以下に、本願発明を具体化した実施形態を、走行車両としてのコンバインに適用した場合の図面(図1〜図10)に基づいて説明する。図1はコンバインの側面図、図2はコンバインの平面図、図3は動力伝達系のスケルトン図、図4はミッションケース内部のスケルトン図、図5は主変速レバー及び操向ハンドルと油圧無段変速機との関係を模式的に示す機能ブロック図、図6は操向ハンドルの側面断面図、図7はサイドコラムの側面断面図、図8は乾田用変速出力パターンの説明図、図9は湿田用変速出力パターンの説明図、図10は横滑りの態様を示す説明図である。
(1).コンバインの概略構造
まず、図1及び図2を参照しながら、コンバインの概略構造について説明する。
実施形態のコンバインは、走行部としての左右一対の走行クローラ2,2にて支持された走行機体1を備えている。走行機体1の前部には、圃場の植立穀稈(未刈穀稈)を刈り取りながら取り込む刈取前処理装置3が単動式の油圧シリンダ4にて昇降調節可能に装着されている。
走行機体1には、フィードチェン6付きの脱穀装置5と、脱穀後の穀粒を貯留するためのグレンタンク7とが横並び状に搭載されている。この場合、脱穀装置5が走行機体1の進行方向左側に、グレンタンク7が走行機体1の進行方向右側に配置されている。走行機体1の後部には排出オーガ8が旋回可能に設けられている。グレンタンク7内の穀粒は、排出オーガ8の先端籾投げ口から例えばトラックの荷台やコンテナ等に搬出される。
刈取前処理装置3とグレンタンク7との間には操縦部9が設けられている。操縦部9内には、走行機体1の進行(旋回)方向及び旋回速度を変更操作する旋回操作体としての操向ハンドル10や、オペレータが着座する操縦座席11等が配置されている。操縦座席11の一側方に配置されたサイドコラム12には、走行機体1の変速操作を行う直進操作体としての主変速レバー13、後述する油圧無段変速機50の出力及び回転数を所定範囲に設定保持する副変速レバー14、刈取前処理装置3への動力継断操作用の刈取クラッチレバー15、並びに、脱穀装置5への動力継断操作用の脱穀クラッチレバー16が前後傾動可能に設けられている。
操縦部9の下方には、動力源としてのエンジン17が配置されている。エンジン17の前方には、当該エンジン17からの動力を適宜変速して左右両走行クローラ2に伝達するためのミッションケース18が配置されている。実施形態のエンジン17にはディーゼルエンジンが採用されている。
刈取前処理装置3は、バリカン式の刈刃装置19、4条分の穀稈引起装置20、穀稈搬送装置21及び分草体22を備えている。刈刃装置19は、刈取前処理装置3の骨組を構成する刈取フレーム41(図1参照)の下方に配置されている。穀稈引起装置20は刈取フレーム41の上方に配置されている。穀稈搬送装置21は穀稈引起装置20とフィードチェン6の送り始端部との間に配置されている。分草体22は穀稈引起装置20の下部前方に突設されている。走行機体1は、エンジン17にて左右両走行クローラ2を駆動させて圃場内を移動しながら、刈取前処理装置3の駆動にて圃場の未刈穀稈を連続的に刈り取る。
脱穀装置5は、刈取穀稈を脱穀処理するための扱胴23と、扱胴23の下方に配置された揺動選別機構24及び風選別機構25と、扱胴23の後部から取り出される脱穀物を再処理する送塵口処理胴26とを備えている。扱胴23は脱穀装置5の扱室内に配置されている。揺動選別機構24は扱胴23にて脱穀された脱穀物を揺動選別するためのものであり、風選別機構25は前記脱穀物を風選別するためのものである。
刈取前処理装置3から送られてきた刈取穀稈の株元側はフィードチェン6に受け継がれる。そして、当該刈取穀稈の穂先側が脱穀装置5内に搬入され、扱胴23にて脱穀処理される。なお、扱胴23の回転軸95(図3参照)は、フィードチェン6による刈取穀稈の送り方向(走行機体1の進行方向)に沿って延びている。
脱穀装置5の下部には、両選別機構24,25にて選別された穀粒のうち精粒等の一番物が集まる一番受け樋27と、枝梗付き穀粒や穂切れ粒等の二番物が集まる二番受け樋28とが設けられている。実施形態の両受け樋27,28は、走行機体1の進行方向前側から一番受け樋27、二番受け樋28の順で、側面視において走行クローラ2の後部上方に横設されている。
両選別機構24,25による選別を経て一番受け樋27内に集められた精粒等の一番物は、当該一番受け樋27内の一番コンベヤ29及び揚穀筒31内の揚穀コンベヤ32(図3参照)を介してグレンタンク7に送られる。
枝梗付き穀粒等の二番物は、一番受け樋27より後方の二番受け樋28に集められ、ここから二番受け樋28内の二番コンベヤ30及び還元筒33内の還元コンベヤ34(図3参照)を介して二番処理胴35に送られる。そして、二番物は、二番処理胴35にて再脱穀されたのち、脱穀装置5内に戻されて再選別される。藁屑は、排塵ファン36に吸い込まれて、脱穀装置5の後部に設けられた排出口(図示せず)から機外へ排出される。
フィードチェン6の後方側(送り終端側)には排稈チェン37が配置されている。フィードチェン6の後端から排稈チェン37に受け継がれた排稈(脱粒した稈)は、長い状態で走行機体1の後方に排出されるか、又は脱穀装置5の後方にある排稈カッタ38にて適宜長さに短く切断されたのち、走行機体1の後方に排出される。
(2).コンバインの動力伝達系
次に、図3及び図4を参照しながら、コンバインの動力伝達系について説明する。
