JP4916115B2 - 血管新生促進剤 - Google Patents

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本発明は、血管新生促進剤に関する。
血管新生とは、胎生期における血管形成からはじまり、全身の血管系ネットワークが形成される過程であり、血管内皮細胞の増殖だけではなく、内皮細胞の移動や管腔形成、基底膜の形成等の複雑な過程を経て生じる。
近年、血管形成を調節している因子の研究が進み、治療的適用が図られてきている。腫瘍等の発達には病的な血管新生が深くかかわっており、その治療には血管新生を抑制することが必要であるが、反対に血管新生を促進する治療法も求められようになってきた。
例えば、血管新生を促進する因子として、血管内皮増殖因子(vascular endothelial growth factor: VEGF)、塩基性線維芽細胞増殖因子(basic fibroblast growth factor: bFBF)、肝細胞増殖因子(hepatocyte growth factor: HGF)等が見い出され、これらの成長因子及びその遺伝子を利用して、血行改善が不可欠と思われる疾患(例えば、閉塞性動脈硬化症、虚血性心疾患等)に対する治療方法として検討が試みられている。
しかしながら、これらの成長因子は蛋白質であるため、経口投与が困難であること、繰り返し投与によるアナフィラキシー反応の問題、ウイルスをベクターとして用いる遺伝子治療の場合のウイルスの安全性の問題、浮腫等の副作用の問題があり、新しい治療剤の開発が望まれている。
生理的な血管新生は、成熟個体における微小血管においても認められ、血管内圧の変化という物理的な要因によって生じることが知られている。例えば、血管拡張作用を有するプラゾシン又はアデノシンの長期間投与は、微小循環における血管への物理的なシェアストレス(shear stress)を増加させ血管新生を促進することが報告されている(非特許文献1)が、これらの化合物は直接的な血管新生促進作用を有していない。
Dawson JM, Cardiovasc. Res. 23, 913-920,1989, Ziada AM, Cardiovasc. Res. 18, 724-732,1984
本発明は、上記問題点を克服した直接的な血管新生促進作用を持つ薬剤を提供することを課題とする。
本発明者らは、直接的な血管新生促進作用を有する新しい薬剤を見い出すべく種々研究を重ねて来た。その結果、下記一般式(1)で表されるピペリジン化合物又はその塩が血管拡張作用を反映しないと考えられる血管培養系においても、直接的に血管新生を促進する作用を有すること及び血管内皮細胞の遊走及び管腔形成を促進させる作用を有していることを見い出した。本発明は、斯かる知見に基づいて完成されたものである。
本発明は、下記1〜4に示す血管新生促進剤を提供する。
1.一般式(1)
Figure 0004916115
[式中、Rは、フェニル環上に置換基として低級アルカノイル基を有することのあるアミノ基及び低級アルキル基からなる群より選ばれた基を1〜3個有することのあるベンゾイル基を示す。R1は、水素原子又は低級アルキル基を示す。R2は、フェニル低級アルキル基を示す。]
で表されるピペラジン化合物及びその塩からなる群より選ばれた少なくとも一種を含有する血管新生促進剤。
2.前記ピペリジン化合物が、4−[N−メチル−N−(2−フェニルエチル)アミノ]−1−(3,5−ジメチル−4−プロピオニルアミノベンゾイル)ピペリジンである上記1に記載の血管新生促進剤。
3.血管新生促進剤が、血管の発達及び再生が不十分な疾患もしくは血液不足による疾患の予防又は治療剤である上記1又は2に記載の血管新生促進剤。
4.血管の発達及び再生が不十分な疾患もしくは血液不足による疾患が、心筋梗塞、狭心症、脳梗塞、老人性痴呆又は糖尿病に伴う臓器障害である上記3に記載の血管新生促進剤。
本発明の血管新生促進剤に含有される一般式(1)のピペリジン化合物又はその塩は、例えば、特開平6−340627号公報に記載されているように、公知の化合物である。
本明細書において、上記一般式(1)に示される各基は、より具体的にはそれぞれ次の通りである。
低級アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、sec−ブチル基、n−ペンチル基、ネオペンチル基、n−ヘキシル基、イソヘキシル基、3−メチルペンチル基等の炭素数1〜6の直鎖又は分枝鎖状のアルキル基を挙げることができる。
