JP4889232B2 - 非水電解液二次電池の製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、非水電解液二次電池に関するものである。
近年、携帯用電気機器の小型化・軽量化は著しく進んでおり、また多機能化に伴い消費電力も増加している。このため、電源として使用されるリチウム二次電池においても軽量化及び高容量化の要望が強くなっている。
このような要望に対して、近年、炭素負極に比べて単位質量及び単位体積当りの充放電容量に優れる電極材料として、シリコンが提案されている。
負極活物質としてシリコン薄膜を用いた従来のリチウム二次電池においては、厚み方向に切れ目が形成されることにより、柱状に分離された柱状構造を有する活物質薄膜の電極が提案されている。このような柱状構造とすることにより、活物質の膨張収縮による応力を緩和することができ、活物質が集電体から脱離するのを防止することができ、充放電サイクル特性を高めることができる。
しかしながら、このようなシリコン薄膜を用いた負極においては、充放電サイクルを繰り返すことにより、活物質が変質し、多孔質化することが知られている。本発明者らは、後述するように、このような活物質の変質が、電池動作時におけるシリコンの酸化によるものであることを見出した。本発明は、本発明者らのこのような知見に基づくものである。
特許文献1においては、電極を製造する際のシリコンの酸化を防止するため、pH調整剤を用いることが提案されている。しかしながら、特許文献1においては、充放電サイクルにおけるシリコンの酸化については何ら開示されておらず、その示唆もなされていない。
特許文献2においては、飽和ジカルボン酸を負極内部に添加し、充放電サイクル特性を改善させることが記載されている。また、特許文献3においては、有機酸を負極内部に添加し、サイクル特性を改善させることが記載されている。しかしながら、これらの先行技術には、シリコンの酸化の防止を抑制することにより、充放電サイクル特性を改善させることについては何ら開示されていない。
特開2004−349079号公報 特開2004−6188号公報 特開2004−335379号公報
本発明の目的は、シリコンを負極活物質として含む非水電解液二次電池において、シリコンを含む負極活物質の膨張が抑制され、かつ優れた充放電サイクル特性を示す非水電解液二次電池を提供することにある。
本発明は、負極活物質としてシリコンを含む負極と、正極活物質を含む正極と、非水電解液と、外装体とを備える非水電解液二次電池の製造方法であり、負極内または負極の表面に、無水コハク酸を含有させる工程と、その後、負極表面に皮膜を形成するための皮膜形成剤が含有されている非水電解液を前記外装体内に注入する工程と、を備え、無水コハク酸の平均粒子径が、負極活物質の粒子の粒度分布の範囲内であることを特徴としている。
本発明においては、負極内または負極の表面に、電池作動時におけるシリコンの酸化を抑制する添加剤として無水コハク酸が含まれているため、シリコンを含む負極活物質の劣化による膨張が抑制され、充放電サイクル特性を向上させることができる。
後述するように、本発明者らは、電池作動時におけるシリコンの酸化が、OH-による反応と類似した反応により促進されることを見出した。このようなシリコンの酸化を抑制するためには、シリコンが存在する雰囲気を弱アルカリ性もしくは酸性にすることで、アルカリによるシリコンの酸化反応を抑制すればよく、本発明で用いる添加剤は、シリコンが存在する雰囲気を弱アルカリ性または酸性にし得る物質である。
本発明において、添加剤の含有量は、負極活物質に対して0.01〜10重量%の範囲内であることが好ましい。10重量%より多くなると、電池作製初期において負極側で添加剤が分解し、負極表面に堆積物が生成し、電池の初期容量が低下し、結果としてエネルギー密度が低下する場合がある。また、0.01重量%より少なくなると、充放電サイクル特性を向上させる本発明の効果が十分に得られない場合がある。
本発明において、添加剤を負極中に含有させる方法としては、例えば粉体活物質を用いる場合には、負極極板合剤作製時に活物質や結着剤と共に混合し、さらに溶剤を加えてスラリー状にしたものを塗布、乾燥することで、負極内に添加剤を含有した極板を得ることができる。
また、本発明において、負極表面に添加剤を含有させる方法としては、粉砕により微粉化した固体状添加剤を懸濁させた溶液を電極表面に噴霧した後、減圧処理を行うことで溶媒を除去し、表面に均一に添加剤を分散させることにより、負極表面に均一に添加剤を含有させることが可能となる。
さらに、液体状の添加剤を用いる場合には、添加剤を電極表面に噴霧させることで、負極表面に均一に添加剤を含有させることが可能となる。
本発明に従い、添加剤を負極内または負極の表面に含ませることにより、添加剤を負極活物質であるシリコンの表面付近の電解液に安定して供給することができ、シリコンを酸化させる成分を継続的に消費し、シリコンの酸化を継続して抑制することができる。
本発明における負極は、集電体の上にシリコンまたはシリコン合金からなる薄膜を堆積して形成した電極であることが好ましい。このような薄膜は、スパッタリング法、CVD法、蒸着法、及び溶射法などにより形成することができる。このような薄膜は、充電反応により厚み方向に膨張するため、活物質上の保護膜で覆われている部分が剥がれ、新しいシリコン活物質の面が電解液と接触しやすくなると考えられる。その結果、電解液などと反応しやすくなり、シリコンの酸化が起こる。このような状況下でシリコンの酸化を抑制することにより、充放電サイクルによる活物質の膨化を抑制することができ、活物質層の厚みの増加を抑制することができる。
上記シリコンまたはシリコン合金からなる薄膜は、厚み方向に形成された切れ目によって柱状に分離された柱状構造を有することが好ましい。このような柱状構造を有することにより、活物質へのリチウムの挿入脱離時の活物質の膨張収縮による応力を緩和し、集電体からの活物質層の剥離及び脱落が抑制される効果がある。このような膨張収縮を繰り返す活物質において、シリコンの酸化を抑制することにより、シリコンの膨化やサイクル劣化などを抑制することができる。
上記のような厚み方向に切れ目が形成されるためには、薄膜の表面に凹凸が形成されていることが好ましい。活物質薄膜の表面に凹凸を形成するためには、負極集電体としてその表面を粗面化した銅箔等を用いることが好ましい。このような銅箔としては、電解銅箔が挙げられる。電解銅箔は、例えばイオンが溶解された電解液中に金属製のドラムを浸漬し、これを回転させながら、電流を流すことにより、ドラムの表面に金属を析出させ、これを剥離して得られる箔である。この電解銅箔の片面または両面に、電解法により金属を析出させ、表面を粗面化してもよい。これらの代わりに、圧延箔の表面に電解法より金属を析出させ、表面を粗面化してもよい。
本発明において、負極活物質は、シリコンと他の金属との合金であってもよい。他の金属としては、コバルト、ジルコニウム、亜鉛、鉄などが挙げられ、特に、シリコンとコバルトの合金が好ましく用いられる。コバルトを含有させることにより、充放電サイクルをさらに向上することが可能である。シリコンと他の金属との合金においては、シリコンが50原子%以上含まれていることが好ましい。
添加剤は、酸化シリコンの量を増加させる成分と反応することで消費されるため、添加剤がたえず電解液中に存在することが好ましい。添加剤が電解液に溶解しやすいものであると、電解液への添加剤の溶出が多くなり、電解液中において添加剤が過剰に存在することになる。このような場合、添加剤がシリコン中のリチウムなどとの反応により消費され、その後の充放電サイクルにおいて添加剤が存在しない状態になってしまうおそれがある。
本発明において、添加剤の平均粒子径は、負極活物質粒子の粒度分布の範囲内である。これにより、負極内部に添加剤を分散させる場合において、均一に分散させることができる。
本発明においては、非水電解液中に、負極表面に皮膜を形成するための皮膜形成剤が含有されている。このような皮膜形成剤は、皮膜形成剤の還元分解により形成される皮膜が、負極表面でのリチウムの脱離挿入反応の均一性を向上させ、局所的な劣化の進行や副反応を抑制する効果があるものと考えられる。しかしながら、この種の皮膜は、シリコンの表面の酸化を十分に抑制することができず、また皮膜形成剤が電池内に存在しなくなると、皮膜としての効果を継続させることができない。シリコンが酸化された場合、負極活物質の膨化が進行し、活物質表面が増加するため、皮膜の破壊量が増加し、皮膜形成剤の消費が増加することにより、皮膜形成剤の添加効果が得られる充放電サイクル数が短くなる。皮膜形成剤の添加効果を継続して得るためには、同時に負極活物質の膨化を抑制する必要がある。従って、本発明における添加剤と皮膜形成剤を併用することにより、両者の利点が効率良く発揮され、相乗効果を得ることができ、優れたサイクル特性が得られる。
上記のような皮膜形成剤の具体例としては、ビニレンカーボネート(VC)、ビニルエチレンカーボネート(VEC)などが挙げられる。また、高温環境下での使用においては、エチレンカーボネート(EC)も皮膜形成剤として機能する。
