JP4983918B2 - レーザ加工方法およびオイルリング用線材 - Google Patents
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Description
特許文献1におけるレーザ加工方法を図9A,図9Bに示す。特許文献1は、加工対象物の加工箇所に対して、図9Aに示すように、レーザ光とアシストガスを照射して加工を行う加工工程と、図9Bに示すように、前記加工箇所のドロスを除去するために、再度前記加工箇所に前記レーザ光とアシストガスを照射してドロス除去を行うドロス除去工程とを含む技術思想を開示している。この技術の目的は、加工形状の精度を向上させることにあり、技術的特徴は、加工面即ち孔の側壁に付着したドロスを吹き飛ばして除去する点にある。
また、特許文献3におけるレーザ加工方法は、対象物の被加工部分にレーザ光を照射して加工した後、被加工部分を含む周辺領域にレーザ光を照射して加熱し、被加工部分近傍に付着した昇華物からなる付着物を溶融させ、ワークの母材と一体化させることに技術的特徴を有しており、ガラスの切断に有効であるとされている。
また、特許文献2においては、表面に付着していたノロを溶融させ高圧ガスで吹き飛ばすのであるが、ノロは孔周辺からは排除されるにしても、表面の別の場所に再付着したり、孔を通過して背面に付着したりする恐れがあり、表面または背面から突起物を除去するという点では信頼性に欠ける。また、特許文献3においては、昇華物のように付着物が微小体に対して母材に溶け込む作用を利用しているが、バリやドロスのような、エッジ領域に形成される突起物に対しての作用は考慮されていない。
エッジを有し、エッジ領域に突起物が存在する部材の、前記エッジを挟んで交差する二つの面のうち、前記突起物が存在する一方の面と前記エッジ領域にレーザ光を照射して、前記突起物および前記エッジ領域を溶融させ、生じた溶融体を他方の面に移動させることを特徴とするエッジを有する部材のレーザ加工方法。
前記溶融体は、重力により移動させることができる。
前記溶融体は、アシストガスの運動エネルギーで移動させることもできる。
前記溶融体の形成で照射されるレーザ光のエネルギー密度は、貫通孔穿孔工程で照射されるレーザ光のエネルギー密度よりも小さくすることが好ましい。
前記溶融体を移動させるために用いられるアシストガスの設定圧力は、貫通孔穿孔工程で用いられるアシストガスの設定圧力よりも低くすることが好ましい。
応用例として、本発明のレーザ加工方法を、オイルリング用線材の加工に好適に利用できる。オイルリング用線材は、左右のレール部と該レール部を連結するウェブ部とを有し、本発明方法の適用によって、前記ウェブ部に、前記貫通孔穿孔工程で貫通孔が形成される。
左右のレール部と該レール部を連結するウェブ部とを有するオイルリング用線材であって、前記ウェブ部は、溶融によって形成された複数の貫通孔を有し、前記貫通孔の壁面に溶融体が凝固した再溶融凝固物が付着しており、前記ウェブ部の外表面には、溶融体による突起部が存在しない。
本発明によるオイルリング用線材の一好適形態によれば、溶融体が貫通孔壁面に移動する側のエッジ領域が、窪み状または面取り状になされる。
本実施例では、孔加工、溝加工、切断加工などの加工により、被加工物にエッジが形成され、かつエッジ領域に突起物が生じているような部材に対し、エッジを挟んだ二面のうち一方の面に生じている突起物を、レーザ光を照射することにより溶融体とし、他方の面に移動させるものである。前記突起物は、加工がレーザ加工であればドロスであり、切削加工であればバリ(カエリとも言う)である。以下、切削により貫通孔を加工したときに生じたバリを除去する場合を例に説明する。
また、レーザ光15の照射で、エッジ12が高温になり、表層部が溶融されると、溶融体13aが、エッジ領域の溶融体に吸収されて一体になり、貫通孔11の壁面Cに薄く拡がる。この一体化した溶融体は流動性が高く、図2に示すように貫通孔11の壁面Cに沿って移動し、温度勾配に従って冷却され、壁面Cと強固に結合する。即ち、バリ13は、溶融体13aになって貫通孔11の壁面Cへと移動するので、B面上から突起物が消滅したかのごとくに見える。なお、エッジ12の溶融体の一部は、一緒に壁面Cへと移動するので、エッジ領域が窪み状或いは面取り状になる。
本発明のレーザ加工方法は、突起物が形成される一方の面と前記エッジ領域を含む領域にレーザ光を照射するだけでよく、簡潔である。また、本発明によれば、レーザ加工で、孔加工や溝加工、切断加工などを行った後、引き続いてレーザ加工で突起物の除去を行うことができ、効率的な加工が可能である。
