実施の形態1.
以下、図面を参照して本発明の実施の形態1について説明する。
[本実施形態のダンパ装置の構成]
図1は、本発明の実施の形態1としてのダンパ装置10の断面構成と空気圧制御システムとを併せて示す図である。本実施形態のダンパ装置10は、内燃機関(以下、エンジン)から変速機へのトルクの伝達径路に配置される。図1に示すように、ダンパ装置10は、駆動軸であるエンジン連結シャフト100と、被駆動軸である変速機連結シャフト120との間に設けられている。エンジン連結シャフト100と変速機連結シャフト120は、ともに同一の回転軸L0を有している。
ダンパ装置10の外殻は、エンジン側ケーシング102と変速機側ケーシング140とに分割されている。エンジン側ケーシング102は、エンジン連結シャフト100の先端にエンジン連結シャフト100と一体に設けられ、変速機側ケーシング140は、ボールベアリング142を介して変速機連結シャフト120に回転自在に支持されている。エンジン側ケーシング102は、変速機側ケーシング140の方へ延びてダンパ装置10の胴部を形成する外筒部104と、その内側に形成された内筒部106とを有している。エンジン側ケーシング102の外筒部104は、ボルト及びナットからなる締結具146を介して変速機側ケーシング140に結合されている。本実施形態では、これらケーシング102,140が、本発明にかかる「第1の回転体」に相当している。
変速機連結シャフト120の先端には、円盤状の変速機側カムプレート122が一体に設けられている。変速機側カムプレート122の裏面(変速機側面)は、ニードルベアリング144を介して変速機側ケーシング140の内側面に接している。間にニードルベアリング144を挟むことにより、変速機側カムプレート122と変速機側ケーシング140との間に軸方向の荷重が加わった場合でも、両者122,140は自在に相対回転することができる。本実施形態では、変速機側カムプレート122が、本発明にかかる「第2の回転体」に相当している。
変速機側カムプレート122とエンジン側ケーシング102との間には、円盤状のエンジン側カムプレート130が配置されている。エンジン側カムプレート130の外縁には、エンジン側ケーシング102の方へ延びる筒部132が形成されている。この筒部132は、エンジン側ケーシング102の外筒部104と内筒部106との隙間に嵌合し、エンジン側カムプレート130の径方向への移動を拘束してエンジン側カムプレート130の軸中心を回転軸L0に一致させている。
筒部132と外筒部104との間には、コロ112が設けられている。コロ112は、エンジン側カムプレート130のエンジン側ケーシング102に対する軸方向への移動を容易にする一方で、エンジン側カムプレー130のエンジン側ケーシング102に対する軸回りの相対回転を規制している。一方、筒部132と内筒部106との間には、シール部材114が配置されている。2つのケーシング102,140で囲まれるダンパ装置10の内部空間は、エンジン側カムプレート130によって2つの部屋、つまり、エンジン側カムプレート130の裏面(エンジン側面)とエンジン側ケーシング102との間に形成されるバネ室160と、エンジン側カムプレート130の表面(変速機側面)と変速機側ケーシング140とで形成されるカム室150とに区画されている。シール部材114は、これら2つ部屋150,160を気密に分離している。
バネ室160には、2種類のコイルバネ162,164がその伸縮方向を回転軸L0の軸方向に向けて配置されている。第1のコイルバネ162は、バネ室160内に多数配置され、それぞれがエンジン側カムプレート130の裏面をエンジン側ケーシング102に連結している。第1のコイルバネ162は圧縮バネであり、エンジン側カムプレート130を変速機側カムプレート122へ向けて付勢している。第2のコイルバネ164は、第1のコイルバネ162に比較してバネ定数の極めて大きい大型のコイルバネであり、回転軸L0上に1つ配置されている。第2のコイルバネ164の一方の端部はエンジン側ケーシング102に固定されているが、他方の端部は自由端になっており円板166が取り付けられている。円板166とエンジン側カムプレート130の裏面との間には、隙間が開けられている。本実施形態では、エンジン側カムプレート130が、本発明にかかる「第3の回転体」に相当し、コイルバネ162が、本発明にかかる「弾性部材」に相当している。
変速機側カムプレート122とエンジン側カムプレート130の間には、中間部材としての複数のトルク伝達ボール152,154が挟まれている。エンジン側カムプレート130は、コイルバネ162のバネ力によって、トルク伝達ボール152,154を介して変速機側カムプレート122に押し当てられている。これら変速機側カムプレート122、エンジン側カムプレート130及びトルク伝達ボール152,154によって、以下に説明するように、エンジン連結シャフト100と変速機連結シャフト120との間に生じる回転角度差、つまり、捩れ角をコイルバネ162の伸縮量に変換する変換機構が構成されている。
変速機側カムプレート122の正面、つまり、エンジン側カムプレート130に対向する面には、端面カムとしてのカム溝124,126が形成されている。図2は変速機側カムプレート122を正面から見た図である。この図に示すように、各カム溝124,126は変速機側カムプレート122の周方向に沿って形成されおり、径方向の外側に2本のカム溝124が形成され、径方向の内側にも2本のカム溝126が形成されている。
外側の2本のカム溝124は同一形状であって、互いに180°ずらして形成されている。図3は図2のA−A断面図であり、カム溝124の溝方向に沿った断面形状を示している。この図に示すように、カム溝124は、溝方向に勾配が設けられたテーパ溝124aと、勾配の無い緩衝溝124bとからなる。テーパ溝124aは、テーパ溝124a内の最深点Pから正回転方向に向けて勾配角θ1の領域A、勾配角θ2の領域B、勾配角θ3の領域Cを有し、また、最深点Pから逆回転方向に向けて勾配角θ0の領域Dを有している。ここでは、勾配角θ2は勾配角θ1よりも小さく設定され、勾配角θ3は勾配角θ2よりも大きく設定されている。緩衝溝124bは領域Dの末端部から正回転方向に向けて伸びている。
内側の2本のカム溝126も同一形状であり、互いに180°ずらして形成されている。内側のカム溝126は外側のカム溝124と相似形であり、溝方向に勾配が設けられたテーパ溝126aと、勾配の無い緩衝溝126bとからなる。カム溝126の溝方向に沿った断面形状は、外側のカム溝124と同じく図3に示すような形状になっている。
同様に、エンジン側カムプレート130の正面、つまり、変速機側カムプレート122に対向する面にも、端面カムとしてのカム溝134,136が形成されている。エンジン側カムプレート130における各カム溝134,136の位置関係や形状は、変速機側カムプレート122における各カム溝124,126の位置関係や形状と全く同一であり、エンジン側カムプレート130を正面から見た形状は、変速機側カムプレート122と同じく図2に示すようになる。また、各カム溝134,136の溝方向に沿った断面形状は、変速機側カムプレート122のカム溝124,126と同じく図3に示すようになる。
変速機側カムプレート122の外側カム溝124と、エンジン側カムプレート130の外側カム溝134との間には、トルク伝達ボール152が挟まれている。変速機側カムプレート122の内側カム溝126と、エンジン側カムプレート130の内側カム溝136との間には、別のトルク伝達ボール154が挟まれている。各トルク伝達ボール152,154は、一方のカム溝124,126の最深点に位置しているときには、他方のカム溝134,136の最深点にも位置するように配置されている。トルク伝達ボール152,154が各カム溝124,126,134,136の最深点に位置しているとき、エンジン側カムプレート130と変速機側カムプレート122との回転角度差、つまり、捩れ角は零となる。
エンジン側カムプレート130と変速機側カムプレート122との間に捩れ角が生じたときには、各トルク伝達ボール152,154はカム溝124,126,134,136の溝方向に沿って転がり移動する。カム溝124,126,134,136には勾配が設けられているので、各トルク伝達ボール152,154のカム溝124,126,134,136内での位置が変化することにより、エンジン側カムプレート130の変速機側カムプレート122に対する軸方向位置が変化する。
変速機側カムプレート122とエンジン側ケーシング102との軸方向の位置関係は一定であり、エンジン側カムプレート130とエンジン側ケーシング102との間にはコイルバネ162が挟まれている。したがって、エンジン側カムプレート130の変速機側カムプレート122に対する軸方向位置が変化すれば、その変化量がそのままコイルバネ162の伸縮量となる。エンジン側カムプレート130はエンジン連結シャフト100と一体に回転し、変速機側カムプレート122は変速機連結シャフト120と一体に回転するので、上記の構成によれば、エンジン連結シャフト100と変速機連結シャフト120との間の捩れ角に応じて、コイルバネ162の伸縮量が変化することになる。
また、本実施形態のダンパ装置10は、バネ室160内の空気圧を制御する空気圧制御システムを備えている。空気圧制御システムは、本発明にかかる「圧力調整手段」に相当している。エンジン連結シャフト100の軸心には、先端からエンジン側に向けて縦穴108が形成されている。エンジン連結シャフト100の側面から軸心に向けては、縦穴108に通じる横穴110が形成されている。これら縦穴108及び横穴110は、バネ室160を外部に連通させる空気流路であり、空気圧制御システムはこの空気流路108,110を介してバネ室160内の空気圧を制御している。以下、ダンパ装置10の空気圧制御システムの構成について詳細に説明する。
