JP4946487B2 - 低Cr合金鋼の溶製方法 - Google Patents

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本発明は、低Cr合金鋼の溶製方法に係わり、特に、Cr濃度が3質量%以下の低Cr合金鋼を転炉―二次精錬装置を順次経る工程で安定して溶製する技術に関する。
Cr濃度3質量%以下の低Cr合金鋼を溶製するには、一般に、転炉から出鋼した溶鋼を二次精錬装置であるRH真空脱ガス槽(周知につき図示せず)に移行し、そこで脱炭、脱ガス、合金成分調整等の所謂「二次精錬処理」を行うプロセスが用いられている。ここで、二次精錬装置としてRH真空脱ガス槽を採用する理由は、他方式の真空脱ガス槽を使用した場合に比べて、槽内の真空とする領域が少なくて済むので、処理時間が短いというメリットがあるためである。
ところが、RH真空脱ガス槽を利用する該二次精錬処理では、脱炭能力が小さい上に溶鋼の温度降下が大きいので、溶鋼の脱炭量の調整並びに出鋼に際しての目標溶鋼温度への制御が難しい。そのため、このプロセスを用いてCr濃度3質量%以下の低Cr合金鋼を溶製するにあたっては、出鋼時における溶鋼のC濃度及び温度の規制が厳しく、作業者は、前段階の転炉吹錬において2回以上のサブランスの投入を行って溶鋼の成分及び温度を測定し、出鋼する溶鋼のC濃度及び温度を慎重に調整するという操業を強いられていた。
しかしながら、このような操業方法では、転炉での吹錬時間の延長を招くので、転炉作業費の増加に加え、高温の溶鋼に接触している転炉の炉底(ボトム)耐火物及び炉底羽口への熱負荷の増加に起因して、転炉の寿命が短命化するという問題があった。
本発明は、かかる事情に鑑み、転炉での精錬時間の延長を招くことなく、安価に、且つ安定してCr濃度が3質量%以下の低Cr合金鋼を溶製可能な低Cr合金鋼を溶製方法を提供することを目的としている。
発明者は、上記目的を達成するため鋭意研究を重ね、その成果を本発明に具現化した。
すなわち、本発明は、転炉及び二次精錬装置からなる精錬プロセスを用い、Cr濃度が3質量%以下の低Cr合金鋼を溶製するに際して、まず、転炉での酸素吹錬の段階で、溶鋼の脱炭酸素効率が100%となるC濃度の最小値に到達する前に、サブランスで1回、溶鋼の成分及び温度を測定し、該酸素吹錬を終了する時の溶鋼の仮目標とするC濃度及び温度を予測してから、該溶鋼を出鋼し、その後、二次精錬装置としてVOD方式のものを採用して、該VODでの二次精錬により前記溶鋼の最終目標とするC濃度及び温度への調整を行うことを特徴とする低Cr合金鋼の溶製方法である。この場合、前記溶鋼の脱炭酸素効率が100%となるC濃度の最小値は、二次精錬装置にRH方式のものを使用し、その1チャージの操業で2回以上のサブランスの投入を実施していた時の実績データに基づき推定するのが好ましい。

本発明によれば、転炉吹錬時での酸素ガス吹錬時間の短縮が可能となり、転炉ボトム耐火物並びに炉底羽口への熱負荷が軽減される。その結果、転炉の炉寿命向上及び転炉での作業費の削減が達成された。
以下、発明をなすに至った経緯をまじえ、本発明の最良の実施形態を説明する。
発明者は、内部に保持した溶銑又は溶鋼に酸素ガスを上吹き、底吹き、あるいは上底吹き可能な転炉と、該転炉から取鍋に出鋼した溶鋼を二次精錬するRH方式の真空脱ガス槽とを使用する従来技術を見直した。そして、転炉で酸素ガスを吹錬する時間の長いことが、転炉のボトム耐火物及び炉底羽口に大きな熱負荷をかけ、転炉の炉寿命を短くするばかりでなく、転炉での作業費を増加していると考えた。その対策として、まず第一に、転炉での吹錬時間を短縮することが考えられる。具体的には、溶鋼の測温やC濃度の分析試料を採取する所謂「サブランス」の投入を省略することである。ちなみに、サブランスの投入1回に要する時間は、サブランスの準備、投入による溶鋼のサンプリング及び測温、サンプルの採取、該サンプルの分析室への搬送と分析並びに分析結果の受理と該分析結果に基づく溶鋼のC濃度及び温度の動向予測等の作業が行われるので、おおよそ10分と、全体の吹錬時間が65分であることからみると結構長い時間だからである。
