JP4925741B2 - 塩化ビニル系積層ストレッチフィルムおよびその製造方法 - Google Patents
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Description
従来より、これらのストレッチフィルムにおいては、添加剤の衛生性や食品等への移行性が重要視されている。その衛生性については、米国のFDA規格(Food and Drug Administration)や日本のPL規格(塩化ビニル樹脂製包装容器包装等に関する自主規制基準)等に記載された添加剤を配合することにより無毒化配合を確立し、また食品等への添加剤の移行性については、厚生労働省告示20号に定める試験法により、蒸発残留物試験としてn−ヘプタンを用いた抽出試験を行っている。
従来のストレッチフィルムでは、このn−ヘプタンによる抽出物の量が150質量ppmに近くになったり、あるいは150質量ppmを上回る傾向があった。これらの課題を解決するために、フィルムを薄肉化することで可塑剤の総量を低減する方法や、n−ヘプタンに抽出されにくいポリエステル系の可塑剤を用いる方法が提案されている(例えば、特許文献1および2参照)。しかしながら、ポリエステル系の可塑剤を用いると、可塑化効果が小さく流動性に劣るため、成形加工性に問題があり、ヤケやブツやコゲ等の不良現象を生じる、フィルムに赤味が生じ透明性を減少させるなど、製造上の不具合があった。
しかしながら、この方法では、再重合を行う際に塩化ビニル系樹脂のモルフォロジー変化が生じ、ポロシティー(空隙率)が小さくなり、例えば可塑剤を用いるような軟質(透明)配合では可塑剤吸収にムラが生じ、得られた配合物を成形する際にブツやフィッシュアイが発生し、外観不良や物性低下の原因となる恐れがある。
また、前記の塩化ビニル系積層ストレッチフィルムは、(A)層を構成する塩化ビニル系樹脂組成物および(B)層を構成する塩化ビニル系樹脂組成物を、共押出し成形することにより、容易に製造し得ることを見出した。
本発明はかかる知見に基づいて完成したものである。
1. 塩化ビニル系樹脂組成物よりなる(A)層と、その両側に少なくとも各1層の塩化ビニル系樹脂組成物よりなる(B)層を最外層に有する塩化ビニル系積層ストレッチフィルムであって、
(A)層を構成する塩化ビニル系樹脂組成物が、塩化ビニル系樹脂100質量部に、平均分子量1000〜4000の可塑剤10〜50質量部を配合してなる塩化ビニル系樹脂組成物であり、(B)層を構成する塩化ビニル系樹脂組成物の高化式フローテスターにより測定した剪断速度100(1/sec)での溶融粘度が、同様にして測定した(A)層の塩化ビニル系樹脂組成物の溶融粘度よりも小さいことを特徴とする塩化ビニル系積層ストレッチフィルム。
2. (B)層を構成する塩化ビニル系樹脂組成物が、塩化ビニル系樹脂100質量部に、平均分子量1000未満の可塑剤10〜50質量部を配合してなる塩化ビニル系樹脂組成物である上記1に記載の塩化ビニル系積層ストレッチフィルム。
3. 下記式(1)
1200×{〔(T1×J1)/(M1×S1)〕+〔(T2×J2)/(M2×S2)〕}≦50 (1)
[式中、M1は(A)層中の可塑剤の平均分子量、T1は(A)層中の、塩化ビニル系樹脂100質量部に対する可塑剤の配合量、S1は(A)層中の、塩化ビニル系樹脂を100質量部としたときの全配合量、J1は(A)層の全層に対する厚み比、M2は(B)層中の可塑剤の平均分子量、T2は(B)層中の、塩化ビニル系樹脂100質量部に対する可塑剤の含有量、S2は(B)層中の、塩化ビニル系樹脂を100質量部としたときの全配合量、J2は(B)層の全層に対する厚み比である。]
の関係を満たす上記1または2に記載の塩化ビニル系積層ストレッチフィルム。
4. 全層に対する(B)層の厚み比が5〜80%である上記1乃至3のいずれかに記載の塩化ビニル系積層ストレッチフィルム。
