以下、図を参照して、この発明の実施の形態につき説明する。なお、各図は、この発明に係る一構成例を図示するものであり、この発明が理解できる程度に各構成要素の配置関係などを概略的に示しているに過ぎず、この発明を図示例に限定するものではない。また、以下の説明において、特定の素子および動作条件などを取り上げることがあるが、これら素子および動作条件は好適例の一つに過ぎず、したがって、何らこれらに限定されない。また、各図において同様の構成要素については、同一の番号を付して示し、その重複する説明を省略することもある。
<第1の実施形態の光クロック信号再生装置>
<第1の実施形態の光クロック信号再生装置の基本形態>
第1の実施形態の光クロック信号再生装置には、第1から第3発明の光クロック信号再生装置が含まれる。まず、図1を参照して、第1の実施形態の光クロック信号再生装置の基本形態である、第1発明の光クロック信号再生装置の構成及びその動作について説明する。図1は、第1発明の光クロック信号再生装置の概略的ブロック構成図である。
第1の実施形態の光クロック信号再生装置の基本形態は、光入力部20、モード同期半導体レーザ100、及び光出力部22を具えている。以後、集積型モード同期半導体レーザ素子を含め、半導体レーザ素子(Semiconductor laser diode device)を単に半導体レーザ(Semiconductor laser diode)と言うこともある。また、モード同期半導体レーザ(Mode-Locked Laser Diode)をMLLDと略記することもある。
光入力部20は、第1偏波依存型光アイソレータ1及び結合レンズ2を具えており、光出力部22は、第2偏波依存型光アイソレータ4及び結合レンズ3を具えている。第1偏波依存型光アイソレータ1を具えることによって、光入力部20に入力された入力光信号を導波した光伝送路に、MLLD 100から出力される光が入射することを防止できる。第2偏波依存型光アイソレータ4を具えることによって、MLLD 100の発振光の偏波方向と等しい偏波方向の光成分を光出力部22から出力させ、かつMLLD 100に向って、MLLD 100に入力される伝播モードで進行してくる光を遮断することができる。また、第2偏波依存型光アイソレータ4は、MLLD 100から出力される出力光から、入力光信号の偏波と等しい偏波成分の光を除去する役割を果たす。
MLLD 100には、光入力部22側の光共振器端面L1と、光出力部側の光共振器端面R1とによって、光共振器構造が形成されている。
光入力部20に入力される入力光信号S0は、ビットレートがfbit-rate(bit/s)、すなわちビットレート周波数がfbit-rate(Hz)の光信号である。また、入力光信号を構成する光パルスの時間軸上での最小間隔である信号時間間隔(Tbit-rate)はビットレート周波数の逆数で与えられ、すなわち、Tbit-rate(s)=1/fbit-rate(s)である。以後、煩雑さを避けるために、ビットレート及びビットレート周波数の単位を省略して記載する。
光信号S10は、入力光信号S0が、第1偏波依存型光アイソレータ1及び結合レンズ2を介してMLLD 100の光共振器端面L1に到達する直前の光信号である。また、光パルス列C0は、MLLD 100の光共振器端面R1側から出力された直後の光パルス列であって、光信号S10に等しい偏波成分の光信号及びそれと直交した偏波方向の再生光クロック信号を含んでいる。また、光パルス列C10は、光パルス列C0が結合レンズ3及び第2偏波依存型光アイソレータ4を通過して第2偏波依存型光アイソレータ4から出力される過程を経て生成された再生光クロック信号である。そこで、以後、光パルス列C10を再生光クロック信号C10と記載することもある。
MLLD 100は、モード同期動作が発現すると、繰り返し周波数が入力光信号のビットレート周波数に近似した光パルス列を生成して出力する機能を有する受動モード同期半導体レーザである。以後、MLLD 100は受動モード同期半導体レーザであるものとして説明するが、能動モード同期半導体レーザを利用することも可能である。従って、以後、受動モード同期半導体レーザを、単にモード同期半導体レーザあるいは、MLLDと記載するものとする。
ここで、MLLDの繰り返し周波数が、入力光信号のビットレート周波数に近似するとは、入力光信号のビットレート周波数と、MLLDが生成する光パルス列の繰り返し周波数との差が、周波数引き込み現象が発現するために必要な程度に十分に小さいことを言う。
MLLD 100は、少なくとも、レーザ発振を得るための利得領域と、モード同期動作を発現させるための光スイッチとして動作する可飽和吸収領域とを具えている。また、可飽和吸収領域は、一方の光共振器端面L1の側に配置されている。光共振器端面L1の側に配置されるとは、可飽和吸収領域と光共振器端面L1との間に、何らの活性領域が存在しないことを意味する。
利得領域は、無歪あるいは圧縮歪を導入された量子構造の半導体活性層によって形成されている。ここで、量子構造とは、量子井戸、量子細線あるいは量子ドットを有する量子井戸構造、量子細線構造あるいは量子ドット構造の総称である。以後の説明では、この発明に利用される量子構造は、量子ドットを有する量子井戸構造、量子細線構造の何れであるかを区別する必要がある場合を除き、特にこれらを区別することなく、量子構造と記述する。
一方、可飽和吸収領域は、バルク型の半導体活性層もしくは適度な伸張歪を導入された量子構造の半導体活性層によって形成されている。ここで、可飽和吸収領域を形成する半導体活性層を可飽和吸収体ということもある。また、適度な伸張歪とは、可飽和吸収体がMLLD 100のレーザ発振光を受け入れても、及び、光信号S10を受け入れても、ともに吸収飽和による光吸収係数変調効果を生じさせることができる量の伸張歪を意味する。
MLLD 100は、好ましくは、多電極構造を有する半導体レーザとするのが良い。更に、MLLD 100には、実用上の動作安定性を担保し、かつ、より低コストで光クロック信号再生装置を提供する観点から、集積型半導体素子を採用するのが良い。
図2を参照して、MLLD 100として好適な、集積型モード同期半導体レーザ素子の一例を説明する。図2は、この発明の光クロック信号再生装置に用いるMLLD 100として好適な、集積型モード同期半導体レーザの概略的構成図である。
図2に示す集積型モード同期半導体レーザは、2電極型の素子の一例であり、利得領域103と可飽和吸収領域102を具えている。利得領域103はレーザ発振を実現する領域であり、可飽和吸収領域102は光スイッチとして機能する領域である。利得領域103は半導体活性層103aによって形成されており、可飽和吸収領域102は半導体活性層102aによって形成されている。また半導体活性層102a及び103aは、共に、p側クラッド層104とn側クラッド層105に挟まれて形成されている。
利得領域103には、p側電極107とn側共通電極108を介して定電流源110から直流電流が注入され、また、可飽和吸収領域102には、p側電極106とn側共通電極108を介して定電圧源109から直流電圧が印加される。利得領域103に直流電流が注入され、可飽和吸収領域102に直流電圧が印加されることによって、モード同期動作が発現し、集積型モード同期半導体レーザは、この素子の光共振器周回周波数の自然数倍に近似した繰り返し周波数の光パルス列を生成して出力する。
MLLD 100として利用可能な素子は、図2に示す集積型モード同期半導体レーザに限定されることはない。すなわち、利得あるいは可飽和吸収効果が発現しない単なる光導波路層としての機能を持つ半導体層を具える受動導波路領域や、分布ブラッグ反射鏡構造を作り付けた分布ブラッグ反射鏡領域が集積化された構造の、集積型モード同期半導体レーザであっても、MLLD 100として利用可能である。
また、生成される光パルス列の特性を制御する等を目的として、利得領域を複数箇所に分けて配置した構造の集積型モード同期半導体レーザであっても同様に利用可能である。また、利得領域、受動導波路領域、及び分布ブラッグ反射鏡領域の配置関係についても限定されない。例えば、モード同期半導体レーザ内部での光パルスの伝播方向に対して、可飽和吸収領域、利得領域、受動導波路領域の順に配置しても、可飽和吸収領域、受動導波路領域、利得領域の順に配置しても何れでも良い。ただし、可飽和吸収領域は、光共振器端面L1の側に配置する必要がある。ここで、光共振器端面L1の側に配置するとの具体的な意味は、光共振器端面L1が一般的に劈開面にコーティング処理が施されているので、このコーティング膜と劈開面を介して可飽和吸収領域を構成する半導体活性層102aが光共振器端面L1と直に接続するように配置されることを意味する。
半導体活性層102a及び103aを形成するための半導体材料は、再生する光クロック信号の波長、すなわち、モード同期半導体レーザのモード同期動作時の波長に応じて、InP系、GaAS系などから選択される。また、図2に示した集積型モード同期半導体レーザは、基板材料としてn型基板が利用されて形成されているが、p型基板を利用して形成することも可能である。
以下の説明において、外部から供給される入力光信号である光データ信号(以後、混乱が生じない範囲で、単に光信号と記載することもある。)、及び光クロック信号の偏波方向を以下のとおりに定義する。光信号及び光クロック信号の電場ベクトルの振動方向、すなわち偏波方向が、図面を表示する紙面に垂直な方向である場合をTE(Transverse Electric Wave)偏波光とし、紙面に平行な方向である場合をTM(Transverse Magnetic Wave)偏波光とする。また、説明の便宜上MLLD 100の発振光はTE偏波光であるとする。また、TE偏波光の偏波方向をTE偏波方向、TM偏波光の偏波方向をTM偏波方向ということもある。
すなわち、以下の説明においては、上述した第1直線偏波成分とはTM偏波成分を、第2直線偏波成分とはTE偏波成分をそれぞれ意味する。
図3を参照して、MLLD 100の半導体活性層102a及び103aの、光導波方向と垂直な面での断面構造と、TM偏波光である入力光信号、及びTE偏波光である再生光クロック信号の電場ベクトルの振動方向との関係について説明する。図3は、入力光信号及び再生光クロック信号の偏波方向と、半導体活性層との関係の説明に供する図である。図3は、MLLD 100を、光共振器端面L1に向って見るものとして、半導体活性層102aの断面構造を模式的に示してある。半導体活性層102a及び半導体活性層103aは、連続して形成されており、その光導波方向と垂直な面での断面構造は同一である。
一般に、MLLDを含む半導体レーザは、半導体レーザが具える光導波路の層方向(p-n接合面に平行な方向)に偏波方向をもつ光を発振する。以下の説明では、MLLDとしてこのような一般的な半導体レーザを想定して説明する。すなわち、TE偏波方向とは、MLLD の光導波路の層方向に平行な偏波方向である。一方、TM偏波方向とは、MLLD の光導波路の膜厚方向(p-n接合面に垂直な方向)に平行な偏波方向である。
半導体レーザの中には、TM偏波方向の発振光を出力するタイプのものも存在する。この場合でも、以下に述べる光信号S10、S20(図4参照)、及びS30(図5参照)の偏波方向を光導波路の層方向に平行な偏波方向に置き換えて、かつ、偏波依存型光アイソレータなどの透過光の偏波方向を90°回転させて置き換えることで、以下の説明がそのまま成り立つ。
図1に示した、第1偏波依存型光アイソレータ1及び第2偏波依存型光アイソレータ4は、入力光信号のうち、特定の偏波方向の直線偏波光のみを通過させ、更に光が逆行して第1及び第2偏波依存型光アイソレータに入力されても、逆行した光は遮断する、いわゆる偏波依存型の光アイソレータである。すなわち、透過される光の偏波状態に着目すると、第1偏波依存型光アイソレータ1は偏光子としての機能を果たす素子であり、第2偏波依存型光アイソレータ4は検光子としての機能を果たす素子である。このような偏波依存型の光アイソレータは、偏光プリズム、ファラデー回転子、及び偏光板を用いれば作製できることが公知であり(例えば、http://www.fdk.co.jp/laboratory/hikariai.htmlを参照)、一般に市販もされている。例えば、株式会社光学技研等から光アイソレータ等の名称で市販されている。
