JP4932768B2 - 気管挿管訓練装置 - Google Patents

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Description

本発明は、気管挿管訓練装置に係り、更に詳しくは、医師や救急救命士等により行われる気管挿管の手技を客観的に評価することができる気管挿管訓練装置に関する。
病気や事故等により意識障害や心肺停止が発生し、また、手術の際に全身麻酔を行うと、それら患者の下顎内の筋肉が弛緩して舌の付根(舌根)が沈下する。その結果、当該患者の口内から肺に至る空気の通路(気道)が一部閉塞してしまい、患者の肺内に空気が供給されなくなってしまう。このような気道閉塞状態では、医師や救急救命士が患者の口から気道内に気管挿管チューブを差し込み、当該気管挿管チューブにより、患者の肺内に強制的に空気を送り込む処置が行われる。この処置は、先ず、側面視ほぼL字状の形状をなす喉頭鏡と呼ばれる器具を用い、その先端側に位置するブレードを口内に挿入し、沈下した舌根部分を起こして気道の閉塞部位を持ち上げ、喉頭鏡で口内の状態を確認しながら、口内から気道内に気管挿管チューブを差し込む。ここで、当該気管挿管チューブは、その最先端側に空気の吹出部が設けられたチューブ本体と、前記吹出部よりもやや後側となるチューブ本体の周囲に設けられたカフとを備えている。当該カフは、その内部に注入される空気量に応じて膨張及び収縮が可能となるバルーン状に設けられており、前記吹出部が気道中の適切な気管内位置に達したときに、外側からカフ内に空気が送り込まれて膨張し、当該カフを気管壁に接触させる。そして、この状態で、体外からの空気がチューブ本体内を通って吹出部から気管内に供給される。このとき、チューブ本体の周りにあるカフにより、当該チューブ本体の外側と気管壁との間の隙間が閉塞される。その結果、カフよりも気管内奥側に位置する吹出部から肺方向に供給された空気が、肺の逆側となる体外方向に逆流することを防止でき、併せて、口内に流出した血液や食道からの胃液等の異物が肺内に入り込むことも防止できる。
このような気管挿管処置の際には、一刻を争うことから、気管挿管チューブを瞬時且つ適切に気道に挿入しなければならず、そのためには、日頃からの訓練が不可欠となる。このような訓練には、特許文献1に開示されたマネキン状のモデル等の訓練用ツールが使用される。当該モデルは、気道を模した気道構造物と、食道を模した食道構造物を備えており、救急現場で二次確認用に使用される食道挿管検知器を併用しながら気管挿管訓練を行えるようになっている。つまり、このモデルは、気管挿管時に気管挿管チューブを誤って食道に挿入しないように訓練するためのものであって、このような食道への誤挿入を食道挿管検知器で検出可能な構造となっている。
ところで、気管挿管時においては、特許文献1のモデルで訓練対象となる気管挿管チューブの食道内への誤挿入の防止の他にも種々な留意点があり、これら留意点を考慮した訓練も必要となる。
例えば、喉頭鏡を使って舌根を起こす際には、当該喉頭鏡の先端側のブレードを舌の適正部位に当てる必要があり、そこを支点として喉頭鏡を回転させることで、舌が上手く持ち上がる。ところが、初心者は、誤った部位を支点として喉頭鏡を回転してしまい、舌を上手く持ち上げらない場合があることから、喉頭鏡の回転支点となる正しい部位を正確に見つけ出して、当該部位にいち早くブレードを当てる訓練が必要になる。また、喉頭鏡で舌を持ち上げる際に、そのブレードが上顎前歯部分に接触して当該歯が折損する事故が発生する場合もあり、喉頭鏡の回転時に、ブレードで上顎前歯部分を押し付けないように訓練する必要もある。
更に、気管挿管チューブの出し入れ時には、当該気管挿管チューブが声帯の中央に形成された隙間を通過することになるが、このとき、気管挿管チューブが声帯に接触することで当該声帯が傷付けられる場合がある。従って、気管挿管チューブを出し入れする際には、声帯との接触に十分注意しながら行わなければならない。
また、気管挿管チューブの最先端側となる吹出部は、気管支よりも手前の気管内部分に配置される必要がある。つまり、吹出部が気管支から分岐した一方の気管内に達ってしまうと、片方の肺内しか空気が供給されない片肺状態を招来することになる。従って、気管支の手前となる気管内の適正部分に吹出部を確実に配置する訓練も必要となる。