5. n−ヘプタンに対する溶出量が50質量ppm以下である上記1乃至4のいずれかに記載の塩化ビニル系積層ストレッチフィルム。
6. 厚さが10μm以下である上記1乃至5のいずれかに記載の塩化ビニル系積層ストレッチフィルム
7. (A)層を構成する塩化ビニル系樹脂組成物、および(B)層を構成する塩化ビニル系樹脂組成物を、共押出法により積層形成することを特徴とする、上記1乃至6のいずれかに記載の塩化ビニル系積層ストレッチフィルムの製造方法。
なお、本発明における数値範囲の上限値および下限値は、本発明が特定する数値範囲内から僅かに外れる場合であっても、当該数値範囲内と同様の作用効果を備えている限り本発明の均等範囲に包含する。
本発明の積層ストレッチフィルムは、塩化ビニル系樹脂組成物よりなる(A)層と、その両側に少なくとも各1層の塩化ビニル系樹脂組成物よりなる(B)層を最外層に有する塩化ビニル系積層ストレッチフィルムであって、
(A)層を構成する塩化ビニル系樹脂組成物が、塩化ビニル系樹脂100質量部と、平均分子量1000〜4000の可塑剤10〜50質量部を含む塩化ビニル系樹脂組成物であり、高化式フローテスターにより測定した剪断速度100(1/sec)での(B)層の塩化ビニル系樹脂組成物の溶融粘度が、同様にして測定した(A)層の塩化ビニル系樹脂組成物の溶融粘度よりも小さいことを特徴とする。
本発明における塩化ビニル系樹脂には、塩化ビニル単独重合体のほか、塩化ビニルと共重合可能な単量体との共重合体(以下、塩化ビニル系共重合体とする)、この塩化ビニル系共重合体以外の重合体に塩化ビニルをグラフト共重合させたグラフト共重合体などが含まれる。
これらの共重合体は、共重合体中の塩化ビニル単位以外の構成単位含有量が多くなると機械的特性が低下するので、塩化ビニル単位を60質量%以上含有するものが好ましく、より好ましくは80質量%以上含有するものである。前記の塩化ビニルと共重合可能な単量体としては、分子中に反応性二重結合を有するものであればよく、例えば、エチレン、プロピレン、ブチレンなどのα−オレフィン類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどのビニルエステル類;ブチルビニルエーテル、セチルビニルエーテルなどのビニルエーテル類;アクリル酸、メタクリル酸などの不飽和カルボン酸類;アクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸フェニルなどのアクリル酸またはメタクリル酸のエステル類;スチレン、α−メチルスチレンなどの芳香族ビニル類;塩化ビニリデン、フッ化ビニルなどのハロゲン化ビニル類;N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミドなどのN−置換マレイミド類;などが挙げられ、これらは1種単独または2種以上の組み合わせで用いられる。
塩化ビニル系樹脂組成物に用いられる塩化ビニル系樹脂の好ましい平均重合度(分子量)の範囲は、目的とする成形品の必要特性によってさまざまであり、また後述する添加剤の種類および量により異なるが、平均重合度が800以上であればフィルムのロール巻き取り/巻き出しなどの工程時や、包装用途などに用いられる際の包装工程時などに引張強度や引張伸度などの機械強度に欠けすぎフィルムが破断するなどの不具合が生じることがなく好適であり、さらに850以上であればより好ましく、900以上であればさらに好ましい。また、平均重合度が1800以下であれば加工性が著しく低下するなどの不具合を生じることがなく好適であり、1650以下であればさらに好ましく、1500以下であればより好ましい。また、異なる平均重合度の塩化ビニル系樹脂を混合することも可能であり、この場合、それぞれの塩化ビニル系樹脂の混合比率に応じた平均重合度の平均値を、その混合物の平均重合度として評価する。
[可塑剤]
(A)層を構成する塩化ビニル樹脂組成物には、ストレッチ特性を付与する目的と、成形加工性を改良する目的から、可塑剤を配合することを要する。
