JP4975095B2 - 電子銃及び電子ビーム露光装置 - Google Patents

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Description

本発明は、電子銃及び電子ビーム露光装置に関し、特に、電子銃材料の消耗を抑制するのに好適な電子銃及び電子ビーム露光装置に関する。
近年、電子ビーム露光装置において、スループットの向上を図るために、マスクに可変矩形開口又は複数のマスクパターンを用意し、ビーム偏向によりそれらを選択してウエハに転写露光している。このような複数のマスクパターンを用いる露光方法の一つとして、部分一括露光をする電子ビーム露光装置が提案されている。部分一括露光では次のようにしてパターンを試料面に転写している。すなわち、マスク上に配置した複数個のパターンからビーム偏向により選択した一つのパターン領域にビームを照射してビーム断面をパターンの形状に成形する。さらにマスクを通過したビームを後段の偏向器で偏向振り戻し、電子光学系で決まる一定の縮小率に縮小して試料面に転写する。
また、このような露光装置においては、線幅精度を確保することも、スループットを向上させるために重要となる。線幅精度を確保するためには、電子銃から放出される電子ビームの強さに経時変化がないことが要求される。電子ビームの強度が経時変化して弱くなると、露光の程度が漸次低下する。これを補うために、露光時間を増やそうとすると、制御が面倒になるばかりではなく、スループットが低下してしまうからである。
電子銃から電子を放出させる方法として、一般に、熱電子放出型と電界放出型に大別される。このうち、熱電子放出型電子銃は、加熱することにより電子を放出するカソードと、カソードから放出した電子を収束して電子線束を作り出すウェーネルト及び収束した電子線を加速するアノードから構成される。
上記の熱電子放出型電子銃を使用すると、電子銃に使用されている電子源(チップ)が電子を放出するに伴い、チップを構成する物質が昇華、蒸発し、量が減るので、電子放出部が変形する現象が発生する。この現象を防止するために種々の対策が検討されている。例えば、特許文献1には、チップの表面をタングステン(W)及びレニウム(Re)からなる二層構造膜で覆い、チップの消耗を少なくするようにした電子銃が開示されている。
上述したように、熱電子放出型電子銃を使用すると、電子銃を構成するチップは電子を放出するだけでなくチップ物質自体が昇華する場合がある。これは、熱電子放出の場合には電子発生物質の昇華開始温度以上に温度を高くして電子を放出するために、チップにおいて昇華が起こるためであると考えられている。
この昇華により、電子を放出するチップの形状が変化し、可変矩形ビームや部分一括パターンビームが均一に照射できなくなり、放出される電子ビームの強度が低下していく。例えば、チップとして六ホウ化ランタン(LaB6)を使用し、温度を1500℃とした熱電子放出型電子銃の場合、1ヶ月の使用で10μmの昇華が発生していた。
また、上述した昇華により、チップ物質、例えば、LaB6や六ホウ化セリウム(CeB6)がグリッドの裏面に付着する。この付着物がウィスカになり、この上に電子がチャージされ、微小放電を起こす場合がある。このような微小放電が発生すると、電子ビームの量と照射位置が安定しないという現象が起こり、電子ビーム露光装置が正常に使用できなくなる。また、調整等に時間がかかり、スループットが低下してしまう。最大の問題点は微小放電発生時に描画されたパターンでは信頼度が損なわれると言うことであるので、電子銃付近の微小放電の撲滅が電子ビーム露光装置の高信頼度化には不可欠のことになる。即ち電子銃材料の昇華量をいかに削減するかが、高信頼度化・高安定化には不可欠な開発要件となる。
一方、電子ビーム露光装置では、マスク像を試料面上で均一に照射するために、ケーラー照明法が採用されている。ケーラー照明法では、電子銃のクロスオーバー像が最終レンズの瞳に形成される。電界放出型電子銃では、仮想的クロスオーバー像の大きさは2〜3μm程度と小さい。このクロスオーバー像の大きさが小さいと、照度が小さく、電流密度が小さくなり、露光スループットが低下するという不都合が発生する。
また、クロスオーバー像の大きさが小さいと、電子銃からのビーム放出角度が大きくなる。このため、多くの電子が加速電極に衝突し、加速電極の温度上昇を引き起こして真空度の低下を起こすおそれがある。
なお、特許文献1ではチップの表面をタングステンとレニウムからなる二層構造で覆うことにより、チップの消耗を少なくしているが、二層構造で覆われていない電子放出面の昇華による形状の変化を防止することはできない。
特開平8−184699号公報
本発明は、かかる従来技術の課題に鑑みなされたものであり、電子源の昇華量を削減するとともに、ビームの放出角度を小さくして長期間安定に使用することのできる電子銃及び電子ビーム露光装置を提供することを目的とする。
上記した課題は、先端部の電子放出面以外の側面がカーボン被覆膜で覆われた六ホウ化ランタン(LaB6)又は六ホウ化セリウム(CeB6)からなる電子源と、前記電子源を1100℃〜1450℃に加熱する発熱体と、前記電子源の電子放出面と対向して配置され、前記電子を加速させる加速電極と、前記電子放出面と前記加速電極との間に配置され、前記電子放出面に電界を印加して前記電子放出面から電子を引き出す引き出し電極と、前記電子放出面の前記引き出し電極と反対側に配置され、前記電子源の側面からの電子放出を抑制するサプレッサー電極と、前記電子放出面から放出された前記電子による電子ビームを収束させる電子ビーム収束部とを有し、前記電子ビーム収束部は、前記加速電極に隣接して配置された永久磁石を有し、前記永久磁石は前記電子源に対向する加速電極側をN極又はS極とするとともに、前記加速電極の表面から前記電子源に向かって磁界強度が減少する磁場を発生させることを特徴とする電子銃により解決する。
