以下、本発明の実施の形態の例について図面を用いて説明する。
図1は、本発明の熱間押出成形用ダイス1が筒状のダイケース2に嵌入された熱間押出成形装置11の概略の断面図を示し、例えば、アルミニウム合金の押出材6の成形は、アルミニウム合金等の柱状鋳塊を加熱したビレット5を筒状のコンテナ3の中に入れ、押出機構4で押し出すことにより、口金金型である熱間押出成形用ダイス1から所望の押出材6が押し出されて成形される。
本発明の熱間押出成形用ダイス1は、窒化チタンを主成分とし、ジルコニアおよびニッケルを含むセラミックスからなるダイスであって、ジルコニアの結晶の一部が窒化チタンの結晶内に分散されてなる硬質相と、ニッケルを主成分とし、硬質相を結合する結合相とからなることが重要である。
窒化チタンを主成分としたのは、熱間押出成形を行なう600〜700℃の温度下において口金(ダイス)が酸化して劣化することを抑制するためである。また、窒化チタンの結晶の表層は酸化されて体積膨張するため、摩耗しやすい状態となるが、窒化チタンの結晶内に分散されたジルコニアの結晶は、窒化チタンの結晶の体積膨張を抑制して摩耗の進展を抑制する作用を為す。また、ニッケルを結合相の主成分としたのは、焼結時に窒化チタンとの濡れ性が良好であることや、ダイス表面のニッケルに酸化膜が形成されてセラミックス内部に酸化が進むことを防止することができるためである。
なお、通常、押出材6の成形を一旦中断した際は、熱間押出成形用ダイス1の誘導部となる貫通孔1aの内周面1bをNaOHなどを用いてアルカリ洗浄をし、アルミニウム合金等の付着物を除去して再度使用することもあるが、従来のダイス素材として使用されていた超硬合金やSKD61ではこれらの洗浄液により表面層が腐食されてしまい表面硬度が著しく低下することがあるが、本発明の熱間押出成形用ダイス1はNaOHなどのアルカリ洗浄では腐食されることはなく、摩耗で使えなくなるまで何度でも繰り返し使用することができる。
さらに、本発明の熱間押出成形用ダイス1に含まれるジルコニアは、セラミックスにおける含有量が4質量%以上18質量%以下であり、かつジルコニアの結晶のうち単斜晶ジルコニアの結晶の割合が20質量%以上50質量%以下であることが好ましい。
セラミックスにおけるジルコニアの含有量は、4質量%以上18質量%以下あればダイスの耐摩耗性を維持しつつ窒化チタン結晶を強化することができるので、ダイスの耐久性が高くなる。
さらに、ジルコニアの結晶は、高温において立方晶となり、常温付近では立方晶から正方晶または単斜晶に変態する。特に単斜晶に変態した際には、約7%程度の体積膨張を伴い、ジルコニアの結晶を主成分とするセラミックスを作製した場合に、クラックが入る等の不具合が発生しやすい。そこで、ジルコニアの結晶中に予め、Y2O3、MgO、CaO、CeO2等の安定化剤を固溶することで、単斜晶ジルコニアの結晶の変態が抑制され、体積膨張を防止することが可能となる。本発明の熱間押出成形用ダイス1は、窒化チタンの結晶内にジルコニアの結晶の少なくとも一部が分散されてなることから、焼成工程において高温から常温へ温度低下する際にジルコニア結晶に単斜晶への変態が生じた場合に、体積膨張により、窒化チタンの結晶が圧縮された状態になりやすい。これにより、セラミックスの破壊靱性が高まり、セラミックス内のクラック進展を食い止めることが可能となり、その結果、優れた耐チッピング性を示すものとすることができる。単斜晶ジルコニアの結晶の割合が20質量%未満においては、前述のようなジルコニアの結晶の体積膨張が十分に生じることなく、窒化チタンの結晶の圧縮も大きくないため、クラックの進展抑制効果を十分に発揮することができない傾向がある。一方、単斜晶ジルコニアの結晶の割合が50質量%を超えると、窒化チタンの結晶内に分散したジルコニアの結晶の体積膨張が大きくなるため、窒化チタンの結晶の圧縮応力が大き過ぎて、破壊靱性が低下し、耐チッピング性が低下する傾向がある。したがって、ジルコニアの結晶のうち単斜晶ジルコニアの結晶の割合は20質量%以上50質量%以下とすることが好ましく、さらに、25質量%以上45質量%以下とすることにより、耐チッピング性をより高めることができる。
