JP4950397B2 - インプリントポリマーの製造方法、物質の分離方法および物質の無毒化方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、インプリントポリマーの製造方法、物質の分離方法および物質の無毒化方法に関し、さらに詳しくは環境中に放出された微量の環境ホルモンや有毒農薬などを除去または無毒化することができるインプリントポリマーの提供を目的とする。
【0002】
【従来の技術】
過去多年にわたって、有害な化学物質、例えば、環境ホルモン(外因性内分泌攪乱化学物質)と疑われているノニルフェノール、ビスフェノール、これらの誘導体や類似構造化合物、多くの種類の農薬などが大気、土壌、湖沼、河川水、地下水などの環境中に放出され、これらの物質の除去が大きな社会問題となっている。
【0003】
上記の化学物質の人体および生態系への影響は、現段階では不明な点も多いが、食物連鎖による慢性毒性が懸念され、これらの物質の除去方法が求められている。除去方法としては、現在、下水処理や産業排水処理の過程で多用されている活性炭による吸着除去法などがある。
【0004】
しかしながら、活性炭は入手が容易であるが、活性炭は目的とする上記有害物質だけを吸着するわけではないために、有害物質の除去効率は非常に低く、また、繰り返し使用のための活性炭の再生は可能であるが、活性炭は水処理では比較的高分子量で多成分の有機物を吸着してしまうため、活性炭からの吸着物質の脱着が難しく、その再生コストは高くなる。そのため、一度吸着処理に使用された活性炭は廃棄処分されることが多いが、大量の活性炭の処理は費用がかさむ他、昨今の産業廃棄物の事情からしても好ましくない。従って、有害な化学物質を効率的に除去するために、目的とする有害物質を選択的に吸着し、しかも再生して繰り返し使用が可能な吸着剤の開発が望まれる。
【0005】
一方、前述の有害物質は、環境中に極低濃度しか存在しない場合が多く、その分析、濃縮および除去のためには前処理が必要となる。前処理法として多用される固相抽出法には選択性がなく、除去目的物質を濃縮および除去するのに適した最適条件の検討に時間を要するという欠点があった。この前処理の際にも、除去目的物質に特異性があれば、条件検討に費やす時間と実際の前処理にかかる時間が短縮され、より容易に前処理が可能となり、分析、濃縮および除去の効率化が図れる。そのために、除去目的物質と特異的に結合するポリマーを人工的に合成する鋳型重合法(モレキュラーインプリンティング法)の研究が広く行われている。
【0006】
鋳型重合法によれば、濃縮および除去を目的とする物質と特異的に結合するポリマーを自由に合成可能であり、人工抗体、触媒、吸着剤、酵素合成などに応用されている。このポリマーの持つ除去目的物質への特異的吸着能を利用すれば、製品中からの不純物の除去、環境試料中からの有害物質の除去、分析の前処理としての濃縮・分離などに応用可能である。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、従来の鋳型重合法で得られるインプリントポリマーには欠点もあり、例えば、鋳型分子の識別に鋳型分子との共有結合的または非共有結合的相互作用を利用するため、官能基がない化合物や複数の官能基が存在しても、その立体配置が近すぎる場合には、鋳型分子(除去目的物質)に対する特異性を付与することが難しい。特に低分子の除去目的物質に対するインプリントポリマーは、除去目的物質に対する高い選択性を得ることが一般的に困難であった。
【0008】
従って、本発明の目的は、除去目的物質に対する選択的吸着特性に優れ、また、除去目的物質を容易に無害化し得るインプリントポリマー、物質の分離方法および有害物質の無害化方法を提供することである。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記目的は以下の本発明によって達成される。すなわち、本発明は、第一の発明として、一般式1(X−S−S−Y)(Xは芳香族環またはトリアジン環を表わし、Yはビニル基を有する基を表わす)で表わされるモノマーと、少なくとも2個のビニル基を有する多官能モノマーとを共重合させた後還元して、共重合体から一般式2(X−SH)(Xは前記と同意義である)で表わされる化合物を分離することを特徴とするインプリントポリマーの製造方法、および一般式2(X−SH)(Xは前記と同意義である)で表わされる化合物または類似構造化合物を含む液体と、上記のインプリントポリマーとを接触させて、一般式2で表わされる化合物または類似構造化合物をインプリントポリマーに吸着させることを特徴とする物質の分離方法を提供する。
