第1の発明は、鍋を載置するトッププレートと、鍋を加熱する加熱手段と、トッププレート上の鍋の加熱領域に薄膜状に形成された熱電対と、熱電対の熱起電力を温度に変換する温度変換回路と、温度変換回路の出力する温度信号に基づいて加熱手段を制御する制御手段とを備えた加熱調理器とするものである。これによって、熱電対は鍋底面からの輻射と伝導の両方を検出することで、鍋温度を精度よく検出し、良好な加熱制御が実現できる。
第2の発明は、鍋を載置するトッププレートと、鍋を加熱する加熱手段と、トッププレート上の鍋の加熱領域に薄膜状に形成された第1の熱電対と、第1の熱電対に上下に対向する位置でトッププレート下に薄膜状に形成された第2の熱電対と、第1の熱電対の熱起電力を温度に変換する第1の温度変換回路と、第2の熱電対の熱起電力を温度に変換する第2の温度変換回路と、第1、第2の温度変換回路の出力する温度信号の差からトッププレートを通過している熱流束を演算する熱流束演算手段と、第1、第2の温度変換回路の出力する温度信号および熱流束演算手段の出力する熱流束信号に基づいて加熱手段を制御する制御手段とを備えた加熱調理器とするものである。これによって、第1の発明の効果に加えて、熱流束を測定することで、調理中の現在温度だけでなく、その後の温度の予測も可能となり、応答性に優れたものとなる。
第3の発明は、特に、第2の発明において、第1、第2の熱電対の薄膜パターンを上下に重なる同一形状としたことにより、静電容量を増やしかつ静電容量が温度変換回路における入力部のローパスフィルタの一要素となることで、外来ノイズに強く安定して精度のよい鍋底面の温度測定ができる。
第4の発明は、特に、第2の発明において、第1の熱電対の薄膜パターンと、第2の熱電対の薄膜パターンを直交するように形成したことにより、パターン間の結合容量による熱起電力の誤差を低減させて、鍋底温度を精度よく測定する。
第5の発明は、特に、第1または第2の発明において、熱電対の薄膜パターンを櫛刃状に形成したことにより、薄膜パターンに誘導される電磁的ノイズによる誤差電流が打ち消され、精度のよい鍋底面の温度測定ができる。
第6の発明は、鍋を載置するトッププレートと、鍋を加熱する加熱手段と、トッププレート上の鍋の加熱領域に薄膜状に形成された熱電対を複数直列に接続した熱電堆と、熱電堆の合成熱起電力を温度に変換する温度変換回路と、温度変換回路の出力する温度信号に基づいて加熱手段を制御する制御手段とを備えた加熱調理器としたものである。これによって、単一の熱電堆で、鍋底面から熱伝達の3つのモード(輻射、伝導、対流)の全てを検出できるため、鍋底形状や表面状態あるいは鍋底温度分布の影響を受けにくく、精度よく温度を測定することができる。特に、出力電圧を高くした熱電堆(サーモパイル)としているので、より精度を高くすることができる。
第7の発明は、特に、第1〜第6のいずれか1つの発明において、熱電対の薄膜パターンを覆って熱吸収・伝導層を設けたことにより、鍋底面からの輻射、伝導がよく、鍋底面温度を精度よく測定することができる。
第8の発明は、特に、第1〜第7のいずれか1つの発明において、熱電対の薄膜パターンを覆って保護層を設けたことにより、鍋に付いた水滴や、鍋から溢れた調理物や、傷や汚れに対しても安定して精度のよい鍋底面の温度測定ができる。
第9の発明は、特に、第1〜第8のいずれか1つの発明において、トッププレート下面に冷却風を送風する送風ファンと、この送風ファンの送風量を測定する風量センサと、この風量センサの出力を入力して送風ファンによる送風量が所定値になるように制御する風量調節手段とを備えたことにより、トッププレート下面を冷却して、上面との温度差を大きくし、熱電対あるいは熱電堆の熱起電力をより大きくすることができる。したがって、鍋底面の温度を精度よく測定することができ、加熱性能に優れた加熱調理器が提供できる。
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、この実施の形態によって本発明が限定されるものではない。
(実施の形態1)
図1、図2は、本発明の実施の形態1における加熱調理器として誘導加熱調理器を例示している。
