従来、駆動源としてエンジンのみを備える車両において、エンジンは、減速機等のいわゆるトランスミッション機構と、例えば、トルクコンバータを介して接続されることが多い。トルクコンバータは、流体継ぎ手の一種で、エンジンからトランスミッション機構に向かってトルクを伝達するときに、エンジンに与える影響が少ない。したがって、クランクシャフトの回転変動にエンジンのトルク変動がそのまま現れる。
駆動源としてエンジンの他に回転電機を備えるハイブリッド車両の場合には、エンジンと回転電機との間の動力分配機構として、例えばプラネタリ機構等が用いられる。この動力分配機構を含む部分は、先ほどのトランスミッション機構に相当するので、便宜上、これらをもトランスミッション機構と呼ぶことにする。ハイブリッド車両の場合、エンジンとトランスミッション機構との間には、トルクコンバータではなくて、トーショナルダンパと呼ばれるダンパ接続部が配置される。
トーショナルダンパは、エンジン側とトランスミッション機構側との間にトルク変動があるときにこれを鈍らせる機能を有する一種の捩りバネで、バネ成分とダンパ成分とを有する。トーショナルダンパは、エンジンからトランスミッション機構に向かってトルクを伝達する際に、その反力がエンジンに与えられる。このために、クランクシャフトの回転変動は、エンジンのトルク変動の他に、このトーショナルダンパによる反力の影響が重畳したものとなる。このように、トーショナルダンパを用いる構成の場合に、クランクシャフトの回転変動からエンジンのトルク変動を直ちに検出することが難しくなる。
本発明の目的は、エンジンとトランスミッション機構とがダンパ接続部を介して接続される動力伝達系におけるエンジンのトルク変動を精度よく検出することを可能とするエンジントルク変動検出システムを提供することである。
本発明は、エンジンとトランスミッション機構とがダンパ接続部を介して接続される動力伝達系の場合に、ダンパ接続部の反力がエンジン側に与えられる一方で、トランスミッション機構側にはダンパ接続部の伝達特性に基いてエンジンのトルク変動が伝達され、ダンパ接続部の反力の影響が現れないことに着目したものである。すなわち、クランクシャフトの回転変動に基くトルク変動検出に代えて、トランスミッション機構側の回転変動に基いてトルク変動を求めるものである。この着目を具体化するために以下の手段を用いる。
本発明に係るエンジントルク変動検出システムは、エンジンとトランスミッション機構とがダンパ接続部を介して接続される動力伝達系におけるエンジンのトルク変動を検出するシステムにおいて、トランスミッション機構側の回転変動であるTM側回転変動信号を取得するTM側回転変動取得手段と、ダンパ接続部におけるエンジン側のエンジントルク変動とトランスミッション機構側の回転変動との間の伝達特性に基き、TM側回転変動信号からエンジンのトルク変動を求める手段と、を備えることを特徴とする。
また、本発明に係るエンジントルク変動検出システムは、エンジンとトランスミッション機構とがダンパ接続部を介して接続される動力伝達系におけるエンジンのトルク変動を検出するシステムにおいて、トランスミッション機構側の回転変動であるTM側回転変動信号を取得するTM側回転変動取得手段と、ダンパ接続部におけるエンジン側のエンジントルク変動とトランスミッション機構側の回転変動との間の伝達特性を取得する手段と、ダンパ接続部の伝達特性に応じて、予め設定された周波数領域で平坦なゲイン−周波数特性を有するフィルタ手段と、フィルタ手段通過後のTM側回転変動信号であるフィルタ後回転変動信号を取得する手段と、取得されたフィルタ後回転変動信号と、ダンパ接続部の伝達特性とに基いてエンジンのトルク変動を求める手段と、を備えることを特徴とする。
また、本発明に係るエンジントルク変動検出するシステムにおいて、フィルタ手段は、ダンパ接続部の伝達特性の共振周波数帯よりも低周波数側の信号を通すローパスフィルタ手段であることが好ましい。
また、本発明に係るエンジントルク変動検出するシステムにおいて、フィルタ手段は、ダンパ接続部の伝達特性における共振特性を相殺して周波数に対して平坦なゲイン特性とする共振逆フィルタ手段であることが好ましい。
