浮遊坩堝法(浮き坩堝法、二重浮き坩堝法などとも呼ばれる)は、シリコンや化合物半導体等の単結晶体をチョクラルスキー法で製造する際に、引き上げ初期と終期とで、結晶中のドーパントの濃度や化合物の元素比が変化することを抑制するための方法である。
具体的には、坩堝として外坩堝と内坩堝からなる二重構造坩堝を用い、内坩堝を、その自重と浮力が釣り合った状態で原料溶融液に浮遊させる。内坩堝の壁部には原料溶融液の流通が可能な貫通孔が空いており、結晶引き上げに伴って原料溶融液面が低下すると、その分内坩堝位置も低下し、もって内坩堝内の原料が消費された分に相当する量の原料溶融液が該貫通孔を通して補給されるため、内坩堝中の原料溶融液量は常に一定となっている。内坩堝の内外の原料溶融液におけるドーパント濃度や原料比等を適切に設定しておけば、結晶成長に伴って変化する内坩堝中の該濃度変化を相殺又は緩和するように、内坩堝の外(外坩堝)から新たな原料溶融液が補給され、前記課題が解決される。さらに該浮遊坩堝法の発展形として、上方から吊下された支持具をもって二重構造坩堝における内坩堝を、所定の位置(高さ)に固定したり、あるいは独立して上下動させる技術も種々提案されている(例えば、特許文献1−7参照)。これら技術では、外坩堝を上昇させて、結晶成長に伴い原料溶融液量が減少しても該液面を一定の高さに保持し、結晶成長面の位置を一定にすることも行われる。
また、チョクラルスキー法で単結晶体を引き上げる場合、坩堝中の濃度勾配等を一定にし、得られる単結晶体を良質なものとするためには、引き上げ中に結晶と坩堝の双方を回転させることが望まれる。坩堝が上記のような二重構造坩堝である場合には、内坩堝を回転させることがより重要である。上記浮遊坩堝法においては、外坩堝を回転させれば、原料溶融液の粘性抵抗によって内坩堝も回転させることが可能である(例えば、特許文献8参照)。しかしながら、このような回転力の伝達方法では内坩堝の回転数等を制御することが困難である。
内坩堝が、支持具をもって固定されている場合には、外坩堝を回転させても該内坩堝を回転させることはできない。そのため機械的攪拌に代えて、磁場により直接原料溶融液の対流等を制御することも行われている(例えば、特許文献1、2参照)。
さらに、二重構造坩堝における内坩堝を自在に回転させるための独立した駆動装置を有するチョクラルスキー法の単結晶育成装置も提案されているが、このような独立した駆動装置を設けることは該装置が大掛かりになってしまうという欠点がある(例えば、特許文献8、9参照)。
また、原料溶融時には外坩堝と内坩堝を離しておき、外坩堝内の原料が十分に溶融した後、該溶融液中に内坩堝を沈めると共に、該内坩堝を外坩堝に実質的に固定することにより、外坩堝の回転に連動して内坩堝を回転させる二重構造坩堝も提案されている(例えば、特許文献10、11参照)。しかし、このように固定された坩堝では、外坩堝を上昇させれば、内坩堝も共に上昇するため、内坩堝内の原料溶融液量を一定にすることはできない。
他方、フッ化カルシウム等のフッ化金属の単結晶体は、広範囲の波長帯域にわたって高い透過率を有し、低分散で化学的安定性にも優れることから、紫外波長または真空紫外波長のレーザを用いた各種機器、カメラ、CVD装置等のレンズ、窓材等の光学材料として需要が広がってきている。とりわけ、フッ化カルシウム単結晶体は、光リソグラフィー技術において次世代の短波長光源として開発が進められているArFレーザ(193nm)やF2レーザ(157nm)での光源の窓材、光源系レンズ、投影系レンズとして期待が寄せられている。
こうしたフッ化金属の単結晶体は、ブリッジマン法やチョクラルスキー法により製造するのが一般的である。特に、チョクラルスキー法は、製造される単結晶体が坩堝壁に接触することなく育成できる(成長する)ため、多結晶化してしまう可能性が低く、また大型で歪の少ない単結晶体を効率よく製造することができる優れた方法である(例えば、特許文献12、13参照)。