更に、カフ内に空気を注入する際に、当該カフの膨らみが少ないと、前述したような吹出部からの供給空気の逆流等が生じる。一方、カフの膨らみが多過ぎると、気管壁の粘膜が損傷し、細胞壊死が発生する虞がある。従って、カフを適正な圧力で膨らませる訓練も必要になる。
特開2005−227372号公報
しかしながら、前記特許文献1のモデルにあっては、当該モデルを使って気管挿管訓練を行っても、以上の留意点を考慮した気管挿管訓練全体の客観的な評価を得ることができず、気管挿管チューブが食道に誤挿入されたか否かしか把握できない。しかも、当該食道の誤挿入の把握には、食道挿管検知器を併用しなければならず、当該食道挿管検知器を用いないで気管挿管の訓練を行った場合には、その評価をすることができない。
本発明は、このような課題に着目して案出されたものであり、その目的は、医師や救急救命士等が気管挿管訓練を行った際に、気管挿管処置に対する様々な留意点を考慮した気管挿管手技の客観的な評価を行うことができる気管挿管訓練装置を提供することにある。
(1)前記目的を達成するため、本発明は、人体の上半身部分を模擬した外形を有し、気管挿管器具を使った気管挿管訓練が行われるモデルと、このモデルに対して行われた気管挿管手技の評価を行う評価手段とを備え、
前記モデルは、人体の首部よりも上の部分に相当する頭顔部と、この頭顔部に対して回転可能に連なるとともに、所定の設置面に対する傾斜角度を調整可能な首胸部と、これら頭顔部及び首胸部の姿勢を検出する姿勢検出センサとを備え、
前記頭顔部は、人体の頭部に相当する頭部と、当該頭部に対して回転可能に連なる下顎部と、当該下顎部の姿勢を検出する姿勢検出センサと、前記頭部及び下顎部の間に設けられた口内部と、前記頭部の上顎部分に固定された上顎前歯部と、当該上顎前歯部に付加された押圧力を測定する圧力センサと、前記口内部内に配置された舌部と、当該舌部に付加された押圧力を測定する圧力センサと、前記舌部の奥側に設けられた声帯部と、当該声帯部に付加された押圧力を測定する圧力センサとを備え、
前記首胸部は、前記声帯部を通じて前記口内部に連なる気管部と、前記気管部に並列配置されるとともに、前記口内部に連なる食道部と、前記気管部の内壁に付加される押圧力を測定する圧力センサと、前記気管部内及び前記食道部内の前記気管挿管器具の存否を確認するための位置検出センサとを備え、
前記評価手段は、前記姿勢検出センサ、前記圧力センサ及び前記位置検出センサからの測定値に基づき、予め記憶された評価関数の各パラメータに数値を代入することで、気管挿管手技の評価値を算出する、という構成を採っている。
(2)また、前記評価手段は、前記姿勢検出センサ、前記圧力センサ及び前記位置検出センサによる測定結果を得る測定部と、訓練開始から気管挿管終了までの気管挿管時間を計時する計時部と、前記測定部及び前記計時部のデータから予め定められた関数により前記パラメータに代入する値を求めるデータ演算部と、当該データ演算部で求められた各値を前記評価関数に代入することで前記評価値を算出する評価値算出部とを備える、という構成を採っている。
本発明によれば、医師や救急救命士等が気管挿管訓練を行った際に、当該訓練に対する気管挿管手技の客観的な評価を行うことができ、しかも、気管挿管処置の際に、取り扱いに気を付けなければならない部位に各センサを適宜配置することで、気管挿管処置に対する留意点を考慮した気管挿管手技の評価を行うことができる。
つまり、気管挿管処置を行う際には、医師や救急救命士等が患者の頭部や胸部を適切な角度に傾けるとともに、下顎部を適切な角度で開口させること等が要求される。この点、モデルの頭顔部、首胸部及び下顎部に姿勢検出センサが配置され、当該センサで検出された頭顔部、首胸部及び下顎部の姿勢の状態が評価値に反映されるため、このような準備作業の客観的評価を行うことができる。
