JP4958272B2 - アルブミン分子のブラウン運動の拡散係数変化に基づく血清または血漿粘度測定方法及び装置 - Google Patents
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血管の詰まりに大きな影響を及ぼし、かつ血球に依拠しない、いわゆる血清または血漿粘度を測定することは、老化や心筋梗塞、脳梗塞、肝硬変、膜性腎症、ネフローゼ、生活習慣病など血管が詰まって起こるさまざまな疾患の予防や診断、治療にとって極めて有用であると考えられる。また、血清または血漿粘度は、血清または血漿の一般生化学検査や凝固線溶検査と同時に測定できるので、利用効率も高い。
この式は、微粒子数が一定とすると、微粒子の拡散係数が液体の粘性係数と微粒子の半径で決まるというものであり、粘性を一定にした溶液中の、一定時間における粒子のブラウン運動の軌跡を測定することによって粒径を求めることができる。これらの原理を応用して、レーザー光のドップラーシフトや動的光散乱法による粒度分布測定装置が市販されている(例えば、日機装株式会社製:ナノトラック粒度分布測定装置、大塚電子株式会社製:ダイナミック光散乱光度計、シスメックス株式会社製:ゼータサイザーナノシリーズ等)。この測定の結果、C型肝炎患者血清では、冷状態にすると、血清中に新たな特異的サイズの凝集コロイドが出現することを発見し、このコロイド検出によるC型肝炎罹患検査法を提案した(特許文献1:特開2004−177158号公報)。
血清中に含まれるもう一つの主成分である免疫グロブリンの分子量は146000×1.66×10-24g〜970000×1.66×10-24gであり、粒径(分子サイズ)も10nm〜100nmと範囲が広い。しかし、アルブミン分子は質量66270×1.66×10-24g、粒径(分子サイズ)8nmと単一タンパク質であるため一定である。
アインシュタイン・ストークスの式から、血清または血漿中アルブミン分子の拡散係数について見てみると、rは4nmと一定なので、血清または血漿粘度ηが増すにつれてアルブミン分子の拡散係数Dは小さくなる。逆に、アルブミン分子の拡散係数Dが小さいほど血清または血漿粘度ηは高いことになり、心筋梗塞患者血清または血漿における見かけのアルブミン分子サイズの変化は、血清または血漿粘度ηの変化を反映すると考えられた。
2.血清または血漿中のアルブミン分子のブラウン運動の拡散係数を測定してアルブミン分子の見掛け粒度を求め、これをアルブミン分子の見掛け粒度とアルブミン分子が存在する液中の粘度との関係に当て嵌めることにより前記血清または血漿の粘度を求める前記1に記載の方法。
3.血清または血漿中のアルブミン分子のブラウン運動の拡散係数を測定し、前記血清または血漿の粘度を求める装置。
4.血清または血漿中のアルブミン分子のブラウン運動の拡散係数を測定してアルブミン分子の見掛け粒度を求め、これをアルブミン分子の見掛け粒度とアルブミン分子が存在する液中の粘度との関係に当て嵌めることにより前記血清または血漿の粘度を求める前記3に記載の装置。
5.32℃〜38℃の範囲内で、一定温度に保たれた血清または血漿アルブミン分子のブラウン運動の拡散係数から血清または血漿粘度を測定し、これを正常値と比較することを特徴とする血管疾患の検査方法。
6.検査対象から採取した血清または血漿について、32℃〜38℃の範囲内で、一定温度に保たれた血清または血漿アルブミン分子のブラウン運動の拡散係数から血清または血漿粘度を測定し、これを経時的に比較することを特徴とする血管疾患及び/またはその病態変化の検査方法。
7.血管疾患が、心筋梗塞、脳梗塞、肝硬変、膜性腎症、ネフローゼ、生活習慣病、または血清もしくは血漿の過過粘性症候群である前記5または6記載の検査方法。
8.アルブミン分子を含む種々の粘度の液体についてブラウン運動の拡散係数を測定してアルブミン分子の見掛け粒度を求め、これにより粘度と見掛け粒度の関係を求めておき、検査対象から採取した血清または血漿について、32℃〜38℃の範囲内で、一定温度に保たれた血清または血漿アルブミン分子のブラウン運動の拡散係数からその見掛け粒度を求め、これを前記関係に当て嵌めることにより、血清または血漿の粘度を測定する前記5〜7のいずれかに記載の検査方法。
血清または血漿粘度は、さまざまな疾患や老化に伴う血清または血漿のドロドロ・サラサラ状態を反映するものであり、電解質量、血糖値、タンパク質濃度、構成タンパク質成分、リポタンパク質濃度などさまざまな血清または血漿要因によって変化し、心筋梗塞、脳梗塞、肝硬変、膜性腎症、生活習慣病または血清もしくは血漿の過過粘性症候群など血管が詰まったりその粘度変化に起因する、または粘度変化を伴うさまざまな疾患の危険性や予後を判定できる。なお、血清もしくは血漿の過過粘性症候群の具体的病態は特に限定されないが、Waldenstromマクログロブリン血症などさまざまな疾患が含まれる。