このサブランスの省略には、酸素吹錬中の溶鋼のC濃度及び温度を精度良く推定できる手段が必要である。そこで、発明者は、過去の操業データの解析を行い、3質量%以下のCrを含有する過去の該溶鋼に対応する溶鋼の製造におけるC濃度及び温度の経時変化(図1(a)参照)を求めた。この図1(a)のような経時変化データがあれば、サブランスの使用がまだ普及していなかった昭和40年代の転炉精錬技術と同様に、組成がほぼ類似し、今溶製しようとしている溶鋼のC濃度及び温度の経時変化をある程度予想できるからである。
ところが、実際の操業では、組成等が同一であっても、上記経時変化のような過去の実績データ通りに進行するかどうかに疑問があり、やはりサブランスの使用で溶鋼のC濃度及び温度を実測するのが望ましい。また、前記したように、現在のRH方式の真空脱ガス槽の使用では、その槽からの出鋼時の溶鋼のC濃度及び温度の規制が厳しく、作業者は、前段階の転炉精錬において2回以上のサブランスの投入を行ない、溶鋼の温度及びC濃度を測定し、該測定値に基づきその後の酸素吹錬等をしなければならないという制約がある。
そこで、発明者は、サブランスの投入を1回に減らせば、かなりの吹錬時間の短縮になると考えた。しかしながら、このように、サブランス投入を1回にすれば、それにより生じる「転炉からの出鋼する時に、溶鋼のC濃度及び温度が目標値より大きくばらつく」という問題を,何らかの方法で解決する必要があった。
そのため、発明者は、引き続きこの問題を解決する対策について検討を行い、二次精錬用の装置として溶鋼の成分調整及び温度の制御能力が高いことが従来より知られているVOD真空脱ガス槽(周知につき図示せず)を、RH方式の真空脱ガス槽に代えて採用することを着想したのである。これにより、転炉での酸素吹錬時間の短縮を図って溶鋼の脱炭程度が減少しても(つまり、粗脱炭)、VOD真空脱ガス槽の利用で、それ以降に、溶鋼のC濃度の調整及び温度の制御が確実に、且つ安定して行えるからである。
ただし、サブランスの投入を1回に減らすると、その1回のサブランス投入による溶鋼のC濃度及び温度の測定をいつ(何時)行っても良いというわけではなく、投入のタイミングを適切にする必要がある。つまり、転炉で粗脱炭しかされていないとしても、VOD真空脱ガス槽での二次精錬の対象となる溶鋼のC濃度及び温度は、転炉においてある程度のレベル(各チャージ毎に仮の目標値がある)に到達していることが前提だからである。さもなくば、二次精錬にVOD真空脱ガス槽を用いても、溶鋼のC濃度及び温度が最終的な目標値にならないこともあると考えられる。
そこで、発明者は、さらにサブランス投入のタイミングについて検討を行い、1回投入のタイミングの決定に、溶鋼の脱炭酸素効率(%、吹き込んだ酸素ガスのうちで実際に脱炭に寄与した割合)とC濃度(質量%)との関係(図1(b)参照)を利用することを思いついた。その理由は、図1(a)に示した経時変化及びその操業条件(酸素吹き込み量等)があれば、上記溶鋼の脱炭酸素効率とC濃度(質量%)との関係(図1(b)参照)を容易に計算できるし、また転炉での酸素吹錬を終了(吹き止め)時のC濃度を以下のように精度良く推定できると考えたからである。
まず、二次精錬装置にRH方式のものを使用し、該サブランスを2回以上投入していた操業時の実績データから図1(b)の関係を求め、「溶鋼の脱炭酸素効率が100%となる炭素(記号:C)濃度の最小値を決定する。そして、サブランスは該最小値よりほぼ 分前に投入するのが良いと考えたのである。「ほぼ1分前」としたのは、サブランスの投入からC濃度の測定結果を得るまでにほぼ1分を要するからであり、「最小値」を基準にしたのは、前記脱炭酸素効率が100%とは,溶鋼に吹き込まれた酸素ガスの100%が脱炭に使用されることを意味しており、その100%の維持されている間は、コンピュータの使用で脱炭量が吹き込まれた酸素ガスの量から容易に計算できるからである。つまり、サブランスによる溶鋼の温度及びC濃度の測定値に基づき、転炉では酸素吹錬を終了する時の溶鋼の仮の目標温度及び炭素濃度を精度良く、且つ迅速に予測できるのである。従って、その仮目標値であるC濃度及び温度により酸素吹錬の停止時及び出鋼時を決めることができる。出鋼した以降は、転炉から出鋼された溶鋼のC濃度と温度の予測値に基づき、VOD真空脱ガス槽での脱炭処理だけで、十分に溶鋼の最終目標炭素値や最終目標温度を達成可能となる。