実施例1は、溶融したバリをエッジ12の溶融体と一体化させ、これを重力によって貫通孔の壁面に移動させるものであり、特別のアシストガスを使用しない例であるが、流体の運動エネルギーを用いて、溶融したバリを貫通孔の壁面に移動させることもできる。本実施例2では、図3に示すように、レーザ光15を、母材10のB面に向けて照射するとともに、アシストガス16をB面に向けて噴射する手段をとる。ここで、レーザ光15に関しては、実施例1における場合とほぼ同様に、少なくともバリ13が溶融されるようなエネルギー密度と時間でその照射が行なわれる。本実施例2では、少なくとも突起物溶融体を含むエッジ12近傍の溶融体が、アシストガスによって他方の面へと押し流されるように移動するので、一方の面から突起物が除去される。
アシストガス16は、例えば先細り状のノズルから、バリの大きさ、材質、貫通孔の大きさ、長さなどに合わせて設定した圧力や速度で貫通孔11に向けて照射させることが好ましい。また、本発明では、アシストガスの運動エネルギーを利用し、溶融体をあたかも押し流すがごとくに移動させるので、部材の配置が自由である。また、突起物が溶融されていれば、必ずしもエッジ12は溶融されなくてもよい。
本実施例3は、被加工物の貫通孔をレーザ加工により穿孔する貫通穴穿孔工程を適用し、これにより生じた突起物をさらにレーザ加工により貫通孔壁面に移動させるものである。ここで、突起物としてはドロスを対象とし、例えば小径貫通孔を多数加工するとともに、ドロスを被加工物表面から除去するような自動化システムに好適である。
貫通孔穿孔工程において、レーザ光25は、穿孔すべき貫通孔21直径とほぼ同径のスポット径とし、スポット領域の被加工物20を溶融させるエネルギー密度とされ、被加工物のA面に向けて照射される。アシストガス26は、被加工物20のA面に向けてレーザ光25のスポット径とほぼ同じ範囲に噴射され、溶融体を吹き飛ばすような運動エネルギーとされる。これにより、貫通孔21が形成されるまでの溶融体はスパッタとして被加工物20のA面側に飛び散るが、被加工物20の表面にあらかじめスパッタ付着防止剤を塗布したり、レーザヘッドにスパッタ回収用のフードを設け真空吸引したりする等により、被加工物20のA面側への付着を防止することができる。
貫通孔21が形成されると、溶融体は貫通孔21を通じてB面側に排出され、ドロスとしてエッジ22に付着する。
アシストガス36は、溶融したドロス23がB面上を移動できるような運動エネルギーとされ、B面のドロス付着領域を含む範囲から貫通孔21に向けて照射する。
また、アシストガス36の運動エネルギーは、前記貫通孔穿孔工程における運動エネルギーよりも小さいエネルギーが好ましく、例えば設定圧力を貫通孔穿孔工程における設定圧力よりも低くすることで運動エネルギーを小さくすることができる。なお、B面に付着したドロス23が溶融されるときには、通常、貫通孔壁面Cに付着したドロスも溶融され、かつエッジ22の表面は溶融されているか、少なくとも溶融ドロスが濡れるに十分の温度に高められているので、溶融されたB面のドロス23は容易に壁面Cへと移動して冷却凝固される。
また、図7Bに示すように、貫通孔直径よりも大きな切断部47に対しては、レーザ光45およびアシストガス46を、切断エッジ42を包含する範囲に照射および噴射し、被加工物に対し相対的に切断エッジ42に沿って移動させるようにするとよい。また、突起物除去のためのレーザ光は、必ずしも、前記のようにB面に対して概ね直角方向で照射する必要性はなく、斜め方向から照射してもよく、母材端部の切断エッジに対しては、概ね水平方向の照射でもよい。また、対象部材の材質は、金属に限らず、セラミックス、樹脂等であってもよい。
本発明における部材をオイルリング用線材に適用する場合は、例えば、図8A、図8Bに示すような形状とする。このとき、代表的な寸法は、例えばウェブ部の厚さ51が0.5mm以下、ウェブ部に形成する貫通孔の幅52が0.3mm〜0.7mm、貫通孔の長さ53が0.5〜1.2mm、貫通孔のピッチ54が3〜10mmである。
前記実施例3に基づいて、先ず、連続的に走行している、質量%で、C:0.5%、Si:0.2%、Mn:0.3%、Cr:10%、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有するステンレス鋼製オイルリング用線材に、レーザ加工によって、オイル流通用の長円形貫通孔を連続的に多数穿孔した。次いで、レーザ加工により溶融体を貫通孔壁面へ移動させる加工を行った。対象としたオイルリング用線材は、図8Aに示すように、横断面略H字形状で、左右レール間の幅55が1.5mm、厚さ56が1.5mm、レール部を連結するウェブ部の平坦面幅57が1mm、厚さ51が0.4mmの線材である。また、図8Bに示すように、ウェブ部に幅52が0.5mm、長さ53が0.8mmの長孔状貫通孔58をピッチ54が10mmで直列に形成すべくレーザ加工を行った。
