添付の図面に示すいくつかの好ましい実施形態を参照しつつ、本発明について詳細に説明する。以下の説明では、本発明の完全な理解を促すために、多くの具体的な詳細事項を説明している。しかしながら、これらの具体的な詳細事項の一部またはすべてがなくとも、本発明を実施できることは、当業者にとって明らかである。また、周知の処理工程および/または構造については、本発明を不必要にわかりにくくしないように、詳細には説明していない。
概説
燃焼とは、機械的エネルギを生み出す急激な化学変化のことである。化学変化は、通例、燃料を燃やすことにより気体の加熱を引き起こし、加熱された気体の膨張の結果として圧力を生み出す。したがって、燃焼は、少量の燃料が、燃焼室で点火された際に、膨張する気体の形で機械的エネルギを生み出すことを可能にする。
本発明の燃焼装置は、膨張する気体によって伝えられる機械的エネルギに応じて伸長するコンプライアント壁またはコンプライアント部分を備える。燃焼装置の一部に結合することにより、機械的エネルギが、有効な仕事を実行できるようになる。一部の実施形態では、燃焼装置は、(燃焼室に対する吸気および排気に用いられる任意の機構を除く)1つの材料を備えており、その材料の一部分が移動し、他の部分が静止を保つ。その燃焼装置は、さらに、変形することにより、移動する部分と静止した部分との間の相対移動を可能にするコンプライアント部分を備える。
図1Aは、本発明の一実施形態における燃焼装置10を簡略に示す図である。図1Bは、燃焼室14内で燃焼した後の装置10を示す図である。燃焼装置10は、コンプライアント壁15の部分19の変形により、燃焼エネルギを利用して機械的出力を供給する。ここでは、本発明について、燃焼装置と、それに含まれる構成要素とに基づいて説明するが、以下の説明が、燃料から機械的エネルギを生み出すための燃焼装置を利用する方法や個々の工程にも関連することは、当業者にとって明らかなことである。
燃焼装置10は、燃焼室14の境界を形成する一組の壁12および15を備える。壁12は剛体であり、壁15はコンプライアントである。一般に、本発明の燃焼装置は、燃焼室14の境界を形成してその寸法を規定するのに適した任意の形状の壁を任意の数だけ備えてよい。装置10の少なくとも一つの壁(または、その一部)は、燃焼室14における燃料の燃焼によって生じた力に応じて変形(例えば、伸長)するコンプライアント部分19またはコンプライアント壁15を備える。以下で説明するように、コンプライアント壁15は、燃焼室14を取り囲む壁面の様々な割合を占めてよく、特定の燃焼装置機構に基づいて、多くの形状を含んでよい。コンプライアント壁15は、1以上の剛体部分を備えてもよく、例えば、19は、コンプライアント壁15の金属または硬質プラスチックの補強であってもよい。一部の例では、燃焼室14内の機械的エネルギが、コンプライアント壁15または部分19に対して、より小さい面積に作用して、コンプライアント壁15への力または変位、および、機械的出力23を増大させるように、非コンプライアント壁12が備えられてもよい。燃焼室14の形状、コンプライアント壁15およびコンプライアント部分19の構成、燃焼室の壁の構成は、様々であってよい。例えば、燃焼室およびコンプライアント壁は、ダイヤフラム型、管状(円筒型)、バルーン型、もしくは、容積を囲むその他の構成を含んでよい。以下では、いくつかの代表的な形状および構成について説明する。
コンプライアント部分19など、コンプライアント壁15の制約されていない部分は、燃焼室14における燃料25の燃焼によって生じる膨張気体および圧力に応じて変形する。一般に、コンプライアント部分またはコンプライアント壁の変形とは、任意の伸長、変位、拡張、屈曲、収縮、ねじれ、線形歪みまたは面歪み、それらの組み合わせ、もしくは、コンプライアント壁15の部分の任意の他の変形を意味する。一実施形態では、コンプライアント部分19は、燃料25の燃焼によって引き起こされる膨張ガスおよび圧力に応じて伸長する。また、コンプライアント壁15または部分19の弾性伸びが、弾性機械エネルギを蓄積する。本発明のいくつかの実施形態は、壁15または部分19における弾性エネルギの蓄積を利用する。例えば、燃焼後に、コンプライアント壁15は、燃焼前の状態または位置に弾性的に復元することが可能であり、それにより、燃焼室14からの燃焼ガスの排気を助ける機構が提供される。いくつかの機構では、弾性的に伸長することで燃焼室を拡張するが、他の機構では、曲げモード、または、曲げおよび伸長を用いる。以下では、コンプライアント壁15の様々な材料および構成について、さらに詳しく説明する。
図1の装置では、コンプライアント壁15は、燃焼室14の上壁を形成している。一部の例では、コンプライアント壁15は、一組の壁12の内の1以上の剛体の壁や機械的出力へのコンプライアント壁15の固定に用いられる部分など、伸長しない部分を備える。図1の装置では、コンプライアント壁15の中央部分は、剛体の機械的出力23に取り付けられている。残りの部分は、機械的出力23に取り付けられていないコンプライアント壁15の部分と、剛体の壁12への取り付けに用いられているコンプライアント壁15の部分とをすべて含むコンプライアント部分19である。燃焼室14が実質的に円筒形で、機械的出力23が円形である場合には、コンプライアント部分19は、壁15上でドーナツ状の形を取る。別の実施形態では、中央部分19は、コンプライアントではなく、コンプライアント壁15よりも硬い材料を備える。この場合、中央部分19は、比較的剛性が高く、装置10のコンプライアント部分は、中央の剛体部分19の周りに外周リングを備え、それにより、コンプライアント壁/部分15が、伸長して、中央の剛体部分19と、それに取り付けられた機械的出力23とを駆動することが可能になる。
一組の壁12(コンプライアント壁15を含む)は、共に、燃焼室14を形成して取り囲む。本明細書で用いられているように、燃焼室という用語は、機械的エネルギを生み出すために燃料の燃焼を起こす囲まれた空間を意味する。様々な物理的構成を、燃焼室に用いてよい。例えば、適切な物理的構成は、球形、正方形や長方形、円筒形、卵形および楕円形、および、その他の様々な形状を含んでよい(その内のいくつかは、以下で説明する)。一般に、本発明は、特定の燃焼室の機構および形状のいずれにも限定されない。
コンプライアント壁15が変形すると、燃焼室14の容積は変化する。燃焼室14は、通例、最大容積と最小容積とを有する。「排気量」とは、最大容積と最小容積との差を意味する。通例、排気量を増大させると、燃焼装置において、より大きい機械的出力が実現される。一部の燃焼装置では、コンプライアント壁15または部分19が伸長して、その厚さが減少するため、最大容積は、さらに増大する。
一実施形態では、燃焼装置10は、燃焼室内で平行移動するピストンを備えない。多くの例で、燃焼装置は、燃焼室内に配置された吸気または排気弁の機構(または、その部品)以外には、燃焼室14内部に移動する部品を備えない。これらの機構により、燃焼室14内部で移動する部品の間の摩擦が排除され、摩擦熱の発生から生じるエネルギ損失が低減される。また、これらの機構により、燃焼室14において、移動する部品の間に注油する必要がなくなる。一部の機構では、コンプライアント壁15の外側に結合されて線形の機械的出力23として機能する機械的出力としてピストンを備えることにより、燃焼室14内で生み出されたエネルギを利用してよいが、これらの場合でも、燃焼室内で平行移動するピストンは備えない。これは、ピストンが燃焼室の内部に入る(すなわち、ピストンが、シリンダ内で平行移動する壁を形成し、シーリングと、移動する部品間の摩擦を低減するためのシリンダ内への注油とを必要とする)従来技術と異なる点である。
燃焼装置10は、空気などの酸素源と燃料とを燃焼室14に吸気する、および、排気ガスを燃焼室14から排気するよう構成された1以上のポートを備える。燃焼室に対する反応物質および生成物の吸気口および排気口は、当業者に周知であり、本発明は、反応物質を燃焼室に供給する方法によっても、生成物を燃焼室から除去する方法によっても限定されない。例えば、少し圧力をかけた未使用の燃料・空気を、吸気ポートから吸入することにより、排気ポートから強制排気することができる。従来技術では、より効率的な他の方法が周知であり、その一部は、この特許において、後に説明する。一部の燃焼装置の機構では、1つの共通な吸気/排気ポートを備えてよい。他の機構では、2つのポートが設けられてもよい。例えば、図1Aに示した実施形態では、装置10は、2つのポートを備える。すなわち、吸気ポート20および排気ポート22である。他の機構では、3以上のポートを用いてもよい。
吸気ポート20は、燃焼室14内へ酸素源および燃料が入る通路を提供する。吸気ポート20は、一般に吸気弁とも呼ばれ、指定された時間に開くことで、空気および/または燃料を燃焼室14内に流入させる。装置10は、空気/燃料の混合物を取り込む。具体的な実施形態では、吸気ポート20は、静電クランプによってシーリングされた弁、電気活性ポリマで作動する弁、または、それらを組み合わせた弁を備えてよい。従来技術では、電磁弁など、他の作動弁が周知であり、それらを用いてもよい。別の実施形態では、装置10は、空気および燃料用のポート20について、それぞれ専用のものを備える。
燃焼装置10には、酸素源が供給される。空気は、容易に酸素を提供するが、他の酸素源や酸化剤を用いてもよい。例えば、酸素源は、酸素富化空気や純粋な酸素を含んでよい。燃焼空気に酸素を富化することにより、不活性ガス(すなわち、N2)の体積を減らして、燃焼能力を高めることができる。酸化剤は、当業者に周知のように、酸素や空気よりも強い化学酸化剤を含んでよい。本発明の説明では、主に、燃焼装置における酸素源として空気を用いるが、酸素や空気よりも強い他の酸化剤を用いてもよいことを理解されたい。
燃料25は、燃焼装置10のための化学的エネルギ源として機能する。燃料25は、タンクなど、別個の貯蔵装置に貯蔵されてよい。一部の実施形態では、ある種のポンプが、燃料25を貯蔵装置から燃料吸気口20に移送する。別の実施形態では、燃料は、大気圧よりも高い圧力下で貯蔵され、その取り込みを弁によって調節する。燃焼装置が、気化を含む場合には、ポンプは、外部の空気または貯蔵された酸化剤を燃焼室14に移送してもよい。燃料25は、液体、気体、固体、または、ゲルの状態で貯蔵されてよい。本発明での利用に適した代表的な燃料25としては、プロパン、ブタン、天然ガス、灯油、ガソリン、ディーゼル、石炭由来燃料、JP8、水素など、炭化水素燃料が挙げられる。ほとんどのエンジンと同様に、ブタンやプロパンは、比較的簡単に燃焼する燃料である。
排気ポート22は、燃焼生成物の排出を可能にする。排気ポート22は、一般に排気弁とも呼ばれ、燃焼サイクルにおける指定された時間に開くことで、排気ガスを放出する。排気ガスは、燃焼プロセスの化学生成物と、燃焼されなかった燃焼または余分な空気など、すべての未処理の反応物とを含む。装置10は、燃焼室14からの燃焼生成物の排気を向上させるために、複数の排気ポート22を備えてもよい。さらなる排気システムの構成要素が、ポート22からの排気ガスを受けて、それらを所望するように導いてもよい。例えば、燃焼室14からガスを除去するために、背圧を低減する機械装置を備えてもよい。燃焼室からの排気ガスの排気口は、当業者に周知であり、本発明は、生成物を燃焼室から排気する方法によって限定されない。
結合部18および13の各々は、一般に、装置10の一部であり、装置10と外部との機械的な取り付けを可能にする。通例、結合部18および13の一方は、装置10に対して静止したままであり、他方は、燃焼室14において燃料25が燃焼してコンプライアント壁15が変形した際に、静止部分に対して移動するよう構成されている。図1Aに示すように、結合部18は、静止した剛体の壁12aを備える。結合部18への取り付けにより、燃焼装置10の剛体部分の移動が防止される(例えば、剛体の壁12a−c)。結合部13は、コンプライアント部分19の変形に伴って平行移動するコンプライアント壁15の中央部分を備える。装置10の壁や部分に外部の物を取り付ける際には、コンプライアント壁15に機械的出力23を取り付ける接着剤や、固定された物に壁12aを取り付ける接着剤など、接着剤が用いられてよい。当業者にとって明らかなように、適切な接着剤は、結合される材料によって決まる。静止した物体に壁12aを固定する場合など、装置10の部分の取り付けに、ネジを用いてもよい。
コンプライアント部分19の変形により、燃焼室14内での燃焼によって生み出された機械的エネルギを燃焼装置10から出力する機械的出力が可能になる。この変形は、機械的な作用を提供するのに用いられてよい。
出力23は、部分13に結合し、機械的な作用を提供する。結合部13は、外部に対して取り付けられたコンプライアント壁15の外面の中央部を含む。機械的出力23と部分13との間の結合は、a)コンプライアント壁15の外面と機械的出力23との間の直接的な取り付け、および/または、b)それら2つの要素の間に相互接続された1以上の要素を介しての間接的な取り付け、を含んでよい。出力23の動きは、シャフト23の移動を直線方向に制限するベアリング(図示せず)によって直線移動に制限されてよい。別の実施形態では、機械的出力23は、コンプライアント壁15の外面の大部分に取り付けられる。これにより、コンプライアント壁15が、結合部13および抵抗性の機械的出力23の周りで変形することが回避され、より良好に燃焼圧が機械的出力23に変換される。コンプライアント壁15における大きい表面の垂直の変形を可能にするために、結合部に、1以上の継ぎ目や、その他の柔軟性を残してもよい。
燃焼装置への結合は、様々であってよい。コンプライアントな円筒形の本体(図2A参照)を有する円筒形・直線作動の燃焼装置10については、結合部13は、円筒形の本体の一方の端部に配置されてよく、静止した結合部18は、他方の端部に配置され、ピンに取り付けられてよく、燃焼装置10は、ピンの周りで旋回することができる。この場合、機械的出力23は、ベアリングに連結した結合ロッドと、クランクシャフトとを備えてよい(図16参照)。この場合、燃焼室での燃料の燃焼は、コンプライアントな本体を拡張させて、結合部13をクランクシャフトの周りで回転させる。結合部18および13と、燃焼室における膨張ガスの形態の機械的エネルギを有用な機械的作用に変換する出力機構23との別の例を、以下で説明する。一般に、本発明は、燃焼装置からの機械的エネルギを利用するために用いられる機械的出力にも結合にも限定されない。特定の用途において装置10の外部への取り付けや利用を容易にするために、さらなる機械的出力や結合部を、装置10に追加してもよいことを理解されたい。一般に、任意の外部への取り付け部が、燃焼装置10と力をやり取りするため、燃焼装置10に力が出入りする点または位置を、結合部と考えることができる。
