(A)第1の実施形態
以下、本発明の光クロック信号再生装置を適用した第1の実施形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
(A−1)第1の実施形態の構成
図1は、第1の実施形態の光クロック信号再生装置1Aの構成を説明するブロック構成図である。
図1において、第1の実施形態の光クロック信号再生装置1Aは、モード同期半導体レーザ100、複屈折媒体30、偏波依存型光アイソレータ31、結合レンズ32及び33、光アイソレータ34、波長フィルタ35、を少なくとも有して構成される。
図1において、S30は、ビットレートがfbit−rate(bit/s)であり、偏波状態が不定の入力光信号(信号光)を示す。ここで、ビットレートに対応する周波数をビットレート周波数として定義とする。すなわち、ビットレートfbit−rate(bit/s)の入力光信号に対応するビットレート周波数はfbit−rate(Hz)とする。また、入力光信号の信号時間間隔Tbit−rateは、ビットレート周波数の逆数で与えられる。すなわち、ビットレートfbit−rate(bit/s)の入力光信号の信号時間間隔Tbit−rateは、1/fbit−rate(s)である。
モード同期半導体レーザ100は、共振器端面R1、L1を有し、モード同期動作を生じたときに発生する光パルス列の繰り返し周波数が、入力光信号のビットレート周波数に近似した受動モード同期半導体レーザである。ここで、受動モード同期半導体レーザの繰り返し周波数が、入力光信号のビットレート周波数に近似した状態とは、入力光信号のビットレート周波数と、受動モード同期半導体レーザが生成する光パルス列の形の発振光の繰り返し周波数との差が、周波数引き込み現象が発現する程度に小さいことをいう。
また、モード同期半導体レーザ100は、望ましくは、多電極構造を有する半導体レーザとする。さらに、モード同期半導体レーザ100は、実用上の動作安定性を担保し、かつ、装置をより低コストに提供するという観点から、結合レンズなどを用いた外部共振器を構成しない、集積型半導体レーザとするのが望ましい。
図2は、モード同期半導体レーザ100の構成例を示す図である。図2のモード同期半導体レーザ100は、2電極受動モード同期半導体レーザの例を示す。モード同期半導体レーザ100の素子構造としては、レーザ発振を得るための利得領域103と、モード同期動作のための光スイッチとして動作する可飽和吸収領域102とから構成される。利得領域103には、p側電極107とn側共通電極108を介して定電流源110から電流印加され、また、可飽和吸収領域102には、p側電極106とn側共通電極108を介して定電圧源109から逆バイアス電圧が印加されることで、受動モード同期動作が生じ、素子の共振器周回周波数の自然数倍に近似した繰り返し周波数の光パルス列を発生する。
受動モード同期半導体レーザ100の素子構造は、図2に示された構造に限定されない。すなわち、受動導波路領域や、分布ブラッグ反射鏡領域が集積化された構造でも第1の実施形態の効果を得ることができる。また、パルス特性の向上などを目的に、利得領域を複数に分岐した構造でも構わない。また、これら利得領域、可飽和吸収領域、受動導波路領域、分布ブラッグ反射鏡領域の配置も特に限定されない。例えば、モード同期半導体レーザ内の光パルスの伝播方向に対して、可飽和吸収領域−利得領域−受動導波路領域の順に配置された素子構造を有していても良いし、可飽和吸収領域−受動導波路領域−利得領域の順に配置された素子構造を有していても良い。またその材料系も、所望とする動作波長によってInP系、GaAs系など、様々な化合物半導体を用いた受動モード同期半導体レーザに適用できる。さらにまた、用いる基板もnドープ基板に限定されず、pドープ基板でも構わない。
また、以下で、光データ信号(以下で単純に光信号と呼ぶこともある)や光クロック信号の偏波方向及びその信号波形を模式的に説明する必要がある場合、紙面に垂直な偏光方向を有する直線偏波光をTE偏波光と定義する。また、このTE偏波光と直交する、紙面内の偏光方向を有する直線偏波光をTM偏波光と定義する。また、受動モード同期半導体レーザ100の発振偏波方向はTE偏波と定義する。
複屈折媒体30は、複屈折光学結晶や、複屈折光ファイバなどの、複屈折を有する複屈折媒体である。複屈折媒体30としては、例えば、一軸性結晶、二軸性結晶、いずれのタイプの光学結晶でも使用できる。また、複屈折媒体30としては、光学結晶である必要はなく、先に述べたような複屈折光ファイバなどのアモルファス材料や、又は高分子配向膜でも、後に述べる条件を満足するものであれば、広く適用することができる。
複屈折媒体30は、後述する理由によって、その直交する光軸間の屈折率差によって生じる、直交した偏波の信号光間での偏波遅延時間差の総量が、n×Tbit−rate(n:ゼロでない整数)となるように、複屈折媒体30の長さが調整されているものとする。また、複屈折媒体30としては、入力光信号S30の波長において、光損失がなるべく小さい、透明な媒体とするのが望ましい。あるいは、エルビウム添加複屈折光ファイバなどの光学利得がある複屈折媒体としても良い。
偏波依存型光アイソレータ31は、入力される光のうち、一定の偏波方向の光のみを通過し、さらに光が逆行して入力されるときには、出力光が全て遮断される、いわゆる偏波依存型の光アイソレータである。このような偏波依存型光アイソレータ31としては、従来から良く知られているように、例えば、偏光プリズム、ファラデー回転子、偏光板を用いて容易に作製することができ、また、これらを用いて作製した既存の光アイソレータを適用することができる。
ここで、偏波依存型光アイソレータ31を通過する光の偏光方向と、複屈折媒体30の光軸方向と、モード同期半導体レーザ100の発振偏波方向とは、図3に示すような関係とする。
すなわち、偏波依存型光アイソレータ31を通過して出力される光(図中で、光信号S35の偏光方向と平行な光)の偏光方向は、モード同期半導体レーザ100の発振偏波方向(TE偏波方向、al軸方向)と一致させる。また、偏波依存型光アイソレータ31を通過して出力することが許される光が、偏波依存型光アイソレータ31に入力されるときの偏光方向(z1軸方向)は、複屈折媒体30の直交する光軸方向(x1軸、y1軸)と互いに45°の角をなすように設定する。
結合レンズ32及び結合レンズ33は、モード同期半導体レーザ100の一方の共振器端面L1及び他方の共振器端面R1に設けられ、モード同期半導体レーザ100と光ファイバ等との間を結合するための結合レンズである。
以上のように、光部品30〜32を通過する光経路は、光部品30〜32も含めて偏波保持光学系で構成されることが望ましい。もしくは、光経路内の適当な箇所、例えば、複屈折媒体30と偏波依存型光アイソレータ31とを接続する箇所や、偏波依存型光アイソレータ31と結合レンズ32とを接続する箇所に、偏波面保持を制御する偏波面コントローラを挿入することでも第1の実施形態の効果を得ることはできる。
また、モード同期半導体レーザ100から出力される光クロック信号の光学経路には、反射戻り光による動作不安定性を回避するため、光アイソレータ34が挿入されるのが望ましい。この光アイソレータ34は、反射戻り光を遮断することができれば、先に述べた偏波依存型光アイソレータでも、あるいは、任意の偏波方向の光に対して一方方向にのみ通過する、いわゆる偏波無依存型の光アイソレータでも、どちらでも構わない。
また、モード同期半導体レーザ100から出力される光クロック信号の光学経路には、光クロック信号の波長成分のみを通過し、入力光信号の波長成分の光を遮断する、光フィルタ35を挿入するようにしてもよい。なお、光フィルタ35としては、光クロック信号の波長成分のみを通過させることがでれば、既存の光フィルタを適用することができる。
(A−2)第1の実施形態の動作
次に、第1の実施形態の光クロック信号再生装置1Aの動作を図面を参照して説明する。第1の実施形態の光クロック信号再生装置1Aの動作は、大別して、次の2つのステップにより実現される。
(A)偏波不定の入力光信号S30からTE偏波の光信号S35を得るステップ
(B)光信号S35を入力することで再生光クロック信号C31を発生するステップ。
まず、ステップ(A)の動作について、図面を参照して説明する。
図1において、光ファイバ伝送網等を通過してきた、不定偏波光である入力光信号S30が、複屈折媒体30に入力される。
入力光信号S30が複屈折媒体30に入力すると、光信号は、複屈折媒体30中の直交する光学軸x1、y1に平行な偏光成分に分離されて複屈折媒体30内を伝播した後、複屈折媒体30から出力する。複屈折媒体30から出力される光信号のうち、光学軸x1に平行な偏光成分を光信号S31とし、光学軸y1に平行な偏光成分を光信号S32とする。
このとき、光信号S31と光信号S32との間には、複屈折媒体30の複屈折機能により、それぞれの光搬送波に相対的な位相差(θ)及びそれぞれの波束における相対的な群遅延時間差(ΔT)が生じる。なお、単位長さ当たりの偏波群遅延時間差は、光通信の分野で偏波モード分散と呼ばれることもある。
ここで、光信号S31及び光信号S32の光搬送波の相対的な位相差θは、次式で表される。
