以下、図面に基づいて、本発明に係る摩擦変速機について詳細に説明する。
[第一実施形態]
先ず、本発明に係る摩擦変速機の第一実施形態について説明する。図1は、第一実施形態の摩擦変速機を示す正面断面図である。図2は、第一実施形態の第一及び第二変速手段の変速原理を説明するための図である。図3は、第一実施形態の摩擦変速機の動作を示す要部断面図である。図4は、第一実施形態の摩擦変速機におけるトルク比と変速比との関係を示すグラフ図である。
図1及び図2に基づいて、摩擦変速機の構成について説明する。摩擦変速機は、入力軸1及び出力軸2を備えている。この摩擦変速機は、例えば自動車に適用するとき、エンジンの動力を入力軸1が入力し、出力軸2が車輪へ伝達するようになっている。入力軸1及び出力軸2は、同一中心線12aになるように配置されている。入力軸1は、一方端に小径の支持軸部1aを有する。出力軸2は、一方端に支持軸受部2aを有する。入力軸の支持軸部1aと出力軸の支持軸受部2aとが回転支持され、入力軸1と出力軸2とが互いに回転自在(回転フリー)に連結している。
摩擦変速機は、ケーシング100を備えている。ケーシング100は、入力軸1を回転支持するための支持軸受部101と、出力軸2を回転支持するための出力軸ベアリング102,102とを備えている。入力軸1及び出力軸2は、各ベアリング101,102によって、回転自在にケーシング100に支持されている。図1に示す通り、ケーシング100は、後述する第一変速手段3、第二変速手段4などを内包している。
摩擦変速機は、第一変速手段3を備えている。第一変速手段3は、出力軸2側に配置されている。第一変速手段3は、一以上(本実施形態では3つ)の第一コーン30、第一入力円板31、軌道リング32及び第一変速リング33を備えている。第一コーン30は、主として円錐形をなしている。第一コーン30は、底面(軌道面30b)の中心線30d上に回転軸30eを有している(図2)。
第一コーン30は、図2に示す通り、円錐形部分に伝動部30a、軌道面30b及び変速面30cを有している。伝動部30aは、第一コーン30の外周の円状端部である。なお、伝動部30aは、回転軸30eの外周面でもよい。軌道面30bは、第一コーン30の底面(平面)部である。変速面30cは、第一コーン30の傾斜面部である。
図1に示す通り、第一コーン30は、支持円板103で支持されている。第一コーン30は、回転軸30eを介して支持円板103の周囲に回転自在に支持されている。第一コーン30は、その中心線30dが入出力軸の中心線12aに対して角度αだけ傾斜して支持されている(図2)。支持円板103は、出力軸2に対して回転自在に支持されている。従って、第一コーン30は、出力軸2に対して自転及び公転自在になっている。
第一入力円板31は、入力軸1に対してスプライン結合されている。従って、第一入力円板31は、入力軸1の回転と同一方向及び同一回転速度で回転する。第一入力円板31は、第一コーンの伝動部30aに当接して摩擦係合する。これにより、第一入力円板31の回転が第一コーン30に伝達される。
軌道リング32は、第一コーンの軌道面30bに当接して摩擦係合する。図1に示す通り、軌道リング32は、伝達円板22の外周に嵌合されている。伝達円板22は、出力軸2に対してスプライン結合されている。従って、出力軸2は、伝達円板22の回転と同一方向及び同一回転速度で回転する。後述するが、軌道リング32は、第一クランプ50を介して、伝達円板22に対して連結及び非連結に切り換え可能になっている。
第一変速リング33は、第一コーンの変速面30cに当接して摩擦係合する。後述するように、第一変速リング33は、キャリア70に支持されており、入出力軸の中心線12aの方向に進退自在になっている。第一コーンの変速面30cは、第一変速リング33が当接(摩擦係合)する部分において、入出力軸の中心線12aに対してほぼ平行になるように、中心線30d,12aの角度αが設定されている(図2)。
摩擦変速機は、第二変速手段4を備えている。第二変速手段4は、入力軸1側に配置されている。第二変速手段4は、一以上(本実施形態では3つ)の第二コーン40、第二入力円板41及び第二変速リング42を備えている。第二コーン40は、主として複合円錐形(ダブルコーン)をなしている。第二コーン40は、対向する各頂部の中心線40c上に回転軸40d,40eを有している(図2)。
