このような、樹脂被覆金属板を絞り加工して成形したカップ体にしごき加工を施す場合、パンチにより保持されたカップ体をしごきダイスに挿入し、しごきダイスに形成されたランド面により、カップ体の側壁にしごき加工を施して、壁厚を減少させる。ところが、毎分200缶以上の高速で成形が行われる場合、パンチがカップ体の内部に進入してカップ体の底部に近づくと、カップ体の内部の空間とパンチの先端との間に存在している空気は、パンチとカップ体の側壁部との間に形成される僅かな隙間から外部に流出しきれなくなる。そして、図7に示すように、高速でパンチ100がカップ体101の底部へ向かって更に進行すると、パンチ100の先端とカップ体101の底部との間の空気が圧縮され、圧縮された空気の圧力によってカップ体101がパンチ100から飛び出してダイス102に入り込んでしまう場合がある。
すなわち、圧縮された空気の圧力によってパンチ100から飛び出したカップ体101は、内面がパンチ100によって支持されていない状態でダイス102の内部に進入する。そのため、カップ体101がダイス102のランド面103に衝突しても側壁はしごき加工されず、単にたわむだけとなる。従って、側壁の厚さは減少せず、側壁がカップ体101の内側にたわんだ状態でダイス102のランド面103を通過し、ダイス102出口側に底部が突き出た状態となって、ダイス102に入り込んでしまう。
このような状態になったカップ体101に対し、パンチ100が後方からダイス102内に進入してカップ体101にしごき加工を施すと、図8に示すように、カップ体101の側壁のうちダイス102のランド面103より手前側の側壁のみがしごかれて、ランド面103から突き出たカップ体101の底部付近の側壁はしごき加工を受けず、厚いままとなる。このように底部側に壁厚の厚い厚肉部分が残ってしまった状態の缶体が形成される。このような缶体では、しごき加工されていない厚肉部分としごき加工された薄肉部分の境界がリング状の模様として観察される。従来のように外面が樹脂被覆されていないカップ体101をしごき加工する場合には、その後の工程で更にしごき加工を施すと、金属表面が直接しごき加工されるので、壁厚が薄肉化されるとともに、表面の粗さが均質化して、リング状の模様はほぼ消失するため問題とはならない。しかし、樹脂被覆されたカップ体101にしごき加工を施す場合には、金属表面が直接しごき加工されず、樹脂層を介してしごき加工されるので、壁厚が薄肉化されても表面の粗さは均質化せず、厚肉部分と薄肉部分の境界がしごき加工後もリング状の模様として残ってしまう。このようなリング模様が形成されると、外観に悪影響を与えるため製品として使用できなくなる。
特に、表裏両面が樹脂により被覆された金属板から成形されたカップ体の場合には、パンチとカップ体の内面との間で発生する摩擦力が小さいため、パンチからカップ体が飛び出しやすい上、カップ体の外面とダイスとの間の摩擦力も小さいので、飛び出したカップ体がダイスに入り込み易い。さらに、カップ体がダイスに入り込んだ際にダイスから突き出る突出量も、従来の樹脂被覆されていないカップ体と比較して大きくなる。そのため、リング模様の発生率も高く、また発生するリング模様も大きなものとなる。したがって、樹脂被覆金属シームレス缶を高速で製造する場合には、リング模様の発生により製品の歩留まりが悪化し、生産性を低下させる問題があり、このようなリング模様を防止する成形方法が望まれていた。
本発明は上述した技術的課題に着目してなされたものであり、樹脂被覆金属板からなるカップ体を素材として高速でしごき加工を行っても、いわゆるリング模様を生じさせることのない樹脂被覆金属シームレス缶の製造方法および製造装置を提供することを目的とするものである。
