以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する前に、回折光学素子を含む光学系を備える撮像装置で明るい被写体を撮影した場合に、輝度が飽和した被写体像の周辺部に円弧状フレア光による不要光が視認可能なレベルに発生する現象について説明する。
図1は、本発明の実施の形態における光学系の構成例を模式的に示す図である。図1に示すように、光学系200は、負のパワーを持つレンズ201と、正のパワーを持つ回折レンズ202とを備える。
回折レンズ202は、回折光学素子に相当し、互いに材料が異なる第1部材203及び第2部材204を有する。第1部材203の一方の面は、非球面形状に形成されている。また、第1部材203の他方の面には、回折格子206が光軸210を中心に輪帯状に形成されている。回折格子206の表面は、第2部材204によって非球面形状に被覆されている。
このような光学系200を介して、被写体の像が撮像素子208の撮像面209に結像される。撮像面に結像された被写体の像は、撮像素子208に撮影画像として取り込まれる。撮像素子208はCCD(Charge Coupled Device)やCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)などにより構成される。絞り211は、回折レンズ202の像面側に設置され、撮像素子208の撮像面209に入射する光線を調整する。
回折格子206の格子厚dは、(式1)により求められる。
ここで、n1は第1部材203の屈折率を表わし、n2は第2部材204の屈折率を表わす。λは波長である。ここでは、光学系200は、撮像用途の光学系である。そのため、λは、400nmから700nm程度の可視域の波長範囲の値をとる。
mは回折次数である。ここではm=1としている。つまり、回折格子206の格子厚dは、1次回折光の回折効率が高くなるように設計されている。この可視域の波長範囲においてdがほぼ一定値となる屈折率(n1及びn2)を持つ第1部材203及び第2部材204を組合せることにより、回折レンズ202は、可視域の波長範囲全領域で高い1次回折効率を得ることができることが知られている(例えば特許第4077508号公報を参照)。本発明の実施の形態においては、n1及びn2がこのような組合せとなるよう、第1部材203及び第2部材204が用いられる。
図2Aに、図1の光学系200の画角45度付近でのPSFを示す。図2Bに、PSFの不要光成分の分布が見やすいように、図2AのPSFの明るさを調整したPSFを示す。図2A及び図2Bでは、画像中心の左方向が光軸方向である。つまり、画像の左方向に、光軸と撮像面とが交差する位置に対応する画像位置が存在する。なお、PSFとは、光学系の点光源に対する応答を表す関数であり、画像として表すことができる。
図3Aに、図2AのPSFの輝度最大位置周辺部の画像水平方向の輝度推移を示す。図3Aにおいて、縦軸は輝度を表わし、横軸は画像位置を表わしている。図3Bに、図3Aの縦軸のスケールを拡大したときの輝度推移を示す。
図2A〜図3Bに示すように、回折格子を含む光学系に用いて撮影された撮像画像には、輝度の大きい円弧状の不要光が発生する。なお、不要光とは、画像に写ってしまう不要な光である。つまり、不要光とは、本来、画像に写ることが望ましくない光である。この不要光によって画質が劣化する。
本願発明者は、この不要光が、0次、2次の回折光といった設計次数以外の不要次数回折光よりも輝度が大きく、回折格子の各輪帯ピッチの影響により発生することを見出した。具体的には、図2A〜図3Bに示すように、特に光軸以外の画像位置であって有限の画角の画像位置において、明るい被写体像の光軸側に大きな円弧状の不要光が発生することを、実験からも確認できた。特に回折格子の格子厚dが大きい場合には、図3Bに示すように、PSFの最大輝度の位置より光軸側に大きな不要光が生じた。
この大きな不要光は、明るい被写体を撮影することにより得られる撮影画像中の被写体像の位置の輝度が飽和したときに、被写体像の位置よりも光軸側の位置に発生する。このように発生した大きな不要光は、撮影画像に悪影響を及ぼす。
ここで、回折格子の各輪帯ピッチの影響により、円弧状の大きな不要光が発生する原理を説明する。図4に、回折レンズ202に形成された回折格子の輪帯を物体側からみた場合の模式図を示す。図4に示すように、回折格子301が設けられた回折レンズにおいて、回折輪帯302のそれぞれは、同心円状に配置される段差面にはさまれている。
このため、隣り合った2つの回折輪帯302のそれぞれを透過する光は、回折輪帯302の幅(輪帯ピッチP)のスリットを透過する光とみなすことができる。一般に、輪帯ピッチPを小さくすることにより、回折レンズは収差を良好に補正できる。しかし、回折輪帯302の幅が小さくなると、回折レンズを透過する光は、同心円状に配置された非常に狭い幅のスリットを通過する光とみなすことができる。このような場合、段差面の近傍において、光の波面の回りこみ現象が見られるようになる。
図5に、回折格子301によって光が回折する様子を模式的に示す。一般に、非常に狭い幅Pのスリットを透過した光は、無限遠の観測点において回折縞を形成する。これをフラウンホーファー回折という。この回折現象は、正の焦点距離を有するレンズ系を含むことによって、有限距離(例えば焦点面)でも発生する。
本願発明者は、回折輪帯302の幅が小さくなると、各輪帯を透過した光が互いに干渉しあうことにより、図5に示すような、同心円状に広がる縞状フレア光305が発生することを実レンズによる画像評価で確認した。また、光軸に対して斜めに入射し、回折輪帯の一部分のみを通過する光によって、図2A又は図2Bに示すような、円弧状フレア光が発生することがあることを、実レンズによる画像評価で確認した。また、不要次数回折光は特定の波長に対しては発生しないが、円弧状フレア光は設計波長を含め使用波長帯全域で発生することが、詳細な検討により明らかになった。
図6に、蛍光灯を想定して模擬的に作成した光源を示す。図7A及び図7Bに、回折光学素子を含む光学系を介して光源を撮影した撮影画像の一例を示す。図7A及び図7Bの撮影画像は、図6に示す長方形で輝度が均一な光源を、図1の光学系で撮影することにより得られる画像である。また、図7A及び図7Bの撮影画像は、画角45度付近に撮像される蛍光灯の像である。なお、図7A及び図7Bは、図2AのPSFと、図6の被写体画像とを、畳込み積分することにより実際の撮像画像を模擬的に作成した画像である。
