JP4906337B2 - 細胞またはウイルス溶解用の電気分解素子を備える微小流体素子、およびそれを用いた細胞またはウイルスの溶解方法 - Google Patents

細胞またはウイルス溶解用の電気分解素子を備える微小流体素子、およびそれを用いた細胞またはウイルスの溶解方法 Download PDF

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Description

本発明は、細胞またウイルス溶解用の電気分解素子を備える微小流体素子およびそれを用いた細胞またはウイルスの溶解方法に関する。
微小流体素子は、入口、出口、および反応容器などがマイクロチャンネルを介して連結している装置をいう。かかる装置は、当業界に公知であり、LOC(Lab−on−a−chip)などの微細分析装置に広く利用されている。かかる微小流体素子には、前記マイクロチャンネルが形成されている以外に、流体の移送および混合のためのマイクロポンプ、マイクロミキサ、ならびに移送される流体を濾過するためのマイクロフィルタなどが備わっている。LOCなどの生物分析装置として使われる微小流体素子は、細胞またはウイルスを溶解する工程に必要な装置を備えるか、または外部で溶解された細胞溶液もしくはすでに精製された物質を利用せねばならない。
細胞またはウイルスの溶解方法としては、様々な方法が知られている。例えば、煮沸法、アルカリ法、および酵素を利用する方法などが知られている。アルカリ法は、細胞またはウイルスにNaOHなどの物質を添加し、細胞またはウイルスを高いpHに曝して細胞を溶解する方法である。
しかし、従来のアルカリ法では、NaOHなどの化学物質を添加し、化学物質と混合された細胞またはウイルスを溶解した後、添加された化学物質を除去するために必要な装置が備わっていなければならない。例えば、弁、ポンプ、およびフィルタなどを備えていなければならない。
また、アルカリ法などの、従来の細胞またはウイルスの溶解方法を、LOCなどの微小流体素子に利用するには、多くの短所があった。例えば、NaOHなどのアルカリ溶液を用いて細胞を溶解して得られるアルカリ性である細胞溶解液に、中和溶液を添加して中和する場合には、細胞を溶解させるためのアルカリ溶液の注入工程およびこのための装置が必要であり、アルカリ溶液および中和溶液の添加により、サンプル溶液が希釈される。かかる溶液の注入工程および装置は、微量を扱う微小流体素子においては、深刻な問題となり、希釈は所望のサンプルを採取するまたは増幅させるときに問題となる。また、NaOHなどのアルカリ溶液は、その後のポリメラーゼ連鎖反応(PCR)などの生物学的分析方法に細胞溶解液を使用するために、除去するか、または中和しなければならない。
そこで本発明は、簡便な方法によりサンプル溶液の希釈を抑制しつつ、細胞またはウイルスを効率的に溶解させうる手段を提供することを目的とする。
本発明者らは、前記従来技術の問題点に鑑み、鋭意研究を積み重ねた結果、分割膜により分割されたアノードチャンバおよびカソードチャンバを備える電気分解素子を備える微小流体素子を用いて電気分解を実施した場合、その後の生物学的分析に適したpHおよび条件を有する、細胞またはウイルスの溶解液を製造できるということを見出し、本発明を完成するに至った。
したがって、本発明は、アノードチャンバ、カソードチャンバ、および分割膜を備える細胞またはウイルス溶解用の電気分解素子を備える微小流体素子であって、前記分割膜は、前記アノードチャンバとカソードチャンバとの間に設置されており、前記アノードチャンバは、アノードチャンバ溶液が流入する流入口、アノードチャンバ溶液が流出する流出口、および電極を備え、前記カソードチャンバは、カソードチャンバ溶液が流入する流入口、カソードチャンバ溶液が流出する流出口、および電極を備えることを特徴とする微小流体素子を提供する。
また、本発明は、前記微小流体素子を用いて細胞またはウイルスを溶解する方法であって、(a)前記アノードチャンバの流入口を介して、水より標準酸化還元電位が低い化合物または高い化合物を含むアノードチャンバ溶液を、前記アノードチャンバに流入させる工程と、(b)前記カソードチャンバの流入口を介して、細胞またはウイルスを含み、水より標準酸化還元電位が高い化合物を含むカソードチャンバ溶液を前記カソードチャンバに流入させる工程と、(c)前記アノードチャンバおよび前記カソードチャンバに備わっている前記電極を介して電流を印加し、前記アノードチャンバおよび前記カソードチャンバで電気分解を行って細胞またはウイルスを溶解する工程と、を含む、細胞またはウイルスを溶解する方法を提供する。
本発明の微小流体素子によれば、細胞またはウイルス溶解液を分離せずに、細胞またはウイルスをマイクロチャンネルに移送させながら電流を加えて電気分解を行うことにより、細胞またはウイルスを容易に溶解させることができる。したがって、本発明の微小流体素子を使用する場合、細胞またはウイルスの溶解液を注入するための装置が必要ないため、単純であり、装置を小型化するのに有利である。また、本発明の装置によれば、細胞またはウイルスを容易に溶解させることができる。
また、本発明の細胞またはウイルスの溶解方法によれば、細胞またはウイルスを容易にかつ効率的に溶解させることができ、その後の生物学的分析に適したpHおよび電解質を有する細胞またはウイルス溶解液が調製されうる。
以下、本発明の望ましい実施形態について詳細に説明する。
本発明は、アノードチャンバ、カソードチャンバ、および分割膜を備える細胞またはウイルス溶解用の電気分解素子を備える微小流体素子であって、前記分割膜は、前記アノードチャンバと前記カソードチャンバとの間に設置されており、前記アノードチャンバは、アノードチャンバ溶液が流入する流入口、アノードチャンバ溶液が流出する流出口、および電極を備え、前記カソードチャンバは、カソードチャンバ溶液が流入する流入口、カソードチャンバ溶液が流出する流出口、および電極を備えることを特徴とする微小流体素子を提供する。
本発明の微小流体素子は、アノードチャンバ、カソードチャンバ、および分割膜を備える細胞またはウイルス溶解用の電気分解素子を備える。前記電気分解素子において、分割膜は、前記アノードチャンバと前記カソードチャンバとの間に設置されており、前記アノードチャンバには、アノードチャンバ溶液が流入する流入口、アノードチャンバ溶液が流出する流出口、および電極が備わっており、前記カソードチャンバには、カソードチャンバ溶液が流入する流入口、カソードチャンバ溶液が流出する流出口、および電極が備わっている。前記流入口および前記流出口は必ずしも別個に備わっている必要はなく、1つのポートが流入口および流出口の役割を果たすことも可能である。
