、対照として用いた(センス5’−AGUUCCAGUACGGCUCCAAdTdT−3’;アンチセンス5’−UUGGAGCCGUACUGGAACUdTdT−3’)。siRNAの二重鎖を発生させるために、各々200μMのそれぞれのセンスおよびアンチセンスオリゴを、1時間37℃で、ハイブリダイゼーション緩衝液(30mMのHEPES(pH7.4)、100mMの酢酸ナトリウム、2mMの酢酸マグネシウム)中で、最初の変性(90℃で1分)に続いてインキュベートした。
siRNAの電気穿孔
5×106個の細胞を、250μlの無血清X−VIVO15培地中に吸収させ、1μMのそれぞれのsiRNA二重鎖を用いて電気穿孔した(200V、250μF)。TPTE mRNAの発現を、24時間後にリアルタイムRT−PCRにより定量した。
メチル化研究
ゲノム的脱メチル化によるTPTE発現の誘発可能性を検査するために、TPTE陰性細胞株BT549(乳房−癌腫)およびHCT116(大腸−癌腫)を、72時間2μMまたは10μMの5−アザ−2’−デスオキシシチジンと共に培養した。次に、TPTE発現を、リアルタイムRT−PCRにより定量した。さらに、TPTE発現を、DNAメチルトランスフェラーゼ(DNMT)欠乏HCT116細胞中で定量した。DNMT1(HCT116DNMT1−/−)またはDNMT3b(HCT116DNMT3b−/−)欠乏細胞が、親細胞株(HCT116par)と比較した際に、ほとんど不変のメチル化パターンを示す一方、両方のDNMTが同時に欠乏している細胞(HCT116DKO)は、ゲノムDNAのほとんど完全な脱メチル化により特徴づけられる。
経時的顕微鏡検査法
TPTEの膜局在および生命の細胞における膜動力学の調節における関与を、経時的顕微鏡検査法を用いて研究した。このために、TPTE−eGFPをトランスフェクトした細胞を、12時間無血清DMEM培地中でインキュベートした。膜突起、仮足および糸状仮足の形態での自発的な細胞膜動力学の誘発のために、細胞を、分析前にFCSを加えることにより刺激した。生命の細胞の写真を、30秒おきに、反転オリンパス顕微鏡(IX70)およびTILL IMAGO−VGA CCDカメラを用いて撮影した。
EGFPトランスフェクタントの調製
非相同的に発現したTPTEの免疫蛍光顕微鏡法のために、TPTEの完全なORFを、pEGFP−C1およびpEGFP−N3ベクター(Clontech)中にクローン化した。スライドガラス上で培養したCHOおよびNIH3T3細胞に、それぞれのプラスミド構成物を、Fugeneトランスフェクション試薬(Roche)を製造者の指示に従って用いてトランスフェクトし、12〜24時間後に免疫蛍光顕微鏡法により分析した。
MHCクラスIについてのペプチドエピトープの予測
多形性HLA対立遺伝子A*0201、A*2402、A*0101、A*0301、B*0702に結合するタンパク質配列の各々のペプチドエピトープを、http://syfpeithi.bmi-heidelberg.com/から入手できる予測アルゴリズムを用いて同定した。8量体、9量体および10量体を、15のスコアにおいて設定されたペプチド長さおよびカットオフとして可能にした。研究により、それぞれの長さについて10個より少ないペプチドが得られた場合には、あるいはまた10個の最良のペプチドを選択した。
例1:LDH Cの新たな腫瘍抗原としての同定
LDH C(配列番号:1)およびこの翻訳産物(配列番号:6)は、乳酸脱水素酵素ファミリーの精巣特異的イソ酵素として記載されていた。配列は、GenBankにおいて、アクセッション番号NM_017448の下に公開されていた。酵素は、140kDaの分子量を有するホモテトラマーを形成する(Goldberg, E. et al., Contraception 64(2):93-8, 2001; Cooker et al., Biol. Reprod. 48(6):1309-19, 1993; Gupta, G.S., Crit. Rev. Biochem. Mol. Biol. 34(6):361-85, 1999)。
関連した、および遍在的に発現されたイソ酵素LDH AおよびLDH Bをクロス増幅せず、上記に精巣特異的であると記載した、LDH C原型配列NM_017448に基づく、プライマー対(5’−TGCCGTAGGCATGGCTTGTGC−3’、5’−CAACATCTGAGACACCATTCC−3’)を用いた発現分析についてのRT−PCR研究により、本発明において、試験したすべての正常な組織の発現が欠如していることが確認されたが、体細胞におけるこの抗原の厳密な転写抑制が、腫瘍の場合において除去されていることが示された;表1を参照。CT遺伝子について古典的に記載されているように、LDH Cは、多くの腫瘍実体において発現している。
増幅産物の予測された大きさは、前述のPCRプライマーを用いて、824bpである。しかし、本発明において、多数の追加のバンドの増幅が、腫瘍において観察されたが、精巣においては観察されなかった。このことが、オルタナティブスプライスバリアントの存在を示すため、完全なオープンリーディングフレームを、LDH−C特異的プライマー(5’−TAGCGCCTCAACTGTCGTTGG−3’、5’−CAACATCTGAGACACCATTCC−3’)を用いて増幅し、独立した全長クローンを、配列決定した。記載したLDH C配列の原型ORF(配列番号:1)および染色体11上のゲノム配列とのアライメントにより、追加のスプライスバリアントが確認される(配列番号:2〜5)。オルタナティブスプライシング事象により、エクソン3(配列番号:2)、2つのエクソン3および4(配列番号:3)、エクソン3、6および7(配列番号:4)またはエクソン7(配列番号:5)の欠如がもたらされる(図2を参照)。
