JP4886326B2 - 耐食性および表面性状に優れた樹脂塗装金属板 - Google Patents

耐食性および表面性状に優れた樹脂塗装金属板 Download PDF

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本発明は、耐食性および表面性状に優れた樹脂塗装金属板に関し、詳細には、所定の樹脂とポリフェノール含有マイクロカプセルとを含む樹脂組成物から得られる樹脂皮膜を備えた樹脂塗装金属板に関するものである。本発明の樹脂塗装金属板は、耐食性および表面性状に優れているので、例えば、家庭用電気製品や建材、自動車部品などの分野に好適に用いられる。
家電製品や自動車などの部品には、耐食性などの向上を目的として、亜鉛系メッキ鋼板の上にクロメート処理やりん酸塩処理などの化成処理が施された樹脂塗装金属板が多く用いられてきた。しかしながら、有害なクロムによる環境汚染の問題を回避するため、最近では、クロメート処理に代替可能な防錆剤を用いたクロムフリーの表面処理技術が提案されている。
例えば、特許文献1〜2には、防錆剤として、タンニン酸などのポリフェノール化合物を用いた樹脂塗装金属板が提案されている。
しかしながら、耐食性に対する要求は益々高くなり、更なる改善が求められている。
また、ポリフェノール化合物は酸化しやすいため、樹脂皮膜中にポリフェノール化合物を含有する樹脂塗装金属板を、恒温恒湿下などに長時間放置すると表面が変色し、黄色いシミ状のムラが発生するといった問題もある。
一方、特許文献3〜5には、防錆剤を芯物質(コア)として内包するマイクロカプセルが記載されているが、ポリフェノール化合物については、何も記載されていない。
特開2000−45079号公報 特開2001−89868号公報 特開昭56−113382号公報 特開昭61−272391号公報 特開2003−286196号公報
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、防錆成分としてポリフェノール化合物を含み、耐食性に優れると共に、恒温恒湿下で長時間保存しても変色やムラの発生しない表面性状に優れた樹脂塗装金属板を提供することにある。
上記課題を解決することのできた本発明に係る耐食性および表面性状に優れた樹脂塗装金属板は、樹脂組成物から得られる樹脂皮膜を金属板の少なくとも片面に備えた樹脂塗装金属板であって、数平均分子量が1000〜100,000である水溶性の酸性樹脂と、平均粒径5μm以下の多孔質微粒子にポリフェノール化合物が内包されたマイクロカプセルとを含有することに要旨を有している。
好ましい実施形態において、前記水溶性の酸性樹脂と前記マイクロカプセルとの比率は、樹脂組成物の固形分100質量部に対し、60〜95質量部:5〜40質量部の範囲内である。
好ましい実施形態において、前記水溶性の酸性樹脂は、pH6以下であり、例えば、アクリル系樹脂などが挙げられる。
好ましい実施形態において、前記マイクロカプセルに含まれる前記ポリフェノール化合物は、タンニン酸、没食子酸、およびカテキンよりなる群から選択される少なくとも一種である。
好ましい実施形態において、前記多孔質微粒子は無機微粒子である。
好ましい実施形態において、前記樹脂組成物は、酸性コロイダルシリカを更に含み、前記酸性コロイダルシリカは、前記水溶性の酸性樹脂と前記マイクロカプセルからなる樹脂組成物の固形分100質量部に対し、5〜40質量部の範囲内で含まれている。
好ましい実施形態において、前記樹脂組成物は、Crや、表面のエッチングに用いられる酸性物質(例えば、りん酸、硝酸、フッ素化合物など)を含有していない。
上記課題を解決することのできた本発明の樹脂塗装金属板は、上記のいずれかに記載の樹脂組成物から得られる樹脂皮膜を金属板の少なくとも片面に備えている。
好ましい実施形態において、前記樹脂皮膜の付着量は、乾燥重量で0.3〜3g/m2である。
好ましい実施形態において、前記樹脂皮膜は、Crを実質的に含まない。
本発明の樹脂塗装金属板は、所定の樹脂とマイクロカプセル化されたポリフェノールとを含む樹脂組成物から得られるため、耐食性に優れていると共に、恒温恒湿下で長時間保存しても黄色いシミ状むらなどが発生せず、表面性状に優れている。
本発明によれば、クロムを用いなくても、クロムと同等またはそれ以上の耐食性を長期間にわたって持続的に発揮し得る金属板が得られる。また、表面のエッチング剤として通常用いられているりん酸などを使用しなくても、表面性状に極めて優れた金属板が得られる。更に、本発明の金属板は、塗装性(必要に応じて樹脂皮膜の上に施される皮膜との密着性)や耐テープ剥離性(樹脂皮膜と金属板との密着性)にも優れている。
また、酸性コロイダルシリカを更に含む樹脂組成物を用いれば、耐食性、塗装性、耐テープ剥離性が一層高められた樹脂塗装金属板が得られる。
本発明者は、表面の着色を防止しつつ、ポリフェノール化合物による耐食性を最大限に発揮させることが可能な樹脂塗装金属板用の組成物を提供するため、特に、マイクロカプセル技術に着目して多くの実験を重ねてきた。その結果、ポリフェノール化合物を充填したマイクロカプセルと、所定の酸性樹脂とを含む樹脂塗装金属板を用いれば、所期の目的が達成されることを見出し、本発明を完成した。
この点について、もう少し詳しく説明する。