上記の目的を達成するために、請求項1の発明は、少なくとも一方の面に樹脂が被覆された樹脂被覆金属板を円板状に切断し、樹脂により被覆された面が外面となるように絞り加工または絞り加工と再絞り加工を施して有底円筒状のカップ体を形成し、該カップ体をパンチに保持された状態でダイスに挿入してしごき加工を施すことによりシームレス缶を製造する樹脂被覆金属シームレス缶の製造方法において、前記ダイスには前記カップ体にしごき加工を施すしごき部が設けられ、前記しごき部よりカップ体の進行方向手前側に、絞り部が設けられていて、前記絞り部は前記カップ体の進行方向に向かって内径が減少するテーパ面状の絞り部入り口面とカップ体側壁部に接触する円筒面状の絞り部ランド面を有しており、前記しごき部はカップ体の進行方向に向かって内径が減少するテーパ面状のしごき部入り口面と円筒面状のしごき部ランド面と前記カップ体の進行方向に向かって内径が増加するテーパ面状のしごき部出口面とを有しており、前記絞り部ランド面内径をD1、前記カップ体の底部から開口端までの高さをH1、前記カップ体の外径が絞り部ランド面内径D1に一致する位置のカップ体底部からの高さをH2、カップ体の進行方向における前記絞り部ランド面の終端から前記しごき部ランド面の開始位置までの距離をLとしたときに、LがH2以上でH1以下であり、前記パンチが前記カップ体を保持して前記ダイスに向かって前進し、前記カップ体の側壁部に絞り加工を施し、側壁部の絞り加工が終了する前に、前記カップ体の側壁部のしごき加工が開始されることを特徴とする方法である。
請求項2の発明は、請求項1の方法において、パンチに保持された状態の前記カップ体を前記絞り部に挿入することにより、前記カップ体の底壁を挟持することなく、前記絞り部ランド面の内径に対する再絞り加工前のカップ体の開口端における外径の比である絞り比が1.001〜1.010となるように再絞り加工を行うことを特徴とする樹脂被覆金属シームレス缶の製造方法である。
また、請求項3の発明は、少なくとも一方の面に樹脂が被覆された樹脂被覆金属板を円板状に切断し、樹脂により被覆された面が外面となるように絞り加工または絞り加工と再絞り加工を施して有底円筒状のカップ体を形成し、該カップ体をパンチに保持された状態でダイスに挿入してしごき加工を施すことによりシームレス缶を製造する樹脂被覆金属シームレス缶の製造装置において、前記ダイスは、前記カップ体にしごき加工を施すしごき部と、該しごき部より前記カップ体の進行方向手前側に設けられた絞り部とを備え、前記絞り部は、前記カップ体の進行方向に向かって内径が減少するテーパ面状の絞り部入り口面と、前記カップ体の側壁部に接触する円筒面状の絞り部ランド面とを有し、前記しごき部は、前記カップ体の進行方向に向かって内径が減少するテーパ面状のしごき部入り口面と、円筒状のしごき部ランド面と、前記カップ体の進行方向に向かって内径が増加するテーパ面状のしごき部出口面とを有し、前記絞り部ランド面内径をD1、前記カップ体の底部から開口端までの高さをH1、前記カップ体の外径が絞り部ランド面内径D1に一致する位置のカップ体底部からの高さをH2、カップ体の進行方向における前記絞り部ランド面の終端から前記しごき部ランド面の開始位置までの距離をLとしたときに、LがH2以上でH1以下となるように構成されていることを特徴とする樹脂被覆金属シームレス缶の製造装置である。
さらに、請求項4の発明は、請求項3の構成において、前記しごき部出口面のカップ体の進行方向での長さが3〜5mmであり、カップ体の進行方向に対する角度が0.5°〜1.5°であることを特徴とする樹脂被覆金属シームレス缶の製造装置である。
請求項1の発明においては、前記パンチが前記カップ体を保持して前記ダイスに向かって前進し、前記カップ体の側壁部に絞り加工を施し、側壁部の絞り加工が終了する前に、前記カップ体の側壁部のしごき加工が開始されるようにしたことにより、絞り加工によりカップ体に摩擦力が作用してカップ体がパンチから飛び出してしごき部に入り込み、カップ底部がしごき部から突出することが防止されるので、しごき加工された缶体にリング模様が発生することなく樹脂被覆金属シームレス缶を製造することができる。
また、請求項1の発明および請求項3の発明においては、前記絞り部ランド面内径をD1、前記カップ体の底部から開口端までの高さをH1、前記カップ体の外径が絞り部ランド面内径D1に一致する位置のカップ体の底部からの高さをH2、カップ体の進行方向における前記絞り部ランド面の終端から前記しごき部ランド面の開始位置までの距離をLとしたときに、LがH2以上でH1以下としたことにより、カップ体がパンチの先端部から飛び出してもしごき部の手前に設けられた絞り部ランド面に接触して停止し、カップ体がしごき部ランド面に達することがないため、缶体のリング模様の発生を防止することができる。