エンジン連結シャフト100の側面で横穴110が形成されている部位には、スリーブ170が回転自在に支持されている。スリーブ170は、軸受け等の図示しない静止部材に固定されている。スリーブ170とエンジン連結シャフト100との接触面はシール部材でシールされている。スリーブ170の内周面には周方向に沿って溝172が形成され、エンジン連結シャフト100の側面との間で環状の空間を形成している。前述の横穴110は、この環状の空間に連通している。また、この環状の空間には、スリーブ170に接続された空気管174が連通している。
空気管174の他方の端部は制御弁180の出力ポートに接続されている。制御弁180は、その出力ポートと入力ポートとの接続状態を(a),(b),(c)の3つの状態の間で切替えることができる。制御弁180の入力ポートには、空気供給管176と空気排出管178が接続されている。
制御弁180が接続状態(a)にあるとき、空気管174は空気供給管176と空気排出管178の何れとも接続されない。この状態では、バネ室160内への空気の出入りはなく、バネ室160内の空気量は一定に保たれる。したがって、バネ室160の容積が一定であれば、バネ室160内の空気圧は一定に保持される。
制御弁180が接続状態(b)にあるときは、空気管174は空気供給管176に接続される。空気供給管176には、モータ186によって駆動されるコンプレッサ184と、コンプレッサ184で圧縮された空気を蓄えるバッファタンク182が配置されている。この状態では、圧縮された空気を空気供給管176から空気管174へ供給することで、バネ室160内の空気圧を上昇させることができる。
制御弁180が接続状態(c)にあるときは、空気管174は空気排出管178に接続される。空気排出管178の端部は大気に開放されているので、バネ室160内の空気圧が大気圧よりも高い場合には、空気管174から空気排出管178へ空気を排出して、バネ室160内の空気圧を低下させることができる。
ダンパ装置10の空気圧制御システムには、制御装置190が備えられる。制御弁180における接続状態の切り替えは、制御装置190から供給される切替信号によって行われる。制御装置190は、モータ186の回転数も制御している。制御装置190は、後述するように、車両の運転状態やエンジンの運転状態に応じて制御弁180の接続状態やモータ186の回転数を制御し、それによりバネ室160内の空気圧を制御している。
[本実施形態のダンパ装置の動作]
次に、本実施形態のダンパ装置10の動作について説明する。
(1)トルクの伝達動作
エンジンからエンジン連結シャフト100にトルクが入力され、エンジン連結シャフト100が回転すると、エンジン連結シャフト100と一体回転するエンジン側カムプレート130と変速機側カムプレート122との間に捩れが生じる。その捩れ角に応じて、エンジン側カムプレート130上ではトルク伝達ボール152,154がカム溝134,136上を移動し、変速機側カムプレート122上ではトルク伝達ボール152,154がカム溝124,126上を移動する。トルク伝達ボール152,154の位置が変化することで、エンジン側カムプレート130の変速機側カムプレート122に対する距離が拡大し、エンジン側カムプレート130はエンジン側ケーシング102との間でコイルバネ162を圧縮する。
圧縮されたコイルバネ162からは、その弾性力が反力としてエンジン側カムプレート130に作用する。このコイルバネ162の弾性力と、両カムプレート130,122の間に作用するトルクとが釣り合ったとき、両カムプレート130,122はそのときの捩れ角を保ちながら一体回転するようになる。これにより、エンジン連結シャフト100から変速機連結シャフト120へエンジンの出力トルクが伝達される。
図4は、エンジンの出力トルクとシャフト100,120間の捩れ角との関係を従来のダンパ装置と比較して示す図である。図中、実線が本実施形態のダンパ装置10による特性を示し、二点鎖線が従来のダンパ装置による特性を示している。この図に示すように、本実施形態のダンパ装置10によれば、同一のトルクに対する捩れ角を従来のダンパ装置よりも大きくとることができる。つまり、より広角度のダンパ装置とすることができる。これは、コイルスプリング162を回転軸L0の軸方向に配置し、カム機構を用いてコイルスプリング162を圧縮するようにしたことによる。このような構成によれば、コイルスプリング162の伸縮可能量によってシャフト100,120間の捩れ角が幾何学的に制限されることがない。
トルクの変化量と捩れ角の変化量との関係は、トルク伝達ボール152,154がカム溝124,126,134,136の何処に位置しているかによって決まる。ダンパ装置10は、エンジンの通常のトルク範囲では、トルク伝達ボール152,154がテーパ溝(図2及び図3のテーパ溝124a,126aを参照)内に位置するように設計されている。テーパ溝は、図2に示すように勾配角の異なる複数の領域からなっており、トルク伝達ボール152,154が勾配角の大きい領域に位置している場合には、トルクの変化量に対する捩れ角の変化量は小さく、トルク伝達ボール152,154が勾配角の小さい領域に位置している場合には、トルクの変化量に対する捩れ角の変化量は大きくなる。このように、本実施形態のダンパ装置10によれば、コイルスプリング162の圧縮にカム機構を用いることで、そのカムプロフィール(ここでは、端面カムであるテーパ溝の勾配角)の設計によって、トルクの変化量と捩れ角の変化量との関係を任意に設定することができる。
また、エンジンの出力トルクが非常に大きい場合には、カムプレート130,122間の捩れ角の拡大によりエンジン側カムプレート130とエンジン側ケーシング102との距離がさらに縮まり、やがて、コイルバネ164の端部の円板166にエンジン側カムプレート130が接触する。コイルバネ164のバネ定数はコイルバネ162のそれよりに比較して極めて大きいので、コイルバネ162に加えてコイルバネ164も圧縮されるときには、エンジン側カムプレート130には非常に大きい反力が作用する。つまり、コイルバネ164は、カムプレート130,122間の捩れ角が通常の使用範囲(テーパ溝が設けられている角度範囲)を超えて拡大するのを防止するストッパとして機能する。
なお、一時的なトルクの急上昇等により、カムプレート130,122間の捩れ角がさらに拡大した場合には、トルク伝達ボール152,154がテーパ溝の限界まで達することがある。この場合、トルク伝達ボール152,154の移動範囲がテーパ溝内に規制されていると、トルク伝達ボール152,154がテーパ溝の限界に達したときにカムプレート130,122が突然直結されてしまい、変速機連結シャフト120にトルクショックが生じるおそれがある。本実施形態のダンパ装置10は、テーパ溝に連続する緩衝溝(図2及び図3の緩衝溝124b,126bを参照)を有しているので、テーパ溝を超えたトルク伝達ボール152,154は緩衝溝に沿って転がり続けることができる。これにより、カムプレート130,122の直結によるトルクショックや、カムプレート130,122間からのトルク伝達ボール152,154の脱落は防止される。
(2)トルク変動の吸収動作
エンジンからエンジン連結シャフト100に入力されるトルクには、エンジンの爆発に起因する変動成分が含まれている。この変動成分によってカムプレート130,122間の捩れ角には振動が生じ、それに応じてコイルバネ162の伸縮量も周期的に変化する。このときのコイルバネ162のダンピング作用によって変動成分のエネルギは吸収され、エンジン側カムプレート130から変速機側カムプレート122には、変動成分が緩和されたトルクが伝達される。
エンジンのトルク変動をダンパ装置10で滑らかに吸収できるようにするには、コイルバネ162のバネ定数を小さくすればよい。しかし、伝達トルク容量も十分に確保するためには、バネ定数を小さくする分、コイルバネ162の伸縮可能量を十分に確保する必要がある。本実施形態のダンパ装置10では、コイルバネ162の伸縮方向は回転軸L0の軸方向であるので、コイルバネ162の伸縮可能量が幾何学的な制約を受けることがない。したがって、従来のダンパ装置に比較して、前述のようにシャフト100,120間の捩れ角を大きくとることができるとともに、バネ定数の小さいコイルバネ162を選択することができる。
また、本実施形態のダンパ装置10では、カム機構のカムプロファイル(具体的には、カム溝の勾配角)の設計により、ダンパ装置10全体でのみかけのバネ定数を捩れ角に応じて可変にすることができる。具体的には、図4に示すように、捩れ角が特定の範囲(領域B)にあるときのバネ定数を、他の範囲のバネ定数(領域A,C)よりも小さくすることもできる。したがって、こもり音等のトルク変動に起因する不具合が特定のトルク領域において顕著になることが予め分かっているならば、そのトルク領域におけるバネ定数を小さくするようにカムプロファイルを設計することで、不具合の原因となるトルク変動を効果的に吸収することが可能になる。
さらに、本実施形態のダンパ装置10では、制御弁180を接続状態(a)とすることで、バネ室160を密閉空間とすることができる。このとき、トルク変動の入力によってカムプレート130,120間の距離が周期的に変化すると、それに応じてバネ室160内の空気圧も周期的に変化する。つまり、バネ室160内の空気は空気バネとして作用する。この場合は、コイルバネ162のダンピング作用に空気バネのダンピング作用も加わることになるので、こもり音等の不具合の原因となるトルク変動をより効果的に吸収することが可能になる。
(3)空気圧制御によるダンピング特性の変更
本実施形態のダンパ装置10は、空気圧制御システムによってバネ室160内の空気圧を制御することができる。バネ室160内の空気は空気バネとして作用するので、その空気圧が変化すれば、シャフト100,120間の捩れ角が零のとき、つまり、初期状態にあるときにダンパ装置10が発生するトルク(初期トルク)が変化する。初期トルクを変化させることで、ダンパ装置10の作動トルク領域を変化させることができる。
