以下、図面を参照して、本発明に係る操舵装置の実施の形態を説明する。
本実施の形態では、本発明に係る操舵装置を、レーンキープ装置に適用する。本実施の形態に係るレーンキープ装置は、ドライバによる操舵を支援するために、カメラによる撮像画像から白線を認識し、走行路である左右の白線(車線)の中央側への補助的な操舵トルクを付加する。
図1〜図4を参照して、本実施の形態に係るレーンキープ装置1について説明する。図1は、本実施の形態に係るレーンキープ装置の構成図である。図2は、図1のレーンキープ装置の制御ブロック図である。図3は、図1のレーンキープ装置における通常制御の場合とカーブ路の路面カントを考慮して補正した場合の目標横加速度に対する出力トルクのマップである。図4は、図1のレーンキープ装置における通常制御の場合と直線路の路面カントを考慮して補正した場合の目標横加速度に対する出力トルクのマップである。
レーンキープ装置1は、車線の中央を走行するために必要な出力トルクを設定し、電動パワーステアリング装置を利用してその出力トルクを操舵機構に付加する。その際、レーンキープ装置1では、道路曲率γ(カーブ半径R)、車線に対する車両の向き(ヨー角θ)、車線中心に対する車両位置のずれ量(オフセットD)及びそのオフセットの積分項に基づいて目標横加速度を設定し、その目標横加速度から出力トルクを求める。特に、レーンキープ装置1では、走行路に路面カントがある場合でも適切な出力トルクを付加するために、路面カントの有無及びその傾斜方向を考慮し、必要に応じて出力トルクを補正する。レーンキープ装置1は、操舵トルクセンサ10、車速センサ11、路面カントセンサ12、CCD[Charge Coupled Device]カメラ20、画像処理部21、ECU[Electronic Control Unit]30を備えており、電動パワーステアリング装置40を利用する。なお、本実施の形態では、路面カントセンサ12が特許請求の範囲に記載する傾き検出手段に相当する。
車両における操舵機構では、ドライバによるステアリングホイール2に対する操作に応じて転舵輪(左右前輪FR,FL)を転舵させる。ステアリングホイール2は、ステアリングシャフト3の一端に固定されている。ステアリングシャフト3は、ステアリングホイール2の回転に伴って回転する。ステアリングシャフト3の他端には、ステアリングギヤボックス4を介してラックバー5が連結されている。ステアリングギヤボックス4は、ステアリングシャフト3の回転運動をラックバー5の軸方向への直進運動に変換する機能を有している。ラックバー5の両端は、ナックルアーム6を介して車輪FL,FRの各ハブキャリアに連結されている。このように構成されているため、車輪FL,FRは、ステアリングホイール2が回転されると、ステアリングシャフト3やステアリングギヤボックス4(ラックバー5)を介して転舵される。
電動パワーステアリング装置40は、EPS[ElectricPower Steering]ECU41によってモータ42を駆動制御し、モータ42による駆動トルクによりドライバによる操舵をアシストする。EPSECU41では、ドライバの操舵による操舵トルクに基づいてアシストトルクを設定し、モータドライバによってそのアシストトルクを発生させるためにモータ42を駆動制御する。特に、EPSECU41では、ECU30からの出力トルク信号を受信すると、その出力トルク信号に示される出力トルクに所定の係数を乗算し、その乗算値(付加トルク)をアシストトルクに加算し、そのアシストトルク+付加トルクを発生させるためにモータ42を駆動制御する。モータ42による駆動トルクは操舵機構に付加され、操舵機構にはドライバによる操舵トルク以外にモータ42によるトルクが加わる。なお、操舵トルク、アシストトルク、出力トルク(付加トルク)は、プラス値/マイナス値で表され、その符号が方向を示す。各トルクは、プラス値が右方向へのトルク、マイナス値が左方向へのトルクを示す。
ラックバー5の一部外周面にはボールスクリュー溝が形成されており、モータ42のロータにはこのボールスクリュー溝に対応するボールスクリュー溝を内周面上に有するボールナットが固定されている。一対のボールスクリュー溝の間には複数のベアリングボールが収納されており、モータ42を駆動させるとロータが回転してラックバー5の軸方向の移動させることができる(すなわち、転舵をアシストすることができる)。この際、モータ42は、EPSECU41のモータドライバから供給された駆動電流に応じたトルクをラックバー5に付与する。