ポリフェノール化合物は酸化しやすいため、従来の樹脂塗装金属板(すなわち、ポリフェノールフェノール化合物はマイクロカプセル化されていない)を恒温恒湿下で長期間保存すると、表面が黄変するなどの問題があった。また、保存環境によっては、ポリフェノール化合物を含む表面処理液がゲル化して塗装が困難になるなどの問題もあった。
そこで、本発明者は、耐食性の更なる向上および表面性状の改善を目指して、これまで提案されていなかったポリフェノール化合物のマイクロカプセル化を試みた。しかしながら、公知のマイクロカプセル化技術を転用してポリフェノール充填マイクロカプセルを作製しただけでは所望の特性は得られず、マイクロカプセル含有処理液の調製中にゲル化が生じたり、樹脂皮膜の長期間保存によって表面が変色するなどの問題が生じることが、本発明者の実験結果によって明らかになった。
このような事情に鑑み、本発明者は、更に検討を重ねた。その結果、ポリフェノール化合物による耐食性作用を有効かつ持続的に発揮させつつ、しかも、ポリフェノール化合物の酸化を防止して過酷な環境下で長期間保存しても安定な(表面が変色しない)樹脂塗装金属板を得るためには、ポリフェノール化合物をマイクロカプセル化するだけでは不充分であり、所定の酸性樹脂を用いることが極めて重要であることを見出し、本発明に到達した。
本発明の樹脂塗装金属板は、ポリフェノール化合物がカプセル壁(ここでは、多孔質微粒子)に内包されているため、ポリフェノールをマイクロカプセル化しない場合に比べ、耐食性が一層高められている。更に、本発明では所定の樹脂を用いているため、樹脂組成物(処理液)の調製時および樹脂皮膜の作製時は勿論のこと、処理液を長期間保存してもゲル化を生じない。従って、本発明によれば、良好な耐食性が長期間にわたって持続的に発揮されると共に、表面性状(耐変色性)にも優れた樹脂塗装金属板が得られる(後記する実施例を参照)。
図1を参照しながら、ポリフェノール化合物のマイクロカプセル化による黄変防止作用を説明する。
図1には、タンニン酸含有マイクロカプセル(図中、□)またはマイクロカプセル化されていないタンニン酸(図中、■)を皮膜中に含有する金属板を、温度50℃、相対湿度98%の恒温恒湿下で保存したときの色調(b値)の変化を経時的に調べた結果を示している。皮膜中のタンニン酸含有量は、いずれも、1.03g/mである。参考のため、クロメート処理鋼板の結果(図中、×)も併記している。
ここで、b値が大きい(+)ほど黄色の度合が増し、小さい(−)ほど青色の度合が増す。b値が0以下であれば、肉眼観察した場合、黄色味は目立たない。
図1に示すように、タンニン酸をマイクロカプセル化しない従来の金属板(図中、■)の場合、試験後5日を過ぎるとb値が急激に上昇し、7日目では、b値が約1.3と、黄色味が強くなった。
これに対し、タンニン酸をマイクロカプセル化した本発明の金属板(図中、□)では、恒温恒湿下で7日間保存しても、b値は殆ど変化せず、クロメート処理鋼板(図中、×)と同様、黄変は観察されなかった。
なお、色調の変化は、一般に、下式で算出されるΔE(色差)で評価されるが、ここでは、タンニン酸に起因する黄変の程度を、ΔEでなくb値で評価した。その理由は、タンニン酸の場合、ΔEの変化は、主に、b値の変化に起因するためである。
ΔE=(Δa+Δb+ΔL1/2
L値は明度の指標、a値は赤の指標、b値は黄色の指標となるパラメータで
ある。
なお、図1には、タンニン酸の結果を示したが、他のポリフェノール化合物を用いた場合にも同様の結果が得られることを実験によって確認している。
(樹脂組成物)
まず、本発明を特徴付ける樹脂組成物について説明する。本発明の樹脂組成物は、数平均分子量が1000〜100,000である水溶性の酸性樹脂と、平均粒径5μm以下の多孔質微粒子にポリフェノール化合物が内包されたマイクロカプセルとを含有している。
(本発明に用いられる樹脂)
本明細書において、「酸性樹脂」とは、pHが約6以下(好ましくは、pH1〜3)の樹脂を意味する。後記する実施例に示すように、樹脂のpHが上記範囲を超えると、樹脂組成物を含む処理液(以下、単に処理液と呼ぶ場合がある。)の安定性が低下し、長期間の保存によってゲル化する。pHは小さいほど好ましい。
本発明に用いられる水溶性の酸性樹脂としては、例えば、ポリアクリル酸、ポリマレイン酸などのアクリル系樹脂、酢酸ビニル、ウレタン系樹脂などが挙げられる。これらの樹脂は、ホモポリマーだけでなく、共重合可能な他のモノマーを共重合させたコポリマー(共重合体)を含んでいてもよい。耐アルカリ性や耐食性などを考慮すると、アクリル系樹脂が好ましい。アクリル系樹脂としては、(メタ)アクリル酸(塩)、(メタ)アクリルエステルのほか、これらと共重合可能なモノマー成分(例えば、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸などの不飽和ジカルボン酸類;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、メチルクロトネート、エチルクロトネート、プロピルクロトネートなどの、不飽和モノカルボン酸類と、炭素原子数1〜30のアルコールとのエステル類など)との共重合体などが挙げられる。