また、気管挿管チューブや喉頭鏡等の気管挿管器具が接触する可能性のある体内部位に相当するモデルの部位に圧力センサが配置され、これら部位に付加された押圧力が圧力センサで検出されて評価値に反映されるため、前記接触に関する留意点を考慮した気管挿管手技の客観的評価を行うことができる。つまり、喉頭鏡のブレードが上顎前歯部に接触していないか、また、当該ブレードが舌部の適正位置に当てられているか、更に、気管挿管チューブが声帯に当たっていないか、また、気管挿管チューブのカフにより気管壁に付与される圧力が適切か、等の観点から客観的な評価を行うことができる。
更に、気道部内に位置検出センサが配置され、気道部内の気管挿管器具の位置が位置検出センサで検出されて評価値に反映されるため、気管挿管チューブの最先端側が気管支部分に達していないか等、気管内への不適切な気管挿入に関する留意点を考慮し、気管挿管手技を客観的に評価することができる。
また、気管挿管処置時には、食道内に気管挿管器具を侵入させてはいけないが、モデルの食道部内に位置検出センサが配置され、食道部内に気管挿管器具が侵入したか否かがセンシングされて評価値に反映されるため、このような気管挿管器具の食道への誤挿入を考慮した気管挿管手技の客観的評価をも行うことができる。
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1には、本実施形態に係る気管挿管訓練装置の概略構成図が示されている。この図において、気管挿管訓練装置10は、医師や救急救命士等の訓練者が気管挿管器具12を使って気管挿管訓練を行うための装置であって、その訓練の結果、気管挿管手技の評価を行えるようになっている。この気管挿管訓練装置10は、人体の上半身部分を模擬した外形を有し、気管挿管器具12を使った気管挿管訓練が行われるモデル14と、このモデル14に対して行われた気管挿管手技の評価を行う評価手段15とを備えて構成されている。
ここで、前記気管挿管器具12としては、公知の気管挿管チューブ17及び喉頭鏡18がある。
前記気管挿管チューブ17は、空気が通るチューブ本体20と、このチューブ本体20の最先端側に設けられた空気の吹出部21と、当該吹出部21よりもやや後側となるチューブ本体20の周囲に設けられたカフ22とを備えている。当該カフ22は、その内部に外側から空気を注入できるようになっており、当該空気の注入量に応じて膨張及び収縮が可能なバルーン状に設けられている。また、本実施形態では、後述する測定が可能となるように、チューブ本体20及びカフ22の表面に、遮光性を有する反射材23が被覆されている。
前記喉頭鏡18は、その先端側に側面視ほぼL字状のブレード25を備えている。
前記モデル14は、人体の表面部分を模擬したカバー27と、このカバー27で周囲が被われ、気管挿管訓練に必要となる人体の部位が模擬された模擬体28とを備えている。
前記模擬体28は、人体の口部から気管支までの気道構造と口内からの食道構造とが模擬された構造となっており、人体の首部よりも上の部分に相当する頭顔部28Aと、人体の首部以下の部分に相当する首胸部28Bと、これら頭顔部28A及び首胸部28Bを支持するフレーム28Cとを備えて構成されている。
前記頭顔部28Aは、図2に示されるように、人体の頭部に相当する頭部30と、この頭部30に対して回転可能に連なる下顎部31と、これら頭部30及び下顎部31の間に設けられるとともに、図2中上部が開放する空間の口内部32と、頭部30の図2中右側の上顎部33に固定された上顎前歯部34と、下顎部31の図2中左側に設けられ、口内部32に配置された舌部36と、この舌部36の付け根となる口内部32の奥側の舌根部37付近に設けられた喉頭蓋部39と、この喉頭蓋部39の図2中右隣に設けられた声帯部41とを備えている。
前記上顎前歯部34は、口内部32側の表面の複数箇所に、前記評価手段15(図1参照)に繋がる圧力センサ46が取り付けられている。この圧力センサ46は、図3に示されるように、上顎前歯部34に固定されたベース48と、このベース48上に固定された公知のフォトインタラプタ50と、このフォトインタラプタ50の周囲を覆うスポンジ等の弾性部材51と、この弾性部材51の上面に固定された反射板52とを備えて構成されている。
前記フォトインタラプタ50は、発光ダイオード等の発光素子54と、フォトトランジスタ等の受光素子55とを備えている。
前記弾性部材51は、黒色のスポンジ部材により形成されているが、これに限定されるものではなく、外部からの押圧力によって変形可能な弾性を備えていれば何でも良い。