図1に示すように、本実施の形態における加熱調理器は、調理物収容の鍋30を載置する強化ガラス製のトッププレート31と、加熱コイル36に高周波電流を供給し鍋30を誘導加熱する加熱手段37と、トッププレート31上の絵柄で示された加熱領域33に薄膜状に形成された熱電対34と、基準冷接点補償器を内蔵し熱電対34の熱起電力を温度に変換する温度変換回路35と、温度変換回路35の出力する温度信号に基づいて加熱コイル36へ供給する電力量を加熱手段37に指示する制御手段38と、タッチパネル式の操作手段39と、この操作手段39が操作されて設定された火力などを表示する表示手段40とを備えている。
制御手段38はROM、RAM、A/D入力、割り込み入力、PWM出力、発振器を内蔵したワンチップマイクロコンピュータで構成している。
また、図2に示すように、トッププレート31の加熱領域33には、貫通した2個の孔32a、32bを設けている。
熱電対34は、トッププレート31上の加熱領域33内に形成された第1の合金の薄膜パターン43と、第2の合金の薄膜パターン44とよりなっており全体としてΩ状としている。そして、2種類の薄膜パターン43、44を接合させた測温接点45と、薄膜パターン43、44を2個の孔32a、32bを通して延長させたトッププレート下部の基準冷接点46とを有し、各基準冷接点46にそれぞれ補償導線47を接続している。なお、図2(b)には、薄膜パターン44と、その基準冷接点46と、補償導線47のみが示されており、薄膜パターン43はその後方に隠れるが、同様に、基準冷接点46と、補償導線47を有するものである。
ここで、熱電対34は、第1の合金の薄膜パターン43(+極)にW−Re3%、第2の合金の薄膜パターン44(−極)にW−Re25%を用いたもので、測温範囲は0℃〜2400℃、最大熱起電力は39.5mV発生する。一般的に、熱電対の出力する熱起電力はE、J、Tという種類を除いて非線形性が強いため、熱起電力から温度を換算するには折れ線近似・べき級数近似という直線化(リニアライズ)をリニアライザで行なう。近年では、リニアライザ、冷接点補償器内蔵の熱電対専用ICも多数市販されており、比較的容易に入手できる。なお、前記温度変換回路35はこのような熱電対専用ICで構成している。
以上のように構成された加熱調理器について、以下に、その動作、作用を説明する。
まず、使用者がトッププレート31上の加熱領域33に調理物を収容した鍋30を載置する。その後、操作手段39内の「入/切」キーを操作して“加熱モード”にし、「アップ」、「ダウン」キーで所望の火力となるように設定する。これにより、制御手段38が加熱手段37を制御して加熱コイル36に設定された火力に見合う所定の高周波電力を供給する(ここで、加熱手段37はいわゆるインバータと呼ばれる公知の技術であるため、その詳細な構成および回路の説明は省略する)。加熱コイル36に高周波電流が供給されると、加熱コイル36から誘導磁界が発せられ、トッププレート31に載置された被加熱物である鍋30の底面が誘導加熱されジュール熱が生じる。この熱によって鍋30の温度が上昇し、鍋30内の調理物が加熱調理される。
一方、加熱された鍋30の底面から放射される赤外線による輻射熱と、鍋30底面に接触している部分からの伝導熱と、鍋30とトッププレート31間の微少な隙間の空気の対流熱(輻射や伝導よりやや遅れて伝達される)とを受けて、薄膜状に形成した熱電対34の測温接点45と各基準冷接点46との温度差が生じ、鍋30底面温度に応じた熱起電力が発生する。基準冷接点補償器を内蔵した温度変換回路35は、補償導線47を介してこの熱起電力を入力し、温度信号に変換して出力する。鍋30の温度が上昇すると鍋30の底面からの輻射熱、伝導熱、対流熱も大きくなり、測温接点45と基準冷接点46との温度差が増え、温度変換回路35の出力も大きくなる。
制御手段38はこの温度に応じた出力を入力し、予め定められた所定値(過昇防止温度、あるいは自動調理メニューにおける沸騰温度などの設定温度)以下ならば加熱手段37へ加熱を指示し続ける。「入/切」キーで“加熱モード”が停止された場合と、温度変換回路35の出力する温度値が上記の所定値を越えた場合は、加熱手段37に加熱停止を指示することで、安全に調理が行われる。