図7Aは、撮影画像の輝度飽和レベルを1.0とした場合に、光源像の最大輝度が0.7となるように作成された撮影画像を示す図である。また、図7Bは、撮影画像の輝度飽和レベルを1.0とした場合に、光源像の最大輝度が3.0となるように作成された撮影画像を示す図である。
図7Bでは、撮像面209において輝度が1.0を超える画像位置で、撮影画像の輝度が飽和している。図8A及び図8Bに、図7A及び図7Bそれぞれの撮影画像の中心付近の画像水平方向の輝度推移を示す。図8A及び図8Bでは、いずれも縦軸は輝度を表わし、横軸は画像位置を表わす。
図7A〜図8Bから分かるように、光源像の最大輝度が大きくなるほど、光源像の光軸方向(画像の左方向)の画像位置に二重像のような不要光も大きくなる。図7Aでは目立たない不要光が、図7Bでは視認できる輝度になり、撮影画像に悪影響を及ぼすことが分かる。この二重像のような不要光は、図2AのPSFに生じている、本願発明者が見出した円弧状フレアに相当する。
本発明の一態様に係る画像処理装置は、回折光学素子を含む光学系を介して撮影された撮影画像において輝度が飽和している場合であっても、図7B及び図8Bに示したような、不要光の成分を低減することを目的とする。特に、本発明の実施の形態に係る画像処理装置は、本願発明者が見出した円弧状フレアの特徴である、光源像の光軸側に大きな不要光が発生するという特徴を利用して、撮影画像から不要光の成分を低減する。
具体的には、輝度の大きな不要光となる円弧状フレアの発生位置を撮影画像中で設定し、その位置での輝度を用いて不要光を推定し低減することにより、撮影画像から不要光を低減する。円弧状フレアは、光学構造や画像位置によっては不要次数回折光の5倍や10倍程度の輝度の大きな不要光となる。このため、本発明を用いることにより、不要次数回折光のみを除去する画像処理方法に比べて、適切に不要光を低減することが可能となる。更に、撮影画像中の白色ノイズ等のノイズ輝度の大きさに対する、円弧状フレアの輝度の大きさの比率は、ノイズ輝度に対する不要次数回折光の比率よりも大きくなる。光学構造や画像位置によっては不要次数回折光の場合の5倍や10倍程度比率が大きくなる。したがって、特定の位置での輝度を用いて不要光を推定した場合に、不要次数回折光のみを推定して不要光を除去する従来の画像処理方法に比べて、ノイズ輝度の影響が少ない高い精度での不要光の推定が可能であり、撮影画像に含まれる不要光の成分を適切に低減することができる。
本発明の一態様に係る画像処理装置は、画像中の特定位置の輝度に限定して不要光を推定するため、少ない演算量で不要光を推定することが可能である。
以下で好適な実施の形態を説明する。なお、以下で説明する実施の形態は、いずれも本発明の好ましい一具体例を示す。つまり、以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置及び接続形態、ステップ、ステップの順序などは、本発明の一例であり、本発明を限定する主旨ではない。本発明は、請求の範囲の記載に基づいて特定される。したがって、以下の実施の形態における構成要素のうち、本発明の最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素は、本発明の課題を達成するために必ずしも必要ではないが、より好ましい形態を構成する構成要素として説明される。
(実施の形態1)
以下、本発明の実施の形態1について図面を参照しながら説明する。
図9は、本発明の実施の形態1における撮像装置の機能構成を示すブロック図である。本実施の形態における撮像装置は、撮像部1と、画像処理装置2とを備える。
撮像部1は、回折光学素子を含む光学系を介してCCDやCMOSなどの撮像素子に被写体像を取込むことにより、撮影画像Ir(x,y)を作成する。x及びyは、画像中の垂直方向及び水平方向の位置を表す。
画像処理装置2は、回折光学素子を含む光学系を介して撮影された撮影画像から不要光の成分を低減する。なお、不要光の成分とは、不要光によって形成される像(不要光像)の輝度を示す。
図9に示すように、画像処理装置2は、フレア像推定部5と不要光減算部6とを備える。
フレア像推定部5は、撮影画像Irに含まれる不要光の分布を推定することにより推定フレア像If(x,y)を作成する。不要光減算部6は、撮影画像Irから推定フレア像Ifを減算することにより、不要光の成分が低減された出力画像Io(x,y)を出力する。
フレア像推定部5は、輝度飽和位置検出部10と、フレアモデル作成部11と、フレア位置設定部12と、フレアモデル輝度調整部13とを有する。
輝度飽和位置検出部10は、撮影画像Irで輝度値が所定の値Isaより大きな画像位置を輝度飽和位置として検出する。所定の値Isaは、輝度レベルを、黒が0、白が1.0と表現した場合、例えば0.98と設定されればよい。つまり、所定の値Isaは、被写体が明るすぎて、撮影画像Irの輝度レベルが実質的に飽和していると判断される値が設定される。
そして、輝度飽和位置検出部10は、このように検出された輝度飽和位置を示す光源画像を作成する。具体的には、輝度飽和位置検出部10は、例えば、輝度飽和位置の輝度値を輝度の上限値に設定し、輝度飽和位置以外の画像位置の輝度値を輝度の下限値に設定することにより、光源画像を作成する。
図10に、図7Bに示す撮影画像Irにおいて、輝度飽和位置検出部10が検出した輝度飽和位置を示す。図10に示す光源画像では、輝度飽和した画像位置の輝度値は1.0と表現され、その他の画像位置の輝度値は0と表現されている。図10の光源画像は、図7Bと同様に、画角45度付近の画像である。図10の光源画像において、画像中心から左方向が光軸方向である。
この輝度飽和位置検出部10が検出した図10の輝度飽和位置を示す画像である光源画像Is(x,y)を用いて推定フレア像Ifが作成される。輝度飽和位置は、被写体が明るく写っている部分である。したがって、輝度飽和位置を光源と仮定して推定フレア像を作成するための計算に用いても妥当性を逸しない。
次にフレアモデル作成部11の処理を説明する。フレアモデル作成部11は、光源画像と光学系の光学特性データとに基づきフレアモデル画像を作成する。フレアモデル作成部11は、フーリエ変換部15と、OTF作成部16と、積算部17と、逆フーリエ変換部18とを有する。
フーリエ変換部15は、光源画像IsをFFT(Fast Fourier Transform)などによりフーリエ変換し、複素数データである光源周波数データFs(u,v)を出力する。u及びvは、各複素数データの垂直方向及び水平方向の格納アドレスを表し、各格納アドレスがそれぞれ異なる周波数に対応する。図11Aに、図10の光源画像Isをフーリエ変換した光源周波数データFsの振幅スペクトルを示す。
