JP4927388B2 - 光ファイバ線引装置,およびその制御プログラム - Google Patents
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Description
特許文献1に示される光ファイバ線引装置では,まず,光ファイバ母材を線引炉に送る速度の基本となる速度(以下,母材送りベース速度という)Vf1を光ファイバ母材の外径D,光ファイバの外径d,光ファイバの目標線引速度(良質な光ファイバが得られる線引速度)v1から下式で算出する。
Vf1=v1・d2/D2
前記補正値から実際の制御目標となる母材送り速度Vf(t)は,下の式のように上述した
母材送りベース速度Vf1に補正値ΔVf1を加算した結果から,補正値ΔVf2を減算することにより求められる。
Vf(t)=Vf1+ΔVf1−ΔVf2
=v1・d2/D2+K1(v1−v(t))−K2(v(t)−v(t−Δt))…(1)
特許文献1に示される光ファイバ線引装置では,線引炉への光ファイバ母材を供給する速度が上述した演算にて求められた母材送り速度Vf(t)になるように母材の送りモータを
回転駆動することにより,良質な光ファイバが製造される仕組みになっている。
また,特許文献1に示される光ファイバ線引装置では,係数K1およびK2の値は常に最適化されていることが,正確な母材送り速度Vf(t)を得る前提条件となるということは想像に難くないが,装置の立ち上げ時や運転終了時といった,線引速度が大きく変化する状況にも対応し得る係数K1およびK2を一義的に設定することは極めて困難である。このような原因により,ハンチングやオーバーシュート等の不具合が発生すると,光ファイバの外径やコーティング性状等が一定しないため,得られる光ファイバの品質低下や歩留まり低下等を引き起こすという問題が生じる。それだけでなく,引き起こされたハンチング,あるいはオーバーシュートが過大であると,光ファイバ線引装置における線引速度の制御不能に陥り,その結果,断線をも引き起こす可能性がある。このような,光ファイバ線引装置の立ち上げ時等の過渡的状況等における問題は,上述したような線引速度,その補正項といった光ファイバ線引装置の運転状況を決定する運転パラメータについて生じるものである。
更に,光ファイバ母材の大径化に伴い,立上条長(或いは増速時間)が増加し,歩留まりの低下が問題となってきているが,立上条長(或いは増速時間)を短縮しようと増速度を大きくした場合に,立上終端部(目標線速付近)においてハンチングやオーバーシュート等の不具合を引き起こす可能性が高くなるという問題がある。
このことにより,光ファイバ線引装置の稼動中における,その時々の実際の線引速度に応じた母材送りベース速度,および実線引速度の目標変化量が設定されるため,例えば特許文献1の母材送り速度Vf(t)を算出する際に,実際の線引速度の変化が加味されること
になる。即ち,上述した母材送り速度Vf(t)を算出する際には,光ファイバ母材の外径D,光ファイバの外径d以外の数値に,実際の線引速度の変化が加味されることになる。その結果,母材送り速度Vf(t)を算出する際の補正値にかかる演算上の負担が軽減される。更に,例えば係数の設定ミス等が引き起こすハンチングやオーバーシュート,或いは断線等の不具合が起こる可能性が極めて低くなる。
加熱溶融する線引炉に母材を送り出しつつ,光ファイバを線引製造する光ファイバ線引装置であって,
該光ファイバ線引装置の運転条件に関する運転パラメータを前記実線引速度の変化に応じて変化させつつ線引を行う際の運転パラメータが,前記母材送りの基本となる速度,前記実線引速度の目標変化量,前記実線引速度の変化量に関する速度成分に乗ぜられるゲイン,演算周期,前記線引炉の温度,前記光ファイバに被覆するコーティング樹脂の圧力,前記光ファイバを冷却する冷却ヘリウムガスの流量のいずれか1又は2以上の要素であり,