第二コーン40は、後述するように、キャリア70に設けられた支持部104,105に支持されている。第二コーン40は、回転軸40e,40dを介して回転自在に支持されている。第二コーン40は、その中心線40cが入出力軸の中心線12aに対して角度βだけ傾斜して配置されている(図2)。キャリア70は、非回転であり(回転不能になっており)、入出力軸の中心線12aの方向に進退自在になっている。従って、第二コーン40は、入出力軸の中心線12aの方向に移動自在であると共に、入力軸1に対して自転自在であるが非公転(公転不能)となる。
図2に示す通り、第二コーン40は、伝動面40a及び変速面40bを備えている。伝動面40aは、入力軸1に近い(中心線12a側)円錐形傾斜面部であり、変速面40bは、伝動面40aに対向する入力軸1から遠い円錐形傾斜面部である。
第二入力円板41は、入力軸1に対してスプライン結合されている。従って、第二入力円板41は、入力軸1の回転と同一方向及び同一回転速度で回転する。第二入力円板41は、第二コーンの伝動面40aに当接して摩擦係合する。これにより、第二入力円板41の回転が第二コーン40に伝達される。
第二変速リング42は、第二コーンの変速面40bに当接して摩擦係合する。第二コーンの変速面40bは、第二変速リング42の当接(摩擦係合)する部分において、入出力軸の中心線12aに対してほぼ平行になるように、中心線40c,12aの角度βが設定されている(図2)。第二変速リング42は、伝達円板22の外周まで延設して嵌合、支持されている。後述するが、第二変速リング42は、第二クランプ51を介して、伝達円板22に対して連結及び非連結に切り換え可能になっている。
摩擦変速機は、キャリア手段7を備えている。キャリア手段7は、キャリア70及びレバー71を備えている。キャリア70は、入出力軸の中心線12aの方向に進退自在になっている。なお、キャリア70は、入出力軸の中心線12aに対して回転不能(非回転)になっている(入力軸1が回転しても非回転状態が維持される)。
前述の通り、キャリア70は、第一変速手段3の第一変速リング33と、第二変速手段4の支持部104,105とを備えている。レバー71は、キャリア70に連結されている。レバー71は、アクチュエータなどの駆動手段75に接続されている。駆動手段75によって、レバー71を介して、キャリア70が進退移動可能になっている。これに伴って、第一変速リング33及び第二コーン40が進退移動する。
摩擦変速機は、切換手段5を備えている。切換手段5は、第一クランプ50及び第二クランプ51を備えている。前述の通り、第一クランプ50は、軌道リング32と伝達円板22とを連結及び非連結にするものであり、第二クランプ51は、第二変速リング42と伝達円板22とを連結及び非連結にするものである。本実施形態では、第一及び第二クランプ50,51は、油圧式になっており、油圧調整手段55に接続されている。そして、油圧調整手段55によって、伝達円板22に対する連結及び非連結を行う。
摩擦変速機は、入力軸1の回転速度を検知する第一回転センサ10と、出力軸2の回転速度を検知する第二回転センサ20とを備えている。さらに、摩擦変速機は、油圧調整手段55の動作を制御する制御手段6を備えている。制御手段6は、第一及び第二回転センサ10,20の検知結果に基づいて、後述する変速比(減速比)R1,R2を演算する演算手段60を備えている。制御手段7は、演算手段60の演算結果に基づいて、CPUなどに記憶されたプログラムに従い、油圧調整手段55を動作する。
次に、図2に基づき、第一変速手段3及び第二変速手段4における変速原理を説明する。第一コーンの伝動部30aと入力円板31との当接位置は、中心線12aから垂直距離a、中心線30dから垂直距離bである。第一コーンの変速面30cと第一変速リング33との当接位置は、中心線12aから垂直距離d、中心線30dから垂直距離cである。第一コーンの軌道面30bと軌道リング32との当接位置は、中心線12aから垂直距離f、中心線30dから垂直距離eである。
入力軸1の回転速度をN1とし、出力軸2の回転速度をN2とし、第一変速手段3の変速比(減速比)をR1とすると、変速比R1は式(1)のように表される。
・ R1=N2/N1
={a(c・f−d・e)}/{f(a・c+b・d)} ・・・式(1)
前述の通り、第一コーン30は、自転しながら公転するが、入出力軸の中心線12aの方向には進退移動しない。第一変速リング33は、非回転で、入出力軸の中心線12aの方向に進退移動する。第一入力円板31は、入力軸1の回転に伴って回転する。軌道リング32は、回転自在になっている。
