JP4967373B2 - 非調質高張力鋼板およびその製造方法 - Google Patents
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Description
本発明は、上記した従来技術の問題を解決し、特殊な処理や、多量の合金元素の添加を必要とすることなく、引張強さが590MPa以上の高強度を有し、かつ、溶接性、板厚方向材質の均一性、および、切断加工性に優れた、非調質高張力鋼板およびその製造方法を提供することを目的とする。なお、ここで、板厚方向材質の均一性とは、例えば、表層部の硬さと、板厚方向中心部の硬さとの差ΔHVが、30以下の場合をいうものとする。
(1)質量%で、C:0.06〜0.12%、Si:0.10〜0.50%、Mn:0.5〜2.0%、P:0.020%以下、S:0.010%以下、Nb:0.01〜0.05%、V:0.01〜0.10%を含み、かつ、Nb、Vを、Nb+Vが0.02〜0.12%を満足するように含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなり、かつ、次(1)式
H=C×(1+0.5Si)×(1+3Mn)×(1+0.3Cu)×(1+0.8Ni)×(1+3Cr)×(1+2Mo)×(1+5Nb)×(1+2.5V)×(1+200B)×100 ……(1)
(ここで、C、Si、Mn、Cu、Ni、Cr、Mo、Nb、V、B:各元素の含有量(質量%))
で定義される焼入性指数Hが85以上で、次(2)式
Pcm=C+Si/30+(Mn+Cu+Cr)/20+Mo/15+Ni/60+V/10+5B ……(2)
(ここで、C、Si、Mn、Cu、Ni、Cr、Mo、V、B:各元素の含有量(質量%))
で定義される溶接割れ感受性指数Pcmが0.22%以下である組成を有する鋼片を、1050〜1200℃に加熱し、圧延して鋼板とする熱間圧延と、該熱間圧延終了後、該鋼板の表面温度にして、(Ar3変態点−50℃)以上の温度域から、板厚方向平均冷却速度12℃/s以上で、該鋼板の表面温度にして、(Ar3変態点−300℃)以下の温度域まで冷却する、一次冷却処理と、該一次冷却処理後、冷却を中断し、鋼板の表面温度を650℃以上に復熱させる復熱処理と、該復熱処理後、板厚方向平均冷却速度12℃/s以上で、鋼板の板厚方向平均温度にして、600〜670℃の温度域まで冷却する、二次冷却処理とを順次施すこと、を特徴とする、引張強さ590MPa以上を有する非調質高張力鋼板の製造方法。
(3)質量%で、C:0.06〜0.12%、Si:0.10〜0.50%、Mn:0.5〜2.0%、P:0.020%以下、S:0.010%以下、Nb:0.01〜0.05%、V:0.01〜0.10%を含み、かつ、Nb、Vを、Nb+Vが0.02〜0.12%を満足するように含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなり、かつ、次(1)式
H=C×(1+0.5Si)×(1+3Mn)×(1+0.3Cu)×(1+0.8Ni)×(1+3Cr)×(1+2Mo)×(1+5Nb)×(1+2.5V)×(1+200B)×100 ……(1)
(ここで、C、Si、Mn、Cu、Ni、Cr、Mo、Nb、V、B:各元素の含有量(質量%))
で定義される焼入性指数Hが85以上で、次(2)式
Pcm=C+Si/30+(Mn+Cu+Cr)/20+Mo/15+Ni/60+V/10+5B ……(2)
(ここで、C、Si、Mn、Cu、Ni、Cr、Mo、V、B:各元素の含有量(質量%))
で定義される溶接割れ感受性指数Pcmが0.22%以下である組成と、表層部が、焼戻ベイナイト相からなり、中心部が、30体積%以下のフェライト相を含むベイナイト相を主体とする組織とを有し、表層部の硬さと、板厚方向中心部の硬さとの差ΔHVが、30以下であることを特徴とする引張強さが590MPa以上の非調質高張力鋼板。
C:0.06〜0.12%