操舵トルクセンサ10は、ステアリングホイール2から入力された操舵トルクを検出するセンサである、操舵トルクセンサ10では、検出した操舵トルクを操舵トルク信号としてECU30に送信する。車速センサ11は、車両の速度を検出するセンサである。車速センサ11では、検出した車速を車速信号としてECU30に送信する。路面カントセンサ12は、走行路の路面カントを検出するセンサであり、例えば、水平面に対する道路の傾斜を検出するセンサ、車両に作用する横加速度を検出するセンサが利用される。路面カントセンサ12では、検出した路面カントを路面カント信号としてECU30に送信する。なお、路面カントセンサ12としては、少なくとも路面カントの有無及び路面カントがある場合にはその傾斜方向(低くなっている方向)が判る情報を検出できればよい。
CCDカメラ20は、レーンキープ装置1を搭載する車両の前方に取り付けられる(例えば、ルームミラーに内蔵)。この際、CCDカメラ20は、その光軸方向が車両の進行方向と一致するように取り付けられる。CCDカメラ20では、車両の前方の道路を撮像し、その撮像したカラー画像(例えば、RGB[Red Green Blue]による画像)を取得する。CCDカメラ20では、その撮像画像のデータを撮像信号として画像処理部21に送信する。CCDカメラ20は、左右方向に撮像範囲が広く、走行している車線を示す左右両側(一対)の白線を十分に撮像可能である。なお、CCDカメラ20はカラーであるが、道路上の白線を認識できる画像を取得できればよいので、白黒のカメラでもよい。
画像処理部21では、CCDカメラ20から撮像信号を取り入れ、撮像信号の撮像画像データから車両が走行している車線を示す一対の白線(道路区画線)を認識する。撮像画像では、路面とその上に描かれた白線との輝度差が大きいことから、走行レーンを区画する白線はエッジ検出などによって比較的検出しやすく、車両前方の車線を検出するのに都合がいい。
そして、画像処理部21では、認識した一対の白線から車線幅、一対の白線の中心を通る線(すなわち、車線の中心)を演算する。さらに、画像処理部21では、車線の中心の半径(カーブ半径R)を演算し、カーブ半径Rから道路曲率γ(=1/R)を演算する。また、画像処理部21では、車線の中心線と車両の前後方向の中心軸とのなす角度(ヨー角θ)及び車線の中心線に対する車両重心位置の横方向のずれ量(オフセットD)を演算する。そして、画像処理部21では、これら認識した一対の白線の情報や演算した各情報を画像信号としてECU30に送信する。
なお、カーブ半径R、道路曲率γ、ヨー角θ、オフセットDは、プラス値/マイナス値で表され、その符号が方向を示す。カーブ半径R、道路曲率γは、プラス値が右方向、マイナス値が左方向を示す。したがって、カーブ路の曲がる方向はカーブ半径R、道路曲率γから判断でき、カーブ半径R、道路曲率γがプラス値の場合が右曲がりのカーブ路であり、マイナス値の場合が左曲がりのカーブ路である。ヨー角θは、プラス値が左方向であり、マイナス値が右方向である。オフセットD(オフセットDの積分値)は、プラス値が車線の左側であり、マイナス値が車線の右側である。本実施の形態では、CCDカメラ20及び画像処理部21が特許請求の範囲に記載する走行路検出手段に相当する。
ECU30は、CPU[Central ProcessingUnit]、ROM[Read Only Memory]、RAM[Random Access Memory]などからなり、レーンキープ装置1を統括制御する。ECU30では、一定時間毎に、画像処理部21からの画像信号を取り入れるとともに、各センサ10,11,12から検出信号を取り入れる。そして、ECU30では、ドライバによる操作によってレーンキープ装置1が起動されている場合、車両が車線の中央付近を走行するように、画像信号に示される各種情報(道路曲率γ、ヨー角θ、オフセットD)及び車速Vに基づいて出力トルク(目標横加速度)を設定し、出力トルクを示す出力トルク信号を電動パワーステアリング装置40(EPSECU41)に送信する。
図2を参照して、ECU30における出力トルクを求めるための基本的な処理について説明する。