上記の樹脂は、親水性の官能基(親水基)を有していても良く、これにより、水溶性が一層高められる。親水基としては、アニオン性基、カチオン性基のいずれもが用いられ、例えば、カルボキシル基、スルホン酸基、硫酸エステル基、りん酸エステル基、ヒドロキシル基などのアニオン性基、アンモニウム塩基(例えば、第四級アンモニウム塩基など)、アミノ基、イミノ基などのカチオン性基などが挙げられる。
また、本発明に用いられる上記酸性樹脂の数平均分子量(Mn)は、1000〜100,000の範囲内である。数分子量が100,000を超えると、樹脂の流動性が劣化するため、経時的にゲル化しやすくなる(後記する実施例を参照)。一方、数分子量が1000未満の場合、樹脂皮膜の形成能(造膜能)が不充分であり、耐アルカリ性に劣るため、アルカリ脱脂によって皮膜の剥離などが生じる。酸性樹脂の数平均分子量は、3000以上70000以下であることが好ましく、20000以上50000以下であることがより好ましい。
樹脂の数平均分子量は、ゲル透過クロマトグラフィー(GPC)法を用い、ポリスチレン換算により求められる。
このような要件をすべて満足する樹脂としては、後記する実施例に示すように、市販品を用いることもできる。具体的には、後記する表1に示すA〜Hのアクリル系樹脂のほか、日本純薬(株)「ジュリマー5H−8」のアクリル系樹脂(pH2.5〜3.5、Mn3万〜5万)、(株)日本触媒「ポリメントNK−100PM」(pH4〜5,5、Mn1万〜3万)のアクリル系樹脂などが挙げられる。
(マイクロカプセル)
図2に、本発明に用いられるマイクロカプセルの一例を模式的に示す。
図2に示すように、防錆成分であるポリフェノール化合物3は、多孔質微粒子2に内包(充填)されたマイクロカプセル1の形態で存在している。ポリフェノール化合物3はマイクロカプセル1の芯物質として、多孔質微粒子2はマイクロカプセル壁として、それぞれ、位置付けられる。
ポリフェノール化合物3は、防錆剤として通常用いられるものであれば特に限定されず、例えば、タンニン酸、没食子酸、カテキンなどが代表的に例示される。これらは単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。耐食性などを考慮すると、タンニン酸を少なくとも含んでいることが好ましい。
多孔質微粒子2は、マイクロカプセル1の作製に通常用いられる無機化合物または有機化合物を用いて作製される(作製方法は、後述する)。具体的には、無機化合物として、シリカ、酸化チタン、酸化鉄、酸化コバルト、酸化亜鉛、酸化ニッケル、酸化マンガン、アルミナなどの金属酸化物、水酸化鉄、水酸化ニッケル、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化クロムなどの金属水酸化物、炭酸カルシウム、炭酸バリウムなどの炭酸塩、ケイ酸カルシウム、ケイ酸バリウム、ケイ酸マグネシウムなどのケイ酸塩、リン酸カルシウム、リン酸バリウム、リン酸マグネシウム、リン酸ジルコニウム、アパタイトなどのリン酸塩などが挙げられる。有機化合物として、完全ケン化ポリビニルアルコール、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、ポリエチレン、尿素樹脂、メラミン樹脂、ポリアミド、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂などの各種重合体(樹脂)やそれらの共重合体、更にはそれらの各種変性物が挙げられる。耐溶剤性などを考慮すると、無機化合物が好ましく、シリカが最も好ましい。
多孔質微粒子2の平均粒径は、おおむね、5μm以下であることが好ましい。平均粒径が上記の範囲を超えると、多孔質微粒子を前述した酸性樹脂の皮膜で被覆することが困難であり、耐食性および耐テープ剥離性が劣化することを実験により確認している。樹脂皮膜の好ましい付着量(乾燥重量で0.3〜3g/m2の範囲内である。詳細は後述する。)との関係を考慮すると、多孔質微粒子2の平均粒径は小さい程良く、例えば、1.5μm以下であることがより好ましい。なお、多孔質微粒子の平均粒径の下限は、耐食性などの特性との関係からは特に限定されないが、多孔質微粒子の製造しやすさを考慮すると、おおむね、0.5μmであることが好ましい。
多孔質微粒子の平均粒径は、例えば、走査型電子顕微鏡(倍率5000倍)を用い、視野中に観察される多孔質微粒子の平均値を算出することによって求められる。あるいは、島津製作所製「SA−P3」を用い、遠心沈降法によって算出することもできる。
このような多孔質微粒子は、例えば、界面重合法または界面反応法を用いて作製することができる。具体的には、例えば、特開平6−234650号公報、特開平7−173452号公報に記載の界面反応法を採用することができる。
上記の多孔質微粒子は、市販品を用いてもよい。具体的には、例えば、非中空タイプの無機多孔質シリカ微粒子(鈴木油脂工業(株)製「ゴッドボールE−2C」平均粒径1.0μm)、中空タイプの無機多孔質シリカ微粒子(鈴木油脂工業(株)製「ゴッドボールE−6C」平均粒径2.2μm)、多孔質シリカ微粒子(エネックス株式会社製「SE MCB−FP/2」、平均粒径3.2μm、比表面積242m/g)などを用いることができる。