ここで、λsは入力光信号の波長、Δnは複屈折媒体30の有する複屈折、Lは複屈折媒体30の長さを示す。
一方、それぞれの波束における相対的な群遅延時間差ΔTは、複屈折媒体30が入力光信号の波長において透明であるならば、次式で与えられる。
ここで、cは真空中での光速を示す。
ここで、複屈折媒体30の長さは、後述するステップ(B)の説明する理由により、ΔTが入力光信号S30の信号時間間隔の自然数倍、すなわちnT
bit−rate(n:自然数)、となるように設定する。
ここで、複屈折媒体30の長さ設計の方法の具体例を説明する。
例えば、複屈折媒体30として、光通信で一般的に用いられているPANDAファイバを適用した場合を考える。PANDAファイバのΔn(光ファイバの場合、モード複屈折と呼ばれる)は、波長1.5ミクロン帯の典型的な値として3×10−4程度である。
そうすると、式(2)より、PANDAファイバの偏波モード分散ΔTは、おおよそ1ps/m程度となる。今、入力光信号S30のビットレートが40Gb/sであるとすると、信号時間間隔Tbit−rateは25psとなる。
従って、n=1、すなわち偏波群遅延時間が1ビット分の時間差としたとき、式(3)を満足するPANDAファイバの長さは25mとなる。
PANDAファイバは、直径5cm程度のボビン等に巻いても著しい特性劣化がないことが知られている。また、その本線のサイズは直径400ミクロン程度とすることができる。
従って、この程度の長さのPANDAファイバが装置に付加されても、装置サイズを大型化するほどの実装上の問題を生じない。また、既に市場に広く出回っているPANDAファイバを用いることで、コスト増大も抑えることができる。
また例えば、複屈折媒体30として、光学結晶を適用した場合を考える。この場合、複屈折媒体30は、複屈折によって生じる偏波群遅延時間が式(3)を満足するものであれば、一軸性結晶又は二軸性結晶のいずれでも構わない。
このとき、複屈折の大きな光学結晶を用いることで、よりコンパクトな装置構成が可能となる。例えば、近年、光通信用の光アイソレータ材料として用いられる、イットリウム・バナデート(YVO4)結晶を用いた場合について試算してみる。
YVO4結晶の屈折率nは、波長1.55ミクロンにおいて、おおよそ1.9447(正常光に対して)、2.1486(異常光に対して)程度である。従って、複屈折Δnは、これらの差をとって、0.2039程度となる。
また、今、入力光信号S30のビットレートが40Gbit/s(Tbit−rate=25ps)であり、n=1とすると、式(3)を満足するYVO4結晶の長さは約36.8mmとなる。この値は、先に述べたPANDAファイバを使った例に比べ、長さが約1/700となる。すなわち、さらに小サイズな装置構成が可能となる。
また、式(3)から分かるように、入力光信号S30のビットレートが増加すると信号時間間隔Tbit−rateは減少するので、必要な群遅延時間差ΔTは減少する。すなわち、光信号のビットレートが高くなるほど、複屈折媒体30のサイズを小型化でき、その結果、装置サイズを小型化できる。
このことは、第1の実施形態の光クロック信号再生装置1Aが、高ビットレートの光信号への応用を想定していることに鑑みると、適用ビットレートが高くなるに従い装置サイズの小型化がなされ、産業応用上好ましい。
図1の動作の説明に戻る。複屈折媒体30から光信号S31及び光信号S32が出力されると、光信号S31及び光信号S32はそれぞれ、偏波依存型光アイソレータ31に入力する。また、偏波依存型光アイソレータ31から出力される光信号S35は、結合レンズ32を介して、モード同期半導体レーザ100に入力する。
ここで、偏波依存型光アイソレータ31を通過する通過偏光方向をz1とする。また、この通過偏光方向z1に直交する偏光方向をw1とする。このとき、z1及びw1の軸方向は、光信号S31及び光信号S32の偏光方向のそれぞれと45°の角をなす。
すなわち、このことは、偏波依存型光アイソレータ31を通過することができる光信号が、光信号S31及び光信号S32を合成して得られる、z1と平行な偏光方向の光信号S33のみであることを意味する。一方、光信号S31及び光信号S32を合成して得られる、w1と平行な偏光方向の光信号S34は、偏波依存型光アイソレータ31を通過できず、遮断される。
また、偏波依存型光アイソレータ31を通過することができる光信号の偏光方向は、モード同期半導体レーザ100の発振偏波方向(TE偏波方向)と一致する。そのため、偏波依存型光アイソレータ31から出力する光信号S35の偏光方向は、モード同期半導体レーザ100の発振偏波方向(TE偏波方向)に一致する。
つまり、モード同期半導体レーザ100に入力する光信号S35の偏波方向は、はじめの入力光信号S30の偏波状態にかかわらず、常に、モード同期半導体レーザ100の発振偏波方向に一致し、TE偏波光とすることができる。
このことは、光部品30〜32として、偏波保持光学系を用いたり、あるいは、これらの光経路の適当な位置に偏波面コントローラを挿入することで、容易に実現できる。
以上の結果、入力光信号S30の偏波状態にかかわらず、モード同期半導体レーザ100には常にTE偏波の光信号S35が入力することとなる。さらに、次に詳細に述べるステップ(B)の効果が加わることにより、モード同期半導体レーザ100においては、特許文献1及び非特許文献1の場合と同様に、光クロック信号再生効果が生じ、所望とする光クロック信号を得ることができる。
次に、ステップ(B)の動作について、図面を参照して説明する。
ステップ(A)で説明した処理によって、入力光信号S30の偏波状態にかかわらず、モード同期半導体レーザ100に入力される光信号S35は、常にTE偏波とすることができる。
次に考慮すべきことは、光信号S35の信号波形が、入力光信号S30の偏波状態によってどのように変化し、またそれがクロック信号再生動作にどのように影響するかである。
図4は、光信号及び光クロック信号の偏波状態と信号波形の変化の様子を模式的に示したものである。
図4において、入力光信号S30は<10110101>の8ビット信号とする。ここで、<1>はピーク強度が有意な強度を持つ状態であり、<0>は<1>のピーク強度に比べて充分に弱い(望ましくはゼロに近い)状態であることを意味する。一般的なデジタル通信では、このような信号強度の強弱を持って2値デジタル信号の判別を行う。
図4(A1)において、入力光信号S30は、<1>の状態であるとき、複屈折媒体30の光軸x1方向に平行な成分の光信号のピーク強度がIE、複屈折媒体30の光軸y1方向に平行な成分の光信号のピーク強度がIMであるとする。なお、トータルの<1>の信号強度は、IE+IMで与えられる。
このとき、入力光信号の偏光消光比(Polarization Extinction Ratio:以下、PERと呼ぶこともある)として、IEをIMで除した値、すなわちIE/IMとして定義する。入力光信号S30は偏波不定信号であるから、任意の偏光消光比をとり得る。
また、直交する光軸x1及び光軸y1のそれぞれに平行な光信号成分(すなわち信号成分IE及びIM)間の光搬送波の位相関係も不定であるから、これらの光信号成分間の光搬送波の相対位相差(Φ)は、0〜2πの任意の値をとり得る。
また、入力光信号S30の偏波状態は、上記の偏光消光比、光搬送波位相の相対位相差Φによって規定することができる。
クロック再生動作が入力光信号の偏波状態に無依存であるとは、任意の偏光消光比、相対位相差Φの値に対して、再生される光クロック信号の時間ジッタに大きな差が生じず、常にある規定値以下の値が実現できることを意味する。
入力光信号S30の強度時間波形I
S30(t)を次式で表すとする。
ここで、I(t)は、ピーク強度を1として規格化した、光信号の包絡線の時間波形である。
このとき、光信号S31及びS32の強度時間波形I
S31(t)、I
S32(t)はそれぞれ、(5)、(6)式のようになる。
モード同期半導体レーザ100に入力される光信号S35の強度時間波形I
S35(t)は、ステップ(A)での議論に従って、次のように表すことができる。
ここで、θは、先に述べた複屈折媒体30において生じる光搬送波位相の相対位相差である。このθは、式(7)に示すように、元の入力光信号S30のもつ初期相対位相Φと同じ項に和の形で入っているため、以下の議論で、θの変化をΦの変化と独立に取り扱う必要はない。つまり、入力信号S30のもつ初期相対位相Φの変化に関する議論は、実際には、θの変化を含んだΦ+θの変化についての議論となる。従って、Φ+θのとり得る任意の値(0から2πまでの任意の値)について、クロック再生動作の安定性が担保されれば、本発明の第1の実施形態で目的とする効果は達成される。またこのとき、θの任意の値について、クロック再生動作の安定性が担保されるということは、装置構成において、光搬送波位相の制御まで含めた、高精度な複屈折媒体30の長さ制御は、不要であるということを意味する。このことは、本発明の効果を実現できる装置のアッセンブリを安価に実行できることを意味する。
また、上式では簡単のために、複屈折媒体30、偏波依存型光アイソレータ31での過剰光損失を無視した。
ここで、式(7)に基づいて、光信号IS35(t)の波形について考察すると、次のことがわかる。