ECU30では、F/Fコントローラ31において道路曲率γと車速Vとの乗算値にゲインKγを乗算し、ヨーレートωγを演算する。ヨーレートωγは、車両をカーブに沿って走行させるために必要となる目標横加速度を発生させるヨーレートであり、直線路では0になる。また、ヨーレートωγは、レーンキープのフィードフォワード出力となる。なお、フィードフォワード出力には、上限が設定されている。
ECU30では、オフセットDと目標オフセットD0(例えば、0)との偏差ΔD=(D0−D)を演算する。そして、ECU30では、積分器32において偏差ΔDを時間積分し、オフセットの積分値IDを演算する。さらに、ECU30では、積分値IDにゲインKIDを乗算するとともに偏差ΔDにゲインKDを乗算し、その2つの乗算値を加算してヨーレートωDを演算する。ヨーレートωDは、オフセット(積分値)を収束させるために必要となる目標横加速度を発生させるヨーレートである。
ECU30では、ヨー角θと目標ヨー角θ0(例えば、0)との偏差Δθ=(θ0−θ)を演算する。そして、ECU30では、偏差ΔθにゲインKθを乗算し、ヨーレートωθを演算する。ヨーレートωθは、ヨー角を収束させるために必要となる目標横加速度を発生させるヨーレートである。ヨーレートωDとヨーレートωθは、レーンキープのフィードバック出力となる。
ECU30では、求めた3つのヨーレートωγ,ωD,ωθを合算し、目標ヨーレートωを演算する。そして、ECU30では、目標横加速度演算器33において目標ヨーレートωに車速Vを乗算し、目標横加速度Gを演算する。目標横加速度Gは、プラス値/マイナス値で表され、その符号が方向を示す。目標横加速度Gは、プラス値が右方向への横加速度、マイナス値が左方向への横加速度を示す。この目標横加速度Gの変化によって、レーンキープによる操舵機構に付加する出力トルクの方向(レーンキープ操舵方向)が決まる。例えば、目標横加速度が所定量以上増加する場合には右方向に出力トルクを付加し、目標横加速度が所定量以上減少する場合には左方向に出力トルクを付加する。したがって、本実施の形態では、CCDカメラ20、画像処理部21及びECU30における処理が特許請求の範囲に記載する操舵制御方向検出手段に相当する。
ECU30では、出力トルク演算器34において目標横加速度Gに応じた出力トルクTを求める。出力トルク演算器34には、図3に示す出力トルクマップが保持されており、出力トルクマップを参照し、出力トルクマップから目標横加速度Gに応じた出力トルクTを求める。出力トルクマップとしては、切り増し時のマップTIと切り戻し時のマップTRとが設定されており、2つのマップTI,TRとの間にはヒステリシスが設けられている。このヒステリシスは、操舵機構における摩擦を補償するためのものであり、切り増し時に出力トルクを増加させ、切り戻し時に出力トルクを減少させる。また、出力トルクマップは、出力トルクT(目標横加速度G)がプラス側に増加する方向がレーンキープの操舵方向が右方向であり、出力トルクT(目標横加速度G)がマイナス側に増加する方向がレーンキープの操舵方向が左方向である。出力トルク演算器34では、レーンキープ操舵方向と目標横加速度Gの符号によって切り増し時のマップTIかあるいは切り戻し時のマップTRかのいずれかのマップを選択する。そして、出力トルク演算器34では、選択したマップから、目標横加速度Gの値に応じた出力トルクTを抽出する。そして、ECU30では、出力トルクTを示す出力トルク信号をEPSECU41に送信する。
特に、ECU30では、走行路の路面カントの有無及びその傾斜方向を考慮して、必要に応じて出力トルクを補正するために、通常制御時の切り増し時のマップTI、切り戻し時のマップTRを補正する。そのために、ECU30では、一定時間毎に、出力トルク演算器34においてカーブ旋回時マップ補正処理及び直線走行時マップ補正処理を行う。ここでは、ECU30におけるマップを補正するための処理の概要について説明し、上記した各処理の詳細についてはレーンキープ装置1の動作説明のときに説明する。
ECU30では、右カーブ時カント有無フラグ、左カーブ時カント有無フラグ、直線時右カント有無フラグ、直線時左カント有無フラグの4つのフラグを用いる。
