しかしながら、構造物や輸送機械などの各種の部材は、溶接、機械加工、押出し成型、鋳造など様々な方法で製作されており、これらの部材について疲労損傷度や寿命を推定しようとすると、測定対象物によって疲労センサの亀裂との関係が変わるので、十分正しい結果を得るためには複雑な演算が必要である。このように、開示された疲労センサを適切に使用するためには高度な知識と熟練を要求されるという問題がある。よって、機器や構造物の維持・管理を簡便に実施するために利用するものとして、ひずみゲージのように構造物の表面に貼付して応力をモニタリングし、過大な荷重があったことを確実にチェックできる簡素かつ安価なセンサの開発が求められる。
そこで本発明は、簡素かつ安価な構成で、測定対象物に生じるひずみを誤りなく検出できるようにすることを目的としている。
本発明は上述のような事情に鑑みてなされたものであり、本発明に係るひずみ検知装置は、測定対象物に貼付されて測定対象物と共にひずむ薄膜基板と、前記薄膜基板上に小さなギャップを挟んで対置され、それぞれ少なくとも1カ所で前記薄膜基板に固定された一対のひずみ伝達片と、前記一対のひずみ伝達片上に跨って貼付され、前記ギャップに対応する位置に前記ひずみ伝達片に貼付された位置よりも断面積が小さいブリッジ部を有するセンサ箔とを備え、前記一対のひずみ伝達片のうち一方が、前記薄膜基板から離反する方向に反れようとする応力を有していることを特徴とする。なお、前記応力は、ひずみ伝達片に予め与えられた内在的な応力であり、一対のひずみ伝達片がセンサ箔を介して互いに拘束されていることにより、前記応力による歪みが現れないものである。
前記構成によれば、一対のひずみ伝達片にセンサ箔が跨って貼付され、一対のひずみ伝達片の間には断面積の小さいブリッジ部が設けられているため、測定対象物がひずみを生じたときの応力がセンサ箔のブリッジ部に集中する。即ち、このひずみ検知装置は、ひずみの拡大機能を備えることになる。センサ箔は所定の破断伸び特性を有し、ブリッジ部の局所ひずみが破断伸びを超えると、最小断面部であるブリッジ部が破断する。ブリッジ部が破断したときは、センサ箔の破断強度とひずみの集中度とから決まる所定のひずみ以上のひずみが測定対象部位に発生したと推定することができる。
そして、センサ箔は、破断するまでは一体に繋がっているので平らになっているが、ギャップの位置でブリッジ部が破断すると、片方のひずみ伝達片に内在する潜在的な応力が顕在化して、そのひずみ伝達片がセンサ箔の破断端と一緒に薄膜基板から離反する方向に反り返って浮き上がり、元に戻らない。このため、作業者は、センサ箔の破断端の反り返りを目視等で観察することにより、誤認することなく簡単かつ正確にセンサ箔の破断を知ることができる。
さらに、ひずみ検知装置の感度を決めるひずみ伝達片とセンサ箔の組み合わせであるひずみ検知センサが、薄膜基板の上に予め形成されているので、測定対象物にひずみ検知装置を貼付したときに前記センサ箔の破断ひずみが変化せず、設計通りの感度を有するセンサとして利用することができ、信頼性が向上する。
また、ひずみ検知装置は、測定対象物に貼付したときに貼付位置における応力が所定値になったときに発生する測定対象物のひずみによりセンサ箔が破断するように調整されたものであるとよい。ひずみと荷重の関係は、測定対象物に従って変化する一方、センサ箔の破断は測定対象物に貼付された薄膜基板のひずみにより支配されるので、センサの検出感度は測定対象物と目標とする荷重によって変化する。したがって、測定対象物と測定目的に基づいて感度調整をして、的確な破損強度を検出できるようにすることが好ましい。
ひずみ伝達片とセンサ箔の厚みの差が大きくて両者の剛性差が大きいほど、ひずみ感度が大きくなるので、精度が確保できる限り厚みの差を調整して測定対象物のひずみ最大値の測定範囲を調整することができる。また、測定対象物のひずみの発生に伴いセンサ箔に現れるひずみは、一対のひずみ伝達片の薄膜基板への夫々の接合位置の距離が大きいほど大きくなるので、この距離を調整することによりひずみ感度を調整することができる。
センサ箔をエッチングあるいは電鋳法で形成するときは、センサ箔の幅の狭いブリッジ部も正確に形成することができる。また、センサ箔の厚みは2段電鋳法により正確に制御することができる。薄膜基板はステンレス鋼で形成され、センサ箔は圧延銅や電解銅で形成されていてもよい。また、薄膜基板がインバーで形成され、前記センサ箔がニッケルで形成されてもよい。センサ箔は、その破断伸びが小さい方が、測定対象物の小さなひずみにも検知するひずみ検知装置を構成することができる。また、特性がよく知られており、製造が容易な材質を選ぶことが好ましい。したがって、高強度の銅箔をセンサ箔に使用することが好ましい。また、ニッケルは十分に硬く疲労センサなどで情報および技術が蓄積されているため、センサ箔に適している。なお、薄膜基板の裏側には、浅い細線を多数エッチングするなどして凹凸面とし、測定対象物の表面に接着剤で固定するときに接着性を向上させるとよい。
前記センサ箔は、前記ギャップを横断する部分で複数の前記ブリッジ部を有してもよい。
前記構成によれば、破断部位となるブリッジ部が複数設けられているので、信頼性が向上する。
前記ひずみ伝達片は、前記ギャップの位置と前記薄膜基板に固定された位置との間の部位に前記薄膜基板に接合しない程度の入熱がされることにより前記応力、即ち、内在する応力が付与されていてもよい。
具体的には、前記ひずみ伝達片は、該ひずみ伝達片を前記薄膜基板に固定する部位では該薄膜基板側から局所加熱装置で入熱されることにより溶融接合される一方、前記ギャップの位置と前記薄膜基板に固定された位置との間の位置に該ひずみ伝達片側から局所加熱装置で前記薄膜基板に接合しない程度の入熱がされることにより前記応力が付与されていてもよい。
前記ひずみ伝達片及び前記センサ箔は金属からなり、前記ひずみ伝達片と前記センサ箔との間には絶縁接着層が介設されていてもよい。
前記構成によれば、破断するブリッジ部を挟んだセンサ箔の両側に電流計あるいは抵抗計を接続して破断の存否を検出することができる。そして、ひずみ伝達片とセンサ箔との間には絶縁接着層(例えば、ポリイミド膜)が設けられているので、仮に対向するひずみ伝達片同士が接触しても、各ひずみ伝達片を介して誤って導通することもない。
なお、現地で電流計あるいは抵抗計のプローブをセンサ箔に当てて導通/非導通を検出する代わりに、センサ箔に電線を接続してブリッジ部の破断の有無に関する情報を遠隔地で受信可能にしてもよい。また、データ送信は無線通信で行うこともできることは言うまでもない。なお、無線通信を利用する場合は、電源装置をひずみ検知装置に付帯させる必要がある。無線を利用する場合の電源装置は、乾電池や太陽電池などを使った、配線工事を必要としない独立的な電源であるとよい。
前記ひずみ伝達片は、該ひずみ伝達片の一部に一体的に接続された状態で該ひずみ伝達片を囲繞して該ひずみ伝達片と同一材料からなる補強枠が除去されることにより形成されるものであってもよい。例えば、補強枠とひずみ伝達片は1枚のプレートからエッチングや電鋳法により形成するとよい。
前記ひずみ伝達片と前記補強枠との間には、細い連結部で区切られた細長い孔を並べた折り取り線が設けられ、前記連結部を折り切ることにより前記補強枠が除去されるものであってもよい。
前記構成によれば、ひずみ検知装置を測定対象物に貼り付ける際に、連結部を折り切って補強枠を取り外すことができ、測定対象物への設置前の取り扱いを容易にすることができると共に、製品の搬送中における損傷等を防止することが可能となる。
前記一対のひずみ伝達片と前記センサ箔との組み合わせであるひずみ検知センサが、前記薄膜基板上に複数配置されており、前記一対のひずみ伝達片のうち一方の前記薄膜基板への固定位置と、前記一対のひずみ伝達片のうち他方の前記薄膜基板への固定位置との間の距離が、前記複数のひずみ検知センサ毎に異なっていてもよい。
前記構成によれば、複数のひずみ検知センサのうち幾つかのセンサ箔が破断し、残りが破断しなかったときには、破断したひずみ検知センサの検知応力と、破断しなかったひずみ検知センサの検知応力との間の応力が測定対象物に発生したと推定することができ、測定対象物の応力履歴の概略値を推定することが可能となる。
その際、前記複数のひずみ検知センサは、前記一対のひずみ伝達片の並び方向と一致する検知軸が実質的に平行になるように配置されていてもよい。
前記構成によれば、 互いに応力感度の異なる2セット以上のひずみ検知センサのうち、どのひずみ検知センサのセンサ箔が破断し、どのひずみ検知センサのセンサ箔が破断していないかをチェックすることにより、測定対象物で発生したひずみ値がどのような範囲にあるかを推定することができる。
