JP4960319B2 - 磁気記録装置 - Google Patents

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Description

本発明は、高記録密度、高記録容量、高データ転送レートのデータストレージの実現に好適な高周波アシスト磁気記録装置に関する。
1990年代には、MR(Magneto-Resistive effect)ヘッドとGMR(Giant Magneto-Resistive effect)ヘッドの実用化が引き金となって、HDD(Hard Disk Drive)の記録密度と記録容量が飛躍的な増加を示した。しかし、2000年代に入ってから磁気記録媒体の熱揺らぎの問題が顕在化してきたために、記録密度の増加スピードが一時的に鈍化した。それでも、面内磁気記録よりも原理的に高密度記録に有利である垂直磁気記録が2005年に実用化されたことが牽引力となって、昨今、HDDの記録密度は年率約40%の伸びを示している。
また、最新の記録密度実証実験では400Gbits/inch2を超えるレベルが達成されており、このまま堅調に進展すれば、2012年頃には記録密度1Tbits/inch2が実現されると予想されている。しかしながら、垂直磁気記録方式を用いても、再び熱揺らぎの問題が顕在化するために容易ではないこのような高い記録密度の実現は、と考えられる。
この問題を解消し得る記録方式として「高周波磁界アシスト記録方式」が提案されている。高周波磁界アシスト記録方式では、記録信号周波数より十分に高い、磁気記録媒体の共鳴周波数付近の高周波磁界を局所的に印加する。この結果、磁気記録媒体が共鳴し、高周波磁界を印加された磁気記録媒体の保磁力(Hc)はもともとの保磁力の半分以下となる。このため、記録磁界に高周波磁界を重畳することにより、より高保磁力(Hc)かつ高磁気異方性エネルギー(Ku)の磁気記録媒体への磁気記録が可能となる(たとえば、特許文献1)。
しかし、この特許文献1に開示された手法ではコイルにより高周波磁界を発生させており、高密度記録時に効率的に高周波磁界を印加することが困難であった。
そこで高周波磁界の発生手段として、スピントルク発振子を利用する手法も提案されている(たとえば、特許文献2および3)。特許文献2および3に開示されているスピントルク発振子は、スピン注入層と、非磁性層と、磁性層(以下、発振層という)とを含む。電極を通じてスピントルク発振子に直流電流を通電すると、スピン注入層によって生じたスピントルクにより、発振層の磁化が強磁性共鳴を生じる。その結果、スピントルク発振子から高周波磁界が発生する。スピントルク発振子のサイズは数十nm程度であるため、発生する高周波磁界はスピントルク発振子の近傍の数十nm程度に局在する。さらに高周波磁界の面内成分により、垂直磁化した磁気記録媒体を効率的に共鳴することが可能となり、磁気記録媒体の保磁力を大幅に低下させることが可能となる。この結果、主磁極による記録磁界と、スピントルク発振子による高周波磁界とが重畳した部分のみで高密度磁気記録が行われ、高保磁力(Hc)かつ高磁気異方性エネルギー(Ku)の磁気記録媒体を利用することが可能となる。このため、高密度記録時の熱揺らぎの問題を回避できる。
しかし、スピントルク発振子を用いた場合でも、媒体表面から発振層までの距離が大きくなると、高周波磁界の強度が著しく減衰するため、高周波磁界アシスト記録を実現することが困難になるという問題がある。
米国特許第6011664号明細書 米国特許出願公開第2005/0023938号明細書 米国特許出願公開第2005/0219771号明細書
本発明の目的は、スピントルク発振子を用い、高周波磁界アシスト記録を良好に実現できる磁気記録装置を提供することにある。
