(実施例1)(図1〜図5)
フロントフォーク(油圧緩衝器)10は、アウタチューブ11を車体側に、インナチューブ12を車輪側に配置する倒立型フロントフォークであり、図1〜図4に示す如く、アウタチューブ11の下端開口部の内周に固定したガイドブッシュ11Aと、インナチューブ12の上端開口部の外周に固定したガイドブッシュ12Aと、インナチューブ12の上端部に設けた後述する隔壁部材19の外周に設けたシール部材20を介して、アウタチューブ11の内部にインナチューブ12を摺動自在に挿入する。11Bはオイルシール、11Cはダストシールである。アウタチューブ11の上端開口部にはキャップ13が液密に螺着され、アウタチューブ11の外周には車体側取付部材が設けられる。インナチューブ12の下端開口部には車軸ブラケット15が液密に挿着されて螺着されてインナチューブ12の底部を構成し、車軸ブラケット15には車軸取付孔16が設けられる。
フロントフォーク10は、アウタチューブ11の内周と、インナチューブ12の外周と、前記2つのガイドブッシュ11A、12Aにて区画される環状油室17を区画する。
フロントフォーク10は、インナチューブ12の上端側内周にOリングを介する等により液密に、隔壁部材19を螺着して設け、隔壁部材19のロッドガイド部19Aより下部に作動油室21を区画するとともに、上部に油溜室22を区画する。油溜室22の中でその下側領域は油室22A(油面L)、上側領域は空気室22Bである。
フロントフォーク10は、アウタチューブ11に取付けたピストンロッド23を隔壁部材19のロッドガイド部19Aに摺動自在に挿入する。具体的には、キャップ13の中心部の下端部に螺着した取付カラー24に中空ピストンロッド23を螺着し、これをロックナット24Aで固定する。
フロントフォーク10は、隔壁部材19のロッドガイド部19Aからインナチューブ12に挿入したピストンロッド23の先端部に螺着したピストンボルト25に、インナチューブ12の内周に摺接するピストン26を固定し、前記油室21をピストンロッド23が収容されるピストンロッド側油室21Aと、ピストンロッド23が収容されないピストン側油室21Bに区画する。ピストン26はピストンナット27により固定される。
フロントフォーク10は、前記環状油室17を、インナチューブ12に設けた油孔28を介して、ピストンロッド側油室21Aに常時連通する。
フロントフォーク10は、ピストン26のピストン側油室21Bに臨む下端面の側に上ばね受け31を後述する如くに取着し、車軸ブラケット15が形成するインナチューブ12の底部に下ばね受け32を配置し、上ばね受け31と下ばね受け32の間に懸架スプリング33を介装している。フロントフォーク10は、車両走行時に路面から受ける衝撃力を懸架スプリング33の伸縮振動により吸収する。このとき、ばね荷重調整装置34が下ばね受け32を昇降し、懸架スプリング33のばね荷重を調整可能にする。
ばね荷重調整装置34について説明する。尚、下ばね受け32は有天筒状をなし、下端部に底板32Aを突き当てられるとともに、インナチューブ12の内周にOリング32Bを介して上下動可能に挿入されている。
ばね荷重調整装置34は、図2に示す如く、インナチューブ12の底部を構成する車軸ブラケット15の車軸取付孔16を外れる位置(車軸取付孔16の側傍)で外部に臨むアジャストボルト34Aにより下ばね受け32の底板32Aを支持し、アジャストボルト34Aの螺動により下ばね受け32を昇降させて懸架スプリング33のばね荷重を調整する。
このとき、アジャストボルト34Aはインナチューブ12の車軸取付孔16を通る中心軸に対し斜交配置され、アジャストボルト34Aをインナチューブ12の底部の内面に、外部へ抜け止めする状態で支持するとともに、アジャストボルト34Aの操作部を車軸ブラケット15の操作用孔15Aから外部に臨ませる。そして、インナチューブ12の内部に臨むアジャストボルト34Aのねじ部にアジャストナット34Bを螺合し、インナチューブ12の内部に設けた回り止め手段34Cによりアジャストナット34Bを回り止めし、アジャストナット34Bの先端部に下ばね受け32の底板32Aを衝合する。回り止め手段34Cはインナチューブ12と車軸ブラケット15の間に挟圧されるワッシャからなり、ワッシャに設けた回り止め用異形スリットにアジャストナット34Bの異形部を挿通させた。また、インナチューブ12の底部における回り止め手段34Cの下部にはスライダ34Dが設けられ、スライダ34Dにより、アジャストナット34Bの外面をスライドガイドするとともに、アジャストボルト34Aを外部から押し込み不能にする。34Eはアジャストボルト34Aに対するディテント機構である。
車軸ブラケット15の操作用孔15Aに挿入される工具により操作部を介してアジャストボルト34Aを螺動すると、アジャストナット34Bが昇降し、このアジャストナット34Bに衝合している下ばね受け32(底板32A)が昇降する。下ばね受け32は、ピストンロッド23側の上ばね受け31との間で、懸架スプリング33の初期長さを調整し、懸架スプリング33のばね荷重を調整するものになる。
フロントフォーク10は、ピストン26に減衰力発生装置40を備える(図3、図4)。
減衰力発生装置40は、圧側流路41と伸側流路42(不図示)を備える。圧側流路41は、バルブストッパ41Bにバックアップされる圧側ディスクバルブ41A(圧側減衰バルブ)により開閉される。伸側流路42は、バルブストッパ42Bにバックアップされる伸側ディスクバルブ42A(伸側減衰バルブ)により開閉される。尚、バルブストッパ41B、バルブ41A、ピストン26、バルブ42A、バルブストッパ42Bは、ピストンボルト25に挿着されるバルブ組立体を構成し、ピストンボルト25に螺着されるピストンナット27に挟まれて固定される。
減衰力発生装置40は、キャップ13の中心部に後に詳述する減衰力調整装置40Aを設け、減衰力調整装置40Aのニードル弁85をピストンロッド23の中空部に挿入し、ピストンロッド23に設けたバイパス路45の開度をニードル弁85の上下動により調整する。バイパス路45は、ピストン26をバイパスし、ピストンロッド側油室21Aとピストン側油室21Bを連絡する。
減衰力発生装置40は、圧側行程では、低速域で、ニードル弁85により開度調整されたバイパス路45の通路抵抗により圧側減衰力を発生し、中高速域で、圧側ディスクバルブ41Aの撓み変形により圧側減衰力を発生する。また、伸側行程では、低速域で、ニードル弁85により開度調整されたバイパス路45の通路抵抗により伸側減衰力を発生し、中高速域で、伸側ディスクバルブ42Aの撓み変形により伸側減衰力を発生する。この圧側減衰力と伸側減衰力により、前述した懸架スプリング33の伸縮振動を制振する。
以下、懸架スプリング33の伸縮時に、上下のばね受け31、32が懸架スプリング33に与える回転摩擦を低減可能にする、上ばね受け取着構造35について説明する。
上ばね受け取着構造35は、図3に示す如く、ピストン支持部材であるピストンロッド23のピストンボルト25の先端部であって、ピストン26よりも懸架スプリング33寄りのピストンボルト25の先端部に、上ばね受け31を回転自在かつ脱落不能に取着する。
具体的には、ピストンボルト25の先端部に、前述の如く、ピストン26、ディスクバルブ41A、42A、及びバルブストッパ41B、42Bを固定するピストンナット27を設けるに際し、ピストンナット27が工具係合部27Aと、工具係合部27Aの側傍にて段差状をなす工具係合部27Aより小径の小径部27Bとを有するものとし、ピストンボルト25に螺着したピストンナット27の小径部27Bの端面をバルブストッパ42Bに衝合する。そして、ピストンナット27の工具係合部27Aを外周膨出部とし、小径部27Bに上ばね受け31とベアリング部材36及びその上下のベアリングレース36A、36Bを装填する。
上ばね受け31は、孔あきかご状をなし、かご底部の中心部にピストンナット27の小径部27Bに挿し込まれ、工具係合部27A(外周膨出部)に係止でき、かつ下ベアリングレース36Bに衝接する取付座31Aを備え、かご開口部に円環状のばね受け座31Bを備える。31Cは流路である。
ベアリング部材36は、ピストンナット27の小径部27Bに差し込まれる孔あき円板状保持器の周方向に並設した多数の保持溝のそれぞれにローラを保持する。ベアリングレース36A、36Bは、ピストンナット27の小径部27Bに差し込まれる孔あき円板状をなす。
これにより、上ばね受け取着構造35は、ピストンボルト25にピストン26、ディスクバルブ41A、42A、及びバルブストッパ41B、42Bを挿着して前述のバルブ組立体を構成するとき、ベアリング部材36、ベアリングレース36A、36Bを小径部27Bに装填済のピストンナット27をピストンボルト25に螺着して組付けられる。ピストンナット27の外周膨出部(工具係合部27A)に対するバルブストッパ42B側にて段差状をなす小径部27Bに上ばね受け31を回転自在に設け、上ばね受け31がピストンナット27の外周膨出部に抜け止めされるとともに、上ばね受け31がバルブストッパ42Bとの間にベアリング部材36、ベアリングレース36A、36Bを介装するものになる。上ばね受け31が下ばね受け32との間に懸架スプリング33を支持するとき、上ばね受け31はピストンナット27の外周膨出部(工具係合部27A)の端面との間に僅かな隙間を介して、回転自在になる。
フロントフォーク10は、キャップ13の下端面に、インナチューブ12に設けた隔壁部材19の上端部が最圧縮ストロークで衝合するストッパラバー13A、ストッパ板13Bを固着しており、このストッパラバー13Aによって最圧縮ストロークを規制する。
フロントフォーク10は、インナチューブ12の上端側の隔壁部材19のピストンロッド側油室21Aに臨む下端面に螺着固定したスプリングシート51と、ピストンロッド23に設けたストッパリング52Aに係止させたスプリングシート52との間にリバウンドスプリング53を介装してある。フロントフォーク10の最伸長時に、隔壁部材19がリバウンドスプリング53をスプリングシート52との間で加圧することにより、最伸長ストロークを規制する。
しかるに、フロントフォーク10にあっては、アウタチューブ11とインナチューブ12の環状隙間からなる前記環状油室17の断面積S1を、ピストンロッド23の断面積(外径に囲まれる面積)S2より大きく形成している(S1>S2)。
また、隔壁部材19のロッドガイド部19A及びスプリングシート51に、圧側行程では油溜室22からピストンロッド側油室21Aへの油の流れを許容し、伸側行程ではピストンロッド側油室21Aから油溜室22への油の流れを阻止するチェック弁60を設けている。隔壁部材19のロッドガイド部19Aとスプリングシート51の内周にはバルブ室61が設けられ、バルブ室61の上端側の段差部61Aと、バルブ室61の下端側に設けられた前述のスプリングシート51上のバックアップスプリング62との間にチェック弁60が収容される。チェック弁60は、段差部61Aとスプリングシート51の間隔より短尺とされ、下端面に横溝を形成される。チェック弁60は、スプリングシート51に設けたバルブ室61の内周に摺接して上下変位可能に設けられる。チェック弁60の外周は、バルブ室61の内周との間、スプリングシート51に設けた連絡路51Aに、油溜室22からピストンロッド側油室21Aへの油の流れを許容する流路を形成する。チェック弁60は、ピストンロッド23を摺動自在に支持するブッシュ63(不図示)をその内周に圧入されて備える。圧側行程では、チェック弁60はインナチューブ12に進入するピストンロッド23に連れ移動して下方に移動し、スプリングシート51に衝合するとともに、段差部61Aとの間に隙間を形成し、油溜室22の油を横溝からその外周経由で段差部61Aとの隙間、連絡路51Aを通ってピストンロッド側油室21Aへ流入可能とする。伸側行程では、チェック弁60はインナチューブ12から退出するピストンロッド23に連れ移動して上方に移動し、段差部61Aに衝合して該段差部61Aとの間の隙間を閉じ、ピストンロッド側油室21Aの油が上述した圧側行程の逆経路で油溜室22へ排出されることを阻止する。