本発明の検査方法は、上記の通り極めて簡便なものである。すなわち、被験者から血液を採取し、通常の方法(例えば、1時間以上静置後、遠心分離)により血清分離し、体温付近の温度条件下で血清または血漿アルブミンのブラウン運動の拡散係数を求め、そのデータから患者の血清または血漿粘度を算出する。その方法は限定されないが、特に見掛け粒度を媒介として粘度を測定する方法が好ましい。
すなわち、
(1)初めに、種々の粘度のアルブミンを含む液体(以下、「標準溶液」という)について、これらの液体を(2)で用いる測定系で計測して見掛け粒度を求め両者の対応について標準曲線を作成する。これらの標準溶液の粘度の測定方法は特に限定されないが、(2)とは異なる測定系、例えば、毛細管粘度計、回転粘度計、落球粘度計、振動粘度計などを用いることができる。粘度調整の方法も特に限定されず、例えば、グリセリン等の粘稠な液体を種々の割合で混合するなど、既知の粘度調整方法を用いることができる。
(2)次に、検査対象である試料を所定の方式で計測して見掛け粒度を求める。
(3)さらに、(2)で得られた見掛け粒度を、(1)で求めた標準曲線に当てはめて液体の粘度を求める。
健常者に比べて患者血清または血漿粘度が極めて高い場合には、血管が詰まりやすく、心筋梗塞、脳梗塞、肝硬変、膜性腎症、ネフローゼ、生活習慣病などの発症の危険性がある。年齢が高くなるにつれて血清または血漿粘度が増している場合もこれらの疾患の危険性が増していることになる。このように本発明によって少量の血清または血漿試料で簡便に血管が詰まる疾患のモニタリングが行えるようになる。
血清または血漿の変性に伴う凝集は血清または血漿粘度を変化させるので、本発明の検査に際しては、好ましくは新鮮血清または血漿を試料とする。
例えば、健常者の場合、アルブミン分子のピークは8nmで、血清または血漿粘度は正常である。ところが、心筋梗塞直後では、一般的に血清または血漿粘度が著しく上昇し、アルブミン分子の見掛けピークは10nm〜80nmに移動する。これは実際には、血清または血漿粘度が2倍〜20倍の高い値となったことを示す。その後、病態の進展や治療によって血清または血漿粘度は低下する。高い血清または血漿粘度では、血管が詰まる危険性が大きく、心筋梗塞、脳梗塞、肝硬変、膜性腎症、ネフローゼ、生活習慣病または血清もしくは血漿の過過粘性症候群などの危険因子としてモニタリングされる。
上述のように、本発明では、本来、大きさ8nmの血清または血漿アルブミン分子のブラウン運動の拡散係数を測定し、血清または血漿粘度を算出する。よって、8nm程度のタンパク粒子のブラウン運動の測定が不可欠であるが、そのような装置としては市販の粒度測定装置(例えば、日機装株式会社製:ナノトラック粒度分布測定装置、大塚電子株式会社製:ダイナミック光散乱光度計、シスメックス株式会社製:ゼータサイザーナノシリーズ等)を用いることができる。本発明の検査装置は、このような装置に、アルブミン分子の物理化学的既知データ(例えば、質量や粒径)と拡散係数(例えばレーザー光のドップラーシフトやブラウン運動軌跡等)からアインシュタイン・ストークスの式に基づいて血清または血漿粘度を算出できる計算式を組み込んで構成できる。
これに対し、本発明では、拡散係数(D)の導出までは同様であるが、粒径(r)としてアルブミン粒子の粒径を用いることにより、粘度(η)を求める。もっとも、一般に、このような装置では拡散係数(D)を中間的に操作者に示すようには設計されていない上、粒度は分布として求められるので、所定の液体については一意的に決定されるはずの粘度(η)を単純に求めることは困難である。そこで、いったん、見掛けの粒度分布を求め、これからアルブミンの見掛け粒度を決定する。また、検査方法の項目で説明したように、予め、その測定系を用いて種々の粘度のアルブミンを含む液体について見掛け粒度を求め両者の対応について標準曲線を作成しておき、これを装置のプログラムに付加することにより、見掛け粒度を介して液体の粘度を求める。
なお、一般に上記のような装置で粒径分布を測定できるのは、希薄溶液に限定されるが、本発明において測定対象とする血清または血漿試料に含まれる総タンパク質濃度は6.47g/dl〜7.96g/dl程度であり、そのうちアルブミン濃度は4.08g/dl〜5.13g/dl程度で、60%〜70%の高い割合を占め、このアルブミンのピークの見かけ上のシフトを利用して、血清または血漿試料を希釈等の前処理をすることなく、正確な粘度が容易に測定できる。
また、血漿または血清中には種々のリポタンパク質なども存在するが、アルブミンの割合は充分に高く、支障なくアルブミンの見かけの粒径を求めることができる。また、仮に粒径に複数のピークが存在する場合でも、そのピーク面積の大小からアルブミンのピークを自動的に解析すればよい(通常は最大ピークを選択すればよい)。