本発明の一態様によれば、主磁極と、前記主磁極に近接して配置され、スピン注入層および発振層の少なくとも2層の磁性層を含むスピントルク発振子とを有する磁気記録ヘッドと、記録層およびアンテナ層の2層の磁性層を含み、少なくとも記録層は硬磁性であり、前記アンテナ層は前記記録層より前記磁気記録ヘッドに近い位置に形成され、前記アンテナ層の共鳴周波数faは前記記録層の共鳴周波数frよりも低く、前記記録層と前記アンテナ層が互いに強磁性結合している磁気記録媒体とを具備し、前記アンテナ層の共鳴周波数が前記発振層の共鳴周波数よりも大きいことを特徴とする磁気記録装置が提供される。
本発明の他の態様によれば、主磁極と、前記主磁極に近接して配置され、スピン注入層および発振層の少なくとも2層の磁性層を含むスピントルク発振子とを有し、前記スピン注入層の保磁力が主磁極より発生し前記スピン注入層位置にある磁界より小さく、前記発振層の保磁力が前記スピン注入層の保磁力より小さい磁気記録ヘッドと、
記録層およびアンテナ層の2層の磁性層を含み、少なくとも記録層は硬磁性であり、前記アンテナ層は前記記録層より前記磁気記録ヘッドに近い位置に形成され、前記アンテナ層の共鳴周波数faは前記記録層の共鳴周波数frよりも低く、前記記録層と前記アンテナ層が互いに強磁性結合している磁気記録媒体と
を具備することを特徴とする磁気記録装置。
本発明によれば、高周波磁界アシスト記録を良好に実現できる磁気記録装置を提供することができる。
以下、本発明の実施形態を説明する。
(第1の実施形態)
図1に本発明の実施形態に係る磁気記録装置の断面図を示す。磁気記録媒体10は、基板(図示せず)上に形成された硬磁性の記録層11と硬磁性のアンテナ層12とを含む。後に詳細に説明するようにアンテナ層12の共鳴周波数faは記録層11の共鳴周波数frよりも低い。記録層11とアンテナ層12は強磁性結合している。記録層11とアンテナ層12は直接接触していてもよいし、両者の間に非磁性層または磁性金属を挿入してもよい。磁気記録媒体10の上方に配置される磁気記録ヘッド20は、記録磁極30と、スピントルク発振子(STO)40とを有する。記録磁極30は、主磁極31、シールド32、およびこれらを励磁するコイル33を含む。
図2に本発明の実施形態に係る磁気記録ヘッド20を媒体対向面から見た平面図を示す。スピントルク発振子40は、主磁極31とシールド32との間に、第1の電極層41、発振層42、中間層43、スピン注入層44および第2の電極層45が積層された構造を有する。
図1の磁気記録媒体10において、アンテナ層12の磁化は通常、記録層11の磁化と同方向に向いている。図2のスピントルク発振子40に、シールド32から主磁極31へ向かう方向に電流を流すと、発振層42の磁化が発振して、高周波磁界が発生する。アンテナ層12は記録層11よりも発振層42の近くに位置しており、アンテナ層12の磁化は高周波磁界に感応して、記録層11の磁化よりも早く反転する。アンテナ層12の磁化が反転すると、その下の記録層11の磁化も反転する。
発振層42をできるだけ均一に発振させ、かつ発振効率を上げるためには、発振層42の厚さTsをできるだけ薄く、発振層42の幅Wsをできるだけ狭くする必要がある。ただし、これらの寸法が小さすぎると、高周波磁界の強度を確保できなくなる。このため、発振層42の厚さTsは5〜20nmであることが望ましい。発振層42の幅Wsは主磁極31の幅Wpと同程度か少し狭くすることが望ましい。たとえば、約2Tbpsiの記録密度を得ようとすると、主磁極31の幅Wpは約30nmに設定される。主磁極31の厚さTmはスキューも考慮して約100nmに設定される。この場合、媒体対向面での発振層42の寸法は、たとえば約10nm×25nmに設定される。これらの寸法が小さいと、記録ヘッド20(主磁極および発振層)の磁界強度の浮上量依存性が大きくなる。本明細書において、浮上量とは記録ヘッド20の媒体対向面から記録層11の中央までの距離と定義する。この定義は、記録層11の中央での磁界強度が実効的な記録特性に寄与することを考慮したものである。そうすると、浮上量と書き込みやすさが対応する。
図3(a)に記録層11とその上方に配置されたスピントルク発振子の発振層42の断面図を示す。この図は、記録層11上にアンテナ層12が設けられていないことを想定している。この図では、発振層42の媒体対向面から記録層11の上面までの距離を5nmとしている。上記の定義から、記録層11の厚さが小さいほど浮上量が小さくなり、書き込みが容易になることがわかる。