前記運転パラメータを段階的に区分けされた実線引速度の区間に応じて段階的に記憶する運転パラメータ段階記憶手段を更に具備し,
前記実線引速度の変化に応じて前記運転パラメータ段階記憶手段に記憶された段階的運転パラメータを抽出して適用することを特徴とする光ファイバ線引装置として構成される。
予め段階的に区分けされた実線引速度の区間に応じて前記母材送りの基本となる速度,前記実線引速度の目標変化量,前記実線引速度の変化量に関する速度成分に乗ぜられるゲイン,演算周期のいずれか1又は2以上の要素を前記実線引速度の変化に応じて変化させつつ線引を行うと共に,予め段階的に区分けされた実線引速度の区間に応じて前記線引炉の温度,前記光ファイバに被覆するコーティング樹脂の圧力,或いは前記光ファイバを冷却する冷却ヘリウムガスの流量のいずれか1又は2以上の要素を前記実線引速度の変化に応じて変化させつつ線引を行うことを特徴とする光ファイバ線引装置としても構成される。
該光ファイバ線引装置の稼動中に変化する母材送りベース速度,線引速度の目標変化量,変化量比例ゲイン,変化量積分ゲイン,比例演算周期,積分演算周期を,予め段階的に区分けされた実線引速度の区間に対応して段階的に記憶しておき,線引速度に応じた上記母材送りベース速度,線引速度の目標変化量,変化量比例ゲイン,変化量積分ゲイン,比例演算周期,積分演算周期を下の式(i)に適用して,母材送り速度Vf(t)を決定し線引を行うことを特徴とする光ファイバ線引装置としても構成可能である。
Vf(t)=Vf1+KP(ΔVdt_target−ΔVdt)+KI∫(ΔVdt_target−ΔVdt)dt…(i)
ここに,
Vf1:母材送りベース速度
ΔVdt_target:線引速度の目標変化量
ΔVdt:線引速度の変化量
KP:変化量比例ゲイン
KI:変化量積分ゲイン
dt:制御周期
更に本発明は,加熱溶融する線引炉に母材を送り出しつつ,光ファイバを線引製造する光ファイバ線引装置であって,予め段階的に区分けされた実線引速度の区間に応じた該光ファイバ線引装置の運転条件に関する運転パラメータを前記実線引速度の変化に応じて変化させつつ線引を行うための制御プログラムとしても構成され得る。
このことにより,光ファイバ母材を前記線引炉に送り出す最適な母材送り速度を算出する際に,前記実線引速度の変化が加味されることになる。言い換えると,光ファイバ母材の外径と,製造される光ファイバの外径以外の数値(前記運転パラメータ)は,前記実線引速度の変化が加味されている値となる。その結果,母材送り速度Vf(t)を算出する際の
演算上の負担が軽減され,利用者による設定ミス等が引き起こす,ハンチングやオーバー
シュート,あるいは断線等の不具合が起こる可能性が極めて低くなる効果を奏している。
更に,立上条長(或いは増速時間)の短縮を図るべく増速度を大きくした場合に発生する,立上終端部(目標線速付近)における線速の安定性の問題(ハンチング,オーバーシュート等)を軽減し得るので,母材の大径化に伴う立上条長の増加を抑え,歩留まりを向上するという効果を奏している。
ここに,図1は本発明の一実施形態(以下,実施形態例と言う)に係る光ファイバ線引装置Xの概略構成図,図2は光ファイバ線引装置Xの運転条件に関する自動立上げに使用するデータテーブル(母材送りベース速度,および線引速度の目標変化量の設定),図3は光ファイバ線引装置Xの運転条件に関する自動立上げに使用するデータテーブル(母材送りベース速度(目標線速),および線引速度の目標変化量の設定),図4は光ファイバ線引装置Xの運転条件に関する自動立上げに使用するデータテーブル(制御ゲインおよび制御周期をステップ式に設定),図5は光ファイバ線引装置Xの運転条件に関する自動立上げに使用するデータテーブル(制御ゲインおよび制御周期を線形補間式に設定),図6は線引速度と母材送りベース速度との関係を示したグラフ,図7は線引速度と線引速度の目標変化量との関係を示したグラフ,図8は線引速度と制御ゲインとの関係を示したグラフ(制御ゲインをステップ式に算出),図9は線引速度と制御周期との関係を示したグラフ(制御周期をステップ式に算出),図10は線引速度と制御ゲインとの関係を示したグラフ(制御ゲインを線形補間式に算出),図11は線引速度と制御周期との関係を示したグラフ(制御周期を線形補間式に算出),図12は経過時間に伴う線引速度と母材送りベース速度との関係を示したグラフ,図13は経過時間に伴う線引速度と線引速度の目標変化量との関係を示したグラフ,図14は経過時間に伴う母材送りベース速度と実際の母材送り速度との関係を示したグラフ,図15は光ファイバ線引装置Xの運転条件に関する自動立上げに使用するデータのテーブル(線引炉温度設定),図16は光ファイバ線引装置Xの運転条件に関する自動立上げに使用するデータテーブル(コーティング樹脂圧力設定),図17は光ファイバ線引装置Xの運転条件に関する自動立上げに用いるデータテーブル(冷却ヘリウムガス流量設定),図18は線引速度と線引炉温度との関係を示したグラフ,図19は線引速度とコーティング樹脂圧力との関係を示したグラフ,図20は線引速度と冷却ヘリウムガス流量との関係を示したグラフ,図21は経過時間に伴う線引速度と線引炉温度との関係を示したグラフ,図22は経過時間に伴う線引速度とコーティング樹脂圧力との関係を示したグラフ,図23は経過時間に伴う線引速度と冷却ヘリウムガス流量との関係を示したグラフである。
光ファイバ線引装置Xは,光ファイバ母材2を把持する母材送り装置1,光ファイバ母材2を加熱線引する線引炉3,線引された光ファイバ4(以下,裸光ファイバ4という)の外径を測定する外径測定機5,裸光ファイバ4を冷却するプライマリ冷却装置7,光ファイバにコーティング樹脂を塗布するプライマリコーティング装置8,およびセカンダリコーティング装置11,塗布したコーティング樹脂を硬化させるプライマリ樹脂硬化装置
9,およびセカンダリ樹脂硬化装置12,塗布したコーティング樹脂を冷却するセカンダリ冷却装置10,樹脂で二重にコーティングされた裸光ファイバ(以下,光ファイバ素線13という)を引き取るキャプスタン6,キャプスタン6に引き取られた光ファイバ素線13を巻き取る巻取装置14等から主に構成されている。
また,光ファイバ線引装置Xにおける各種制御および演算は,演算部16にて記憶される所定のプログラム(本発明における制御プログラム)に基づいて各装置が制御されている。即ち,母材送り装置1を駆動回転させるモータ18を制御するドライバ17,線引炉3の温度を調節する炉温度調節装置15,プライマリコーティング装置8におけるコーティング樹脂の圧力を調節するプライマリコーティング樹脂圧力調節装置19,セカンダリコーティング装置11におけるコーティング樹脂圧力を調節するセカンダリコーティング樹脂圧力調節装置20,プライマリ冷却装置7におけるヘリウムガスの流量を調節するプライマリ冷却ヘリウムガス流量調節装置21,セカンダリ冷却装置10におけるヘリウムガスの流量を調節するセカンダリ冷却ヘリウムガス流量調節装置22等の制御が,演算部16にて実施される制御プログラムに基づいて行われている。
母材送り装置1に把持された光ファイバ母材2は,線引炉3にて加熱線引されて裸光ファイバ4となる。この際,母材送り装置1から線引炉3へ光ファイバ母材2を送り出す母材送り速度については,ドライバ17から送信される速度指令信号(後述する母材送りベース速度と線引速度の目標変化量とから,演算部16にて演算された母材送り速度に関するデータ信号)に従って,モータ18が回転駆動されることにより調節されている。
