JP4972773B2 - 高珪素鋼板の製造方法 - Google Patents

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本発明は、磁気特性に優れた高珪素鋼板を製造する方法に関し、特に、浸珪処理により高珪素鋼板を製造する方法に関するものである。
変圧器、モータ、リアクトルなどの鉄心材料として使用される軟磁性材料には、高い磁束密度、低い鉄損が要求され、このような軟磁性材料としては珪素鋼板が用いられている。従来、いわゆる方向性珪素鋼板を製造する場合、Siを3.2%程度とし、集積度の高い{110}<001>集合組織を有する二次再結晶粒を得て製品としていた。
しかしながら、エネルギー損失をより一層低下させる要請から、鉄損がさらに低い材料が要求されている。このような要請に対して、特許文献1には、4.0%以下のSiを含有する方向性珪素鋼板にSiCl4ガスを利用した浸珪処理を施し、Si量を4.0〜7.0%とする方法が開示されている。
また、特許文献2には、磁束密度B8の高い方向性電磁鋼帯に冷間圧延を施し、板厚150μm以下とし、次いで一次再結晶焼鈍を施した後、SiCl4にて浸珪処理し、次いで非酸化性雰囲気下でSiを鋼中に拡散処理をすることを特徴とする{110}<001>方位集積度が高く鉄損が低い極薄電磁鋼帯が開示されている。
特開昭63-26329号公報 特開平4-63230号公報
しかしながら、特許文献1によって得られた高珪素鋼板は、50〜60Hzの商用周波数での鉄損の改善は認められるものの、400Hz以上での高周波数での鉄損は十分ではなかった。
また、特許文献2の方法では、実施例にみられるように、1000℃×5時間もの長時間、拡散処理を施しており、コストが高い。また、浸珪処理前に一次再結晶焼鈍が必要であることから、更に高コストとなっている。以上のことから、特許文献2の方法による極薄電磁鋼帯は、工業的に生産されておらず、現実的でない。
本発明は、かかる事情に鑑みなされたもので、磁気特性に優れた高珪素鋼板を浸珪処理により製造する方法を提供することを目的とする。
発明者らは、浸珪処理により高珪素鋼板を製造するにあたり、種々の検討を行った。
浸珪処理、拡散処理を1050℃以上で行うと処理に必要な時間を顕著に短くすることができ、経済的な製造が可能となるが、一方向性電磁鋼板に冷間圧延を施し、1050℃以上の浸珪処理、拡散処理を行うと、結晶粒が成長し、その際、磁気特性に不利な結晶方位を有する結晶粒が優先的に成長する結果、磁気特性が劣化することが明らかとなった。
そこで、1050℃以上の熱処理における、粒成長の抑制方法について、種々の検討を行った。以下にその方法と結果を示す。
Sol.Alを7ppm(A)、25ppm(B)、50ppm(C)、300ppm(D)、500ppm(E)と、それぞれ含有する板厚0.30mmの3%Si−0.1%Mn(残部はFeおよび不可避的不純物)の5鋼種の一方向性電磁鋼板を67%の圧下率で冷間圧延により板厚0.10mmとし、次いで、100%N2ガス中にて、100秒の焼鈍を施した。なお、この時の焼鈍温度は900℃から1200℃の種々の温度で行った。
以上により得られた焼鈍板に対して、結晶粒径および圧延方向のB8を測定し、特性を調査した。なお、結晶粒径は断面の光学顕微鏡観察により円相当径(直径)を求め、また、JIS C2550記載のエプスタイン試験により、圧延方向の磁気特性B8(磁化力800A/mにおける磁束密度)を測定した。
得られた結果を図1に示す。図1より、焼鈍温度が1050℃以上では、鋼種(A)および(E)においては、結晶粒径の増加が顕著となり、同時にB8も大幅に劣化しているのがわかる。一方、鋼種(B)〜(D)においては、結晶粒径の増加は小さく、B8も劣化していない。以上のことから、1050℃以上の熱処理において、Sol.Alが25ppm未満、あるいは300ppm超で含有する場合には、結晶粒成長が大きく、磁気特性に不利な結晶方位が優先的に成長すること、Sol.Alが25ppm以上300ppm以下含有する場合には、結晶粒成長が小さく、磁気特性に不利な結晶方位の成長が抑制されることが明らかとなった。Sol.Alは、結晶粒成長を抑制する効果を有する。しかし、Sol.Alが25ppm未満では結晶粒成長の抑制効果が小さく、1050℃以上での熱処理で結晶粒成長、特に、磁気特性に望ましくない結晶方位を有する結晶粒が成長すると考えられる。一方、Sol.Alが300ppm超では、結晶粒成長の抑制効果が大きいために、一次再結晶完了後の結晶粒径が非常に小さくなり、1050℃以上での浸珪処理、拡散処理の際に異常粒成長が生じ、磁気特性に望ましくない結晶方位を有する結晶粒が成長すると考えられる。
