以下、本発明の歩行能力からの運動機能向上メニュー提案システムの実施形態について、添付の図面を参照しつつ説明する。また本発明の歩行能力からの運動機能向上メニュー提案方法の説明も兼ねる。図1は、本発明の歩行能力からの運動機能向上メニュー提案システムの第1実施形態を示すブロック図である。図2は、本発明の歩行能力からの運動機能向上メニュー提案システムの第2実施形態を示すブロック図である。図1及び図2では歩行能力の測定手段として腰部加速度を測定する手段を用いた。歩行能力の測定手段としては歩行速度、歩幅などを通常使用される各測定機器を用いて測定された値を用いることも出来る。例えば手作業で測定しても良いし、光センサなどを用いて計測してもよい。
図1に示すシステム100は、歩行時における被験者の腰部の加速度を検出し、その加速度に対応する信号(以下、加速度信号とする)を出力する加速度計測手段としての加速度計10と、加速度計10からの加速度信号を受けて、被験者の歩行能力を推定する演算部20と、歩行能力を推定した結果、判別された転倒リスク、提案する運動メニュー等の情報や被験者の情報等を表示することができる表示部40とを有する。さらに、歩行時間などを計測する時間計測部30と、歩行能力の強さを判別した結果等の情報や被験者の情報等を記憶することができる記録部50とを有するものである。
加速度計10は、被験者の歩行時において腰部の前後加速度を検出する前後加速度検出部としてのX方向加速度検出部12と、腰部の左右加速度を検出する左右加速度検出部としてのY方向加速度検出部14と、腰部の上下加速度を検出する上下加速度検出部としてのZ方向加速度検出部16とにより構成されている。それぞれの検出部は、一体化されて加速度計10とされており、該加速度計10を被験者の腰部に装着すれば、前後加速度、左右加速度、上下加速度のすべてを検出することができるようになっている。これらそれぞれの検出部により検出されたそれぞれの方向における加速度は、それぞれの加速度に対応する電気信号(それぞれ、前後加速度信号、左右加速度信号、上下加速度信号とする)とされて、それぞれ独立に演算部20に出力されるようになっている。
なお、加速度計10としては、一般的に知られている加速度センサを使用することができる。例えば、圧電素子を用いた3軸の加速度センサや、静電容量型の3軸加速度センサ等を使用することができる。3軸加速度センサの場合、上記前後加速度検出部12、左右加速度検出部14、上下加速度検出部16は、一つの検出素子とすることができる。または、加速度計10として、1軸あるいは2軸の加速度センサを組み合わせて使用してもよい。
演算部20は、A/D変換器22と、演算装置としてのCPU24と、記憶装置としてのROM26と、RAM28とから構成されている。A/D変換器22は、加速度計10からの信号をデジタル信号に変換するものであり、該A/D変換器22からデジタル化された加速度信号がCPU24、ROM26、RAM28にそれぞれ送信されるようになっている。デジタル化された信号(前後加速度信号、左右加速度信号及び上下加速度信号)は、RAM28に一旦記憶され、CPU24により所定の処理がされるようになっている。例えば、RAM28には、腰部の加速度信号の時間変化波形が時間計測部30からの時間情報とともに記憶されるようになっている。加速度信号の時間変化波形は、例えば歩行動作の数周期分がRAM28に記憶されるようにすることができる。
また、ROM26には、RAM28に記憶される前後加速度信号、左右加速度信号及び上下加速度信号から、特定の歩行動作を行うタイミングやその期間(特定期間)を抽出するためのプログラムが格納されている。
図2に第2実施形態を示す。第1実施形態との違いは、加速度計10からの信号はコンピューター60によってデジタル信号に変換され、コンピューター60からデジタル化された加速度信号がインターネット200を介してコンピュータ演算部21のCPU24、ROM26、RAM28にそれぞれ送信されるようになっている。また歩行能力を推定した結果、判別された転倒リスク、提案する運動メニュー等の情報や被験者の情報等を表示することができる表示部40はコンピュータ演算部21によってインターネット200を介してデータが送信される。インターネット200の代わりに無線等のネットワークシステムを介しても良い。
図3に加速度信号の時間変化波形及び対応する歩行動作を示す。ここで歩行動作を説明する。歩行とは、交互に左右の足を前に振り出すものである。地面に接して体重を支持している足を立脚といい、地面から離れて前に振り出される足を遊脚という。歩行において、左右の両足それぞれにおいて、地面に足が着いた状態の立脚期と、地面から足が離れた遊脚期とがある。また歩行中は、左右の足が同時に立脚期となっている期間が両脚支持の期間となり、一方の足だけが立脚期となっている期間が単脚支持の期間となる。
立脚期は、まず遊脚となった足の踵が地面に接触する状態(踵接地)で開始し、爪先側も地面に接地することで足の底が略床面に沿って接触する状態(足底接地)、足の底が床面に接触した状態から踵の部分が床面から離れる状態(踵離地)を経て、爪先(足尖)が床面から離れることにより、足が床面から離れる状態(足尖離地)で終了する。従って各足において踵接地から足尖離地までが立脚期となり、足尖離地から踵接地までが遊脚期となる。
特定の歩行動作とは、図3に示すように、踵接地動作や、足底接地動作や、足尖離地動作、立脚中期等をいうものである。ここで、踵接地動作は、一方の足の踵が接地する動作であり、足底接地動作は、一方の足の底全体が接地する動作であり、足尖離地動作は、他方の足の足尖が離地する動作である。