エンジン17からの動力の一方は、刈取前処理装置3と脱穀装置5との2方向に分岐して伝達される。エンジン17からの他の動力は排出オーガ8に向けて伝達される。エンジン17から刈取前処理装置3に向かう分岐動力は一旦、プーリ・ベルト伝動系及び刈取クラッチ89を介して、ミッションケース18の油圧無段変速機50に伝達される。この場合、エンジン17からの分岐動力は、ミッションケース18の油圧無段変速機50等にて適宜変速され、ミッションケース18から左右外向きに突出した駆動出力軸77を介して左右の駆動輪90に出力するように構成されている。
ミッションケース18は、前述した油圧無段変速機50と、複数の変速段を有する副変速機構51と、左右一対の遊星ギヤ機構68等を有する差動機構52とを備えている(図4参照)。油圧無段変速機50は、第1油圧ポンプ55及び第1油圧モータ56からなる直進用HST機構53(直進用油圧変速機構)と、第2油圧ポンプ57及び第2油圧モータ58からなる旋回用HST機構54(旋回用油圧変速機構)とにより構成されている。
エンジン17の出力軸49から刈取クラッチ89を介して油圧無段変速機50に向かう動力は、第1油圧ポンプ55及び第2油圧ポンプ57を貫通する共通ポンプ軸59に伝達される。直進用HST機構53では、共通ポンプ軸59に伝達された動力にて、第1油圧ポンプ55から第1油圧モータ56に向けて作動油が適宜送り込まれる。同様に、旋回用HST機構54では、共通ポンプ軸59に伝達された動力にて、第2油圧ポンプ57から第2油圧モータ58に向けて作動油が適宜送り込まれる。
なお、詳細は図示していないが、共通ポンプ軸59には、油圧ポンプ55,57及び油圧モータ56,58に作動油を供給するためのチャージポンプが取り付けられている。チャージポンプは、共通ポンプ軸59と連動可能で且つエンジン17の動力にて駆動するように構成されている。
直進用HST機構53においては、操縦部9に配置された主変速レバー13や操向ハンドル10の操作量に応じて、第1油圧ポンプ55における回転斜板の傾斜角度を変更調節して、第1油圧モータ56への作動油の吐出方向及び吐出量を変更することにより、第1油圧モータ56から突出した直進用モータ軸60の回転方向及び回転数を任意に調節するように構成されている。
直進用モータ軸60の回転動力は、直進伝達ギヤ機構62から従来周知の歯車機構からなる副変速機構51に伝達される一方、前述の直進伝達ギヤ機構62及びワンウェイクラッチ63を介して、ミッションケース18に突設された刈取PTO軸64にも伝達される。刈取PTO軸64に伝達された動力は、刈取前処理装置3の骨組を構成する横長の刈取入力パイプ42(図1参照)内にある刈取入力軸43を介して、刈取前処理装置3の各装置19〜21に伝達される。このため、刈取前処理装置3の各装置19〜21は、車速同調速度で駆動することになる。
副変速機構51は、操縦部9に配置された副変速レバー14の操作にて、直進用モータ軸60からの回転動力(回転方向及び回転数)の調節範囲を低速及び高速という2段階の変速段に切り換えるためのものである。なお、副変速の低速と高速との間には、中立(副変速の出力が0(零)になる位置)を有している。副変速機構51の構成要素である駐車ブレーキ軸65には、湿式多板ディスク等の駐車ブレーキ66が設けられている。
副変速機構51からの回転動力は、駐車ブレーキ軸65に固着された副変速出力ギヤ67から差動機構52に伝達される。差動機構52は、左右対称状に配置された一対の遊星ギヤ機構68と、遊星ギヤ機構68と駐車ブレーキ軸65との間に位置した中継軸69とを備えている。駐車ブレーキ軸65の副変速出力ギヤ67は、中継軸69に取り付けられた中間ギヤ70に噛み合っており、中間ギヤ70は、サンギヤ軸75に固定されたセンタギヤ76(詳細は後述する)に噛み合っている。
各遊星ギヤ機構68は、1つのサンギヤ71と、サンギヤ71の外周に噛み合う複数個の遊星ギヤ72と、これら遊星ギヤ72の外周に噛み合うリングギヤ73と、複数個の遊星ギヤ72を同一半径上に回転可能に軸支してなるキャリヤ74とを備えている。両遊星ギヤ機構68のキャリヤ74は、同一軸線上において適宜間隔を開けて相対向するように配置されている。両遊星ギヤ機構68の間に位置したサンギヤ軸75の中央部には、中間ギヤ70と噛み合うセンタギヤ76が固着されている。サンギヤ軸75のうちセンタギヤ76を挟んだ両側にはサンギヤ71がそれぞれ固着されている。
内周面の内歯と外周面の外歯とを有する各リングギヤ73は、その内歯を複数個の遊星ギヤ72に噛み合わせた状態で、サンギヤ軸75に同心状に配置されている。各リングギヤ73は、キャリヤ74の外側面から左右外向きに突出した駆動出力軸77に回転可能に軸支されている。駆動出力軸77の先端部には駆動輪90が取り付けられている。従って、副変速機構51から左右の遊星ギヤ機構68に伝達された回転動力は、各キャリヤ74の駆動出力軸77ひいては左右の駆動輪90に同方向の同一回転数にて伝達され、左右の走行クローラ2を駆動させることになる。
旋回用HST機構54においては、操向ハンドル10の回動操作量に応じて、第2油圧ポンプ57における回転斜板の傾斜角度を変更調節して、第2油圧モータ58への作動油の吐出方向及び吐出量を変更することにより、第2油圧モータ58から突出した旋回用モータ軸61の回転方向及び回転数を任意に調節するように構成されている。