また、本発明に係るエンジントルク変動検出システムにおいて、トランスミッション機構は、ダンパ接続部に接続されるインプットシャフトと、車両の駆動輪に接続される車軸との間に設けられ、エンジンと回転電機との間で動力分配を行う動力分配機構であり、TM側回転変動取得手段は、インプットシャフトの回転変動信号を取得することが好ましい。
また、本発明に係るエンジントルク変動検出システムにおいて、TM側回転変動取得手段は、動力分配機構を構成する各要素の回転数と各要素の間の減速比との関係を示す共線図関係を用いて、回転電機の回転変動信号からインプットシャフトの回転変動信号を取得することが好ましい。
また、本発明に係るエンジントルク変動検出システムにおいて、ダンパ接続部は、エンジン側とトランスミッション機構側との間で生じるトルク変動を抑制するように働く捩りダンパであることが好ましい。
上記構成の少なくとも1つにより、トランスミッション機構側の回転変動であるTM側回転変動信号を取得し、ダンパ接続部におけるエンジン側のエンジントルク変動とトランスミッション機構側の回転変動との間の伝達特性に基き、TM側回転変動信号からエンジンのトルク変動を求める。TM側回転変動信号には、クランクシャフト回転変動信号のようにダンパ接続部による反力の影響が現れないので、精度よくエンジンのトルク変動を検出できる。
また、上記構成の少なくとも1つにより、エンジントルク変動検出システムは、トランスミッション機構側の回転変動であるTM側回転変動信号を取得し、予めダンパ接続部におけるエンジン側のエンジントルク変動とトランスミッション機構側の回転変動との間の伝達特性を取得しておいて、その伝達特性に応じて予め設定された周波数領域で平坦なゲイン−周波数特性を有するフィルタ手段を用い、フィルタ手段通過後のTM側回転変動信号であるフィルタ後回転変動信号と、ダンパ接続部の伝達特性とに基いてエンジンのトルク変動を求める。ダンパ接続部の伝達特性には共振特性や減衰特性等を有する周波数帯があるので、その伝達特性に応じたフィルタを用いることで、エンジントルク変動を反映するフィルタ後回転変動信号を取り出すものとできる。これによって、精度よくエンジンのトルク変動を検出できる。
また、エンジントルク変動検出するシステムにおいて、ダンパ接続部の伝達特性の共振周波数帯よりも低周波数側の信号を通すローパスフィルタ手段を用いる。車両に搭載されるエンジンの場合、そのトルク変動が乗り心地等に影響する周波数帯は、例えば、10Hz程度以下の低周波数であることが多い。ダンパ接続部の共振周波数帯をこの乗り心地等に影響する周波数帯を避けるように設計することができるので、その場合には、ダンパ接続部の伝達特性の共振周波数帯よりも低周波数側の信号を通すローパスフィルタ手段を用いることで、エンジントルク変動を反映するフィルタ後回転変動信号を取り出すものとできる。これによって、簡単な構成で、精度よくエンジンのトルク変動を検出できる。
また、エンジントルク変動検出するシステムにおいて、ダンパ接続部の伝達特性における共振特性を相殺して周波数に対して平坦なゲイン特性とする共振逆フィルタ手段を用いる。これによってダンパ接続部の伝達特性とフィルタ手段のゲイン特性との合成特性は、広い周波数帯で平坦化するものとできる。したがって、広い周波数帯でエンジントルク変動を反映するフィルタ後回転変動信号を取り出すものとできる。これによって、広い周波数帯で精度よくエンジンのトルク変動を検出できる。
また、エンジントルク変動検出システムにおいて、トランスミッション機構が、ダンパ接続部に接続されるインプットシャフトと、車両の駆動輪に接続される車軸との間に設けられ、エンジンと回転電機との間で動力分配を行う動力分配機構である場合には、TM側回転変動取得手段は、インプットシャフトの回転変動信号を取得する。インプットシャフトの回転変動信号には、クランクシャフトの回転変動信号のようにダンパ接続部による反力の影響が現れないので、精度よくエンジンのトルク変動を検出できる。
また、エンジントルク変動検出システムにおいて、動力分配機構を構成する各要素の回転数と各要素の間の減速比との関係を示す共線図関係を用いて、回転電機の回転変動信号からインプットシャフトの回転変動信号を取得する。回転電機には、例えばレゾルバ等の回転角度検出手段や、回転数検出手段等が設けられているので、これらを利用することで、特別な検出手段をインプットシャフトに設けることなく、容易に、インプットシャフトの回転変動信号を演算で得ることができる。