前記一対のひずみ伝達片と前記センサ箔の組み合わせであるひずみ検知センサが、前記薄膜基板上に複数配置されており、前記一対のひずみ伝達片のうち一方の前記薄膜基板への固定位置と、前記一対のひずみ伝達片のうち他方の前記薄膜基板への固定位置との間の距離が、前記複数のひずみ検知センサ同士で互いに同じであってもよい。
その際、前記複数のひずみ検知センサは、前記一対のひずみ伝達片の並び方向と一致する検知軸が実質的に平行になるように配置されていてもよい。
ひずみ検知装置の検出精度は、材料の破断特性に基づくものであり、材料的なバラツキ、製造時のバラツキなどを原因とする検出精度のバラツキを避けることができない。そこで、前記構成のように同種のひずみ検知センサを一緒に複数使用することにより、検出精度を向上させることができる。複数のひずみ検知センサを用いたときには、検出精度のバラツキは、各ひずみ検知センサの精度バラツキの2乗平均の平方根になるから、複数のひずみ検知センサを用いることにより信頼性が向上する。
また、前記複数のひずみ検知センサは、前記一対のひずみ伝達片の並び方向と一致する検知軸が互いに交わるように配置されていてもよい。
ひずみ検知装置は、測定対象物で最も大きなひずみの発生する方向に検知軸を合わせて設置する必要がある。しかし、現実には、例えば地震時の応力発生方向や複雑な構造物における応力の向きなどにように、最大応力軸の方向を予め知るのが難しい場合がある。このような測定対象物に適用する場合は、複数のひずみ検知センサの夫々の検知軸が異なる方向を向くように(例えば、放射状に)配置されたひずみ検知装置を用いることにより、測定対象物において発生した最大ひずみを見落とすことなく検知することができる。
前記一対のひずみ伝達片と前記センサ箔の組み合わせであるひずみ検知センサが保護カバーで囲繞されていてもよい。
前記構成によれば、ひずみ検知装置による監視が長期に亘っても、センサの耐候性や耐食性を維持することができる。保護カバーは、樹脂材料、メッキ鋼板、塗装鋼板などで形成した蓋で、検知センサの作動を妨げないようにひずみ検知センサの全体を覆って裾の部分を樹脂による接着や溶接やビス止めなどにより気密を保って薄膜基板に固定してもよい。後述する電極端子に電線の一端部を接続する場合には、電線の他端側を保護カバーの外に引き出しておくとよい。
前記一対のひずみ伝達片と前記センサ箔のひずみ検知センサに樹脂被膜が施されていてもよい。
前記構成によれば、前記同様に、ひずみ検知装置による監視が長期に亘っても、センサの耐候性や耐食性を維持することができる。なお、センサの感度に干渉しないためには、樹脂被膜がひずみ検知センサの動作を妨げない程度の強度しか持たないようにする。樹脂被膜の硬度が高いときには、皮膜の下に空間を形成してセンサ箔の破断を妨げないようにすることが好ましい。
前記センサ箔は、導体からなるとともに前記ブリッジ部を介して導通する一対の電極端子を有していてもよい。
前記構成によれば、一対の電極端子の間におけるセンサ箔の抵抗変化を電気的に検査することにより、センサ箔の破断や変形を検出することができる。そして、ひずみ伝達片には前述したように応力が与えられているので、センサ箔の破断端同士が接触することによる検出エラーも確実に防止することができる。
前記センサ箔は、前記ギャップを横断する部分で複数の前記ブリッジ部を有し、前記各電極端子は、前記一対のひずみ伝達片のうち一方側に集められていてもよい。
前記構成によれば、例えば2つのブリッジ部がギャップを跨る構成である場合に、電極端子の位置が一方側にまとめられるので、効率的な回路構成を実現することができる。
前記電極端子は、前記ひずみ伝達片と前記薄膜基板の接合位置を挟んで前記ブリッジ部と反対側に設けられていてもよい。
前記構成によれば、ひずみ伝達片が薄膜基板に接合された位置とブリッジ部の位置との間の検知領域に電極端子がないため、電極端子に対して電線等を接続加工する際の応力がひずみ変化に影響を与えることを防止することができる。
前記センサ箔は、前記ギャップを横断する部分で複数の前記ブリッジ部を有し、前記電極端子は、前記センサ箔の前記複数のブリッジ部を直列接続した端部に形成されていてもよい。
前記構成によれば、複数のブリッジ部に対応する電極端子が一対で足りることとなるとともに、その一対の電極端子間が非導通状態となることにより、複数のブリッジ部のうちいずれか1つが破断したことを検知することができる。
また、本発明に係るひずみ検知システムは、前述したひずみ検知装置と、前記ひずみ検知装置の前記電極端子に接続され、前記ブリッジ部の破断を検出する検出回路と、前記検出回路で破断が検出された場合に検出信号を送信する送信回路と、前記送信回路からの検出信号を受信する受信装置とを備えていることを特徴とする。
前記構成によれば、測定対象物におけるひずみが所定値を超えた際にひずみ検知装置のセンサ箔が破断し、電極端子間の断線が検出回路で検出される。そして、この検出に応じて送信回路が検出信号を受信装置に送信する。よって、作業者がセンサ箔を目視しなくても、センサ箔の破断の発生を受信装置により知ることができる。
また、ひずみ検知装置は、任意の材料を測定対象物とすることができ、接着剤や溶接等により測定対象物の表面に貼付される。従って、例えば、クレーン、橋梁、鉄道車両、航空機、自動車、建築鉄骨、鉄筋、回転機械等のような、構造物、輸送機器、建造物、機械の鋼材における応力発生部にひずみ検知装置を貼付して、測定対象部位に作用する荷重や変位が所定値を超えたときに発生する検出信号を電気信号に変換し、受信装置に伝送することにより、異常荷重状態の発生を受信装置でモニタリングすることができる。なお、ひずみ検知装置は、非鉄材、高分子材料、複合材、コンクリート、アスファルト、木材等のような、鋼材以外の応力発生部材に適用して、異常荷重を検出することもできる。
前記送信回路は、前記受信装置に無線で前記検出信号を送信してもよい。
前記構成によれば、送信回路は検出信号を検出回路から取り込んで、電波信号に変換して無線で発信する。受信装置は、その電波信号を受信してセンサ箔の破断を検出する。送信回路と受信装置は離れており、電波信号が強力であれば、遠隔地にある中央管理室などに配設された受信装置で受信し、測定対象物が過大荷重を受けたか否かを遠隔モニタすることもできる。また、送信回路と受信装置の間に結線を必要としないため、施工が容易であるばかりでなく、測定対象物が運動体である場合にも適用することができる。
前記検出回路及び前記送信回路に電力を供給する独立電源をさらに備えていてもよい。
前記構成によれば、検出回路及び送信回路はひずみ検知装置の電極端子に接続して使用するので、測定対象物に近接して設置される。そこで、送信回路と受信装置を結線しないで使用する利点を生かすために、検出回路及び送信回路に給電する電源は、乾電池や太陽電池など給電線に頼らない独立電源であると好適である。
前記検出回路及び前記送信回路はICタグの一部であり、該ICタグは、前記検出回路による破断の検出の有無に関する情報を記憶する記憶部を有し、前記受信装置は、前記ICタグの前記記憶部から情報を読み出し可能なICタグ読取装置であってもよい。
前記構成によれば、センサ箔の電極端子にICタグの端子が接続された状態で、ひずみ検知装置にICタグが付属されることとなり、作業者がICタグ読取装置をICタグにかざすだけで、センサ箔の破断情報がICタグからICタグ読取装置に伝送される。なお、ICタグは、ICタグ読取装置で読み取られるときに非接触給電される無電源タイプを用いると、独立電源が不要となり好適である。
前記ひずみ検知装置は、前記一対のひずみ伝達片と前記センサ箔のひずみ検知センサを前記薄膜基板上に複数有し、前記一対のひずみ伝達片のうち一方の前記薄膜基板への固定位置と、前記一対のひずみ伝達片のうち他方の前記薄膜基板への固定位置との間の距離が、前記複数のひずみ検知センサ毎に異なり、前記測定対象物のひずみ以外の状態を検知する状態センサと、前記複数のひずみ検知センサのうちひずみ検知に利用するものを前記状態センサの出力に基づいて選択する判定回路とをさらに備えていてもよい。
なお、状態センサが検知する測定対象物の状態量、即ち、ひずみ以外で応力条件に影響がある状態量としては、測定対象物の温度や、測定対象物の加速度、角速度、振動、変位などの運動に係るものなどがある。