OTF作成部16は、光源画像Isの画像位置に応じて、PSFをフーリエ変換したOTF(Optical Transfer Function)データFo(u,v)を準備する。OTFデータは、像高毎にあらかじめ保持しておいたPSFを、光源画像Isの画像位置に応じて抽出及び回転し、フーリエ変換することにより作成されればよい。また、OTFデータは、画像位置毎にあらかじめメモリに保持されていてもよい。図11Bに図2AのPSFをフーリエ変換したOTFデータFoの振幅スペクトルを示す。
積算部17は、光源周波数データFsとOTFデータFoとの各周波数要素の複素数を積算し、フレアモデル周波数データFfm(u,v)を作成する。つまり、積算部17は、周波数ごとに、光源周波数データFsとOTFデータFoとの積を算出することにより、フレアモデル周波数データFfm(u,v)を作成する。図11Cに、フレアモデル周波数データFfmの振幅スペクトルを示す。
PSFで表現される、光学系に起因するぼけにより、図11Aの光源周波数データFsに比較して、図11Cのフレアモデル周波数データFfmは、高周波域の振幅が低減している。なお、図11A及び図11Cにおいて、振幅スペクトルの明るさは、見やすくするために、実際の値に同一のゲインをかけて調整されている。
逆フーリエ変換部18は、フレアモデル周波数データFfmを逆フーリエ変換し、フレアモデル画像Ifm’(x,y)を作成する。図12にフレアモデル画像Ifm’を示す。更に、逆フーリエ変換部18は、フレアモデル画像Ifm’のうち、撮影画像Irの輝度飽和位置(光源)の輝度を0に変更することにより、フレアモデル画像Ifmを作成する。このフレアモデル画像Ifmは、フレアモデル画像Ifm’のうち不要光成分のみを残した画像に相当する。図13にフレアモデル画像Ifmを示す。
このように、フレアモデル作成部11は、回折格子に起因する不要光成分を含んだフレアモデル画像Ifmを推定する。撮影画像Irの輝度飽和部(光源)の輝度が飽和している場合、輝度飽和部の実際の輝度が分からない。そのため、不要光成分の輝度値の絶対値は不明である。そこで、フレアモデル作成部11は、不要光成分の相対輝度分布を推定することによりフレアモデル画像Ifmを作成する。
なお、光源画像Is中の光源の画像位置(輝度が1の画像位置)が画像端に近い場合は、フレアモデル画像Ifm中の不要光成分が、光源画像Isの画像サイズの外側にも発生する可能性がある。そのため、フレアモデル作成部11は、光源画像Isの画像サイズを、輝度が0の画像領域を周辺部に追加して拡大するなど、適切に画像サイズを調整して演算を行う。
また、フレアモデル作成部11は、周波数領域上での演算を行っているが、空間領域上で畳込み積分演算により上述した周波数領域上での演算と等価な演算を行ってもよい。つまり、フレアモデル作成部11は、光源画像IsとPSFとを畳込み積分演算することにより、フレアモデル画像Ifm’を作成してもよい。この場合、フレアモデル作成部11は、フーリエ変換部15、OTF作成部16、積算部17、及び逆フーリエ変換部18を有する必要はない。なお、本実施の形態では、フレアモデル作成部11は、演算時間の優位性の観点から、周波数領域上での演算を行っている。
次に、フレア位置設定部12は、回折格子を含む光学系を用いて画像を撮影した場合に、光源位置の光軸側に局所的に大きな不要光が発生することに基づいて、局所的に不要光が大きくなることがあらかじめ分かっているフレア位置(xf,yf)を、輝度飽和位置検出部10で検出済みの輝度飽和位置を用いて設定する。つまり、フレア位置設定部12は、輝度飽和位置から撮影画像上の略光軸方向の画像位置であって輝度飽和位置近傍の予め定められた画像位置をフレア位置として設定する。
本実施の形態では、このフレア位置は、光学系の光学特性データの一例であるPSFにおいて不要光が多い位置として予め定められた位置と対応する画像位置である。具体的には、フレア位置は、輝度飽和位置から撮影画像上の略光軸方向に、PSFにおいて不要光が多い位置として予め定められた位置により特定される距離だけ離れた画像位置である。なお、PSFにおいて不要光が多い位置として予め定められた位置は、例えば、最も輝度が高い位置の近傍にある、不要光の輝度値のピーク位置である。
図14に、本発明の実施の形態1の光学系の画角45度付近におけるPSFを示す。なお、図14に示すPSFでは、輝度分布を見やすくするために輝度が調整されている(図2Bと同一のPSF)。また、図14に示すPSFでは、垂直方向及び水平方向の画素数がそれぞれ256画素である。
PSFの輝度が最も大きな画像位置から、光軸方向(画像中心から左方向)に16画素程度離れた領域(図14の点線で囲まれた領域)に、光学系に含まれる回折格子に起因する大きな不要光が発生している。
図15A及び図15Bに、このPSFを光学特性データとして持つ光学系を介して撮影される被写体を示す。図15Aに第1被写体を示し、図15Bに第2被写体を示す。
第1被写体は、矩形の光源(例えば蛍光灯)を想定して模式的に作成された被写体である。また、第2被写体は、円形の光源を想定して模式的に作成された被写体である。なお、図15Aの被写体は図6の被写体と同一である。
図16A及び図16Bに、図15A及び図15Bのそれぞれの被写体の撮影画像Irを示す。図16A及び図16Bの撮影画像では、全領域でPSFは大きく変動しないと仮定する。
図16A及び図16Bの撮影画像は、図2AのPSFと図15A及び図15Bそれぞれの被写体との畳込み積分を行うことにより模擬的に作成された画像である。なお、被写体が明るいため、被写体が写っている画像位置では輝度が飽和している。また、輝度が飽和している画像位置の光軸側(画像中心から左方向)には、おおきな不要光が発生している。
図17A及び図17Bに、図16A及び図16Bのそれぞれの撮影画像Irの画像中心付近の水平方向の輝度の推移を示す。図17A及び図17Bより、いずれの被写体でも、飽和した画像位置から光軸方向に16画素程度離れた位置(図17A及び図17B中の矢印の位置)で大きな不要光が生じている。
不要光の輝度値のピーク位置は、撮影画像中での光源の幅が大きいほど、輝度が飽和した画像位置に近づく傾向がある。しかし、PSFにおいて大きな不要光が発生する、光源から光軸方向に16画素程度離れた画像位置では、撮影画像においても、不要光のピーク位置からは多少ずれる場合があるものの、被写体によらず常に撮影画像に大きな不要光が生じる。