また、本発明の熱間押出成形用ダイス1はセラミックスにおける窒化チタンの含有量が67質量%以上90質量%以下であり、ニッケルの含有量が4質量%以上20質量%以下であることが好ましい。
これは、主成分である窒化チタンの結晶は、耐酸化性を高めるものであり、また硬質相として耐磨耗性を保持するものであるので、含有量が多いほうがよく、67質量%以上だと、耐酸化性に優れ、かつ硬質相の割合が多くなるため、耐磨耗性も好ましいからである。しかしながら、含有量が90質量%を超えると、ニッケルを主成分とし、硬質相を結合する結合相の量が相対的に減少し、焼結性が著しく低下して、機械的強度等の機械的特性が低下する傾向にある。
また、ニッケルを主成分とする結合相は、セラミックスにおける含有量が4質量%以上20質量%以下であることが好ましく、結合相を4質量%以上とすることによってセラミックスをより緻密化できるのでダイス用としてより好ましく、20質量%以下とすればより耐酸化性を保つことができるので好ましい。したがって、ニッケルの含有量は、4質量%以上、20質量%以下が好ましく、さらに、14質量%以下がより好ましい。また、結合相にはニッケル以外にクロムを含んでいてもよく、クロムはセラミックスにおける含有量が6質量%以下であることが好適である。
なお、結合相においてニッケルを主成分とするとは、結合相を構成する成分に対してニッケルが50質量%以上を占めることをいい、特に52質量%以上であることが好適である。
また、本発明の熱間押出成形用ダイス1の結合相は、クロムを含有することが好ましい。
クロムを含有することで結合相の主成分のニッケルの酸化が抑制されて安定し、耐酸化性をより高めることができる。クロムを添加するときの化合物形態としては、例えば炭化クロムがあり、セラミックス100質量%のうち7.6質量%以下で含有することがより好ましい。
さらに、本発明の熱間押出成形用ダイス1は、窒化チタンの結晶の平均結晶粒径が1〜2.5μmであるとともに、窒化チタンの結晶内に分散したジルコニアの結晶の平均結晶粒径が250nm以下であることが好ましい。
ジルコニアの結晶は、その平均結晶粒径が耐磨耗性に影響する。平均結晶粒径が大きいと窒化チタンの結晶内に分散したジルコニアの結晶が熱間押出中にダイス1の表面で磨耗し易くなり、ジルコニアの結晶が磨耗すると、その磨耗痕が成長して内周面1bの表面粗さが荒くなり、摺動抵抗が増大する。これは、ジルコニアが窒化チタンよりも硬度が低く、先に磨耗して凹部となるが、平均結晶粒径が大きいと凹部となっても内部にビレット5が入り込み易く、さらに磨耗を進展させて表面粗さが荒くなるためである。このような観点より、本発明の熱間押出成形用ダイス1では、ジルコニアの結晶の平均結晶粒径は250nm以下とすることが好ましく、この範囲にすることで、ジルコニアの結晶が磨耗したときの凹部にビレット5が入り込みにくく、磨耗が進展しにくいので、耐磨耗性を高くすることができる。ジルコニアの結晶の平均結晶粒径については、走査型電子顕微鏡(以下、SEMと言う。)を用い、サンプルの破断面や鏡面を倍率4000〜20000倍で撮影し、その画像より窒化チタンの結晶内に分散されているジルコニアの結晶を特定し、それらの長径の値と短径の値とを測定し、両者を足して2で割ることにより算出すればよく、サンプル数は5以上とすれば十分である。また、ジルコニアの結晶が窒化チタンの結晶内に分散されている状態は、SEM画像とエネルギー分散型(EDS)X線マイクロアナライザーによって検出されるチタンおよびジルコニウムの分布状態を示す画像とを照合することで確認することができる。
