JP4980403B2 - 拡網体およびこれを備えたトロール漁具 - Google Patents

拡網体およびこれを備えたトロール漁具 Download PDF

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本発明は、拡網体およびこれを備えたトロール漁具に係り、特に、引き網の網口を拡開させるのに好適な拡網体およびこれを備えたトロール漁具に関する。
近年、オッターボードに代わる引き網の網口の拡開手段として、キャンバス地等の布地を組み合わせて形成された拡網体が、その軽量性および作業容易性等の利点によって注目されている。
図25は、この種の拡網体1の一例を示すものであり、この拡網体1は、展張状態において前後および上下に所定の幅を有する上下2段の翼部2を備えており、これら2段の翼部2は、上下で互いに連設されている。各翼部2は、その展張状態における形状が前後に長い長方形状に形成されている。
これら各翼部2は、水中において前方側から流水を受けるようになっており、これにより、各翼部2には、引き網の網口を水平方向に拡開させる揚力が作用するようになっている。なお、図25においては、各翼部2の左側の面が流水を受けることによって、各翼部2に右方向への揚力が作用することになる。
また、図25に示すように、各翼部2の上下の両端部には、各翼部2と引き網との間の位置において各翼部2の対水迎角を形成する3つのリブ3が、図25における左側に延出するように形成されている。なお、対水迎角とは、水の流れに対する翼部2の傾きをあらわす角度のことをいう。各リブ3は、展張状態における形状が直角三角形状に形成されている。また、各リブ3のそれぞれの左端部には、リブ3の前端部からリブ3の後端部に亘る長さの第1ロープ5がそれぞれ連結されている。さらに、リブ3の左端部前端には、最上段のリブ3から最下段のリブ3に亘る長さの1本の第2のロープ6が連結されている。これら第1のロープ5および第2のロープ6は、拡網体1を引き網に連結するために用いられるようになっている。なお、3つのリブ3のうち、中段のリブ3は、上段側の翼部2の下端部側のリブ3と下段側の翼部2の上端部側のリブ3とを兼ねている。
さらに、図25に示すように、各翼部2の右側の表面には、各翼部2に対応する畝部7がそれぞれ配設されており、各畝部7は、その展張状態において、各翼部2の右側の表面よりも右方に膨出するような形状を呈するようになっている。また、図11に示すように、各畝部7は、その展開された形状が、後端部(図11における右端部)から前端部(図11における左端部)側に向かうにしたがって上下方向の幅が線形的に大きくなった後に、前端部においてアールを呈するような形状に形成されている。このような畝部7は、図25に示すように、その後端部よりも前方の部位であって前端部(アール部分)を除く部位においては、その上下の両端部を介して翼部2の右側の表面に弛みを有した状態で固定されており、一方、その後端部は、その全範囲が翼部2の右側の表面に固定されている。また、図9に示すように、各畝部7の前端部は、翼部2の図25における右側の表面には固定されずに翼部2から前方に延出されている。そして、このような各畝部7の形状を反映して、図25に示すように、各畝部7の前端部には、水中において翼部2と畝部7とに挟まれた領域内に流水を流入させる流入口8がそれぞれ形成されている。さらに、図25および図11に示すように、各畝部7における後端部の近傍位置には、前記領域内に流入した流水を前記領域外へと流出させる流出口10が形成されている。なお、図25に示すように、流入口8は前方を向くような開口であるのに対して、流出口10は、右方向を向くような開口となっている。
そして、このような拡網体1は、例えば、図26に示すようなトロール漁用の引き網11に連結されることによってトロール漁具12を構成するようになっている。なお、図26の引き網11は、着底トロール用の引き網11である。この引き網11は、前方を向く網口14が形成された身網15と、この身網15の後端部に連設されたコッド網16と、身網15の前端部における左右両端にそれぞれ連設された一対の袖網17とを有している。さらに、図26に示すように、身網15および袖網17の上端部を形成するヘッドロープ18には、複数の浮子19が固着されており、また、身網15および袖網17の下端部を形成するグランドロープには、複数の沈子20が固着されている。