入力光信号S0は、第1偏波依存型光アイソレータ1に入力されて出力される。この際、第1偏波依存型光アイソレータ1から出力される光信号S10の強度を十分な大きさに確保する、すなわち、第1偏波依存型光アイソレータ1によって遮断される光成分をできる限り小さくするために、場合によっては、入力光信号S0の偏波の状態を、第1偏波依存型光アイソレータ1を通過可能である偏波状態に合わせて制御するのが好ましい。
この場合は、第1偏波依存型光アイソレータ1の前段、すなわち、第1偏波依存型光アイソレータ1に入力光信号S0が入力されるに至る光経路に偏波面コントローラ(図示を省略してある。)を挿入すればよい。しかしながら、偏波面コントローラを設置しなくとも、第1の実施形態の光クロック信号再生装置による、光クロック信号再生動作が実現しないわけではない。一般に、入力光信号S0は、第1偏波依存型光アイソレータ1に入力されて出力される偏波成分を含んでいるので、MLLD 100に入力される光信号のTM偏波方向の成分の光強度が、光クロック信号再生に必要とされる光強度に達しないという事態はほとんど起こらない。
なお、偏波面コントローラは、1/4波長板と1/2波長板とを組み合わせて構成された製品等が市販(例えば、株式会社インデコが市販しているPC-FFBシリーズ等)されており、これらを適宜利用することができる。
第1偏波依存型光アイソレータ1を通過した直線偏波光は、この偏波状態を維持したまま結合レンズ2によって集光され、光信号S10として光共振器端面L1の側からMLLD 100に入力される。ここで、直線偏波光である光信号S10の偏波方向と、MLLD 100の発振偏波方向とは、図3に示す関係となっている。すなわち、両者の偏波方向は互いに直交しており、光信号S10は、TM偏波光である。上述した偏波面コントローラによって、予め入力光信号のS0の偏波状態をTM偏波に調整しておけば、第1偏波依存型光アイソレータ1によって遮断される光成分を最小にすることが可能であり、効率よく光信号S10をMLLD 100に入力することが可能となる。
MLLD 100の光共振器端面R1の側からは、光パルス列C0が結合レンズ3を介して出力される。光パルス列C0は、第2偏波依存型光アイソレータ4に入力されて、MLLD 100の発振光の偏波方向であるTE偏波成分が透過され、光信号S10の偏波方向(TM偏波方向)と直交するTE偏波光である再生クロック信号C10が出力される。第2偏波依存型光アイソレータ4の光軸は、その方向が、MLLD 100の発振偏波方向に合致した偏波方向の光のみが通過するように設定されている。
第1偏波依存型光アイソレータ1及び第2偏波依存型光アイソレータ4は、MLLDを用いる従来の光クロック信号再生装置にも使われている。これは、MLLDから出力された光が再びMLLDに戻ることによってモード同期動作が不安定となる、いわゆる戻り光に起因するモード同期動作が不安定となる事態を解消するために重要な働きをしている。すなわち、MLLDを用いる光クロック信号再生装置は、第1偏波依存型光アイソレータ1及び第2偏波依存型光アイソレータ4によって、戻り光を遮断する構成となっている。
この戻り光の遮断効果に加えて、この発明の光クロック信号再生装置においては、第2偏波依存型光アイソレータ4は、再生光クロック信号C10に光信号S10の成分が含まれないように、光パルス列C0から、光信号S10の偏波方向成分の光を取り除くという重要な役割も果たしている。
<第1の実施形態の光クロック信号再生装置の第1の変形例>
次に、図4を参照して、この実施形態の光クロック信号再生装置の第1の変形例である第2発明の光クロック信号再生装置について説明する。図4は、第2発明の光クロック信号再生装置の概略的ブロック構成図である。
第2発明の光クロック信号再生装置は、MLLD 100と光入出力部24とを具えて構成される。MLLD 100は、上述した第1の実施形態の光クロック信号再生装置の基本形態において利用した素子と同一であるからここではその説明を省略する。
光入出力部24は、偏波依存型光サーキュレータ5とファラデー回転子6とを具えて構成されている。すなわち、図1に示した光クロック信号再生装置における第1偏波依存型光アイソレータ1の代わりに偏波依存型光サーキュレータ5とファラデー回転子6とが用いられる。この構成によれば、第1偏波依存型光アイソレータ1及び第2偏波依存型光アイソレータ4に相当する素子は不要となる。
偏波依存型光サーキュレータ5は、入力ポート5-aから入力される光のうち、特定の偏波方向の光のみが入出力ポート5-bから出力され、この入出力ポート5-bから出力される光の偏波面と直交する偏波面の光は遮断される。一方、入出力ポート5-bから光が入力された場合は、入出力ポート5-bから出力される光の偏波方向と合致した偏波方向の光のみが出力ポート5-cから出力され、この出力される光の偏波面と直交する偏波面の光成分は遮断される。このような特性を有する偏波依存型光サーキュレータは、上述した偏波依存型光アイソレータを適宜利用して製作が可能であることが知られている(例えば、三木哲也、須藤昭一編「光通信技術ハンドブック」オプトロニクス社、pp.327〜329参照)。
図4に示す第2発明の光クロック信号再生装置において、入力光信号S0は、偏波依存型光サーキュレータ5の入力ポート5-aから入力されて、入出力ポート5-bから出力される。図1に示した光クロック信号再生装置における場合と同様に、偏波面コントローラ(図示を省略してある。)によって、予め入力光信号S0の偏波状態を調整しておけば、入力光信号S0が効率よく、すなわち、遮断される光の量が最小となる状態で、入出力ポート5-bから出力されるようにすることが可能である。このために、偏波依存型光サーキュレータ5の前段に偏波面コントローラを設置するのが好ましいのは、上述した第1発明の光クロック信号再生装置の場合と同様である。
入出力ポート5-bから出力された、直線偏波の状態に偏波状態が調整された光信号S10は、ファラデー回転子6に入出力ポート6-aから入力されて、入出力ポート6-bから光信号S20として生成されて出力される。光信号S20は、結合レンズ8を介してMLLD 100に光共振器端面L1の側から入力される。
ファラデー回転子6は、直線偏波の光が入力されると、偏波面が45°回転されて出力されるように調整されている。ここで、直線偏波光である光信号S20の偏波方向と、MLLD 100の発振光の偏波方向とは、図3に示した、光信号S10とMLLD 100の発振光の偏波方向との関係と同一であり、光信号S20はTM偏波光であるものとする。すなわち、直線偏波光である光信号S20の偏波方向と、MLLD 100の発振光の偏波方向とは、互いに直交する関係となるように、ファラデー回転子6が調整されているものとする。
MLLD 100で生成されて出力される光パルス列C1が、光信号S20が入力された光共振器端面L1の側から出力される。この際、MLLD 100の光共振器端面R1の側を、光を100%反射するようにコーティング処理を施せば、再生光クロック信号の出力光強度を増強できる為、望ましい。
光パルス列C1は、結合レンズ8を介してファラデー回転子6から光パルス列C40として出力されて、偏波依存型光サーキュレータ5の入出力ポート5-bに入力される。このとき、ファラデー回転子6によって、光パルス列C40に含まれる光成分のうち、再生光クロック信号成分となる光成分のみが、偏波依存型光サーキュレータ5の入出力ポート5-bに入力されたときに、出力ポート5-cから遮断されずに出力される偏波状態を有する。ファラデー回転子6が上述したように正確に調整されていれば、偏波依存型光サーキュレータ5の出力ポート5-cから再生光クロック信号C20が出力される。
一方、光パルス列C40に含まれる入力光信号S20の成分は、再生光クロック信号とは、その偏波方向が直交しているので、偏波依存型光サーキュレータ5の入出力ポート5-bに入力されても遮断され、出力ポート5-cから出力されることはない。
従って、光入出力部24は、可飽和吸収領域が配置された光共振器端面L1の側から、光信号S20を、MLLD 100に入力させ、かつ、再生光クロック信号C20を出力させる光入出力部としての機能を果たすことが可能な構成とされている。ここで、光信号S20の偏波方向は、MLLD 100の発振光の偏波方向と直交した方向であり、再生光クロック信号C20は、MLLD 100から発生する、MLLD 100の発振偏波方向と平行な偏波方向の光成分のみから成る光パルス列である。
<第1の実施形態の光クロック信号再生装置の第2の変形例>
次に、図5を参照して、第1の実施形態の光クロック信号再生装置の第2の変形例である第3発明の光クロック信号再生装置について説明する。図5は、第3発明の光クロック信号再生装置の概略的ブロック構成図である。
第3発明の光クロック信号再生装置は、MLLD 100と光入出力部26とを具えて構成される。MLLD 100は、上述した第1の実施形態の光クロック信号再生装置の基本形態において利用した素子と同一であるからここではその説明を省略する。
光入出力部26は、光の入出力のための4つのポートを有する偏波依存型光カプラ7と、第1偏波依存型光アイソレータ1と、第2偏波依存型光アイソレータ4とを具えて構成されている。
偏波依存型光カプラ7は、ポート7-aから入力された光は、2分岐されてそれぞれポート7-b及び7-cから出力される。また、ポート7-cから入力された光は、2分岐されてそれぞれポート7-a及び7-dから出力される。ポート7-b及び7-cから出力される光の強度比、及び、ポート7-a及び7-dから出力される光の強度比は、偏波依存型光カプラ7の固有の値として任意に設定可能である。
入力光信号S0が、第1偏波依存型光アイソレータ1を介して偏波依存型光カプラ7のポート7-aから入力され、ポート7-b及び7-cから出力される。ポート7-bから出力される光は、使用しないので、反射戻り光を防止するために、ポート7-bは終端されている。
図1に示した光クロック信号再生装置における場合と同様に、偏波面コントローラ(図示を省略してある。)によって、予め入力光信号S0の偏波状態を調整しておけば、入力光信号S0が効率よく、すなわち、遮断される光の量が最小となる状態で、第1偏波依存型光アイソレータ1から出力されるようにすることが可能である。このために、第1偏波依存型光アイソレータ1の前段に偏波面コントローラを設置するのが好ましいのは、上述した第1及び第2発明の光クロック信号再生装置の場合と同様である。
偏波依存型光カプラ7のポート7-cから出力された光信号S30を、結合レンズ9を介して、光共振器端面L1の側からMLLD 100に入力する。ここで、直線偏波光である光信号S30の偏波方向と、MLLD 100の発振光の偏波方向とは、図3に示した光信号S10とMLLD 100の発振光の偏波方向との関係と同一であり、光信号S30はTM偏波光であるものとする。すなわち、直線偏波光である光信号S30の偏波方向と、MLLD 100の発振光の偏波方向とは、互いに直交する関係となるように、第1偏波依存型光アイソレータ1及び偏波依存型光カプラ7が設定されているものとする。
なお、上述の偏波面コントローラ(図示を省略してある。)によって、光信号S30の偏波状態をTM偏波状態に調整できれば、第1偏波依存型光アイソレータ1を偏波無依存型の光アイソレータに代えることが可能である。
MLLD 100で生成されて出力される光パルス列C1が、光信号S30が入力された光共振器端面L1の側から出力される。光パルス列C1は、結合レンズ9を介して偏波依存型光カプラ7のポート7-cに入力されて、ポート7-a及びポート7-dから出力される。このうちポート7-aから出力される光成分は、第1偏波依存型光アイソレータ1によって遮断される。一方、ポート7-dから出力された光成分は、第2偏波依存型光アイソレータ4に入力される。第2偏波依存型光アイソレータ4の光軸の方向を、MLLD 100の発振偏波方向と合致した偏波方向の光のみが通過するように調整することによって、光信号S30の成分を含まない、再生光クロック信号C30が出力される。
従って、光入出力部26は、可飽和吸収領域が配置された光共振器端面L1の側から光信号S30をMLLD 100に入力させ、かつ、再生光クロック信号C30を出力させる光入出力部としての機能を果たすことが可能な構成とされている。ここで、光信号S30の偏波方向は、MLLD 100の発振光の偏波方向と直交した方向であり、再生光クロック信号C30は、MLLD 100から発生する、MLLD 100の発振偏波方向と平行な偏波方向の光成分のみから成る光パルス列である。
