JP4883177B2 - 質量分析装置 - Google Patents

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Description

本発明は、閉じた周回軌道に沿ってイオンを繰り返し飛行させるための多重周回イオン光学系を備える質量分析装置に関する。
一般に飛行時間型質量分析装置(TOF−MS)では、一定のエネルギーで以て加速したイオンが質量に応じた飛行速度を持つことに基づき、一定距離を飛行するのに要する時間を計測することで、その飛行時間からイオンの質量を算出する。従って、質量分解能を向上させるためには、飛行距離を伸ばすことが特に有効である。しかしながら、直線的に飛行距離を伸ばそうとすると装置が大形化することが避けられず実用的でないため、飛行距離を伸ばすために従来、多重周回飛行時間型質量分析装置と呼ばれる質量分析装置が開発されている。
こうした多重周回飛行時間型質量分析装置においてイオンを周回させるための多重周回イオン光学系は、一般に、閉軌道を有し時間収束性の単位構造をもつイオン光学系である(例えば非特許文献1参照)。ここで言う時間収束とは、イオンの飛行時間が、1次近似においてイオンビームの初期位置、初期角度、及び初期エネルギーに依存しないことを意味する。多重周回イオン光学系の構成要素としては、構成が簡単であって汎用性に優れた扇形電場がよく利用される。例えば特許文献1などに記載の多重周回飛行時間型質量分析装置では、複数の扇形電場を用いることで略8の字形状の周回軌道を形成し、この周回軌道に沿ってイオンを多数回、周回飛行させることにより、実効的に長い飛行距離を確保してイオンの質量分解能を高めるようにしている。
こうした質量分析装置では、周回軌道上にイオン生成のためのイオン源を設けたりイオン検出のためのイオン検出器を設けたりする例もあるが、多くの場合、周回軌道の外側で発生させたイオンを周回軌道に入射して所定周回数だけ飛行させ、その後にイオンを周回軌道から離脱させて周回軌道の外側に設置したイオン検出器に導入して検出する。このように周回軌道へのイオン入射や周回軌道からのイオン出射を行うために、特許文献1に記載の装置では、扇形電極にイオンが通過可能な開口を穿設し、その扇形電極をパルス的に駆動することにより、周回軌道に対し直線的にイオン入射を行う方法が採用されている。また、周回軌道からのイオンの出射についても同様にしている。
このようなイオン入出射方法では、入出射のための直線的な自由飛行空間にはイオンのエネルギーのばらつきについての時間収束性がないため、イオンの出発点(通常はイオン源)からイオンの検出点(通常はイオン検出器)までの全イオン通過経路でみた場合に、多重周回イオン光学系が持つ本来の時間収束性が確保されなくなる。それが分析精度の低下の一因となる。
また、イオンを周回軌道に沿って飛行させるために静的に駆動(つまり直流電圧を印加)すればよい、多重周回イオン光学系を構成する扇形電極に対し、パルス駆動可能な電源を接続する必要があるため、該電源により直流電圧を扇形電極に印加する際の電圧の安定度を確保することが難しく、これが分析精度に悪影響を及ぼすおそれがある。さらにまた、そうした直流電圧の安定度の高いパルス駆動電源を用意する必要があるために、コストが高くつくという問題もある。
一方、多重周回イオン光学系へのイオン入出射を行う他の方法としては、非特許文献2などに記載のように、イオン入射用及びイオン出射用にそれぞれ1つの扇形電場を追加する方法がある。しかしながら、追加した扇形電場を含めた入出射イオン光学系は、多重周回イオン光学系本来の時間収束点での時間収束が考慮されておらず、多重周回を行わずに入出射イオン光学系をそれぞれ通過した場合での時間収束を不十分ながら達成しているだけである。そのため、任意の周回数において時間収束性を確保するには、理論的には、多重周回イオン光学系が、収束点において時間的な収束だけでなく、イオン軌道の変位と角度が周回前と同じ状態となる「完全収束条件」と呼ばれる非常に厳しい条件を満足することが必要である。この条件を満たすようなイオン光学系を設計することは非常に難しく、また可能であっても光学素子の配置や寸法などの自由度が非常に小さく使いにくいものとなる。