したがって、フレア位置設定部12は、あらかじめ大きな不要光が発生すると分かっている位置である、輝度飽和位置から光軸方向にフレア距離Dfの画像位置を、フレア位置(xf,yf)として設定する。つまり、フレア位置設定部12は、輝度飽和位置から撮影画像上の略光軸方向に予め定められた距離(フレア距離Df)離れた位置をフレア位置として設定する。
ここではフレア距離Dfは、PSFにおける光源位置から不要光の輝度値のピーク位置までの距離である16画素と予め設定されている。なお、フレア距離Dfは、前述したように光源の幅が大きな被写体ほど不要光のピーク位置が光源の画像位置に近づくことを考慮して、PSFでの光源位置から不要光の輝度値のピーク位置までの距離より少し小さめ(例えば13画素など)に設定されてもよい。その際は、不要光のピーク位置は、想定される被写体を用いた実験やシミュレーションから試行錯誤的に求めればよい。
フレアモデル輝度調整部13は、フレア位置(xf,yf)における、撮影画像の輝度Ir(xf,yf)とフレアモデル画像の輝度Ifm(xf,yf)との関係性に基づいて、フレアモデル画像Ifmの輝度値を調整することにより、推定フレア像If(x,y)を作成する。具体的には、フレアモデル輝度調整部13は、フレア位置(xf,yf)での推定フレア像Ifの輝度が、フレア位置(xf,yf)での撮影画像の輝度Ir(xf,yf)のNf倍(Nf<1)となるように、フレアモデル画像Ifmをゲイン調整し、推定フレア像Ifを作成する。より具体的には、フレアモデル作成部11は、例えば式(2)によって推定フレア像Ifを作成する。
つまり、本実施の形態では、フレア位置における撮影画像の輝度値とフレア位置におけるフレアモデル画像の輝度値との関係性とは、撮影画像の輝度値とフレアモデル画像の輝度値との比に対応する。すなわち、本実施の形態では、フレアモデル輝度調整部13は、フレア位置における撮影画像の輝度値とフレア位置におけるフレアモデル画像の輝度値との比を用いて、フレアモデル画像の輝度をゲイン調整する。
不要光減算部6は、こうして求められた推定フレア像Ifを、撮影画像Irから減算することにより、不要光の成分が低減された出力画像Ioを得る。図18Aに、第1被写体が撮影された撮影画像から不要光の成分が低減された出力画像Ioを示す。また、図18Bに、第2被写体が撮影された撮影画像から不要光の成分が低減された出力画像Ioを示す。ここではNf=0.8に設定している。
図19A及び図19Bに、図18A又は図18Bに示す出力画像Ioの画像中心付近における画像水平方向の輝度推移を示す。図19A及び図19Bにおいて、実線が出力画像Ioの輝度推移を示し、点線が撮影画像Irの輝度推移を示す。第1被写体及び第2被写体は互いに幅が異なる。しかし、いずれの被写体においても、不要光が大幅に低減されている。
図20A及び図20Bに、推定フレア像Ifの輝度推移を示す。実線が推定フレア像Ifの輝度推移、点線が撮影画像Irの輝度推移を示す。ここでは、Nf=0.8であるので、矢印で指し示すフレア位置における推定フレア像の輝度If(xf,yf)が、撮影画像の輝度Ir(xf,yf)の0.8倍となっている。
なお、撮影画像Irに含まれる実際の不要光の輝度分布と、推定フレア像Ifの輝度分布とは、実際の光源形状と本実施の形態で光源と仮定している飽和輝度位置の形状が若干異なるため、厳密には一致しない。したがって、Nfを1.0とすると、実際の不要光の輝度分布と推定フレア像の輝度分布とが異なることにより、過剰な不要光の補正となる領域が発生する。そのため、NfはNf<1.0とすることが望ましい。
撮影環境により実際の不要光の輝度分布と推定フレア像の輝度分布との違いの大きさは異なるので、過剰補正のリスクを考慮して、Nfは0.2〜0.8程度に設定しておくことが好ましい。つまり、フレアモデル輝度調整部13は、フレア位置における推定フレア像の輝度値が、フレア位置における撮影画像の輝度値の0.2倍から0.8倍の範囲となるように、フレアモデル画像の輝度をゲイン調整することが好ましい。Nfが小さくなるほど、不要光の低減効果は小さくなるが、上記の設定範囲であれば撮影画像と比較すると大幅に不要光は低減される。
以上のように、本実施の形態における画像処理装置又は撮像装置によれば、回折格子特有の不要光が大きくなる画像位置において、撮影画像の輝度値とフレアモデル画像の輝度値とを比較することにより、フレアモデル画像の輝度を適切にゲイン調整することができるので、推定フレア像を高精度に作成することが可能となる。このように作成された推定フレア像を撮影画像から減算することにより、撮影画像の輝度が飽和している場合であっても、1回の撮影で得られた撮影画像から適切に不要光を低減することが可能となる。
つまり、本実施の形態における画像処理装置又は撮像装置によれば、本願発明者が見出した回折光学素子を含む光学系において発生する円弧状の大きな不要光の成分を撮影画像から低減することができる。円弧状の大きな不要光は、回折光学素子を含む光学系の光学特性に依存するが、光学系の光学特性が変化しなければ、被写体が変わっても、撮影画像において高い輝度を示す画像位置から不要光が発生する画像位置までの距離は大きくは変化しない。したがって、光学系のPSFにおいて大きな不要光が発生している位置に対応する画像位置であるフレア位置の輝度値に基づいて、フレアモデル画像の輝度をゲイン調整することにより、撮影画像の輝度が飽和している場合であっても、不要光の像を高精度に推定することが可能となる。
なお、本実施の形態では、撮影画像Irの画角45度付近の不要光低減処理についてのみ説明を行ったが、実際の画像全体の処理を行う際には、画像処理装置2は、例えば画像を正方形のブロックに分割し、ブロック毎に上述した画像処理を行えばよい。この際のブロックサイズは、高速なFFTの演算を適用できるように、例えば垂直方向及び水平方向の画素数を各64画素などの2の階乗の大きさとすれば、高速な演算が可能となる。または、フレア像推定部5は、ブロック毎に推定フレア像Ifを求め、不要光減算部6は、最後に画像全体でまとめて不要光減算処理を行ってもよい。
このとき、画像処理装置2は、各ブロック内部ではPSFが大きく変動しないと仮定し、OTFデータFoを各ブロック毎に準備しメモリに保存しておけば、高速に画像処理の演算を行うことが可能となる。更には、輝度飽和位置検出部10は、輝度飽和位置が存在しなかったブロックでは、不要光を低減する必要がないため、不要な演算をしないようにすれば、更に高速に画像処理の演算を行うことが可能となる。
なお、各ブロック毎でPSFが異なるため、フレア位置(xf,yf)を設定する際に用いるフレア距離Dfは、ブロック毎に、当該ブロックのPSFの円弧状フレアに対応させて設定されることは言うまでもない。フレア距離Dfは、予め撮像装置の工場出荷時点でブロック毎もしくは画像位置毎に予め設定されてもよいし、撮影の都度PSFから円弧状フレアの位置を検出して求められてもよい。