本発明に用いられる水溶性の酸性樹脂とマイクロカプセルとの比率は、樹脂組成物100質量部60〜95質量部:5〜40質量部であることが好ましく、70〜90質量部:10〜30質量部であることがより好ましく、75〜85質量部:15〜25質量%であることが更に好ましい。上記の比率を下回る(マイクロカプセルの含有量が少ない)と、樹脂皮膜中にマイクロカプセルを均一に分散させることができず、ポリフェノール化合物による耐食性作用が有効に発揮されない。一方、上記の比率を超える(マイクロカプセルの含有量が多い)と、樹脂皮膜の造膜性が低下し、耐食性および耐テープ剥離性が著しく劣化するほか、塗装性も低下する。
本発明の樹脂組成物は、基本的に、上記の多孔質微粒子と所定の酸性樹脂とからなり、Crを含有していない。このような樹脂組成物は、後記する実施例に示すように、耐食性、耐変色性、塗装性、および耐テープ剥離性のすべてに優れているため、クロムを用いなくても、クロムと同等またはそれ以上の耐食性に優れた樹脂皮膜が得られるからである。
また、本発明の樹脂組成物は、エッチング剤を含有していない。金属板の表面は、酸化皮膜で覆われていることが多いため、通常、りん酸、硝酸、フッ素化合物(HFなど)などの酸性物質(エッチング剤)を用いて酸化皮膜の表面を粗面化し、当該酸化皮膜と樹脂皮膜との密着性を高めている。これに対し、本発明の樹脂組成物は、酸化皮膜との密着性に優れているため、エッチング剤の使用は不要である(後記する実施例を参照)。勿論、酸化皮膜を含む金属板との密着性を更に高める目的で、エッチング剤を含有してもよい。
(他の成分)
本発明の樹脂組成物は、耐食性などの特性を更に高める目的で、酸性コロイダルシリカを含有しても良い。これにより、樹脂皮膜の強度が高められるほか、腐食環境下では樹脂皮膜の疵部にシリカが濃化し、金属の腐食が抑制されて耐食性が一層高められる。
コロイダルシリカは酸性であることが必要である。酸性以外のコロイダルシリカを使用すると、処理液の調製時にゲル化してしまう。また、粉砕シリカや気相法シリカを用いると、コロイダルシリカと異なって不活性のため、腐食環境下で疵部などへのシリカの濃化が見られず、耐食性改善作用が得られない。
酸性コロイダルシリカは、市販品を用いてもよく、例えば、日産化学工業(株)製の「スノーテックスST−O」(pH2〜4、粒子径10〜20nm)、「スノーテックスST−OL」(pH2〜4、粒子径40〜50nm)、「スノーテックスST−OUP」(pH2〜4、粒子径40〜100μm、鎖状態)などが挙げられる。
酸性コロイダルシリカは、前述した水溶性の酸性樹脂とマイクロカプセルからなる樹脂組成物の固形分100質量部に対し、5〜40質量部の範囲内で含まれていることが好ましい(後記する実施例を参照)。酸性コロイダルシリカの含有量が5質量部未満になると、耐食性向上作用が有効に発揮されず、一方、40質量部を超えると、皮膜にクラックが発生し、耐食性、塗装性、耐テープ剥離性が低下する。酸性コロイダルシリカの含有量は、上記樹脂組成物の固形分100質量部に対し、5〜30質量部であることがより好ましく、10〜20質量部であることが更に好ましい。
本発明の樹脂組成物は、更に、樹脂皮膜に通常添加される成分(例えば、界面活性剤、導電性を付与するための導電性添加剤、増粘剤、消泡剤、分散剤、乾燥剤、安定剤、皮張り防止剤、防黴剤、防腐剤、凍結防止剤など)を含有してもよい。これらは、本発明の作用を損なわない範囲で含まれる。
前述した「他の成分」の存在形態(マイクロカプセル化するか、しないか)は、所望の特性が有効に発揮される限り、特に限定されない。従って、前述した成分を多孔質微粒子に内包させても良いし、内包させなくても良い。
(マイクロカプセルの作製方法)
多孔質微粒子にポリフェノールを内包し、マイクロカプセルを作製する方法は特に限定されず、例えば、下記(1)〜(3)の方法を適宜選択して作製することができる。これらの詳細な方法は、例えば、三共出版株式会社発行の「マイクロカプセル−その製法・性質・応用−」などに記載されている。
(1)化学的製法:a)界面重合法、b)in situ重合法、
(2)物理化学的製法:a)コアセルベーション法、b)液中乾燥法、
(3)機械的・物理的製法:a)オリフィス法、b)スプレードライニング法、
c)気中懸濁被覆法、d)ハイブリダンザー法など。
具体的には、例えば、以下のようにしてマイクロカプセルを作製することができる。
まず、前述した方法によって得た多孔質微粒子と、ポリフェノール化合物の水溶液とを用意する。
水溶液中のポリフェノール化合物の濃度は、おおむね、約50%〜100%の範囲内であることが好ましい。これにより、ポリフェノール化合物による耐食性が有効に発揮される。溶媒としては、水のほか、水と親水性溶剤(例えば、アルコール、ケトン、エステル、グリコールなど)との混合液、水に水溶性高分子(例えば、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ゼラチン、アラビアゴムなど)を溶解させた溶液、水に界面活性剤(アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤)を添加した溶液、或いは、これらを混合した溶液などが用いられる。
次に、ポリフェノール化合物の水溶液中に多孔質微粒子を浸漬して撹拌し、多孔質微粒子内にポリフェノール化合物を含浸させる。ここでは、ポリフェノール化合物の充填を容易にするため、水溶液の温度は、おおむね、20〜40℃であることが好ましい。具体的には、例えば、上記の温度で約1〜3時間浸漬することが好ましい。
