JP4907511B2 - 消耗電極式溶接トーチ - Google Patents
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Description
特許文献1の溶接トーチは、溶接ワイヤを軸線方向に振動させることにより、溶滴を溶接ワイヤ先端から容易に離脱させ、大粒のスパッタの発生を抑制させるものである。通常の溶接下での溶滴移行回数(溶滴発生回数)は1秒間に50回から100回と言われており、この溶滴移行のタイミングに合わせた高周波数で振動させることで、確実な溶滴移行を行わせスパッタの発生等を抑制するものとなっている。高周波で振動させる機構としては、特許文献1の図2に示すように、溶接トーチ内にワイヤガイドを設け、ワイヤガイドに連結した駆動装置によりワイヤガイドを揺動させ、ワイヤを軸線方向に振動させるものとなっている。
また、特許文献2の技術は、チップボディがその基部に配置されたスプリングを支点として、電磁力により強制的にチップボディ全体をワイヤ軸線直角方向に振動させる構造となっているため、当業者であれば、かかる溶接トーチにおいて、スパッタ抑制に効果的な500Hz以上の高周波振動を安定して発現させることは難しいことは十分予見できる。
すなわち、本発明に係る消耗電極式溶接トーチは、トーチ本体に中空状の取付ジグが設けられ、該取付ジグ内に消耗電極である溶接ワイヤを保持する長尺のチップボディが設けられているものであって、前記チップボディは、前記取付ジグの内部に弾性支持部材を介して支持され、該弾性支持部材は前記チップボディの自由状態における曲げ1次の振動モードの節部を支持しており、前記チップボディには、当該チップボディを曲げ1次の振動モードで共振させる圧電素子が設けられていることを特徴とする。
なお好ましくは、前記チップボディは、中心部に溶接ワイヤが貫通し、先端部に前記溶接ワイヤを保持するチップを有し、中途部には当該チップボディの径方向に突出状の鍔部材がチップボディの軸心方向に沿って一対備えられていて、前記圧電素子は、その伸縮方向が前記チップボディの軸心方向に沿うように前記一対の鍔部材の間に少なくとも1つ設けられている構成とするとよい。
さらに好ましくは、前記チップボディの曲げ1次モードの固有振動数の変化に前記圧電素子の伸縮の周波数を追従させるべく、圧電素子の駆動周波数を可変とする自動追尾手段を備えているとよい。
こうすることで、溶接時に本溶接トーチの温度変化により固有振動数が変化したとしても、常に共振状態を維持して効率的に溶接ワイヤを振動させることができる。
また好ましくは、前記鍔部材、圧電素子、チップボディの少なくともいずれか1つを冷却する冷却手段を有しているとよい。
特に好ましくは、前記冷却手段は、内部を冷却液が流通可能となっている管状部材と、冷却液が流通可能となっている中空部を備えた前記鍔部材とを有し、前記管状部材が鍔部材の中空部に連通しているとよい。
なお、本発明に係る消耗電極式溶接トーチの最も好ましいものとしては、トーチ本体に中空状の取付ジグが設けられ、該取付ジグ内に消耗電極である溶接ワイヤを保持する長尺のチップボディが設けられている消耗電極式溶接トーチであって、前記チップボディは、前記取付ジグの内部に弾性支持部材を介して支持され、該弾性支持部材は前記チップボディの自由状態における曲げ1次の振動モードの節部を支持しており、前記チップボディには、当該チップボディを曲げ1次の振動モードで共振させる圧電素子が設けられていて、前記チップボディは、中心部に溶接ワイヤが貫通し、先端部に前記溶接ワイヤを保持するチップを有し、中途部には当該チップボディの径方向に突出状の鍔部材がチップボディの軸心方向に沿って一対備えられていて、前記圧電素子は、その伸縮方向が前記チップボディの軸心方向に沿うように、前記鍔部材の周縁側で且つ一対の鍔部材の間に少なくとも1つ設けられており、前記チップボディの曲げ1次モードの固有振動数の変化に前記圧電素子の伸縮の周波数を追従させるべく、圧電素子の駆動周波数を可変とする自動追尾手段と、前記固有振動数の変化を検出すると共に検出した周波数の変化を自動追尾手段へ送る検出手段と、を備えているものがある。
