JP4906204B2 - 電子血圧計 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、カフ圧力に重畳した脈波成分に基づいて最低血圧値を測定するオシロメトリック式血圧計に関する。
【0002】
【従来の技術】
オシロメトリック式血圧計での血圧値(最高血圧値、最低血圧値)の決定方法は、カフ下の動脈の血管内容積変化がカフ圧力(カフからの圧力信号)に重畳する脈波成分に現れているとの考えに基づくものである。そして、このようなカフ圧力に重畳した脈波成分に基づいて血圧値を決定する方法は、通常、コロトコフ音に基づいて血圧値を決定するコロトコフ音方式に対してオシロメトリック方式と呼ばれている。
【0003】
従来のオシロメトリック式血圧計(オシロメトリック方式で血圧値の測定を行う血圧計)は、阻血部位に巻くカフを最高血圧値以上に加圧して後、カフ圧力を微速度(例えば、2〜3mmHg/秒)で、大気圧近くまで減圧し、この減圧過程でカフ圧力に重畳する脈波成分を抽出し、脈波成分の振幅値(脈波振幅値)に注目して、脈波振幅値の推移(カフ圧力変化に対する脈波振幅値の変化プロフィル)から最高血圧値と最低血圧値を決定するのが一般的である。
【0004】
図1は、カフ圧力の減圧過程で、カフ圧力に脈波成分が重畳している様子を示すグラフである。このグラフには、カフ圧力の減少につれて、脈波成分の大きさや形が変化していく様子が示されている。
【0005】
図2は、カフ圧力の減少過程での、カフ圧力に重畳する脈波振幅値の変化の様子をカフ圧力の変化と共に示した図である。カフ圧力の減圧過程で、脈波振幅値は徐々に大きくなり、最大振幅値が現れるポイントMを経て後、脈波振幅値は徐々に減少する傾向をもつことが示されている。
【0006】
従来のオシロメトリック式血圧計での最低血圧値の測定は、図2において、最大脈波振幅値を検出するポイントを経過後、脈波振幅値が減少する過程において、最大脈波振幅値に所定割合(例えば、6割)を掛けた値に最も近い脈波振幅値を検索し、この脈波が生じたときの近傍のカフ圧力の値を、最低血圧値と決定するものである。すなわち、ポイントMで最大脈波振幅値PAを検出して後、ポイントMの経過後、所定の割合をα(例えば、α=0.6)として、脈波振幅値がTH=α×PAに最も近いポイントNでのカフ圧力を最低血圧値として決定するものである。そして、このような最低血圧値の決定方法については、個々の測定での測定の誤差をできるだけ小さくするために、所定の割合であるαの値を数百人のデータによる統計的な手段にて決定するなどの改善も試みられている。
【0007】
しかしながら、従来のオシロメトリック式血圧計の脈波振幅値の変化プロフィルによる最低血圧値の決定方法では、以下に説明するような問題点をもっていた。
【0008】
まず、第1に、カフ下の動脈の血管内圧力変化の血管内容積変化への反映状況は、個々の測定において異なっている。
【0009】
動脈硬化等による伸展性の小さい血管をもつ被測定者の場合には、動脈血管内圧力(以下、本明細書では、単に、血管内圧力という)がカフ圧力を越えると動脈血管内容積(以下、本明細書では、単に、血管内容積という)はかなり急峻な変化(急増)をし、一方、小児、若年者等の伸展性の大きい血管をもつ被測定者の場合には、血管内圧力がカフ圧力を越えても、前者ほど急峻な変化はしない。このため、血管の伸展性の小さい被測定者の脈波振幅値の変化プロフィルはカフ圧力が最高血圧値を過ぎると急に大きくなり、最低血圧値を過ぎると急に小さくなる変化を呈するが、最高血圧値と最低血圧値の間では変化に乏しい。一方、血管の伸展性の大きい被測定者の場合の脈波振幅値の変化プロフィルは、全体的に滑らかな変化を呈する。
【0010】
従って、従来のオシロメトリック式血圧計のように、最大脈波振幅値に所定割合を掛けた値に最も近い脈波振幅値を探索して最低血圧値を決定する方法では、カフ圧力が最低血圧値近傍で脈波振幅値の変化傾向の異なる被測定者に対して、同じ精度で最低血圧値を測定することは難しい。
【0011】
第2に、カフ下の血管内圧力の要素には、カフの上流側(心臓側)からの血流の拍出に伴う圧力だけでなく下流側(末梢側)からの反射による圧力が含まれており、この下流側からの反射による圧力の影響は、個々の測定によって異なっている。
【0012】
カフ下の静脈血管はカフ圧力が約30mmHgをこえると圧閉されるため、測定中の減圧過程で拍出した血液はカフより下流側の血管にプ−リングされ、下流側の動脈血管内圧力は、カフによる阻血前の状態に回復する(近づく)ように、徐々に上昇していく。減圧過程でのカフ圧力が最高血圧値と最低血圧値の中間近傍(最大脈波振幅値の脈波成分が得られる辺り)にあるときには、下流側の血管内圧力の回復状況により、過渡的現象として一時的に、拍動の周期のあるタイミングでカフ圧力より下流側の血管内圧力が高くなる現象が生じて、上流側からの血流の拍出による圧力変化が反射される。そして、この反射された圧力変化が、上流側からの血流の拍出に伴う圧力変化とカフ下で重なって、カフ下では、反射の影響を受けた血管内圧力変化が現れる。このため、カフ下で検出される脈波成分の振幅値にも反射の影響が現れる。検出される脈波成分の振幅値への反射の影響は、下流側の血管内圧力がカフ圧力より高くなるタイミングとカフ下での反射によらない血管内圧力変化(上流側からの血流の拍出に伴う直接の圧力変化)が最大となる(血管内圧力変化の波形にピークの生じる)タイミングの位相差に依存する。すなわち、減圧過程で、下流側の血管内圧力がカフ圧力より高くなるタイミングとカフ下の反射によらない血管内圧力変化(1拍内)の波形にピークの生じるタイミングが重なる位相差が0となるポイント(減圧過程の経過時間の中での位置)で、脈波成分の振幅値は反射の影響を最も受ける。