右カーブ時カント有無フラグは、右カーブ路で路面カントがカーブ内側(車線右側)に低い傾斜であるか否かのフラグであり、右カーブ路で路面カントがカーブ内側に低い傾斜の場合にはONであり、それに該当しない場合にはOFFである。左カーブ時カント有無フラグは、左カーブ路で路面カントがカーブ内側(車線左側)に低い傾斜であるか否かのフラグであり、左カーブ路で路面カントがカーブ内側に低い傾斜の場合にはONであり、それに該当しない場合にはOFFである。
直線時右カント有無フラグは、直線路で路面カントが車線右側に低い傾斜であるか否かのフラグであり、直線路で路面カントが車線右側に低い傾斜の場合にはONであり、それに該当しない場合にはOFFである。直線時左カント有無フラグは、直線路で路面カントが車線左側に低い傾斜であるか否かのフラグであり、直線路で路面カントが車線左側に低い傾斜の場合にはONであり、それに該当しない場合にはOFFである。
ECU30では、カーブ半径R又は道路曲率γに基づいて、カーブ路かあるいは直線路かを判定し、更に、カーブ路の場合にはその曲がる方向を判定する。そして、ECU30では、カーブ路の場合、検出された路面カントの情報に基づいて、路面カントの有無及び路面カントがある場合には路面カントがカーブ内側に低い傾斜であるか否かを判定し、右カーブ時カント有無フラグ及び左カーブ時カント有無フラグを設定する。また、ECU30では、直線路の場合、検出された路面カントの情報に基づいて、路面カントの有無及び路面カントがある場合には路面カントが右側に低い傾斜かあるいは左側に低い傾斜かを判定し、直線時右カント有無フラグ及び直線時左カント有無フラグを設定する。
ECU30では、カーブ路と直線路を切り分けて出力トルクの補正を行う。これは、カーブ路では一般的に路面カントの傾斜方向がカーブ内側であるが、直線路では路面カントの傾斜方向が任意なので、切り分けて推定を行う。
カーブ路の場合、一般的に、路面カントはカーブ内側に低い傾斜である。そのため、車両には、路面カントによってカーブ内側方向への横加速度が作用する。したがって、目標横加速度Gの方向がカーブ内側方向となる場合(レーンキープによって切り増す場合)、通常制御のように目標横加速度Gに応じた出力トルクを車両に付加すると、車両に作用する横加速度が大きくなり、車両がカーブ内側に寄ってゆく。そこで、ECU30では、目標横加速度Gの方向がカーブ内側方向となる場合、切り増し時の出力トルクを通常制御時より低減する。そのために、ECU30では、通常制御時の切り増し時のマップTIを、目標横加速度に対して出力トルクの大きさとして小さい値が対応付けられるマップに補正する(図3参照)。このマップの補正方法としては、切り増し時のマップTIにおける出力トルク側マップ切片の初期値(K,−K)をカント補償トルクΔk分小さい値にし、切り増し時の補正マップTI’を設定する。つまり、プラス側の出力トルク側マップ切片を(K−Δk)として、プラス側の出力トルクをΔk分低減させるとともに、マイナス側の出力トルク側マップ切片を(−K+Δk)として、マイナス側の出力トルクをΔk分増加させる。これによって、切り増し時の補正マップTI’は、切り増し時のマップTIから切り戻し時のマップTR側にシフトする。カント補償トルクΔkは、カーブ路における路面カントの平均的な傾斜角度などに基づいて予め設定される。
また、カーブ路で目標横加速度Gの方向がカーブ外側方向となる場合(レーンキープによって切り戻す場合)、ECU30では、出力トルクの補正を行わず、通常制御を行う。というのは、目標横加速度Gの方向がカーブ外側方向となるのは、目標横加速度Gを求めるための各パラメータが、撮像画像から認識された車線から求められるので、カメラノイズの影響を受けている場合があり、誤認識の可能性が極めて高いからである。カーブに沿って走行させるためのフィードフォワード出力に基づく目標横加速度の方向は必ずカーブ内側方向であり、通常、このフィードフォワード出力はフィードバック出力に比べて大きい値となる。しかし、目標横加速度Gの方向がカーブ外側方向となっているときにはフィードバック出力がフィードフォワード出力より大きくなっている場合であるから、このような状態になるのはカメラノイズによる誤認識と考えるのが妥当である。そこで、このような誤認識に対して過剰反応しないために、通常制御を行う。