Cは、鋼の強度を向上する元素であり、本発明では、所望の強度を確保するために、0.06%以上の含有を必要とする。一方、0.12%を超える含有は、溶接性を低下させる。このため、Cは、0.06〜0.12%の範囲に規定した。
Siは、脱酸剤として有効に作用するとともに、鋼に固溶して強度向上に寄与する元素である。本発明では、高強度化のために、0.10%以上の含有を必要とする。一方、0.50%を超える含有は、溶接性、靭性を低下させる。このため、Siは、0.10〜0.50%の範囲に規定した。
Mnは、安価に焼入れ性を向上させ、強度を高める作用を有するとともに、靭性向上にも寄与する元素である。このような効果を得るためには、0.5%以上の含有を必要とする。一方、2.0%を超える含有は、溶接性の低下を招く。このため、Mnは、0.5〜2.0%の範囲に規定した。
Pは、不可避的不純物として混入するが、鋼の靭性を低下させるため、できるだけ低減するのが好ましい。しかし、過度の低減は、精錬コストを高騰させるため、許容できる範囲として、Pは、0.020%以下に規定した。
S:0.010%以下
Sは、不可避的不純物として混入するが、多量に含有すると、鋼の靭性を低下させるため、極力低減するのが好ましい。しかし、過度の低減は、精錬コストを高騰させるため、許容できる範囲として、Sは、0.010%以下に規定した。
Nb は、基地(マトリクス)の強化ならびに析出強化を通じて鋼を高強度化する作用を有し、本発明において非常に重要な元素である。このような効果を発揮させるには、0.01%以上の含有を必要とする。一方、0.05%を超える含有は、靭性を低下させる。このため、Nbは、0.01〜0.05%の範囲に規定した。
Vは、Nbと同様に、基地(マトリクス)の強化ならびに析出強化を通じて鋼を高強度化する作用を有し、本発明において重要な元素である。このような効果を発揮させるには、0.01%以上の含有を必要とする。一方、0.10%を超える含有は、溶接性および靭性を低下させる。このため、Vは、0.01〜0.10%に規定した。
Nb、Vは、冷却過程において、セルフテンパリングにより複合析出し、鋼を高強度化する。このような効果は、Nb、Vの合計量Nb+Vにして、0.02%以上の含有を必要とする。一方、Nb+Vにして、0.12%を超える含有は、溶接性および靭性を低下させる。このため、Nb+V量を、0.02〜0.12%の範囲に規定した。
Cu、Ni、Cr、Mo、Ti、Bは、いずれも、鋼の高強度化に寄与する元素であり、必要に応じ、選択して含有するようにしてもよい。
Niは、鋼の高強度化に寄与するとともに、低温靭性を向上させ、さらに、Cuを含有した場合に生ずる熱間脆性の改善に有効に寄与する元素であり、必要に応じ、含有するようにしてもよい。このような効果を得るためには、0.1%以上含有するのが好ましいが、2%を超える含有は、溶接性を低下させるうえ、材料コストの高騰に繋がる。このため、Niは、2%以下に限定するのが好ましい。
Moは、鋼の高強度化に寄与する元素であり、必要に応じ、含有するようにしてもよい。このような効果を得るためには、0.02%以上含有するのが好ましいが、0.2%を超える含有は、例えば、ガス切断したような場合に、その断面性状が悪化する。このため、Moは、0.2%以下に限定するのが好ましい。
Bは、焼入れ性向上を介して高強度化に寄与する元素であり、必要に応じ、含有するようにしてもよい。このような効果を得るためには、0.0005%以上含有するのが好ましいが、0.005%を超える含有は、溶接性を低下させる。このため、Bは、0.005%以下に限定するのが好ましい。
なお、本発明の作用効果を損なわない限り、他の微量元素を含有するようにしても、何ら問題はない。
本発明では、上記した成分範囲内でかつ、焼入性指数Hが85以上、溶接割れ感受性指数Pcmが0.22%以下を満足するような組成に各成分を調整するものとする。焼入性指数Hは、次(1)式
H=C×(1+0.5Si) ×(1+3Mn) ×(1+0.3Cu) ×(1+0.8Ni) ×(1+3Cr) ×(1+2Mo)×(1+5Nb) ×(1+2.5V) ×(1+200B) ×100 ……(1)