以上の結果をもとに、発明者らは、1050℃以上の浸珪処理、拡散処理においても同様に、Sol.Alを25ppm以上300ppm以下含有させることにより、結晶粒成長とそれに伴う磁気特性に不利な結晶方位の優先成長が抑制され、良好な磁気特性が得られることを知見した。
本発明は、以上の知見に基づきなされたもので、その要旨は以下のとおりである。
[1]mass%で、Siを4.0%以下、Mnを1.0%未満、mass ppmで、Sol.Alを25ppm以上300ppm以下含み、残部はFeおよび不可避的不純物からなる二次再結晶粒より構成された一方向性電磁鋼板に、50%以上90%以下の圧下率で冷間圧延を施し、板厚0.03mm以上0.2mm以下とした後、SiCl4ガスを0.5%以上50%以下含む雰囲気中で、1050℃以上1300℃以下の温度域で10秒以上600秒以下の時間保持する浸珪処理を施し、次いで、1050℃以上1300℃以下の温度域で3秒以上600秒以下の時間保持するSi拡散処理を施すことを特徴とする高珪素鋼板の製造方法。
[2]前記[1]において、前記一方向性電磁鋼板は、さらに、mass%で、Sb:0.005%以上0.10%以下、Sn:0.005%以上0.50%以下、Bi:0.001%以上0.05%以下から選ばれる1種または2種以上を含有することを特徴とする高珪素鋼板の製造方法。
[3]前記[1]または[2]において、前記一方向性電磁鋼板は、さらに、mass%で、Cr:0.01%以上0.8%以下、Ni:0.01%以上1.0%以下から選ばれる1種または2種を含有することを特徴とする高珪素鋼板の製造方法。
なお、本明細書において、鋼の成分を示す%、ppmは、すべてmass%、mass ppmである。
本発明によれば、高周波鉄損に優れた高珪素鋼板を浸珪処理により製造することができる。また、Sol.Alを25ppm以上、300ppm以下含有することで、磁気特性が劣化することなく、冷間圧延後に1050℃以上の温度で浸珪処理、Si拡散処理を施すことが可能となる。その結果、短時間で製造でき、経済性に優れた製造方法を提供することができる。
以下に本発明を詳細に説明する。
まず、本発明の高珪素鋼板を製造するにあたり、その素材としては、Siを4.0%以下、Mnを1.0%以下、Sol.Alを25ppm以上300ppm以下含み、残部Feおよび不可避的不純物からなり、二次再結晶粒より構成された一方向性電磁鋼板を用いる。そして、各成分組成の限定理由は下記の通りである。
Siを4.0%以下
Siは、磁気特性を改善するために添加されるが、4.0%を超えると冷間圧延が困難となることから、4.0%以下とする必要がある。
Mnを1.0%未満
Mnは、熱間圧延時の割れを抑止するために添加され、0.02%以上添加されることが望ましい。一方、Mnが1.0%以上では、Sol.Alが25ppm以上含有されても、1050℃以上で行われる浸珪処理、拡散処理での結晶粒成長および磁気特性に不利な結晶粒の優先成長を抑止することができない。よって、1.0%未満とする必要がある。
Sol.Alを25ppm以上300ppm以下
本発明において、最も重要な用件である。通常の方向性電磁鋼板製品の地鉄に含有されるSol.Alは25ppm未満である。しかしながら、本発明では、1050℃以上の浸珪処理やSi拡散処理において、結晶粒成長を抑制し、磁気特性に望ましくない結晶方位を有する結晶粒の成長を抑止するために、冷間圧延前の一方向性電磁鋼板のSol.Al量を25ppm以上300ppm以下に制御する必要がある。そのため、本発明では、Sol.Alを25ppm以上300ppm以下に制御する。