<第1の実施形態の光クロック信号再生装置の動作>
第1の実施形態の光クロック信号再生装置によって得られる効果は、MLLD 100に入力される入力光信号の偏波状態と、MLLD 100の発振偏波方向とが直交する関係に設定することで得られる。以下、第1の実施形態の光クロック信号再生装置と、従来の光クロック信号再生装置との動作の相違を、図6(A1)から図6(B3)を参照して説明する。
図6(A1)から(B3)は、従来の光クロック信号再生装置の動作と、この発明の光クロック信号再生装置の動作との相違点についての説明に供する図である。図6(A1)から(A3)は、従来の光クロック信号再生装置の動作についての説明に供する図であり、図6(B1)から(B3)は、この発明の光クロック信号再生装置の動作についての説明に供する図である。
図6(A1)及び(B1)は、光信号S10、S20及びS30の時間波形を示し、図6(A2)及び(B2)は、光パルス列C0及びC1の時間波形を示し、図6(A3)及び(B3)は、再生クロック信号C10、C20及びC30の時間波形を示す図である。これらの図において、光パルスを時間軸上に一端が接した短く太い線分で示してある。時間軸上で光パルスが存在する個所を「1」で示し、光パルスが存在しない個所を「0」で示してある。また、図6(A1)から(B3)に示す時間波形において、偏波方向を、時間軸に垂直に立つ線分で示す光パルスと、時間軸に斜め横方向に傾いた線分で示す光パルスとは、それぞれが互いに直交した方向の偏波方向の光パルスであることを示している。
図6(A1)から(A3)に示すように、光信号S10、S20及びS30と、光クロック信号成分である光パルス列C0、C1、C10、C20及びC30の偏波面が全て等しい。すなわち、従来の光クロック信号再生装置による光クロック信号の再生においては、MLLDに入力される入力光信号の偏波状態が、MLLDの発振偏波方向に極めて近い状態で、光クロック信号再生動作を実行しなければならない。これは、以下に示す理由による。
例えば、特許文献1に開示されている光ファイバ型モード同期レーザを用いた場合、光クロック信号の再生動作は、光ファイバレーザ内を周回する光クロック信号を構成する光パルスが、入力光信号を構成する光パルスとの光カー効果に基づく相互位相変調(XPM: Cross Phase Modulation)により変調されることによって生じる。このXPMは、光クロック信号を構成する光パルスと、入力光信号を構成する光パルスとが互いに平行な偏波状態にあるときに、その効果が最大となる。すなわち、光クロック信号再生動作を安定的に実現させるためには、入力光信号の偏波方向を、再生される光クロック信号の偏波方向と一致させる必要がある。
また、特許文献2、及び非特許文献1から4に開示されているMLLDを用いた場合、光クロック信号再生動作は、入力光信号をMLLDに入力することにより、主として可飽和吸収領域の光吸収係数が変調されることによって実現される。従来の光クロック信号再生装置においては、可飽和吸収領域は、利得領域の一部を電気的に分離し、利得領域とは異なるレベルで励起される領域であるに過ぎない。この領域は、多くの例では、逆バイアス電圧が印加される構造とされている。
一方、半導体レーザの利得領域は、この利得領域を構成する光導波路構造の異方性、更にはこの光導波路を量子構造等とすることで発現する量子サイズ効果の異方性のために、その動作に偏波依存性がある。一般的に、半導体レーザの利得領域を構成するために利用される、バルク結晶の活性層、あるいは、量子構造の活性層においては、TE偏波光に対して大きな光学利得を有し、そのためレーザ発振はTE偏波で生じる。バルク結晶の活性層、あるいは、量子構造の活性層を可飽和吸収体として利用する場合でも、同様に、TE偏波光に対して大きな光吸収特性を有し、小さなエネルギーに対しても可飽和吸収効果が発現する。
すなわち、バルク結晶の活性層、あるいは、量子構造の活性層によって構成される可飽和吸収体に、外部から入力される入力光信号がTE偏波である場合、光クロック信号の再生動作を実現するために十分な大きさの光吸収係数の変調がなされるのに対して、TM偏波である場合には、光クロック信号の再生動作を実現するために十分な大きさの光吸収係数の変調がなされない。すなわち、光クロック信号の再生動作を実現するためには、入力光信号の偏波状態を、半導体レーザの発振偏波と同一方向の偏波面を有する偏波状態とする必要があった。
以上説明した様に、先行文献に開示された光クロック信号の再生装置による従来方式の光クロック信号再生方法においては、モード同期レーザの発振偏波の偏波方向と入力光信号の偏波方向とを一致させる必要がある。すなわち、再生する光クロック信号の偏波方向と入力光信号の偏波方向とを一致させる必要がある。従って、従来方式の光クロック信号再生方法においては、MLLDから出力される、第1段階の再生光クロック信号である光パルス列C0及びC1には、最終的に再生される光クロック信号の成分と、この成分に平行な偏波面を有する偏波状態の入力光信号成分とが含まれている。
最終的に再生される光クロック信号の成分と入力光信号成分とは、同一の偏波状態であるから、MLLDから出力される出力光を偏波依存型光アイソレータ等の検光子としての役割を果たす光学素子(例えば、図1に示す第2偏波依存型光アイソレータ4)によってフィルタリングしても、入力光信号成分を除去することができない。従って、第2偏波依存型光アイソレータ4を通過した、最終段階である第2段階の再生光クロック信号C10、C20及びC30には、図6(A3)に示すように、依然として入力光信号成分が混在している。
この入力光信号成分を、MLLDから出力される出力光から除去するためには、波長フィルタによって、MLLDから出力される出力光をフィルタリングする必要がある。更には、入力光信号と再生光クロック信号の両者の波長が極めて近い値である、あるいは、一致する場合は、MLLDから出力される出力光から入力光信号成分を除去することはできない。このため、入力光信号成分を含む、いわゆる品質に問題のある光クロック信号が再生されることになる。
これに対して、第1の実施形態の光クロック信号再生装置によれば、図6(B1)から(B3)に示すように、MLLDから出力される、第1段階の再生光クロック信号である光パルス列C0及びC1には、最終的に再生される光クロック信号の成分と、この成分に垂直な偏波面を有する偏波状態の入力光信号成分とが含まれているが、両者の偏波方向は直交している。従って、第2偏波依存型光アイソレータ4あるいは偏波依存型光サーキュレータ5を介して出力される、最終段階である第2段階の再生光クロック信号C10、C20及びC30には、図6(B3)に示すように、入力光信号成分は含まれない。仮に、入力光信号と再生光クロック信号の波長が極めて近い値であるか、あるいは両者が一致する場合であっても、最終段階で得られる再生光クロック信号C10、C20及びC30には、入力光信号成分は含まれない。
従って、第1の実施形態の光クロック信号再生装置によれば、光波長フィルタを用いずとも、入力光信号成分を含まない再生光クロック信号を得ることが可能である。更に、入力光信号は、その偏波方向がMLLDの発振偏波方向に直交するように入力されるので、MLLDにおいて光注入同期現象が発現しない。また、詳細は後述するが、MLLDにおける光共振効果による実効的な変調効果も生じない。
以上説明した様に、第1の実施形態の光クロック信号再生装置によれば、波長フィルタを必要とせず、かつ、入力光信号の波長が変化しても、再生光クロック信号はその特性に大きな変動が生じず、安定した光クロック信号の再生が実現される。
第1の実施形態の光クロック信号再生装置に利用するMLLDを、上述したとおりに動作させるためには、MLLD 100の可飽和吸収領域102及び利得領域103のそれぞれを構成する半導体活性層102a及び103aを、以下に述べる構造とする必要がある。
可飽和吸収領域を構成する半導体活性層102aは、MLLD 100のレーザ発振光及びこのレーザ発振光と偏波方向が直交する入力光信号の両者に対して、光吸収飽和に基づく光吸収係数変調効果が発現する必要がある。MLLD 100のレーザ発振光に対する光吸収係数変調効果は、モード同期動作を生じさせるための必須の要件である。また、入力光信号に対する光吸収係数変調効果の発現は、光クロック信号再生動作を実現するための必須の要件である。
レーザ発振光及び入力光信号の両者に対して、光吸収係数変調効果を発現する半導体活性層としては、バルク結晶を用いて形成される半導体活性層、あるいは量子構造を用いて形成される半導体活性層が利用できる。III-V族半導体(InP、GaAs等やそれらの混晶)のバルク結晶を利用して形成される半導体活性層の光学利得及び光吸収特性は、TE偏波とTM偏波とで一致することが知られている。また、伸張歪を量子構造に導入することによって、電子-軽い正孔(electron-light hole)間のバンドギャップを狭くすることで、TM偏波に対する光学利得及び光吸収特性を、TE偏波に対する光学利得及び光吸収特性と同程度に調整することが可能であることが知られている。
一方、利得領域を構成する半導体活性層103aは、外部から入力光信号が入力されたとしても、レーザの発振特性のうち、特に、その発振偏波が変動しない構成であることが必要である。これは、MLLD 100に入力光信号が入力されても、MLLD 100は、光信号S10、S20、S30の偏波方向と直交する偏波面を持つ発振光を出力し続けなければならないという事情による。すなわち、入力光信号によって、レーザ発振光の偏波面が、入力光信号の偏波方向に合致する現象が発現するMLLDを用いては、第1の実施形態の光クロック信号再生装置を構成することはできない。
上述の入力光信号が入力されたとしてもその発振偏波が変動しないMLLDを実現するには、半導体活性層103aを、光学利得の偏波面依存性が大きく、TE偏波に対するレーザ発振閾値利得が、TM偏波に対するレーザ発振閾値利得に比べて格段に小さくなるように形成することが必要である。このためには、半導体活性層103aを、無歪あるいは圧縮歪みが導入された量子構造とすればよい。一方、半導体活性層103aを、バルク結晶構造、あるいは伸張歪が導入された量子構造とすると、光学利得の偏波面依存性が小さくなり、入力光信号が入力された場合、発振偏波が変動する危険性がある。
更に、半導体活性層103aを、無歪あるいは圧縮歪みが導入された量子構造とすることで、TE偏波に対しては光学利得が生じるのに対して、TM偏波に対しては光吸収が生じる。すなわち、TM偏波光がMLLDに入力されても、それがMLLDの光共振器内を周回するごとに多大な光強度の減衰が生じる。この場合、入力光信号はMLLD内で共振されない。その結果、上述したMLLDにおける光共振効果による実効的な変調効果も生じず、多重変調効果が発現しない。このため、再生光クロック信号は、入力光信号の波長が少々変化しても、その特性が大きく変動することはない。つまり、入力光信号及び再生光クロック信号の波長についての依存性の小さい、使い勝手の良い光クロック信号再生装置が実現されることになる。
第1の実施形態の光クロック信号再生装置において、入力光信号は、MLLD 100の可飽和吸収領域側の光共振器端面L1から入力する必要がある。これは、入力光信号を、利得領域側の光共振器端面Rlから入力した場合、TM偏波光である入力光信号は、利得領域103で多大な光強度の減衰が生じ、入力光信号強度が十分大きくなければ、光クロック信号再生動作が発現しないためである。また、あるいは、どうしても光クロック信号再生動作を発現させるためには、入力光信号強度を非常に大きくすることが必要となるためである。
次に、上述した、この発明の効果を実証するための実験結果について説明する。この実験に用いたMLLDは、可飽和吸収領域(長さ70μm)、利得領域(長さ605μm)、位相調整領域(長さ145μm)、及び分布ブラッグ反射領域(DBR領域、長さ120μm)が、この順に配列された、InP系材料による多電極半導体レーザである。位相調整領域及びDBR領域の光導波路層には、バンドギャップ波長が1.3μmに相当するInGaAsPバルク型結晶層を用いた。また、可飽和吸収領域側の光共振器端面は、劈開面のままとし、DBR領域側の光共振器端面には、Al2O3薄膜による無反射コーティング処理を施した。