実施形態では、ミッションケース18内に、操向ブレーキ79を有する操向ブレーキ軸78と、操向クラッチ81を有する操向クラッチ軸80と、逆転ギヤ84を介して左リングギヤ73に連結する左入力ギヤ機構82と、右リングギヤ73の外歯に常時噛み合う右入力ギヤ機構83とを備えている。旋回用モータ軸61の回転動力は、旋回伝達ギヤ機構85から、操向ブレーキ軸78及び操向クラッチ81を介して操向クラッチ軸80に伝達される。操向クラッチ軸80には左右一対の伝動ギヤ86,87が固着されており、操向クラッチ軸80に伝達された回転動力は、左右の伝動ギヤ86,87から、これに対応する左右の入力ギヤ機構82,83に伝達される。
副変速機構51を中立にして、操向ブレーキ79を入り状態とし且つ操向クラッチ64を切り状態とした場合は、第2油圧モータ58から左右の遊星ギヤ機構68への動力伝達が阻止される。中立以外の副変速出力時に、操向ブレーキ79を切り状態とし且つ操向クラッチ64を入り状態とした場合は、第2油圧モータ58の回転動力が、左入力ギヤ機構82及び逆転ギヤ84を介して左リングギヤ73に伝達される一方、右入力ギヤ機構83を介して右リングギヤ73に伝達される。その結果、第2油圧モータ58の正回転(逆回転)時は、互いに逆方向の同一回転数で左リングギヤ73が逆転(正転)し、右リングギヤ73が正転(逆転)することになる。
以上の構成から分かるように、各モータ軸60,61からの変速出力は、副変速機構51及び差動機構52を経由して左右の走行クローラ2の駆動輪90に伝達される。その結果、走行機体1の車速(走行速度)及び進行方向が決まる。
すなわち、第2油圧モータ58を停止させて左右リングギヤ73を静止固定させた状態で、第1油圧モータ56が駆動すると、直進用モータ軸60からの回転出力はセンタギヤ76から左右のサンギヤ71に同一回転数で伝達され、両遊星ギヤ機構68の遊星ギヤ72及びキャリヤ74を介して、左右の走行クローラ2が同方向の同一回転数にて駆動し、走行機体1が直進走行することになる。
逆に、第1油圧モータ56を停止させて左右サンギヤ71を静止固定させた状態で、第2油圧モータ58が駆動すると、旋回用モータ軸61からの回転動力にて、左遊星ギヤ機構68が正又は逆回転し、右遊星ギヤ機構68は逆又は正回転する。そうすると、左右の走行クローラ2の駆動輪90のうち一方が前進回転、他方が後退回転するため、走行機体1はその場でスピンターンすることになる。
また、第1油圧モータ56を駆動させつつ第2油圧モータ58を駆動させると、左右の走行クローラ2の速度に差が生じ、走行機体1は前進又は後退しながらスピンターン旋回半径より大きい旋回半径で左又は右に旋回することになる。このときの旋回半径は左右の走行クローラ2の速度差に応じて決定される。
さて、図3に示すように、エンジン17からの動力のうち脱穀装置5に向かう分岐動力は、脱穀クラッチ91を介して脱穀入力軸92に伝達される。脱穀入力軸92に伝達された動力の一部は、脱穀駆動機構93を介して、送塵口処理胴26の回転軸94と、扱胴23の回転軸95及び排稈チェン37とに伝達される。
また、脱穀入力軸92からは、プーリ及びベルト伝動系を介して、風選別機構25の唐箕ファン軸96、一番コンベヤ29と揚穀コンベヤ32、二番コンベヤ30と還元コンベヤ34と二番処理胴35、揺動選別機構24の揺動軸97、排塵ファン36の排塵軸98、並びに排稈カッタ38にも動力伝達される。排塵軸98を経由した分岐動力は、FCクラッチ99及びフィードチェン軸100を介してフィードチェン6に伝達される。
なお、脱穀入力軸92からの動力は、流し込みクラッチ101を介して刈取入力軸43にも伝達可能である。すなわち、ミッションケース18を経由せずに直接、エンジン17からの動力を刈取前処理装置3に伝達することにより、車速の速い遅いに拘らず、刈取前処理装置3を一定の高速にて強制駆動させ得る構成になっている。
エンジン17から排出オーガ8に向かう動力は、グレン入力ギヤ機構102及び動力継断用のオーガクラッチ103を介して、グレンタンク7内の底コンベヤ104及び排出オーガ8における縦オーガ筒内の縦コンベヤ105に動力伝達され、次いで、受継スクリュー106を介して、排出オーガ8における横オーガ筒内の排出コンベヤ107に動力伝達される。
(3).変速操向制御のための構成
次に、主として図5〜図8を参照しながら、走行機体1の車速及び進行方向を調節する変速操向制御のための構成について説明する。
図5及び図6に示すように、操縦部9に立設されたフロントマスク110のうち操縦座席11側には、略箱型のステアリングコラム111が取り付けられている。ステアリングコラム111の上方には、操向ハンドル10が水平回動可能に配置されている。実施形態では、ステアリングコラム111の上面から上向き突出した筒状ケース112に、長棒状のハンドル軸113が回動可能に軸支されている。ハンドル軸113の両端部は筒状ケース112から更に上下に突き出ており、ハンドル軸113の上端部に、操向ハンドル10のハンドルホイル114が取り付けられている。なお、筒状ケース112の周囲は、可撓性及び伸縮性を有する軟質ゴム製等のブーツ体115にて覆われている。
ステアリングコラム111内に突出したハンドル軸113の下部と、ステアリングコラム111の内面との間には、操向ハンドル10を中立位置(機体直進時の位置)に戻すための左右一対の復帰バネ116(図5及び図6には左復帰バネのみ示す)が装架されている。このため、ハンドルホイル114から手を離せば、操向ハンドル10は復帰バネ116の作用にて中立位置まで自動的に復帰する。なお、実施形態の操向ハンドル10は、中立位置を挟んで左右に約135°ずつの角度まで回動操作可能に構成されている。