この特定の歩行動作を行うタイミングやその期間(特定期間)を抽出するためのプログラムはCPU24により実行されるようになっており、このプログラムと、該プログラムを格納するROM26と、CPU24とが本実施形態における期間抽出手段を構成する。また、ROM26には、RAM28に記憶される加速度信号の時間変化から、期間抽出手段により特定期間であると判定された期間内における各加速度に基づいて、推定指標を算出するプログラムが格納されている。期間抽出手段と同様に、該プログラムとCPU24とが本実施形態における推定指標算出手段を構成する。また、ROM26には、予め用意された推定指標と歩行能力との関係(例えば関係式)が格納されている。このROM26には、この関係と該推定指標算出手段にて算出された各推定指標とから歩行能力を推定するプログラムが格納されている。該プログラムとCPU24とが本実施形態における歩行能力算出手段を構成する。これらの期間抽出手段、推定指標算出手段及び歩行能力算出手段を合わせて本実施形態の歩行能力推定手段を構成する。
また歩行能力推定手段で算出された各歩行能力と転倒リスクとの関係がROM26に格納されている。このROM26には、この関係と該歩行能力推定手段にて算出された各歩行能力とから多段階の転倒リスクを判別するプログラムが格納されている。該プログラムとCPU24とが本実施形態における転倒リスク判別手段を構成する。
判別された転倒リスクに基づいてRAM28に記憶される運動メニューを選択するプログラムがROM26に格納されている。該プログラムとCPU24とが本実施形態における運動メニュー提案手段を構成する。
上記の様に推定された歩行能力又は他の測定器械等で測定された歩行能力、及び判別された転倒リスク等はRAM28に一旦記憶させておくことが出来、自動的或いは使用者の操作によって記録部50に記憶させるようにすることが出来る。さらに歩行能力、転倒リスク等の結果と記録部50に記憶されている過去の測定結果は、例えば記録部50に記憶されている被験者の情報や日付などの情報と共に、表示部40に自動的にまた使用者の操作により表示される。また本実施形態の歩行能力からの運動機能向上メニュー提案システムは、被験者の情報等を入力する入力部を備えるようにしてもよく、また被験者に結果を出力する出力部を備えるようにしてもよい。
以下、本実施形態の歩行能力からの運動機能向上メニュー提案システムの作用・動作について説明する。ここでは歩行能力を腰部加速度計測することによって求めた場合の説明をする。図4、図5に本実施形態の歩行能力からの運動機能向上メニュー提案システムの動作説明用のフローチャートの一例を示す。図4は腰部加速度計を用いて歩行速度、歩幅、背屈力、膝伸展力を算出するフローチャートを示し、図5に得られた歩行速度、歩幅、背屈力、膝伸展力等から運動メニューの提案を行うフローチャートを示す。図1及び図4を用いて歩行速度、歩幅、背屈力、膝伸展力の算出について説明する。
まず、加速度計10を被験者の腰部に装着し、被験者には通常の歩行と全力歩行の2種類で約10mの距離を2〜3回歩いてもらう。その動作に伴いCPU24は腰部加速度測定を開始させる(ステップS1)。
加速度計10により、腰部の前後加速度、左右加速度、上下加速度が検出される。加速度計10は、検出した加速度の時間変化を電気信号の波形(加速度信号)として出力する。CPU24は、加速度計10から出力された加速度信号を、A/D変換器22によりデジタル化し一旦RAM28に記憶させる(ステップS2)。
ついでCPU24は、RAM28に記憶された歩行動作の一周期分(数周期分でもよい)に相当する加速度信号(前後加速度、左右加速度、上下加速度)の時間変化をX軸に時間をとった加速度信号の時間変化波形グラフとして作成させる(ステップ3)。
次にCPU24は、ROM26にあらかじめ記憶されているプログラムを用い、該加速度信号の時間変化から特定の歩行動作が行われる時点や期間(特定期間)を判定する特定歩行動作判定基準プログラムを実行させる(ステップS4)。
具体的には、(1)加速度信号を時間微分することにより、該加速度信号のピークを検出させる、または(2)前後加速度、上下加速度、左右加速度から選択される一つの加速度に着目し、該加速度が正から負あるいは負から正に変化する時点を検出させる、あるいは(3)加速度信号のピーク時における加速度に対してある所定割合の加速度となるタイミングを検出させる。これらの検出された時点は、特定の歩行動作が開始あるいは終了する時点と判定することができる。それらの判定基準はあらかじめROM26に保存されており、その判定基準を実行させればよい。さらに、上記方法のうち、最も適切なものを随時選択するようにしてもよいし、これら方法が適宜組合わされた方法を採用することもできる。
例えば、右踵接地の検出判定基準プログラムのフローチャートを説明する。前後加速度の大きな負のピークを検出し(ステップS401)、その大きな負のピークの直前の前後加速度の極小点を検出する(ステップS402)。次に負のピークと極小点との間に左右加速度が正から負に変化する点があるか判定する(ステップS403)。左右加速度が正から負に変化する点が上記範囲内にある場合は、該変化点を(右)踵接地動作の時点と判定する(ステップS404)。左右加速度が正から負に変化する点が上記範囲内にない場合は、極小点を(右)踵接地動作の時点と判定する(ステップS405)。
なお、上記の例は(右)踵接地における判定であり、(左)踵接地を判定する場合には、上記S403のステップにおいて、負のピークと極小点との間に左右加速度が負から正に変化する点があるかどうかを判定すればよい。