しかしながらフッ化金属単結晶の製造に際し、このようなチョクラルスキー法を用いた場合、溶融液の深さが深いと、不規則な対流が生じやすく、この不規則対流のために結晶成長界面が不安定化し、これにより結晶中にスキャッタリングセンター(SC)と呼ばれる光の散乱点が多数生じるという問題点があり、本発明者らは、フッ化金属単結晶の育成に際して、溶融液深さを浅い状態(引き上げる単結晶体の直胴部直径の0.65倍以下)で行うことにより、このSCの発生を大幅に抑制できることを見出している。
そしてさらに、内坩堝に対して外坩堝の位置を自在に上下動できる二重構造坩堝を用いれば、結晶引き上げ中も常に当該溶融液深さを維持できる点に着目し、上記フッ化金属単結晶の製造に適用すれば、SCが少なく長尺の単結晶体を安定的に製造できることを見出し、該技術を既に提案している(特願2005−367481)。
さらにまた、このような二重構造坩堝における外坩堝内面と内坩堝外面とにより形成される間隙の開口部を閉塞する開口部閉塞部材を設けることにより、原料の揮発や不純物の落下を防止して、さらに安定的かつ効率的に単結晶体製造を行うことが可能となると共に、坩堝内における原料前処理に際してのスカベンジャーの効果をより高くできることを見出し、これもまた既に提案している(特願2006−087960)。
特開昭62−197389号公報
特開昭63−159286号公報
特開昭55−47300号公報
特開昭62−256786号公報
特開昭63−117987号公報
特開昭63−195188号公報
特開昭63−295498号公報
特開昭62−275088号公報
特開昭58−204895号公報
特開昭63−282187号公報
特開昭64−83593号公報
特開2004−182588号公報
特開2005−029455号公報
本発明の単結晶引き上げ装置は、後述する垂直位置支持機構、回転伝達機構及び水平位置保持機構を有する点を除けば、浮遊坩堝法によって単結晶体を製造する公知のチョクラルスキー法単結晶引き上げ装置、特にフッ化金属単結晶用の引き上げ装置と特に変わるところはない。
即ち、上記垂直位置支持機構、回転伝達機構及び水平位置保持機構以外に、外坩堝及び内坩堝からなる二重構造坩堝と、該外坩堝を上下動かつ回転可能に支持する外坩堝支持軸と、種結晶を保持する種結晶保持具と、内坩堝の中心軸と同じ軸上に位置し該保持具を上下動かつ回転可能に支持する結晶引き上げ軸と、坩堝を加熱するヒーターとを備える。なお以下では、二重構造坩堝における内坩堝の内側を内坩堝内、内坩堝の外側であって、外坩堝の内側に当たる部分を外坩堝内と称す。また内坩堝内を含めての全ての外坩堝の内側部分は、単に坩堝内と称す。
本発明の単結晶引き上げ装置で製造することのできる単結晶体は、チョクラルスキー法で製造可能な単結晶体であれば特に制限されるものではないが、前述のように、磁場等による対流制御が困難であるため、原料溶融液の攪拌を物理的に行う要求が高く、また、外坩堝が内坩堝とは独立に上下動可能な二重構造坩堝を採用することにより、得られる単結晶体の品質が劇的に向上する点で、フッ化金属の単結晶体であることが好ましい。
当該フッ化金属を具体的に例示すると、フッ化リチウム、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化ルビジウム、フッ化マグネシウム、フッ化カルシウム、フッ化バリウム、フッ化ストロンチウム、フッ化アルミニウム、フッ化バリウムリチウム、フッ化マグネシウムカリウム、フッ化アルミニウムリチウム、フッ化カルシウムストロンチウム、フッ化カリウムマグネシウム、フッ化ストロンチウムリチウム、フッ化セシウムカルシウム、フッ化リチウムカルシウムアルミニウム、フッ化リチウムストロンチウムアルミニウム、及びフッ化ランタノイド類等が挙げられる。