図21に、本発明の実施の形態1における撮像装置の動作を示すフローチャートの一例を示す。具体的には、図21は、ブロックごとに推定フレア像を作成する処理の流れを示すフローチャートである。
撮像ステップS101において、撮像部1は、撮影画像Irを作成する。不要光低減ステップS102において、画像処理装置2は、撮影画像Irから不要光を低減した出力画像Ioを出力する。
不要光低減ステップS102中の、ブロック分割ステップS109では、画像処理装置2は、撮影画像Irを、垂直方向及び水平方向の画素が64画素の正方形のブロックなど、PSFが大きく変わらない範囲でブロック分割する。フレア像推定ステップS105では、フレア像推定部5は、ブロック毎に、推定フレア像Ifを作成する。
フレア像推定ステップS105中の輝度飽和位置検出ステップS110では、輝度飽和位置検出部10は、撮影画像Ir中の1つブロックについて、輝度が飽和した画像位置を検出し、光源画像Isを作成する。フレアモデル作成ステップS111では、フレアモデル作成部11は、フレアモデルを作成する。
具体的には、フーリエ変換ステップS115では、フーリエ変換部15は、光源画像Isをフーリエ変換して光源周波数データFsを作成する。OTF作成ステップS116では、OTF作成部16は、OTFデータFoを作成する。積算ステップS117では、積算部17は、光源周波数データFsとOTFデータFoを積算することにより、フレアモデル周波数データFfmを作成する。さらに、逆フーリエ変換ステップS118では、逆フーリエ変換部18は、フレアモデル周波数データFfmを逆フーリエ変換し、フレアモデル画像Ifmを作成する。
フレア位置設定ステップS112では、フレア位置設定部12は、フレア位置(xf,yf)を設定する。フレアモデル輝度調整ステップS113では、フレアモデル輝度調整部13は、式(2)に基づき推定フレア像Ifを作成する。なお、フレアモデル作成ステップS111の前にフレア位置設定ステップS112が行われてもよい。また、フレアモデル作成ステップS111と、フレア位置設定ステップS112とは並列に処理されてもよい。
推定フレア像保存ステップS114では、フレア像推定部5は、作成した推定フレア像Ifを、計算を行ったブロックの推定フレア像としてメモリなどに保存する。なお、輝度飽和位置検出ステップS110で、ブロック中に輝度飽和位置が存在しなかった場合は、画像処理装置2は、そのステップS110以降のステップS114までのステップの処理を省略し、そのブロックでのフレアモデル画像Ifmは作成済み(不要光成分が0)として、ステップS120に進んでもよい。
ステップS120において、まだ推定フレア像Ifの作成処理を行っていないブロックがあると判定された場合は、計算ブロック移動ステップS121では、画像処理装置2は、ブロック位置を移動し、移動後のブロックで推定フレア像Ifを作成する。ステップS120において、すべてのブロックでの推定フレア像Ifの作成処理が終わったと判定された場合は、不要光減算ステップS106では、不要光減算部6は、全ブロックの推定フレア像Ifを、撮影画像Irから減算し、出力画像Ioを作成する。
なお、逆フーリエ変換部18は、フレアモデル画像Ifm’のうち、撮影画像Irの輝度飽和位置(光源)の輝度を0に変更することにより、フレアモデル画像のうち不要光成分のみが残されたフレアモデル画像Ifmを作成している。しかし、逆フーリエ変換部18は、必ずしもフレアモデル画像Ifm’のうち撮影画像Irの輝度飽和位置(光源)の輝度を0にする必要はない。この処理は、撮影画像Irの輝度飽和位置は不要光の減算をしないことを意味している。したがって、逆フーリエ変換部18は、フレアモデル画像Ifm’のうち撮影画像Irの輝度飽和位置(光源)の輝度を0に変更せずに、不要光減算部6が、撮影画像Irの輝度飽和位置(光源)では、推定フレア像Ifを減算しないようにしてもよい。この場合、Ifm=Ifm’となる。つまり、画像処理装置2は、結果的に撮影画像Irの輝度飽和位置では、不要光の減算がされない構成となっていればよい。
なお、逆フーリエ変換部18は、フレアモデル画像Ifm’のうち、撮影画像Irの輝度飽和位置の輝度を0に変更することにより、輝度飽和位置では不要光の減算を行わないようにしているが、更に撮影画像Irの輝度飽和位置の周辺領域の数画素の幅についても不要光の減算を行わないようにしてもよい。つまり、不要光減算部6は、輝度飽和位置と隣接する所定の画素数幅の画像位置では、撮影画像から推定フレア像を減算しないようにしてもよい。すなわち、不要光減算部6は、撮影画像のうち、輝度飽和位置から所定の画素数より離れた画像位置だけ、撮影画像から推定フレア像を減算してもよい。
これは、撮影画像Irの輝度飽和位置を光源と仮定しているが、この仮定した光源形状より実際の光源形状が小さい場合があるからである。そして、このような場合には、輝度飽和位置の周辺部では、推定フレア像Ifの輝度が実際より大きくなり、不要光の低減が過剰になる場合があるためである。画像処理装置2は、撮影画像Irの輝度飽和位置の全周囲の数画素の幅(例えば1〜3画素)についても不要光の減算を行わないことにより、不要光の過剰補正を回避してより自然な出力画像を得ることができる。本実施の形態においては、輝度飽和位置の全周囲の2画素の幅については不要光の減算を行わないようにしている。
また、実際の光源形状と、推定した光源形状とが異なることに起因した過剰な不要光低減を回避するための別の方法として、輝度飽和位置検出部10は、輝度飽和位置から推定した光源形状の周辺部をシュリンクすることにより外形を小さくした光源画像を新たな光源画像Isとして作成してもよい。詳細は、実施の形態2において説明するのでここでは省略する。
なお、本実施の形態では白黒画像での不要光低減の方法を説明したが、上述した不要光低減の方法は、カラー画像にも適用できることは言うまでもない。撮影画像がカラー画像の場合は、画像処理装置2は、R(赤)・G(緑)・B(青)いずれかの色に対して推定フレア像Ifを作成し、別途算出しておいたR・G・Bの色毎の不要光の比率に応じて、その推定フレア像Ifを色毎にゲイン調整すればよい。例えば、フレア像推定部5は、Gの推定フレア像If_gを作成する。このとき、不要光の比率がR・G・Bでおおよそ0.8:1.0:0.6であると予め定められている場合は、フレア像推定部5は、R及びBの推定フレア像をそれぞれ0.8*If_g及び0.6*If_gとして作成する。そして、不要光減算部6は、撮影画像IrのR・G・Bそれぞれの色の画像から、R・G・Bそれぞれの色の推定フレア像を減算すればよい。なお、フレア像推定部5は、R・G・Bの色毎に、推定フレア像を個別に求めてもよいが、この場合はR・G・Bの色毎にPSFを用意する必要があり、また、演算時間も増大する。したがって、フレア像推定部5は、上記のようにR・G・Bのうちいずれかの色の推定フレア像からR・G・Bのうちの他の色の推定フレア像を作成することにより、メモリ量の増大、あるいは演算時間の増大を抑制することができる。