点火機構17(図1B参照)は、空気/燃料の混合物に点火して、燃焼室14における燃焼を開始する。一般的な点火機構17は、スパークプラグとグロープラグとを備えるが、その他の適切な点火機構を用いてもよい。スパークプラグは、電気入力によって火花を発生させるプラグであり、通例は、空気/燃料の混合物の最大圧縮時、または、燃焼室の行程の位置など、サイクルに従ったタイミングで作動される。本発明の一部の燃焼装置は、点火機構を備えず、燃料の圧縮によって自発燃焼を開始してもよい。
動作中、空気および燃料25は、燃焼室14に入る。空気/燃料の混合物は、(圧縮または積極的な点火によって)発火する。結果として起きる燃焼は、通例は高温の膨張ガスを生成し、その膨張ガスが、燃焼室14内の圧力を上昇させる。膨張ガスおよび圧力は、コンプライアント部分17など、コンプライアント壁15の制約のない部分を伸長させる。コンプライアント部分19は、機械的な力と、伸長を引き起こす燃焼による力とが釣り合うまで(または、変位を引き起こす機械的出力23に結合されたクランクシャフトが、その他の方法で決定するまで)、伸長し続ける。機械的な力は、コンプライアント壁15の材料の弾性復元力や、機械的出力23に結合された装置および/または負荷によって提供される任意の外部抵抗を含む。燃焼の結果としての壁15の伸長量は、燃焼室14の形状やサイズ、装置10におけるコンプライアント壁15の数やサイズ、各壁の厚さや弾性係数、燃焼される燃料の量や種類、圧縮比、機械的出力23の形状やサイズ、存在する空気の量など、多くの他の要素にも依存する。通例、吸気ポート20と排気ポート22は両方とも、圧縮および燃焼中には閉じられる。燃焼後、排気ポート22が開いて、燃焼室14から排気ガスを放出する。例えば、機械的出力23に結合し、コンプライアント壁を押し下げることで燃焼室の容積を小さくするクランクシャフトを用いて、圧縮を実現してよい。
コンプライアント壁
以上では、本発明の具体的な実施形態に従って、燃焼装置の概略を説明したが、以下では、代表的なコンプライアント壁および材料について説明する。
本明細書で用いられているように、コンプライアント壁という用語は、一般に、燃焼室内で生み出された圧力や力に反応して変形する壁を意味する。多くの例では、壁全体が、燃焼による力に応じて変形するわけではない。コンプライアント部分とは、燃焼室の壁において、燃焼室内で生じた圧力や力に応じて変形する部分を意味する。例えば、コンプライアント壁の端部は固定されてよいが、コンプライアント壁の中央部分は自由に変形できる。同様に、コンプライアント壁の結合部は、動きを制約されるが、他の部分(上述のドーナツ形状など)は、自由に変形できる。多くの実施形態では、コンプライアント壁またはコンプライアント壁の一部は、燃焼室での燃料の燃焼中に伸長するよう構成される。ここでは、コンプライアント壁を中心に説明するが、以下の材料に関する説明は、コンプライアント部分にも当てはまることを理解されたい。
コンプライアント壁の剛性は、機構に応じて変更してよい。一実施形態では、伸長するコンプライアント壁は、約1GPa未満の弾性係数を有する。屈曲壁は、より高い弾性係数を有してよく、ケブラーや、その他の剛体材料などを、屈曲機構に用いることができる。約100MPa未満の弾性係数を有する伸長コンプライアント壁が、一部の用途に適している。具体的な実施形態では、伸長するコンプライアント壁は、約10MPa未満の弾性係数を有する。剛性は、装置が、所望量の変形、強度、装置の耐久性を実現でききるように設定されてよい。剛性を下げると、所与の燃焼圧に対して燃焼室内の行程容積が大きくなる。一部の装置は、約5MPaから約100MPaの間の弾性係数を有するコンプライアント壁を備えてよい。
コンプライアント壁の厚さは様々に変更されてよく、適切な厚さは、一般に、燃焼室を組み込む装置すなわちエンジンのサイズ、用いるコンプライアント材料の性質、燃焼室に求める耐用年数、燃焼室に求める拡張率など、多くの要素の関数となる。例えば、約0.25mmから約4cmの範囲のコンプライアント壁の厚さ(燃焼および変形の前の状態)が、多くの用途に適している。多くの用途で、約5mmから約2cmの範囲のコンプライアント壁の厚さが適切である。その他の厚さが用いられてもよい。例えば、4cmを超える厚さの壁を用いてもよいが、壁の基本の厚さが大きくなるほど、通例は、燃焼装置に冷却機構を設ける必要性が大きくなる。燃焼後、コンプライアント壁の厚さは、燃焼室内で生じる圧力、燃焼室内の温度、コンプライアント壁の剛性(材料の弾性特性と、すべての機械的な取り付け部とに基づく)など、多くの要素によって変化しうる。
壁が厚い場合には、燃焼装置は、壁内に水冷管などの冷却構造を備えてよい。それらの管自体がコンプライアントである場合には、燃焼の結果としての燃焼装置の動作が、管を圧迫しうる。一方向弁を管に結合することにより、装置は、自身の冷却液をポンプで送ることができるようになる。これらの技術およびその他の技術により、壁の熱的な有効厚さ(除去される前に伝わる必要のある距離)が、実際の物理的な壁の厚さよりも小さくなることに注意されたい。
一般に、本明細書に記載されたコンプライアント壁での利用に適した材料は、適切な弾性特性を有し、燃焼に関する熱負荷に耐えることのできる任意の材料を含んでよい。代表的な材料としては、ポリマ、アクリル、プラスチック、シリコン、ゴム、強化繊維(ケブラーなど)、漏れが最小限度の高温セラミック繊維や紙(外面をシリコンなどのエラストマで被覆することで実現できる)、および、剛体材料と柔軟でコンプライアントな材料との組み合わせからなる構造などが挙げられる。代表的なポリマとしては、高密度のポリエチレンやポリイミドが挙げられる。耐熱アクリルや耐熱シリコンなど、良好な許容温度を有するポリマが用いられてよい。利用に適したポリマのコンプライアント壁は、適切な弾性特性と熱特性とを有する任意のコンプライアントポリマまたはゴム(もしくは、それらの組み合わせ)を含んでよい。ポリマの変形は、広い範囲の歪みにわたって可逆的であることが好ましい。具体的な実施形態では、図2Aの装置70で用いるコンプライアント壁は、ミシガン州ミッドランドのDow Corning社が生産するHS IV RTV High Strength Moldmaking Silicone Rubberを含む。
金属に比べて、ほとんどのポリマは、熱伝導率および熱容量が低い。その結果、ポリマは、燃焼室での燃焼による熱を吸収しにくいため、効率を向上させる。
耐熱性に関しては、内部の燃焼ガスの温度が、燃焼室の壁の温度よりもはるかに高くなる場合があるため、燃焼ガスの局所冷却を行う。これは、従来のエンジンの機構で実施されている方法である。実際に、多くの従来のエンジンにおける壁の温度は、潤滑油を用いることから、通例、150ないし260℃(華氏300度ないし500度)に抑えられている。例えば、多くのシリコン材料の耐熱温度が300℃を超える一方、本発明に従って製造された一部の燃焼装置は、約260℃の壁温度で作動する。
コンプライアント壁を用いた燃焼装置において高温の燃焼ガスを用いることの実行可能性を、実験によって立証した。0.1ないし15Hzの範囲の点火頻度を用いた。高い頻度での動作と低い頻度での動作を実験した。燃焼装置が、過渡加熱へのコンプライアント壁の耐性を提供し、1000℃を超える内部燃焼ガスを用いた場合、一部の試験で用いたガスは、1500℃を超えると評価された。ブタンおよびプロパンは、1Hzでの約3日間の連続運転に対して、10,000サイクルまで燃焼室で実証された。水素燃料についても実証された。また、この例では、より長い寿命が実現可能であった。すなわち、10,000サイクルの目標に到達して、ポリマエンジンの試験が停止された時に、燃焼装置は、まだ、損傷なく機能していた。要約すると、コンプライアントポリマ壁を備え、実用的な高い効率を可能にするのに十分なガスの温度を実現できる内燃装置が、開発および検証された。
可変な壁の厚さおよび燃焼室の容積
多くの実施形態では、コンプライアント壁15は、直交する平面方向への伸長および拡張の結果として、厚さが減少する。コンプライアント壁の厚さが減少することにより、多くの機構において、燃焼室の容積が増大する。
一部の例では、モデル化および説明の目的で、実質的に容積を圧縮できないものとして、本発明のコンプライアント壁を説明することができる。すなわち、コンプライアント壁は、応力下で、実質的に一定の容積を有する。圧縮できないコンプライアント壁では、コンプライアント壁は、直交する平面方向への拡張の結果として、厚さが減少する。コンプライアント壁の厚さが減少すると、燃焼装置にとって容積および効率に関する利点がある。本発明は、圧縮できないコンプライアント壁に限定されず、コンプライアント壁の変形は、かかる単純な関係に従うわけではないことに注意されたい。
一実施形態では、コンプライアント壁(または、コンプライアント壁の一部)の厚さは、燃焼室における燃焼に応じて減少する。例えば、図13Aおよび13Bを参照すると、装置50は、燃焼前(図13A)には、以下の寸法で特徴付けられる。すなわち、初期外径D0、初期内径d0、初期高さH0、および、初期壁厚さt0である。燃焼後(図13B)には、装置50は、以下の寸法で特徴付けられる。すなわち、外径D0、内径de、高さHe、および、壁厚さteである。コンプライアント壁54が、高さ方向に拡張および伸長すると、コンプライアント壁54の厚さは、半径方向でt0からteに減少する。厚さの変化は、図13Aおよび13Bに示した例だけでなく、本明細書に記載の燃焼装置のための任意のコンプライアント壁または部分で起こりうるものである。
一実施形態では、コンプライアント壁(または、コンプライアント壁の一部)の厚さは、燃焼による伸長の結果として、約1ミリメートルより大きく減少する。一部の燃焼装置は、約2ミリメートルより大きく厚さが減少するコンプライアント壁または壁の一部を備えてもよい。具体的な実施形態では、コンプライアント壁(または、コンプライアント壁の一部)の厚さは、燃焼の結果として、約5ミリメートルより大きく減少する。厚さの変化の程度は、コンプライアント壁の初期の寸法に対して、特徴付けられてもよい。一実施形態では、コンプライアント壁の部分の厚さは、燃焼前のその部分の元の厚さの約20%より大きく減少する。具体的な実施形態では、コンプライアント壁は、燃焼前のその部分の元の厚さの約40%より大きく減少する。コンプライアント壁の一部が他の部分よりも薄くてもよいことを理解されたい。例えば、図3Cの燃焼装置70は、軸方向85に沿って厚さが変化する円筒形のコンプライアント壁74を備える。この例では、厚さは、コンプライアント壁74の中央部で最小であり、端部プレート72に向かって増大する。
また、燃焼室の容積は、コンプライアント壁(または、コンプライアント部分)の厚さの減少の結果として増大するよう構成されてよい。例えば、図13Aおよび13Bによると、コンプライアント壁54の厚さが、半径方向でt0からteに減少すると、コンプライアント壁54の内径は、d0からdeに増大する。外径D0は、コンプライアント壁54の外面の半径方向の拡張を制限する制約部58のために、比較的一定のままである。したがって、燃焼室の内径および容積は、燃焼中に動的に増大する。
図の例では、最初の状態で、t0は約1cm、d0は約2cm、H0は約2cmであり、D0は、約4cmの比較的一定の値に留まる。燃焼後には、燃焼装置50の備えるコンプライアント壁54は、t0が約0.4cmに減少し、deが約2.8cmに達し、Heが約5.5cmに達するように構成される。この結果、容積は、初期の容積の約5倍に増大する。壁の厚さも内径も変化しない従来のシリンダでは、装置の高さが同じだけ変化しても、容積は、初期の容積の約2.75倍にしか増大しない。
当業者にとって明らかなように、燃焼室の最大容積を増大させると、エンジンの排気量が増大する。排気量は、燃焼装置の一回の点火当たりに生成できるエネルギの量を示唆する。排気量が増大すると、一回の点火で燃焼装置が利用できるエネルギも増大する。例えば、排気量を大きくすると、各燃焼すなわちサイクル中に、より多くの燃料を燃焼することが可能になり、所与の表面積に対する燃焼容積が大きくなることで熱損失を低減できるため、エネルギが増大すると共に効率が向上される。この動的な燃焼室の拡大は、図13の例に限定されず、本明細書に記載された任意の装置と、本発明の任意のコンプライアント壁を備えた燃焼装置とを含みうる。
燃焼室の寸法は、壁の厚さの減少を利用するよう構成されてよく、動的に燃焼室の容積が増大する。一実施形態では、燃焼室は、実質的に円筒形の燃焼室の直径が、燃料が燃焼する際に増大するよう構成される。円筒形の実施形態では、これは、燃焼室が拡張する際に、燃焼室の壁について、実質的に一定の外径を維持する結果として実現される。拡張が起きると、円筒形の燃焼室の壁の厚さは減少し、それに応じて、燃焼室の内径が倍増する。シリンダの容積は、半径の変化の二乗に比例して増大するため、動的な直径を増大させることにより、燃焼装置の排気量を大幅に改善することができる(例えば、半径が1cmから1.5cmに増大すると、一定の高さを有する燃焼室の平面領域ひいては円筒形の容積は、2.25倍(すなわち、1.52)に増大する。円筒形の燃焼室の高さ(すなわち、長さ)が変化すると、この動的な直径の増大率が増幅される。上述の例で、円筒形の燃焼室の高さが2倍になる場合には、容積は、4.5(2×2.25)倍に増大する。これは、直線的な拡張のみの場合よりも大幅に大きい容積の増大である。従来の剛体壁を有する燃焼装置では、高さが同様に2倍になっても内径が変化しないため、容積の増大は2倍に過ぎない。
燃焼中の壁の厚さの減少に基づく容積の増大量は、燃焼装置が備えるすべてのコンプライアント壁の厚さと、燃焼装置の構成とによって決まる。一部の燃焼装置は、比較的厚い燃焼室の壁を備えており、壁が薄くなり容積が増大する程度が大きい。構成も、容積の増大に影響する。一部の実施形態では、本発明の燃焼装置は、初期の高さよりも大きい初期の外径を有する(D0>H0)ことで、半径の変化の2乗を利用してよい。別の実施形態では、燃焼室は球形であり(図8および9参照)、容積は、厚さの減少ひいては半径の増大の3乗に比例して増大する。
本発明の燃焼装置の動的な容積変化を特徴付けるには多くの方法がある。円筒形または球形の燃焼室については、燃焼室の内径の変化が、壁の厚さの減少に基づく容積の増大の利得を良好に示す。内径の変化は、燃焼装置のサイズ、壁の厚さおよび弾性特性、燃焼で消費される燃料の量などに伴って変化する。一実施形態では、燃焼室の内径は、燃焼室での燃料の燃焼中に、約2ミリメートルより大きい長さだけ増大する。一部の燃焼室は、約4ミリメートルよりも大きい長さだけ増大する内径を備えてもよい。具体的な実施形態では、燃焼室の内径は、燃焼の結果として、約10ミリメートルより大きい長さだけ増大する。変化の程度は、内径の初期の寸法に対して特徴付けられてもよい。一実施形態では、燃焼室の内径は、燃焼前の燃焼室の内径に比べて、約10%よりも大きい長さだけ増大する。具体的な実施形態では、内径は、元の内径に比べて約20%より大きい長さだけ増大する。燃焼室の或る部分において、他の部分よりも大きく内径が増大してもよいことを理解されたい(例えば、図3C参照)。