本発明の微小流体素子に備えられている細胞またはウイルス溶解用の電気分解素子は、細胞またはウイルスを含む溶液が前記カソードチャンバに流入され、前記アノードチャンバに適切な電解液が含まれている場合に、それぞれのチャンバに備わっている電極を介して電流を印加することにより細胞またはウイルスを溶解するために使われうる。細胞またはウイルスの溶解は、電流を印加することにより、前記カソードチャンバで発生する水酸化物イオンによってなされると推測されるが、本発明は特定のメカニズムに限定されるものではない。
前記細胞またはウイルス溶解用の電気分解素子は、微小流体素子の一部分を形成する。例えば、前記アノードチャンバおよび前記カソードチャンバの各流入口および各流出口は、微小流体素子のマイクロチャンネルを形成し、前記アノードチャンバおよび前記カソードチャンバは、マイクロチャンネルの形態の反応器を形成する。本発明の微小流体素子において、前記アノードチャンバおよび前記カソードチャンバの各流入口は、別個のマイクロチャンネルを含む。また、前記アノードチャンバおよび前記カソードチャンバの各流出口は、別個のマイクロチャンネルであるか、または互いに連結/結合されているものでありうる。望ましくは、前記アノードチャンバおよび前記カソードチャンバの各流出口は、1つのマイクロチャンネルでアノードチャンバの溶液およびカソードチャンバの溶液が混合し中和されるように、互いに連結/結合される。かような1つの連結した流路を形成した場合、別途の中和溶液を添加することなしに前記カソードチャンバの細胞またはウイルスの溶解液を中和できる。
本発明の一実施形態において、前記アノードチャンバ溶液は、水より標準酸化還元電位が低い化合物を含みうる。前記化合物の例は、NO 、F、SO 2−、PO 3−、およびCO 2−などの陰イオンを含む化合物であるが、これらの例に限定されるものではない。アノードチャンバ溶液が水より標準酸化還元電位が低い化合物を含み、本発明の一実施形態による微小流体素子を用いて電気分解を行う場合、前記アノードチャンバでは、水が電気分解されて酸素ガスおよびHイオンが発生する。
しかし、前記アノードチャンバ溶液および前記カソードチャンバ溶液を混合して中和する工程なしに、細胞またはウイルスの溶解だけが必要とされる場合には、前記アノードチャンバ溶液は、水より標準酸化還元電位が低い化合物または高い化合物、すなわち水より電気分解されやすい電解質を含みうる。前記化合物の例は、Cl、NO 、F、SO 2−、PO 3−、およびCO 2−などの陰イオンを含む化合物であるが、これらの例に限定されるものではない。
本発明の他の一実施形態において、前記カソードチャンバ溶液は、水より標準酸化還元電位が高い化合物を含みうる。前記化合物の例は、Na、K、Ca2+、Mg2+、およびAl3+などの陽イオンを含む化合物であるが、これらの例に限定されるものではない。本発明の一実施形態による微小流体素子を用いて電気分解が実施される場合、前記カソードチャンバでは、水が電気分解されて水素ガスおよびOHイオンが発生する。
本発明の一実施形態において、前記分割膜は、電流を通過させるが、前記アノードチャンバおよび前記カソードチャンバに含まれている電解液の電気分解により発生するイオンおよび/または気体を通過させない特性を有することが望ましい。さらに望ましくは、前記分割膜は、電気は通過させるが、水素イオン、ならびに水酸化物イオンおよび/または気体を通過させない特性を有する。かかる分割膜の例は、Nafion(登録商標)(デュポン社製)、Dowex(登録商標)(Aldrich社製)、およびDiaion(登録商標)(三菱化学社製)などを含むが、これらの例に限定されるものではない。
前記アノードチャンバおよび前記カソードチャンバに備わる電極は、Pt、Au、Cu、およびPdからなる群より選択される金属を含むことが好ましい。アノードチャンバにPt電極が使用される場合、蛋白質およびDNAの吸着を防止できる。Cu電極が使用される場合、アノードチャンバにおいてCu電極はNaClなどの塩素と反応してCuClを形成し、それにより毒性のある塩素ガスの発生を減らすことができる。Pd電極が使用される場合、Pd電極はカソードチャンバで発生した水素ガスを吸収するので、ガス除去工程が不要である。
本発明の微小流体素子は、前記アノードチャンバに溶液を流入させるおよび前記アノードチャンバから溶液を流出させるためのポンプ、ならびに前記カソードチャンバに溶液を流入させるおよび前記カソードチャンバから溶液を流出させるためのポンプを、それぞれ別個にさらに備えうる。また、前記アノードチャンバに溶液を流入させるおよび前記アノードチャンバから溶液を流出させるためのポンプ、ならびに前記カソードチャンバに溶液を流入させるおよび前記カソードチャンバから流出させるためのポンプは共通であってもよい。この場合、1つのポンプを用いてアノードチャンバの溶液およびカソードチャンバの溶液が流入され、混合される。
本発明の一実施形態において、微小流体素子は、前記のような細胞またはウイルス溶解用の電気分解素子を備える細胞溶解区画、核酸分離区画、核酸増幅区画、および検出区画を含みうる。この場合、本発明の微小流体素子は、LOCの機能を果たしうる。前記核酸分離区画、核酸増幅区画、および検出区画に使われる要素としては、当業界に公知の任意の手段が使われうる。
本発明はまた、本発明の微小流体素子を用いて細胞またはウイルスを溶解する方法であって、(a)前記アノードチャンバの流入口を介して、水より標準酸化還元電位が低い化合物または高い化合物を含むアノードチャンバ溶液を、前記アノードチャンバに流入させる工程と、(b)前記カソードチャンバの流入口を介して、細胞またはウイルスを含み、水より標準酸化還元電位が高い化合物を含むカソードチャンバ溶液を、前記カソードチャンバに流入させる工程と、(c)前記アノードチャンバおよび前記カソードチャンバに備わっている前記電極を介して電流を印加し、前記アノードチャンバおよび前記カソードチャンバで電気分解を行い細胞またはウイルスを溶解する工程を含む、細胞またはウイルスを溶解する方法を提供する。