また、隔壁部材19のロッドガイド部19Aに、伸側行程でピストンロッド側油室21Aの油を油溜室22へ流す体積補償流路64を設けている。体積補償流路64には後述する流路調整手段65を構成するオリフィスカラー66が設けられ、ピストンロッド側油室21Aと油溜室22をオリフィスカラー66の微小流路66Aにより連通する。
フロントフォーク10の動作は以下の如くになる。
(圧側行程)
圧側行程でインナチューブ12に進入するピストンロッド23の進入容積分の作動油がインナチューブ12の内周の油室21Aからインナチューブ12の油孔28を介して環状油室17に移送される。このとき、環状油室17の容積増加分ΔS1(補給量)がピストンロッド23の容積増加分ΔS2より大きいから、環状油室17への油の必要補給量のうち、(ΔS1−ΔS2)の不足分が油溜室22からチェック弁60を介して補給される。
この圧側行程では、前述した通り、低速域で、ニードル弁85により開度調整されたバイパス路45の通路抵抗により圧側減衰力を発生し、中高速域で、圧側ディスクバルブ41Aの撓み変形により圧側減衰力を発生する。
(伸側行程)
伸側行程でインナチューブ12から退出するピストンロッド23の退出容積分の作動油が環状油室17からインナチューブ12の油孔28を介してインナチューブ12の内周の油室21Aに移送される。このとき、環状油室17の容積減少分ΔS1(排出量)がピストンロッド23の容積減少分ΔS2より大きいから、環状油室17からの油の排出量のうち、(ΔS1−ΔS2)の余剰分が体積補償流路64の微小流路66Aを介して油溜室22へ排出される。
この伸側行程では、前述した通り、低速域で、ニードル弁85により開度調整されたバイパス路45の通路抵抗により伸側減衰力を発生し、中高速域で、伸側ディスクバルブ42Aの撓み変形により伸側減衰力を発生する。また、上述の微小流路66Aの通路抵抗による伸側減衰力も発生する。
以下、減衰力調整装置40Aについて説明する。
減衰力調整装置40Aは、図3、図4に示す如く、ピストンロッド23の中空部に回転方向及び軸方向に移動自在な非円形断面、本実施例ではD形断面の唯1本のプッシュロッド70を設け、プッシュロッド70を回転方向に移動させる第1調整部80と、プッシュロッド70を軸方向に移動させる第2調整部90を、フロントフォーク10の上部、かつプッシュロッド70の延長上に同軸配置する。そして、減衰力調整装置40Aは、プッシュロッド70の非円形断面内に摺動自在に係入するニードル弁85をピストンロッド23の中空部に螺合し、第1調整部80の回転によりニードル弁85を螺動させ、このニードル弁85によりバイパス路45の開度を調整し、ひいてはバイパス路45の通路抵抗による減衰力を調整可能にする。また、減衰力調整装置40Aは、プッシュロッド70と軸方向に衝合するスプリング95により、圧側ディスクバルブ41Aを閉じ方向にて該圧側ディスクバルブ41Aを付勢し、圧側ディスクバルブ41Aの撓み変形による圧側減衰力を調整可能にする。以下、第1調整部80と第2調整部90の構造、ニードル弁85を用いた減衰力調整構造、スプリング95を用いた減衰力調整構造について説明する。
(第1調整部80と第2調整部90の構造)(図3、図4)
キャップ組立体を構成するキャップ13がOリング13Cを介してアウタチューブ11の上端開口部に液密に螺着される。キャップ13の下端開口側には取付カラー24が螺着され、この取付カラー24にピストンロッド23の上端部が螺着されてロックナット24Aで固定される。
第1調整部80は、キャップ13の中心孔の下端開口側からOリング81を介して液密に挿着され、キャップ13の中間段差部に軸方向で係合して上方へ抜け止めされるとともに、キャップ13の下端開口側に螺着される取付カラー24の上端面に軸方向で衝合して下方へ抜け止めされ、結果として上端外周の操作ノブ80Aを用いてキャップ13に回転自在に設けられる。第1調整部80の取付カラー24に衝接する下端面は横溝を備え、この横溝に係合片83の両側突起を回転方向にて概ね遊びなく係合する。プッシュロッド70の非円形断面(D形断面)の外周を、係合片83の中心に設けた非円形孔(D形孔)に貫通し、回転方向には概ね遊びなく係合し、かつ軸方向には摺動自在にする。これにより、第1調整部80は、プッシュロッド70を回転方向に移動させることができる。80Bは操作ノブ80Aに対するディテント機構である。
第2調整部90は、第1調整部80の中心孔の下端開口側からOリング91を介して液密に挿着され、第1調整部80の中間段差部に軸方向で係合して上方へ抜け止めされる。第2調整部90の下端部には、押動子91Aが回転方向に係合、軸方向にスライド自在に係合される。押動子91Aの下端面は、第1調整部80の側に係合している係合片83の非円形孔を貫通しているプッシュロッド70の上端面と軸方向に隙間なく衝合する。尚、プッシュロッド70は、後述するスプリング95のばね力により上向きに付勢され、その上端面を常に第2調整部90の押動子91Aの下端面に衝合する。第2調整部90は、上端面の操作ノブ90Aを用いて第1調整部80に対し螺動され、プッシュロッド70を軸方向に移動させることができる。90Bは操作ノブ90Aに対するディテント機構である。
(ニードル弁85を用いた減衰力調整構造)(図3)
ピストンロッド23の中空部の下端部にはインナベース84が挿着され、ピストンロッド23の下端面とピストンボルト25の内径段差部とがインナベース84の下端フランジを挟圧固定している。インナベース84はピストンロッド23の中空部に圧入されても良い。このようにしてピストンロッド23に固定されたインナベース84の内周にニードル弁85が液密に挿入され、ニードル弁85の中間部のねじ部がピストンボルト25の内周に螺着される。ニードル弁85の上端部の非円形断面、本実施例ではD形断面をなす非円形断面部が、ピストンロッド23の中空部に挿入されているプッシュロッド70の下端部の非円形断面内に概ね遊びなく、軸方向には摺動自在に、回転方向には係合するように係入する。
第1調整部80が、前述の如く、プッシュロッド70を回転方向に移動させると、プッシュロッド70と回転方向に係合しているニードル弁85がピストンボルト25に対して螺動し、ピストンボルト25に設けてあるバイパス路45の縦孔上端部の弁シートに対して進退し、バイパス路45の開度を調整し、ひいてはバイパス路45の通路抵抗による圧側と伸側の減衰力を調整可能にする。
尚、第1調整部80がプッシュロッド70を介してニードル弁85を螺動させるとき、ニードル弁85は後述するスプリング95のための押動片92の中心孔に対して空動し、スプリング95に対して影響しない。
(スプリング95を用いた減衰力調整構造)(図3)
ピストンロッド23の下端側の直径方向の両側には、軸方向に延びる長孔状のガイド孔23Aが設けられ、押動片92の両側突起がそれらのガイド孔23Aに概ね遊びなく軸方向にスライド可能に係入されている。ピストンロッド23の中空部に挿入されているプッシュロッド70の下端面が押動片92の上面に直に衝接し、プッシュロッド70の下端部に前述の如く係入しているニードル弁85の非円形断面部が押動片92の中心に設けた円形孔に軸方向移動自在に遊挿される。
ピストンロッド23の下端部(ピストンボルト25)まわりには、押動片92の両端突起に下方から衝合するばね受け93と、圧側ディスクバルブ41Aの上面(背面)に衝合するバルブ押え94が配置され、ばね受け93とバルブ押え94の間にバルブ押えスプリング95が介装される。ばね受け93はカップ状をなし、カップの内周下端にて押動片92の両側突起と衝合し、カップの上端外周フランジにスプリング95を着座させる。バルブ押え94は、圧側ディスクバルブ41Aの上面の適宜の外径位置に全周連続的(間欠的でも可)に衝接する円環状押え部94Aと、ピストンボルト25の上端外周にスライドガイドされるスライド部94Bと、ピストンロッド側油室21Aを圧側流路41、伸側流路42、バイパス路45に連通する油路94Cを備え、外周段差部にスプリング95を着座させる。
第2調整部90が、前述の如く、プッシュロッド70を軸方向に移動させると、プッシュロッド70の下端面が衝接している押動片92がばね受け93を上下に移動してバルブ押えスプリング95を伸縮し、スプリング95のセット荷重を調整する。これにより、スプリング95のセット荷重がバルブ押え94を介して圧側ディスクバルブ41Aを閉じる方向に付勢し、圧側ディスクバルブ41Aの撓み変形による圧側減衰力を調整可能にする。バルブ押え94は押え部94Aの径を異にするものに交換することができ、大径の押え部94Aを備えたバルブ押え94は圧側ディスクバルブ41Aの外周側を押え、ピストン速度の低速域から減衰力を大きくする。小径の押え部94Aを備えたバルブ押え94は圧側ディスクバルブ41Aの内周側を押え、ピストン速度が中〜高速域で減衰力を大きくする。
尚、第2調整部90がプッシュロッド70を介して押動片92を移動するとき、プッシュロッド70及び押動片92はニードル弁85に対して軸方向に空動し、ニードル弁85に影響しない。
しかるに、本実施例にあっては、図5に示す如く、隔壁部材19のロッドガイド部19Aに設ける体積補償流路64の流路面積を調整する流路調整手段65を備える。流路調整手段65は、隔壁部材19のロッドガイド部19Aに設けられている体積補償流路64に選択的に螺着されて着脱される、複数の互いに流路面積(微小流路66A)を異にするオリフィスカラー66により構成される。
フロントフォーク10にあっては、アウタチューブ11からキャップ13を取外した後、隔壁部材19をインナチューブ12から取外し、隔壁部材19のロッドガイド部19Aにおけるピストンロッド側油室21Aに臨む下面側に螺着されるオリフィスカラー66を交換し、体積補償流路64に適宜の流路面積の微小流路66Aを設ける。尚、隔壁部材19のロッドガイド部19Aにおける油溜室22に臨む上面側にオリフィスカラー66を螺着するときには、アウタチューブ11からキャップ13を取外した後、隔壁部材19をインナチューブ12から取外すことなく、オリフィスカラー66を交換することもできる。
本実施例によれば以下の作用効果を奏する。
(a)フロントフォーク10において、体積補償流路64の流路面積を流路調整手段65により調整することにより、伸側行程で作動油室21から体積補償流路64を通って油溜室22に流れる油に付与する流路抵抗を調整し、ひいては作動油室21の圧力を多様に調整し、作動フィーリング(特に圧側初期段階の作動フィーリング)のセッティング性を向上できる。
(b)流路調整手段65が、体積補償流路64に選択的に着脱される、複数の互いに流路面積を異にするオリフィスカラー66により構成される。従って、オリフィスカラー66の交換により、体積補償流路64の流路面積を簡易に調整できる。
(実施例2)(図6〜図10)