そして、図26における右側(曳航方向に向かって左側)の袖網17の前端部には、図25および図11に示した拡網体1が取り付けられており、また、図26における左側(曳航方向に向かって右側)の袖網17の前端部には、図25および図11に示した拡網体1と鏡面対称形状の拡網体1’が取り付けられている。さらに、拡網体1,1’における最上段のリブ3に連結された第1のロープ5には、複数の浮子19が固着され、また、拡網体1,1’における最下段のリブ3に連結された第1のロープ5には、複数の沈子20が固着されている。さらにまた、引き網11の曳き点となる拡網体1,1’における最上段および最下段のリブ3の内側前端部には、左右2本ずつのワープ22がスイベル23を介して連結されており、このワープ22の前端部には、ワープ合流部材24およびスイベル25を介して漁船上から繰り出された図示しないワープが連結されている。
このような拡網体1,1’が取り付けられた引き網11は、水中に投網された際に、浮子19と沈子20とによって拡網体1,1’が上下方向に展張されることになる。そして、各拡網体1,1’は、その翼部2が水流を受けることによって、翼部2に網口14を水平方向(左右)に拡開させる揚力が作用することになる。これにより、左右の袖網17が互いに離間することになり、網口14が水平方向に拡開されていくことになる。このとき、翼部2は、水中への投網後にリブ3によって対水迎角が所定の値に設定されるため、揚力が安定的に作用することになる。また、漁船による引き網11の曳航時には、翼部2と畝部7とに挟まれた領域内に、流入口8から流出口10へと向かう水流が流れることにより、翼部2の展張形状が保持されることになる。
なお、拡網体1,1’は、着底トロール用の引き網に限らず、例えば、図27に示すような表中層トロール用の引き網30にも適用可能なものである。
この種の拡網体に関しては、これまでにも、例えば特許文献1に示すような技術が提案されている。
特許第3084117号
本発明者らは、図25に示した従来の拡網体1よりも更に拡網性能に優れた拡網体を開発すべく鋭意研究を行った結果、翼部および畝部の構成を改良することによって揚力が大幅に向上されるとともに、曳航時における翼部の形状安定性が確保されることを見出し、本発明をなすに至った。
すなわち、本発明は、拡網性能を向上させることができる拡網体およびこれを備えたトロール漁具を提供することを目的とするものである。
前述した目的を達成するため、本発明に係る拡網体は、可撓性材料により拡網体本体の展張状態において第1の方向およびこれに直交する第2の方向に所定の幅を有するような形状に形成されるとともに、水中において前記第1の方向における一方側から流水を受けることによって引き網の網口を拡開させる揚力が作用するように形成された翼部を備え、前記翼部の前記第2の方向における両端部に、前記翼部と前記引き網との間の位置において前記翼部の対水迎角を形成するリブが、前記揚力の作用方向に抗する方向にそれぞれ延出するように形成された拡網体であって、前記拡網体本体の展張状態における前記翼部の形状が、前記第1の方向における一方側から前記第1の方向における他方側に向かうにしたがって前記揚力の作用方向側に反るような形状に形成され、前記翼部の前記揚力の作用方向側の表面に、前記拡網体本体の展張状態において当該表面を前記第2の方向に跨ぐようにして当該表面から前記揚力の作用方向側に膨出するような形状を呈する畝部が、当該表面の前記第1の方向における一方の端部側から当該表面の前記第1の方向における他方の端部側に亘って配設され、前記畝部の前記第1の方向における一方の端部に、前記翼部と前記畝部とに挟まれた領域内に流水を流入させる流入口が形成され、前記畝部の前記第1の方向における他方の端部に、前記領域内に流入した流水を前記領域外へと流出させる流出口が形成されてなることを特徴としている。そして、このような構成によれば、翼部に反りを形成するとともに、畝部の流出口を畝部の第1の方向における他方の端部に形成することにより、翼部に作用する揚力を従来よりも大幅に向上させることができるとともに、曳航時における翼部の形状安定性を確保することができる。
より好ましくは、前記翼部の前記第1の方向における一方の端部の近傍位置に、水中における前記翼部の形状を保持するための前記第2の方向に長尺な形状保持部材を配設する。そして、このような構成によれば、形状保持部材により、曳航時における翼部の形状安定性を更に適正に確保することができる。
更に、より好ましくは、前記拡網体本体の展張状態における前記流入口の面積に対する前記流出口の面積の割合を、0.7以上1以下とする。そして、このような構成によれば、翼部に作用する揚力を更に向上させることができるとともに、翼部の形状安定性を更に適正に確保することができる。