以下、上記のような単結晶体を引き上げるために用いる本発明の単結晶引き上げ装置を、図面を参照してより詳しく説明する。図1は、本発明の引き上げ装置の代表的な態様を示す断面模式図である。図1に示すように浮遊坩堝法においては、坩堝は、外坩堝(1)と内坩堝(2)からなる二重構造坩堝であり、該内坩堝(2)の壁部(底壁及び/又は側壁)には、該壁部を貫通し、内坩堝内と外坩堝内とで原料溶融液の流通可能な貫通孔(3)が設けられている。結晶を引き上げると、引き上げた結晶量に相当する分だけ、坩堝内の原料溶融液が減少、即ち、坩堝内における原料溶融液面が低下する。内坩堝は原料溶融液に浮遊させているため、該液面の低下に追随するから、外坩堝に対する内坩堝の相対的な垂直方向位置が下降していくが、内坩堝の絶対位置(即ち、原料溶融液面=結晶成長界面)が変化しないように、相対的な下降分に相当するだけ、外坩堝を上昇させる。
外坩堝の上昇は、上下動及び回転が可能な外坩堝支持軸(4)により行われる(該上下動及び回転を可能とする機構は図示しない)。なお図1においては、外坩堝(1)は受け台(5)上に設置されており、外坩堝支持軸(4)は、直接には該受け台(5)を上下動及び回転させる。
坩堝の加熱は、ヒーター(6)により行われる。通常、結晶引き上げ炉のチャンバー(7)と該ヒーター(6)の間には、断熱材壁(8)が、ヒーター(6)を環囲するように配置され、さらに断熱材壁は、坩堝の上方及び下方にも必要に応じて設けられる。
図1の引き上げ装置においては、外坩堝(1)の外壁面とヒーター(6)の間には、ヒーターからの輻射熱を均一化する目的で、隔離壁(9)が周設されている。そして、該ヒーター(6)の熱が上方に逃失するのを防止するために、隔離壁(9)の上端を、ヒーター(6)の上端よりも高くし、該上端と断熱材壁(8)との間に、隔離壁(9)と断熱材壁(8)との間隙を閉塞するリッド材(10)を横架して、この間隙を閉塞させている。
坩堝の中心軸上には、種結晶(11)を保持する種結晶保持具(12)と、該保持具を上下動かつ回転可能に支持する結晶引き上げ軸(13)が配置されている。チョクラルスキー法では通常、坩堝内の十分に溶融した原料に、該保持具(12)に保持された種結晶(11)を接触させた後、回転させながら徐々に引き上げて単結晶体(14)を成長させる。
本発明の装置の特徴は、上記の如き基本構造を有するチョクラルスキー法単結晶引き上げ装置にさらに、垂直位置支持機構、回転伝達機構及び水平位置保持機構を有する点にある。
上記垂直位置支持機構は、内坩堝を、所定の垂直方向位置(高さ)よりも下方へは移動しないように支持する。当該所定の支持位置は、結晶引き上げのときに、内坩堝を浮遊させる位置よりも下方である。そしてさらに、該垂直方向支持機構は、原料溶融液による浮力が内坩堝に作用したときに、該所定の支持位置よりも上方へ向かっては、該浮力によって離脱できるように支持するものである。
前述の通り、浮遊坩堝法においては、内坩堝(2)は原料溶融液に浮遊させた状態で結晶を引き上げる。逆に、原料溶融液が存在しない場合には、なんらかの支持機構が存在しないと、内坩堝(2)は外坩堝(1)の最深部まで下がった状態となり、外坩堝(1)内の空間容積が極めて小さくなる。