ここで,本発明の一実施形態例である光ファイバ線引装置Xでは,光ファイバ母材2から製造される裸光ファイバ4の外径が,質量不変の法則によりキャプスタン6の引取速度により決定される仕組みになっている。このことにより,まず外径測定機5にて線引された裸光ファイバ4の外径をオンライン測定し,その測定結果に基づいて,キャプスタン6の引取速度を調節することで,裸光ファイバ4の外径を一定にすることを可能にしている。
このようにして製造された裸光ファイバ4は,プライマリ冷却装置7にて一度冷却された後,プライマリコーティング装置8で,その表面にコーティング樹脂が塗布される。ここで塗布されたコーティング樹脂は,プライマリ樹脂硬化装置9で硬化される。その後,コーティング樹脂で被覆された裸光ファイバ4は,上述した工程と同様の工程の,即ちセカンダリ冷却装置10,セカンダリコーティング装置11,セカンダリ樹脂硬化装置12を通過する。裸光ファイバ4は,その表面をコーティング樹脂で二重に覆われて,光ファイバ素線13となる。この光ファイバ素線13は,キャプスタン6を経て巻取装置14にてボビンに巻き取られる。
また,光ファイバ線引装置Xの稼動中に,その時々変化する実線引速度に応じて抽出された運転パラメータを下の式に適用して,演算部16にて母材送り速度等を決定する所定の演算がなされる。そして,その演算された結果に従って,上述したドライバ17が制御されている。
Vf(t)=Vf1+KP(ΔVdt_target−ΔVdt)+KI∫(ΔVdt_target−ΔVdt)dt…(2)
図2は,本実施形態例に係る光ファイバ線引装置Xを立上げる時に用いる運転条件,即ち運転パラメータである母材送りベース速度Vf1,および線引速度の目標変化量ΔVdt_targetの線引速度の段階的変化に対応する段階的変化を示すデータテーブルである。また図3は,図2のデータテーブルにて設定される母材送りベース速度Vf1の代わりに目標線速が設定され,別途設定される母材外径および裸光ファイバ外径から母材送りベース速度Vf1が段階的に算出され設定されるようにしたデータテーブルである。
また図6および図7は,それらの関係をグラフ化したものである。尚,図2および図3に示された実線引速度の段階的変化と,これに対応する運転パラメータの段階的変化のデータは,運転パラメータ記憶部23に記憶されている。
また本実施形態例では,これらの変化が9段階に区分けされているが,段階数は任意である。段階数を多くするほど滑らかな制御が可能である。ここで,本実施形態例では,実線引速度の区間,母材送りベース速度,および線引速度の目標変化量については,入力操作可能な操作部などから利用者により入力された固定値でも良いし,所定の情報から演算部16にて演算される可変値でも良い。
母材送りベース速度 :1.83mm/min
線引速度の目標変化量 :150m/min2
である。また,図3の表によれば,例えば,ある時点で実線引速度V(t)=500m/minである場合の目標線速および線引速度の目標変化量は,
目標線速 :750m/min
線引速度の目標変化量 :150m/min2
であり,別途設定される母材外径および裸光ファイバの外径が,
母材外径 :80mm
裸光ファイバ外径 :0.125mm
である場合,母材送りベース速度Vf1は,
Vf1=((0.125)2/(80)2)×750 = 1.83mm/min
となる。このデータが式(2)に代入され,この設定された母材送りベース速度および線引速度の目標変化量を用いて,演算部16にて母材送り速度が演算される。そして,その演算された母材送り速度に従って,ドライバ17によりモータ18が回転駆動されることで,母材送り装置1からの線引炉3への光ファイバ母材2の供給制御がなされる。
光ファイバ線引装置Xにおける線引時の,ある時刻tにおける光ファイバの実線引速度
をV(t)とし,時刻tよりもdt時間前の線引速度をV(t−dt)とすると,dt時間当たりの実線引速度の変化量,即ち加速度ΔVdtは,
ΔVdt=V(t)−V(t−dt)