低級アルカノイル基を有することのあるアミノ基としては、例えば、アミノ、ホルミルアミノ、アセチルアミノ、プロピオニルアミノ、ブチリルアミノ、イソブチリルアミノ、ペンタノイルアミノ、tert−ブチルカルボニルアミノ、ヘキサノイルアミノ基等の炭素数1〜6の直鎖又は分枝鎖状のアルカノイル基を有することのあるアミノ基を挙げることができる。
フェニル環上に置換基として低級アルカノイル基を有することのあるアミノ基及び低級アルキル基からなる群より選ばれた基を1〜3個有することのあるベンゾイル基としては、例えば、ベンゾイル、2−メチルベンゾイル、3−エチルベンゾイル、4−n−プロピルベンゾイル、2−イソプロピルベンゾイル、3−n−ブチルベンゾイル、4−イソブチルベンゾイル、2−tert−ブチルベンゾイル、3−sec−ブチルベンゾイル、4−n−ペンチルベンゾイル、2−ネオペンチルベンゾイル、3−n−ヘキシルベンゾイル、4−イソヘキシルベンゾイル、2−(3−メチルペンチル)ベンゾイル、2,3−ジメチルベンゾイル、2,4,6−トリメチルベンゾイル、2−アミノベンゾイル、3−ホルミルアミノベンゾイル、4−アセチルアミノベンゾイル、2−プロピオニルアミノベンゾイル、3−ブチリルアミノベンゾイル、4−イソブチリルアミノベンゾイル、2−ペンタノイルアミノベンゾイル、3−tert−ブチルカルボニルアミノベンゾイル、4−ヘキサノイルアミノベンゾイル、2,4−ジアセチルアミノベンゾイル、2,3,4−トリアセチルアミノベンゾイル、3,5−ジメチル−4−プロピオニルアミノベンゾイル基等のフェニル環上に置換基として炭素数1〜6の直鎖又は分枝鎖状のアルカノイル基を有することのあるアミノ基及び炭素数1〜6の直鎖又は分枝鎖状のアルキル基からなる群より選ばれた基を1〜3個有することのあるベンゾイル基を挙げることができる。
フェニル低級アルキル基としては、例えば、ベンジル、1−フェニルエチル、2−フェニルエチル、3−フェニルプロピル、4−フェニルブチル、5−フェニルペンチル、6−フェニルヘキシル、1,1−ジメチル−2−フェニルエチル、2−メチル−3−フェニルプロピル基等のアルキル部分の炭素数が1〜6の直鎖又は分枝鎖状アルキル基であるフェニルアルキル基を挙げることができる。
本発明の一般式(1)で表されるピペリジン化合物のうち塩基性基を有する化合物は、通常の薬理的に許容される酸と容易に塩を形成し得る。斯かる酸としては、例えば、硫酸、硝酸、塩酸、リン酸、臭化水素酸等の無機酸、酢酸、p−トルエンスルホン酸、エタンスルホン酸、蓚酸、マレイン酸、フマル酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、コハク酸、安息香酸等の有機酸を例示できる。
また、本発明の一般式(1)で表されるピペリジン化合物のうち酸性基を有する化合物は、医薬的に許容される塩基性化合物を作用させることにより容易に塩を形成させることができる。斯かる塩基性化合物としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等を挙げることができる。
本発明のピペリジン化合物は、光学異性体を包含する。
一般式(1)のピペリジン化合物又はその塩は、通常、一般的な医薬製剤の形態で用いられる。製剤は通常使用される充填剤、増量剤、結合剤、付湿剤、崩壊剤、表面活性剤、滑沢剤等の希釈剤あるいは賦形剤を用いて調整される。この医薬製剤としては各種の形態が治療目的に応じて選択でき、その代表的なものとして錠剤、丸剤、散剤、液剤、懸濁剤、乳剤、顆粒剤、カプセル剤、坐剤、注射剤(液剤、懸濁剤等)、軟膏剤等が挙げられる。
錠剤の形態に成形するのに際しては、担体として、例えば、乳糖、白糖、塩化ナトリウム、ブドウ糖、尿素、デンプン、炭酸カルシウム、カオリン、結晶セルロース、ケイ酸等の賦形剤、水、エタノール、プロパノール、単シロップ、ブドウ糖液、デンプン液、ゼラチン溶液、カルボキシメチルセルロース、セラック、メチルセルロース、リン酸カリウム、ポリビニルピロリドン等の結合剤、乾燥デンプン、アルギン酸ナトリウム、カンテン末、ラミナラン末、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド、デンプン、乳糖等の崩壊剤、白糖、ステアリン、カカオバター、水素添加油等の崩壊抑制剤、第4級アンモニウム塩基、ラウリル硫酸ナトリウム等の吸収促進剤、グリセリン、デンプン等の保湿剤、デンプン、乳糖、カオリン、ベントナイト、コロイド状ケイ酸等の吸着剤、精製タルク、ステアリン酸塩、ホウ酸末、ポリエチレングリコール等の滑沢剤等を使用できる。さらに錠剤は、必要に応じ通常の剤皮を施した錠剤、例えば糖衣錠、ゼラチン被包錠、腸溶被錠、フィルムコーティング錠あるいは二重錠、多層錠とすることができる。