より不純物が少なく、また安定して結晶を引き上げるためには、原料溶融液中の気泡や固体不純物が、可能な限り内坩堝(2)内へ入ってこないことが好ましい。その解決手段としては、外坩堝(1)に対する内坩堝(2)の相対位置を高い状態にし、外坩堝(1)内の空間容積を大きくしておき、そこへ固体状の原料の実質的に全量を投入して溶融、その後、内坩堝(2)の位置を相対的に低くして該溶融液中へ浸漬することにより、貫通孔(3)から原料溶融液を内坩堝(2)内へと流入させる方法がある。この方法によれば、貫通孔(3)を通って、気泡や不純物が内坩堝内に入り込む可能性が低くなる。さらに内坩堝(2)の相対位置の上下動を繰り返して、該内坩堝内への原料溶融液の出し入れを複数回繰り返せば、気泡や固体不純物を実質的に無とすることができる。
また、後述するように、フッ化金属単結晶の引き上げに際して、スカベンジャーを坩堝内に同時に投入、加熱して高純度化を図る場合にも、内坩堝を相対的に高い位置にし、その全量が外坩堝内で加熱溶融されるようにしておけば、該内坩堝の底壁が蓋として作用し、よりスカベンジャーの効果が高くなる。
上記のような動作を行わせる場合、内坩堝を独自に上下動可能とする機構を設けることも考えられるが、中心軸位置の維持などを考慮すると装置の構成が複雑となり、また比較的大掛かりな機構が必要となる。
一方、内坩堝(2)を所定の位置よりも下方に移動しないように支持しておき、外坩堝(1)を該内坩堝の位置よりも下方に移動させる手法とすれば、前述した単結晶引き上げ中の原料溶融液面位置を一定の位置にするために設ける外坩堝支持軸(4)により、上記引き上げ前の操作も可能であり、装置の構成を相対的に簡単なものとできる。
したがって本発明においては、外坩堝(1)に対する内坩堝(2)の相対位置を高くするために外坩堝(1)を下方に引き下げた状態で、該内坩堝(2)がその所定高さ(即ち垂直方向)の位置に維持されるように垂直位置支持機構を設ける。
本発明の引き上げ装置では、内坩堝が、当該垂直位置支持機構によって支持される高さは、結晶引き上げに際して内坩堝(2)が原料溶融液に浮遊する位置よりも下方とされる。また、当該支持は、原料溶融液を満たした外坩堝を上昇させると、その原料溶融液に内坩堝が浮遊する際の浮力によって離脱可能となるようにされる。
即ち、本発明の引き上げ装置は、結晶引き上げ中は、内坩堝(2)を原料溶融液にその浮力によって浮遊させ、さらに後述するようにその状態で内坩堝を回転させる。該内坩堝の浮遊位置を、垂直位置支持機構による支持位置よりも高くすることにより、回転中に支持部が擦れることがなく、よって回転のための動力の効率が高くなると共に、該支持機構を構成する物質くずが原料溶融液中に落下したりすることもなくなる。なおむろんのこと、当該垂直位置支持機構は、結晶引き上げ中の坩堝の回転を妨げないように配設される。
また内坩堝(2)は、そもそも原料溶融液に浮遊するように構成されるため、支持機構からの離脱を、該浮遊の際の浮力で行われるようにすれば、装置の構造を極めて単純にすることができる。
垂直位置支持機構によって支持される高さは、結晶引き上げ中の内坩堝(2)浮遊位置より下方であれば特に限定されるものでなく、適宜設定すればよいが、通常1〜100mm低い位置、より好ましくは5〜50mm低い位置にすればよい。
また内坩堝(2)が、その浮力により当該支持状態から離脱可能とするためには、内坩堝(2)が上方向に移動することを阻止する係止部材等は設けずに、内坩堝(2)(及びそれに付随する部材)の重量を支える部材上に静置するだけにすることが好ましい。
本発明において、内坩堝を原料溶融液に浮遊させる方法は特に制限されず、浮遊坩堝法における公知の方法を適宜採用すればよい。代表的には、内坩堝(及びそれに付随する部材)を原料溶融液よりも比重の軽い材料で構成することである。例えば、引き上げの対象がフッ化金属である場合、内坩堝としてカーボン系のものを採用すればよい。また浮き部材や重りを用いて、内坩堝の浮力を調整してもよい。