ハンドル軸113の下端部には、操向ハンドル10の回動操作角度(操作量)を検出する旋回検出手段としての操向位置センサ117が設けられている。操向位置センサ117は、後述する車速制御手段としてのコントローラ170に電気的に接続されており、その検出情報はコントローラ170に適宜入力される。操向位置センサ117としては、例えばロータリエンコーダ又はロータリポテンショメータ等を採用すれば足りる。
実施形態では、ステアリングコラム111の前面に、フロントマスク110に固着された支持ブラケット118を左右から挟持する平面視コ字状のチルトブラケット119が固着されており、当該チルトブラケット119が横向きのチルト軸120を介して支持ブラケット118に回動可能に軸支されている。このため、操向ハンドル10は、ステアリングコラム111と共にチルト軸120回りにチルト回動可能になっている。
支持ブラケット118とチルトブラケット119とには、頭部付きのチルトボルト121が貫通しており、チルトボルト121の先端部には、操作レバー123付きのチルトナット122がねじ込み被嵌されている。チルトブラケット119には、チルト軸120を曲率中心とするガイド溝穴124が形成されている。チルトボルト121の軸部はガイド溝穴124を貫通している。
操向ハンドル10のチルト位置調節作業の手順としては、操作レバー123の回動操作にてチルトナット122を緩めた状態でステアリングコラム111をチルト軸120回りに回動させ、チルトボルト121をチルトブラケット119のガイド溝穴124に沿って相対的に移動させる。操向ハンドル10を所定のチルト位置に移動させたら、操作レバー123の回動操作にてチルトナット122を締め付け、チルトナット122とチルトボルト121の頭部とで支持ブラケット118及びチルトブラケット119を挟圧する。その結果、操向ハンドル10が回動不能に保持されることになる。
一方、図5及び図7に示すように、操縦部9のサイドコラム12を支持するコラムフレーム125は、前後4本の支柱126〜129と、これら支柱126〜129の上端部間に跨がって取り付けられた横梁部材130とを備えている。主変速レバー13は、第2支柱127に固着された取り付け板127aに、横向きのレバー軸131にて前後回動可能に枢着されている。
主変速レバー13の軸部はサイドコラム12の上面に形成された案内溝132(図2及び図5参照)を貫通している。このため、主変速レバー13はサイドコラム12の案内溝132に沿って前後に回動操作可能となっている。主変速レバー13の回動範囲は案内溝132によって規制される。主変速レバー13のレバー軸131には、板状の主変速用アーム操作板133が、主変速レバー13と共にレバー軸131回りに一体回動するように設けられている。主変速用アーム操作板133の先端部には、後述する主変速位置センサ135の感知アーム136に当接する作動ピン134が取り付けられている。
第2支柱127の前方にある第1支柱126に固着された取り付け板126aには、横軸回りに回動可能な感知アーム136を有する直進検出手段としての主変速位置センサ135が取り付けられている。主変速位置センサ135は、主変速用アーム操作板133の作動ピン134との当接による感知アーム136の回動角度から、主変速レバー13の前後回動操作位置(操作量)を検出するというものである。主変速位置センサ135は、後述するコントローラ170に電気的に接続されており、その検出情報はコントローラ170に適宜入力される。
第2支柱127の後方にある第3支柱128に固着された取り付け板128aには、副変速レバー14が横向きの回動支軸141にて前後回動可能に枢着されている。副変速レバー14の軸部は、サイドコラム12の上面のうち案内溝132の側方に形成されたガイド溝142(図2参照)を貫通している。このため、副変速レバー14はサイドコラム12のガイド溝142に沿って前後に回動操作可能となっている。そして、副変速レバー14と主変速レバー13とは、互いに干渉しないように平面視で左右方向に並んでいる(図2参照)。副変速レバー14の回動範囲はガイド溝142によって規制される。
副変速レバー14の回動支軸141には、板状の副変速用アーム操作板143が、副変速レバー14と共に回動支軸141回りに一体回動するように設けられている。副変速用アーム操作板143の先端部には、後述する副変速位置センサ145の感知アーム146に当接する作動ピン144が取り付けられている。
第3支柱128の後方にある第4支柱129に固着された取り付け板129aには、横軸回りに回動可能な感知アーム146を有する副変速検出手段としての副変速位置センサ145が取り付けられている。副変速位置センサ145は、副変速用アーム操作板143の作動ピン144との当接による感知アーム146の回動角度から、副変速レバー14の前後回動操作位置(操作量)を検出するというものである。副変速位置センサ145も、後述するコントローラ170に電気的に接続されており、その検出情報はコントローラ170に適宜入力される。
サイドコラム12の上面前部には、変速操向制御において各モードに対応した変速出力パターン(詳細は後述する)を選択するためのモード切換手段としてのモード切換スイッチ148が配置されている。実施形態のモード切換スイッチ148は、スイッチを一度押下すると押下された位置でロックされ、もう一度押下すると元の位置に復帰する単動式のプッシュスイッチである。