Sol.Alを上記の範囲に制御する方法は限定しないが、製鋼段階でのAl添加量の制御や、二次再結晶板を得るまでの途中工程での脱Al量を制御することが、工業生産性の観点から有利である。
また、上記成分組成に加え、冷間圧延前の一方向性電磁鋼板の成分として、Sb:0.005%以上0.10%以下、Sn:0.005%以上0.50%以下、Bi:0.001%以上0.05%以下の1種または2種以上を含有してもよい。これらの元素は、浸珪処理、あるいは需要家での歪取焼鈍時に発生する鋼板の窒化による磁気特性劣化を抑制する働きがある。一方、これらの元素は、添加量が多くなると、鋼板が脆化し、冷間圧延が困難となる。よって、含有する場合は、Sb:0.005%以上0.10%以下、Sn:0.005%以上0.50%以下、Bi:0.001%以上0.05%以下とする。
さらに、上記成分組成に加え、冷間圧延前の一方向性電磁鋼板の成分として、Cr:0.01%以上0.8%以下、Ni:0.01%以上1.0%以下の1種または2種を含有してもよい。これらの元素は、鋼板の比抵抗を高め、鉄損を改善する働きがある。一方、添加量が多すぎると、Crの場合には、飽和磁束密度が劣化し、磁気特性が劣化し、Niの場合には、鋼板の硬度が高くなりすぎて、冷間圧延が困難となる。よって、含有する場合は、Cr:0.01%以上0.8%以下、Ni:0.01%以上1.0%以下とする。
次に本発明の高珪素鋼板の製造方法について説明する。
本発明の一方向性電磁鋼板は以下のような工程で得ることができる。すなわち、上述の成分を含有する一方向性電磁鋼板用の熱延板に焼鈍と冷間圧延を施し、次いで、一次再結晶焼鈍を施した後、バッチ焼鈍で二次再結晶する。バッチ焼鈍で鋼板同志が融着しないように、一次再結晶焼鈍後、焼鈍分離剤を塗布することもできる。焼鈍分離剤としては、MgO、Al2O3、SiO2などを用いることができるが、MgOを用いた場合、鋼板表面にフォルステライトが形成されるので、冷間圧延前に酸洗や研磨でフォルステライトを除去する必要がある。しかし、焼鈍分離剤としてAl2O3やSiO2、あるいは微量の塩化物を含むMgOを用いることにより、フォルステライトがない、あるいはフォルステライトの量の少ない二次再結晶板が得られ、冷間圧延前の酸洗や研磨を省略あるいは簡略化できるので有利である。
次に、上記により得られ、二次再結晶粒より構成された一方向性電磁鋼板に、圧下率50%以上90%以下の冷間圧延を施し、板厚0.03mm以上0.2mm以下とする。
圧下率50%未満あるいは90%超では、良好な集合組織を得ることができない。板厚0.03mm未満では、コストの上昇が大きく、板厚0.2mm超では、板厚が厚すぎて、良好な鉄損特性を得ることができない。
次に、冷間圧延後の板厚0.03mm以上0.2mm以下の一方向性電磁鋼板に、SiCl4ガスを0.5%以上50%以下含む雰囲気中で、1050℃以上1300℃以下の温度域で10秒以上600秒以下の時間保持する浸珪処理を施す。SiCl4ガス濃度が0.5%未満では、Siの増加速度が遅く、所定のSi量まで浸珪するのに、長時間必要となり、経済的ではない。また、SiCl4ガス濃度が50%超では、SiCl4ガスのコストが高くなり、経済的ではない。1050℃未満の温度では、Siの増加速度が遅く、所定のSi量まで浸珪するのに、長時間必要となり、経済的ではなく、1300℃超の温度では、鋼板表面が溶融してしまう。保持時間が10秒未満では、Siの増加量が小さく、鉄損改善の効果がない。また、保持時間が600秒超では、効果が飽和するばかりで、経済的ではない。
次いで、1050℃以上1300℃以下の温度域で3秒以上600秒以下の時間保持するSi拡散処理を施す。Si拡散処理は、浸珪処理後、板厚方向に存在するSi濃度分布を拡散により均一化するために施される。1050℃未満の温度では、Siの拡散速度が小さく、Si濃度分布を均一にするために長時間を要し、経済的ではない。1300℃以上の温度では、鋼板表面が溶融してしまう。また、保持時間が3秒未満ではSi濃度分布を均一化できず、600秒超では効果が飽和するばかりで経済的ではない。
最後に、鋼板表面には、公知の絶縁被膜、あるいは張力付与型絶縁被膜を被成することができる。