このような垂直位置支持機構の代表的な態様をさらに図面を用いて説明する。図2に示す態様において、図2aは、外坩堝(1)が引き下げられており、内坩堝(2)が垂直位置支持機構により所定の位置(高さ)に支持されている状態である。より具体的には、内坩堝(2)の上端部には、外周方向へ向かう掛合用突出部(15)が設けられている。一方、上方からは、その先端に内周方向へ向かう鉤部(16)を有する内坩堝吊り下げ棒(17)が吊下されている。図2においては、該内坩堝吊り下げ棒(17)は、隔離壁(9)よりも内側に向かって張り出したリッド材(10)に吊下固定されているが、チャンバーの天井部等の他の場所(部材)に固定してもよい。また、リッド材上に、内坩堝吊り下げ棒を固定する連結部材を別途設けてもよい。
図示するように、掛合用突出部(15)を該吊り下げ棒の鉤部(16)に掛合させることにより、外坩堝(2)を下方に下降させても、内坩堝(2)は所定の位置に支持され、外坩堝内における原料を溶融するための空間を広くすることができる。なお、掛合用突出部(15)は、内坩堝が回転して角度を変えた場合でも、鉤部(16)との掛合が維持できるよう、全周囲方向に向かって突出した円環状の突出であることが好ましい。また、内坩堝(2)を安定に支持するために、内坩堝吊り下げ棒(17)は2本以上、好ましくは3〜8本設ける。さらに内坩堝吊り下げ棒に代えて、円筒状の吊り下げ部材を用いることなどもできる。
原料を十分に溶融した後、外坩堝(1)を上昇させれば、原料溶融液面も上昇してゆき、内坩堝(2)の有する貫通孔(3)から内坩堝内に流入し始める。さらに外坩堝(1)の上昇を続けると、内坩堝(2)の自重と浮力とが釣り合い、それ以降は内坩堝(2)が原料溶融液面の上昇に伴って上昇する。これにより、掛合用突出部(15)が、内坩堝吊り下げ棒(17)の鉤部(16)から離脱する(図2b)。
また図2の態様では、内坩堝吊り下げ棒(17)をリッド材等に固定したが、図1に示すように、内坩堝吊り下げ棒(17)を坩堝側に固定し、該吊り下げ棒の上部に係脱自在な鉤部(16)等を設けてもよい。図1の態様においては、リッド材上に円環状の連結部材(18)が設けられており、該連結部材の内縁部が鉤部(16)と掛合している。
また図1、図2とも、内坩堝吊り下げ棒(17)は、内坩堝(2)の外壁側面位置で該内坩堝を支持するように取り付けられているが、内壁側に設けてもよいし、上端部でもよく、特に制限されるものではない。
本発明の引き上げ装置においては、原料溶融液を満たした外坩堝(1)を上昇させることにより内坩堝(2)が上述のようにして浮力により上方に離脱して原料溶融液に浮遊する。単結晶体(14)の引き上げはこの浮遊状態で行う。
本発明の引き上げ装置は、該引き上げ中に、外坩堝(1)を回転させたときには該外坩堝の回転数に同期した回転数で内坩堝(2)を回転させるが、外坩堝(1)と内坩堝(2)の垂直方向の相対的な位置変化は妨げない回転伝達機構、及び該回転中に、内坩堝(2)の中心軸を結晶引き上げ軸(13)と同じ軸上に保持する水平位置保持機構を備える。
内坩堝(2)の回転を外坩堝(1)の回転に同期するような機構とすることにより、該内坩堝の回転制御が極めて容易となる。また、結晶引き上げ中に外坩堝を上昇させる必要性から、外坩堝(1)と内坩堝(2)の垂直方向の相対的な位置変化は妨げないようにしなければならない。
さらに、良質な結晶を安定的に製造するためには、内坩堝の中心軸と結晶引き上げ軸が同じ軸上に存在する必要がある。本発明の引き上げ装置は、結晶引き上げ中には、内坩堝が固定されるものではないため、該回転中に軸位置がずれないようにするための水平位置保持機構を備える。なおここで、内坩堝(2)の中心軸を結晶引き上げ軸(13)と同じ軸上に保持するとは、結晶引き上げ軸からの内坩堝中心軸のずれ距離(Xmm)が、結晶引き上げを行っている時の内坩堝(2)内の原料溶融液面の直径(Ymm)に対して、5%以下の距離であることをいう(Y×0.05≧X)。ずれ距離は、好ましくは3%以下、特に2%以下である。さらに当該ずれ距離は5mm以下とすることが好ましく、3mm以下とすることがより好ましく、2mm以下とすることが特に好ましい。