【0010】
また、本発明は、第二の発明として、上記インプリントポリマー中のメルカプト基をスルホン酸基に置換するインプリントポリマーの製造方法、および少なくとも1個のハロゲン原子を有するトリアジン系化合物を含む液体に、上記のスルホン酸基を有する一般式1中のXがトリアジン環であるモノマーの共重合体から得られたインプリントポリマーを接触させ、上記トリアジン系化合物のハロゲン原子を水酸基またはアルコキシ基に置換することを特徴とするハロゲン化トリアジン系化合物の無毒化方法を提供する。
【0011】
【発明の実施の形態】
次に好ましい実施の形態を挙げて本発明をさらに詳しく説明する。本発明の第一発明のインプリントポリマーは、一般式1(X−S−S−Y)(Xは芳香族環またはトリアジン環を表わし、Yはビニル基を有する基を表わす)で表わされるモノマーと、ビニル化合物とを共重合させた後還元して、共重合体から一般式2(X−SH)(Xは前記と同意義である)で表わされる化合物を分離することによって得られる。該第一のインプリントポリマーの製造方法を、Xをフェニル基とし、Yをアリル基とし、ビニル化合物をジアリルベンゼンとすると以下のように図示することができる。
【0012】
【0013】
上記図においてインプリントポリマーを、フェノールまたはその類似構造化合物を含む液体と接触させると、これらの化合物はチオフェノールが脱離した空間Aに選択的に吸着保持され、該化合物を濃縮および分離することができる。このような原理によって前記一般式1において、Xが、例えば、ノニルフェニル基である場合は、ノニルフェノールなどが選択的に吸着、濃縮および分離される。さらにXが、ビスフェノール類から水酸基を少なくとも1個除いた基である場合には、ビスフェノール類が選択的に吸着、濃縮および分離される。
【0014】
従って、本発明においては、前記一般式1におけるXは、環境ホルモンや農薬などの如く環境中に希薄に且つ広く分布した化合物の残基、例えば、置換基を有してもよいフェニル基、置換基を有してもよいビスフェニル基、置換基を有してもよいビスフェノ−ル類から少なくとも1個の水酸基を除いた基、置換基を有してもよいナフチル基、置換基を有してもよいアントラセン基または置換基を有してもよいトリアジン基であることが好ましい。
【0015】
本発明の第二の発明のインプリントポリマーは、前記第一発明のインプリントポリマー中のメルカプト基を適当な触媒下に適当な酸化剤によって酸化することによって得られる。該インプリントポリマーは下記の如く模式的に示される。
上記スルホン酸基を有するインプリントポリマーは、前記一般式1におけるXが置換基を有するトリアジン基である場合、ハロゲン原子、特に塩素原子を有するトリアジン系農薬の吸着分離および無害化触媒として有用である。
【0016】
上記スルホン酸基を有するインプリントポリマーの合成と触媒作用を図示すると下記の如く表わされる。但し、モノマーとしてはメタクリル酸とジアリルベンゼンとを使用し、前記一般式1におけるXとして3,5−置換ジアミノ−1−トリアジニル基を用いた場合を示す。
【0017】
【0018】
前記第一のインプリントポリマーと同様にして得られたスルホン酸基を有するインプリントポリマーBは、Cに示すようにトリアジン系化合物を選択的に吸着するとともに、トリアジン系化合物中のハロゲン原子を水酸基(水系において)またはアルコキシ基(アルコール系において)に置換し、トリアジン系化合物を無害化することができる。
【0019】
上記方法において、一般式1(X−S−S−Y)の化合物において、基Xは前記の通りであり、濃縮除去を目的とする有害化合物から官能基、例えば、水酸基、ハロゲン原子、チオール基、カルボニル基、カルボキシル基、アミノ基、ニトロ基、シアノ基などの官能基を除いた基を表わしている。本発明では、先ずこれらの官能基をチオール基(官能基がチオール基である場合を除く)に置換する。