本明細書に記載されたその他の燃焼装置および機構は、燃焼によって減少する壁の厚さを有するよう構成されてよい。また、これらの装置の多くでは、壁の厚さの変化に基づいて動的に容量が増大してよい。例えば、図5Aの燃焼装置120は、燃焼中に厚さを減少させて燃焼室132の容量を増大させるコンプライアント壁122を備えるよう構成されてよい。同様に、図8Aの燃焼室180の球形壁182は、燃焼中に厚さを減少させて燃焼室184の容量を増大させる厚い壁を備えるよう構成されてよい。
一態様では、本発明は、燃焼装置を用いる方法に関する。コンプライアント壁を備えた燃焼装置は、従来の剛体壁によるピストンの機構と全く異なる新しい機構を提供するため、本発明は、燃焼装置の動作における新しい形態を切り開く。一つの方法は、偏位する際に壁の厚さを減少させる。別の方法は、壁の厚さが変化する際に、複数の方向で動的に燃焼室の容量を増大させる。また、本発明は、新しい燃焼サイクルを可能にする。あるサイクルは、伸長している壁に蓄積された弾性エネルギを用いて、排気を円滑にする。また、本発明は、機械/電気ハイブリッドシステムを改善させる。それらについては、後で詳細に説明する。
図14Aは、本発明の一実施形態において、燃料から機械的エネルギを生み出すための処理の流れ300を示す図である。本明細書に記載された他の燃焼装置および図面も、本明細書に記載された燃焼方法の説明の助けとなる。
処理の流れ300は、燃焼室に燃料および酸素を供給する工程(302)から始まる。通例、燃料および酸素の供給は、燃焼室に向かって開口している吸気ポートまたは弁と、燃料および酸素を移動させるための圧力とを用いる。燃料システムは、所望の空気/燃料の混合物が吸気ポートを通るように、燃料を供給し、その燃料と空気とを混合する。3つの一般的な燃焼搬送技術、すなわち、気化、ポート燃料噴射、および、直接燃料噴射がある。気化では、燃焼室に供給する前に、キャブレタが燃料(通例は、気相状態)を空気に混合する。燃料噴射方式のエンジンでは、所望の量の燃料が、吸気弁を通して(ポート燃料噴射)または直接的に(直接燃料噴射)燃焼室に噴射される。
次いで、燃料は、燃焼室で燃焼される(304)。通例、この燃焼は、吸気弁が閉じた後、排気ポートも閉じた状態で起きる。一実施形態では、本発明は、点火を用いて燃焼を開始する。点火の前には、燃料/空気の混合物は、圧縮されてもよいし圧縮されなくてもよい。別の実施形態では、本発明は、外部装置による点火を利用しない。その代わりに、圧縮行程の熱および圧力によって、燃料の自然発火を引き起こす。圧縮装置が、空気/燃料の混合物をさらに圧縮し、それによって、効率が改善される。本発明の装置での利用に適した燃焼および他の燃焼サイクルに関しては、後に、説明を行う。
処理の流れ300は、コンプライアント壁の一部に対して厚さを減少させる工程(306)に進み、それにより、燃焼室の容量は、厚さの減少に伴って増大する。通例、コンプライアント壁の厚さを変化させるために、燃焼中に生じる圧力および力を用いる。一実施形態では、コンプライアント壁は、厚さの減少する方向と実質的に直交する方向に伸長する。燃焼装置は、制約されて、意図された伸長方向を除くすべての方向への移動を防止されてよく、それが、厚さの変化が起きる場所と方法に影響を与える。
本発明に従って形成された燃焼室のサイズは、様々に変更されてよい。例えば、燃焼後に、約2立方センチメートルから約40立方センチメートルの範囲の燃焼室の最大容積が、良好に機能する。その他の燃焼室の最大容積が用いられてもよい。燃焼室の容積は、用途の必要性に応じて変更されてよい。ポリマ構成要素と、説明したシステムとは、非常に小型で軽量であるため、説明した燃焼室を組み込んだエンジンは、従来のように内燃エンジンを電源として利用しない用途を含めて、比較的出力要件の低い用途での利用に非常に適している。例えば、多くの用途で、約2立方センチメートルから約25立方センチメートルの範囲の燃焼室の最大容積が、良好に機能する。ただし、燃焼室に関して、より大きい容量、または、より小さい容量を用いてもよいことを理解されたい。
壁の厚さを変更することには、そのほかの利点もある。多くの場合、燃焼室の内部表面積は、コンプライアント壁の壁が伸長して壁の厚さが減少するのに伴って増大する。これにより、燃焼室からの放熱のための表面積が増大し、定常状態の放熱が効率に影響する多くのサイクルにわたって、燃焼装置の効率が増大しうる。例えば、円筒形の燃焼室は、内径と高さとに比例する表面積を有する。厚さの減少に伴って、内径が増大すると、放熱のための表面積も増大する。球形の燃焼室では、厚さの変化によって決まる内径の二乗に比例して、内部表面積が増大する。図14Bは、本発明の一実施形態において、燃焼装置の温度管理を向上させるための処理の流れ320を示す図である。
処理の流れ320は、例えば、処理の流れ300の工程302に関して上述したのと同様に、燃料および酸素を燃焼室に供給する。次いで、燃料は、燃焼室で熱を生み出すために燃焼されて、熱を生み出す(322)。
処理の流れ320は、次に、燃焼室の境界となる一組の壁に含まれるコンプライアント部分または壁を伸長させて、一組の壁の表面積を増大させる(324)。上述した円筒形の燃焼装置およびコンプライアント壁については、燃焼室の境界となる表面積は、直径および高さの両方が増大すると共に増大する。表面積の増大量は、燃焼室および装置の機構、コンプライアント壁の弾性および厚さ、機械的出力に結合されたすべての負荷によって変化する。
本発明の独特の特徴は、コンプライアント壁の厚さと、燃焼室の内径とが、燃焼中に動的に変化することである。一実施形態では、コンプライアント壁は、燃焼の開始時には第1の厚さを有し、燃焼の終了時には減少した厚さを有する。これは、燃焼にとって二重に役立ちうる。第1に、コンプライアント壁は、燃焼の開始時には、より大きい厚さを有する。その時、燃焼装置の機械的出力を最大化して1回の燃焼の効率を改善するために、熱が閉じ込められることが好ましい。第2に、逆に、行程の最後には、燃焼室の表面積が最大になる。これにより、壁を通しての熱伝達のための面積が大きくなる。その時、しばしば、燃焼室から熱が放出されることが望ましい。伸長またはその他の方法で薄くなるコンプライアント部分または壁は、さらに、燃焼の終了時には、低減された厚さを有する。これにより、コンプライアント壁を通して燃焼室から熱を放散するための熱放出経路すなわち冷却距離が低減され、この時にも、行程の最後に燃焼室から熱を放散することが好ましい。また、この熱経路の低減により、燃焼室の内壁の冷却が容易になると共に促進される。このように、コンプライアント部分または壁は、熱を閉じ込めることが好ましい時には厚くなり、熱を放散することが好ましい時には薄くなると共に表面積を大きくする。厚さの変化は、コンプライアント壁の様々な部分で異なってもよく、それにより、位置の関数としての熱的性能と、装置の構成とが変わることを理解されたい。
次いで、燃焼室で生み出された熱は、伸長したコンプライアント部分を通して放散される(326)。通例、燃焼室内の温度が、燃焼室の外の温度よりも高い限りは、この放散が起きる。熱は、燃焼室における、現在の燃焼によるものであってもよいし、以前の燃焼によるものでもよい。
曲げモード(例えば、ベローズ)を用いて、圧縮圧力に応じる機構など、一部の機構では、表面積はあまり増大しない。ベローズについては、ひだ部分の内部表面積は変わらないが、ひだ部分が軸方向の展開によって開いた時には、内部の容積が増大する。また、これらの機構では、処理の流れ300で説明したように、厚さが大幅に減少または変化することはない。
燃焼
本発明は、多様な内燃エンジンの機構およびサイクルを意図するものであり、特定の機構にもサイクルにも限定されない。本発明での利用に適した周知の燃焼サイクルの1つとして、4行程の燃焼サイクル、すなわち、オットーサイクルが挙げられる。オットーサイクルは、4つの行程を備える。すなわち、吸気行程、圧縮行程、燃焼行程、および、排気行程である。かかる4行程サイクルは、上述の多くの燃焼装置での利用に適している。その他の適切なサイクルとしては、ミラー、ディーゼル、スターリング、およびデトネーション(ノック)サイクルや、2行程サイクルが挙げられる。ミラーサイクルは、その性能と、電気負荷機能(燃焼装置と共に電気活性ポリマを用いるなど)を備えて様々な圧縮および膨張行程を効率的に実行するコンプライアント燃焼装置への適合性との点で魅力的である。一部の例では、クランクシャフトが用いられ、ピストンを利用するシリンダに代えて、従来のピストンを利用したシリンダ(図16参照)のように1軸方向に拡張するピストン無しのコンプライアント燃焼装置が用いられる。また、本発明の燃焼装置は、複数のサイクルや高速での利用に適している。
また、本発明の提供する独特の特徴により、新しい燃焼サイクルが作られてもよいし、従来の燃焼サイクルが修正されてもよい。図15Aは、本発明の一実施形態において、燃料から機械的エネルギを生み出すための燃焼サイクル340を示す図である。
処理の流れ340では、燃焼室に燃料および酸素を供給される(302)。次いで、燃料は、燃焼室で燃焼されて、熱を生み出す(304)。次に、燃焼に反応して、コンプライアント部分または壁が伸長される(342)。コンプライアント部分は、燃焼室の境界となる一組の壁に含まれる。コンプライアント壁は、燃焼から生じる機械的エネルギを受けて、その機械的エネルギの一部を弾性エネルギとして蓄積する。以下で詳述するように、制約部が、コンプライアント壁の変形に影響を与えて、その変形を所望の方向の出力に沿わせてよい。つる巻きバネなど、一部の制約部も、その変形に伴って、燃焼で提供された機械的エネルギを蓄積することができる。
燃焼が完了した後には、伸長した部分の弾性的な復元によって、燃焼生成物が、燃焼室から排気される(344)。より具体的には、コンプライアント壁に蓄積された弾性エネルギが、燃焼室の容積を減少させる位置にコンプライアント壁を戻す。通例、弾性的な復元が始まる直前に、排気ポートが開かれる。燃焼室からの排気ガスを追い出すためにコンプライアント壁が利用できる力の量は、燃焼中に生み出された力の量、コンプライアント壁の弾性特性、および、機械的出力または負荷に提供された機械的エネルギに対するコンプライアント壁に提供された機械的エネルギの比、によって決まる。また、制約部として用いられたつる巻きバネは、弾性的な復元および燃焼生成物の排気の助けになる。このように、コンプライアント壁の弾性的な復元は、燃焼後に燃焼室から燃焼ガスを自動的かつ受動的に排気するための機構を提供する。
圧縮比は、多くの燃焼装置にとって基本的な効率のパラメータである。6ないし12の圧縮比が、オットーサイクルでは標準的である。理論的には、圧縮比が高くなるほど効率がよくなるが、エンジンの寿命に悪影響を与えるデトネーション(ノック)のために、通例、従来のエンジンでの高圧縮比の利用は限られる。多くのコンプライアント壁燃焼装置は、衝撃抵抗と小型の構成のために、ノックエンジンに利点を提供できる。6ないし12の圧縮比は、多くの異なるコンプライアント燃焼装置の構成のいずれかを用いて実現可能である。上死点での容積(燃焼室の最小容積)を小さくして圧縮比を大きくする必要がある場合には、固定スペーサ82(図3A)を用いてもよい。このように、本明細書に記載された装置で、6ないし12よりも大きい圧縮比を用いてもよい。
従来の金属燃焼装置に比べて、本明細書に記載されたコンプライアント壁燃焼装置の一部は、所与の容積での表面と容積との比を低減し、オイルで潤滑された金属エンジンよりも高い内壁温度で動作し、ピストンとシリンダとの摺動接触での漏れおよび機械的摩擦を排除し、2つの間の相対速度を有するのではなく、燃焼ガスで燃焼室を拡張することにより内壁への熱伝達を低減し、(必要であれば、電気活性ポリマまたはその他の電気装置や制御を用いて)、電子的な速さでタイミングおよび圧力の変数を調節する。これらの内のどれでも、燃料の化学的エネルギを有用な機械的エネルギにする際の燃焼および変換を改善できる。
ハイブリッド電気エネルギ機能
本発明は、さらに、燃焼エネルギを用いて電気エネルギを生成することを可能にする。一実施形態では、電気活性ポリマ変換器を用いて、燃焼によって供給される機械的エネルギから電気エネルギを生成する。電気活性ポリマは、変形によって電気状態が変化するコンプライアントポリマの類である。代表的な電気活性ポリマとしては、電歪ポリマ、誘電エラストマ(電気エラストマとしても知られる)、導電性ポリマ、IPMC、ゲルなどが挙げられる。具体的な実施形態では、燃焼装置が備えるコンプライアント壁は、燃焼室を囲むための本明細書に記載されたコンプライアント壁と、コンプライアント壁の外側に配置された電気活性ポリマ変換器とを備える複合構造を有する。
一部の電気活性ポリマは、多機能であるため、同じ電気活性ポリマ変換器を、a)発電機(機械的エネルギを電気エネルギに変換して、例えば、スパークプラグに供給する)、b)作動装置(例えば、電気的な作動と燃焼による駆動の両方を共に用いることで、装置の機械的出力を増大させる「ターボ」モードにおいて、電気エネルギを機械的エネルギに変換する)、および/または、c)センサ(電気的な変化を検知して、例えば、変形を検出する)、として用いることができる。検知機能は、燃焼や、その他のポリマエンジンのパラメータを監視および最適化するために用いられてもよい。検知を用いて、対象となる機械的荷重の状態を監視することができる。電気エネルギの生成のため、燃焼を用いて、いくつかの方法で電気活性ポリマを変形または伸長させる。
本発明は、さらに、新しいハイブリッド機械・電気出力システムおよび方法を実現する。図15Bは、本発明の一実施形態において、燃料から機械的エネルギを生み出すための処理の流れ360を示す図である。
処理の流れ360では、燃焼室に燃料および酸素を供給される(302)。次いで、燃料は、燃焼室で燃焼され熱を生み出す(304)。次に、コンプライアント部分またはコンプライアント壁が伸長される(342)。コンプライアント部分または壁は、燃焼室の境界となる一組の壁に含まれる。
次に、燃焼で生じた機械的エネルギは、機械的出力に供給される(362)。例えば、燃焼室に結合された機械的出力を用いて、負荷に作用させてよい。ロボット工学の用途では、機械的出力を移動運動に用いてよい。