実施形態では、変速操向制御の各モードとして、圃場面が乾いた乾田や路上の走行に適した乾田モードと、圃場面が軟弱な湿田の走行に適した湿田モードとの2種類が設定されている。モード切換スイッチ148を一度押下すると、湿田モードに対応した変速出力パターン(図9参照)が選択され、当該湿田用の変速出力パターンに基づいた変速操向制御が実行される。モード切換スイッチ148を押下せずに非押下位置に保持するか、押下位置にロックされたモード切換スイッチ148をもう一度押下すると、乾田モードに対応した変速出力パターン(図8参照)が選択され、当該乾田用の変速出力パターンに基づいた変速操向制御が実行される(変速操向制御の詳細は後述する)。モード切換スイッチ148は、後述するコントローラ170に電気的に接続されており、その検出情報はコントローラ170に適宜入力される。
さて、図5に示すように、直進用HST機構53には、共通ポンプ軸59及び直進用モータ軸60以外に、直進制御軸150が突設されている。直進制御軸150は、第1油圧ポンプ55における回転斜板の傾斜角度を変更調節するためのものであり、直進用モータ軸60の回転方向及び回転数、すなわち、直進用HST機構53の変速出力を調節する調節部として機能している。
直進制御軸150は、アクチュエータとしての直進電動モータ151と動力伝達用の直進ギヤ機構152とにより正逆回転可能に構成されている。この場合、直進制御軸150に固着された車速制御アーム153に、従動側ギヤとしてのセクタギヤ155が中継リンク154を介して連動連結されている。直進電動モータ151のモータ出力軸には、駆動側ギヤとしてのピニオンギヤ156が固着されている。両ギヤ155,156の噛み合いによって、直進電動モータ151の回転駆動力が直進制御軸150に伝達可能になっている。両ギヤ155,156の組合せが前述の直進ギヤ機構152に相当する。直進電動モータ151は、直進モータ駆動回路157を介して、後述するコントローラ170に電気的に接続されている。
直進電動モータ151の駆動にて直進制御軸150を正逆回転させ、第1油圧ポンプ55における回転斜板の傾斜角度を変更調節することにより、第1油圧モータ56の回転数制御及び正逆転切り換えが実行され、その結果、走行機体1の車速の無段階変更並びに前後進の切り換えが行われる。
直進制御軸150(又は直進電動モータ151のモータ出力軸でもよい)には、ロータリエンコーダ等の直進用回動角センサ158が取り付けられている。直進用回動角センサ158により、直線制御軸150(又は直進電動モータ151のモータ出力軸)の回動角度、ひいては直進用HST機構53の変速出力量が検出される。直進用回動角センサ157は後述するコントローラ170に電気的に接続されており、その検出情報はコントローラ170に適宜入力される。
他方、旋回用HST機構54には、第2油圧ポンプ57における回転斜板の傾斜角度を調節するための旋回制御軸160が突設されている。旋回制御軸160は、旋回用モータ軸61の回転方向及び回転数、すなわち、旋回用HST機構54の変速出力を調節する調節部として機能するものであり、アクチュエータとしての旋回電動モータ161と動力伝達用の旋回ギヤ機構162とにより正逆回転可能に構成されている。
図5から分かるように、旋回制御軸160と旋回電動モータ161との連結構造は、直進制御軸150と直進電動モータ151との連結構造と基本的に同じである。この場合、旋回制御軸160の操向制御アーム163に中継リンク164を介して連動連結されたセクタギヤ165と、旋回電動モータ161のモータ出力軸に固着されたピニオンギヤ166とを動力伝達可能に噛み合わせている。両ギヤ165,166の組合せは前述の旋回ギヤ機構162に相当する。旋回電動モータ161は、旋回モータ駆動回路167を介して、後述するコントローラ170に電気的に接続されている。
旋回電動モータ161の駆動にて旋回制御軸160を正逆回転させ、第2油圧ポンプ57における回転斜板の傾斜角度を変更調節することにより、第2油圧モータ58の回転数制御及び正逆転切り換えが実行され、その結果、走行機体1の旋回角度(旋回半径)の無段階変更並びに左右旋回方向の切り換えが行われる。
ここで、主変速レバー13を中立位置以外の位置に傾動操作した状態(前進又は後進操作した状態)では、操向ハンドル10の回動操作方向が同じであっても、旋回電動モータ161が、旋回用HST機構54の旋回制御軸160を前進時と後進時とで逆向きに回動させるように設定されている。このため、走行機体1が前後進のいずれの状態であっても、操向ハンドル10の回動操作方向と走行機体1の旋回方向とが一致する(操向ハンドル10を左に回せば走行機体1は左旋回し、操向ハンドル10を右に回せば走行機体1は右旋回する)ことになり、不慣れなオペレータでも、四輪自動車と同じような操作感覚で困難なくコンバインの操向操作を実行できる。
旋回制御軸160(又は旋回電動モータ161のモータ出力軸でもよい)には、ロータリエンコーダ等の旋回用回動角センサ168が取り付けられている。旋回用回動角センサ168により、旋回制御軸160(又は旋回電動モータ161のモータ出力軸)の回動角度、ひいては旋回用HST機構54の変速出力量が検出される。旋回用回動角センサ168も後述するコントローラ170に電気的に接続されており、その検出情報はコントローラ170に適宜入力される。