前記反射板52は、所定の遮光性を備えた板材によって形成されており、フォトインタラプタ50の発光素子54から照射された光が圧力センサ46の外側に漏れるのを防き、且つ、圧力センサ46の外側から光が弾性部材51に入り込むのを防ぐようになっている。
以上の構成により、発光素子54から照射された光は、反射板52で反射されて受光素子55で検出されるようになっている。ここで、圧力センサ46の上面側の反射板52に外力が加わると、その外力の大きさに応じて弾性部材51が変形し、反射板52からフォトインタラプタ50までの距離が変わる。すると、受光素子55で検出される光量が変わり、受光素子55から出力される電流値が変化することになる。つまり、反射板52にかかる圧力が大きい程、フォトインタラプタ50が反射板52に近づき、受光素子55で検出される光量が増えて、当該受光素子55から出力される電流値が増える。このように、圧力センサ46は、外力の付与による弾性部材51の変形に応じて受光素子55の電流値が変化し、当該電流の変化に伴う電圧を測定することで、反射板52に加わった圧力を把握可能となる。
前記舌部36は、人間の舌に近い弾性を有する素材により、当該舌に近い形状に形成されている。
前記舌根部37には、図2に示されるように、それらの複数箇所に、上顎前歯部34に設けられた圧力センサ46と実質的に同一となる構造の圧力センサ57が取り付けられている。ここでの圧力センサ57も、図1の評価手段15に繋がっている。なお、特に限定されるものではないが、本実施形態では、圧力センサ57が、人体正面側から見て右寄りの位置2段に各2個ずつ合計4個取り付けられている。これら圧力センサ57は、気管挿管時に舌の右奥側を喉頭鏡25(図1参照)で持ち上げることが良いとされる観点から、後述の評価を行うために用いられる。
前記声帯部41は、図4に示されるように、管部59と、この管部59の図4(A)中左右両側に配置された一対の模擬声帯60,60と、各模擬声帯60,60の図4(A)中裏側にそれぞれ設けられるとともに、図1の評価手段15に繋がる圧力センサ62とを備えて構成されている。
前記模擬声帯60,60は、遮光性及び弾性を有する薄板状に設けられて、管部59の内部空間の一部分を閉塞するようなっている。
前記圧力センサ62は、図3で説明した圧力センサ46と実質的に同一となる構造となっており、当該圧力センサ46と同一若しくは同等の構成部分については同一符号を用いるものとし、説明を省略する。ここで、模擬声帯60は、図4(B)中上側から押圧力が加わると同図中中央部分が下方に弾性変形し、圧力センサ62との離間距離が変わる(短くなる)。すると、模擬声帯60は、前記反射板52のような遮光性を有しているため、前記圧力センサ46と同様、模擬声帯60を反射した光によるフォトインタラプタ50での受光量が変わり、当該受光量の変化に伴う電圧の変化によって模擬声帯60の変位量を検出できるようになっている。
前記首胸部28Bは、図2に示されるように、口内部32から声帯部41の管部59を通じて連なる気管部63と、口内部32に連なるとともに、気管部63の同図中下側に並列配置された食道部64とを備えている。
前記気管部63は、図5に示されるように、管壁65と、管壁65内にそれぞれ設けられるとともに、図1の評価手段15にそれぞれ繋がる複数の圧力センサ66及び複数の位置検出センサ69とを備えている。
前記圧力センサ66は、図5及び図6に示されるように、管壁65の内側に表出した状態で当該管壁65に固定されており、気管部63の軸線方向に沿って複数個設けられている。これら圧力センサ66は、上顎前歯部34に設けられた前述の圧力センサ46とほぼ同一の構成となっており、前記圧力センサ46と同一若しくは同等の構成部分については同一符号を用いて説明を省略する。この圧力センサ66は、訓練時に気管部63内に挿入されたカフ22が膨張したときに、当該膨張による管壁65への押圧力を測定できるようになっている。測定原理は、前記圧力センサ46と同様である。
前記位置検出センサ69は、図5及び図6に示されるように、フォトインタラプタ71により構成されており、気管部63の軸線方向に沿って複数配置されている。これらフォトインタラプタ71は、管壁65の内側に表出した状態で当該管壁65に埋設されており、前記フォトインタラプタ50と同様に、発光素子54及び受光素子55を備えている。