フロントフォーク(油圧緩衝器)110は、アウタチューブ111を車体側に、インナチューブ112を車輪側に配置する倒立型フロントフォークであり、図6〜図9に示す如く、アウタチューブ111の下端開口部の内周に固定したガイドブッシュ111Aと、インナチューブ112の上端開口部の外周に固定したガイドブッシュ112A、インナチューブ112の上端部に設けた後述する隔壁部材119の外周に設けたシール部材120を介して、アウタチューブ111の内部にインナチューブ112を摺動自在に挿入する。111Bはオイルシール、111Cはダストシールである。アウタチューブ111の上端開口部にはキャップ113が液密に螺着され、アウタチューブ111の外周には車体側取付部材が設けられる。インナチューブ112の下端開口部には車軸ブラケット115が液密に挿着されて螺着されてインナチューブ112の底部を構成し、車軸ブラケット115には車軸取付孔116が設けられる。
フロントフォーク110は、アウタチューブ111の内周と、インナチューブ112の外周と、前記ガイドブッシュ111A、112Aにて区画される環状油室117を区画する。
フロントフォーク110は、インナチューブ112の上端側内周に隔壁部材119の外周を螺着するとともに、隔壁部材119の外周段差面をインナチューブ112の上端面に突き当てるようにして両者を一体固定化している。フロントフォーク110は、隔壁部材119のロッドガイド部119A(隔壁部)の下部のインナチューブ112の内部に作動油室121を区画するとともに、ロッドガイド部119Aの上部に油溜室122を区画する。油溜室122の中でその下側領域は油室122A(油面L)、上側領域は空気室122Bである。空気室122Bは常にフロントフォーク110の空気ばねを構成する。
フロントフォーク110は、アウタチューブ111に取付けたピストンロッド123(ピストン支持部材)を隔壁部材119のロッドガイド部119Aに摺動自在に貫通して作動油室121に挿入する。具体的には、キャップ113の中心部の下端部に螺着した取付カラー124に中空ピストンロッド123を螺着し、これをロックナット124Aで固定する。
フロントフォーク110は、隔壁部材119のロッドガイド部119Aからインナチューブ112に挿入したピストンロッド123の先端部に螺着したピストンボルト125に、インナチューブ112の内周に摺接するピストン126を固定し、前記油室121をピストンロッド123が収容されるピストンロッド側油室121Aと、ピストンロッド123が収容されないピストン側油室121Bに区画する。ピストン126はナット127により固定される。
フロントフォーク110は、前記環状油室117を、インナチューブ112に設けた油孔128を介して、ピストンロッド側油室121A(ピストン側油室121Bでも可)に常時連通する。
フロントフォーク110は、ピストン126のピストン側油室121Bに臨む下端面に上ばね受け131を衝合し、車軸ブラケット115が形成するインナチューブ112の底部に下ばね受け132を配置し、上ばね受け131と下ばね受け132に設けたスプリングカラー132Aの間に懸架スプリング133を介装している。フロントフォーク110は、車両走行時に路面から受ける衝撃力を懸架スプリング133の伸縮振動により吸収する。このとき、ばね荷重調整装置134が下ばね受け132を昇降し、懸架スプリング133のばね荷重を調整可能にする。
ばね荷重調整装置134は、図7に示す如く、インナチューブ112の底部を構成する車軸ブラケット115の車軸取付孔116を外れる位置(車軸取付孔116の側傍)で外部に臨むアジャストボルト134Aを該底部に設ける。車軸ブラケット115の内側底部(下ばね受け132の下端部を臨むことになる面)に設けたスライダ134Bをアジャストボルト134Aの回転力によりインナチューブ112の中心軸に交差する方向(アジャストボルト134Aの軸方向)に直線移動可能にする。下ばね受け132の下部斜面A1をスライダ134Bの上部斜面A2に載置させ、アジャストボルト134Aの回転により下ばね受け132を昇降させて懸架スプリング133のばね荷重を調整する。尚、ばね荷重調整装置134のばね荷重調整構造の詳細は、特願2006-177358に記載の通りである。
フロントフォーク110は、ピストン126に減衰力発生装置140を備える(図8)。
減衰力発生装置140は、圧側流路141と伸側流路142(不図示)を備える。圧側流路141は、バルブストッパ141Bにバックアップされる圧側ディスクバルブ141A(圧側減衰バルブ)により開閉される。伸側流路142は、バルブストッパ142Bにバックアップされる伸側ディスクバルブ142A(伸側減衰バルブ)により開閉される。尚、バルブストッパ141B、バルブ141A、ピストン126、バルブ142A、バルブストッパ142Bは、ピストンボルト125に挿着されるバルブ組立体を構成し、ピストンボルト125に螺着されるナット127に挟まれて固定される。
減衰力発生装置140は、キャップ113の中心部に後に詳述する減衰力調整装置140Aを設け、減衰力調整装置140Aのニードル弁185をピストンロッド123の中空部に挿入し、ピストンロッド123に設けたバイパス路145の開度をニードル弁185の上下動により調整する。バイパス路145は、ピストン126をバイパスし、ピストンロッド側油室121Aとピストン側油室121Bを連絡する。
減衰力発生装置140は、圧側行程では、低速域で、ニードル弁185により開度調整されたバイパス路145の通路抵抗により圧側減衰力を発生し、中高速域で、圧側ディスクバルブ141Aの撓み変形により圧側減衰力を発生する。また、伸側行程では、低速域で、ニードル弁185により開度調整されたバイパス路145の通路抵抗により伸側減衰力を発生し、中高速域で、伸側ディスクバルブ142Aの撓み変形により伸側減衰力を発生する。この圧側減衰力と伸側減衰力により、前述した懸架スプリング133の伸縮振動を制振する。
フロントフォーク110は、キャップ113の下端面に、インナチューブ112に設けた隔壁部材119の上端部が最圧縮ストロークで衝合するストッパラバー113A、ストッパ板113Bを固着しており、このストッパラバー113Aによって最圧縮ストロークを規制する。
フロントフォーク110は、インナチューブ112の上端側の隔壁部材119のピストンロッド側油室121Aに臨む下端部に止め輪151Aを用いて固定したスプリングシート151と、ピストンロッド123に設けたストッパリング152Aに係止させたスプリングシート152との間にリバウンドスプリング153を介装してある。フロントフォーク110の最伸長時に、隔壁部材119がリバウンドスプリング153をスプリングシート152との間で加圧することにより、最伸長ストロークを規制する。
フロントフォーク110にあっては、アウタチューブ111とインナチューブ112の環状隙間からなる前記環状油室117の断面積S1を、ピストンロッド123の断面積(外径に囲まれる面積)S2より大きく形成している(S1>S2)。
フロントフォーク110は、隔壁部材119のロッドガイド部119Aに、作動油室121と油溜室122との間で油を給排可能にする給排手段を以下の如くに設けている。即ち、隔壁部材119のロッドガイド部119Aに、圧側行程では油溜室122からピストンロッド側油室121Aへの油の流れを許容し、伸側行程ではピストンロッド側油室121Aから油溜室122への油の流れを阻止するチェック弁160を設けている。隔壁部材119のロッドガイド部119Aの内周にはバルブ室161が設けられ、バルブ室161の上端側の段差部161Aと、バルブ室161の下端側に設けられた前述のスプリングシート151上のバックアップスプリング162との間にチェック弁160のフランジ部が挟持されて収容される。チェック弁160のフランジ部は、段差部161Aとスプリングシート151の間隔より短尺とされる。チェック弁160は、隔壁部材119のロッドガイド部119Aに設けたバルブ室161の内周に上下変位可能に設けられる。チェック弁160の外周は、隔壁部材119のロッドガイド部119Aに設けたバルブ室161の内周との間に、油溜室122からピストンロッド側油室121Aへの油の流れを許容する流路を形成する。チェック弁160は、ピストンロッド123を摺動自在に支持するブッシュ163をその内周に圧入されて備える。圧側行程では、チェック弁160はインナチューブ112に進入するピストンロッド123に連れ移動して下方に移動し、スプリングシート151の側に変位するとともに、段差部161Aとの間に隙間を形成し、油溜室122の油をその外周経由で段差部161Aとの隙間を通ってピストンロッド側油室121Aへ流入可能とする。伸側行程では、チェック弁160はインナチューブ112から退出するピストンロッド123に連れ移動して上方に移動し、段差部161Aに衝合して該段差部161Aとの間の隙間を閉じ、ピストンロッド側油室121Aの油が上述した圧側行程の逆経路で油溜室122へ排出されることを阻止する。
また、隔壁部材119のロッドガイド部119Aに、伸側行程でピストンロッド側油室121Aの油を油溜室122へ流す体積補償流路164を設けている。体積補償流路164は孔164Aからなる。体積補償流路164の孔164Aは後述する流路調整手段165としてのニードル弁166により開度設定される微小流路164Bを形成し、ピストンロッド側油室121Aと油溜室122をこの微小流路164Bにより連通する。
フロントフォーク110の動作は以下の如くになる。
(圧側行程)
圧側行程でインナチューブ112に進入するピストンロッド123の進入容積分の作動油がインナチューブ112の内周の油室121Aからインナチューブ112の油孔128を介して環状油室117に移送される。このとき、環状油室117の容積増加分ΔS1(補給量)がピストンロッド123の容積増加分ΔS2より大きいから、環状油室117への油の必要補給量のうち、(ΔS1−ΔS2)の不足分が油溜室122からチェック弁160を介して補給される。
この圧側行程では、前述した通り、低速域で、ニードル弁185により開度調整されたバイパス路145の通路抵抗により圧側減衰力を発生し、中高速域で、圧側ディスクバルブ141Aの撓み変形により圧側減衰力を発生する。
(伸側行程)
伸側行程でインナチューブ112から退出するピストンロッド123の退出容積分の作動油が環状油室117からインナチューブ112の油孔128を介してインナチューブ112の内周の油室121Aに移送される。このとき、環状油室117の容積減少分ΔS1(排出量)がピストンロッド123の容積減少分ΔS2より大きいから、環状油室117からの油の排出量のうち、(ΔS1−ΔS2)の余剰分が体積補償流路164の微小流路164Bを介して油溜室122へ排出される。
この伸側行程では、前述した通り、低速域で、ニードル弁185により開度調整されたバイパス路145の通路抵抗により伸側減衰力を発生し、中高速域で、伸側ディスクバルブ142Aの撓み変形により伸側減衰力を発生する。また、上述の微小流路164Bの通路抵抗による伸側減衰力も発生する。
以下、減衰力調整装置140Aについて説明する。
減衰力調整装置140Aは、図8、図9に示す如く、ピストンロッド123の中空部に回転方向及び軸方向に移動自在な非円形断面、本実施例ではD形断面の唯1本のプッシュロッド170を設け、プッシュロッド170を回転方向に移動させる第1調整部180と、プッシュロッド170を軸方向に移動させる第2調整部190を、フロントフォーク110の上部、かつプッシュロッド170の延長上に同軸配置する。そして、減衰力調整装置140Aは、プッシュロッド170の非円形断面内に摺動自在に係入するニードル弁185をピストンロッド123の中空部に螺合し、第1調整部180の回転によりニードル弁185を螺動させ、このニードル弁185によりバイパス路145の開度を調整し、ひいてはバイパス路145の通路抵抗による減衰力を調整可能にする。また、減衰力調整装置140Aは、プッシュロッド170と軸方向に衝合するスプリング195により、圧側ディスクバルブ141Aを閉じ方向にて該圧側ディスクバルブ141Aを付勢し、圧側ディスクバルブ141Aの撓み変形による圧側減衰力を調整可能にする。以下、第1調整部180と第2調整部190の構造、ニードル弁185を用いた減衰力調整構造、スプリング195を用いた減衰力調整構造について説明する。