表1に示す組成からなる一方向性電磁鋼板用熱延板に1000℃の焼鈍と冷間圧延を施して板厚0.14〜0.80mmとし、次いで、820℃×100秒の一次再結晶焼鈍を施した後、850℃×50時間のバッチ焼鈍で二次再結晶を行い、二次再結晶粒より構成される一方向性電磁鋼板を得た。
なお、得られた一方向性電磁鋼板の組成は表1の記載と同じであった。次いで、上記一方向性電磁鋼板に、表1に示す圧下率にて冷間圧延を施し、板厚0.075mmとした。
次いで、25%SiCl4-75%N2雰囲気中で、1200℃、60秒の浸珪処理を施した後、引き続き、1250℃、60秒の拡散処理を施した。
以上により得られた高珪素鋼板に対して、鋼板の圧延方向の高周波鉄損(周波数5kHz、最大磁束密度0.15T)を評価した。なお、高周波鉄損はJIS C2550記載のエプスタイン試験の方法により測定した。得られた結果を表1に示す。
Figure 0004972773
表1より、高周波鉄損に優れた高珪素鋼板が得られていることがわかる。そして、本発明により、磁気特性が劣化することなく、短時間で、高周波鉄損に優れた高珪素鋼板を浸珪処理により製造することが可能となった。
表2に示す組成からなる一方向性電磁鋼板用熱延板に950℃の焼鈍と冷間圧延を施して板厚0.30mmとし、次いで、900℃×30秒の一次再結晶焼鈍を施した後、870℃×50時間のバッチ焼鈍で二次再結晶を行い、二次再結晶粒より構成される一方向性電磁鋼板を得た。
なお、得られた一方向性電磁鋼板の組成は表2の記載と同じであった。次いで、上記一方向性電磁鋼板に、圧下率60%の冷間圧延を施し、板厚0.12mmとした。
次いで、10%SiCl4-90%Ar雰囲気中で、1100℃、300秒の浸珪処理を施した後、引き続き、1150℃、300秒の拡散処理を施した。
以上により得られた高珪素鋼板に対して、鋼板の圧延方向の高周波鉄損(周波数5kHz、最大磁束密度0.15T)を評価した。なお、高周波鉄損の測定方法は実施例1と同様である。得られた結果を表2に示す。
Figure 0004972773
表2より、高周波鉄損に優れた高珪素鋼板が得られていることがわかる。さらに、成分元素として、Sb、Sn、Bi、Cr、Niのいずれか一種を含有した発明例No15~19は発明例No14と比較して、より一層高周波鉄損が優れていることがわかる。
本発明の高珪素鋼板は、高周波鉄損に優れる上、短時間で製造可能なため低コストで製造できる。そのため、変圧器、モータ、リアクトル等を中心に鉄心材料として多様な用途に用いることができる。
焼鈍温度と磁気特性(圧延方向のB8)(a)、および焼鈍温度と結晶粒径との関係を示す図である。

Claims (3)

  1. mass%で、Siを4.0%以下、Mnを1.0%未満、mass ppmで、Sol.Alを25ppm以上300ppm以下含み、残部はFeおよび不可避的不純物からなる二次再結晶粒より構成された一方向性電磁鋼板に、50%以上90%以下の圧下率で冷間圧延を施し、板厚0.03mm以上0.2mm以下とした後、
    SiCl4ガスを0.5%以上50%以下含む雰囲気中で、1050℃以上1300℃以下の温度域で10秒以上600秒以下の時間保持する浸珪処理を施し、
    次いで、1050℃以上1300℃以下の温度域で3秒以上600秒以下の時間保持するSi拡散処理を施すことを特徴とする高珪素鋼板の製造方法。
  2. 前記一方向性電磁鋼板は、さらに、mass%で、Sb:0.005%以上0.10%以下、Sn:0.005%以上0.50%以下、Bi:0.001%以上0.05%以下から選ばれる1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1に記載の高珪素鋼板の製造方法。
  3. 前記一方向性電磁鋼板は、さらに、mass%で、Cr:0.01%以上0.8%以下、Ni:0.01%以上1.0%以下から選ばれる1種または2種を含有することを特徴とする請求項1または2に記載の高珪素鋼板の製造方法。
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