上記のように、特定の歩行動作を行っている時点をそれぞれ把握し、判定された各特定歩行動作時点を保存する(ステップS5)。次にCPU24は、特定の歩行動作が行われる特定期間中における各歩行能力に関する推定指標を演算させる推定指標算出プログラムを実行させる(ステップS6)。
例えば、推定指標V1を算出するプログラムのフローチャートを説明する。前後加速度の正から負になる時間を検出し(ステップS601)、次に前後加速度の負から正になる時間を検出する(ステップS602)。一方の足の踵接地時点から他方の足の踵接地時点までの時間である一歩時間を算出する(ステップS603)。上記で算出された値をV1を求める式に代入し、推定指標V1を算出する(ステップS604)。
CPU24は算出された各々の推定指標をRAM28に保存させる(ステップS7)。
次にCPU24は、演算された推定指標及びあらかじめ用意された推定指標と歩行能力との関係を用いて各歩行能力を算出する(ステップS8)。
具体的には、例えば歩行能力として歩行速度、歩幅、膝伸展力、背屈力を推定する場合、CPU24により、ROM26に記憶されている推定指標−歩行速度関係、推定指標−歩幅関係、推定指標−膝伸展力関係、又は推定指標−背屈力関係に、演算された各推定指標データを当てはめて、歩行速度、歩幅、膝伸展力、又は背屈力を推定することができる。
このとき導出された歩行速度、歩幅、膝伸展力、背屈力は、RAM28に一旦記憶させておくことができ、自動的あるいは使用者の操作により記録部50に記憶させるようにすることができる(ステップS9)。
さらに、導出された歩行速度、歩幅、膝伸展力、背屈力、或いは記録部50に記録されている過去の測定結果は、例えば記録部50に記憶されている被験者の情報や日付等の情報とともに、表示部40に表示させるようにしてもよい。また、導出された膝伸展力、背屈力の強さから、被験者の現時点での歩行年齢を演算することもできる。具体的には、ROM26に、膝伸展力又は背屈力の強さと歩行年齢との関係を予め記憶させておき、演算された膝伸展力、背屈力を、前記膝伸展力又は背屈力と歩行年齢との関係に当てはめることにより、歩行年齢を演算することができる。演算された歩行年齢は、RAM28に一時的に記憶される。さらに、自動的あるいは使用者の操作により記録部50に歩行年齢の判別結果を保存するようにしてもよい。
この場合、使用者が背屈力や膝伸展力や歩行年齢等から、表示したい項目を選択して、選択された項目の判別結果を表示することができる。あるいは、すべての判別結果を自動的に表示するようにしてもよい。
ここで具体的に歩行速度、歩幅、背屈力、膝伸展力の算出方法を説明する。
<歩行速度の推定>
歩行速度の推定にあたりまず下記推定指標V1、V2、V3、V4、V5、V6、V7を算出させた。下記推定指標を選んだ理由について以下に説明する。
(推定指標V1)前後加速度を積分することにより前進速度、つまり歩行速度をある程度算出することはできるが、積分誤差の影響が大きく、推定精度の面で問題がある。そこで以下のように考えた。歩行動作は、加速動作と減速動作の繰り返しであり、加速動作にかける時間(加速時間)と減速動作にかける時間(減速時間)の比率を見た場合に、加速にかける時間が大きいほうが速い歩行速度となる傾向がある、したがって、一歩時間における減速時間の比率が推定指標として使用できると考えた。
この場合、減速時間とは、前後方向において最大速度となる点(前後の最大速度位置と称す)から前後方向の最低速度になる点(前後の最低速度位置と称す)までの時間にあたる。ここで、以下の式を推定指標V1とした。
推定指標V1=前後の最大速度位置から前後の最低速度位置までの時間/一歩時間。
加速度は、速度の微分である。そのため、図2において前後の速度が最大になる点は加速度が時間軸を正から負に横切るところであり、前後の速度が最小になる点は加速度が時間軸を負から正に横切るところである。よって、"最大速度位置から最低速度位置までの時間“とは、”前後加速度が負から正になる時間“−”正から負になる時間“である。
ここで算出されたデータを用い、X軸に推定指標V1(減速時間/一歩時間)(%)、Y軸に歩行速度/身長(m/sec/m)を取ったグラフを作成した。Y軸での歩行速度は、実測歩行速度を用いた。実測歩行速度は三次元動作分析システムを利用して求めた。より個人差をなくし規格化するために、Y軸に置いて歩行速度を身長で割ったものを用いた。このグラフより、一歩時間における減速時間の割合が小さいほど、歩行速度を身長で割った値が大きいことが見て取れ、指標V1と実測歩行速度を身長で割った値とは、負の相関が見られた。
(推定指標V2)大きな正の加速度が起こると、大きな負の加速度が起こる。歩行速度が速い場合、加速度変化は大きいと考えられる。そのため一歩期間における減速を示す負の前後加速度は歩行速度を反映していると考えた。
加速度変化が大きい場合、消費エネルギーは大きくなる。上記のように推定指標V1と歩行速度とが相関が取れていることから、歩行速度が速い場合には一歩時間において加速動作に費やす時間が長くなることが分かる。つまり大きな制動(負の加速度)が起こった場合、それは加速時間が長かったと考えられる。これは消費エネルギーが極力大きくならないような歩行を行っていると考えられ、通常歩行は最小限の消費エネルギーで行う運動であるという仮定に則していると考えられる。以下に推定指標V2を示す。
推定指標V2=前後加速度が正から負に変わる点から負から正へ変わる点までの前後加速度の積分値/積分期間時間。
"前後加速度が正から負に変わる点から負から正へ変わる点までの前後加速度の積分値"とは、推定指標V1の"最大速度位置から最低速度位置までの時間"を表す期間の前後加速度を時間積分した値である。つまり推定指標V2は、その積分値を積分期間時間で割った値で、減速動作時における平均減速度を意味する。また、X軸に推定指標V2(m/sec/sec)を、Y軸に歩行速度/身長(m/sec/m)を取ったグラフを作成したところ、推定指標V2と歩行速度/身長とは、負の相関がみられた。