(第1調整部180と第2調整部190の構造)(図9)
キャップ組立体を構成するキャップ113がOリング113Cを介してアウタチューブ111の上端開口部に液密に螺着される。キャップ113の下端開口側には取付カラー124が螺着され、この取付カラー124にピストンロッド123の上端部が螺着されてロックナット124Aで固定される。
第1調整部180は、キャップ113の中心孔の下端開口側からOリング181を介して液密に挿着され、キャップ113の中間段差部に軸方向で係合して上方へ抜け止めされるとともに、キャップ113の下端開口側に螺着される取付カラー124の上端面の上に載置される係合片183に軸方向で衝合して下方へ抜け止めされ、結果として上端外周の操作面180Aを用いてキャップ113に回転自在に設けられる。第1調整部180の係合片183に衝接する下端面は横溝を備え、この横溝に係合片183の両側突起を回転方向にて概ね遊びなく係合する。プッシュロッド170の非円形断面(D形断面)の外周を、係合片183の中心に設けた非円形孔(D形孔)に貫通し、回転方向には概ね遊びなく係合し、かつ軸方向には摺動自在にする。これにより、第1調整部180は、プッシュロッド170を回転方向に移動させることができる。
第2調整部190は、第1調整部180の中心孔の下端開口側からOリング191を介して液密に挿着され、第1調整部180の中間段差部に軸方向で係合して上方へ抜け止めされる。第2調整部190の下端面は、第1調整部180の側に係合している係合片183の非円形孔を貫通しているプッシュロッド170の上端面と軸方向に隙間なく衝合する。尚、プッシュロッド170は、後述するスプリング195のばね力により上向きに付勢され、その上端面を常に第2調整部190の下端面に衝合する。第2調整部190は、上端面の操作溝190Aを用いて第1調整部180に対し螺動され、プッシュロッド170を軸方向に移動させることができる。
(ニードル弁185を用いた減衰力調整構造)(図8)
ピストンロッド123の中空部の下端部にはインナベース184が挿着され、ピストンロッド123の下端面とピストンボルト125の内径段差部とがインナベース184の下端フランジを挟圧固定している。インナベース184はピストンロッド123の中空部に圧入されても良い。このようにしてピストンロッド123に固定されたインナベース184の内周にニードル弁185が液密に挿入され、ニードル弁185の中間部のねじ部がピストンボルト125の内周に螺着される。ニードル弁185の上端部の非円形断面、本実施例ではD形断面をなす非円形断面部が、ピストンロッド123の中空部に挿入されているプッシュロッド170の下端部の非円形断面内に概ね遊びなく、軸方向には摺動自在に、回転方向には係合するように係入する。
第1調整部180が、前述の如く、プッシュロッド170を回転方向に移動させると、プッシュロッド170と回転方向に係合しているニードル弁185がピストンボルト125に対して螺動し、ピストンボルト125に設けてあるバイパス路145の縦孔上端部の弁シートに対して進退し、バイパス路145の開度を調整し、ひいてはバイパス路145の通路抵抗による圧側と伸側の減衰力を調整可能にする。
尚、第1調整部180がプッシュロッド170を介してニードル弁185を螺動させるとき、ニードル弁185は後述するスプリング195のための押動片192の中心孔に対して空動し、スプリング195に対して影響しない。
(スプリング195を用いた減衰力調整構造)(図8)
ピストンロッド123の下端側の直径方向の両側には、軸方向に延びる長孔状のガイド孔123Aが設けられ、押動片192の両側突起がそれらのガイド孔123Aに概ね遊びなく軸方向にスライド可能に係入されている。ピストンロッド123の中空部に挿入されているプッシュロッド170の下端面が押動片192の上面に直に衝接し、プッシュロッド170の下端部に前述の如く係入しているニードル弁185の非円形断面部が押動片192の中心に設けた円形孔に軸方向移動自在に遊挿される。
ピストンロッド123の下端部(ピストンボルト125)まわりには、押動片192の両端突起に下方から衝合するばね受け193と、圧側ディスクバルブ141Aの上面(背面)に衝合するバルブ押え194が配置され、ばね受け193とバルブ押え194の間にバルブ押えスプリング195が介装される。ばね受け193はカップ状をなし、カップの内周下端にて押動片192の両側突起と衝合し、カップの上端外周フランジにスプリング195を着座させる。バルブ押え194は、圧側ディスクバルブ141Aの上面の適宜の外径位置に全周連続的(間欠的でも可)に衝接する円環状押え部194Aと、ピストンボルト125の上端外周にスライドガイドされるスライド部194Bと、ピストンロッド側油室121Aを圧側流路141、伸側流路142、バイパス路145に連通する油路194Cを備え、外周段差部にスプリング195を着座させる。
第2調整部190が、前述の如く、プッシュロッド170を軸方向に移動させると、プッシュロッド170の下端面が衝接している押動片192がばね受け193を上下に移動してバルブ押えスプリング195を伸縮し、スプリング195のセット荷重を調整する。これにより、スプリング195のセット荷重がバルブ押え194を介して圧側ディスクバルブ141Aを閉じる方向に付勢し、圧側ディスクバルブ141Aの撓み変形による圧側減衰力を調整可能にする。バルブ押え194は押え部194Aの径を異にするものに交換することができ、大径の押え部194Aを備えたバルブ押え194は圧側ディスクバルブ141Aの外周側を押え、ピストン速度の低速域から減衰力を大きくする。小径の押え部194Aを備えたバルブ押え194は圧側ディスクバルブ141Aの内周側を押え、ピストン速度が中〜高速域で減衰力を大きくする。
尚、第2調整部190がプッシュロッド170を介して押動片192を移動するとき、プッシュロッド170及び押動片192はニードル弁185に対して軸方向に空動し、ニードル弁185に影響しない。
しかるに、本実施例にあっては、図10に示す如く、隔壁部材119のロッドガイド部119Aに設ける体積補償流路164の流路面積を調整する流路調整手段165を備える。流路調整手段165は、隔壁部材119のロッドガイド部119Aに設けられている体積補償流路164の孔164Aに対して出入方向に移動するニードル弁166からなる。ニードル弁166は、体積補償流路164の孔164Aの開度を調整する開閉弁を構成する。
ニードル弁166は、隔壁部材119の上端側の内周に設けてある環状フランジ部119Bに螺着される操作部166Aと、隔壁部材119の下端側のロッドガイド部119Aに設けてある体積補償流路164の孔164A内に進退するニードル部166Bを備える。操作部166Aはアウタチューブ111の上端開口部に臨む。
流路調整手段165は、アウタチューブ111からキャップ113を取外した後、隔壁部材119をインナチューブ112から取外すことなく、アウタチューブ111の上端開口部に臨むニードル弁166の操作部166Aを螺動操作することにより、体積補償流路164の孔164Aに適宜の流路面積の微小流路164Bを形成する。
本実施例によれば以下の作用効果を奏する。
(a)フロントフォーク110において、体積補償流路164の流路面積を流路調整手段165により調整することにより、伸側行程で作動油室121から体積補償流路164を通って油溜室122に流れる油に付与する流路抵抗を調整し、ひいては作動油室121の圧力を多様に調整し、作動フィーリング(特に圧側初期段階の作動フィーリング)のセッティング性を向上できる。
(b)流路調整手段165が、体積補償流路164を開閉する開閉弁としてのニードル弁166により構成される。従って、ニードル弁166の開閉操作により体積補償流路164の孔164Aの開度を調整し、体積補償流路164の流路面積(微小流路164B)を簡易に調整できる。
(c)体積補償流路164及び流路調整手段165が隔壁部材119のロッドガイド部119Aに設けられる。従って、アウタチューブのキャップ113を外した後、流路調整手段165を操作して体積補償流路164の流路面積を調整できる。
(実施例3)(図11〜図18)
フロントフォーク(油圧緩衝器)210は、アウタチューブ211を車体側に、インナチューブ212を車輪側に配置する倒立型フロントフォークであり、図11〜図15に示す如く、アウタチューブ211の下端開口部の内周に固定したガイドブッシュ211Aと、インナチューブ212の上端開口部の外周に固定したガイドブッシュ212Aと、インナチューブ212の上端部に設けた後述する隔壁部材219の外周に設けたシール部材220を介して、アウタチューブ211の内部にインナチューブ212を摺動自在に挿入する。211Bはオイルシール、211Cはダストシールである。アウタチューブ211の上端開口部にはキャップ213が液密に螺着され、アウタチューブ211の外周には車体側取付部材が設けられる。インナチューブ212の下端開口部には車軸ブラケット215が液密に挿着されて螺着されてインナチューブ212の底部を構成し、車軸ブラケット215には車軸取付孔216が設けられる。
フロントフォーク210は、アウタチューブ211の内周と、インナチューブ212の外周と、前記2つのガイドブッシュ211A、212Aにて区画される環状油室217を区画する。
フロントフォーク210は、インナチューブ212の上端側内周にOリングを介する等により液密に、隔壁部材219(図16)を螺着して設け、隔壁部材219のロッドガイド部219Aより下部に作動油室221を区画するとともに、上部に油溜室222を区画する。油溜室222の中でその下側領域は油室222A(油面L)、上側領域は空気室222Bである。尚、隔壁部材219の作動油室221に臨む下端面には後述するスプリングシート251が螺着固定され、隔壁部材219のロッドガイド部219Aの内周には、スプリングシート251により抜け止めされるブッシュ219Bが装填される。
フロントフォーク210は、アウタチューブ211に取付けたピストンロッド223を隔壁部材219のロッドガイド部219A(ブッシュ219B)に摺動自在に挿入する。具体的には、キャップ213の下端部に球面軸受(ピローボール)224(外輪224A、内輪224B、外ピース224C、内ピース224D)を介して取付カラー224Eを連結し、取付カラー224Eに中空ピストンロッド223を螺着し、これをロックナット224Fで固定する。球面軸受224は、外輪224Aと内輪224Bを有し、外輪224Aを下から保持する外ピース224Cをキャップ213の下端部に螺合し、外ピース224Cとキャップ213で外輪224Aを挟み込み、内輪224Bを上から保持する内ピース224Dを取付カラー224Eの下端部に螺合し、内ピース224Dと取付カラー224Eで内輪224Bを挟み込む。
フロントフォーク210は、隔壁部材219のロッドガイド部219Aからインナチューブ212に挿入したピストンロッド223の先端部に螺着したピストンボルト225に、インナチューブ212の内周に摺接するピストン226を固定し、前記油室221をピストンロッド223が収容されるピストンロッド側油室221Aと、ピストンロッド223が収容されないピストン側油室221Bに区画する。ピストン226はピストンナット227により固定される。