ただし、記録されたデータの熱劣化を防ぐために、記録層11の厚さを無制限に小さくすることはできない。記録媒体の熱劣化を決める指標はKuV/kTで表され、KuV/kTの値が大きいほど熱劣化は少ない。ここで、Kuは記録層の異方性定数、Vは記録層の粒体積、Tは絶対温度、kはボルツマン定数である。いま、記録層11の厚さを薄くすると、粒体積Vが小さくなりKuV/kTが小さくなって熱劣化しやすくなる。
上記のように発振層42の媒体対向面から記録層11の上面までの距離を5nmとすると、記録層11の厚さが15nmである場合、記録層11の上面から中央までの距離Dは7.5nmとなり、したがって実効的な浮上量は12.5nmになる。
図3(b)に、30nm×100nmの主磁極31および10nm×25nmの発振層42の磁界強度(記録層11の中央で測定)を、記録層11の上面から中央までの距離Dの関数として示す。距離Dが7.5nmのとき、主磁極31の磁界強度の減衰は30%であるが、発振層42の磁界強度の減衰は65%にもなる。このように発振層42によるアシスト磁界の減衰率が大きいことは、高周波磁界アシスト記録を実現する上で問題になる。
本発明においては、記録層11の上にアンテナ層12を設け、アンテナ層12の共鳴周波数faを記録層11の共鳴周波数frよりも小さく設定することによって、発振層42の磁界強度の減衰による問題を解消する。
図4に、アンテナ層のない通常の磁気記録媒体の反転磁界と、アシスト磁界の周波数との関係を示す。おおむね記録層の共鳴周波数frで、反転磁界が極小値を示し、最大のアシスト効果が得られるが、それを超えた周波数ではほとんどアシスト効果がなくなる。
図5に、アンテナ層を有しアンテナ層の共鳴周波数faが記録層の共鳴周波数frよりも低い磁気記録媒体の反転磁界と、アシスト磁界の周波数との関係を示す。反転磁界は記録層の共鳴周波数frとアンテナ層の共鳴周波数faの両方で極小値を示すが、アシスト効果はアンテナ層の共鳴周波数faで最大になっている。図5におけるアシスト効果の大きさは、図4の場合よりも30%程度大きい。アンテナ層の共鳴周波数faでは磁化反転は以下のような機構で生じる。すなわち、共鳴周波数faで、まずアンテナ層が共鳴し、そのアンテナ層の共鳴に連動して記録層も共鳴して、記録層の磁化が反転する。したがって、アンテナ層の共鳴周波数faが記録層の共鳴周波数frよりも低いことが、高周波磁界アシスト記録を実現するために重要な条件になる。
図6に、アンテナ層を有するがアンテナ層の共鳴周波数faが記録層の共鳴周波数frよりも高い磁気記録媒体の反転磁界と、アシスト磁界の周波数との関係を示す。図6に示されるように、アンテナ層の共鳴周波数faが記録層の共鳴周波数frよりも高いと、アシスト効果の改善がなくなり、かえって利得が小さくなる。この場合、fr<faなので記録層が共鳴しているときにアンテナ層の共鳴が小さく、しかもアンテナ層を持たない媒体より浮上量が大きくなっているのでアシスト効果は小さい。一方、アンテナ層が共鳴しているときに、それより共鳴周波数が低い記録層は共鳴しない。このことは図4からもわかる。このようにアンテナ層の共鳴周波数で記録層が共鳴しなければ全体の磁化の反転が困難になる。
次に、本実施形態に係る磁気記録媒体の記録層およびアンテナ層に用いられる材料の例について説明する。本発明では、記録層は記録パターンを保持する必要があるため硬磁性材料を用いるが、アンテナ層は下記の共鳴周波数を調節できれば軟磁性材料でもよい。ここでは両層が硬磁性材料である例を示す。
記録層としては、CoCrPt合金に約10%の非磁性酸化物(SiO2またはAlOx)を混入させた垂直配向硬磁性膜を用いることができる。たとえばCo74Cr10Pt16に約10%のSiO2を混入させた垂直配向硬磁性膜は約14kOeのHkを有する。このような硬磁性膜は500Gbpsi以上の記録密度を達成できる。また、Co20Pt80−SiO2の垂直配向硬磁性膜は約20kOeのHkを有する。このような硬磁性膜は1Tbpsi以上の記録密度を達成できる。ここでCo20Pt80などの添え字として用いられている20、80などの数はすべて原子パーセントを示す。