図5は、エンジンの出力トルクとシャフト100,120間の捩れ角との関係を、初期状態での空気圧が大気圧のとき(実線で示す)と、空気圧制御により初期状態での空気圧を高めたとき(破線で示す)とで比較して示す図である。図5に示すケースでは、空気圧を高めて初期トルクを増大させることで、ダンパ装置10の作動トルク領域は大トルク側へ移動している。この図に示すように、バネ室160内の空気圧を制御することで、ダンパ装置10のダンピング特性を変更することができる。
本実施形態のダンパ装置10は、車両の運転状態やエンジンの運転状態に応じた最適なダンピング特性を実現すべく、空気圧制御システムを用いてバネ室160内の空気圧を制御する。空気圧制御システムによるバネ室160内の空気圧の制御は、図6に示すルーチンに従って行われる。なお、図6に示すルーチンの処理は、制御装置190によって実行される。
図6に示すルーチンの最初のステップS100では、車両の急加速状態を示す指標値として急加速値αsが算出される。この急加速値αsは、現時点におけるエンジン回転数Re、スロットル開度TH、スロットル開速度θth、トランスアクスルギヤ比K等を変数とする関数f(Re,TH,θth,K,・・・)で表すことができる。或いは、前記の変数を軸とするマップを用いて急加速値αsを決定してもよい。図8に示すマップでは、エンジン回転数Reとスロットル開速度θthとから急加速値αsが割り出されるようになっている。
次に、ステップS100で算出された急加速値αsと所定の加速基準値αoとを比較することで、現在の加速状況が判定される(ステップS102)。急加速値αsが加速基準値αoよりも小さい場合には、車両は急加速状態にはないと判定され、次のステップS104の処理が実施される。
ステップS104では、車両の急制動状態を示す指標値として急制動値δbが算出される。この急制動値δbは、現時点におけるブレーキ油圧Bp、ブレーキ作動速度Bth、車両速度Vc、トランスアクスルギヤ比K等を変数とする関数f(Bp,Bth,Vc,K,・・・)で表すことができる。或いは、前記の変数を軸とするマップを用いて急制動値δbを決定してもよい。図10に示すマップでは、ブレーキ作動速度Bthとトランスアクスルギヤ比Kとから急制動値δbが割り出されるようになっている。
次に、ステップS104で算出された急制動値δbと所定の制動基準値δoとを比較することで、現在の制動状況が判定される(ステップS106)。急制動値δbが制動基準値δoよりも小さい場合には、車両は急制動状態にはないと判定され、次のステップS108の処理が実施される。
ステップS108では、車両のABSが作動する状況か否か判定される。判定方法としては、例えば、推定車体速度とタイヤ速度との速度差を求め、その速度差が所定値に達したらABSが作動する状況にあると判定するようにしてもよい。なお、前記の所定値は、ABSが実際に作動する速度差よりも小さい値に設定する。判定の結果、ABSが作動する状況にない場合には、次のステップS110の処理が実施される。
ステップS110の処理は、車両が急加速状態でも急制動状態でもなく、また、ABSが作動しうる状態でもないとき、すなわち、車両が通常の状態で走行している時に実施される空気圧制御である。この空気圧制御では、エンジンのトルク変動を効果的に吸収するように、エンジントルクに応じてダンピング特性が変更される。ステップS110の空気圧制御は、図7に示すルーチン(図6に示すルーチンのサブルーチン)に従って実施される。
図7に示すルーチンの最初のステップS200では、現状のバネ室160内の空気圧Pgが計測される。次に、エンジン回転数とスロットル開度が計測され(ステップS202)、それら計測値からマップ或いは計算によりエンジンの出力トルクが決定される(ステップS204)。
次のステップS206では、バネ室160内の目標空気圧Ptが決定される。目標空気圧Ptは、ステップS204で決定されたエンジントルクが、ダンパ装置10の作動トルク領域内に入るように決定される。より具体的には、ダンパ装置10のみかけのバネ定数が最も小さくなるトルク領域(図5に示すトルク領域Ta)、つまり、ダンパ装置10が最も効果的に作動するトルク領域に入るように決定される。目標空気圧Ptの決定には、例えば、エンジントルクを軸とするマップを用いることができる。
次のステップS208では、ステップS206で決定された目標空気圧Ptと、ステップS200で計測された現状の空気圧Pgとの差ΔPが算出される。次のステップS210では、差ΔPの絶対値と所定の基準値δとが比較される。
ステップS210の比較の結果、差ΔPの絶対値が基準値δ以内でれば、バネ室160内の空気圧は現状のまま維持される(ステップS212)。具体的には、制御装置190による制御弁180の切り替えは行われず、制御弁180は接続状態(a)のまま維持される。
一方、差ΔPの絶対値が基準値δを超えている場合には、バネ室160内の空気圧の調整が行われる(ステップS214)。具体的には、差ΔPがδよりも大きい場合、つまり、現状の空気圧Pgが目標空気圧Ptよりも低い場合には、制御装置190により制御弁180が接続状態(b)に切り替えられる。また、制御装置190によるモータ186の制御によりコンプレッサ184が回転駆動され、コンプレッサ184で圧縮された空気がバネ室160内に供給される。そして、バネ室160内の空気圧が上昇し、差ΔPの絶対値が基準値δ以内に収まった時点で、制御弁180が接続状態(a)に切り替えられ、また、コンプレッサ184の回転駆動が停止される。
逆に、差ΔPが−δよりも小さい場合、つまり、現状の空気圧Pgが目標空気圧Ptよりも高い場合には、制御装置190により制御弁180が接続状態(c)に切り替えられ、バネ室160内から空気が排出される。そして、バネ室160内の空気圧が低下し、差ΔPの絶対値が基準値δ以内に収まった時点で、制御弁180が接続状態(a)に切り替えられる。
以上のルーチン(図7に示すサブルーチン)に従いエンジントルクに応じてバネ室160内の空気圧を制御することで、ダンパ装置10が効果的に作動するトルク領域を常にエンジンの運転状態に応じたものに制御することができる。これにより、こもり音等のエンジンのトルク変動に起因する不具合を確実に防止することができる。
一方、車両が通常の状態で走行していない場合、つまり、車両が急加速状態のときや(ステップS102の判定結果がYes)、車両が急制動状態のときや(ステップS106の判定結果がYes)、或いは、ABSが作動しうる状態のときには(ステップS108の判定結果がYes)、それぞれ次のような空気圧制御が実施される。
まず、車両が急加速状態のとき、つまり、ステップS102の判定で急加速値αsが加速基準値αo以上のときには、ステップS112の処理が実施される。ステップS112では、図9に示す加速サージマップから、急加速値αsに応じたダンパ制御値Dpが決定される。
また、車両が急制動状態のとき、つまり、ステップS106の判定で急制動値δbが制動基準値δo以上のときには、ステップS114の処理が実施される。ステップS114では、図11に示す制動サージマップから、急制動値δbに応じたダンパ制御値Dpが決定される。
ステップS112及びステップS114で決定されるダンパ制御値Dpは、本実施形態では、バネ室160内の目標圧力値に相当している。ここで設定される目標圧力値は、ステップS110の空気圧制御で設定される目標圧力値(エンジントルクに応じた目標圧力値)よりも大きい値に設定されている。次のステップ216では、制御装置190により制御弁18が接続状態(b)に切り替えられるとともに、制御装置190によるモータ186の制御によってコンプレッサ184が回転駆動され、バネ室160内の空気圧はダンパ制御値Dpに応じた圧力に制御される。
ステップS116の処理により、バネ室160内の空気圧は通常運転時の制御範囲を超えて増大され、ダンパ装置10の作動トルク領域は通常運転時の作動トルク領域を超えて大トルク側に移動する。その結果、カムプレート130,122間にトルクが入力されたときに生じる捩れ角は小さくなり、コイルバネ162の縮み量も小さくなる。その結果、ダンパ装置10に蓄えられるエネルギ量が減少し、急加速時や急制動時におけるサージの発生が防止される。
また、ステップS108の判定でABSが作動しうる状態のときには、ステップS118の処理が実施される。ステップS118では、制御装置190により制御弁18が接続状態(b)に切り替えられるとともに、制御装置190によるモータ186の制御によってコンプレッサ184が最大回転数まで回転駆動され、バネ室160内の空気圧は最大圧力に制御される。
バネ室160内の空気圧が最大圧力になることで、ダンパ装置10の作動トルク領域は最大位置まで移動する。その結果、両カムプレート130,122は直結に近い状態となり、コイルバネ162の収縮によってダンパ装置10に蓄えられるエネルギ量は僅かになる。これにより、ABSが作動しうる状況でのサージの発生は防止され、車軸の振れを防止して推定車体速度の精度を上げることができ、ABS性能の向上と走行フィーリングの向上とを実現することができる。
以上のように、上記ルーチンよる空気圧制御によれば、車両の運転状態やエンジンの運転状態に応じてバネ室160内の空気圧を制御し、ダンパ装置10の作動トルク領域を変化させることで、車両の運転状態やエンジンの運転状態に応じた最適なダンピング特性を実現することができる。その結果、従来のダンパ装置では困難であった、通常運転時のこもり音の抑制と、トルク急変時のサージの抑制とを両立させることが可能になった。
なお、本実施形態では、制御装置190により図6に示すルーチン(図7に示すサブルーチンを含む)が実行されることにより、本発明にかかる「制御手段」が実現されている。また、制御装置190によりステップS100,S102の処理、或いは、ステップS104,S106の処理、或いは、ステップS108の処理が実行されることにより、本発明にかかる「予測手段」が実現されている。
実施の形態2.