これらの新たなスプライスバリアントは、専ら、腫瘍中で発生するが、精巣においては発生しない。オルタナティブスプライシングにより、リーディングフレームにおける変化が生じ、配列番号:7〜13に示すアミノ酸配列をコードする新たな可能なORFがもたらされる(配列番号:7についてのORF:配列番号:2およびそれぞれ配列番号:4のヌクレオチド位置59〜214;配列番号:8についてのORF:配列番号:2のヌクレオチド位置289〜939;配列番号:9についてのORF:配列番号:3のヌクレオチド位置59〜196;配列番号:10についてのORF:配列番号:3のヌクレオチド位置535〜765;配列番号:11についてのORF:配列番号:4のヌクレオチド位置289〜618;配列番号:12についてのORF:配列番号:4のヌクレオチド位置497〜697;配列番号:13についてのORF:配列番号:5のヌクレオチド位置59〜784)(図2、3)。中途での終了に加えて、また、代替の開始コドンを用いることも起こり得るため、コードされたタンパク質は、N末端およびC末端の両方においてトランケートされ得る。
配列番号:8および配列番号:10が、原型タンパク質のトランケートされた部分を表す一方、配列番号:7、配列番号:9、配列番号:11、配列番号:12および配列番号:13のタンパク質配列は、さらに変化し、これは、腫瘍特異的エピトープのみを含む(図3において太字で記載した)。腫瘍特異的エピトープをもたらすことができるペプチド領域は、以下の通りである(フレームシフトにより得られた厳密な腫瘍特異的の部分に、下線を付す):
これらの領域は、潜在的に、Tリンパ球によりMHC IまたはMHC II分子上で認識することができ、厳密に腫瘍特異的な応答をもたらすエピトープを含むことができる。
予測されたタンパク質のすべてが、嫌気性解糖の最後の段階を表す、ピルビン酸塩の乳酸塩へのNADH依存性代謝のための触媒乳酸脱水素酵素ドメインを有するとは限らない。このドメインは、乳酸脱水素酵素としての酵素的機能に必要である(図3において枠で囲んだ)。例えばTMpredおよびpSORT (Nakai & Kanehisa, 1992)などのアルゴリズムを用いた、他の分析により、推定されたタンパク質についての種々の細胞内局在が予測される。
本発明において、発現のレベルを、リアルタイムPCRにより、特定のプライマー−試料セットを用いて定量した。単位複製配列が、エクソン1とエクソン2との間の接合部に存在し、従ってすべてのバリアント(配列番号:1〜5)を検出する。これらの研究はまた、精巣を除く正常な組織における転写物を検出しない。これらは、腫瘍における発現の顕著なレベルを確認する(図4)。
抗体を、ウサギを上記に記載したように各々異なるバリアントに類似するペプチドで免疫化することにより、産生した:
配列番号:80に対して送達された抗体についてのデータを、例として示す。ウエスタンブロットにおけるこれらの抗体は、精巣組織中のLDHCタンパク質を認識するが、他の正常な組織中のLDHCタンパク質を認識せず(図15)、従って転写レベルについてのRT−PCRデータを確認する。特異的な抗体をまた、免疫蛍光アッセイのための種々の固定条件の下で用いることができる。この点において、RT−PCRアッセイは、大腸癌腫細胞株HCT116PがLDHCを発現しないことを示した。しかし、DNAメチルトランスフェラーゼ、HCT116DKOに関して削除されたこれらのバリアントは、LDHCに対して陽性である。上記に記載した抗体を有する両方の細胞株の比較染色は、陽性であるとタイプされた細胞株において特異的な方式で容易に検出され得る量のそれぞれのタンパク質を検出することができた(図16)。対応して、この抗体はまた、当業者による正常な、および腫瘍の組織切片の免疫組織化学的染色に適格であるとされる。例えば、精巣組織の染色により、胚細胞が明確に陽性であることが示される(図16)。
乳酸脱水素酵素は、解糖内のピルビン酸塩と乳酸塩との相互変換を触媒する。好気性条件下で、解糖の最終生成物としてのピルビン酸塩は、ミトコンドリア中に輸送され、ここでこれは、クエン酸回路のための基質として作用する。クレブス回路により、還元等価物がNADHの形態で得られ、これは、呼吸鎖(酸化的リン酸化)内でATPを生成するために消費される。嫌気性条件下で、ATPを呼吸鎖により生成することは、可能ではない。細胞は、このエネルギー代謝を、これらの条件下でほとんど独占的に解糖により調節する。これらの条件下で代謝され得ないピルビン酸塩は、乳酸脱水素酵素により乳酸塩に還元される。
種々の乳酸脱水素酵素アイソフォームは、主にこれらの組織寄与並びに基質特異性および親和性において互いに異なる。胚細胞に特異的なLDHCは、好ましくは乳酸塩のピルビン酸塩への酸化を触媒し、また高濃度の乳酸塩によりこの活性において阻害されない(Goldberg E. Exp. Clin. Immunogenet. 2:120-4, 1985)。これらの特性は、生理学的観点から合理的である。その理由は、精細胞が、高い乳酸塩濃度により特徴づけられる環境において発育するからである。精細胞は、エネルギー源として乳酸塩をグルコース、フルクトースまたはピルビン酸塩よりも好む(Mita M. Biol. Reprod. 26:445-55, 1982)。乳酸塩のLDHCによる酸化により、ピルビン酸塩が、クエン酸回路のための出発物質として得られる。従って、精細胞は、好ましくはクエン酸回路を、エネルギーを発生するための主要な供給源として用いる(Storey B.T. Biol. Reprod. 16:549-556, 1977)。
長期間にわたり、腫瘍細胞が、しばしばこれらのエネルギー要求を、嫌気性解糖により賄い、即ちこれらは、乳酸塩を増大した量で生成し、クエン酸回路および呼吸鎖を好気性条件下でさえもを用いないことが、知られている。ワールブルク効果として記載されているこの現象の分子的基礎は、現在まで解明されておらず、ミトコンドリアにおける酵素欠損および解糖の重要な酵素の過剰発現は、原因として討議されている。この状況において、高い濃度の乳酸塩によりこの機能において阻害されていないLDHCの発現は、乳酸塩がATPを生成するために用いられる場合には、腫瘍細胞のエネルギー代謝について有利であり得る。ミトコンドリアの欠損、特にクエン酸回路の酵素欠損は、腫瘍細胞における既知の変化である。クエン酸回路が機能しなくなった場合には、還元等価物は、呼吸鎖のために生成し得ない。