アンテナ層としては、Coに非磁性酸化物たとえばSiO2を混入させ、記録層上にhcp(六方最密充填)成長させた硬磁性膜を用いることができる。このような硬磁性膜は約6.8kOeのHkを有する。
記録層とアンテナ層を連続して成膜することにより、両者は互いに強磁性結合し、両者の磁化が一体化して反転しやすくなる。良好なアンテナ層が成膜されれば後述するような共鳴周波数の測定で共鳴ピークの分離が確認される。しかし、2層の結晶整合性が良すぎる場合などで完全にうまくピーク分離がなされないこともある。この場合、記録層とアンテナ層との間に、両者の強磁性結合をコントロールするために非磁性層を挿入してもよい。非磁性層はCu、Pt、Pu、Ru、Agなどの貴金属にSiO2などを混入させたものを用いるのが好ましい。また、NiFe−SiO2などの磁性層を挿入しても良好なアンテナ層を有する媒体を作製できることがある。挿入する非磁性層や磁性層の層厚はいずれも2nm以下程度の範囲で調整するとよい。
ここで、記録層の厚さを10nm、アンテナ層の厚さを5nmとしたとき、各層の共鳴周波数の概算値を算出する。共鳴周波数は媒体の各粒子に作用する有効磁界にγ(ジャイロ磁気定数)をかけた値になる。この有効磁界とは、反磁界、異方性磁界、共有結合磁界および外部磁界の合計になる。
たとえばアンテナ層のそれぞれの磁界の概略値は下記のようになる。
(1)反磁界は、Ms(磁化:1020emu/cc)に4πをかけ、さらに粒中心から粒径見込み立体角(Stradian)÷2πをかけた値である。粒を半径R(=4nm)の円形とし、アンテナ層の厚さ(5nm)の半分をDとすると、立体角÷(2π)=[1−D/(D2+R21/2]〜0.47となる。したがって、反磁界は1020×4π×0.47〜6.0kOeとなる。
(2)共有結合磁界は、アンテナ層と記録層との間の界面結合エネルギーを、厚さとMsで割って2をかけた値である。界面結合エネルギーは約1.5erg/cm2である。したがって、共有結合磁界は1.5÷1020÷(5e−7)×2〜5.9kOeとなる。
(3)異方性磁界は、一軸異方性を仮定すると、上記のように約6.8kOeとなる。
以上の各磁界の符号を考慮して合計することによって算出されるアンテナ層の有効磁界の概略値は6.7kOeとなる。同様に、例えば上述のCoCrPt−SiO2の場合の記録層の有効磁界の概略値は15.7kOeとなる。ジャイロ磁気定数γは2.8(MHz/Oe)であるから、アンテナ層の共鳴周波数の概略値は18.8GHz、記録層の共鳴周波数の概略値は44GHzとなり、fa<frという条件を満たす。通常の高周波磁界アシスト記録の場合、上述の有効磁界以外に媒体には主磁極からの磁界が外部磁界として印加され、共鳴周波数も外部磁界分で変動する。しかし、主磁極からの磁界は媒体膜厚方向の変化が比較的少なく、アンテナ層と記録層の両方に概略同程度の外部磁界が印加されるとすると、両層の共鳴周波数の相対値は変わらず、両層の共鳴周波数の大小も変わらない。従って、この概算方法で見積もることができる。
アンテナ層および記録層の正確な共鳴周波数数は、強磁性共鳴(FMR:Ferromagnetic Resonance)測定装置などで測定することができる。通常のFMR測定では外部磁界をかけ単一周波数で測定し、外部磁界を周波数に換算する方法で共鳴周波数を計算する。しかし、本発明のような複雑な共鳴周波数を測定するには、たとえば微細加工で作製したウェーブガイドで導波管を代用させることで広い帯域の共鳴周波数を測定してもよい。参考文献として、J. Magn. Soc. Jap., 31, 435 (2007)やApp. Phys. Lett., 91, 082510 (2007)などが挙げられる。
上記のような記録層とアンテナ層との積層膜は、アンテナ層の共鳴周波数付近、具体的には15GHz程度で共鳴し、高周波磁界アシストによって磁化反転を起こす。