これについて詳細に説明すると、まず、絞り加工または絞り加工と再絞り加工により成形されたカップ体は、底部から開口端側へ向かうにつれて壁厚が厚くなり、そのため、その外径も開口端に向けて徐々に大きくなるように形成される。これは、円板状に切断された金属板を絞り成形すると、底部付近の側壁は、円板の状態からカップ体に成形される際の縮径量が小さいので壁厚の増加量が少ないが、開口端側に向かうにつれて、円形の金属板の外周側に近い領域がカップ体の外径となるまで縮径されることとなり、縮径量が大きくなる。縮径量が大きいということは、円形の金属板の外周側の部分に存在している金属材料がカップ体の外径まで、円周方向においては圧縮されるので、金属材料はカップ体の半径方向すなわち壁厚の厚み方向に塑性的に流動し、壁厚が増加する。したがって、円形の金属板の外周に近いほど壁厚の増加量も大きくなるので、カップ体の壁厚は、底部から開口端側へ向かうにつれて大きくなることとなり、それに伴って、カップ体の外径も開口端側へ向かうにつれて大きくなる。したがって、開口端側に向かって外径が大きくなるように形成されるカップ体がパンチから飛び出すと、絞り部に進入して絞り部ランド面とカップ体側壁部が接触し、カップ体の外径が前記絞り部ランド面の内径にほぼ一致する位置でカップ体は停止する。本発明においては、絞り部ランド面の終端位置からしごき部ランド面の開始位置までの距離Lを、カップ体の底部からカップ体の外径が絞り部ランド面の内径に一致する位置までの高さH2以上とすることにより、パンチから飛び出したカップ体がしごき部ランド面に到達することがない。
さらに、絞り部ランド面の終端位置からしごき部ランド面の開始位置までの距離Lがカップ体の開口端までの高さH1よりも短く設定されていることにより、絞り部によるカップ体の側壁に対する絞り加工が終了する前に、その前方のしごき部によってカップ体側壁のしごき加工が開始されるので、カップ体とパンチの先端部との間の空気が圧縮されても、絞り部ランド面による絞り加工で発生する抵抗力により、絞り部にあるカップ体がパンチ先端から飛び出してカップ体の底部がしごき部ランド面に入り込むことが防止され、カップ体の側壁部の全ての領域にしごき加工を施すことができる。その結果、その後のしごき加工においてリング模様を発生させることなく樹脂被覆金属シームレス缶を製造することが可能となる。
また、請求項2の発明によれば、絞り比が1.001〜1.010となるような、非常に小さい絞り比でカップ体に絞り加工を施す絞り部を設けることにより、小さい絞り比で加工することになるので、一般的な絞り加工で用いられるカップ体の底部を挟んで保持するためのしわ押さえが不要であり、絞り加工によってカップ体外面の樹脂層に損傷を与えることがなく、また、樹脂が摩擦熱により劣化することもない。そのため、絞り部による絞り加工後のしごき加工においてカップ体の表面の樹脂層を形成しているフィルムが白化したり、損傷したりする等の悪影響を与えることがない。
請求項4の発明においては、しごき部出口面が、カップ体の進行方向に対して0.5°〜1.5°の角度で拡径するテーパ面であり、カップ体の進行方向での長さが3〜5mmとなるように形成されているので、本発明のように、カップ体に軽度の再絞り加工としごき加工を同時に行う場合でも、しごき部出口面とカップ体との接触長さが適正に確保される。そのため、カップ体の外面に傷を生じることなく、安定したしごき加工を行うことができる。
総じて本発明によれば、カップ体に再絞り加工を施す絞り部をしごき部ランド面の手前に設け、カップ体にしごき加工を施す前に、非常に小さい絞り比でカップ体に絞り加工を施すことにより、カップ体がパンチから飛び出してもしごき部に入り込むことを防止することができ、そのため、しごき加工された缶体のリング模様の発生を防止することができる。
以下、本発明を実施するための最良の形態について詳述する。図1は本発明の実施の形態の一例である樹脂被覆金属シームレス缶成形用ダイスを示す一部断面図、図2は本実施の形態における絞り部によるカップ体の絞り加工中の成形状態を示す図、図3は本実施の形態のしごき加工中の成形状態を示す図である。また、図4は本実施の形態の成形用ダイスにおける絞り部の詳細を示す図、図5は本実施の形態の成形用ダイスのしごき部の詳細を示す図である。
本実施の形態の樹脂被覆金属シームレス缶の製造方法では、先ず、樹脂被覆金属板を円形状に切断(打ち抜き)して得られたブランクに絞り加工を施して筒状のカップ体を形成する。