以下、図面を参照して本発明の実施の形態2について説明する。
[本実施形態のダンパ装置の構成]
図12は、本発明の実施の形態2としてのダンパ装置20の断面構成と空気圧制御システム及び油量制御システムを併せて示す図である。図12に示すように、ダンパ装置20は、駆動軸であるエンジン連結シャフト200と、被駆動軸である変速機連結シャフト220との間に設けられている。エンジン連結シャフト200と変速機連結シャフト220は、ともに同一の回転軸L0を有している。
ダンパ装置20のエンジン側ケーシング202は、エンジン連結シャフト200の先端にエンジン連結シャフト200と一体に設けられ、変速機側ケーシング250は、ボールベアリング252を介して変速機連結シャフト220に回転自在に支持されている。エンジン側ケーシング202は、変速機側ケーシング250の方へ延びてダンパ装置20の胴部を形成する外筒部204と、その内側に形成された内筒部206とを有している。エンジン側ケーシング202の外筒部204は、ボルト及びナットからなる締結具256を介して変速機側ケーシング250に結合されている。本実施形態では、これらケーシング202,250が、本発明にかかる「第1の回転体」に相当している。
変速機連結シャフト220の先端には、円盤状の変速機側カムプレート222が一体に設けられている。変速機側カムプレート222の裏面(変速機側面)は、ニードルベアリング254を介して変速機側ケーシング250の内側面に接している。本実施形態では、変速機側カムプレート222が、本発明にかかる「第2の回転体」に相当している。
変速機側カムプレート222とエンジン側ケーシング202との間には、円盤状のエンジン側カムプレート230が配置されている。エンジン側カムプレート230の軸中心には、エンジン連結シャフト200の方へ延びるシャフト部238が形成されている。エンジン連結シャフト200の軸心には、その先端からエンジン側に向けて二段の縦穴208a,208bが形成されている。縦穴208a,208bは、先端側の大径部208aと奥側の小径部208bからなる。エンジン側カムプレート230のシャフト部238は、縦穴の小径部208bと同径であり、この小径部208bに挿入されて回転自在に支持されている。
エンジン側カムプレート230の外縁には、エンジン側ケーシング202の方へ延びる筒部232が形成されている。この筒部232は、エンジン側ケーシング202の外筒部204と内筒部206との隙間に嵌合している。筒部232と外筒部204との間には、コロ216が設けられている。コロ216は、エンジン側カムプレート230のエンジン側ケーシング202に対する軸方向への移動を容易にする一方で、エンジン側カムプレー230のエンジン側ケーシング202に対する軸回りの相対回転を規制している。筒部232と内筒部206との間には、シール部材218が配置されている。シール部材218は、エンジン側カムプレート230の裏面(エンジン側面)とエンジン側ケーシング202との間に形成されるバネ室270と、エンジン側カムプレート230の表面(変速機側面)と変速機側ケーシング250とで形成されるカム室260とを気密に分離している。
バネ室270には、2種類のコイルバネ272,274がその伸縮方向を回転軸L0の軸方向に向けて配置されている。第1のコイルバネ272は、バネ室270内に多数配置され、それぞれがエンジン側カムプレート230の裏面をエンジン側ケーシング202に連結している。第1のコイルバネ272は圧縮バネであり、エンジン側カムプレート230を変速機側カムプレート222へ向けて付勢している。第2のコイルバネ274は、第1のコイルバネ272に比較してバネ定数の極めて大きい大型のコイルバネであり、回転軸L0上に1つ配置されている。エンジン側カムプレート230のシャフト部238は、この第2のコイルバネ274の中心を貫通している。第2のコイルバネ274の一方の端部はエンジン側ケーシング202に固定されているが、他方の端部は自由端になっておりドーナツ状の円板276が取り付けられている。円板276とエンジン側カムプレート230の裏面との間には、隙間が開けられている。本実施形態では、エンジン側カムプレート230が、本発明にかかる「第3の回転体」に相当し、コイルバネ272が、本発明にかかる「弾性部材」に相当している。
変速機側カムプレート222のエンジン側カムプレート230に対向する面には、端面カムとしてのカム溝224,226が形成されている。また、エンジン側カムプレート230の変速機側カムプレート222に対向する面にも、端面カムとしてのカム溝234,236が形成されている。各カム溝224,226,234,236の位置関係や形状は、実施の形態1にかかる各カム溝124,126,134,136のそれと同様であるので、ここではその説明は省略する。
変速機側カムプレート222の外側カム溝224と、エンジン側カムプレート230の外側カム溝234との間には、中間部材としてのトルク伝達ボール262が挟まれている。変速機側カムプレート222の内側カム溝226と、エンジン側カムプレート230の内側カム溝236との間にも、中間部材としての別のトルク伝達ボール264が挟まれている。エンジン側カムプレート230は、コイルバネ272のバネ力によって、これらトルク伝達ボール262,264を介して変速機側カムプレート222に押し当てられている。本実施形態では、これら変速機側カムプレート222、エンジン側カムプレート230及びトルク伝達ボール262,264によって、エンジン連結シャフト200と変速機連結シャフト220との間に生じる回転角度差、つまり、捩れ角をコイルバネ272の伸縮量に変換する変換機構(カム機構)が構成されている。
エンジン側カムプレート230のシャフト部238には、その先端部から変速機側に向けてエンジン側カムプレート230の本体まで届く縦穴240が形成されている。シャフト部238の先端部の側面には、軸心に向けて、縦穴240に通じる横穴242が形成されている。なお、縦穴240の開口部はパッキン等で塞がれている。また、エンジン側カムプレート230の本体には、その周面から軸心に向けて、縦穴240に通じる横穴244が形成されている。この横穴244はバネ室270内に開口しており、その開口部246はバネ室270内において回転軸L0から最も離れた場所に位置している。
エンジン連結シャフト200の縦穴小径部208bの側壁面には、周方向に沿って溝210が形成され、シャフト部238の側面との間で環状の空間を形成している。シャフト部238に形成された横穴242は、この環状の空間に連通している。また、この環状の空間には、エンジン連結シャフト200の側面から軸心に向けて形成された横穴212が連通している。また、エンジン連結シャフト200の側面には、この横穴212とは別に、縦穴大径部208aに通じる横穴214も形成されている。
以上のように、エンジン連結シャフト200やエンジン側カムプレート230のシャフト部238及び本体に複数の穴が形成されることで、バネ室270はこれら穴を介してダンパ装置20の外部に連通している。具体的には、穴208a,214により、バネ室270内とダンパ装置20の外部とを連通させる第1の連通路が形成されている。また、穴244,240,242,210,212により、バネ室270内とダンパ装置20の外部とを連通させる第2の連通路が形成されている。
エンジン連結シャフト200の側面で横穴212,214が形成されている部位には、スリーブ280が回転自在に支持されている。スリーブ280は、軸受け等の図示しない静止部材に固定されている。スリーブ280とエンジン連結シャフト200との接触面はシール部材でシールされている。スリーブ280の内周面には周方向に沿って2本の溝282,302が形成され、それぞれエンジン連結シャフト200の側面との間で環状の空間を形成している。溝282によって形成される環状の空間には横穴214が連通しており、溝302によって形成される環状の空間には横穴212が連通している。
スリーブ280には、外部から2本のパイプ284,304が接続されている。一方のパイプ284はスリーブ280の内側に形成された溝282まで通じ、溝282を介して前述の第1の連通路208a,214に連通している。他方のパイプ304は溝302に通じ、溝302を介して前述の第2の連通路244,240,242,210,212に連通している。
本実施形態のダンパ装置20は、バネ室270内の空気圧を制御する空気圧制御システムと、バネ室270内に油を供給するとともにその油量を制御する油量制御システムを備えている。相対的に、空気は圧縮性流体、油は非圧縮性流体とみなすことができる。空気圧制御システムは、前述のパイプ(空気管)284を介してバネ室270内の空気圧を制御するようになっている。一方、油量制御システムは、前述のパイプ(油管)304を介してバネ室270内の油量を制御するようになっている。以下、ダンパ装置20の空気圧制御システム及び油量制御システムの構成について説明する。なお、空気圧制御システムは、本発明にかかる「圧力調整手段」に相当し、油量制御システムは、本発明にかかる「非圧縮性流体供給手段」に相当している。
まず、空気圧制御システムの構成について説明する。空気管284の他方の端部は、制御弁290の出力ポートに接続されている。制御弁290は、その出力ポートと入力ポートとの接続状態を(a),(b),(c)の3つの状態の間で切替えることができる。制御弁290の入力ポートには、空気供給管286と空気排出管288が接続されている。
制御弁290が接続状態(a)にあるとき、空気管284は空気供給管286と空気排出管288の何れとも接続されない。この状態では、バネ室270内への空気の出入りはなく、バネ室270内の空気量は一定に保たれる。したがって、バネ室270内での空気の体積が一定であれば、バネ室270内の空気圧は一定に保持される。
制御弁290が接続状態(b)にあるときは、空気管284は空気供給管286に接続される。空気供給管286には、モータ296によって駆動されるコンプレッサ294と、コンプレッサ294で圧縮された空気を蓄えるバッファタンク292が配置されている。この状態では、圧縮された空気を空気供給管286から空気管284へ供給することで、バネ室270内の空気圧を上昇させることができる。
制御弁290が接続状態(c)にあるときは、空気管284は空気排出管288に接続される。空気排出管288の端部は大気に開放されているので、バネ室270内の空気圧が大気圧よりも高い場合には、空気管284から空気排出管288へ空気を排出して、バネ室270内の空気圧を低下させることができる。
次に、油量制御システムの構成について説明する。油管304の他方の端部は、制御弁310の出力ポートに接続されている。制御弁310は、その出力ポートと入力ポートとの接続状態を(a),(b),(c)の3つの状態の間で切替えることができる。制御弁310の入力ポートには、油供給管306と油排出管308が接続されている。
制御弁310が接続状態(a)にあるとき、油管304は油供給管306と油排出管308の何れとも接続されない。この状態では、バネ室270内への油の出入りはなく、バネ室270内の油の量は一定に保たれ、バネ室270内に占める油の体積は一定に保持される。言い換えれば、バネ室270内に占める空気の体積は一定に保持される。
制御弁310が接続状態(b)にあるときは、油管304は油供給管306に接続される。油供給管306には、油タンク316から油を吸い上げて圧送する電動ポンプ314と、電動ポンプ314で加圧された油を蓄えるバッファタンク312が配置されている。この状態では、加圧された油を油供給管306から油管304へ供給することで、バネ室270内の油量を増大させることができる。
制御弁310が接続状態(c)にあるときは、油管304は油排出管308に接続される。油排出管308の端部は油タンク316に接続されている。バネ室270内の油にはダンパ装置20の回転に伴う遠心力が作用するので、油はバネ室270の外周部に溜まっている。この状態で、油管304を油排出管308に接続し、また、制御弁290を切り替えて空気管284を空気供給管286に接続すると、バネ室270内の油は空気圧によって開口部246から第2の連通路244,240,242,210,212へ押し戻され、バネ室270内から排出される。これにより、バネ室270内の油量を減少させることができる
ダンパ装置20には制御装置300が備えられる。この制御装置300は、空気圧制御システムと油量制御システムとを総合制御している。制御装置300は、車両の運転状態やエンジンの運転状態に応じて制御弁290の接続状態やモータ296の回転数を制御し、それによりバネ室270内の空気圧を制御するとともに、車両の運転状態やエンジンの運転状態に応じて制御弁310の接続状態や電動ポンプ314の回転数を制御し、それによりバネ室270内の油の量を制御している。
[本実施形態のダンパ装置の動作]
次に、本実施形態のダンパ装置20の動作について説明する。
本実施形態のダンパ装置20のトルクの伝達動作、及びトルク変動の吸収動作に関しては、実施の形態1のダンパ装置10と同様である。また、空気圧制御によるダンピング特性の変更動作に関しても、実施の形態1のダンパ装置10と同様である。ここでは、それらについての説明は省略し、本実施形態のダンパ装置20に特有の動作、具体的には、油量制御によるダンピング特性の変更動作について説明する。
本実施形態のダンパ装置20は、油量制御システムによってバネ室270内の油量を制御することで、間接的にバネ室270内の空気の量を制御することができる。具体的には、バネ室270内の油量を増大させれば、その分、バネ室270の有効容積は減少するので、空気圧が一定であればバネ室270内の空気の量は減少することになる。逆に、バネ室270内の油量を減少させれば、その分、バネ室270の有効容積は増大するので、空気圧が一定であればバネ室270内の空気の量は増大することになる。
このように油量を介してバネ室270内の空気量を制御することにより、バネ室270内の空気が空気バネとして作用する際のバネ定数を制御することができる。具体的には、バネ室270内の空気量を減少させる場合には、空気バネのバネ定数を高くすることができ、空気量を増大させる場合には、空気バネのバネ定数を低くすることができる。空気バネのバネ定数を変化させることで、ダンパ装置20全体のバネ定数を変化させることができる。
図13は、エンジンの出力トルクとシャフト200,220間の捩れ角との関係を、バネ室270内の油量が少ない場合(太線で示す)と、油量が多い場合(細線で示す)とで比較して示す図である。また、各実線は、初期状態での空気圧が大気圧のときを示し、各破線は、空気圧制御により初期状態での空気圧を高めたときを示している。この図に示すように、バネ室270内の油量を制御することで、ダンパ装置20のダンピング特性を変更することができ、さらに、油量制御を空気圧制御に組み合わせることで、ダンパ装置20のダンピング特性をきめ細かく調整することができる。なお、バネ室270内の油量が大きくなるほど、空気圧の調整量に対するダンパ装置20の作動トルク領域の変化の応答性は向上する。
油量制御システムによるバネ室270内の油量の制御は、空気圧制御システムによる空気圧制御とともに、車両の運転状態やエンジンの運転状態に応じて行われる。具体的には、車両が急加速状態でも急制動状態でもなく、また、ABSが作動しうる状態でもないとき、すなわち、車両が通常の状態で走行しているときには、エンジントルクを軸とするマップから目標油量を決定し、実際の油量が目標油量になるように制御弁310や電動ポンプ314の制御を行う。エンジントルクに応じた油量制御を空気圧制御とともに行うことで、ダンパ装置20が効果的に作動するトルク領域を常にエンジンの運転状態に応じたものに制御することができ、こもり音等のエンジンのトルク変動に起因する不具合を確実に防止することができる。
一方、車両が急加速状態のときや車両が急制動状態のときは、バネ室270内の油量は通常運転時の制御範囲を超えて増大され、急加速値或いは急制動値に応じた油量に制御される。油量の増大に伴う空気量の減少によってダンパ装置20のバネ定数が大きくなることで、ダンパ装置20に蓄えられるエネルギ量を減少させるとともに、駆動系の共振周波数を高くすることができる。これにより、急加速時や急制動時におけるサージの発生が防止される。
ABSが作動しうる状態のときには、バネ室270内の油量は最大油量に制御され、バネ室270内は非圧縮性流体とみなすことができる油で満たされる。その結果、両カムプレート230,222は直結に近い状態となり、コイルバネ272の収縮によってダンパ装置20に蓄えられるエネルギ量は僅かになる。これにより、ABSが作動しうる状況でのサージの発生は防止され、車軸の振れを防止して推定車体速度の精度を上げることができ、ABS性能の向上と走行フィーリングの向上とを実現することができる。
このように、車両の運転状態やエンジンの運転状態に応じてバネ室270内の油量を制御することで、ダンパ装置20のダンピング特性を車両の運転状態やエンジンの運転状態に応じたものにすることができる。特に、油量制御を空気圧制御と組み合わせることで、最適なダンピング特性を実現することができる。その結果、従来のダンパ装置では困難であった、通常運転時のこもり音の抑制と、トルク急変時のサージの抑制とを両立させることが可能になった。
実施の形態3.