このように、本実施の形態によれば、加熱領域33における単一の熱電対34で、鍋30底面から熱伝達の3つのモード(輻射、伝導、対流)の全てを検出できるため、鍋30底の形状や表面状態、あるいは加熱コイル36による鍋30底の温度分布の影響は受けにくく、精度よく温度を測定することができ、調理性能の高い加熱調理器を提供できる。すなわち、使用のたびに鍋の載置位置がずれたり、鍋底に刻印や、ヘアライン加工、リング加工、打ち込み加工があったり、特殊な鍋底表面状態であっても、温度過昇を確実に防止することができ、安全性が向上し、また機器の自動調理メニューの適用範囲が広がり、使用者による操作の手間を省くことができ、加熱調理器の使い勝手が向上し、美味しい仕上げを得ることができる。
なお、熱電対34は400℃超の高温や、調理物が溢れた時の汁、清掃時の洗剤などの酸やアルカリにさらされる。従って、耐熱性や耐酸性や耐アルカリ性を持ち、科学的にも物理的にも安定したPt(白金)、Re(レニウム)、Rh(ロジウム)、Au(金)、Ag(銀)といった貴金属や、W(タングステン)を用いる。その中でも、3〜20数%のReを含むW−Re合金は延性−脆性遷移温度が低く、室温で靭性がある。また一次再結晶域で著しく伸びを示し、常温引張りで10〜20%以上の伸びがある。二次再結晶温度は2500K以上と高い。高温引張強度は2000kで約300MPa、2500kで100MPaと丈夫であり、本実施の形態において使用する薄膜状の熱電対を形成するのに適している。
また、Cu(銅)をW−Re合金に微量添加することで、W(タングステン)の性質とCu(銅)の高熱伝導性を兼ね備えるとともに、強化ガラス製のトッププレート31の熱膨張率に合わせて熱膨張率を調整することが可能となる。
なお、すべての配線をこの種の貴金属の合金素材で行なうと極めて高価となるので、感温部である第1の合金の薄膜パターン43と、第2の合金の薄膜パターン44、基準冷接点46のみにこれらの合金素材を用い、常温付近である配線用の部分には、より廉価な金属でこれらの貴金属の合金素材と同じ熱電能を持った補償導線(合金線) を用いることで、コスト安価にすることができる。
なお、薄膜パターン43、44は、真空中で薄膜にする貴金属の合金素材を蒸発(あるいは昇華)させ、その蒸気をトッププレート31に当てて薄膜をつける真空蒸着方式や、真空中で薄膜にする貴金属の合金素材を蒸発させた時に+(プラス)の電気を帯びさせ、また付着させるトッププレート31に−(マイナス)の電気を持たせることで、基板が材料を含む蒸気を引き寄せることにより、密着性のよい薄膜を作るイオンプレーティング方式、あるいは薄膜にする貴金属の合金素材を粉末にして、流動性を有するバインダに均一に混ぜて印刷し、乾燥させた後、さらに焼成する印刷方式により形成している(その他にもエレクトロンビーム方式、スパッタリング方式、プラズマCVDが考えられる)。
なお、熱電対34は2種類の合金の組み合わせが同じならば、太さや厚みや形状などによる影響を受けず、同じ熱起電力が発生するので、加工精度は精密級でなくてもよい。薄膜状に形成した熱電対34の大きさは、加熱コイル36の内径よりも小さくした方が高周波磁界の影響が小さくなるので望ましい。
なお、トッププレート31に設けた2個の孔32a、32bは貴金属の合金素材を通すには直径1.0mm以下でよく、この程度の直径の孔をトッププレート31に空けても強度が低下しないことは、CAEを用いた応力解析と硬球落下試験により確認されている。孔をあける方法としては、強化ガラスの製造時の結晶化させる前の段階で金型に設けたピンであける方法が望ましい。もちろん、結晶化させた後でも、ドリルなどの機械加工や、レーザービームの照射などの熱的加工によって孔をあけることは可能である。
また、加熱調理器としては、誘導加熱調理器に限らず他の熱源を用いたものにおいても適用することができ、また機器形状は矩形状に限られず、さらに加熱領域が複数存在するものであってもよいことは明らかである。
(実施の形態2)
図3、図4は、本発明の実施の形態2における加熱調理器として誘導加熱調理器を例示している。実施の形態1と同一要素については同一符号を付してその説明を省略する。