【0020】
上記官能基が水酸基である場合には、五硫化二リンを作用させることによって、水酸基をチオール基に置換でき、官能基がスルホクロリド基、ジスルファイド基、スルホアミド基である場合には還元によってチオール基に置換でき、官能基がアミノ基である場合にはジアゾニウム塩にキサントゲン酸塩を加えて反応させることによってチオール基に置換でき、その他の基である場合にもそれぞれ公知の方法でチオ−ル基に置換できる。
【0021】
次いでX−SHで表わされる化合物と、例えば、N−ブロムスクシンインミドとを適当な触媒下に反応させ、この反応生成物に、メルカプト基とビニル基とを有する化合物を反応させて、一般式1(X−S−S−Y)の化合物を合成する。X−SHをチオフェノール、メルカプト基とビニル基とを有する化合物をアリルメルカプタンとした場合、合成反応は以下の反応式で表わされる。勿論、以下の反応式は説明のためであって、本発明を限定するものではない。
【0022】
【0023】
前記一般式1におけるY−SHとしては、上記例示のアリルメルカプタンが好ましいが、その他にも、2−メルカプトエチル(メタ)アクリレート、2−メルカプトプロピル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。さらに、ビニル基に加えて他の官能基を有する化合物の該他の官能基をメルカプト基に置換したものも使用できる。
【0024】
前記一般式1で表わされる鋳型分子モノマーと反応させるビニルモノマーは、少なくとも2個のビニル基を有する多官能モノマーを含むことが好ましい。多官能モノマーとしては、従来公知の何れの多官能モノマーも使用できるが、反応性、取扱い容易性およびコストなどを考慮すると、ジビニルベンゼンまたはその誘導体、多価アルコールのポリ(メタ)アクリル酸エステルが挙げられる。多価アルコールとしては、エチレングリコール、プロピレンフリコール、テトラメチレングリコール、グリセリンなどが挙げられる。これらの多官能モノマーは単独で使用してもよいし、他の単官能モノマー、例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸アミド、酢酸ビニル、塩化ビニル、スチレン、その他の汎用の単官能モノマーも使用できる。
【0025】
上記の共重合に際しては前記一般式1で表わされる鋳型分子モノマーと多官能モノマー単独または多官能モノマーと単官能モノマーとの混合物とを混合し、必要であれば、適当な有機溶剤中で、アゾビスイソブチロニトリルなどの慣用の重合開始剤を用いて加熱重合または光重合によって共重合体を得る。この際、前記一般式1で表わされる鋳型分子モノマー(A)と上記モノマー(B)との混合比は、A:B=0.5〜20:1〜10の重量比で行なうことが好ましい。モノマーAの量が少なすぎると、最終的に得られるインプリントポリマーの鋳型分子または構造類似体に対する選択的吸着性が劣り、一方、モノマーAの量が多すぎると共重合自体が円滑に進行せず、最終的に得られるインプリントポリマーの物理的強度、鋳型分子または構造類似体に対する選択的吸着性が不均一になる。
【0026】
上記のようにして得られた第一のインプリントポリマーは、フェノールまたはその誘導体、ビスフェノール類、ベンジジンまたはその誘導体、ナフチルアミンまたはその誘導体などの如き、環境ホルモン類や発ガン性物質などの分離除去に有効である。また、第二のインプリントポリマーは、アトラジン、シマジン、プロパジン、ノラジン、トリエタジン、イパジン、クロラジン、セブチラジン、テルブチラジン、シアナジン、メソプラジンなどの如きトリアジン系農薬の吸着分離および無害化触媒として有効である。以上のような有害物質の吸着および無害化は、有害物質が極めて希薄な濃度であっても選択的且つ有効に行なうことができる。
また、本発明のインプリントポリマーは、HPLCカラムに充填して、鋳型分子若しくはその類似構造化合物の分析に使用でき、また、分析前処理における目的物質の選択的濃縮にも有用であり、さらにはセンサーとして目的物質の簡易検出にも使用できる。