可塑剤としては、種々のアルキル鎖長や分岐構造を持ったアルキル鎖を有するフタル酸エステル、アジピン酸エステル、トリメリット酸エステル、リン酸エステル、アジピン酸系ポリエステル等のエステル類化合物が例示できる。可塑剤の耐溶剤溶出性や可塑化効率、成形性改良効果は分子量や炭素数によってそれぞれ異なるため、最適な可塑剤を選択する必要がある。
炭素数10以下のアルキル基を有する脂肪族アルコール2種以上とアジピン酸との反応物からなる可塑剤が好ましく、このようなものとしては、例えばC8.10アジペート(炭素数8、10のアルキル基を有するアルコールの混合エステル)、C7.9アジペート(炭素数7、9の同上のもの)、C6.8.10アジペート(炭素数6、8、10の同上のもの)などが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中で、C6.8.10アジペートおよびC7.9アジペートが、それぞれストレッチフィルムの押出成形性およびストレッチ性を付与しやすく好適である。
(A)層に用いられる可塑剤は、平均分子量が1000以上であることを要する。この平均分子量は、好ましくは1250以上であり、さらに好ましくは1500以上である。可塑剤が高分子量化すれば樹脂組成物中でポリ塩化ビニル系樹脂との絡み合いが増えることになり、n−ヘプタンなどの溶媒に抽出されにくくなるが、ストレッチ性の付与効果や成形加工性の向上効果が小さくなる。このため、(A)層に用いられる可塑剤の平均分子量は4000以下であることを要し、好ましくは3250以下、より好ましくは2500以下である。可塑剤の平均分子量が前記の範囲であれば、可塑剤の溶出量の削減効果が得られない、押出成形性が大幅に低下する、加工性に著しく劣りヤケや色味不良などが発生する、ストレッチフィルムの耐寒性が低下するなどの不具合を生じづらく、好適である。また、異なる平均分子量の可塑剤を混合することも可能であり、この場合、それぞれの可塑剤の混合比率に応じた平均分子量の平均値を、その混合物の平均分子量として評価する。
(A)層において、可塑剤の配合量は、塩化ビニル系樹脂100質量部に対して10〜50質量部であることを要する。この可塑剤の配合量は、好ましくは15質量部以上であり、より好ましくは20質量部以上であり、さらに好ましくは30質量部以上である。また、この可塑剤の配合量は、好ましくは47質量部以下であり、より好ましくは45質量部以下である。可塑剤の配合量が10質量部以上であると、ストレッチ特性の付与や成形加工性の改良が達成され、50質量部以下であると、配合効果と経済性のバランスが良好となる。
上述の可塑剤の他に、製造時の熱安定性を改良する目的やストレッチフィルムの滑り性や防曇性を改良する目的で、種々の添加物(熱安定剤/滑剤/防曇剤)を添加することが好ましい。下記に好適に用いられる添加剤の例を示す。
エポキシ化植物油は、樹脂組成物の押出成形性、特に押出成形時における熱安定性を向上させる効果を有している。このエポキシ化植物油としては、例えばエポキシ化大豆油、エポキシ化アマニ油などが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中では、上記した効果の面でエポキシ化大豆油が好適に使用される。
エポキシ化植物油の配合量は、前記塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、通常5質量部以上であり、好ましくは7質量部以上であり、より好ましくは10質量部以上である。また、この配合量は、前記ポリ塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、通常25質量部以下、好ましくは22質量部以下、より好ましくは20質量部以下である。エポキシ化植物油の配合量が前記の範囲であれば、添加効果が発揮されずフィルムの着色が抑制されない、配合量が多すぎて溶出量が多くなりすぎるなどの不具合を生じづらく、好適である。