本発明の細胞またはウイルスの溶解方法は、まず(a)前記アノードチャンバの流入口を介して、水より標準酸化還元電位が低い化合物または高い化合物を含むアノードチャンバ溶液を前記アノードチャンバに流入させる工程と、(b)前記カソードチャンバの流入口を介して、細胞またはウイルスを含み、水より標準酸化還元電位が高い化合物を含むカソードチャンバ溶液を、前記カソードチャンバに流入させる工程を含む。
本発明の実施形態において、前記アノードチャンバ溶液が含みうる前記水より標準酸化還元電位が低い化合物は、NO 、F、SO 2−、PO 3−、およびCO 2−の中の少なくとも一つの陰イオンを含み得、前記アノードチャンバ溶液が含みうる前記水より標準酸化還元電位が高い化合物は、Clイオンを含みうるが、これらの例に限定されるものではない。また、前記カソードチャンバ溶液が含みうる前記水より標準酸化還元電位が高い化合物は、Na、K、Ca2+、Mg2+、およびAl3+の中の少なくとも一つの陽イオンを含みうるが、これらの例に限定されるものではない。前記(a)および(b)の工程は、同時にまたは順次に行われうる。
生物学的試料溶液に最も一般的に含まれているNaClを含むサンプル溶液を、アノードチャンバおよびカソードチャンバに流入させた後で電気分解が行われた場合、アノードチャンバにおいて、水よりはむしろ塩化物イオンが電気分解されて塩素ガスが発生し、カソードチャンバに発生した水酸化物イオンよりも少量の水素イオンが発生する。この水素イオンは、塩素ガスおよび水が反応して発生したものであり、その量は塩素ガスの溶解条件によって変化し、pH調節が困難である。かかる問題点を解決するために、本発明の一実施形態においては、アノードチャンバおよびカソードチャンバで、それぞれ水より標準酸化還元電位が高い化合物が用いられる。
本発明の細胞またはウイルス溶解方法は、また(c)前記アノードチャンバおよび前記カソードチャンバに備わっている電極を介して電流を印加し、前記アノードチャンバおよび前記カソードチャンバで電気分解を行い細胞またはウイルスを溶解する工程を含む。本発明の方法において、前記カソードチャンバは、水より標準酸化還元電位が高い化合物を含むカソードチャンバ溶液を含むため、水が電気分解され、水素ガスおよびOHイオンが発生する。したがって、前記カソードチャンバに含まれている細胞またはウイルスは、水酸化物イオンによって溶解されうる。また、本発明の一実施形態において、前記アノードチャンバは、水より標準酸化還元電位が低い化合物を含むアノードチャンバ溶液を含むため、水が電気分解され、酸素ガスおよび水素イオンが発生する。結果的に、前記カソードチャンバ溶液のpHは、アルカリ性側に変化し、前記アノードチャンバ溶液のpHは、酸性側に変化する。
一般的に、細胞またはウイルスの溶解液は、例えば、PCR、核酸分離、または蛋白質分離などの様々な追加の生物学的分析工程を受ける。かかる生物学的分析工程は、核酸または蛋白質などの生物学的分子が、一般的に中性状態で安定であるため、中性状態でなされる。特に、微小流体素子内で、細胞またはウイルスの溶解、核酸の分離、核酸の増幅、蛋白質の分離および検出工程は連続的に行われうる。この場合、比較的初期の工程でなされる細胞またはウイルスの溶解工程は、その後の工程で起こる反応に影響を与えうる物質を含まないことが好ましい。例えば、細胞またはウイルス溶解の工程後、PCRによって核酸を増幅する場合、PCRを阻害しうる物質が含まないことが好ましい。
したがって、本発明の細胞またはウイルスの溶解方法は、電気分解の工程後に、前記アノードチャンバ中の酸性溶液を、前記流出口を介して前記アノードチャンバから流出させ、前記カソードチャンバ中のアルカリ性の細胞またはウイルスの溶解液を、前記流出口を介して前記カソードチャンバから流出させ、前記細胞またはウイルスの溶解液を中和するために、前記酸性溶液および前記細胞またはウイルスの溶解液を互いに混合する工程をさらに含みうる。
また、本発明の一実施形態において、前記アノードチャンバ中の酸性溶液、および前記カソードチャンバ中のアルカリ性の細胞またはウイルスの溶解液は、1:1の体積比で混合されて中和される。本発明の方法において、アノードチャンバ溶液およびカソードチャンバ溶液には、それぞれ水酸化物イオンおよび水素イオンが同じ当量で発生するため、細胞またはウイルスの溶解後に、アノードチャンバ溶液およびカソードチャンバ溶液を1:1で混合しても、中性またはほとんど中性のpHを得ることができる。
本発明の方法に用いられる微小流体素子は、前記アノードチャンバに溶液を流入させるおよび前記アノードチャンバから溶液を流出させるためのポンプ、ならびに前記カソードチャンバに溶液を流入させおよび前記カソードチャンバから溶液を流出させるためのポンプを、それぞれ別個にさらに備えうる。また、前記アノードチャンバに溶液を流入させるおよび前記アノードチャンバから溶液を流出させるポンプ、ならびに前記カソードチャンバに溶液を流入させるおよび前記カソードチャンバから溶液を流出させるためのポンプは共通であってもよい。この場合、1つのポンプを用いて、前記アノードチャンバ溶液および前記カソードチャンバ溶液は流出され、混合される。
また、本発明の方法に用いられる前記微小流体素子の細胞またはウイルス溶解用の電気分解素子に含まれる分割膜は、電流を通過させるが、前記アノードチャンバおよび前記カソードチャンバに含まれている、電解液の電気分解から発生するイオンおよび/または気体を通過させない特性を有することが望ましい。さらに望ましくは、前記分割膜は、電気は通過させるが、水素イオン、ならびに水酸化物イオンおよび/または気体は通過させない特性を有することである。かかる分割膜の例には、Nafion(登録商標)(デュポン社製)、Dowex(登録商標)(Aldrich社製)、およびDiaion(登録商標)(三菱化学社製)が含まれるが、これらの例に限定されるものではない。
前記細胞またはウイルス溶解用の電気分解素子のアノードチャンバおよびカソードチャンバに備えられる電極は、Pt、Au、Cu、およびPdからなる群より選択される金属を含みうる。アノードチャンバに、Pt電極が使用される場合、電極への蛋白質およびDNAの吸着が防止されうる。Cu電極が使用される場合、アノードチャンバにおいてCu電極は、NaClなどに由来する塩化物イオンと反応してCuClを形成し、それにより毒性のある塩素ガスの発生を減らすことができる。Pd電極が使用される場合、Pd電極はカソードチャンバで発生した水素ガスを吸収するので、ガス除去工程が不要である。