図3に示すように、本実施の形態における加熱調理器は、実施の形態1の構成に加えて、熱電対(第1の熱電対)34に対向してトッププレート31下に薄膜状に形成された第2の熱電対48と、基準冷接点補償器を内蔵し第2の熱電対48の熱起電力を温度に変換する第2の温度変換回路49と、温度変換回路(第1の温度変換回路)35と第2の温度変換回路49の出力する温度信号の差から、トッププレート31を通過している熱流束を演算する熱流束演算手段50と、熱流束演算手段50の出力する熱流束出力、および第1、第2の温度変換回路35、49の出力する温度信号に基づいて加熱手段37を制御する制御手段51とを備えているものである。
制御手段51はROM、RAM、A/D入力、割り込み入力、PWM出力、発振器を内蔵したいわゆるワンチップマイクロコンピュータで、そのROM内に熱流速演算手段50を実現するプログラムコード(演算式、較正用のテーブルデータ)を記憶している。
また、図4に示すように、第2の熱電対48は、トッププレート31の下面で、かつ加熱領域33下に形成した第1の合金の薄膜パターン52と、第2の合金の薄膜パターン53とよりなっており、第1の熱電対34と同形状をしている。また、第1の熱電対34と同様、2種類の薄膜パターン52、53を接合させた測温接点54と、各基準冷接点46と、各基準冷接点46にそれぞれ接続した補償導線47とを有している。第2の熱電対48の測温接点54は、第1の熱電対34の測温接点45とトッププレート31を挟んで上下に対向した位置に配置している。なお、図4(b)には、薄膜パターン53と、その基準冷接点55と、補償導線56のみが示されており、薄膜パターン52はその後方に隠れるが、同様に、基準冷接点55と、補償導線56を有するものである。
以上のように構成された加熱調理器の2種類の熱電対について、以下その動作、作用を説明する。
まず、加熱された鍋30の底面から放射される赤外線による輻射熱と、鍋30底面から伝導熱と対流熱とを受けて、第1の熱電対34の測温接点45と各基準冷接点46との間に第1の温度差が生じ、鍋30底面温度に応じた第1の熱起電力が発生する。同様に、トッププレート31を通過した輻射熱と伝導熱とを受けて、第2の熱電対48の測温接点54と各基準冷接点55との間にも第2の温度差が生じ、第2の熱起電力が発生する。
本実施の形態では、トッププレート31の熱伝導率と厚さは既知の値であり、第1の熱起電力と第2の熱起電力との間にも差(10℃の温度差に対し約0.2mV)が生じるので、熱流速演算手段50で熱流速値を求めることが可能となる。一般的にエネルギーは高密度から低密度へと流れ、熱伝達(Heat Transfer)に関しても同様の原理で、高温から低温へ、すなわち、鍋30底面から第1の熱電対34、第2の熱電対48へと主に伝導と輻射で伝達される。
単位時間あたりの伝導による熱流束q(単位:W/m2)はフーリエの法則より、
q= Q/F=K(Ti−To)
Q: 単位時間あたりの熱移動量 F: 熱通過する表面積 K: トッププレー
ト31の熱伝導率(熱通過率) Ti: 鍋底の温度 To: 熱電対34の温度
単位時間あたりの輻射による熱流束ψ(単位:W/m2)は、
ψrad = ε σ ( Ti 4 − To 4 )
ε: 熱電対34および熱電対48の輻射能 σ: 5.68×10−8 W/m2 K4 (ステファン・ボルツマン定数)
上記第1の熱起電力と第2の熱起電力との間に生じる起電力差は、上記の各々の熱流束値の合計値によるものである。この熱流束値はおよそ0.6W/cm2〜7W/cm2である。
次に、基準冷接点補償器を内蔵した温度変換回路35は各補償導線47を介してこの第1の熱起電力を入力し、第1の温度信号に変換して出力する。同じく、基準冷接点補償器を内蔵した温度変換回路49は各補償導線56を介して第2の熱起電力を入力し、第2の温度信号に変換して出力する。熱流速演算手段50はこの第1の温度出力と、第2の温度出力とから、トッププレート31上下面間の温度差ΔTを算出する。
この算出された温度差ΔTをトッププレート31の厚みt(単位:m)で割ることにより温度勾配τ(単位:℃/m)を得る。この温度勾配τを上記のテーブルデータで変換して、トッププレート31を通過する熱流束(単位:W/m2)の即値を所定時間毎に演算し、これを移動平均処理して熱流束の確定値を決定して出力する。熱流束とは単位面積を流れるエネルギー(熱流)量を示すもので、温度変化はこのエネルギー流の結果によるものなので、熱流束が分かれば温度の予測することができる。すなわち、所定の時間の加熱した鍋30からの熱流束を測定した場合に、その時間内の温度変化だけでなくその後の温度を予測することが可能となる。