この形態に係る電子銃において、前記電子ビーム収束部の永久磁石は、前記電子源に対向する加速電極側をN極又はS極とする永久磁石であってもよく、前記サプレッサー電極は磁性体で形成されるようにしてもよい。
本発明の電子銃では、電子源から放出された熱電界放出電子による電子ビームを収束させるために、加速電極の近傍に永久磁石を配置している。永久磁石が配置されることによって、電子銃の引き出し電極付近に軸対称な磁界が重畳され、レンズ作用を持たせている。このレンズ作用によって、引き出し電極を通過したビームが収束作用を受け、加速電極近傍にクロスオーバー像の拡大像を形成することができる。このように、短い距離でクロスオーバー像の拡大像を形成することができ、ベルシェ効果を最小にして電子エネルギー分布の広がりを小さくすることができる。また、クロスオーバー像の拡大像を形成することにより、電流密度が小さいことによる露光スループットの低下を防止することが可能になる。
また、電子ビームが収束作用を受けることにより、電子ビームの開き角度が小さくなるため、加速電極に衝突する電子を極力少なくすることができる。これにより、加速電極の温度上昇が抑制され、真空度の低下を防止することが可能となる。
また、上記形態に係る電子銃において、前記電子源の材料は六ホウ化ランタン(LaB6)又は六ホウ化セリウム(CeB6)であっても良く、前記電子源の先端部の電子放出面以外の電子源の側面は前記電子源と異なる仕事関数の大きな物質で覆われているようにしても良い。
本発明では、電子源のチップの先端部の電子放出面のみを露出させ、その他の側面部分は異種物質でカバーしている。例えば、電子発生材料としてLaB6を使用した場合、この異種物質は例えばカーボン(C)である。このような電子源を有する電子銃を低温で動作させるため、チップの昇華がほとんど起こらない。これにより、電子源の電子放出面が変形することなく、電子銃を長期間安定して使用することができる。
また、チップの昇華が起こらない温度で電子銃を動作させるために強電界をかけても、カーボンで電子源の側面を覆っているため、電子源の側面から電子が放出されることはない。これにより、電子ビームの形状が変わることがなく、不必要な箇所が高温になって真空度が下がるという現象を防止することができる。
図1は、本発明に係る電子ビーム露光装置の構成図である。 図2は、本発明に係る電子銃の構成図である。 図3(a)、(b)は、電子加速部の構成及び磁界分布の一例を示す図(その1)である。 図4(a)、(b)は、電子加速部の構成及び磁界分布の一例を示す図(その2)である。 図5(a)、(b)は、電子源から放出される電子ビームの軌道の一例を示す図である。 図6は、電子源と電極の位置関係を示す図である。 図7(a)、(b)は、電子源の先端部の形状を示す断面図(その1)である。 図8(a)〜(d)は、電子源の先端部の形状を示す断面図(その2)である。 図9(a)〜(c)は、電子源の先端部の形状を示す断面図(その3)である。 図10(a)〜(c)は、電子源の先端部の形状を示す断面図(その4)である。 図11は、電子の放出を制限する領域を説明する電子源の断面図である。 図12(a)〜(c)は、静電レンズ電極の配置及び形状を示す断面図(その1)である。 図13は、静電レンズ電極の開口部の角度によるエミッタンス値の比較を示す図である。 図14(a)は、静電レンズ電極の開口部の角度方向によるエミッタンス値の比較を示す図である。図14(b)、(c)は、静電レンズ電極の配置及び形状を示す断面図(その2)である。 図15は、静電レンズ電極の配置及び形状を示す断面図(その3)である。 図16(a)は、静電レンズ電極の位置によるエミッタンス値の比較を示す図である。図16(b)は、静電レンズ電極の位置を示す断面図である。
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
(1)第1の実施形態
はじめに、電子ビーム露光装置の構成について説明する。次に、電子銃の構成について説明する。次に、電子銃のうちの特徴部分である電子ビーム収束部の構成について説明する。次に、電子源の構成について説明する。
(電子ビーム露光装置の構成)
図1に、第1の実施形態に係る電子ビーム露光装置の構成図を示す。
この電子ビーム露光装置は、電子光学系コラム100と、電子光学系コラム100の各部を制御する制御部200とに大別される。このうち、電子光学系コラム100は、電子ビーム生成部130、マスク偏向部140及び基板偏向部150によって構成され、その内部が減圧される。
電子ビーム生成部130では、電子銃101から生成した電子ビームEBが第1電磁レンズ102で収束作用を受けた後、ビーム整形用マスク103の矩形アパーチャ103aを透過し、電子ビームEBの断面が矩形に整形される。
その後、電子ビームEBは、マスク偏向部140の第2電磁レンズ105によって露光マスク110上に結像される。そして、電子ビームEBは、第1、第2静電偏向器104、106により、露光マスク110に形成された特定のパターンSiに偏向され、その断面形状がパターンSiの形状に整形される。
なお、露光マスク110はマスクステージ123に固定されるが、そのマスクステージ123は水平面内において移動可能であって、第1、第2静電偏向器104、106の偏向範囲(ビーム偏向領域)を超える部分にあるパターンSを使用する場合、マスクステージ123を移動することにより、そのパターンSをビーム偏向領域内に移動させる。