更に、より好ましくは、前記翼部の翼弦からの前記翼部の前記翼弦に直交する方向への最大離間距離を前記翼弦の弦長で除した値である前記翼部の反り比を0.2とする。そして、このような構成によれば、翼部に作用する揚力をより向上させることができる。
更に、より好ましくは、前記引き網の曳点を、拡網体本体の圧力中心に対して前記翼弦に直交する方向において対向する位置に配置する。そして、このような構成によれば、引き網を拡網体とともに効率的に曳航することができる。
更に、より好ましくは、前記翼部を、前記第2の方向に沿って3つ以上連設し、前記リブを、前記各翼部のそれぞれの前記第2の方向の両端部に形成し、前記畝部を、前記各翼部のそれぞれの前記揚力の作用方向側の表面に配設する。そして、このような構成によれば、水中での展張状態における拡網体の剛性をさらに向上させることができ、翼部の形状安定性を更に適切に確保することができる。
また、本発明に係るトロール漁具は、本発明に係る拡網体を備えたことを特徴としている。そして、このような構成によれば、翼部に作用する揚力を従来よりも大幅に向上させることができるとともに、曳航時における翼部の形状安定性を確保することができるので、引き網の網口を十分かつ安定的に拡開させた状態でトロール漁を行うことができ、ひいては漁獲率の向上に資することができる。
本発明によれば、引き網の網口を拡開するための拡網性能を向上させることができる。
本発明に係る拡網体の実施形態において、展張状態の拡網体をその前方左上方向から視た斜視図 本発明に係る拡網体の実施形態において、展張状態の拡網体をその前方右上方向から視た概略斜視図 図1の平面図 図1の右側面図 本発明に係る拡網体の実施形態において、畝部を示す展開図 本発明に係る拡網体の実施形態において、展開された翼部に畝部が固定されている状態を示す右側面図 本発明に係る拡網体の実施形態において、畝部内を流れる水流を示す模式図 図1の変形例を示す平面図 展張状態の従来の拡網体を示す平面図 図9の右側面図 図9に示す拡網体における畝部の展開図 本発明に係る拡網体の実施形態において、拡網体を模した模型を試料とした拡網性能の実験に用いた実験系を示す模式図 図12の実験系を用いた実験に基づいて得られた比較例1〜4の各試料についての揚力係数の対水迎角特性を示すグラフ 図12の実験系を用いた実験に基づいて得られた比較例1〜4の各試料についての抗力係数の対水迎角特性を示すグラフ 図12の実験系を用いた実験に基づいて得られた比較例1〜4の各試料についての揚抗比の対水迎角特性を示すグラフ 図12の実験系を用いた実験に基づいて得られた比較例1〜4の各試料についての圧力中心係数の対水迎角特性を示すグラフ 図12の実験系を用いた実験に基づいて得られた実施例1〜3および比較例1、3の各試料についての揚力係数の対水迎角特性を示すグラフ 図12の実験系を用いた実験に基づいて得られた実施例1〜3および比較例1、3の各試料についての抗力係数の対水迎角特性を示すグラフ 図12の実験系を用いた実験に基づいて得られた実施例1〜3および比較例1、3の各試料についての揚抗比の対水迎角特性を示すグラフ 図12の実験系を用いた実験に基づいて得られた実施例1〜3および比較例1、3の各試料についての圧力中心係数の対水迎角特性を示すグラフ 図12の実験系を用いた実験に基づいて得られた実施例4〜6および比較例1、3の各試料についての揚力係数の対水迎角特性を示すグラフ 図12の実験系を用いた実験に基づいて得られた実施例4〜6および比較例1、3の各試料についての抗力係数の対水迎角特性を示すグラフ 図12の実験系を用いた実験に基づいて得られた実施例4〜6および比較例1、3の各試料についての揚抗比の対水迎角特性を示すグラフ 図12の実験系を用いた実験に基づいて得られた実施例4〜6および比較例1、3の各試料についての圧力中心係数の対水迎角特性を示すグラフ 図9〜図11と同様の従来の拡網体を示す斜視図 着底トロール用のトロール漁具を示す斜視図 表中層トロール用のトロール漁具を示す斜視図
以下、本発明に係る拡網体およびこれを備えたトロール漁具の実施形態について、図1乃至図24を参照して説明する。
なお、従来と基本的構成が同一もしくはこれに類する箇所については、同一の符号を用いて説明する。
図1および図2は、本実施形態における拡網体31(拡網体本体)の展張状態を示すものである。ただし、この拡網体31は、漁船の船体左舷側から繰り出されるワープに連結される左舷側の拡網体31とされている。