滑剤のエステルの配合量は、前記塩化ビニル系樹脂100質量部に対し、0.05質量部以上が好ましく、より好ましくは0.1質量部以上であり、さらに好ましくは0.3質量部以上である。また、この配合量は、3質量部以下が好ましく、より好ましくは2質量部以下、さらに好ましくは1質量部以下である。滑剤の配合量が前記の範囲であれば、フィルム表面にべたつきが発生する、滑り性が過剰になりハンドリングしづらくなる、長期保管時にせり出し現象が起こるなどの不具合が生じづらく、好適である。
上記の中では、特にグリセリンモノラウレート、グリセリンモノオレート、グリセリンモノリノレート、ポリグリセリンラウレート、ポリグリセリンオレート、ポリグリセリンリノレート、ソルビタンラウレート、ソルビタンオレート、ソルビタンリノレートおよびポリオキシエチレンラウリルエーテルが好ましい。
これらの防曇剤の配合量は、前記塩化ビニル系樹脂100質量部に対し、0.1質量部以上が好ましく、より好ましくは0.3質量部以上であり、さらに好ましくは0.5質量部以上である。また、この配合量は、5質量部以下が好ましく、より好ましくは3質量部以下であり、さらに好ましくは1質量部以下である。防曇剤の配合量が前記の範囲であれば、フィルム表面にべたつきが発生する、長期保管時にせり出し現象が起こるなどの不具合が生じづらく、好適である。
なお、前記の安定剤に対して、酸化防止剤を兼ねたものとして、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、ジプロピレングリコール、合成イソパラフィン石油炭化水素、トリデシルアルコール、デヒドロ酢酸などを併用してもよい。これらの配合量は、それぞれ前記塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、0.01質量部以上が好ましく、より好ましくは0.1質量部以上であり、さらに好ましくは0.3質量部以上である。また、これらの配合量は、それぞれ前記ポリ塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、5質量部以下が好ましく、より好ましくは3質量部以下であり、さらに好ましくは1質量部以下である。これらの配合量が前記の範囲であれば、安定化効果が不十分でヤケを生じる、金属塩由来の着色を生じるなどの不具合を生じづらく、好適である。
(A)層の塩化ビニル系樹脂組成物の溶融粘度は、後述する測定方法による剪断速度100(1/sec)における溶融粘度が100(Pa・s)以上であることが好ましく、500(Pa・s)以上であることがより好ましい。また、この溶融粘度は、5000(Pa・s)以下であることが好ましく、2500(Pa・s)以下であることがより好ましい。溶融粘度が前記の範囲であれば押出製造時に加工しづらくなる、機械的強度に劣るなどの不具合を生じることがなく好適である。
溶融粘度を前記範囲に調整するための方法としては、可塑剤、滑剤、加工助剤などの種々の添加剤により調整する方法、重合度を調整する方法などがあり、用途によって適宜選択すればよいが、添加剤のブルームが問題になるような用途(食品包装フィルム等)では、添加剤を多量に加えることは望ましくないため、重合度により調整することが望ましい。
[可塑剤]
(B)層を構成する塩化ビニル系樹脂組成物には可塑剤を配合することができ、この可塑剤としては、(A)層と同様の可塑剤を使用することができる。(B)層に配合する可塑剤は、成形加工性を改良する観点から、平均分子量が1000未満であることが望ましい。
(B)層において、可塑剤の配合量は、塩化ビニル系樹脂100質量部に対して10〜50質量部であることが好ましい。この可塑剤の配合量は、好ましくは15質量部以上であり、より好ましくは20質量部以上であり、さらに好ましくは30質量部以上である。また、この可塑剤の配合量は、好ましくは47質量部以下であり、より好ましくは45質量部以下である。可塑剤の配合量が10質量部以上であると、ストレッチ特性の付与や成形加工性の改良が達成され、50質量部以下であると、配合効果と経済性のバランスが良好となる。