露光マスク110の上下に配された第3、第4電磁レンズ108、111は、それらの電流量を調節することにより、電子ビームEBを基板W上で結像させる役割を担う。
露光マスク110を通った電子ビームEBは、第3、第4静電偏向器112、113の偏向作用によって光軸Cに振り戻された後、第5電磁レンズ114によってそのサイズが縮小される。
マスク偏向部140には、第1、第2補正コイル107、109が設けられており、それらにより、第1〜第4静電偏向器104、106、112、113で発生するビーム偏向収差が補正される。
その後、電子ビームEBは、基板偏向部150を構成する遮蔽板115のアパーチャ115aを通過し、第1、第2投影用電磁レンズ116、121によって基板W上に投影される。これにより、露光マスク110のパターンの像が、所定の縮小率、例えば1/10の縮小率で基板Wに転写されることになる。
基板偏向部150には、第5静電偏向器119と電磁偏向器120とが設けられており、これらの偏向器119、120によって電子ビームEBが偏向され、基板Wの所定の位置に露光マスクのパターンの像が投影される。
更に、基板偏向部150には、基板W上における電子ビームEBの偏向収差を補正するための第3、第4補正コイル117、118が設けられる。
基板Wは、モータ等の駆動部125により水平方向に移動可能なウエハステージ124に固定されており、ウエハステージ124を移動させることで、基板Wの全面に露光を行うことが可能となる。
一方、制御部200は、電子銃制御部202、電子光学系制御部203、マスク偏向制御部204、マスクステージ制御部205、ブランキング制御部206、基板偏向制御部207及びウエハステージ制御部208を有する。これらのうち、電子銃制御部202は電子銃101を制御して、電子ビームEBの加速電圧やビーム放出条件等を制御する。また、電子光学系制御部203は、電磁レンズ102、105、108、111、114、116及び121への電流量等を制御して、これらの電磁レンズが構成される電子光学系の倍率や焦点位置等を調節する。ブランキング制御部206は、ブランキング電極127への印加電圧を制御することにより、露光開始前から発生している電子ビームEBを遮蔽板115上に偏向し、露光前に基板上に電子ビームEBが照射されるのを防ぐ。
基板偏向制御部207は、第5静電偏向器119への印加電圧と、電磁偏向器120への電流量を制御することにより、基板Wの所定の位置上に電子ビームEBが偏向されるようにする。ウエハステージ制御部208は、駆動部125の駆動量を調節して、基板Wを水平方向に移動させ、基板Wの所望の位置に電子ビームEBが照射されるようにする。上記の各部202〜208は、ワークステーション等の統合制御系201によって統合的に制御される。
(電子銃の構成)
図2に、電子銃101の構成図を示す。第1の実施形態において、電子銃101は熱電界放出型を使用する。電子銃101は、電子源20と、引き出し電極21と、引き出し電極21の下方に配置される加速電極25と、電子源20の両側に配されたカーボン製の電子源加熱用発熱体22と、電子源20と電子源加熱用発熱体22とを支持する支持具23と、支持具23を支持して囲んでいるサプレッサー電極24とを有している。電子源は、例えば単結晶のLaB6またはCeB6を用いる。
引き出し電極21は、電子源20の先端に強い電界を作り電子源20から電子を放出させるための電圧が印加される電極であり、例えば、電子源20の電子放出面から2mm以下の距離に設置される。
加速電極25は、電子源20から放出された電子を加速させるための電圧が印加される電極であり、例えば、引き出し電極21から20mmの距離に設置される。
このように構成された電子銃101において、電子銃制御部202は電子源加熱用電流を電子源加熱用発熱体22に加え続けて電子源20を1300℃に加熱し、電子源20を一定温度に保った状態で、サプレッサー電極24と引き出し電極21の間に強電界を印加して電子源20から電子を引き出す。さらに、引き出し電極21の下方に配した加速電極25に電圧を印加して、所定のエネルギーの電子ビーム29を取り出し、電子ビーム29をウエハステージ124上に固定されているレジストが塗布された基板Wに照射させることによって電子ビーム露光がなされる。
ここで、サプレッサー電極24にかける電圧は0〜−0.5kVであり、引き出し電極21にかける電圧は2.0〜4.0kVである。これらの電圧は電子源20の電位に対する値であって、通常は真のアースグランドに対しては電子源20が−50kVであるので、−50kVを加算した値になる。
なお、第1の実施形態では、電子源20を加熱しながら強電界をかけて電子放出させている。このため、電子源20の表面にガス分子が吸着することを防止でき、電子ビームの輝度の低下を防止することができる。
また、上記した電極に加えて、引き出し電極21と加速電極25の間に、静電レンズ電極26を設置するようにしてもよい。静電レンズ電極26は、電子源20から照射される電子照射の開き角度を調整するために使用される。
(電子加速部の構成及び動作)
次に、第1の実施形態で使用する電子加速部40の構成及び動作について図3から図5を参照して説明する。
第1の実施形態で対象とする熱電界放出型電子銃では、仮想的なクロスオーバー像のサイズが小さい。従って、可変矩形や部分一括図形を使用する電子ビーム露光装置では、放出された電子ビームのクロスオーバー像のサイズを大きくすることが、効率的に露光を行うために重要となる。
通常、加速電極25を通過した後の電子ビームに対し、電磁レンズで構成した拡大レンズによってクロスオーバー像の拡大像(以後、クロスオーバー拡大像とも呼ぶ)を形成することが行われている。しかし、このような電磁レンズでは、クロスオーバー拡大像を形成するまでの距離が長くなり、ベルシェ効果によって電子エネルギー分布が広がってしまうという問題が発生する。