そして、制御手段51は第1の温度変換回路35の出力する第1の熱電対34(トッププレート31上面)の検出温度と、第2の温度変換回路49の出力する第2の熱電対48(トッププレート31下面)の検出温度と、熱流速演算手段50が出力する熱流速値から予測される各々の所定時間後の温度とが、予め記憶している比較値(過昇防止温度、あるいは、自動調理メニューにおける沸騰温度などの設定温度)以下なら加熱手段37へ加熱を指示し続ける。「入/切」キーで“加熱モード”が停止された場合と、上記のいずれかの温度が上記の比較値を越えた場合は、加熱手段37に加熱停止を指示することで、極めて安全に調理が行われる。
以上のように、本実施の形態によれば、第1、第2の熱電対34、48を用いて、トッププレート31を通過している熱流束を演算して求めることができる。実施の形態1の効果に加えて、この熱流束を測定することで、熱量束と鍋30底面の現在の検出温度から調理中の現在温度だけでなく、所定時間後の温度を予測して、過熱や発火が生じる温度に実際に到達するより前に、加熱を停止することができるため、応答性に優れたものとなり、安全性能と調理性能を両立させ優れた加熱調理器を提供できる。
なお、鍋30とトッププレート31で閉空間を形成されており、鍋30底面からの熱は輻射、伝導、対流の3つのモードでほぼ全て第1、第2の熱電対34、48に伝達されるため、鍋30の底の形状や表面状態、あるいは、加熱コイル36による鍋30底の温度分布の影響を受けにくく、精度よく温度を測定することができる。
なお、熱流束の演算は加熱手段37で鍋30を加熱している通電期間に行い、鍋30底面温度が上昇して所定値を超えたために加熱を停止している休止期間は演算を行ないようにすることで、熱履歴の累積して、演算した熱流束と実際の熱流束とが大きく乖離するのを防ぐことができる。また、トッププレート31の厚さは約4mmと厚いため、加熱中は上面と下面には必ず温度差(温度傾斜)が生じ、熱流を安定して測定することができる。
(実施の形態3)
図5は、本発明の実施の形態3における加熱調理器を示している。実施の形態2と同一要素については同一符号を付してその説明を省略する。
図に示すように、本実施の形態における加熱調理器における薄膜状の第1の熱電対57は、トッププレート31に開けた2個の孔58a、58bと、トッププレート31上の加熱領域33内に形成された第1の合金の薄膜パターン59と、第2の合金の薄膜パターン60と、この2種類の合金を接合させた測温接点61と、第1の合金と第2の合金を2個の孔58a、58bに通して延長し、トッププレート31の下部に設けた基準冷接点62a、62bと、補償導線63a、63bとで構成している。一方、薄膜状の第2の熱電対64は、トッププレート31の下面に形成された第1の合金の薄膜パターン65と、第2の合金の薄膜パターン66と、この2種類の合金を接合させた測温接点67と、各基準冷接点68と、各補償導線69とで構成している。
ここで、測温接点61、67はトッププレート31を挟んで上下に対向した位置に形成し、かつ、薄膜パターン59と薄膜パターン60を結ぶラインと、薄膜パターン65と薄膜パターン66を結ぶラインとが直交するように形成している。これにより、薄膜パターン間の結合容量を最小の値とすることができる。なお、図5(b)においては基準冷接点68と補償導線69の一方は後方に隠れるため図示していない。
以上のように構成された加熱調理器の2種類の熱電対について、以下その動作、作用を説明する。
まず、加熱された鍋30の底面から放射される赤外線による輻射熱と、鍋30底面から伝導熱と対流熱とを受けて第1の熱電対57の測温接点61と基準冷接点62a、62bとの間に温度差が生じ、鍋30底面温度に応じた第1の熱起電力が発生する。同様に、トッププレート31を通過した輻射熱と伝導熱とを受けて第2の熱電対64の測温接点67と各基準冷接点68との間にも温度差が生じ、第2の熱起電力が発生する。基準冷接点補償器を内蔵した第1の温度変換回路35は補償導線63a、63bを介してこの第1の熱起電力を入力し、第1の温度信号に変換して出力する。同様に、基準冷接点補償器を内蔵した第2の温度変換回路49は各補償導線69を介して第2の熱起電力を入力し、第2の温度信号に変換して出力する。