【0013】
そして、この反射の影響を最も受けるポイントは、被測定者の血管の伸展性、血圧値(最高血圧値、最低血圧値)、脈拍数等や減圧速度に関連する下流側の血管内圧力の回復の速さによって決まる。
【0014】
最大脈波振幅値に注目すると、最大脈波振幅値をもつ脈波成分が減圧過程で出現するポイントが、前述の2つのタイミングが重なる位相差0のポイント(反射の影響を最も受けるポイント)に一致するときに、最大脈波振幅値は反射の影響を最も受けるものである。そして、一般に、最大脈波振幅値の受ける反射の影響は、最大脈波振幅値をもつ脈波成分の出現するポイントと下流側の血管内圧力の反射の影響を最も受けるポイントとの位置関係に依存する。こうして、最大脈波振幅値の受ける反射の影響は、下流側の血管内圧力の回復の速さによって決まる反射の影響を最も受けるポイントに依存することから、下流側の血管内圧力の回復の速さに依存している。
【0015】
尚、カフ圧力が最低血圧値の近傍になるときは、カフの下流側の血管内圧力はカフによる阻血前の状態に充分に回復しているので、下流側の血管内圧力による反射の影響は実質的になくなる。
【0016】
こうして、最大脈波振幅値は、カフの下流側の血管内圧力の回復の速さに依存する異なる反射の影響を受ける一方、最低血圧値のポイントでの脈波振幅値は、この反射の影響を受けないことから、従来のオシロメトリック式血圧計のような、最大脈波振幅値に所定割合を掛けた値に最も近い脈波振幅値を探索して最低血圧値を決定する方法では、常に正しい最低血圧値を得ることは難しい。
【0017】
第3に、カフ下の血管内容積変化の脈波成分としての検出にはカフの弾性(コンプライアンス)特性が関係しているが、この特性が、カフ圧力が最低血圧値近傍になるとき、個々の測定で異なっている。
【0018】
カフ圧力が高いときに比べてカフ圧力が低いときは、カフ下の血管内容積の変化に対するカフ内圧力の変化は小さくなる。特に、カフ圧力が約50mmHg以下になると急峻に血管内容積の変化に対するカフ内圧力の変化は小さくなる。
【0019】
このため、最低血圧値が低い被測定者の場合には、最低血圧値が高い被測定者の場合に比べて、カフ圧力が最低血圧値の近傍になったときの脈波振幅値は、最大脈波振幅値に対して、相対的に小さく測定され、従来のオシロメトリック式血圧計のような、最大脈波振幅値に所定割合を掛けた値に最も近い脈波振幅値を探索して最低血圧値を決定する方法では、正しい最低血圧値を得ることが難しい。
【0020】
図3の(a)(b)には、それぞれ、図2の最大脈波振幅値の出現するポイントMの近くの脈波成分と、最低血圧値の低い被測定者の最低血圧値の検出されるポイントNの近くで検出される脈波成分を模式的に図示している。
【0021】
図3(a)に示されるように、最大脈波振幅値が得られるポイントの近くで検出される脈波成分PWは、カフの上流側の血液の拍出に伴う直接の圧力変化(血管内容積変化)に由来する波形成分W1とカフより末梢(下流)側の血管からの反射による圧力変化(血管内容積変化)に由来する波形成分W2の合成されたものとして検出される。ここでは、検出される脈波振幅値が、反射による圧力変化(血管内容積変化)に由来する波形成分W2があることにより、カフ下の上流側からの血液の拍出に伴う直接の圧力変化(血管内容積変化)に由来する波形成分W1だけの場合よりも、大きくなっている。
【0022】
また、図3(b)に示されるように、最低血圧値が低い被測定者の最低血圧値の検出されるポイントの近くで検出される脈波成分PWは、カフより末梢(下流)側の血管からの反射による圧力変化(血管内容積変化)に由来する波形成分W2はなく、カフの上流側からの血液の拍出に伴う直接の圧力変化(血管内容積変化)に由来する波形成分W1だけではあるが、カフの弾性(コンプライアンス)特性により、実際の圧力変化(血管内容積変化)を反映する波形成分W1よりも小さい脈波振幅値をもつ脈波成分PWが検出される。
【0023】
以上のように、従来のオシロメトリック式血圧計での最低血圧値の決定方法では、カフ下の血管内圧力変化から血管内容積変化への反映状況や、カフ下の血管内圧力変化への反射の影響や、カフの弾性(コンプライアンス)の影響について十分に考慮されていないことから、正確な最低血圧値の測定は難しかった。
【0024】