MLLD 100の構造については、可飽和吸収領域102と利得領域103とを具える多電極型の集積型モード同期半導体レーザ素子であるものとして、既に図2を参照して説明した。しかしながら、そこでの説明は、この発明の構成に欠くことのできない構成要素のみについて簡潔に行ったものであって、実際に利用されるMLLD 100の可飽和吸収領域102と利得領域103以外の部分についての詳細については、図2に図示することを省略し、またその構成等に係る説明も省略した。
実際にMLLD 100として利用される多電極型の集積型モード同期半導体レーザ素子は、図2に示したMLLD 100より一層利用しやすい形態に製造されている。利用しやすい形態として構成するために具えることが好ましいとされる構成要素、位相調整領域及びDBR領域が、図2では省略されている。位相調整領域及びDBR領域は、この発明の光クロック信号再生装置の光クロック信号再生動作には本質的な係わり合いを持たないので、これ以上の詳しい説明を省略する。
光共振器長は1155μmであり、光共振器周回周波数は約39.8 GHzである。利得領域を構成する半導体活性層には、0.7%の圧縮歪を導入したInGaAsPの6層構造の多重量子井戸構造が採用されている。この多重量子井戸構造は、フォトルミネッセンスピーク波長が1565 nmとなるように、量子井戸層及びバリア層のそれぞれの混晶比、層厚が設定されている。
また、可飽和吸収領域を構成する半導体活性層には、0.7%の伸張歪を導入したInGaAsPの6層構造の多重量子井戸構造が採用されている。この多重量子井戸構造は、フォトルミネッセンスピーク波長が、TE偏波光に主たる寄与をする電子-重い正孔(electron-heavy hole)間遷移による発光に対して1485 nm、TM偏波光に主たる寄与をする電子-軽い正孔(electron-light hole)間遷移による発光に対して1560 nmとなるように、量子井戸層及びバリア層のそれぞれの混晶比、及び層厚が設定さている。
上述したこの実験に用いたMLLDは、TE偏波による発振が起こった。このMLLDの利得領域に電流注入を行ったときのレーザ発振閾値は約15 mA、スロープ発光効率は0.13 W/Aであり、典型的な特性を有する半導体レーザである。
利得領域に140 mAの直流電流注入を行い、可飽和吸収領域に-1.60 Vの逆バイアス電圧を印加した時点で、モード同期動作が発現した。このときMLLDから出力された、モード同期光パルス列のパルス幅は、3.26 ps(ピコ秒)であり、中心波長は1551.85 nmであり、波長スペクトルの半値全幅は0.77 nmであった。また、このときMLLDから出力されたモード同期光パルス列の繰り返し周波数は39.663 GHzであった。また、このときのMLLDの可飽和吸収体の側の光共振器端面(図2における光共振器端面L1に対応する。)から出力される光パルス列の平均光強度は、光ファイバに結合された分として、約1.60 dBmであった。ここでの、光ファイバとの結合損失は、5 dB程度と見積もられた。
入力光信号には、ビットレートが39.653 Gb/sで、光パルス幅が4 spから6 psであるRZ(Return-to-zero)フォーマットの、段数が31段(231-1)である、擬似ランダム光信号を用いた。また、入力光信号は、波長可変半導体レーザと2台の電界吸収型半導体光強度変調器(EA変調器:Electro-Absorption Modulator)を用いて発生させた。ここで、2台のEA変調器の一方を光パルス列の発生用として用い、他方を擬似ランダム光信号生成用に用いた。実験では、波長可変半導体レーザの波長を変化させることで、入力光信号の波長を変化させ、そのとき再生される光クロック信号の特性の評価を行った。
実験は、図4に示した第1の実施形態の光クロック信号再生装置の第1の変形例として示した光クロック信号再生装置を利用した。すなわち、入力光信号は、偏波依存型光サーキュレータ5及びファラデー回転子6を介して、MLLD 100の可飽和吸収体の側の光共振器端面L1から入力させた。また、MLLD 100の可飽和吸収体の側の光共振器端面L1から出力される光パルス列C1を、ファラデー回転子6及び偏波依存型光サーキュレータ5を介して、再生光クロック信号C20として出力させた。
比較のために、MLLDの発振偏波と偏波方向を一致させた入力光信号をMLLDに入力させて、従来型の構成の再生光クロック信号再生装置によって再生される光クロック信号でも、同様に評価を行った。この比較実験に当たっては、従来型の構成の再生光クロック信号再生装置を、図4に示す再生光クロック信号再生装置からファラデー回転子6を取り外すことによって実現させた。
図7(A)から(D)及び図8(A)から(D)を参照して、従来型及びこの発明の再生光クロック信号再生装置を用いた実験によって得られた、再生光クロック信号の波長スペクトルについて説明する。
図7(A)から(D)は、光信号が入力された状態のMLLDから出力される再生光クロック信号の波長スペクトルを示す図である。図7(A)及び(B)は、TE偏波の入力光信号から従来型の構成の装置によって得られた再生光クロック信号の波長スペクトルを示し、図7(C)及び(D)は、TM偏波の入力光信号からこの発明の構成の装置によって得られた再生光クロック信号の波長スペクトルを示す。また、(A)は波長が1540 nmでTE偏波である光信号が入力された場合、(B)は波長が1550 nmでTE偏波である光信号が入力された場合、(C)は波長が1540 nmでTM偏波である光信号が入力された場合、(D)は波長が1550 nmでTM偏波である光信号が入力された場合における再生光クロック信号の波長スペクトルを示す図である。
図7(A)から(D)の各図において、横軸は波長をnm単位で目盛ってあり、縦軸は光強度をdBm単位で目盛って示してある。また、入力光信号の波長は、各図においてλinとしてその位置を矢印によって示してある。図7(A)及び(C)においては、λin=1540 nmであり、図7(B)及び(D)においては、λin=1550 nmである。また、各図において、薄い点線で示す曲線は、入力光信号S0をMLLDに入力させない状態におけるMLLDからの出力光の波長スペクトルを示している。
図8(A)から(D)は、それぞれ図7(A)から(D)の各図に対応する、光信号が入力された状態のMLLDから出力される再生光クロック信号のSHG相関波形を示す図である。図8(A)から(D)においても、図7(A)から(D)と同様に、薄い点線で示す曲線は、入力光信号S0をMLLDに入力させない状態におけるMLLDからの出力光である再生光クロック信号のSHG相関波形を示す。図8(A)から(D)の各図において、横軸は遅延時間をps単位で目盛ってあり、縦軸はSHG強度を任意スケールで目盛って示してある。
図7(A)及び(C)に示すように、λin=1540 nmである場合には、入力光信号の有無、ならびに、入力光信号の偏波方向に係わらず、波長1552 nm近傍の波長スペクトルの主成分の形状に有意な変化は見られなかった。この結果は、主としてこの実験で用いたMLLDが波長1540 nm近傍では、利得領域での光学利得が小さく、また、可飽和吸収領域での光吸収が大きいため、光共振効果が抑制されているためである。更に、可飽和吸収領域を構成する半導体活性層が、伸張歪が導入された量子井戸で形成されているために、入力光信号による可飽和吸収領域における光変調効果の偏波依存性が抑制されているためである。
同様に、図8(A)及び(C)に示すように、SHG相関波形にも、入力光信号の有無、ならびに、入力光信号の偏波方向に係わらず、有意な変化は見出されない。
一方、従来の装置を用いる場合とこの発明の装置を用いる場合とでは、入力光信号の有無に対応して、MLLDから出力される再生光クロック信号の波長スペクトルに含まれる、入力光信号成分の強度について、大きな相違が見出される。ここで、波長1552 nm近傍のMLLDの波長スペクトルの主成分のピーク強度に対する、入力光信号の波長のピーク強度の比を、入力光信号抑圧比と定義する。入力光信号抑圧比が大きいということは、再生光クロック信号に含まれる入力光信号成分が小さいことを意味する。従って、この発明の目的である、波長フィルタを用いずに入力光信号成分を除去されていることを検証するパラメータに、入力光信号抑圧比を使うことができることを示している。
図7(A)に示すように、入力光信号がTE偏波である場合の入力光信号抑圧比は、-13.8 dBであるのに対して、図7(C)に示すように、入力光信号がTM偏波である場合の入力光信号抑圧比は、-33 dBであった。今回の実験に使用した入力光信号を生成する装置の偏波消光比は20 dB程度であった。そのため、入力光信号がTM偏波である場合の入力光信号抑圧比は-33 dBであった。しかしながら、入力光信号を生成する装置の偏波消光比を20 dB程度より大きくすることは、アセンブリ技術の改良によって、十分に可能である。従って、入力光信号がTM偏波である場合の入力光信号抑圧比を-33 dBより更に改善することは十分可能である。
一方、入力光信号の波長が1550 nmと、MLLDの発振波長に近い場合、図7(B)及び(D)に示すように、TE偏波の入力光信号に対して、再生された光クロック信号の波長スペクトルには大きな変化が見られる。すなわち、MLLDの発振光の波長スペクトルは、TE偏波の入力光信号に対して、波長スペクトル幅が0.77 nmから2.21 nmまで広がった。更に、入力光信号抑圧比が+4 dBとなり、波長スペクトルにおいて、入力光信号成分の方が再生された光クロック信号よりも強い結果が得られた。これは、入力光信号がTE偏波で、かつ、その波長がMLLDの発振波長に近いと、光共振による多重変調効果、もしくは光注入効果が発現したためである。図7(B)において、入力光信号抑圧比が+4 dBであることは読み取りにくいが、実験中に計測器の表示によって、入力光信号抑圧比が+4 dBであることを確認している。
また、SHG相関波形も図8(B)に示すように、入力光信号がある場合とない場合とでは異なっている。また、再生された光クロック信号の時間波形(図示を省略する。)にも大きな変化が見られた。
一方、入力光信号が、その波長が1550 nmとMLLDの発振波長に近い場合であって、かつTM偏波である場合、図8(D)に示すように、SHG相関波形は、入力光信号が入力されない場合と比較して、大きな変化は認められなかった。また、入力光信号抑圧比も-26 dBと、十分に抑圧されていることが分かった。図7(D)において、入力光信号抑圧比が-26 dBであることは読み取りにくいが、実験中に計測器の表示によって、入力光信号抑圧比が-26 dBであることを確認している。
図9(A)から(D)を参照して、入力光信号の波長を1530 nmから1560 nmまでの範囲で変化させて、それぞれの波長において再生される光クロック信号の時間ジッタ、時間軸上での光パルス幅、波長スペクトル幅、及び入力光信号抑圧比についての実験結果を説明する。図9は、入力光信号の波長を1530 nmから1560 nmの範囲で変化させたときの、再生光クロック信号の諸特性を示す図である。図9(A)は時間ジッタに関する特性を示す図であり、図9(B)は光パルス幅に関する特性を示す図であり、図9(C)は波長スペクトル幅に関する特性を示す図であり、図9(D)は入力光信号抑圧比に関する特性を示す図である。
図9(A)から(D)の各図の横軸は、入力光信号の波長をnm単位で目盛って示してある。図9(A)から(D)の各図の縦軸は、それぞれ、ps単位で目盛って示す時間ジッタの値、ps単位で目盛って示す光パルス幅の値、nm単位で目盛って示す波長スペクトル幅の値、dB単位で目盛って示す入力光信号抑圧比の値を示す。図9(A)から(D)に示す実験データは、全て入力光信号強度を+3.5 dBmに設定して取得したものである。図9(A)から(D)の各図において、白丸で示す値は、従来の光クロック信号再生装置によってTE偏波の入力光信号から光クロック信号を再生した場合、黒丸で示す値は、第1の実施形態の光クロック信号再生装置によってTM偏波の入力光信号から光クロック信号を再生した場合の実験結果を示す。