図1および図2に示すように、本実施形態における拡網体31は、キャンバス地等の可撓性材料からなる翼部32を備えている。この翼部32は、拡網体31の展張状態において第1の方向としての前後方向および第2の方向としての上下方向に所定の幅を有するような形状に形成されている。なお、翼部32の詳細な形状は後述する。また、図1および図2に示すように、本実施形態においては、互いに同一の寸法を有する複数(図1および図2において4つ)の翼部32が上下方向に沿って連設されている。各翼部32は、水中において、翼部32の図1における左側の表面(以下、内側表面と称する)を介して、第1の方向における一方側としての翼部32の前方側から流水を受けるようになっている。これにより、各翼部32には、引き網11,30の網口14(図26、図27参照)を水平方向における外側方向(図1および図2における右方向)に拡開させる揚力が作用するようになっている。
また、図1および図2に示すように、各翼部32の上下両端部には、翼部32と引き網11,30との間の位置において翼部32の対水迎角を形成するリブ33が、揚力の作用方向に抗する方向(図1および図2における左方向)にそれぞれ延出するように形成されている。ただし、本実施形態における翼部32の対水迎角は、翼部32の前端部と翼部32の後端部とを結ぶ仮想平面を上下方向から視た場合に呈する線分である翼弦39(図3参照)についての水の流れ(水流)に対する傾きを示す角度θのことをいう。
さらに、図1および図2に示すように、最上段の翼部32の上端部に形成されたリブ33および最下段の翼部32の下端部に形成されたリブ33以外のリブ33は、上下で互いに隣位する一対の翼部32の双方のリブ33を兼ねている。これにより、リブ33の数(図1および図2において5つ)は、翼部32の数よりも1つだけ多くなっている。また、図1に示すように、各リブ33のそれぞれの内側端部(図1における左端部)には、リブ33の前端部から後端部に亘る長さの第1ロープ5がそれぞれ連結されている。さらに、図1に示すように、リブ33の内側端部前端には、最上段のリブ33から最下段のリブ33に亘る長さの1本の第2のロープ6が連結されている。これら第1のロープ5および第2のロープ6は、拡網体31を引き網11,30に連結するために用いられるようになっている。
そして、図1乃至図3に示すように、本実施形態においては、拡網体31の展張状態における各翼部32の形状が、翼部32の前方側から翼部32の後方側(図3における右方側)に向かうにしたがって揚力の作用方向に反るような円孤形状に形成されている。なお、各翼部32の展開された形状は、前後に長尺な長方形状(図6参照)とされている。また、このような翼部32の形状にともなって、リブ33の外側端辺(図1および図2における右端辺)の形状も、揚力の作用方向に反るような円弧形状に形成されている。ただし、リブ33の外側端辺以外の端辺の形状は、図25に示した従来のリブ3と同様である。
また、図1および図2に示すように、各翼部32の揚力の作用方向側の表面(図1および図2における右側の表面)には、当該表面(以下、外側表面と称する)の前端部から後端部に亘って翼部32と同数の畝部37が配設されている。図1および図2に示すように、各畝部37は、拡網体31の展張状態において、翼部32の外側表面を上下方向に跨ぐようにして当該外側表面から揚力の作用方向に膨出するような形状(円孤形状)を呈するようになっている。図5に示すように、各畝部37は、その展開された形状が、前端部(図5における左端部)にアールが形成されるとともに、当該前端部に後方において連なる各部の上下方向の幅が一定となるような形状に形成されている。このような畝部37は、図1および図2に示すように、その前端部を除く各部位において、その上下の両端部を介して翼部32の外側表面に弛みを有した状態で固定されている。一方、前端部は、翼部32の外側表面には固定されずに翼部32よりも前方に延出されている。より具体的には、図4および図6に示すように、畝部37の前端部側(ただし、前端部は除く)の所定範囲の部位は、拡網体31の展張状態における側面形状が上下方向に一定の幅を有するような形状を呈する状態で翼部32の外側表面に固定されている。また、図4および図6に示すように、畝部37の後端部側の所定範囲の部位は、拡網体31の展張状態における側面形状が後方に向かって上下方向の幅が線形的に小さくなるような形状を呈する状態で翼部32の外側表面に固定されている。換言すれば、畝部37は、前端部側の所定範囲の部位が、一定の撓みを有した状態で翼部32に固定され、後端部側の所定範囲の部位が、後端部に向かって撓みが大きくなるような状態で翼部32に固定されている。