処理の流れ360は、さらに、コンプライアント部分または壁が伸長した際に、電気活性ポリマを変形させる(364)。壁のコンプライアント部分自体が、電気活性ポリマからなってもよい。電気活性ポリマは、機械的出力を援助するため、燃料/空気の混合物を吸気または圧縮するため、電気負荷を介して機械的出力を変更するため、センサとして、および/または、電気エネルギを生成するため、に利用可能である。ポリマを作動させること(すなわち、燃焼中に電気活性ポリマに電界を印加すること)により、燃焼装置の機械的出力の量を増大させることができる。電気活性ポリマが伸長した位置から収縮する前に、電気活性ポリマに電界を印加することにより、電気活性ポリマが伸長した位置から収縮する際に、電気エネルギの生成に電気活性ポリマを利用することができる。燃焼が完了する前に、電気活性ポリマに電界を印加すると、電気活性ポリマの剛性を変化させることが可能であり、それにより、ハイブリッド装置への機械的な負荷が変わり、燃焼効率に影響する。これにより、燃焼装置の管理者や設計者が、燃焼の出力を動的および電気的に調整することができる。あるいは、電気活性ポリマは、センサとして用いられてもよく、その場合、コンプライアント部分または壁が変形した際に、電気活性ポリマの電気状態が読み取られる。また、電気活性ポリマは、燃料/空気の混合物を燃焼室に取り入れるため、または、燃焼後に排気ガスを排出するための作動装置として用いられてもよい。
具体的な実施形態では、電気活性ポリマは、外面などのコンプライアント部分または壁に取り付けまたは結合され、コンプライアント部分または壁と共に伸長する。例えば、電気活性ポリマは、図2Aの燃焼装置50の円筒形のコンプライアント壁54の周りに一回または複数回巻き付けられてよい。いくつかの電気活性ポリマを用いた電気エネルギの生成では、平面的な拡張がある程度高まった状態で、電気活性ポリマに取り付けられたコンプライアント電極に電荷が発生する。電気活性ポリマは収縮すると、ポリマの一方の面上の正電荷が、ポリマの反対面上の負電荷から遠ざかるように押しやられ、それにより、それらの電圧ひいては電気エネルギが上昇する。さらに、電気活性ポリマが収縮する際に、各面の電荷(一方の電極および面上の正電荷、または、第2の電極上の負電荷)が、近づいて、それらの電極上の任意の電荷の電圧および電気エネルギを上昇させる。最初にポリマに存在したエネルギの3ないし5倍の収縮エネルギの増大が一般的であり、伸長した電気活性ポリマの面歪み、荷重の状態、および、集電の制御によって、増大は大きくも小さくもなりうる。
長時間にわたって電気エネルギを生成するために、多くのサイクルにわたって、電気活性ポリマを伸長および緩和してよい。燃焼装置から電気エネルギを得るために、電気活性ポリマから電気エネルギを移動できるように、燃焼による機械的エネルギが電気活性ポリマに加えられる。電気エネルギの生成および利用は、調整のための一種の電子回路を必要としてよい。例えば、回路を用いて、変換器から電気エネルギを取りだしてよい。さらに、回路を用いて、発電の効率や量を増大させてもよいし、より適切な値に出力電圧を変換してもよい。本発明での利用に適した調整電子回路の詳しい説明は、「Electroactive Polymer Thermal Electric Generator」と題され、R.Pelrine他を発明者とする同一権利者の特許第6,628,040号に記載されている。この出願は、すべての目的のためにその全体がここに参照によって組み込まれる。
別の具体的な実施形態では、燃焼装置のためのコンプライアント壁は、燃焼室の反応物質の吸気、または、燃焼室の生成物の排気のために作動される電気活性ポリマを備える。吸気のために、電気活性ポリマコンプライアント壁は、燃焼室の容積を増大し(例えば、燃焼室を伸長して)、負圧を発生し、燃料および/または空気を吸い込むように動かされる。次いで、電気活性ポリマへの電気エネルギが遮断され、ポリマが弾性的に戻ることにより、点火前に燃料を圧縮してよい。電気活性ポリマは、加圧型のソースも、ピストン・シリンダを備えたエンジンにおいて弁を作動させるカムシャフトも必要とせずに、燃料および空気を引き込むための単純な代替手段を提供する。例えば、燃焼装置240の壁244(図12A)は、電気活性ポリマを備えてよい。この例では、電気活性ポリマは、燃料制御機能を実行する作動装置のモードで用いられている。別の実施形態では、収縮力に瞬間的に対抗するため、上死点において電気活性ポリマに電荷を再印加してもよい。さらに、電気活性ポリマを発電モードで用いている場合、上死点において電気活性ポリマに電荷を再印加してもよい。
従来のエンジンは、基本的に、ピストンの正弦的な運動(時間に対する正弦的な変位)を実行する。すなわち、装置の慣性とクランクシャフトの動きの制約によって、従来のエンジンでは必然的にそのようになる。電気活性ポリマを備えるコンプライアント壁燃焼装置は、より高度な運動を実行できるため、正弦的な出力には限定されない。従来のエンジン発電機では、外部の発電機に電子的に負荷を掛けることによる全体的かつ平均的な方法でしか、荷重を電子的に変化させることができない。また、従来のエンジンにおける(例えば、自由ピストンエンジンの)運動や周波数の制約により、性能が最適にならない場合もある。例えば、理想的なスターリングサイクルは、理論的にカルノー効率が実現可能な可逆サイクルであることがよく知られている。しかし、スターリングエンジンの現実的な実装では、エンジンの高温側および低温側(これら2つは、通例、例えば、従来の機構では、クランクシャフトによって機械的に結合されている)での不連続な独立した運動を実行することができないため、通常、理想的なスターリングサイクルに近いだけである。
逆に、電気活性ポリマとコンプライアント壁とを備えた燃焼装置は、例えば、(電気活性ポリマに印加されて電気活性ポリマの剛性を増大させる電気状態、または、電気活性ポリマによって掛けられる機械的な力を変えることにより)、急速に拡張して、サイクル期間のかなりの部分で完全に停止し、その後、ゆっくりと収縮するように制御されてよい。ポリマエンジンの圧力プロファイルは、例えば、開始条件、負荷の変化、環境条件の変化、または、検知された燃焼パラメータの変化に応じて、オンザフライで電子的に調整されてもよい。制御パラメータを電子的に変更できることにより、一般的に、燃焼およびシステムが改善される。本発明での利用に適した電気活性ポリマの詳しい説明は、同一権利者の特許第6,628,040号に記載されており、それはすべての目的のためにその全体がここに参照によって組み込まれる。
本発明における電気活性ポリマとしての利用に適した材料は、静電気力に応じて変形、もしくは、変形することによって電界の変化を引き起こす任意の実質的に絶縁性のポリマまたはゴム(もしくは、それらの組み合わせ)を含んでよい。1つの適切な材料は、カリフォルニア州カーペンテリアのNuSil Technology社が供給するNuSil CF19−2186である。事前に歪んだポリマとしての利用に適した他の材料としては、シリコンエラストマや、ミネソタ州セントポールの3M社が生産するVHB 4910アクリルエラストマなどのアクリルエラストマが挙げられる。
用途
本発明は、広く利用することができる。本明細書に記載されたコンプライアント壁燃焼装置は、従来のピストンエンジンを利用する用途のいずれで用いられてもよい。例えば、本発明の燃焼装置は、芝刈り機、リーフブロワー、ポンプ、コンプレッサ、および、その他の道具や装置で用いられてよい。本明細書に記載された燃焼装置は、高速に作動する作動装置としても広く利用できる。移動運動の用途として、燃料から機械および/または電気エネルギが生成される自動車での用途が挙げられる。
コンプライアント壁を備えた燃焼装置は、設計の柔軟性が高いため、ピストン・シリンダを用いるエンジンよりも、はるかに設計の自由度が大きい。さらに、コンプライアント壁を備えた燃焼装置を用いれば、ピストン・シリンダを用いたエンジンの機構に存在する制限、特に小型エンジンに関する制限を解消できる。
本発明は、主に、単一の燃焼装置の機械的出力に関連して説明されているが、多くのシステムが、2以上の燃焼装置を備える。4、6、および、8シリンダシステムが一般的である。複数のシリンダは、直列型、V型、フラット型(水平対向型またはボクサー型とも呼ぶ)など、多くの方法で配列されてよい。
国防総省(DoD)は、超小型飛行体(MAV)や小型の自律ロボットから、歩兵のための携帯電源、自動車や宇宙船用の大型電源に至るまで、幅広い電源を必要としている。ほとんどのDoDの電源は、携帯用に設計されているため、それらの多くは、軽量、高効率、および、高出力密度など、共通の要件を有する。本発明は、これらの用途での利用に適している。また、本明細書に記載された燃焼装置は、様々な一般の任務用の小型、軽量、効率的な20W電源での利用も可能である。特に、出力、寿命、および、重量が重要となるMAV(超小型飛行体)やロボットの任務では、本発明が役立ちうる。
本発明は、重量に対する出力の比が高く、かなりの期間にわたって電力を生成できる携帯型エネルギ代替手段を提供する。炭化水素燃料は、電池に比べて、比較的高いエネルギ密度を有する。例えば、炭化水素燃料のエネルギ密度は、電池の密度の20倍である。
また、本明細書に記載されたコンプライアント燃焼エンジンは、電気エネルギの生成への適合が容易である。燃焼によって電気エネルギを生み出す電気活性ポリマを追加することにより、本発明の利用可能性が高くなる。多くの用途は、機械力および電力の両方を必要とする。ロボット工学では、しばしば、電気エネルギの生成に加えて、機械的出力が必要になる。一部のコンプライアントエンジンでは、それらの出力の比を電子的に制御することが可能であり、ロボットや携帯用途に有用である。一方、燃料電池や電池を用いるロボット装置は、機械的出力を生み出すために、完全な別個のサブシステム(例えば、モータ)を必要とする。従来のピストンを用いた燃焼装置と異なり、全てのサブシステム(電磁発電機)が排除されている。
一実施形態では、電気活性ポリマを利用した電気入力を用いて、リアルタイムで電子的に、燃焼負荷(すなわち、燃焼圧対容積のプロファイル)を変える。発電機への電気負荷を用いて、エンジンの燃焼効率を最適化する概念は、ハイブリッド自動車に適用されている。ただし、コンプライアント壁を備えた燃焼エンジンでは、より迅速に負荷を制御することが可能であり、潜在的には、1サイクルの期間よりもはるかに短い時間で制御できる。
また、ポリマは、一般に金属よりも安価であるため、コンプライアント壁にポリマを用いると、本明細書に記載された燃焼装置のコストを抑えることができる。さらに、金属の構成要素を含まない実施形態では、金属の精度を合わせる必要もなく、それに関するコストも掛からない。一部の例では、本発明の燃焼装置は、必要であれば使い捨て品として製造するのに十分なほど安価である。
本発明は、低コストのポリマを用いて構成してよい。これにより、使い捨てのエンジンを実現できる可能性がある。また、ポリマを特注で成形すれば、設計者は、様々な燃焼容積の形状(例えば、楕円形、平形など)を製造して、特定用途のための形状の装置を特注製造することができるようになる。
また、ポリマは、例えば、グラム当たりまたは所与のエンジン質量に対する高い出力密度、効率の増大につながる大きい燃焼容積の実現できることなど、軽量の材料として多大な利点を提供する。また、本発明は、従来の金属ピストンおよびシリンダの厳しい精度での剛性を維持するのに必要な余分な質量を低減する。
さらに、本発明によると、燃焼室内から密接な摺動シールが排除されるため、汚れた燃料を用いる選択肢も可能になる。
コンプライアント壁による方法は、軽量、静音、簡略、高効率、電気出力と機械的出力とを電子的に調節してシステムを最適化する能力、低コスト、および、優れた設計の柔軟性など、多くの潜在的な利点を提供する。本明細書に記載された多くのコンプライアント燃焼装置およびエンジンは、燃焼装置技術を簡略化する。ピストン機構におけるピストン、ピストンリング、および、潤滑油など、従来の剛体エンジンハードウェアの多くを排除できる。
従来のエンジンにおけるピストンリングは、ピストンの外縁とシリンダの内縁との間に摺動シールを提供する。リングは、以下の2つの目的を果たす。すなわち、リングは、燃焼における圧縮の際に燃焼室内の燃料/空気の混合物と排気ガスとが漏れないようにすることと、オイルが燃焼して消失しないように燃焼室内に漏れないようにすることを目的に設けられる。本発明は、燃焼室内のピストンを備える必要がないため、燃焼室内のピストンリングも設けなくてよい。この例では、ピストンリングに関する燃焼室の漏れの問題も解決される。
本発明は、さらに、軽量、低ノイズ(静音動作)、簡略化、および、高効率の機構を提供する。ポリマ構成要素の低い慣性により、金属構成要素よりも高い効率を実現できる。軽量化によって、動力装置の重量が小さくなるだけでなく、効率も高くなる。燃焼装置は、方向を変えるたびに、エネルギを用いて、一方向への運動を停止し、別の方向への運動を開始する。燃焼装置が軽いほど、方向転換に必要なエネルギが小さくなる。オイルで潤滑されたエンジンよりも、潜在的に壁の温度が高くなることにより、効率が上がる可能性がある。
装置180および200など、本明細書に記載された多くの燃焼装置の顕著な機構の特徴は、燃焼室184が、ピストン206が備える外面すなわちシールとハウジング204の内面との間のような移動する機械部品から分離されていることである。その結果、ピストン206とハウジング204との間の摩擦を最小化するために用いられる潤滑油はすべて、燃焼室184内の構成要素のいずれに対しても用いる必要がなく、燃焼室内で起きる高温条件にさらされることもない。
また、本願で請求するコンプライアント燃焼装置は、可聴域下の周波数において魅力的な出力密度を実現可能であり、ギアやベアリングにおける金属間の接触などの他のノイズ源を排除できる。
代表的な燃焼装置
機構、いくつかの利点、および、様々な動作態様に関わらず、コンプライアント壁燃焼装置を説明したが、ここで、多くの代表的な機構について説明する。
図2Aは、本発明の一実施形態における燃焼前の円筒形燃焼装置50を示す簡略な断面図である。図2Bは、燃焼後の装置50を示す図である。燃焼装置50は、剛体壁52と、コンプライアント壁54と、燃焼室56と、制約部58とを備える。
コンプライアント壁54は、実質的に円筒形であり、燃焼室56の軸長に沿って、燃焼室56の周囲の境界となっている。円筒形の壁54は、燃焼室56内での燃料の燃焼に応じて、方向55の軸方向に伸長する。一実施形態では、壁56の厚さは、壁54の軸方向の断面にわたる外周全体について、燃焼室56での燃焼前には、実質的に一定である。一部の例では、厚さは、燃焼中と、燃焼後とで変化してよい。円筒形壁54は、燃焼室56内での燃焼によって軸方向に伸長するのに十分なほど低い弾性強度を有する材料を含む。具体的な実施形態では、コンプライアント壁54は、所望の剛性を有するシリコンなど、伸長可能なエラストマを含む。適切なコンプライアント壁に関するさらなる詳細事項は、上述した弾性特性である。