水平位置保持機構及び/又は回転伝達機構の構成は、上記機能を満足するものであれば特に限定されるものではないが、好ましくは、内坩堝(2)の外壁から、外坩堝(1)の内壁近傍まで延びる突出部、及び/又は外坩堝(1)の内壁から、内坩堝(2)の外壁近傍まで延びる突出部により形成されていることが好ましい。当該突出部の外端縁と、その外端縁に対向する内坩堝又は外坩堝の壁面とに、或いは双方から伸びる突出部の両外縁部に、溝部及び突起部を設けて、これらが互いに噛み合うようにすることにより外坩堝の回転を内坩堝に伝達することができる。さらに、当該突出部の存在により中心軸のずれを抑えることができ、回転伝達機構兼水平位置保持機構とすることができる。
上記のような回転伝達機構兼水平位置保持機構のさらに具体的な実施態様を以下、図面を参照して説明する。
図3は、図2に示した二重構造坩堝を上方向から見た模式図、図4は部分斜視図である。この二重構造坩堝における回転伝達機構は、内坩堝(2)内壁に固定されている、溝部(19)を有する突出部(20)と、外坩堝(1)の内壁に設けられた突起部(21)により構成されている。
即ち、内坩堝(2)には、その外壁に円環板状の突出部(20)が設けられており、該突出部(20)は、その外端縁が、外坩堝(1)の内壁とわずかに隙間を有する位置まで伸びる円環板状の部材である。さらに該外端縁には、図3及び4に示すように溝部(19)が設けられている。一方、外坩堝(1)の内壁には、当該溝部と勘合する突起部(21)が設けられている。このように嵌合させてあるため、外坩堝支持軸(4)により外坩堝(1)を回転させれば、当該回転に同期して、突出部(20)を介して内坩堝(2)が回転する。
一方、突出部(20)の有する溝部(19)は、該突出部の上端から下端まで垂直(上下)方向に貫通して設けられている。また、外坩堝(1)の内壁に設けられた突起部(21)も垂直(上下)方向に伸びた棒状(又は板状)の形状をしている。従って、図2aの状態から図2bの状態、さらにそれ以上に外坩堝を上昇させていっても、溝部(19)内を突起部(21)が自由に滑動してゆくため、外坩堝(1)を上昇させることに伴う該外坩堝(1)と内坩堝(2)の垂直方向の相対的な位置変化が妨げられることはない。突起部(21)の上下方向の長さを適切に設定すれば、溝部(19)と突起部(21)とが勘合した状態を単結晶体の引き上げ終了まで維持でき、該終了時まで常に内坩堝(2)を外坩堝(1)の回転に同期して回転させることができる。
上記外坩堝(1)内壁の突起部(21)は、該外坩堝と一体化して形成された部材でも良いし、取り外し可能な部材でもよい。取り外し可能な部材とするときは、外坩堝(1)の上端部において該外坩堝に固定することが好ましい。同様に、内坩堝(2)の外壁の円環板状の突出部(20)も、該内坩堝から取り外し可能な部材とすることが好ましい。
図2乃至図4に記載の構成の二重構造坩堝において、上記回転伝達機構の一部を構成する円環板状の突出部(20)は、水平位置保持機構でもある。即ち、前述したように、当該浮き部材の外端縁は外坩堝(1)の内壁とわずかに隙間を有する位置まで伸びている。従って、内坩堝(2)の中心軸位置は、当該隙間間隔以上に結晶引き上げ軸の位置からずれることはない。当該隙間間隔は、狭いほうが内坩堝の中心軸と結晶引き上げ軸のずれ小さくできるため好ましいが、狭すぎると、外坩堝(1)と内坩堝(2)の相対的垂直方向の円滑な位置変化を妨げる可能性がある。従って、当該隙間間隔は0.05mm以上、さらには0.1mm以上、特に0.5mm以上であることが好ましい。なお当該隙間間隔を結晶引き上げ終了まで維持できるよう、外坩堝(1)の内壁上部は鉛直となるように形成されている。