そして、このような各畝部37の形状を反映して、図1、図2および図7に示すように、各畝部37の前端部には、水中において翼部32と畝部37とに挟まれた領域内に流水を流入させる流入口38がそれぞれ形成されている。さらに、図1、図2および図7に示すように、各畝部37の後端部には、前記領域内に流入した流水を前記領域外へと流出させる流出口40が形成されている。なお、流入口38は、水中において前方を向くようになっており、流出口40は、水中において内側後方を向くようになっている。
このように形成された本実施形態における拡網体31は、図25に示した拡網体1と同様に、引き網11,30における袖網17の前端部に取り付けられることによってトロール漁具を構成するようになっている。なお、引き網11,30には、図1乃至図7に示した拡網体31と鏡面対称形状を有する本実施形態の拡網体(図示せず)として、船体右舷側から繰り出されるワープに連結される右舷側の拡網体も取り付けられることになる。
そして、このように構成された拡網体31によれば、翼部32に揚力の作用方向に向かう反りが形成されていることにより、翼部32が流水を受ける面積を従来よりも大きく取ることができる。また、畝部37の流出口40を畝部37の後端部に形成することにより、翼部32と畝部37とに挟まれた領域内に流入した流水を内側後方に噴射することができる。これにより、翼部32に作用する揚力を従来よりも大幅に向上させることができるとともに、漁船による引き網11,30の曳航時における翼部32の形状安定性を確保することができる。
上記構成に加えて、更に、本実施形態における拡網体31は、図2および図4に示すように、各翼部32の前端部の近傍位置に、水中における各翼部32の形状を保持するための1つの形状保持プレート41を有している。図2および図4に示すように、形状保持プレート41は、最上段の翼部32における上端部近傍から最下段の翼部32における下端部近傍に至るような上下に長尺な薄肉の側面長方形状を有している。この形状保持プレート41は、縫製や接着等の連結方法によって翼部32の連結されていてもよい。また、この形状保持プレート41は、ポリエチレン等の樹脂材料などの好適な材料を用いて形成すればよい。そして、このような構成によれば、引き網11,30の曳航時における翼部32の形状安定性を更に適正に確保することができる。なお、形状保持プレート41の前後の幅(図2におけるw)は、翼部32の翼弦39の弦長の1/16とすることが好ましい。
より好ましい実施形態としては、拡網体31の展張状態における流入口38の面積に対する流出口40の面積の割合(以下、流出/流入比と称する)を、0.7以上1以下とする。なお、流出/流入比を1とする場合には、図4および図6に示した構成とは異なり、畝部37は、拡網体31の展張状態における側面形状が畝部37の前端部を除く全範囲において上下方向に一定の幅を有するような形状を呈する状態で翼部32の外側表面に固定されることになる。そして、このように構成すれば、翼部32に作用する揚力を更に向上させることができるとともに、翼部32の形状安定性を更に適正に確保することができる。
更に、より好ましい実施形態としては、翼部32の反り比を0.2とする。ただし、反り比とは、翼弦39からの翼部32の翼弦39に直交する方向への最大離間距離(図3におけるl)を翼弦39の弦長で除した値のことをいう。そして、このように構成すれば、翼部32に作用する揚力をより向上させることができる。
更に、より好ましい実施形態としては、図8の変形例に示すように、引き網11,30の曳点Pを、拡網体31の圧力中心Pに対して翼弦39に直交する方向において対向する位置に配置する。なお、図8に示す拡網体31は、図3の構成とは異なり、リブ33の内側端部33aの前端(換言すれば、リブ33の前端部33bの内端)が、図3に比べて後方に配置されており、このリブ33の内側端部33aの前端に曳点Pがとられている。この曳点Pには、ワープ22(図26参照)が連結されることになる。そして、このように構成すれば、引き網11,30を拡網体とともに効率的に曳航することができる。
なお、圧力中心Pは、翼弦39上を翼部32の前端部から後端部側に向かって翼弦39の弦長の30%以上40%以下に相当する距離進んだ翼弦39上の位置にとられることが望ましい。
また、図8に示すように、拡網体31の展張状態におけるリブ33の内側端部33aを、翼弦39に対して設計上の対水迎角θ(好ましくは、20°以上45°以下)だけ傾くように直線状に設計するとともに、図8の破線部に示す圧力中心Pから下ろされた垂線がリブ33の内側端部33aと交わる位置を曳点Pとすることが望ましい。