(推定指標V3)歩行中の身体重心は、上下動を繰り返す。身体重心位置は、踵接地時に最も低くなり、身体が直立した状態にある時(立脚中期)に最も高くなる。立脚中期後、足が身体前方へ振り出されることにより、身体重心が下方へ移動し、踵接地時に最下点となる。
従って重心が上方へ移動する際に発生する上方加速度、上方への移動速度の減速の際に発生する上方減速加速度、重心が下方へ移動する際に発生する下方加速度も歩行速度を反映していると考えられる。上方加速度は、踵接地時の衝撃による振動が入っていると考えられるため、外力による振動の影響が少ないと考えられる上方減速加速度と下方加速度に着目した。
立脚中期は足尖離地後に現れる。そのため足尖離地後の上下加速度における負の加速度は、立脚中期直前での上下減速加速度と足を前に振り出すことによる身体重心の下方加速度を示していると考えた。踵接地直前の正の上下加速度は、踵接地時の衝撃力を緩和するための下方速度を減速させるための加速度であると考えた。この衝撃緩和という動作は、踵接地時(制動期)の筋負荷を低減することができ、消費エネルギーを抑えるという仮定に準じていると言える。歩行速度を反映していると考えられる両積分値の絶対値の和を推定指標V3とした。
推定指標V3=|上方速度の減速量/期間時間|+|下方速度の減速量/期間速度|。
"上方速度の減速量"とは、足尖離地から上下加速度が負から正に変わる点までを期間とした上下加速度の時間積分値を示す。よって、|上方速度の減速量/期間時間|は、この特定期間での上下方向平均減速度の絶対値を意味する。また"下方速度の減速量"とは、上下加速度が負から正に変わる点から踵接地までを特定期間とした上下加速度の時間積分値を示す。よって、|下方速度の減速量/期間時間|は、この特定期間での上下方向平均加速度の絶対値を意味する。
ここでX軸に推定指標V3(m/sec/sec)を、Y軸に歩行速度/身長(m/sec/m)を取ったグラフを作成したところ、推定指標V3と歩行速度/身長とは、正の相関がみられた。
(推定指標V4)推定指標V4=(右[左]踵接地から左[右]踵接地までの前後加速度を積分し、最大速度と最低速度の差)/(前後の最大速度位置から前後の最低速度位置までの時間/一歩時間)。
ここでX軸に推定指標V4(m/sec/sec)を、Y軸に歩行速度/身長(m/sec/m)を取ったグラフを作成したところ、推定指標V4と歩行速度/身長とは、正の相関がみられた。
(推定指標V5)次に、加速前期にあたる右足尖離地から右立脚後期(足尖離地以降の上下加速度が負から正に変わる点)までの前後加速度を積分し、右立脚後期時の前後速度を歩行速度の推定指標V5とした。(同様に左立脚後期時の前後速度も用いることが出来る)推定指標V5=右[左]足尖離地から右[左]立脚後期までの前後加速度の積分値。
ここでX軸に推定指標V5(m/sec)を、Y軸に歩行速度/身長(m/sec/m)を取ったグラフを作成したところ、推定指標V5と、歩行速度/身長とには正の相関がみられた。
(推定指標V6)次に立脚初期(足尖離地以降、上下加速度が正から負へ変わる最初の点)から立脚後期までの上下加速度を積分し算出される速度と立脚後期から他方の足の踵接地までの上下加速度を積分し算出される速度の和の大きさを推定指標V6とした。
推定指標V6=|一方の足の立脚初期から立脚後期までの上下加速度の積分値|と|一方の足の立脚後期から他方の足の踵接地直前までの上下加速度の積分値|の和。
ここでX軸に推定指標V6(m/sec)を、Y軸に歩行速度/身長(m/sec/m)を取ったグラフを作成したところ、推定指標V6と、歩行速度/身長とには正の相関がみられた。
(推定指標V7) 推定指標V7=推定指標V6/推定指標V1。
X軸に推定指標V7(m/sec/sec)を、Y軸に歩行速度/身長(m/sec/m)を取ったグラフを作成したところ、推定指標V7と歩行速度/身長とには、正の相関がみられた。
次に推定指標と歩行速度との関係式より歩行速度を算出させた。上記関係式について説明する。
(歩行速度推定式=推定指標Vと歩行速度との関係式)
歩行速度を推定する関係式を上記推定指標V1〜7を用いて求める。各推定指標V1〜7は、単独で係数を用いても歩行速度を求めることが出来る。また、より精度を上げるために、複数の推定指標を用い重回帰分析を行い関係式を得ることが出来る。推定指標V1〜3を用いた推定式の例を以下に示す。
歩行速度=0.249×推定指標V1−0.091×推定指標V2+0.049×推定指標V3+0.269。
上記の関係式に各計測データから算出した値を代入して推定歩行速度を算出し、実測した歩行速度との相関を見た。X軸に推定歩行速度/身長(m/sec/m)を、Y軸に実測歩行速度/身長(m/sec/m)を取ったグラフを作成したところ、正の高い相関がみられた。実測歩行速度は、三次元動作分析システムを利用して求めた。
また推定指標V4〜7を用いた関係式を以下に示す。
歩行速度=0.18×推定指標V4+0.56×推定指標V5+0.69×推定指標V6−0.15×推定指標V7+0.38。
上記の関係式に各計測データから算出した値を代入して推定歩行速度を算出し、実測した歩行速度との相関を見た。X軸に推定歩行速度/身長(m/sec/m)を、Y軸に実測歩行速度/身長(m/sec/m)を取ったグラフを作成したところ、正の高い相関がみられた。
<歩幅の推定>
次に歩幅の推定指標について説明する。