本実施形態では、a=20mm、b=15mm、c=2〜13mm、d=35mm、e=12mm、f=31mmであり、その場合、第一変速手段の変速比R1=0〜−0.4となる。なお、変速比R1,R2の符号が「+」(プラス)のとき、入力軸1と出力軸2の回転方向が同一となり、「−」(マイナス)のとき、出力軸2の回転方向は入力軸1に対して逆回転方向となる。
第二コーンの伝動面40aと第二入力円板41との当接位置は、中心線12aから垂直距離g、中心線40cから垂直距離hである。第二コーンの変速面40bと第二変速リング42との当接位置は、中心線12aから垂直距離k、中心線40cから垂直距離jである。
入力軸1の回転速度をN1とし、出力軸2の回転速度をN2とし、第二変速手段4の変速比(減速比)をR2とすると、変速比R2は式(2)のように表される。
・ R2=N2/N1
=−(g・j)/(h・k) ・・・式(2)
前述の通り、第二コーン40は、自転するが公転せず、入出力軸の中心線12aの方向には進退移動する。第二入力円板41は、入力軸1の回転に伴って回転する。第二変速リング42は、回転自在になっている。
本実施形態では、g=14mm、h=4〜13mm、j=13〜4mm、k=37mmであり、その場合、第二変速手段の変速比R2=−0.12〜−1.2となる。
入力軸1のトルクをTiとし、出力軸2のトルクをToとし、トルク比をTrとすると、トルク比Trは式(3)のように表される。
・ Tr=To/Ti ・・・式(3)
次に、図3及び図4に基づき、変速機の動作について説明する。前述の通り、第一変速手段の変速比R1と第二変速手段の変速比R2とは、R1,R2=−0.12〜−0.4の範囲で重なっている。そこで、本実施形態では、それぞれの変速比R1,R2=−0.2と一致する時に、切換手段5が切り換え動作を行う(切換モード)。なお、切換モードの変速比R1,R2は、重畳範囲(R1,R2=−0.12〜−0.4)であれば任意である。
そのため、入出力軸の中心線12aの方向に進退移動可能なキャリア70は、第一変速手段3における距離c=7mm(変速比R1=−0.2)の時に、第二変速手段4における距離h=11.2mm、j=5.8mm(変速比R2=−0.2)となるように、第一変速リング33及び第二コーン40が配置、設定されている。
図3(a)は、第一変速手段3の使用状態(第一領域)を示す。この第一領域(低速モード)では、制御手段6によって、切換手段5は、第一クランプ50が伝達円板22を連結(ON)し、第二クランプ51が伝達円板22を連結しない(OFF)ようになっている。従って、第一変速手段3が、入力軸1の回転を伝達円板22を介して出力軸2へ伝達して、第二変速手段4は出力軸2へ伝達しない。
入力軸1は、矢視Iの方向において反時計回りに回転している。矢視I方向は、入出力軸の中心線12a上にある。これにより、第一入力円板31は、矢視Iの方向において反時計回りに回転する。そして、第一コーン30は、矢視Iの方向において反時計回りに回転(公転)しながら、矢視IIの方向において時計回りに回転(自転)する。矢視II方向は、第一コーンの中心線30e上にある。第一変速リング33は、キャリア70と共に非回転(非公転)である。これにより、軌道リング32は、矢視Iの方向において時計回りに回転する。
軌道リング32を介して伝達円板22が回転することにより、出力軸2が、矢視Iの方向において時計回りに回転する。なお、この第一領域においても、入力軸1の回転によって、第二変速手段4の各機構40,41,42は動作するが、上述の通り、出力軸2へ伝達されないので説明を省略する。
入力軸1の回転を出力軸2へ伝達する際、図3(a)に示す通り、先ず、キャリア手段7を、第一変速リング33がc=13mm(変速比R1=0)となる位置にする。このとき、変速比R1=0なので、入力軸1の回転は出力軸2へ伝達されない(出力軸2は停止する)。
そして、駆動手段75によって、キャリア手段7を入出力軸の中心線12aの方向(矢印IV)へ進退移動する。これにより、第一変速リング33は、矢印IVの方向へ移動し、距離cが13〜7mm(変速比R1=0〜−0.2)の範囲で変化する。
図4に示す通り、変速比R1=0〜−0.2の第一領域において、変速比とトルク比との関係は、直線状に増減する直線領域と、曲線状に増減する曲線領域とがある。直線領域では、最大トルク比Trを得ることができ、トルク比Trの大きさによっては出力軸2が停止するクリープ領域である。