【0027】
【実施例】
次に実施例および比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。
<実施例1>
[フェノールを特異的に認識するインプリントポリマー製造方法]
N−(フェニルチオ)スクシンイミド(2.0mM)およびアリルメルカプタン(2.0mM)をベンゼン(10mL)中に溶解し、60℃で一晩還流する。フィルター濾過後、濾液をシリカゲルクロマトグラフィー(ワコーゲルC−200、ベンゼン/ヘキサン=2/1)で精製し、無色油状のモノマーを得た。このモノマーを鋳型モノマーとした。
【0028】
上記の鋳型モノマー(5.20mM)と架橋剤としてのジビニルベンゼン(95mM)、および重合開始剤としてのアゾビスイソブチロニトリル(2.2mM)をクロロホルム(10mL)に溶解し、気相を窒素に置換した後、5℃で24時間紫外線照射を行った。その後80℃で3時間加熱し、ポリマーを得た。該ポリマーを適当な大きさに粉砕し、篩いで26〜32μmに粒径を揃えた。
【0029】
<比較例1>
[比較ポリマー1の製造方法]
鋳型モノマーを添加せずに実施例1と同様にポリマーを作成し、比較ポリマー1を得た。
[ポリマーの評価]
得られたインプリントポリマー約2gをメタノール(50mL)に懸濁し、水素化ホウ素ナトリウムを適量添加して12時間還元した。この作業を2回繰り返した後、ポリマーをステンレスカラム(内径4.6mm×長さ150mm)にスラリー充填した。比較ポリマー1についても同様にステンレスカラムに充填し、ともに高速液体クロマトグラフィーにより、フェノール、アニリン、チオフェノールおよびピリジンに対する保持性能を調べた。ヘキサンを溶離液として用い、流速毎分1.0mL、UV検出器を用いて検出波長263nmの条件下で、濃度10mMの試料を各20μL注入して各試料の保持時間を計測した。トルエンをボイドマーカーとして保持容量k’を求めた。
【0030】
なお、保持容量k’は注入した試料の保持時間をTR、トルエンの保持時間をT0で表すと、次式により求められる。計算結果を表1に示した。
k’=(TR−T0)/T0
【0031】
表1から、本発明のインプリントポリマーは、チオフェノールの共有結合的ポリマーであるにも関わらず、チオフェノールは殆ど保持しないのに対し、フェノールを強く保持した。ポリマー中のチオール基の結合部位にあるメチルメルカプタンと試料との間の水素結合能力を計算したところ、チオフェノールよりフェノールの方が高いという結果が得られており、予想通りインプリントポリマーに対して強いフェノール選択性を付与することができた。一方、チオール基を持たない比較ポリマー1はフェノールをわずかに保持するにとどまった。
【0032】
<実施例2>
[ノニルフェノールを特異的に認識するインプリントポリマーの製造]
実施例1におけるN−(フェニルチオ)スクシンイミドに代えて、等モルのN−(ノニルフェニルチオ)スクシンイミドを使用し、他は実施例1と同様にしてインプリントポリマーを得た。
[インプリントポリマーのノニルフェノールに対する吸着性能の評価]
試料として、ノニルフェノールを各10mM含有する溶液(クロロホルム)を作成し、インプリントポリマーおよび比較ポリマー1の20mgをそれぞれ試料溶液10mL中に添加し、室温で24時間攪拌した。反応後上澄液1mLを採取し、空のバイアル瓶中で乾固させた後、1mLのアセトニトリル:水=7:3(V/V)溶液に溶解させ、高速液体クロマトグラフィーによりノニルフェノール濃度を測定した。なお、高速液体クロマトグラフィー分析にはカラム(Shodex RSPak DE−413)、溶離液としてアセトニトリル:水=7:3(V/V)を用い、流速毎分1.0mL、カラム温度40℃にてUV検出器を用いて検出波長220nmの条件下で試料量20μLで測定を行った。ノニルフェノールの初期濃度に対する吸着後のノニルフェノールの濃度から、吸着率を求め表2に示した。
【0033】