以下、図面を参照して本発明の実施の形態3について説明する。
[本実施形態のダンパ装置の構成]
図14は、本発明の実施の形態3としてのダンパ装置40の断面構成と油圧制御システムを併せて示す図である。図14に示すように、ダンパ装置40は、駆動軸であるエンジン連結シャフト400と、被駆動軸である変速機連結シャフト410との間に設けられている。エンジン連結シャフト400と変速機連結シャフト410は、ともに同一の回転軸L0を有している。
ダンパ装置40のエンジン側ケーシング402は、エンジン連結シャフト400の先端にエンジン連結シャフト400と一体に設けられ、変速機側ケーシング420は、ボールベアリング422を介して変速機連結シャフト410に回転自在に支持されている。エンジン側ケーシング402は、変速機側ケーシング420の方へ延びてダンパ装置40の胴部を形成する筒部404を有している。エンジン側ケーシング402の筒部404は、ボルト及びナットからなる締結具426を介して変速機側ケーシング420に結合されている。本実施形態では、これらケーシング402,420が、本発明にかかる「第1の回転体」に相当している。
変速機連結シャフト410の先端には、円盤状の変速機側カムプレート412が一体に設けられている。変速機側カムプレート412の裏面(変速機側面)は、ニードルベアリング424を介して変速機側ケーシング420の内側面に接している。本実施形態では、変速機側カムプレート412が、本発明にかかる「第2の回転体」に相当している。
変速機側カムプレート412とエンジン側ケーシング402との間には、変速機側カムプレート412の側から順に、円盤状のエンジン側カムプレート430と、同じく円盤状の油圧受けプレート440とが配置されている。エンジン側カムプレート430も油圧受けプレート440も、ともにその軸中心は回転軸L0に一致している。
エンジン側カムプレート430の外周部とエンジン側ケーシング402の筒部404との間には、コロ438が配置されている。コロ438は、エンジン側カムプレート430のエンジン側ケーシング402に対する軸方向への移動を容易にする一方で、エンジン側カムプレート430のエンジン側ケーシング402に対する軸回りの相対回転を規制している。油圧受けプレート440の外周部とエンジン側ケーシング402の筒部404との間には、シール部材442が配置されている。シール部材442は、油圧受けプレート440とエンジン側ケーシング402との間に形成される油圧室450と、油圧受けプレート440とエンジン側カムプレート430との間に形成されるバネ室454とを気密に分離している。
また、エンジン側カムプレート430の油圧受けプレート440の側の面であって、その径方向の端部には、凹部436が形成されている。油圧受けプレート440のエンジン側カムプレート430の側の面であって、その径方向の端部には、エンジン側カムプレート430の側に突き出た凸部444が形成されている。油圧受けプレート440の凸部444がエンジン側カムプレート430の凹部436に嵌合することで、2つのプレート430,440間の相対回転は規制され、ともにエンジン側ケーシング402と一体回転するようになっている。
エンジン側カムプレート430は、軸方向に厚みを有しており、その油圧受けプレート440側の面には複数のバネ収容ポケット432が形成されている。各バネ収容ポケット432には、コイルバネ452がその伸縮方向を回転軸L0の軸方向に向けて配置されている。コイルバネ452はバネ収容ポケット432からバネ室270内に突き出ており、その先端は油圧受けプレート440に連結されている。コイルバネ452は圧縮バネであって、油圧受けプレート440を基礎にしてエンジン側カムプレート430を変速機側カムプレート412へ向けて付勢している。本実施形態では、エンジン側カムプレート430が、本発明にかかる「第3の回転体」に相当し、コイルバネ452が、本発明にかかる「弾性部材」に相当している。
変速機側カムプレート412のエンジン側カムプレート430に対向する面には、端面カムとしてのカム溝414が形成されている。また、エンジン側カムプレート430の変速機側カムプレート412に対向する面にも、端面カムとしてのカム溝434が形成されている。カム溝414,434の位置関係や形状は、実施の形態1にかかる外側カム溝124,134のそれと同様であるので、ここではその説明は省略する。なお、本実施形態ではカム溝を一重に設けているが、実施の形態1と同様に、外側と内側の二重にカム溝を設けてもよい。勿論、これは他の実施の形態についても同様であるが、より多重にカム溝を設けることもできる。
変速機側カムプレート412のカム溝414と、エンジン側カムプレート430のカム溝434との間には、中間部材としてのトルク伝達ボール416が挟まれている。エンジン側カムプレート430は、コイルバネ452のバネ力によって、トルク伝達ボール416を介して変速機側カムプレート412に押し当てられている。本実施形態では、これら変速機側カムプレート412、エンジン側カムプレート430及びトルク伝達ボール416によって、エンジン連結シャフト400と変速機連結シャフト410との間に生じる回転角度差、つまり、捩れ角をコイルバネ452の伸縮量に変換する変換機構(カム機構)が構成されている。
本実施形態のダンパ装置40は、油圧室450内の油圧を制御する油圧制御システムを備えている。油圧受けプレート440には、コイルバネ452の反力と油圧室450内の油圧とが作用しており、それらの釣り合いによって、ケーシング402,420内での油圧受けプレート440の軸方向位置が決まる。このため、油圧室450内の油圧が変化すれば、それに応じて油圧受けプレート440の軸方向位置が変化し、コイルバネ452の初期縮み量(シャフト400,410間の捩れ角が零のとき、つまり、初期状態にあるときの縮み量)が変化することになる。つまり、ダンパ装置40の油圧制御システムは、本発明にかかる「初期変位量調整手段」に相当している。
エンジン連結シャフト400の軸心には、先端からエンジン側に向けて縦穴406が形成されている。また、エンジン連結シャフト400の側面から軸心に向けて、縦穴406に通じる横穴408が形成されている。エンジン連結シャフト400の側面で横穴408が形成されている部位には、スリーブ460が回転自在に支持されている。スリーブ460は、軸受け等の図示しない静止部材に固定されている。スリーブ460とエンジン連結シャフト400との接触面はシール部材でシールされている。スリーブ460の内周面には周方向に沿って溝462が形成され、エンジン連結シャフト400の側面との間で環状の空間を形成している。前述の横穴408は、この環状の空間に連通している。また、この環状の空間には、スリーブ460に接続された油管464が連通している。
ダンパ装置40の油圧制御システムは、この油管464を介して油圧室450に油を供給し、或いは油圧室450から油を排出することにより、油圧室450内の油圧を制御するように構成されている。以下、ダンパ装置40の油圧制御システムの構成について詳細に説明する。
油管464の他方の端部は制御弁470の出力ポートに接続されている。制御弁470は、その出力ポートと入力ポートとの接続状態を(a),(b),(c)の3つの状態の間で切替えることができる。制御弁470の入力ポートには、油供給管466と油排出管468が接続されている。
制御弁470が接続状態(a)にあるとき、油管464は油供給管466と油排出管468の何れとも接続されない。この状態では、油圧室450内への油の出入りはなく、油圧室450内の油量は一定に保たれる。この場合、油圧室450内の油圧は、コイルバネ452が初期縮み状態にあるときが最小(設定値)であり、コイルバネ452の縮み量が増大するにつれて、バネ力に釣り合うように設定値よりも増大する。しかし、油は非圧縮性流体とみなすことができ、圧力の変化に比較して体積の変化は極めて小さい。したがって、制御弁470が接続状態(a)にある間は、油圧受けプレート440の軸方向位置は一定に保持されることになる。
制御弁470が接続状態(b)にあるときは、油管464は油供給管466に接続される。油供給管466には、油タンク476から油を吸い上げて圧送する電動ポンプ474と、電動ポンプ474で加圧された油を蓄えるバッファタンク472が配置されている。この状態では、加圧された油を油供給管466から油管464へ供給することで、油圧室450内の油圧を上昇させ、コイルバネ452のバネ力が上昇した油圧に釣り合う位置まで、油圧受けプレート440をエンジン側カムプレート430に近づけることができる。つまり、コイルバネ452の初期縮み量を増大させることができる。
制御弁470が接続状態(c)にあるときは、油管464は油排出管468に接続される。油排出管468の端部は大気に開放されているので、油圧室450内の油圧が大気圧よりも高い場合には、油管464から油排出管468へ油を排出して、油圧室450内の油圧を低下させ、コイルバネ452のバネ力が低下した油圧に釣り合う位置まで、油圧受けプレート440をエンジン側カムプレート430から遠ざけることができる。つまり、コイルバネ452の初期縮み量を減少させることができる。
ダンパ装置40の油圧制御システムには、制御装置480が備えられる。制御弁470における接続状態の切り替えは、制御装置480から供給される切替信号によって行われる。制御装置480は、電動ポンプ474の回転数も制御している。制御装置480は、車両の運転状態やエンジンの運転状態に応じて制御弁470の接続状態や電動ポンプ474の回転数を制御することで、油圧室450内の油圧を制御し、ひいてはコイルバネ452の初期縮み量を制御している。
[本実施形態のダンパ装置の動作]
次に、本実施形態のダンパ装置40の動作について説明する。
本実施形態のダンパ装置40のトルクの伝達動作、及びトルク変動の吸収動作に関しては、実施の形態1のダンパ装置10と同様である。ここでは、それらについての説明は省略し、本実施形態のダンパ装置40に特有の動作、具体的には、油圧制御によるダンピング特性の変更動作について説明する。
本実施形態のダンパ装置40は、油圧制御システムによって油圧室450内の油圧を制御することで、コイルバネ452の初期縮み量を制御することができる。コイルバネ452の初期縮み量が変化すれば、シャフト400,410間の捩れ角が零のとき、つまり、初期状態にあるときにダンパ装置40が発生するトルク(初期トルク)も変化する。初期トルクを変化させることで、ダンパ装置40の作動トルク領域を変化させることができる。
この場合、エンジンの出力トルクとシャフト400,410間の捩れ角との関係は、実施の形態1にかかる空気圧制御の場合と同様、図5によって表すことができる。油圧を高めて初期トルクを増大させることで、出力トルクと捩れ角との関係は実線で示す関係から破線で示す関係へと移行し、ダンパ装置40の作動トルク領域は大トルク側へ移動する、つまり、油圧室450内の油圧を制御することで、ダンパ装置40のダンピング特性を容易に変更することができる。
油圧制御システムによる油圧室450内の油圧の制御は、車両の運転状態やエンジンの運転状態に応じて行われる。具体的には、車両が急加速状態でも急制動状態でもなく、また、ABSが作動しうる状態でもないとき、すなわち、車両が通常の状態で走行しているときには、エンジントルクを軸とするマップから目標油圧を決定し、実際の油圧が目標油圧になるように制御弁470や電動ポンプ474の制御を行う。エンジントルクに応じた油圧制御を行うことで、ダンパ装置40が効果的に作動するトルク領域を常にエンジンの運転状態に応じたものに制御することができ、こもり音等のエンジンのトルク変動に起因する不具合を確実に防止することができる。