図9(A)から(C)の白丸によって示すように、入力光信号がTE偏波である場合、時間ジッタ、光パルス幅、波長スペクトル幅に関して、入力光信号の波長に依存して大きく変動していることが読み取れる。変動の大きさは、特に、入力光信号の波長がMLLDの発振波長の近傍(1552 nm近傍)にあるときに大きいことが分かる。この理由は、光共振による多重変調効果や、光注入効果が発現するためである。
また、図9(D)に示すように、入力光信号抑圧比も大きく変動しており、特に、入力光信号の波長がMLLDの発振波長近傍にあるときには、入力光信号抑圧比が0 dB以上となっている。すなわち、入力光信号成分の方が、再生光クロック信号成分よりも大きくなっている。このような場合には、図11を参照して後述するように、波長フィルタを用いても、入力光信号成分を再生光クロック信号から除去することは困難となる。
一方、第1の実施形態の光クロック信号再生装置によってTM偏波の入力光信号から光クロック信号を再生した場合、図9(A)から(C)で黒丸によって示すように、入力光信号の波長が変化しても、時間ジッタ、光パルス幅、波長スペクトル幅に関して、入力光信号の波長に依存せず、その特性変化が非常に小さいことが読み取れる。また、図9(D)に示すように、入力光信号抑圧比は、もっとも大きい場合でも、-25 dB以下の値である。この値は、先にも述べたように、アセンブリ技術の改良によって、更に低減できる。
図10(A)及び(B)を参照して、再生光クロック信号の時間ジッタの入力光信号の波長に対する依存性及びモード同期半導体レーザの発振波長スペクトルについての実験結果を説明する。10(A)及び(B)は、再生光クロック信号の時間ジッタの入力光信号の波長に対する依存性及びモード同期半導体レーザの発振波長スペクトルを示す図である。(A)は入力光信号の波長が1541 nmである場合であり、(B)は入力光信号の波長が1545 nmである場合である。白丸は、入力光信号がTE偏波である場合、黒丸は入力光信号がTM偏波の場合を、それぞれ示している。図10(A)及び(B)の横軸は入力光信号の波長をnm単位で目盛って示してあり、左側の縦軸は時間ジッタの値をps単位で目盛って示してあり、右側の縦軸はMLLDの出力光の波長スペクトルの光強度をdBm単位で目盛って示してある。
実験では、光共振効果の影響を詳細に調べるため、入力光信号の強度を-4.5 dBmと、光注入同期現象が発現しない程度の低い値に設定した。図10(A)及び(B)において、灰色で示す実線は、入力光信号が入力されていない場合でのMLLDの出力光の波長スペクトルである。波長スペクトルの極大値に対する極小値の比(極大値/極小値)はリップルと呼ばれる。リップルの大小は、MLLDにおける光共振効果の大小を表す。
図10(A)に示すように、入力光信号の波長が1541 nmの近傍である場合、入力光信号の波長を変化させても、入力光信号の偏波状態を変化させても、ほぼ一定の時間ジッタ特性が得られている。これは、可飽和吸収領域の半導体活性層が、伸張歪量子井戸構造によって形成されることによって、可飽和吸収領域の光吸収係数変調の入力光偏波依存性が小さくなっていることを反映している。また、この波長帯域において、波長スペクトルのリップルが非常に小さいことから、MLLDにおける光共振効果もほとんど発現していないことも読み取れる。
一方、図10(B)に示すように、入力光信号の偏波がTE偏波であるときは時間ジッタの入力光信号の波長依存性が大きいのに対して、TM偏波であるときは時間ジッタの入力光信号の波長依存性が小さく、ほぼ一定の値となっている。入力光信号の偏波がTE偏波であるときの時間ジッタの極大及び極小は、MLLDの出力光の波長スペクトルのそれぞれ極小及び極大と対応している。このことは、入力光信号の偏波がTE偏波であるときには、光共振による多重変調効果が発現していることを意味しており、この効果が時間ジッタの波長依存性の主要因となっている。一方、入力光信号の偏波がTM偏波であるときは、多重変調効果が発現しないため、入力光信号の波長が変化しても、時間ジッタの値はほぼ一定値であり、変化が見られない。
図9(A)から(D)、及び図10(A)及び(B)を参照して説明したように、第1の実施形態の光クロック信号再生装置によれば、多重変調効果や光注入効果を発現させることなく、光クロック信号を再生することが可能であることが実証された。また、多重変調効果や光注入効果が発現しないことによって、時間ジッタ、光パルス幅、波長スペクトル幅が、入力光信号の波長にも依存せず一定に保たれることが確かめられた。
光クロック信号を再生することが可能である入力光信号の波長は、可飽和吸収領域における吸収飽和による光吸収変調が引き起こされる波長帯域に含まれる波長であることである。一般的な半導体レーザの利得及び光吸収帯域を考慮すると、第1の実施形態の光クロック信号再生装置によれば、数十ナノメートルを超える範囲の波長の入力光信号に対して、光クロック信号の再生が可能であると結論される。
図11(A)から(F)を参照して、再生光クロック信号の時間波形について説明する。図11(A)から(F)は、再生光クロック信号の光サンプリングオシロスコープで観測された時間波形を示す図である。図11(A)は入力光信号がTE偏波で波長が1556 nmであり、波長フィルタを使用しないで偏波依存型光サーキュレータの出力からそのまま観測された時間波形であり、図11(B)は入力光信号がTE偏波で波長が1556 nmであり、偏波依存型光サーキュレータからの出力を半値幅2.8 nmの波長フィルタを使用して観測された時間波形であり、図11(C)は入力光信号がTM偏波で波長が1556 nmであり、波長フィルタを使用しないで偏波依存型光サーキュレータの出力からそのまま観測された時間波形であり、図11(D)は入力光信号がTE偏波で波長が1553.2 nmであり、波長フィルタを使用しないで偏波依存型光サーキュレータの出力からそのまま観測された時間波形であり、図11(E)は入力光信号がTE偏波で波長が1553.2 nmであり、偏波依存型光サーキュレータからの出力を半値幅2.8 nmの波長フィルタを使用して観測された時間波形であり、図11(F)は入力光信号がTM偏波で波長が1553.2 nmであり、波長フィルタを使用しないで偏波依存型光サーキュレータの出力からそのまま観測された時間波形である。
図11(A)から(C)は、入力光信号の波長が1556 nmと、MLLDの発振波長1552 nmと離れている場合の再生光クロック信号の時間波形を示す。また、図11(D)から(F)は、入力光信号の波長が1553.2 nmと、MLLDの発振波長1552 nmに接近している場合の再生光クロック信号の時間波形を示す。
図11(A)及び(D)に示すように、従来の光クロック信号再生装置によってTE偏波の入力光信号から波長フィルタを用いないで、再生光クロック信号を得ると、再生光クロック信号の光パルスの立ち上がり部分に、残存する入力光信号成分による歪が観測されている。入力光信号の波長がMLLDの発振波長から離れている場合、この残存する入力光信号成分を波長フィルタで除去することによって、歪のない光パルス列からなる再生光クロック信号を得ることができた。この結果が、図11(B)に示されている。すなわち、従来の光クロック信号再生装置によってTE偏波の入力光信号から再生光クロック信号を得るために、波長フィルタを用いる必要があったのは、このような理由に基づくものである。
しかしながら、入力光信号の波長とMLLDの発振波長とが接近している場合には、再生光クロック信号に残存する入力光信号成分を波長フィルタによって除去することはできない。この場合は、図11(E)に示すように、波長フィルタを用いたにもかかわらず、再生光クロック信号の光パルスの立ち上がり部分に、残存する入力光信号成分による歪が観測されている。
これに対して、第1の実施形態の光クロック信号再生装置によれば、波長フィルタを用いることなく、再生光クロック信号に含まれる残存する入力光信号成分を除去できる。そのため、入力光信号の波長とMLLDの発振波長とが近いか遠いかにかかわらず、波長フィルタを用いることなく、常に時間波形に歪のない再生光クロック信号を得ることができた。この結果が図11(C)及び(F)に示されている。
以上、図11(A)から(F)を参照して説明したように、第1の実施形態の光クロック信号再生装置によれば、入力光信号の波長とMLLDの発振波長とが近いか遠いかにかかわらず、波長フィルタを用いることなく、常に時間波形に歪のない再生光クロック信号を得ることができることが実証された。
<第2の実施形態の光クロック信号再生装置>
光信号の長距離光伝送路として、通常シングルモードの光ファイバが使われるが、この光ファイバは、光信号の偏波状態が一定のまま伝送するという機能、すなわち偏波依存性を具えていない。従って、光ファイバの入力端において、正確にある一定の偏波状態に制御された光信号を入力しても、光ファイバの敷設状態や、伝播経路の周辺環境等によって、光ファイバを伝播する光信号の偏波面は無作為に回転し、出力端では入力端において入力された当時とは異なる偏波状態となって出力される。
すなわち、光クロック信号再生装置が使われる長距離大容量光通信システムにおいては、光クロック信号再生装置に入力される入力光信号は、その偏波状態が定まっていない。上述した第1の実施形態の光クロック信号再生装置は、MLLDに入力される直前の光信号S10、S20及びS30の偏光状態が、一定の条件を満足している場合に限り正常に動作する。一定の条件とは、光信号S10、S20及びS30の偏光状態が直線偏波であって、その偏波方向がMLLDの発振光の偏波方向と直交した方向となっていることである。従って、第1の実施形態の光クロック信号再生装置を実用に供するには、光信号S10、S20及びS30の偏光状態が、常に上記の状態となるように調整する、偏波面コントローラが必要となる。偏波面コントローラを具えることによって、装置自体が大型化し、製造コストが高くなり、また、偏波面コントローラを制御するための電力を必要とすることとなる。
そこで、第2の実施形態の光クロック信号再生装置は、上述した第1の実施形態の光クロック信号再生装置の効果に加えて、入力光信号の偏波状態に依存することなく、光クロック信号を再生可能であるという効果が得られることを特徴とする。
第2の実施形態の光クロック信号再生装置には、第4から第6発明の光クロック信号再生装置が含まれる。
第4発明の光クロック信号再生装置は、上述した第1発明の光クロック信号再生装置が具える光入力部の前段に、入力光信号の偏波面を調整するための複屈折媒体が挿入されて構成されることが特徴である。また、第5及び第6発明の光クロック信号再生装置は、それぞれ上述した第2及び第3発明の光クロック信号再生装置が具える光入出力部の前段に、入力光信号の偏波面を調整するための複屈折媒体が挿入されて構成されることが特徴である。
このように、第2の実施形態の光クロック信号再生装置は、第1の実施形態の光クロック信号再生装置に、更に、複屈折媒体が具えられることが特徴であるから、得られる効果も、この複屈折媒体によって実現される。そこで、複屈折媒体によって得られる効果について、第4発明の光クロック信号再生装置の構成及び効果の説明の中で行うこととし、第5及び第6発明の光クロック信号再生装置については、その詳細な説明を省略する。
図12を参照して、第4発明の光クロック信号再生装置の基本形態の構成及びその動作について説明する。図12は、第4発明の光クロック信号再生装置の概略的ブロック構成図である。第4発明の光クロック信号再生装置は、光入力部28とMLLD 100と光出力部30とを具えている。第2の実施形態の光クロック信号再生装置と第1の実施形態の光クロック信号再生装置との相違点は、光入力部28が、複屈折媒体10を具えていることにある。入力光信号S0は、複屈折媒体10に入力されてその偏波面が調整されて、第1偏波依存型光アイソレータ1に入力される構成となっている。
複屈折媒体10は、一軸性結晶、二軸性結晶、何れのタイプの光学結晶によっても形成することが可能である。更に、複屈折媒体10は、光学結晶以外によっても形成することが可能である。例えば、複屈折光ファイバ等のアモルファス材料でも、後述する条件を満足する限り、複屈折媒体10を形成することが可能である。