前記構成によれば、例えば、温度によって測定対象物の強度が極端に変化する場合には、破断ひずみ値の異なる複数のひずみ検知センサを薄膜基板上に配置したひずみ検知装置と、温度センサとを併設することで、判定回路が温度センサの出力に応じた適切な破断ひずみ値を有するひずみ検知センサをひずみ検知用に選択するので、大きな温度変化による検知エラーを防止することができる。具体的には、測定対象物が、極低温では僅かなひずみで破損しても常温では多少のひずみに耐えられるものである場合、温度センサが常温を示すときには、感度の高いひずみ検知センサのセンサ箔が破断しても、常温用のひずみ検知センサのセンサ箔が破断しなければ過大荷重でないと判定すればよい。一方、温度センサが極低温を示すときには、僅かなひずみで破断するセンサ箔を有するひずみ検知センサにおける破断状態に基づいて過大荷重を判定すればよい。
前記検知回路により前記ブリッジ部の破断が検知された場合にアラームを発生する警報装置をさらに備えていてもよい。
この警報装置は、センサ箔のブリッジ部が破断したことの検出信号を受け取ったときに、電流の発生や遮断など電気信号を発生したり、色表示を行ったり、音声を出力したり、電波を発生すると好適である。例えば、クレーン等の機械装置が限界荷重に達する前に作動するように調整されたひずみ検知装置が用いられている場合には、作動中にセンサが作動したら機械装置を緊急停止させて安全を確保するようにすることができる。なお、センサの作動によって直接緊急停止する代わりに、緊急停止の必要を訴える警報を発生するようにしてもよい。
以下、本発明に係る実施形態を図面を参照して説明する。
(第1実施形態)
図1は本発明の第1実施形態に係るひずみ検知装置1の平面図である。図2は図1のII−II線断面図である。図1及び図2に示すように、ひずみ検知装置1は、測定対象物10に貼付される薄膜基板2と、薄膜基板2上に小さなギャップGを挟んで対置された一対のひずみ伝達片3A,3Bと、一対のひずみ伝達片3A,3B上に跨って貼付されたセンサ箔4とを備えている。ひずみ伝達片3A,3Bとセンサ箔4とは、互いに絶縁接着層5を介して接着固定されている。即ち、ひずみ伝達片3A,3B、絶縁接着層5及びセンサ箔4により3層薄膜構造が形成されており、この3層薄膜構造の1単位をひずみ検知センサ6と称することとする。
薄膜基板2は、接着剤で測定対象物10の表面に貼付され、測定対象物10のひずみを忠実にひずみ伝達片3A,3Bに伝達する。ひずみ伝達片3A,3Bは金属薄膜で形成されている。一対のひずみ伝達片3A,3Bは、ごく狭いギャップGを隔てて向かい合っており、そのギャップGから離れた他端部には薄膜基板2に接合されたスポット溶接部Sw1,Sw2がそれぞれ形成されている。このスポット溶接部Sw1,Sw2は、薄膜基板2の側からスポット溶接することで形成されている。
ひずみ伝達片3A,3Bは、スポット溶接部Sw1,Sw2以外では薄膜基板2に拘束されていない。これにより、ひずみ検知装置1を測定対象物10に貼付したとき、一方のひずみ伝達片3Aのスポット溶接部Sw1と、他方のひずみ伝達片3Bのスポット溶接部Sw2の間に生ずる測定対象物10のひずみが測定対象となる。即ち、ひずみ検知装置1の検知領域は、スポット溶接部Sw1,Sw2の間の長さLに対応する。したがって、検知領域はスポット溶接部Sw1,Sw2の位置を変えることにより調整することができる。
センサ箔4は、ひずみ伝達片3B上においてブリッジ部4a,4bから離れた端部に細い連結部4c,4dを介して形成された電極端子4e,4fを有している。連結部4c,4dは、電極端子4e,4fに電線を半田付けする場合に、熱がブリッジ部4a,4bに悪影響を与えないようにするために設けられたものである。また、電極端子4e,4fに電線を半田付けしたときに、電線を伝う応力が測定結果に悪影響を与えないようにするため、電極端子4e,4fは長さLの検知領域の外部(図1中ではスポット溶接部Sw2の右側)に設けることが好ましい。
図3は図1に示すひずみ検知装置1の下面図である。図3に示すように、薄膜基板2の裏側には、ひずみ伝達片3A,3Bの並び方向(引張り方向)と一致する検知軸に直交する浅い凹部である細線7が多数形成されることで接着用凹凸面が形成されている。接着用凹凸面は、ひずみ検知装置1の測定対象物10への接着性を向上させる。
図4は図1に示すひずみ検知装置1のブリッジ部4a,4bの拡大平面図である。図5は図4のV−V線断面図である。図4及び図5に示すように、センサ箔4は、ひずみ伝達片3A,3Bより薄い金属薄膜で、ひずみ伝達片3A,3BのギャップGに対応する位置にブリッジ部4a,4bが形成されている。ブリッジ部4a,4bには、ひずみ伝達片3A,3Bとブリッジ部4a,4bの断面積比に対応して応力が集中するので、測定対象物10に発生したひずみが拡大してブリッジ部4a,4bに集まる効果がある。さらに、ブリッジ部4a,4bの中にさらに狭い幅を持つ狭幅部dを形成して、測定対象物10の検知領域に発生したひずみ量を、狭幅部dに集中させることによりひずみを拡大している。
ひずみの拡大率は、センサ箔4の材料・形状、ひずみ伝達3A,3Bの材料・形状、さらに、検知領域の長さLに依存する。したがって、これらのパラメータを調整することにより、ひずみ拡大率を適宜選択し得て、測定対象物10のひずみの値に対応するひずみ検知装置1の破断ひずみを決めることができる。
また、各薄膜の厚さ・形状、ギャップG量などは、測定対象物の検知したいひずみに応じて適当に設計される。実際に、例えば、ひずみ伝達片3A,3B、絶縁接着層5、センサ箔4の厚みを、それぞれ10μm〜数100μmとしたものが多数の測定点に適用するものとして便利である。また、ギャップG量も測定の条件に応じて調整することができ、数10μm〜数mmの値が用いられる。さらに、ひずみ伝達片3A,3Bをインバー、センサ箔4をニッケルで構成してもよい。ニッケルの特性や製造方法については、疲労センサの製造や使用により蓄積された技術を活用することができる。
ひずみ検知装置1は、エッチングや電鋳法により形成することができる。例えば、ひずみ検知装置1は、ひずみ伝達片3A,3Bとなる厚さ100μmのステンレススチール(SUS304)薄膜の上に、絶縁接着層5となる厚さ35μmのポリイミド膜を接着し、その上にセンサ箔4となる厚さ50μmの銅箔を接着して、ひずみ検知センサ6となる3層構造を形成する。このような3層構造体はハードディスクドライブに使用されたものと同様であるため、市場からも供給を受けることができる。この3層構造体のステンレススチール薄膜とポリイミド膜をエッチングして、例えば140μmのギャップを有する幅6mm、1対分の全長が46mmのひずみ伝達片3A,3Bと後述する補強枠8(図6)との形を生成し、また反対側から銅箔をエッチングしてブリッジ部4a,4bや電極端子4e,4fなどを含めたセンサ箔4の形状を形成する。
図6は図1に示すひずみ検知装置1の補強枠8の除去前の平面図である。図6に示すように、補強枠8は、ひずみ伝達片3A,3Bと同じ厚さ、同じ材質で一体に形成され、バラバラになりかねないひずみ伝達片3A,3Bを互いに連結して正しい位置関係を保持させ、測定対象物10への貼付前にセンサ箔4のブリッジ部4a,4bを保護する機能を有する。また、補強枠8は、ひずみ伝達片3A,3Bを薄膜基板2にスポット溶接などで固定するときに固定代として利用することができる。さらに、補強枠8にはスポット溶接の目印のためのマーカMをつけておくこともできる。補強枠8は、ひずみ伝達片3A,3Bを囲繞して形成されるが、ひずみ伝達片3A,3Bとの間には細い連結部9で区切られた細長い孔Hを並べて折り取り線とし、ひずみ検知装置1を測定対象物10に貼付した後には、連結部9を折り切って補強枠8を取り外し、内側のひずみ検知装置1のみが測定対象物10に接着剤で貼り付けられる。
補強枠8とひずみ伝達片3A,3Bとは同じ材料から形成されることが好ましく、その場合には、エッチングや電鋳法により補強枠8とひずみ伝達片3A,3Bとを同時に形成することができる。センサ箔4は、電鋳法によりひずみ伝達片3A,3B上に直接形成してもよい。電鋳法の形状再現性は極めて高いので、電鋳法により形成されたひずみ検知装置1は正確な測定結果を得ることができる。なお、センサ箔4の形状は、型抜きにより形成することもできる。
さらに、3層構造のひずみ検知センサ6のひずみ伝達片3A,3B側の面を薄膜基板2に接合することにより、ひずみ検知装置1のハンドリングを容易にし、ひずみ検知装置1を測定対象物10に簡単に貼付できるようにし、かつ、測定の再現性を向上させることができる。薄膜基板2をひずみ伝達片3A,3Bと同じ金属で形成したときは、ひずみ伝達片3A,3Bと薄膜基板2をスポット溶接で強固に接着することができる。なお、薄膜基板2は樹脂で形成してもよい。