熱流速演算手段50はこの第1の温度出力と、第2の温度出力とから、トッププレート31上下面間の温度差ΔTを算出する。この算出された温度差ΔTをトッププレート31の厚みで割ることにより温度勾配τを得る。この温度勾配τを上記のテーブルデータで変換して、トッププレート31を通過する熱流束の即値を所定時間毎に演算し、これを移動平均処理して熱流束の確定値を決定して出力する。そして、制御手段51は第1の温度出力と、第2の温度出力と、前記熱流速の確定値から予測される所定時間後のトッププレート31上面温度・下面温度とが、予め記憶している比較値(過昇防止温度、あるいは、自動調理メニューにおける沸騰温度などの設定温度)以下なら加熱手段37へ加熱を指示し続ける。「入/切」キーで“加熱モード”が停止された場合と、上記のいずれかの温度が上記の比較値を越えた場合は、加熱手段37に加熱停止を指示することで、極めて安全に調理が行われる。
以上のように、本実施の形態によれば、第1の熱電対57の薄膜パターンと、第2の熱電対64の薄膜パターンを直交するように形成したことにより、薄膜パターン間の結合容量を最小の値とすることができ、薄膜パターン間の結合容量による熱起電力の誤差を低減させて、鍋底温度を精度よく測定することができる。
なお、前記実施の形態2および本実施の形態において、第1、第2の熱電対の薄膜パターンを上下に重なる同一形状とすることにより、静電容量を増やしかつ静電容量が温度変換回路における入力部のローパスフィルタの一要素となり、外来ノイズに強く安定して精度のよい鍋底面の温度測定ができる。
(実施の形態4)
図6は、本発明の実施の形態4における加熱調理器を示している。実施の形態1と同一要素については同一符号を付してその説明を省略する。
図に示すように、本実施の形態における加熱調理器における薄膜状の熱電対70は、鍋30を載置するトッププレート31上の加熱領域33内に櫛刃状に形成された第1の合金の薄膜パターン71および第2の合金の薄膜パターン72と、この2種類の合金を接合させた測温接点73と、第1の合金と第2の合金を2個の孔74a、74bを貫通して延長し、トッププレート31の下部に設けた基準冷接点75a、75bと、補償導線76a、76bとで構成している。第1の合金(+極)に鉄、第2の合金(−極)にコンスタンタン(Cu55%、Ni45%)を用いており、測温範囲は−200℃〜+1100℃、最大熱起電力は69.8mVを発生し、いわゆるJ型熱電対で直線性がよいという利点を有する。
ところで、鉄は錆びやすく、銅・アルミと比較して熱伝導性が劣るので、これを解消するために、熱電対70を覆うように、高熱伝導性材料の薄膜の熱吸収・伝導層77と、傷や汚れを低減するために熱吸収・伝導層77上に薄膜の保護層78とを重ねて設けている。熱吸収・伝導層77は銅を蒸着した後に、その部分のみ薬液中に浸漬して黒染めして形成している。保護層78はSi3N4(窒化ケイ素)、Al2O3(サファイヤ)、Al−Si系合金といった材料をナノクラス粒子サイズで極めて薄くコーティングすることで形成している。
以上のように構成された熱電対70について、以下に、その動作、作用を説明する。
加熱された鍋30の底面から放射される赤外線による輻射熱と、鍋30底面に接触している部分からの伝導熱と、鍋30とトッププレート31間の微少な隙間の空気の対流熱とを受けて、櫛刃状に形成した薄膜の熱電対70の測温接点73と基準冷接点75a、75bとの温度差が生じ、鍋30底面温度に応じた熱起電力が発生する。基準冷接点補償器を内蔵した温度変換回路35は補償導線76a、76bを介してこの熱起電力を入力し、温度信号に変換して出力する。鍋30の温度が上昇すると鍋30の底面からの輻射熱、伝導熱、対流熱も大きくなり、測温接点73と基準冷接点75a、75bとの温度差が増え、温度変換回路35の出力も大きくなる。
制御手段38はこの温度に応じた出力を入力し、予め定められた所定値(過昇防止温度、あるいは、自動調理メニューにおける沸騰温度などの設定温度)以下なら加熱手段37へ加熱を指示し続ける。「入/切」キーで“加熱モード”が停止された場合と、温度変換回路35の出力する温度値が上記の所定値を越えた場合は、加熱手段37に加熱停止を指示することで、安全に調理が行われる。