(推定指標S1)踵接地時から次の踵接地時点に速度変化がない定常歩行を考える。歩行速度と歩幅には正の相関があり、歩行速度が速ければ歩幅も大きく、歩行速度が遅ければ歩幅も小さい。歩行速度が速ければ、大きな加速度が起こり、それと対になる大きな減速加速度も起こる。そのため一歩期間における減速加速度量は歩幅を反映しているといえる。また歩行には小股で歩行速度が速い、大股で歩行速度が遅いという歩行もあるため、一歩期間における減速加速度量においても、足を前に振り出す直前となる足尖離地時までの減速量の大きさが歩幅をより反映した減速量であると考えた。つまり減速した速度を初速度まで加速するためには、下腿三頭筋の働きにより身体を前方へ進める。身体が前方へ進めるためには当然のことながら、足を前に振り出す必要がある。減速量が大きければ、その分前方への大きな加速、大きな足の振り出しが必要であると考えた。そこで足底接地から足尖離地までの前後加速度を積分し、その積分値を期間時間で割った値を推定指標S1とした。
推定指標S1=右[左]足底接地から左[右]足尖離地までの前後加速度の時間積分値/期間時間。
右[もしくは左]足底接地から左[もしくは右]足尖離地までの前後加速度の時間積分値/期間時間は、その期間での平均減速度を表す。
X軸に推定指標S1(m/sec/sec)を、Y軸に歩幅/身長(m/m)を取ったグラフを作成した。この場合の歩幅は、三次元動作分析システムと床反力計を用いて実測したものである。このグラフによると推定指標S1と、歩幅/身長とには負の相関がみられた。
(推定指標S2)歩行中の身体重心は、上下動を繰り返す。身体重心位置は、踵接地時に最も低くなり、身体が直立した状態にある時(立脚中期)に最も高くなる。立脚中期後、足が身体前方へ振り出されることにより、身体重心が下方へ移動し、踵接地時に最下点となる。歩行速度と歩幅には正の相関があるため、歩幅が大きければ、踵接地から立脚中期までの時間も短くなり、重心が上方へ移動する際に発生する上方加速度、上方への移動速度の減速の際に発生する上方減速加速度も大きい。また、足を前に振り出す量が大きければ、重心が下方へ移動する際に発生する下方加速度も大きくなる。従って、上方加速度、上方減速加速度、下方加速度は、歩幅を反映していると考えられる。ここで上方加速度は、踵接地時の衝撃による振動が入っていると考えられるため、外力による振動の影響が少ないと考えられる上方減速加速度と下方加速度に着目した。
立脚中期は足尖離地後に現れる。そのため足尖離地後の上下加速度の変位にみられる負の加速度は、立脚中期直前での上下減速加速度と足を前に振り出すことによる身体重心の下方加速度を示していると考えた。踵接地直前の正の上下加速度は、踵接地時の衝撃力を緩和するための下方速度を減速させるための加速度であると考えた。歩幅を反映していると考えられる両積分値の絶対値の和を推定指標S2とした。推定指標S2は推定指標V3と同じものにあたる。
推定指標S2=|上方速度の減速量/期間時間|+|下方速度の減速量/期間速度|。
"上方速度の減速量"とは、足尖離地から上下加速度が負から正に変わる点までを期間とした上下加速度の時間積分値を示す。よって、|上方速度の減速量/期間時間|は、この期間での上下方向平均減速度の絶対値を意味する。また"下方速度の減速量"とは、上下加速度が負から正に変わる点から踵接地までを期間とした上下加速度の時間積分値を示す。よって、|下方速度の減速量/期間時間|は、この期間での上下方向平均加速度の絶対値を意味する。
X軸に推定指標S2(m/sec/sec)を、Y軸に歩幅/身長(m/m)を取ったグラフを作成したところ、推定指標S2と歩幅/身長とは、正の相関がみられた。
(推定指標S3)一歩期間(踵接地から他方の踵接地までの期間)の動作には、踵接地から他方の足尖離地(爪先が地面から離れる)までの期間(両脚支持期)の減速動作と足尖離地後の単脚支持期における前方への加速動作がある。前方への加速動作は、遊脚側の足を前方へ振り出すとともに、下腿三頭筋の働きにより前方への加速をつくり出す。歩幅が小さい場合、足を前に振り出す量が小さい。また単脚支持期は、片足で身体の安定性を保つ必要があり下肢筋肉の負担も大きい。そのため、足を前に振り出す量が小さい場合は、その振り出す時間も短いと考えられる。上記仮定に基づくと、短い時間で大きな加速量をつくり出すことは考え難い。そのため、歩幅が小さい、つまり遊脚期の時間が短い場合、単脚支持期につくり出す加速量が低下することが考えられる。この加速量の低下を補うため、両脚支持期における減速量を低下させるのではないかと考えた。これにより、歩行時における速度起伏が小さくなると考え、踵接地から他方の踵接地までの前後加速度を積分して速度へ変換し、最大速度と最低速度の差を推定指標S3とした。
推定指標S3=右[左]踵接地から左踵[右]接地までの最大速度と最低速度の差。
"右[左]踵接地から左[右]踵接地までの最大速度と最低速度の差"とは、推定指標V4における"右[左]踵接地から左[右]踵接地までの前後加速度を積分し、最大速度と最低速度の差"と同じことを指し、踵接地から前後加速度が正から負になるところまでの期間で前後加速度を時間積分した値(最大速度)から、踵接地から前後加速度が負から正になるところまでの期間で前後加速度を時間積分した値(最小速度)を引いた値である。
X軸に推定指標S3(m/sec/sec)を、Y軸に歩幅/身長(m/m)を取ったグラフを作成したところ、推定指標S3と、歩幅/身長とには正の相関がみられた。
(推定指標S4)歩幅が小さい場合、足を前に振り出す量が小さくなる。足を前に振り出す期間(遊脚期)は、単脚にて身体の安定性を保つ必要があり、下肢筋肉の負担も大きいと考えられる。上記仮定を基に考えると、足を前に振り出す量が小さければ、遊脚期の期間も短いと考えられる。そこで一歩時間における遊脚期の時間比率は歩幅を反映していると考え、歩幅の推定指標S4とした。