皮膜形成剤の添加量は、非水電解液に対して0.01〜10重量%であることが好ましく、さらに好ましくは、0.1〜10重量%の範囲内である。皮膜形成剤の量が少なすぎると、酸化の抑制による、皮膜形成剤の添加効果を十分に継続させることができなくなり、良好な相乗効果を得ることができない。
また、皮膜形成剤の量が多すぎると、負極表面に過剰な皮膜が形成されるため、放電容量の低下に繋がり好ましくない。
本発明における非水電解液に用いる非水溶媒としては、環状カーボネート類、鎖状カーボネート類、ラクトン化合物(環状カルボン酸エステル)類、鎖状カルボン酸エステル類、環状エーテル類、鎖状エーテル類、含硫黄有機溶媒等が挙げられる。これらの中でも、好ましくは、炭素数が3〜9である環状カーボネート、鎖状カーボネート、ラクトン化合物(環状カルボン酸エステル)、鎖状カルボン酸エステル、環状エーテル類、鎖状エーテル類が挙げられ、特に炭素数が3〜9である環状カーボネート及び鎖状カーボネートの一方または両方を含むことが好ましい。
本発明における非水電解液における溶質としては、リチウム二次電池において一般的に用いられているリチウム塩化合物を用いることができる。
本発明において用いる正極活物質は、リチウム二次電池に用いることができる正極活物質であればよく、例えば、コバルト酸リチウム、マンガン酸リチウム、ニッケル酸リチウム、これらの酸化物を含有するリチウム遷移金属複合酸化物などが挙げられる。これらの酸化物は単独で用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。
<電池作動時におけるシリコンの酸化について>
以下、電池作動時におけるシリコンの酸化について説明する。
図1は、充放電前のシリコン薄膜の電極の破断面を示す二次電子像である。なお、シリコン薄膜の電極は、集電体としての電解銅箔の上にシリコン薄膜をスパッタリング法により堆積させることにより形成した電極である。
図2は、1サイクル目の充電後の状態を示す二次電子像であり、図3は1サイクル目の放電後の状態を示す二次電子像である。
図2及び図3から明らかなように、シリコン薄膜にリチウムが挿入され、充電状態になると、シリコンはその厚み方向に2倍以上膨張している。次に、放電を行うと、シリコン薄膜はその厚み方向に亀裂が入り、柱状構造を形成し、その厚みは充放電前の1.5倍以上に増加した状態になる。このような柱状構造を有することにより、活物質の膨張収縮による応力を緩和し、活物質が集電体から脱落するのを防止することができる。
このようなシリコン薄膜の負極を用いて、充放電サイクルを繰り返すと、図4に示すように、充放電サイクルに伴い、放電容量維持率が低下する。
図5〜図7は、充放電前、放電容量劣化前(10サイクル後)、及び放電容量劣化後(100サイクル後)におけるシリコン薄膜の電極の断面を示す走査イオン顕微鏡像である。これらは、タングステン保護膜を活物質層の表面に堆積させた後、集束イオンビーム装置により活物質層を切断し、活物質の柱の断面を走査イオン顕微鏡で観察したときの顕微鏡像である。なお、図5〜図7において、一点鎖線の矢印はタングステン保護膜を示している。
図5〜図7において、実線の矢印で示している部分は、変質部であり、柱状の活物質の内部に比べてコントラストが明るい部分であり、活物質が変質している領域である。点線の矢印で示した部分は、未変質部であり、コントラストが暗い柱状部分の内部領域であり、活物質が変質していない領域である。
図5〜図7から明らかなように、活物質の変質部は、充放電前及び放電容量劣化前では少ないが、放電容量劣化後では増加している。この変質部の領域は、活物質内に空隙ができることにより、かさ密度が低下(膨化)しており、このため活物質層の厚みが増加している。なお、微粉化は観察されておらず、集電体からの活物質の脱落は認められない。
負極をジメチルカーボネートで洗浄し、真空乾燥を行った後、負極活物質の表面及び内部のシリコン及び酸素についてアルゴンイオンビームによるスパッタを併用したX線光電子分光(XPS)による深さ方向の分析を行った。
図8〜図10は、スパッタ時間に対するシリコン濃度と酸素濃度の割合を原子数に対する100分率で示した図である。図8は充放電前、図9は放電容量劣化前、図10は放電容量劣化後を示している。なお、スパッタレートは、SiO2換算で10nm/分である。