剛体壁52は、ほぼ円筒形のコンプライアント壁54への端部キャップに類似する。剛体壁52aは、コンプライアント壁54の第1の端部54aに配置されており、剛体壁52bは、コンプライアント壁54の第2の端部54bに配置されている。剛体壁52aは、外部に対して固定されており、燃焼室56での燃焼中にも比較的静止したままである。剛体壁52bは、燃焼室56内での燃焼ひいてはコンプライアント壁54の伸長の結果として、剛体壁52aに対して軸方向55に移動する。図2には図示していないが、剛体壁52は、固定式または機械的な出力への取り付けを可能にするための1以上の結合機構を備えてよい。コンプライアント壁の端部54aおよび54bは、例えば、適切な接着剤によって、それぞれ、剛体壁52aおよび52bに取り付けられてよい。
燃焼室56は、剛体壁52およびコンプライアント壁54の内面によってサイズが規定されている。より具体的には、コンプライアント壁54の管状の内面と、剛体壁52の実質的に平坦な端部とが、燃焼室56の実質的に円筒形の容積を形成している。図2Aには図示されていないが、装置50は、さらに、反応物質および生成ガスを燃焼室56に出し入れするための1以上の吸気および排気ポートを備えてよい。燃焼室56内での燃料の点火および燃焼は、燃焼室56内の圧力を上昇させ、コンプライアント壁54を方向55の軸方向に伸長させる。
制約部58は、燃焼室56内での燃料の燃焼中に、コンプライアント壁54の半径方向の拡張を低減する。制約部58がないと、燃焼室56内の燃焼および圧力の発生により、コンプライアント壁54は、a)円筒の中心軸から離れるように、b)方向55に沿って直線的に、変形して伸長する。コンプライアント壁54の半径方向の拡張を低減することにより、制約部58は、剛体壁52aが固定された場合の方向55など、所望の出力方向の機械的出力の効率を増大させる。
一実施形態では、制約部58は、実質的に円筒形のコンプライアント壁54の周囲を包む高張力の要素58を備える。例えば、高張力の要素は、ケブラー、金属線、または、ナイロン繊維など、1以上の高張力の繊維糸を含んでよい。高張力の繊維糸58は、コンプライアント壁54の外側部分の半径方向への拡張を防ぐ。
具体的な実施形態では、高張力の繊維糸58は、コンプライアント壁54の外面の周囲を包む。あるいは、高張力の要素58は、コンプライアント壁54の壁厚に一体化されてもよい。この場合、高張力の繊維糸は、コンプライアント壁54の内面と外面との間の真ん中などに、埋め込まれる。具体的な実施形態では、制約部58は、コンプライアント壁54の構造内に埋め込まれた平坦な巻き線(拡張および収縮の方向に直交するよう平坦化されたもの)を備えた(バネなどの)コイルを備える。平坦な巻き線は、壁が軸方向に変形する際に、各巻き線の周りのコンプライアント壁内での真空の形成に抵抗する。別の実施形態では、制約部58は、いくつかの位置でスペーサによって分離された1組のディスクまたはリングであってもよい。コンプライアント壁54にシリコンまたはその他のポリマを用いて、制約部58にケブラーなどの軽量の繊維を用いることにより、従来の金属製のピストンを備えた燃焼室よりも大幅に軽い燃焼装置50が提供される。
方向55におけるコンプライアント壁54の両端の間の高張力の要素の巻き線の数および形状は、様々であってよい。具体的な実施形態では、コンプライアント壁54の軸方向55に沿って、別個の糸すなわち高張力要素58が備えられる。この場合、制約部58は、燃焼室56の周囲を囲む個々の糸を、軸方向に数えて2から数十ないし数百の内の任意の数だけ備えてよい。別の実施形態では、1つの高張力要素が、コンプライアント壁の一方の端部54aから他方の端部54bまで(あるいは、コンプライアント壁54の軸方向の長さ全体が拡張に用いられない場合(図3A参照)には、それよりも狭い範囲で)、実質的に円筒形のコンプライアント壁の周囲をらせん状に包む。この場合、高張力要素は、適切な剛性を有するプラスチックまたは金属で形成されたバネなど、つる巻きバネを含んでよい。
高張力の繊維糸がコンプライアント壁54を包むものなど、多くの実施形態では、制約部58は、実質的に円筒形のコンプライアント壁54の方向55に沿った軸方向の変形をほとんど妨げない。上述のように、制約部58は、コンプライアント壁54の半径方向の拡張を低減することにより、燃焼室56内で生じた圧力が、主に、軸方向55への端部プレート54bの拡張に用いられるようになるため、方向55における機械的出力の効率を増大させる。
制約部58として用いられたつる巻きバネは、コンプライアント壁54の半径方向の変形を制限する。しかしながら、バネは、バネ58およびコンプライアント壁54が方向55に伸長すると、弾性的な機械エネルギを蓄積する。これは、一部の機構では有用である。例えば、バネおよびコンプライアント壁54の弾性的な復元は、燃焼後に燃焼室56から燃焼ガスを自動的かつ受動的に排気するための機構を提供する。
燃焼室56の円筒形状は、特に、燃焼室56内での燃料の燃焼中には、完全な円筒でなくてもよいことを理解されたい。上述のように、コンプライアント壁154は、軸方向55に伸長するにつれて、厚さが小さくなってよい。図2Bに示したように、燃焼後(または、燃焼後の段階までいかない燃焼中)に、剛体壁52aおよび52bに取り付けられたコンプライアント壁の端部54aおよび54bは、この領域では、軸方向に伸長しつつ半径方向に薄くなることを制限される。これにより、燃焼室56の円筒の角部が丸くなる。さらに、制約部58がないと、コンプライアント壁56は、燃焼室内でガスが燃焼して最初に急速に膨張した時に、半径方向に変形可能であるため、燃焼室56の容積は、完全な円筒形から逸脱する。あるいは、燃焼室56は、燃焼によって拡張していない時でも、意図的に円筒形ではないように形成されてもよく、例えば、平坦な制約部を備える用途に適合するように平坦な楕円形であってもよい。
具体的な実施形態では、制約部58は、燃焼装置50が、図2Aに示すような収縮状態にある時に、負のバネ力を持つよう構成されたつる巻きバネを備える。これにより、軸方向55の直線的な出力が増大する。一部の例では、さらに、燃焼装置50の機械的出力および効率を増大させることができる(効率は、化学的入力に対する機械的出力の比として定義される)。
図3Aは、本発明の一実施形態における燃焼前の円筒形燃焼装置70を示す簡略な断面図である。図3Bは、燃料および空気を吸気中の装置70を示す。図3Cは、燃焼中の燃焼装置70を示す。図3Dは、排気後の燃焼装置70を示す。また、図3Aないし3Dは、コンプライアント壁の弾性エネルギを用いて排気ガスを放出する燃焼サイクルを示している。燃焼装置70は、剛体端部プレート72と、コンプライアント壁74と、燃焼室76と、スペーサ82と、出力シャフト78と、ポート84とを備える。
コンプライアント壁74は、内部の寸法が燃焼室76を規定する一体成形のコンプライアント材料を備える。便宜上、コンプライアント壁を複数の部分に分けて説明する。すなわち、燃焼室76の軸方向全体に沿って燃焼室76の半径方向の境界を形成する実質的に円筒形の部分74aと、円筒形の燃焼室76に対して実質的に平坦な端部を形成する端壁74bおよび74cと、に分ける。具体的な実施形態では、コンプライアント壁74は、装置70にとって所望の形状および寸法になるように単独で成形された軟らかいエラストマを備える。
制約部80は、燃焼室76内での燃料の燃焼中に円筒形部分74aの半径方向の拡張を低減してコンプライアント壁74の円筒形部分74aの拡張を方向85への単軸の拡張に限るバネ状の構造を備える。
燃焼装置70は、燃焼室76の内部に2つのスペーサ82を備える。具体的には、下側スペーサ82aが、コンプライアント壁72aの平坦な内面に取り付けられ、上側スペーサ82bが、コンプライアント壁72bの平坦な内面に取り付けられている。スペーサ82は、燃焼室76内で燃料が燃焼する前の燃焼室76のデッドスペースを減らす。スペーサ82は、さらに、方向85のコンプライアント壁74の軸方向の長さを増大させる。一部の例では、これにより、コンプライアント壁74に対する歪みを低減できる。燃料および空気を取り込む前には、図2Cに示すように、スペーサ82は、燃焼室76内の容積の大部分を占める。この例では、スペーサ82の間には空間がない。別の実施形態では、円筒形のコンプライアント壁74aは、軸方向にスペーサ82よりも長く伸びており、燃焼室76は、軸方向にスペーサ82を超える空間を備える。当業者にとって明らかなように、燃焼前の燃焼室のデッドスペースを低減することで、効率が上がる。2つのスペーサ82を備える燃焼室70を図示しているが、本発明の燃焼装置は、燃焼室76のデッドスペースを低減するための1または任意の適切な数のスペーサを備えてよい。また、スペーサは、燃焼室内での燃焼を促進する任意の形状を有してよい。図に示すように、下側スペーサ82は、燃焼ガスおよび生成物を出し入れするための流路を備える。一実施形態では、スペーサ82は、コンプライアントである。
剛体の端部プレート72aおよび72bは、それぞれ、各コンプライアント端壁74bおよび74cの外面に結合する。具体的な実施形態では、接着剤が、各端部プレート72を各壁74bおよび74cの外面に接着する。剛体のプレート72bは、固定されており、装置70のために実質的に動かないようになっている。端部プレート72aには、出力シャフト78が結合されている。出力シャフトは、任意の適切な機構を用いて結合されてよく、例えば、端部プレート72aのネジ穴にネジ留めされてもよい。出力シャフト78は、燃焼装置70に機械的出力を提供する。この例では、装置70は、第1の端壁74b上に配置された第1の結合部77aを備えており、その結合部77aは、端部プレート72aと接している。第1の結合部77aは、実質的に円筒形のコンプライアント壁74aの第1の端部に近接するよう配置される。装置70は、第2の端壁74c上に配置された第2の結合部77bを備えており、その結合部77bは、実質的に円筒形のコンプライアント壁74aの第2の端部に近接して配置される。
吸排気管84が、剛体の端部プレート72bの開口部とコンプライアント壁74cの開口部とを貫通している。1つのポート84を備える装置70が図示されているが、装置70は、吸気および排気のために別個の管を用いてもよいことを理解されたい。図に示した実施形態では、ポート84は、固定された、すなわち、燃焼中に比較的静止している装置70の部分を貫通している。本発明が分かりにくくならないように図示していないが、装置70は、さらに、燃焼反応物質の吸気と燃焼生成物の排気とを容易にするための1以上の弁を備えてもよい。
図に示すように、装置70では、剛体のプレート72bは固定されているが、他の機構も可能である。例えば、コンプライアント壁74の中央部が固定されてよく、その場合、シリンダの両端は、燃焼の際に動くよう構成される。換言すれば、実質的に円筒形のコンプライアント壁74の中央部が固定され、その両端は、自由に動いて、機械的作用を提供する。これにより、固定およびゼロ変位の点の両側にコンプライアント部分が形成される。したがって、各端部プレート72への外部取り付けにより、1つの燃焼室で2つの機械的出力が可能になる。例えば、剛体のプレート72bに第1の機械的出力を取り付け、剛体のプレート72aに第2の機械的出力を取り付けてよい。装置70の機械的中心から離して燃焼装置74を固定する際に、軸方向にずらすと、シリンダの両端の機械的出力に対して異なる力および出力が供給される。例えば、剛体プレート72bが、剛体プレート72aよりも大きい機械的出力を受ける。
図3Bは、燃料および空気を取り込み中の円筒形の燃焼装置70を示す。燃焼室76内に燃焼反応物質を流入させるために、多くの技術および機構を用いることができる。1つの技術では、外部の圧力を用いて、燃料および空気を燃焼室76内に供給する。これにより、コンプライアント部分74aを伸長させて燃焼室76内の容積を形成する正圧を燃焼室内で発生させることができる。この例では、部分74aのコンプライアンスや吸気圧力を設計して、空気と燃料との混合物について、所望の圧縮比を実現することができる。別の実施形態では、装置70は、駆動、すなわち、図3Bに示した状態になるよう外部から動かされる。例えば、コンプライアント壁74aを伸長させて燃焼室76の容積を増大させるために、電気活性ポリマを用いてよい。あるいは、回転運動によりコンプライアント壁74aを伸長させて燃焼室76の容積を増大させるクランクシャフトに、出力シャフト78を結合してもよい(図16参照)。装置70を図3Bに示した状態に動かすための他の機構を用いてもよい。
図3Cは、燃焼84中の燃焼装置70を示す。剛体の端部プレート72bおよびコンプライアント部分74cが固定されており、制約部80がコンプライアント部分74aの半径方向の拡張を制限しているため、コンプライアント部分74aは、図に示すように、軸方向85に伸長する。コンプライアント部分74aは、さらに、軸方向の伸長方向と実質的に直交する半径方向に薄くなる。通例、コンプライアント部分74aは、円周全体で薄くなる。出力シャフト78は、(剛体プレート72aおよびコンプライアント壁74bと共に)、燃焼室76における燃焼の結果として、剛体の端部プレート72bおよびコンプライアント壁74cから離れる方向85に直線移動する。
図3Cは、さらに、拡張のピークにおける燃焼装置70を示している。燃焼の終了、および/または、最大変形の達成後に、排気弁を開いて、燃焼室76からの排気ガスの放出を可能にしてよい。一実施形態では、コンプライアント壁74aの弾性的な復元が、燃焼室76からのガスの排気を補助および促進する。より具体的には、コンプライアント壁74の材料に弾性エネルギとして蓄積された収縮力が、コンプライアント壁74を静止状態に戻すように作用して、この例では、燃焼室76の容積を減少させ、中に含まれるすべてのガスを開放された排気ポート84から押し出す。さらに、制約部80として用いられているつる巻きバネも、収縮する燃焼室76からガスを排気する軸方向の収縮力になる弾性エネルギを拡張のピーク時に蓄積できる。
図3Dは、排気終了後の燃焼装置70を示す。この例では、スペーサ82は、燃焼室76内のデッドスペースを減少させて燃焼室から燃焼ガスを強制的に排気することにより、燃焼室からの排気ガスの除去を促進する。これで、燃焼装置70において、新しい燃焼サイクルの開始が可能になる。例えば、2行程サイクルは、吸気(図3)および動力(図3C)の行程部分を含む第1の行程と、排気(図3D)を実行する第2の行程とを備えてよい。
具体的な実施形態では、出力シャフト78は、結合ロッドによってクランクシャフトに結合している(図16参照)。クランクシャフトは、回転する際に、燃焼室76内での燃焼サイクルのタイミングを設定する。例えば、燃焼装置70は、以下のように作動してよい。吸気行程については、出力シャフト76が最下方の状態から始まり、吸気弁が開き、クランクシャフトが、出力シャフト76を引き上げることで、燃焼室76内に空気および燃料が吸入される。出力シャフト76が、その行程の所望の位置に到達すると、スパークプラグ(図示せず)が、火花を発生させて、燃料に点火する。燃焼室76内の燃料は、燃焼することで、出力シャフト76を駆動し、それによって、クランクシャフトが駆動される。出力シャフト76が、その行程の最上部に到達すると、排気弁が開いて、燃焼で発生したガスを燃焼室76から排気する。