と計算される。図2の表によれば,例えば,現在の線引速度が600m/min,10秒前の線引速度が580m/minである場合の加速度ΔVdtは,
ΔVdt=(600−580)×60/10 = 120m/min2
となる。
まず,100msec程度の周期で実線引速度を取得した後,累積された10〜100個程度の最新線引速度データの移動平均化を行う。この移動平均化された結果を現在の実線引速度とする。次に,この実線引速度から,データの移動平均化されたdt時間前の線引速
度を減算すると,一定時間dtにおける実線引速度の変化量ΔVdtを求めることができる。尚,100msec程度の周期で実線引速度の変化量を算出し,同様に10〜100個程度の最新の実線引速度変化量のデータを移動平均化して,現在の実線引速度の変化量ΔVdtとしてもよい。
ここで,本発明では,式(2)における,線引速度の目標変化量と実変化量との差分に乗ぜられるゲインKP(以下,変化量比例ゲインという),線引速度の目標変化量と実変化量との差分の積分値に乗ぜられるゲインKI(以下,変化量積分ゲインという),および各々を演算する周期としての比例演算周期と積分演算周期とについても,運転パラメータ記憶部23に段階的に記憶されている。そして演算部16により,運転パラメータ記憶部23からこれらの段階的運転パラメータが実線引速度の変化に応じて取り出され,式(2)に適用されることで,母材送り速度Vf(t)の演算に供される。
図4は,本実施形態例に係る光ファイバ線引装置Xの運転条件に関する,運転パラメータとしての変化量比例ゲインKP,変化量積分ゲインKI,比例演算周期,および積分演算周期を段階式に設定した自動立上げに使用されるデータテーブルである。また,図8および図9は,それらの関係をグラフ化したものである。尚,図4に示された実線引速度の段階的変化と,これに対応する運転パラメータの段階的に変化するデータは,運転パラメータ記憶部23に記憶されている。
また本実施形態例では,これらの変化が9段階に区分けされているが,段階数は前記のように任意である。ここで,本実施形態例では,実線引速度の区間,変化量比例ゲインKP,変化量積分ゲインKI,比例演算周期,および積分演算周期については,入力操作可能な操作部などから利用者により入力された固定値でも良いし,所定の情報から演算部16にて演算される可変値でも良い。
変化量比例ゲインKP : 8.0%
変化量積分ゲインKI : 4.0%
比例演算周期 : 5.0sec
積分演算周期 :10.0sec
であり,このデータが式(2)に代入され,母材送り速度Vf(t)が設定される。この時,式(2)における,比例項KP(ΔVdt_target−ΔVdt),および積分項KI∫(ΔVdt_target−ΔVdt)dtは,上述した比例演算周期(5.0sec),および積分演算周(10.0sec)の周期で各々独立して演算される。このことにより,比例演算や積分演算の時間に対応する応答特性を十分に生かした演算実行が可能になる。
本実施形態例では,運転パラメータを実線引速度に対応して段階的に予め定めておき,実線引速度の変化に応じてそれらの運転パラメータを次々に適用していくものであったので,制御がステップ的になり,滑らかさに問題がある。この問題を解決するために,予め段階的に定めた運転パラメータに基づいて中間的な運転パラメータを線形補間により求める場合について,図5,図10,図11を用いて以下に説明する。
図5は,本実施形態例に係る光ファイバ線引装置Xの運転条件に関する,変化量比例ゲインKP,変化量積分ゲインKI,比例演算周期,および積分演算周期の中間的な値を線形補間式に適用するために設定された段階的な運転パラメータのデータテーブルである。また図10および図11は,これらの関係をグラフ化したものである。尚,図5に示された実線引速度の段階的変化と,これに対応する運転パラメータの段階的変化のデータは,運転パラメータ記憶部23に記憶されている。
