JP4913596B2 - 人工股関節のステムに挿入するモバイルネックのセット - Google Patents

Description

本発明は人工股関節を構成する部材の技術領域に関する。

当業者に周知のとおり、上記構成部材は、大腿骨(femur)のキャビティに嵌め込まれるステムを含んでおり、このステムには「ネック」（前述のステムと一体形成されるものではないという意味で、モバイルと称される。）が嵌め込まれる。ネックの自由端には、寛骨臼(acetabulum)のキャビティに嵌合できるように設計された球形のヘッドが設置される。

前述のような種類のモバイルネックが開発された目的は、使用されるネックの種類を必要に応じて取り替えることにより、人工股関節を設置される患者の骨格にとって、人工股関節を解剖学的かつ人間工学的に適正なものにするためである。

そのため、起こりうる症例にすべて対応できるように、モバイルネックはセットとして製作され、様々な寸法が採用できるようになっている。セットを構成するネックはそれぞれ異なる長さや傾斜を有しており、患者の身体構造に応じて、人工股関節を適正に合わせることができる。人工股関節を合わせるための診療において、２つの寸法が重要である。１つはいわゆるオフセット値、すなわちステムの軸とヘッドの回転中心との間の距離であり、もう１つは高さ、すなわち、ステムがネックと連結する箇所において当該ステムの軸に対して垂直な平面と、上述のヘッド回転中心との間の距離である。

しかしながら、現在市場に出ているモバイルネックのセットにおいては、長さ若しくは傾斜のいずれかしか変更できない構成とされている。このため、通常は上記２つの寸法の片方、すなわちオフセットと高さのうちいずれか１つだけしか理想値にすることができない。これは、例えば所望のオフセットを得ようとしてモバイルネックの長さを小さくした場合、同時に高さも小さくなってしまうからであり、このような事態は診療を適正に行うという観点からは必ずしも許容できるとは限らない。

一方、適切な長さおよびステムに対する適切な傾斜を得るだけなら、「採寸に基づき製造された」モバイルネックを提供すればよい。しかしながら、この場合には、正確な寸法は、実際に治療を行う過程でしか知ることができない。そのため、いかなる症例であってもコストが非常に高くなり、その結果、患者の多くが人工股関節の適合診療を受診することができなくなる。

本願発明者は、上述した不具合を解消すべく、人工股関節に関して生じうるすべての症例における条件を満足するネックのセットを開発した。各症例においては、当該セットから選択された一のネックを使用することにより、所望の人工股関節構成部材を得ることができる。この構成部材は、患者の解剖学的構造に十分に適合したものであって、不当に大きな不整合を生じさせることはない。そのため、時に痛みを伴うような術後合併症を起こすこともなく、診療が失敗に終わることもない。

上述の機能的利点をもつ本発明のセットは、完全に許容しうる最少数（１５個）のネックを含み、各ネックは、想定しうるあらゆる状況に対して十分な精度で対応できるように互いに異なる構成とされている。したがって、本発明のセットは、１０個ほどのネックからなる従来のセットと比較しても、コストが大幅に上昇することなく生産可能である。

以下で詳述するように、１５個のモバイルネックは、前傾／後傾に関して単一のオフセット値を持つような前傾および後傾の様々な状況に対応可能である。本発明によるモバイルネックのセットでは、すべてのネックが異なる傾斜および長さを有する構成とされている。そして、ステムに嵌め込まれた状態において、各ネックの自由端が、互いに等距離だけ離間した９つの点のいずれかに位置する構成とされている。これら９つの点は、互いに等距離だけ離間した水平な３つの平行線上に配置されており、最も外側の点を結ぶ線分は、正方形を描く。この正方形の一辺の長さは１５ｍｍであり、その対角線は、傾斜４５°のモバイルネックの軸と一致している。正方形は上述のステムの軸と垂直な平面に対してニュートラルな（すなわち内反(varus)でも外反(valgus)でもない）傾斜になっている。

添付の図面を参照しつつ、本発明に基づくセットの実施形態について詳細に説明する。図１は、当該セットを構成する各ネックに関するさまざまな幾何学的特徴を示した拡大図である。

図１に示すように、互いに等間隔に離間した９個の点Ｐｉが、それぞれ３個ずつに分けられて、平行な３つの水平列Ｒ₀に配置されている。また、これら３つの列も互いに等間隔に離間している。