(ここで、C、Si、Mn、Cu、Ni、Cr、Mo、Nb、V、B:各元素の含有量(質量%))
で定義される。また、溶接割れ感受性指数Pcmは、次(2)式
Pcm=C+Si/30+(Mn+Cu+Cr)/20+Mo/15+Ni/60+V/10+5B ……(2)
(ここで、C、Si、Mn、Cu、Ni、Cr、Mo、V、B:各元素の含有量(質量%))
で定義される。なお、(1)、(2)式の計算に際しては、含有しない元素は零として計算するものとする。
なお、本発明において、各成分の調整は、製鋼段階までに、常用の溶製方法で溶製することで行えばよく、また、鋼片は、連続鋳造法、造塊−分塊法などの常用の方法で製造すればよく、製造方法は、とくに限定されるものではない。
熱間圧延における加熱温度は、1050〜1200℃の範囲の温度とする。加熱温度は、オーステナイト結晶粒の粗大化を抑制するため、1200℃以下とする。一方、1050℃未満では、変形抵抗が増大し、圧延能率が低下する。また、加熱温度が1050℃未満では、Nbが固溶しないため、所望のNbの効果が発揮できなくなる。このため、加熱温度は、1050〜1200℃の範囲とした。
Ar3(℃)= 910−310C−80Mn−20Cu−15Cr−55Ni−80Mo ……(3)
(ここで、C、Mn、Cu、Cr、Ni、Mo:各元素の含有量(質量%))
にて計算できる。
まず、一次冷却処理について説明する。
一次冷却処理は、鋼板の表面温度にして、(Ar3変態点−50℃)以上の温度域から冷却を開始する。冷却開始温度がAr3変態点を50℃超、下回ると、表層にフェライト相が著しく生成し、所望の強度が確保できなくなる。冷却は、鋼板の板厚方向平均で、12℃/s以上で行う。板厚方向平均冷却速度が12℃/s未満では、冷却速度が遅く、鋼板が厚くなるほど、板厚中心部まで冷却効果が及びにくくなって、フェライト相の生成が著しくなり、板厚中心部を、ベイナイト相を主体とする組織とすることができず、所望の強度を確保できなくなる。
二次冷却処理は、鋼板の板厚方向平均で、12℃/s以上の冷却速度で、鋼板の板厚方向平均温度にして、600〜670℃の温度域まで冷却して停止し、その後、放冷する処理とする。なお、ここでいう「板厚方向平均温度」とは、鋼板表面から板厚中央部にかけての平均温度を意味し、差分法などのシミュレーションにより求められる。
また、二次冷却処理の冷却停止温度が670℃を超えると、その後の冷却(放冷)でフェライト変態が生じ、所望の組織を形成することができなくなる。あるいは、セルフテンパリングによるNb、Vの析出強化が期待しにくくなり、所望の強度を確保することが難しくなる。
なお、本発明で利用する冷却装置は、水量密度が適宜調整可能な従来公知の装置であれば、いかなるものも使用することができ、とくに限定されるものではない。
なお、表層部とは、鋼板の表面から板厚方向に、板厚の15%までの範囲を、中心部とは、板厚方向で1/2t±2mmの範囲をいうものとする。また、ベイナイト相を主体とする組織とは、50体積%以上のベイナイト相を含む組織をいい、ベイナイト相以外は、30体積%以下のフェライト相を含んでもよい。なお、ベイナイト相とは、ベイニティックフェライトをも含むものとする。
以下、実施例に基づいて、本発明をさらに詳細に説明する。
得られた鋼板から試験片を採取し、圧延方向に直交する断面で、表層部(表面下1mm位置)、板厚の1/2位置を含むように研磨し、ナイタール腐食して、光学顕微鏡または走査型電子顕微鏡を用いて組織を観察した。各試験片について、各5視野(倍率:400倍)以上観察し、画像解析装置を用いて、主相および第二相の組織分率(体積%)を求めた。
得られた鋼板から、JIS5号試験片を採取し、JIS Z 2241の規定に準拠して、引張試験を行い、引張特性(降伏強さYS、引張強さTS)を調査した。
(3)靭性
得られた鋼板の1/4板厚位置から、JIS Z 2202の規定に準拠して、Vノッチ試験片を採取し、JIS Z 2242の規定に準拠して、シャルピー衝撃試験を行い、破面遷移温度vTrs(℃)を求めた。