(4).コントローラの構成
次に、図5を参照しながら、車速制御手段としてのコントローラ170の構成について説明する。
走行機体1に搭載された車速制御手段としてのコントローラ170は、操向位置センサ117、主変速位置センサ135及び副変速位置センサ145の検出情報と、後述する変速出力パターン(図8及び図9参照)に基づき、直進電動モータ151及び旋回電動モータ161を作動させて走行機体1の車速及び進行方向を調節するという変速操向制御を実行するものである。コントローラ170は、各種演算処理や制御を実行するCPU171のほか、制御プログラムやデータを記憶させる記憶手段としてのPROM172、制御プログラムやデータを一時的に記憶させるためのRAM173、及び、センサやアクチュエータ等とデータのやり取りをするための入出力インターフェイス等を備えている。
コントローラ170の入力インターフェイスには、前述した旋回検出手段としての操向位置センサ117、直進検出手段としての主変速位置センサ135、副変速検出手段としての副変速位置センサ145、モード切換手段としてのモード切換スイッチ148、直進用回動角センサ158、及び旋回用回動角センサ168のほか、左右の駆動出力軸77の回転速度から走行機体1の車速を検出する車速検出手段としての車速センサ175、走行機体1の横滑りを検出する横滑り検出手段としてのジャイロセンサ176等が接続されている。ジャイロセンサ176は、走行機体1が水平回動したとき(横滑りしたとき)の角速度から横滑りの向きや大きさを検出するものである。
他方、コントローラ170の出力インターフェイスには、前述の通り、直進電動モータ151を駆動させるための直進モータ駆動回路157や、旋回電動モータ161を駆動させるための旋回モータ駆動回路167等が接続されている。
コントローラ170のPROM172には、主変速レバー13及び操向ハンドル10の操作量と左右の走行クローラ2の速度との関係を示す変速出力パターン(図8及び図9参照)が例えばマップ形式又は関数表形式にて予め記憶されている。なお、主変速レバー13及び操向ハンドル10の操作量と左右の走行クローラ2の速度との対のデータを、テーブルマップとしてPROM172に記憶させるようにしてもよい。
図8及び図9には、PROM172に記憶された変速出力パターンの一部を抜粋しグラフ化して示している。図8(a)が乾田モードにおける前進時の変速出力パターン、図8(b)が乾田モードにおける後進時の変速出力パターン、図9(a)が湿田モードにおける前進時の変速出力パターン、図9(b)が湿田モードにおける後進時の変速出力パターンである。
これら変速出力パターンの例は、主変速レバー13を所定量だけ傾動操作(前進又は後進操作)した場合に該当する。各変速出力パターンのグラフでは、操向ハンドル10における左右の回動操作角度(操作量)を横軸に採り、走行クローラ2の速度を縦軸に採っている。各変速出力パターンのグラフにおいて、実線で示した出力線L1,L3,L1′,L3′,L5,L7,L5′,L7′は、旋回外側の走行クローラ2の速度と、操向ハンドル10における左右の回動操作角度との関係を表し、二点鎖線で示した出力線L2,L4,L2′,L4′,L6,L8,L6′,L8′は、旋回内側の走行クローラ2の速度と、操向ハンドル10における左右の回動操作角度との関係を表している。
また、太い方の出力線L1,L2,L1′,L2′,L5,L6,L5′,L6′は、副変速レバー14を高速側に操作した場合の関係を表し、細い方の出力線L3,L4,L3′,L4′,L7,L8,L7′,L8′は、副変速レバー14を低速側に操作した場合の関係を表している。なお、同じ太さの出力線(例えばL1とL2)の間に位置する破線は、旋回内外(左右)の走行クローラ2の速度の平均値であり、そのときの走行機体1の車速を示している。
各モードにおける前進時の変速出力パターンと後進時の変速出力パターンとは、横軸を挟んで線対称な関係に設定されている。そこで、以下は、各モードにおける前進時の変速出力パターン(図8(a)及び図9(a)参照)を代表として説明する。
乾田モードにおける前進時の変速出力パターン(図8(a))において、旋回外側の走行クローラ2に関連した実線の出力線L1,L3はほぼ水平に近い緩やかな上向き凸の湾曲線になっている。旋回内側の走行クローラ2に関連した二点鎖線の出力線L2,L4は、操向ハンドル10における左右の回動操作角度が大きくなるほど右下がりに傾斜し、左右の回動操作角度が100°に近い辺りで横軸を突き抜けた湾曲線になっている。
このため、乾田モードを選択して主変速レバー13を前進操作した状態では、操向ハンドル10における左右の回動操作角度が大きいほど、左右の走行クローラ2の速度に差が生じて、小さな旋回半径で走行機体1が左右に旋回(ブレーキターン)すると共に、走行機体1の車速(旋回速度)が減速することになる。操向ハンドル10における左右の回動操作角度を限界近くまで大きくすると、左右の走行クローラ2のうち旋回外側のものが前進回転し、旋回内側のものが後退回転して、走行機体1はその場でスピンターンすることになる。なお、乾田モードを選択して主変速レバー13を前進操作した状態で、操向ハンドル10を操作していなければ(中立位置にあれば)、左右の走行クローラ2が同方向の同一回転数にて駆動し、走行機体1が直進走行するのは言うまでもない。