また、セラミックスの主成分である窒化チタンの結晶の平均結晶粒径は、1〜2.5μmとすることが好ましく、焼結の際にジルコニアの結晶は窒化チタンの結晶内に取り込まれやすくなり容易に分散することができるとともに、窒化チタンの結晶の脱粒や摩耗の進展を抑制することができる。窒化チタンの結晶の平均結晶粒径は、その大きさが大きいほどジルコニアの結晶が窒化チタンの結晶内に分散しやすくなるが、平均結晶粒径が大き過ぎると、窒化チタンの結晶の表層は酸化されて体積膨張するため、その周辺にクラックが発生して脱粒しやすくなる。一方、窒化チタンの結晶の平均結晶粒径が小さ過ぎると、焼結中に窒化チタンの結晶が粒成長する際にジルコニアの結晶をその内部に十分に取り込むことができず、ジルコニアの結晶は結合相に多く残留することになり、窒化チタンの結晶内に分散しにくくなる。
なお、窒化チタンの結晶の平均結晶粒径は、SEMを用いて倍率4000〜6000倍の画像で表した熱間押出成形用ダイスの断面をインターセプト法で測定するか、あるいはSEMで得られた倍率4000〜6000倍の画像を数値解析することで求めることができる。インターセプト法を用いる場合であれば、具体的には、画像より一定長さの直線上にある結晶粒界の個数から粒径を測定して、その平均を算出する。ここで、直線の本数は、平均結晶粒径の測定値に片寄りがでないようにするため、5本以上にすることが好適である。この場合の平均結晶粒径は、各測定した本数の直線毎の各平均値を足して、その合計値を測定本数で割った数値である。
なお、結合相は粒界相を形成するために非晶質となるので、平均結晶粒径の算出対象からは必然的に除外される。
一方、数値解析を用いる場合は、それぞれの窒化チタンの結晶粒の面積を求め、それぞれの円相当径を算出し、それらを合計して窒化チタンの結晶粒の個数で割ることにより求めることができる。
さらにまた、本発明の熱間押出成形用ダイス1は、硬質相(ジルコニアの結晶が分散されてなる窒化チタンの結晶)におけるジルコニア結晶の含有量が5質量%以上18質量%以下であることにより、破壊靭性K1Cを5MPa・m1/2以上とすることができる。ジルコニアの結晶の含有量が5質量%未満になると、ジルコニアの結晶による窒化チタンの結晶の強化機構が十分に作用せず、他方、18質量%を超えると、ダイス1のアルミ合金誘導部(内周面)1bに存在する窒化チタンの結晶の表面のジルコニア量が増加し、そのジルコニアから摩耗が進展するため好ましくない。
さらに、本発明の熱間押出成形用ダイス1は、セラミックスの破壊靱性K1Cを5MPa・m1/2以上とすることにより、マイクロクラックの発生を抑制でき、ダイス1にチッピングやクラックが発生することを防止することができる。
なお、破壊靱性K1Cについては、JIS R 1607−1995で規定するIF法に準拠して求めればよい。
そして、破壊靱性K1Cを5MPa・m1/2以上とするには、セラミックスを作製する際にジルコニアの粉末を10質量%以上18質量%以下の含有量とすることでできる。また、破壊靱性K1Cは5MPa・m1/2以上としたが、6MPa・m1/2以上とするとより好ましい。
なお、本発明の熱間押出成形用ダイス1は押出材6についてアルミニウム合金を例に説明したが、本発明の熱間押出成形用ダイス1の用途はこれに限られず、銅合金やチタン合金等の熱間押出成形用ダイスとしても好適であることは言うまでもないことである。
以下、本発明の実施例を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
先ず、窒化チタン粉末(純度99%以上、平均粒径2μm)、ニッケル粉末(純度99.5%以上、平均粒径12.8μm)およびジルコニア粉末(純度99.5%以上、平均粒径75nm)を秤量し、混合して調合原料とした。また、ジルコニアの平均粒径が大きな試料を作製するため、平均粒径が大きなジルコニア粉末(純度99.5%以上、平均粒径2μm)を用いたものも必要に応じて使用した。