(i)相対遅延時間差がゼロ(n=0)の場合、IE=IM(偏光消光比=1)、かつ、Φ+θ=πであるとき、光信号S31からの寄与と光信号S32からの寄与が完全に相殺してしまい、IS35(t)=0となる。
(ii)相対遅延時間差が与えられた場合(n≠0)、光信号S31が<1>、光信号S32が<0>での状態であるとき、その干渉波形である光信号S35には、ピーク強度(IT)がIE/2の<1>信号が生じる。逆に、光信号S32が<1>、光信号S31が<0>での状態であるとき、光信号S35には、ピーク強度(IT)がIM/2の<1>信号が生じる。また、光信号S31、光信号S32がともに<0>での状態であるとき、光信号S35には<0>信号が生じる。一方、光信号S31、光信号S32がともに<1>での状態であるとき、光信号S35には、一般にピーク強度(IT)がIE/2+IM/2+(IEIM)2cos(Φ+θ)である<1>信号が生じる。ただし、光信号S31、光信号S32がともに<1>での状態であり、IE=IM(偏光消光比=1)、かつ、Φ+θ=πの条件下においては、光信号S35は<0>信号となる。
(iii)nは自然数でなければならない。つまり、nが1/2などの有理数、無理数であってはならない。nが自然数である場合、偏光消光比やΦ+θの値が変化しても、光信号S35の<1>信号は、1つの<1>信号を基準として、それからTbit−rateの整数倍だけ離れた時間位置に規則的に配置される。これに対して、nが自然数でない場合、偏光消光比やΦ+θの値によって、光信号S35の<1>の時間位置が、Tbit−rateの整数倍とは異なった時間位置に不規則に配置されるようになってしまう。その結果、発生する再生光クロック信号に、偏光消光比やΦ+θの値に応じた位相ずれが生じてしまう。
(i)から、光信号S31とS32間に相対遅延時間差を与えないと、IE=IM、Φ+θ=πの条件下で,光信号S35は完全に消失してしまう。このような条件下では、何らの光信号もモード同期半導体レーザ100に入力されないので、クロック再生動作は生じ得ない。この条件を避けるために、光信号S31とS32との間に互いに数ビット分の相対遅延時間を与える必要がある。
また(iii)から、遅延時間差は信号時間間隔の自然数倍として、発生する再生光クロック信号に位相ずれが生じるのを避ける必要がある。
また、(ii)は次のことを意味する。まず、図3からも判るように、光信号S35の信号パターン、すなわち、<1>であるビットと<0>であるビットの配列は、元の入力光信号S30の配列とは異なる。しかしながら、クロック再生における最終目的は連続したパルス列(あるいは正弦波)の出力を得ることが目的であるので、このような入力光信号の信号パターンの変化は実際上問題とはならない。
さらに、(ii)は次のことを意味する。すなわち、光信号S35における<1>のピーク強度が一定ではなく、レベル変動を本質的に伴うことである。すなわち、入力光信号S30が、<1>信号のピーク強度が揃った、強度揺らぎのないきれいな信号であっても、モード同期半導体レーザ100に入力される光信号S35は、<1>信号のピーク強度が不揃いな、いわゆる強度揺らぎの大きな光信号となる。式(7)からわかるように、この強度揺らぎは入力信号S30の偏光消光比及び相対位相差Φに依存する。またこのことは、入力信号S30の平均強度が一定であっても、光信号S35の平均強度は、入力信号S30の偏光消光比及び位相差Φ(ならびにθ)に依存して変化することを意味する。
そこで、第1の実施形態のモード同期半導体レーザ100は、上記のことがクロック再生動作に影響しないために、次のような特徴を有する。
(1)光クロック再生動作において、入力光信号のピーク強度変動を吸収できる、強度雑音吸収効果を有する。
(2)光クロック再生動作において、実用上十分に低い時間ジッタを実現できる、光信号の平均入力強度の許容変動値が、十分なマージンを有する。
(1)について、既に我々は、先にあげた非特許文献2において、モード同期半導体レーザを用いた全光クロック再生における強度雑音吸収効果を報告している。非特許文献2の図9及び図10に示された実験結果によれば、±25%の強度雑音を有する信号入力に対しても、強度揺らぎ、及び、時間ジッタの小さい、良好な光クロック信号再生に成功している。
後に詳細に述べる実験結果が示すように、この程度の強度雑音吸収効果があれば、本発明の第1の実施形態を実現するためには実用上十分であり、このことから、光信号S35における<1>信号のピーク強度変動は、本発明の第1の実施形態においてはそれを十分吸収できるため、問題とならない。
一方、(2)について検討を進めるために、光信号S35の平均強度が、入力光信号S30の偏光消光比及び位相(Φ+θ)によって、どれほど変化するかを見積もった。
ここでは、光通信システムの評価において一般的に用いられる、擬似ランダム信号を入力光信号S30の信号パターンと仮定した。表1にその信号パターンを示す。信号はいわゆる7段の擬似ランダム信号であり、ビット数は2
7−1=127ビット、そのうち64ビットが<1>信号で、残り63ビットが<0>信号である。
個々の<1>信号の信号エネルギーを1と規格化すると、入力光信号S30の規格化平均強度は1×64=64となる。
図5(A)と図5(B)に、光信号S31とS33のビットずれを横軸として、このときの光信号S35の規格化平均強度の最大値と最小値の偏光消光比(PER)依存性を計算した結果を示す。ここで、規格化平均強度の最大値と最小値は、それぞれの偏光消光比に対して、位相Φ+θを変化させたときの最大値と最小値である。
ビットずれn=0の場合、規格化平均強度の最大値は64、最小値は0である。最大値は偏光消光比=1及びΦ+θ=0のときに生じ、最小値は偏光消光比=1及びΦ+θ=πのときに生じる。この場合は、先にも述べたが、同じ信号パターンで同じピーク強度の光信号S31、S32がそれぞれ同相・逆相で干渉した結果である。ここでは光信号S31、S32間に数ビット分の時間遅延を与える場合を検討しているため、この結果は以下の議論から省いて考えるものとする。
また、ビットずれn≠0の場合、規格化平均強度の最小値は16である。一方、最大値は48であり、これは最小値に対して3倍の値である。最大値は偏光消光比=1及びΦ+θ=0のときに生じ、最小値は偏光消光比=1及びΦ+θ=πのときに生じる。図5(A)及び(B)に示す今回の結果ではビットずれnの変化に対する依存性は見られなかったが、これは評価に用いた擬似ランダム信号パターンの特徴を反映した結果である。
以上の議論より、第1の実施形態に係る光クロック信号再生装置1Aにおいて、モード同期半導体レーザ100に入力される光信号S35の平均強度は、入力光信号S30の偏光状態に応じて、3倍(概ね4.8dB程度)の幅をもって変動するものと想定される。従って、第1の実施形態のモード同期半導体レーザ100は、クロック再生動作が約4.8dB程度以上の光信号の平均入力強度のマージンを有するものを用いる。
また、以上の議論から、そのクロック再生動作が、約4.8dB程度以上の光信号の平均入力強度のマージンを有するモード同期半導体レーザ100を用いることで、光信号S35を入力されたモード同期半導体レーザ100からは、入力光信号S30の偏波状態が変化しても、時間ジッタの小さい、安定な再生光クロック信号C31が出力される。
再生光クロック信号C31は、受動モード同期半導体レーザ100の端面R1から、結合レンズ33を介して外部へと出力される。光クロック信号C31は、その後、反射戻り光による動作不安定性を回避するための光アイソレータ34を通過した後、所望の再生光クロック信号C32として外部に出力される。ここでの光アイソレータ34は、先に述べた偏波依存型光アイソレータでも、あるいは、任意の偏波方向の光に対して一方向にのみ通過する、いわゆる偏波無依存型の光アイソレータでも、どちらでも構わない。これは、再生光クロック信号C32のその後の信号処理(例えば、識別再生による再生光信号化)において用いる各種光デバイスの動作が、偏波依存性を有しているかどうかなどによって決定される。
また、同じく、光クロック信号が出力される光学経路には、必要に応じて光フィルタ35を挿入して、光クロック信号の波長成分のみを出力し、入力光信号の波長成分の光を遮断する。
(実施例)
次に、第1の実施形態の効果を実証するために行った実証実験について述べる。
ここで、受動モード同期半導体レーザ素子100としては、可飽和吸収領域(長さ250μm)、利得領域(610μm)、位相調整領域(150μm)が順に配置した、InP系の多電極半導体レーザを使用した。共振器長は1050μmであり、共振器周回周波数は約40GHzである。利得領域の導波層には、井戸を0、6%の圧縮歪InGaAsP層、障壁層を無歪のInGaAsP層で形成した多重量子井戸構造を採用しており、そのフォトルミネッセンスピーク波長が1562nmになるように、各層の組成比、厚さを設計したものを用いた。また、可飽和吸収領域、位相調整領域の導波層には、井戸を0、6%の圧縮歪InGaAsP層、障壁層を無歪のInGaAsP層で形成した多重量子井戸構造を採用しており、そのフォトルミネッセンスピーク波長が1480nmになるように、各層の組成比、厚さを設計したものを用いた。また、受動モード同期半導体レーザ素子100の両端の共振器端面は、へき開面のままである素子を用いた。受動モード同期半導体レーザ素子100の利得領域に電流印加したときのレーザ発振閾値は、約30mA、スロープ効率は0.1W/A程度であり、半導体レーザとして典型的な値を示した。