スピントルク発振子については発振周波数を自由に設計できない場合が多い。発振子の構成要素である発振層の共鳴周波数がアシスト用高周波磁界の周波数を決めているが、この共鳴周波数に関与する発振層のサイズ、異方性磁界、飽和磁化、および主磁極から発振子の方に漏れる外部磁界などは発振特性と高周波磁界の強度に関係し、安定した素子を設計するためには単独でこれらのパラメータを動かすことが困難なためである。一方、熱信頼性などを考慮すると、記録層の共鳴周波数を自由に設計できる余地は少ない。これに対して、本発明ではアンテナ層の異方性磁界や飽和磁化は比較的自由に設定でき、従って共鳴周波数を比較的自由に設定できる。図5に見るように最大アシスト効果があるところ、すなわちアンテナ層の共鳴周波数faを発振層の周波数に合わせることで非常に大きなアシスト効果を実現できる。また、図5からわかるように、fa以上の周波数ではアシスト効果は急激に小さくなるため、少なくともアンテナ層の共鳴周波数faを発振層の発振周波数以上に設定する必要がある。本発明ではこの媒体と発振層の周波数の調整が自由にできる。ここでの媒体の共鳴周波数は先に述べた外部磁界が印加されない時の周波数ではなく、実際使用される時の共鳴周波数、すなわち主磁極からの磁界が印加されたときの周波数である。実際に媒体の共鳴周波数を決定するときは主磁極から媒体に印加される磁界をシミュレーションなどで算出し、それと同等な磁界を媒体に印加した状態でFMRの測定を行う。
図7(a)〜(c)に、媒体に印加される磁界のシミュレーション例を示す。図7(a)は主磁極からの磁界の大きさと角度を示すグラフ、図7(b)は発振子で励磁される高周波数磁界の有効磁界強度を示すグラフ、図7(c)は主磁極の励磁方向、スピン注入層の磁化の方向、および電流方向を示す説明図である。
図7(a)において、磁界の角度は、主磁極が励磁されている方向を0度としている。媒体に印加される磁界は、主磁極直下(図7(a)のX軸が負の値の範囲)では主磁極が励磁された方向(媒体対向面に垂直)を向いている。しかし、主磁極からはずれてトレーリングシールドの方向に移動するにしたがって、磁界の向きは主磁極からトレーリングシールドへ向かう水平方向に変わる。
図示した条件では高周波数磁界の有効磁界強度は発振層の中心より主磁極側にピークを持つ。このピーク位置(図7(a)および(b)に一点鎖線で表示)での主磁極磁界の大きさと角度が、アシスト記録を行う場合の有効な主磁極磁界になる。このため、この位置での磁界強度(図7(a)の例では8kG)と角度(図7(a)では約38度)を印加した状態で共鳴周波数を測定すれば、実際の書き込み時の媒体の状態を観測できる。
図8に磁気記録ヘッド全体の断面図を示す。基板21上に、シールド22、再生素子23、シールド24、主磁極31、スピントルク発振子(STO)40、シールド32が形成されている。記録ヘッドの形状や磁気特性、特にギャップ周辺の寸法(図8に示したギャップ幅Tg、主磁極の厚さTp、スロートハイトHtなど)により、印加磁界は大きく変化する。印加磁界を決定するにあたっては実ヘッドの形状および材料特性をよく把握する必要がある。
発振層の共鳴周波数は、図2および図8のように主磁極に近接して実装した状態で測定する必要があり、媒体のようにFMR測定を用いることができない。これは、図2および図8に示すように非常に強い磁界が発生している記録ヘッドのギャップ内に発振層を挿入しているためである。実装していない状態では、ギャップ内に発生している5kOe〜20kOeの磁界が発振層にかからず、その分だけ共鳴周波数が低くなるためである。
発振層をギャップ内に設けるのは、前述したように主磁極からの磁界が大きい場所に高周波数磁界のピークを合わせる必要があるためである。通常、発振層から5〜20nm離れた位置に主磁極からの磁界のピークがあるため、このような強磁界の環境下で発振子を使用する必要がある。しかも、主磁極の励磁極性が反転すれば、ギャップ内の磁界も反転する。ギャップ内の磁界が反転しても安定に使用できるようにするには、ギャップ内の磁界が反転すると同時にスピン注入層も反転するピンフリップタイプの発振子を使用することが考えられる。