乳酸塩への高度な親和性を有するミトコンドリア乳酸脱水素酵素、例えばLDHCは、欠損のあるクエン酸回路を回避し得る。ミトコンドリア中にモノカルボン酸輸送体(MCT)により輸送される乳酸塩は、ピルビン酸塩に、ミトコンドリア内で酸化され得、従って呼吸鎖において消費されてATPを生成する還元等価物の生成についての作用を奏する。LDHCの細胞内局在を分析するために、LDHC陰性の乳房腫瘍細胞株MCF−7に、LDHCおよび緑色蛍光タンパク質からなる融合構成物をトランスフェクトし、このトランスフェクタントを、ミトコンドリアマーカーチトクロームCに対する抗体で染色した。共焦点レーザー顕微鏡観察における両方のシグナルの共局在(図17)は、LDHCのミトコンドリア中での存在を明らかにする。従って、腫瘍細胞中でのLDHCの発現が、実際に細胞のエネルギー代謝について有益な効果を有することおよび、腫瘍におけるLDHC活性の特別な阻害を、腫瘍疾患の療法において用いることができることが、可能であり得る。
例2:TPTEの新たな腫瘍抗原としての同定
TPTE転写物(配列番号:19)およびこの翻訳産物(配列番号:22)の配列は、GenBankにおいて、アクセッション番号NM_013315の下に公開されている(Walker, S.M. et al., Biochem. J. 360(Pt 2):277-83, 2001; Guipponi M. et al., Hum. Genet. 107(2):127-31, 2000; Chen H. et al., Hum. Genet. 105(5):399-409, 1999)。TPTEは、可能な膜貫通チロシンホスファターゼをコードする遺伝子として記載され、精巣特異的発現は、染色体21、13、15、22およびYの動原体周囲領域中に位置する(Chen, H. et al., Hum. Genet. 105:399-409, 1999)。さらに、本発明のアライメント研究により、染色体3および7上の相同性ゲノム配列が明らかである。
例えば治療的抗体のアクセス可能性のための必要条件である膜局在を、いかなる疑いをも伴わずに、TPTE陰性細胞にTPTEおよび緑色蛍光タンパク質からなる融合構成物をトランスフェクトすることにより検出することができる(図18、右側)。これは、細胞表面において蓄積し、この位置において、他の既知の膜マーカー、例えばHLA分子と共局在して検出され得る。
本発明において、PCRプライマー(5’−TGGATGTCACTCTCATCCTTG−3’および5’−CCATAGTTCCTGTTCTATCTG−3’)を、TPTE(配列番号:19)の配列に基づいて作製し、多くのヒト組織において、RT−PCR分析(95℃、15分;94℃、1分;63℃、1分;72℃、1分;35サイクル)のために用いた。正常組織における発現は、精巣に限定されることが示された。他のeCTについて記載したように、TPTEバリアントは、本発明において、多くの腫瘍組織において異所的に活性化されることが示された;表2を参照。
定量的リアルタイムPCR(40サイクル、最初の変性15分、95℃、30秒、94℃、30秒、62℃および30秒、72℃)を、特異的プライマー(センスGAGTCTACAATCTATGCAGTG;アンチセンスCCATAGTTCCTGTTCTATCTG)を用いて行った(図19)。これはまた、非精巣正常組織中でのTPTEの欠乏および腫瘍中の異所性の発現を確認したのみならず、また精巣組織における生理学的発現に匹敵する腫瘍における高い転写レベルをも示した。腫瘍における多くの既知のCT遺伝子の異所性の発現は、プロモーター脱メチル化により誘発される。この機構が、またTPTEの異所性の活性化に有効であるか否かを試験するために、非発現細胞株BT549(乳房−癌腫)およびHCT116(大腸−癌腫)を、DNAメチル化の薬理学的阻害剤である5−アザ−2’−デスオキシシチジンの存在下で培養した。両方の場合において、DNAの脱メチル化の結果、TPTE発現の強力な誘発がもたらされた(図33)。同一の効果はまた、DNAメチルトランスフェラーゼDNMT1およびDNMT3bが欠乏しており、DNAメチル化のほとんど完全な損失により特徴づけられるHCT116細胞において、存在する。これらの結果は、遺伝子座のプロモーター脱メチル化が、TPTE発現の異所性の誘発にも有効であることを例証する。
TPTEタンパク質を検出するために、抗体を、ウサギを免疫化することにより生成した。大腸菌において組換え的に発現された以下のペプチドまたは精製されたタンパク質を、これらの抗体を増殖させるために用いた:
配列番号:105に対して送達された抗体のデータを、例として示す。特異的な抗体を、種々の固定条件の下での免疫蛍光アッセイのために用いることができる。RT−PCR陽性および陰性細胞株の比較染色において、それぞれのタンパク質を、陽性であるとタイプされた細胞株において容易に検出可能である量で、特異的に検出することができる(図18、右側)。内在性タンパク質は、膜に配置される。この抗体を、さらに組織切片の免疫組織化学的染色のために用いた。予測されたように、抗体は、精巣組織を特異的な方式で染色する。特に、胚細胞が染色される(図20)。肺癌腫の組織切片もまた、染色される。
TPTEタンパク質は、腫瘍のすべての細胞において、均一な方式で、大量に検出される。細胞の膜におけるタンパク質の位置を、ここで同様に確認する(図21)。染色の特異性を、競合実験により確認した。特異的抗体を、先ず組換えTPTEタンパク質と共にプレインキュベートし、次に組織切片に加えた(正の対照として例えば精巣を用いて、図20)。これにより、反応性を、成功に遮断することができる。この抗体を用いて、多くの異なる原発腫瘍のタイプ(また乳房腫瘍、黒色腫など)を成功に染色することができるが、それぞれの正常な組織は、染色することができない。前立腺組織の染色をまた、例として示す。正常な前立腺組織は、陰性である一方、侵襲性の前立腺腫瘍および未だ侵襲されていない前立腺腫瘍は、この分子に対して陽性である。