なお、図14及び図2AのPSFの取得方法については、撮像部1の光学系を用いて点光源を実際に撮影することにより円弧状の不要光を含むPSFを取得すればよい。または、光学系の構造をシミュレーションして円弧状の不要光を含むPSFを取得してもよい。
(実施の形態2)
以下、本発明の実施の形態2について図面を参照しながら説明する。本実施の形態における撮像装置の構成は、図9と同様である。ただし、本実施の形態では、フレア位置設定部12とフレアモデル輝度調整部13との処理が実施の形態1と異なる。したがって、フレア位置設定部12とフレアモデル輝度調整部13との処理の説明を中心に以下で説明を行い、その他の処理は実施の形態1と同様であるため詳しい説明を省略する。
図22A及び図22Bに、本実施の形態で用いる撮影画像Ir(x,y)を示す。図22A及び図22Bの撮影画像は、図2AのPSFと図15A及び図15Bの被写体から模擬的に作成されている。図22Aに、第1被写体の撮影画像Irを示し、図22Bに第2被写体の撮影画像Irを示す。
第1被写体は、矩形の光源(例えば蛍光灯)を想定して模式的に作成された被写体である。また、第2被写体は、円形の光源を想定して模式的に作成された被写体である。
図23A及び図23Bに、図22A及び図22Bの被写体1及び被写体2の撮影画像Irの画像中心付近の画像水平方向の輝度推移を示す。図22A及び図22B、図23A及び図23Bでは、矩形の光源及び円形の光源の背景の像が0.2程度の輝度を持つ。本実施の形態における画像処理装置2は、光源の背景に壁などがあり、背景像が輝度を有する場合であっても、光源の不要光を適切に低減することができる。ここでも、図22A及び図22Bの撮影画像は、画角45度付近に第1被写体及び第2被写体が撮影された画像である。
本実施の形態のフレア位置設定部12は、回折格子を含む光学系において局所的に大きな不要光が発生する画像位置であるフレア位置を光学系の光学特性データに基づいて設定する。具体的には、フレア位置設定部12は、第1フレア位置(xf1,yf1)と第2フレア位置(xf2,yf2)とを輝度飽和位置に基づいて設定する。
ここで、第1フレア位置(xf1,yf1)は、局所的に不要光が大きくなることがPSFにおいてあらかじめ分かっている画像位置である。また、第2フレア位置(xf2,yf2)は、不要光が小さくなることがPSFにおいてあらかじめ分かっている画像位置である。つまり、フレア位置設定部12は、輝度飽和位置に対応するPSFにおいて不要光が多い位置として予め定められた第1位置に対応する輝度飽和位置近傍の画像位置と、当該PSFにおいて第1位置よりも不要光が少ない位置として予め定められた第2位置に対応する画像位置とを、フレア位置として設定する。
図24に、本発明の実施の形態2の光学系の画角45度付近におけるPSFを示す(図2Bと同一のPSF)。図22A及び図22Bの撮影画像の画像位置では、全領域でPSFは大きく変動しないものとする。図24に示すPSFでは、垂直方向及び水平方向の画素数がそれぞれ256画素である。
PSFの輝度が最も大きな画像位置から、光軸方向に16画素程度離れた領域(図24の点線で囲まれた領域のうちの右側の領域)に、光学系に含まれる回折格子に起因する大きな不要光が発生している。また、輝度が最も大きな画像位置から、光軸方向に30画素程度離れた領域(図24の点線で囲まれた領域のうちの左側の領域)では、不要光が大幅に小さくなる領域が発生している。回折格子を含む光学系のPSFでは、このように輝度が最も大きな画像位置から光軸方向に、不要光の大きさが急激に変化する領域が生じる。
したがって、フレア位置設定部12は、撮影画像Irの輝度飽和位置から、光軸方向にフレア距離Df1離れた不要光の大きい画像位置を第1フレア位置(xf1,yf1)として設定する。また、フレア位置設定部12は、光軸方向にフレア距離Df2離れた不要光の小さい画像位置を第2フレア位置(xf2,yf2)として設定する。
ここではフレア距離Df1は13画素に設定されており、フレア距離Df2は30画素に設定されている。フレア距離Df2は、不要光が小さな画像位置に設定されればよいので、30画素より大きな値が設定されてもよい。
図23A及び図23Bから分かるように、被写体が変わっても、フレア距離Df1の画像位置では大きな不要光が発生し、フレア距離Df2の画像位置では、フレア距離Df1の画像位置に比較して大幅に小さな不要光しか発生していない。
次に、本実施の形態のフレアモデル輝度調整部13は、フレア位置設定部12が設定した第1フレア位置及び第2フレア位置のそれぞれにおける撮影画像Irの輝度及びフレアモデル画像Ifmの輝度を利用して、フレアモデル画像Ifmの輝度を調整することにより、推定フレア像If(x,y)を作成する。
具体的には、フレアモデル輝度調整部13は、推定フレア像Ifにおける第1フレア位置(xf1,yf1)の輝度値と第2フレア位置(xf2,yf2)輝度値との差分値が、撮影画像Irにおける第1フレア位置(xf1,yf1)の輝度値と第2フレア位置(xf2,yf2)の輝度値との差分値のNf倍(Nf<1)となるように、フレアモデル画像Ifmの輝度をゲイン調整し、推定フレア像Ifを作成する。つまり、フレアモデル輝度調整部13は、光源による不要光が大きな画像位置の輝度と、不要光が小さな画像位置の輝度との差分を用いてフレアモデル画像の輝度をゲイン調整することにより、背景の輝度に影響されずに不要光の大きさを推定することが可能となる。
不要光減算部6は、このように作成された推定フレア像Ifを撮影画像から減算する。これにより、画像処理装置2は、背景に輝度を持つ被写体が撮影された撮影画像から、適切に不要光の輝度分布のみを低減することが可能となる。
具体的にはフレア像推定部5は、以下の式(3)、式(4)及び式(5)によって推定フレア像Ifを作成する。まず、フレアモデル輝度調整部13は、撮影画像Irにおいて、第1フレア位置の輝度であるIr(xf1,yf1)と、第2フレア位置の輝度であるIr(xf2,yf2)との差分Mrを式(3)から求める。