なお、ここで示したモード同期半導体レーザ素子100の各領域長や組成、各層の膜厚、フォトルミネッセンスピーク波長などは、単なる1つの構成例であり、これに限定されるものではない。
モード同期半導体レーザ素子100の利得領域に172.3mAの直流電流、可飽和吸収領域に−0.98Vの逆バイアス電圧を印加したとき、受動モード同期動作が生じた。このとき発生したモード同期光パルス列のパルス幅は約3.55ps、中心波長は1558.84nm、スペクトルの半値全幅は4.9nmであった。また、このとき発生したモード同期光パルス列の繰り返し周波数は39.6648GHzであった。また、このときのモード同期半導体レーザ素子100の位相調整領域側端面からの平均光強度出力は、約6.94dBmであった。
入力光信号は、ビットレート39.69012Gb/s、中心波長1545.30nm、パルス幅4.53psの、連続する<1>の信号間で光強度が一旦ゼロに落ちる、いわゆるリターン・トゥ・ゼロ(Return−to−zero,RZ)フォーマットの擬似ランダム光信号とした。擬似ランダム段数は7段(27−1=127ビット)とした。
また、複屈折媒体として、市販のPANDAファイバを用いた。PANDAファイバの長さは約22mとした。偏波群遅延時間差ΔTは約25.2psで、39.69012Gbit/s入力光信号の1ビット遅延に相当する遅延量とした。
図6に、モード同期半導体レーザ素子100への入力光信号強度(平均強度)を変化させたときの、モード同期半導体レーザ素子100から発生した再生光クロック信号の時間ジッタの変化を測定した実験結果を示す。
なお、ここでは、入力光信号の偏波状態をTE偏波一定とした、特許文献1、非特許文献1及び2に開示される従来型の光クロック信号再生装置としての実験結果を示す。光信号は、モード同期半導体レーザ素子の位相調整領域側端面から入力した。
図6から、入力光強度の増加と共に、時間ジッタが低減する様子がわかる。また、図6において、入力光強度が−2.7dBmから+2.5dBmの範囲で、0.25ps以下の低時間ジッタ性が得られることがわかる。すなわち、0.25ps以下の時間ジッタを実現するのに、5.2dBの光信号の平均入力強度のマージンが得られることを示している。この値は、先に述べた第1の実施形態の効果を得るための条件(約4.8dB程度以上)を満足する値である。このことは、本発明の第1の実施例を実現するために必要な平均入力強度のマージンが、実際のモード同期半導体レーザ素子において実現できることを意味している。
次に、図1に示す構成からなる光クロック信号再生装置1Aを用いて、光クロック信号の再生動作の実験結果を、図面を参照して説明する。
図7は、入力光信号の偏光消光比の変化に対する再生光クロック信号の時間ジッタの変化との関係を示す図である。
図7において、黒丸は第1の実施形態の光クロック信号再生装置1Aを用いた場合の実験結果であり、白丸は、複屈折媒体としてのPANDAファイバを用いていない光クロック信号再生装置を用いた場合の実験結果である。なお、図7の実験では、入力光強度を−0.6dBmの一定値とした場合を示す。
図7の黒丸について、入力光信号の偏光消光比を+26dBから−24dBまで大きく変化させても、時間ジッタは、0.19ps〜0.23psの範囲内と極めて小さい範囲内での変化であることがわかる。
これに対して、図7の白丸について、入力光信号の偏光消光比が+10dBより小さくなるあたりから時間ジッタが増加し始め、偏光消光比が−5dB以下では、最早モード同期レーザにおける周波数引き込みが生じず、クロック信号再生動作が不可能となった。
以上のように、図7に示す実験結果より、第1の実施形態の光クロック信号再生装置1Aを適用することにより、入力光信号の偏波状態に拘わらず、時間ジッタの小さい、安定した全光クロック信号を再生することができることが実証された。
また、図8は、光クロック信号再生装置1Aを用いて、入力光信号の偏光消光比を変化させた場合の各信号のサンプリングオシロスコープ観測波形を示す図である。図8(a)は入力光信号S30、図8(b)は光信号S35、図8(c)は再生光クロック信号C32を示す。
入力光信号の偏光消光比を変化させると、光信号S35における<1>レベルの変動が変化する。特に、偏光消光比が1に近くなる(すなわち、TE成分強度とTM成分強度が同程度になる)と、<1>レベル変動は最大となる。
このことは、図8(b−2)、(b−3)に示す結果より、偏光消光比が+6dB、−6dBである場合に、光信号S35のサンプリングオシロスコープ波形の<1>レベルが、大きく変動し、著しく劣化した波形となることからわかる。
ところが、このように、光信号S35の<1>レベルの変動が大きくなっている状況であっても、図8(c−2)、(c−3)に示す結果のように、再生光クロック信号C32のサンプリングオシロスコープ波形は、入力光信号S30の偏光消光比が高く、したがって光信号S35において<1>レベル変動が小さいときの再生光クロック信号C32のサンプリングオシロスコープ波形(図8(c−l))に比べて、遜色がない。このことは、モード同期半導体レーザ100における強度揺らぎ吸収効果が十分に働いていることを示し、第1の実施形態の効果を実証する実験結果となっている。
また、図9は、入力光信号S30の偏波状態を、周期1.2秒で変動させ、偏波スクランブル信号とした場合の、再生光クロック信号のサンプリングオシロスコープ波形の比較を示す図である。
図9(a)において、PANDAファイバ(複屈折媒体)を挿入しない従来型のクロック信号再生動作を行った場合、安定な再生光クロック信号が観測されず、サンプリングオシロスコープ波形は、時間軸上で流れていったような波形となっている。これは、偏波スクランブル信号の偏波状態が、たまたま、モード同期半導体レーザの発振偏波状態に近くなっている間には、クロック信号再生動作が得られるのに対し、偏波状態がモード同期半導体レーザの発振偏波状態から大きく異なっている間には、クロック信号再生動作が得られないためである。
これに対して、図9(b)に示すように、本発明の第1の実施形態の効果を実現すべく、先述のPANDAファイバを挿入してクロック信号再生動作を行った場合、安定な再生光クロック信号波形が観測され、第1の実施形態の効果を確認できた。
以上の実験結果から、第1の実施形態の効果を実証することができた。
(A−3)第1の実施形態の効果
以上のように、第1の実施形態によれば、次のような効果が期待できる。すなわち、入力される光データ信号の偏波に依存することなく、高ビットレートの光データ信号からの全光クロック信号再生動作が可能となる。また、光クロック信号再生装置1Aの構成は、従来型のモード同期レーザを用いた全光クロック信号再生装置に、複屈折媒体を付加しただけの装置構成となっており、装置構成の複雑化や高コスト化を十分抑制でき、安価な装置提供が可能となる。
(B)第2の実施形態
次に、本発明の光クロック信号再生装置を適用した第2の実施形態を、図面を参照して詳細に説明する。
(B−1)第2の実施形態の構成及び動作
図10は、第2の実施形態の光クロック信号再生装置1Bの構成を説明するブロック図である。
図10において、第2の実施形態の光クロック信号再生装置1Bは、モード同期半導体レーザ200、偏波無依存型光アイソレータ46、複屈折媒体40、結合レンズ42及び43、光アイソレータ44、波長フィルタ45、を少なくとも有して構成される。
図10に示す第2の実施形態の構成は、図1に示す第1の実施形態の構成と、以下の点が異なる。
偏波依存型光アイソレータ31を使用する代わりに、偏波無依存型光アイソレータ46を使用する。また、偏波無依存型光アイソレータ46は、複屈折媒体40の手前側(前段)に配置する。
また、モード同期半導体レーザ200の活性層として、その光学的特性が極端な偏波依存性を有する材料を用いるものとする。このようなモード同期半導体レーザ200の活性層としては、無歪あるいは圧縮歪を導入した多重量子井戸構造を採用することが望ましい。
その他の構成要素は、図1に示す第1の実施形態と同様であるので、ここではその詳細な説明を省略する。
第1の実施形態において、偏波依存型光アイソレータ31の役割は、反射戻り光による動作不安定性を抑制することと、モード同期半導体レーザ100に、その発振偏波方向と合致した偏光方向の光信号S35のみを入力することにあった。
これは、モード同期半導体レーザ100に、その発振偏波方向と直交した偏光方向の光信号が入力されると、それによってモード同期半導体レーザ100内部の光学利得・光学吸収・屈折率が変化する可能性があるためである。