また、エンジントルク変動検出システムにおいて、ダンパ接続部は、エンジン側とトランスミッション機構側との間で生じるトルク変動を抑制するように働く捩りダンパである。いわゆるトーショナルダンパを備える動力伝達系において、精度よくエンジンのトルク変動を検出できる。
以下に図面を用いて本発明に係る実施の形態につき詳細に説明する。以下では、エンジントルク変動を検出する対象としてハイブリッド車両を説明するが、エンジンとトランスミッション機構とがダンパ接続部で接続される動力伝達系を有するものであれば、ハイブリッド車両以外の車両、あるいは動力装置であってもよい。
また、エンジンとトランスミッション機構とがダンパ接続部を介して接続される動力伝達系として、トランスミッション機構が、ダンパ接続部に接続されるインプットシャフトと、車両の駆動輪に接続される車軸との間に設けられ、エンジンと回転電機との間で動力分配を行う動力分配機構であるとして説明する。これ以外の要素を含むものとしてもよく、また、エンジンとダンパ接続部を介して接続される機構であれば、これ以外の構成のトランスミッション機構であってもよい。例えば、適当な減速機構と回転電機とで構成されるものであってもよい。
また、ダンパ接続部として、エンジン側のクランクシャフト側プレートと、トランスミッション機構側のインプットシャフト側プレートとの間に捩りバネが設けられるものを説明するが、バネ成分とダンパ成分とを含むものであれば、これ以外の構成であってもよい。
また、以下で説明するゲイン、周波数等は説明のための例示であって、動力伝達系の仕様に応じて適宜変更が可能である。
以下では、全ての図面において同様の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、本文中の説明においては、必要に応じそれ以前に述べた符号を用いるものとする。
最初に、本発明の基礎となる概念について図1と図2を用いて述べ、その後に、エンジントルク変動検出システムの構成等を説明する。図1は、エンジン20とトランスミッション機構40とがダンパ接続部30を介して接続される動力伝達系のモデル図である。図2は、ダンパ接続部30の伝達特性を示すBode線図の一例である。
図1では、エンジン20の慣性がIe、ダンパ接続部30のバネ成分32がKdamp、ダンパ成分34がCdampで示されている。また、ダンパ接続部30のエンジン側の回転状態を検出するためのセンサ21と、トランスミッション機構側の回転状態を検出するためのセンサ41が示され、センサ21の検出する回転角度がθe、回転角速度がωeで示され、センサ41の検出する回転角度がθinp、回転角速度がωinpで示されている。ここで、回転角度θと回転角速度ωの添え字のinpは、ダンパ接続部30に接続されるトランスミッション機構40の側の回転軸であるインプットシャフトを示すものであり、この場合、回転角度θinp、回転角速度ωinpは、それぞれ、インプットシャフトの回転角度と回転角速度を表していることになる。
この動力伝達系の振動に関する式は、図1中にも示すように、エンジン20のトルクをTeとして、Ie×{d(ωe)/dt}=Cdamp×(ωinp−ωe)+Kdamp×(θinp−θe)+Teで与えられる。
図1に示されるように、エンジン側には、エンジン20のトルクTeによる駆動力90と、ダンパ接続部30のバネ成分32とダンパ成分34による反力92とが現れる。そのために、エンジン20側のセンサ21が検出する回転角速度ωeは、Ie×{d(ωe)/dt}=Teのような単純な形で与えられず、上記式に示されるように複雑な形で示される。すなわち、ダンパ接続部30の反力のために、エンジン20側のセンサ21が検出する回転変動がそのままトルク変動とはならない。
これに対し、トランスミッション機構側には、エンジン20のトルクTeが、伝達力94としてダンパ接続部30を介して伝達され、その伝達された状態がセンサ41によって検出される。ダンパ接続部30の伝達特性は、バネ成分32であるKdampとダンパ成分34であるCdampを与えることで、いわゆるBode線図として予め求めることができる。図2は、そのようにして求められるBode線図の例である。