本発明の方法に用いられる微小流体素子は、前記のような本発明の細胞またはウイルス溶解用の電気分解素子を備える細胞溶解区画、核酸分離区画、核酸増幅区画、および検出区画を含みうる。この場合、本発明の微小流体素子は、LOCの機能を果たしうる。前記核酸分離区画、核酸増幅区画、および検出区画に用いられる要素は、当業界に公知の任意の手段が使われうる。
図1Aは、本発明の一実施形態の微小流体素子に用いられる電気分解素子を表す概略図である。図1Aに図示したように、カソードチャンバ10およびアノードチャンバ30は、分割膜20によって分離されている。各チャンバには、電極(40、50)が設置されており、各電極を介して電圧を印加することにより、各チャンバで電気分解を起こすことができる。図1Aで、チャンバ溶液の流入口および流出口は統一されており、上端のふたを開閉することにより具現化されている。
図1Bは、本発明の一実施形態による電気分解素子を備える、微小流体素子の一例を表す概略図である。図1Bに図示したように、カソードチャンバ10およびアノードチャンバ30は、分割膜20によって分離されている。各チャンバには、電極(40、50)が設置されており、電極を介して電圧を印加することにより、各チャンバで電気分解を起こすことができる。カソードチャンバ10およびアノードチャンバ30には、それぞれ流入口および流出口が設置されており、前記各流出口は、カソードチャンバ10、およびアノードチャンバ30の電気分解された溶液が混合されるように、連結されている。
図1Cおよび図1Dは、それぞれ本発明の一実施形態による電気分解素子を備える微小流体素子の他の例を表す概略図である。図1Cおよび図1Dに表した微小流体素子は、2つのマイクロポンプ70(図1C参照)および1つのマイクロポンプ70(図1D参照)がさらに備わっていること以外は、図1Bに表した微小流体素子と同様である。図1Dに図示したような1つのマイクロポンプが備わっている微小流体素子は、アノードチャンバおよびカソードチャンバの電気分解された溶液を同じ量で流出させて混合させる。それゆえこの実施形態は、電気分解によってアノードチャンバで発生した水素イオンの当量、およびカソードチャンバで発生した水酸化物イオンの当量が、互いに同じ場合にだけ可能である。
以下、本発明を、実施例を介してさらに詳細に説明する。しかし、それら実施例は、本発明を例示的に説明するためのものであり、本発明の範囲がそれら実施例に限定されるものではない。
実施例1:カソードチャンバおよびアノードチャンバの電気分解された溶液を介した細胞の溶解
本実施例では、カソードチャンバ、アノードチャンバ、および前記カソードチャンバと前記アノードチャンバとの間に設置されている分割膜を有する電気分解素子を用い、電気分解を行った後で得られるカソードチャンバ溶液およびアノードチャンバ溶液を用いて細胞を溶解させ、その結果を観察した。
本実施例に用いられた電気分解素子は、図1Aに示している。カソードチャンバ10およびアノードチャンバ30には、それぞれAu電極40およびPt電極50が備わっており、前記カソードチャンバ10および前記アノードチャンバ30は、Nafion(登録商標)(米国、Dupont社製)膜20によって分割されている。
(1)電気分解された溶液の製造
電気分解は、前記カソードチャンバおよび前記アノードチャンバに、100mMのNaCl水溶液300mlを添加し、室温で5分間、10Vの直流電圧を印加することにより実施された。その結果、前記アノードチャンバで得られた電気分解された酸性溶液(EAS:Electrolyzed Acid Solution)、前記カソードチャンバで得られた電気分解されたアルカリ性溶液(EBS:Electrolyzed Alkaline Solution)、および前記EASおよびEBSを同じ体積で混合した溶液(ETS:Electrolyzed Total Solution)が得られた。それらの溶液を用いて細胞溶解実験を行った。各溶液のpHは、pHセンサー(AR15;米国、Fisher scientific社製)を用いて測定した。
(2)電気分解された溶液を利用した細胞溶解実験
大腸菌(ATCC#45020)を100mlのLB培地中で、37℃、250rpmで撹拌しながら、6〜8時間フラスコで培養した。細胞を、4℃および6,000×gで10分間、エッペンドルフ5810R遠心分離機(ドイツ、Eppendorf AG社製)を用いて回収した。前記大腸菌をリン酸緩衝液(PBS)中に懸濁させ、大腸菌細胞濃度(OD600値)を0.8とした。前記細胞懸濁液を室温で5分間、前記電気分解された溶液、すなわちEAS、EBS、およびETSでそれぞれ処理した。反応後、試料を4℃および10,000×gで10分間、エッペンドルフ5810R遠心分離機(ドイツ、Eppendorf AG社製)を用いてスピンダウンさせた。その結果として得られた、試料の上澄液および下層液をそれぞれ分析に用いた。
(3)リアルタイムPCRを介した細胞溶解の確認
細胞溶解の発生を確認するために、試料の上澄液および下層液をテンプレートとしてリアルタイムPCRを行った。その結果、間接的に細胞溶解が起こっていることが推定された。PCR標的配列は、大腸菌ゲノムに組み換えされているHBVゲノムコア領域の一部分であった。