ここでのフォトインタラプタ71は、図6中の矢印に示されるように、フォトインタラプタ71の発光素子54から照射された光を同じフォトインタラプタ71内の受光素子55で検出するようになっている。つまり、フォトインタラプタ71に気管挿管チューブ17が位置すると、その表面の反射材23によって、発光素子54からの光が気管挿管チューブ17で反射されるため、受光素子55の受光量が増大し、当該受光量の変化を検出することで、各フォトインタラプタ71に対向する位置に気管挿管チューブ17が存在するか否かが分かることになる。従って、各フォトインタラプタ71で受光状態を測定することで、あるフォトインタラプタ71での測定結果が、所定の閾値以下の受光量の場合は、そのフォトインタラプタ71の対向位置には気管挿管チューブ17が存在しないと判断され、当該気管挿管チューブ17の存否の境界となるフォトインタラプタ71の位置(図5中K)が、気管挿管チューブ17の先端側の存在位置となる。
前記食道部64は、図2に示されるように、口内部32に繋がる内部空間を形成する管壁75と、当該管壁75内に設けられて図1の評価手段15に繋がる位置検出センサ76とを備えている。
前記位置検出センサ76は、気管部63の位置検出センサ69と同様の構造のセンサであり、食道部64の入口寄りの管壁75の位置にフォトインタラプタ77が設けられた構成となっている。この食道内位置検出センサ76は、食道部64内に気管挿管チューブ17が誤挿入されたときに、前記位置検出センサ69と同様の原理で、気管挿管チューブ17の食道部64内への侵入を検出するようになっている。
前記フレーム28Cは、図1に示されるように、頭顔部28Aを支持する第1フレーム78Aと、第1フレーム78Aに対して支点P1を中心に回転可能に連結されるとともに、首胸部28Bを支持する第2フレーム78Bと、第1フレーム78Aと下顎部31の奥側の支点P2の間に連結され、当該支点P2を中心に下顎部31を回転可能する第3フレーム78Cと、第2フレーム78Bにおける支点P1と反対側の支点P3に回転可能に連結されベース78Dと、頭顔部28A、首胸部28B及び下顎部31の姿勢を検出する目的で設けられ、各支点P1〜P3の回転角度を測定する姿勢検出センサとしてのポテンショメータからなる角度センサ79,80,81とを備えている。
以上のフレーム28Cの構成によって、支点P1を中心として頭顔部28Aを首胸部28Bに対して回転させることができ、このときの回転角度である頭部角度αが角度センサ79で測定される。また、支点P2を中心として下顎部31を頭部30に対して回転させることができ、このときの回転角度である顎角度βが角度センサ80で測定される。更に、支点P3を中心として首胸部28Bをモデル14の設置面に対して回転させることができ、このときの回転角度である頸部角度γが角度センサ81で測定される。
前記評価手段15は、ソフトウェア及びハードウェアによって構成され、プロセッサ等、複数のプログラムモジュール及び処理回路等により成り立っている。この評価手段15は、前記各圧力センサ46,57,62,66、各位置検出センサ69,76及び各角度センサ79,80,81からの測定値に基づいて、予め記憶された評価関数の各パラメータX〜Xに数値を代入することで、気管挿管手技の評価値Zを算出するようになっている。
ここでの評価関数は、次式で表される。
Z=AX+BX+CX+DX+EX+FX+GX+HX
なお、A〜Hは、予め求められた定数である。具体的に、これら定数A〜Hは、複数の医師や救急救命士等の熟練者と複数の未経験者とそれぞれに対して、前記パラメータX〜Xに代入される各数値を取得し、公知の判別解析を用いて、評価値Zの平均が0となるように、予め演算で求められる。
前記評価関数は、例えば100点を満点とするように、評価値Zが大きいほど、気管挿管手技が上手いと判断される。なお、各定数A〜Hの一部若しくは全部について、パラメータX〜X対応する手技の危険度を考慮して、意図的に重み付けを行って任意に設定することも可能である。