ところで、拡網体31の上下方向の寸法を固定した場合に、その固定された上下方向の寸法の範囲内で、翼部32、リブ3および畝部37の配設数を多くすれば、それだけ水中における拡網体31の剛性が増し、流入口38から流入した流水が流出口40から流出され切れずに翼部32と畝部37との間に滞留することによって翼部32の形状を展張状態から内側方向(リブ33側)に撓ませる現象を改善することができる。したがって、翼部32、リブ33および畝部37の数は、図1および図2に示したものには限定されないが、翼部32の形状安定性を確保する観点から、翼部32および畝部を37を所定の上下方向の寸法内に3つ以上設け、また、これに応じて畝部37を4つ以上設けることが望ましい。
次に、本発明に係る拡網体の実施例について説明する。本実施例においては、本実施形態の拡網体31を模した相似形の模型として、実施例1〜実施例6の各試料を用意するとともに、従来の拡網体を模した相似形の模型として、比較例1〜比較例4の各試料を用意し、これら各試料の拡網性能を調べる実験を行った。なお、比較例1〜4の試料は、図25に示した拡網体1と基本構成が同様の拡網体を模したものである。ここで、各試料の材質には、いずれも、ポリエステル製布地、2/2綾織り、厚さ1.0mm、重量710g/m、通気度3cc/cm/secのものを用いた。各試料の上下方向の寸法(高さ)は、いずれも15cmとした。
その他の各試料の具体的なデータは以下の表1のようになっている。
なお、表1中のARは、試料のアスペクト比であり、このアスペクト比は、図4および図10に示す実際の拡網体1,31上の寸法h(高さ)を、図3および図9に示す実際の拡網体1,31上の寸法c(弦長)で除した値に相当する。また、表1中のCRは、試料の翼部の反り比であり、この反り比は、実際の翼部32の反り比に一致する。なお、図25に示した拡網体1の翼部2は反りを有しないので、この拡網体1を模した比較例の試料は、反り比が0となる。その他の表中のデータの意義については、表中の記載から明らかなので、ここでの説明は省略する。
そして、本実験では、図12に示すような実験系を用いた。すなわち、図12に示すように、棒体からなる方形枠45の中央に試料SPを針金で張り付けるとともに、この枠45を六分力計46に取り付け、さらに、このような状態の試料SPを実験系の水路の中央における水深50cmとなる位置に設置した。
そして、このようにして設置された試料SPに対して、水路の設定流速Vを40cm/sから20cm/s間隔で100cm/sまでの4段階に変化させ、また、流れに対する試料SPの対水迎角θを5°から5°間隔で20°までの4段階と22°から5°度間隔で82°までの13段階の計17段階に変化させつつ、六分力計46によって試料SPに作用する揚力L〔N〕、抗力D〔N〕およびモーメントM〔N・cm〕を計測した。また、このとき、流速の測定には、プロペラ流速計48を用いた。さらに、計測時には、支持棒47にかかる流体抵抗を避けるために、支持棒47を流線形の鞘で覆った。
なお、本実験は、大型回流水槽にて行った。実験時の水温は16〜17℃の範囲であった。また、L、DおよびMの計測の際には、4段階の各流速ごとに、サンプリング周波数を40Hz、計測時間を30秒間とし、六分力計46の計測値をデジタルボルトメータを通してコンピュータ50に入力した。なお、図12に示すように、コンピュータ50は、六分力計50に接続された増幅器51、流速計48に接続されたA/D変換器52およびCPU53等によって構成される。そして、このようにしてコンピュータ50に入力された六分力計46の計測値に基づいて、コンピュータ50により、前記計測時間30秒あたりのサンプリング周波数40Hzごとの計測値の平均値を、各流速ごとの枠45を含めた試料SPに作用する揚力、抗力およびモーメントとして求めた。さらに、コンピュータ50において、前述のようにして求めれた枠45を含めた試料SPに作用する揚力、抗力およびモーメントから、予め既知の枠45のみに作用する揚力、抗力およびモーメントを差し引くことによって、最終的な計測値となるL、DおよびMを算出した。
さらに、本実施例においては、本実験によって算出されたL、DおよびMを用いて、次の(1)〜(3)式によって揚力係数C、抗力係数Cおよびモーメント係数Cをそれぞれ求めた。
=2L/ρSV (1)
=2D/ρSV (2)
=2M/ρSV (3)