ひずみ伝達片3A,3Bは、それぞれ1カ所で、例えばひずみ方向に対して垂直に並んだいくつかのスポット溶接部Sw1,Sw2により薄膜基板2に固定され、検知領域の長さLが決められる。薄膜基板2は測定対象物10の表面に強固に貼着されているので、実質的にひずみ伝達片3A,3Bのスポット溶接部Sw1,Sw2を測定対象物10に固定することができる。
測定対象物10が伸びることで長さLの検知領域に生じる伸びδは、ひずみ検知装置1のひずみ伝達片3A,3Bとセンサ箔4に分配される。分配率は材料のヤング率Eなどに影響されるが、部品の断面積Aに関係する応力集中度に大きく影響され、長さLの検知領域に生じた伸びδの殆どがギャップGの位置にあるブリッジ部4a,4bのセンサ箔4に分配される。
センサ箔4のヤング率をE1、ブリッジ部4a,4bの平均的な断面積をA1、ひずみ伝達片3A,3Bのヤング率をE2、断面積をA2とし、センサ箔4のギャップGにおける伸びをδ1、2つのひずみ伝達片3A,3Bの検知領域内における伸びをδ2とし、荷重の釣り合い条件から、測定対象物10のひずみとセンサ箔4のひずみε1の関係を求めると、
ε1/ε=(δ1/G)/((δ1+δ2)/L)
=A2×E2×L/(A1×E1×L+A2×E2×G)
となる。
例えば、ひずみ伝達片3A,3Bをヤング率168GPaのステンレススチール箔、センサ箔4をヤング率110GPaの銅箔で形成するものとして、検知領域の長さLが40mm、ギャップGの幅が0.14mm、ひずみ伝達片3A,3Bの断面積が0.6mm2、センサ箔4の2つのブリッジ部4a,4bを合わせた断面積の平均値が0.009mm2のとき、測定対象物10におけるひずみεに対するブリッジ部4a,4bにおけるひずみε1の比ε1/ε、即ち、ひずみ拡大率は約81倍になる。なお、センサ箔4に狭幅部dを形成したときは、ブリッジ部4a、4bの実質的な長さがさらに短くなり測定対象物10のひずみεに対するブリッジ部4a,4bにおけるひずみε1が大きくなり、センサとしての感度が向上する。
センサ箔4のブリッジ部4a,4bにおけるひずみε1がセンサ箔4の破断ひずみεfを超えればセンサ箔4が破断する。センサ箔4が破断したときは、センサ箔4の破断ひずみεfに対応する測定対象物10のひずみεを超えたということができる。破断ひずみεfは、センサ箔4の材質、ブリッジ部4a,4bの形状、サイズ、応力拡大係数K、亀裂の発生条件などにより変化するので、破断ひずみεfを調整することによっても、測定条件に適合するようにすることができる。
ひずみ伝達片3A,3BのギャップGは小さいため、センサ箔4のブリッジ部4a,4bが単に切断されただけでは、ブリッジ部4a,4bの破断状態を目視で判断することが難しいことが考えられる。また、破断したブリッジ部4a,4bの端部同士が近接した位置にあると、互いに接触して通電テスターで検出エラーが生じることも考えられる。
そこで、本発明のひずみ検知装置1では、一方のひずみ伝達片3Aに外側(薄膜基板2から離反する方向)に反れようとする潜在的な応力が与えられている。これにより、ブリッジ部4a,4bが破断すれば、ひずみ伝達片3AのギャップG側の端部が薄膜基板2から浮き上がるので、破断状態を簡単かつ確実に検出することができる。このような潜在的な応力は、例えば、ブリッジ部4a,4bとスポット溶接部Sw1との間において上側(センサ箔4側)からひずみ伝達片3Aにスポット溶接機(局所加熱装置)を当てて、薄膜基板2との間で溶接に至らない程度に入熱した入熱部Shを形成することで付与することができる。つまり、ひずみ伝達片3Aの上側から入熱すると、入熱部Shに縮もうとするような熱ひずみが生じて、ひずみ伝達片3Aは上側に反り返ろうとするが、ひずみ伝達片3Aはセンサ箔4により他方のひずみ伝達片3Bと結合されているために、変形が妨げられて平面状態に保持されることにより、ひずみ伝達片3Aに応力が内在することとなる。
センサ箔4のブリッジ部4a,4bが破断すれば、この応力が顕在化してひずみ伝達片3A,3Bが入熱部Shの近傍で折れて、ひずみ伝達片3AのギャップG側の端部が薄膜基板2から浮き上がるように変形する。また、スポット溶接部Sw1,Sw2を形成するときにも、同様に入熱した面の方向に曲がろうとする応力が発生するので、溶接用の入熱も併せて適度な程度の反り返り量を得ることができる。なお、入熱部Shにおける入熱量は、ひずみ伝達片3Aと薄膜基板2の間を溶接結合させる程に大きくてはいけない。ひずみ伝達片3Aと薄膜基板2が中間で接合するとセンサ機能が損なわれるからである。また、ひずみ伝達片3Aの反り返り量は、破断したブリッジ部4a,4bの導通回復が起こらず、かつ、人が簡単に破断を視認できれば十分で、大きすぎる必要はない。
図7Aは図1に示すひずみ検知装置1の応力の付与に関する説明図である。図7Aに示すように、ひずみ伝達片3A,3Bと薄膜基板2とを結合するスポット溶接部Swは、薄膜基板2の裏側(下側)からスポット溶接機を当てて形成する。一方、反り返り用の入熱部Shは、ひずみ伝達片3Aの上側からスポット溶接機を当てて形成する。そうすると、ひずみ伝達片3Aは入熱部Shの位置よりギャップG側のみが適当な量だけ反り返るようになる。
図7Bは変形例の応力の付与に関する説明図である。図7Bに示すように、反り返り用の入熱部Shが形成されるひずみ伝達片3Aを薄膜基板2に溶接接合する際に、上側(センサ箔4側)からひずみ伝達片3Aに入熱すれば、応力がより大きく付与されて反り返り量を増加させることができる。
図7Cはさらに別の変形例の応力の付与に関する説明図である。図7Cに示すように、一方のひずみ伝達片3Aについては上側(センサ箔4側)から入熱を行い、他方のひずみ伝達片3Bについては裏側(薄膜基板2側)から入熱を行っても、ブリッジ部4a,4bの破断後における破断端同士の再接触を防止することができる。ただし、図7Cの場合は、ひずみ伝達片3Aの反り返りが図7A及び図7Bに比べて顕著ではない。
図8は図1に示すひずみ検知装置1の過大ひずみ検知メカニズムを説明する斜視図である。図8に示すように、ひずみ検知装置1は、測定対象物10に貼付してから破断するまでは、一対のひずみ伝達片3A,3Bはブリッジ部4a,4bに結合された状態で同一平面上にあり、ブリッジ部4a,4bの状態は、センサ箔4の端部に設けられた電極端子4e,4fに通電テスターTのプローブを接触させることで電気的に確実に確認することができるとともに、目視でも簡単に確認することができる。
モニリング期間中に測定対象物10に過大なひずみが生じてセンサ箔4がブリッジ部4a,4Bの位置で破断すると、一方のひずみ伝達片3Aがセンサ箔4と一緒に反り返って浮き上がり、破断状態を明確に示すこととなる。そこで、電極端子4e,4fにプローブを接続した通電テスターTにより、簡単に破断状態(非導通状態)を検出することができるとともに、目視でも簡単かつ正確に破断状態を知ることができる。なお、電極端子4e,4fに電線を半田付けし、その電線を介して電極端子4e,4fを遠隔地の計器類に接続し、遠隔地で集中的に多数のひずみ検知装置1の破断状況を把握するようにしてもよい。
また、本実施形態のひずみ検知装置1では、ギャップGにおいて2つのブリッジ部4a,4bが設けられている。ひずみ検知装置1は検知軸方向に縦長の構造であるため、ブリッジ部が1つであると製造中や施工中に破断するおそれがあるが、ブリッジ部4a,4bを2つ設けることにより曲げに対する強度が向上し、破損事故を防止している。
また、ブリッジ部4a,4bが2つ設けられ、一対の電極端子4e,4fがひずみ検知装置1の一端側に設けられているので、通電テスターTで検査するときに、ひずみ検知装置1の一端側にプローブを当てればよく、検査の作業性が向上する。また、電極端子4e,4fに電線を接続する場合にも、配線が容易となる。さらに、ブリッジ部4a,4bは電気的に直列に接続されているので、製造時の寸法のばらつきにより破断強度がばらついたときにも、強度の弱い方が確実に破断して非導通状態となるので、信頼性が向上する。
また、ひずみ検知装置1は、数mmから数100mmの長さLの検知領域に発生する変位量をブリッジ部4a,4bに集中させてセンサ箔4を破断させ、目視あるいは通電テスターTなどの携帯型簡易計器により検出するので、多数の測定点を設定して測定対象物10を全体的に診断することができる。さらに、ひずみ検知装置1は、長さ200mm以下の小型に形成することができ、測定対象物10の表面に貼付するだけでモニタと接続する配線などが不要であるので、測定点が増えても測定コストが膨大化するようなことはない。