丸剤の形態に形成するに際しては、担体として、例えば、ブドウ糖、乳糖、デンプン、カカオ脂、硬化植物油、カオリン、タルク等の賦形剤、アラビアゴム末、トラガント末、ゼラチン、エタノール等の結合剤、ラミナラン、カンテン等の崩壊剤等を使用できる。
坐剤の形態に成形するに際しては、担体として、例えば、ポリエチレングリコール、カカオ脂、高級アルコール、高級アルコールのエステル類、ゼラチン、半合成グリセライド等を使用できる。
カプセル剤は、常法に従い通常本発明化合物を上記で例示した各種の担体と混合して硬質ゼラチンカプセル、軟質カプセル等に充填して調整される。
注射剤として調整される場合、液剤、乳剤及び懸濁剤は殺菌され、かつ血液と等張であるのが好ましく、これらの形態に成形するに際しては、希釈剤として、例えば、水、エチルアルコール、マクロゴール、プロピレングリコール、エトキシ化イソステアリルアルコール、ポリオキシ化イソステアリルアルコール、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類等を使用できる。
なお、この場合等張性の溶液を調整するに充分な量の食塩、ブドウ糖あるいはグリセリンを医薬製剤中に含有せしめてもよく、また通常の溶解補助剤、緩衝剤、無痛化剤等を添加してもよい。
更に必要に応じて着色剤、保存剤、香料、風味剤、甘味剤等や他の医薬品を医薬製剤中に含有せしめてもよい。
ペースト、クリーム及びゲルの形態に成形するに際しては、希釈剤として、例えば、白色ワセリン、パラフィン、グリセリン、セルロース誘導体、ポリエチレングリコール、シリコン、ベントナイト等を使用できる。
本発明医薬製剤中に含有されるべき本発明化合物の量としては、特に限定されず広範囲に適宜選択されるが、通常医薬製剤中に1〜70重量%、好ましくは1〜30重量%とするのがよい。
上記医薬製剤の投与方法は特に制限がなく、各種製剤形態、患者の年齢、性別その他の条件、疾患の程度等に応じて決定される。例えば錠剤、丸剤、液剤、懸濁剤、乳剤、顆粒剤及びカプセル剤は経口投与される。注射剤は単独で又はブドウ糖、アミノ酸等の通常の補液と混合して静脈内投与され、更に必要に応じて単独で筋肉内、皮内、皮下もしくは腹腔内投与される。坐剤は直腸内投与される。
上記医薬製剤の投与量は、用法、患者の年齢、性別その他の条件、疾患の程度等により適宜選択されるが、通常有効成分である一般式(1)の化合物の量が1日当り体重1kg当り約0.01〜10mg程度とするのがよい。また投与単位形態中に有効成分を0.1〜200mg含有せしめるのがよい。
本発明の血管新生促進剤は、血管の発達や再生が不十分な疾患、さらには血液不足による様々な疾患、例えば心筋梗塞、狭心症、脳梗塞、老人性痴呆、糖尿病に伴う各種臓器の障害等の予防又は治療剤として有用である。
以下に製剤例及び薬理試験例を掲げて、本発明をより一層明らかにする。
製剤例1
4−[N−メチル−N−(2−フェニルエチル)アミノ]−1−(3,5−ジメチル−4−プロピオニルアミノベンゾイル)ピペリジン5mg、デンプン132mg、マグネシウムステアレート18mg及び乳糖45mgを混合し、常法により打錠して1錠中に上記量の成分を含む錠剤を製造した。
製剤例2
メチル−パラベン0.18g、プロピル−パラベン0.02g、メタ重亜硫酸ナトリウム0.1g及び塩化ナトリウム0.9gを攪拌しながら80℃で適量の注射用蒸留水に溶解した。得られた溶液を40℃まで冷却し、4−[N−メチル−N−(2−フェニルエチル)アミノ]−1−(3,5−ジメチル−4−プロピオニルアミノベンゾイル)ピペリジン500mg、ポリエチレングリコール(分子量:4000)0.3g及びポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート0.4gを順次溶解させ、次にその溶液に注射用蒸留水を加えて最終の容量(100ml)に調製し、適当なフィルターペーパーを用いて滅菌濾過することにより滅菌した後、1mlずつアンプルに分注し、注射剤を調製した。