ただし、(1)〜(3)式において、ρは、水の密度であり、Sは試料の翼部の面積であり、Vは流速である。また、(3)式におけるcは、試料の翼部の上端部および下端部の長さ(実施例の試料においては、翼部の翼弦の弦長)である。
さらにまた、本実施例においては、(1)式によって求められた揚力係数Cを(2)式によって求められた抗力係数Cで除することによって揚抗比C/Cを求めた。
また、本実施例においては、(1)〜(3)式によって求められたC、CおよびCをそれぞれ用いることによって、次式によって圧力中心係数Cを求めた。
=C/(Ccosθ+Ccosθ)=d/c (4)
ただし、(4)式におけるθは、試料の翼部の流水に対する対水迎角である(図12参照)。また、(4)式におけるdは、試料の翼部の前端部から圧力中心までの距離である。なお、本実施例において、圧力中心は、設計上、試料の翼弦上にとられている。
そして、本実施例においては、上記のようにして求められた揚力係数C、抗力係数C、揚抗比(C/C)、圧力中心係数Cおよびモーメント係数Cを、図13〜図24のようにグラフ化した。
ここで、図13〜図16には、比較例1〜4のそれぞれの試料についての、揚力係数Cの対水迎角特性(図13)、抗力係数Cの対水迎角特性(図14)、揚抗比(C/C)の対水迎角特性(図15)、圧力中心係数Cの対水迎角特性(図16)がそれぞれ示されている。
また、図17〜図20には、実施例1〜3、比較例1および比較例3のそれぞれの試料についての、揚力係数Cの対水迎角特性(図17)、抗力係数Cの対水迎角特性(図18)、揚抗比(C/C)の対水迎角特性(図19)、圧力中心係数Cの対水迎角特性(図20)がそれぞれ示されている。
さらに、図21〜図24には、実施例4〜6、比較例1および比較例3のそれぞれの試料についての、揚力係数Cの対水迎角特性(図21)、抗力係数Cの対水迎角特性(図22)、揚抗比(C/C)の対水迎角特性(図23)、圧力中心係数Cの対水迎角特性(図24)がそれぞれ示されている。
ここで、航空機の翼やオッターボードの性能を評価する指標の一つとして、前述した揚抗比が用いられている。航空機の翼では、揚抗比が大きければ、必要な推進力に比べて揚力が大きいことを意味し、性能が優れていると評価される。しかし、トロール網(引き網)を水平方向に拡網するオッターボードが流水から受ける抵抗は、中層トロールの場合には、トロール漁具全体が受ける抵抗の9分の1程度を占めるに過ぎないことが、本発明者による過去の研究によって判明されている。このようなことから、オッターボードの対水迎角としては、最大揚力係数が得られる迎角付近が設定される場合が多かった。本発明のような可撓性の拡網体の場合も、最大揚抗比が得られる時の揚力係数は、例えば、最大揚力係数の38から44%と小さくなることが分かっている。したがって、本発明のような可撓性の拡網体の拡網性能を評価する場合には、オッターボードと同様に、揚抗比よりも揚力係数の値を重視すべきである。
このような観点から各試料の拡網性能を評価すると、図13、図17および図21に示すように、実施例1〜6の試料の方が、比較例1〜4の試料に比べて揚力係数Cおよび失速角手前の揚力傾斜(dC/dθ)が大きく、拡網性能に優れているということができる。これは、実施例の試料が、翼部に反りが形成されているとともに流出口が畝部の後端部に形成されていることによるものであると推定される。また、このような揚力係数Cの特性は、各試料と相似形の実寸の拡網体にもそのまま当てはまると推定される。
したがって、本実施形態の拡網体31のように、翼部32に反りを形成するとともに流出口40を畝部37の後端部に形成すれば、翼部2を直線状に形成するとともに流出口10を畝部7の側方に形成した従来の拡網体1に比べて優れた拡網性能を発揮することができるといえる。なお、図17および図21から、最大揚力係数は、失速角としての対水迎角37°〜42°付近にとられることが分かる。
また、図17および図21に示すように、実施例1〜6の試料の中でも、特に、翼部の反り比が0.2とされた実施例3および実施例6の試料が、揚力係数Cが大きく、拡網性能に優れているということができる。そして、このことは、各試料と相似形の実寸の拡網体にもそのまま当てはまると推定される。
したがって、翼部32の反り比を0.2とすれば、さらに優れた拡網性能を発揮することができるといえる。
さらにまた、実施例1〜6のように、流出/流入比を0.7もしくは1.0とすれば、比較例に比べて十分に大きな揚力係数Cが得られることが分かる。そして、このことは、各試料と相似形の実寸の拡網体にもそのまま当てはまると推定される。