本発明のひずみ検知装置1は、供用期間を通して製品の構造に発生する応力を監視する長期モニタリングに使用することができる。長期の運用期間中にまれに発生する過大ひずみを検知することができる。計測のための機器が不要のため、長期にわたるモニタリングが可能である。また、回転体、動体、水中の物体など、計測装置が使えない環境におけるひずみ計測に利用することができる。さらに、ひずみ検知装置の簡便性と経済性により、計測領域が広範囲にわたる場合や、計測点数が多数になる場合に適用すれば、発生ひずみの概略分布や過大ひずみ発生部位の抽出が可能になる。
(第2実施形態)
図9は本発明の第2実施形態に係るひずみ検知装置201の斜視図である。なお、第1実施形態と共通する部分については同一符号を付して以下の説明を省略している。図9に示すように、第2実施形態のひずみ検知装置201では、薄膜基板202は、一方のひずみ伝達片3Aに対応する位置で上方に突出する突起部202aを有している。突起部202aは、ブリッジ部4a,4bとスポット溶接部Sw1との間において薄膜基板202を山状に折ることで形成されており、ひずみ伝達片3A,3Bの並び方向(引張り方向)と一致する検知軸に直交する方向に延在している。これにより、ひずみ伝達片3Aには上側に反り返ろうとする力が付与されるが、ひずみ伝達片3Aはセンサ箔4により他方のひずみ伝達片3Bと結合されているために、変形が妨げられて平面状態に保持され、ひずみ伝達片3Aに潜在的な応力が内在することとなる。
図10は図9に示すひずみ検知装置201のセンサ箔4破断時における斜視図である。図10に示すように、ブリッジ部4a,4bが破断すれば、ひずみ伝達片3Aはセンサ箔4によって拘束されなくなるので、ひずみ伝達片3Aに内在する応力が顕在化し、ひずみ伝達片3Aのブリッジ部4a,4b側の端部が薄膜基板2から浮き上がるように変形する。したがって、センサ箔4の破断状態を簡単かつ確実に検出することができる。
(第3実施形態)
図11は本発明の第3実施形態に係るひずみ検知装置301の斜視図である。なお、第1実施形態と共通する部分については同一符号を付して以下の説明を省略している。図11に示すように、第3実施形態のひずみ検知装置301では、一方のひずみ伝達片3Aと薄膜基板2との間に薄板などのスペーサ310が挟まれている。スペーサ310は、ブリッジ部4a,4bとスポット溶接部Sw1との間に配置され、ひずみ伝達片3A,3Bの並び方向(引張り方向)と一致する検知軸に直交する方向に延在している。これにより、ひずみ伝達片3Aには上側に反り返ろうとする力が付与されるが、ひずみ伝達片3Aはセンサ箔4により他方のひずみ伝達片3Bと結合されているために、変形が妨げられて平面状態に保持され、ひずみ伝達片3Aに潜在的な応力が内在することとなる。
図12は図11に示すひずみ検知装置301のセンサ箔4破断時における斜視図である。図12に示すように、ブリッジ部4a,4bが破断すれば、ひずみ伝達片3Aはセンサ箔4によって拘束されなくなるので、ひずみ伝達片3Aに内在する応力が顕在化し、ひずみ伝達片3Aのブリッジ部4a,4b側の端部が薄膜基板2から浮き上がるように変形する。したがって、センサ箔4の破断状態を簡単かつ確実に検出することができる。なお、前述した突起部202a及びスペーサ310は弾性体であってもよい。弾性体であればセンサ箔4の破断状態を更に確実に検出することができる。
(第4実施形態)
図13は本発明の第4実施形態に係るひずみ検知装置1の斜視図である。なお、第1実施形態と共通する部分については同一符号を付して以下の説明を省略している。図13に示すように、第4実施形態のひずみ検知装置1は、第1実施形態のものと同様であるが、測定対象物への設置態様が相違する。具体的には、ひずみ検知装置1は測定対象物の曲面部分に貼付され、ひずみ伝達片3A側の薄膜基板2の少なくとも一部2aが上方(ひずみ伝達片3A側)に向けて凸となるように湾曲した状態で使用される。これにより、ひずみ伝達片3Aには上側に反り返ろうとする力が付与されるが、ひずみ伝達片3Aはセンサ箔4により他方のひずみ伝達片3Bと結合されているために、変形が妨げられて薄膜基板2に沿った湾曲形状に保持され、ひずみ伝達片3Aに潜在的な応力が内在することとなる。
図14は図13に示すひずみ検知装置1のセンサ箔4破断時における斜視図である。図14に示すように、ブリッジ部4a,4bが破断すれば、ひずみ伝達片3Aはセンサ箔4によって拘束されなくなるので、ひずみ伝達片3Aに内在する応力が顕在化し、ひずみ伝達片3Aのブリッジ部4a,4b側の端部が薄膜基板2から浮き上がるように変形する。したがって、センサ箔4の破断状態を簡単かつ確実に検出することができる。
(第5実施形態)
図15は本発明の第5実施形態に係るひずみ検知装置の平面図である。図15に示すように、本実施形態は、第1実施形態において使用されたものと同じ構成を有する3組のひずみ検知センサ6を1枚の薄膜基板2上に併置して形成したひずみ検知装置11である。ひずみ検知装置11の検知特性は、材料の破断特性に基づくため、材料的なバラツキ、製造時のバラツキなどを原因とする検知精度のバラツキがある。検知精度のバラツキは、複数のセンサを用いたときには、各センサの精度バラツキの2乗平均の平方根になるから、複数のひずみ検知センサ6を併設することにより、検知精度を向上させることができる。
ひずみ伝達片3A,3Bは、それぞれスポット溶接により所定の位置Sw1,Sw2で薄膜基板2に固定される。また、一方のひずみ伝達片3Bには、ブリッジ部と固定位置Sw2の中間位置Shにおいて、スポット溶接機により溶着しない程度に入熱がなされている。これにより、ブリッジ部が破断したときには、その中間位置Shの近傍で折れて、破断端が上側に跳ね上がろうとするような応力がひずみ伝達片3Bに与えられる。
このひずみ検知装置11を測定対象物の表面に接着しておき、適当な時間経過した後に破断状態を観察する。観察の結果、複数のひずみ検知センサ6のセンサ箔4がいずれも破断したときは、測定対象物がセンサの検知応力σより大きな応力を発生したと判断することができる一方、複数のひずみ検知センサ6がいずれも破断しなければセンサの検知応力σより大きな応力は発生していないと判断することができる。また、複数のひずみ検知センサ6のうち幾つかのセンサ箔4が破断し、残りが破断しなかったときには、検知応力σのバラツキを積極的に利用して、測定対象物の履歴応力がセンサの検知応力σのバラツキ範囲内、すなわち上限値σ−と下限値σ+の間にあると推定することができる。
さらに、3組のひずみ検知センサ6は、同じ形状に形成され互いに平行に配置されているが、図中左側のひずみ伝達片3Aをスポット溶接機で薄膜基板2に固定する位置Sw1が、3組のひずみ検知センサ6ごとに異なるように構成してもよい。そうすると、各ひずみ検知センサは検知応力がそれぞれ異なり、例えば、図中上から順に異なる検知応力σ1,σ2,σ3を有するように構成することができる。
このように、複数のひずみ検知センサごとに検知応力σが異なるように形成したひずみ検知装置を測定対象物の表面に貼付して、適当時間経過後に観察する。このとき、破断したひずみ検知センサを特定することにより、測定対象物の履歴応力の概略値を推定することができる。例えば、全てのひずみ検知センサが破断しなかったときには、測定対象物は、最も小さい検知応力σ1より小さな履歴応力しか受けなかったことが分かる。また、図中上側のひずみ検知センサが破断したときは、測定対象物は上側のひずみ検知センサの検知応力σ1より大きく、中央のひずみ検知センサの検知応力σ2より小さな履歴応力を受けたと考えることができる。さらに、全てのひずみ検知センサが破損したときは、下側のセンサの検知応力σ3より大きな履歴応力を受けたことが分かる。なお、図15には示していないが、センサ箔4と一対のひずみ伝達片3A,3Bとの組み合わせからなるひずみ検知センサを複数形成したひずみ検知装置においても、ひずみ伝達片とつながる補強枠を設けることにより、測定対象物への貼付前の取り扱いを容易にすることができることはいうまでもない。
(第6実施形態)
図16は本発明の第6実施形態に係るひずみ検知装置の平面図である。図16に示すように、本実施形態のひずみ検知装置21は、2組のひずみ検知センサ6を1つの薄膜基板2上に併置して形成したものである。