第1の実施形態で説明した議論から推察されるように、モード同期半導体レーザ100の発振偏波方向と合致した偏光方向の光信号成分S35の平均強度が、入力光信号S30の偏光消光比及び相対位相差Φ+θによって変化するのと同様に、モード同期半導体レーザの発振偏波方向と直交した偏光方向の光信号成分S34の平均強度もまた、入力光信号S30の偏光消光比及び相対位相差Φ+θによって変化する。このことは、光信号S34が入力されたとしたときの、モード同期半導体レーザ内部の光学利得・光学吸収・屈折率の変化は、入力光信号S30の偏光状態によって変化することを意味する。これらのモード同期半導体レーザの光学パラメータの変化は、モード同期半導体レーザのモード同期特性の変化をもたらし、これが発生する再生光クロック信号の光パルス特性の変化に転じ、すなわち、光クロック信号再生動作の動作不安定の原因となりうる。
しかしながら、もし、モード同期半導体レーザの光学的特性が極端な偏波依存性を有し、その発振偏波方向と直交した偏波方向の光信号が入力されたとしても、その光学的特性にほとんど影響が生じないとした場合、第1の実施形態における光信号S34に相当する光信号がモード同期半導体レーザに入力されたとしても、それが再生光クロック信号の光パルス特性の変化に転じることはなく、すなわち、光クロック信号再生動作の安定動作が担保される。
このようなモード同期半導体レーザの活性層構造として最適なものの一例は、無歪あるいは圧縮歪を導入した多重量子井戸構造である。量子井戸構造においては、その光学特性は極端な偏波依存性が生じる。特に、無歪あるいは圧縮歪を導入した多重量子井戸構造においては、量子井戸層の厚さ方向に平行な偏波方向(TM偏波)の光に対しては、光学利得はほとんどなく、また光励起による屈折率変化も小さい。これに対し、TM偏波方向と直交する、量子井戸の面内方向に平行な偏波方向(TE偏波)の光に対して、大きな光学利得、屈折率変化を生じる。それ故に、レーザ発振もTE偏波で生じる。
第2の実施形態では、このような無歪あるいは圧縮歪を導入した多重量子井戸構造を活性層に有するモード同期半導体レーザ200を用いることで、第1の実施形態における光信号S34に相当する光信号S44が入力されたとしても、光クロック信号再生動作の安定動作を確保できる。
また、第2の実施形態のように、モード同期半導体レーザ200を用いることで、モード同期半導体レーザ200の発振偏波と直交する偏波方向の光信号S44(光信号S34に相当する光信号)が入力されても、安定した光クロック信号を再生することができるのであれば、光信号の入力側で用いられる光アイソレータは、このような偏波直交光信号を遮断する必要はなく、ただ反射戻り光による動作不安定性を抑制できればよい。
そこで、第2の実施形態では、光信号の入力側の光アイソレータとして、少なくとも、反射戻り光を遮断する機能を有するものを適用する。すなわち、第2の実施形態では、入力光信号S40の特定の偏波成分を遮断しない、偏波無依存型光アイソレータ46を適用する。
そうすることで、光アイソレータ46は、複屈折媒体とモード同期半導体レーザを結合させる、途中の光経路に挿入する必要はなく、複屈折媒体40の手前(前段)に配置することができる。
このように、複屈折媒体40の手前に光アイソレータ46を配置することは、各光学部品46、40、42、200の光軸調整を簡単にすることができるので、第1の実施形態の構成よりも、アッセンブリに係る工程及びコストを低減することができる。
つまり、図11に示すように、光クロック信号再生装置1Bの各光部品46、40、42、200の光軸調整が特に必要な箇所は、複屈折媒体40の光軸方向(x2、y2軸)のそれぞれが、モード同期半導体レーザ200の発振偏波に平行な軸方向(a2軸)、垂直な偏波方向(b2軸)と、45°の角をなすように調整する箇所だけとなる。
これに対して、第1の実施形態の場合、複屈折媒体30の光軸方向(x1、y1軸)が偏波依存型光アイソレータ31の通過偏光方向(z1軸)と45°の角をなすよう調整する箇所と、偏波依存型光アイソレータ31を通過する光信号(S35)の偏光方向が、モード同期半導体レーザ100の発振偏波方向(a1軸)と合致するように調整する箇所の、2箇所の光軸調整が必要となる。
このように、第2の実施形態は、第1の実施形態と比較して、光学調整の際に光軸方向の調整が必要な箇所が少なくてすむ。すなわち、アッセンブリに係わる工程ならびにコストを低減でき、その結果、より歩留まり良く、安価な装置提供が可能となる。
図12は、第2の実施形態における、入力光信号S40、光信号S41〜S44、及び光クロック信号C41の偏波状態と、その信号波形の様子を模式的に示す図である。
なお、光信号S40、S41、S42、S43、S44及び光クロック信号C41はそれぞれ、図4に示す第1の実施形態の光信号S30、S31、S32、S33、S34、及び光クロック信号C31に相当する信号である。また、光信号S43、S44は、第1の実施形態で説明したステップ(A)により得られたものである。
光信号S43及び光信号S44がモード同期半導体レーザ200に入力すると、モード同期半導体レーザ200は、その光学特性の極端な偏波依存性のために、光信号S43にのみ応答する。
そうすると、第1の実施形態のステップ(B)で説明した効果のため、モード同期半導体レーザ200より安定な光クロック信号C41が発生する。
その後、光クロック信号C41は、反射戻り光防止のための光アイソレータ44、及び、必要に応じて設けられた光フィルタ45を通過し、最終的に、所望の光クロック信号C42が生成される。
(B−2)第2の実施形態の効果
以上のように、第2の実施形態によれば、第1の実施形態で説明した効果に加えて、次に示すような効果を得ることができる。すなわち、第2の実施形態によれば、光軸方向の調整が必要な箇所を少なくすることができるので、アッセンブリに係わる工程及びコストをさらに低減でき、その結果、より歩留まり良く、安価な装置提供が可能となる。
(C)第3の実施形態
次に、本発明の光クロック信号再生装置を適用する第3の実施形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
(C−1)第3の実施形態の構成
図13は、第3の実施形態に係る光クロック信号再生装置1Cの構成を説明するブロック図である。
図13において、光クロック信号再生装置1Cは、モード同期半導体レーザ300、複屈折媒体50、偏波依存型光サーキュレータ51、結合レンズ52、波長フィルタ53、を少なくとも有して構成される。
第3の実施形態は、第1、第2の実施形態と異なり、モード同期半導体レーザ300が、光信号の入力と光クロック信号の出力を、同一の共振器端面を経由させることで実行する。
複屈折媒体50は、偏波遅延時間がnTbit−rateの複屈折媒体であり、第1の実施形態の複屈折媒体30を適用できる。
波長フィルタ53は、光クロック信号波長成分を通過する光フィルタであり、第1の実施形態の光フィルタ35を適用できる。
偏波依存型光サーキュレータ51は、偏波依存型の3ポートの光サーキュレータである。すなわち、偏波依存型光サーキュレータ51は、ポート51−aから光を入力すると、このポート51−aからの入力光のうち一定の偏波方向の光のみをポート51−bから出力し、この一定の偏波方向の光と直交する成分を遮断するものである。
また、偏波依存型光サーキュレータ51は、ポート51−bから光を入力した場合、ポート51−aから光を入力したときにポート51−bから出力する光の偏光方向と合致した偏光方向の光のみをポート51−cから出力し、これと直交する成分を遮断するものである。偏波依存型光サーキュレータ51は、例えば、先述した偏波依存型光アイソレータを応用して作製したものや既存のものを適用することができる。
ここで、偏波依存型光サーキュレータ51を通過する光の偏光方向と、複屈折媒体50の光軸方向と、モード同期半導体レーザ300の発振偏波方向との関係について図14を参照して説明する。
図14(a)において、偏波依存型光サーキュレータ51のポート51−aから入力してポート51−bを通過して出力される出力光の偏光方向をz3軸方向と定義する。
図14に示すように、偏波依存型光サーキュレータ51のポート51−aから入力してポート51−bを通過して出力される光(図13での光信号S55と平行な偏光方向の光)の偏光方向は、モード同期半導体レーザ300の発振偏波方向(TE偏波方向、a3軸方向)と一致させる。また、偏波依存型光サーキュレータ51のポート51−aからポート51−bを通過して出力することが許される光の偏光方向(先に述べたz3軸方向)は、複屈折媒体50の直交する光軸方向(x3軸、y3軸)と互いに45°の角をなすように設定する。
(C−3)第3の実施形態の動作
次に、第3の実施形態の光クロック信号再生装置1Cにおける光クロック信号再生動作を説明する。
以下では、第3の実施形態の光クロック信号再生の全体的な動作を説明する。
まず、入力光信号S50は、複屈折媒体50を通過した後、偏波依存型光サーキュレータ51のポート51−aに入力し、ポート51−bを通過して出力する。
偏波依存型光サーキュレータ51のポート51−bから出力された光信号S55は、結合レンズ52を介して、モード同期半導体レーザ300の一方の共振器端面L3に入力する。
一方、モード同期半導体レーザ300により形成された光クロック信号C51は、光信号S55が入力した共振器端面と同一の、モード同期半導体レーザ300の共振器端面L3から出力する。