以下、前記樹脂被覆金属板について詳述する。前記樹脂被覆金属板に用いる金属板としては、各種表面処理鋼板、アルミニウム合金板等が好適に用いられる。通常、缶容器の製造に用いられるものであれば特に限定されないが、表面処理金属鋼板としては、亜鉛メッキ、錫メッキ、ニッケルメッキ、電解クロム酸処理、クロム酸処理等の表面処理の一種または複数の処理を行ったものを用いることが可能であり、アルミニウム合金としては、JIS3004系アルミ合金等が好ましい。
前記アルミニウム合金板の場合にも熱可塑性樹脂との密着性を確保する目的から、表面処理を行うことが好ましく、リン酸クロム酸処理やリン酸ジルコニウム処理、特に加工度が大きい場合には、リン酸またはリン酸ジルコニウムと有機樹脂との有機無機複合型化成処理が有効である。
前記金属板を被覆する熱可塑性樹脂としては、これも通常、缶容器の製造に用いられるものであれば特に限定されないが、好適には、特に耐熱性や耐内容物性の面から熱可塑性ポリエステル樹脂が用いられる。例えばポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンイソフタレート(PEI)のようなホモポリマーや、ポリエチレンテレフタレートとポリエチレンイソフタレートとの共重合樹脂であるコポリマーや、こうしたホモポリマーやコポリマーなどのブレンド樹脂等が適用される。そして、前述した各種表面処理鋼板やアルミニウム合金等の金属板の片面または両面に公知の方法で樹脂層を形成し樹脂被覆金属板を得る。形成される樹脂層は要求される性能に応じて単層、複層のいずれでも良く、結晶状態は配向、無配向のいずれでも良い。また、樹脂層には結晶質、非晶質のいずれの樹脂を用いても良いが、しごき加工性の面では、被覆された樹脂フィルムが無配向非晶質であることが好ましい。
この無配向非晶質樹脂被覆金属板を得る方法としては、加熱された金属板の表面に樹脂フィルムをラミネートロール間で熱圧着して積層させた後、直ちに急冷して樹脂を非晶質化する方法や、溶融した樹脂を金属板表面に押し出して積層させるとともに急冷する方法や、一度、結晶性の樹脂を積層した金属板を樹脂の融点以上に加熱した後、急冷する方法等が用いられる。
また、予め公知の方法で形成した樹脂フィルムを接着剤により金属板に接着することも可能である。接着剤としては、ポリエステル系樹脂やエポキシ系樹脂等を、適宜選定できる。
この樹脂被覆金属板の少なくとも缶外面側に相当する表面に、予め成形前に潤滑剤が塗布される。
前記潤滑剤は、塗布された状態では液体状でも固体状でも良く、固体状の潤滑剤の場合、しごき加工中の加工熱によって液体状となるものが好適に用いられる。しごき加工中のダイスの温度は約20℃〜60℃であり、しごき部あるいはしごき部入り口面の缶体と接触する部分では、しごき成形中に200℃〜300℃に達することから、潤滑剤は融点が−20℃〜150℃程度の脂肪酸エステルや流動パラフィン、又はそれらの混合物が好適に用いられる。
潤滑剤の塗布方法については、スプレーによる塗布、ロールによる塗布、グラビアロールを使用した塗布など、適宜、公知の方法が用いられる。これらの潤滑剤の場合には、片面の塗布量として30〜150mg/m2程度の塗布量が実用上好ましい。なお、30mg/m2未満の塗布量では、塗布量が少なすぎ、必要な潤滑性能が得られないので、好ましくない。また、前記塗布量が150mg/m2より多くなるとパンチとカップ体内面の摩擦力が必要以上に低下して、カップ体がパンチから飛び出し易くなるため好ましくない。また、成形後、加熱により缶体表面(主にしごき加工が施されないボトム部)に残った潤滑剤を揮発させる際に、塗布量が多すぎると、揮発の為に必要な熱量が多大となり、また潤滑剤が缶体表面に残ってしまう場合があり、好ましくない。
次に、本実施の形態の樹脂被覆金属シームレス缶の成形方法に用いられる成形用ダイス(以下、ダイスと略す)1について詳述する。
図1に示すように、本実施例で使用するダイス1には、カップ体2の進行方向に向かって、絞り部3としごき部4とが順に設けられている。換言すれば、カップ体2の進行方向においてしごき部4の手前側に絞り部3が設けられている。絞り部3は進行方向に向かって徐々に内径が小さくなるテーパ面状の絞り部入り口面5と、該絞り部入り口面5に連なって実質的に円筒面状となっている絞り部ランド面6とが形成され、さらに絞り部ランド面6に連なって、進行方向に向かって徐々に内径が大きくなるテーパ面状の絞り部出口面7が設けられている。