次に、上記各調合原料に溶媒としてメタノールを加え、振動ミルを用いて48〜120時間粉砕混合した後、ポリエチレングリコール等のバインダーを調合原料に対し3質量%添加し、混合して、噴霧乾燥法により顆粒とした。そして、得られた顆粒を圧力20〜147MPaで加圧成形して、熱間押出成形用ダイス1,101の成形体を作製した。これら成形体を窒素雰囲気中、600℃で脱脂した後、窒素雰囲気中、温度1400〜1600℃、保持時間1〜5時間で焼成してセラミックスとし、機械加工を加えて熱間押出成形用ダイスを作製した。そして、セラミックスを構成する窒化チタンの結晶やジルコニアの結晶の平均結晶粒径は、調合原料の粉砕時間と成形体の焼成温度や保持時間とで調整した。例えば、平均粒径を大きくするには、調合原料の粉砕時間を短くする方法や成形体の焼成温度を高くする方法などがあり、平均粒径を小さくするには調合原料の粉砕時間を長くする方法や焼成温度を低くする方法などがある。
つまり、窒化チタンの結晶とジルコニアの結晶との平均結晶粒径を調整するには、それぞれの粉末を予め粉砕して粒径を調整しておいて用いればよい。
窒化チタンの結晶の平均結晶粒径については、SEMを用い、倍率6000倍の画像で撮影した熱間押出成形用ダイス1,101の鏡面状態の表面についてインターセプト法で測定した。具体的には、画像に一定長さの直線を5本引き、これら直線上にある結晶粒界の個数から粒径を測定して、その平均を算出した。ジルコニアの結晶の平均結晶粒径については、SEMを用い、倍率20000倍の画像より、撮影箇所を5ヶ所として同様に測定して算出した。
そして、硬質相(ジルコニアの結晶が分散されてなる窒化チタンの結晶)における、ジルコニアの結晶が含有された割合(含有量)については、蛍光X線分析法により、熱間押出成形用ダイス1,101を構成する各成分を半定量分析し、検出されたジルコニウムを酸化物換算して求めた。
ただし、硬質相と結合相とにまたがって存在するジルコニアの結晶については、硬質相に50面積%以上存在するものを窒化チタンの結晶内に分散したジルコニアの結晶とみなし、割合を求めた。
なお、本発明の実施例、比較例ともに、図2(a)に熱間押出成形用ダイスの平面図を、 図2(b)にその断面図を示すように、熱間押出成形用ダイス1,101は、厚みTは20mmで、外径Rが30mmの円盤状とし、この円盤状の中心付近に貫通孔1a,101aが形成され、この貫通孔1a,101aは幅dが1.5mm、長さlが15mmの長方形状のスリットで4コーナーが約0.5mmのC面Cからなっているものとした。
熱間押出成形用ダイス1,101を熱間押出成形装置11,111に取り付けて、650℃で1時間の予備加熱処理を施した後、600℃の温度でアルミニウム合金の熱間押出成形を実施した。その成形条件は、押出速度を30m/分となるように押出機構4の押圧力を制御して成形した。そして、押出材6の表面に異常な傷が発生するまで連続成形を実施した。
ここで、押出材6の表面に発生する傷の異常の判定基準は、傷の深さが10μm、幅が20μm以上のものを異常とした。この基準は、業界標準に基づくものではないが、例えば、カーエアコン用アルミニウム冷媒管は、脱フロン対策として代替フロン仕様となるに際して、従来以上に圧力の高いガスを用いる方向にあることから、より厳しい傷規格となることを予測したものである。
熱間押出成形において、異常の発生は、まず押出材6の表面状態となって現れるが、同時に熱間押出成形用ダイス1,101が破損することや、または、内周面1b,101bに剥離が発生することもあるので、この破損や剥離も含めて確認を実施した。なお、いずれも評価した試料数は1個である。
そして、上記いずれかの異常が発生するまでの連続成形時間が36時間未満の場合の総合評価を×とし、36時間以上42時間未満を○とし、42時間以上を◎とした。その理由は、現状品の超硬合金やSKD61で作製された熱間押出成形用ダイス101の寿命が半日〜1日未満しかないことから、連続成形時間が36時間未満を×とし、期待値である42時間以上を◎とし、その中間の36時間以上42時間未満を○としたものである。以上の結果を表1に示す。
先ず、窒化チタンを主成分とし、ジルコニアおよびニッケルを含むセラミックスからなるダイスであって、ジルコニアの結晶の一部が窒化チタンの結晶内に分散されてなる硬質相と、ニッケルを主成分とし、硬質相を結合する結合相と、からなる本発明の熱間押出成形用ダイスの試料No.1〜31について、異常発生までの連続成形時間を評価した。