前立腺上皮の単純な肥大はまた、染色されず、形質転換するこれらの良性の変化内にすでに存在する前悪性領域は、TPTEに対して陽性である。従って、TPTEに対するこのような特異的な抗体を、前立腺癌腫の存在する素質の早期の検出のために、診断的方式で用いることができる。さらに、抗体を、TPTEの発現を検出するために、ウエスタンブロットにおいて用いた。タンパク質の発現を、精巣組織および自発的に発現する細胞株の溶菌液において検出することができ、一方、正常な組織は、予測されたように、発現を示さなかった(図34)。
本発明において、他のスプライスバリアントを、TPTEについて同定し(配列番号:20、配列番号:21、配列番号:54、配列番号:55、配列番号:56、配列番号:57)これは、精巣組織および腫瘍において発現され、フレームシフトおよび従って変化した配列領域を有する(図5)。
TPTEゲノム配列は、24のエクソンからなる(アクセッション番号NT_029430)。配列番号:19中に示した転写物は、これらのエクソンをすべて含む。配列番号:20中に示したスプライスバリアントは、エクソン7をスプライシングすることにより産生される。配列番号:21中に示したスプライスバリアントは、エクソン15の下流のイントロンの部分的導入を示す。バリアント配列番号:54、配列番号:55、配列番号:56、配列番号:57が示すように、あるいはまた、エクソン18、19、20および21をスプライスすることも可能である。
これらのオルタナティブスプライシング事象により、コードされたタンパク質の変化がもたらされ、リーディングフレームは、原則として維持される(図6)。例えば、配列番号:20中に示した配列によりコードされた翻訳産物(配列番号:23)は、配列番号:22中に示した配列と比較して、13個のアミノ酸の欠失を有する。配列番号:21中に示した配列によりコードされた翻訳産物(配列番号:24)は、分子の中心領域に付加的な挿入を有しており、これにより、他のバリアントと14個のアミノ酸が異なる。
バリアント配列番号:54、配列番号:55、配列番号:56、配列番号:57の翻訳産物、即ちタンパク質配列番号:58、配列番号:59、配列番号:60、配列番号:61は、同様に変化する。
機能的ドメインを予測するための分析により、配列番号:22、配列番号:23、配列番号:24、配列番号:58、配列番号:60についてチロシンホスファターゼドメインが存在するが、配列番号:59、配列番号:61については存在しないことが明らかである。すべてのバリアントについて、3〜4個の膜貫通ドメインが予測される(図6)。
特定の抗体を用いた、TPTE抗原発現の分析により、精巣および多くの異なる腫瘍における選択的発現が確認された。さらに、共局在研究により、本発明において、TPTEが、クラスI免疫グロブリンと共に、腫瘍細胞の細胞表面上に位置することが明らかになった。以前は、TPTEは、ゴルジ関連タンパク質として記載されているに過ぎなかった。腫瘍細胞の細胞表面上でのTPTE発現のために、この腫瘍抗原は、本発明において、診断および治療モノクローナル抗体を開発するための顕著な標的として、適する。TPTEの予測された膜トポロジーのために、細胞外に露出した領域は、本発明のこの目的のために特に適する。本発明において、これは、ペプチドFTDSKLYIPLEYRS(配列番号:81)およびFDIKLLRNIPRWT(配列番号:82)を含む。さらに、TPTEは、腫瘍細胞の移動を促進することが示された。
数時間にわたりFCSを含まない最小培地中で培養された細胞は、仮足および膜突起を自発的に発生する傾向がある。この構造の膜におけるタンパク質の明確な蓄積は、非相同的に発現される細胞(TPTE−eGFP)および自発的に発現する細胞株(AK−染色)において検出され得る。さらに、ローダミン−ファロイジンを用いた共染色により、TPTEおよびF−アクチンのこれらの領域における明確な共局在が示された。第2のメッセンジャー、例えばホスホイノシチド類およびカルシウムにより媒介されたアクチン重合は、走化性剤の細胞外勾配に応答して細胞移動を開始するための臨界的に重要な要因である。これらの第2のメッセンジャーによるシグナル伝達は、主にレセプターチロシンキナーゼ(RTK)により開始される。
ホスホイノシチド類による第2のメッセンジャーのシグナル伝達の調節およびこれからもたらされるアクチン細胞骨格の変調における最も重要な要因の1つは、いくつかの腫瘍のタイプにおいてしばしば過剰発現されるRTK c−erbB−2(HER2)である。これらの結果は、細胞膜に位置し、PIP3,4,5への基質特異性を有する、脂質ホスファターゼとしてのTPTEが、RTKにより媒介されたシグナル伝達に対する調節機能および従って、腫瘍細胞における膜動力学に対する変調効果を有するという考慮を生じた。詳細な分析のために、TPTE−eGFPを、c−erbB−2での形質転換のために構成的に活性化されたPI−3キナーゼシグナル伝達および従って、第2のメッセンジャーPIP3,4,5の過剰産生を有するNIH3T3線維芽細胞において発現させた。
最小培地中で数時間にわたり培養した後の、これらの細胞の経時的顕微鏡検査法により、仮足および突起の膜におけるTPTEの配置の結果、それぞれの膜領域の退縮が直ちにもたらされることが例証された。この観察についての説明は、RTK媒介シグナル伝達の終了により関連する膜領域の下のアクチン重合が終了するTPTEのPI−3キナーゼアンタゴニスト効果である。TPTEのこれらのPI−3Kアンタゴニスト効果は、第2のメッセンジャーPIP3,4,5のPIP4,5への脱リン酸化により媒介される。PIP4,5は、皮質性アクチン重合を調節し、細胞骨格の原形質膜への付着を媒介する。TPTEおよびPIP4,5の共局在を検出するために、TPTEをトランスフェクトしたNIH3T3/c−erbB2細胞に、ホスホリパーゼC−δ1(PLC−δ1)のeGFP結合PHドメインをコトランスフェクトした。