図4に絞り部3の詳細な断面図を示す。前記絞り部入り口面5のカップ体2の進行方向(ダイス1の中心軸線)となす角度α1は、本実施の形態において8°とした。この角度α1は、適宜設定できるが、好ましくは3°〜15°の範囲に設定される。この範囲内では、カップ体2とパンチ8の中心軸とがずれてしまうセンタリング不良を防止することができ、成形不良の発生を抑えることができるので好ましい。また、前記絞り部入り口面5のカップ体2の進行方向での長さは4mmに設定した。この長さは好ましくは2mm以上の範囲に設定される。2mm以上の範囲では、カップ体2と絞り部入り口面との接触長さを適正に確保することができ、成形が安定して、成形不良の発生を抑えることができるので好ましい。
次に、前記絞り部入り口面5に連なって、絞り部ランド面6が実質的に円筒面状に形成されている。本実施の形態では、絞り部ランド面6のカップ体2の進行方向における長さは8mmに設定した。この絞り部ランド面6の長さは4mm〜12mmの範囲に設定される。長さを4mm以上とすることで、絞り加工により生じる抵抗力を十分に得ることができるので、カップ体2がパンチ8から飛び出すことを防止できるため好ましい。また、長さが4mm未満の場合には、パンチ8が振動しながら絞り部3に挿入されたり、ダイス1とパンチ8とのセンタリングの状態が不良となり、中心軸がずれた状態で挿入されたりした場合には、局所的にカップ体2に作用する圧力が高くなり、カップ体2に縦スジ状の傷が生ずる場合があるが、このような成形不良を防止するためにも、絞り部ランド面6の長さを4mm以上とすることが好ましい。また、上記の長さが12mm以下では摩擦力が過大となることを防止することができるので、カップ体2の表面を損傷させたり、摩擦熱により表面の樹脂を劣化させる成形不良の発生を抑制できるため好ましい。また、本実施の形態では、カップ体2の絞り部ランド面6の内径を66.80mmとし、パンチ8の外径を66.1mmとした。従って、絞り部ランド面6とパンチ8との間のクリアランス量C1(図2及び図3参照)は、本実施の形態では0.35mmとなる。
次いで、絞り部ランド面6に連なって絞り部出口面7が形成されている。この絞り部出口面7がカップ体2の進行方向(ダイス1の中心軸線)となす角度β1は本実施例においては15°に設定した。また、前記絞り部出口面7のカップ体2の進行方向における長さは1.5mmに設定した。
図5にしごき部4の詳細な断面図を示す。本実施例で使用するダイス1は、絞り部3に続いて、所定の間隔をおいてしごき部4が形成されている。しごき部4は進行方向に向かって徐々に内径が小さくなるテーパ面状のしごき部入り口面9と、該しごき部入り口面9に連なり、実質的に円筒面状に形成されているしごき部ランド面10と、しごき部ランド面10に連なり、進行方向に向かって徐々に内径が大きくなるテーパ面状のしごき部出口面11を有している。
前記しごき部入り口面9がカップ体2の進行方向(ダイス1の中心軸線)となす角度α2は、本実施の形態では5°に設定した。この角度α2は適宜設定できるが、好ましくは2°〜7°の範囲に設定される。角度α2を2°以上とすることにより、ダイス1と缶体との摩擦力が過大となることがなく、缶体表面が損傷したり、摩擦熱により樹脂が劣化することを防止できるので好ましい。そして7°以下とすることにより、缶胴の破断の発生を抑制することができるため好ましい。また、前記しごき部入り口面9のカップ体2の進行方向の長さは5mmに設定した。このしごき部入り口面9の長さは3mm以上の範囲に設定される。3mmより小さい場合には、カップ体2との接触長さが短くなってしごき成形が不安定となり、カップ体2の円周方向で壁厚が偏ることにより壁厚の厚い部分と薄い部分が形成される偏肉が生じたり、カップ体2の側壁の高さ方向の厚みのばらつきが大きくなったり、缶胴の破断が生じやすくなるが、このような成形不良を防止することができるので、しごき部入り口面9の長さは3mm以上とするのが好ましい。
このしごき部入り口面9に連なって、しごき部ランド面10が実質的に円筒面状に形成されている。本実施の形態では、しごき部ランド面10の内径を66.5mm、カップ体2の進行方向の長さを1mmとした。このしごき部ランド面10の長さは0.5mm〜1.5mmの範囲に設定される。長さを0.5mm以上とすることにより、しごき加工が不安定になってカップ体2の側壁の高さ方向の厚みがばらついたり、偏肉が生じたりすることが防止できるので好ましい。また、1.5mm以下とすることにより、摩擦力が大きくなりすぎることによるカップ体2の表面の損傷や、摩擦熱による樹脂の劣化を防止できるので好ましい。