湿田モードにおける前進時の変速出力パターン(図9(a))において、旋回外側の走行クローラ2に関連した実線の出力線L5,L7は、操向ハンドル10における左右の回動操作角度が大きくなるほど右上がりに傾斜した湾曲線になっている。旋回内側の走行クローラ2に関連した二点鎖線の出力線L6,L8は、操向ハンドル10における左右の回動操作角度が大きくなるほど右下がりに傾斜した湾曲線になっている。そして、実線の出力線L5,L7と二点鎖線の出力線L6,L8とは、その間に位置する破線を挟んで線対称な関係に設定されている。
すなわち、湿田モードにおける前進時の変速出力パターン(図9(a))では、操向ハンドル10における左右の回動操作角度が大きくなるほど、旋回外側の走行クローラ2の増速量と旋回内側の走行クローラ2の減速量とがほぼ等しい状態で、左右の走行クローラ2の速度差が大きくなるように設定されている。このため、湿田モードを選択して主変速レバー13を前進操作した状態では、操向ハンドル10における左右の回動操作角度の大小に拘らず、走行機体1の車速(旋回速度)が主変速レバー13の操作量に比例した速度に保持されることになる。
また、二点鎖線の出力線L6,L8はいずれも、横軸を突き抜けずに横軸より上側で延びた湾曲線になっている。このため、湿田モードを選択した状態では、操向ハンドル10における左右の回動操作角度を限界近くまで大きくしても、左右の走行クローラ2が互いに逆転せず、走行機体1がスピンターンすることはない。
(5).作用及び効果
以上の構成において、モード切換スイッチ148を操作すると、その操作状態に合わせて、コントローラ170は、PROM172から図8又は図9に示す変速出力パターンを選び出す。そして、コントローラ170は、操向位置センサ117、主変速位置センサ135及び副変速位置センサ145の検出情報と、先程選び出された変速出力パターンとから、操向ハンドル10、主変速レバー13及び副変速レバー14の操作状態に適合した左右の走行クローラ2の速度を演算し、実際における左右の走行クローラ2の速度が前記演算結果と一致するように、直進電動モータ151及び旋回電動モータ161を駆動させる。
例えば、主変速レバー13を前進操作した状態で操向ハンドル10を左(又は右)回動操作した場合、コントローラ170は、操向ハンドル10における左右の回動操作角度に比例して旋回制御軸160が図5の矢印L方向(又は矢印R方向)に回動するように、旋回電動モータ161を駆動させる。その結果、左(又は右)走行クローラ2が前進減速方向に駆動する一方、右(又は左)走行クローラ2が前進増速方向に駆動し、走行機体1を左(又は右)方向に旋回させてその走行進路を修正する。
このとき、乾田用の変速出力パターンを選択していれば、コントローラ170は、操向ハンドル10における左右の回動操作角度に比例して直進制御軸150が図5の矢印B方向に回動するように、直進電動モータ151をも駆動させ、そのときの旋回半径に対応して走行機体1の前進方向の車速を減速させる。
逆に、主変速レバー13を後進操作した状態で操向ハンドル10を左(又は右)回動操作した場合、コントローラ170は、操向ハンドル10における左右の回動操作角度に比例して旋回制御軸160が図5の矢印R方向(又は矢印L方向)に回動するように、旋回電動モータ161を駆動させる。その結果、左(又は右)走行クローラ2が後進減速方向に駆動する一方、右(又は左)走行クローラ2が後進増速方向に駆動し、左(又は右)方向に走行機体1を旋回させてその走行進路を修正する。
このとき、乾田用の変速出力パターンを選択していれば、コントローラ170は、操向ハンドル10における左右の回動操作角度に比例して直進制御軸150が図5の矢印F方向に回動するように、直進電動モータ151を駆動させ、そのときの旋回半径に対応して走行機体1の後進方向の車速を減速させる。
主変速レバー13を前進(又は後進)操作した状態で操向ハンドル10が中立位置にある場合、コントローラ170は、乾田用又は湿田用の変速出力パターンに基づき、主変速レバー13の操作量に比例して直進制御軸150が図5の矢印F方向(又は矢印B方向)に回動するように、直進電動モータ151のみを駆動させる。その結果、左右の走行クローラ2が同方向の同一回転数にて駆動し、走行機体1は主変速レバー13の操作量に比例した前進(又は後進)動作を実行する。
主変速レバー13が中立位置である場合、コントローラ170は、乾田用又は湿田用の変速出力パターンに基づき、直進制御軸150及び旋回制御軸160が中立位置に復帰するように、直進電動モータ151及び旋回電動モータ161を駆動させる。その結果、第1及び第2油圧ポンプ55,57の回転斜板が両方とも中立状態となり、油圧無段変速機50、すなわち、直進用及び旋回用HST機構53,54の両方が駆動停止する。
以上の態様から明らかなように、コントローラ170は、操向位置センサ117、主変速位置センサ135及び副変速位置センサ145の検出情報と、PROM172に予め記憶された変速出力パターン(図8及び図9参照)に基づき、直進電動モータ151及び旋回電動モータ161を作動させて走行機体1の車速及び進行方向を調節するという変速操向制御を実行するから、操向ハンドル10、主変速レバー13及び副変速レバー14の操作状態に即応して、過不足のない変速出力を左右の走行クローラ2に伝達できる。このため、走行機体1の走行性能の向上に寄与できる。