ひずみ伝達片3A,3Bは、それぞれ1カ所Sw1,Sw2でスポット溶接機により薄膜基板2に溶着固定される。一対のひずみ伝達片3A,3Bの固定位置の間の距離は、2組のひずみ検知センサ6で互いに異なってもよい。固定位置間の距離が異なる場合は、ひずみ検知センサごとの検知応力σは異なる。また、一方のひずみ伝達片3Aには、ブリッジ部と固定位置Sw1との中間位置Shにおいて、スポット溶接機により溶着しない程度に入熱がなされており、センサ箔4が破断したときには破断端が上側に反り返ろうとする応力が与えられている。
このひずみ検知装置21は測定対象物の表面に接着され、適当な時間経過した後に作業者により破断状態が観察される。観察は電極端子を介した電気的な抵抗検出によって行ってもよいし、ひずみ伝達片3Aの反り返り状態を目視で確認してもよい。観察の結果、2組のひずみ検知センサ6がいずれも破断したときは、測定対象物が2組のひずみ検知センサの検知応力σ1,σ2より大きな応力を、2組のひずみ検知センサがいずれも破断しなければ2組のひずみ検知センサの検知応力σ1,σ2より小さな応力を、また、1組のひずみ検知センサが破断して他の1組が破断しなかったときには2組のひずみ検知センサの検知応力σ1とσ2の間の応力を履歴したと推定することができる。
図17は図16に示すひずみ検知装置を用いた検知応力範囲の特定方法の説明図である。図17に示すように、第1のひずみ検知センサS1の測定範囲は、検知応力設計値σ1を挟んで下限σ1− と上限σ1+ の間、第2のひずみ検知センサS2の測定範囲は、第1のひずみ検知センサのものより大きな検知応力設計値σ2 を挟んで下限σ2− と上限σ2+ の間とし、第1のひずみ検知センサS1の検知応力上限値σ1+ より第2のひずみ検知センサS2の検知応力下限値σ2− が小さいものとする。
そうすると、2組のひずみ検知センサS1,S2がいずれも導通している場合、第1のひずみ検知センサの上限値σ1+ より大きな応力は作用しなかったと判断できる。また、第1のひずみ検知センサS1が断線し、第2のひずみ検知センサS2が導通しているとき、第1のひずみ検知センサの下限値σ1− と第2のひずみ検知センサの上限値σ2+の間の応力が作用した可能性があると判断する。さらに、2組のひずみ検知センサS1,S2がいずれも断線している場合、少なくとも第2のひずみ検知センサの下限値σ2− より大きな応力が作用したと判断できる。
なお、第1のひずみ検知センサS1の検知応力上限値σ1+ より第2のひずみ検知センサS2の検知応力下限値σ2− が小さい場合は、第1のひずみ検知センサS1が導通し、第2のひずみ検知センサS2が断線するケースがあり得て、このときには、第1のひずみ検知センサの上限値σ1+ と第2のひずみ検知センサの下限値σ2−の間の応力が作用したと判断する。なお、第2及び第6実施形態において、2組または3組のひずみ検知センサを1枚の薄膜基板2上に設けたが、さらに多数のひずみ検知センサを設けてもよい。
(第7実施形態)
図18は本発明の第7実施形態に係るひずみ検知装置の説明図である。図18に示すように、本実施形態の測定対象物に貼付されたひずみ検知装置1は保護カバー30で覆われている。保護カバー30は、樹脂材料、メッキ鋼板、塗装鋼板などからなり、ひずみ検知装置1を被覆可能な大きさの蓋形状に形成されている。保護カバー30は、その裾部分が測定対象物の表面に樹脂などで接着固定されることで内部を気密にしてひずみ検知装置1を保護している。なお、センサ箔4の破断を電気的に検出するために電極端子に接続された電線34は、保護カバー30から気密的に導出されている。
(第8実施形態)
図19は本発明の第8実施形態に係るひずみ検知装置の説明図である。図19に示すように、本実施形態のひずみ検知装置1は、その上から樹脂被膜32がコーティングされて外気を遮断し、長期の使用を可能にしている。また、適当な大きさの覆いを設けた上から樹脂をコーティングし、ひずみ伝達片の反り返りを許容する空洞を十分に設けることが好ましい。なお、センサ箔4の破断を電気的に検出するために電極端子に接続された電線34は、樹脂被膜32から気密的に導出されている。
(第9実施形態)
図20は本発明の第9実施形態に係るひずみ検知装置の平面図である。図20に示すように、測定対象物の構造が複雑で応力方向が予め決められない場合や、どの方向に最大ひずみ方向があるか予測できない地震に備えた測定システムなどには、複数のひずみ検知センサ6を検知軸の方向を互いに少しずつずらして放射状に配置した多軸ひずみ検知装置41を使うと、未知の最大ひずみ方向の見落しがないので便利である。
(第10実施形態)
図21は本発明の第10実施形態に係るひずみ検知システム50のブロック図である。図21に示すように、本実施形態のひずみ検知システム50は、ひずみ検知装置1、データ検知伝送装置51、独立電源52及び受信装置53から構成されている。なお、ひずみ検知装置1は、第1実施形態で説明したものが用いられている。
ひずみ検知装置1の電極端子4e,4fに電線34を介してデータ検知伝送装置51が接続されている。データ検知伝送装置51は、電極端子4e,4fに接続されてブリッジ部4a,4bの破断(非導通)を検出する検出回路と、その検出回路で破断が検出された場合に検出信号を受信装置53に無線送信する送信回路とを有している。データ検知伝送装置51は、ひずみ検知装置1に近接設置されており、検知回路が電極端子4e,4f間の電流若しくは抵抗を検査することによりセンサ箔4の破断の有無を検知し、送信回路がその検知結果を無線により非接触で受信装置53に送信する。
独立電源52は、データ検知伝送装置51に近接配置され、又は、データ検知伝送装置51に組み込んだ形で設置され、データ検知伝送装置51に電力を供給する。独立電源52は、ひずみ検知装置1に対して面倒な配線を施す必要を排除し、電気技術者による現地配線工事を省略するために、乾電池や太陽電池などを利用した独立装置である。
本実施形態では、データ検知伝送装置51が、測定対象物に作用する荷重が所定値を超えたときに電極端子4e,4f間が非導通になることを電気的に検出して検出信号を発信し、受信装置53がその検出信号を無線で受信し異常を検知する。受信装置53では、異常発生時に、作業員に向けて警報を発生したり異常箇所を表示して知らせたり、緊急避難命令の発令や機器の緊急停止など危険を回避するための措置をとったりすることができる。本実施形態では、ひずみ検知装置1と受信装置53との間が離れていてもよいことから、作業員がひずみ検知装置1に直接アクセスする必要がなく、また多数の検知結果を集約して測定対象物の全体を診断する用途にも利用することができる。
(第11実施形態)
図22は本発明の第11実施形態に係るひずみ検知システムのブロック図である。図22に示すように、本実施形態のひずみ検知システム60は、図21の態様におけるデータ検知伝送装置51に対応するものとして、信号入力装置PIOを有するモデム62を付属したパソコン61を利用するもので、図示しない受信装置で受信した検出信号は中央監視室63に伝達されるようになっている。中央監視室63で受信した検出信号を信号処理して、異常と判定された時には警報や緊急停止措置などをとることができる。
遠隔の測定対象物に対して細密にモニタリングを行うときや、極めて多数のひずみ検知装置を監視するときに利用される。この態様は、機能が高く安価な市販のパソコンを利用することができるので、高機能で安価なシステムを容易に構築することができる。このようなモニタリングシステムを利用することにより、測定対象物の過大ひずみの有無に関する多数の情報が中央監視室63に自動的に集められるので、中央監視室63内の僅かな作業員で全体の状況を把握することができる。
(第12実施形態)
図23は本発明の第12実施形態に係るひずみ検知システム70のブロック図である。図23に示すように、本実施形態のひずみ検知システム70は、ひずみ検知装置1にICタグ71を接続したものである。ICタグ71には、検出回路と送信回路が設けられている。ICタグ71は、その端子をひずみ検知装置1の電極端子4e,4fに接続した状態で、測定対象物に取り付けられている。そして、必要に応じてICタグ71にICタグ読取装置72がかざされることで、ICタグ読取装置72によりICタグ71から過大ひずみの存否情報が読み出される。あるいは、複数のひずみ検知装置1ごとにICタグ読取装置72を設け、常時、ICタグ読取装置72から検出結果を所定の管理場所に伝送して集約管理することもできる。
ICタグ71は、ICタグ読取装置72が近づけられたときに非接触でICタグ読取装置72からエネルギー供給を受けて稼働し、センサ箔の破断状態を検出し、検出情報をICタグ読取装置72に無線送信するので、内部に電源装置を必要としない。ICタグ71は十分に小型軽量であるので、ひずみ検知装置1と一体にして回転機械の回転部材等に貼付して、運転中の荷重状態を検知することも可能となる。