PCRは、前記上澄液および前記下層液をテンプレートとし、配列番号1(配列:5’−agtgtggattcggcactcct−3’)および配列番号2(配列:5’−gagttcttcttctaggggacctg−3’)のオリゴヌクレオチドをプライマーとし、LightCycler instrument(ドイツ、Roche Diagnostics社製)を用いて、20μlの反応体積中で行われた。LightCycler PCR反応のために、以下の反応成分の反応マスターミックスを、示している最終濃度で調製した:2μlのLightCyclerマスター(Fast start DNA master SYBR GreenI;Roche Diagnostics社製)、3.2μlのMgCl(5mM)、1.0μlのフォワード−リバースプライマーミックス(1.0mM)、4.0μlのUNG(Uracil−N−Glycosylase、0.2ユニット)、および4.8μlのPCRグレードの水。5μlの試験される試料を前記マスターミックスに添加した。LightCyclerマスターを調製するために、2つの異なるTaq DNAポリメラーゼ(Roche Hot−start Taq DNA polymeraseおよびSolgent Taq DNA polymerase)を用いた。次に、20μlの反応混合物をLightCycler毛細管に添加した。毛細管を閉じ、LightCyclerロータに置いた。2個の異なる酵素に対して、次の2種のLightCyclerプロトコルが用いられた:(1)Hot−start Taq DNA polymerase(Roche Diagnostics社製)に対し、UNG作用プログラム(50℃で10分);初期変性(95℃で10分);増幅および定量化を35サイクル(95℃で5秒;62℃で15秒および1回の蛍光測定);融解曲線プログラム(連続的蛍光測定および62℃から95℃で1℃/secのランピング速度);40℃への最終冷却工程、ならびに(2)Taq DNA polymerase(Solgent社製)に対し、UNG作用プログラム(50℃で10分);初期変性(95℃で1分);増幅および定量化を35サイクル(95℃で5秒;62℃で15秒および1回の蛍光測定);融解曲線プログラム(連続的蛍光測定および62℃から95℃で1℃/secのランピング速度);40℃への最終冷却工程。
(4)増幅産物の分析
可視化のために、1μlの増幅産物をAgilent 2100 Bioanalyzer systemで分析した。PCR産物およびダイマーの比率を検出するために、DNA 500 Labchips(米国、Agilent Technologies社製)が用いられた。簡単に説明すれば、9μlのゲルと染料との混合物を適当なウェルにピペットで取った後、前記混合物を1mlのシリンジを通して1分間前記ウェルに圧力を加えることにより、マイクロチャンネル内を混合物で満たした。次に、ラダーウェルおよび試料ウェルを、5μlのDNAサイズのマーカ混合物+1μlの分子サイズラダー、または試料にロードした。ボルテキシングによって混合した後直ちに、前記チップを前記Agilent 2100 Bioanalyzer systemに注入し、メーカーの指示書に従って処理した。PCR産物の量は、ダイマーおよび野生型DNA断片の2個のピークの相対的な面積比によって決定された。
(5)実験結果
電気分解された溶液が大腸菌細胞の溶解に及ぼす影響を調べた。コントロールとして、煮沸試料および処理されていない試料を用いた。煮沸試料は、95℃で5分間加熱し、処理していない試料は、PBS(pH7)中に細胞を懸濁させた。上記で調製された3種類の電気分解された溶液で細胞懸濁液をそれぞれ処理した。処理された細胞を回収し、LB寒天プレート上で一晩培養した後、細胞溶解が起こっているかを観察した。
図2は、細胞を37℃で16時間培養した後の寒天プレートを表す図である。図2に図示したように、ペトリ皿(a)、(b)、(c)、および(d)中のEAS、EBS、ETS、および煮沸試料は、成長していないが、何の処理もしていないペトリ皿(e)中のコントロールは、成長した。電気分解された溶液および煮沸処理された細胞では、コロニー(群体)を観察できなかったが、これは、大腸菌細胞が、すべての電気分解された溶液および煮沸処理によって、生存能力を喪失したということを表す。しかし、それらすべての細胞が破壊されたか否かは確実ではなく、それは、下記のようなPCRを通して確認した。
細胞が破壊されたか否かを確認するために、リアルタイムPCRを実施した。もし、細胞壁が溶解したとすれば、細胞に由来する遺伝子はリアルタイムPCRによって分析されうる。リアルタイムPCRの正確さおよび再現性を確保するために、分析での変化は、LightCyclerでの反応進行中に3回繰り返して決定した。破壊された細胞に由来する遺伝子を定量するために、リアルタイムPCR曲線を利用した。図3は、電気分解された溶液で細胞を処理し、そこから得られる溶液をテンプレートとして用い、リアルタイムPCRを行って得られたリアルタイムPCR曲線を表すグラフである。前記曲線は、増幅されたDNAの量を測定することにより、初期テンプレートのコピー数を縦軸とし、クロッシングポイントでのサイクル数を横軸として図示されている。サイクル数に対するDNA量は、図3に示したように対数型になる。限界サイクル数(Ct)は、対数線が水平の限界線を切断する点である。標的の量は、クロッシングポイントのCtでは、あらゆる試料で同一である。すなわち、一定量に達する標的量におけるサイクル数が小さければ、初期DNA量が多く、サイクル数が大きければ、初期DNA量が少ないということを示している。対数期の増幅工程は、次の方程式によって記述される。
前記式で、T0は標的の初期量であり、Kはクロッシングポイントであり、Eは増幅の効率である。Ctは測定された値であり、T0は実験者によって決定された標準の初期濃度である。本発明者らは、破壊された細胞に由来する核酸の濃度をCt値と推定した。5種の細胞溶解法の結果を比較した結果、相当な差が発見された。Ct値によれば、次のような順序で核酸の量が増加した:EBS処理された細胞>煮沸処理された細胞>ETS処理された細胞>コントロール>EAS処理された細胞(表1参照)。
表1中、Ct値がないのは、「−」で表示し、コントロールは、処理されていない試料であることを示す。
表1に示したように、EBS処理された無希釈の試料は、煮沸処理された試料よりも初期核酸濃度が高かった。これらのデータは、試験された方法の中で、EBS処理が最も効果的な細胞溶解法であるということを示した。
さらに、Labchipは、増幅されたPCR産物の特異性を証明した。また、EBS処理された試料のPCR産物の濃度は、他の試料に比べて高かった。これもまた、EBS処理が、一般的に用いられている煮沸処理よりも効果的であるということを示している。