図8〜図10から明らかなように、充放電前及び放電容量劣化前においては、最表面にのみに酸素が多く存在しているが、放電容量劣化後においては、スパッタ時間80分(最表面より800nm)以上深い部分まで酸素が20原子%以上存在しており、充放電サイクルによりシリコンの酸化が進行していることがわかる。
従って、図5〜図7に示す、実線の矢印部で示す変質部は、酸素が高濃度に存在している領域であり、酸化シリコンになっていると考えられる。また、点線の矢印で示す未変質部は、シリコンが酸化されていない状態を維持していると考えられる。
X線光電子分光(XPS)分析において、シリコンの価数は、XSP Si−2pスペクトルのバインディングエネルギー位置に対して、
0価シリコン:約99eV
2価シリコン:約101eV
4価シリコン:約103eV
の関係が知られている。
図11は、放電容量劣化後のシリコン薄膜の負極のシリコン薄膜の表面における最表面、1分スパッタ後、10分スパッタ後、20分スパッタ後、40分スパッタ後、及び80分スパッタ後におけるXPS Si−2pスペクトルを示している。図11から明らかなように、シリコン薄膜の表面においては、2価のシリコンが多く、内部においては0価のシリコンが多いことがわかる。
図12〜図14は、充放電前(図12)、放電容量劣化前(図13)、及び放電容量劣化後(図14)の負極のシリコン薄膜において、XPS Si−2pスペクトルのピーク面積を、0価シリコン及び酸化シリコン(2価シリコンと4価シリコンの合計)に分離し、0価シリコン及び酸化シリコンの割合を、原子数に対する100分率として求めたXPSプロファイルを示す図である。
図12〜図14から明らかなように、充放電前及び充放電劣化前においては、酸化シリコンは最表面付近にのみ存在しているが、放電容量劣化後においては、スパッタ時間80分の深い領域まで、20原子%以上の割合で酸化シリコンとなっていることがわかる。
以上のように、充放電サイクルにより、シリコンが酸化され、それに伴う活物質の膨化による活物質層の厚み増加が確認されている。放電容量の劣化原因の1つは、活物質の表面の酸化及び膨化により活物質表面の電気伝導性が低下し、リチウムの吸蔵放出における抵抗値が増加するためと考えられる。このようなシリコンを酸化させる反応として、以下の反応が考えられる。
Si+2Li++2OH- → Si(OLi)2+H2↑ …(1)
2Si+6OH- → 3SiO2 2-+3H2↑ …(2)
上記の反応式は、水溶液系で一般に知られている反応式であり、水溶液系においては、OH-がシリコンの酸化反応を生じさせる。
しかしながら、非水電解液として用いている有機溶媒中では、OH-の形ではほとんど存在せず、負極活物質表面において生成されるLiOH、ROLi、Li2O、ROCO2Li、RCO2LiなどのLiを含む化合物でアルカリ性を示す物質が、負極活物質であるシリコンに対し、上記(1)式及び(2)式中のOH-によると反応と類似した反応を生じさせて酸化シリコンが増加していると考えられる。
また、リチウムが存在する状態では、系内に存在する水分も以下の反応式で示されるリチウムとの反応によりOH-が生じ、これがシリコンに酸化反応を生じさせるものと思われる。
2Li+2H2O → 2Li−OH+H2↑ …(3)
電池内で発生する酸化シリコンを増加させる成分は、シリコンとの反応により、以下の(i)及び(ii)の反応を引き起こす物質であると考えられる。
(i)シリコンの酸化数が0価から2価もしくは4価に増加する反応、すなわちシリコンの酸化反応
(ii)シリコンと酸素の結合を有する化合物を生じる反応
以上のことから、活物質としてのシリコンの劣化は、シリコンの酸化反応により生じるものであることがわかった。本発明では、このような本発明者らの知見に基づき、シリコンの酸化を抑制する添加剤を負極内または負極の表面に含ませることにより、シリコンの劣化を抑制し、充放電サイクル特性を向上させている。
本発明によれば、負極内または負極の表面に、電池作動時におけるシリコンの酸化を抑制する添加剤を含ませ、かつ非水電解液中に皮膜形成剤を含ませることにより、シリコンを含む活物質の劣化により膨張(膨化)が抑制され、優れた充放電サイクル特性を得ることができる。
以下、本発明を具体的な実施例により説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
〔正極の作製〕
正極活物質としてのコバルト酸リチウムと、導電助剤としてのケッチェンブラックと、結着剤としてのフッ素樹脂とを、質量比で90:5:5の割合で混合し、これをN−メチル−2−ピロリドン(NMP)に溶解し、正極合剤ペーストを作製した。