推定指標S4=1歩時間に対する踵接地から足尖離地までの時間比率。
次に推定指標と歩幅との関係式について説明する。
(歩幅推定式=歩幅と推定指標Sとの関係式)歩行速度が速い人は、歩幅も広くなる傾向がある。従って歩幅を推定する関係式を上記推定指標S1〜S4又推定指標V1〜V7を用いて求めることとした。各推定指標S1〜S4また推定指標V1〜V7は、単独で用いても歩幅を求めることが出来る。またより精度を上げるために、複数の推定指標を用い重回帰分析を行い以下のような係数を持つ関係式を見いだした。例えば推定指標S1〜S4を用いた関係式を以下に示す。
歩幅=0.163×推定指標S1−0.023×推定指標S2+0.286×推定指標S3+0.027×推定指標S4−0.236。
上記の関係式に各計測データから算出した値を代入して推定歩幅を算出し、実測した歩幅との相関を見た。X軸に推定歩幅/身長(m/m)を、Y軸に実測歩幅/身長(m/m)を取ったグラフを作成したところ、正の高い相関がみられた。
また例えば推定指標V4、V6、V7を用いた関係式を以下に示す。
歩幅=0.11×推定指標V4+0.27×推定指標V6−0.06×推定指標V7+0.24。
上記の関係式に各計測データから算出した値を代入して推定歩幅を算出し、実測した歩幅との相関を見た。X軸に推定歩幅/身長(m/m)を、Y軸に実測歩幅/身長(m/m)を取ったグラフを作成したところ、正の高い相関がみられた。
他にも歩行能力として下肢筋力(背屈力、膝伸展力)が推定できる。
<下肢筋力(背屈力、膝伸展力)の推定>
次に、歩行能力として下肢筋力を推定する方法を説明する。
<推定指標Xa、Xb、Xc>
図3に示すAの期間における平均前後加速度を算出することにより、被験者の背屈力を推定することができる。また図3に示すAの期間における平均前後加速度を算出することにより、被験者の膝伸展力を推定することができる。
さらに図3に示すBの期間における平均前後加速度を算出することにより、被験者の膝伸展力を推定することができる。また図3に示すCの期間における平均前後加速度を算出することにより、被験者の背屈力を推定することができる。
また図3に示すCの期間における平均前後加速度を算出することにより、被験者の膝伸展力を推定することができる。また図3に示すAの期間における平均上下加速度を算出することにより、被験者の膝伸展力を推定することができる。
ここでAの期間における平均前後加速度を推定指標Xaと、Bの期間における平均前後加速度を推定指標Xbと、Aの期間における平均上下加速度を推定指標Xcとする。
歩行時における腰部の加速度の時間変化を計測することで下肢筋力を推定できるのは以下の理由による。つまり、歩行時における腰部の前後加速度は、下肢筋力により得られる前後方向の推進力・制動力に対応する。一方、歩行時は脚を蹴り出して前方向に進む。この脚の蹴り出し力は、前後方向に向かうとともに上下方向にむかう。したがって、例えば蹴り出し力に対応する下肢筋力の強さは、歩行時における腰部の上下加速度と相関関係がある。
さらに、前後加速度あるいは上下加速度から下肢筋力を測定する場合、特定期間は、一方の足の踵が接地する踵接地動作が行われる時点から該一方の足の足底全体が接地する足底接地動作が行われる時点までの期間とすることができる。踵接地時には、足関節まわりに発生する底屈モーメント(地面からの作用により爪先が地面に触れる方向に足関節を回転させるモーメント)に対抗する下肢筋力(例えば下肢筋力)が必要である。
この底屈モーメントは、踵接地時における歩行速度が大きいほど、より大きくなる。したがって、下肢筋力が小さい場合には、この底屈モーメントを許容できる大きさにするため、踵接地時における歩行速度が低下すると考えられる。一方、下肢筋力が大きい場合には、大きな底屈モーメントを許容できるため、踵接地時における歩行速度が大きくなると考えられる。上記より、踵接地時における腰部の前後加速度を推定指標とすることにより下肢筋力を推定することができると考えられる。
また、踵接地時には、膝関節まわりに発生する屈曲モーメント(地面からの作用により膝が曲がる方向に膝関節を回転させるモーメント)に対抗する下肢筋力が必要である。この屈曲モーメントは、踵接地時における歩行速度が大きいほど大きい。したがって、下肢筋力が小さい場合には、この屈曲モーメントを許容できる大きさにするため、踵接地時における歩行速度が低下すると考えられる。一方、下肢筋力が大きい場合には、大きな屈曲モーメントを許容できるため、踵接地時における歩行速度が大きくなると考えられる。したがって、踵接地時における腰部の前後加速度を推定指標とすることにより下肢筋力を推定することができる。
また、下肢筋力が低いと踵接地時に発生する屈曲モーメントに対抗できないため、膝の屈曲が起こらないように膝関節を突っ張った状態で踵接地動作を行う傾向が強いと考えられる。膝関節を突っ張った状態で踵接地動作を行うと、踵接地時における地面からの衝撃が、膝関節の屈曲によって吸収されなくなる。このときの衝撃は、腰部における上下加速度に影響を与える。つまり、衝撃が大きい場合には、上方向を正とした場合に上下加速度が大きくなり、言い換えると、下肢筋力が低い場合には、踵接地時における上下加速度が大きくなると考えられる。一方、下肢筋力が高い場合には、屈曲モーメントに対抗することができるため、踵接地時には膝関節を屈曲させて衝撃を吸収しようとする傾向が強いと考えられる。そのため、下肢筋力が高い場合には、踵接地時に地面から受ける衝撃が小さくなり、言い換えると、踵接地時における上下加速度が小さくなると考えられる。以上のように、踵接地動作における腰部の加速度を検出することで、下肢筋力の推定が可能である。