フロントフォーク210は、前記環状油室217を、インナチューブ212に設けた油孔228を介して、ピストンロッド側油室221Aに常時連通する。
フロントフォーク210は、ピストン226のピストン側油室221Bに臨む下端面の側に上ばね受け231を後述する如くに取着し、車軸ブラケット215が形成するインナチューブ212の底部に下ばね受け232を配置し、上ばね受け231と下ばね受け232の間に懸架スプリング233を介装している。フロントフォーク210は、車両走行時に路面から受ける衝撃力を懸架スプリング233の伸縮振動により吸収する。このとき、ばね荷重調整装置234が下ばね受け232を昇降し、懸架スプリング233のばね荷重を調整可能にする。
ばね荷重調整装置234は、図12に示す如く、インナチューブ212の底部を構成する車軸ブラケット215の内部に油圧ジャッキケース234Aを液密に配置し、油圧ジャッキケース234Aの外周フランジをインナチューブ212の下端面と軸受ブラケット215の内周段差部との間に挟持する。油圧ジャッキケース234Aの中心部にはプランジャ234Bを液密に摺動自在に内挿し、車軸ブラケット215と油圧ジャッキケース234Aとプランジャ234Bの下面(受圧面)によりジャッキ室234Cを区画し、車軸ブラケット215に設けたオイル給排装置235の送油路をジャッキ室234Cにつなぐ。
このとき、下ばね受け232はインナチューブ212に内挿されるベース部232Aと、ベース部232Aに螺着される有天筒状のスプリングガイド部232Bを有し、ばね荷重調整装置234のプランジャ234Bの上面がベース部232Aの下面に突き当てられる。オイル給排装置235からジャッキ室234Cにオイルを給排することによりプランジャ234Bが昇降し、このプランジャ234Bが衝合している下ばね受け232(ベース部232A)が昇降する。下ばね受け232は、ピストンロッド223側の上ばね受け231との間で、懸架スプリング233の初期長さを調整し、懸架スプリング233のばね荷重を調整するものになる。
フロントフォーク210は、ピストン226に減衰力発生装置240を備える(図13)。
減衰力発生装置240は、圧側流路241と伸側流路242を備える。圧側流路241は、バルブストッパ241Bにバックアップされる圧側ディスクバルブ241A(圧側減衰バルブ)により開閉される。伸側流路242は、バルブストッパ242Bにバックアップされる伸側ディスクバルブ242A(伸側減衰バルブ)により開閉される。尚、バルブストッパ241B、バルブ241A、ピストン226、バルブ242A、バルブストッパ242Bは、ピストンボルト225に挿着されるバルブ組立体を構成し、ピストンボルト225に螺着されるピストンナット227に挟まれて固定される。
減衰力発生装置240は、キャップ213の中心部に後に詳述する減衰力調整装置240Aを設け、減衰力調整装置240Aのニードル弁285をピストンロッド223の中空部に挿入し、ピストンロッド223に設けたバイパス路245の開度をニードル弁285の上下動により調整する。バイパス路245は、ピストン226をバイパスし、ピストンロッド側油室221Aとピストン側油室221Bを連絡する。
減衰力発生装置240は、圧側行程では、低速域で、ニードル弁285により開度調整されたバイパス路245の通路抵抗により圧側減衰力を発生し、中高速域で、圧側ディスクバルブ241Aの撓み変形により圧側減衰力を発生する。また、伸側行程では、低速域で、ニードル弁285により開度調整されたバイパス路245の通路抵抗により伸側減衰力を発生し、中高速域で、伸側ディスクバルブ242Aの撓み変形により伸側減衰力を発生する。この圧側減衰力と伸側減衰力により、前述した懸架スプリング233の伸縮振動を制振する。
以下、懸架スプリング233の伸縮時に、上下のばね受け231、232が懸架スプリング233に与える回転摩擦を低減可能にする、上ばね受け取着構造236について説明する。
上ばね受け取着構造236は、図13に示す如く、ピストン支持部材であるピストンロッド223のピストンボルト225の先端部であって、ピストン226よりも懸架スプリング233寄りのピストンボルト225の先端部に、上ばね受け231を回転自在かつ脱落不能に取着する。
具体的には、ピストンボルト225の先端部に取付カラー237を螺着する。取付カラー237はピストンロッド223のバイパス路245をピストン側油室221Bに連絡する中心孔を備える。取付カラー237は上フランジの下側にベアリング238、上ばね受け231を装填し、これらを止め輪239で保持する。上ばね受け231は孔あきかご状をなし、かご底部の中心部を取付カラー237に挿し込む。上ばね受け231が下ばね受け232との間で懸架スプリング233を支持するとき、上ばね受け231は止め輪239との間に僅かな隙間を介して回転自在になる。
フロントフォーク210は、キャップ213の下端面に、インナチューブ212に設けた隔壁部材219の上端部が最圧縮ストロークで衝合するストッパラバー213A、ストッパ板213Bを固着しており、このストッパラバー213Aによって最圧縮ストロークを規制する。
フロントフォーク210は、インナチューブ212の上端側の隔壁部材219のピストンロッド側油室221Aに臨む下端面に螺着固定したスプリングシート251と、ピストンロッド223に設けたストッパリング252Aに係止させたスプリングシート252との間にリバウンドスプリング253を介装してある。フロントフォーク210の最伸長時に、隔壁部材219がリバウンドスプリング253をスプリングシート252との間で加圧することにより、最伸長ストロークを規制する。
しかるに、フロントフォーク210にあっては、アウタチューブ211とインナチューブ212の環状隙間からなる前記環状油室217の断面積S1を、ピストンロッド223の断面積(外径に囲まれる面積)S2より大きく形成している(S1>S2)。
また、隔壁部材219のロッドガイド部219Aに、圧側行程では油溜室222からピストンロッド側油室221Aへの油の流れを許容し、伸側行程ではピストンロッド側油室221Aから油溜室222への油の流れを阻止するチェック弁260を設けている。隔壁部材219のロッドガイド部219Aにはピストンロッド側油室221Aと油溜室222を連絡可能にする複数の連絡路261が設けられ、連絡路261が開口するロッドガイド部219Aの下面に薄板状のチェック弁260が設けられる。圧側行程では、油溜室222の油が連絡路261を通ってチェック弁260を押し開き、ピストンロッド側油室221Aへ流入する。伸側行程では、チェック弁260はピストンロッド側油室221Aの油圧によりロッドガイド部219Aの下面に押し当てられて連絡路261を閉じ、ピストンロッド側油室221Aの油が上述した圧側行程の逆流路で油溜室222へ排出されることを阻止する。
また、隔壁部材219のロッドガイド部219Aにつながる下端側の外径縮径部219C(インナチューブ112の内周との間に、ピストンロッド側油室221Aの一部となる環状間隙を形成する)に、伸側行程でピストンロッド側油室221Aの油を油溜室222へ流す体積補償流路262を設けている。体積補償流路262は隔壁部材219における外径縮径部219Cの周方向複数ヵ所に設けられる窓状スリット262Aからなる。体積補償流路262のスリット262Aは後述する流路調整手段263としてのシャッター弁264により開度設定される微小流路262Bを形成し、ピストンロッド側油室221Aと油溜室222をこの微小流路262Bにより連通する。
フロントフォーク210の動作は以下の如くになる。
(圧側行程)
圧側行程でインナチューブ212に進入するピストンロッド223の進入容積分の作動油がインナチューブ212の内周の油室221Aからインナチューブ212の油孔228を介して環状油室217に移送される。このとき、環状油室217の容積増加分ΔS1(補給量)がピストンロッド223の容積増加分ΔS2より大きいから、環状油室217への油の必要補給量のうち、(ΔS1−ΔS2)の不足分が油溜室222からチェック弁260を介して補給される。
この圧側行程では、前述した通り、低速域で、ニードル弁285により開度調整されたバイパス路245の通路抵抗により圧側減衰力を発生し、中高速域で、圧側ディスクバルブ241Aの撓み変形により圧側減衰力を発生する。
(伸側行程)
伸側行程でインナチューブ212から退出するピストンロッド223の退出容積分の作動油が環状油室217からインナチューブ212の油孔228を介してインナチューブ212の内周の油室221Aに移送される。このとき、環状油室217の容積減少分ΔS1(排出量)がピストンロッド223の容積減少分ΔS2より大きいから、環状油室217からの油の排出量のうち、(ΔS1−ΔS2)の余剰分が体積補償流路262の微小流路262Bを介して油溜室222へ排出される。
この伸側行程では、前述した通り、低速域で、ニードル弁285により開度調整されたバイパス路245の通路抵抗により伸側減衰力を発生し、中高速域で、伸側ディスクバルブ242Aの撓み変形により伸側減衰力を発生する。また、上述の微小流路262Bの通路抵抗による伸側減衰力も発生する。
以下、減衰力調整装置240Aについて説明する。
減衰力調整装置240Aは、図13、図15に示す如く、ピストンロッド223の中空部に回転方向及び軸方向に移動自在な非円形断面、本実施例ではD形断面の唯1本のプッシュロッド270を設け、プッシュロッド270を回転方向に移動させる第1調整部280と、プッシュロッド270を軸方向に移動させる第2調整部290を、フロントフォーク210の上部、かつプッシュロッド270の延長上に同軸配置する。そして、減衰力調整装置240Aは、プッシュロッド270の非円形断面内に摺動自在に係入するニードル弁285をピストンロッド223の中空部に螺合し、第1調整部280の回転によりニードル弁285を螺動させ、このニードル弁285によりバイパス路245の開度を調整し、ひいてはバイパス路245の通路抵抗による減衰力を調整可能にする。また、減衰力調整装置240Aは、プッシュロッド270と軸方向に衝合するスプリング295により、圧側ディスクバルブ241Aを閉じ方向にて該圧側ディスクバルブ241Aを付勢し、圧側ディスクバルブ241Aの撓み変形による圧側減衰力を調整可能にする。以下、第1調整部280と第2調整部290の構造、ニードル弁285を用いた減衰力調整構造、スプリング295を用いた減衰力調整構造について説明する。
(第1調整部280と第2調整部290の構造)(図15)
キャップ組立体を構成するキャップ213がOリング213Cを介してアウタチューブ211の上端開口部に液密に螺着される。キャップ213の下端側には球面軸受224を介して取付カラー224Eが螺着され、この取付カラー224Eにピストンロッド223の上端部が螺着されてロックナット224Fで固定される。
第1調整部280は、キャップ213の中心孔の下端開口側からOリング281を介して液密に挿着され、キャップ213の中間段差部に軸方向で係合して上方へ抜け止めされるとともに、球面軸受224の内ピース224Dの上端面に軸方向で衝合して下方へ抜け止めされ、結果として上端外周の操作ノブ280Aを用いてキャップ213に回転自在に設けられる。第1調整部280の内ピース224Dに衝接する下端面は横溝を備え、この横溝に係合片283の両側突起を回転方向にて概ね遊びなく係合する。プッシュロッド270の非円形断面(D形断面)の外周を、係合片283の中心に設けた非円形孔(D形孔)に貫通し、回転方向には概ね遊びなく係合し、かつ軸方向には摺動自在にする。これにより、第1調整部280は、プッシュロッド270を回転方向に移動させることができる。280Bは操作ノブ280Aに対するディテント機構である。