オイルリング用線材20は、ウェブ面が上下になるような姿勢で走行させており、図5A、図5BにおけるA面、B面がウェブの両面に対応する。貫通孔穿孔工程では、図5Aで説明したときと同様に、オイルリング用線材20の下方からウェブ面Aに向けて、出力4.5kWのパルスYAGレーザ25を、A面とB面の中間点に焦点を結ばせるようにしてスポット径約0.45mmで照射するとともに、アシストガスとして圧力0.7MPaの窒素ガス26を噴射して貫通孔21を穿孔した。なお、貫通孔穿孔工程では小径の孔を穿孔した後に所定寸法の孔を形成する、2段階の穿孔を行った。このとき、貫通孔21は、A面からB面に向けて狭まった形状となり、B面側のエッジ22にドロス23が数ヶ所点状に付着した。図10に貫通孔穿孔工程後のドロスが付着したオイルリング用線材の貫通孔外観の一例を示す。
アシストガス36を噴射しない場合には、ドロスのほとんどが貫通孔壁面CのB面近傍に留まっていた。
図12に本発明オイルリング用線材の外観写真の一例を示す。図12に示すように、オイルリング用線材の貫通孔の周囲に付着していたドロスは、溶融体の形成でのレーザ照射により溶融され面取り状をなしており、ドロスが脱落しないことを確認できた。
図13に貫通孔断面のミクロ組織写真の一例を示す。図13に示すように、ドロスが溶融貫通孔の壁面に移動し、ドロスが脱落しないことが確認できた。これにより、オイルリング用線材として最適な線材を得ることができた。
15、35、45 突起物溶融用レーザ光
25 貫通孔形成用レーザ光
16、36、46 溶融突起物流動用アシストガス
26 貫通孔形成用アシストガス
13 バリ
23 ドロス
11、21、31 貫通孔
37 溝
12、22、42 エッジ
A 突起物非形成面
B 突起物形成側面(突起物除去対象面)
C 貫通孔壁面
51 ウェブ部の厚さ
52 貫通孔の幅
53 貫通孔の長さ
54 貫通孔のピッチ
55 オイルリング用線材の幅
56 オイルリング用線材の厚さ
57 ウェブ部の平坦面幅
58 貫通孔
Claims (9)
- エッジを有し、エッジ領域に突起物が存在する部材の、前記エッジを挟んで交差する二つの面のうち、前記突起物が存在する一方の面と前記エッジ領域にレーザ光を照射して、前記突起物および前記エッジ領域を溶融させ、生じた溶融体を他方の面に移動させる、エッジを有する部材のレーザ加工方法。
- 前記溶融体の移動は重力による請求項1に記載されたエッジを有する部材のレーザ加工方法。
- 前記溶融体の移動はアシストガスによる請求項1または請求項2に記載されたエッジを有する部材のレーザ加工方法。
- 前記部材の一面に向けてレーザ光を照射し貫通孔を形成する貫通孔穿孔工程によって、エッジを有し、エッジ領域に突起物が存在する前記部材が作成される請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載されたエッジを有する部材のレーザ加工方法。
- 前記溶融体を形成させるために照射されるレーザ光のエネルギー密度は、前記貫通孔穿孔工程で照射されるレーザ光のエネルギー密度よりも低い請求項4に記載されたエッジを有する部材のレーザ加工方法。
- 前記溶融体を移動させるために用いられるアシストガスの設定圧力は、前記貫通孔穿孔工程で用いられるアシストガスの設定圧力よりも低い請求項4または請求項5に記載されたエッジを有する部材のレーザ加工方法。
- 前記部材が、左右のレール部と該レール部を連結するウェブ部とを有するオイルリング用線材であり、前記貫通孔穿孔工程で、前記ウェブ部に前記貫通孔が形成される請求項4から請求項6までのいずれか1項に記載されたエッジを有する部材のレーザ加工方法。
- 左右のレール部と該レール部を連結するウェブ部とを有するオイルリング用線材であって、前記ウェブ部は、溶融によって形成された複数の貫通孔を有し、前記貫通孔の壁面に溶融体が凝固した再溶融凝固物が付着しており、前記ウェブ部の外表面には、溶融体による突起部が存在しないオイルリング用線材。
- 溶融体が貫通孔壁面に移動する側のエッジ領域が、窪み状または面取り状になっている請求項8に記載されたオイルリング用線材。
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