PHドメインは、PLC−δ1のこの生理学的基質PIP4,5への特異的な結合を媒介し、従って、これは、原形質膜におけるPIP4,5の分布を表示するのに良好に適合する。予測されたように、TPTEおよびPIP4,5の明確な共局在は、コトランスフェクトした細胞中で原形質膜において例証された(図35)。これは、再び、PIP4,5に特異的な抗体を用いた共染色によるさらなるアッセイにおいて確認され得る。最近、TPTEと相同のPTENが、細胞の移動可能性を陽性の方式で調節することが示された。細胞移動は、走化性剤の細胞外勾配の知覚が必須である方向的なプロセスである。方向を有する細胞移動の結果、勾配の方向における細胞の極性化が、走化性剤の検出に続いてもたらされる。PTENは、細胞の極性化を、第2のメッセンジャーPIP3,4,5の細胞外勾配の方向における細胞内勾配を形成することにより媒介し、従って、方向を有するアクチン重合および移動を媒介する。
TPTEが同様のプロミグラトリー特性を有するか否かを試験するために、トランスウェル(Transwell)移動アッセイを行った。TPTEをトランスフェクトしたNIH3T3/c−erbB−2細胞およびそれぞれの対照細胞(トランスフェクトしていないNIH3T3/c−erbB−2細胞および空のpeGFPベクターをトランスフェクトしたNIH3T3/c−erbB−2細胞)を、種々の量の化学誘引物質を用いて試験した。TPTEを発現する細胞は、10%FCSに対する反応において、対照細胞と比較して4倍を超える顕著に増大した移動速度を示した(図23)。RNA干渉(RNAi)を用いて、腫瘍細胞株におけるTPTEの自発的な発現がまた、これらの細胞の走化性を増強することを例証することができる。このために、TPTE陽性PC−3前立腺癌腫細胞を、TPTE特異的二重らせんRNAオリゴ(センス5’−CCCUGCCACAUGUUCAUAUdTdT−3’およびアンチセンス5’−AUAUGAACAUGUGGCAGGGdTdT−3’)で電気穿孔した。
24時間後、70%のTPTE発現の減少を、定量的リアルタイムRT−PCRにより検出することができた(図36)。トランスウェル移動アッセイにより、それぞれの対照(未処理のPC−3細胞および無関連のsiRNAで電気穿孔したPC−3細胞)と比較して、移動速度の明確な低下(70%)が示された(図37)。PTENが、第2のメッセンジャー、例えばPIP3,4,5を補強するPHドメインにより原形質膜に送達され得る細胞質タンパク質である一方、TPTEは、走化性勾配の知覚を、膜において直接、癌細胞においてしばしば過剰発現される活性化されたRTKのシグナル伝達を遮断することにより変調させ、従って空間的勾配の知覚を媒介し得た。
ホスファターゼは、しばしば、細胞運動性および移動に関与する。TPTEの細胞移動における重要性を試験するために、TPTEを、緑色蛍光タンパク質との融合タンパク質として、TPTE陰性細胞株中に導入し、このタンパク質の分布を、インビボでリアルタイム顕微鏡検査法により観察した。細胞は、膜拡張(突起)を移動の前段階として形成する。このような突起の形成に続いて、TPTEは、この膜領域中に蓄積する(図22)。突起の平坦化が開始した際に、TPTEを、膜から除去し、内部移行させ、細胞の運動性事象のプロセスに明らかに関与する。同様に、TPTEをトランスフェクトした細胞の移動特性を対照プラスミドをトランスフェクトした細胞に対して移動チャンバー(BOYDENチャンバー)において比較することにより、TPTEにより、成長因子(例えばPDGF=血小板由来成長因子またはFCS=ウシ胎児血清)の走化性勾配に沿った移動の顕著な増強がもたらされることが例証される(図23)。
細胞のTPTEが、プロミグラトリー特性を明らかに媒介するため、合計で58人の患者の乳房および肺腫瘍を、TPTEの発現に関して試験し、これらの患者の疾患の経過と統計的に比較した。TPTEを発現する腫瘍は、リンパ節および遠隔転移を、TPTE陰性腫瘍よりも顕著に高い頻度で形成する傾向がある(図24)。
これらの機能的データは、TPTEが、腫瘍における転移の形成において主要な作用を奏し得ることを示す。従って、TPTEを、予後的に悪化した経過および転移を形成する傾向についてのマーカーとして考慮することができる。さらに、例えばアンチセンスRNAを用いることによる、腫瘍細胞におけるTPTEの内在性活性を阻害する本発明の方法、発現ベクターまたはレトロウイルスによる、および小さい分子を用いることによるRNA干渉(RNAi)の種々の方法の結果、転移の低下した形成がもたらされ得、従って、治療的観点から極めて重要であり得る。
例3:TSBPの新たな腫瘍抗原としての同定
本発明において用いる電子的クローン化方法により、TSBP(配列番号:29)およびこれから由来するタンパク質(配列番号:30)が得られた。遺伝子は、以前に、精巣特異的に調節されると記載されている(アクセッション番号NM_006781)。遺伝子は、塩基性タンパク質をコードし、MHC複合体(C6orf10)をコードする配列に近い染色体6上に位置すると予測された(Stammers M. et al., Immunogenetics 51(4-5):373-82, 2000)。本発明において、以前に記載された配列は、不正確であることが示された。本発明の配列は、実質的に、既知の配列とは異なる。本発明において、3種の異なるスプライシングバリアントを、クローン化した。本発明において見出されたTSBPバリアントのヌクレオチド配列(配列番号:31、配列番号:32、配列番号:33)の、既知の配列(NM_006781、配列番号:29)に対する差異を、図7に示す(差異を、太字で示す)。これらは、フレームシフトをもたらし、従って、本発明において見出されたTSBPバリアントによりコードされたタンパク質(配列番号:34、配列番号:35、配列番号:36)は、以前に記載されたタンパク質(配列番号:30)とは実質的に異なる(図8)。