次いで、上記溶液をろ過し、得られた残渣を、例えば、真空乾燥器などを用いて乾燥して水分を蒸発させる。乾燥条件は、例えば、40〜80℃の温度で約1〜3時間とすることが好ましい。その結果、多孔質微粒子内にポリフェノール化合物を内包したマイクロカプセルが得られる。
上記のほか、例えば、前述した特開平6−234650号公報に記載の方法(圧力差を利用する方法)を採用することもできる。具体的には、上記公報の図1に記載の真空チャンバーに多孔質微粒子を入れて減圧を行なった後、これに、常圧状態でポリフェノール化合物の水溶液を入れると、真空チャンバー内に導入されたポリフェノール化合物は、圧力差により、多孔質微粒子内に浸透する。次いで、真空チャンバー内を大気圧に戻した後、ろ過すると、所望のマイクロカプセルが得られる。
なお、多孔質微粒子内に、ポリフェノール化合物のほかに酸化コロイダルシリカなどの他の成分も内包させたい場合は、上記と同様の方法を採用すれば良い。
(本発明の樹脂塗装金属板)
図3に、本発明の樹脂塗装金属板の一例を示す。図3に示すように、本発明の樹脂塗装金属板7は、前述した樹脂組成物から得られる樹脂皮膜6を金属板5の片面に備えている。樹脂皮膜6には、マイクロカプセル1が分散されている。なお、図3には、樹脂皮膜6が金属板5の片面に備えた例を示しているが、これに限定されず、金属板5の両面に設けられていてもよい。また、樹脂皮膜6の上には、他の皮膜が更に設けられていてもよい。
樹脂皮膜6に含まれるポリフェノール化合物の含有量は、多孔質微粒子の細孔容積などとの関係で変化し得、一義的に決定され難い。ここでは、多孔質微粒子の全細孔容積を0.3〜1.7mL/g、ポリフェノールの比重を1とし、樹脂組成物中に含まれるマイクロカプセルの含有量(本発明では、約5〜40質量部)と樹脂皮膜の付着量(本発明では、約0.3〜3g/m)とに基づき、ポリフェノール化合物の好ましい含有量(算出値)を0.005g/m以上2.0g/m以下とした。多孔質微粒子の全細孔容積は、主に、粒子の平均粒径との関係で相違するが、本発明に用いられる多孔質微粒子(平均粒径5μm以下)の場合、おおむね、上記範囲の値をとり得るからである。
例えば、後記する実施例2の表3では、樹脂皮膜の付着量(乾燥重量)を1g/m、多孔質微粒子の全細孔容積を1.03mL/g、ポリフェノールの比重を1として、樹脂皮膜中に含まれるポリフェノール化合物の含有量を算出した。本発明では、樹脂組成物中に含まれるマイクロカプセルの含有量は5〜40質量部であることが好ましく、これに対応する樹脂皮膜中の好ましいポリフェノール含有量は、上記の算出方法に基づけば、0.052〜0.412g/mの範囲内である。表3に示すように、ポリフェノール化合物の含有量が上限を超えると、耐食性、塗装性、耐テープ剥離性のすべてが低下し、下限を下回ると耐食性が低下する。
樹脂皮膜6の付着量は、乾燥重量で0.3〜3g/m2の範囲内であることが好ましい。表面処理皮膜の付着量が上記範囲を下回ると、多孔質微粒子を覆うことができず、耐食性が低下することを、実験により確認している。一方、付着量の上限は、耐食性などとの関係では特に制限されないが、作業性などを考慮すると、おおむね、3g/m2とすることが好ましい。例えば、ロールコーターやスプレーリンガーなどの塗布方式を用いて樹脂皮膜を作製する場合、溶剤系とは異なり、水系組成物は粘度が低いため、塗布が困難となって現実的でないからである。樹脂皮膜の付着量は、乾燥重量で0.5〜1.5g/m2の範囲内であることが好ましい。
上記の樹脂皮膜は、Crを実質的に含有していない。「実質的に含有していない」とは、例えば、樹脂皮膜の作製過程で、金属板中に不可避不純物として含まれ得るCrが皮膜中に侵入する程度の量は許容し得るという意味である。
本発明に用いられる金属板の種類は、特に限定されず、鋼板または非鉄金属板の金属板、これらに単一金属または各種合金のめっきを施しためっき金属板などが含まれる。具体的には、例えば、熱延鋼板、冷延鋼板、ステンレス鋼板などの鋼板;溶融亜鉛めっき鋼板、合金化溶融亜鉛めっき鋼板、電気亜鉛めっき鋼板、電気Zn−Ni合金めっき鋼板などのめっき鋼板;アルミニウム、チタン、亜鉛などの非鉄金属板またはこれらにめっきが施されためっき非鉄金属板などが挙げられる。更に、上記の金属板に表面処理が施された表面処理金属板も含まれる。表面処理としては、例えば、リン酸塩処理、クロメート処理、酸洗処理、アルカリ処理、電解還元処理、シランカップリング処理、無機シリケート処理などが挙げられる。
本発明の樹脂塗装金属板は、前述した樹脂皮膜の上に、他の皮膜を更に有していてもよい。他の皮膜としては、有機樹脂皮膜、有機・無機複合皮膜、無機系皮膜、電着塗装膜等の皮膜が挙げられ、用途に応じて適宜選択するとよい。これらの皮膜形成によって、さらに耐食性が向上し、耐指紋性や塗装性等の皮膜特性も付与することができる。
ここで、有機樹脂皮膜としては、例えば、ウレタン系樹脂、エポキシ樹脂、アクリル系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−アクリル酸共重合体等のオレフィン系樹脂、ポリスチレン等のスチレン系樹脂、ポリエステルあるいはこれらの共重合物や変成物等、塗料用として公知の樹脂に、必要に応じてコロイダルシリカや固体潤滑剤、架橋剤等を組み合わせて形成される皮膜などが挙げられる。