このとき、窒化チタンの結晶の内部にジルコニアの結晶が分散していない比較例の試料を作製するには、原料調合時に窒化チタンと窒化チタン以外の組成とを別個に調合し、それらを個別に粉砕し、窒化チタンの方は粉砕粒度が粗い状態で粉砕を停止するが、窒化チタン以外の組成の方は通常通り粉砕した。その後、両方の粉砕原料をスラリーの状態で混合して通常通りの工程でセラミックスとした。本発明では、窒化チタンは焼成時に粒成長する過程でジルコニアを結晶内に取り込むが、窒化チタンの粉砕粒度が粗いと窒化チタンは殆ど粒成長をしないため、ジルコニアの結晶も窒化チタンの結晶に取り込まれることはない。
本発明の範囲外である比較例の試料No.1,9,10は、連続成形時間が18時間,7時間,28時間と、本発明の実施例の試料より短いことが分かる。これは、試料No.1,10の異常は、押出材6への傷であり、その時点における熱間押出成形用ダイス1のクラックや破損、剥離等は見られないものの、ジルコニアの結晶が窒化チタンの結晶内に分散されておらずジルコニアの結晶の体積膨張による窒化チタンの結晶の強化機構が働かないため、高温下における強度、硬度、靭性の低下が影響し、誘導部である貫通孔1aの内周面1bが劣化したためと推測できる。なお、高温のアルミニウム合金と摺動状態にあるダイス用材料の強度や硬度などを擬似的にでも測定することは非常に困難であるため、ここではテスト結果をもってそれらの特性が低下したと判断した。
本発明の範囲外となる試料No.9の異常はダイスの破損であり、ニッケルを含有しないため特に高温下における靭性の低下が影響し、内周面1bに発生した微小な傷からクラックが進展したためである。
次に、本発明の範囲内である試料No.2〜8,9〜31は、アルミニウム合金の押出材6の連続成形時間が少なくとも36時間以上実施でき、熱間押出成形用ダイス1のクラックや破損、および内周面1bの剥離の発生は見られず、総合評価は○か◎であった。
次に、ジルコニアのセラミックスにおける含有量が4質量%以上18質量%以下であり、かつジルコニアの結晶のうち単斜晶ジルコニアの結晶の割合が20質量%以上50質量%以下である熱間押出成形用ダイスの試料No.2〜8,9〜18について、異常発生までの連続成形時間を評価した。
ジルコニアのセラミックスにおける含有量が4質量%以上18質量%以下であり、かつジルコニアの結晶のうち単斜晶ジルコニアの結晶の割合が20質量%以上50質量%以下であるという条件から外れる試料No.2,3,6,7,14,15,17,18について、その中から先ず、試料No.2,3は、連続成形時間が36時間、37時間となり、総合評価は○であった。これは、ジルコニアの含有量が4質量%未満になると、ジルコニアの結晶が窒化チタンの結晶の体積膨張を抑制する効果が小さくなったためである。また、試料No.17,18は、連続成形時間が37時間、36時間となり、総合評価は○であった。これは、ジルコニアの含有量が18質量%を超えるために、窒化チタンの結晶よりも軟質なジルコニアの結晶が増えてくるために耐摩耗性を低下させたためである。
また、試料No.6,7は、連続成形時間が37時間、38時間となり、総合評価は○であった。これは、単斜晶のジルコニアの割合が20%未満のために、ジルコニアの結晶の体積膨張による窒化チタンの結晶の圧縮が小さくなり、クラックの進展抑制効果も十分ではなくなるためである。
さらに、試料No.14,15は、連続成形時間が38時間、37時間となり、総合評価は○であった。これは、単斜晶ジルコニアの割合が50%を超えて、窒化チタンの結晶内に分散したジルコニアの結晶の体積膨張が大きくなるために、窒化チタンの結晶の圧縮応力が大き過ぎて窒化チタンの結晶の強度が低下するためである。
以上のように、ジルコニアのセラミックスにおける含有量が4質量%以上18質量%以下であり、かつジルコニアの結晶のうち単斜晶ジルコニアの結晶の割合が20質量%以上50質量%以下であるという条件から外れる試料No.2,3,6,7,14,15,17,18については、上記の様な種々の問題はあるものの、いずれも従来の超硬合金製のダイスを上回る連続成形時間を達成することができ、熱間押出成形用ダイスとしては良好な高強度、高硬度、高靭性、高摺動性を備えたものであった。