一方、車両が急加速状態のときや車両が急制動状態のときは、油圧室450内の油圧は通常運転時の制御範囲を超えて増大され、ダンパ装置40の作動トルク領域は通常運転時の作動トルク領域を超えて大トルク側に移動する。その結果、カムプレート430,412間にトルクが入力されたときに生じる捩れ角は小さくなり、コイルバネ452のトルク変動に起因する縮み量も小さくなる。その結果、ダンパ装置40に蓄えられるエネルギ量が減少し、急加速時や急制動時におけるサージの発生が防止される。
ABSが作動しうる状態のときには、制御装置480により電動ポンプ474はその回転数を最大回転数に制御され、油圧室450内の油圧は最大圧力に制御される。油圧室450内の油圧が最大圧力になることで、ダンパ装置40の作動トルク領域は最大位置まで移動する。その結果、両カムプレート430,412は直結に近い状態となり、コイルバネ452の収縮によってダンパ装置40に蓄えられるエネルギ量は僅かになる。これにより、ABSが作動しうる状況でのサージの発生は防止され、車軸の振れを防止して推定車体速度の精度を上げることができ、ABS性能の向上と走行フィーリングの向上とを実現することができる。
このように、車両の運転状態やエンジンの運転状態に応じて油圧室450内の油圧を制御し、ダンパ装置40の作動トルク領域を変化させることで、車両の運転状態やエンジンの運転状態に応じた最適なダンピング特性を実現することができる。その結果、従来のダンパ装置では困難であった、通常運転時のこもり音の抑制と、トルク急変時のサージの抑制とを両立させることが可能になった。
実施の形態4.
以下、図面を参照して本発明の実施の形態4について説明する。
[本実施形態のダンパ装置の構成]
図15は、本発明の実施の形態4としてのダンパ装置50の断面構成を示す図である。図15に示すように、ダンパ装置50は、駆動軸であるエンジン連結シャフト500と、被駆動軸である変速機連結シャフト510との間に設けられている。エンジン連結シャフト500と変速機連結シャフト510は、ともに同一の回転軸L0を有している。
ダンパ装置50のエンジン側ケーシング502は、エンジン連結シャフト500の先端にエンジン連結シャフト500と一体に設けられ、変速機側ケーシング570は、ボールベアリング578を介して変速機連結シャフト510に回転自在に支持されている。エンジン側ケーシング502には、変速機側ケーシング570の方へ延びる筒部504が形成され、変速機側ケーシング570には、エンジン側ケーシング502の方へ延びる筒部572が形成されている。各ケーシング502,570の筒部504,572は、ボルト及びナットからなる締結具576を介して互いに結合されている。本実施形態では、これらケーシング502,570が、本発明にかかる「第1の回転体」に相当している。
変速機連結シャフト510の先端には、スリーブ526が固定されている。スリーブ526の変速機連結シャフト510への固定には、スリーブ526の内周面に形成された内周面と、変速機連結シャフト570の先端周面に形成された外歯とからなる噛合い機構が用いられている。スリーブ526の変速機側の端部には、ドーナツ状の変速機側カムプレート520が一体に形成されている。変速機側カムプレート520の裏面(変速機側面)は、ニードルベアリング574を介して変速機側ケーシング570の内側面に接している。本実施形態では、変速機側カムプレート520が、本発明にかかる「第2の回転体」に相当している。
変速機連結シャフト510の先端及びスリーブ526には、回転軸L0を軸中心とするキャップ556が非接触状態で被されている。このキャップ556の縁部には、ドーナツ状のエンジン側カムプレート550が一体に形成されている。エンジン側カムプレート550の外縁には、エンジン側ケーシング502の方へ延びる筒部558が形成されている。この筒部558とエンジン側ケーシング502の筒部504との間には、その隙間を密閉するシール部材560とコロ562が配置されている。コロ562は、エンジン側カムプレート550のエンジン側ケーシング502に対する軸方向への移動を容易にする一方で、エンジン側カムプレー550のエンジン側ケーシング502に対する軸回りの相対回転を規制している。
エンジン側カムプレート550とエンジン側ケーシング502との間には、密閉空間であるバネ室580が形成されている。このバネ室580には、エンジン連結シャフト500の軸心に形成された縦穴506が通じている。また、この縦穴506には、エンジン連結シャフト500の側面から軸心に向けて形成された横穴508が通じている。エンジン連結シャフト500の側面で横穴508が形成されている部位には、スリーブ590が回転自在に支持されている。スリーブ590は、軸受け等の図示しない静止部材に固定されている。スリーブ570とエンジン連結シャフト500との接触面はシール部材でシールされている。スリーブ590の内周面には周方向に沿って溝592が形成され、エンジン連結シャフト500の側面との間で環状の空間を形成している。前述の横穴508は、この環状の空間に連通している。また、この環状の空間には、スリーブ590に接続された空気管594が連通している。
バネ室580内には、多数のコイルバネ582がその伸縮方向を回転軸L0の軸方向に向けて配置されている。コイルバネ582は、エンジン側カムプレート550の裏面(エンジン側面)をエンジン側ケーシング502に連結している。コイルバネ582は圧縮バネであり、エンジン側カムプレート550を変速機側カムプレート520へ向けて付勢している。本実施形態では、エンジン側カムプレート550が、本発明にかかる「第3の回転体」に相当し、コイルバネ582が、本発明にかかる「弾性部材」に相当している。
変速機側カムプレート520とエンジン側カムプレート550との間には、さらに、2つの中間カムプレート530,540が軸方向に並んで配置されている。中間カムプレート530,540はともにドーナツ状であり、それぞれがスリーブ526に回転自在に支持されている。本実施形態では、これら中間カムプレート530,540が、本発明にかかる「複数の中間回転体」に相当している。
変速機側カムプレート520の第1中間カムプレート530に対向する面には、端面カムとしてのカム溝522,524が形成されている。また、第1中間カムプレート530の変速機側カムプレート520に対向する面にも、端面カムとしてのカム溝532,534が形成されている。変速機側カムプレート520の外側カム溝522と、第1中間カムプレート530の外側カム溝532との間には、中間部材としてのトルク伝達ボール600が挟まれている。変速機側カムプレート520の内側カム溝524と、第1中間カムプレート530の内側カム溝534との間にも、中間部材としての別のトルク伝達ボール602が挟まれている。これら変速機側カムプレート520、第1中間カムプレート530及びトルク伝達ボール600,602によって、第1カム機構が構成されている。各カム溝522,524,532,534はトルク伝達ボール600,602の移動方向に一定の勾配を有し、その終端にはトルク伝達ボール600,602を止めるためのストッパが形成されている。
第1中間カムプレート530の第2中間カムプレート540に対向する面には、端面カムとしてのカム溝536,538が形成されている。また、第2中間カムプレート540の第1中間カムプレート530に対向する面にも、端面カムとしてのカム溝542,544が形成されている。第1中間カムプレート530の外側カム溝536と、第2中間カムプレート540の外側カム溝542との間には、中間部材としてのトルク伝達ボール604が挟まれている。第1中間カムプレート530の内側カム溝538と、第2中間カムプレート540の内側カム溝544との間にも、中間部材としての別のトルク伝達ボール606が挟まれている。これら第1中間カムプレート530、第2中間カムプレート540及びトルク伝達ボール604,606によって、第2カム機構が構成されている。各カム溝536,538,542,544はトルク伝達ボール604,606の移動方向に一定の勾配を有し、その終端にはトルク伝達ボール604,606を止めるためのストッパが形成されている。なお、この第2カム機構におけるカム溝536,538,542,544の勾配は、前記の第1カム機構におけるカム溝522,524,532,534の勾配よりも急に形成されている。
第2中間カムプレート540のエンジン側カムプレート550に対向する面には、端面カムとしてのカム溝546,548が形成されている。また、エンジン側カムプレート550の第2中間カムプレート540に対向する面にも、端面カムとしてのカム溝552,554が形成されている。第2中間カムプレート540の外側カム溝546と、エンジン側カムプレート550の外側カム溝552との間には、中間部材としてのトルク伝達ボール608が挟まれている。第2中間カムプレート540の内側カム溝548と、エンジン側カムプレート550の内側カム溝554との間にも、中間部材としての別のトルク伝達ボール610が挟まれている。これら第2中間カムプレート540、エンジン側カムプレート550及びトルク伝達ボール608,610によって、第3カム機構が構成されている。各カム溝546,548,552,554はトルク伝達ボール608,610の移動方向に一定の勾配を有し、その終端にはトルク伝達ボール608,610を止めるためのストッパが形成されている。なお、この第3カム機構におけるカム溝546,548,552,554の勾配は、前記の第2カム機構におけるカム溝536,538,542,544の勾配よりも急に形成されている。
上記のように、本実施形態では、3つのカム機構(第1、第2、第3カム機構)が回転軸L0の軸方向に直列に並んで配置されている。これら3つのカム機構の集合体が本発明にかかる「カム機構」に相当し、これら3つのカム機構によって、エンジン連結シャフト500と変速機連結シャフト510との間に生じる回転角度差、つまり、捩れ角をコイルバネ582の伸縮量に変換する変換機構が構成されている。
本実施形態のダンパ装置50は、バネ室580内の空気圧を制御する空気圧制御システムを備えている。ダンパ装置50の空気圧制御システムは、前述の空気管594を介してバネ室580に空気を供給し、或いはバネ室580から空気を排出することにより、バネ室580の空気圧を制御するように構成されている。空気圧制御システムの構成は、実施の形態1にかかる空気圧制御システムと同じものを用いることができるので、ここではその説明は省略するものとする。
[本実施形態のダンパ装置の動作]
次に、本実施形態のダンパ装置50の動作について説明する。
エンジンからエンジン連結シャフト500にトルクが入力され、エンジン連結シャフト500が回転すると、エンジン連結シャフト500と一体回転するエンジン側カムプレート550と変速機側カムプレート520との間に捩れが生じる。このとき、まず、最も緩やかな勾配のカム溝522,524,532,534を有する第1カム機構において、第1中間カムプレート530が変速機側カムプレート520に対して捩れていく。カムプレート530,520間の捩れに伴い各カム溝522,524,532,534上でのトルク伝達ボール600,602の位置が変化することで、カムプレート530,520間の距離は拡大していく。