直線路の場合、目標横加速度Gの方向が路面カントの傾斜方向と逆方向となる場合、車両には路面カントによって傾斜の低い方向への横加速度が作用しているので、レーンキープによる大きな出力トルクによって、路面カントに抵抗する必要がある(路面カントから逃げる)。そこで、ECU30では、目標横加速度Gの方向が路面カントの傾斜方向と逆方向となる場合に切り増しのときには、大きな出力トルクが対応付けられている切り増し時のマップTIを用いているので、通常制御を行う。しかし、切り増しから切り戻しに切り替わった場合、通常制御では、切り戻し時のマップTRに切り替わるので、同じ目標横加速度Gに対して出力トルクが大きく低減する。そこで、ECU30では、目標横加速度Gの方向が路面カントの傾斜方向と逆方向となる場合に切り戻しに切り替わったときには、その出力トルクの低減を抑制する。そのために、ECU30では、通常制御時の切り戻し時のマップTRを、出力トルクに対して目標横加速度の大きさとして小さい値が対応付けられるマップに補正する(図4参照)。このマップの補正方法としては、切り戻し時のマップTRにおける横加速度側マップ切片の初期値(G,−G)をカント補償横加速度Δg分小さい値にし、切り戻し時の補正マップTR’を設定する。つまり、プラス側の横加速度側マップ切片を(G−Δg)として、プラス側の目標横加速度をΔg分低減させるとともに、マイナス側の横加速度側マップ切片を(−G+Δg)として、マイナス側の目標横加速度をΔg分増加させる。これによって、切り戻し時の補正マップTR’は、切り戻し時のマップTRから切り増し時のマップTI側にシフトし、プラス側の出力トルクを増加させるとともにマイナス側の出力トルクを増加させる。カント補償横加速度Δgは、直線路における路面カントの平均的な傾斜角度などに基づいて予め設定される。
また、直線路で目標横加速度Gの方向が路面カントの傾斜方向となる場合、ECU30では、出力トルクの補正を行わず、通常制御を行う。というのは、路面カントのある直線路では、オフセットDの積分値に基づく目標横加速度が路面カントの傾斜方向と逆方向となるはずなので、目標横加速度Gの方向が路面カントの傾斜方向になるのは特殊な状況と考えられるからである。直線路で目標横加速度Gの方向が路面カントの傾斜方向となる状況としては、車両ヨー角θが路面カントの傾斜方向とは逆方向に大きくなったりあるいは車両オフセットDが車線中心を超えて傾斜の高い側に大きくなったりする状況が考えられる。この場合、車両が傾斜の高い側に大きくオーバシュートしている可能性があるので、出力トルクを更に低減すべきでないので、通常制御を行う。また、直線路で目標横加速度Gの方向が路面カントの傾斜方向となる状況としては、上記と同様に、カメラノイズによる誤認識が考えられる。このような誤認識に対して過剰反応しないために、通常制御を行う。
図1〜図4を参照して、レーンキープ装置1における動作について説明する。特に、ECU30におけるカーブ旋回時マップ補正処理について図5のフローチャートに沿って説明し、直線走行時マップ補正処理については図6のフローチャートに沿って説明する。図5は、図1のレーンキープ装置のECUにおけるカーブ旋回時マップ補正処理の流れを示すフローチャートである。図6は、図1のレーンキープ装置のECUにおける直線走行時マップ補正処理の流れを示すフローチャートである。
操舵トルクセンサ10では、ステアリングホイール2から入力される操舵トルクを検出し、その操舵トルクを示す操舵トルク信号をECU30に送信する。車速センサ11では、車速を検出し、その車速を示す車速信号をECU30に送信する。路面カントセンサ12では、路面カントを検出し、その路面カントを示す路面カント信号をECU30に送信する。
CCDカメラ20では、車両の前方を撮像し、その撮像画像のデータを撮像信号として画像処理部21に送信する。画像処理部21では、撮像画像から車線を区画する一対の白線を認識する。そして、画像処理部21では、一対の白線から車線幅、車線の中心線、車線中心のカーブ半径Rと道路曲率γ、ヨー角θ及び車両のオフセットDを演算する。さらに、画像処理部21では、これら一対の白線の情報や演算した各情報を画像信号としてECU30に送信する。