上記と同様に、前後加速度あるいは上下加速度から下肢筋力を測定する場合、特定期間は、一方の足の足底全体が接地する足底接地動作が行われる時点から他方の足の足尖が離地する足尖離地動作が行われる時点までの動作とすることができる。この特定期間の腰部の加速度は歩行動作における制動能力に関係する。下肢筋力が低いと当然制動能力も低下することから、この特定期間における腰部の加速度を検出することで下肢筋力を測定することができる。なお、より具体的には、この特定期間において腰部の前後加速度は、減速を表わす負の加速度となり、この負の前後加速度の絶対値が大きいほど制動能力が大きい、つまり下肢筋力が大きいと判断できる。逆に、負の前後加速度の絶対値が小さいほど制動能力が小さい、つまり下肢筋力が小さいと判断できる。
さらに、上記と同様に、前後加速度あるいは上下加速度から下肢筋力を推定する場合、特定期間は、一方の足の踵が接地する踵接地動作が行われる時点から他方の足の足尖が離地する足尖離地動作が行われる時点までの期間とすることができる。この特定期間においては、全体として制動力により歩行速度が減少する。したがって上記と同様の理由により、下肢筋力を測定することができる。
以上の構成において、前記下肢筋力は背屈力とすることができる。背屈力は、歩行時の腰部における加速度と相関関係がある。背屈力と腰部の加速度との間に相関関係があるのは、以下の理由によるものと考えられる。歩行動作は、加速と減速を繰り返して行われるが、減速をする際に使われる筋力の一つに背屈力がある。したがって、歩行動作のうち制動期にあたる特定歩行動作中の腰部の加速度は制動力に影響されるため、腰部の加速度と背屈力との間には相関関係があると考えられる。そのため、特定期間における腰部の加速度を推定指標とすることにより、背屈力を推定することが可能である。
あるいは、前記下肢筋力は膝伸展力とすることができる。膝伸展力は、歩行動作における制動力を発揮する筋力の一つである。したがって、歩行動作時のうち制動期に対応する特定期間中の腰部の加速度は制動力に影響されるため、腰部の加速度と膝伸展力との間には相関関係があると考えられる。
さらに、下肢筋力として背屈力や膝伸展力を採用する場合、前記特定期間は、一方の足の踵が接地する踵接地動作が行われる時点から該一方の足の足底全体が接地する足底接地動作が行われる時点までの期間とし、推定指標は、該特定期間における平均前後加速度とすることができる。
また、前記特定期間は、一方の足の足底全体が接地する足底接地動作が行われる時点から他方の足の足尖が離地する足尖離地動作が行われる時点までの期間として、推定指標は、該特定期間における平均前後加速度とすることができる。また、特定期間は、一方の足の踵が接地する踵接地動作が行われる時点から該一方の足の足底全体が接地する足底接地動作が行われる時点までの期間とし、推定指標は、前記期間における平均上下加速度とすることができる。
<推定指標推定指標Xa、Xb、Xcと下肢筋力(背屈力、膝伸展力)との関係式>
推定指標Xa、Xb、Xcと背屈力、膝伸展力との関係式を説明する。
加速度−下肢筋力関係としては、Aの期間における平均前後加速度(Xa)と、Bの期間における平均前後加速度(Xb)と、Aの期間における平均上下加速度(Xc)との3つの変数と背屈力との関係を重回帰分析することにより得られた加速度−下肢筋力関係を用いることもできる。具体的にこの場合の加速度−下肢筋力関係は、背屈力(Y1)=A1Xa+B1Xb+C1Xc+D1(式a)により表わされる。さらに、複数の被験者からデータを集めて上記の重回帰分析を行った結果、この場合のさらに具体的な加速度−下肢筋力関係は、背屈力(Y1)=−0.53Xa−0.59Xb+0.1Xc+0.35(式b)により表わされる。この加速度−下肢筋力関係における重相関係数は約0.6と大きい。したがって、上記(式a,b)の加速度−下肢筋力関係を用いることで、それぞれ(Xa)、(Xb)、(Xc)の変数を算出することにより、被験者の背屈力をより一層精密に測定することができる。
また、加速度−下肢筋力関係としては、Aの期間における平均前後加速度(Xa)と、Bの期間における平均前後加速度(Xb)と、Aの期間における平均上下加速度(Xc)との3つの変数と膝伸展力との関係を重回帰分析することにより得られた加速度−下肢筋力関係を用いることができる。具体的にこの場合の加速度−下肢筋力関係は、膝伸展力(Y2)=A2Xa+B2Xb+C2Xc+D2(式c)により表わされる。さらに、前述したように複数の被験者からデータを集めて上記の重回帰分析を行った結果、さらに具体的な加速度−下肢筋力関係は、膝伸展力(Y2)=−2.29Xa−3.34Xb−0.52Xc−0.5(式d)により表わされる。この加速度−下肢筋力関係における重相関係数は約0.74と大きい。したがって、上記(式c,d)の加速度−下肢筋力関係を用いることで、それぞれ(Xa)、(Xb)、(Xc)の変数を算出することにより、被験者の膝伸展力をより一層精密に測定することができる。
次に図1及び図5を用いて算出された歩行能力から運動メニューの提案を行うことを説明する。
まず被験者の年齢、身長、体重、性別、算出された歩行速度、歩幅、背屈力、膝伸展力又は他の測定機器で測定された歩行速度、歩幅、背屈力、膝伸展力のデータを入力又は記憶部に記憶されたデータを呼び出して読み込む(ステップS10)。
読み込まれた歩行速度(m/sec)及び歩幅(m)から歩調(step/min)を計算する(ステップS11)。歩調は、歩調(step/min)=歩行速度(m/sec)÷歩幅(m)×60より求められる。