第2調整部290は、第1調整部280の中心孔の下端開口側からOリング291を介して液密に挿着され、第1調整部280の中間段差部に軸方向で係合して上方へ抜け止めされる。第2調整部290の下端部には、押動子291Aが回転方向に係合、軸方向にスライド自在に係合される。押動子291Aは第1調整部280の中心孔に螺合され、押動子291Aの下端面は、第1調整部280の側に係合している係合片283の非円形孔を貫通しているプッシュロッド270のD形孔の上端部に挿着されているロッドエンド271の球面状上端面と軸方向に隙間なく衝合する。尚、プッシュロッド270は、後述するスプリング295のばね力により上向きに付勢され、そのロッドエンド271の上端面を常に第2調整部290の押動子291Aの下端面に衝合する。第2調整部290は、上端面の操作ノブ290Aを用いて第1調整部280に対し螺動され、プッシュロッド270を軸方向に移動させることができる。290Bは操作ノブ290Aに対するディテント機構である。
(ニードル弁285を用いた減衰力調整構造)(図13)
ピストンロッド223の中空部の下端部にはインナベース284が挿着され、ピストンロッド223の下端面とピストンボルト225の内径段差部とがインナベース284の下端フランジを挟圧固定している。インナベース284はピストンロッド223の中空部に圧入されても良い。このようにしてピストンロッド223に固定されたインナベース284の内周にニードル弁285が液密に挿入され、ニードル弁285の中間部のねじ部がピストンボルト225の内周に螺着される。ニードル弁285の上端部の非円形断面、本実施例ではD形断面をなす非円形断面部が、ピストンロッド223の中空部に挿入されているプッシュロッド270の下端部の非円形断面内に概ね遊びなく、軸方向には摺動自在に、回転方向には係合するように係入する。
第1調整部280が、前述の如く、プッシュロッド270を回転方向に移動させると、プッシュロッド270と回転方向に係合しているニードル弁285がピストンボルト225に対して螺動し、ピストンボルト225に設けてあるバイパス路245の縦孔上端部の弁シートに対して進退し、バイパス路245の開度を調整し、ひいてはバイパス路245の通路抵抗による圧側と伸側の減衰力を調整可能にする。
尚、第1調整部280がプッシュロッド270を介してニードル弁285を螺動させるとき、ニードル弁285は後述するスプリング295のための押動片292の中心孔に対して空動し、スプリング295に対して影響しない。
(スプリング295を用いた減衰力調整構造)(図13)
ピストンロッド223の下端側の直径方向の両側には、軸方向に延びる長孔状のガイド孔223Aが設けられ、押動片292の両側突起がそれらのガイド孔223Aに概ね遊びなく軸方向にスライド可能に係入されている。ピストンロッド223の中空部に挿入されているプッシュロッド270の下端面が押動片292の上面に直に衝接し、プッシュロッド270の下端部に前述の如く係入しているニードル弁285の非円形断面部が押動片292の中心に設けた円形孔に軸方向移動自在に遊挿される。
ピストンロッド223の下端部(ピストンボルト225)まわりには、押動片292の両端突起に下方から衝合するばね受け293と、圧側ディスクバルブ241Aの上面(背面)に衝合するバルブ押え294が配置され、ばね受け293とバルブ押え294の間にバルブ押えスプリング295が介装される。ばね受け293はカップ状をなし、カップの内周下端にて押動片292の両側突起と衝合し、カップの上端外周フランジにスプリング295を着座させる。バルブ押え294は、圧側ディスクバルブ241Aの上面の適宜の外径位置に全周連続的(間欠的でも可)に衝接する円環状押え部294Aと、ピストンボルト225の上端外周にスライドガイドされるスライド部294Bと、ピストンロッド側油室221Aを圧側流路241、伸側流路242、バイパス路245に連通する油路294Cを備え、外周段差部にスプリング295を着座させる。
第2調整部290が、前述の如く、プッシュロッド270を軸方向に移動させると、プッシュロッド270の下端面が衝接している押動片292がばね受け293を上下に移動してバルブ押えスプリング295を伸縮し、スプリング295のセット荷重を調整する。これにより、スプリング295のセット荷重がバルブ押え294を介して圧側ディスクバルブ241Aを閉じる方向に付勢し、圧側ディスクバルブ241Aの撓み変形による圧側減衰力を調整可能にする。バルブ押え294は押え部294Aの径を異にするものに交換することができ、大径の押え部294Aを備えたバルブ押え294は圧側ディスクバルブ241Aの外周側を押え、ピストン速度の低速域から減衰力を大きくする。小径の押え部294Aを備えたバルブ押え294は圧側ディスクバルブ241Aの内周側を押え、ピストン速度が中〜高速域で減衰力を大きくする。
尚、第2調整部290がプッシュロッド270を介して押動片292を移動するとき、プッシュロッド270及び押動片292はニードル弁285に対して軸方向に空動し、ニードル弁285に影響しない。
しかるに、本実施例にあっては、図14に示す如く、隔壁部材119に設ける体積補償流路262(スリット262A)の流路面積を調整して適宜の微小流路262Bを形成するための流路調整手段263を備える。流路調整手段263は、シャッター弁264(図17)と操作部材265(図18)からなる。
シャッター弁264は、隔壁部材219の内周にOリングを介して液密に挿入されるとともに螺着され、最下端側の外周に設けた環状凹部に複数個のOリングを介して装填したピストンリング264Aにより、隔壁部材219のスリット262A(体積補償流路262)を開閉可能にする。シャッター弁264は体積補償流路262のスリット262Aの開度を調整する開閉弁を構成する。ピストンリング264Aは背面のOリングにより拡径方向に張り設けられ、隔壁部材219の内周に密接する。
操作部材265は、隔壁部材219の内周に回動可能に装填される。操作部材265は、隔壁部材219の内周に設けた段差部219Dと止め輪266の間の環状ガイドに係合する環状凸部265Aを備えるとともに、隔壁部材219の内周に開口する係止孔219Eに係合するディテント機構269を備える。操作部材265は、シャッター弁264の上端側の周方向複数位置(本実施例では直径上の2位置)に設けたスライド溝264Bに係入する係合凸部265Bを周方向複数位置(本実施例では直径上の2位置)に備える。
流路調整手段263は、アウタチューブ211からキャップ213を取外した後、隔壁部材219をインナチューブ212から外すことなく、アウタチューブ211の上端開口部に臨む操作部材265を回動操作することにより、シャッター弁264を隔壁部材219に対して螺動できる。シャッター弁264が螺動の下端限にあるとき、ピストンリング264Aは隔壁部材219のスリット262A(体積補償流路262)を完全に閉じる。シャッター弁264が下端限から上方に向けて螺動されると、シャッター弁264のピストンリング264Aは隔壁部材219の内周を上方へとスライド移動し、スリット262Aを下端側から僅かずつ開き、適宜開度の微小流路262Bを形成する。これにより、伸側行程でピストンロッド側油室221Aの油がこの微小流路262Bから、シャッター弁264内の油溜室222に排出されることになる。
尚、油溜室222の油室222A内に位置するシャッター弁264の内周中間部に設けた段差部には、多数の貫通孔を備えた孔あき板267が止め輪268で固定されており、微小流路262Bから油溜室222に流入する油の上方(空気室222B側)への飛散を防止する。
本実施例によれば以下の作用効果を奏する。
(a)フロントフォーク210において、体積補償流路262の流路面積を流路調整手段263により調整することにより、伸側行程で作動油室221から体積補償流路262を通って油溜室222に流れる油に付与する流路抵抗を調整し、ひいては作動油室221の圧力を多様に調整し、作動フィーリング(特に圧側初期段階の作動フィーリング)のセッティング性を向上できる。
(b)流路調整手段263が、体積補償流路262を開閉する開閉弁としてのシャッター弁264により構成される。従って、シャッター弁264の開閉操作により体積補償流路262のスリット262Aの開度を調整し、体積補償流路262の流路面積(微小流路262B)を簡易に調整できる。
(c)体積補償流路262及び流路調整手段263が隔壁部材219のロッドガイド部219Aに設けられる。従って、アウタチューブ211のキャップ213を外した後、流路調整手段263を操作して体積補償流路262の流路面積を調整できる。
(実施例4)(図19〜図25)
フロントフォーク(油圧緩衝器)310は、アウタチューブ311を車体側に、インナチューブ312を車輪側に配置する倒立型フロントフォークであり、図19〜図22に示す如く、アウタチューブ311の下端開口部の内周に固定したガイドブッシュ311Aと、インナチューブ312の上端開口部の外周に固定したガイドブッシュ312Aと、インナチューブ312の上端部に設けた後述する隔壁部材319の外周に設けたシール部材320を介して、アウタチューブ311の内部にインナチューブ312を摺動自在に挿入する。311Bはオイルシール、311Cはダストシールである。アウタチューブ311の上端開口部にはキャップ313が液密に螺着されて封着され、アウタチューブ311の外周には車体側取付部材が設けられる。インナチューブ312の下端開口部には車軸ブラケット315が液密に挿着されて螺着されてインナチューブ312の底部を構成し、車軸ブラケット315には車軸取付孔316が設けられる。
フロントフォーク310は、アウタチューブ311の内周と、インナチューブ312の外周と、前記2つのガイドブッシュ311A、312Aにて区画される環状油室317を区画する。
フロントフォーク310は、インナチューブ312の上端側内周にOリングを介する等により液密に、有底カップ状の隔壁部材319を螺着して設け、隔壁部材319の底部のロッドガイド部319Aより下部に作動油室321を区画するとともに、上部に油溜室322を区画する。油溜室322の中でその下側領域は油室322A(油面L)、上側領域は空気室322Bである。隔壁部材319のインナチューブ312より突出する上端部の外周に設けたガイドブッシュ312Aはアウタチューブ311の内周に摺接する。
フロントフォーク310は、アウタチューブ311に取付けたピストンロッド323を隔壁部材319のロッドガイド部319Aに摺動自在に挿入する。具体的には、キャップ313の中心部の下端部に螺着した取付カラー324に中空ピストンロッド323を螺着し、これをロックナット324Aで固定する。
フロントフォーク310は、隔壁部材319のロッドガイド部319Aからインナチューブ312に挿入したピストンロッド323の先端部に螺着したピストンボルト325に、インナチューブ312の内周に摺接するピストン326を固定し、前記油室321をピストンロッド323が収容されるピストンロッド側油室321Aと、ピストンロッド323が収容されないピストン側油室321Bに区画する。ピストン326はピストンナット327により固定される。