図4Aは、本発明の別の実施形態における燃焼前の円筒形燃焼装置90を示す断面図である。図4Bは、燃焼中の燃焼装置90を示す。燃焼装置90は、コンプライアント壁92と、吸気ポート94と、排気ポート96と、点火機構98と、燃焼室100と、直線移動機構102とを備える。
コンプライアント壁92は、装置90の静止部分93と、移動ヘッド95とに取り付けられる。例えば、静止部分93は、コンプライアント壁92の一方の端部92aを固定する金属またはその他の適切な剛体材料を備えてよい。コンプライアント壁92の他方の端部92bは、移動ヘッド95に取り付けられる。移動ヘッド95は、コンプライアント壁結合部95aと、外部結合部95bとを備える。
コンプライアント壁92の作動部分92cとは、燃焼中に拡張および伸長することが許容されたコンプライアント壁92の部分を意味する。一実施形態では、作動部分92cは、剛体構造への固定や取り付けなどによって、燃焼室100での燃焼中に変形が制限されないコンプライアント壁92の部分すべてを含む。この例では、コンプライアント壁92の末端は、静止部分93と移動ヘッド95との間に取り付けられる。これら2つの末端の間の取り付けされていない材料は、コンプライアント壁92の作動部分92cを形成する。長さlは、作動部分92cを軸方向に特徴づけるものである。コンプライアント部分92cは、長さlに沿って実質的に円筒形である。
直線移動機構102は、装置90の変形を制限する。直線移動機構102は、同心の円筒形の外殻97aおよび97bとベアリング99とを備える。円筒形の外殻97aおよび97bは、円筒の軸を共有し、ベアリング99を介して相対的に移動する。具体的な実施形態では、円筒形の外殻97は、それぞれ、金属管、プラスチック、または、テフロン(登録商標)など、剛体材料を含む。円筒形の外殻97aは、コンプライアント壁92の一方の端部に取り付けられた静止部分93に取り付けられることにより、間接的に、コンプライアント壁92に結合している。円筒形の外殻97bは、コンプライアント壁92の他方の端部に取り付けられた移動ヘッド95に取り付けられることにより、間接的に、コンプライアント壁92の他方の端部に結合している。
直線移動機構は、装置90に対していくつかの機能を有する。第1に、直線摺動部102は、移動ヘッド95の変形を一方向に限定する。すなわち、同心の円筒形外殻の中心軸に平行に、静止部93まで往復する直線的な変形である。第2に、内側の円筒形外殻97bは、コンプライアント壁92の外側に適合するサイズを有することで、燃焼室100内での燃焼の際にコンプライアント壁92の半径方向の拡張を防ぐことができる。コンプライアント壁92の外側と、円筒形外殻97bの内面との間に、グリースやその他の適切な潤滑油を用いて、それら2つの面の間の摩擦を低減させてよい。具体的には、コンプライアント壁92は、外面に低摩擦面を備える。第3に、摺動部102は、軸方向の拡張から逸脱するコンプライアント壁92の屈曲を低減する制約部として機能する。
別の実施形態では、燃焼装置は、燃焼中の選択された瞬間に保持力を作用させる静電クランプを備える。例えば、装置90は、燃焼サイクル中の様々な時に、2つの金属外殻97の間で静電クランプを作用させてよい。静電クランプは、行程のピーク時など、1以上の特定の位置で、移動ヘッド95を保持するよう構成されてよい。位置を保持することは、一部の例で有用である。例えば、装置は、点火直後の位置を保持することにより、拡張が始まる前に、より完全な燃料の燃焼を起こして、効率を高めてもよいし、拡張のピーク時の位置を保持することで、ガスが冷える時間を確保してもよい。この行程のピーク時における後者の保持によって、燃焼室内で部分的な減圧を起こし、通常では廃熱になる戻り行程のエネルギを装置が利用することを可能にし、潜在的に効率を高めることができる。さらに、2つの金属外殻は、移動ヘッド95の検出および監視に用いられてもよい。本発明での利用に適した静電クランプの材料の詳細な説明は、「Mechanical Meta−Materials」と題された同一権利者の同時係属特許出願No.11/078,678に記載されている。この出願は、すべての目的のためにその全体がここに参照によって組み込まれる。具体的な実施形態では、静電クランプ材料は、コンプライアント壁の周りに配置され、外部から駆動されることで、燃焼装置を所望の位置で固定する、もしくは、燃焼装置に対して力対変位を変える。
動作中に、燃料および空気が、吸気ポート94を通して燃焼室100に入る。点火機構98は、電極を備えており、その電極は、電気的に活性化されると、燃料に点火して燃焼室100内での燃焼を開始させる火花を発生させる。図4Bに示すように、燃焼室100内での燃焼は、静止部分93から直線的に離れるように、移動ヘッド95を駆動する。
具体的な実施形態では、装置90は、以下のような寸法を有する。コンプライアント壁92は、約1インチの外径を有し、円筒形の外殻97bは、約1インチの内径を有し、円筒形の外殻97aは、約1インチと円筒形の外殻97bの厚さとを足した長さの内径を有する。円筒形の装置90の軸方向に沿って、静止部分93は、約4から7インチの間の長さsを有し、コンプライアント壁92は、燃焼前には約3インチの有効長さlを有し、コンプライアント壁結合部95aは、約1/2インチの長さM1を有し、外部結合部95bは、約1/2インチの長さM2を有する。これにより、燃焼前に約5から8インチの間の全長を有する燃焼装置90が形成される。燃焼後には、コンプライアント壁92は、約3と1/2から約7インチの有効長さlを有してよい。例えば、移動ヘッド95は、有効長さlが所望の長さ(例えば、約5インチ)に伸びるように、(例えば、移動ヘッド95をクランクシャフトのベアリングに取り付けることにより)、寸法を制御されてよい。
図5Aないし5Cは、本発明の第4の実施形態における放射状(すなわち、管状)燃焼装置120を示す図である。図5Aは、吸気または燃焼の前の新しいサイクルの開始時における管状燃焼装置120の簡略な断面図である。図5Bは、燃料の吸気後の放射状燃焼装置120を示す図である。図5Cは、燃焼中の拡張ピーク時の管状燃焼装置120を示す図である。図に示した実施形態では、燃焼装置120は、管状のコンプライアント壁122と、吸気弁124と、排気弁128と、点火機構130と、燃焼室132と、フレーム134とを備える。
コンプライアント壁122は、反対側の端部122aおよび122bにおいて、それぞれ、フレーム部分134aおよび134bに取り付けられている。フレーム134は、剛体部分134aおよび134bを備える。フレーム134は、コンプライアント壁122の両端部に取り付けられ、コンプライアント壁122の軸方向の拡張を防ぐ。具体的には、フレーム部分134aは、コンプライアント壁122の端部122aに固定されて、その端部の動きを防止し、フレーム部分134bは、反対側の端部122bに固定されて、その端部の動きを防止する。コンプライアント壁122の両側の管状の端部が、軸方向の変形を防ぐように固定されているため、管状のコンプライアント壁122は、燃焼室132内で燃料を燃焼した時には、半径方向に伸長する。
燃焼室132は、コンプライアント壁122の内壁と、燃焼室132に隣接するフレーム134の壁面とによって形成される。この例では、燃焼室132の形状は、コンプライアント壁122の変形および伸長によって変化する。図5Aに示すように、コンプライアント壁122は、余分な材料を備えており、その余分が、燃焼室132内の圧力に応じて(例えば、圧力が低い時に)、屈曲部136を形成する。
吸気弁124は、吸気口125を通しての燃料および空気の供給を調節する。吸気口125は、フレーム部分134aを貫通して燃焼室132に開口している。同様に、排気弁126は、燃焼室132に開口している排気口127を通る排気を調節する。燃焼装置120は、複数の点火機構130を備えており、各点火機構は、燃焼室132内で燃料に点火するための火花電極を備えている。複数の点火機構130は、管の軸に沿って、より一貫した半径方向の拡張を実現する。
図5Bは、燃料の吸気後の放射状燃焼装置120を示す図である。この時点では、コンプライアント壁122は、端部122aと122bとの間で、実質的に円筒形すなわち管状になっている。燃焼の際には、コンプライアント壁122は、図5Cに示すように、半径方向138に拡張する。機械的結合139が、コンプライアント壁122の中央部分の外面に取り付けられており、燃焼装置120の機械的出力を実現する。
燃焼装置120は、管の軸を中心としたコンプライアント壁122の半径方向の拡張の360°で、機械的出力を供給する。燃焼装置は、コンプライアント部分または壁に関して、このような大きい拡張領域を備える必要はない。実際に、一部の燃焼装置は、コンプライアント壁の拡張を、より小さい部分に制限している。これによって、より小さい領域に、より大きい力が、燃焼によって掛けられる。
図6Aは、本発明の別の実施形態における燃焼前の被覆燃焼装置140を示す簡略な断面図である。図6Bは、燃焼後の被覆燃焼装置140を示す。
燃焼装置140は、剛体被覆141を備えており、剛体被覆141は、燃焼室144内での燃料の燃焼中にコンプライアント壁142の拡張を剛体被覆141の開口部146の範囲内に制限する。具体的には、剛体の被覆141は、開口部146によって提供される隙間を除いてコンプライアント壁142を取り囲んでいる。したがって、開口部146に剛体の被覆141が存在しないことにより、自由に伸長できるコンプライアント部分145が形成される。図に示していないが、剛体の被覆141の角部は、被覆141の周りで曲がるコンプライアント壁142の部分を傷つけないように丸くなっていてよい。
一実施形態では、コンプライアント部分145は、燃焼装置120に関して上述したように円筒形であり、円筒の軸は、方向148に向いている(図6A)。別の実施形態では、燃焼装置140は円筒形であり、円筒の軸は方向150を向いている(図6B)。この例では、開口部146を通ってのコンプライアント部分145の変形および伸長は、開口部146の形状およびサイズに基づいたダイヤフラムのようなものである。開口部146を通過する領域のコンプライアント部分145の外面には、機械的結合149が取り付けられている。結合149は、ほぼ直線的な機械的出力を燃焼装置120に提供する。直線的な機械的出力を容易にするために、結合機構149は、さらに、結合機構149に備えられた出力シャフトの動きを単一の直線的な変形度に制限する1以上のベアリングを備えてもよい。
これまで、燃焼装置は、コンプライアント部分または壁の変位に対して直線的に結合された機械的出力を有していた。本発明では、結合機構が、燃焼装置における変化を伝達して機械的出力を提供する間接的な関係も可能である。
図7Aは、本発明の別の実施形態におけるベローズ燃焼装置160を示す簡略な断面図である。図7Bは、燃焼後のベローズ燃焼装置160を示す。燃焼装置160は、図5Aの燃焼装置120と結合機構162とを備える。
結合機構162は、燃焼室132内で生成された機械的エネルギを受けて、その機械的エネルギを直線方向の変形164に変換する。より具体的には、結合機構162は、燃焼中にコンプライアント壁122が伸長した時の燃焼室132の容積の増大を受けるよう構成されている。結合機構162は、容積の増大を、方向164への移動要素170の直線的な拡張に変換する。結合機構162は、制限された容積168を有するベローズ装置166を備える。一実施形態では、ベローズ装置166は、燃焼装置120の容積変化を方向164に沿った移動要素170の直線移動に変換する非圧縮性の液体169またはゲルを含んで密閉している。したがって、燃焼中にコンプライアント壁122が伸長すると、コンプライアント壁122が燃焼室132の容積の増大が、方向164への側面ベローズ167の拡張を引き起こす。ベローズ装置166は、ベローズ167および要素170の拡張を引き起こす燃焼室132の容積増大を受けるのに適切なサイズを有する。これは、ベローズ167とベローズ装置166内の容積168とが、装置120内の燃焼に応じて容積変化を提供することができることを意味する。より具体的には、ベローズ167は、燃焼室132の最大容積を収容する位置と、燃焼室132の最小容積を収容する位置とを有する。
図8Aは、本発明の別の実施形態におけるベローズ燃焼装置180を示す簡略な断面図である。図8Bは、燃焼後のベローズ燃焼装置180を示す。ベローズ燃焼装置180は、コンプライアント壁182と、燃焼室184と、結合機構186と、流体188とを備える。
一実施形態では、コンプライアント壁182は、実質的に球形であり、実質的に球形の燃焼室184を規定している。球形の燃焼室は、すべての形状の内で最小の表面対容積の比を可能にするため、所与の燃焼容積に対して、燃焼室の壁を通しての寄生熱損失を最小限に抑える。この例では、コンプライアント壁182は、燃焼室184内の圧力状態に応じて、拡張および収縮する風船の形状である。球形のコンプライアント壁182については、燃焼室184の境界となる一組の壁は、球形の1つの壁のみを含む。別の実施形態では、図8Aおよび8Bに示す輪郭は、図に示した断面に垂直な方向に直線的に伸びている。この例では、コンプライアント壁182および燃焼室184は、両方とも、ほぼ円筒形であり、設計によって決定された通りに、図に示した断面に垂直な長さにわたって伸びている。
結合機構186は、燃焼室184の容積増大を受けるよう構成され、燃焼による容積の増大を方向187の直線的な出力に変換する。機構186の底面185は、機構186への機械的な取り付けおよび結合を可能にしている。図に示すように、底面185は、剛体で不動の壁189に取り付けられている。排気ポート192が、不動の壁189および底面185を貫通している。図には示していないが、装置180は、さらに、別個の吸気ポートを備えてよい。機構186の上面183は、底面185に対して直線的に移動できる。上面183は、剛体であり、機構186に外部の物を取り付けることを可能にする。
結合機構186は、機構186の両側で上面183から底面185まで伸びる1以上の柔軟なベローズ壁191を備える。ベローズ壁191は、燃焼室184の容積増大に応じて、方向187に伸長する。具体的な実施形態では、ベローズ機構186は、マサチューセッツ州ハドソンのAnver Corporationが供給するSilicon BL−SITシリーズなど、市販のベローズ装置を備えてよい。また、ベローズ機構186は、燃焼装置用の特注品であってもよい。機械的エネルギの伝達に、他のベローズ装置が用いられてもよい。具体的に実施形態では、ベローズ183は、密封されたエラストマを備えており、そのエラストマは、エラストマの変形を方向187への直線的な変位に制限するバネもしくは高張力の巻き繊維を、周囲に有する。代表的なバネおよび高張力繊維の形状については、上述している。