即ち、変速機を自動車等の車両に使用した際、第一領域(低速領域)は、車両が停止から低速走行の間で変速する。そして、直線領域は、坂道発進や車両重量によって、直線上のいずれかの位置から出力軸2が回転して、車両が発進する領域となる。なお、本実施形態では、最大トルク比Trは10以上となり、大きいトルク増幅を得ることができる。
図3(b)は、第一変速手段と第二変速手段とを切り換える(第一領域と第二領域とを切り換える)時の状態を示す。前述の通り、本実施形態では、この切換モードは、各変速比R1,R2=−0.2に設定されており、この時、キャリア手段7は、第一変速リング33が距離c=7mmとなり、第二コーン40が距離h=11.2mm、j=5.8mmとなる。
そして、第一及び第二センサ10,20に基づいて、各変速比R1,R2=−0.2となった際に、制御手段6によって、切換手段5における第一クランプ50及び第二クランプ51の双方が、伝達円板22を連結(ON)する。これにより、入力軸1の回転は、第一変速手段3及び第二変速手段4の双方によって出力軸2へ伝達されるが、各変速比R1,R2が一致(R1,R2=−0.2)しているので、出力軸2の回転は一致し安定している。
図3(c)は、第二変速手段4の使用状態(第二領域)を示す。この第二領域(高速モード)では、制御手段6によって、切換手段5は、第一クランプ50が伝達円板22を連結しておらず(OFF)、第二クランプ51が伝達円板22を連結する(ON)ようになっている。従って、第二変速手段4が、入力軸1の回転を伝達円板22を介して出力軸2へ伝達して、第一変速手段3は出力軸2へ伝達しない。
入力軸1は、矢視Iの方向において反時計回りに回転している。これにより、第二入力円板41は、矢視Iの方向において反時計回りに回転する。そして、第二コーン40は、公転せず(非公転)に、矢視IIIの方向において反時計回りに回転(自転)する。矢視III方向は、第二コーンの中心線40cの方向上にある。これによって、第二変速リング42は、矢視Iの方向において時計回りに回転する。
第二変速リング42を介して伝達円板22が回転することにより、出力軸2が、矢視Iの方向において時計回りに回転する。なお、この第二領域においても、入力軸1の回転によって、第一変速手段3の各機構30,31,32は動作するが、上述の通り、出力軸2へ伝達されないので説明を省略する。
駆動手段75によって、キャリア手段7を矢印IVの方向へ進退移動することができる。これにより、第二コーン40は、矢印IVの方向へ進退移動し、距離hは11.2〜4mm、jは5.8〜13mm(変速比R2=−0.2〜−1.2)の範囲(第二領域)で変化する。
図4に示す通り、変速比R2=−0.2〜−1.2の第二領域において、変速比とトルク比との関係は曲線状に増減する。変速機を自動車等の車両に使用した際、この第二領域は、車両が中速から高速走行の間で変速する。
以上をまとめると、この変速機において、出力軸2への伝達が、第一変速手段3から第二変速手段4へ変化する場合(第一領域(低速モード)から第二領域(高速モード)へ変化するとき)、図3(a)→(b)→(c)へと変化する。そして、第二変速手段4から第一変速手段3へ変化する場合(第二領域(高速モード)から第一領域(低速モード)へ変化するとき)、図3(c)→(b)→(a)へと変化する。
従って、第一変速手段3と第二変速手段4との切り換え(図3(a)〜(c))、即ち低速モードと高速モードとの切り換えは、切換モード(図3(b))を介して行われ、第一及び第二センサ10,20に基づいて、演算手段60が予め設定された所定の変速比(本実施形態ではR1,R2=−0.2)を得た際に、制御手段6が、油圧調整手段55を介して切換手段5の連結及び非連結の動作を行う。
[第二実施形態]
次に、本発明に係る摩擦変速機の第二実施形態について説明する。図5は、第二実施形態の摩擦変速機を示す正面断面図である。図6は、第二実施形態の第一及び第二変速手段の変速原理を説明するための図である。図7は、第二実施形態の摩擦変速機の動作を示す要部断面図である。図8は、第一実施形態の摩擦変速機におけるトルク比と変速比との関係を示すグラフ図である。なお、第一実施形態と共通する部分については、説明を省略する。
図5及び図6に基づいて、摩擦変速機の構成について説明する。摩擦変速機は、第一実施形態と同様に、入力軸1、出力軸2、ケーシング100、ベアリング101,102を備えている。ケーシング100は、入力軸1側に内部に突出するボス部100aを備えている。このボス部100aに、支持軸受部101,101が設けられている。