本発明において、この抗原は、正常組織において厳密に転写的に抑制されていることが確認された(PCRプライマー5’−TCTAGCACTGTCTCGATCAAG−3’および5’−TGTCCTCTTGGTACATCTGAC−3’)。しかし、研究した25の正常組織において、TSBPは、精巣に加えて、正常なリンパ節組織においても発現していた。本発明において、TSBPの腫瘍における異所性の活性化もまた、検出され、従って、これは、腫瘍マーカーまたは腫瘍関連抗原として適格である(表3)。
TSBP発現が、初代腫瘍組織において見出されるが、これは、対応する腫瘍実体の永久的な細胞株においては見出されない。さらに、遺伝子は、ノッチ4の直接的な近隣にあり、これは、動脈において特異的に発現され、血管の形態形成に関与する。これらは、これが、特異的な内皮細胞についてのマーカーであることを顕著に示す。従って、TSBPは、腫瘍内皮および新生血管の標的化についての潜在的なマーカーとして作用し得る。
従って、TSBPプロモーターを、リンパ節における選択的発現が望ましい他の遺伝子産物にクローン化することができる。
特異的な抗体を用いた、TSBP抗原発現の分析により、精巣およびリンパ節における、並びにまた黒色腫および気管支癌腫におけるタンパク質の選択的局在が確認された。さらに、GFPタグ付TSBPを用いた免疫組織学的研究により、明確な核周囲(perinucleic)蓄積が明らかになった。
TSBPタンパク質を検出するために、抗体を、ウサギを免疫化することにより生成した。大腸菌において組換え的に発現された以下のペプチドまたは精製されたタンパク質を、これらの抗体を増殖させるために用いた:
配列番号:108に対して送達された抗体についてのデータを、例として示す。特異的な抗体を、種々の固定条件の下での免疫蛍光アッセイのために用いることができる。RT−PCRアッセイにより、大腸癌腫細胞株HCT116PがTSBPを発現しないことが例証された。しかし、DNAメチルトランスフェラーゼについて欠失したバリアントHCT116DKOは、TSBPについて陽性である。上記に記載した抗体での両方の細胞株の比較染色により、それぞれのタンパク質が、陽性であるとタイプされた細胞株において、容易に検出可能である量で、特異的に検出された(図25)。内在性タンパク質は、主に核およびER膜に位置し、これにより原形質膜は、わずかに染色される。
この抗体をさらに、組織切片の免疫組織化学的染色のために用いた。予測されたように、抗体は、精巣組織を特異的な方式で染色する。特に、胚細胞が染色される(図25)。
生物情報学的分析により、TSBPが、核局在シグナルを有する強力に塩基性のタンパク質であることが例証された。従って、タンパク質の細胞内の配置が核へのものであり、一方内在性に発現されたタンパク質は、上記に記載したように核膜に位置することが、予測される。N末端は、膜貫通ドメインがタンパク質の加工の間にプロテアーゼにより切断されるという事実を示すタンパク質分解切断部位に続いて、膜貫通ドメインを含む。核局在シグナル、タンパク質の核、ERまたは原形質膜における配置およびタンパク質分解切断部位に続く膜貫通ドメインのこの組み合わせは、NOTCH族およびSREBPのいずれの要素が最良に特徴づけされるかの転写因子の明確な群について見出される(Weinmaster G. Curr. Opin. Genet. Dev. 10(4):363-9, 2000; Hoppe T. et al. Curr. Opin. Cell. Biol. 13(3):344-8, 2001))。
これらの要因の生物学的活性は、調節された膜内タンパク質分解(RIP)の機構により調節される。翻訳に続いて、タンパク質は、膜貫通ドメインにより、核、ERまたは原形質膜に一体化される。NOTCHの場合において、特異的なリガンドの結合により、膜ドメインの下のタンパク質分解切断が誘発され、従ってタンパク質は、これがこの効果を奏する部位に到達する。転写プロセスを、例えば器官の発達の経過の間に環境に依存する方式で、このようにして調節することができる。この構造的特性および膜における位置のために、TSBPを、この群中に一体化することができた。TSBP配列が、特異的なDNA結合構造要素を含まず、タンパク質の強力な塩基性により、DNAへの結合が、TSBPが転写因子または転写調節因子であり得るように、同様になされることは、真実である。
例4:MS4A12の新たな腫瘍抗原としての同定
MS4A12(配列番号:37、アクセッション番号NM_017716)およびこの翻訳産物(配列番号:38)は、以前に、B細胞特異的抗原CD20、造血細胞特異的タンパク質HTm4および高親和性IgEレセプターのβ鎖に関する多遺伝子ファミリーの要素として記載されている。すべてのファミリーの要素は、少なくとも4つの潜在的膜貫通ドメインにより特徴づけされており、C末端およびN末端の両方は、細胞質性である(Liang Y. et al., Immunogenetics 53(5):357-68, 2001; Liang Y. & Tedder, Genomics 72(2):119-27, 2001)。本発明において、MS4A12に対するRT−PCR研究を、行った。プライマーを、公開されたMS4A12配列(NM_017716)(センス:CTGTGTCAGCATCCAAGGAGC、アンチセンス:TTCACCTTTGCCAGCATGTAG)に基づいて選択した。試験した組織において、発現を、精巣、大腸(6/8)および大腸直腸癌腫(大腸癌腫)(16/20)において、並びに大腸転移(12/15)においてのみ検出した(図9)。
大腸転移の高い発生率により、TSBPが、魅力的な診断および治療標的になる。本発明において、タンパク質配列GVAGQDYWAVLSGKG(配列番号:83)を含む予測された細胞外領域は、モノクローナル抗体および小さい化学的阻害剤を産生するのに特に適する。また、本発明において、細胞膜上のMS4A12タンパク質の細胞内局在が、共焦点免疫蛍光における原形質膜マーカーを用いて、蛍光の重ね合わせにより確認された。
従って、MS4A12は、正常な大腸上皮のための細胞膜に位置する分化抗原であり、これはまた、大腸直腸腫瘍および転移において発現される。