第1カム機構においてカムプレート530,520間の捩れ角が最大捩れ角に達すると、次に、2番目に緩やかな勾配のカム溝536,538,542,544を有する第2カム機構において、第2中間カムプレート540が第1中間カムプレート530に対して捩れていく。このとき、第1カム機構のカムプレート530,520間の捩れ角は最大捩れ角に維持される。カムプレート540,530間の捩れに伴い各カム溝536,538,542,544上でのトルク伝達ボール604,606の位置が変化することで、カムプレート540,530間の距離は拡大していく。
第2カム機構においてカムプレート540,530間の捩れ角が最大捩れ角に達すると、さらに、最も急な勾配のカム溝546,548,552,554を有する第3カム機構において、エンジン側カムプレート550が第2中間カムプレート540に対して捩れていく。このとき、第1カム機構のカムプレート530,520間の捩れ角、及び、第2カム機構のカムプレート540,530間の捩れ角は、それぞれ最大捩れ角に維持される。カムプレート550,540間の捩れに伴い各カム溝546,548,552,554上でのトルク伝達ボール608,610の位置が変化することで、カムプレート550,540間の距離は拡大していく。
上記のように、本実施形態のダンパ装置50では、エンジンからエンジン連結シャフト500にトルクが入力されたとき、3つのカム機構が勾配の緩やかな順に作動し、各カムプレート520,530,540,550間の距離が順に拡大していく。カムプレート520,530,540,550間の距離の拡大に伴い、エンジン側カムプレート550とエンジン側ケーシング502との間ではコイルバネ582が圧縮されていく。圧縮されたコイルバネ582からは、その弾性力が反力としてエンジン側カムプレート550に作用する。コイルバネ582の弾性力とカムプレート520,530,540,550間に作用するトルクとが釣り合ったとき、各カムプレート520,530,540,550はそのときの互いの捩れ角を保ちながら一体回転するようになる。これにより、エンジン連結シャフト500から変速機連結シャフト510へエンジンの出力トルクが伝達される。
図16は、エンジンの出力トルクとシャフト500,520間の捩れ角との関係を示す図である。この図に示す第1乃至第3カム機構のそれぞれの作動範囲が、実施の形態1のダンパ装置10でとりうる最大捩れ角に相当する。つまり、本実施形態のダンパ装置50によれば、実施の形態1のダンパ装置10に比較して、約3倍の捩れ角を実現することができる。このような極めて広角度のダンパ装置50によれば、エンジンの出力トルク範囲をより広くカバーしつつ、こもり音等の不具合の原因となるトルク変動を滑らかに吸収することができる。
なお、本実施形態のダンパ装置50は、空気圧制御システムによってバネ室580内の空気圧を制御することで、車両の運転状態やエンジンの運転状態に応じた最適なダンピング特性を実現することができる。空気圧制御システムによる空気圧の制御方法は実施の形態1と同様であるので、ここでは、その説明は省略するものとする。
実施の形態5.
以下、図面を参照して本発明の実施の形態5について説明する。
[本実施形態のダンパ装置の構成]
図17は、本発明の実施の形態4としてのダンパ装置52の断面構成を示す図である。本実施形態のダンパ装置52は、実施の形態4のダンパ装置50に新たな技術的特徴を追加したものであり、その基本構成はダンパ装置50のそれと同じである。図17において、実施の形態4のダンパ装置50と同じ部品及び部位については同一の符号を付している。また、以下では、実施の形態4において既に説明した構成についての重複する説明は省略し、本実施形態で新たに追加した技術的特徴部について説明するものとする。
図17に示すように、本実施形態のダンパ装置52では、第1カム機構を構成する変速機側カムプレート520と第1中間カムプレート530との間に、ガイドプレート700が配置されている。ガイドプレート700はドーナツ状に形成され、中央の穴を通るスリーブ526に対して回転自在に設けられている。
図18はガイドプレート700の平面図である。この図に示すように、ガイドプレート700には複数のボール用穴704,706が開けられている。外側の3つのボール用穴704は同一円周上に等間隔に開けられ、ガイドプレート700が両カムプレート520,530間に配置されるとき、各ボール用穴704にはトルク伝達ボール600が配置される。内側の3つのボール用穴706も同一円周上に等間隔に開けられ、ガイドプレート700が両カムプレート520,530間に配置されるとき、各ボール用穴706にはトルク伝達ボール602が配置される。これにより、各トルク伝達ボール600,602は、ガイドプレート700によって回転自在に支持されて互いの相対位置を固定されている。ガイドプレート700は、本発明にかかる「位置決め部材」に相当している。
ガイドプレート700の外周縁には円筒歯車702が回転自在に取り付けられている。円筒歯車702としては、例えば平歯車やかさば歯車を用いることができる。図18では等間隔に3箇所に円筒歯車702が取り付けられている。図19は円筒歯車702を図18のB方向から見た図であり、円筒歯車702のガイドプレート700への取り付け形態を示している。この図に示すように、ガイドプレート700には軸708が固定されている。この軸708は回転軸L0に直交している。円筒歯車702はこの軸708に回転自在に支持されている。
図20は、ガイドプレート700が両カムプレート520,530間に配置されたときの状態を示す図である。両カムプレート520,530の対向面の外周部には円筒歯車722の軌道に沿って弧状の歯車740,742が形成されている。これら歯車740,742としては、例えばフェースギヤを用いることができる。変速機側カムプレート520に形成される歯車740は、同じく変速機側カムプレート520に形成されるカム溝522と同じ勾配率(単位回転角度あたりの勾配角度)に形成されている。また、第1中間カムプレート530に形成される歯車742は、同じく第1中間カムプレート530に形成されるカム溝532と同じ勾配率に形成されている。カム溝522,532間にトルク伝達ボール600が挟まっている状態において、円筒歯車702は両歯車740,742と噛み合っている。
また、図17に示すように、第2カム機構を構成する第1中間カムプレート530と第2中間カムプレート540との間には、ガイドプレート710が配置されている。ガイドプレート710はドーナツ状に形成され、中央の穴を通るスリーブ526に対して回転自在に設けられている。このガイドプレート710にも複数のボール用穴が開けられており、トルク伝達ボール604,606はボール用穴に配置されて互いの相対位置を固定されている。
ガイドプレート710の内周縁には複数個の円筒歯車712が回転自在に取り付けられている。円筒歯車712のガイドプレート710への取り付け形態は、図19に示す円筒歯車702のガイドプレート700への取り付け形態と同様である。両カムプレート530,540の対向面の内周部には、円筒歯車712の軌道に沿って円筒歯車712と噛み合う弧状の歯車が形成されている。
また、第3カム機構を構成する第2中間カムプレート540とエンジン側カムプレート550との間には、ガイドプレート720が配置されている。ガイドプレート720はドーナツ状に形成され、中央の穴を通るスリーブ526に対して回転自在に設けられている。このガイドプレート720にも複数のボール用穴が開けられており、トルク伝達ボール608,610はボール用穴に配置されて互いの相対位置を固定されている。
ガイドプレート720の外周縁には複数個の円筒歯車722が回転自在に取り付けられている。円筒歯車722のガイドプレート720への取り付け形態は、図19に示す円筒歯車702のガイドプレート700への取り付け形態と同様である。両カムプレート540,550の対向面の外周部には、円筒歯車722の軌道に沿って円筒歯車722と噛み合う弧状の歯車が形成されている。
[本実施形態のダンパ装置の動作]
本実施形態のダンパ装置52は、その基本構成をダンパ装置50と同じとすることから、その動作も基本的にはダンパ装置50のそれと同じである。以下では、実施の形態4において既に説明した動作については重複する説明は省略し、本実施形態で新たに追加した技術的特徴部に関連する動作について説明するものとする。
エンジンからのトルクの入力による第1カム機構の作動時には、カムプレート520,530間の捩れに伴い各カム溝522,524,532,534上でのトルク伝達ボール600,602の位置が変化する。このとき、各トルク伝達ボール600,602はガイドプレート700によって互いの相対位置を固定されているので、全てのトルク伝達ボール600,602は、同じ回転角度だけカムプレート520,530に対して相対回転する。また、ガイドプレート700に設けられた円筒歯車702が各カムプレート520,530に形成された歯車740,742に噛み合っているので、各カムプレート520,530はトルク伝達ボール600,602に対して常に逆方向に同じ回転角度だけ回転する。
第2カム機構の作動時には、カムプレート530,540間の捩れに伴い各カム溝536,538,542,544上でのトルク伝達ボール604,606の位置が変化する。各トルク伝達ボール604,606はガイドプレート710によって互いの相対位置を固定されているので、全てのトルク伝達ボール604,606は、同じ回転角度だけカムプレート530,540に対して相対回転する。また、ガイドプレート710に設けられた円筒歯車712が各カムプレート530,540に形成された歯車に噛み合っているので、各カムプレート530,540はトルク伝達ボール604,606に対して常に逆方向に同じ回転角度だけ回転する。
また、第3カム機構の作動時には、カムプレート540,550間の捩れに伴い各カム溝546,548,552,554上でのトルク伝達ボール608,610の位置が変化する。各トルク伝達ボール608,610はガイドプレート720によって互いの相対位置を固定されているので、全てのトルク伝達ボール608,610は、同じ回転角度だけカムプレート540,550に対して相対回転する。また、ガイドプレート720に設けられた円筒歯車722が各カムプレート540,550に形成された歯車に噛み合っているので、各カムプレート540,550はトルク伝達ボール608,610に対して常に逆方向に同じ回転角度だけ回転する。
各カム機構の作動時、工作精度や衝撃等の外乱の影響によりトルク伝達ボール間の相対位置にずれが生じると、カムプレート間の滑らかなトルク伝達が阻害されてダンパ性能が低下してしまう。また、一部のトルク伝達ボールにのみ過大な力が作用することとなって、トルク伝達ボールの寿命の低下を招いてしまう。この点に関し、本実施形態のダンパ装置52では、各トルク伝達ボールはガイドプレートによって互いの相対位置を固定されているので、カム機構の作動時にトルク伝達ボール間の相対位置のずれが生じることはない。また、ガイドプレートに設けられた円筒歯車と各カムプレートに形成された歯車とが噛み合うことで、カム機構の加工精度によらず、トルク伝達ボールと各カムプレートとの相対位置の位置決め、及び、対向するカムプレート間の相対位置の位置決めを確実に行うことができる。
本実施形態の技術的特徴であるガイドプレートと歯車は、実施の形態1乃至3の何れのダンパ装置にも組み合わせることができる。なお、本実施形態ではガイドプレートに設ける歯車を円筒歯車としているが、円筒歯車の代わりに傘歯車を用いることもできる。また、歯車を省略してガイドプレートのみを設けるようにしてもよい。ガイドプレートのみでも、少なくとも各トルク伝達ボール間の相対位置は固定することができる。
実施の形態6.