本実施形態では、第一変速手段3は、入力軸1側に配置されている。第一変速手段3は、第一実施形態と同様に、第一コーン30、第一入力円板31、軌道リング32及び第一変速リング33を備えている。第一コーン30は、入力軸1に対して自転及び公転自在になっている。図5に示す通り、軌道リング32は、ケーシングのボス部100aの外周に嵌合されている。軌道リング32は、第一クランプ50を介して、ケーシングのボス部100aに対して連結及び非連結に切り換え可能になっている。
第一変速リング33は、キャリア70に設けられており、入出力軸の中心線12aの方向に進退自在になっている。後述するが、本実施形態では、第一実施形態と異なり、キャリア70は、入出力軸の中心線12aに対して回転自在になっている。従って、変速リング33は、中心線12aに対して自転(回転)する。
本実施形態では、第二変速手段4は、出力軸2側に配置されている。第二変速手段4は、第一実施形態と同様に、第二コーン40、第二入力円板41及び第二変速リング42を備えている。第二コーン40は、キャリア70に設けられた支持部104,105に回転支持されている。本実施形態では、キャリア70が回転自在なので、第二コーン40は、中心線12aに対して自転及び公転自在になっている。
第二変速リング42は、ケーシングのボス部100aの外周まで延設し、嵌合支持されている。第二変速リング42は、第二クランプ51を介して、ケーシングのボス部100aに対して連結及び非連結に切り換え可能になっている。なお、第二変速リング42は、ケーシング100の内部であればどこで支持されてもよい。
キャリア手段7は、第一実施形態と同様に、キャリア70及びレバー71を備えている。上述の通り、本実施形態では、キャリア70は、入出力軸の中心線12aの方向に進退自在であると共に、入出力軸の中心軸12aに対して回転自在になっている。従って、レバー71は、キャリア70に連結する部分71aが、キャリア70を回転自在にすると共に、進退移動可能なように嵌め込まれている。
キャリア70は、第一変速手段3の第一変速リング33と、第二変速手段4の支持部104,105とを備えている。レバー71は、駆動手段75に接続されている。キャリア70は、出力軸2に対してスプライン結合されている。そして、キャリア70は、入出力軸の中心線12a方向へ所定範囲内で進退移動可能になっている。従って、出力軸2は、キャリア70の回転と同一方向及び同一回転速度で回転する。
前述の通り、切換手段5において、第一クランプ50は、軌道リング32とケーシングのボス部100aとを連結及び非連結にするものであり、第二クランプ51は、第二変速リング42とケーシングのボス部100aとを連結及び非連結にするものである。従って、切換手段5は、軌道リング32及び第二変速リング42を、回転自在及び回転不能に切り換える。
第一実施形態と同様に、切換手段5は、油圧調整手段55を備えている。摩擦変速機は、第一回転センサ10、第二回転センサ20及び制御手段6を備えている。制御手段6は、演算手段60を備えている。
次に、図6に基づき、第一変速手段3及び第二変速手段4における変速原理を説明する。第一変速手段3における変速比(減速比)R1は、式(4)のように表される。
・ R1=N2/N1
={a(e・d−c・f)}/{d(a・e+b・f)} ・・・式(4)
前述の通り、第一コーン30は、自転しながら公転するが、入出力軸の中心線12aの方向には移動しない。第一変速リング33は、回転しながら、入出力軸の中心線12aの方向に進退移動する。第一入力円板31は、入力軸1の回転に伴って回転する。軌道リング32は、回転自在及び回転不能になっている。
本実施形態では、a=20mm、b=15mm、c=2〜13mm、d=35mm、e=12mm、f=31mmであり、その場合、第一変速手段の変速比R1=0〜0.3となる。
第二変速手段4における変速比R2は、式(5)のように表される。
・ R2=N2/N1
=(g・j)/(g・j+h・k) ・・・式(5)
前述の通り、第二コーン40は、自転しながら公転し、入出力軸の中心線12aの方向には進退移動する。第二入力円板41は、入力軸1の回転に伴って回転する。第二変速リング42は、回転自在及び回転不能になっている。
本実施形態では、g=14mm、h=4〜13mm、j=13〜4mm、k=37mmであり、その場合、第二変速手段の変速比R2=0.1〜0.55となる。
次に、図7及び図8に基づき、変速機の動作について説明する。前述の通り、第一変速手段の変速比R1と第二変速手段の変速比R2とは、0.1〜0.3の範囲で重なっている。そこで、本実施形態では、それぞれの変速比R1,R2=0.2と一致する時に、切換手段5が切り換え動作を行う(切換モード)。