特に実施形態の構成では、直進電動モータ151が直進用HST機構53の調節部である直進制御軸150を操作すると共に、旋回電動モータ161が旋回用HST機構54の調節部である旋回制御軸160を操作するので、直進用及び旋回用HST機構53,54のいずれにおいても、前記特許文献1のようなクラッチやブレーキの滑りによる動力損失が発生することはなく、油圧ポンプ55,57と油圧モータ56,58における通常の油圧動力伝達損失が生ずるだけである。このため、損失馬力(エネルギーロス)を大幅に少なくできるのである。
また、例えば走行機体1の旋回時に、乗り心地向上のためにオペレータ等に作用する遠心力を抑えたい場合は、モード切換スイッチ148を押下せずに非押下位置に保持するか、押下位置にロックされたモード切換スイッチ148をもう一度押下すればよい。
そうすれば、乾田用の変速出力パターン(図8参照)に基づいた変速操向制御が実行され、主変速レバー13を前進(又は後進)操作した状態では、操向ハンドル10における左右の回動操作角度が大きいほど小さな旋回半径で走行機体1が左右に旋回(ブレーキターン)し、且つ旋回半径が小さいほど走行機体1の車速(旋回速度)が減速することになる。すなわち、鈍感な旋回フィーリングが得られる。
乾田又は路上での旋回を機敏にしたり、湿田での旋回性能を向上させたりしたい場合は、モード切換スイッチ148を一度押下して押下位置にロックすればよい。そうすれば、湿田用の変速出力パターン(図9参照)に基づいた変速操向制御が実行され、主変速レバー13を前進(又は後進)操作した状態では、操向ハンドル10における左右の回動操作角度の大小に拘らず、主変速レバー13の操作量に比例した車速(旋回速度)が維持されることになる。すなわち、機敏な旋回フィーリングが得られる。
つまり、実施形態の構成によると、乾田又は路上走行時の変速出力パターンと、湿田走行時の変速出力パターンとを異ならせた設定にできると共に、モード切換スイッチ148の操作にて変速出力パターンの切換が簡単にできるから、オペレータは圃場状況等に見合った適切な走行特性(旋回特性)を手軽に選定できる。
(6).横滑り制御について
さて、実施形態のコントローラ170は、前述した変速操向制御の実行中に、操向ハンドル10の回動操作角度(操作量)と走行機体1の車速とから、すなわち、操向位置センサ117と車速センサ175との検出情報に基づいて、走行機体1の目標旋回角度に対応した目標角速度ω0を適宜演算するように設定されている。この場合、コントローラ170のPROM172に、操向ハンドル10の回動操作角度と走行機体1の車速とから目標角速度ω0を求めるためのテーブルマップ等が予め記憶されている。
そして、コントローラ170は、ジャイロセンサ176の検出角速度ωが目標角速度ω0と一致しておらず、走行機体1が横滑りしていると判断したときに、ジャイロセンサ176の検出角速度ωが目標角速度ω0と一致する(横滑りを打ち消す)ように左右の走行クローラ2の速度を変更調節すべく、図8及び図9に示した変速出力パターンを補正するという制御を実行する。
図8(a)に示す乾田モードの変速出力パターンを選択した状態で、副変速レバー14を高速側に操作した場合(太い実線の出力線L1,L2参照)を例にすると、目標角速度ω0が検出角速度ωより大きい場合において(ω0>ω、図10(a)参照)、コントローラ170は、走行機体1が操向ハンドル10の回動操作角度よりも小回りするような横滑りをしていると判断する。そして、コントローラ170は、走行機体1の車速を変更することなく左右の走行クローラ2の速度差が大きくなるように、図8(a)に示す乾田モードの変速出力パターンを、太い実線の出力線L1,L2がその間の破線から遠ざかる上下方向に平行移動したグラフとなるように補正する(矢印A1方向参照)。
他方、目標角速度ω0が検出角速度ωより小さい場合において(ω0<ω、図10(b)参照)、コントローラ170は、走行機体1が操向ハンドル10の回動操作角度よりも大回りするような横滑りをしていると判断する。そして、コントローラ170は、走行機体1の車速を変更することなく左右の走行クローラ2の速度差が小さくなるように、図8(a)に示す乾田モードの変速出力パターンを、太い実線の出力線L1,L2がその間の破線に近付く上下方向に平行移動したグラフとなるように補正する(矢印A2方向参照)。
かかる横滑り制御を実行すると、前述した補正により、変速出力パターンを横滑りの状態に適応したものに変更できるから、操向ハンドル10や主変速レバー13の操作状態を維持したままであっても、ジャイロセンサ176の検出角速度ωと目標角速度ω0と一致させて横滑りを打ち消すように、左右の走行クローラ2の速度を変更調節できることになる。このため、走行機体1が横滑りした際に、オペレータが操向ハンドル10や主変速レバー13を操作したりしなくても、横滑り状態を簡単に解消して、左右の走行クローラ2の接地力を復帰させることができる。従って、走行機体1の挙動が安定化するのである。
本願発明は、前述の実施形態に限らず、様々な態様に具体化できる。例えば本願発明は、前述のようなコンバインに限らず、トラクタ、田植機等の農作業機やクレーン車等の特殊作業車両のような各種車両に広く適用できる。その他、各部の構成は図示の実施形態に限定されるものではなく、本願発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更が可能である。