更に、フレアモデル輝度調整部13は、フレアモデル作成部11で作成されたフレアモデル画像Ifmにおいて、第1フレア位置の輝度であるIfm(xf1,yf1)と、第2フレア位置の輝度であるIfm(xf2,yf2)との差分Mfmを式(4)から求める。
フレアモデル輝度調整部13は、こうして求めた撮影画像Irの差分Mrと、フレアモデル画像Ifmの差分Mfmとを用いて、式(5)により推定フレア像Ifを求める。
不要光減算部6は、このように求められた推定フレア像Ifを、撮影画像Irから減算することにより、不要光が低減された出力画像Ioを得る。
図25Aに、不要光が低減された、第1被写体の出力画像Ioを示す。また、図25Bに、不要光が低減された、第2被写体の出力画像Ioを示す。ここではNf=0.8に設定されている。また、図26A及び図26Bに、図25A又は図25Bの画像中心付近の画像水平方向の輝度推移を示す。図26A及び図26Bにおいて、実線が出力画像Ioの輝度推移を示し、点線が撮影画像Irの輝度推移を示す。いずれの被写体においても不要光が大幅に低減されている。
図27A及び図27Bに、第1被写体又は第2被写体の推定フレア像Ifの輝度推移を示す。図27A及び図27Bにおいて、実線が推定フレア像Ifの輝度推移を示し、点線が撮影画像Irの輝度推移を示す。ここでは、Nfが0.8に設定されているため、推定フレア像Ifにおける第1フレア位置(xf1,yf1)の輝度と第2フレア位置(xf2,yf2)の輝度との差分が、撮影画像Irにおける差分の0.8倍となっている。
なお、撮影画像Irに含まれる実際の不要光分布と、推定フレア像Ifの分布は、実際の光源形状と本実施の形態で光源と仮定している飽和輝度位置の形状が多少異なるため、厳密には一致しない。したがって、Nfを1.0とすると、実際の不要光分布と推定フレア像の分布が異なることによる過剰な不要光の補正が生じる領域が発生する場合がある。そのため、NfはN<1.0とすることが望ましい。撮影環境により実際の不要光分布と推定フレア像の分布の差異の大きさは異なるため、過剰補正のリスクを考慮して、Nfは0.2〜0.8程度に設定されることが好ましい。つまり、フレアモデル輝度調整部13は、複数のフレア位置における推定フレア像の輝度値の差分値が、複数のフレア位置における撮影画像の輝度値の差分値の0.2倍から0.8倍の範囲となるように、フレアモデル画像の輝度をゲイン調整することが好ましい。Nfが小さくなるほど、不要光の低減効果は小さくなるが、上記の設定範囲であれば撮影画像と比較すると大幅に不要光は低減される。
以上のように、本実施の形態における画像処理装置又は撮像装置によれば、撮影画像とフレアモデル画像において、回折格子特有の不要光が大きくなる画像位置の輝度値と、不要光が小さな画像位置の輝度値との差分を用いてフレアモデル画像のゲイン調整を行うことができるので、推定フレア像を高精度に推定することが可能となる。このように推定された推定フレア像を撮影画像から減算することにより、撮影画像の輝度が飽和しており、かつ、背景が小さな輝度を有する場合であっても、1回の撮影で得られた撮影画像から適切に不要光を低減することが可能となる。
なお、本実施の形態では、撮影画像Irの画角45度付近の不要光低減処理についてのみ説明を行ったが、実際の画像全体の処理を行う際には、画像処理装置2は、例えば画像を正方形のブロックに分割し、ブロック毎に上述した画像処理を行えばよい。この際のブロックサイズは、高速なFFTの演算を適用できるように、例えば垂直方向及び水平方向の画素数を各64画素などの2の階乗の大きさとすれば、高速な演算が可能となる。または、フレア像推定部5は、ブロック毎に推定フレア像Ifを求め、不要光減算部6は、最後に画像全体でまとめて不要光減算処理を行ってもよい。
このとき、画像処理装置2は、各ブロック内部ではPSFが大きく変動しないと仮定し、OTFデータFoを各ブロック毎に準備しメモリに保存しておけば、高速に画像処理の演算を行うことが可能となる。更には、輝度飽和位置検出部10は、輝度飽和位置が存在しなかったブロックでは、不要光を低減する必要がないため、不要な演算をしないようにすれば、更に高速に画像処理の演算を行うことが可能となる。
なお、各ブロック毎でPSFが異なるため、フレア位置(xf,yf)を設定する際に用いるフレア距離Dfは、ブロック毎に、当該ブロックのPSFの円弧状フレアに対応させて設定されることは言うまでもない。フレア距離Dfは、予め撮像装置の工場出荷時点でブロック毎もしくは画像位置毎に予め設定されてもよいし、撮影の都度PSFから円弧状フレアの位置を検出して求められてもよい。
なお、本実施の形態における撮像装置の動作を示すフローチャートは、図21の実施の形態1のフローチャートと同様であるが、フレア位置設定ステップS112とフレアモデル輝度調整ステップS113との内部処理が異なる。フレア位置設定ステップS112及びフレアモデル輝度調整ステップS113では、本実施の形態のフレア位置設定部12及びフレアモデル輝度調整部13において説明した処理が実施される。なお、フレアモデル作成ステップS111の前にフレア位置設定ステップS112が行われてもよく、また、フレアモデル作成ステップS111と、フレア位置設定ステップS112とは並列に処理されてもよい。
なお、図25Aの本実施の形態による出力画像では、図26Aの輝度推移からもわかるように、図22Aの撮影画像と比較して大幅に不要光が低減されている。しかし、図26Aの光源の光軸側(画像の左方向)の最も不要光の大きな領域の両端では、過剰な不要光の補正により出力画像の輝度が背景よりも小さくなっている。
これは、実際の光源(蛍光灯)の形状と、輝度飽和位置から推定した光源の形状とが異なることに起因している。被写体によっては、このように不要光の過剰な補正が発生する場合があり、出力画像に不自然な輝度分布が生じる場合がある。
このような場合は、輝度飽和位置検出部10は、輝度飽和位置から推定される光源形状の周辺部をシュリンクし、光源画像の外形を小さくすることにより、過剰な補正を低減することができる。つまり、輝度飽和位置検出部10は、輝度飽和位置の集合として形成される光源形状の大きさを縮小することにより得られる画像を光源画像として作成する。