作製した正極合剤ペーストをドクターブレード法により、厚み20μmのアルミニウム箔の両面に均一に塗布した。次に、加熱した乾燥機中で100〜150℃の温度で真空熱処理してNMPを除去した後、厚みが0.16mmとなるようにロールプレス機により圧延して正極を作製した。
〔負極の作製〕
集電体として厚み18μm、表面粗さRa0.188μmの電解銅箔を用いた。この電解銅箔の上に、スパッタガス(Ar)流量:100sccm、基板温度:室温(加熱なし)、反応圧力:0.133Pa(1.0×10-3Torr)、高周波電力:200Wの条件で、RFスパッタリング法により、厚み5μmのシリコン薄膜を形成した。得られたシリコン薄膜は、ラマン分光法を用いて測定した結果、波長480cm-1近傍のピークは検出されたが、520cm-1近傍のピークは検出されなかった。このことから、非晶質シリコン薄膜であることが確認された。
上記のようにして集電体の上にシリコン薄膜を両面に形成し負極を作製した後、負極の表面に添加剤としての無水コハク酸を含有させた。具体的には、粉砕により微粉化した無水コハク酸をDECに懸濁させた懸濁溶液を電極表面に噴霧し、その後減圧乾燥することでDECを除去することで、表面に均一に無水コハク酸を分散させた負極を作製した。
〔非水電解液の作製〕
エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)を体積比3:7となるように混合した混合溶媒に、電解質塩としてLiPF6を1モル/リットルとなるように溶解させ、さらにビニレンカーボネート(VC)を2重量%となるように添加して電解液を作製した。
〔二次電池の作製〕
上記の正極及び負極を所定の大きさに切り出し、それぞれの集電体に集電タブを取り付けた。正極及び負極の間にポリオレフィン系微多孔膜からなる厚さ20μmのセパレータを挟み、これを巻取り、最外周をテープで留め、渦巻き状電極体とした後、扁平に押し潰して板状体とした。これをPET及びアルミニウムなどの積層により作製したラミネート材で作製した外装体中に挿入し、次に上記電解液を注入した後、端部からタブが外部に突き出る状態で封止し、リチウム二次電池を作製した。
(比較例1)
添加剤としての無水コハク酸を負極表面に含有させない以外は、上記実施例1と同様にしてリチウム二次電池を作製した。
〔サイクル特性の評価〕
実施例1及び比較例1の電池についてサイクル特性を評価した。以下の充放電サイクル条件で50サイクル目まで充放電を行い、初期及び50サイクル後の放電容量を測定し、放電容量維持率(初期放電容量/50サイクル後の放電容量×100)を算出し、結果を表2に示した。
充電条件:250mA−4.2V 12mA 終止 定電流−定電圧充電
放電条件:250mA−2.75V 終止 定電流放電
〔活物質層の厚みの測定〕
上記と同様の充放電サイクル条件で、80サイクルまで充放電を行い、80サイクル後の活物質層の厚みの変化を測定した。活物質層の厚みの変化は、充放電試験前及び充放電試験後の電池から取り出した負極を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、活物質層の厚みを測定し、活物質層の厚みの変化を算出した。
図15は、80サイクル後の実施例1の負極を示すSEM写真であり、図16は、充放電試験前の比較例1の負極を示すSEM写真であり、図17は、80サイクル後の比較例1の負極を示すSEM写真である。各図に示している点線(矢印で示す位置)を基準として活物質層の厚みを求めた。測定結果を表2に示す。
表2に示す結果から明らかなように、本発明に従いシリコンの酸化を抑制する添加剤として無水コハク酸を負極表面に含有させ、かつ電解液にVCを含有させることにより、放電容量維持率が高くなり、サイクル特性が向上するとともに、活物質層の厚みの増加も抑制されてることがわかる。
(比較例2)
比較例1において、非水電解液として、ビニレンカーボネート(VC)を2重量%となるように添加した非水電解液を用いる以外は、比較例1と同様にしてリチウム二次電池を作製した。
(比較例3)
比較例1において、負極表面に無水コハク酸を含有させる以外は、比較例1と同様にしてリチウム二次電池を作製した。
〔充放電サイクル特性及び負極活物質層の厚み変化の測定〕
実施例1と同様にして、充放電サイクル特性を評価し、放電容量維持率を表4に示した。また、実施例1と同様にして負極活物質層の厚み変化を測定して、表4に示した。図18は、80サイクル後の比較例2の負極を示すSEM写真であり、図19は、80サイクル後の比較例3の負極を示すSEM写真である。なお、表4には、実施例1及び比較例1の結果も併せて示している。