そのため、入出力軸の中心線12aの方向に進退移動可能なキャリア70は、第一変速手段3における距離c=5.6mm(変速比R1=0.2)の時に、第二変速手段4における距離h=10.2mm、j=6.8mm(変速比R2=0.2)となるように、第一変速リング33及び第二コーン40が配置、設定されている。
図7(a)は、第一変速手段3の使用状態(第一領域)を示す。第一領域(低速モード)では、制御手段6によって、切換手段5が、第一クランプ50がボス部100aを連結(ON)し、第二クランプ51がボス部100aを連結しない(OFF)ようになっている。従って、第一変速手段3が、入力軸1の回転を出力軸2へ伝達して、第二変速手段4は出力軸2へ伝達しない。
入力軸1は、矢視Iの方向において反時計回りに回転している。これにより、第一入力円板31は、矢視Iの方向において反時計回りに回転する。そして、第一コーン30は、矢視Iの方向において反時計回りに回転(公転)しながら、矢視IIの方向において時計回りに回転(自転)する。軌道リング32は、非回転である。第一変速リング33は、キャリア70と共に、矢視Iの方向において反時計回りに回転する。
第一変速リング33を介してキャリア70が回転することにより、出力軸2が、矢視Iの方向において反時計回りに回転する。なお、この第一領域においても、入力軸1の回転によって、第二変速手段4の各機構40,41,42は動作するが、出力軸2へ伝達されないので説明を省略する。
第一実施形態と同様に、入力軸1の回転を出力軸2へ伝達する際、図7(a)に示す通り、先ず、キャリア手段7を、第一変速リング33がc=13mm(変速比R1=0)となる位置にする。このとき、変速比R1=0なので、入力軸1の回転は出力軸2へ伝達されない(出力軸2は停止する)。
そして、駆動手段75によって、キャリア手段7を入出力軸の中心線12aの方向(矢印IV)へ進退移動する。これにより、第一変速リング33は、矢印IVの方向へ移動し、距離cが13〜5.6mm(変速比R1=0〜0.2)の範囲で変化する。
第一実施形態と同様に、図8に示す通り、変速比R1=0〜0.2の第一領域において、変速比とトルク比との関係は、直線状に増減する直線領域と、曲線状に増減する曲線領域とがある。変速機を自動車等の車両に使用した際、この第一領域(低速モード)は、車両が停止から低速走行の間で変速する。
図7(b)は、第一変速手段と第二変速手段とを切り換える(第一領域と第二領域とを切り換える)時の状態を示す。前述の通り、本実施形態では、切換モードは、各変速比R1,R2=0.2に設定されており、この時、キャリア手段7は、第一変速リング33が距離c=5.6mmとなり、第二コーン40が距離h=10.2mm、j=6.8mmとなる。
そして、第一及び第二センサ10,20に基づいて、各変速比R1,R2=0.2となった際に、制御手段6によって、切換手段5における第一クランプ50及び第二クランプ51の双方が、ケーシングのボス部100aを連結(ON)する。これにより、入力軸1の回転は、第一変速手段3及び第二変速手段4の双方によって出力軸2へ伝達されるが、各変速比R1,R2が一致(R1,R2=0.2)しているので、出力軸2の回転は一致し安定している。
図7(c)は、第二変速手段4の使用状態(第二領域)を示す。この第二領域(高速モード)では、制御手段6によって、切換手段5は、第一クランプ50がボス部100aを連結しておらず(OFF)、第二クランプ51がボス部100aを連結する(ON)ようになっている。従って、第二変速手段4が、入力軸1の回転を出力軸2へ伝達して、第一変速手段3は出力軸2へ伝達しない。
入力軸1は、矢視Iの方向において反時計回りに回転している。これにより、第二入力円板41は、矢視Iの方向において反時計回りに回転する。第二変速リング42は、非回転である。そして、第二コーン40は、矢視IIIの方向において時計回りに回転(自転)する。さらに、第二コーン40は、キャリア70と共に、矢視Iの方向において反時計回りに回転(公転)する。
第二コーン40を介してキャリア70が回転することにより、出力軸2が、矢視Iの方向において反時計回りに回転する。なお、この第二領域においても、入力軸1の回転によって、第一変速手段3の各機構30,31,32は動作するが、上述の通り、出力軸2へ伝達されないので説明を省略する。