(B)層を構成する塩化ビニル系樹脂組成物にも、(A)層と同様の添加剤を加えることができる。また、最外層であるため、表面機能を向上させるような添加剤がより効果的に機能する。ここで表面機能とは、防曇性、防滴性、耐侯性、意匠性、印刷適性、滑り性等の成型品として用いられる場合の機能の他に、押出加工時における流動性、熱安定性、金属剥離性等の機能も含む。表面機能に関連する添加剤の例は、滑剤、加工助剤、無機粒子、防曇剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、帯電防止剤などが例示される。
これら添加剤の含有量についても(A)層の場合と同様にそれぞれ好適な配合比率で配合することが好ましい。
(B)層の塩化ビニル系樹脂組成物の溶融粘度は、(A)層の溶融粘度よりも小さいこと、すなわち(A)層の溶融粘度の100%未満であることを要する。(B)層の溶融粘度は(A)層の溶融粘度の80%以下が好ましく、60%以下がより好ましい。(B)層の溶融粘度が(A)層の溶融粘度の100%未満であれば、最外層の樹脂組成物が(A)層の樹脂組成物に比べ流動性に劣り共押出法における成形加工性が悪化してヤケ等の不良現象を引き起こす等が生じづらく、安定した製造を行うことができ好適である。また、(B)層の溶融粘度は、(A)層の溶融粘度の5%以上であることが好ましく、10%以上であることがより好ましく、20%以上であることがさらに好ましい。(B)層の溶融粘度が(A)層の溶融粘度の5%以上であれば、各層間の溶融粘度差が大きすぎて安定に加工できない等の不具合を生じづらく好適である。
溶融粘度を前記範囲に調整するための方法としては、可塑剤、滑剤、加工助剤などの種々の添加剤により調整する方法、重合度を調整する方法などがあり、用途によって適宜選択すればよいが、添加剤のブルームが問題になるような用途(食品包装フィルム等)では、添加剤を多量に加えることは望ましくないため、重合度により調整することが望ましい。
本発明の塩化ビニル系積層ストレッチフィルムは、前記(A)層と、その両側に少なくとも各1層の前記(B)層を最外層に有することを基本構成とする塩化ビニル系樹脂積層体である。そして、(B)層の塩化ビニル系樹脂組成物の高化式フローテスターにより測定した剪断速度100(1/sec)での溶融粘度が、同様にして測定した(A)層の塩化ビニル系樹脂組成物の溶融粘度よりも小さいことを要す。
本発明の塩化ビニル系積層ストレッチフィルムは、(A)層中の可塑剤の平均分子量をM1、(A)層中の可塑剤の含有量をT1、(A)層中の塩化ビニル系樹脂を100質量部としたときの全配合量をS1、(A)層の全層に対する厚み比をJ1、(B)中の可塑剤の平均分子量をM2、(B)層中の可塑剤の含有量をT2、(B)層中の塩化ビニル系樹脂を100質量部としたときの全配合量をS2、(B)層の全層に対する厚み比をJ2としたときに、1200×{〔(T1×J1)/(M1×S1)〕+〔(T2×J2)/(M2×S2)〕}が表す無次元数(以下、M値とする。)が50以下であることが好ましい。
下記式(1)
1200×{〔(T1×J1)/(M1×S1)〕+〔(T2×J2)/(M2×S2)〕}≦50 (1)
が成立する理由としては、各層毎の溶出量が、可塑剤の分子量に略反比例し、全配合量中の可塑剤量に略比例するため、また、全層での溶出量が各層の厚み比率に略比例するためであると考えられる。したがって、上記M値が小さくなるほど耐溶剤溶出性に優れることは明らかであり、実験値より、このM値が50以下になるように設計された積層ストレッチフィルムが耐溶剤溶出性を満足することが明らかである。