表2の結果から、本発明のインプリントポリマーはノニルフェノールを強く吸着し、ノニルフェノールの吸着剤としての有用性が認められた。一方、比較ポリマー1ではノニルフェノールを少量吸着しているが、非特異的な吸着によるものと考えられ、従ってノニルフェノールを強く吸着したのは本発明のインプリントポリマーの効果であることが証明された。
【0034】
<実施例3>
実施例2でノニルフェノールを吸着させた本発明のインプリントポリマーをメタノール10mL中に懸濁させ、室温で24時間撹拌した。撹拌後静置して上澄液1mLを採取し、空のバイアル瓶中で乾固させた後、1mLのアセトニトリル:水=7:3(V/V)溶液に溶解させ、高速液体クロマトグラフィーによりノニルフェノール濃度を測定した。なお、高速液体クロマトグラフィー分析にはカラム(Shodex RSPak DE−413)、溶離液としてアセトニトリル:水=7:3(V/V)を用い、流速毎分1.0mL、カラム温度40℃にてUV検出器を用いて検出波長220nmの条件下で試料量20μLで測定を行った。この測定からノニルフェノールの回収率を算出し、その結果を表3に示した。
【0035】
表3の結果から、本発明のインプリントポリマーに吸着されたノニルフェノールを98%回収することができた。この結果から、本発明のインプリントポリマーは試料中の目的物質の濃縮に有用であることが分かる。また、ノニルフェノールを回収した後のインプリントポリマーを再利用することが可能であり、従来の吸着剤よりも再生が容易である。
【0036】
<実施例4>
[ビスフェノールAに対して特異的に認識するインプリントポリマーの製造]
実施例1におけるN−(フェニルチオ)スクシンイミドに代えて、1.0mMの下記式の化合物を使用し、他は実施例1と同様にしてインプリントポリマーを得た。
【0037】
[インプリントポリマーのビスフェノールAに対する吸着性能の評価]
試料として、ビスフェノールAを各1mM含有する溶液(クロロホルム)を作成し、インプリントポリマーおよび比較ポリマー1の20mgをそれぞれ試料溶液10mL中に添加し、室温で24時間攪拌した。反応後上澄液1mLを採取し、空のバイアル瓶中で乾固させた後、1mLのアセトニトリル:水=5:5(V/V)溶液に溶解させ、高速液体クロマトグラフィーによりビスフェノールAの濃度を測定した。なお、高速液体クロマトグラフィー分析にはカラム(Shodex RSPak DE−413)、溶離液としてアセトニトリル:水=5:5(V/V)を用い、流速毎分1.0mL、カラム温度40℃にてUV検出器を用いて検出波長217nmの条件下で試料量20μLで測定を行った。この測定からビスフェノールAの初期濃度に対する吸着後のビスフェノールAの濃度から、吸着率を求め表4に示した。
【0038】
<実施例5>
[アトラジンに対して選択的に分解触媒能を有するインプリントポリマーの製造]
実施例1におけるN−(フェニルチオ)スクシンイミドに代えて、等モルのN−(3−イソプロピルアミノ−5−エチルアミノ−1−チオトリアジン)スクシンイミド(下記式)を使用し、モノマーとしてメタクリル酸45mMおよびジビニルベンゼン50mMを使用し、他は実施例1と同様にして重合を行なった。
【0039】
得られたポリマー約2gをメタノール(100mL)に懸濁し、水素化ホウ素ナトリウムを適量添加して12時間還元した。この作業を2回繰り返した。さらにポリマーを酢酸(100mL)に懸濁し、過酸化水素(30%、100mL)を添加して12時間酸化した。この作業を2回繰り返した。得られたポリマーをステンレスカラム(内径4.6mm×長さ150mm)にスラリー充填した。下記比較ポリマー2についても同様にステンレスカラムに充填し、ともに高速液体クロマトグラフィーによりアトラジンに対する保持性能を調べた。アセトニトリルを溶離液として用い、流速毎分1.5mL、UV検出器を用いて検出波長274nmの条件下で、濃度10mMの試料を各20μL注入して各試料の保持時間を計測した。アセトンをボイドマーカーとして、保持容量k’を実施例1の方法に従って求めた。
【0040】
<比較例2>
[比較ポリマー2の製造方法]
既知の方法(Takeuchi,Tら:Chem.Lett.,6,530-531(2001))に従い、比較ポリマー2を合成した。実施例4のインプリントポリマーと同様に適当な大きさに粉砕し、篩いで26〜32μmに粒径を揃えた。