次いで、しごき部ランド面10に連なってしごき部出口面11が形成されている。本実施の形態においては、このしごき部出口面11のカップ体2の進行方向となす角度β2を1.0°に設定した。本発明において、この角度β2は0.5°〜1.5°の範囲に設定される。この範囲に設定することにより、カップ体2の外径が所定の寸法よりも小さく成形された場合等、何らかの原因で、パンチ8から飛び出したカップ体2が絞り部3を通り抜けてしごき部4にまで達し、しごき部4に入り込んでしまっても、その後、パンチ8が前進してカップ体2をしごいた場合に、ダイス1とカップ体2の側壁とが接触する際の衝撃が緩和され、カップ体2の側壁の未しごきの領域としごき加工が施された領域との間の段差が緩やかになる。そのため、段差が形成されたカップ体2に対し、さらにしごき加工を施した場合に、未しごきの領域としごき加工された領域の間のしごき率の変化が緩やかになり、カップ体側壁の金属部分の表面における表面粗さの違いが小さくなって目立たなくなることにより、リング状の模様が生じるのを防止することができる。
この角度β2を0.5°以上とすることにより、カップ体2との接触長さが長くなりすぎることを防止し、カップ体2の表面の樹脂を損傷するおそれがなくなるので好ましく、角度β2を1.5°以下とすることにより、カップ体2との接触長さが短くなりすぎることを防止でき、しごき加工が安定して、偏肉等の成形不良の発生が抑制できるため好ましい。さらに、前記しごき部出口面11のカップ体2の進行方向における長さを、1.0mmとした。この長さは1.0mm以上、より好ましくは1.5mm以上に設定される。この長さが長いほど、前述のようにカップ体2がしごき部4に入り込んでしまっても、その後、パンチ8が前進してカップ体2をしごき加工した際に、ダイス1とカップ体2の側壁とが接触する際の衝撃を緩和し、未しごきの領域としごき加工が施された領域との間の段差を緩やかにする効果が高くなり、リング状の模様の発生を効果的に防止することができる。また、長さを1.0mm以上とすることにより、カップ体2とダイス1との接触長さが短くなりすぎることがなく、しごき加工が安定して、偏肉等の成形不良の発生を抑制できるので好ましい。なお、上限は特に規定しないが、ダイス1の寸法から考えて不具合の生じない範囲であれば良い。
また、前記絞り部3と前記しごき部4との間隔(絞り部出口面7の終端位置からしごき部入り口面9の開始位置までのカップ体2の進行方向における距離)は約6mmとした。これにより、本実施の形態において絞り部ランド面6の終端位置からしごき部ランド面10の開始位置までの距離Lは、絞り部出口面7の長さが1.5mm、しごき部入り口面9の長さが5mmであるので、12.5mmとなる,この絞り部3としごき部4との間隔は、カップ体2がパンチ8から飛び出して絞り部3に入り込んだ際の絞り部3からの突出量及び加工されるカップ体2の高さとの関係で定められる。
すなわち、パンチ8が絞り部3に挿入される前にカップ体2がパンチ8から飛び出した場合に、絞り部3から突出したカップ体2がしごき部4に達しない距離に設定される必要がある。本実施の形態では、絞り部ランド面6の内径D1を66.80mmとし、また、図6に示すように、この内径D1にカップ体2の外径が一致する位置までのカップ体2の底部からの高さH2が約6mmであったため、絞り部ランド面6と前記しごき部ランド面10との間隔Lを6mm以上に設定することで、絞り部3にカップ体2が入り込んだ場合でも、カップ体2がしごき部4に入り込むことが防止できる。なお、カップ体2がパンチ8から飛び出した際、カップ体2の外径が絞り部ランド面6の内径D1に一致する位置で停止するのであれば、絞り部ランド面6の開始位置からしごき部ランド面10の開始位置までの距離を規定するべきであるとも考えられる。しかし、パンチ8から飛び出したカップ体2は、絞り部ランド面6に接触して、半径方向内方にたわむように変形し、絞り部ランド面6の開始位置よりも更に前進して、絞り部ランド面6との摩擦によって停止するので、本発明においては、絞り部ランド面6の終端位置からしごき部ランド面10の開始位置までの距離Lを規定した。