フロントフォーク310は、前記環状油室317を、インナチューブ312に設けた油孔328を介して、ピストンロッド側油室321Aに常時連通する。
フロントフォーク310は、ピストン326のピストン側油室321Bに臨む下端面の側に上ばね受け331を取着し、車軸ブラケット315が形成するインナチューブ312の底部に下ばね受け332を配置し、上ばね受け331と下ばね受け332の間にメイン懸架スプリング333を介装している。メイン懸架スプリング333の全体がピストン側油室321Bに浸漬される。フロントフォーク310は、車両走行時に路面から受ける衝撃力をメイン懸架スプリング333の伸縮振動により吸収する。このとき、ばね荷重調整装置335が下ばね受け332を昇降し、メイン懸架スプリング333のばね荷重を調整可能にする。
ばね荷重調整装置335は、図20に示す如く、インナチューブ312の底部を構成する車軸ブラケット315の車軸取付孔316を外れる位置(車軸取付孔316の側傍)で外部に臨むアジャストボルト336を該底部に設ける。車軸ブラケット315の内側底部(下ばね受け332の下端部を臨むことになる面)に設けたスライダ337をアジャストボルト336の回転力によりインナチューブ312の中心軸に交差する方向(アジャストボルト336の軸方向)に直線移動可能にする。下ばね受け332の下部斜面A1をスライダ337の上部斜面A2に載置させ、アジャストボルト336の回転により下ばね受け332を昇降させて懸架スプリング333のばね荷重を調整する。
フロントフォーク310は、ピストン326に減衰力発生装置340を備える(図21、図22)。
減衰力発生装置340は、圧側流路341と伸側流路342(不図示)を備える。圧側流路341は、バルブストッパ341Bにバックアップされる圧側ディスクバルブ341A(圧側減衰バルブ)により開閉される。伸側流路342は、バルブストッパ342Bにバックアップされる伸側ディスクバルブ342A(伸側減衰バルブ)により開閉される。尚、バルブストッパ341B、バルブ341A、ピストン326、バルブ342A、バルブストッパ342Bは、ピストンボルト325に挿着されるバルブ組立体を構成し、ピストンボルト325に螺着されるピストンナット327に挟まれて固定される。
減衰力発生装置340は、キャップ313の中心部に後に詳述する減衰力調整装置340Aを設け、減衰力調整装置340Aのニードル弁385をピストンロッド323の中空部に挿入し、ピストンロッド323に設けたバイパス路345の開度をニードル弁385の上下動により調整する。バイパス路345は、ピストン326をバイパスし、ピストンロッド側油室321Aとピストン側油室321Bを連絡する。
減衰力発生装置340は、圧側行程では、低速域で、ニードル弁385により開度調整されたバイパス路345の通路抵抗により圧側減衰力を発生し、中高速域で、圧側ディスクバルブ341Aの撓み変形により圧側減衰力を発生する。また、伸側行程では、低速域で、ニードル弁385により開度調整されたバイパス路345の通路抵抗により伸側減衰力を発生し、中高速域で、伸側ディスクバルブ342Aの撓み変形により伸側減衰力を発生する。この圧側減衰力と伸側減衰力により、前述したメイン懸架スプリング333の伸縮振動を制振する。
フロントフォーク310は、キャップ313の下端面に、インナチューブ312に設けた隔壁部材319の上端部が最圧縮ストロークで衝合するストッパラバー313A、ストッパ板313Bを設けており、このストッパラバー313Aによって最圧縮ストロークを規制する。
フロントフォーク310は、インナチューブ312の上端側の隔壁部材319のピストンロッド側油室321Aに臨む下端面にストッパリング351Aを用いて固定したスプリングシート351と、ピストンロッド323に設けたストッパリング352Aに係止させたスプリングシート352との間にリバウンドスプリング353を介装してある。フロントフォーク310の最伸長時に、隔壁部材319がリバウンドスプリング353をスプリングシート352との間で加圧することにより、最伸長ストロークを規制する。
しかるに、フロントフォーク310にあっては、アウタチューブ311とインナチューブ312の環状隙間からなる前記環状油室317の断面積S1を、ピストンロッド323の断面積(外径に囲まれる面積)S2より大きく形成している(S1>S2)。
フロントフォーク310は、隔壁部材319のロッドガイド部319Aに、作動油室321と油溜室322との間で油を給排可能にする給排手段を以下の如くに設けている。即ち、隔壁部材319のロッドガイド部319Aに、圧側行程では油溜室322からピストンロッド側油室321Aへの油の流れを許容し、伸側行程ではピストンロッド側油室321Aから油溜室322への油の流れを阻止するチェック弁360を設けている。隔壁部材319のロッドガイド部319Aの内周にはバルブ室361が設けられ、バルブ室361の上端側の段差部361Aと、バルブ室361の下端側に設けられた前述のスプリングシート351上のバックアップスプリング362との間にチェック弁360のフランジ部が挟持されて収容される。チェック弁360のフランジ部は、段差部361Aとスプリングシート351の間隔より短尺とされる。チェック弁360は、隔壁部材319のロッドガイド部319Aに設けたバルブ室361の内周に上下変位可能に設けられる。チェック弁360の外周は、隔壁部材319のロッドガイド部319Aに設けたバルブ室361の内周との間に、油溜室322からピストンロッド側油室321Aへの油の流れを許容する流路を形成する。チェック弁360は、ピストンロッド323を摺動自在に支持するブッシュ363をその内周に圧入されて備える。圧側行程では、チェック弁360はインナチューブ312に進入するピストンロッド323に連れ移動して下方に移動し、スプリングシート351の側に変位するとともに、段差部361Aとの間に隙間を形成し、油溜室322の油をその外周経由で段差部361Aとの隙間を通ってピストンロッド側油室321Aへ流入可能とする。伸側行程では、チェック弁360はインナチューブ312から退出するピストンロッド323に連れ移動して上方に移動し、段差部361Aに衝合して該段差部361Aとの間の隙間を閉じ、ピストンロッド側油室321Aの油が上述した圧側行程の逆経路で油溜室322へ排出されることを阻止する。
また、ピストンロッド323及び取付カラー324(取付カラー324に内蔵される後述のバルブストッパ430、バルブシート440)に、伸側行程でピストンロッド側油室321Aの油を油溜室322へ流す体積補償流路364を設けている。体積補償流路364は、ピストンロッド323の後述するガイド孔323Aを介してピストンロッド側油室321Aに連通する中空部、バルブストッパ430の流路431、バルブシート440の流路441、取付カラー324の側壁の孔324Fを順に連通して構成される。体積補償流路364におけるバルブシート440の流路441は、後述する流路調整手段420としてのニードル弁422により開度設定される微小流路441Aを形成し、ピストンロッド側油室321Aと油溜室322をこの微小流路441Aにより連通する。
フロントフォーク310の動作は以下の如くになる。
(圧側行程)
圧側行程でインナチューブ312に進入するピストンロッド323の進入容積分の作動油がインナチューブ312の内周の油室321Aからインナチューブ312の油孔328を介して環状油室317に移送される。このとき、環状油室317の容積増加分ΔS1(補給量)がピストンロッド323の容積増加分ΔS2より大きいから、環状油室317への油の必要補給量のうち、(ΔS1−ΔS2)の不足分が油溜室322からチェック弁360を介して補給される。
この圧側行程では、前述した通り、低速域で、ニードル弁385により開度調整されたバイパス路345の通路抵抗により圧側減衰力を発生し、中高速域で、圧側ディスクバルブ341Aの撓み変形により圧側減衰力を発生する。
(伸側行程)
伸側行程でインナチューブ312から退出するピストンロッド323の退出容積分の作動油が環状油室317からインナチューブ312の油孔328を介してインナチューブ312の内周の油室321Aに移送される。このとき、環状油室317の容積減少分ΔS1(排出量)がピストンロッド323の容積減少分ΔS2より大きいから、環状油室317からの油の排出量のうち、(ΔS1−ΔS2)の余剰分が体積補償流路364の微小流路441Aを介して油溜室322へ排出される。
この伸側行程では、前述した通り、低速域で、ニードル弁385により開度調整されたバイパス路345の通路抵抗により伸側減衰力を発生し、中高速域で、伸側ディスクバルブ342Aの撓み変形により伸側減衰力を発生する。また、上述の微小流路441Aの通路抵抗による伸側減衰力も発生する。
以下、減衰力調整装置340Aについて説明する。
減衰力調整装置340Aは、図21、図22に示す如く、同心状に挿通した2本のプッシュロッド371、372をピストンロッド323の中空部に挿通し(ピストンロッド323の中空部にプッシュロッド372を、プッシュロッド372の中空部にプッシュロッド371を挿通する)、プッシュロッド371を軸方向に移動させる第1調整部380と、プッシュロッド372を軸方向に移動させる第2調整部390を、フロントフォーク310の上部であるキャップ313に設ける。
第1調整部380は、ニードル弁385を移動させてバイパス路345の通路抵抗による減衰力を調整する。第2調整部390は、圧側ディスクバルブ341Aを閉じ方向に付勢するスプリング397のセット荷重を調整して圧側ディスクバルブ341Aのたわみ変形による減衰力を調整する。以下、第1調整部380と第2調整部390の構造、ニードル弁385を用いた減衰力調整構造、スプリング397を用いた減衰力調整構造について説明する。
(第1調整部380と第2調整部390の構造)(図23〜図25)
キャップ313の下端開口側に取付カラー324が螺着されてキャップ組立体400が構成される。キャップ組立体400のキャップ313がOリング401を介してアウタチューブ311の上端開口部に液密に螺着され、取付カラー324の下端部にピストンロッド323の上端部が螺着されてロックナット324Aで固定される。キャップ組立体400のキャップ313と取付カラー324が形成する環状凹部にはストッパラバー313Aが装填され、取付カラー324の外周にはストッパ板313Bが挿着されるとともに、このストッパ板313Bを係止するストッパリング313Cが係着される(図24)。
キャップ組立体400のキャップ313と取付カラー324にはアジャスト組立体410、流路調整手段420(バルブストッパ430、バルブシート440等)が装填される。アジャスト組立体410は、図24、図25に示す如く、第1調整部380を第1アジャストボルト381により構成し、第2調整部390を第2アジャストボルト391により構成し、各アジャストボルト381、391毎に対応する、第1と第2のアジャストナット382、392を有する。第1アジャストナット382は対応する第1アジャストボルト381のねじ部381Aが螺合するねじ孔382Aと、他のアジャストボルト391のガイド部391Bが挿通するガイド孔382Bを備える。第2アジャストナット392は対応する第2アジャストボルト391のねじ部391Aが螺合するねじ孔392Aと、他のアジャストボルト381に嵌合したガイドカラー381Bが挿通するガイド孔392Bを備える。従って、第1アジャストボルト381の回転操作により、このアジャストボルト381が螺合している第1アジャストナット382は、当該アジャストナット382のガイド孔382Bと他のアジャストボルト391のガイド部391Bとの係合を介して回り止めかつ軸方向に移動ガイドされ、軸方向に上下動する。他方、第2アジャストボルト391の回転操作により、このアジャストボルト391が螺合している第2アジャストナット392は、当該アジャストナット392のガイド孔392Bと他のアジャストボルト381のガイドカラー381Bとの係合を介して回り止めかつ軸方向に移動ガイドされ、軸方向に上下動する。