複屈折媒体10の全長は、直交する光軸間の屈折率差(複屈折)によって生じる、直交する偏波成分間の偏波群遅延時間差の総量が、n×Tbit-rate(nは1以上の整数である。)となるように調整されている。また、複屈折媒体10としては、入力光信号S0の波長に対して、光損失が十分小さく透明な物質であることが好ましく、光学利得が得られる複屈折媒体を利用しても良い。
ここで、第1偏波依存型光アイソレータ1を通過する入力光信号の偏波方向と、複屈折媒体10の光軸方向、及びMLLD 100の発振偏波方向との関係について、図13を参照して説明する。図13は、入力光信号及び再生光クロック信号の偏波方向の関係の説明に供する図である。(A)は入力光信号の偏波方向と、複屈折媒体の光軸方向及び第1偏波依存型光アイソレータの透過偏波方向との関係の説明に供する図であり、(B)はMLLDの光共振器端面から見た断面において、入力光信号と再生光クロック信号の偏波方向との関係の説明に供する図である。
第1偏波依存型光アイソレータ1から出力される入力光信号の偏波方向は、MLLD 100の発振偏波方向と垂直な方向と一致させる。図13(B)に示すように、MLLD 100の発振偏波方向とは、TE偏波方向であって、a1軸の方向である。また、MLLD 100の発振偏波方向と垂直の方向とは、TM偏波方向であって、b1軸の方向である。更に、第1偏波依存型光アイソレータ1に入力される光信号の偏波方向(w1軸)は、複屈折媒体10の直交する光軸方向(x1軸及びy1軸)と互いに45°の角度をなすように、複屈折媒体10の光軸の方向を設定する。
複屈折媒体10以外の構成要素については、第1の実施形態の光クロック信号再生装置の場合と同様であるので、その説明を省略する。
第2の実施形態の光クロック信号再生装置としては、第1の実施形態の光クロック信号再生装置の場合と同様、第1及び第2の変形例を提供することができる。すなわち、MLLD 100から出力される再生光クロック信号を、MLLD 100の入力光信号が入力される光共振器端面L1から出力させる構成とすることも可能である。図4に示した第1の変形例を採用する場合は、入力光信号S0を偏波依存型光サーキュレータ5の入力ポート5-aに入力する経路に、複屈折媒体10を挿入すればよい。また、図5に示した第2の変形例を採用する場合には、入力光信号S0を第1偏波依存型光アイソレータ1に入力する経路に、複屈折媒体10を挿入すればよい。
<第2の実施形態の光クロック信号再生装置の動作>
第2の実施形態の光クロック信号再生装置の動作について、以下に示す(A)偏波面不定の入力光信号S0からTM偏波の光信号S5を生成するステップ、及び(B)光信号S5をMLLDに入力して再生光クロック信号C10を生成するステップの順に説明する。
(A)偏波面不定の入力光信号S0からTM偏波の光信号S5を生成するステップ
図12、図13(A)及び(B)を参照して、偏波面不定の入力光信号S0からTM偏波の光信号S5を生成するステップについて説明する。以後、このステップをステップAということもある。
光ファイバ伝送網等を通過してきた、不定偏波光である光信号S0が、複屈折媒体10に入力される。光信号S0は、複屈折媒体10に入力されて、複屈折媒体10の直交する光軸x1軸及びy1軸にそれぞれ平行な偏波成分に分離されて、複屈折媒体10内を伝播する。複屈折媒体10から出力される光信号成分のうち、x1軸に平行な成分を光信号S1とし、y1軸に平行な成分を光信号S2とする。
このとき、光信号S1と光信号S2との間には、複屈折媒体10が有する複屈折のために、その光搬送波としての相対的な位相差θ、ならびにその波束としての相対的な群遅延時間差ΔTが生じる。複屈折媒体10における単位長さ当たりの群遅延時間差ΔTは、光通信の分野では、偏波モード分散と呼ばれることもある。
光搬送波としての相対的な位相差θは、次式(1)で与えられる。
θ=(2π/λs)ΔnL (1)
ここで、λsは光信号の波長、Δnは複屈折媒体10の有する複屈折(正常光線に対する屈折率と異常光線に対する屈折率との差)、Lは複屈折媒体10の長さである。
一方、群遅延時間差ΔTは、複屈折媒体10が光信号の波長において透明であれば、次式(2)で与えられる。
ΔT=(Δn/c)L (2)
ここで、cは真空中の光速である。
複屈折媒体10の長さLは、群遅延時間差ΔTが光信号S0の信号時間間隔Tbit-rateの自然数倍、nTbit-rateとなるように設定する。すなわち、次式(3)で与えられるように設定する。
ΔT=n Tbit-rate (3)
複屈折媒体10の長さLは、具体的には次のように設計すればよい。一例として、複屈折媒体10を光通信の分野で一般的に用いられている、PANDAファイバ(Polarization-maintaining and Absorption reducing Fibers)を利用した場合を考える。
PANDAファイバの複屈折Δnは、波長が1.5μm帯では、その典型的な値は3×10-4程度である。ここで、複屈折Δnの値は、光ファイバの場合、モード複屈折と呼ばれることもある。この値を用いて式(2)から、PANDAファイバの偏波モード分散の値は、1 ps/m程度となる。いま、入力光信号のビットレートとして40 Gbit/sとすると、Tbit-rateは、25 psとなる。従って、n=1、すなわち偏波群遅延時間差を1ビット分の時間差としたときの、式(3)を満足するPANDAファイバの長さは25 mとなる。PANDAファイバは、直径5 cm程度のボビン等に巻いても特性の劣化はほとんど起こらないことが知られている。また、PANDAファイバの芯線のサイズは直径400μm程度である。従って、25 m程度の長さのPANDAファイバが装置に付加されても、装置サイズが問題視されるほど大型化することはない。また、既に市販されているPANDAファイバをそのまま利用できるので、複屈折媒体10の製造コストも低く抑えることが可能である。
複屈折媒体10には、光学結晶を利用することも可能である。また、この光学結晶は、一軸性結晶であっても、二軸性結晶であっても、複屈折によって生じる偏波群遅延時間差が、式(3)を満足するものであれば、何れでもかまわない。複屈折媒体10に使用する、光学結晶の正常光線に対する屈折率と異常光線に対する屈折率との差(複屈折)が大きいほど、複屈折媒体10のコンパクト化ができる。最近、光通信用の光アイソレータ材料として用いられる、イットリウム・バナデート(YVO4)結晶を用いて複屈折媒体10を形成する場合、複屈折媒体10の長さLがどの程度になるかを見積もってみる。
波長が1.55μmである光に対するYVO4結晶の屈折率は、正常光線に対して1.9447、異常光線に対して2.1486である。複屈折Δnは、Δn=2.1486-1.9447=0.2039となる。入力光信号のビットレートとして40 Gbit/s(Tbit-rate=25 ps)、n=1とすると、式(2)及び(3)から、YVO4結晶の長さは、36.8 mmとなる。すなわち、YVO4結晶を用いて複屈折媒体10を形成すれば、結晶長を36.8 mmに設定すればよい。この値は、上述したPANDAファイバを利用する場合の25 mに比べて約1/700である。従って、YVO4結晶を用いて複屈折媒体10を形成すれば、PANDAファイバを利用して形成する場合と比較して、素子サイズを小型化できる。
式(3)から分かるように、必要とされる群遅延時間差ΔTは、入力光信号のビットレートの増大に伴い、すなわち、Tbit-rateの減少に伴って減少する。従って、ビットレートが高い入力光信号に対するほど、複屈折媒体10の素子長を短くでき、装置サイズを小型化できる。このことは、この発明の光クロック信号再生装置が、高ビットレートの光信号への応用を想定していることを鑑みると、適用される光信号のビットレートが高くなるに従って、装置サイズの小型化が図られるということは、産業上の利用の観点から好ましいことである。
光信号S1と光信号S2とは、それぞれ第1偏波依存型光アイソレータ1に入力される。このとき、第1偏波依存型光アイソレータ1を通過する偏波方向をw1軸の方向とし、これと直交する偏波方向をz1軸の方向とすると、これらの軸方向は、光信号S1及び光信号S2の偏波方向とそれぞれ45°の角度をなす。このことは、第1偏波依存型光アイソレータ1を通過することができる光信号は、光信号S1と光信号S2とを合成して得られる、w1軸と平行な偏波方向の光信号S4のみであることを意味している。一方、光信号S1と光信号S2とを合成して得られる、z1軸と平行な偏波方向の光信号S3は、第1偏波依存型光アイソレータ1を通過できずに遮断される。ここで、第1偏波依存型光アイソレータ1から出力されるw1軸と平行な偏波方向の光信号S4を、説明の便宜上、第1偏波依存型光アイソレータ1から出力された後は、光信号S5と記載する。
第1偏波依存型光アイソレータ1から出力される光信号S5は、結合レンズ2を介してMLLD 100の光共振器端面L1の側からMLLD 100に入力される。第1偏波依存型光アイソレータ1を通過して出力される光の偏波方向は、MLLD 100の発振偏波方向(TE偏波、偏波面の方向がa1軸方向)と垂直な偏波方向(TM偏波、偏波面の方向がb1軸方向)と一致するように設定されているため、MLLD 100に入力される光信号S5の偏波方向は、入力光信号S0の偏波状態にかかわらず、常にMLLD 100の発振偏波方向と垂直な、TM偏波とすることができる。
第1偏波依存型光アイソレータ1を通過して出力される光の偏波方向を、MLLD 100の発振偏波方向と垂直な偏波方向と一致するように確実に設定するには、光入力部28を、偏波保持光学系として構成すればよい。また、光入力部28の光経路の何れかの位置に偏波面コントローラを挿入することで容易に実現できる。ここで用いる偏波面コントローラは、光入力部28において、局所的に固定されて配置されている第1偏波依存型光アイソレータ1、結合レンズ2、及び複屈折媒体10を通過する光信号の偏波を制御するだけである。そのため、偏波面コントローラは、光入力部28を製造する段階で、結晶軸の方向等が調整された状態で固定しておけば良く、装置の使用に当たって常に調整する必要はない。
一方、第1の実施形態の光クロック信号再生装置において使われる偏波面コントローラは、外部の光伝送網等を伝播してきた任意偏波の入力光信号を、一定の偏波常態に調整する役割を果たすものであるから、任意偏波の入力光信号に対応するためには、可変型の偏波面コントローラでなければならない。そのため、この偏波面コントローラの制御用電気回路等が必要とされ、装置が大型化する。
以上説明した様に、第2の実施形態の光クロック信号再生装置によれば、入力光信号S0の偏波状態に係わらず、MLLD 100には常にTM偏波の光信号S5が入力されることになる。更に、以下に述べるステップの効果が加わることによって、MLLD 100においては、光クロック信号再生効果が発現し、光クロック信号が再生される。
(B)光信号S5をMLLDに入力して再生光クロック信号C10を生成するステップ
上述したステップAによって、入力光信号S0の偏波状態に係わらず、MLLD 100に入力される光信号S5を常にTM偏波とすることが可能となった。ここで用いているMLLD 100は、第1の実施形態の光クロック信号再生装置が具えるMLLD 100と同じものである。そして、MLLD 100においては、TM偏波の光信号を入力すれば、光クロック信号再生動作が実現することは、既に述べたので、ここではそれに係る説明を省略する。
検討すべき事項として残されている点は、光信号S5の時間波形が、入力光信号S0の偏波状態によってどのように変化し、またそれが光クロック信号再生動作にどのように影響するかについてである。
図14を参照して、この点について説明する。図14は、第2の実施形態の光クロック信号再生装置における、入力光信号及び再生光クロック信号の時間波形、並びに偏波状態の説明に供する図である。図14には、光ファイバ伝送網等を伝送されてきた入力光信号S0がMLLD 100に入力される光信号S5に変換されるまでの、各光信号S0からS5の偏波状態と、その時間波形を模式的に示してある。
図14は、破線の四角形で囲って、上から下に向けて順に、x1軸-y1軸に平行な偏波成分、z1軸-w1軸に平行な偏波成分、及びa1軸-b1軸に平行な偏波成分を見やすい形で示してある。各図において、光信号を構成する光パルスを太い線分で模式的に示してあり、横軸は時間軸である。y1軸、w1軸及びb1軸に平行な偏波成分については、時間軸に対して垂直に光パルスを示す太い線分で示してある。また、x1軸、z1軸及びa1軸に平行な偏波成分については、x1軸、z1軸及びa1軸に平行に光パルスを示す太い線分を示してある。