本実施の形態では、特に、薄膜パターン71、72を櫛刃状に形成したため、外部から飛来する、あるいは、機器内部で発生する電磁性ノイズにより、薄膜パターンに誘起される電流は、図6(a)のi1、i1’やi2、i2’に示すように、相互に打ち消す方向に誘起されるため、電磁性ノイズの影響を低減することができる。また、黒染めした銅で形成した熱吸収・伝導層77は鍋30の底面から放射される赤外線による輻射熱の吸収を高めるとともに、鍋30底面に接触している部分からの伝導熱をよりよく伝導する働きをする。さらに、保護層78は耐摩耗性、耐食性、防汚性を高めるとともに、ナノクラス粒子サイズであるので、撥水機能を併せ持っている。
以上のように、本実施の形態によれば、熱電対70の薄膜パターンを櫛刃状に形成したことにより、薄膜パターンに誘導される電磁的ノイズによる誤差電流が打ち消され、精度のよい鍋底面の温度測定ができる。
また、熱電対70の薄膜パターンを覆って熱吸収・伝導層77を設けたことにより、鍋底面からの輻射、伝導がよく、鍋底面温度を精度よく測定することができる。
さらに、熱電対70の薄膜パターンを覆って保護層78を設けたことにより、鍋に付いた水滴や、鍋から溢れた調理物や、傷や汚れに対しても安定して精度のよい鍋底面の温度測定ができる。
なお、熱吸収・伝導層77は純銅を蒸着した後に、黒ニッケルメッキを施してもよい。また、高い熱伝導性を示す材料であれば、銅以外の材料でもよい。
なお、熱電対70は保護層78を入れても十分に薄いため、トッププレート31のフラット性を維持することは可能である。さらに、熱電対70の櫛刃状に薄膜パターン71、72を形成する部分のトッププレート31を機械加工により、薄膜パターン71、72と熱吸収・伝導層77の厚み分だけ窪ませてから、各層を形成すれば、よりフラットな面とすることもできる。
(実施の形態5)
図7は、本発明の実施の形態5における加熱調理器を示している。実施の形態1と同一要素については同一符号を付してその説明を省略する。
図に示すように、本実施の形態における加熱調理器は、トッププレート31上の鍋30の加熱領域33に薄膜状に形成された熱電対を複数直列に接続した熱電堆79を用い、この熱電堆79の合成熱起電力を温度変換回路35で温度に変換し、温度変換回路35の出力する温度信号に基づいて加熱手段37を制御手段38で制御するようにしたものである。
前記熱電堆79は、トッププレート31上の加熱領域33内であけた2個の孔81、82と、この孔81、82に一端が重なるように形成したリング状の所定の熱抵抗を有する熱抵抗層80と、この熱抵抗層80のリングとトッププレート31の両方に重なるように第1の合金で形成した薄膜パターン83a〜83gと、この第1の合金の薄膜パターン83a〜83gとの間で接合し測温接点84a〜84g、および基準冷接点85a〜85fが形成される位置に第2の合金で形成した薄膜パターン86a〜86gと、前記薄膜パターン83eと接続し、かつ孔81を貫通するように形成した補償合金による薄膜パターン87と、補償導線90と、前記薄膜パターン86fと接続し、かつ孔82を貫通するように形成した補償合金による薄膜パターン89と、補償導線(補償導線90の向こう側に隠れている)と、前記基準冷接点85a〜85fを覆うようにコーティングした断熱層91で構成している。
以上のように構成された熱電堆79について、以下その動作、作用を説明する。
まず、加熱された鍋30の底面から放射される赤外線による輻射熱と、鍋30底面から伝導熱と対流熱とを受けて熱電堆79の測温接点84a〜84gと、断熱層91で断熱された基準冷接点85a〜85fとの間に温度差が生じ、熱起電力が発生する。鍋30の温度が上昇すると鍋30の底面からの輻射熱、伝導熱、対流熱も大きくなり、測温接点84a〜84gと基準冷接点85a〜85fとの温度差が増え、温度変換回路35の出力も大きくなる。制御手段38はこの鍋30底面の温度に応じた出力を入力し、予め定められた所定値(過昇防止温度、あるいは、自動調理メニューにおける沸騰温度などの設定温度)以下なら加熱手段37へ加熱を指示し続ける。「入/切」キーで“加熱モード”が停止された場合と、温度変換回路35の出力する温度値が上記の所定値を越えた場合は、加熱手段37に加熱停止を指示することで、安全に調理が行われる。