モード同期半導体レーザ300からの光クロック信号C51は、偏波依存型光サーキュレータ51のポート51−bに入力し、ポート51−cを通過して出力する。
その後、偏波依存型光サーキュレータ51からの光クロック信号は、第1、第2の実施形態と同様に、必要に応じて設けられた波長フィルタ53を通過し、最終的に所望とする再生光クロック信号C52が得られる。
図15は、入力光信号S50、中間生成光信号であるS51〜S54、モード同期半導体レーザ300に入力される光信号S55、及び、光クロック信号C51、C52の偏波状態とその信号波形の様子を模式的に示した図である。
なお、光信号S51〜S54は、第1の実施形態における光信号S31〜S34と同質のものである。また、偏波依存型光サーキュレータ51のポート51−aに入力された光がポート51−bから出力される機能は、第1の実施形態の偏波依存型光アイソレータ31が果たす機能と同等である。従って、光信号S55は、第1の実施形態の光信号S35と全く同質のものである。その結果、光信号S55を受け入れたモード同期半導体レーザ300は、第1の実施形態で説明したステップ(A)、(B)の効果により、安定な光クロック信号C51を発生する。
光クロック信号C51の偏波方向は、モード同期半導体レーザ300の発振偏波方向であり、また、光信号S55の偏波方向は、モード同期半導体レーザ300の発振偏波方向と一致するように設定されているため、光クロック信号C51は、偏波依存型光サーキュレータ51のポート51−bから入力されたとき、遮断されずに、ポート51−cから出力される。
光サーキュレータ51は、光アイソレータの役割を同時に果たすものであるから、第1、第2の実施形態と同様に、光クロック信号C51が外部に出力される経路に、反射戻り光防止のための光アイソレータを別途用意する必要はない。
第3の実施形態の効果は、光信号及び再生光クロック信号の入出力がモード同期半導体レーザ300の同一の共振器端面L3を介してなされるので、モード同期半導体レーザ300のもう一方の共振器端面R3を介した、外部との光の入出力を考慮する必要がないことから生じる。すなわち、共振器端面R3に高反射膜コーティングを施すことができることによって生じる。
このことは、特に、受動モード同期半導体レーザの繰り返し周波数の高速化、すなわち、本発明で目的とする全光クロック再生動作における、再生光クロック信号のクロック周波数の高速化にとって重要となる可能性がある。このことは、次に述べるような事情によって生じる。
第1に、受動モード同期半導体レーザの繰り返し周波数は、共振器長に反比例する。すなわち、その高速化には、受動モード同期半導体レーザの共振器長を短くする必要がある。一方、レーザの発振閾値利得は、共振器長を短くすると増加する。従って、繰り返し周波数の高速化のために短共振器化した受動モード同期半導体レーザにおいては、まず、レーザ発振を生じさせるために、共振器損失を低くする必要が生じる。レーザの共振器損失は、共振器内の伝播損失と共振器端面での反射損失との和であり、すなわち、共振器端面の反射率が高いほど、低減する。
第2に、受動モード同期半導体レーザの繰り返し周波数を高速化するには、当然、発生する光パルス幅がそれに応じて狭くならなければならない。非特許文献3は、受動モード同期レーザのパルス特性を理論的に検討した文献であるが、非特許文献3の図3に、共振器のQ値とパルス幅の逆数の関係が示されている。そこに示されるように、パルス幅は共振器のQ値が高いほど短くなる。共振器Q値は、共振器損失の逆数に比例する値であり、このことは、受動モード同期半導体レーザの繰り返し周波数の高速化には、共振器損失の低減が重要なパラメータであることを示している。
さらにまた、可飽和吸収領域の一方の端面を共振器端面とし、その共振器端面を高反射膜コーティングすると、衝突パルスモード同期動作が生じ、可飽和吸収領域における吸収飽和エネルギーを実効的に減少できることが、非特許文献4の図14などにより開示されている。このことは、モード同期動作の安定性の向上に望ましい。
これらの諸事情に鑑みたとき、片側の共振器端面に高反射膜を施した受動モード同期半導体レーザを用いて、全光クロック信号再生装置を実現できれば、動作速度、すなわち再生される光クロック信号のクロック周波数の高速化や、再生光クロック信号の短パルス化や安定性の向上といった、実用上望ましい効果が期待できる。
第3の実施形態においては、光信号及び再生光クロック信号の入出力が、モード同期半導体レーザ300の同一の共振器端面L3を介してなされるために、共振器端面R3側に可飽和吸収体を配置し、かつ、高反射膜コーティングを施すことが可能となる。その結果、第1、第2の実施形態の場合と比較して、高速動作性、パルス品質に優れた再生光クロック信号を生成する、光クロック信号再生装置を提供することが可能となる。
また、ここまでの説明では、第1の実施形態と併用した場合の装置構成ならびに効果について説明したが、第3の実施形態は、第2の実施形態と併用した装置構成としても、同様の効果が得られる。この場合、第2の実施形態で説明したように、光学特性が極端な偏波依存性を示す活性層を有するモード同期半導体レーザ200を用いるとともに、偏波依存型光サーキュレータ51の代わりに偏波無依存型光サーキュレータを用い、なおかつそれを複屈折媒体50の手前に配置した構成とすればよい。
(C−3)第3の実施形態の効果
以上のように、第3の実施形態によれば、第1、第2の実施形態により得られる効果に加えて、次の効果を得ることができる。すなわち、一方の共振器端面に高反射膜コーティングを施したモード同期半導体レーザを用いることで、高速動作性、パルス品質がより優れた、光クロック信号再生装置を提供することが可能となる。
(D)第4の実施形態
次に、第4の実施形態の光クロック信号再生装置を適用した第4の実施形態を、図面を参照して説明する。
光信号を伝播するファイバ伝送網を構成する光ファイバの屈折率分布は、その作製精度の限界のために、実際には、理想的な真円状の屈折率分布とは異なる分布形状を有する。そのため、実用に供される光ファイバは、統計的な意味合いでの複屈折を有する。これが、ファィバ伝送網を伝播してきた光信号の偏波状態が不定である主たる要因である。
さらにまた、伝送距離が長くなり、光ファイバの統計的な複屈折による位相シフトの総量が大きくなってくると、このような光ファイバの統計的な複屈折の効果は、光信号の直交する偏波成分間での時間遅延という形で現れてくる。これは、偏波モード分散(Polarization Mode Dispersion、以下でPMDともいう。)と呼ばれる。偏波保持ファイバのような偏波保持性を付加されていない光通信システムにおいて、一般的に使用される光ファイバのPMDは、伝送距離の平方根に比例して増加することが知られており、その典型的な値としては、0.1ps/√km〜1ps/√km程度の値を有することが知られている。なお、この値は温度などの環境要因で変化する。
そのため、このような偏波モード分散の影響により、入力光信号S60の直交する偏波成分間に時間遅延があり、さらにまたそれが変動する場合、その補正機構を付加する必要がある。すなわち、このような補正機構を備えずに、光クロック信号再生装置を適用すると、発生する光クロック信号に位相揺らぎが生じることになり、安定な光クロック信号を供給することができなくなるおそれがあるからである。
そこで、第4の実施形態では、図16や図17のような構成を採用することで、第1、第3の実施形態の効果に加えて、上述したような入力光信号にその直交する偏波成分間で時間遅延がある場合においても、直交する偏波成分間の時間遅延を検出し、この時間遅延を補正することで、位相揺らぎがなく安定な光クロック信号を供給することができるようになる。
第4の実施形態では、第1、第3の実施形態において遮断していた光信号S34、S54に相当する光信号S64を遮断せず、この光信号S64も、入力光信号にもたらされたPMD量のモニタ信号として用いる点に特徴がある。
(D−1)第4の実施形態の構成
図16は、第4の実施形態の光クロック信号再生装置1Dの構成を説明するブロック図である。
図16において、光クロック信号再生装置1Dは、モード同期半導体レーザ400、可変複屈折媒体60、偏光分離回路61、ファラデー回転子62、結合レンズ63及び64、光アイソレータ65、波長フィルタ66、波形モニタ67、制御信号発生装置68、を少なくとも有して構成される。
第4の実施形態は、ファイバ伝送網の偏波モード分散の影響により、入力光信号の直交する偏波成分間に時間遅延がある場合に、その偏波成分間の時間遅延を検出し、その時間遅延を補正するための制御機能を追加した構成を有する。
なお、図16に示す構成は、第4の実施形態の光クロック信号再生装置1Dの構成の一例であり、第1の実施形態の構成をベースにして形成したものである。勿論、第2、第3の実施形態の構成をベースにして、以下で説明する第4の実施形態の特有の機能構成を追加するようにしてもよい。
第4の実施形態では、可変複屈折媒体60を使用する。可変複屈折媒体60は、外部からの制御信号によって、偏波群遅延時間ΔTを変化させることができる媒体である。第4の実施形態では、可変複屈折媒体60が、制御信号発生装置68からの制御信号に基づいて、偏波遅延時間ΔTを可変するものとする。