[第1実施形態]
図1には、消耗電極式溶接トーチ1の第1実施形態の正面断面図が示されている。
消耗電極式溶接トーチ1(以下、単に溶接トーチと呼ぶこともある)は、溶接ワイヤ2を保持すると共に溶接ワイヤ2に電流を供給するチップ3と、このチップ3が先端部に取り付けられた棒状長尺のチップボディ4を有している。チップボディ4及びチップ3の中心部を溶接ワイヤ2が貫通している。また、溶接トーチ1は、シールドガスを供給して溶接部を大気から保護するノズル5と、ノズル5やチップボディ4を保持すると共に、溶接ワイヤ2への給電や送給、冷却水の供給などのための装置が組み込まれたトーチボディ6(トーチ本体)を備えている。
チップボディ4の後部側には、一対の円板状の鍔部材7A,7Bが当該チップボディ4と同軸状に設けられている。鍔部材7A,7Bはチップボディ4の径外方向に張り出すように設けられている。一方の鍔部材7Aはチップボディ4の後端側と略面一に設けられ、他方の鍔部材7Bは一方の鍔部材7Aと所定間隔だけ離れた前側に設けられるものとなっている。鍔部材7A,7Bはチップボディ4と一体成形もしくはネジ構造とし、チップボディ4にしっかりと固定される構造とする。なお、鍔部材7A,7Bをネジ式とする場合には、接着剤やダブルナットで固定する等、振動によりネジが緩まない様にすることが望ましい。
なお、本実施形態のチップボディ4に関しては、自由状態(フリー状態)での曲げ1次モードの振動が図2の如くなるように、チップボディ4及び鍔部材7A,7Bの寸法、形状、重量等が選択されている。振動モードの算出、それに基づく各部材の寸法などの設計は、梁の振動理論や既存の振動モデル等を用いるとよい。
ところで、曲げ1次モードの節部Nにおいては、水平方向の変位は小さいものの回転方向の変位(図2の×に対し紙面垂直な軸心周りの捩れ変位)は比較的大きく生じる。そこで、かかる回転変位を拘束しないように、弾性支持部材11としては「ねじれ剛性」が低くなる平板を利用している。しかしながら、弾性支持部材11の剛性があまりにも低いとチップボディ4にふら付きが生じるため、適度な堅さ(剛性)が必要である。目安としては、弾性支持部材11の変形によるチップボディ4の固有振動数が、チップボディ4単体の固有振動数の1/2〜1/3より低く、かつ、チップボディ4のふら付きが問題とならない剛性とする。なお、本発明では500Hz以上の振動数を目標としている為、この条件は容易に実現できる。
図1に示される如く、チップボディ4が弾性支持部材11を介して内部に取り付けられている筒状ジグ10に関しては、その後端側が溶接トーチ1に取り付けられ、先端側には漏斗形状のインシュレータ12が設けられている。このインシュレータ12の先端にはチップ3が内部貫通状となるようにノズル5が設けられている。
なお、トーチボディ6からノズル5までの構造は、シールドガスを溶接部へ送る役目も兼ねている為に密閉配管状とする。すなわち、トーチボディ6側から供給されたCO2等のシールドガスは、筒状ジグ10→インシュレータ12→ノズル5を通ってノズル5先端から溶接ワイヤ2を取り囲むように噴出される。筒状ジグ10内を通るシールドガスは圧電素子8や鍔部材7A,7Bを冷却する効果も有する。シールドガスをトーチボディ6→チップボディ4の内部→チップボディ4の側面に設けた数箇所の穴(図示せず)→インシュレータ12→ノズル5と供給するようにしてもよい。
溶接ワイヤ2の振動数は、圧電素子8及び圧電素子8を取り付ける為の鍔部材7A,7Bを含めたチップボディ系Sの固有振動数により決まる。チップボディ系Sの固有振動数は、チップボディ4の長さや径、鍔部材7A,7Bの質量等を変更することで容易に調整でき、500Hz以上の高い固有振動数を持たせることが可能である。