また前記突起部(21)の内側面と、溝部(19)の溝底面との隙間間隔を調整することによっても、内坩堝(2)の中心軸位置のずれを制御することができる。溝部(19)及び突起部の(21)の数や接触面の面積にもよるが、当該突起部(21)の内側面と、溝部(19)の溝底面との隙間間隔を、前記円環板状の突出部(20)の外端縁と外坩堝(1)の内壁との隙間間隔より狭くして、中心軸のずれ距離を制御することが好ましい。内坩堝側部材である円環板状の突出部(20)と外坩堝側の部材(外坩堝の内壁又は突起部)が接触する部分は、使用に伴い徐々に磨耗し機能が低下するが、接触する部材を外坩堝側では突起部(21)とし、さらに、該突起部(21)及び円環板状の突出部(20)を前述したように外坩堝本体から取り外し可能な部材として構成しておけば、該部材を交換するだけで機能の回復が行える。
また、突起部は必ずしも図示したような棒状(板状)の部材である必要はなく、例えば、垂直方向に断続的に並んだ複数の突起から構成されていてもよい。この場合、突起と突起の間隔は溝部(19)の長さ(浮き部材外縁部の厚さに相当)よりも短ければよい。突起部を取り外し可能な部材で構成しやすく、さらに、その着脱も簡単になる点からは、図2に示すような棒状(板状)とすることが好ましい。溝部(19)の断面形状も図3に示したような四角形には限定されず、三角形や五角形等の他の角形状であったり、半円状であったり、如何なる形状でもよい。
溝部(19)及び突起部(21)の数も、図3に示したような4箇所に限定されるものでもなく適宜設定すればよい。通常は2〜8箇所程度である。
図2乃至図4に示した態様において、内坩堝の外壁の円環板状の突出部(20)は、内坩堝(1)の浮力を調整する浮き部材でもある。即ち、当該突出部(20)は、内坩堝(2)の浮力を調整して、該内坩堝(2)が所望の深さで原料溶融液に浮遊するように調整する作用も有する。さらに、内坩堝(2)外壁におけるその固定位置を、その上端面が原料溶融液面より上となる位置、即ち、その下部は液面下に沈んでおり、上部は液面上に露出するように設ければ、原料溶融液面の乱れや、内坩堝の傾き等を低減でき、さらに落下してきた不純物が原料溶融液中に混入することも防止できる。
上述した図2乃至図4に示した態様では、円環板状の突出部(20)側に溝部(19)を設け、外坩堝(1)側に突起部(21)を設けたが、図5に示すように、円環板状の突出部(20)側に突起部(21)を設け、外坩堝(1)側に溝部(19)を設けてもよい。
図2乃至図5に示した如き構造とすることにより、円環板状の突出部(20)が回転伝達機構及び水平位置保持機構の双方を構成することになり、各々、別途の部材を用いて構成するよりも遥かに装置構造を単純にできる。さらに当該円環板状の突出部(20)は、その外端縁が外坩堝(1)の内壁面に近接しているため、内坩堝(2)の傾きを防止する作用も有する。
本発明においては、当該内坩堝の外壁の円環板状の突出部(20)に代えて、外坩堝(1)の外壁側に突出部を設けてもよい。例えば、図6に示す態様では、内坩堝(1)の外壁には円環板状の突出部が設けられておらず、当該外壁には棒状(板状)の突起部(21)が設けられている。一方、外坩堝(1)からは内周方向に向かって突出する板状部材が設けられており、該板状部材の内縁部に、上記内坩堝の有する突起部(21)と嵌合する溝部(19)が設けられている。