アジャスト組立体410を構成する第1調整部380の第1アジャストボルト381と第2調整部390の第2アジャストボルト391は、キャップ組立体400を構成するキャップ313の平面視で、キャップ313の中心から外れる位置に並置されている2つの装填孔(本実施例ではキャップ313の中心の周囲の3等配位置のそれぞれに設けられている3つの装填孔のうちの2つの装填孔)のそれぞれに、キャップ313の裏面側からOリング383、393を介して液密に挿着される。そして、第1アジャストボルト381と第2アジャストボルト391はアジャストナット382、392とともに、取付カラー324がキャップ313に螺着されて形成するキャップ組立体400の中心凹部402に納められ、アジャストボルト381、391のフランジ部381C、391Cをキャップ313の下面に当て、アジャストボルト381、391の下端部を中心凹部に装填されているバルブシート440の支持孔に挿入支持される。アジャストナット382、392は取付カラー324が形成する中心凹部402の内周に摺接可能に納められる。アジャストナット392の中心部には下方に突出する中空ロッド部392Cが設けられ、中空ロッド部392Cはバルブシート440、バルブストッパ430の中心孔を下方に向けて貫通し、中空ロッド部392Cの下端面にプッシュロッド372の上端面を突き当てる。プッシュロッド372の中空部に設けられているプッシュロッド371の上端面にはロッド371Aの下端面が突き当てられ、このロッド371Aはプッシュロッド372の中空部からアジャストナット392の中空ロッド部392Cを上方に向けて貫通し、ロッド371Aの上端面はアジャストナット382の下端面に突き当てられる。
これにより、第1調整部380の第1アジャストボルト381の上端操作部380Aと、第2調整部390の第2アジャストボルト391の上端操作部390Aは、キャップ組立体400を構成するキャップ313の平面視で、キャップ313の中心から外れる位置にて、キャップ313の上面と面一をなすレベルにおいて互いに並置される。そして、第1調整部380の第1アジャストボルト381はキャップ313に回転だけして軸方向には移動しないように枢支され、第2調整部390の第2アジャストボルト391もキャップ313に回転だけして軸方向には移動しないように枢支される。従って、第1調整部380の第1アジャストボルト381が回転操作されると、この第1アジャストボルト381が螺合している第1アジャストナット382が軸方向に上下動し、第1アジャストナット382に突き当てられているロッド371A、プッシュロッド371を軸方向に移動させることができる。他方、第2調整部390の第2アジャストボルト391が回転操作されると、この第2アジャストボルト391が螺合している第2アジャストナット392が軸方向に上下動し、第2アジャストナット392の中空ロッド部392Cに突き当てられているプッシュロッド372を軸方向に移動させることができる。
(ニードル弁385を用いた減衰力調整構造)(図21)
ピストンロッド323の中空部の下端部にはインナベース384が挿着され、ピストンロッド323の下端面とピストンボルト325の内径段差部とがインナベース384の下端フランジを挟圧固定している。インナベース384はピストンロッド323の中空部に圧入されても良い。このようにしてピストンロッド323に固定されたインナベース384の内周にニードル弁385が液密に挿入され、ニードル弁385の中間フランジ部385Aとインナベース384の上端面との間に介装されるスプリング386がニードル弁385を軸方向の上方(開弁方向)に付勢し、ニードル弁385の上端面をプッシュロッド371の下端面に突き当てる。
第1調整部380の第1アジャストボルト381が、前述の如く、プッシュロッド371を軸方向に上下動させると、プッシュロッド371と軸方向に衝合しているニードル弁385がピストンボルト325に対して上下動し、ピストンボルト325に設けてあるバイパス路345の縦孔上端部の弁シートに対して進退し、バイパス路345の開度を調整し、ひいてはバイパス路345の通路抵抗による圧側と伸側の減衰力を調整可能にする。
(スプリング397を用いた減衰力調整構造)(図21)
ピストンロッド323の下端側の直径方向の両側には、軸方向に延びる長孔状のガイド孔323Aが設けられ、押動片394の両側突起がそれらのガイド孔323Aに概ね遊びなく軸方向にスライド可能に係入されている。ピストンロッド323の中空部に挿入されているプッシュロッド372の下端面が押動片394の上面に直に衝接し、プッシュロッド372の下端部に遊挿されているニードル弁385の断面部が押動片394の中心に設けた円形孔に軸方向移動自在に遊挿される。
ピストンロッド323の下端部(ピストンボルト325)まわりには、押動片394の両端突起に下方から衝合するばね受け395と、圧側ディスクバルブ341Aの上面(背面)に衝合するバルブ押え396が配置され、ばね受け395とバルブ押え396の間にバルブ押えスプリング397が介装される。ばね受け395はカップ状をなし、カップの内周下端にて押動片394の両側突起と衝合し、カップの上端外周フランジにスプリング397を着座させる。バルブ押え396は、圧側ディスクバルブ341Aの上面の適宜の外径位置に全周連続的(間欠的でも可)に衝接する円環状押え部396Aと、ピストンボルト325の上端外周にスライドガイドされるスライド部396Bと、ピストンロッド側油室321Aを圧側流路341、伸側流路342、バイパス路345に連通する油路396C(不図示)を備え、外周段差部にスプリング397を着座させる。
第2調整部390のアジャストボルト391が、前述の如く、プッシュロッド372を軸方向に移動させると、プッシュロッド372の下端面が衝接している押動片394がばね受け395を上下に移動してバルブ押えスプリング397を伸縮し、スプリング397のセット荷重を調整する。これにより、スプリング397のセット荷重がバルブ押え396を介して圧側ディスクバルブ341Aを閉じる方向に付勢し、圧側ディスクバルブ341Aの撓み変形による圧側減衰力を調整可能にする。バルブ押え396は押え部396Aの径を異にするものに交換することができ、大径の押え部396Aを備えたバルブ押え396は圧側ディスクバルブ341Aの外周側を押え、ピストン速度の低速域から減衰力を大きくする。小径の押え部396Aを備えたバルブ押え396は圧側ディスクバルブ341Aの内周側を押え、ピストン速度が中〜高速域で減衰力を大きくする。
しかるに、本実施例にあっては、図22、図24に示す如く、ピストンロッド323及び取付カラー324(バルブストッパ430、バルブシート440)に設ける体積補償流路364(バルブシート440の流路441)の流路面積を調整する流路調整手段420を備える。流路調整手段420は、アジャストロッド421、ニードル弁422、バルブストッパ430、バルブシート440を有して構成される。
アジャストロッド421は、キャップ組立体400を構成するキャップ313の平面視で、キャップ313に設けた前述の3つの装填孔のうちの1つの装填孔に、キャップ313の裏面側からOリング423を介して液密に挿着される。そして、アジャストロッド421は、第1アジャストナット382と第2アジャストナット392の各ガイド孔382C、392Cを貫通した下端面にバルブシート440、バルブストッパ430を順に積層し、バルブストッパ430の下端面に孔あき皿ばね424を介して、前述のキャップ組立体400の中心凹部402に納められる。皿ばね424の弾発力により、アジャストロッド421のフランジ部421Aをキャップ313の下端面に当て、アジャストロッド421、バルブストッパ430、バルブシート440を中心凹部402にガタなく納める。このとき、アジャストロッド421の下端すり割り部に回転方向に一体化し、かつ軸方向に移動可能に係入されているニードル弁422が、バルブシート440内に螺合されて装填され、バルブシート440の孔状流路441に設けた弁シートに接離し、流路441(体積補償流路364)を開閉可能にする。ニードル弁422は体積補償流路364の流路441の開度を調整する開閉弁を構成する。
アジャストロッド421の上端操作部420Aは、キャップ組立体400を構成するキャップ313の平面視で、キャップ313の中心から外れる位置にて、キャップ313の外界に臨む上面と面一をなすレベルに配置される。そして、キャップ313の外側から流路調整手段420の上端操作部420Aを用いてアジャストロッド421が開度操作されると、このアジャストロッド421に係合しているニードル弁422がバルブシート440に対して螺動して軸方向に上下動し、バルブシート440の流路441の開度を調整し、適宜開度の微小流路441Aを形成する。これにより、伸側行程でピストンロッド側油室321Aの油が、ピストンロッド323の中空部(プッシュロッド372との環状間隙)、バルブストッパ430の流路431を介して、このバルブシート440の微小流路441Aを経て、取付カラー324の孔324Fから油溜室322(空気室322Bを介して油室322Aに落下する)に排出されることとなる。
尚、キャップ組立体400の中心凹部402内でバルブストッパ430とバルブシート440の間には、バルブスプリング451によりバックアップされてバルブストッパ430の上面に押し当てられる薄板状チェック弁450が配置される。チェック弁450は、伸側行程でピストンロッド側油室321Aから排出される油の圧力により押し開かれ、圧側行程ではバルブスプリング451によりバルブストッパ430の上面に押し当てられて流路431を閉じ、油溜室322(空気室322B)の空気をピストンロッド側油室321A側に吸込むことを阻止する。
本実施例によれば以下の作用効果を奏する。
(a)フロントフォーク310において、体積補償流路364の流路面積を流路調整手段420により調整することにより、伸側行程で作動油室321から体積補償流路364を通って油溜室322に流れる油に付与する流路抵抗を調整し、ひいては作動油室321の圧力を多様に調整し、作動フィーリング(特に伸長初期段階の作動フィーリング)のセッティング性を向上できる。
(b)流路調整手段420が、体積補償流路364を構成するバルブシート440の流路441を開閉する開閉弁としてのニードル弁422により構成される。従って、ニードル弁422の開閉操作により体積補償流路364の流路441の開度を調整し、体積補償流路364の流路面積(微小流路441A)を簡易に調整できる。
(c)体積補償流路364及び流路調整手段420がアウタチューブ311の上端部に設けられてピストンロッド323を取付けるためのキャップ313の側に設けられる。従って、アウタチューブ311のキャップ313を外すことなく、キャップ313の外側から流路調整手段420を操作して体積補償流路364の流路面積を調整できる。
以上、本発明の実施例を図面により詳述したが、本発明の具体的な構成はこの実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても本発明に含まれる。