また、この距離Lが長すぎて、絞り部3による絞り加工が終了してからしごき部4によるしごき加工が開始されるような距離に設定すると、しごき加工が開始される前に絞り部3からの抵抗がなくなることにより、パンチ8からカップ体2が飛び出してしごき部4に入り込んでしまう場合がある。そのため、この距離Lは絞り部3による絞り加工が終了する前に前記しごき部4によりしごき加工が開始されるように設定される必要がある。本実施の形態で加工するカップ体2の開口端までの缶高さH1は約60mmなので、この距離Lを60mm以下に設定することにより、絞り部3による絞り加工が終了する前に前記しごき部4によりしごき成形が開始される。従って、本実施の形態の場合には、この距離Lを6mm〜60mmの範囲で設定することができる。なお、カップ体は絞り加工を受けることにより、その高さが増加するが、本発明においては、前述した通り、一般的な絞り加工と異なってしわ押さえを用いずに絞り加工を行うため、絞り比が非常に小さく、従って、カップ体の高さの増加も小さいため、距離Lの上限値は絞り加工前のカップ体高さH1としても実質的に問題は生じない。ただし、厳密には距離Lの上限値は、絞り加工前のカップ体の高さH1よりも大きくなる。また、カップ体は絞り加工により成形されているので、金属材料の異方性により、その高さはカップ体の周方向の測定位置によって異なるが、本発明におけるH1は、カップ体の周方向に測定位置を変えて高さを測定した場合の最大値である。
なお、本実施の形態では、絞り部3としごき部4とが一体に形成されたダイス1としたが、絞り部3としごき部4とを別体として設置するようにしても良い。この場合、絞り部3としごき部4との間の距離を変更することが容易になる。
次に、上述のダイス1を用いた本発明の樹脂被覆金属シームレス缶の製造方法について図2及び図3により説明する。図2に絞り部3による絞り加工中の状態を示す。パンチ8に保持されたカップ体2はダイス1ヘ向かって進行し、絞り部入り口面5に当たる。絞り部入り口面5に当たることによりカップ体2の中心軸とパンチ8の中心軸とが一致するように、カップ体2がセンタリングされる。そして、パンチ8が更に前進すると、カップ体2が絞り部入り口面5から絞り部ランド面6に至り、カップ体2が再絞り加工され、カップ体2の外径が減少する。本実施の形態では、カップ体2の開口端における外径が67.20mm、カップ体2の開口端における内径が66.60mmのカップ体2に対し、絞り部ランド面6の内径D1を66.80mmとし、パンチ8の外径を66.10mmとして絞り加工した。この時の絞り比は、(絞り加工前のカップ体2の開口端における外径)/(絞り部ランド面6の内径)で求められ、本実施の形態では1.006である。本発明の絞り部3による再絞り加工の絞り比は1.001〜1.010の範囲に設定される。
絞り比を1.001以上とすることにより、絞り加工による摩擦力によってカップ体がパンチ8から飛び出すことを防止できるので好ましい。また絞り比を1.010以下とすることにより、しわ押さえを使用せずにカップ体2の底部を挟持しない絞り加工においても絞り加工が安定し、成形不良の発生や、加工によるカップ体2の表面の樹脂の白化、摩擦熱による樹脂の劣化を防止できるので好ましい。また、本発明においては、絞り部3での絞り加工が終了する前にしごき加工を施すため、絞り比が大きすぎると、カップ体2に対して絞り加工としごき加工とが同時に行われる際に、カップ体2に対する抵抗力が増加して、カップ体2が破断する虞があるので好ましくない。すなわち、本発明においては、絞り部3での絞り加工における絞り比を小さくすることにより、絞り加工としごき加工とを同時にカップ体2に施しても、カップ体2を破断させることなくしごき加工を行うことができる。
パンチ8が更に前進すると、カップ体2の側壁部のしぼり成形が終了する前にカップ体2の底部がしごき部入り口面9に達し、しごき部ランド面10を通過することにより、側壁部はしごき加工を受けて薄肉化される。このとき、カップ体2の開口部側は絞り部3により再絞り加工を受けている状態にある。そして、パンチ8が更に前進すると、カップ体2の底部はしごき部出口面11を通過し、カップ体2の開口部が絞り部3及びしごき部4を順次通過することにより、カップ体2の側壁部全域にしごき加工が施され、薄肉化される。