チップボディ4は、ガタの無い一体型構造とされているため、振動の減衰が小さく大きな共振倍率が得られる。加えて、曲げ1次モードの節部Nが弾性支持されているため、チップボディ系Sの固有振動特性はほとんど変化しておらず、弾性支持部材11(支持点)からトーチボディ6ヘの振動エネルギ流出が最小限に抑えられるものとなっている。
以上述べた溶接トーチ1の実施形態の別例として、図3に示すようなものも考えられる。すなわち、一対の鍔部材7A,7Bを側面視で矩形状の凸状部材としている。この凸状の鍔部材7A,7Bをチップボディ4と一体成形や溶接により完全に固定した上で、鍔部材7Aに設けた押しネジ13を利用して、鍔部材7A,7B間に圧電素子8を押圧状態で設置している。
[第2実施形態]
次に本発明に係る消耗電極式溶接トーチの第2実施形態について述べる。
チップ3およびチップボディ4は溶接時には温度が上がり、それらを構成する金属のヤング率の低下などによりチップボディ系Sの固有振動数が変化する。固有振動数からある程度離れた周波数で圧電素子8を加振している場合は、温度変化等に伴う固有振動数の変化の影響は大きく無いが、共振状態で加振を行う場合は、固有振動数の変化に応じて溶接ワイヤ2の振動振幅は大きく変化する。チップボディ系Sの固有振動数の変化に応じて、圧電素子8の駆動周波数を変化させる自動追尾を行うことにより、かかる状況に柔軟に対応することができる。
溶接トーチ1に設けられた鍔部材7Aには、振動周波数等を検出可能な振動センサ21が設けられていて、実測された周波数は自動追尾手段20へ送られるようになっている。自動追尾手段20は、制御回路22、周波数発生器23、圧電素子駆動アンプ24から構成されている。
自動追尾手段20の制御回路22に送られた「チップボディ4の振動周波数の実測信号」は、圧電素子駆動アンプ24の出力信号と比較され、それらの位相差が一定になるように共振周波数が算出される(PLL制御)。算出された共振周波数は周波数発生器23に送られ、かかる共振周波数を有する正弦波が発生される。この正弦波は圧電素子駆動アンプ24へ送られて増幅され出力信号となり、圧電素子8を駆動するようになる。
なお、振動センサ21は、チップボディ4の節部N以外であればどの位置に取り付けてもよい。
図5は、本実施形態にかかる別の溶接トーチ1を示したものである。
本実施形態のチップボディ4には、振動センサ21が設けられておらず、制御回路22へは、圧電素子8から発生する電流情報(電流値)が入力されるようになっている。共振時には、回路に流れる電流の位相が電圧の位相と一致することが明らかとなっているため、自動追尾手段20の制御回路22に送られた「圧電素子8の電流信号」は、圧電素子駆動アンプ24の電圧信号と比較され、それらの位相差が一致するように共振周波数が算出される(PLL制御)。算出された共振周波数は周波数発生器23に送られ、かかる共振周波数を有する正弦波が発生される。この正弦波は圧電素子駆動アンプ24へ送られて増幅され出力信号となり、圧電素子8を駆動するようになる。
なお、共振時には、回路の電流値が最大となり、反共振時に電流値が最小となることも判っているため、圧電素子8の電流値を測定して最大または最小となるように共振周波数を制御してもよい。
[第3実施形態]
次に本発明に係る消耗電極式溶接トーチ1の第3実施形態について述べる。
図6,図7に示すように、前記冷却手段30は、内部を冷却液が流通可能となっている管状部材(供給管32、排出管33)と、冷却液(冷却水)が流通可能となっている中空部31を備えた鍔部材7A,7Bとを有し、前記管状部材32,33が鍔部材7A,7Bの中空部31に連通する構成となっている。
すなわち、チップ3側に近い鍔部材7Bの内部に中空部31が形成されている。この中空部31には、鍔部材7Bの側面側から、冷却水を供給する供給管32の先端が連通していて、冷却水を鍔部材7Bの中空部31へ導くものとなっている。一方、前側の鍔部材7Bの側面であって、供給管32が連接する位置とは上下(又は左右)反対位置側には、中空部31内の冷却水を外部に排出する排出管33が設けられている。中空部31内に供給された冷却水は、かかる排出管33を通ってトーチボディ6側へ戻ってゆくようになっている。