次に求められた歩行速度、歩幅及び歩調の値の組み合わせにより被験者の転倒リスクを判定させる。(ステップS12)。
例えば歩行速度を0.69(m/sec)以下、1.5(m/sec)以上及びその間を多数段階に分ける。また歩幅を0.49(m)以下、0.8(m)以上及びその間を多数段階に分ける。歩調は90(step/min)以下、91(step/min)以上の2段階に分ける。この歩行速度、歩幅、歩調の組み合わせにより転倒リスクを例えば4段階(転倒危険、転倒注意、躓き注意、問題なし(元気))に分けることが出来る。例として歩行速度0.69(m/sec)以下、歩幅0.49(m)以下、歩調90(step/min)以下の場合は“転倒危険がある”と判定する。例としてあげた数値は、被験者の体格、年齢、性別、歩行状態(通常歩行、全力歩行)等に合わせて適宜設定できる。転倒リスクの判定基準の例を図10及び図11に示す。
また具体的には、ROM26に、転倒リスクと歩行速度、歩幅及び歩調との関係を予め記憶させておき、演算された歩行速度、歩幅及び歩調を、前記転倒リスクと歩行速度、歩幅及び歩調との関係に当てはめることにより、転倒リスクを判定する。判定された転倒リスクは、RAM28に一時的に記憶される。さらに、自動的あるいは使用者の操作により記録部50に転倒リスクの判定結果を保存することが出来る。
次に、判定された転倒リスクから、あらかじめ保存されている転倒予防及び運動機能向上に効果的な運動メニューからよりよい運動メニューを選択させる(ステップ13)。
上記のように、CPU24により歩行速度、歩幅、歩調及び転倒リスク及び運動メニューが導出され、その結果を表示部40に表示することができる(ステップS14)。この場合、使用者が歩行速度、歩幅、歩調及び転倒リスク等から、表示したい項目を選択して、選択された項目の結果を表示させることができる。あるいは、すべての結果を自動的に表示させるようにしてもよい。また被験者がやってみたい運動メニューを選択出来、その運動の詳細を表示させることもできる。
図6〜図9に歩行能力、転倒リスク及び運動メニューの表示例を示す。
図6には通常歩行及び全力歩行時の歩行速度、歩幅及び膝伸展力の結果が過去の測定データ及び同年代の平均値データと共に表として表示されている。また過去のデータと現在データとの変化を各項目ごとに比較したグラフが同時に表示されている。又同時に被験者の性別、年齢、身長、体重も表示されている。過去のデータや同年代の平均値データが表として併記又グラフ化されていることにより被験者の運動能力向上の意欲向上を促すことができる。
図7には判定された転倒リスク及び過去の転倒リスクが表として表示され及び歩行速度、歩幅、膝伸展力の平均値データを100としたときの各値の割合がグラフ表示されている。グラフは、どの項目が平均値に比べて劣っているかがひとめでわかるように表示されている。また表示された転倒リスクに合わせたアドバイスが表示されている。
図8には判定された転倒リスクに応じた運動メニューが提案されている。図8には転倒リスクとして「問題なし(元気)」と判定された場合の運動メニューが絵と運動名と共に表示されている。運動メニューの表示は体力機能向上のための運動が3種類の目的別に9種類及び歩行動作改善のための運動として2種類の目的別に3種類、合計12種類提案されている。画面では各運動メニューから被験者が4種類の運動を選択でき、選択された運動メニューに丸印が表示されている。
図9には選択された4種類の運動メニューの詳細説明が絵と文章で表示されている。運動メニューには運動の説明と運動の注意事項が記載されており、事故なく運動が行えるように被験者に注意を促すことができる。
また本発明の第2実施形態も本発明の第1実施形態と同様の効果を持つ。本発明の第2実施形態では第1実施形態と異なり、被験者と測定者とが遠隔地に離れていても運動メニュー提案が出来る。
以上説明した実施形態の歩行能力からの運動メニュー提案システムは腰部加速度を検出することによって歩行能力を算出したものを用いたが、所定の距離の歩行を行い、それぞれ一般的な測定機器によって測定された値を用いても良い。
歩行時の腰部加速度を計測することによって歩行能力を推定する場合は、腰部の加速度を計測するだけであるので、専門的な知識も必要としないで簡便に計測することが出来る。
さらに、本発明においては、歩行時における特定期間を抽出する際に、左右の各足における特定期間をそれぞれ抽出して、左右の各足においてそれぞれ推定指標を算出し、それぞれ算出された推定指標を基に、左右各足の歩行能力をそれぞれ推定することができる。この場合、左右のどちらの足の歩行動作が行われている特定期間であるか判断するためには、左右加速度を時間変化において、その加速度の時間変化が正負いずれであるかを検出することにより判断することができる。加速度の正負が左右いずれの足に対応するかは、適宜設定することができる。
このように、左右の各足の下肢筋力、歩行速度及び歩幅が推定できることによって、運動機能向上又は転倒予防の必要部位等を明確にし効率的な機能向上の運動メニューを提案出来る。
さらに、本発明は、上記の実施形態に限らず、その他の歩行能力についても推定或いは測定することが出来る。たとえば、歩行能力としては、歩隔(左右方向における左右の足の距離)、各間接(股関節、膝関節、足関節)の可動範囲角度、各関節のトルク、各関節の伸展・屈伸筋力、床反力等を例示することができる。さらに、各歩行能力の左右バランスや下肢骨格の歪等を数値化したものを別途歩行能力として推定或いは測定するようにしてもよい。
これらの歩行能力の結果をふまえることによってより好ましい転倒防止、及び運動機能向上するための運動メニューを提案できる。