図4は、電気分解された溶液で細胞を処理し、そこから得られる溶液をテンプレートとして、電気泳動を実施した後、リアルタイムPCRを行って得られたPCR産物を、Agilent 2100 Bioanalyzerで分析した結果を表すグラフである。図4で煮沸処理は、95℃で5分間実施されている。図4に示したように、EAS処理された細胞からのPCR産物は、いずれもダイマーであり、十分にPCRがなされていないことが示される。EAS処理されたすべての試料中には、PCR産物が観察されなかったが、コントロール試料である無希釈および1/10希釈試料中で、PCR産物が観察された。これは、EASにはPCR阻害剤が含まれているため、EAS処理試料中にPCR産物は観察されないと推測される。したがって、EASを含むETSで処理された試料のPCR産物の濃度は、EBSで処理された試料のPCR産物の濃度に比べて低かった(図5参照)。図5は、図4の結果をPCR産物の濃度として表したグラフである。
以上のような結果から、PCRなどの生物学的分析のためには、カソードチャンバで生成するEBSで細胞を処理するのが細胞溶解に対して最も効果的であり、PCRなどの生物学的分析が効果的になされうることを確認した。
実施例2:電気分解素子での直接的な細胞溶解
本実施例では、細胞を電気分解用の装置に注入し、in situで電気分解された溶液を生成させた後で細胞溶解効率を測定した。
(1)電気分解の装置
図1A、図1E、および図1Fに図示した電気分解素子を用いた。図1Aの電気分解素子は、実施例1で説明した通りである。細胞溶解のための水酸化物イオンを発生させるために、大腸菌を含む12mlの10mMまたは100mM塩化ナトリウム溶液を、5Vの直流電圧を使用し、室温で1分間または3分間電気分解した。
図1Eに示した電気分解素子は、アノードチャンバおよびカソードチャンバを分離する分割膜がないことを除いては、図1Aに表した電気分解素子と同様である。電極間の間隔は2cmであった。図1Fに表す電気分解素子は、顕微鏡に装着されたデジタルカメラによる観察が可能なように、スライドグラス(米国、Corning社製)上に置かれたことを除いては、図1Eに表した電気分解素子と同様である。電極は、壁(wall)の縁に設置され、電極間の間隔は4cmであった。この装置を用いて、100mMのNaClを含む500μlのCHO細胞懸濁液を5Vの直流)電圧を30秒間印加することにより、電気分解した。
(2)分析方法
電気分解直後に収集した細胞溶解液を、リアルタイムPCRおよび増幅産物の分析を通して、実施例1に記載したように観察した。顕微鏡分析は、デジタルカメラ(米国、Photometrics社製)が装着されているNikon Eclipse TE 300蛍光顕微鏡(日本、ニコン社製)を用いて、画像をキャプチャーした。
(3)実験結果
図6は、用いた塩濃度、電流、および時間の条件下で、電気分解によって得られた細胞溶解液をテンプレートとして用いて実施されたリアルタイムPCR増幅の結果を表すグラフである。図6で、[1]から[4]は、Nafion(登録商標)膜を有する電気分解素子を用いて得られた結果であり、[5]から[8]は、膜のない電気分解素子を用いて得られた結果である。[1]は100mM NaCl溶液を1分間電気分解したもの、[2]は100mM NaCl溶液を3分間電気分解したもの、[3]は10mM NaCl溶液を1分間電気分解したもの、[4]は10mM NaCl溶液を3分間電気分解したもの、[5]は100mM NaCl溶液を1分間電気分解したもの、[6]は100mM NaCl溶液を3分間電気分解したもの、[7]は10mM NaCl溶液を1分間電気分解したもの、[8]は10mM NaCl溶液を3分間電気分解したもの、[9]はコントロールである。
表2は、用いた塩濃度、電流、および時間の条件下で、電気分解によって得られた細胞溶解液を、テンプレートとして用いて得られたリアルタイムPCR増幅曲線から誘導されたCt値を示す表である。
表2に示したように、実験番号[4](膜あり、10mM NaCl、3分間の電流印加)で最も低いCt値が観察された。また実験番号[4]では、最も強い信号も確認された。これは、実験番号[4]の条件下で、細胞が最も効率的に溶解したということを意味する。この結果は、中央に膜を有する装置では、EBS中での細胞溶解が、EBSおよびEASの混合物中での細胞溶解より効果的であるということを表す。Nafion(登録商標)膜は、アノードチャンバおよびカソードチャンバで電気分解された溶液の混合を防ぐので、EASおよびEBSは電気分解素子内で分離された。
図7は、様々な条件下での電気分解によって得られた細胞溶解液をテンプレートとして用い、PCRを実施して得られた最終PCR産物を、電気泳動させて分析した結果を表す図である。図7に図示したように、プライマーダイマーの生成なしに増幅産物のみが得られた。図8は、図6における電気分解で得られた細胞溶解液をテンプレートとして用い、リアルタイムPCRを実施して得られたPCR産物を電気泳動させた後、Agilent 2100 Bioanalyzerで分析した結果を表すグラフである。
図9は、CHO細胞をスライドグラス上のウェルに載せ、5Vの直流電圧および1mAの電流を印加し、顕微鏡に装着されたデジタルカメラで、連続的にCHO細胞を観察した結果を表す写真である。図9に示したように、細胞は、非常に短い時間内で変形し、最終的には破裂した。図9の結果は、電気化学的に発生した水酸化物イオンが、細胞を速く溶解させるということを立証した。細胞溶解は、水酸化物イオンが発生するカソードの近くで起こる。
実施例3:電気分解によって得られた細胞溶解液の中和
本実施例では、図1Aに図示したようなアノードチャンバ、カソードチャンバ、および前記アノードチャンバと前記カソードチャンバとの間に設置された分離膜を有する電気分解素子を用い、それぞれ前記アノードチャンバおよび前記カソードチャンバ中でさまざまな溶解液を電気分解し、そこから得られる溶液のpHの変化を観察した。
図10は、アノードチャンバおよびカソードチャンバに、それぞれ10mlの100mM NaCl水溶液(初期pH=6.0)を添加し、5Vの直流電圧を加え、経時的なpHの変化を観察した結果を表すグラフである。60秒経過後、アノードチャンバおよびカソードチャンバの溶液を1:1の割合で混合した混合物のpHは、9.49であった。したがって、アノードチャンバおよびカソードチャンバの溶液を1:1の割合で混合する場合、初期のpHにはならずに、アルカリ性になることが分かる。