次に、ジルコニアのセラミックスにおける含有量が4質量%以上18質量%以下であり、かつジルコニアの結晶のうち単斜晶ジルコニアの結晶の割合が20質量%以上50質量%以下である熱間押出成形用ダイスの試料No.4,5,8,11〜13,16は、連続成形時間が42時間以上となり、総合評価は◎であった。これは、ジルコニアの含有量が4〜18質量%の範囲にあり、単斜晶ジルコニアの結晶の割合が20〜50質量%の範囲にあるため、窒化チタンの結晶の体積膨張を適切に抑制することができたためである。
次に、セラミックスにおける窒化チタンの含有量が67質量%以上90質量%以下であり、ニッケルの含有量が4質量%以上20質量%以下である熱間押出成形用ダイスを評価するために、試料No.19〜28について、異常発生までの連続成形時間を評価した。
セラミックスにおける窒化チタンの含有量が67質量%以上90質量%以下であり、ニッケルの含有量が4質量%以上20質量%以下であるという条件から外れる試料No.19,20,23,24,25,27,28について、その中から先ず、試料No.19,20は、連続成形時間が37時間、39時間となり、総合評価は○であった。これは、窒化チタンの含有量が67質量%未満であるために、結合相から磨耗が進展しやすくなるために耐摩耗性が低下したためである。
また、試料No.23,24は、連続成形時間が37時間、36時間となり、総合評価は○であった。これは、窒化チタンの含有量が90質量%を超えたために、結合相の量が相対的に減少し、焼結性が著しく低下するので機械的強度等の機械的特性が低下したためである。
さらに、試料No.25は、連続成形時間が38時間となり、総合評価は○であった。これは、ニッケルの含有量が4質量%未満のために、焼結性が著しく低下するので機械的強度等の機械的特性が低下したためである。
さらにまた、試料No,27,28は、連続成形時間が38時間、37時間となり、総合評価は○であった。これは、ニッケルの含有量が20質量%を超えると、結合相が増加して耐摩耗性が低下したためである。
以上のように、本発明の実施例である、セラミックスの窒化チタンの含有量が67質量%以上90質量%以下であり、ニッケルの含有量が4質量%以上20質量%以下であるという条件から外れる試料No.19,20,23,24,25,27,28は、上記の様な種々の問題はあるものの、いずれも従来の超硬合金製のダイスを上回る連続成形時間を達成することができ、熱間押出成形用のダイスとしては良好な高強度、高硬度、高靭性、高摺動性を備えたものであった。
次に、セラミックスの窒化チタンの含有量が67質量%以上90質量%以下であり、ニッケルの含有量が4質量%以上20質量%以下である熱間押出成形用ダイスの試料No.21,22,26は、連続成形時間が42時間以上となり、総合評価は◎であった。これは、窒化チタンの含有量が67〜90質量%であることから、耐酸化性に優れ硬質相の割合が多くなるために耐摩耗性が高く、またニッケルの含有量が4〜20質量%であることから、焼結性が良好であることによって機械的強度も優れたダイスとなった。
次に、結合相がクロムを含有する熱間押出成形用ダイスの試料No.29,30,31について、異常発生までの連続成形時間を評価した。
先ず、試料No.29は連続成形時間が36時間となり、総合評価は○であった。これは、結合相にクロムが含有されていないことで、結合相の耐酸化性が低下したためである。
次に、試料No.30は、連続成形時間が42時間以上となり、総合評価は◎であった。これは、結合相にクロムを含有することで結合相の主成分であるニッケルの酸化が抑制されて安定し、熱間押出成形用ダイスの耐酸化性がより高まったためである。
さらに、試料No.31は、連続成形時間が38時間となり、総合評価は○であった。これは、結合相のクロムの含有量が13質量%を超えているために焼結性が低下したことによるものである。