ECU30では、一定時間毎に、操舵トルク信号、車速信号、路面カント信号及び画像信号を受信する。そして、ECU30では、操舵トルク、車速、路面カント及び画像信号からカーブ半径R、道路曲率γ、ヨー角θ、オフセットDを取得し、これらの各入力データをそれぞれフィルタ処理する。そして、ECU30では、求められたカーブ半径R(道路曲率γ)に基づいてカーブ路かあるいは直線路か及びカーブ路の場合にはそのカーブの方向を判定する。さらに、ECU30では、検出された路面カントに基づいて路面カントの有無及び路面カントがある場合にはその傾斜方向を判定し、右カーブ時カント有無フラグ、左カーブ時カント有無フラグ、直線時右カント有無フラグ、直線時左カント有無フラグを設定する。
ECU30のF/Fコントローラ31では、一定時間毎に、道路曲率γと車速Vの乗算値にゲインKγを乗算してヨーレートωγを演算する。
また、ECU30では、ヨー角θと目標ヨー角θ0との偏差Δθ=(θ0−θ)を演算し、その偏差ΔθにゲインKθを乗算してヨーレートωθを演算する。
また、ECU30では、オフセットDと目標オフセットD0との偏差ΔD=(D0−D)を演算する。そして、ECU30の積分器32では、偏差ΔDを時間積分し、オフセットの積分値IDを演算する。さらに、ECU30では、積分値IDにゲインKIDを乗算するとともに偏差ΔDにゲインKDを乗算し、その2つの乗算値を加算してヨーレートωDを演算する。
ECU30では、求めた3つのヨーレートωγ,ωD,ωθを合算し、目標ヨーレートωを演算する。そして、ECU30の目標横加速度演算器33では、目標ヨーレートωに車速Vを乗算し、目標横加速度Gを演算する。さらに、ECU30では、この目標横加速度Gの変化からレーンキープ操舵方向を判定する。
カーブ半径Rから走行路がカーブ路と判定した場合、ECU30では、一定時間毎に、目標横加速度Gが0以上かつ右カーブ時カント有無フラグ=ONか否か(つまり、右カーブ路においてカーブ内側に低い路面カントがあり、目標横加速度Gの方向がカーブ内側方向か否か)を判定する(図5のS10)。S10の判定条件を満たす場合、ECU30では、カント補償トルクとしてΔkを設定する(図5のS13)。
S10の判定条件を満たさない場合、ECU30では、目標横加速度Gが0以下かつ左カーブ時カント有無フラグ=ONか否か(つまり、左カーブ路においてカーブ内側に低い傾斜の路面カントがあり、目標横加速度Gの方向がカーブ内側方向か否か)を判定する(図5のS11)。S11の判定条件を満たす場合、ECU30では、カント補償トルクとしてΔkを設定する(図5のS13)。S11の判定条件を満たさない場合、ECU30では、カント補償トルクとして0を設定する(図5のS12)。
そして、ECU30では、出力トルク側マップ切片初期値(K)からカント補償トルクを減算し、その減算値をプラス側の出力トルク側マップ切片とするとともに(図5のS14)、出力トルク側マップ切片初期値(−K)にカント補償トルクを加算し、その加算値をマイナス側の出力トルク側マップ切片とする(図5のS15)。ここで、カント補償トルクとしてΔkが設定されている場合、切り増し時のマップにおける出力トルク側マップ切片が変更される。この場合、ECU30では、この変更された出力トルク側マップ切片に基づいて切り増し時のマップTIを補正し、切り増し時の補正マップTI’とする。この切り増し時補正マップTI’を用いた場合、切り増し時のマップTIを用いた場合より、目標横加速度Gに応じた出力トルクTの大きさが小さくなる。
そして、ECU30では、S10の判定条件を満たす場合又はS11の判定条件を満たす場合には切り増し時の補正マップTI’を選択し、それ以外の場合にはレーンキープの操舵方向と目標横加速度Gの符号によって切り増し時のマップTIかあるいは切り戻し時のマップTRかを選択し、選択したマップを参照して目標横加速度Gの値に応じた出力トルクTを抽出する。そして、ECU30では、出力トルクTを示す出力トルク信号をEPSECU41に送信する。
一方、カーブ半径Rから走行路が直線路と判定した場合、ECU30では、一定時間毎に、目標横加速度Gが0以下かつ直線時右カント有無フラグ=ONか否か(つまり、直線路において車線右側に低い路面カントがあり、目標横加速度Gの方向が車線左側方向か否か)を判定する(図6のS20)。S20の判定条件を満たす場合、ECU30では、カント補償横加速度としてΔgを設定する(図6のS23)。