ダイス1を通過したカップ体2は、ダイス1の進行方向後方に設置された図示しない第2及び第3のしごきダイスにより更にしごき加工を受けて側壁部が更に薄肉化され、図示しないストリッパーによりパンチ8から取り外される。その後、オーブンによる加熱で潤滑剤を揮発させて除去し、その後、印刷工程、塗装工程、ネック成形行程、フランジ成形工程等の適宜の工程を経て、樹脂被覆金属シームレス缶が製造される。
以下、実施例及び比較例の条件下でカップ体をしごき加工した場合の比較実験結果について説明する。
〈実施例〉
まず、アルミニウム合金材として板厚0.28mmのJIS3004H191材を使用し、両面にリン酸クロメート処理を施して、ガラス転移温度(Tg)が約64℃、冷結晶化温度(Tc)が約120℃、融点が約240℃の二軸延伸ポリエステル樹脂で、内面側は厚さ20μm、外面側は厚さ12μmとしたフィルムを熱圧着法で接着した後、加熱・冷却し、無配向非晶質化ポリエステル樹脂被覆ラミネート板を形成した。
次いで、上記ポリエステル樹脂フイルムを被覆したラミネート板のフィルム面すなわちラミネート板の両面に潤滑剤として、融点が約20℃、25℃における比重が約0.85、30℃における粘度が約8mPa・sの脂肪酸エステル系潤滑剤をスプレーにより塗油した。なお、塗油量は片面について約70mg/m2とした。
この樹脂被覆ラミネート板を直径約153mmの円形に切断し、2回の絞り加工により、前述の実施の形態と同様、カップ体の開口端における外径が67.20mm、開口端における内径が66.60mmのカップ体を形成した。カップ体の高さH1は60mm、絞り部ランド面の内径D1(66.80mm)にカップ体の外径が一致する位置までのカップ体底部からの高さH2は約6mmとした。
このカップ体に対してしごき成形を施す成形装置として、本発明に係る前述の実施の形態で示した絞り部を有するダイスを第1ダイスとして用いて、絞り部のない従来の第2ダイス及び第3ダイスをパンチと同一中心軸となるように直列に配置した。第1ダイスは、前述の実施の形態と同様、絞り部入り口面の角度α1を8°、絞り部入り口面のカップ体の進行方向における長さは4mmに設定し、また、絞り部ランド面の内径D1を66.80mm、絞り部ランド面の長さを8mm、絞り部出口面の角度β1は15°、長さを1.5mmに設定した。また、絞り部ランド面の終端位置からしごき部のランド面の開始位置までの距離Lは、12.5mmとした。第2ダイスのランド面の内径は66.4mm、第3ダイスのランド面内径は66.3mmとし、第2ダイス及び第3ダイスの入り口面、出口面の長さと角度は第1ダイスと同様とした。また、パンチ8の外径は66.1mmとした。なお、成形中の加工熱により、過度に温度が上昇しない様、パンチ8の内部には10℃の冷却水を、ダイス内部には30℃の冷却水をそれぞれ循環させて成形を行った。
これら3枚のダイス及びパンチでしごき成形を行うことによりカップ体の側壁を薄肉化させて、側壁の薄肉部の厚さが約0.1mm、缶胴外径約66mmの絞りしごき成形による樹脂被覆金属シームレス缶を製造した。
製缶の速さは毎分300缶とし、カップ体から樹脂被覆金属シームレス缶を50缶作成したところ、リング状の模様が発生した缶はなかった。
また、比較例として、第1ダイスとして、従来の絞り部のないダイスを用いた以外は、同様の条件で50缶の樹脂被覆金属シームレス缶を作成したところ、全てのシームレス缶においてリング状の模様が発生した。
1…ダイス、 2…カップ体、 3…絞り部、 4…しごき部、 5…絞り部入り口面、 6…絞り部ランド面、 7…絞り部出口面、 8…パンチ、 9…しごき部入り口面、 10…しごき部ランド面、 11…しごき部出口面、 α1…(絞り部入り口面のカップ体の進行方向(ダイスの中心軸線)となす)角度、 β1…(絞り部出口面がカップ体の進行方向(ダイスの中心軸線)となす)角度、 α2…(しごき部入り口面がカップ体の進行方向(ダイスの中心軸線)となす)角度、 β2…(しごき部出口面11のカップ体2の進行方向(ダイスの中心軸線)となす)角度、 L…(絞り部ランド面の終端位置からしごき部ランド面の開始位置までの)距離、 D1…(絞り部ランド面の)内径、 H1…(カップ体の開口端までの)缶高さ、 H2…(絞り部ランド面の内径にカップ体の外径が一致する位置までのカップ体の底部からの)高さ。