以上のように、本発明の実施例である試料No.29,30,31については、上記の様な種々の問題はあるものの、いずれも従来の超硬合金製のダイスを上回る連続成形時間を達成することができ、熱間押出成形用のダイスとしては良好な高強度、高硬度、高靭性、高摺動性を備えたものであった。
次に、窒化チタンの結晶の平均結晶粒径が1〜2.5μmであるとともに、窒化チタンの結晶内に分散したジルコニアの結晶の平均結晶粒径が250nm以下である本発明の熱間押出成形用ダイスの試料No.32〜42について、異常発生までの連続成形時間を評価した。
窒化チタンの結晶の平均結晶粒径が1〜2.5μmであるとともに、窒化チタンの結晶内に分散したジルコニアの結晶の平均結晶粒径が250nm以下であるという条件から外れる試料No,32,33,37,38,41,42について、その中から先ず、試料No.32,33は、連続成形時間が37時間、38時間となり総合評価は○であった。これは、窒化チタンの平均結晶粒径が1μm未満になると、ジルコニアの結晶が窒化チタンの結晶内に分散しにくく、窒化チタンの耐摩耗性が向上しにくくなったためである。
また、試料No.37,38は、連続成形時間が37時間、36時間となり、総合評価は○であった。これは、窒化チタンの平均結晶粒径が2.5μmを超えると、窒化チタンの結晶の表層が酸化されたときに体積膨張し、その周辺にクラックが発生して脱粒しやすくなったためである。
さらに、試料No.41,42は、連続成形時間が39時間、37時間となり、総合評価は○であった。これは、窒化チタンの結晶内に分散したジルコニアの結晶の平均結晶粒径が250nmを超えたために、ジルコニアの結晶の分散性が低下して窒化チタンの結晶を強化する作用が小さくなったためである。そして、ジルコニアの結晶の分散性が低下すると、ジルコニアの結晶が窒化チタンの結晶の体積膨張を抑制する作用は窒化チタンの結晶内で不均等に働き、抑制作用が低下した箇所から磨耗が進展しやすくなるからである。
以上のように、本発明の実施例である、窒化チタンの結晶の平均結晶粒径が1〜2.5μmであるとともに、窒化チタンの結晶内に分散したジルコニアの結晶の平均結晶粒径が250nm以下であるという条件から外れる試料No,32,33,37,38,41,42の熱間押出成形用ダイスは、上記の様な種々の問題はあるものの、従来品に比べて連続成形時間が延び、熱間押出成形用のダイスとしては良好な高強度、高硬度、高靭性、高摺動性を備えたものであった。
次に、各試料についてアルミニウム合金の摺動性を確認するために、従来の超硬合金製のダイスで押出材の押し出される長さを100%とした場合に、アルミニウム合金の押出材が押し出される長さ(押出長さ)を比較した。その結果、特に、試料No.34〜36,39,40は、押出長さが25%以上も上昇した。これは、窒化チタンの結晶の脱粒や酸化が窒化チタンの結晶内に分散したジルコニアの結晶により抑制されて良好な摺動特性が得られたためである。また、試料No.32,33は、窒化チタンの結晶が小さいために窒化チタンの結晶内に分散したジルコニアが十分な量ではなく、摺動特性がやや低下したためである。
また、試料No.37,38は、窒化チタンの結晶の平均結晶粒径が2.5μmを超えたため、窒化チタンの結晶の表面が酸化されて摺動面が荒くなり、押出長さは20%の上昇に留まった。
さらに、試料No.41,42は、窒化チタンの結晶内に分散したジルコニアのの結晶の平均結晶粒径が250nmを超えるため、ジルコニアの結晶の磨耗の影響が摺動特性に影響を与えたためである。
以上のように、本発明の実施例である、試料No.32〜42の熱間押出成形用ダイスは、上記の様な種々の問題はあるものの、従来の超硬製の熱間押出成形用ダイスを上回る押出長さを達成しており、熱間押出成形用のダイスとしては良好な高強度、高硬度、高靭性、高摺動性を備えたものであった。