図14では、入力光信号S0として「10110101」で表される8ビットの信号を想定して示してある。ここで1ビット分の信号で「1」で示されるビットは、時間軸上にピーク強度が有意な値を有する光パルスが存在することを意味し、「0」で示しされるビットは、時間軸上にピーク強度が十分弱い光パルスが存在するか、又は全く光強度が0であり、光パルスが存在しないことを意味する。一般的に、光デジタル通信の分野においては、このような光パルスの時間軸上における存在及び非存在を以って2値デジタル信号の判別が行われる。
ここで、入力光信号S0の「1」のビットに相当する光パルスが、複屈折媒体10に入力され、その複屈折媒体10のx1軸方向の光軸に平行な成分のピーク強度がIE、y1軸方向の光軸に平行な成分のピーク強度がIMであるとする。光パルスとしてのトータル強度はIE+IMで与えられる。入力光信号の偏光消光比(Polarization Extinction Ratio、以後PERということもある。)を、IE/IMと定義する。
入力光信号S0は偏波不定信号であり、このことは、任意のPERを取り得ることを意味している。また、これら直交する光信号成分間の光搬送波としての位相関係も不定であるから、直交する光信号成分間の光搬送波としての相対位相差Φは、0から2πの範囲の任意の値を取り得る。また、入力光信号の偏波状態は、上述したPER、及び相対位相差Φによって規定することができる。
光クロック信号再生動作が入力光信号の偏波状態に無依存であるということは、任意のPER、相対位相差Φの値に対して、再生される光クロック信号の時間ジッタに大きな差が生じず、常にある規定値以下の値が実現されることを意味する。
入力光信号S0の強度時間波形IS0(t)を次式(4)で与えられるものとする。
IS0(t)=(IE+IM)I(t) (4)
ここで、I(t)は、ピーク強度を1に規格化した信号強度時間波形を表す関数である。このとき、光信号S1及び光信号S2の強度時間波形IS1(t)及びIS2(t)は、それぞれ、式(5a)及び式(6a)で与えられる。
IS1(t)=IEI(t) (5a)
IS2(t)=IM I(t-nTbit-rate) (6a)
また、光信号S1及び光信号S2の振幅時間波形で表すと、それぞれ、式(5b)及び式(6b)で与えられる。
[IE I(t)]1/2 (5b)
[IM I(t-nTbit-rate)]1/2exp(j(Φ+θ)) (6b)
ここで、jは虚数単位である。
MLLD 100に入力される光信号S5の強度時間波形は、ステップAでの議論に従えば、次式(7)で与えられる。
ここで、θは、上述したように複屈折媒体10において生じる光信号の光搬送波としての相対位相差である。これは、光信号S10がもつ初期相対位相差Φと同じ項に和の形で入っているので、以下の議論では、θの変化をΦの変化と独立に扱う必要はない。すなわち、入力光信号S0のもつ初期相対位相差Φの変化に関する議論は、実際にはθの変化を含むΦ+θの変化についての議論となる。すなわち、Φ+θがとり得る0から2πまでの任意の値について、光クロック信号再生動作の安定性が担保されれば、第2の実施形態の光クロック信号再生装置が目的としている効果は達成される。
またこのとき、θの任意の値について光クロック信号再生動作の安定性が担保されるということは、光クロック信号再生装置の構成において、光信号の光搬送波としての位相制御まで含めた、高精度な複屈折媒体10の素子長の制御は必要ないことを意味する。このことは、第2の実施形態の光クロック信号再生装置が目的としている効果を実現するために、高精度な制御回路及び制御システムが不要であることを意味し、安価な光クロック信号再生装置を提供することが可能となることを意味する。
なお、上記の光信号S0からS5の時間波形に関する議論では、簡単のために、複屈折媒体10及び第1偏波依存型光アイソレータ1において発生する過剰光損失(偏波面のずれ以外で生じる光損失)を無視した。
ここで、式(7)に基づいて、光信号IS5(t)の時間波形について考察すると、以下 (i)から(iii)に記載する結論が得られる。
(i)相対遅延時間差が0(すなわち、n=0)で、IE=IM(すなわち、PER=1)、かつΦ+θ=0である場合、光信号S1からの寄与と光信号S2からの寄与が完全に相殺されてしまい、IS5(t)=0となる。
(ii)0でない相対遅延時間差が与えられた場合(すなわち、n≠0)、光信号S1が「1」、光信号S2が「0」である状態のとき、その干渉波形(合成波形)である光信号S5のこれに対応するビットには、ピーク強度(IT)がIE/2の「1」に相当する光パルスが生成される。逆に、光信号S2が「1」、光信号S1が「0」である状態のとき、光信号S5のこれに対応するビットには、ピーク強度(IT)がIM/2の「1」に相当する光パルスが生成される。また、光信号S1及び光信号S2が共に「0」である状態のとき、光信号S5のこれに対応するビットは、「0」に相当する状態となる。一方、光信号S1及び光信号S2が共に「1」である状態のとき、光信号S5のこれに対応するビットには、ピーク強度(IT)が(IE/2)+(IM/2)-(IEIM)1/2cos(Φ+θ)である「1」に相当する光パルスが生成される。ただし、光信号S1及び光信号S2が共に「1」である状態であり、IE=IM(すなわち、PER=1)、かつΦ+θ=0である条件の下では、光信号S5のこれに対応するビットは、「0」に相当する状態となる。
(iii)相対遅延時間差等を与えるパラメータの1つであるnは、1以上の整数でなければならない。つまり、nが1/2等の有理数、あるいは21/2等の無理数であってはならない。nが1以上の整数である場合、PERの値や(Φ+θ)の値が変化しても、光信号S5の「1」で与えられる光パルスは、1つの「1」で与えられる光パルスを規準として、それからTbit-rateの整数倍だけ離れた時間軸上の位置に規則的に配列される。それに対してnが1以上の整数でない場合、PERの値や(Φ+θ)の値によって、光信号S5の「1」で与えられる光パルスの時間軸上での位置が、Tbit-rateの整数倍とは異なった位置に不規則に配置されることになる。その結果、再生される光クロック信号に、PERの値や(Φ+θ)の値に応じた時間(位相)ずれが生じる事態となる。
上述の(i)で指摘したように、光信号S1と光信号S2との間に相対遅延時間差を与えないと、IE=IM(すなわち、PER=1)、かつΦ+θ=0である条件の下で、光信号S5は完全に消失してしまう。このような条件下では、何らの光信号もMLLD 100に入力されないので、光クロック信号再生動作は起こらない。このような事態を避けるために、光信号S1と光信号S2との間に互いに数ビット分の相対遅延時間差を与える必要がある。
また、上述の(iii)で指摘したように、相対遅延時間差は信号時間間隔(Tbit-rate)の整数倍として、再生される光クロック信号に位相ずれが生じるのを防がなければならない。
また、上述の(ii)における指摘事項は、次のことを意味する。まず、図3に示したように、光信号S5の信号パターン、すなわち「1」であるビット及び「0」であるビットの配列として規定される信号パターンは、入力光信号S0の信号パターンとは異なっている。しかしながら、この事実は、光クロック信号を再生するという観点からは何ら問題ではない。すなわち、光クロック信号の再生における最終目的は、時間軸上で連続する光パルス列を生成することが目的であるからである。
上述の(ii)における指摘事項は、更に、次のことを意味する。光信号S5の信号パターンの構成要素である「1」を与える光パルスのピーク強度は一定ではなく、レベル変動を本質的に伴うということである。すなわち、入力光信号S0が、その信号パターンの構成要素である「1」を与える光パルスのピーク強度のレベル変動のない光信号であっても、光信号S5は、その光パルスのピーク強度がレベル変動を伴った光信号となる。このレベル変動の大きさは、式(7)から、入力光信号S0のPERの値、及び位相差Φ、θの値に依存する。さらには、それに伴い、光信号S5の時間平均強度も入力光信号S0のPERの値、及び位相差Φ、θの値に依存して変動する。
上述した(i)から(iii)における指摘事項が、MLLD 100による光クロック信号再生動作に影響しないためには、第2の実施形態の光クロック信号再生装置が、以下(a)及び(b)に記載する特徴を具えていれば良い。
(a)光クロック信号再生動作において、入力光信号を構成する光パルスのピーク強度変動を吸収できる強度雑音吸収効果を有していること。
(b)光クロック信号再生動作において、実用上において十分に低い時間ジッタで光クロック信号の再生が可能である、入力光信号の平均強度変動に対する十分なマージンを有していること。
(a)に記載した強度雑音吸収効果について、この発明の発明者らは、既にモード同期半導体レーザによる光クロック信号再生における強度雑音吸収効果について検証を行っている(非特許文献4を参照)。非特許文献4によれば、同文献中の図9及び図10に示された実験結果によって、±25%の強度雑音を有する光信号がモード同期半導体レーザに入力しても、強度ゆらぎ、及び時間ジッタの十分に小さい光クロック信号の再生に成功していることが示されている。
後述する実験結果が示すように、非特許文献4によって報告されている程度の強度雑音吸収効果が得られれば、第2の実施形態の光クロック信号再生装置においては十分であって、光信号S5の光パルスのピーク強度のレベル変動は十分吸収可能であるので、実用上問題となることはない。
(b)に記載の入力光信号の平均強度変動に対するマージンについて検討を進めるために、光信号S5の時間平均強度が、入力光信号S0のPERの値、及び位相(Φ+θ)の値によって、どの程度変化するかを見積もった。この見積りにおいて、光通信システムの評価で一般的に用いられる、擬似ランダム信号を入力光信号S0の信号パターンと仮定した。表1にその信号パターンを示す。この擬似ランダム信号は、7段の擬似ランダム信号であり、ビット数は27-1=127ビット、そのうち64ビットが「1」であり、残りの63ビットが「0」である。「1」を示すそれぞれの光パルスのエネルギーを1に規格化すると、入力光信号S0の規格化平均強度は、1×64=64となる。
図15(A)及び(B)を参照して、光信号S1と光信号S2のビットずれに対する、光信号S5の規格化平均強度の最大値と最小値のPER依存性を計算した結果について説明する。図15(A)及び(B)は、光信号S1と光信号S2のビットずれに対する、光パルスの規格化平均強度の最大値と最小値のPER依存性を示す図である。図15(A)は規格化平均強度の最大値について示す図であり、図15(B)は規格化平均強度の最小値について示す図である。図15(A)及び(B)の横軸は光信号S1と光信号S2のビットずれをずれ量nで目盛って示し、縦軸はそれぞれ規格化平均強度の最大値及び最小値を示している。図15(A)及び(B)に示す規格化平均強度の最大値及び最小値は、それぞれのPERに対して、位相(Φ+θ)の値を変化させたときの最大値及び最小値を示している。
図15(A)及び(B)に示すように、光信号S1と光信号S2のビットずれ量n=0のとき、規格化平均強度の最大値及び最小値は、それぞれ64及び0である。最大値64となるのは、PER=1、Φ+θ=πのときである。また、最小値0となるのは、PER=1、Φ+θ=0のときである。この最大値及び最小値は、同一信号パターンで同一ピーク強度の光信号S1及び光信号S2が、それぞれ逆位相及び同位相で干渉した結果得られたものである。第2の実施形態の光クロック信号再生装置によれば、光信号S1と光信号S2との間には数ビット分の時間遅延が与えられるため、上述のn=0において得られた結果については、以下の議論から省いてよい。
光信号S1と光信号S2のビットずれ量n≠0のとき、図15(B)に示すように、規格化平均強度のとり得る最小値は、16である。一方、図15(A)に示すように、規格化平均強度のとり得る最大値は48であり、これは最小値に対して3倍の大きさである。これら、規格化平均強度が最大及び最小となるのは、それぞれPER=1、Φ+θ=0、及びPER=1、Φ+θ=πのときである。今回行った計算結果においては、ビットずれ量n≠0のときにビットずれ量依存性が見られなかったが、これは、計算に用いた擬似ランダム信号パターンの特徴を反映した結果である。