標準曲線作成用に、精製したアルブミンを溶解した蒸留水にグリセリンを添加し、従来用いられている回転式粘度計(ビスコメイト VM-1A-L,CBCマテリアルズ株式会社製)でその粘度を測定するとともに、前記ナノトラック粒度分布測定装置によりアルブミンの見かけの粒子径と粘度の相関関係を求めた。結果をグラフ化したものを図4に示す。
健常者6名と心疾患患者20名の血清を37℃に保ち、アルブミン分子の拡散係数を測定して粒度分布を求める前記粒度分布測定装置によって、粒度分布を求めた。結果を図2及び3に示す。図2の健常ボランテイア血清アルブミンは、粒径8nm付近にピークを形成するが、図3のa、b、c、d、e、f、g、h、i、jはいずれもアルブミン分子の見かけの粒径がシフトしている。
二峰性を示すi以外の患者について、最大ピークからアルブミンの見かけの粒径を求め、これを図4のグラフの関係に当て嵌めることにより各患者の血清粘度を求めた。これらの粘度は標準的な粘度測定方法により測定した値とよく一致した。これにより、血清の粘度変化に伴って、アルブミンの見かけの粒子径ピークがシフトしていること、及び、見掛けの粒子径ピークから粘度が求められることが確認できた。
さらに、2名の心疾患患者について、病院に搬送されてからの血清粘度の変化を図5に示す。図5では、アルブミン分子の見かけの粒径から求めた心筋梗塞患者血清の血清粘度を心筋梗塞マーカーのクレアチンキナーゼ活性と併せて示した。このグラフ、特にaに示すように、処置ないし治療(概ね病院搬送直後に行なわれている)によって心筋梗塞マーカーのクレアチンキナーゼ活性は低下するが、上述の方法により求めた粘度もその低下とともに低下していることがわかる。本発明によれば、所定の測定装置により光学的手法により血清の検査を行なうだけでその粘度を測定できるため、血管疾患等循環器系疾患の病態及び/またはその変化(この例では心筋梗塞への治療効果)を迅速かつ簡便に測定できる。
C型肝炎患者20名のアルブミン分子の拡散係数を測定して得た、アルブミンの見かけの粒径ピークの結果を図6に示す。C型肝炎患者でもアルブミン分子の見かけの粒径の大きなシフトが見られ、血清粘度が2倍〜20倍に上昇していることがわかる。また、C型肝炎患者では2峰性を示し、アルブミンピーク以外の異常凝集塊ピークも出現し、粘度上昇を引き起こしていることが推定される。従って、実施例1と同様に、本発明によれば、血管疾患等循環器系疾患の病態及び/またはその変化を迅速かつ簡便に測定し得ることがわかる。
2 測定セル
3 測定セルを保持するホルダー(ステージ)
4 検知手段
5 入射経路の光学系
5a シャッター
5b フィルター
5d 鏡
5e フィルター
6 受光経路の光学系
6a 偏光素子
6b 集光レンズ
6c、6d ピンホール
7 処理手段
10 コロイド粒子
Claims (5)
- 血清または血漿中のアルブミン分子のブラウン運動の拡散係数を測定してアルブミン分子の見掛け粒度を求め、これをアルブミン分子の見掛け粒度とアルブミン分子が存在する液中の粘度との関係に当て嵌めることを特徴とする前記血清または血漿の粘度を求める方法。
- 血清または血漿中のアルブミン分子のブラウン運動の拡散係数を測定してアルブミン分子の見掛け粒度を求め、これをアルブミン分子の見掛け粒度とアルブミン分子が存在する液中の粘度との関係に当て嵌めることを特徴とする前記血清または血漿の粘度を求める装置。
- アルブミン分子を含む種々の粘度の液体についてブラウン運動の拡散係数を測定してアルブミン分子の見掛け粒度を求め、これにより粘度と見掛け粒度の関係を求めておき、検査対象から採取した血清または血漿について、32℃〜38℃の範囲内で、一定温度に保たれた血清または血漿アルブミン分子のブラウン運動の拡散係数からその見掛け粒度を求め、これを前記関係に当て嵌めることにより、血清または血漿の粘度を測定し、これを正常値と比較することを特徴とする血管疾患の検査方法。
- アルブミン分子を含む種々の粘度の液体についてブラウン運動の拡散係数を測定してアルブミン分子の見掛け粒度を求め、これにより粘度と見掛け粒度の関係を求めておき、検査対象から採取した血清または血漿について、32℃〜38℃の範囲内で、一定温度に保たれた血清または血漿アルブミン分子のブラウン運動の拡散係数からその見掛け粒度を求め、これを前記関係に当て嵌めることにより、血清または血漿の粘度を測定し、これを経時的に比較することを特徴とする血管疾患及び/またはその病態変化の検査方法。
- 血管疾患が、心筋梗塞、脳梗塞、肝硬変、膜性腎症、ネフローゼ、生活習慣病、または血清もしくは血漿の過粘性症候群である請求項3または4記載の検査方法。
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