また、有機・無機複合皮膜としては、上記有機樹脂と、ケイ酸ナトリウム等の水ガラス形成成分とを組み合わせて形成される皮膜が代表的に挙げられる。
上記の無機系皮膜としては、水ガラス皮膜や、リチウムシリケートから形成される皮膜が代表的に挙げられる。
(樹脂塗装金属板の作製方法)
次に、本発明の樹脂組成物を用いて樹脂塗装金属板を作製する方法について説明する。
上記の樹脂組成物を金属板上に被覆する方法は、特に限定されず、公知の方法を適宜選択することができる。例えば、樹脂組成物を水系溶媒に溶解・分散させることによって調合した水系塗布剤(皮膜処理液)を、ロールコート法、スプレーコート法、ナイフコーター法、バーコート法、浸漬コート法、刷毛塗り法などを用いて金属板の表面に塗布すればよい。その後、加熱、乾燥すると、所望とする樹脂皮膜を備えた樹脂塗装金属板が得られる。
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらは何れも本発明の技術的範囲に含まれる。
〔試験方法〕
下記実施例で用いた試験方法は下記の通りである。
(1)平板耐食性
JIS Z2371に基づいて塩水噴霧試験を実施し、白錆が5%発生するまでの時間を測定した。ここでは、平板耐食性の評価は、使用する金属板の種類(電気亜鉛めっき鋼板、またはそれ以外の金属板)および樹脂皮膜の組成(酸性コロイダルシリカの添加の有無)によって、下記(a)〜(c)の異なる基準で行なった。電気亜鉛めっき鋼板の耐食性は、溶融Znめっき鋼板に代表される他の金属板に比べ、耐食性が低下する傾向にあることを考慮したためである(後記する実施例4を参照)。
(a)電気亜鉛めっき鋼板以外の金属板を使用し、樹脂皮膜中に酸性コロイダルシリ
カを含有しない場合(実施例1〜3)、96時間以上を合格とする。
(b)電気亜鉛めっき鋼板以外の金属板を使用し、樹脂皮膜中に酸性コロイダルシリ
カを含有する場合(実施例4)、168時間以上を合格とする。
(c)電気亜鉛めっき鋼板を使用する場合(実施例5)、72時間以上を合格と
する。
(2)クロスカットの耐食性
疵部の耐食性を調べるため、供試材にカッターナイフでクロスカットを入れ、JIS Z2371に基づいて塩水噴霧試験を実施し、白錆が10%発生するまでの時間を測定した。クロスカットの耐食性の評価は、前述した(2)の平板耐食性と同様、使用する金属板の種類および樹脂皮膜の組成に応じて、下記(d)〜(f)の異なる基準でを行なった。
(d)電気亜鉛めっき鋼板以外の金属板を使用し、樹脂皮膜中に酸性コロイダルシ
リカを含有しない場合(実施例1〜3)、72時間以上を合格とする。
(e)電気亜鉛めっき鋼板以外の金属板を使用し、樹脂皮膜中に酸性コロイダルシリ
カを含有する場合(実施例4)、96時間以上を合格とする。
(f)電気亜鉛めっき鋼板を使用する場合(実施例5)、48時間以上を合格と
する。
(3)塗装性(塗膜密着性)
供試材にアクリル系塗料(関西ペイント社製「マジクロン1000」)をバーコート塗装した(塗膜厚20μm)後、160℃の温度で20分間焼き付け、後塗装を行った。次に、この供試材を沸騰水に1時間浸漬した後、取り出して1時間放置し、カッターナイフで1mm升目の碁盤目を100升刻んだ。この供試材にテープを貼り付けた後、テープ剥離試験を実施し、塗膜の残存升目数の比率(塗膜残存率)に基づいて下記基準で塗装性を評価した。ここでは、評価基準が◎または○のものを合格(本発明例)とした。
◎:塗膜残存率100%
○:99%未満〜90%以上
△:89%未満〜80%以上
×:79%未満〜70%以上
××:70%未満
(4)耐テープ剥離性
供試材の表面にフィラメントテープ(スリオンティック社製#9510)を貼り付け、40℃×RH98%の雰囲気下で168時間保管した後、フィラメントテープを剥がし、皮膜の残存している面積の割合(残存率)を測定した。ここでは、下記基準に基づいて耐テープ剥離性を評価し、◎または○のものを合格(本発明例)とした。
◎:残存率100%
○:残存率90%以上100%未満
△:残存率80%以上90%未満
×:残存率80未満
(5)耐変色性
供試材を恒温恒湿試験機に入れ、温度50℃、相対湿度98%の雰囲気下で186時間放置し、試験前後の色調(色差ΔE)を色差計(日本電色(株)製SZS−Σ90)を用いて測定した。ΔEが小さいほど色調が変化し難い、すなわち、耐変色性に優れていることを意味する。例えば、ΔEが2以上になると、供試材の色調変化が肉眼でも容易に観察される。ここでは、下記基準に基づいて耐変色性を評価し、◎または○のものを合格(本発明例)とした。
◎:ΔE=1未満 (極めて良好)
○:ΔE=1以上2未満(良好)
△:ΔE=2以上3未満(悪い)
×:ΔE=3以上 (極めて悪い)
(6)樹脂皮膜中に含まれるポリフェノール化合物の量の測定
ここでは、以下に詳述するように、樹脂皮膜中の全有機炭素量(TOC)からポリフェノール化合物の含有量を間接的に算出した。
まず、供試材の面積(片面のみに樹脂皮膜が形成されているときは片面の面積、両面に樹脂皮膜が形成されているときは両面の面積)を予め測定する。