表4に示す結果から明らかなように、非水電解液にビニレンカーボネートを添加するとともに、負極表面に無水コハク酸を含有させることにより、充放電サイクル特性の向上及び電極膨化の抑制の効果が顕著に表われることがわかる。
(実施例2)
実施例1の正極の作製において、シリコン薄膜の代わりにシリコン・コバルト合金薄膜を形成する以外は、実施例2と同様にしてリチウム二次電池を作製した。なお、リチウム・コバルト合金薄膜中におけるコバルトの含有量は20重量%である。
〔充放電サイクル特性の評価〕
実施例1及び2のリチウム二次電池について、上記と同様にして充放電サイクル特性を評価し、放電容量維持率を表6に示した。
表6に示す結果から明らかなように、シリコンにコバルトを含有させたシリコン・コバルト合金を活物質として用いることにより、さらにサイクル特性が向上することがわかる。
充放電前のシリコン薄膜の電極の破断面を示す二次電子像。 従来例における1サイクル目の充電後の状態のシリコン薄膜の電極の破断面を示す二次電子像。 従来例における1サイクル目の放電後の状態のシリコン薄膜の電極の破断面を示す二次電子像。 従来例における充放電サイクルを示す図。 充電前のリチウム薄膜の電極の断面の走査イオン顕微鏡像を示す図。 従来例における放電容量劣化前のシリコン薄膜の電極の断面の走査イオン顕微鏡像を示す図。 従来例における放電容量劣化後のシリコン薄膜の電極の断面の走査イオン顕微鏡像を示す図。 充放電前のシリコン薄膜の表面のシリコン及び酸素のXPSプロファイルを示す図。 従来例における放電容量劣化前のシリコン薄膜の負極の表面のシリコン及び酸素のXPSプロファイルを示す図。 従来例における放電容量劣化後のシリコン薄膜の負極の表面のシリコン及び酸素のXPSプロファイルを示す図。 従来例の放電容量劣化後のシリコン薄膜の負極の表面のXPS Si−2pスペクトルを示す図。 充放電前シリコン薄膜の負極の表面の金属シリコン及び酸化シリコンのXPSプロファイルを示す図。 従来例の放電容量劣化前のシリコン薄膜の負極の表面の0価シリコン及び酸化シリコンのXPSプロファイルを示す図。 従来例の放電容量劣化後のシリコン薄膜の負極の表面の0価シリコン及び酸化シリコンのXPSプロファイルを示す図。 本発明に従う実施例1の80サイクル後の負極の状態を示す走査型電子顕微鏡写真。 比較例1の充放電サイクル試験初期における負極の状態を示す走査型電子顕微鏡写真。 比較例1の80サイクル後の負極の状態を示す走査型電子顕微鏡写真。 比較例2の80サイクル後の負極の状態を示す走査型電子顕微鏡写真。 比較例3の80サイクル後の負極の状態を示す走査型電子顕微鏡写真。

Claims (6)

  1. 負極活物質としてシリコンを含む負極と、正極活物質を含む正極と、非水電解液と、外装体とを備える非水電解液二次電池の製造方法において、
    前記負極内または前記負極の表面に、無水コハク酸を含有させる工程と
    その後、前記負極表面に皮膜を形成するための皮膜形成剤が含有されている前記非水電解液を前記外装体内に注入する工程と、を備え、
    前記無水コハク酸の平均粒子径が、前記負極活物質の粒子の粒度分布の範囲内であることを特徴とする非水電解液二次電池の製造方法。
  2. 前記負極が、集電体の上に、シリコンまたはシリコン合金からなる薄膜を堆積して形成した電極であることを特徴とする請求項1に記載の非水電解液二次電池の製造方法。
  3. 前記薄膜が厚み方向に形成された切れ目によって柱状に分離された柱状構造を有することを特徴とする請求項2に記載の非水電解液二次電池の製造方法。
  4. 前記皮膜形成剤がビニレンカーボネートであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の非水電解液二次電池の製造方法。
  5. 前記負極活物質がシリコンと他の金属との合金からなることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の非水電解液二次電池の製造方法。
  6. 前記無水コハク酸が、前記非水電解液中で固体状態であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の非水電解液二次電池の製造方法。
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