すなわち、従来のオシロメトリック式血圧計では、最低血圧値のポイントでの脈波振幅値と最大振幅値の割合は、被測定者の個体差や測定条件(減圧速度等)により異なることから、一義的に決められないにもかかわらず、一義的に決めた割合を用いるために、個々の測定において誤差を生じるという問題があった。
【0025】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、最低血圧値のポイントでの脈波振幅値と最大振幅値の割合を用いるなど、カフ圧力に重畳する脈波振幅値の変化プロフィルに依存することなく、正確に、最低血圧値を測定できる電子血圧計を提供することにある。そして、被測定者の個体差や測定条件による影響を小さくして、精度よく最低血圧値を測定できる電子血圧計を提供することにある。
【0026】
【課題を解決するための手段】
この目的を達成するために、本発明者は、カフ圧力に重畳する脈波成分の解析について、研究を重ねた結果、最低血圧値の近傍での脈波成分に特有の特徴を見出すことができた。
【0027】
この知見に基づいて、上記目的は、脈波振幅値の変化プロフィルに依存することのない下記の(1)〜(4)の発明により達せられている。
(1)血管を圧迫するカフを有し、カフ圧力の減圧過程で前記カフ圧力に重畳する脈波成分に基づいて最低血圧値を決定する電子血圧計において、脈波成分のピ−ク点と前記ピーク点に先行して生じるボトム点との間で、脈波成分の最大勾配点を検出し、前記ピーク点に先行して生じるボトム点あるいは前記ピーク点に遅れて生じるボトム点の前記最大勾配点からの変位に基づいて、最低血圧値を決定することを特徴とする電子血圧計。
(2)前記ピーク点に先行して生じるボトム点と前記最大勾配点との出現の位相差を用いて、最低血圧値を決定することを特徴とする(1)に記載の電子血圧計。
(3)前記ピーク点に先行して生じるボトム点と前記最大勾配点との出現の時間差を用いて、最低血圧値を決定することを特徴とする(1)に記載の電子血圧計。
(4)前記カフは、血管阻血用の大カフと脈波検出用の小カフからなり、前記大カフと前記小カフが流体抵抗を介して接続されていることを特徴とする(1)ないし(3)のいずれかに記載の電子血圧計。
【0028】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の電子血圧計を、好適実施例に基づいて、原理的な内容と共に説明する。
〈カフの圧迫力と脈波成分〉
図4は、本発明の実施例のカフを上腕101に捲いたときの腕の長手方向(上腕の延びる方向)の断面図である。本実施例のカフは、血管阻血用の大カフ(第1のカフ)1と脈波検出用の小カフ(第2のカフ)2からなるダブルカフである。図4では、加圧された血管阻血用の大カフ1により血管100はQの部分で阻血され、上流側100aから下流側100bへの血流が抑えられている様子が示されている。
【0029】
大カフ1により腕を圧拍する力は、カフの幅方向の中央部(図のAの部分)で最も強く、両端に近くなるに従い弱くなり、両端ではほぼ0となる。小カフ2は、このカフの幅方向の中央部(図のAの部分)に設けられることで、この部分での血管内圧力変化(血管内容積変化)を最もよく捉える。尚、本願明細書で述べる「カフ圧力」は、カフ内の圧力を意味するが、実質的には、カフの幅方向の中央部(図のAの部分)での腕の圧迫力と等しいことから、カフの幅方向の中央部(図のAの部分)下の血管へ加えられるカフからの圧力でもある。
【0030】
脈波検出用の小カフ2により検出されるカフ圧力に重畳する脈波成分は、既に述べたように、カフの上流側からの血流の拍出に伴う直接の圧力変化(血管内容積変化)に由来する波形成分W1(以下、W1波形という)とカフの下流側の血管からの反射による圧力変化(血管内容積変化)に由来する波形成分W2(以下、W2波形という)に分けられるが、このうち、W1波形は、便宜上、カフの幅方向の中央部、すなわち、図4のAの部分(以下、単に、カフ中央部Aという)の下の圧力変化(血管内容積変化)に由来する波形成分W1−A(以下、W1−A波形という)とカフの幅方向の上流部、すなわち、図4のBの部分(以下、単に、カフ上流部Bという)の下の圧力変化(血管内容積変化)に由来する波形成分W1−B(以下、W1−B波形という)とカフの幅方向の下流部、すなわち、図4のCの部分(以下、単に、カフ下流部Cという)の下の血管内容積変化に由来する波形成分W1−C(以下、W1−C波形という)に分けて考えることができる。
〈脈波成分を構成する各波形の性質〉
図5は、W1波形がW1−A波形とW1−B波形とW1−C波形から合成され、更に、W2波形と合成されて脈波成分PWができている状態を模式的に示している。この図示した脈波成分PWは、減圧過程でのカフ圧力が最高血圧値から最低血圧値の間にある場合の代表的なものである。減圧過程でのカフ圧力が最高血圧値から最低血圧値までの間では、カフ中央部Aに血流が流れ込み、カフよりも下流側の血管に血流を拍出する現象がみられる。そして、この場合、下流側の血管への血流の拍出に伴うカフ中央部A下での血管内容積変化に由来するW1−A波形とカフ下流部C下での血管内容積変化に由来するW1−C波形が、カフ上流部B下に流れ込む血流による血管内容積変化に由来するW1−B波形と、時間の遅れ、すなわち、時間差をもって重なりW1波形を形成し、更に、それに、下流側からの反射によるW2波形が、時間差をもって重なり、カフ圧力に重畳した脈波成分PWが形成される。