駆動手段75によって、キャリア手段7を矢印IVの方向へ進退移動する。これにより、第二コーン40は、矢印IVの方向へ進退移動し、距離hは10.2〜4mm、jは6.8〜13mm(変速比R2=0.2〜0.55)の範囲で変化する。
図8に示す通り、変速比R2=0.2〜0.55の第二領域において、変速比とトルク比との関係は曲線状に増減する。変速機を自動車等の車両に使用した際、この第二領域(高速モード)は、車両が中速から高速走行の間で変速する。
第一実施形態と同様に、第一変速手段3と第二変速手段4との切り換え(図7(a)〜(c))、即ち第一領域(低速モード)と第二領域(高速モード)との切り換えは、切換モード(図7(b))を介して行われ、第一及び第二センサ10,20に基づいて、演算手段60が所定の変速比(本実施形態ではR1,R2=0.2)を得た際に、制御手段6が、切換手段5の連結及び非連結の動作を行う。
[第三実施形態]
次に、本発明に係る摩擦変速機の第三実施形態について説明する。図9は、第三実施形態の摩擦変速機を示す正面断面図である。図10は、図9のA−A線断面図である。第三実施形態は、第一実施形態に反転手段8及びクラッチ手段21を設けたものである。従って、第一実施形態と共通する部分については、説明を省略する。
図9及び図10に示す通り、摩擦変速機は、反転手段8を備えている。反転手段8は、入力ギア80、伝達ギア81及び出力ギア82を備えている。本実施形態では、第一実施形態と異なり、伝達円板22は、出力軸2に対して回転自在である。即ち、伝達円板22は、出力軸2にスプライン結合(連結)されていないので、伝達円板22の回転が、直接的に出力軸2に伝達されないようになっている。
伝達円板22は断面コ字状になっており、伝達円板22の内側に、内歯状に入力ギア80が固定されている。出力軸2の外周に、外歯状に出力ギア82が固定されている。出力ギア82は、伝達円板22の内側に配置される。従って、出力ギア82と入力ギア80は、互いに対向している。
そして、入力ギア80と出力ギア82との間に、伝達ギア81が設けられている。入力ギア80は伝達ギア81に噛み合っており、伝達ギア81は出力ギア82に噛み合っている。複数(本実施形態では3つ)の伝達ギア81は、ケーシングに設けられた軸受部100bに軸支されている。従って、伝達ギア81は、自転するが、出力軸2周りには公転しない(公転不能)。
これにより、伝達円板22の回転は入力ギア80を介して伝達ギア81へ伝達され、伝達ギア81の回転が出力ギア82へ伝達され、出力ギア82の回転が出力軸2へ伝達される。そして、図10に示す通り、入力ギア80の回転方向は、反転して出力ギア82へ伝達される。従って、第一実施形態では、入力軸1と出力軸2の回転方向が異なる(反転する)が、本実施形態では、出力軸2の回転方向は、入力軸1と同一方向に回転する。
図9に示す通り、摩擦変速機は、クラッチ手段21を備えている。クラッチ手段21は、入力側係合部15及び出力側係合部25を備えている。入力側係合部15は、第一入力円板31に固定され連動されている。出力側係合部25は、出力軸2に設けられている。入力側係合部15と出力側係合部25とは、互いに対向している。
出力側係合部25は、アクチュエーター手段(図示略)を備えており、入出力軸の中心線12aの方向に進退移動可能になっている。そして、出力側係合部25が、入力側係合部15へ移動して噛合い係合することにより、入力軸1及び出力軸2が結合し、出力軸係合部25が、入力側係合部15から離脱することにより、入力軸1及び出力軸2が非結合となる。これにより、クラッチ手段21が、入力軸1と出力軸2とを結合、解除する。
さらに、出力側係合部25は、制御手段6に接続されている。制御手段6は、変速比R2<1.0のとき、第一実施形態と同様に、第一及び第二変速手段3,4によって入力軸1の回転を出力軸2へ伝達する。そして、制御手段6は、変速比R2=1.0(入力軸1の回転速度と出力軸2の回転速度とが同一)となった際に、切換手段の第一及び第二クランプ50,51の双方を非連結(OFF)として、第一及び第二変速手段3,4の双方による出力軸2への伝達を解除し、クラッチ手段21で入力軸1と出力軸2とを結合する。
これにより、高速走行時等(変速比R2>1.0)において、入力軸1の回転を直接、出力軸2へ伝達することができる。なお、上述の通り、反転手段8によって、出力軸2の回転方向は、入力軸1の回転方向と同一なので、出力軸2の回転速度及び回転方向は、入力軸1と同一である。
[第四実施形態]