また図１は、大腿骨４中に挿入されたステム２の一部を示している。このステムには、本発明のセットに含まれるモバイルネック１ｉの一端が周知の方法で挿入されている。同ネックの自由端３ｉは、球形ヘッド（図示略）の内部に収容できる形状に加工されている。

モバイルネックは軸Ｈ−Ｈに沿って延び、点Ｐｉのうちのひとつ、すなわち図中でＰ₀の記号が付されている点において、自由端３ｉで終端している。ネックの長さはＬであり、傾斜は４５゜である。この状態は、内反でも外反でもないニュートラルなネックに相当する。

上記ネック１ｉ（図中では上述のとおり点Ｐ₀で終端している）からは、所定のオフセット値Ｏおよび所定の高さＢが得られる。もし、患者の解剖学的構造から、オフセット値はこれと同じでよいが高さはＢよりも小さなＢ′にする必要がある場合、医者は、ネックのセットから、長さがＬ₁であり且つ傾斜がより小さなネックを選ぶだけでよい。なお、図では当該ネックの軸Ｒ−Ｒのみが示されている。

同様に、オフセット値(すなわち、ステム２の軸Ｖ−Ｖからの距離)として、上記Ｏよりも大きなＯ′とする必要があるが、高さは同じＢでよい場合、医者は本発明のセットの中から長さＬ₂のモバイルネックを選ぶだけでよく（図ではその軸Ｓ−Ｓのみを示す）、それによってオフセット値はＯよりも大きなＴになり、高さは同じＢである。

モバイルネック１ｉの数に相当する点Ｐｉの数が９に限定されているため、正方形Ｑ内に、セットのモバイルネックが終端しない領域があるが、それについては取り付けられるヘッドの種類を公知の手法で変えることにより対応可能である。すなわち、モバイルネック１ｉの端部３ｉを差し込むべくヘッド内に形成されたキャビティの深さを変えればよい。この深さを変えてネックを「長く」または「短く」することで（矢印ｘ、ｙ参照）、ヘッドの回転中心を２つの方向に移動させ、それによって上述した領域をカバーすることが可能となる。

ここで注意すべきは、図１にて全体的に示したモバイルネック１ｉにおいて、その軸Ｈ−Ｈ上の終端点となる端部３ｉが、当該端部３ｉに取り付けられたヘッドの回転中心と一致する構成とすることである。

患者の両脚における関節の中心を含む平面αに対してモバイルネックを前傾および後傾させる方法は以下のとおりである。すなわち、人工股関節の対称性を考慮すると、本発明のセットに含まれるモバイルネックのうちの限られたものに対してのみ、異なる所定の傾斜を付与すれば十分である。そうすれば、上述したように互いに異なる１５個のモバイルネック１ｉのみを使用することで、通常扱われる症例すべてにおいて実際に使用しうる完全なセットを構成することができる。この目的のために本願発明者は、点Ｐｉ間の距離を両方向に約７．５ｍｍとし、それらの点を囲い込む正方形Ｑの辺の長さを１５ｍｍとすることを推奨する。

さらに注意すべき点は、モバイルネックの長さ（Ｌ，Ｌ₁，Ｌ₂）の定義である。ネックが前傾も後傾もしていない場合には、上記長さは当該ネックの実際の軸長である。その他の場合には、上記長さは、モバイルネックの実際の長さを上記平面αへ投影したものに対応する。

本発明に基づくモバイルネックセットを構成する各ネックに関するさまざまな幾何学的特徴を説明する図である。

Claims (2)

1. 人工股関節のステム（２）に挿入されるモバイルネック（１ｉ）のセットであって、これらモバイルネック（１ｉ）は、異なる傾斜及び長さを有することにより、前記ステム（２）に挿入された状態においてそれらの自由端（３ｉ）が、互いに等間隔に離間する９個の点（Ｐｉ）で終端を有するように構成されており、これら９個の点は、互いに平行な３つの水平列（Ｒ₀）上にあって、そのうちの最も外側の点を結ぶ線分が正方形（Ｑ）を描くように配列されており、この正方形の一辺の長さは１５ｍｍであり、その対角線（Ｄ）は、モバイルネック（１）が前記ステム（２）の軸に実質的に垂直な平面（β）に対して４５°のニュートラルな傾斜に設定されている場合における当該モバイルネックの軸（Ｈ−Ｈ）に一致している、モバイルネックのセット。
2. 前記セットは、患者の両脚の関節の中心を含む平面（α）に対して軸が前傾または後傾したモバイルネック（１ｉ）を含む、請求項１に記載のモバイルネックのセット。

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