また本実施形態例では,これらの変化が9段階に区分けされているが,段階数は任意である。ここで,本実施形態例では,実線引速度の区間,変化量比例ゲインKP,変化量積分ゲインKI,比例演算周期,および積分演算周期については,入力操作可能な操作部などから利用者により入力された固定値でも良いし,所定の情報から演算部16にて演算される可変値でも良い。
変化量比例ゲイン :KP=KP1+(KP2−KP1)・(V(t)−V1)/(V2−V1)
変化量積分ゲイン :KI=KI1+(KI2−KI1)・(V(t)−V1)/(V2−V1)
比例演算周期 :TP=TP1+(TP2−TP1)・(V(t)−V1)/(V2−V1)
積分演算周期 :TI=TI1+(TI2−TI1)・(V(t)−V1)/(V2−V1) …(3)
ここで,図5の表によれば,例えば,ある時点で実線引速度500m/minの場合,図5の表にあるデータから,V1=300m/min,V2=600m/min,KP1=6.0,KP2=10.0,KI1=3.0,KI2=5.0,TP1=8.0,TP2=4.0,TI1=16.0,TI2=8.0と設定される。設定されたこれらの値に従って,以下のように線形補間式(3)に基づき,変化量比例ゲインKP,変化量積分ゲインKI,比例演算周期,および積分演算周期が演算される。
変化量比例ゲイン :KP=6.0+(10.0−6.0)・(500−300)/(600−300)=8.7%
変化量積分ゲイン :KI=3.0+(5.0−3.0)・(500−300)/(600−300) =4.3%
比例演算周期 :TP=8.0+(4.0−8.0)・(500−300)/(600−300) =5.3sec
積分演算周期 :TI=16.0+(8.0−16.0)・(500−300)/(600−300)=10.7sec
このように,変化量比例ゲインKP,変化量積分ゲインKI,比例演算周期,および積分演算周期を線形補間により演算することにより,実線引速度区間移行時に生じる段階的且つ急激な変化を抑制することができるので,より円滑で安定した制御を行うことができる。
本発明においては,運転パラメータが上述したパラメータだけに留まらず,更に,線引炉3の温度である線引炉温度,裸光ファイバ4をコーティングする樹脂の圧力であるコーティング樹脂圧力,裸光ファイバ4を冷却するヘリウムガス流量である冷却ヘリウムガス流量についても,時々刻々と変化する実線引速度に従った設定が可能な装置としても提案される。
以下,運転パラメータが線引炉温度,コーティング樹脂圧力,および冷却ヘリウムガス流量である場合について述べる。ただし,これらの運転パラメータ(線引炉温度,コーティング樹脂圧力,および冷却ヘリウムガス流量)に加えて上の実施形態で問題とした線引速度の目標変化量や,変化量比例ゲイン,変化量積分ゲイン,比例演算周期,積分演算周期の段階的適用を実施すること(補間演算を含む)も,あるいは,これらと独立に線引炉温度,コーティング樹脂圧力,および冷却ヘリウムガス流量などのみについて段階的に適用することもできるが,ここでは後者の場合について説明する。
この実施形態例でも,これらの変化が9段階に区分けされているが,段階数は任意である。ここで本実施形態例では,前記のとおり実線引速度の区間数および線引炉温度については,入力操作可能な操作部などから利用者により入力された固定値でも良いし,所定の情報から演算部16にて演算される可変値でも良い。
線引炉温度 :Rf=R1+(R2−R1)・(V(t)−V1)/(V2−V1) …(4)
図15の表によれば,例えば,ある時点で実線引速度400m/minの場合,V1=300m/min,V2=500m/min,R1=2100℃,R2=2120℃と設定される。設定されたこれらの値に従って,下のように線引炉温度Rfが演算される。