特開平11−195398号公報 豊田(M. Toyoda)ほか3名、「マルチ-ターン・タイム-オブ-フライト・マス・スペクトロメーターズ・ウィズ・エレクトロスタティック・セクターズ(Multi-turn time-of-flight mass spectrometers with electrostatic sectors)」、ジャーナル・オブ・マス・スペクトロメトリー(J. Mass Spectrom.)、38、pp.1125−1142(2003) 内田ほか5名、「ポータブル多重周回飛行時間型質量分析計‘MULTUM S’の開発」、第53回質量分析総合討論会講演要旨集、1P−P1−28、 pp.100−101(2005) 石原(M. Ishihara)ほか2名、「パーフェクト・スペース・アンド・タイム・フォーカシング・イオン・オプティクス・フォー・マルチターン・タイム・オブ・フライト・マス・スペクトロメーターズ(Perfect space and time focusing ion optics for multiturn time of flight mass spectrometers)」、インターナショナル・ジャーナル・オブ・マス・スペクトロメトリー(Int. J. Mass Spectrom.)、197、pp.179−189(2000)
本発明は上記課題に鑑みて成されたものであり、その主な目的は、多重周回イオン光学系を構成する扇形電場を静的に保ったまま周回軌道に対してイオンの入出射が可能で、且つ、多重周回イオン光学系本来の時間収束点を基準として時間収束を達成することができるイオン入射光学系及び/又はイオン出射光学系を持つ質量分析装置を提供することである。
上記課題を解決するために成された第1発明に係る質量分析装置は、複数の扇形電場と電場のない自由飛行空間との組み合わせにより閉じた周回軌道を形成する多重周回イオン光学系を有し、該周回軌道に沿ってイオンを繰り返し飛行させることでイオンを質量電荷比に応じて分離する質量分析装置において、
前記多重周回イオン光学系は、少なくとも1つの扇形電場を含み、イオンの初期位置及び初期角度のばらつきに対する時間収束性を有するとともにイオンが持つエネルギーに依存した時間収差係数が正値である条件を満たす基本イオン光学要素と、該基本イオン光学要素にイオンを入射するべくイオンを案内する入射側自由飛行空間と、該基本イオン光学要素から出たイオンを案内する出射側自由飛行空間と、から成る時間収束単位構造が複数接続されて成り、
前記複数の時間収束単位構造の中の1つの時間収束単位構造における入射側自由飛行空間中に、入射イオン光学系用の基本イオン光学要素を、その出射軸が前記入射側自由飛行空間の入射軸に一致するように挿入し、
前記入射イオン光学系用の基本イオン光学要素の入射端とイオン源であるイオン出発点との間に設けられる入射側自由飛行空間の長さが、該入射イオン光学系用の基本イオン光学要素と前記多重周回イオン光学系における複数の時間収束単位構造とで生じるエネルギーに依存した時間収差係数の総和を打ち消すように、該入射イオン光学系用の基本イオン光学要素の出射端から該基本イオン光学要素が挿入された時間収束単位構造における基本イオン光学要素の入射端までの距離、該時間収束単位構造へのイオン入射点と該単位構造の基本イオン光学要素へのイオン入射点との間の距離である入射側自由飛行空間の長さ、及び、該時間収束単位構造の基本イオン光学要素からのイオン出射点と該時間収束単位構造からのイオン出射点との間の距離である出射側自由飛行空間の長さ、から一義的に決められていることを特徴としている。
また、上記課題を解決するために成された第2発明に係る質量分析装置は、複数の扇形電場と電場のない自由飛行空間との組み合わせにより閉じた周回軌道を形成する多重周回イオン光学系を有し、該周回軌道に沿ってイオンを繰り返し飛行させることでイオンを質量電荷比に応じて分離する質量分析装置において、
前記多重周回イオン光学系は、少なくとも1つの扇形電場を含み、イオンの初期位置及び初期角度のばらつきに対する時間収束性を有するとともにイオンが持つエネルギーに依存した時間収差係数が正値である条件を満たす基本イオン光学要素と、該基本イオン光学要素にイオンを入射するべくイオンを案内する入射側自由飛行空間と、該基本イオン光学要素から出たイオンを案内する出射側自由飛行空間と、から成る時間収束単位構造が複数接続されて成り、
前記複数の時間収束単位構造の中の1つの時間収束単位構造における出射側自由飛行空間中に、出射イオン光学系用の基本イオン光学要素を、その入射軸が前記出射側自由飛行空間の出射軸に一致するように挿入し、
前記出射イオン光学系用の基本イオン光学要素の出射端とイオン検出器であるイオン検出点との間の出射側自由飛行空間の長さが、該出射イオン光学系用の基本イオン光学要素と前記多重周回イオン光学系における複数の時間収束単位構造とで生じるエネルギーに依存した時間収差係数の総和を打ち消すように、該出射イオン光学系用の基本イオン光学要素の入射端から該基本イオン光学要素が挿入された時間収束単位構造における基本イオン光学要素の出射端までの距離、該時間収束単位構造へのイオン入射点と該単位構造の基本イオン光学要素へのイオン入射点との間の距離である入射側自由飛行空間の長さ、及び、該時間収束単位構造の基本イオン光学要素からのイオン出射点と該時間収束単位構造からのイオン出射点との間の距離である出射側自由飛行空間の長さ、から一義的に決められていることを特徴としている。