以上の議論から、第2の実施形態の光クロック信号再生装置によれば、MLLD 100に入力される光信号S5の光信号の平均強度は、入力光信号S0の偏波状態に応じて、3倍(約4.8 dB)の幅を持って変動するものと想定される。このことは、光クロック信号再生動作が、4.8 dB以上の光信号の平均入力強度のマージンを有していれば、第2の実施形態の光クロック信号再生装置によって、光クロック信号が再生可能であることを意味している。すなわち、4.8 dB以上の光信号の平均入力強度のマージンを有するMLLD 100を用いることによって、入力光信号S0の偏波状態が変化しても、時間ジッタの小さい、安定した再生光クロック信号C0を出力させることが可能となる。
再生光クロック信号C0は、MLLD 100の光共振器端面R1から出力され、結合レンズ3、次いで第2偏波依存型光アイソレータ4を介して、再生光クロック信号C10として外部に出力される。再生光クロック信号C10には、第1の実施形態の光クロック信号再生装置の動作説明において既に記載したように、入力光信号S0の波長に係わらず、入力光信号成分は含まれない。また、光クロック信号再生動作は、広範な入力光信号波長に対して安定的に実現され、入力光信号波長が、可飽和吸収領域における吸収飽和が発現する範囲内であれば、時間ジッタ、光パルス幅、及び波長スペクトル特性に変化のない、光クロック信号を再生して出力することが可能である。
次に、第2の実施形態の光クロック信号再生装置の効果を実証するために行った実験結果について説明する。第2の実施形態の光クロック信号再生装置が具えるMLLDは、第1の実施形態の光クロック信号再生装置が具えるMLLDと同じものであるので、ここでもMLLD 100と表記する。
MLLD 100の利得領域に140 mAの直流電流を注入し、可飽和吸収領域に-1.09 Vの逆バイアス電圧を印加したとき、モード同期動作が発現した。このとき発生したモード同期光パルス列の光パルス幅は3.94 ps、中心波長は1551.54 nm、波長スペクトルの半値幅は0.82 nmであった。また、このとき発生したモード同期光パルス列の繰り返し周波数は、39.815 GHzであった。可飽和吸収領域側の端面から出力される光パルス列の平均強度は、光ファイバ結合出力として、約1.60 dBm、光ファイバ結合の結合損失は、5 dB程度であった。
入力光信号としては、ビットレートが39.81312 Gbit/s、光パルス幅が4 psから6 psであるRZフォーマットの擬似ランダム光信号を利用した。この擬似ランダム光信号の擬似ランダム段数は31段(231-1)とした。また、入力光信号は、波長可変半導体レーザと2台のEA変調器を用いて発生させた。2台のEA変調器のうちの1台は光パルス列の生成用であり、もう1台は光信号生成用である。波長可変半導体レーザの波長を変化させることで、入力光信号の波長を変化させ、そのときの光クロック信号再生特性を評価した。
実験に用いた光クロック信号再生装置の構成は、図4に示した第1の実施の形態の光クロック信号再生装置の偏波依存型光サーキュレータ5の前段に複屈折媒体を付加した構成とした。すなわち、入力光信号は、複屈折媒体、偏波依存型光サーキュレータ5、ファラデー回転子6を介して、MLLD 100の可飽和吸収領域側の端面L1から入力させた。また、MLLD 100の可飽和吸収領域側の端面L1から出力される再生された光クロック信号を、ファラデー回転子6、偏波依存型光サーキュレータ5を介して出力させた。
この実験では、複屈折媒体として、市販のPANDAファイバを利用した。PANDAファイバの長さは約19.5 mとした。偏波群遅延時間差ΔTは約25.1 psで、ビットレート39.81312 Gbit/sの入力光信号の1ビット遅延に相当する遅延量に設定した。
また、比較のために、複屈折媒体を用いず、入力光信号をそのままMLLD 100に入力して、光クロック信号を再生させた評価を合わせて行った。この比較実験においては、任意偏波の入力光信号をMLLD 100に入力させるために、偏波無依存型の光サーキュレータを用いた。
まず、はじめに、光クロック信号再生動作の入力光信号強度に対する許容度を評価した。この評価は、入力光信号の偏波状態をTM偏波に固定して行った。図16(A)から(C)を参照して、この評価結果について説明する。
図16(A)から(C)は、再生光クロック信号の時間ジッタの入力光信号強度依存性を示す図である。各図において、横軸は入力光信号のMLLD 100への注入光強度をdBm単位で目盛って示してあり、縦軸は時間ジッタの値をps単位で目盛って示してある。図16(A)は入力光信号の波長が1540 nmである場合であり、図16(B)は入力光信号の波長が1550 nmである場合であり、図16(C)は入力光信号の波長が1560 nmである場合である。
図16(A)から(C)によれば、入力光信号の波長に係わらず、注入光強度が0 dBmより大きくなると、時間ジッタの低減は飽和、すなわち、時間ジッタの値がこれ以上小さくならなかった。入力光信号の波長が、1540 nm、1550 nm、及び1560 nmのとき、それぞれ注入光強度が、+0.6 dBmから+7.6 dBm(強度の範囲は7.0 dB)、+1.6 dBmから+7.6 dBm(強度の範囲は6.0 dB)、及び+2 dBmから+7.6 dBm(強度の範囲は5.6 dB)の範囲で、時間ジッタは0.3 ps程度に安定化された。すなわち、注入光強度が、これらの値の範囲にあれば、時間ジッタの大きさが0.3 ps程度の安定した光クロック信号再生動作が実現することが確認された。
この例で示した、注入光強度、すなわち入力光信号強度の範囲は、上述した第2の実施形態の光クロック信号再生装置の駆動に必要とされる許容範囲4.8 dBを超えている。このことによって、MLLD 100を利用することによって、第2の実施形態の光クロック信号再生装置は、実用上問題なく動作することが実証された。
次に、入力光信号のTE/TM偏波成分の強度比の変化に対する、再生光クロック信号の時間ジッタと、波長スペクトルにおける入力光信号成分の抑圧比を測定した結果について、図17(A)から(C)を参照して説明する。
図17(A)から(C)は、再生光クロック信号の時間ジッタ及び入力光信号抑圧比の、入力光信号のTE/TM比依存性を示す図である。図17(A)は入力光信号の波長が1540 nmである場合であり、図17(B)は入力光信号の波長が1550 nmである場合であり、図17(C)は入力光信号の波長が1560 nmである場合である。各図において、横軸は入力光信号のTE/TM偏波成分の強度比をdB単位で目盛って示してあり、縦軸は時間ジッタの値をps単位で目盛って示してある。また、各図において、白抜きの丸及び三角は、複屈折媒体を挿入していない場合、黒塗りの丸及び三角は、複屈折媒体を挿入した場合を、それぞれ示している。
図17(A)に示すように、入力光信号の波長が1540 nmであるとき、複屈折媒体の有無に係わらず、入力光信号のTE/TM偏波成分の強度比を変化させても、時間ジッタの変化は小さい。これは、ここで用いたMLLD 100は、波長1540 nmの近傍では、利得領域の光学利得が低く、また、可飽和吸収領域での光吸収が大きいため、光共振効果が抑制されたためである。更に、可飽和吸収領域が、伸張歪を導入された量子井戸を用いて構成されているため、入力光信号による光吸収係数の変調の偏波依存性が抑制されたためである。
しかしながら、複屈折媒体を挿入しない場合、再生される光クロック信号に含まれる入力光信号成分の抑圧比は-14 dB程度と高い値であり、歪の無い良好な再生光クロック信号を得るためには、別途波長フィルタが必要であることを示している。一方、複屈折媒体を用いた場合、光クロック信号に含まれる入力光信号成分の抑圧比は-50 dB程度まで低減されている。このことは、別途波長フィルタを用いずとも、歪の無い良好な再生光クロック信号が得られることを示している。
図17(B)及び(C)に示すように、入力光信号波長が1550 nm及び1560 nmである場合は、第2の実施形態の光クロック信号再生装置の効果がより一層明確に現れた。すなわち、複屈折媒体を用いない場合、時間ジッタは、大きな入力光信号のTE/TM偏波成分の強度比依存性を示した。これは、光共振による多重変調効果、もしくは光注入同期現象の発現によって、入力光信号の偏波方向がレーザ発振偏波と一致するTE偏波であるときに、入力光信号が低い強度であっても、光クロック信号再生動作が得られることによる。また、光クロック信号に含まれる入力光信号成分の抑圧比も、-10 dBから-15 dBと、高い値を示した。
これに対して、複屈折媒体を用いた場合は、入力光信号の偏波状態が変化しても、再生光クロック信号の時間ジッタは、0.3 sp前後でほぼ変化が無く、かつ同時に、-40 dB程度の低い入力光信号成分の抑圧比が得られた。すなわちこの場合、入力光信号の偏波状態が変化しても時間ジッタに変動が無く、かつ、入力光信号成分の除去のための波長フィルタを用いずとも、歪の無い良好な再生光クロック信号が得られた。
図18(A)及び(B)を参照して、第2の実施形態の光クロック信号再生装置による、再生光クロック信号の特性について説明する。図18(A)及び(B)は、第2の実施形態の光クロック信号再生装置による、再生光クロック信号の特性を示す図である。図18(A)は光パルス幅の入力光信号のTE/TM比依存性を示す図であり、図18(B)は波長スペクトル幅の入力光信号のTE/TM比依存性を示す図である。各図とも横軸は、入力光信号のTE/TM偏波成分の強度比をdB単位で目盛って示してある。図18(A)の縦軸は光パルス幅の値をps単位で目盛って示してあり、図18(B)の縦軸は波長スペクトル幅の値をnm単位で目盛って示してある。
図18(A)及び(B)に示すように、入力光信号の偏波状態及び波長に係わらず、光パルス幅及び波長スペクトル幅は、ほぼ一定である。このことから、第2の実施形態の光クロック信号再生装置による光クロック信号の再生動作が、入力光信号のTE/TM比に依存せず安定して実現されることが確かめられた。
以上説明したように、第2の実施形態の光クロック信号再生装置によれば、第1の実施形態の光クロック信号再生装置によって得られる効果に加えて、入力光信号の偏波状態に依存することなく、安定して光クロック信号を再生することが可能である。
なお、第1及び第2の実施形態の光クロック信号再生装置の構成及び動作説明において、TE偏波発振をするMLLDを用いる場合を取り上げた。しかしながら、TM偏波発振をするMLLDを用いても、この発明の効果は、同様に得られる。
また、光クロック信号再生動作を行うMLLDとして、可飽和吸収領域を有し、この可飽和吸収領域がモード同期動作を生じさせるためのモードロッカーとして動作する、いわゆる受動モード同期半導体レーザを用いることを前提に説明した。しかしながら、可飽和吸収領域を有しないタイプのモード同期半導体レーザであっても、光信号を入力することで、光信号を入力したレーザ共振器端面近傍に配置された利得領域の光学利得、光吸収、あるいは屈折率に変調が生じ、それによって光クロック信号再生動作を生じさせることが可能であれば、この発明の光クロック信号再生装置を構成することは可能である。
<光クロック信号再生方法>
以上説明した様に、第1及び第4発明の光クロック信号再生装置によれば、光入力部において、モード同期半導体レーザの発振光の偏波方向と直交した偏波方向の入力光信号を、モード同期半導体レーザに入力する入力光信号入力ステップが実行される。MLLD 100において、モード同期半導体レーザのモード同期動作によって光パルス列を発生させて出力させる光パルス列生成ステップが実行される。光出力部において、光パルス列の、モード同期半導体レーザの発振光の偏波方向と等しい偏波方向の光成分のみを透過させることによって、再生光クロック信号を生成して出力する再生光クロック信号生成ステップが実行される。
また、第2、第3、第5及び第6発明の光クロック信号再生装置によれば、光入出力部において、上述の入力光信号入力ステップ及び再生光クロック信号生成ステップが実行される。そして、MLLD 100において、モード同期半導体レーザのモード同期動作によって光パルス列を発生させて出力させる光パルス列生成ステップが実行される。