表5から、本発明のインプリントポリマーの保持容量は比較ポリマー2よりも高く、チオール基の還元に続くスルホン酸基の酸化によって得られるインプリントポリマーが、従来法により得られるインプリントポリマーよりも優れていることを示した。
【0041】
<実施例6>
[実施例5のインプリントポリマーのアトラジンに対する分解触媒能の評価]
篩いで粒径を26〜32μmを揃えた実施例5のインプリントポリマーおよび比較ポリマー2をそれぞれ20mg、500μMアトラジン溶液(メタノール:クロロホルム=9:1(V/V))10mL中に添加し、室温で24時間攪拌した。撹拌後上澄液1mLを採取し、空のバイアル瓶中で乾固させた後、1mLのアセトニトリル:酢酸バッファ(0.1M、pH6.0)=4:6(V/V)溶液に溶解させ、高速液体クロマトグラフィーによりアトラジン濃度を測定した。なお、高速液体クロマトグラフィー分析にはカラム(SUPELCO LC−8DB)、溶離液としてアセトニトリル:酢酸バッファ(0.1M、pH6.0)=4:6(V/V)を用い、流速毎分1.5mL、UV検出器を用いて検出波長274nmの条件下で試料量20μLで測定を行った。ポリマーの分解触媒能の評価は、残存するアトラジン量と分解生成物であるアトラトンの量の比較により行い、結果を表6に示した。
【0042】
比較例3は、鋳型モノマーを使用せずに、実施例5と同様に重合したポリマーである。
【0043】
表6から、本発明のインプリントポリマーおよび比較ポリマー2はアトラジンを分解し、アトラトンを生成したが、比較ポリマー3では全くアトラトンは生成しなかった。また、アトラジンの分解率は、比較ポリマー2より本発明のインプリントポリマーの方が高く、分解能の向上が確認された。
【0044】
【発明の効果】
以上の如き本発明によれば、除去目的物質に対する選択的吸着特性に優れ、また、除去目的物質を容易に無害化し得るインプリントポリマー、物質の分離方法および有害物質の無害化方法を提供することができる。
Claims (7)
- 一般式1(X−S−S−Y)(Xは芳香族環またはトリアジン環を表わし、Yはビニル基を有する基を表わす)で表わされるモノマーと、少なくとも2個のビニル基を有する多官能モノマーとを共重合させた後還元して、共重合体から一般式2(X−SH)(Xは前記と同意義である)で表わされる化合物を分離することを特徴とするインプリントポリマーの製造方法。
- Xが、置換基を有してもよいフェニル基、置換基を有してもよいビスフェニル基、置換基を有してもよいビスフェノール類から少なくとも1個の水酸基を除いた基、置換基を有してもよいナフチル基、置換基を有してもよいアントラセン基または置換基を有してもよいトリアジン基である請求項1に記載のインプリントポリマーの製造方法。
- Yが、アリル基である請求項1に記載のインプリントポリマーの製造方法。
- 請求項1に記載のインプリントポリマーを酸化処理して、共重合体中のメルカプト基をスルホン酸基に酸化する請求項1に記載のインプリントポリマーの製造方法。
- 一般式2(X−SH)(Xは前記と同意義である)で表わされる化合物または類似構造化合物を含む液体と、請求項1に記載のインプリントポリマーとを接触させて、一般式2で表わされる化合物または類似構造化合物をインプリントポリマーに吸着させることを特徴とする物質の分離方法。
- 少なくとも1個のハロゲン原子を有するトリアジン系化合物を含む液体に、請求項4に記載のスルホン酸基を有する一般式1中のXがトリアジン環であるモノマーの共重合体から得られたインプリントポリマーを接触させ、上記トリアジン系化合物のハロゲン原子を水酸基またはアルコキシ基に置換することを特徴とするハロゲン化トリアジン系化合物の無毒化方法。
- トリアジン系化合物が、アトラジン、シマジン、プロパジン、ノラジン、トリエタジン、イパジン、クロラジン、セブチラジン、テルブチラジン、シアナジン、メソプラジンなどの農薬である請求項6に記載のハロゲン化トリアジン系化合物の無毒化方法。
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