前記評価手段15は、図1に示されるように、前記各圧力センサ46,57,62,66、各位置検出センサ69,76及び各角度センサ79,80,81による測定結果を得る測定部82と、訓練開始から気管に空気を注入する直前までの気管挿管時間を計時する計時部83と、測定部82及び計時部83のデータから予め記憶された関数により前記パラメータX〜Xに代入する値を求めるデータ演算部85と、データ演算部85で求められた各値を前記評価関数に代入することで、前記評価値Zを算出する評価値算出部86と、求めた評価値Zを表示する表示部87とを備えて構成されている。
前記データ演算部85では、評価関数の各パラメータX〜Xに代入される値が、各センサ46,57,62,66,69,76,79〜81の測定値から以下の関数により求められる。特に限定されるものではないが、これら値は、0〜1の間の手技評価指数として求められる。
パラメータXは、気管挿管時間の長短の観点から手技評価するための挿管時間指数に関するものであり、計時部83で計時された気管挿管時間Tを次式に代入することで求められる。
Figure 0004932768
ここで、T1は、気管挿管チューブ17の挿入を開始してから終了するまでの時間のうち、医学的に成功とされる時間定数(例えば、30秒)であり、T2は、医学的に失敗とされる時間定数(例えば、60秒)である。
パラメータXは、最適となる頭部と頸部の姿勢(スニッフィングポジション)の観点から手技評価するための最適姿勢指数に関するものであり、角度センサ79,81の測定値である頭部角度α,頸部角度γから以下のように求められる。
Figure 0004932768
ここで、J,Kは、定数である。また、αは、医学的に最適とされる頭部の角度定数(例えば、16度)であり、γは、医学的に最適とされる頸部の角度定数(例えば、32度)である。
パラメータXは、患者の前歯の損傷を招来する上顎前歯部34への接触の観点から手技評価するための切歯部力指数に関するものである。このパラメータXは、気管挿管訓練中に定期的(例えば、20msec毎)に測定される圧力センサ46の測定値F(t)と前記気管挿管時間Tから、次のように求められる。なお、以下において、「t」は、訓練開始からの経過時間を表す。
Figure 0004932768
ここで、L,Mは、定数である。また、yは、予め行われた複数の未経験者の手技において、それぞれ上式で求めたyの平均値となる定数である。更に、F(t)MAXは、圧力センサ46の測定値F(t)の最大値であり、Fは、ヒトの切歯が折れる力の最小値となる定数(例えば、200N)である。
パラメータXは、カフ22を膨らませたときに、患者の気道内壁に対するカフ22の押圧状況の観点から手技評価するためのカフ部圧力指数に関するものである。このパラメータXは、カフ22を膨らませたときの各圧力センサ66の測定値の総和となる力Fから、以下のように求められる。
Figure 0004932768
ここで、kは、定数である。また、Pは、患者の気道内壁に付加される押圧力で医学的に適正とされる範囲の下限値を表す定数であり、Pは、当該範囲の上限値を表す定数である。更に、Pは、医学的に気道内壁に付加してはいけない押圧力の最低値である。P、P、Pとして、例えば、20、30、40(mmHO)が挙げられる。
パラメータXは、喉頭鏡18で患者の舌部を持ち上げるときに舌部の右側となる適正位置で持ち上げているか否かの観点から手技評価するための舌部力指数に関するものである。このパラメータXは、喉頭鏡18で舌部36を持ち上げているときに、各圧力センサ57で測定された電圧値V(n)から、以下のようにして求められる。
Figure 0004932768
ここで、電圧値V(n)は、1〜n番目(本実施形態ではn=4)の圧力センサ57それぞれの測定値を意味し、Q(n)は、各圧力センサ57に対応した定数を意味する。また、Vは、予め行われた複数の未経験者の手技において、舌部に付加される押圧力の平均値となる定数であり、Vは、予め行われた複数の医師の手技において、舌部に付加される押圧力の平均値となる定数である。
パラメータXは、気管挿管時の気管挿管チューブ17の先端側の位置の観点から手技評価するためのチューブ位置指数に関するものである。このパラメータXは、位置検出センサ69,76の検出結果から、次のように求められる。