そこで、本発明者等は、クロスオーバー拡大像を形成する距離を短くするために、電子加速部分に着目した。
図3及び図4は、磁界重畳型電子銃の構成及び動作を説明する図である。図3(a)に示すように、磁界重畳型電子銃は、電子源20から発生した電子を加速させる電子加速部40を有している。
電子加速部40は、加速電極25と、永久磁石41と、磁界強度調整用コイル42と、磁界漏れ防止用板43で構成される。電子源20側に配置される加速電極25と、ウエハステージ124側に配置される磁界漏れ防止用板43との間に、永久磁石41と磁界強度調整用コイル42が配置される。
永久磁石41としては、ネオジウム磁石、フェライト磁石、サマリウムコバルト磁石等があるが、磁界強度の大きな磁石が望ましい。これら3種の磁石のうち、例えばネオジウム磁石は、キューリー点が300℃と一番低いが、磁界強度は一番強い。従って、加速電極25近傍の温度が300℃に達しない場合には、ネオジウム磁石を使用することが望ましい。
永久磁石41の形状は、例えばリング型であり、引き出し電極21側をN極又はS極とし、ウエハステージ124側をS極又はN極とするように配置する。なお、永久磁石41の形状はリング型に限らず、加速電極25とサプレッサー電極24の間に磁場を形成できる形状であればよい。
磁界強度調整用コイル42は、永久磁石41による磁界分布を微調整して電子ビームが加速電極25付近にクロスオーバー拡大像を形成するようにするためのコイルである。
磁界漏れ防止用板43は、永久磁石41による磁界強度が弱くなることのないように磁束の漏れを防止するための板であり、例えば、純鉄で円板状に形成される。
以下に、電子加速部40に永久磁石41を配置することによって、電子加速部40近傍の光軸上に、クロスオーバー拡大像を形成できることについて説明する。
図3(a)の破線45は、サプレッサー電極24を純鉄で形成したときの磁力線45の一部を示している。
図3(a)に示すように、磁力線45は永久磁石41のN極から純鉄製のサプレッサー電極24に向かい、サプレッサー電極24を通って、永久磁石41のS極に戻る。
電子源から放射状に放出される電子ビームは、永久磁石41によって形成される磁場の中を通過することになる。この磁界は、磁界と直交する電子ビームの速度成分に作用し、電子の軌道は光軸方向へ曲げられる。
図3(b)は、電子加速部40とサプレッサー電極24との間の磁界強度を示した図である。図3(b)の横軸は、永久磁石41からの光軸方向の距離を示し、縦軸は、磁界強度を示す。磁力線45は永久磁石41の表面(N極)からサプレッサー電極24に向かって直進するため、磁界強度は永久磁石41の表面からサプレッサー電極24に向かって直線的に減衰する。
なお、第1の実施形態では、永久磁石41の電子源に対向する加速電極25側をN極として説明したが、電子源に対向する加速電極25側をS極としてもよい。
図3(b)のように直線的に磁界強度が変化している場合、加速電極25に近づくにつれ電子の軌道変化は大きくなり、加速電極25近傍でクロスオーバー拡大像47を形成する。
図5は、電子源51から発生する電子ビームの54,55を示した図である。図5(a)は、電子源51から発生する電子ビームが電磁界の影響を受けない場合の軌道54を示している。熱電界放出型電子銃の場合、仮想的クロスオーバー52は小さく、電子源51から放射状に広がった電子ビーム54となる。このような電子ビーム54は、図3に示したように、磁界の作用を受けることにより収束した電子ビーム55となる。その結果、クロスオーバーの拡大像53を短い距離で形成することができる。
電子ビームが適正に収束され、クロスオーバー像が適正に生成されたか否かの確認は、例えばファラデーカップのような電子ビームの電流値を検出する検出器を用いて周知の方法により行う。すなわち、クロスオーバー拡大像のビーム径より大きなアパーチャを用意し、そのアパーチャ上を通過するように電子ビームを走査して電流値の変化を調べる。アパーチャ通過の際に電流値変化がなだらかであれば所定のビーム径が得られ、電流値変化が急峻であれば、ビーム径が小さいと判定できる。また、磁界強度調整用コイル42に供給する電流を変え、電子ビームの電流値を測定し、最大の電流値が検出されたとき、クロスオーバー拡大像が得られたと判定してもよい。
図4は、電子加速部40に永久磁石41を用いた他の一例である。
図4(a)の破線46は、サプレッサー電極24を非磁性体、例えばステンレスで形成したときの磁力線46の一部を示している。また、図4(b)は、電子加速部40とサプレッサー電極24との間の磁界強度を示した図である。
図4(a)は、サプレッサー電極24が非磁性体であるため、磁力線46はサプレッサー電極24に向かって直進せず、曲線軌道を描いてS極に戻る。よって、磁界強度分布は、図4(b)に示すように、加速電極25近辺では磁界強度が強く、加速電極25から離れるに従って磁界強度の減少の割合が大きくなる。
このような磁場の中を電子ビームが進行すると、磁界の作用により、電子の軌道が光軸方向へ曲げられる。ただし、引き出し電極21を通過した直後は磁界強度が弱いため電子が受ける磁界の影響は小さく、放出電子ビームの広がりは永久磁石41を設けない場合と大きな違いはない。加速電極25に近くなると磁界の影響を受け、電子は急速に光軸方向へ曲げられ、クロスオーバー拡大像48を形成する。
このように、永久磁石41によって発生する磁界により、電子源20から照射される電子照射の開き角度が調整される。これにより、短い距離でクロスオーバー拡大像を形成することが可能になり、電流密度が小さいことによる露光スループットの低下を防止することが可能になる。