【0031】
ここで、脈波検出用の小カフ2は、カフ中央部Aに取り付けられていることから、W1−B波形とW1−C波形に比べて、W1−A波形を最も感知しやすい。従って、W1−A波形の特徴は、W1−B波形とW1−C波形の特徴に比べて、W1波形の形状に大きく反映する。
【0032】
W1−B波形は、カフ上流部B下での血管内容積変化を示すが、上流部Bは中央部Aと下流部Cに比べて上流側(心臓側)に位置することから、W1−A波形やW1−C波形よりも早く出現し、W1波形の立ち上がりの形状に反映される。また、W1−C波形については、カフ下流部C下での血管内容積変化を示すが、下流部Cは中央部Aの下流側に位置し、下流部Cのカフの圧迫力は中央部Aのカフの圧迫力よりも小さいことから、下流部C下の血管の開閉は中央部A下の血管の開閉にほぼ同期しており、W1−A波形とW1−C波形の出現の時間差は実質的にない。
【0033】
W2波形は、上流からの血流の拍出に対するカフの下流側の血管からの反射であるから、下流側の血管内圧力がカフ圧力より高くなるタイミングによってピークの出現はW1波形のピークの出現より遅れる場合も進む場合もあるが、図5では、W2波形のピークの出現がW1波形のピークの出現より遅れる場合が示されている。一般に、W2波形の形状の脈波成分の全体形状への反映は、W1波形(W1−A波形とW1−B波形とW1−C波形の合成波形)の形状の反映よりも小さい。また、減圧過程でのカフ圧力が最低血圧値の近傍では、カフ下流側の血管内圧力はカフによる阻血前の状態に充分に回復しているので、下流側の血管からの反射は実質的になくなる。従って、カフ圧力が最低血圧値の近傍で検出される脈波成分では、実質的に、W2波形は消滅している。
〈W1−A波形の特徴〉
次に、W1−A波形の特徴について、詳しく述べる。
【0034】
図6は、カフ中央部A下の血管内容積変化に由来するW1−A波形が、カフ圧力の減圧過程で生じて、変化していく様子を模式的に示す図である。
【0035】
グラフ1では、横軸は、カフ圧力を一定の減圧速度で減圧していく場合の経過時間を表し、縦軸は、血管内外圧差(血管内圧力−カフ圧力)を表し、観血波形(血管内圧力変化)を三角形波形で簡略化した場合に基づいて、経過時間の各時点での観血波形(血管内圧力変化)に由来するカフ中央部A下の血管内外圧差の変化(観血波形と同じ三角形波形)を表わしている。
【0036】
また、グラフ1の上側に、縦軸を血管内容積として、血管内外圧差の変化に応じて生じる各時点の血管内容積の変化がグラフ2として表されている。血管内外圧差の縦軸の左側には、血管内外圧差の変化(グラフ1)を血管内容積の変化(グラフ2)に変換する血管内外圧差−血管内容積の関係が、横軸を血管内容積としたグラフ3として表されている。
【0037】
グラフ3の血管内外圧差−血管内容積の関係については、血管内容積が血管内外圧差が0の近傍で急変(急増加もしくは急減少)する傾向に注目して、簡略化した関係を仮定している。すなわち、血管内外圧差の増減する過程での血管が完全に閉じた状態(血管内容積0)と完全に開いた状態(血管内容積Vmax)の間の変化を、血管内容積がV0とV1の点で2つの折れ部をもち、V0とV1の間の急勾配の部分とV0以下とV1以上の緩やかな勾配の部分の直線からなる折れ線で表わしている。
【0038】
これは、血管内外圧差が0の位置では、血管は自重によりつぶれた状態(血管内容積V0)であるが、この位置から血管内外圧差が正の値に変化すると急に血管内容積が増大し、血管が十分に開いた状態(血管内容積V1)に達し、その後は、血管内外圧差の変化に対して、緩やかに増大する(最大の血管内容積Vmaxに向かう)傾向と、血管内外圧差が0の位置から負の値に変化すると、血管内容積は緩やかに減少していく(血管内容積0に向う)傾向を示している。尚、グラフ3では、血管内容積がV0とV1の間の急勾配の部分は直線で近似されているため血管内容積の変化の割合はこの間では同じとなっているが、実際には、血管内外圧差が0の位置(血管内容積V0の位置)での変化の割合が最大となっている。
【0039】
このような血管内容積が血管内外圧差が0の近傍で急変(急増加)する傾向の程度は、被測定者の血管の伸展性の大きさに依存するものであるが、傾向自体は、一般化できるものと考えられる。
【0040】
グラフ1では、カフ圧力の減圧過程(経過時間)の中で、aはカフ圧力が最高血圧値に等しい時点、bはカフ圧力が最高血圧値と最低血圧値のほぼ中央に位置する時点、cはカフ圧力が最低血圧値に等しい時点での、カフ中央部A下の血管内外圧差の変化(三角形波形)を示している。
【0041】
経過時間の各時点での血管内外圧差の変化(三角形波形)a、b、cの各頂点(ピーク点)は、観血波形(血管内圧力変化)での最高血圧値の部分(すなわち、心臓の拡張期初期)に由来するものであり、下向き頂点(ボトム点)は、観血波形(血管内圧力変化)での最低血圧値の部分(すなわち、心臓の収縮期初期)に由来するものである。