次に、この供試材を0.1molのアルカリ性溶液(水酸化ナトリウム)中に、20〜25℃の温度で20〜24時間浸漬し、ポリフェノール化合物を溶出させた。溶出液中の全有機炭素量(TOC)を、島津製作所製の燃焼酸化・赤外線色TOC分析計(POC500A型)を用いて分析し、下式(1)に基づき、樹脂皮膜中のポリフェノール化合物の量(W1)を求めた。例えば、タンニン酸(C1410,MW=322)の場合、式(1)中、M1=322、M2=168である。
W1(g/m)=W2(g/m)×(M1/M2)・・・(1)
式中、
M1=ポリフェノール化合物の分子量、
M2=ポリフェノール化合物中の炭素の全分子量、
W2(g/m
=TOC(mg/L)×溶出液量(L)/(1000×供試材の面積(m))
を意味する。
なお、供試材の面積は、片面のみに樹脂皮膜が形成されているときは片面の面積、
両面に樹脂皮膜が形成されているときは両面の面積を意味する。
この方法によれば、おおむね、測定誤差±2mg/Lの精度でTOCの量を定量することができる。
実施例1(樹脂の検討)
ここでは、ポリフェノール化合物としてタンニン酸を用い、表1に示す種々の樹脂(A〜L)を用いて耐食性などに及ぼす影響を調べた。
(マイクロカプセルの作製)
多孔質微粒子として、非中空タイプの無機多孔質シリカ微粒子(鈴木油脂工業(株)製「ゴッドボールE−2C」、平均粒径1.0μm)を用い、以下のようにして、タンニン酸内包シリカ微粒子のマイクロカプセルを作製した。
50℃に加温した飽和タンニン酸水溶液中に上記のシリカ微粒子を加え、約50%のシリカ微粒子含有溶液を調製し、これを1時間撹拌した。撹拌後、ろ過し、得られた残渣を真空乾燥機を用いて50℃で2時間乾燥し、マイクロカプセルを得た。
(処理液の作製)
表1に示す各樹脂とタンニン酸内包多孔質微粒子(マイクロカプセル)とを、90質量部:10質量部の比率で添加し、ホモジナイザーで撹拌し、分散させることにより、各樹脂組成物を得た。この樹脂組成物を純水で希釈し、タンニン酸の固形分濃度約15%の皮膜処理液とした。
(供試材の作製)
溶融亜鉛めっき鋼板(Zn付着量45g/m2)の表面に上記の処理液をバーコート法(#3)で塗布し、板温90℃で1分間乾燥することにより、付着量1g/m2の樹脂皮膜を備えた樹脂塗装金属板(表2の供試材1〜12)を得た。樹脂皮膜中のタンニン酸の量は、0.103g/m2である。この量は、多孔質微粒子の全細孔容積を1.03mL/g、ポリフェノールの比重を1として算出した値である。
比較のため、樹脂皮膜中にポリフェノール化合物(ポリフェノール化合物はマイクロカプセル化されていない。)を含有する従来の樹脂塗装金属板(表2の供試材13〜21)を作製し、種々の特性を調べた。具体的には、表1に示す各樹脂の固形分100質量部に対し、1質量部のタンニン酸を添加した処理液を調製し、上記と同様にして樹脂塗装金属板を作製した(樹脂皮膜の付着量1g/m2)。樹脂皮膜中のタンニン酸の量は、約0.1g/m2である。
これらの供試材について、前述した種々の特性を調べた。
更に、本実施例では、皮膜処理液の安定性を調べるため、上記のようにして調製した処理液を室温で12時間保存したときの状態を肉眼で観察した。
これらの結果を表2に示す。参考のため、表2に、使用した樹脂(A〜L)の分子量およびpHを併記している。
Figure 0004886326
Figure 0004886326
No.1〜8は、本発明の範囲を満足する樹脂A〜Hを用いて作製した本発明例であり、表2に示すように、平板耐食性、クロスカット耐食性、塗装性、耐テープ剥離性、および耐変色性のすべてに優れている。
これに対し、分子量が非常に大きい樹脂I、Jを用いたNo.9、10の比較例では、処理液の調製後12時間で、ゲル化が生じた。
また、アルカリ性樹脂K、Lを用いたNo.11、12の比較例では、処理液の調製中(樹脂とマイクロカプセルとを添加し、撹拌中)にゲル化した。
一方、タンニン酸をマイクロカプセル化していないNo.13〜18の従来例では、耐食性が低下し、耐変色性も著しく低下した。なお、処理液を上記の条件下で保存したところ、ゲル化は生じなかったが、分子量1万の樹脂Hを用いたNo.15、18、21では、処理液の粘度が上昇した。粘度の上昇は、樹脂皮膜の作製が困難になることを意味する。
なお、本実施例では、タンニン酸を用いて実験を行なったが、他のポリフェノール化合物についても、同様の結果が得られることを実験により確認している(表には示さず)。
実施例2(樹脂組成物の組成比の検討)
ここでは、種々のポリフェノール化合物を用い、樹脂組成物中の樹脂とマイクロカプセル(ポリフェノール化合物内包多孔質微粒子)との含有比率が耐食性などの特性に及ぼす影響を調べた。
前述した表1の樹脂Cと、表3に示すa〜bのポリフェノール化合物とを用い、樹脂組成物中の樹脂とマイクロカプセルとの含有比率を表3に示すように変化させたこと以外は、前述した実施例1と同様にして、マイクロカプセルを得た。
次いで、実施例1と同様にして樹脂塗装金属板を作製し、種々の特性を評価した。これらの結果を表3に併記する。
Figure 0004886326