特異的プライマー(CTGTGTCAGCATCCAAGGAGCおよびTTCACCTTTGCCAGCATGTAG)を用いた定量的リアルタイムPCR(40サイクル、最初の変性15分、95℃、30秒、94℃、30秒、62℃および30秒、72℃)を、行った(図26)。これは、MS4A12が、精巣および大腸直腸正常組織以外の大部分の正常組織中に存在しなかったことを確認したのみならず、また例えば原発性腸腫瘍およびこれらの転移において高い転写レベルをも検出した。MS4A12タンパク質を検出するために、抗体を、ウサギを免疫化することにより生成した。大腸菌において組換え的に発現された以下のペプチドまたは精製されたタンパク質を、これらの抗体を増殖させるために用いた:
配列番号:109:MMSSKPTSHAEVNETC (aa 1−15)
配列番号:110:CGVAGQDYWAVLSGKG (aa 64−73)
配列番号:111:MMSSKPTSHAEVNETIPNPYPPGSFMAPGFQQPLGSINLENQAQGAQRAQPYGITSPGIFASS (組換えタンパク質aa 1−63)
配列番号:111に対して送達された抗体についてのデータを、例として示す。予測された大きさを有する特異的なバンドは、正常な腸、大腸癌腫についてのウエスタンブロットにおいて検出可能であるが、正常な組織においては検出可能ではない(図27)。特異的な抗体を、免疫蛍光アッセイのために、種々の固定条件の下で用いることができる。RT−PCR陽性および陰性細胞株が染色された場合には、それぞれのタンパク質を、陽性であるとタイプされた細胞株において、容易に検出可能な量で特異的に検出することができ、真核生物において組換え的に発現されたMS4A12は、同様に特異的に検出される(図28)。これらの実験はまた、膜局在を確認する。この抗体をさらに、組織切片の免疫組織化学的染色のために用いた。予測されたように、抗体は、健康な腸組織を染色するが、大腸粘膜の尖端上皮細胞のみを染色する(図29、左側)。腸腫瘍の腫瘍細胞はまた、膜において均一な方式で染色される(図29、右側)。
例5:BRCO1の新たな腫瘍抗原としての同定
BRCO1およびこの翻訳産物は、以前には記載されていない。本発明のデータマイニング方法により、EST(発現配列タグ(expressed sequence tag))AI668620が得られた。特異的なプライマー(センス:CTTGCTCTGAGTCATCAGATG、アンチセンス:CACAGAATATGAGCCATACAG)を用いたRT−PCR研究を、発現分析のために行った。本発明において、特異的な発現が、精巣組織およびさらに正常な乳腺において見出された(表5)。すべての他の組織において、この抗原は、転写的に抑制されている。これは、同様に、乳腺腫瘍において検出される(20/20)。BRCO1は、正常な乳腺組織における発現と比較して、乳房腫瘍において明確に過剰発現される(図10)。
ESTコンティグ(contig)(以下のESTが含まれた:AW137203、BF327792、BF327797、BE069044、BF330665)を用いて、1500bpを超えるこの転写物を、本発明において、電子的全長クローン化(配列番号:39)によりクローン化した。配列は、染色体10p11−12に位置づけられる。同一の領域において、すぐ近接して、乳房分化抗原についての遺伝子であるNY−BR−1が、以前に記載されている(NM_052997; Jager, D. et al., Cancer Res. 61(5):2055-61, 2001)。
整合した対(乳房癌腫および隣接する正常な組織)の研究により、正常な組織と比較して70%の乳房癌腫におけるBRCO1過剰発現が、明らかになった。
従って、BRCO1は、正常な乳腺上皮についての新たな分化抗原であり、これは、乳房腫瘍において過剰発現される。
これはまた、特異的プライマー(5’−CTTGCTCTGAGTCATCAGATG−3’;5’−CACAGAATATGAGCCATACAG−3’)を用いた定量的リアルタイムPCR(40サイクル、最初の変性15分、95℃、30秒、94℃、30秒、60℃および30秒、72℃)を確認する(図30および31)。これは、BRCO1が、精巣および乳房正常組織以外の大部分の正常組織中に存在しないことを確認したのみならず、また乳房腫瘍における過剰発現をも明らかにした。
BRCO1タンパク質を検出するために、抗体を、ウサギを免疫化することにより生成した。以下のペプチドを、これらの抗体を増殖させるために用いた:
配列番号:115:IAPNTRGQQTIVL
配列番号:116:VWKSNGKSILKMPF
例6:TPX1の新たな腫瘍抗原としての同定
TPX1の配列(アクセッション番号NM_003296;配列番号:40)およびこの翻訳産物の配列(配列番号:41)は、知られている。抗原は、以前に精巣特異性であるとして、即ち外側繊維および精子の先体の要素としてのみ記載されている。以前に、精子のセルトリ細胞への付着における接着分子としての関与が、前述の抗原に帰した(O'Bryan, M.K. et al., Mol. Reprod. Dev. 58(1):116-25, 2001; Maeda, T. et al., Dev. Growth Differ. 41(6):715-22, 1999)。本発明により、初めて、固体腫瘍におけるTPX1の異常な発現が明らかになる(表6)。TPX1と好中球特異性マトリックス糖タンパク質SGP28との間の顕著なアミノ酸相同性のために(Kjeldsen et al., FEBS Lett 380:246-259, 1996)、ペプチドSREVTTNAQR(配列番号:84)を含むTPX1特異的タンパク質配列は、本発明において、診断および治療分子を製造するのに適する。
例7:BRCO2の新たな腫瘍遺伝子産物としての同定