【0042】
これらグラフ1のa、b、cの血管内外圧差の変化をグラフ3の血管内外圧差−血管内容積の関係を用いて、血管内容積の変化に変換したものが、グラフ2の(a)、(b)、(c)で示されている。(a)、(b)、(c)には、心臓の収縮期初期の位置(前後2箇所)を白丸で示している。これは、観血波形(血管内圧力変化)の下向き頂点(ボトム点)に対応している。そして、この心臓の収縮期初期の位置(前後2箇所)の間に示される波形(太線で表示)が、W1−A波形である。
【0043】
すなわち、グラフ2に、W1−A波形が、カフ圧力の減圧過程(経過時間)の各時点で変化していく様子が示される。
【0044】
(b)、(c)のW1−A波形(血管内容積変化)の中では、ピーク点に先行して血管内外圧差が0となる位置をドットで示している。(a)のW1−A波形(血管内容積変化)では、ピーク点が、血管内外圧差が0の位置に対応しており、この位置をドットで示している。(a)、(b)、(c)のドットで示されている血管内外圧差が0の位置は、実際には、血管内容積が急増加(急上昇)する部分(波形の前半での最大勾配点)となる。
【0045】
更に、(a)、(b)、(c)のW1−A波形の中では、ピーク点に遅れて生じる血管内容積が最小となる位置もドットで示している。このW1−A波形のピーク点に遅れて生じる血管内容積が最小となる位置は、実際の脈波成分の下向きピーク点(ボトム点)の位置にほぼ等しいことが知られている。従って、以下、W1−A波形のピーク点に遅れて生じる血管内容積が最小となる位置を、W1−A波形のボトム点と呼ぶ。
【0046】
グラフ2では、W1−A波形で血管内容積が急上昇する部分(波形の前半での最大勾配点)[ドットで示した血管内外圧差が0となる位置]が、W1−A波形に先行する心臓収縮期初期の位置から遅れる時間(時間差)をt1で示し、また、W1−A波形のボトム点が次の心臓収縮期初期の位置から進む時間(時間差)をt2で示し、脈波成分の一周期をTで示している。ここで、脈波成分の周期Tは、測定の期間中、実質的に一定である。また、W1−A波形のボトム点の血管内容積が急上昇する部分(波形の前半での最大勾配点)から下方の変位をHで示している。
【0047】
遅れの時間(時間差)t1と 進みの時間(時間差)t2の和をtする。(t=t1+t2)連続して生じるW1−A波形のt1とt2はほとんど同じであることを考えると、tは、注目するW1−A波形の急上昇する部分(前半での最大勾配点)の先行するW1−A波形のボトム点からの遅れの時間(時間差)、すなわち、最大勾配点の先行する(W1−A波形の)ボトム点からの出現の時間差を示すと考えられる。
【0048】
グラフ2の(a)、(b)、(c)に示されるように、時間差t1と時間差t2は、カフ圧力が最高血圧値から最低血圧値に近づくにつれて小さくなる。すなわち、最大勾配点の先行するボトム点からの出現の時間差tは、カフ圧力が最高血圧値から最低血圧値に近づくにつれて小さくなっている。脈波成分の周期Tは、測定の期間中、実質的に一定であることから、最大勾配点の先行するボトム点からの出現の位相差2π(t/T)も、同様に、カフ圧力が最高血圧値から最低血圧値に近づくにつれて小さくなる。
【0049】
そして、グラフ2の(c)にみるように、カフ圧力が最低血圧値に等しくなる時点においては、この簡略化したグラフのもとでは、W1−A波形の先行するボトム点と最大勾配点(急上昇点)と心臓収縮期初期が同時に生じ、t1=0,t2=0であり、t=0となっている。
【0050】
更に、グラフ2の(b)、(c)からは、W1−A波形のボトム点の最大勾配点(急上昇点)からの下方変位Hは、カフ圧力が最低血圧値に近づくと小さくなることも示されている。そして、(c)にみるように、カフ圧力が最低血圧値に等しくなる時点においては、この簡略化したグラフのもとでは、W1−A波形のボトム点の位置と最大勾配点の位置が一致して、H=0(変位がなくなる)となっている。
【0051】
これらのことから、実際のW1−A波形については、次の2つの特徴(1)’(2)’を見出すことができる。
(1)’W1−A波形の急峻な上昇部分(最大勾配点)のボトム点からの遅れ(時間差tもしくは位相差2π(t/T))は、カフ圧力が最低血圧値に近づくにつれて小さくなる。
(2)’W1−A波形の急峻な上昇部分(最大勾配点)からのボトム点の変位Hはカフ圧力が最低血圧値に近づくにつれて小さくなる。
〈脈波成分の特徴〉
以上、脈波成分PWを部分波形に分けて、W1−A波形についての簡略化した検討内容を示したが、実際には、脈波成分PWは、W1−A波形やW1−B波形などに分離されることなく1つの脈波成分として、脈波検出用小カフ2で検出されるものである。
【0052】
しかし、既に述べたとおり、W1−B波形がW1波形の立ち上がり部分に反映されるもののW1−A波形は、カフ圧力に重畳される脈波成分のW1波形の形状を大きく反映している。更に、脈波成分のW2波形は、一般にW1波形より小さく、カフ圧力が最低血圧値の近傍では消滅している。