線引炉温度 :Rf=2100+(2120−2100)・(400−300)/(500−300) = 2110℃
このように,線引炉温度Rfが線形補間式に演算されることにより,実線引速度区間移行時に生じる急激な変化を抑制することができるので,より円滑で安定した制御を行うことができる。
これらの変化の段階数は任意であるが,この実施形態では9段階に区分けされている。
当然ながら,実線引速度の区間数およびコーティング樹脂圧力については,入力操作可能な操作部などから利用者により入力された固定値でも良いし,所定の情報から演算部16にて演算される可変値でも良い。
尚,V1およびV2は線引速度の区間を決めるための線引速度(V1<V2),P1およびP2は線引速度V1およびV2に対応するプライマリコーティング樹脂圧力である。またP3およびP4は線引速度V1およびV2に対応するセカンダリコーティング樹脂圧力である。
プライマリコーティング樹脂圧力
:P1st=P1+(P2−P1)・(V(t)−V1)/(V2−V1)
セカンダリコーティング樹脂圧力
:P2nd=P3+(P4−P3)・(V(t)−V1)/(V2−V1) …(5)
図16の表に示すように,例えば,ある時点で実線引速度700m/minの場合,図16のデータから,V1=600m/min,V2=800m/min,P1=0.08MPa,P2=0.12MPa,P3=0.06MPa,P4=0.09MPaと設定される。設定されたこれらの値に従って,以下のように線形補間式にプライマリコーティング樹脂圧力P1stおよびセカンダリコーティング樹脂圧力P2ndが演算される。
プライマリコーティング樹脂圧力
:P1st=0.08+(0.12−0.08)・(700−600)/(800−600) = 0.10MPa
セカンダリコーティング樹脂圧力
:P2nd=0.06+(0.09−0.06)・(700−600)/(800−600) = 0.075MPa
このように,プライマリコーティング樹脂圧力P1st,およびセカンダリコーティング樹脂圧力P2ndが線形補間式に演算されることにより,実線引速度区間移行時に生じる急激な変化を抑制することができるので,より円滑で安定した制御を行うことができる。
プライマリ冷却ヘリウムガス流量
:F1st=F1+(F2−F1)・(V(t)−V1)/(V2−V1)
セカンダリ冷却ヘリウムガス流量
:F2nd=F3+(F4−F3)・(V(t)−V1)/(V2−V1) …(6)
尚,冷却ヘリウムガス流量とは,プライマリ冷却装置7,およびセカンダリ冷却装置10において,各々の装置が備える冷却管へ供給するヘリウムガス量である。このプライマリ冷却装置7,およびセカンダリ冷却装置10における冷却ヘリウムガス流量は,それぞれ,プライマリ冷却ヘリウムガス流量調節装置21,およびセカンダリ冷却ヘリウムガス流量調節装置22にて制御されている。図17によれば,例えば,ある時点で実線引速度700m/minの場合,図17の表にあるデータから,V1=600m/min,V2=800m/min,F1=6.00L/min,F2=12.00L/min,F3=1.50L/min,F4=3.00L/minと設定される。設定されたこれらの値に従って,以下のように線形補間式にプライマリ冷却ヘリウムガス流量F1st,およびセカンダリ冷却ヘリウムガス流量F2ndが演算される。
プライマリ冷却ヘリウムガス流量
:F1st=6.00+(12.00−6.00)・(700−600)/(800−600) = 9.00L/min
セカンダリ冷却ヘリウムガス流量
:F2nd=1.50+(3.00−1.50)・(700−600)/(800−600) = 2.25L/min
このように,プライマリ冷却ヘリウムガス流量F1st,およびセカンダリ冷却ヘリウムガス流量F2ndを線形補間式に演算することにより,実線引速度区間移行時に生じる急激な変化を抑制することができるので,より円滑で安定した制御を行うことができる。