なお、VOD真空脱ガス槽を採用したことで、RH真空脱ガス槽を利用していた際のメリットは失われるが、それを犠牲にしても、転炉の炉寿命向上及び転炉での作業費の削減の効果の方うが大きいのである。
以上述べたように、上記本発明によれば、Cr:3質量%以下の溶鋼を溶製するための溶鋼を、転炉で予め粗脱炭するに際しては、該転炉での酸素吹錬の途中においてサブランスの投入回数を1回だけとしても、類似組成の過去の実績データの利用で、吹き止め時の溶鋼のC濃度及び温度を精度良く予想できるのである。その結果、転炉ボトム耐火物並びに炉底羽口への熱負荷が軽減され、転炉の炉寿命向上及び転炉での作業費の削減が達成されることになる。
高炉から出銑した溶銑を、所謂「溶銑予備処理」工程で脱珪、脱燐、脱硫し、上底吹き転炉で脱炭吹錬してから、二次精錬としてのVOD真空脱ガス槽で、さらなる脱炭、成分調整用合金の添加等の処理を行い、最終的な成分及び温度にして出鋼する操業を多数チャージ実施した。最終的にVOD真空脱ガス槽から出鋼した溶鋼の各チャージでの成分及び温度は、表1に示す通りである。引き続き、その溶鋼は、連続鋳造されて鋼鋳片(スラブ)となし、鋼板とするため圧延工場に送られ、品質に優れた鋼板となった。
Figure 0004946487
この操業に際して、多くのチャージにおいて本願発明を適用したが、転炉でのサブランスの投入タイミングは、前記したように、図1(b)に示したような過去の実績データから溶鋼の脱炭酸素効率が100%となるC濃度の最小値を予測し、その値よりほぼ 分前に行うと定めたものである。なお、転炉での上吹き酸素ガスの流量は250〜450Nm/minとし、二次精錬装置には、既存のVOD真空脱ガス槽を利用した。
この操業の結果としては、サブランスの投入回数を1回としたことで、図2に示すように、転炉の吹錬時間は従来法(転炉でサブランスの投入2回以上で、二次精錬装置にRH真空脱ガス槽を利用した場合)での平均65分から、40分に短縮した。また、これに伴い、転炉からの出鋼成分及び溶鋼温度の目標値からのずれがあったが、図3に示すように、二次精錬に成分及び温度の調整能力の高いVODプロセスを適用したので、VOD真空脱ガス槽から出鋼した溶鋼の代表成分(炭素)に規格外れは生じなかった。さらに、溶鋼の温度についても、本発明の適用した場合と従来法による場合とで、図4に示すように、連続鋳造時の鋳込み温度に相違が認められなかった。加えて、炉底羽口の損耗速度は、図5に示すように、本発明の適用以前に対して61%も低減し、転炉の平均炉寿命は、図6に示すように、17%向上した。
過去にCr:3質量%以下の溶鋼を転炉で吹錬した場合の結果を示す図であり、(a)は、炭素濃度及び温度の計時変化を、(b)は炭素濃度と脱炭酸素効率との関係を示すものである。 本発明の適用前後での転炉における吹錬時間を比較した図である。 本発明の適用前後での転炉出鋼時における溶鋼の炭素濃度を比較した図である。 本発明の適用前後での転炉出鋼時における溶鋼の温度を比較した図である。 本発明の適用前後での転炉の炉底羽口の損耗速度を比較した図である。 本発明の適用前後での転炉の炉寿命を比較した図である。

Claims (2)

  1. 転炉及び二次精錬装置からなる精錬プロセスを用い、Cr濃度が3質量%以下の低Cr合金鋼を溶製するに際して、
    まず、転炉での酸素吹錬の段階で、溶鋼の脱炭酸素効率が100%となるC濃度の最小値に到達する前に、サブランスで1回、溶鋼の成分及び温度を測定し、該酸素吹錬を終了する時の溶鋼の仮目標とするC濃度及び温度を予測してから、該溶鋼を出鋼し、その後、二次精錬装置としてVOD方式のものを採用して、該VODでの二次精錬により前記溶鋼の最終目標とするC濃度及び温度への調整を行うことを特徴とする低Cr合金鋼の溶製方法。
  2. 前記溶鋼の脱炭酸素効率が100%となるC濃度の最小値は、二次精錬装置にRH方式のものを使用し、その1チャージの操業で2回以上のサブランスの投入を実施していた時の実績データに基づき推定することを特徴とする請求項1記載の低Cr合金鋼の溶製方法。
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