BRCO2およびこの翻訳産物は、以前は記載されていなかった。本発明の方法により、EST(発現配列タグ)BE069341、BF330573およびAA601511が得られた。特定のプライマー(センス:AGACATGGCTCAGATGTGCAG、アンチセンス:GGAAATTAGCAAGGCTCTCGC)を用いたRT−PCR研究を、発現分析のために行った。本発明において、特異的な発現は、精巣組織において、およびさらに正常な乳腺において見出された(表7)。すべての他の組織において、この遺伝子産物は、転写的に抑制されている。これは、乳腺腫瘍において、同様に検出される。ESTコンティグ(以下のESTが含まれた:BF330573、AL044891およびAA601511)を用いて、1300bpのこの転写物を、本発明において、電子的全長クローン化(配列番号62)によりクローン化した。配列は、染色体10p11−12に位置づけられる。同一の領域において、すぐ近接して、乳房分化遺伝子産物についての遺伝子であるNY−BR−1が、以前に記載され(NM_052997; Jager, D. et al., Cancer Res. 61(5):2055-61, 2001)、ここでは、例6の下の上記のBRCO1を、位置させる。さらなる遺伝子的分析により、本発明において、配列番号:62の下に列挙された配列が、NY−BR−1遺伝子の3’非翻訳領域を表すことが明らかになり、これは、以前には記載されていなかった。
BRCO2は、正常な乳腺上皮についての新たな分化遺伝子産物であり、これはまた、乳房腫瘍において発現される。
例8:PCSCの新たな腫瘍遺伝子産物としての同定
PCSC(配列番号:63)およびこの翻訳産物は、以前には記載されていなかった。本発明のデータマイニング方法により、EST(発現配列タグ)BF064073が得られた。特定のプライマー(センス:TCAGGTATTCCCTGCTCTTAC、アンチセンス:TGGGCAATTCTCTCAGGCTTG)を用いたRT−PCR研究を、発現分析のために行った。本発明において、特異的な発現は、正常な大腸およびさらに大腸癌腫において見出された(表5)。すべての他の組織において、この遺伝子産物は、転写的に抑制されている。PCSCは、3種の推定上のORF(配列番号64、配列番号65および配列番号117)をコードする。配列番号64の配列分析により、CXCサイトカインに対する構造的相同性が明らかになった。さらに、4種のオルタナティブPCSC cDNAフラグメントを、クローン化した(配列番号:85〜88)。各々の場合において、本発明において、各々のcDNAは、配列番号:89〜100に示すポリペプチドをコードする3種の推定上のORFを含む。
従って、PCSCは、また大腸直腸腫瘍および研究したすべての大腸転移において発現される、正常な大腸上皮についての分化抗原である。本発明によりすべての大腸直腸転移において検出されたPCSC発現により、この腫瘍抗原は、転移する大腸腫瘍の予防および処置のための、極めて興味深い目的となる。
定量的リアルタイムPCR(40サイクル、最初の変性15分、95℃、30秒、94℃、30秒、59℃および30秒、72℃)を、特異的プライマー(5’−AGAATAGAATGTGGCCTCTAG−3’;5’−TGCTCTTACTCCAAAAAGATG−3’)を用いて行った(図32)。これは、PCSCが、精巣および大腸直腸正常組織以外の大部分の正常組織中に存在しないことを確認したのみならず、また例えば腸腫瘍において高い転写レベルをも明らかにした。腸腫瘍の転移は、原発性腫瘍よりも顕著に高い発現を示す。これおよびPCSCがケモカイン族との相同性を有するという事実は、増大した細胞運動性および転移の形成における作用を確証する。
PCSCタンパク質を検出するために、抗体を、ウサギを免疫化することにより生成した。以下のペプチドを、これらの抗体を増殖させるために用いた:
配列番号:112:GHGPGHPPPGPHH
配列番号:113:KPERIAQLTWNEA
配列番号:114:PRSPTPWSTSLRK
例9:SGY−1の新たな腫瘍抗原としての同定
SGY−1転写物の配列(配列番号:70)およびこの翻訳産物の配列(配列番号:71)は、GenBankにおいて、アクセッション番号AF177398の下で公開されている(Krupnik et al., Gene 238, 301-313, 1999)。Soggy-1は、Wntファミリーのタンパク質の阻害剤およびアンタゴニストとして作用する、Dickkopfタンパク質ファミリーの要素として、以前に記載されている。次に、Wntタンパク質は、胚発生において重要な機能を有する。SGY−1の配列(配列番号:70)に基づいて、PCRプライマー(5’−CTCCTATCCATGATGCTGACG−3’および5’−CCTGAGGATGTACAGTAAGTG−3’)を、本発明において作製し、多くのヒト組織において、RT−PCR分析(95℃、15分;94℃、1分;63℃、1分;72℃、1分;35サイクル)のために用いた。正常組織における発現は、精巣に限定されることが示された。他のeCTについて記載したように、SGY−1は、本発明において、多くの腫瘍組織において、異所的に活性化されていることが示された;表9を参照。
例10:MORCの新たな腫瘍抗原としての同定
MORC転写物の配列(配列番号:74)およびこの翻訳産物の配列(配列番号:75)は、GenBankにおいて、アクセッション番号XM_037008の下で公開された(Inoue et al., Hum Mol Genet. Jul:8(7):1201-7, 1999)。
MORCは、最初は、精子形成に関与すると記載されていた。マウス系におけるこのタンパク質の変異の結果、生殖腺の発育不全(underdevelopment)がもたらされる。
MORCの配列(配列番号:74)に基づいて、PCRプライマー(5’−CTGAGTATCAGCTACCATCAG−3’および5’−TCTGTAGTCCTTCACATATCG−3’)を、本発明により作製し、これを、多くのヒト組織において、RT−PCR分析(95℃、15分;94℃、1分;63℃、1分;72℃、1分;35サイクル)のために用いた。正常な組織における発現は、精巣に限定されることが示された。他のeCTについて記載したように、MORCは、本発明において、多くの腫瘍組織において、異所的に活性化されていることが示された:表10を参照。