また、開き角度が調整されることによって、加速電極25に電子が照射されないようにしている。これにより、加速電極25に電子ビームが照射されて熱が発生することがなくなり、露光装置内の真空度の低下を防御することが可能となる。
なお、永久磁石41の作る磁場によって、電子ビームは光軸方向へ軌道が曲げられ、電子ビームが収束されるが、どの程度収束されるのかは、発生される電子ビーム、永久磁石の磁界強度に依存する。従って、この磁界強度を加速電極付近にクロスオーバー拡大像ができるように永久磁石の厚みと着磁強度を調整するように決定する。
また、永久磁石41の発生する磁界は固有であるため、磁界の微調整のために磁界強度調整用コイル42が用意されている。磁界強度調整用コイル42に電流を供給することにより磁界が発生し、永久磁石41による磁界と重畳され、電子ビームの軌道を微調整する。また、静電レンズによって電子ビームの軌道の微調整を行うようにしても良い。
また、永久磁石を電子加速部40だけでなく、サプレッサー電極24を間にして電子加速部40と反対側に配置するようにしても良い。このように永久磁石を配置することによって、電子加速部40とサプレッサー電極24との間の磁界強度を一定にすることが可能になる。
(電子源の構成)
次に、第1の実施形態で使用する電子源20の構成について説明する。
図6は電子銃101を構成する電子源20及び電極を示す断面図である。
電子源20は先端部が円錐状に形成され、周囲はカーボン30で覆われている。このカーボン30は、例えばCVD法により電子源20上表面に形成される。電子源20の先端は、電子源20の材料が露出し、露出部分は平坦化される。
電子源20の先端は、サプレッサー電極24と引き出し電極21の間に位置するように配置される。サプレッサー電極24には0又はマイナスの電圧が印加され、電子源20の先端以外の部分から放出される電子を遮蔽する働きをする。電界強度は、引き出し電極21とサプレッサー電極24との間の電圧差と、電子源20の先端の高さ、角度及び先端の平坦部の直径で決定される。電子源20の先端平坦部はサプレッサー電極24と引き出し電極21と平行になるように配置される。
電子源20は先端が円錐状になっており、電子を放出する電子放出面20aは平坦になっている。円錐状の電子源20の周囲には電子源20を構成する材料とは異なる材料で覆われている。円錐状の部分は円錐角が50度以下であることが望ましい。電子を放出する面は直径10μmから100μmが望ましく、通常は80μmが望ましい。また、電子源20の周囲を覆う材料の厚さは10μmが望ましい。ただし、この異なる材料による被覆は、(1)電子源20から電子が放出されないようにすること、及び、(2)基体の電子源20の材料の昇華・蒸発を抑えることの2つの目的のためのものであり、被覆材料の厚さの値は、電界強度、使用する材料に依存する。被覆材料が使用温度で蒸発して消耗することが少なければ、電界強度を上げるためには薄い方が良い。
電子源20に加えられる温度は、電子源20を構成する材料が昇華する温度よりも低い温度としている。これは、電子源20から熱電子を放出させるために高温を与えた場合には、電子源20が昇華を起こし、電子放出面20aが減耗し、変形してしまうので、昇華を起こさない程度の温度にしているためである。温度を下げた場合であっても、高温を与えた場合に得られた電流密度及び輝度を達成する必要がある。このために、強電界を電子源20の先端部にかけて、電子を引き出すようにしている。例えば、温度を1500℃から200℃落とした場合に、仕事関数を0.3eV低減することができれば、1500℃で温度を落とさず、熱電子放出によって得られる場合と同じ電子ビームの輝度を得ることができる。仕事関数を0.3eV低減しても電子を放出させるために、電子源20に高電界を印加して電子を放出させている。
このとき、高い電界をかけるため、電子放出部分となる電子源20の先端部分だけでなく、円錐状に形成した電子源20の側面部分からも電子が引き出されてしまうことになる。このため、所望の電子ビームの量及び形状が得られなくなったり、周辺からの余分な電子による空間電荷効果の発生により中心部から発生する電子ビームの輝度が低くなったりすることがある。これを防ぐために、電子源20の電子放出部分以外を電子源20の材料とは異なる材料で覆うようにする。この異なる材料としては、電子源20を構成する材料よりも仕事関数が大きい物質を選択する。
なお、電子源20としてLaB6を使用した場合には、LaB6と反応を起こさず、LaB6よりも仕事関数の大きなカーボン(C)を用いることが好ましい。このカーボンは酸素と反応するため、カーボン膜の厚さが薄いと二酸化炭素(CO2)として蒸発してなくなることが予想される。このため、カーボン膜の厚さは、2μmから10μmにすることが好ましい。LaB6と似た性質を有するCeB6についても同様のカーボン材料が被覆物質として有効である。
また、LaB6及びCeB6に加える温度を1100℃から1450℃としたとき、1時間あたりの蒸発量が1×10-10μm程度になることが確認された。よって、電子源に加える温度として1100℃から1450℃にすることが好ましい。
図7は電子源20の先端部の円錐角の大きさを変えた電子源20の断面図を示している。一般的に、円錐形状の電子源20の先端半径が小さいほど、また、先端角度が小さいほど先端部に強い電界集中が起こり、電子源20内の電子が表面の仕事関数障壁をトンネル現象により通過しやすくなる。しかし、極端に先端部を細くすると、電子源20自体の強度が弱くなってしまう。そこで、電子源20の強度及び電界強度を考慮して、電子源20の先端の角度を決定している。