ピンフリップタイプの発振子では、スピン注入層の保磁力を主磁極から発生するギャップ内の磁界よりも小さく設定する。こうすればギャップ内の磁界の極性が反転しても、スピン注入層の磁化が常にギャップ磁界方向にフリップする。さらに、発振層の保磁力をスピン注入層の保磁力より小さく設定すれば、発振層の磁化が発振し、スピン注入層の磁化が比較的静止している状態を実現できる。
ピンフリップタイプのスピン注入層はギャップ磁界で反転し、しかも発振層とともに使用したときに安定するように、適切な材料が使用される。例えば、膜面直方向に磁化配向したCoCrPt、CoCrTa、CoCrTaPt、CoCrTaNbなどのCoCr系磁性層、TbFeCoなどのRE−TM系アモルファス合金磁性層、Co/Pd、Co/Pt、CoCrTa/PdなどのCo人工格子磁性層、CoPt系やFePt系の合金磁性層、SmCo系合金磁性層など、垂直配向性に優れた材料、CoFe、CoNiFe、NiFe、CoZrNb、FeN、FeSi、FeAlSiなどの飽和磁束密度が比較的大きく膜面内方向に磁気異方性を有する軟磁性層、CoFeSi、CoMnSi、CoMnAlなどからなる群より選択されるホイスラー合金、膜面内方向に磁化が配向したCoCr系の磁性合金膜を用いることができる。さらに、上記材料を複数積層して用いてもよい。
前述のように、発振層はスピン注入層よりも主磁極近くに成膜する必要がある。この場合、主磁極、発振層、中間層、スピン注入層の順に成膜する。つまり、中間層をスピン注入層のシードとして用いることができれば都合がよい。従って、中間層に典型的な材料であるCuを用い、スピン注入層にCuを含み良好な垂直配向性を確保できる(Co/Ni)n、(Co/Pt)n、(Co/Pb)nなどの多層膜超格子を用いることが考えられる。ここでの(Co/Ni)nなどの表記はそれぞれ数ÅのCoおよびNiの薄膜をn回積層した構造をさしている。
実装状態で発振層の共鳴周波数を測定するには、以下のような方法が用いられる。すなわち、主磁極を励磁した状態で発振子に使用電流を流し、発振子の電流入力端子のノイズの周波数成分を観測すれば、共鳴周波数付近でノイズが大きくなることを利用して共鳴周波数を測定できる。ただし、通常は発振層が発振しても、発振層の磁化とスピン注入層の磁化との間の相対角度に変動が生じないので、発振層の磁化とスピン注入層の磁化のMR効果があってもノイズピークは生じない。そこで、ABSに対して垂直方向に磁界を印加して発振層の磁化とスピン注入層の磁化との相対角度に変動を生じさせることにより、ノイズの共鳴ピークを観測できるようになる。以上の様に、アンテナ層と発振層の共鳴周波数を測定して相対値を調整することにより、非常にアシスト効果の高いシステムを提供することができる。
(第2の実施形態)
本実施形態に係る磁気記録媒体について説明する。
図9(a)に本実施形態に係る磁気記録媒体の一例の斜視図を示す。図9(a)では、連続膜からなる記録層11上に、反転単位に分断されたドット状のアンテナ層12aが形成されている。すなわち、アンテナ層がビットパターンに加工されている。なお、図9(a)において、トラック幅Aの場合には1つのアンテナ層12aのドットとその下の記録層11の磁化が反転し、トラック幅Bの場合には2つのアンテナ層12aのドットとその下の記録層11の磁化が反転する。
アンテナ層12aを反転単位に分断したことにより、磁気記録ヘッドからの磁束の絞込み効果で記録層11の反転単位を磁化反転させやすくすることができる。一方、アンテナ層12aおよび記録層11の反転単位の磁気体積が小さくなることはないので、熱信頼性の劣化を招くこともない。
また、再生ノイズの低減、および隣接トラックからの書き込みの抑制という効果が得られる。アンテナ層を有する磁気記録媒体では、記録層が直接スピントルク発振子からのアシスト磁界の影響を受けることはないので、互いに隣接するトラック上においてアンテナ層が分断されていれば、サイドイレーズを防ぐことができる。