S20の判定条件を満たさない場合、ECU30では、目標横加速度Gが0以上かつ直線時左カント有無フラグ=ONか否か(つまり、直線路において車線左側に低い傾斜の路面カントがあり、目標横加速度Gの方向が車線右側方向か否か)を判定する(図6のS21)。S21の判定条件を満たす場合、ECU30では、カント補償横加速度としてΔgを設定する(図6のS23)。S21の判定条件を満たさない場合、ECU30では、カント補償横加速度として0を設定する(図6のS22)。
そして、ECU30では、横加速度側マップ切片初期値(G)からカント補償横加速度を減算し、その減算値をプラス側の横加速度側マップ切片とするとともに(図6のS24)、横加速度側マップ切片初期値(−G)にカント補償横加速度を加算し、その加算値をマイナス側の横加速度側マップ切片とする(図6のS25)。ここで、カント補償横加速度としてΔgが設定されている場合、切り戻し時のマップにおける横加速度側マップ切片が変更される。この場合、ECU30では、この変更された横加速度側マップ切片に基づいて切り戻し時のマップTRを補正し、切り戻し時の補正マップTR’とする。切り増しから切り戻しに切り替わったときに、切り戻し時補正マップTR’を用いた場合、切り戻し時のマップTRを用いた場合より、目標横加速度Gに応じた出力トルクTの大きさの低減量が少なくなる。
そして、ECU30では、S20の判定条件を満たす場合又はS21の判定条件を満たす場合にレーンキープの操舵方向と目標横加速度Gの符号によって切り増し方向から切り戻し方向に切り替わったときには切り戻し時の補正マップTR’を選択し、それ以外の場合にはレーンキープの操舵方向と目標横加速度Gの符号によって切り増し時のマップTIかあるいは切り戻し時のマップTRかを選択し、選択したマップを参照して目標横加速度Gの値に応じた出力トルクTを抽出する。そして、ECU30では、出力トルクTを示す出力トルク信号をEPSECU41に送信する。
EPSECU41では、出力トルク信号を受信し、その出力トルク信号に示される出力トルクに所定の係数を乗算する。そして、EPSECU41では、その乗算値(付加トルク)をアシストトルクに加算し、そのアシストトルク+付加トルクに応じてモータ42を駆動制御する。モータ42では、EPSECU41による制御によって所定のトルクを発生し、そのトルクを操舵機構に付加する。すると、操舵機構には、ドライバによる操舵トルクに応じたアシストトルクが加わるとともに、車両を車両中心に沿って走行させるための補助的な付加トルクが加わる。
図7には、路面カントが左側に低い傾斜の左カーブ路を旋回する場合の車両の走行軌跡ML1,ML1’を示している。走行軌跡ML1は、目標横加速度Gの方向がカーブ内側方向と同方向となるときに切り増し時のマップ(ひいては、レーンキープの出力トルク)をカーブ内側に低い傾斜の路面カントを考慮して補正した場合であり、切り増すときには通常制御時よりも出力トルクが低減されるので、車両が車線の中心線に沿った軌跡となっている。一方、走行軌跡ML1’は、レーンキープの出力トルクを補正しなかった場合であり、切り増すときに出力トルクが低減されないので、車両がカーブ内側にふらつきながら寄っていく軌跡となっている。
図20には、路面カントが左側に低い傾斜の直線路を走行する場合の車両の走行軌跡ML2,ML2’を示している。走行軌跡ML2は、目標横加速度Gの方向が路面カントの傾斜方向と逆方向となるときに切り戻し時のマップ(ひいては、レーンキープの出力トルク)を車線左側に低い傾斜の路面カントを考慮して補正した場合であり、切り戻しに切り替わったときに通常制御時より出力トルクが低減されないので、車両が車線の中心線に沿った軌跡となっている。一方、走行軌跡ML2’は、レーンキープの出力トルクを補正しなかった場合であり、切り戻しに切り替わったときに出力トルクが大きく低減されるので、車両が車線左側にふらつきながら寄っていく軌跡となっている。
このレーンキープ装置1によれば、路面カントの有無及びその傾斜方向を考慮して出力トルクを補正することにより、路面カントがある場合でも車両に適切な出力トルクを作用させることができ、車両を車線中心に沿って走行させる精度を向上させることができる。