以下の薬理試験において、4−[N−メチル−N−(2−フェニルエチル)アミノ]−1−(3,5−ジメチル−4−プロピオニルアミノベンゾイル)ピペリジン(この化合物を以下「供試化合物A」という)を供試化合物に用いた。
薬理試験例1(供試化合物Aの血管新生促進作用)
この試験を、Nicosia RFらの報告に基づいて行った(In Vitro Cell Dev Biol 26,119-128 1990)。即ち、エーテル麻酔下のラットより胸部大動脈を摘出し、約1mmの輪標本に切断後、タイプIコラーゲンゲル(Koken社製)に包埋した。更に供試化合物Aを含むMCDB131培地(Gibco BRL社製)を上層に加え、3日目毎に培地を交換した。培養7日目に輪標本の切断面より新生してきた微小血管をアルカリフォスファターゼで染色し、デジタルカメラ画像からの血管数をScion Image(Scion社製)を用いて計測した。作用の評価は、無処置群を対象に乱塊法モデルによるDunnett検定により有意差を検討し、危険率が0.05%未満を有意差ありと判定した。
結果を表1に示した。表1の結果から、ラットの胸部大動脈輪標本において、供試化合物Aは無処置群に比較して用量依存的に有意な新生血管数の増加を示したことから、供試化合物Aが血管新生を促進する作用を有していることが明らかとなった。
Figure 0004916115
薬理試験例2(供試化合物Aの血管内皮細胞遊走能に対する作用)
この試験を、Witzenbichler Bらの報告に基づいて行った(J Biol Chem 273, 18514-18521,1998)。即ち、ヒト大動脈血管内皮細胞(Cambrex社製)をMCDB131培地でコンフルエントになるまで培養した。細胞遊走能は48穴ミクロケモタキシスチャンバー(Neuro Probe社製)を用い、供試化合物Aは下層に、細胞は1×104個/wellの割合で上層に加え、4時間培養した。メタノールで細胞を固定しフィルターの上層の細胞を除去した後、フィルターを遊走した細胞をDiff Quick(国際試薬社製)で染色し、デジタルカメラからの画像より遊走した内皮細胞数をScion Image(Scion社製)を用いて計測した。作用の評価は、無処置群を対象に直線回帰分析を行った後、Williams検定により有意差を検討し、危険率が0.05%未満を有意差ありと判定した。
結果を表2に示した。表2の結果から、供試化合物Aは、無処置群に比較して用量依存的に有意な遊走細胞数の増加が見られ、供試化合物Aが血管内皮細胞の遊走能を促進することを確認した。
Figure 0004916115
薬理試験例3(供試化合物Aの血管内皮細胞の管腔形成に対する作用)
この試験を、Yasunaga Cらの方法に基づいて行った(Lab Invest 1989; 61: 698-704)。即ち、ヒト大動脈血管内皮細胞(Cambrex社製)をMCDB131培地でコンフルエントになるまで培養した。供試化合物Aを含む培地で調製した細胞を、セルマトリックス(新田ゼラチン社製)を含むゲル上に5×104個/wellを加え、4時間培養し細胞を接着させた。培地を除去した後にゲルを加えて包埋後、さらに薬物を含む培地を上層に加え、3日目にデジタルカメラからの画像により、形成された管腔の長さをScion Image(Scion社製)を用いて計測した。作用の評価は、無処置群を対象に直線回帰分析を行った後、Williams検定により有意差を検討し、危険率が0.05%未満を有意差ありと判定した。
結果を表3に示した。表3の結果から、供試化合物Aは無処置群に比較して用量依存的に有意に形成された管腔の長さの増加が見られ、供試化合物Aが血管内皮細胞の管腔形成能を促進することを確認した。
Figure 0004916115

Claims (2)

  1. 4−[N−メチル−N−(2−フェニルエチル)アミノ]−1−(3,5−ジメチル−4−プロピオニルアミノベンゾイル)ピペリジン及びその塩からなる群より選ばれた少なくとも一種を含有する血管新生促進剤。
  2. 心筋梗塞、狭心症、脳梗塞又は老人性痴呆の予防又は治療に用いられる請求項1に記載の血管新生促進剤。
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