図11は、アノードチャンバおよびカソードチャンバに、それぞれ200mlの100mM MgSO水溶液(初期pH=5.75)、および200mlの100mM NaCl水溶液(初期pH=5.75)を添加し、10Vの直流電圧を加え、経時的なpHの変化を観察した結果を表すグラフである。300秒経過後、アノードチャンバおよびカソードチャンバの溶液を1:1の割合で混合した混合物のpHは5.75であり、初期pHと同じであった。
図12は、アノードチャンバおよびカソードチャンバに、それぞれ200mlの100mM NaSO水溶液(初期pH=5.82)、および200mlの100mM NaCl水溶液(初期pH=5.82)を添加し、10Vの直流電圧を加え、経時的なpHの変化を観察した結果を表すグラフである。300秒経過後、アノードチャンバおよびカソードチャンバの溶液を1:1の割合で混合した混合物のpHは5.82であり、初期pHと同じであった。
図10の結果は、次のような反応理論によって説明されうるが、本発明が特定の理論に限定されるものではない。
下記反応式に示したように、NaClを含む溶液の電気分解の間、アノードチャンバでは、塩化物イオンが酸化されて塩素ガスが発生し、カソードチャンバでは、水が還元されて水素ガスおよび水酸化物イオンが発生する。
アノードで発生した塩素は水と反応して、次亜塩素酸(HOCl)および塩酸(HCl)が発生する。アノードで発生した次亜塩素酸(HOCl)は、バクテリアの生存能力を喪失させ、一方、カソードで発生した水酸化物イオンは、アルカリ性の細胞溶解液中の水酸化ナトリウムのように、細胞を効果的に破壊する。すなわち、次亜塩素酸(HOCl)は、バクテリアを殺すが破壊せず、水酸化物は、細胞を破壊する。
また、前記反応式に示したように、アノードチャンバで発生するHイオンは、Clガスが水と反応して発生する一方で、水酸化物イオンは、水の還元によって発生する。結果として、Hイオンに比べて水酸化物イオンがより多く発生する。したがって、電気分解の結果として得られるアノードチャンバ溶液およびカソードチャンバ溶液を1:1で混合する場合、混合溶液のpHは初期溶液に比べて、よりアルカリ性側に変化する。
一方、図11および12に図示したように、アノードチャンバがMgSOまたはNaSOなどの、水より標準酸化還元電位が低いイオンを含む化合物を含む場合には、前記アノードチャンバでは、酸素ガスおよびHイオンが発生する。また、カソードチャンバにおいて、Naイオンなどの水より標準酸化還元電位が高いイオンを含む溶液を用いる場合、水が電気分解されて水素ガスおよびOHイオンが発生する。この場合、アノードチャンバおよびカソードチャンバで同じ当量のHイオンおよびOHイオンが発生し、各チャンバ内の電気分解された溶液を1:1の比率で混合することにより、中和された溶液を得ることができる。
多くの生物学的分析工程は、中性のpHにおいて高い効率を有するため、アノードチャンバに水より標準酸化還元電位が低いイオンを含む溶液を使用し、カソードチャンバに水より標準酸化還元電位が高いイオンを含む溶液を使用することが、特に望ましい。この場合、前記実施例で明らかにされたように、HOClやClのように、潜在的に生物学的工程、例えばPCRを阻害しうる物質の発生を減らすことができる。さらに、従来、アノードチャンバ溶液およびカソードチャンバ溶液の流量をそれぞれ調節し、中和された溶液を得るために、電気分解素子に2個のポンプを必要としていたが、本発明においては、前記のように、カソードチャンバ溶液およびアノードチャンバ溶液を単純に混合することにより中和された溶液を得るため、1個の流量調節用のポンプのみを使用してもよい(図1D参照)。
実施例4:アノードチャンバに含まれる電解溶液が細胞溶解および/またはPCRに及ぼす影響
本実施例では、図1Aに表した電気分解素子を用い、カソードチャンバに100mM NaCl溶液中に10cell/mlの大腸菌細胞を含む溶液を入れ、アノードチャンバには、それぞれ10mlの100mM NaCl溶液および100mM NaSO溶液を入れ、直流電圧5Vを3分間加えて電気分解を実施した。電気分解後、アノードチャンバおよびカソードチャンバから同量の試料を採取して混合した。その混合物をテンプレートとしてPCRを行った。PCRは、実施例1の(3)に示した方法によって行い、ポリメラーゼとして、Hot−start Taq DNA polymerase(Roche Diagnostics社製)を用いた。
図13は、アノードチャンバで様々な電解液を用いて電気分解した後、アノードチャンバ内の電気分解された溶液およびカソードチャンバ内の電気分解された溶液を混合し、リアルタイムPCRを実施した結果を表すグラフである。図13に示したように、アノードチャンバにNaSO溶液を含む場合が、NaCl溶液を含む場合に比べ、初期核酸濃度および最終的な増幅された核酸の濃度が高い。この結果は、アノードチャンバに水より標準酸化還元電位が低い物質を含む場合、その後の生物学的分析および電気分解された溶液の中和により有利であるということを示す。
本発明の細胞またはウイルス溶解用の電気分解素子を備える微小流体素子、およびそれを用いて細胞またはウイルスを溶解する方法は、例えば細胞溶解関連の技術分野に効果的に適用可能である。
カソードチャンバ、アノードチャンバ、および前記カソードチャンバと前記アノードチャンバとの間に設置されている分割膜を有する電気分解素子の一実施形態を示す概略図である。 本発明の微小流体素子に含まれる電気分解素子の一実施形態を表す概略図である。 本発明の微小流体素子に含まれる電気分解素子の一実施形態を表すものであり、2個のポンプが設置されている電気分解素子を表す概略図である。 本発明の微小流体素子に含まれる電気分解素子の一実施形態を表すものであり、1個のポンプが設置されている電気分解素子を表す概略図である。 本発明の実施例1で、コントロールの電気分解素子として用いられた、カソードチャンバおよびアノードチャンバから構成されている電気分解素子を表す概略図である。 本発明の実施例1で、コントロールの電気分解素子として用いられたカソードチャンバおよびアノードチャンバから構成されている電気分解素子であり、顕微鏡観察が可能なようにスライドグラス上に置かれている電気分解素子を表す概略図である。 電気分解で得られた溶液で処理された細胞を、37℃で16時間培養した後の寒天プレートを示す写真である。 電気分解で得られた溶液で細胞を処理し、そこから得られる溶液をテンプレートとしてリアルタイムPCRを行って得られたリアルタイムPCR曲線を表すグラフである。 