図9(b)に本実施形態に係る磁気記録媒体の他の例の斜視図を示す。図9(b)では、反転単位に分断されたドット状の記録層11a上に、反転単位に分断されたドット状のアンテナ層12aが形成されている。すなわち、記録層およびアンテナ層がビットパターンに加工されている。反転単位となるアンテナ層12aの面積は、反転単位となる記録層11aの面積より小さい。図9(b)の磁気記録媒体では、さらに反転単位において磁化反転を起こしやすくすることができる。
(第3の実施形態)
本実施形態に係る磁気記録装置について説明する。
図10(a)に本実施形態に係る磁気記録装置の断面図を示す。図10(a)では、連続膜からなる記録層11上に、反転単位に分断されたドット状のアンテナ層12aが形成されている。反転単位となるアンテナ層12aのヘッド対向面の面積Aa(図10(b)図示)は、スピントルク発振子の発振層42の媒体対向面積よりも小さい。この例では、アンテナ層12aをヘッド対向面に平行な面で切断した面積がアンテナ層12aの厚み方向にどこで切っても一定である。しかし、製造方法などの条件によっては、この面積が一定にならない場合がある。このような場合、ヘッド対向面の面積として、図10(a)の一点鎖線で示す、厚み方向の中心で切断したときの断面積を基準にする。なお、記録層はビットパターンに加工しなくてもよいし加工してもよい。
このような磁気記録装置ではアンテナ層12aでのエネルギー密度が高くなり、よりアシスト効率を上げることができる。また、隣接トラックからの書き込みを抑制できる。
次に、本発明の実施形態に係る磁気記録媒体および磁気記録ヘッドを搭載したハードディスクドライブの構成を説明する。
図11は、他の実施形態に係るハードディスクドライブの構成を示す斜視図である。このハードディスクドライブ150は、ロータリーアクチュエータを用いた形式の装置である。図11において、記録層上にアンテナ層が形成された磁気記録媒体10は、スピンドル152に装着され、図示しない駆動装置制御部からの制御信号に応答する図示しないモータにより回転する。本実施形態の磁気記録再生装置150は、複数の磁気記録媒体10を備えてもよい。
磁気記録媒体10に格納する情報の記録再生を行うヘッドスライダ153は、薄膜状のサスペンション154の先端に取り付けられている。ヘッドスライダ153は、上述した実施形態に係る記録ヘッドを含む磁気ヘッドをその先端付近に搭載している。
磁気記録媒体10が回転すると、ヘッドスライダ153の媒体対向面(ABS)は磁気記録媒体10の表面から所定の浮上量をもって保持される。あるいは、スライダが磁気記録媒体10と接触するいわゆる「接触走行型」でもよい。
サスペンション154はアクチュエータアーム155の一端に接続されている。アクチュエータアーム155の他端には、リニアモータの一種であるボイスコイルモータ156が設けられている。ボイスコイルモータ156は、ボビン部に巻かれた図示しない駆動コイルと、このコイルを挟み込むように対向して配置された永久磁石および対向ヨークからなる磁気回路とから構成される。
アクチュエータアーム155は、ピボット157の上下2箇所に設けられた図示しないボールベアリングによって保持され、ボイスコイルモータ156により回転摺動が自在にできるようになっている。
図12は、アクチュエータアーム155から先のヘッドジンバルアセンブリーをディスク側から見た斜視図である。すなわち、アセンブリ160は、アクチュエータアーム155を有し、アクチュエータアーム155の一端にはサスペンション154が接続されている。サスペンション154の先端には、上述した実施形態に係る記録ヘッドを含む磁気ヘッドを具備するヘッドスライダ153が取り付けられている。サスペンション154は信号の書き込みおよび読み取り用のリード線164を有し、このリード線164とヘッドスライダ153に組み込まれた磁気ヘッドの各電極とが電気的に接続されている。図中165はアセンブリ160の電極パッドである。