図7(a)は、電子源20の先端部の円錐角を90度程度にした場合である。図7(b)は図7(a)よりも電子源20の先端部の円錐角を小さくした場合である。従来、図7(a)のように、電子源20の先端部の円錐角は90度程度で使用していた。図7(b)のように先端角度を小さくするほど、強い電界になり電子を容易に放出することが可能になる。さらに、鏡筒内に存在するイオン等の微粒子が電子源の先端部に衝突しにくくなるため、イオン等による電子源表面の消耗と変形効果を低減することが可能となる。
第1の実施形態では、電子源20の先端部の角度を30度程度にしている。電子源20の材質、電子源20の長さや幅等のサイズにも依存するが、従来使用されてきたものよりも長期間安定して使用することができる。
また、図8は電子源20の先端部の電子放出面の直径を同一とし、形状を変えた場合の断面図を示しており、電界集中によって電界強度を上げるための他の例を示した図である。図8(a)は電子放出面73が平面の場合であり、図8(b)は電子放出面73が凸面の場合であり、図8(c)は電子放出面73が球面の場合である。また、図8(d)は電子放出面73が平面でカーボン被覆膜72より突き出した場合である。
電子放出面73の直径が同じ場合には、電子放出面73が平面のときに比べ凸面又は球面のほうが電界集中を起こし易い。
なお、図8(d)のように電子放出面73をカーボン被覆膜72より突き出すことにより、何らかの原因で所定の温度以上になり電子源材料の消耗が起こり平坦面が維持できなくなった場合であっても継続して電子銃として使用することが可能となる。
また、図9は電子源の先端部の他の例を示した図である。
図9(a)〜(c)は電子源の先端部の形状が円錐台の場合の断面図を示している。図9(a)は、電子源の電子放出面73が平面であり、側面にカーボン被覆膜72が形成されている。図9(b)は、図9(a)の電子源において先端部の平坦面の端74が滑らかな曲面に形成されている。また、図9(c)は、図8(d)に示した電子源の先端部の構造において、電子放出面の端75が滑らかな曲面に形成されている。
図10(a)〜(c)は電子源の先端部が円柱形状の場合の断面図を示している。図10(a)は電子源の電子放出面73が平面であり、電子源の側面にカーボン被覆膜72が形成されている。図10(b)は、図10(a)の電子源に対して、先端部の平坦面の端76が滑らかな曲面に形成されている。また、図10(c)は、電子放出面が平面であり、カーボン被覆膜より突き出て形成され、電子放出面73の端77が滑らかな曲面に形成されている。
平坦な電子放出面73の端が面取りされず滑らかな曲面でない場合、電子放出面73に電界を印加したとき、その端の部分に電界が集中し、そこから電子が放出しやすくなる。そのため、電子の放出される方向が広範囲になり、電子ビームの輝度が低下してしまう。
また、電子源の側面にカーボン被覆膜72が形成されているときは、面取りされず滑らかな曲面でない端に電界が集中してもカーボン被覆膜72があるために電子が放出されることはないが、電子放出面73から放出される電子量が減少し、電子ビームの輝度が低下してしまう。
従って、電子源の先端部の少なくとも電子放出面73を含む平坦面の端は、図9(b)、(c)、及び図10(b)、(c)に示すように、傾斜を有した角度で面取りされたような滑らかな曲面にすることが好ましい。
なお、本実施形態では、電子源の側面を電子の放出を制限する領域として説明したが、図11に示すように、電子放出面60aおよび通電して加熱するカーボンチップ62で挟まれる部分を除いた電子源60の側面(61、61a)、及び裏面61bを異種物質で覆うようにしても良い。このようにすることにより、電子源60の昇華を削減してウェーネルト等への付着物の量を削減することが可能となる。
上記した電子放出を制限する領域は次のようにして形成される。
ここでは、図7に示した構造の電子源を例とし、電子源20としてLaB6の単結晶を用いた場合について説明する。
まず、LaB6単結晶を先端が円錐状になるように加工する。
次に、電子放出を制限する領域を形成するために、カーボン30をLaB6単結晶の表面にコーティングする。このコーティングは、CVD(Chemical Vapor Deposition)法、真空蒸着法、スパッタリング法等いずれの方法であっても良い。このとき、コーティングする膜の厚さは、電子放出表面の仕事関数を十分変える(LaB6よりも大きくする)こととLaB6材料の蒸発を防ぐことができる厚さであればよい。なお、カーボンを使用する場合は、カーボンが酸素と反応してCO2となって蒸発することを考慮し、カーボンの厚さは2μmから10μmにすることが好ましい。
次に、電子源20の先端部を直径1μmから200μmの平坦になるように、コーティングした膜とともに研磨する。
このようにして、電子放出を制限する領域が設けられた電子源が形成される。
以上説明したように、第1の実施形態では、電子加速部40に永久磁石41を配置するようにしている。永久磁石41による磁界によって、電子源20から放出される電子ビームを収束し、短い距離でクロスオーバー拡大像を形成することが可能になる。
また、磁界強度を加速電極25付近に拡大クロスオーバー像ができるように永久磁石41の厚みと着磁強度を調整するように決定している。これにより、最終レンズのケーラー照明時のクロスオーバー径を大きくすることができる。したがって、電流密度が小さいことによる露光スループットの低下を防止することが可能になる。
また、電子ビームの開き角度が調整されることによって、加速電極25に電子が照射されないようにしている。これにより、加速電極25に電子ビームが照射されて熱が発生することがなくなり、露光装置内の真空度の低下を防御することが可能となる。