図2のBode線図は、横軸に周波数をとり、縦軸にゲインをとったものである。ここで、ゲインは、例えば、入力としてエンジンのトルクTe、出力としてインプットシャフトの回転変動である{d(ωinp)/dt}をとって、(出力/入力)を適当に規格化したものである。図2の例では、周波数が約15Hzと20Hzに共振特性が現れ、約30Hz以上で減衰特性が現れることが示されている。
図2に示されるようなダンパ接続部30の伝達特性は、上記のようにダンパ接続部30の構成が定まれば予め計算あるいは実測によって求めて取得することができる。したがって、トランスミッション機構40の側で、回転変動を検出し、検出された回転変動から図2のような伝達特性を用いて、エンジン20のトルク変動に換算することができる。この場合には、エンジン20の側で生じるダンパ接続部30の反力を含む上記の動力伝達系の振動に関する式を解く必要がない。
トランスミッション機構40の側で検出された回転変動から図2のような伝達特性を用いてエンジン20のトルク変動に換算するには、演算処理で行うこともできるが、フィルタリング処理を行うことでも実行できる。例えば、図2の例では、ダンパ接続部30の伝達特性の共振周波数帯よりも低周波数側では、伝達特性のゲインがほぼ一定であるので、エンジントルク変動がそのままインプットシャフトの回転変動に伝達されている。したがって、ダンパ接続部30の伝達特性の共振周波数帯よりも低周波数側の成分のみを取り出すフィルタリング処理を実行することで、容易に、インプットシャフトの回転変動からエンジントルク変動を求めることができる。
フィルタリング処理はハードウェアとしてのフィルタを用いることもでき、演算処理によっても可能である。したがって、上記以外のフィルタ処理によっても、ダンパ接続部30の伝達特性に応じて、予め設定された周波数領域で平坦なゲイン−周波数特性を有するフィルタリング処理を行うことで、インプットシャフトの回転変動からエンジントルク変動を求めることができる。
以上で本発明の基礎となる概念を説明したので、次に、エンジントルク変動検出システムの構成等を説明する。図3は、ハイブリッド車両におけるエンジントルク変動検出システム10の構成を示す図である。エンジントルク変動検出システム10は、エンジン20とトランスミッション機構40とがダンパ接続部30を介して接続される動力伝達系において、エンジン20のトルク変動を検出する機能を有するシステムである。図3には、エンジントルク変動検出システム10の構成要素ではないが、動力伝達系の最後に接続される車両の車輪8が図示されている。
エンジントルク変動検出システム10は、上記のように、エンジン20からダンパ接続部30を介してトランスミッション機構40を経て車輪8に至る動力伝達系と、これらの各要素の作動を制御する制御系として、エンジン20の作動を制御するエンジン−ECU60と、トランスミッション機構40に含まれる第1回転電機(MG1)42と第2回転電機(MG2)46の作動を制御するMG−ECU62と、これらと協働してハイブリッド車両全体の作動を制御するHV−ECU64と、エンジン20のトルク変動を検出するための制御部70とを含んで構成される。
エンジン20は、複数の気筒22とクランクシャフト24を含んで構成され、第1回転電機42、第2回転電機46とともに車両の駆動源を構成する内燃機関である。エンジン20は、車両の車軸を駆動し車輪8を回転して走行を行わせる機能と共に、第1回転電機42を発電機として用いて発電を行わせ、図示されていない電源回路に含まれる蓄電装置を充電する機能を有する。エンジン20の制御は、エンジン−ECU60を介してHV−ECU64によって行われる。
クランクシャフト24は、気筒22におけるピストンの往復運動を回転運動に変換する機構であると共に、エンジン20のトルクを出力する回転軸でもある。クランクシャフト24に設けられるエンジン回転数センサ26は、クランクシャフト24の回転数を検出してエンジンの回転数とする検出手段である。エンジン回転数センサ26の検出データは、適当な信号線を介してエンジン−ECU60に伝送され、エンジン20の作動制御等に用いられる。なお、このエンジン回転数センサ26が、図1で説明したエンジン20の側のセンサ21に相当する。