以下、図面を参照して本発明の実施の形態6について説明する。
実施の形態1乃至5では、カムプレート間のトルク伝達手段としてボールを用いているが、ボールの代わりにローラを用いることもできる。ローラを用いることで、ボールを用いる場合よりもトルクの伝達容量を大きくすることができる。その場合、実施の形態5のように、トルク伝達ローラと各カムプレートとの相対位置の位置決め、及び、対向するカムプレート間の相対位置の位置決めを確実に行うことが可能な構成とするのがより好ましい。図21は、本発明の実施の形態6にかかるカム機構の一部を示す平面図である。以下に説明する本実施形態にかかるカム機構は、実施の形態1乃至4の何れのダンパ装置にも組み合わせることができる。
図21に示すように、カムプレート800には、その周方向に沿って端面カムとしてのカム溝802が形成されている。トルク伝達ローラ810は、カムプレート800上にダンパ装置の回転軸に直交して配置され、カム溝802に沿って転がるようになっている。図21では省略しているが、カム溝802は複数形成され、各カム溝802に対応して複数のトルク伝達ローラ810がカムプレート800上に配置されている。
また、カムプレート800にはカム溝802の外周に沿って歯車804が形成されている。この歯車804には、円筒歯車812が噛み合わされている。円筒歯車812はトルク伝達ローラ810の軸に回転自在に取り付けられ、トルク伝達ローラ810がカム溝802に沿って転がるのに連動して歯車804上を転がるようになっている。円筒歯車812としては、例えば平歯車やかさば歯車を用いることができる。カムプレート800に形成する歯車804としては、例えばフェースギヤを用いることができる。
なお、図21では省略しているが、カム機構は、カムプレート800との間でトルク伝達ローラ810を挟む別のカムプレートを備えている。このカムプレートにもカムプレート800と同じくカム溝と歯車が形成されている。図21中に二点差線で示すように、図示しないカムプレートとカムプレート800との間には、複数のトルク伝達ローラ810間の相対位置を固定するガイドプレート806が配置される。ただし、全てのトルク伝達ローラ810に円筒歯車812が取り付けられている場合には、円筒歯車812によって位置決めが行われるのでガイドプレート806は省略してもよい。
本実施形態にかかるカム機構によれば、トルク伝達ローラ810に設けられた円筒歯車812とカムプレート800に形成された歯車804とが噛み合うことで、カム機構の加工精度によらず、トルク伝達ローラ810とカムプレート800との相対位置の位置決め、及び、対向するカムプレート間の相対位置の位置決めを確実に行うことができる。
なお、本実施形態ではローラに取り付ける歯車を円筒歯車としているが、円筒歯車の代わりに傘歯車を用いることもできる。
実施の形態7.
以下、図面を参照して本発明の実施の形態7について説明する。
本実施形態にかかるカム機構は、実施の形態6と同じく、カムプレート間のトルク伝達手段としてローラを用いている。実施の形態6では、ローラに歯車を回転自在に取り付けていたのに対し、本実施形態にかかるカム機構は、ローラ自体を歯車化したことに特徴がある。図22は、本発明の実施の形態7にかかるカム機構の一部を示す斜視図である。以下に説明する本実施形態にかかるカム機構は、実施の形態1乃至4の何れのダンパ装置にも組み合わせることができる。
図22に示すように、トルク伝達ローラ830の周面には歯車832が形成されている。この歯車832は、その歯筋がトルク伝達ローラ830の軸に対して捩れを有するはすば歯車として構成されている。歯車832の歯筋の捩れは、トルク伝達ローラ830の両端部間で少なくも1ピッチのずれが生じるように設ける。図22ではトルク伝達ローラ830の両端部間に2ピッチのずれが付けられている。
カムプレート820にはトルク伝達ローラ830の軌道に沿って弧状のカム溝822が形成されている。カム溝822には歯車832と噛み合う歯車824が形成されている。この歯車824にも、トルク伝達ローラ830の周面に形成される歯車832に対応して捩れが付けられている。トルク伝達ローラ830は、その周面の歯車832を歯車824に噛み合わせながらカム溝802に沿って転がるようになっている。
トルク伝達ローラ830がカム溝802に沿って転がるとき、歯車832と歯車824との間の噛み合い角θは周期的に変化する。しかし、歯車832の歯筋には上記のように捩れが付けられているので、下記の式(1)に示すトルク伝達ローラ830の長手方向における平均噛み合い角θaveは一様化され、常にカム溝802の勾配角と同角度に維持される。これにより、トルク伝達ローラ830の回転に伴って、トルク伝達ローラ830とカムプレート820との間の伝達トルクが周期的に変動することは防止される。
なお、図22では省略しているが、カム溝822はカムプレート820に複数形成されて、各カム溝822に対応して複数のトルク伝達ローラ830がカムプレート820上に配置されている。また、図22では省略しているが、カム機構は、カムプレート820との間でトルク伝達ローラ830を挟む別のカムプレートを備えている。このカムプレートにもカムプレート820と同じくカム溝が形成され、そのカム溝には歯車832と噛み合う歯車が形成されている。
本実施形態にかかるカム機構によれば、トルク伝達ローラ830自体が歯車832として形成され、カムプレート820のカム溝822に形成された歯車824と噛み合うことで、カム機構の加工精度によらず、トルク伝達ローラ830とカムプレート820との相対位置の位置決め、及び、対向するカムプレート間の相対位置の位置決めを確実に行うことができる。さらに、トルク伝達ローラ830自体を歯車化することで、歯車を別体に設ける場合よりも小型化及び軽量化が可能になる。
図23及び図24に本実施形態にかかるカム機構の変形例を示す。図23に示すカムプレート820では、カム溝822の内周側縁部と外周側縁部のそれぞれにガイド堤840,842が形成されている。これらガイド堤840,842を設けることで、トルク伝達ローラ830(図22参照)がカムプレート820の径方向へ移動するのを防止し、トルク伝達ローラ830とカムプレート820との相対位置の位置決めを確実にすることができる。
図24に示すトルク伝達ローラ850は、その軸方向にテーパをつけたことに特徴がある。トルク伝達ローラ850の周面には、その歯筋がトルク伝達ローラ850の軸に対して捩れを有する歯車852を形成する。トルク伝達ローラ850のカムプレート上での回転軌跡の内径をR1、外径をR2とすると、トルク伝達ローラ850の内側の端部の径d1と外側の端部の径d2との関係は、R1:R2=d1:d2となるように設定されている。また、図24では省略しているが、カムプレートに形成するカム溝にもトルク伝達ローラ850のテーパに合わせて径方向に傾斜を設けるようにする。これによれば、トルク伝達ローラ850はカムプレート間を滑らかに回転することができる。
その他.
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は上記の各実施形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において変形して実施することもできる。例えば、次のように変形して実施してもよい。
上記の各実施の形態のダンパ装置において、トルクの入力側と出力側とを入れ替えてもよい。また、回転軸L0の軸方向を変位方向とできるならば、コイルバネ以外の弾性部材を配置してもよい。
実施の形態3にかかる油圧室450と油圧制御システムの構成は、他の実施の形態のダンパ装置の構成に組み合わせることができる。また、実施の形態4にかかる複数のカム機構を直列に配置する構成は、他の実施の形態のダンパ装置の構成に組み合わせることができる。なお、実施の形態4では、3つのカム機構を軸方向に直列に配置しているが、直列に配置するカム機構は2つでもよく、4つ以上のカム機構を直列に配置してもよい。