【0053】
従って、検出される脈波成分の特徴についても、〈W1−A波形の特徴〉での検討内容と同様に、次の2つの特徴を見出すことができる。
(1)脈波成分の急峻な上昇部分(最大勾配点)のボトム点からの遅れ(時間差tもしくは位相差2π(t/T))は、カフ圧力が最低血圧値に近づくにつれて小さくなる。
(2)脈波成分の急峻な上昇部分(最大勾配点)からのボトム点の変位Hはカフ圧力が最低血圧値に近づくにつれて小さくなる。
【0054】
図7の(B)、(C)の波形は、図6の(b)、(c)が得られる各時点、すなわち、カフ圧力が最高血圧値と最低血圧値の間の時点、最低血圧値の時点で、実際に検出されたカフ圧力に重畳されていた脈波成分である。各脈波成分には、前半部分の急峻な上昇部分(最大勾配点)Umと、ピーク点Peとピーク点Peに先行もしくは遅れて生じる2つのボトム点B1、B2が示されている。更に、図には、最大勾配点Umのボトム点B1からの時間差t、周期T、ボトム点B2の最大勾配点(急上昇点)Umからの下方の変位Hが示されている。尚、ボトム点B1は、先行して生じる脈波成分のピーク点に遅れて生じるボトム点B2でもあり、連続して生じる脈波成分はほとんど同じ形であることから、注目する脈波成分のボトム点B2の最大勾配点(急上昇点)Umからの変位は、ボトム点B1の最大勾配点(急上昇点)Umからの変位とほとんど同じである。
【0055】
前述の特徴(1)(2)の通り、最低血圧値の時点では、時間差t(位相差2π(t/T))と変位Hが、最高血圧値と最低血圧値の間の時点よりも、小さくなっている様子が見られる。
〈最低血圧値の測定〉
脈波成分の特徴(1)(2)に基づき、本願発明者は、最低血圧値の測定方法として、以下の2つの妥当性を確認した。
[1]脈波成分のピーク点に先行して生じるボトム点と最大勾配点(急上昇点)の出現の位相差が所定の閾値より小さくなる時点のカフ圧力を最低血圧値とする。
[2]脈波成分のピーク点に先行もしくは遅れて生じるボトム点の最大勾配点(急上昇点)からの変位が所定の閾値より小さくなる時点のカフ圧力を最低血圧値とする。
【0056】
[1][2]での脈波成分のボトム点や最大勾配点(急上昇点)は、個々の脈波成分の中で検出されるものである。また、[1][2]での所定の閾値は、検出される脈波の信号処理過程でのノイズ等を考慮して設定される。この信号処理過程でのノイズ等への個体差や減圧速度等の測定条件による影響は小さい。そして、[1][2]の最低血圧値の測定方法は、従来のオシロメトリック式血圧計のように、被測定者の個体差や測定条件(減圧速度等)の影響の大きいパラメータ(最低血圧値のポイントでの脈波振幅値と最大脈波振幅値の割合等)を用いるカフ圧力の減圧過程の脈波振幅値の変化プロフィルを扱う必要はない。このことから、[1][2]の最低血圧値の測定方法により、個体差や測定条件(減圧速度等)によるバラツキを小さくして、正確な最低血圧値の測定が実現できる。
【0057】
本願発明は、上記[2]の最低血圧値の測定方法に基づくものである。
〈実施例〉
以下、本願発明の好適実施例について、詳しく述べる。
【0058】
図8は、本発明の実施例の電子血圧計のエア−系と測定系を示すブロック図である。
【0059】
血管阻血用の大カフ1はチュ−ブ11を介して加圧ポンプ3と減圧制御バルブ(電磁弁)4に接続されている。また、大カフ1は、流体抵抗13を介して圧力センサ5に接続している。また、脈波検出用の小カフ2は大カフ1のほぼ中央に位置し、チュ−ブ12を介して圧力センサ5に接続している。これらのダブルカフを用いる血圧測定については、同一出願人による先願、特開2000−79101号に詳述されている。
【0060】
脈波検出用の小カフ2は、血管阻血用の大カフ1のカフ中央部に設けられており、カフ中央部の血管内容積変化を最もよく捉える。また、小カフ2は、脈波振動の拡散による脈波成分の減少を少なくするために、できるだけ、小さいものとなっている。流体抵抗13は、大カフ1より検出される脈波成分を低減もしくは遮断するためのメカニカルフィルタであり、これにより小カフ2でカフ下の血管内容積変化を正確にとらえることができる。
【0061】
圧力センサ5としては半導体圧力ゲ−ジを使用したダイヤフラムタイプの圧力−電気変換器等が使用される。
【0062】
圧力センサ5の出力信号(圧力信号)は増幅器6で増幅され、ロ−パスフィルタ7を介して、A/D変換器(コンバータ)8でデジタル変換されCPU9に入力される。ロ−パスフィルタ7では、出力信号の周波数帯域を制限し、バルブ制御ノイズ等の不要高周波ノイズをカットしている。カットオフ周波数は10〜30Hzに設定されている。
【0063】
加圧ポンプ3および減圧制御バルブ(電磁弁)4は、CPU9により制御される。特に、減圧制御バルブ(電磁弁)4は、CPU9からのPWM信号(オン・オフのパルス信号)により、開閉が制御(PWM制御)され、完全「閉」から完全「開」まで、PWM信号のDutyをかえることにより、開口オリフィス面積を連続的に制御される。
【0064】