ダンパ接続部30は、エンジン側とトランスミッション機構側との間にトルク変動があるときにこれを鈍らせる機能を有する一種の捩りバネで、バネ成分とダンパ成分とを有し、トーショナルダンパとも呼ばれる要素である。具体的には、エンジン20の側のクランクシャフト24と、トランスミッション機構40の側のインプットシャフト49との間にバネ成分とダンパ成分とを有する捩りバネが設けられたもので構成することができる。
トランスミッション機構40は、第1回転電機42と、第1プラネタリ機構50と、減速機構52と、第2回転電機46と第2プラネタリ機構54とを含んで構成される。トランスミッション機構40は、ダンパ接続部30を介して伝達されるエンジン20の動力を
、車両の走行等で要求されるトルクと回転数に合わせて、車輪に供給する機能を有する。
具体的には、第1プラネタリ機構50と第2プラネタリ機構54とで構成される動力分配機構によって、エンジン20と第1回転電機42と第2回転電機46との間の動力分配を行って、エンジン20の動力で第1回転電機42を発電機として用いて発電し、蓄電装置を含む電源回路を介してその電力で第2回転電機46を電動機として用いてエンジン20の動力と協働して減速機構52を経て、所望のトルクと回転数で車輪8を駆動させる機能を有する。
第1回転電機42と第2回転電機46は、車両に搭載されるモータ・ジェネレータ(MG)であって、例えば、三相同期型回転電機を用いることができる。ここで、第1回転電機42はエンジン20によって駆動されて発電機として機能し、第2回転電機46は、図示されていない蓄電装置から電力が供給されるときはモータとして機能し、制動時には発電機として機能する。である。また、上記のようにエンジン20によって駆動されるときは発電機として機能する。第1回転電機42と第2回転電機46は、MG−ECU62を介してHV−ECU64によって行われる。
第1回転電機42に設けられるMG1センサ44は、第1回転電機42の出力軸の回転数を検出する手段で、例えば、レゾルバを用いることができる。勿論、レゾルバ以外の回転数検出手段を用いることができる。同様に、第2回転電機46に設けられるMG2センサ48は、第2回転電機46の出力軸の回転数を検出する手段であり、レゾルバ等を用いることができる。
MG1センサ44とMG2センサ48の検出データは、適当な信号線を介してMG−ECU62に伝送され、第1回転電機42と第2回転電機46の作動制御等に用いられると共に、制御部70に伝送され、エンジントルク変動検出のためのインプットシャフト49の回転変動の算出にも用いられる。したがって、このMG1センサ44とMG2センサ48とが、図1で説明したトランスミッション機構40の側のセンサ41に相当する。
第1プラネタリ機構50と第2プラネタリ機構54は、周知のように、サンギヤとプラネタリギヤとリングギヤとで構成される遊星歯車機構で、これらがエンジン20と第1回転電機42と第2回転電機46との間の動力分配を行う動力分配機構に相当する。
図4は、これらの各要素における回転数と減速比の関係を示す共線図である。図4に示されるように、第1プラネタリ機構50においては、サンギヤに第1回転電機42の入力軸が接続され、複数のプラネタリギヤを公転させる軸であるキャリアにインプットシャフト49となり、リングギヤが第2プラネタリ機構54のリングギヤと一体的に接続される。サンギヤとリングギヤとの間のギヤ比は、1:ρ1である。
そして、第2プラネタリ機構54においては、サンギヤに第2回転電機46の出力軸が接続され、キャリアは回転が固定され、リングギヤは上記のように第1プラネタリ機構50のリングギヤと一体的に接続される。サンギヤとリングギヤとの間のギヤ比は、1:ρ2である。
なお、図4の共線図の関係を用いることで、第1回転電機(MG1)42の回転数と、第2回転電機(MG2)46の回転数とが分かれば、リングギヤの回転数と、インプットシャフト49となる第1プラネタリ機構50のキャリアの回転数を求めることができる。すなわち、第1回転電機(MG1)42の回転数と、第2回転電機(MG2)46の回転数に基いて、インプットシャフト49の回転数を求めることができる。