なお、作業員はひずみ検知装置1及びICタグ71が設置された場所を巡回しながら所持するICタグ読取装置72をICタグ71にかざすことにより、ICタグ読取装置72がICタグ71からセンサ箔の破断の有無に係る情報を非接触で読み取り表示したり、ICタグ読取装置72内に情報を蓄積するので、広い範囲に散在する多数の場所を巡回検査する場合にも極めて省力的にデータを収集することができる。
(第13実施形態)
図24は本発明の第13実施形態に係るひずみ検知システムのブロック図である。図24に示すように、ひずみ検知装置1に接続したデータ検知伝送装置51は、検知結果を判定装置81に伝送する。判定装置81は、予め決められた判定基準に基づいて検知結果を判定し、判定結果に基づいて表示装置82を駆動する。表示装置82は、表示灯や液晶表示装置あるいはスピーカなど視覚や聴覚に訴える機器を備え、問題となる状況変化があったときに、表示灯の点灯や消灯、表示図形や表示色の変化、注意喚起する音声の発生などにより作業員に知らせる。
判定装置81や表示装置82が、測定対象物から離れた位置に置かれて、検知結果をデータ検知伝送装置51から無線で伝達されるようにしてもよいし、また、データ検知伝送装置51と一緒に測定対象物に取り付けられて、測定対象物の場所で警報信号などを表示するようにしてもよい。なお、データ検知伝送装置51などは、現地に配設した独立電源52により駆動される。
(第14実施形態)
図25は本発明の第14実施形態に係るひずみ検知システム90のブロック図である。図25に示すように、本実施形態のひずみ検知システム90は、温度センサなどの状態センサ91を用いることにより、適当なひずみ検知センサS1,S2を選択して状態を判定するようにしている。図25には、ひずみ検知センサを2つ配しているが、2つ以上であってもよい。ひずみ検知装置21は、第6実施形態のように異なる検知レベルを有するひずみ検知センサS1,S2を備えている。データ検知伝送装置51は、それらひずみ検知センサS1,S2と結線されている。さらに、データ検知伝送装置51は、状態センサ91と接続されており、測定対象物に影響を与える状態変数の測定値が状態センサ91から入力され、判定装置92に送信する。判定装置92は、状態センサ91の測定値に基づいて適切なひずみ検知センサを選択し、測定対象物に過大ひずみ状態が生じたか否かを判定し、表示装置82を駆動する。
状態センサ91としては、温度センサ、加速度センサ、角速度センサ、振動センサ、変位センサなど、応力状態に影響を与える状態変数を測定するものが選択される。たとえば、温度が変化すると、測定対象物の剛性が変化して応力ひずみ係数が変化し、破壊荷重値も変化する場合がある。そこで、センサ箔の破断ひずみを異ならせた複数のひずみ検知センサS1,S2を配して、状態センサ91からの情報に基づいて適切なひずみ検知センサを選択するとよい。
図26は図25に示すひずみ検知システム90の機能を説明する説明図である。図26に示すように、第1のひずみ検知センサS1は、測定対象物に所定の荷重W1が加えられるとセンサ箔が破断するように調整されている。また、第2のひずみ検知センサS2は、W1より大きな荷重W2が加えられると破断するように調整されている。以下同様に、順次適当な荷重W3,W4,W5,W6を検出するように調整されたひずみ検知センサS3,S4,S5,S6が設けられている。
高い温度範囲T5〜T6のときには小さな荷重でも構造物に異常を来す危険があるので、小さな荷重W1で破断するひずみ検知センサS1の破断状態を監視する。これに対して、低温域T1〜T2の領域では、大きな荷重に耐えうるので大きな荷重W5がかからないと破断しないひずみ検知センサS5の破断状態によって構造物の健全性を判定する。
たとえば、温度センサの測定値Tmが温度範囲T3〜T4の中にあった場合は、判定装置92はひずみ検知センサS3を選択し、そのセンサ箔破断の有無から警報の要否を判定する。この場合は、より高温領域用に用意された低温用ひずみ検知センサS1,S2が破断していても無視することになる。
また、状態センサ91として振動センサを用いた場合、振動が大きいときには感度の高いひずみ検知センサを選択してセンサ箔破断の有無を見て、振動が小さいときには感度の低いひずみ検知センサを選択してセンサ箔破断の有無を見るといったように、機器の作動状況を判断して突発的な過大荷重に対する検知レベルを変えることができる。さらに、状態センサ91として加速度センサ、角速度センサ、変位センサなどを用いた場合も、前記同様に、その測定値に対応するひずみ検知センサを判定装置で選択することに利用できる。
次に、図27〜図37は、本発明のひずみ検知装置の使用例を説明する図面で、各種測定対象物についてひずみ検知装置を貼付する位置と貼付方法を工夫することによって、本発明の利点を十分に発揮させることができる。
(第1使用例)
図27は本発明のひずみ検知装置の第1使用例を示す概略図である。図27に示すように、本使用例では橋梁100における落橋警報にひずみ検知装置が利用されている。地震時に生じる伸縮装置や落橋防止装置の異常荷重や異常変位を検出して、警報を行うことができる。複数の橋桁101を有する長い橋梁100は、橋の両端に築造された橋台102の間に適当間隔で橋脚103を設けて、橋台102と橋脚103の間また橋脚103同士の間に橋桁101を掛けて繋げることにより形成される。
橋桁101は主として温度により伸縮するので、橋台102や橋脚103に完全に固定することができない。また、橋桁101の両端には、温度変化により橋桁101が伸縮して橋桁101同士の間にギャップが生じるのを防止するため伸縮装置104が介装されている。伸縮装置104は、たとえば、橋桁101の端部に櫛の歯状の突起を形成し、両側の櫛の歯が相互に突き合わされて入り組むように配置することにより構成することができる。さらに、地震があっても橋桁101が落ちないように、両端の橋桁101は橋台102と、また橋桁101同士も、ビームやケーブルで結合する落橋防止装置105,106が設備されている。
異常な力がかかって危険が予想される場合には事前に通行を遮断することが好ましい。そこで、安全に渡橋できる限界状態に対応するひずみ近辺でセンサ箔が破断するように調整したひずみ検知装置1を落橋防止装置105,106のビームやケーブルの支持具などに貼着して、異常な力を受けたときに警報を発するようにすると、重大事故になる前に適切な措置を執って安全を確保することができる。警報は橋梁100の設置場所で表示することもできるし、管理室に通知して適切な対処をさせるようにしてもよい。
(第2使用例)
図28は本発明のひずみ検知装置の第2使用例を示す概略図である。図28に示すように、橋梁111を載置した橋脚112は鉄筋コンクリート製で、地下十分の深さまで基礎杭114を打ち込んで固定している。しかし、頑丈に作った橋脚112も大地震に遭えば、破損する。このため、どういう構造であればどの程度の地震に耐えるかを正確に知って設計施工することが求められている。高価な測定機器を使って発生する応力を常時監視することは経済的に困難であり、まれに発生する地震について、実地データを組織的に収集することが難しい。そこで、測定したい部分に安価なひずみ検知装置1を取り付けておいて、地震が発生した後にデータを収集することが結局合理的である。
本使用例では、異なる破断ひずみ設定をした適当数のひずみ検知装置1を予め取り付けておいて、地震発生後に破断したひずみ検知装置1と破断しなかったひずみ検知装置1を区分することにより、実際に発生した応力を推定することができる。また、第12実施形態のようなICタグ71を備えたひずみ検知システム70を使用する場合は、内部に埋め込んだひずみ検知装置1及びICタグ71センサを表面から探って感知結果を知ることができる。
柱や鉄筋の損傷状態は外部から観察することができない場合があるが、たとえばコンクリート内部の鉄筋113に、設定された破断ひずみの異なる多数のひずみ検知装置1を貼付して、コンクリートで覆って橋脚112を形成するとよい。地震が発生した後に、破断したひずみ検知装置1と破断しなかったひずみ検知装置1とを調べて、鉄筋113に加わった最大の応力を正確に推定することができる。この結果に基づいて、地震後の供用の可否や補修の必要性を判断することができる。また、破損部分と健全部分における最大応力を解析することにより、貴重な設計資料を得ることができる。