また、加速電極25側に永久磁石41を配置するため、電子源20等のある高電圧側にコイルや永久磁石を配置する場合に比べて装置を容易に構成することができる。
さらに、電子源20のチップ先端部の電子放出面20aのみを露出させ、その他の側面部分は異種物質でカバーしている。このような電子源20を有する電子銃101を低温で動作させるため、チップの昇華がほとんど起こらない。これにより、電子源20の電子放出面20aが変形することなく、電子銃101を長期間安定して使用することができる。
また、チップの昇華が起こらない温度で電子銃101を動作させるため、電子放出面20a近傍の電位を大きくする強電界をかけている。このように強電界をかけても、カーボン30で電子源20の側面を覆っているため、電子源20の側面から電子が放出されることはない。これにより、電子ビームの形状が変わることがなく、不必要な箇所が高温になって真空度が下がるという現象を防止することができる。
(2)第2の実施形態
第2の実施形態では、短い距離で電子ビームを収束させるために、静電レンズ電極を使用した電子銃について説明する。なお、第2の実施形態で説明する電子銃が搭載される電子ビーム露光装置は第1の実施形態で説明した電子ビーム露光装置と同様であるため、説明は省略する。また、電子銃を構成する電子源についても第1の実施形態で説明したものと同様であるため説明を省略する。
第1の実施形態では、電子ビームを短い距離で収束させるために、加速電極近傍に永久磁石を配置し、永久磁石の発生する磁界を利用していた。
第2の実施形態では、電子ビームが加速電極を通過する前に、所定の形状の静電レンズ電極を使用して電子ビームを収束させることにより、クロスオーバー拡大像を形成する距離を短くしている。
第2の実施形態に係る電子銃の構成は、図2に示した構成と基本的に同じであるが、第2の実施形態では、引き出し電極21と加速電極25の間に配置される静電レンズ電極26の形状が異なる。本願発明者は、短い距離で電子ビームを収束させるために静電レンズの形状及び配置位置について鋭意研究し、短い距離で電子ビームを収束させるとともに、最適なエミッタンス値が得られる構成を見出した。
図12(a)〜(c)は、第2の実施形態に係る電子銃の基本構成を示した模式断面図を示しており、図2と同一部分には同一符号を付して詳細な説明は省略する。
図12(a)〜(c)に示すように、静電レンズ電極26は、光軸を中心として所定の径の開口部26aを有している。例えば、この静電レンズ電極26の厚さは1.2mmであり、開口部26aの内径は1.6mmである。この開口部26aの側面は上下方向にテーパ状に形成されている。
図12(a)〜(c)に示す静電レンズ電極26では、開口部26aの側面が引き出し電極21側(図12(a)〜(c)の上側)の方向に細くなるテーパ構造を有している。静電レンズ電極26の開口部26aの側面と引き出し電極側の上面とのなす角度をαとしたとき、図12(a)〜(c)は、それぞれ角度αが60度、30度、20度となっている。
図12(a)〜(c)に示した構造を有する静電レンズ電極26に例えば600Vの電圧を印加し、引き出し電極21に例えば3kVの電圧を印加すると、電子源20から放出された電子による電子ビームEBが開口部26aを通過する際に、静電レンズ電極26のレンズ効果によって収束作用を受ける。なお、静電レンズ電極26に印加する電圧は、引き出し電極21に印加する電圧よりも大きくしてもよい。
第2の実施形態では、静電レンズ電極26のレンズ効果によって電子ビームEBを収束させ、クロスオーバー拡大像ECOを加速電極25付近に形成するとともに、最適なエミッタンス値を得るために、静電レンズ電極の形状及び位置を変えてシミュレーションを行った。ここで、最適なエミッタンス値としては、14μm・mradとした。
図13は、静電レンズ電極26の開口部26aの角度αによるエミッタンス値の比較を示している。図13では、電子放出面73の先端の直径を120μm、電子放出面73先端における電界強度を3×105(V/cm)とし、開口部26aに形成されるテーパを開口部26aの側面が加速電極25側(出射側)に広くなるようにした場合であり、そのテーパ角度αが60度、30度及び20度の場合に算出されるクロスオーバー像の半径rco(μm)、電子放出の開き角θ(mrad)、及びエミッタンスε(μm・mrad)の値を示している。
図13に示すように、角度αが小さいときにエミッタンス値が大きくなる。また、テーパ角度αが大きいときほど電子ビームの開き角が大きくなっているが、開口部26aの側面のテーパ角度が大きいほど静電レンズ電極26によるレンズ効果が大きくなり、電子ビームは収束作用を強く受け、加速電極25近傍にクロスオーバー拡大像ECOを形成することが可能になる。
図14(a)及び(b)は、静電レンズ電極26の開口部26aのテーパ角度方向によるエミッタンス値の比較を示している。図14(a)では、電子放出面73の先端の直径が120μm、電子放出面73先端における電界強度が3×105(V/cm)としたときに、開口部26aに形成されるテーパの向きを電子ビームの入射側及び出射側の場合に算出されるクロスオーバー像の半径rco(μm)、電子放出の開き角θ(mrad)、及びエミッタンスε(μm・mrad)の値を示している。
図14(b)は、図12(a)〜(c)と同様に電子銃の基本構成の模式断面図を示しており、静電レンズ電極26に形成される開口部26aのテーパの向きが、入射側、すなわち引き出し電極21側に向かって太くなる場合を示している。また、図14(c)は、図12(a)と同じであり、静電レンズ電極26に形成される開口部26aのテーパの向きが、出射側、すなわち加速電極25側に向かって太くなる場合を示している。