再び図3に戻り、減速機構52は、第1プラネタリ機構50のキャリアと第2プラネタリ機構54のキャリアとが一体化された中間軸と、車輪8に接続される車軸との間に設けられる減速歯車機構である。減速機構52は、中間軸に出力されるパワーを適当に減速して、所望のトルクと回転数として、車軸に伝達する機能を有する。
エンジン−ECU60は、エンジン回転数センサ26の検出データの伝送を受け、HV−ECU64の制御の下でエンジン20の作動を制御する機能を有する電気制御ユニット(Electric Control Unit:ECU)である。MG−ECU62は、MG1センサ44の検出データの伝送を受け、またMG2センサ48の検出データの伝送を受け、HV−ECU64の制御の下で第1回転電機(MG1)42と第2回転電機(MG2)46の作動を制御する電気制御ユニットである。
HV−ECU64は、エンジン−ECU60とMG−ECU62と協働してハイブリッド車両全体の作動を制御する機能を有する電気制御ユニットである。エンジン−ECU60、MG−ECU62、HV−ECU64は、車両搭載に適した制御回路で構成でき、例えば、車両搭載に適したコンピュータで構成することができる。これらのECUは、それぞれが独立して構成される以外に、2つのECUの機能を1つのECUにまとめ、あるいは3つのECUの機能を1つのECUにまとめるものとしてもよい。
制御部70は、エンジントルク変動検出を実行する機能を有するECUである。制御部70は、MG−ECU62と交信して、MG1センサ44の検出データと、MG2センサ48の検出データの伝送を受け、これらに基いてエンジン20のトルク変動を求めて、例えば、HV−ECU64に伝送する機能を有する。制御部70は、記憶部72と接続される。記憶部72は、エンジントルク変動検出実行のためのプログラムを格納すると共に、図2で説明したダンパ接続部30の伝達特性のデータ74を記憶する機能を有する。
制御部70は、トランスミッション機構40の側の回転変動であるTM側回転変動信号を取得するTM側回転変動取得モジュール76と、TM側回転変動信号に対してフィルタリング処理を行うフィルタリングモジュール78と、フィルタリング処理後TM側回転変動信号とダンパ接続部30の伝達特性とに基いてエンジン20のトルク変動を求めるトルク変動算出モジュール80とを含んで構成される。制御部70は、エンジン−ECU60、MG−ECU62、HV−ECU64と独立のものとして構成してもよく、これらのいずれかのECUの一部、例えばmHV−ECU64の一部として構成するものとしてもよい。
かかる機能はソフトウェアで実現することができ、具体的には、対応するエンジントルク変動検出実行のためのプログラムを実行することで実現できる。これらの機能の一部をハードウェアで実現するものとしてもよい。特にフィルタリングモジュール78の機能は、ハードウェアとしてのフィルタ手段を用いるものとすることができる。
かかる構成の作用を以下に説明する。エンジントルク変動検出のための手順は、まず、トランスミッション機構40の側の回転変動であるTM側回転変動信号を取得することから始まる(TM側回転変動取得工程)。この工程は、制御部70のTM側回転変動取得モジュール76の機能によって実行される。具体的には、図4に関連して説明したように、MG1センサ44の検出データと、MG2センサ48の検出データと、共線図で示される回転数と減速比の関係に基いて、インプットシャフト49の回転数が求める。そして、求められたインプットシャフト49の回転数の時間微分からTM側回転変動信号を生成して取得する。
次に、記憶部72から、ダンパ接続部30における伝達特性のデータ74を読み出して取得する(伝達特性取得工程)。図2に関連して説明したように、ダンパ接続部30の伝達特性の例は、Bode線図であり、エンジン側のエンジントルク変動とトランスミッション機構側の回転変動との間の比をゲインとして、ゲインの周波数特性を示すものである。
そして、取得されたダンパ接続部30の伝達特性に応じて、予め設定された周波数領域で平坦なゲイン−周波数特性を有するフィルタリング処理をTM側回転変動信号に対して行う(フィルタリング処理工程)。この工程は、制御部70のフィルタリングモジュール78の機能によって実行される。