図28に、図10の光源画像Isの外形を1画素ずつシュリンクした光源画像を示す。図10では光源画像の水平方向の幅が9画素であるが、図28では、光源画像の外形が1画素ずつ削除されているため、幅が7画素となっている。この光源画像を新たに光源画像Isとして用いて画像処理を行った際の出力画像Io及び出力画像Ioの中心付近の水平方向の輝度推移を図29A及び図29Bに示す。図29A及び図29Bから分かるように、光源画像をシュリンクすることにより、不要光の過剰な補正が低減され、より自然な出力画像が得られる。シュリンクする画素数はここでは1画素としたが、最適な値は撮影環境により異なるため、想定される撮影環境に応じて決めればよい。
なお、実施の形態1と同様に、逆フーリエ変換部18は、フレアモデル画像Ifm’のうち、撮影画像Irの輝度飽和位置の輝度を0に変更することにより、輝度飽和位置では不要光の減算を行わないようにしているが、更に撮影画像Irの輝度飽和位置の全周囲の数画素の幅についても不要光の減算を行わないようにしてもよい。これは、撮影画像Irの輝度飽和位置を光源と仮定しているが、この仮定した光源形状より実際の光源形状が小さい場合があるからである。そして、このような場合には、輝度飽和位置の周辺部では、推定フレア像Ifの輝度が実際より大きくなり、不要光の低減が過剰になる場合があるためである。画像処理装置2は、撮影画像Irの輝度飽和位置の全周囲の数画素の幅(例えば1〜3画素)についても不要光の減算を行わないことにより、不要光の過剰補正を回避してより自然な出力画像を得ることができる。本実施の形態においては、輝度飽和位置の全周囲の2画素の幅については不要光の減算を行わないようにしている。
なお、実施の形態1と同様に、本実施の形態では白黒画像での不要光低減の方法を説明したが、上述した不要光低減の方法は、カラー画像にも適用できることは言うまでもない。撮影画像がカラー画像の場合は、画像処理装置2は、R(赤)・G(緑)・B(青)いずれかの色に対して推定フレア像Ifを作成し、R・G・Bの色毎の不要光の比率に応じて、その推定フレア像Ifを色毎にゲイン調整すればよい。例えば、フレア像推定部5は、Gの推定フレア像If_gを作成する。このとき、不要光の比率がR・G・Bでおよそ0.8:1.0:0.6であると予め定められている場合は、フレア像推定部5は、R及びBの推定フレア像をそれぞれ0.8*If_g及び0.6*If_gとして作成する。そして、不要光減算部6は、撮影画像IrのR・G・Bそれぞれの色の画像から、R・G・Bそれぞれの色の推定フレア像を減算すればよい。なお、フレア像推定部5は、R・G・Bの色毎に、推定フレア像を個別に求めてもよいが、この場合はR・G・Bの色毎にPSFを用意する必要があり、また、演算時間も増大する。したがって、フレア像推定部5は、上記のようにR・G・Bのうちいずれかの色の推定フレア像からR・G・Bのうちの他の色の推定フレア像を作成することにより、メモリ量の増大、あるいは演算時間の増大を抑制することができる。
なお、図24及び図2AのPSFの取得方法については、撮像部1の光学系を用いて点光源を実際に撮影することにより円弧状の不要光を含むPSFを取得すればよい。または、光学系の構造をシミュレーションして円弧状の不要光を含むPSFを取得してもよい。
なお、本実施の形態において、フレア位置設定部12は、2点のフレア位置(第1フレア位置及び第2フレア位置)を設定していたが、3点以上のフレア位置を設定してもよい。3点以上のフレア位置が設定された場合であっても、フレア位置設定部12は、3点以上のフレア位置における撮影画像の輝度値の差分値と、3点以上のフレア位置におけるフレアモデル画像の輝度値の差分値との比を用いて、フレアモデル画像の輝度をゲイン調整すればよい。具体的には、フレア位置設定部12は、各フレア位置間の撮影画像の輝度値の差分値の代表値(例えば、平均値又は最大値など)と、各フレア位置間のフレアモデル画像の輝度値の差分値の代表値との比を用いて、フレアモデル画像の輝度をゲイン調整すればよい。
以上、本発明の一態様に係る画像処理装置又は撮像装置について、実施の形態に基づいて説明したが、本発明は、これらの実施の形態に限定されるものではない。本発明の趣旨を逸脱しない限り、当業者が思いつく各種変形を本実施の形態に施したもの、あるいは異なる実施の形態における構成要素を組み合わせて構築される形態も、本発明の範囲内に含まれる。
例えば、上記実施の形態1及び2において、フレアモデル作成部11は、フーリエ変換部15と、OTF作成部16と、積算部17と、逆フーリエ変換部18とを有していたが、上述したように空間領域においてフレアモデル画像を作成する場合には、これらの処理部を有する必要はない。
また、上記実施の形態1または2における画像処理装置2が備える構成要素の一部または全部は、1個のシステムLSI(Large Scale Integration:大規模集積回路)から構成されているとしてもよい。例えば、画像処理装置2は、フレア像推定部5と不要光減算部6とを有するシステムLSIから構成されてもよい。
システムLSIは、複数の構成部を1個のチップ上に集積して製造された超多機能LSIであり、具体的には、マイクロプロセッサ、ROM(Read Only Memory)、RAM(Ramdom Access Memory)などを含んで構成されるコンピュータシステムである。前記ROMには、コンピュータプログラムが記憶されている。前記マイクロプロセッサが、前記コンピュータプログラムに従って動作することにより、システムLSIは、その機能を達成する。
なお、ここでは、システムLSIとしたが、集積度の違いにより、IC、LSI、スーパーLSI、ウルトラLSIと呼称されることもある。また、集積回路化の手法はLSIに限るものではなく、専用回路又は汎用プロセッサで実現してもよい。LSI製造後に、プログラムすることが可能なFPGA(Field Programmable Gate Array)、あるいはLSI内部の回路セルの接続や設定を再構成可能なリコンフィギュラブル・プロセッサを利用してもよい。
さらには、半導体技術の進歩又は派生する別技術によりLSIに置き換わる集積回路化の技術が登場すれば、当然、その技術を用いて機能ブロックの集積化を行ってもよい。バイオ技術の適用等が可能性としてありえる。
また、本発明は、このような特徴的な処理部を備える画像処理装置として実現することができるだけでなく、画像処理装置に含まれる特徴的な処理部をステップとする画像処理方法として実現することもできる。また、画像処理方法に含まれる特徴的な各ステップをコンピュータに実行させるコンピュータプログラムとして実現することもできる。そして、そのようなコンピュータプログラムを、CD−ROM(Compact Disc Read Only Memory)等のコンピュータ読取可能な非一時的な記録媒体あるいはインターネット等の通信ネットワークを介して流通させることができるのは、言うまでもない。