2…光ファイバ母材
3…線引炉
4…裸光ファイバ
5…外径測定機
6…キャプスタン
7…プライマリ冷却装置
8…プライマリコーティング装置
9…プライマリ樹脂硬化装置
10…セカンダリ冷却装置
11…セカンダリコーティング装置
12…セカンダリ樹脂硬化装置
13…光ファイバ素線
14…巻取装置
15…炉温度調節装置
16…演算部
17…ドライバ
18…モータ
19…プライマリコーティング樹脂圧力調節装置
20…セカンダリコーティング樹脂圧力調節装置
21…プライマリ冷却ヘリウムガス流量調節装置
22…セカンダリ冷却ヘリウムガス流量調節装置
23…運転パラメータ記憶部
Claims (4)
- 加熱溶融する線引炉に母材を送り出しつつ,光ファイバを線引製造する光ファイバ線引装置であって,
該光ファイバ線引装置の運転条件に関する運転パラメータを前記実線引速度の変化に応じて変化させつつ線引を行う際の運転パラメータが,前記母材送りの基本となる速度,前記実線引速度の目標変化量,前記実線引速度の変化量に関する速度成分に乗ぜられるゲイン,演算周期,前記線引炉の温度,前記光ファイバに被覆するコーティング樹脂の圧力,前記光ファイバを冷却する冷却ヘリウムガスの流量のいずれか1又は2以上の要素であり,
前記運転パラメータを段階的に区分けされた実線引速度の区間に応じて段階的に記憶する運転パラメータ段階記憶手段を更に具備し,
前記実線引速度の変化に応じて前記運転パラメータ段階記憶手段に記憶された段階的運転パラメータを抽出して適用することを特徴とする光ファイバ線引装置。 - 加熱溶融する線引炉に母材を送り出しつつ,光ファイバを線引製造する光ファイバ線引装置であって,
予め段階的に区分けされた実線引速度の区間に応じた前記母材送りの基本となる速度,前記実線引速度の目標変化量,前記実線引速度の変化量に関する速度成分に乗ぜられるゲイン,演算周期のいずれか1又は2以上の要素を前記実線引速度の変化に応じて変化させつつ線引を行うと共に,予め段階的に区分けされた実線引速度の区間に応じた前記線引炉の温度,前記光ファイバに被覆するコーティング樹脂の圧力,或いは前記光ファイバを冷却する冷却ヘリウムガスの流量のいずれか1又は2以上の要素を前記実線引速度の変化に応じて変化させつつ線引を行うことを特徴とする光ファイバ線引装置。 - 加熱溶融する線引炉に母材を送り出しつつ,光ファイバを線引製造する光ファイバ線引装置であって,
該光ファイバ線引装置の稼動中に変化する母材送りベース速度,線引速度の目標変化量,変化量比例ゲイン,変化量積分ゲイン,比例演算周期,積分演算周期を,予め段階的に区分けされた実線引速度の区間に対応して段階的に記憶しておき,線引速度に応じた上記母材送りベース速度,線引速度の目標変化量,変化量比例ゲイン,変化量積分ゲイン,比例演算周期,積分演算周期を下の式(i)に適用して,母材送り速度Vf(t)を決定し線引を行うことを特徴とする光ファイバ線引装置。
Vf(t)=Vf1+KP(ΔVdt_target−ΔVdt)+KI∫(ΔVdt_target−ΔVdt)dt…(i)
ここに,
Vf1:母材送りベース速度
ΔVdt_target:線引速度の目標変化量
ΔVdt:線引速度の変化量
KP:変化量比例ゲイン
KI:変化量積分ゲイン
dt:制御周期 - 加熱溶融する線引炉に母材を送り出しつつ,光ファイバを線引製造する請求項1から3のいずれかに記載の光ファイバ線引装置であって,予め段階的に区分けされた実線引速度の区間に応じた該光ファイバ線引装置の運転条件に関する運転パラメータを前記実線引速度の変化に応じて変化させつつ線引を行うための制御プログラム。
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