液体またはゲル188が、ベローズ機構186内に配置されており、燃焼室184の容積の変位を伝達してベローズ機構186を拡張することで、方向187への上面183の直線移動を引き起こす。換言すれば、液体188は、燃焼室184内の圧力変化に反応する液圧駆動として機能する。燃焼中に、燃焼室184内の圧力が急速に上昇すると、液体188は、a)上面183を直接的に押し上げると共に、b)圧力を上面183の上方移動に間接的に変換するベローズ壁191を押す。換言すれば、ベローズ機構186は、方向187のみに直線的に伸長するように制限されているため、燃焼室184の球形の拡張に対して、そのように伸長する。
燃焼室184からの燃焼ガスの排気は、多くの方法で実現できる。具体的な実施形態では、例えば、上面183に結合された出力シャフトおよびクランクシャフトによって機械的に駆動して、排気を実行する(図16参照)。この例では、流体188は、上面183からの圧縮力をコンプライアント壁182に伝達して、ポート192を通して強制的にガスを排出する。
また、流体188は、燃焼装置180の冷却を促進する。より具体的には、燃焼室184内での燃焼によって生じてコンプライアント壁182に伝わる熱が、流体188内で対流によって放散する。次いで、流体188は、冷却システムを通って、能動的に冷却された装置180に循環されてよい。
球形のコンプライアント壁182および燃焼室184は、燃焼室184の表面対容積の比を低くする。しばしば、燃焼室の壁による熱損失の量は、壁の表面積に比例する。球形のコンプライアント壁182は、最初に燃焼が開始する際の壁182への熱損失を最小限に抑える。装置の効率を増大させること(熱としてのエネルギの損失が小さいこと)に加えて、必要な冷却の量も低減される。
図9Aは、本発明の別の実施形態における燃焼装置190を示す簡略な断面図である。図9Bは、燃焼後のベローズ燃焼装置190を示す。燃焼装置190は、コンプライアント壁182と、燃焼室184と、液圧結合機構192と、流体188とを備える。
コンプライアント壁182、流体188、および、燃焼室184は、図8Aに関して上述した物と同様である。この例では、結合機構192は、剛体のシリンダハウジング194と、ハウジング1944内で直線的に移動するピストン196とを有する液圧シリンダを備える。また、ハウジング194およびピストン196は、流体188を密封している。燃焼室184内での燃料の燃焼によって、コンプライアント壁182が、流体188を押し、それにより、ピストン196を押し上げる(ハウジング194は、剛体なので、流体188から機械的な作用を受けない)。
ピストン196は、燃焼室184からの燃焼ガスの排気を促進するために用いられてもよい。例えば、ピストン196に結合された出力シャフトおよびクランクシャフトを用いて、燃焼室184からの燃焼ガスの排気を駆動してよい(図16参照)。上述した装置と同様に、流体188は、燃焼室184内で生成される力(例えば、燃焼)と、ピストン196によって掛けられる力(例えば、クランクシャフトの力)の両方を含めて、ピストン196と燃焼室184との間で力を伝達する。
図8および9は、コンプライアント壁を備えた燃焼装置が、機械的出力を液体に結合できる(液体自体は、ピストンやベローズなどの直線的な出力装置に結合できる)方法を示している。コンプライアント壁を備えた燃焼装置によって液体に掛けられる機械的圧力は、それ自体、ポンプにとって望ましい出力であってよい。この例では、ピストン−シリンダまたはベローズの代わりに、液体の流入および流出弁を備えた剛体で一定の容積を有するチャンバを用いることにより、コンプライアント壁を備えた燃焼装置が、ポンプとして機能することを可能にする。
液体ピストンエンジンは、当業者に周知である。しかしながら、従来の液体ピストンエンジンに比べて、本発明のコンプライアント壁を備えた燃焼装置は、液体と燃焼室とを隔離しているため、液体表面の分裂、発泡、および、従来の液体ピストンポンプに関連する他の問題を排除する。
ここまで、燃焼エネルギが壁を伸長させる燃焼装置について説明した。本発明では、その他の機構も可能である。一部の例では、燃焼装置の壁は、燃焼サイクル中に形状が変化する。
図10Aは、本発明の別の実施形態における形状可変でコンプライアント壁を備えた燃焼装置200を示す図である。図10Bは、燃焼後の形状可変の燃焼装置200を示す。図10Cは、排気後の形状可変の燃焼装置200を示す。燃焼装置200は、壁202と、制約部204と、燃焼室206と、剛体の端部プレート208と、少なくとも1つのポート210と、出力シャフト312とを備える。
コンプライアント壁202は、内部の寸法が燃焼室206を規定するコンプライアント材料を備える。コンプライアント壁202を、4つの壁部分について説明する。すなわち、実質的に円筒形の壁部分202aと、円錐台形の壁部分202bと、上部の平坦な壁部分202cと、下部の平坦な壁部分202dについて説明する。円筒形部分202aは、軸方向に沿って、下部の平坦部分202dから壁202の屈曲点214まで、燃焼室206の半径方向の境界になっている。円錐台形部分202bは、軸方向に沿って、屈曲点214から上部の平坦部分202cまで、燃焼室206の半径方向の境界になっている。円錐台形の壁部分202bは、円筒形の壁202aの直径と一致する屈曲点214における最大直径から、上部の平坦な壁部分202cの直径と一致する上部の平坦な壁部分202cにおける最小直径まで、直径が減少する。静止状態では、円錐台形の壁部分202bは、壁の厚さがほぼ一定の直径が小さくなってゆく管の形状を有する。上部および下部の平坦な壁部分202cおよび202dは、燃焼室206に対して、実質的に平坦な端部を形成する。上部の壁部分202cは、円筒形部分204aの内径に収まることが可能な直径を有する。具体的な実施形態では、コンプライアント部分202は、装置200にとって所望の形状および寸法になるように単独で成形された軟らかいエラストマを備える。
剛体の端部プレート208aおよび208bは、それぞれ、各コンプライアント端部202cおよび202dの外面に結合する。剛体のプレート208bは、外部に固定され、実質的には動かない。出力シャフト212が、剛体の端部プレート208aに取り付けられており、機械的出力を提供する。装置200は、さらに、燃焼室206に対してガスを出し入れするための1以上のポート210を備える。制約部204は、コンプライアント壁202の半径方向の拡張を防止し、円筒形部分202aおよび円錐台形部分202bの両方に対して、コンプライアント壁202の外径に合った寸法を有する。
操作上、図10Aは、燃料および空気を取り込み中の装置200を示す。図10Bは、燃焼中の拡張のピークにおける燃焼装置200を示している。図10Cは、排気終了時の装置200を示す。屈曲点214は、壁202の屈曲を容易にし、円錐台形部分202bと上部の平坦な壁部分202cとが円筒形部分202a内に収まるように、円錐台形部分202bが燃焼室206内に落ち込むことを可能にする。これにより、燃焼室206からのガスの排気が促進される。また、図のようにコンプライアント壁202を折りたたむことで、燃焼室206内のデッドスペースが低減される。
図10Cは、燃焼室206内のデッドスペースが最小の装置200を示しているが、排気後の燃焼室内のデッドスペースの量は、様々であってよい。具体的な実施形態では、出力シャフト212は、排気後に剛体端部プレート208aおよび燃焼室206内のデッドスペース量を駆動するクランクシャフトに結合される。ある機構では、図に示すように完全に落ち込んでよい(図16参照)。円錐台形の設計を含む他の実施形態は、図に示すほど完全に落ち込まなくてもよい(上部の平坦な壁部分202cが、下部の平坦な壁部分202dに到達しなくてもよい)。一実施形態では、燃焼室206は、燃焼室206の最大拡張容積の約50%未満の排気容積を有する。具体的な実施形態では、燃焼室206は、燃焼室206の最大拡張容積の約25%未満の排気容積を有する。
一実施形態では、出力ロッド212に取り付けられたクランクシャフトが、上部の平坦な壁部分202cおよび円錐台形部分202bの変位を制御し、上部の平坦な壁部分202cの燃焼室206内への落ち込みを駆動する(図16)。別の実施形態では、拡張のピーク時にコンプライアント壁202に蓄積された弾性エネルギが、少なくとも部分的に上部の平坦な壁部分202cを燃焼室206内に戻す。
燃焼装置200は、上述の燃焼装置50および70に関して説明した特徴を備えてよい。例えば、上部および下部の平坦な壁部分202cおよび202dに代えて、円筒形および円錐台形の側壁に取り付けられて燃焼室206の内壁を形成する剛体の端部プレートを用いてもよい。さらに、制約部204は、制約部58および80に関して上述した例を備えてよい。
図2Aの燃焼装置50は、実質的に円筒形の形状を有するが、図10Aの燃焼装置200は、円筒形と錐台とを組み合わせた機構を有する。あるいは、本発明の燃焼装置は、一方の端部から他方の端部まで錐台形の機構を有してもよい。
ここまで、主に、燃焼室内での燃焼に応じて伸長するコンプライアント壁に関して、本発明の説明を行った。コンプライアント壁の偏位は、燃焼室内での燃焼に応じての収縮、燃焼室内での燃焼に応じての形状変化など、他の形態の偏位を含んでもよい。
図11Aは、本発明の別の実施形態における燃焼に応じて収縮するよう構成されたコンプライアント部分228を有するコンプライアント壁228を備えた燃焼装置220を示す。図11Bは、燃焼後の燃焼装置220を示す。装置220は、燃料から機械的エネルギを生み出す装置であり、ハウジング222と、ピストン224と、ベアリング226と、コンプライアント壁228とを備える。
ハウジング222は、剛体構造と1組の剛体壁とを備える。ハウジング222の剛体壁は、円筒形の壁222aと底部の壁222bとを含む。ハウジング222の内壁は、コンプライアント壁228の内面と共に、燃焼室230の寸法を規定している。ハウジング222は、金属やプラスチックなど、適切な剛性を有する材料を含んでよい。燃焼の影響を受けない剛性を有し、燃焼室230内での熱の発生に耐えられる限りは、他の材料を用いてもよい。ハウジング222は、さらに、2つのポートを備える。すなわち、燃焼反応物質が燃焼室230に入ることを可能にする吸気ポート234と、燃焼生成物が燃焼室230から出ることを可能にするポート236である。
燃焼装置220は、ピストンを備える点が、本明細書に記載した他の燃焼装置と大きく異なる。ただし、装置220は、コンプライアント壁228がピストン224を燃焼室230から隔てている点で、従来のピストン・シリンダエンジンとも異なっている。この例では、ピストン224は、装置220の機械的出力として機能する。ピストン224は、ベアリング226の補助により、燃焼室230に出入りするよう平行移動する。本明細書で用いられているように、ピストンという用語は、燃焼室内での燃焼に応じて燃焼室に対して平行移動する剛体部材を意味する。ベアリング226は、ピストン224に隣接し、ピストン224の直線移動を導く。より具体的には、ベアリングは、ハウジング222の上側の壁に配置されており、ピストン224がベアリング226および燃焼室230に対して移動する際の摩擦を小さくする。
コンプライアント壁228は、剛体壁222aの上部に渡されている。コンプライアント壁228は、さらに、ピストン224の底面に結合されている。結合は、コンプライアント壁228の外面とピストン224の底面との間の直接的な取り付けであってもよいし、それら2つの構成要素の間に配置された別の要素を介しての間接的な取り付けであってもよい。特に、ピストン224は、燃焼室230の壁を形成する面や部分を含まない。
これまでに説明した燃焼装置は、燃焼室内での燃焼に応じてコンプライアント壁が伸長するように構成されていた。しかしながら、燃焼装置220は、コンプライアント壁228が、燃焼室230内での燃焼に応じて拡張または収縮するよう構成可能である点で異なっている。コンプライアント壁228は、複数の部分を備える。すなわち、ピストン224の底部に取り付けられた固定部分228bと、燃焼室230内での燃焼に応じて変形するコンプライアント部分228aである。具体的な実施形態では、装置230は円筒形であり、ピストン224および固定部分228bは円形であり、コンプライアント部分228aは円錐台形である。一実施形態では、コンプライアント壁228は、燃焼室230内の寸法よりも長く形成されており、ベアリング226とハウジング222の上部222cとの間に固定された部分を備える。
動作中、燃焼室230内での燃焼によって、燃焼室230の容積が増大することで、ピストン224は、図11Aに示す位置から図11Bに示す位置まで押し上げられる。ピストン226は、ピストン224を燃焼室230内に押し戻して燃焼室230からのガスの排気を促進する(図11A)クランクシャフト(図16)に結合されてよい。
コンプライアント壁228は、燃焼装置230のためのいくつかの機能を有する。第1に、壁228は、燃焼室230を密封する。したがって、コンプライアント壁228は、燃焼生成物およびガスが、ピストン224とシリンダ222との隙間を通って燃焼室230から漏れることを防止する。さらに、コンプライアント壁228は、ピストンとシリンダとの隙間を通しての熱損失を防いで、燃焼装置230の効率を向上させる。第2に、ピストン224は、燃焼室230内において、可動部分も、(燃焼ガスや熱の損失につながる)潜在的な隙間も備えないため、ピストン224やベアリング226の許容誤差を緩和できる。第3に、燃焼室230内に可動部分が存在しないため、燃焼室230内に、潤滑油は必要ない。一実施形態では、燃焼室230は、燃焼室内で用いる燃料以外に潤滑油を含まない。第4に、コンプライアント壁228は、燃焼室230からの熱損失を低減して燃焼装置220の効率を向上させる断熱材を備えてもよい。
図12Aは、本発明の別の実施形態における膜燃料制御燃焼装置240を示す簡略な断面図である。図12Bは、燃料を取り込んだ後の膜燃料制御燃焼装置240を示す。図12Cは、燃焼後の膜燃料制御燃焼装置240を示す。装置240は、第1のコンプライアント壁242と、第2のコンプライアント壁244と、結合機構246と、多孔質セパレータ248と、剛体の支持体250と、ハウジング258と、吸気弁252と、排気弁254とを備える。