図7は、前後一対の鍔部材7A,7Bの両方を水冷する構成となっている。
すなわち、両鍔部材7A,7Bの内部に中空部31が形成されている。一方、筒状ジグ10の側面を貫通し内部に入り込むように設けられた供給管32は、途中で二股に分かれ、各先端部が両鍔部材7A,7Bの側面につながっており、それぞれの鍔部材7A,7Bの中空部31に連通していて、トーチボディ6側から供給された冷却水を当該中空部31へ導入可能となっている。
なお、二股に分かれる前の供給管32、二股に分かれる前の排出管33とも筒状ジグ10を貫通する形で当該筒状ジグ10に固定されていため、チップボディ4を支持する弾性支持部材11の役目を兼ねる。前述した「前側の鍔部材7Bのみ水冷する構成」と同様に、チップボディ4の曲げの1次モードの節部N近傍で直角に曲がる構造(節部Nと屈曲部34とが対応する構造)としている。ゆえに、チップボディ4は振動的にはフリーに近い状態では筒状ジグ10に支持されるものとなる。
総括するならば、圧電素子8は鍔部材7A,7Bを介してチップボディ4にしっかりと固定されているために溶接時の熱が伝わる。一般に、圧電素子8の許容温度は85℃から150℃度程度(圧電素子製造メーカーのカタログから)であり、溶接時にはチップボディ4の温度はこの圧電素子8の許容温度以上になる。
以上、本発明に係る消耗電極式溶接トーチは、上述した実施の形態に限定されるものではない。
2 溶接ワイヤ
3 チップ
4 チップボディ
5 ノズル
6 トーチボディ(トーチ本体)
7A 鍔部材
7B 鍔部材
8 圧電素子
9 断熱材
10 筒状ジグ(取付ジグ)
11 弾性支持部材
12 インシュレータ
13 押しネジ
20 自動追尾手段
21 振動センサ
22 制御回路
23 周波数発生器
24 圧電素子駆動アンプ
30 冷却手段
31 中空部
32 供給管
33 排出管
34 屈曲部
N 節部
S チップボディ系
Claims (3)
- トーチ本体に中空状の取付ジグが設けられ、該取付ジグ内に消耗電極である溶接ワイヤを保持する長尺のチップボディが設けられている消耗電極式溶接トーチであって、
前記チップボディは、前記取付ジグの内部に弾性支持部材を介して支持され、該弾性支持部材は前記チップボディの自由状態における曲げ1次の振動モードの節部を支持しており、
前記チップボディには、当該チップボディを曲げ1次の振動モードで共振させる圧電素子が設けられていて、
前記チップボディは、中心部に溶接ワイヤが貫通し、先端部に前記溶接ワイヤを保持するチップを有し、中途部には当該チップボディの径方向に突出状の鍔部材がチップボディの軸心方向に沿って一対備えられていて、
前記圧電素子は、その伸縮方向が前記チップボディの軸心方向に沿うように、前記鍔部材の周縁側で且つ一対の鍔部材の間に少なくとも1つ設けられており、
前記チップボディの曲げ1次モードの固有振動数の変化に前記圧電素子の伸縮の周波数を追従させるべく、圧電素子の駆動周波数を可変とする自動追尾手段と、前記固有振動数の変化を検出すると共に検出した周波数の変化を自動追尾手段へ送る検出手段と、を備えていることを特徴とする消耗電極式溶接トーチ。 - 前記鍔部材、圧電素子、チップボディの少なくともいずれか1つを冷却する冷却手段を有していることを特徴とする請求項1に記載の消耗電極式溶接トーチ。
- 前記冷却手段は、内部を冷却液が流通可能となっている管状部材と、冷却液が流通可能となっている中空部を備えた前記鍔部材とを有し、前記管状部材が鍔部材の中空部に連通していることを特徴とする請求項2に記載の消耗電極式溶接トーチ。
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