次に、本発明に係る摩擦変速機の第四実施形態について説明する。図11は、第四実施形態の摩擦変速機を示す正面断面図である。図12は、(a)が図11のB−B線断面図、(b)が図11のC−C線断面図である。第四実施形態は、第二実施形態に増速手段9及びクラッチ手段21を設けたものである。従って、第二実施形態と共通する部分については、説明を省略する。
図11及び図12に示す通り、摩擦変速機は、増速手段9を備えている。増速手段9は、入力ギア90、出力ギア93、第一伝達ギア91及び第二伝達ギア92を備えている。本実施形態では、第二実施形態と異なり、キャリア70は、出力軸2に対して回転自在になっている。即ち、キャリア70は、出力軸2にスプライン結合(連結)されていないので、キャリア70の回転が、直接的に出力軸2に伝達されないようになっている。
キャリア70は、出力軸2方向に突出したボス部70aを有する。入力ギア90は、キャリアのボス部70aに外歯状に固定されている。そして、出力軸2の外周に、外歯状に出力ギア93が固定されている。
第一伝達ギア91及び第二伝達ギア92は、連結軸91aを介して連結されている。入力ギア90は第一伝達ギア91に噛み合っており、出力ギア93は第二伝達ギア92に噛み合っている。そして、第一及び第二伝達ギア91,92は、ケーシングに設けられた軸受部100bに軸支されている。従って、第一伝達ギア91と第二伝達ギア92とは、共に同一方向及び同一回転速度で自転するが、出力軸2の周りには公転しない(公転不能)。
これにより、キャリア70の回転は入力ギア90を介して第一伝達ギア91へ伝達され、第一伝達ギア91の回転が第二伝達ギア92へ伝達され、第二伝達ギア92の回転が出力ギア93へ伝達され、出力ギア93の回転が出力軸2へ伝達される。なお、第二実施形態と同様に、入力軸1の回転方向と出力軸2の回転方向は同一である。
ここで、入力ギア90の回転速度をw1、直径d1とし、第一伝達ギア91の回転速度をw2、直径d2とし、第二伝達ギア92の回転速度をw3、直径d3とし、出力ギア93の回転速度をw4、直径をd4とすると、下記式(6)及び式(7)が成り立つ。そして、第一及び第二伝達ギア91,92は同一回転速度(w2=w3)なので、式(6)及び式(7)から下記式(8)が成り立つ。
・ w2/w1=d1/d2 ・・・式(6)
・ w4/w3=d3/d4 ・・・式(7)
・ w4={(d1・d3)/(d2・d4)}w1 ・・・式(8)
式(8)より、d1:d2:d3:d4=2:1:1.5:1.5とすると、w4=2・w1となり、出力ギア93(入力軸2)の回転速度は入力ギア90(キャリア70)の回転速度の2倍となる。従って、第二実施形態では、変速比R1,R2=0〜0.55であるが、本実施形態では、変速比R1,R2=0〜1.1(0.55×2)となる。この増速手段9によって、第二実施形態に比して2倍の回転速度を伝達することができ、変速比R2>1.0とすることができる。
図11に示す通り、摩擦変速機は、クラッチ手段21を備えている。クラッチ手段21は、入力側係合部15及び出力側係合部25を備えている。第三実施形態と同様に、クラッチ手段21が、入力軸1と出力軸2とを結合、解除するようになっている。
出力側係合部25は、制御手段6に接続されている。制御手段6は、変速比R2<1.0のとき、第一及び第二変速手段3,4によって入力軸1の回転を出力軸2へ伝達する。そして、制御手段6は、変速比R2=1.0(入力軸1の回転速度と出力軸2の回転速度とが同一)となった際に、切換手段の第一及び第二クランプ50,51の双方を非連結(OFF)として、第一及び第二変速手段3,4の双方による出力軸2への伝達を解除し、クラッチ手段21で入力軸1と出力軸2とを結合するようになっている。さらに、変速比R1,R2>1.0のとき、入力軸1の回転を、直接出力軸2へ伝達できる。
[変形例]
次に、本発明に係る摩擦変速機の変形例について説明する。第一及び第二実施形態において、第一コーンの軌道面30bと軌道リング32との当接位置を変更することにより、第一変速手段3において、出力軸2の回転を正回転と逆回転とに切り換えることができる。例えば、図13に示す通り、距離e=9mmとすると、変速比R1=−0.1〜0.25となる(符号「−」〜「+」)ので、出力軸2の回転が連続的に正逆回転する。
また、上記各実施形態では、一つのキャリア70が、第一変速リング33と第二コーン40とを支持して進退移動させるが、二つのキャリア70,70で、それぞれ33,40を支持し、それぞれ33,40を別々に進退移動することができる。また、切換手段5は、クランプ連結でなくとも磁気連結、真空圧連結、液圧連結などでもよい。