燃焼装置240は、コンプライアント壁242が、燃焼室256内での燃焼に基づいて、負のカップ角度から正のカップ角度に変形する際に、形状を変化させるよう構成されている点で、これまでに説明した燃焼装置と異なっている。また、コンプライアント壁242は、燃焼の結果として伸長してもよい。より具体的には、コンプライアント壁242は、燃焼室256の容積を減少させる方向および位置に向かって伸長し始め、(燃焼の結果として)壁242の表面積が減少する変曲点を通って変形し、カップ状からドーム状(bowed)に形状を変化させて、その後、燃焼室256の容積を増大させる方向および位置に向かって伸長してよい。
断面図に示されているように、燃焼室256は、コンプライアント壁242の下側と、コンプライアント壁244の上側と、燃焼室256の両側のハウジング258の側壁とによって形成されている。燃焼室256の容積および形状は、各コンプライアント壁244および242の位置に応じて変化する。一実施形態では、ハウジング258は、実質的に円筒形であって、上部に開口部を備えており、コンプライアント壁242は、円形の穴の周に沿ってハウジングに取り付けられて円形の穴を覆うことで、燃焼室256の上側のコンプライアント壁を形成している。
多孔質セパレータ248が、燃焼室256内に配置されており、ハウジング258の一方の壁からハウジング258の反対側の壁まで横方向に渡されている。多孔質セパレータ248の表面を通して、一方の側から反対側へ、ガスおよび流体が移動することが可能である。例えば、多孔質セパレータ248は、数多くの孔を有するプラスチックの円板を備えてもよいし、細いワイヤからなる網を備えた金属スクリーンを備えてもよい。燃焼室256から燃焼生成物を排気する際に、固体のコンプライアント壁244および242は、多孔質セパレータ248を介して互いに接触することができず、また、多孔質セパレータ248は、その寸法(厚さおよび表面積)に従って、燃焼室256内の最小容積を規定している。
燃料を取り込む際には、燃料および空気が、吸気弁252を通して燃焼室256内にポンプで送られて、コンプライアント壁244が、図12Aに示した位置から図12Bに示した位置に偏位する。一実施形態では、燃料および空気は加圧され、壁244は、低いコンプライアンスを有することで、拡張して燃焼室256を開くことができる。具体的な実施形態では、壁244は、電気活性層を備えるため、電圧を印加することにより、下方に動いて、燃焼室を開くことができる。さらに、空気およびガスを供給するために用いられる圧力は、結合部材246を動かすほど大きくはない。弁252および254は、それぞれ、燃焼室256内に通じる開口部をハウジング258に備える。別の実施形態では、燃料制御膜は、作動される電気活性ポリマ材料からなる。電気活性ポリマに電圧が印加されると、燃料吸気口側と大気側との間のあらゆる小さい圧力差により、燃料制御膜は、その方向に膨らみ、燃料の取り込みを実現する。
燃焼については、要素248に備えられた点火機構が燃料に点火し、燃焼室256が燃焼を開始する。具体的な実施形態では、導線が、多孔質セパレータ248に配置され、セパレータ248および燃焼室256の断面の中央部分に達している。燃料の燃焼によって、コンプライアント壁242は、強制的に、図12Cに示すように上向きに偏位する。剛体の支持体250は、コンプライアント壁244の移動および偏位を制限する。一実施形態では、剛体の支持体250は、コンプライアント壁244が、燃料の取り込み後に所望の位置を超えて移動することを防止する。具体的な実施形態では、剛体の支持体250は、燃焼中のコンプライアント壁244の静止位置に望ましい輪郭に形成された多孔質のプラスチックまたは金属カップを備える。したがって、燃焼の際に、コンプライアント壁244は、剛体の支持体250の有する形状、輪郭、および、剛性を有することになり、燃料の燃焼によって生じた機械的エネルギは、移動するコンプライアント壁242、ひいては、それに取り付けられた機械的結合に伝達する。結合機構246は、コンプライアント壁242の外面に取り付けられている。燃焼室256内での燃料の燃焼により、結合機構246は押し上げられる。
別の実施形態では、セパレータ248は設けられておらず、燃料制御244膜の形状は、空気および燃料の取り込み前のコンプライアント壁242と、空気および燃料の取り込み後の剛体壁250とによって規定される。
さらに別の実施形態では、燃料制御膜244、多孔質セパレータ248、および、剛体の支持体250の代わりに、剛体の支持体250と同じ形状を有する非多孔質の剛体構造を用いる。この例では、燃料の取り込みは、燃料制御膜244ではなく、外部の弁を通して実現される。この例では、剛体壁は、固定された制約部を提供するため、コンプライアント壁242は、図12Bおよび12Cに示したのと同様の形状の変化を受ける。
原動機機構
一般的に、本発明に従った原動機は、特定の原動機機構で構成された1以上のコンプライアント壁燃焼装置を備える。その設計は、コンプライアント壁燃焼装置の変形の繰り返しを、原動機が備える動力シャフトの連続的な回転に変換する。本発明での利用に適した原動機およびエンジンの設計は数多く存在し、本明細書に記載した1以上の燃焼装置を従来の原動機およびエンジンの機構に組み込んでもよいし、コンプライアント壁燃焼装置を用いるために特別に設計した特注の原動機機構を用いてもよい。以下では、本発明での利用に適したいくつかの原動機およびエンジンの機構について説明する。これらの代表的な設計は、1以上の燃焼装置の変形を、回転式原動機の回転運動または直動式電動機の直線運動の出力に変換する。
図16は、本発明の一実施形態における簡単な回転式原動機500を示す斜視図である。原動機500は、1以上の燃焼装置からの直線的な機械的出力を回転の機械力に変換する。図16に示すように、回転クランク原動機500は、4つの要素を備える。すなわち、コンプライアント壁燃焼装置502と、クランクピン504と、動力シャフト506と、クランクアーム508である。
本明細書で用いられているように、クランクという用語は、動力シャフト506に動力を供給する回転式原動機の部品を意味する。原動機500については、クランクは、燃焼装置502と、クランクピン504と、クランクアーム508とを備える。燃焼装置は、方向509に直線的に往復運動を行うことができる。クランクピン504は、燃焼装置502とクランクアーム508との間の結合を提供する。クランクアーム508は、クランクピン504と動力シャフト506との間で力を伝達する。動力シャフト506は、軸503を中心に回転するよう構成されている。この例では、回転方向514は、軸503を中心とした時計回りである。
ベアリング511は、燃焼装置502とクランクピン504との間の結合を円滑にする。ベアリング511は、クランクピン504に内面を取り付けられており、燃焼装置502の移動する端部に取り付けられた機械的出力すなわち結合ロッド512に外面を取り付けられている。ベアリング511は、結合ロッド512とクランクピン504との間で実質的に無損失の相対運動を実現する。
結合ロッド512は、燃焼装置502に一方の端部を結合されると共に、クランクピン504に他方の端部を結合されることで、燃焼装置502とクランクピン504との間の結合を行う。この例では、結合ロッド512の上端は、燃焼装置502に結合され、方向509に向かって上下に平行移動する。結合ロッド512の他方端部は、クランクピン504に結合され、クランクピン504と共に動力シャフト506の周りを回転する。ピン511は、結合ロッド512が軸503を中心とした軌道をたどる間に、燃焼装置502が旋回することを可能にする。燃焼装置502内で燃焼を行うと、結合ロッドの上端は、燃焼装置502と共に方向509に下方移動する。結合ロッドの反対側の端部は、クランクアーム508によって規定される円運動で下方移動し、それにより、クランクシャフト506を中心に回転する。
燃焼装置502で燃料を燃焼することにより、クランクピン504を下方移動させ、動力シャフト506を回転させる。ベアリング511が、方向509に向かって下方に平行移動すると、クランクピン504は、動力シャフト506を中心にして時計回りの方向514に回転する。燃焼装置502内での燃料の燃焼は、原動機500の「動力行程」と呼んでもよい。燃焼装置502の直線的な変形が続くと、クランクピン504は、クランクアーム508の形状によって規定されるように、動力シャフト506を中心とした軌道をたどる。
具体的な実施形態では、クランクピン504は、燃焼装置502での燃焼が終わると、方向509における最下方の変位(下死点)に達する。クランクピン504およびクランクアーム508のモーメントは、下死点において動力シャフト506を中心として方向514にクランクピン504を動かし続ける。コンプライアント壁510の弾性的な復元が、出力シャフト512の上方への偏位を引き起こしてもよい。コンプライアント壁510の弾性的な復元と、クランクピン504およびクランクアーム508のモーメントとは、動力シャフト506を中心として方向514に上向きにクランクピン504を動かし続ける。クランクピン504が、方向509の最小下方変位(上死点)を過ぎる時、燃焼装置502での燃料の燃焼が再び始まる。このように、燃焼および弾性的な復元を、繰り返し実行することで、軸503を中心とした動力シャフト506の連続的な回転を実現することができる。
原動機500について、上死点から下死点への燃焼装置502の動きを、下り行程と呼び、下死点から上死点への燃焼装置502の動きを、上り行程と呼ぶ。図に示すように、燃焼装置502は、下り行程の間に燃料を燃焼して、上り行程の間にコンプライアント壁510の弾性的な復元を用いることにより、動力シャフト506の1回転を完了させる。別の実施形態も可能である。例えば、上り行程と下り行程とを切り替えて、燃焼装置502を動力シャフト506よりも下に配置し直すこともできる。この例では、燃焼装置502内での燃焼と、コンプライアント壁510の弾性的な復元とは、動力シャフト506の回転の別の部分に寄与することになる。
燃焼装置502は、結合ロッド512を機械的出力として用いた場合の上述の装置すべてを含みうる。原動機500によって供給される回転出力の利点の1つは、クランクアーム508の長さを調整することにより、燃焼装置502からのガスの排気と、排気行程中の燃焼室の寸法の制御とを実現できることである。例えば、燃焼装置200の落ち込みの程度は、クランクアーム508の長さを用いて制御されてよい。
図16に示すように、動力シャフト506、クランクアーム508、および、クランクピン504は、1つの連続的な構造であり、クランクシャフトとも呼ばれる。クランクシャフトとは、クランクシャフトが回転した時にオフセット部分(すなわち、クランクピンおよびクランクアーム)が円軌道を描くシャフトである。別の実施形態では、動力シャフト506、クランクアーム508、および、クランクピン504は、別個の構造である。例えば、クランクアーム508は、一方の端部がクランクピン504に回転可能に結合されると共に他方の端部が動力シャフト506に取り付けられた剛体部材(例えば、自転車のペダルのクランクのような物)であってよい。
図16に示した代表的な原動機は、本発明を不必要に分かりにくくしないように簡略化されている。当業者にとって明らかなように、他の構造や特徴を用いて、動作を円滑にしたり向上させたりしてもよい。例えば、ロッド512と反対側に位置する燃焼装置502の端部は、固定されてもよいし、旋回を可能にするピンに結合されてもよい。さらに、燃焼装置502は、クランクシャフト504の回転に必要なコンプライアント壁の歪みの量を低減するために、図に示したよりもかなり大きくしてもよい。図に示したように、燃焼装置502は、大きい線形歪みを用いて、クランクを完全に回転させることが可能であり、このクランクは、本発明のいくつかの燃焼装置に適している。しかしながら、より大きい燃焼装置502を用いて、クランクピン504の回転に必要なコンプライアント壁510の歪みの量を低減してもよい。例えば、クランクピン504を回転させるために、コンプライアント壁510において約20%から約100%の線形歪みを生じさせるように、燃焼装置502のサイズを選択してよい。
原動機500に関して説明したように、1つの燃焼装置502を用いると、動力シャフト506の回転中に得られる出力分布は非一様になる。完全に信頼性のあるシャフトの回転を実現するには、シャフトが単に振動するように回転する(すなわち、360°未満の回転)ことを防止するのに十分な回転の慣性および速度が必要となる。一実施形態では、本発明の回転式原動機は、動力シャフトを回転させる動力を供給する燃焼装置を複数備える。複数の燃焼装置は、例えば、燃焼装置を異なる角度にずらして、より一貫して連続的な原動機の出力を生成することにより、動力シャフトの回転におけるデッドスポットを低減するよう構成されてもよい。
図16は、1つのクランクピンに結合された燃焼装置502を示しているが、本発明の原動機は、燃焼装置502にそれぞれ結合された複数のクランクピンすなわち複数のスローを備えてもよい。例えば、クランクシャフトの周りにほぼ均等に、複数のクランクを配列してもよく、その場合、各クランクは、1つの燃焼装置502のために設けられる。本発明は、動力シャフトの周りに、適切に配列された任意の適切な数のクランクを備えてよい。2、4、6、および、8個のクランクの構成が一般的である。一実施形態では、互いに釣り合いを取るように、複数の燃焼装置が、動力シャフトの周りに配列される。
複数の燃焼装置を備える本発明の原動機について、動力シャフトの周りの燃焼装置の配列に従って説明する。一実施形態では、複数の燃焼装置は、対向配列で動力シャフトの周りに配列されており、すべての燃焼装置が、動力シャフトの周りの両側の列において共通する平面内に配置され、それぞれが、動力シャフトを中心に向かい合っている。別の実施形態では、複数の燃焼装置は、動力シャフトの周りに直列配列で配列されている。さらに別の実施形態では、複数の燃焼装置は、動力シャフトの周りにV字形に配列されており、2列の燃焼装置が、動力シャフトの周りでV字の角度を取る2つの直列部分に設けられる。V字構成の燃焼装置は、約0度から180度の角度を有してよい。複数入力の原動機構成は、当業者に周知であるため、簡単のために本明細書では詳述しない。
いくつかの好ましい実施形態を参照しつつ本発明を説明したが、本発明の範囲に含まれるものの簡単のために割愛した代替物、置換物、および、等価物が存在する。例えば、本発明は、燃焼室で生成された機械的エネルギを用いるためのいくつかの出力機構に関して説明されたが、燃焼装置によって生成された機械的エネルギを利用する別の機構も存在することは、当業者にとって明らかである。したがって、本発明の範囲は、添付の請求項の範囲によって規定されるよう意図されている。
[米国政府の権利]
この発明の一部は、米国陸軍から提供され、契約番号DAAD19−03C−0067に基づく米国政府の支援による資金援助を受けたものである。米国政府は、この発明について一定の権利を有している。