得られた鋼板から硬さ試験片を採取し、JIS Z 2244の規定に準拠して、ビッカース硬度計(荷重:98N)を用いて、板厚方向各位置の硬さHVを測定し、表層部(表面下1mm位置)と板厚の1/2位置との硬さの差を計算して求めた。
得られた結果を表3に示す。
Claims (4)
- 質量%で、
C:0.06〜0.12%、Si:0.10〜0.50%、
Mn:0.5〜2.0%、P:0.020%以下、
S:0.010%以下、Nb:0.01〜0.05%、
V:0.01〜0.10%
を含み、かつ、Nb、Vを、Nb+Vが0.02〜0.12%を満足するように含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなり、かつ、下記(1)式で定義される焼入性指数Hが85以上で、下記(2)式で定義される溶接割れ感受性指数Pcmが0.22%以下である組成を有する鋼片を、1050〜1200℃に加熱し、圧延して鋼板とする熱間圧延と、
該熱間圧延終了後、該鋼板の表面温度にして、(Ar3変態点−50℃)以上の温度域から、板厚方向平均冷却速度12℃/s以上で、該鋼板の表面温度にして、(Ar3変態点−300℃)以下の温度域まで冷却する、一次冷却処理と、
該一次冷却処理後、冷却を中断し、鋼板の表面温度を650℃以上に復熱させる復熱処理と、
該復熱処理後、板厚方向平均冷却速度12℃/s以上で、鋼板の板厚方向平均温度にして、600〜670℃の温度域まで冷却する、二次冷却処理と、
を順次施すことを特徴とする、引張強さ590MPa以上を有する非調質高張力鋼板の製造方法。
記
H=C×(1+0.5Si)×(1+3Mn)×(1+0.3Cu)×(1+0.8Ni)×(1+3Cr)×(1+2Mo)×(1+5Nb)×(1+2.5V)×(1+200B)×100 ……(1)
Pcm=C+Si/30+(Mn+Cu+Cr)/20+Mo/15+Ni/60+V/10+5B ……(2)
ここで、C、Si、Mn、Cu、Ni、Cr、Mo、Nb、V、B:各元素の含有量(質量%) - 前記組成に加えて、さらに、質量%で、Cu:1%以下、Ni:2%以下、Cr:1%以下、Mo:0.2%以下、Ti:0.1%以下、B:0.005%以下、のうちから選ばれた1種または2種以上を含有する組成であることを特徴とする請求項1に記載の非調質高張力鋼板の製造方法。
- 質量%で、
C:0.06〜0.12%、Si:0.10〜0.50%、
Mn:0.5〜2.0%、P:0.020%以下、
S:0.010%以下、Nb:0.01〜0.05%、
V:0.01〜0.10%
を含み、かつ、Nb、Vを、Nb+Vが0.02〜0.12%を満足するように含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなり、かつ、下記(1)式で定義される焼入性指数Hが85以上で、下記(2)式で定義される溶接割れ感受性指数Pcmが0.22%以下である組成と、表層部が、焼戻ベイナイト相からなり、中心部が、30体積%以下のフェライト相を含むベイナイト相を主体とする組織とを有し、表層部の硬さと、板厚方向中心部の硬さとの差ΔHVが、30以下であることを特徴とする引張強さが590MPa以上の非調質高張力鋼板。
記
H=C×(1+0.5Si)×(1+3Mn)×(1+0.3Cu)×(1+0.8Ni)×(1+3Cr)×(1+2Mo)×(1+5Nb)×(1+2.5V)×(1+200B)×100 ……(1)
Pcm=C+Si/30+(Mn+Cu+Cr)/20+Mo/15+Ni/60+V/10+5B ……(2)
ここで、C、Si、Mn、Cu、Ni、Cr、Mo、Nb、V、B:各元素の含有量(質量%) - 前記組成に加えて、さらに、質量%で、Cu:1%以下、Ni:2%以下、Cr:1%以下、Mo:0.2%以下、Ti:0.1%以下、B:0.005%以下、のうちから選ばれた1種または2種以上を含有する組成であることを特徴とする請求項3に記載の非調質高張力鋼板。
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