すなわち、M値は50以下であることが好ましく、40以下であればより好ましく、30以下であればさらに好ましい。このM値の下限値は、要求されるフィルムのストレッチ性などより任意に設定されるが、5以上あればフィルムが硬くなりすぎ耐衝撃性、耐破断性等の機械強度に劣るなどの不具合を生じづらいため好適である。
さらに、本発明の積層ストレッチフィルムは、n−ヘプタンに対する溶出量が50質量ppm以下であることが好ましい。この溶出量が50質量ppm以下であれば、本発明の積層ストレッチフィルムを食品包装に用いた際の安全性が確保される。
中間層と両側をはさむ最外層があればその間に何層あってもかまわない。例示すると、(B)/(A)/(B)でも、(B)/(機能層)/(A)/(B)でも、(B)/(機能層)/(A)/(機能層)/(B)でもかまわない。
また、前記のように両最外層として(B)層を形成するように共押出したのち、さらに後工程として公知の積層方法により遮光層、帯電防止層などの機能層等を追加してもかまわない。例示すると、最終的な層構成が(機能層)/(B)/(A)/(B)でも、(機能層)/(B)/(A)/(B)/(機能層)でもかまわない。
また、本発明の積層ストレッチフィルムの厚みは、用途により異なるが、通常10μm以下である。この厚さが10μm以下であれば、ストレッチフィルムとしての用途に好適なものとなる。また、この積層ストレッチフィルムの厚みの下限は特に規定されないが、機械強度やハンドリングの許す範囲であれば薄いほうが樹脂使用量を削減できるため好ましく、通常5μm程度である。
本発明の積層ストレッチフィルムの製造方法は、前記(A)層を構成する塩化ビニル系樹脂組成物、および前記(B)層を構成する塩化ビニル系樹脂組成物を、共押出法により積層形成することを特徴とする。
すなわち、所定の溶融粘度差を持った3層以上の樹脂組成物を共押出しすることによって、より溶融粘度が低く流動性の良い樹脂組成物を最外層に配置することで、中間層単体のみで押出しする際よりも樹脂圧力の上昇とそれに伴う樹脂温度の上昇を抑制することが可能であり、単層では短時間でヤケ、ブツ、メヤニ、ブリードアウト等を生じて加工困難であるような樹脂組成物を良好に加工することが可能になる。
具体的な製造方法として、各層の組成物の混合は、V型ブレンダー、リボンブレンダー、ヘンシェルミキサーなどの混合機により混合する方法、または押出機、ミキシングロール、バンバリーミキサー、ニーダなどの混練機により混練する方法、あるいは混合機と混練機を組み合わせる方法や、あらかじめ混合せずに直接原料を押出機に投入して混練と押出を同時におこなう方法が挙げられる。押出方法は、スクリュ押出機、プランジャ押出機等の公知な押出方法を挙げられる。
共押出法での積層方法は、フィードブロック方式、マルチマニフォールド方式、スタックプレート方式等の公知な方法を取ることができる。この中で、特に層間の厚み精度が要求される用途においてはマルチマニフォールド方式が好ましく、成形加工性改良が求められる用途においてはダイ前で各層を合流させるフィードブロック方式が流動性の改良効果が大きいため好ましい。
溶融押出された樹脂組成物は、用途に応じてフラットダイやサーキュラーダイ、異型ダイ等の押出ダイにより賦形され、冷却ロール、水、空気等で冷却固化される。さらに、用途に応じて後工程として引取、サイジング、プレス、延伸等の工程をおこなうことも可能である。
また、共押出方により得られた積層体に、ドライラミネーション、溶剤ラミネーション、プレス、押出ラミネーション等の公知の手段により、さらに他の層を追加することも出来る。
本発明の積層ストレッチフィルムの成形加工性は、連続押出時のシート外観によって評価される。塩化ビニル系樹脂組成物を押出する際には、樹脂の劣化、分解による着色、ヤケコゲや添加剤のブリードアウトなどが発生するため、同一の押出量にて一定時間押出を続け、前述したような不具合が発生するかどうかを目視などにより確認することができる。