以上のように、本実施の形態によれば、単一の熱電堆79で、鍋底面から熱伝達の3つのモード(輻射、伝導、対流)の全てを検出できるため、鍋底形状や表面状態あるいは鍋底温度分布の影響を受けにくく、精度よく温度を測定することができる。特に、出力電圧を高くした熱電堆(サーモパイル)としているので、より精度を高くすることができる。
なお、熱電堆79の測温接点84a〜84gの表面に、赤外線を吸収しやすい金ブラックなどをコーティングして、感度を上げることもできる。
また、基準冷接点85a〜85fに伝導された熱は、トッププレート31を通過して、機器内部へ放熱されているが、基準冷接点85a〜85fの温度を測定し、この温度による補正を行なうことで、さらに精度を上げることもできる。
(実施の形態6)
図8は、本発明の実施の形態6における加熱調理器を示している。実施の形態1と同一要素については同一符号を付してその説明を省略する。
図に示すように、本実施の形態における加熱調理器は、実施の形態1の構成に加えて、ファン駆動手段92と、トッププレート31下面に密接した層状の冷却風を送風する送風ファン93と、この送風ファン93の送風量を測定する風量センサ94と、この風量センサ94の出力を入力して、前記送風ファン93による送風量が所定値になるように、ファン駆動手段92への駆動信号を制御する風量調節手段95を備えている。
以上のように構成された加熱調理器について、以下その動作、作用を説明する。
まず、使用者が操作手段39を操作して”加熱モード”にすると、制御手段38が加熱手段37を制御して加熱コイル36に所定の高周波電流を供給する。この高周波電流により加熱コイル36から誘導磁界が発せられ、鍋30の底面が誘導加熱されジュール熱が生じる。この熱によって鍋30の温度が上昇し、鍋30内の調理物が加熱調理されるとともに、鍋30の底面から放射される赤外線による輻射熱と、鍋30底面に接触している部分からの伝導熱と、鍋30とトッププレート31間の微少な隙間の空気の対流熱とを受けて、薄膜状に形成した熱電対34の測温接点45と各基準冷接点46との温度差が生じ、鍋30底面温度に応じた熱起電力が発生する。
一方、加熱が開始されるとファン駆動手段92により送風ファン93が駆動され、風量センサ94で検出した風量が一定となるように風量調節手段95が調節する。この送風による空冷作用により、トッププレート31下面と上面との温度差が大きくなり、熱電対34の熱起電力も大きくなる。基準冷接点補償器を内蔵した温度変換回路35は補償導線47を介してこの熱起電力を入力し、温度信号に変換して出力する。鍋30の温度が上昇すると鍋30の底面からの輻射熱、伝導熱、対流熱も大きくなり、測温接点45と各基準冷接点46との温度差が増え、温度変換回路35の出力も大きくなる。制御手段38はこの温度に応じた出力を入力し、予め定められた所定値(過昇防止温度、あるいは、自動調理メニューにおける沸騰温度などの設定温度)以下なら加熱手段37へ加熱を指示し続ける。「入/切」キーで“加熱モード”が停止された場合と、温度変換回路35の出力する温度値が上記の所定値を越えた場合は、加熱手段37に加熱停止を指示することで、安全に調理が行われる。
以上のように、本実施の形態によれば、トッププレート下面に冷却風を送風する送風ファン93と、この送風ファンの送風量を測定する風量センサ94と、この風量センサの出力を入力して送風ファンによる送風量が所定値になるように制御する風量調節手段95とを備えたことにより、トッププレート下面を冷却して、上面との温度差を大きくし、熱電対あるいは熱電堆の熱起電力をより大きくすることができる。したがって、鍋底面の温度を精度よく測定することができ、加熱性能に優れた加熱調理器が提供できる。
なお、各実施の形態における加熱調理器としては、誘導加熱調理器に限らず他の熱源を用いたものにおいても適用することができ、また機器形状は矩形状に限られず、さらに加熱領域が複数存在するものであってもよいことは明らかである。そして、各実施の形態における構成は、必要に応じて適宜組み合わせることが可能であり、各実施の形態そのものの構成に限定されるものではない。