次に、窒化チタンの結晶の平均結晶粒径が1〜2.5μmであるとともに、窒化チタンの結晶内に分散したジルコニアの結晶の平均結晶粒径が250nm以下である熱間押出成形用ダイスの試料No.34〜36,39,40は、連続成形時間が42時間以上となり、総合評価は◎であった。これは、窒化チタンの結晶の平均結晶粒径が1〜2.5μmであり、窒化チタンの結晶内に分散したジルコニアの結晶の平均結晶粒径が250nm以下であるために、窒化チタンの結晶の脱粒や摩耗の進展を抑制することができたためである。
次に、硬質相(ジルコニアの結晶が分散されてなる窒化チタンの結晶)におけるジルコニアの結晶の含有量が5質量%以上18質量%以下である熱間押出成形用ダイスの試料No.43〜49について、異常発生までの連続成形時間を評価した。
先ず、試料No.43,44は、連続成形時間が38時間、39時間となり、総合評価は○であった。これは、窒化チタンの結晶におけるジルコニアの結晶の含有量が5質量%未満のために、窒化チタンの結晶の体積膨張を抑制する効果が十分ではなかったためである。
次に、試料No.48,49は、連続成形時間が40時間、39時間となり、総合評価は○であった。これは、窒化チタンの結晶におけるジルコニアの結晶の含有量が18質量%を超えたために、窒化チタンの結晶の表面のジルコニア量が増加し、そのジルコニアから摩耗が進展したためである。
さらに、硬質相(ジルコニアの結晶が分散されてなる窒化チタンの結晶)におけるジルコニアの結晶の含有量が5質量%以上18質量%以下である試料No.45,46,47は、連続成形時間が42時間以上となり、総合評価は◎であった。これは、窒化チタンの結晶におけるジルコニアの結晶の含有量が5質量%以上18質量%以下であるために、窒化チタンの結晶内に分散されたジルコニアの結晶が窒化チタンの結晶の体積膨張を抑制して摩耗の進展の抑制をしたためである。
以上のように、本発明の実施例である、硬質相(ジルコニアの結晶が分散されてなる窒化チタンの結晶)におけるジルコニアの結晶の含有量が5質量%以上18質量%以下である条件から外れる試料No.45,46,47は、上記の様な種々の問題はあるものの、従来の超硬合金製の熱間押出成形用ダイスを上回る押出長さを達成し、熱間押出成形用のダイスとしては良好な高強度、高硬度、高靭性、高摺動性を備えたものであった。
次に、セラミックスの破壊靱性K1Cが5MPa・m1/2以上である熱間押出成形用ダイスの試料No.50〜53について、異常発生までの連続成形時間を評価した。
破壊靱性K1Cについては、JIS R 1607−1995で規定するIF法により、硬度計には明石製作所製AVK−A型を用いて測定した。ここで、試料No.50〜53は、顆粒の成形圧力を20〜147MPaの範囲とし、セラミックスに残留するボイドの量を変えて、破壊靭性K1Cを調節した。
先ず、セラミックスの破壊靱性K1Cが5MPa・m1/2以下である熱間押出成形用ダイスの試料No.50,51は、連続成形時間が36時間、37時間となり、総合評価は○であった。これは、熱間押出成形用ダイスに用いたセラミックスの破壊靱性K1Cが5MPa・m1/2未満であるために、熱間押出成形用ダイスは36時間または、37時間使用できたが、異常の発生時に破損したものであった。だが、従来品に比べて連続成形時間が延び、熱間押出成形用のダイスとしては良好な高強度、高硬度、高靭性、高摺動性を備えたものであった。
次に、セラミックスの破壊靱性K1Cが5MPa・m1/2以上である熱間押出成形用ダイスの試料No.52,53は、連続成形時間が42時間以上となり、総合評価は◎であった。これは、熱間押出成形用ダイスに用いたセラミックスの破壊靱性K1Cが5MPa・m1/2以上であるために、マイクロクラックの発生を抑制できたものであり、それにより熱間押出成形用ダイスは破損せず高寿命となった。
以上のように、本発明の実施例の試料No.2〜8,11〜53は、比較例の試料No.1,9,10に比べて良好であり、中でも試料No.4,5,8,11,12、21,22,26,31,34〜36,39,40,45〜47,52,53は、特に優れた結果であった。