電気分解で得られた溶液で細胞を処理し、そこから得られる溶液をテンプレートとしてリアルタイムPCRを行って得られたPCR産物を電気泳動させ、Agilent 2100 Bioanalyzerで分析した結果を表すグラフである。 図4の結果をグラフで表したものであり、PCR産物の濃度を測定した結果を表すグラフである。 用いた塩濃度、電流、および時間の条件下で、電気分解によって得られた細胞溶解液をテンプレートとして用いて実施された、リアルタイムPCR増幅の結果を表すグラフである。 様々な条件下での電気分解によって得られた細胞溶解液をテンプレートとして用い、PCRを実施して得られた最終PCR産物を、電気泳動させて分析した結果を表す図である。 図6における電気分解で得られた細胞溶解液をテンプレートとして用い、リアルタイムPCRを実施して得られたPCR産物を電気泳動させ、Agilent 2100 Bioanalyzerで分析した結果を表すグラフである。 CHO細胞をスライドグラス上のウェルに載せ、5Vの直流電圧および1mAの電流を印加し、顕微鏡に装着されたデジタルカメラで、連続的にCHO細胞を観察した結果を表す写真である。 アノードチャンバおよびカソードチャンバに、それぞれ10mlの100mM NaCl水溶液(初期pH=6.0)を添加し、5Vの直流電圧を加えて経時的なpHの変化を観察した結果を表すグラフである。 アノードチャンバおよびカソードチャンバに、それぞれ200mlの100mM MgSO水溶液(初期pH=5.75)、および200mlの100mM NaCl水溶液(初期pH=5.75)を添加し、10Vの直流電圧を加えて経時的なpHの変化を観察した結果を表すグラフである。 アノードチャンバおよびカソードチャンバに、それぞれ200mlの100mM NaSO水溶液(初期pH=5.82)、および200mlの100mM NaCl水溶液(初期pH=5.82)を添加し、10Vの直流電圧を加えて経時的なpHの変化を観察した結果を表すグラフである。 アノードチャンバで様々な電解液を用いて電気分解した後、アノードチャンバ内の電気分解された溶液およびカソードチャンバ内の電気分解された溶液を混合し、リアルタイムPCRを実施した結果を表すグラフである。
符号の説明
10 カソードチャンバ、
20 分割膜、
30 アノードチャンバ、
40 Au電極、
50 Pt電極、
60 チャンバ溶液、
70 マイクロポンプ。

Claims (7)

  1. アノードチャンバと、カソードチャンバと、電流を通過させるが、水素イオンを通過させ、かつ水酸化物イオンを通過させない特性を有する分割膜とを備える細胞またはウイルス溶解用の電気分解素子を備え、
    前記アノードチャンバは、アノードチャンバ溶液が流入する流入口、アノードチャンバ溶液が流出する流出口、および前記アノードチャンバの電極を備え、前記カソードチャンバは、カソードチャンバ溶液が流入する流入口、カソードチャンバ溶液が流出する流出口、および前記カソードチャンバの電極を備え、
    前記分割膜は、前記アノードチャンバおよび前記カソードチャンバは共通の前記分割膜で区画されて、かつ前記分割膜は、前記カソードチャンバ溶液のpHをアルカリ性側とし、前記アノードチャンバ溶液のpHを酸性側とするように、前記アノードチャンバの電極と前記カソードチャンバの電極との間に設置されている、微小流体素子を用いて細胞またはウイルスを溶解する方法であって、
    (a)前記アノードチャンバの流入口を介して、Cl、NO 、F、SO 2−、PO 3−、またはCO 2−を含む化合物を含むアノードチャンバ溶液を、前記アノードチャンバに流入させる工程と、
    (b)前記カソードチャンバの流入口を介して、細胞またはウイルスを含み、Na
    、Ca2+、Mg2+、もしくはAl3+を含む化合物を含むカソードチャンバ溶液を、前記カソードチャンバに流入させる工程と、
    (c)前記アノードチャンバおよび前記カソードチャンバに備わっている電極を介して電流を印加し、前記アノードチャンバおよび前記カソードチャンバで電気分解を行って細胞またはウイルスを溶解する工程と、
    を含む、細胞またはウイルスを溶解する方法。
  2. 前記電極は、Pt、Au、Cu、およびPdからなる群より選択される金属を含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
  3. 電気分解後に、前記アノードチャンバ中の酸性溶液を、前記アノードチャンバの流出口を介して前記アノードチャンバから流出させ、前記カソードチャンバ中のアルカリ性の細胞またはウイルスの溶解液を、前記カソードチャンバの流出口を介して前記カソードチャンバから流出させ、互いに混合し、前記細胞またはウイルスの溶解液を中和する工程をさらに含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
  4. 前記酸性溶液、および前記アルカリ性の細胞またはウイルスの溶解液が、1:1の体積比で混合されることを特徴とする、請求項3に記載の方法。
  5. 前記微小流体素子が、前記アノードチャンバに溶液を流入させるおよび前記アノードチャンバから溶液を流出させるためのポンプ、ならびに前記カソードチャンバに溶液を流入させるおよび前記カソードチャンバから溶液を流出させるためのポンプを、それぞれ別個にさらに備えることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
  6. 前記微小流体素子が、前記アノードチャンバに溶液を流入させるおよび前記アノードチャンバから溶液を流出させるためのポンプ、ならびに前記カソードチャンバに溶液を流入させるおよび前記カソードチャンバから流出させるための共通のポンプをさらに備えることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
  7. 前記微小流体素子は、電気分解素子を備える細胞溶解区画、核酸分離区画、核酸増幅区
    画、および検出区画から構成されていることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
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