ポリフェノール化合物としてタンニン酸(表3のa)を用いたNo.1〜8、10、及び12に着目して検討する。樹脂とマイクロカプセルとの含有比率が本発明の範囲を満足するNo.1〜8の本発明例を用いた場合は、すべての特性が高められた。これに対し、マイクロカプセルの添加量が多く、樹脂皮膜中のタンニン酸含有量が多くなる(No.10)と、平板耐食性およびクロスカット耐食性の両方が低下した。更に、塗装性が若干低下し、耐テープ剥離性も低下した。一方、マイクロカプセルの添加量が少なく、樹脂皮膜中のタンニン酸含有量が少なくなる(No.12)と、平板耐食性およびクロスカット耐食性の両方が低下した。
上記の実験結果は、他のポリフェノール化合物を用いたときも同様に見られた。すなわち、樹脂とマイクロカプセルとの含有比率が本発明の要件を満足するNo.9(カテキン)では、すべての特性に優れた樹脂塗装金属板が得られたが、マイクロカプセルの添加量が多い(樹脂の添加量が少ない)No.11では、耐食性、塗装性、耐テープ剥離性が低下した。
なお、表3には、没食子酸を用いたときの結果は示していないが、没食子酸を用いたときも、前述したタンニン酸やカテキンと同様の傾向が認められることを、実験により確認している。
実施例3(酸性コロイダルシリカの影響)
ここでは、酸性コロイダルシリカが耐食性などに及ぼす影響を調べた。
前述した実施例1の表2の供試材3において、処理液中に、表4に示す種々の酸性コロイダルシリカ(X〜Z)を表4に示す比率(樹脂組成物100質量部に対する比率)で添加した。
次に、実施例1と同様にして樹脂塗装金属板を作製し、種々の特性を評価した。これらの結果を表4に併記する。
Figure 0004886326
No.1〜10は、酸性コロイダルシリカの添加量が本発明の好ましい範囲を満足する例であり、表4に示すように、平板耐食性が一層高められたほか、塗装性/耐テープ剥離性の向上効果も認められた。
これに対し、No.11は、酸性コロイダルシリカの添加量が少ない例であり、上記特性の改善作用が認められなかった。
No.12は、酸性コロイダルシリカの添加量が多い例であり、平板耐食性、クロスカット耐食性、塗装性、および耐テープ剥離性が低下した。
実施例4(金属板の影響)
ここでは、金属板として電気亜鉛めっき鋼板を用い、種々の特性を調べた。
具体的には、前述した実施例2の表3のNo.1〜9において、溶融Znめっき鋼板の代わりに電気亜鉛めっき鋼板(Zn付着量20g/m2)を用いたこと以外は、実施例2と同様にして、表5のNo.1〜9の樹脂塗装金属板を作製し、これらの特性を評価した。これらの結果を表5に併記する。
Figure 0004886326
一般に、電気亜鉛めっき鋼板は、溶融亜鉛めっき鋼板に比べ、耐食性は低下する傾向にある。しかしながら、本発明の樹脂組成物を用いれば、表5に示すように、電気亜鉛めっき鋼板を用いた場合でも、溶融亜鉛めっき鋼板を用いたときと同様、優れた特性が得られることが確認された。
なお、表5には、没食子酸を用いたときの結果は示していないが、没食子酸を用いたときも、前述したタンニン酸やカテキンと同様の傾向が認められることを、実験により確認している。
恒温恒湿下で金属板を保存したときの色調(b値)の経時的変化を示すグラフである。 本発明に用いられるマイクロカプセルの一例を示す概略断面図である。 本発明の樹脂塗装金属板の一例を示す概略断面図である。
符号の説明
1 マイクロカプセル
2 多孔質微粒子(マイクロカプセル壁)
3 ポリフェノール(芯物質)
4 水溶性の酸性樹脂
5 金属板
6 樹脂皮膜
7 樹脂塗装金属板

Claims (11)

  1. 樹脂組成物から得られる樹脂皮膜を金属板の少なくとも片面に備えた樹脂塗装金属板であって、
    前記樹脂組成物は、数平均分子量が1000〜100,000である水溶性の酸性樹脂と、平均粒径5μm以下の多孔質微粒子にポリフェノール化合物が内包されたマイクロカプセルと、を含有することを特徴とする耐食性および表面性状に優れた樹脂塗装金属板。
  2. 前記水溶性の酸性樹脂と前記マイクロカプセルとの比率は、樹脂組成物の固形分100質量部に対し、60〜95質量部:5〜40質量部の範囲内である請求項1に記載の樹脂塗装金属板。
  3. 前記水溶性の酸性樹脂は、pH6以下である請求項1または2に記載の樹脂塗装金属板。
  4. 前記水溶性の酸性樹脂は、アクリル系樹脂である請求項3に記載の樹脂塗装金属板。
  5. 前記マイクロカプセルに含まれる前記ポリフェノール化合物は、タンニン酸、没食子酸、およびカテキンよりなる群から選択される少なくとも一種である請求項1〜4のいずれかに記載の樹脂塗装金属板。
  6. 前記多孔質微粒子は無機微粒子である請求項1〜5のいずれかに記載の樹脂塗装金属板。
  7. 酸性コロイダルシリカを更に含み、前記酸性コロイダルシリカは、前記水溶性の酸性樹脂と前記マイクロカプセルからなる樹脂組成物の固形分100質量部に対し、5〜40質量部の範囲内で含まれている請求項1〜6のいずれかに記載の樹脂塗装金属板。
  8. 前記樹脂組成物は、Crを含まない請求項1〜7のいずれかに記載の樹脂塗装金属板。
  9. 前記樹脂組成物は、表面のエッチングに用いられる酸性物質を含まない請求項1〜8のいずれかに記載の樹脂塗装金属板。
  10. 前記樹脂皮膜の付着量は、乾燥重量で0.3〜3g/m2以上である請求項1〜9のいずれかに記載の樹脂塗装金属板。
  11. 前記樹脂皮膜は、Crを実質的に含まない請求項1〜10のいずれかに記載の樹脂塗装金属板。
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