なお、基礎杭114は地下に埋設されるため、簡単には各基礎杭114が受けた応力を知ることができないが、本使用例によれば、埋設されたひずみ検知装置からも検知データを取得することができるので、基礎杭114が受けた応力を推定することができ、地震解析には極めて有効である。
(第3使用例)
図29は本発明のひずみ検知装置の第3使用例を示す概略図である。図29に示すように、本使用例では、配管中に配設される伸縮継手における応力印加状態を推定するためにひずみ検知装置が利用されている。蛇腹管を有する伸縮継手120は、配管の中間に設けられ、温度や流体圧力の変化に基づく配管の伸縮代を吸収する。伸縮継手120における異常を検知する方法として、本発明のひずみ検知装置を利用することができる。
蛇腹管の屈曲部121の表面にひずみ検知装置1を貼付したり、蛇腹部分をフランジで挟んでフランジ間を締めたボルト122にひずみ検知装置1を貼付しておけば、応力の異常を簡単に検知して警報を出すことができる。
(第4使用例)
図30は本発明のひずみ検知装置の第4使用例を示す概略図である。図30に示すように、本使用例では、回転機器における回転軸のねじり負荷をひずみ検知装置でモニタリングしている。駆動部と負荷部を繋ぐ回転軸130は、ねじり負荷を受けてせん断力を発生し、回転軸130の表面に発生する最大ひずみ方向が軸に対してほぼ45°傾いた方向になる。したがって、ひずみ検知装置1は検知軸を回転軸線方向に対して45°傾けて貼付し、最大ひずみを正確に検知しなければならない。
図31は図30に示す回転軸130等に適用するためにせん断応力を検知するようにした変形例のひずみ検知装置140の平面図である。測定対象物にせん断力が作用するときは、測定対象物の表面における最大ひずみの方向は力の方向に対して所定の傾きを生じる。そこで、ひずみ検知装置140のひずみ検知センサ6の検知軸方向を初めから最大ひずみ方向に合わせておけば、測定対象物に対してひずみ検知装置140を貼付するときに角度調整をする必要がなく便利である。
図31は回転軸などに適用することを前提として形成されたひずみ検知装置140で、回転軸の軸方向に対して45°の傾きをもってひずみ検知センサ6が形成されている。すなわち、四角形の薄膜基板2の中心位置に、辺に対して45°傾いた方向に検知軸を持つようにひずみ伝達片3A,3B(図1参照)が配置されている。このようにして形成されたひずみ検知装置140は、薄膜基板2の辺が回転軸の軸方向に一致するように貼付すれば、ひずみ検知センサ6の検知軸方向が回転軸表面の最大ひずみ方向に一致して、最大応力を検知するようになるので、便利である。
(第5使用例)
図32は本発明のひずみ検知装置の第5使用例を示す概略図である。図32に示すように、本使用例は、ひずみ検知装置21をクレーンに適用したものである。クレーン150の滑車151を吊下するワイヤ152をクレーン本体に固定する部分に、異常荷重を検知するひずみ検知装置1を貼付したひずみ検知ユニット155を介装する。
クレーン150が吊している荷重が吊せる上限荷重に近付いたら、ひずみ検知装置1のセンサ箔が破断して危険信号を発生する。危険信号を受けた受信装置は操作者に警告を与えて操作を停止させる。荷重が危険荷重に近くて危険が迫っている場合は、自動的に緊急停止を行うようにしてもよい。なお、クレーン150が転倒したり破損する危険荷重はクレーンの角度によって異なるので、幾つかのひずみ検知装置1と角度センサを併用して、測定された角度範囲ごとに使用するひずみ検知装置1を切り換えるようにして、的確な危険度判断ができるようにしてもよい。
図33は図32に使用されるひずみ検知ユニット155の平面図である。図33に示すように、ひずみ検知ユニット155は、両端に吊し穴156を有する棒片158の中央平坦部157にひずみ検知装置1を貼付して形成したものである。棒片158の材質や形状は、荷重検出に合うものを任意に選択することができる。また、ひずみ検知ユニット155は再現性があるので、実験的に検出荷重を確定することができ、信頼性が高い。このような汎用的なひずみ検知ユニット155は、クレーンの異常荷重検出など種々の対象に適用することができる。
(第6使用例)
図34は本発明のひずみ検知装置の第6使用例を示す概略図である。図34に示すように、本使用例は、吊りワイヤにおける過負荷警報装置としてひずみ検知装置を利用するものである。吊りワイヤ161は、所定の荷重を超えた貨物を吊ると破断して貨物を落下させてしまう。したがって、過剰な負荷を吊っていないことを確認し、誤って過大な荷重を加えたときには運転者に警報を発したり、運転を停止するようにすることが好ましい。
そこで、吊りワイヤ161の通り道に一対のガイドローラ162を設けて、その中間に検出ローラ164を配置し、負荷により発生する吊りワイヤ161の張力により検出ローラ164が押し付けられる力がセンサプレート165を変位させ、変位量が所定の値を超えたときに検知信号を発生するようにしている。
図35Aは図34に示すセンサプレート165の側面図である。図35Bは図34に示すセンサプレート165の平面図である。図35A及び図35Bに示すように、センサプレート165は、両端に止め穴166aを備えた短冊形基板166の裏側に本発明のひずみ検知装置1を貼付したもので、適当な間隔で設置された固定物168の下面に止め穴166aを通した止め具167で固定され、中間部分の下面に検出ローラ164が当たるように配置される。
検出ローラ164の軸位置が吊りワイヤ161の張力により変位すると、センサプレート165が撓んでひずみ検知装置1の薄膜基板2(図1参照)が伸びて、予め設定されたひずみに達するとセンサ箔4(図1参照)が破断し、異常を検知することができる。検知信号は図21〜図23に示したような受信装置に送信され、運転者に警報信号として伝送されたり、吊りワイヤ161の駆動が停止制御されたりする。
(第7使用例)
図36は本発明のひずみ検知装置の第7使用例を示す概略図である。図37は図36の要部拡大図である。図36及び図37に示すように、橋桁170が橋台171に係合する部分には、橋桁170と橋台171の間の水平距離を監視して所定の距離より大きくなる異常を検知するひずみ検知ユニット155と、橋桁170の端部が載置される部分に設置されて異常荷重を検知するセンサプレート165が備えられている。
ひずみ検知ユニット155は、図33で説明したものと同じもので、橋桁170と橋台171の間の距離が所定の危険変位量になったらセンサ箔が破断するように調整されている。橋桁171の下に設けられるセンサプレート165は、図35A及びBで説明したものと同じものである。
橋桁170の下面には、センサプレート165を押し下げる押圧ピン172が下方に向けて突設されている。即ち、押圧ピン172は、橋桁170の垂直方向の変位に伴って上下する。橋桁170は、橋台173の上面に支点175を有するので、荷重が載ると支点175を中心として沈み込む。押圧ピン172は、その先端が断面円弧状に突出して形成され、橋桁170の沈み込みに伴ってセンサプレート165の上面を押圧すると、センサプレート165の下面に貼着されたひずみ検知装置1の薄膜基板2(図1参照)が伸び、予め設定されたひずみに達するとセンサ箔4(図1参照)が破断し、異常を検知することができる。よって、本使用例のセンサプレート165は、橋桁170の上に過剰な積載物が搭載されたときに、異常を検知して警報を発したり、自動的に進入禁止の表示を出したりすることができる。
以上に説明した本発明のひずみ検知装置は、計測のための高度な機器が不要であり、供用期間を通して製品の構造に発生するひずみを監視する長期モニタリングに使用することができ、長期の運用期間中にまれに発生する過大ひずみを検知することができる。また、回転体、動体、水中の物体など、計測装置が使えない環境におけるひずみ異常警報に利用することができる。さらに、このひずみ検知装置の簡便性と経済性により、測定領域が広範囲にわたる場合や、測定点数が多数になる場合に適用して発生応力の概略分布や過大応力発生部位を特定することができる。また、クレーン、橋梁、鉄道車両、航空機、自動車、建築鉄骨、鉄筋、回転機械等、各種の構造物、輸送機器、建造物、機械などにおける鋼材の応力発生部を測定対象として、任意の荷重値や変位値に感応するように設定して、この値を超えたことを検知すると警報を発したり、直接に緊急措置を執らせたりすることができる。これら鋼材に本発明のひずみ検知装置を適用するときは、有機接着剤を用いることもできるし、溶接を用いることもできる。さらに、本発明のひずみ検知装置は、鋼材以外にも、非鉄材料、高分子材料、複合材、コンクリート、アスファルト、木材など、センサが応力発生部に貼着できる限り任意の材料について適用が可能である。