本発明の実施形態に係る磁気記録装置の断面図。 本発明の実施形態に係る磁気記録ヘッドを媒体対向面から見た平面図。 記録層とその上方に配置された発振層を示す断面図、ならびに主磁極および発振層の磁界強度を記録層の上面から中央までの距離Dの関数として示す図。 アンテナ層のない通常の磁気記録媒体の反転磁界と、アシスト磁界の周波数との関係を示す図。 アンテナ層の共鳴周波数faが記録層の共鳴周波数frよりも低い磁気記録媒体の反転磁界と、アシスト磁界の周波数との関係を示す図。 アンテナ層の共鳴周波数faが記録層の共鳴周波数frよりも高い磁気記録媒体の反転磁界と、アシスト磁界の周波数との関係を示す図。 主磁極からの磁界の大きさと角度を示すグラフ、発振子で励磁される高周波数磁界の有効磁界強度を示すグラフ、ならびに主磁極の励磁方向、スピン注入層の磁化の方向および電流方向を示す説明図。 本発明の実施形態に係る磁気記録ヘッドの断面図。 第2の実施形態に係る磁気記録媒体を示す斜視図。 第3の実施形態に係る磁気記録装置を示す断面図。 他の実施形態に係るハードディスクドライブの構成を示す斜視図。 図11のヘッドジンバルアセンブリーをディスク側から見た斜視図。
符号の説明
10…磁気記録媒体、11、11a…記録層、12、12a…アンテナ層、20…磁気記録ヘッド、21…基板、22、24…シールド、23…再生素子、30…記録磁極、31…主磁極、32…シールド、33…コイル、40…スピントルク発振子(STO)、41…第1の電極層、42…発振層、43…中間層、44…スピン注入層、45…第2の電極層、150…ハードディスクドライブ、152…ロータリーアクチュエータ、153…ヘッドスライダ、154…サスペンション、155…アクチュエータアーム、156…ボイスコイルモータ、157…ピボット、160…アセンブリ、164…リード線、165…電極パッド。

Claims (5)

  1. 主磁極と、前記主磁極に近接して配置され、スピン注入層および発振層の少なくとも2層の磁性層を含むスピントルク発振子とを有する磁気記録ヘッドと、
    記録層およびアンテナ層の2層の磁性層を含み、少なくとも記録層は硬磁性であり、前記アンテナ層は前記記録層より前記磁気記録ヘッドに近い位置に形成され、前記アンテナ層の共鳴周波数faは前記記録層の共鳴周波数frよりも低く、前記記録層と前記アンテナ層が互いに強磁性結合している磁気記録媒体と
    を具備し、前記アンテナ層の共鳴周波数が前記発振層の共鳴周波数よりも大きいことを特徴とする磁気記録装置。
  2. 主磁極と、前記主磁極に近接して配置され、スピン注入層および発振層の少なくとも2層の磁性層を含むスピントルク発振子とを有し、前記スピン注入層の保磁力が主磁極より発生し前記スピン注入層位置にある磁界より小さく、前記発振層の保磁力が前記スピン注入層の保磁力より小さい磁気記録ヘッドと、
    記録層およびアンテナ層の2層の磁性層を含み、少なくとも記録層は硬磁性であり、前記アンテナ層は前記記録層より前記磁気記録ヘッドに近い位置に形成され、前記アンテナ層の共鳴周波数faは前記記録層の共鳴周波数frよりも低く、前記記録層と前記アンテナ層が互いに強磁性結合している磁気記録媒体と
    を具備することを特徴とする磁気記録装置。
  3. 前記アンテナ層は反転単位に分断されていることを特徴とする請求項1または2に記載の磁気記録装置。
  4. 前記アンテナ層および前記記録層はそれぞれ反転単位に分断されており、前記アンテナ層の反転単位の厚み方向中心位置をヘッド対向面に水平に切ったときの断面積は、前記記録層の反転単位の厚み方向中心位置の断面積より小さいことを特徴とする請求項1または2に記載の磁気記録装置。
  5. 前記アンテナ層は反転単位に分断され、前記アンテナ層の反転単位の厚み方向中心位置をヘッド対向面に水平に切ったときの断面積は前記スピントルク発振子の発振層の媒体対向面積よりも小さいことを特徴とする請求項1または2に記載の磁気記録装置。
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