また回転伝達機構と水平位置保持機構とが異なる態様としては、図7に示すように、外坩堝(1)の底壁内面と、内坩堝(2)の底壁外面とから板状の部材(22)を互いに向かって突出させて、内坩堝の浮遊位置において互い違いになるように噛み合わせて外坩堝の回転を伝達する方法などが挙げられる。図示した態様においては、水平方向支持機構は、溝部を有さない円環板状の突出部(20)が、前述の図2で示した態様と同様の方法で担っている。
さらにまた、前述の垂直方向支持機構に水平方向保持機構を兼用させることも可能である。例えば、図2に示した垂直方向支持機構の態様において、鉤部(16)の先端と内坩堝(2)の外壁との間隔を調整すること等により可能である。原料溶融液が潤滑剤として作用し、部材同士の接触による磨耗を低減でき、かつ接触する部材の数も少なくできる点で、回転伝達機構と水平位置保持機構とが兼用であることが好ましい。
前述の如く、内坩堝(及びそれに付随する部材)の比重を原料溶融液の比重よりも軽くしておけば、それのみで内坩堝は浮遊するが、浮遊状態を安定させたり、浮遊位置を所望の垂直方向位置としたりするために、内坩堝に対し前述したような浮き部材を設けてもよいし、あるいは逆に錘を設けたりしてもよいし、浮き部材と錘の双方を設けてもよい。前述のように、水平位置保持機構を構成する一部材として内坩堝の外壁に設けた円環板状の突出部(20)に、浮き部材としての作用を持たせることは特に好ましい。
浮き部材を設けて内坩堝の浮力を調整する場合、当該浮き部材の形状も特に限定されるものではない。図1乃至図5及び図7に記載した態様では、その厚みが一定の円環板状のものを採用しているが、必要に応じて、上面及び/又は下面が凹凸形状等を有していてもよいし、傾斜面であってもよい。例えば、図8aに示したように、浮き部材(兼回転伝達機構兼水平位置保持機構)の上面に、浮遊させた際にその底面が原料溶融液面位置よりも下になる凹形状を設けることにより、浮力を向上させることができる。また、図8bに示したように、坩堝近傍から外端部へ向かって上向きに薄くしてゆくことにより、相対的に重心を低くでき、坩堝の浮遊がより安定する。
また円環板状の突出部(20)が内坩堝の外壁に設けられたものであり、かつ、その外端縁が、外坩堝の内壁とわずかに隙間を有する位置まで延びている態様である場合には、当該円環板状の突出部(20)を設けることには、さらに以下の如き利点もある。即ち、本発明の引き上げ装置を用いてフッ化金属単結晶を製造する場合、固体スカベンジャーを坩堝内に同時に投入して加熱し原料の高純度化を図る際に、該スカベンジャーの効果をより高くし、真空紫外透過率などの特性に優れた単結晶体することが可能である。
より具体的には、図9aに示すように、外坩堝(1)内に固体状のフッ化金属原料(22)と固体スカベンジャーとを収容して加熱すると、固体スカベンジャーが揮発して生じたスカベンジャーガスは貫通孔(3)、及び円環板状の突出部(20)の外縁端と外坩堝(1)の内壁との間の僅かの空隙から揮発・消散するのみである(点線矢印がスカベンジャーガスの流れを模式的に示す)。従って、スカベンジャーガスの消散は大幅に抑制され、スカベンジャーが長時間該空間内に滞留することになる。一方、図9bに示すように、円環板状の突出部(20)が開口部を閉塞していないと、スカベンジャーが速やかに揮発・消散してしまい、その効果が限定的なものとなってしまう。
このような効果により、少量の固体スカベンジャーでも多量の不純物を除去でき、よって、固体スカベンジャーが含有する不純物の影響を小さなものとできる。さらにスカベンジャーガスの消散が抑制されるため、反応効率の高い高温条件下でも、スカベンジャーガスと原料の含有する不純物の接触状態を維持でき、高効率で不純物除去が可能となる。
本発明の単結晶引き上げ装置において、垂直位置支持機構、回転伝達機構及び水平位置保持機構は、上述の各々の具体的な実施態様に限定されず、各実施態様の折衷型の態様であってもよいし、また別の態様でこれら機構を構成してもよい。