すなわち、位置検出センサ76によって、食道部64内に気管挿管チューブ17が挿入されたことが検出されると、食道挿管として、X=0とされる。
また、位置検出センサ69によって、気管部63内に気管挿管チューブ17が挿入されたことが検出されると、各位置検出センサ69の検出状態によって、気管挿管チューブ17の先端側の位置がどこにあるか判断される。そこで、気管挿管チューブ17の先端側が気管支内まで延びていると判断されると、気管支挿管として、X=0.5とされる。一方、気管挿管チューブ17の先端側が気管支よりも手前に位置していると判断されると、適正な気管挿管として、X=1とされる。
パラメータXは、口内部32の開口程度の観点から手技評価するための開口程度指数に関するもの。このパラメータXは、開口が十分でない場合、喉頭鏡18を挿入する際、患者の切歯部に損傷を与える虞がある一方、無理に開口すると患者の顎関節を損傷する虞があることから制定されている。ここでは、喉頭鏡18を口内部32に挿入する直前において、角度センサ80によって測定された下顎部31の回転角度(顎角度β)から、以下のように求められる。
Figure 0004932768
ここで、L(β)は、顎角度βから数学的演算によって得られる開口量であり、また、Lは、気管挿管時に医学的に最適とされる開口量(例えば、60mm)である。
パラメータXは、気管挿管チューブ17の声帯部41への接触の観点から手技評価するための声帯部指数に関するものである。このパラメータXは、訓練開始時から気管挿管終了時間Tまでの間で定期的に測定された圧力センサ62の電圧値V(t)から、以下のようにして求められる。
Figure 0004932768
ここで、Yは、予め行われた複数の未経験者の手技において、上式で求めたY値の平均値となる定数である。
前記評価値算出部86では、前記評価関数のパラメータX〜Xにデータ演算部85で求めた各値が代入されて、評価値Zが求められる。
なお、前述したパラメータX〜Xの他、気管挿管手技の上手下手を左右する指標に関するパラメータであれば、種類や数を問わずに何でも採用することができる。この場合は、別途、前述した判別解析を使って評価関数を求め、当該評価関数を適用すれば良い。その他のパラメータとしては、例えば、喉頭鏡18により唇部分に作用した外力の大きさに基づいて決まる指標や目や咽頭部に作用した外力の大きさに基づいて定まる指標等がある。
次に、気管挿管訓練装置10を使った気管挿管訓練及び評価の流れについて説明する。
計時部83による計時を開始し、気管挿管訓練を開始する。この際、訓練者は、頭顔部28Aや首胸部28Bを手に持って動かし、モデル14を気管挿管に好適となる姿勢にする。また、下顎部31を回転し、モデル14の口内部32を開口状態にする。この際、角度センサ79〜81の測定値により、モデル14が正しい姿勢になっているかが評価されるとともに、開口程度の適不適が評価されることになる。
そして、喉頭鏡18のブレード25が口内部32に差し込まれ、訓練者は、舌部36を持ち上げて、喉頭鏡18を使って喉頭蓋部39と声帯部41の存在を確認する。この際、圧力センサ46の測定値により、ブレード25が上顎前歯部34に当たっているか否かが評価されることになり、更に、圧力センサ57の測定値により、ブレード25の先端側が舌根部37の正しい位置に当てられているか否かも評価されることになる。
この状態で、訓練者は、気管挿管チューブ17を口内部32から気管部63内に挿入する。この際、圧力センサ62の測定値により、気管挿管チューブ17が声帯部41に干渉しているか否かが評価されることになり、また、位置検出センサ76の測定値により、気管挿管チューブ17が食道部64に誤挿入されていないかが評価されることになる。
そして、訓練者は、気管挿管チューブ17を気管部63の更に奥側に挿入し、気管挿管チューブ17の吹出部21が気管支の手前の適正位置にあると自己判断したときに、気管挿管チューブ17の挿入を止める。この際、位置検出センサ69の測定値により、気管挿管チューブ17が気管部63の適正位置で止められているかが評価されることになる。