更に、CPU9は、A/D変換器(コンバータ)8からデジタルに変換した圧力信号(カフ圧信号)を周期的に取り込み、カフ圧信号からそれに重畳している脈波信号(脈波成分)を分離して、この脈波信号とカフ圧(信号)から最高血圧値と最低血圧値を決定する機能を備えている。最高血圧値の決定は、本発明では、特に限定されるものではないが、本実施例では、同一出願人による先願、特開2000−287945号に記載されている、脈波成分のピーク情報を用いて決定される。また、最低血圧値は、前述の通り、脈波成分のピーク点に先行して生じるボトム点とピーク点の間で最大勾配点(傾き最大の点)を検出し、ピーク点に先行もしくは遅れて生じるボトム点のこの最大勾配点からの変位を算出して、この変位に基づいて決定される。
【0065】
また、CPU9では、このようにして決定された最高血圧値と最低血圧値を表示用LCD10に表示する機能をも備える。
【0066】
図9は、本発明に実施例の電子血圧計の具体的な処理動作の概略を示すフロ−チャ−トである。
【0067】
電子血圧計の測定の開始SW(スイッチ)をONする(ST1)と減圧制御バルブ4が完全「閉」(ST2)となり、CPU9の制御により、加圧ポンプ3の駆動が開始(ON)される(ST3)。加圧ポンプ3が駆動されるとカフ圧力の読み込みが開始され(ST4)、読み込んだカフ圧力があらかじめ設定された最高血圧値より十分に高い圧力値(設定圧力)になったか否か判断される(ST5)。カフ圧力が設定圧力になるまで、加圧ポンプは駆動され、カフ圧力が設定圧力になると加圧ポンプ3の駆動が停止(OFF)される(ST6)。
【0068】
その後、減圧制御バルブ4のCPU9の制御により、微速排気をスタートさせることで、所定の減圧速度(例えば、2〜3mmHg/秒)で微速減圧が開始される(ST7)。この減圧過程で、CPU9により、カフ圧力が所定の時間間隔毎(サンプリング時間毎)に読み込まれ(ST8)、カフ圧力に重畳している脈波成分が抽出される(ST9)。そして、まず、抽出される脈波成分よりピーク情報が検出され、ピーク情報に基づいて最高血圧値を決定され(ST10)。次に、更に、継続してカフ圧力の減圧過程で、カフ圧力が読み込まれ(ST11)、脈波成分が抽出されて(S12)、脈波成分を抽出して最低血圧値が決定される(S13)。
【0069】
最低血圧値の決定の後は、減圧制御バルブを全開(完全「開」)にしてカフ圧力を大気圧に戻す(ST14)。そして、CPU9の制御により、記憶した最高血圧値と最低血圧値をLCD10に表示する(ST15)。
【0070】
図10は、図9のS11からS13までの破線で囲んだ部分についての最低血圧値の決定のCPUの処理動作を、より詳細なフローチャートで示したものである。
【0071】
カフ圧力Pは、最高血圧値の決定後も、所定の時間間隔毎(サンプリング時間毎)に検出して(ST100)、カフ圧力に重畳している脈波成分(図7の脈波成分の図を参照)を抽出する(ST101)。脈波成分からは、連続するボトム点B1,B2とその間のピーク点Peを検出して(ST102、ST103、ST104)、そのボトム点B1(ピーク点に先行して生じるボトム点)とピーク点Peとの間、すなわち、脈波成分の前半部分で、最大勾配を有する点(最大勾配点)Umを検出する(ST105)。そして、最大勾配を有する点(最大勾配点)Umからのボトム点B2の変位Hを算出する(ST106)。その後、この変位Hが所定の閾値hより小さくなったとき(ST107での比較)、その時点でのカフ圧力Pを最低血圧値として決定する(ST108)。変位Hが所定の閾値h以上のときは(ST107での比較)、更に減圧されたカフ圧力に重畳される次の脈波成分について、同様の処理を順次行い、最低血圧値を決定するものである。
【0072】
尚、既に説明したように、ボトム点B1とボトム点B2の変位はほとんど同じであることから、ST106を最大勾配点Umからのボトム点B1の変位H’を算出するステップに置きかえ、ST107を変位H’と閾値hとの比較のステップに置きかえることもできる。
【0073】
図11は、図9のS11からS13までの破線で囲んだ部分について、別の実施例での最低血圧値の決定のCPUの処理動作を、より詳細なフローチャートで示したものである。
【0074】
図10のフローチャートと異なる部分は、ST107とST108の間に、破線で囲んだ部分のステップST200からST203を設けた点であり、その他については、図10のフローチャートと同じである。
【0075】
ST200からST203は、〈最低血圧値の測定〉で記した[1]の最低血圧値の測定方法に基づくものである。
【0076】
すなわち、まず、ボトム点B1と最大勾配を有する点(最大勾配点)Umの出現の時間差tを算出する(ST200)。次に、ボトム点B1とボトム点B2の出現の時間間隔Tを求めて(ST201)、出現の位相差(t/T)を算出する(ST202)。ここで、ボトム点B2は次の脈波成分のボトム点B1になることから、時間間隔Tは、脈波間隔でもあり、また、脈拍周期でもある。このように、時間差tを直接扱う代わりに、位相差(t/T)を扱うことで、被測定者による測定のバラツキを更になくすることができる。