フィルタリング処理の一例を図5に示す。この図は、横軸に周波数、縦軸にゲインをとったもので、図2で説明したダンパ接続部30の伝達特性が破線で示されている。そして太い実線がフィルタリング処理において用いられるフィルタ特性である。ここでは、ダンパ接続部30の伝達特性の共振周波数帯よりも低周波数側の信号を通すフィルタ特性が示されている。すなわち、ダンパ接続部30の伝達特性の共振周波数の下限である周波数f0までの低周波数ではゲインが一定で、これを超える周波数でゲインを小さくするフィルタ特性がフィルタリング処理で用いられる。
これにより、周波数f0以下の低周波数におけるダンパ接続部30の伝達特性はそのままの状態で出力され、周波数f0を超える周波数帯におけるダンパ接続部30の伝達特性はカットされる。このフィルタリング処理で出力される伝達特性の部分が太い破線で示されている。このようなフィルタ特性を用いてフィルタリング処理を行うことで、図2で説明したダンパ接続部30の共振特性を示す部分と減衰特性を示す部分をカットし、エンジン20のトルク変動が忠実に現れる部分のみを抽出して出力することができる。
図6は、フィルタリングのもう1つの例を示す図である。図6の横軸、縦軸の意味は図5と同じで、ダンパ接続部30の伝達特性が破線で示されている。そして太い実線がフィルタリング処理において用いられるフィルタ特性である。ここでは、ダンパ接続部30の伝達特性における共振特性を相殺して周波数に対して平坦なゲイン特性とする共振逆フィルタ特性が用いられている。
これにより、広い周波数帯においてダンパ接続部30の伝達特性における共振特性等がフィルタリング処理による相殺され、広い周波数帯に渡って平坦な伝達特性として出力される。このフィルタリング処理で出力される伝達特性が太い破線で示されている。このようなフィルタ特性を用いてフィルタリング処理を行うことで、図2で説明したダンパ接続部30の共振特性を示す部分と減衰特性を示す部分がフィルタリングで相殺され、広い周波数帯に渡って、エンジン20のトルク変動が忠実に出力することができる。
このようなフィルタリングは、TM回転変動信号をディジタル数値信号として、図5、図6の実線で示されるフィルタ特性に相当するディジタル演算処理をTM回転変動信号に対して施すことによって実行することができる。また、TM回転変動信号を実際の電気信号として、図5、図6の実線で示されるフィルタ特性を有するフィルタ要素をハードウェアで構成し、そのフィルタ要素にTM回転変動信号を通過させることで実行することもできる。
このようにして、TM回転変動信号に対してフィルタリング処理を行い、フィルタリング通過後のTM側回転変動信号であるフィルタ後回転変動信号を取得し、その取得されたフィルタ後回転変動信号と、ダンパ接続部30の伝達特性とに基いてエンジンのトルク変動を求める(トルク変動算出工程)。この工程は制御部70のトルク変動算出モジュール80の機能によって実行される。具体的には、フィルタ後回転変動信号に、ダンパ接続部30の伝達特性のうち、フィルタリング処理によって平坦化された部分のゲインを乗じて、回転変動をトルク変動に変換する。これによって、ダンパ接続部30の反力の影響を受けるクランクシャフト24の回転変動を用いることなく、精度よくエンジン20のトルク変動を検出することができる。
8 車輪、10 エンジントルク変動検出システム、20 エンジン、21,41 センサ、22 気筒、24 クランクシャフト、26 エンジン回転数センサ、30 ダンパ接続部、32 バネ成分、34 ダンパ成分、40 トランスミッション機構、42 第1回転電機(MG1)、44 MG1センサ、46 第2回転電機(MG2)、48 MG2センサ、49 インプットシャフト、50 第1プラネタリ機構、52 減速機構、54 第2プラネタリ機構、60 エンジン−ECU、62 MG−ECU、64 HV−ECU、70 制御部、72 記憶部、74 伝達特性のデータ、76 TM側回転変動取得モジュール、78 フィルタリングモジュール、80 トルク変動算出モジュール、90 駆動力、92 反力、94 伝達力。