したがって、流出/流入比を0.7以上1以下とすれば、さらに優れた拡網性能を発揮することができるといえる。
なお、図20および図24から、各試料とも、圧力中心係数Cは、0.3〜0.4の範囲内において、対水迎角に対する変化量が小さくなることが分かる。また、圧力中心係数Cが、0.3〜0.4の範囲内における対水迎角の範囲は、ほぼ20°以上45°以内の範囲となる。
したがって、対水迎角が20°以上45°以内の範囲内において、圧力中心が翼弦39上を翼部32の前端部から後端部側に向かって翼弦39の弦長の30%以上40%以下に相当する距離進んだ位置にとられるように設計すれば、曳航時に対水迎角を20°以上45°以内の範囲内に設定することを条件に、引き網の展張状態を安定的に維持できることがわかる。
以上述べたように、本発明によれば、翼部32に反りを形成するとともに、畝部37の流出口40を畝部37の前後方向における後端部(下流端)に形成することにより、翼部32に作用する揚力を従来よりも大幅に向上させることができるとともに、曳航時における翼部32の形状安定性を確保することができる。
なお、本発明は、前述した構成に限定されるものではなく、必要に応じて種々変更することができる。
31 拡網体
32 翼部
33 リブ
37 畝部
38 流入口
39 翼弦
40 流出口

Claims (7)

  1. 可撓性材料により拡網体本体の展張状態において第1の方向およびこれに直交する第2の方向に所定の幅を有するような形状に形成されるとともに、水中において前記第1の方向における一方側から流水を受けることによって引き網の網口を拡開させる揚力が作用するように形成された翼部を備え、前記翼部の前記第2の方向における両端部に、前記翼部と前記引き網との間の位置において前記翼部の対水迎角を形成するリブが、前記揚力の作用方向に抗する方向にそれぞれ延出するように形成された拡網体であって、
    前記拡網体本体の展張状態における前記翼部の形状が、前記第1の方向における一方側から前記第1の方向における他方側に向かうにしたがって前記揚力の作用方向側に反るような形状に形成され、
    前記翼部の前記揚力の作用方向側の表面に、前記拡網体本体の展張状態において当該表面を前記第2の方向に跨ぐようにして当該表面から前記揚力の作用方向側に膨出するような形状を呈する畝部が、当該表面の前記第1の方向における一方の端部側から当該表面の前記第1の方向における他方の端部側に亘って配設され、
    前記畝部の前記第1の方向における一方の端部に、前記翼部と前記畝部とに挟まれた領域内に流水を流入させる流入口が形成され、
    前記畝部の前記第1の方向における他方の端部に、前記領域内に流入した流水を前記領域外へと流出させる流出口が形成されてなること
    を特徴とする拡網体。
  2. 前記翼部の前記第1の方向における一方の端部の近傍位置に、水中における前記翼部の形状を保持するための前記第2の方向に長尺な形状保持部材が配設されていること
    を特徴とする請求項1に記載の拡網体。
  3. 前記拡網体本体の展張状態における前記流入口の面積に対する前記流出口の面積の割合が、0.7以上1以下とされていること
    を特徴とする請求項1または請求項2に記載の拡網体。
  4. 前記翼部の翼弦からの前記翼部の前記翼弦に直交する方向への最大離間距離を前記翼弦の弦長で除した値である前記翼部の反り比が0.2とされていること
    を特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の拡網体。
  5. 前記引き網の曳点が、拡網体本体の圧力中心に対して前記翼部の翼弦に直交する方向において対向する位置に配置されていること
    を特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の拡網体。
  6. 前記翼部が、前記第2の方向に沿って3つ以上連設され、前記リブが、前記各翼部のそれぞれの前記第2の方向の両端部に形成され、前記畝部が、前記各翼部のそれぞれの前記揚力の作用方向側の表面に配設されてなること
    を特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の拡網体。
  7. 請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の拡網体を備えたことを特徴とするトロール漁具。
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