図14(a)に示すように、開口部26aの側面のテーパが加速電極25側に太くなるように形成されているときのほうが、引き出し電極21側に太くなるように形成されているときよりもエミッタンス値が大きい。
出射側にテーパ角度αをつけたときに比較して、入射側にテーパ角度αをつけた場合、クロスオーバー半径及び開き角ともに小さくなっている。これは、入射側にテーパ角度αをつけた場合、出射側にテーパ角度αをつけた場合よりも静電レンズ電極26によるレンズ効果が弱くなり、加速電極25付近でクロスオーバー拡大像を形成するためには開き角度を大きくすることができないためと考えられる。
従って、加速電極25付近でクロスオーバー拡大像を形成して高輝度の電子ビームを得るためには、加速電極25側の方向に太くなるように開口部26aにテーパを形成することが好ましい。
なお、静電レンズ電極26の開口部26aに形成するテーパは、入射側又は出射側のどちらか一方向に傾斜する場合だけでなく、例えば、図15に示すように、開口部26aの側面が引き出し電極21側から加速電極25側に向かって中間点まではテーパ角度βの傾斜で細くなり、中間点からはテーパ角度γの傾斜で太くなるようにしてもよい。
次に、静電レンズ電極26を配置する位置について説明する。
図16(a)及び(b)は、静電レンズ電極26から引き出し電極21までの距離とエミッタンス値との関係を示している。図16(a)では、電子放出面73の先端の直径が120μm、電子放出面73先端における電界強度が3×105(V/cm)としたときに、引き出し電極21から静電レンズ電極26までの距離yが2mmのときと5mmのときについて算出されるクロスオーバー像の半径rco(μm)、電子放出の開き角θ(mrad)、及びエミッタンスε(μm・mrad)の値を示している。なお、引き出し電極21から加速電極25までの距離xは、20mmとし、引き出し電極26の開口部26aは出射側に60度の角度をつけたものとしている。
図16(a)に示すように、静電レンズ電極26の位置が引き出し電極21に近いほうが、エミッタス値が大きい。静電レンズ電極26が引き出し電極21から離れて加速電極25に近づくほど、静電レンズ電極のレンズ効果は大きくなり、電子ビームの開き角が大きくなっても加速電極25付近でクロスオーバー拡大像を形成することができる。しかし、クロスオーバー自体の大きさが小さくなり、エミッタンス値が小さくなってしまう。
従って、静電レンズ電極26は引き出し電極21に近いほうが良いが、適切なエミッタンス値が得られる範囲として、引き出し電極21から静電レンズ電極26までの距離yは、引き出し電極21から加速電極25の間の距離xに対して、5%から20%にすればよいことを確認している。
以上説明したように、第2の実施形態に係る電子銃では、中央に開口部26aを備えた静電レンズ電極26を引き出し電極21と加速電極25の間に配置し、静電レンズ電極26に電圧を印加して、電子ビームを収束させている。これにより、電子ビームは短い距離で収束し、加速電極25付近でクロスオーバー拡大像を形成することが可能になる。
また、静電レンズ電極26に形成される開口部26aは、その側面がテーパ構造になっている。このテーパの角度を調整することにより、電子ビームを短い距離で収束させ、かつ最適なエミッタンス値を得ることが可能になる。

Claims (5)

  1. 先端部の電子放出面以外の側面がカーボン被覆膜で覆われた六ホウ化ランタン (LaB6)又は六ホウ化セリウム(CeB6)からなる電子源と、
    前記電子源を1100℃〜1450℃に加熱する発熱体と、
    前記電子源の電子放出面と対向して配置され、前記電子を加速させる加速電極と、
    前記電子放出面と前記加速電極との間に配置され、前記電子放出面に電界を印加して前記電子放出面から電子を引き出す引き出し電極と、
    前記電子放出面の前記引き出し電極と反対側に配置され、前記電子源の側面からの電子放出を抑制するサプレッサー電極と、
    前記電子放出面から放出された前記電子による電子ビームを収束させる電子ビーム収束部とを有し、
    前記電子ビーム収束部は、前記加速電極に隣接して配置された永久磁石を有し、前記永久磁石は前記電子源に対向する加速電極側をN極又はS極とするとともに、前記加速電極の表面から前記電子源に向かって磁界強度が減少する磁場を発生させることを特徴とする電子銃。
  2. 前記サプレッサー電極は磁性体で形成され、前記電子ビーム収束部は前記加速電極の表面から前記サプレッサー電極に向かって磁界強度が直線的に減少する磁場を発生させることを特徴とする請求項1に記載の電子銃。
  3. 前記サプレッサー電極は非磁性体で形成され、前記電子ビーム収束部は前記加速電極の表面から離れるにしたがって磁界強度が減少する磁場を発生させることを特徴とする請求項1に記載の電子銃。
  4. 前記電子ビーム収束部は、更に、前記引き出し電極と前記加速電極の間に配置された静電レンズ電極と、
    前記永久磁石の近傍に配置された電磁コイルと
    を有し、
    前記静電レンズ又は電磁コイルに供給する電圧又は電流を調整して、前記電子ビームを収束させることを特徴とする請求項1に記載の電子銃。
  5. 前記電子ビーム収束部は、更に、前記サプレッサー電極を間にして前記永久磁石と反対側に第2の永久磁石を備え、前記加速電極から前記電子源に向かって一定の磁界強度の磁場を発生させることを特徴とする請求項1に記載の電子銃。
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