次いで、訓練者は、体外側からカフ22内に空気を注入し、カフ22を膨張させて気管部63の管壁65に接触させ、カフ22によってチューブ本体20の周りの隙間を閉塞する。この際、圧力センサ66の測定値により、カフ22が適正な圧力で管壁65に接触しているか否かが評価されることになる。そして、このように気管挿管が終了すると、訓練開始からの経過時間(気管挿管時間T)が計時され、気管挿管にかかった時間が評価されることになる。
最後に、訓練者は、気管挿管チューブ17を通じて模擬体28内に空気を送り込み、訓練を終了する。
従って、このような実施形態によれば、気管挿管処置の留意点を考慮した総合的な気管挿管手技の評価が可能になる。
また、各センサ46,57,62,66,69,76,79〜81は、前記実施形態で説明した構造のセンサに限定されるものではなく、同様の作用を奏する限りにおいて、他の構造のセンサに代替することもできる。
また、前記モデル14は、人体を模擬したものであるが、他の動物の気道部位や食道部位を模擬して、本実施形態と同様の構成とすることで、本発明を動物の気管挿管訓練装置に適用することも可能である。
その他、本発明における装置各部の構成は図示構成例に限定されるものではなく、実質的に同様の作用を奏する限りにおいて、種々の変更が可能である。
本実施形態に係る気管挿管訓練装置の概略構成図。 模擬体の拡大断面図。 圧力センサの拡大縦断面図。 (A)は、声帯部付近の気道の断面図であり、(B)は、(A)のA−A線に沿う断面図である。 気管部の拡大断面図。 図5のA−A線に沿う断面図。
符号の説明
10 気管挿管訓練装置
12 気管挿管器具
14 モデル
15 評価手段
28A 頭顔部
28B 首胸部
30 頭部
31 下顎部
32 口内部
34 上顎前歯部
36 舌部
41 声帯部
46 圧力センサ
57 圧力センサ
63 気管部
64 食道部
66 圧力センサ
69 位置検出センサ
76 位置検出センサ
79 角度センサ(姿勢検出センサ)
80 角度センサ(姿勢検出センサ)
81 角度センサ(姿勢検出センサ)
82 測定部
83 計時部
85 データ演算部
86 評価値算出部
Z 評価値

Claims (2)

  1. 人体の上半身部分を模擬した外形を有し、気管挿管器具を使った気管挿管訓練が行われるモデルと、このモデルに対して行われた気管挿管手技の評価を行う評価手段とを備え、
    前記モデルは、人体の首部よりも上の部分に相当する頭顔部と、この頭顔部に対して回転可能に連なるとともに、所定の設置面に対する傾斜角度を調整可能な首胸部と、これら頭顔部及び首胸部の姿勢を検出する姿勢検出センサとを備え、
    前記頭顔部は、人体の頭部に相当する頭部と、当該頭部に対して回転可能に連なる下顎部と、当該下顎部の姿勢を検出する姿勢検出センサと、前記頭部及び下顎部の間に設けられた口内部と、前記頭部の上顎部分に固定された上顎前歯部と、当該上顎前歯部に付加された押圧力を測定する圧力センサと、前記口内部内に配置された舌部と、当該舌部に付加された押圧力を測定する圧力センサと、前記舌部の奥側に設けられた声帯部と、当該声帯部に付加された押圧力を測定する圧力センサとを備え、
    前記首胸部は、前記声帯部を通じて前記口内部に連なる気管部と、前記気管部に並列配置されるとともに、前記口内部に連なる食道部と、前記気管部の内壁に付加される押圧力を測定する圧力センサと、前記気管部内及び前記食道部内の前記気管挿管器具の存否を確認するための位置検出センサとを備え、
    前記評価手段は、前記姿勢検出センサ、前記圧力センサ及び前記位置検出センサからの測定値に基づき、予め記憶された評価関数の各パラメータに数値を代入することで、気管挿管手技の評価値を算出することを特徴とする気管挿管訓練装置。
  2. 前記評価手段は、前記姿勢検出センサ、前記圧力センサ及び前記位置検出センサによる測定結果を得る測定部と、訓練開始から気管挿管終了までの気管挿管時間を計時する計時部と、前記測定部及び前記計時部のデータから予め定められた関数により前記パラメータに代入する値を求めるデータ演算部と、当該データ演算部で求められた各値を前記評価関数に代入することで前記評価値を算出する評価値算出部とを備えたことを特徴とする請求項1記載の気管挿管訓練装置。
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