特に、レーンキープ装置1では、カーブ内側に低い傾斜の路面カントをあるカーブ路において、目標横加速度Gの方向がカーブ内側方向の場合に出力トルクを低減制御するので、カーブ路において路面カントの影響を考慮する必要があるときにだけ適切な出力トルク補正を行うことができる。また、レーンキープ装置1では、路面カントのある直線路において、目標横加速度Gの方向が路面カントの傾斜方向と逆方向のときに切り増しから切り戻しに切り替わった場合に出力トルクの低減を抑制制御するので、路面カントの影響を考慮する必要があるときにだけ適切な出力トルク補正を行うことができる。
以上、本発明に係る実施の形態について説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されることなく様々な形態で実施される。
例えば、本実施の形態ではレーンキープ装置に適用したが、他の装置にも適用可能であり、例えば、自動操舵装置に適用できる。
また、本実施の形態では電動パワーステアリング装置を利用して操舵トルクを付加する構成としたが、レーンキープ装置にラックやピニオンをアシストするアクチュエータを備える構成としてもよい。したがって、パワーステアリング装置を備えない車両にも適用可能である。また、電動パワーステアリング装置ではなく、油圧式のパワーステアリング装置にも適用可能であり、油圧を調整するアクチュエータを制御することによって操舵トルクを付加する構成としてもよい。
また、本実施の形態では操舵機構にトルクを付加することによってレーンキープ制御を行う構成としたが、操舵角などの操舵状態を変化させることができる他のパラメータによってレーンキープ制御を行う構成としてもよい。
また、本実施の形態では一対の白線を認識することにより車線を検出する構成としたが、白線以外の黄線などの他の線も認識することにより車線を検出する構成としてもよいしあるいは路肩や車線と歩道とを区画するブロックなどを認識することにより車線を検出するなど他の方法により車線を検出する構成としてもよい。また、本実施の形態では車線がある道路に適用したが、車線がない道路に対しても適用可能である。この場合には、その道路の路肩などを検出する必要がある。
また、本実施の形態ではカメラによる撮像画像に基づいて車線(走行路)を認識し、その認識した車線に基づいてカーブ半径(道路曲率)、車両のヨー角、車両のオフセットを演算する構成としたが、他の手法によって走行路やこれらのパラメータを求めてもよく、例えば、ナビゲーションシステムでの処理や地図情報に基づいて検出する場合、各種センサを用いて検出する場合、路車間通信などを利用して車外から情報を取得する場合がある。
また、本実施の形態では路面カントを検出するために路面カントセンサを用いたが、他の手法によって路面カントを検出してもよく、例えば、ナビゲーションなどの道路情報に路面カントの情報も含むものがあるときにはその道路情報を取得する場合、車両挙動から路面カントを推測する場合がある。
また、本実施の形態では切り増し時、切り戻し時のマップを補正することによって出力トルクを補正する構成としたが、他の手法によって出力トルクを補正してもよく、例えば、各マップから抽出した目標横加速度に応じた出力トルク自体を路面カントの有無と傾斜方向に基づいて補正する場合がある。
また、本実施の形態ではカント補償トルクΔk、カント補償横加速度Δgを固定値としたが、可変値としてもよく、例えば、路面カントの傾斜角度を検出できる場合には傾斜角度に応じてΔkやΔgの値を変化させてもよい。
また、本実施の形態ではカーブ路において目標横加速度の方向がカーブの外側方向の場合には通常制御を行う構成としたが、目標横加速度を求めるための各パラメータに対するカメラを用いた認識精度が高い場合や各パラメータをカメラ以外の他の高精度なセンサ類で検出できる場合(常時、高精度な目標横加速度を求めることができる場合)、カーブ路において目標横加速度の方向がカーブの外側方向の場合に出力トルクの増加制御を行うようにしてもよい。
1…レーンキープ装置、2…ステアリングホイール、3…ステアリングシャフト、4…ステアリングギヤボックス、5…ラックバー、6…ナックルアーム、10…操舵トルクセンサ、11…車速センサ、12…路面カントセンサ、20…CCDカメラ、21…画像処理部、30…ECU、31…F/Fコントローラ、32…積分器、33…目標横加速度演算器、34…出力トルク演算器、40…電動パワーステアリング装置、41…EPSECU、42…モータ