また、第4の実施形態では、第1の実施形態で用いた偏波依存型光アイソレータ31の代わりに、偏光分離回路61を使用する。偏光分離回路61は、例えば偏光プリズム等の3ポート以上の入出力ポートを有するものである。図16では、4ポートの入出力ポートを有するものを例示する。
偏光分離回路61は、ポート61−aから光を入力した場合、その入力光のうち、ある一定の偏光方向の光を、ポート61−bから出力する。このとき、図18に示すように、偏光分離回路61のポート61−aに入力される光の偏光方向を、z4軸方向と定義する。
また、偏光分離回路61は、ポート61−aから光を入力した場合、z4軸方向に直交する偏光方向の光を、ポート61−cから出力する。このとき、図18に示すように、偏光分離回路61のポート61−aに入力される光の偏光方向を、w4軸方向と定義する。
さらに、偏光分離回路61は、ポート61−aから光を入力した場合、x4軸方向に偏光された光が入力されたときにポート61−bから出力される光と平行な偏光状態の光が、偏光分離回路61のポート61−bから入力された場合、この光をポート61−aから出力する。また、偏光分離回路61は、x4軸に直交した偏光状態の光がポート61−bから入力された場合、この光をポート61−dから出力する。このポート61−dは、図16に示す構成例では必要でなく、光ファイバなどとの結合を取る必要はない。
ファラデー回転子62は、直線偏光の偏光方向を45°回転させるファラデー回転子である。結合レンズ63及び64は、モード同期半導体レーザ400への光信号の入力及びモード同期半導体レーザ400からの光クロック信号の出力のための結合レンズである。
光アイソレータ65及び波長フィルタ66の役割は、第1の実施形態における光アイソレータ34及び波長フィルタ35の役割と同じであり、それぞれ反射戻り光の防止及び入力光信号の波長成分の除去のために用いる。
波形モニタ67は、偏光分離回路61のポート61−cからの光信号S66を受け入れて、この光信号S66の波形評価を行うものである。
制御信号発生装置68は、波形モニタ67から光信号S66の波形評価の結果を受け取り、可変複屈折媒体60の偏波群遅延時間ΔTを変化させるための制御信号を発生させ、この制御信号を可変複屈折媒体60に与えるものである。
ここで、第4の実施形態の光クロック信号再生装置1Dを構成する各光学部品の光学軸方向の調整は、例えば、次のようにして行う。
偏光分離回路61において規定したz4軸、w4軸は、それぞれ、可変複屈折媒体60の有する直交する光学軸x4軸、y4軸と、互いに45°の角をなすように設定する。また、ファラデー回転子62から出力される光信号S65の偏光方向は、モード同期半導体レーザ400の発振偏波力向(TE偏波方向、a4軸方向)と一致させる。
なお、図16では、モード同期半導体レーザ400からの光クロック信号C61の出力については、光信号S65が入力する共振器端面L4とは異なる、もう一方の共振器端面R4から光クロック信号C61が出力する場合を示す。しかしながら、これに限らず、光信号S65の入力する共振器端面L4から、光クロック信号C61が出力できるようにし、共振器端面L4を入出力で共用するようにしてもよい。この場合の装置構成の変形例を図17に示す。図17において、この場合、偏光分離回路61としては、4番目のポート(ポート61−d)を有するものを用いる。また、後に詳細に述べるように、ポート61−dからもモード同期半導体レーザ400からの光クロック信号C61が出力されるので、ポート61−dに光アイソレータ65及び波長フィルタ66を接続することにより、所望の再生光クロック信号C62を得ることができる。
(D−2)第4の実施形態の動作
次に、第4の実施形態の光クロック信号再生装置1Dにおける光クロック信号の再生動作を、図面を参照しながら詳細に説明する。
図19は、第4の実施形態における入力光信号等の信号波形及び偏波状態の様子を模式的に示したものである。
図19において、入力光信号S60は、ファイバ伝送網のPMDの影響により、y4軸方向の偏光成分が、x4方向の偏光成分より、時間τだけ進んだ状態であるとする。この場合、可変複屈折媒体60において、式(8)で与えられるだけの偏波群遅延時間を与えれば、可変複屈折媒体60からの出力端において、光信号S61と光信号S62との関係を、信号位置がnビット分(時間にしてnT
bit−rate)だけずれた光信号の関係とすることができる。
式(8)を満足するように出力された光信号S61、S62、並びにそれらの干渉波形である光信号S63、S64は、第1の実施形態における光信号S31、S32、並びに光信号S33、S34と、全く同質のものである。また、偏波分離回路のポート61−aに入力された光がポート61−bから出力される機能は、第1の実施形態において偏波依存型光アイソレータ31が果たす機能と同等である。
従って、光信号S65は、第1の実施形態における光信号S35と全く同質のものである。その結果、この光信号S65を受け入れたモード同期半導体レーザ400は、第1の実施形態で説明したステップ(A)、(B)の効果により、安定な光クロック信号C61を発生する。
一方、光信号S66は、光信号S65と相互補完的な信号出力である。すなわち、光信号S65の信号波形は、式(7)と同様に、式(9)として表記できる。
また、光信号S66の信号波形は、式(10)と表現できる。
式(9)、(10)に示すように、光信号S66と光信号S65は、互いに相互補完的な信号であるために、光信号S66の状態を波形モニタ67で検出することで、光信号S65の状態を知ることができる。
光信号S66の強度波形は、もし可変複屈折媒体60において与えられる偏波群遅延時間が式(8)を満足しなければ、光信号S61と光信号S62との相対的な時間差がnTbit−rate、すなわち数ビット分のタイムスロットに相当する時間差、とならないために、一般的に1ビット分のタイムスロット内に複数の極大を有する波形となってしまう。従って、このような信号波形とならないように、制御信号発生装置68は、可変複屈折媒体60の偏波群遅延時間を制御するための制御信号を可変複屈折媒体60に与え、可変複屈折媒体60の偏波群遅延時間を制御する。
上記のように制御された可変複屈折媒体60は、式(8)を満足する偏波群遅延時間を有する。そのため、入力光信号S60が、ファイバ伝送網のPMDによる偏波遅延時間τを有していても、遅延時間を補正することができる。その結果として、位相揺らぎがなく安定な光クロック信号C61が、モード同期半導体レーザ400から出力される。
ファラデー回転子62の役割は次のようである。すなわち、まず、偏光分離回路61のポート61−bから出力された光(直線偏光)は、ファラデー回転子62で+45°偏光面が回転し、モード同期半導体レーザ400の共振器端面L4に到達する光信号S65となる。その際、共振器端面L4で反射された光信号S65は、ファラデー回転子62で再び+45°偏光面が回転し、偏光分離回路61のポート61−bに入力され、その後、ポート61−dに出力される。従って、図16の例において、偏光分離回路61のポート61−dを無反射終端とすることで、光信号がモード同期半導体レーザ400に入力される経路での反射戻り光を除去できる。また、モード同期半導体レーザ400の共振器端面L4から出力される、モード同期半導体レーザ400からの出力光についても、ファラデー回転子62→偏光分離回路61のポート61−b→ポート61−dの経路を通過するため、偏光分離回路61のポート61−dを無反射終端とすることで、この光信号が再度モード同期半導体レーザ400に入力されることはない。
以上のように、ファラデー回転子62を用いることで、モード同期半導体レーザ400の共振器端面L4を介した反射戻り光による、クロック再生動作の動作不安定性を抑制できる。
図16に示した例の場合、再生クロック信号がモード同期半導体レーザ400の共振器端面R4から出力されるので、共振器端面R4と結合した出力経路に、反射戻り光防止のための光アイソレータ65を挿入する。
一方、図17に示した例の場合、偏光分離回路61のポート61−dを無反射終端とせずに、代わりに光アイソレータ65を結合させることで、反射戻り光を防止することができると共に、モード同期半導体レーザ400の同一の共振器端面L4を用いて、光信号の入力及び再生光クロック信号の出力を行うことができる。
以上述べたように、外部からの制御信号で、その偏波群遅延時間を可変にできる、可変複屈折媒体60を用いることで、偏波時間遅延を有した光信号が入力されても、位相揺らぎがない、安定な光クロック信号を供給することが可能となる。
このような可変複屈折媒体60としては、例えば、図20に示すようなものを用いればよい。図20(a)は、第1の実施形態でも説明したPANDAファイバを用いた場合の好適例である。
PANDAファイバのΔn(光ファイバの場合、モード複屈折と呼ばれる)は、温度依存性を有することが知られている。また、例えば、非特許文献5の29ぺージ〜31ぺージに述べられている実験結果によれば、PANDAファイバのΔnの代表的な値は、その温度変化も含めて次式(11)で与えられる。
ここで、δTempは、室温(30℃)からの温度変化である。