【0077】
尚、一般に、位相差は、2π(t/T)と表現されるが、2πは本実施例の計算で実質的な意味を持たないことから、本実施例では、t/Tを位相差と呼び、この値を算出している。
【0078】
ST203では、位相差(t/T)を所定の閾値kと比較し、この位相差(t/T)が所定の閾値kより小さくなったとき、その時点でのカフ圧力Pを最低血圧値として決定する(ST108)。位相差(t/T)が所定の閾値k以上のときは、ST100に戻って、更に減圧されたカフ圧力に重畳される次の脈波成分を抽出し(ST101)、ST102〜ST107、ST200〜ST203の一連の処理を順次行い、最低血圧値を決定するものである。
【0079】
この図11のフローチャートで示される実施例では、〈最低血圧値の測定〉で記した[1]の最低血圧値の測定方法と[2]の最低血圧値の測定方法の2つの測定方法で最低血圧値であることが確認(ST107、ST203)されてはじめて、最低血圧値(ST108)を決定することから、最低血圧値の決定の精度が更によい。
【0080】
以上、本発明の電子血圧計の好適実施例を説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0081】
【発明の効果】
以上説明してきたように本発明の電子血圧計では、カフ圧力の減圧過程でカフ圧力に重畳する脈波成分の脈波振幅値の変化プロフィルを用いないで、脈波成分のピ−ク点に先行して生じるボトム点からピーク点までの間の最大勾配点からのボトム点の変位に基づいて最低血圧値を決定するので、血管の伸展性、脈圧(=最高血圧−最低血圧)の大きさ、脈拍数等の個人差や減圧速度等の測定条件による測定値のバラツキを小さくすることができ、精度よく最低血圧値を測定することができる。
【0082】
また、脈波成分のピーク点に先行して生じるボトム点と前記最大勾配点との出現の位相差(時間差)を用いて最低血圧値を決定するので、より精度よく最低血圧値を測定することができる。
【0083】
更に、カフが血管阻血用の大カフと脈波検出用の小カフからなり、大カフと小カフが流体抵抗を介して接続されていることから、脈波成分を正確にとらえることができ、安定して精度よく最低血圧値を測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】カフ圧力の減圧過程で、カフ圧力に脈波成分が重畳している様子を示す図である。
【図2】カフ圧力の減圧過程で、カフ圧力に重畳する脈波の振幅値の変化の様子を示す図である。
【図3】(a)(b)は、それぞれ、図2の最大脈波振幅値の出現するポイントの近くの脈波成分とカフ圧力が最低血圧値に等しいポイントの近くの脈波成分を模式的に示す図である。
【図4】本発明の実施例のカフを上腕に捲いて、カフを加圧したときの腕の長手方向の断面図である。
【図5】脈波成分がいくつかの波形により合成されていることを模式的に示す図である。
【図6】カフ中央部下の血管容積変化に由来する波形が、カフ圧力の減圧過程で生じて、変化していく様子を模式的に示す図である。
【図7】カフ圧力が最高血圧値と最低血圧値の間の時点と最低血圧値の時点での実際に検出されたカフ圧力に重畳された脈波成分を示した図である。
【図8】本発明の実施例の電子血圧計のエアー系と測定系を示すブロック図である。
【図9】本発明の実施例の電子血圧計の処理動作の概略を示すフローチャート図である。
【図10】本発明の実施例の電子血圧計の最低血圧値の決定の概略を示すフローチャート図である。
【図11】本発明の別の実施例の電子血圧計の最低血圧値の決定の概略を示すフローチャート図である。
【符号の説明】
1…大カフ
2…小カフ
3…加圧ポンプ
4…減圧制御バルブ
5…圧力センサ
6…増幅器

Claims (4)

  1. 血管を圧迫するカフを有し、カフ圧力の減圧過程で前記カフ圧力に重畳する脈波成分に基づいて最低血圧値を決定する電子血圧計において、
    脈波成分のピ−ク点と前記ピーク点に先行して生じるボトム点との間で、脈波成分の最大勾配点を検出し、前記ピーク点に先行して生じるボトム点あるいは前記ピーク点に遅れて生じるボトム点の前記最大勾配点からの変位に基づいて、最低血圧値を決定することを特徴とする電子血圧計。
  2. 前記ピーク点に先行して生じるボトム点と前記最大勾配点との出現の位相差を用いて、最低血圧値を決定することを特徴とする請求項1に記載の電子血圧計。
  3. 前記ピーク点に先行して生じるボトム点と前記最大勾配点との出現の時間差を用いて、最低血圧値を決定することを特徴とする請求項1に記載の電子血圧計。
  4. 前記カフは、血管阻血用の大カフと脈波検出用の小カフからなり、前記大カフと前記小カフが流体抵抗を介して接続されていることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の電子血圧計。
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