本発明の積層ストレッチフィルムの機械強度は、JIS K 7127に基づいて測定された引張破断伸度により評価され、23℃環境下の引張試験において、特に軟質フィルム用途ではフィルムの引き取り(流れ)方向に直行する方向(TD)での引張破断伸度が、通常250%以上、好ましくは350%以上、さらに好ましくは450%以上である。23℃環境下での引張破断伸度が250%以上であればシートの巻取り時や巻き出し時、包装用途に用いられる場合は包装時などの工程の際にフィルムが破断するなどの不具合が生じにくい。また、好ましい引張破断伸度の上限値は特に設定されないが、十分な速度でフィルムを製造するためには600%程度であることが望ましい。
本発明の積層ストレッチフィルムにおいて、23℃環境下の引張試験においての引張破断伸度を前記範囲とするためには、樹脂組成や製造方法を本発明で記載するように構成することが好ましく、より具体的な調整方法としては、例えば積層体を構成する塩化ビニル系樹脂の重合度を高める、耐衝撃性の良好な塩化ビニル系共重合体を用いる、可塑剤含有量を上げる、耐衝撃改良剤を添加する、積層ストレッチフィルムをTDあるいはMDに対し延伸することなどが挙げられる。
本発明の積層ストレッチフィルムは、溶融粘度が低い塩化ビニル系樹脂組成物が有する良好な成形加工性と、溶融粘度が高い塩化ビニル系樹脂組成物の有する良好な機械特性とを互いに損なうことなく、優れた成形加工性と機械強度の両特性を有しており、各種用途全般に好適であるが、特に色ヤケやブツ等の加工不良現象が問題となるような透明フィルム、シート類(食品包装用フィルム、容器包装用フィルム等)等の用途に好適に用いることができる。
なお、各例で使用した原料および添加剤は、下記のとおりである。
[塩化ビニル系樹脂]
・PVC1:平均重合度800(ヴィテック社製「PVC800」)
・PVC2:平均重合度1030(ヴィテック社製「PVC1100」)
[可塑剤]
・可塑剤1:混合アジピン酸系エステル可塑剤;平均分子量350(ジェイプラス社製「C−388」)
・可塑剤2:ジイソノニルアジピン酸可塑剤;平均分子量400(田岡化学社製「DINA」)
・可塑剤3:ポリエステル系可塑剤;平均分子量2300(大日本インキ社製「W−360EL」)
[添加剤]
・エポキシ化大豆油(旭電化工業社製「O−130P」)
・Ca/Zn系安定剤(旭電化工業社製「アデカスタブ593」)
・防曇剤(丸菱油化製「PA6950」)
(実施例1乃至4、比較例3)
表1に記した配合比率で計量された可塑剤、エポキシ化大豆油12質量部、Ca/Zn系安定剤0.2質量部および防曇剤2.8質量部を含む、(A)層および(B)層用の原料をヘンシェルミキサーに投入し、130℃にて5分間攪拌を行うことで、(A)層および(B)層用の均一な粉体の樹脂組成物を調製した。得られた(A)層、(B)層用の樹脂組成物をそれぞれφ40mm単軸押出機(L/D=20)、φ32mm単軸押出機(L/D=22)に投入し、140〜220℃の設定温度にて溶融混錬したのち、フィードブロックにて合流させ、幅300mm、リップギャップ0.7mmのフィッシュテール口金から共押出したのち、30〜40℃に温調されたキャストロールにて巻き取り、厚さ10μm、幅200mmの各積層シートを作製した。
(比較例1乃至2)
表1に記した配合比率で計量された可塑剤、エポキシ化大豆油12質量部、Ca/Zn系安定剤0.2質量部および防曇剤2.8質量部を含む原料をヘンシェルミキサーに投入し、130℃にて5分間攪拌を行うことで調整された粉体樹脂組成物を、φ40mm単軸押出機(L/D=20)に投入し、フィードブロックを用いずに幅300mm、リップギャップ0.7mmのフィッシュテール口金から押出した以外は前記と同様に、厚さ10μm、幅200mmの単層シートを作製した。
各例で使用した樹脂組成物の溶融粘度および成形加工性、ならびに各例で得られた積層シートの外観と機械強度とn−ヘプタンに対する溶出量を、以下に示す方法に従って求めた。その結果を表2に示す。