今、入力光信号のビットレートとして40Gb/s(Tbit−rate=25ps)、n=1とし、室温での偏波群遅延時間が25psとなるようにPANDAファイバの長さ(L)は25mに設定されているとする。このとき、PANDAファイバの温度を1℃変化させたときの偏波群遅延時間の変化率は、式(2)及び式(11)から、約0.03ps/℃と見積もられる。
また、例えばn=4、すなわち、偏波群遅延時間を4ビット相当分として、PANDAファイバを長尺化した場合、偏波群遅延時間の温度に対する変化率を、約0.12ps/℃と大きくすることができる。
いずれにしろ、図20(a)に示すように、PANDAファイバの温度を変化させることで、第4の実施形態に必要な、可変複屈折媒体60を構成することができる。
また、可変複屈折媒体60は、第1の実施形態で説明したように、複屈折性光学結晶を用いても構成できる。この場合、図20(b)に示すように、楔形の複屈折結晶を用い、それに可動機構をつけてスライドさせることで、その先路長を変化させられるようにすることで、偏波群遅延時間の可変性を実現できる。
さらに、図20(c)に示すように、光軸方向が直交する2つの楔形の複屈折結晶を張り合わせた、いわゆるバビネ・ソレイユ補償板を用いても良い。この場合、偏波群遅延時間がゼロの状態(L1=L2の状態)を用意に実現できるので、Tbit−rateが短くなる、超高ビットレート光信号への応用時に、より精密な偏波群遅延時間の設定が可能となる。
(D−3)第4の実施形態の効果
以上のように、第4の実施形態によれば、第1、第3の実施形態の効果に加えて、次の効果を得ることができる。すなわち、ファイバ伝送網の偏波モード分散などの影響により、偏波時間遅延を有した光信号が入力されても、位相揺らぎがない、安定な光クロック信号を供給することが可能となる。
(E)第5の実施形態
次に、本発明の光クロック信号再生装置を適用した第5の実施形態を、図面を参照して説明する。
よく知られているように、NRZ信号は、その周波数スペクトル上において、ビットレート周波数成分がゼロかあるいは非常に弱い強度成分しか持たず、符号化により拡散したスペクトル成分にほとんど隠れた程度の強度しか有さない。
そのため、NRZ信号をモード同期半導体レーザ500にそのまま入力しても、モード同期半導体レーザにおけるクロック再生動作の偏波依存性の有無に係わらず、そもそも安定なクロック再生動作が生じない。
そのため、クロック再生動作を得るためには、NRZ信号をRZ信号に変換し、ビットレート周波数成分を増強する必要がある。
そこで、第5の実施形態では、NRZ信号をRZ信号に変換する変換手段を備える点に特徴がある。
(E−1)第5の実施形態の構成
図21は、第5の実施形態の光クロック信号再生装置1Fの構成を説明するブロック図である。
図21において、光クロック信号再生装置1Fは、モード同期半導体レーザ500、複屈折媒体70、偏波依存型光アイソレータ71、結合レンズ72及び73、光アイソレータ74、波長フィルタ75、光遅延干渉計76、を少なくとも有して構成される。
なお、図21に示す構成は、第5の実施形態の光クロック信号再生装置1Fの構成の一例であり、第1の実施形態の構成をベースにして形成したものである。勿論、第2、第3、第4の実施形態の構成をベースにして、以下で説明する第5の実施形態の特有の機能構成を追加するようにしてもよい。
第5の実施形態では、入力光信号として、連続する<1>の信号間で光強度がゼロに落ちない、いわゆるノンリターン・トゥ・ゼロ信号(Non Return to zero、以下でNRZ信号と呼ぶこともある)を考える。
光遅延干渉計76は、入力NRZ信号S100をRZ変換信号S70に変換するものであり、入力光信号を複屈折媒体70に入力する光経路に配置される。ここで、光遅延干渉計76は、NRZ信号をRZ信号に変換することができれば、広く適用することができるが、例えば、非特許文献6に示されるファイバグレーティングや、特許文献3に示すマッハツェンダ干渉計のような、光遅延干渉計を適用するのが有用である。
(E−2)第5の実施形態の動作
次に、第5の実施形態の光クロック信号再生装置1Fにおける光クロック信号の再生動作を図面を参照して説明する。
以下では、光遅延干渉計76として、マッハツェンダ干渉計型の光遅延干渉計を適用した場合を例示して説明する。
まず、図22を参考にして、マッハツェンダ干渉計型の光遅延干渉計を用いた場合の、光信号(NRZ光信号)からRZ光信号への変換方法の原理を説明する。
入力NRZ光信号S100は、光遅延干渉計76に入力し、光分配器80にて2分岐される。2分岐された光信号はそれぞれ、マッハツェンダ干渉計の光路82、83を通過し、光分配器81にて再合波される。
ここで、光路82、83において、相対群遅延時間τ2が生じ、かつ、それぞれの光路82、83を通過する光信号間にπの位相差が生じるものとする。
図22(c)は、相対群遅延時間τ2が、入力光信号S100の信号時間間隔1/fbit−rateより小さいときの、光路82を通過して光分配器81に到達したときの光信号S101の振幅波形であり、図22(d)は、相対群遅延時間τ2が、入力光信号S100の信号時間間隔1/fbit−rateより小さいときの、光路83を通過して光分配器81に到達したときの光信号S102の振偏波形である。
ここで、Eは振幅の最大値であり、光分配器80、81における分岐比が1:1である場合は、光信号S101、S102で同じ値をとる。
これらの合成で得られる光分配器81からの干渉出力の振偏波形S103は、図22(e)に示すようになる。図22(e)からわかるように、干渉出力S103は、連続するビット間で信号レベルがゼロに戻る、いわゆるRZ信号に変換されることがわかる。
RZ変換光信号S70の信号パターンは、入力NRZ光信号S100の信号パターンとは異なったものになる。
例えば、図22の例では、入力NRZ光信号S100の信号パターンは<111010010>であるが、RZ変換光信号S70の信号パターンは<100111011>となる。しかしながら、クロック抽出における最終目的は、先に述べたように、連続したパルス列(あるいは正弦波)の出力を得ることが目的であるので、このような入力光信号の信号パターンの変化は問題とはならない。また、特許文献3で述べられているように、RZ光信号への変換過程は、何らの光電変換を介さずに、全光学的に実行されるので、このようなNRZ光信号からRZ光信号への変換は、光デバイス・電子デバイスの電気的帯域の制限を受けずに、高いビットレートの光信号にも適用できる。
光遅延干渉計76として、直交した光軸方向で光路差が等しい、いわゆる偏波無依存型のものを用いれば、入力NRZ光信号の偏波状態にかかわらず、上述したようなNRZ光信号からRZ光信号への変換が行われる。
RZ変換光信号S70は、入力NRZ光信号S100がそうであるように、偏波不定光であるが、このRZ変換光信号S70は、RZ光信号であるため、クロック再生動作を安定に実行できるほどの強いビットレート周波数成分を有する。
さらには、このRZ変換光信号S70が、複屈折媒体70に入力し、その後モード同期半導体レーザ500に与えられると、第1の実施形態で説明した効果により、モード同期半導体レーザ500から、再生光クロック信号C71及びC72を得ることができる。
図23は、第5の実施形態における光信号及び光クロック信号の信号波形及び偏波状態を模式的に示した図である。
図23に示すように、RZ変換光信号S70、光信号S71〜S74、光クロック信号C71、C72はそれぞれ、図4に示す第1の実施形態での、入力光信号S30、光信号S31〜S34、光クロック信号C31、C32に対応するものであり、その詳細な説明は先に述べられた通りなのでここでは割愛する。
(E−3)第5の実施形態の効果
以上のように、第5の実施形態によれば、第1〜第4の実施形態で説明した効果に加えて、次に示す効果を得ることができる。すなわち、入力光信号がNRZ光信号の場合であっても、入力光信号の偏波状態に無依存な、全光クロック信号再生が実行できるようになる。
(F)他の実施形態
第1〜第5の実施形態において、モード同期半導体レーザがTE偏波発振するものとして説明したが、TM偏波発振する受動モード同期半導体レーザでも同様の効果は得られる。また、第1〜第5の実施形態においては、モード同期半導体レーザ100、200、300、400、500として、可飽和吸収領域を有し、それがモード同期動作を生じさせるモードロッカとして動作する、いわゆる受動モード同期半導体レーザを考慮しているが、可飽和吸収領域を有しないタイプのモード同期半導体レーザであっても、光信号を受け入れることでレーザ内部の光学利得、光学吸収、あるいは屈折率に変調が生じ、それによって光クロック再生動作を生じることが可能であるならば、適用することができる。
1A、1B、1C、1D、1E、1F…光クロック信号再生装置、100、200、300、400、500…モード同期半導体レーザ、30、40、50、60、70…複屈折媒体、31、71…偏波依存型光アイソレータ、51…偏波依存型光サーキュレータ、32、33、42、43、52、63、64、72、73…結合レンズ、34、44、74…光アイソレータ、46…偏波無依存型光アイソレータ、67…波形モニタ、68…制御信号発生装置、76…光遅延干渉計。