表1に示す樹脂組成物を180℃の金属ロールにて5分間圧縮混錬して得られた約500μmのフィルムを約5mm角に裁断し、高化式フローテスター(島津製作所社製キャピラリレオメータCFT−500C:キャピラリ径1.0mm/キャピラリ長10mm)にて、5分間予熱後に所定の加重を印加し、温度200℃における剪断粘度を剪断速度約5〜4000(1/sec)の範囲で4〜7点測定し、得られた粘度カーブから剪断速度100(1/sec)における溶融粘度を読みとった。
前述の製造方法にて総吐出量10kg/時間の押出条件にて2時間製膜を続け、得られたフィルムを観察し、以下の基準で目視判定を行った。
○……薄黄色で透明性が良好
△……黄色味が強いが透明性は良好
×……赤く着色し透明性も悪い、またはヤケ・コゲ・ブツ等が発生して安定製膜が困難
前記で得られたフィルムを5mm(MD;フィルムの流れ方向)×100mm(TD;フィルムの流れに直行する方向)の短冊状に切り出し、JIS K 7127に基づき、23℃環境下中に1時間放置後に、チャック間40mm、200mm/分の速度でV方向に引張試験を行い、破断時の伸び率(%)を測定し、以下の基準で判定した。
◎……450%以上
○……350%以上〜450%未満
△……250%以上〜350%未満
×……250%未満
前記で得られたフィルムを5.0cm×7.5cmに切り出し、厚生労働省20号告知に従い、擬似溶媒としてn−ヘプタンを用いた溶出試験をおこない溶出量(質量ppm)を測定し、下記基準で評価した。
◎……25質量ppm以下
○……25質量ppmより多く50質量ppm以下
×……50質量ppmより多い
これより、本発明の製造方法によって製造された塩化ビニル系積層フィルムは成形加工性、機械強度および耐溶剤溶出性に優れたものであることが分かる。
Claims (5)
- 塩化ビニル系樹脂組成物よりなる(A)層と、その両側に少なくとも各1層の塩化ビニル系樹脂組成物よりなる(B)層を最外層に有し、全層に対する(B)層の厚み比が5〜80%であり、かつn−ヘプタンに対する溶出量が50質量ppm以下である塩化ビニル系積層ストレッチフィルムであって、
(A)層を構成する塩化ビニル系樹脂組成物が、塩化ビニル系樹脂100質量部に、平均分子量1000〜4000の可塑剤10〜50質量部を配合してなる塩化ビニル系樹脂組成物であり、(B)層を構成する塩化ビニル系樹脂組成物の高化式フローテスターにより測定した剪断速度100(1/sec)での溶融粘度が、同様にして測定した(A)層の塩化ビニル系樹脂組成物の溶融粘度よりも小さいことを特徴とする塩化ビニル系積層ストレッチフィルム。 - (B)層を構成する塩化ビニル系樹脂組成物が、塩化ビニル系樹脂100質量部に、平均分子量1000未満の可塑剤10〜50質量部を配合してなる塩化ビニル系樹脂組成物である請求項1に記載の塩化ビニル系積層ストレッチフィルム。
- 下記式(1)
1200×{〔(T1×J1)/(M1×S1)〕+〔(T2×J2)/(M2×S2)〕}≦50 (1)
[式中、M1は(A)層中の可塑剤の平均分子量、T1は(A)層中の、塩化ビニル系樹脂100質量部に対する可塑剤の配合量、S1は(A)層中の、塩化ビニル系樹脂を100質量部としたときの全配合量、J1は(A)層の全層に対する厚み比、M2は(B)層中の可塑剤の平均分子量、T2は(B)層中の、塩化ビニル系樹脂100質量部に対する可塑剤の含有量、S2は(B)層中の、塩化ビニル系樹脂を100質量部としたときの全配合量、J2は(B)層の全層に対する厚み比である。]
の関係を満たす請求項1または2に記載の塩化ビニル系積層ストレッチフィルム。 - 厚さが10μm以下である請求項1乃至3のいずれかに記載の塩化ビニル系積層ストレッチフィルム
- (A)層を構成する塩化ビニル系樹脂組成物、および(B)層を構成する塩化ビニル系樹脂組成物を、共押出法により積層形成することを特徴とする、請求項1乃至4のいずれかに記載の塩化ビニル系積層ストレッチフィルムの製造方法。
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