第1及び第2発明に係る質量分析装置において、上記扇形電場は、例えば外側電極と内側電極とを一対とする扇形電極により形成されるものとすることができる。また、時間収束単位構造を構成する、及び入射イオン光学系や出射イオン光学系に含まれる基本イオン光学要素は、少なくとも1つの扇形電場により構成可能であるが、一般的には、複数の扇形電場と隣接する扇形電場で挟まれる自由飛行空間とにより構成すると、配置やサイズの自由度が大きくなる。また、イオン出発点とは一般的にはイオンが生成されるイオン源が配置される位置であるが、イオンの飛行開始点であればよいので、一時的にイオンを保持し、所定のタイミングでイオンを出射させるイオントラップなどが配置される位置であってもよい。また、イオン検出点とは一般的にはイオンを検出するイオン検出器が配置される位置である。なお、入射イオン光学系や出射イオン光学系の基本イオン光学要素は、周回軌道上に配置されるから、扇形電極と周回軌道とが交わる場合には、周回軌道に沿って飛行するイオンが通過する可能な適宜の開口を扇形電極に設けるようにすればよい。
第1及び第2発明に係る質量分析装置では、多重周回イオン光学系に含まれる扇形電場は静的な電場であればよく、入射イオン光学系を通して周回軌道にイオンを導入する際に、又は出射イオン光学系を通して周回軌道からイオンを取り出す際に、その入射イオン光学系や出射イオン光学系の基本イオン光学要素に含まれる扇形電極に所定の電圧を印加して扇形電場を形成すればよい。そして、イオンが周回軌道に沿って周回飛行する際には、入射イオン光学系や出射イオン光学系の基本イオン光学要素に含まれる扇形電極に電圧を印加せず、該電極による扇形電場の影響をなくしておくようにする。従って、第1及び第2発明に係る質量分析装置によれば、多重周回イオン光学系に含まれる扇形電極には直流電圧を印加可能な電源を接続しさえすればよく、イオンが繰り返し周回飛行するときの扇形電場中の電位の安定性を確保してイオンの飛行軌道のずれを抑えることができる。それにより、質量分析の精度を高くすることができ、特に飛行距離を長くするために周回数を多くした場合にその効果が大きい。
第1発明に係る質量分析装置では、入射イオン光学系用の基本イオン光学要素と多重周回イオン光学系における時間収束単位構造とで生じるエネルギーに依存した時間収差係数の総和を打ち消すために、具体的には、前記入射イオン光学系用の基本イオン光学要素の入射端とイオン出発点との間の入射側自由飛行空間の長さL0は、該入射イオン光学系用の基本イオン光学要素の出射端から該基本イオン光学要素が挿入された時間収束単位構造における基本イオン光学要素の入射端までの距離をL1’、該時間収束単位構造における入射側自由飛行空間の長さをL1、該時間収束単位構造における出射側自由飛行空間の長さをL2としたときに、
L0=2(L1+L2)−(L1’+L2)
なる式で決まる構成とするとよい。
同様に第2発明に係る質量分析装置では、出射イオン光学系用の基本イオン光学要素と多重周回イオン光学系における時間収束単位構造とで生じるエネルギーに依存した時間収差係数の総和を打ち消すために、具体的には、前記出射イオン光学系用の基本イオン光学要素の出射端とイオン検出点との間の出射側自由飛行空間の長さL0は、該出射イオン光学系用の基本イオン光学要素の入射端から該基本イオン光学要素が挿入された時間収束単位構造における基本イオン光学要素の出射端までの距離をL1’、該時間収束単位構造における入射側自由飛行空間の長さをL1、該時間収束単位構造における出射側自由飛行空間の長さをL2としたときに、
L0=2(L1+L2)−(L1’+L2)
なる式で決まる構成とするとよい。
上記入射イオン光学系用の基本イオン光学要素が挿入された時間収束単位構造の出射側自由飛行空間の終点、及び上記出射イオン光学系用の基本イオン光学要素が挿入された時間収束単位構造の入射側自由飛行空間の始点は、いずれも同一質量のイオンが持つエネルギーのばらつきに拘わらず飛行時間が同じとなる時間収束点である。従って、上記のような条件を満たすように入射イオン光学系用の基本イオン光学要素の入射端とイオン出発点との間の入射側自由飛行空間の長さ及び、出射イオン光学系用の基本イオン光学要素の出射端とイオン検出点との間の出射側自由飛行空間の長さを決めることは、多重周回イオン光学系の中の時間収束点を基準として時間収束が達成されるようなイオン出発点の位置及びイオン検出点の位置を決めることに相当する。
そのため、イオン出発点から発したイオンは入射イオン光学系を経て多重周回イオン光学系による周回軌道に乗り、入射イオン光学系用の基本イオン光学要素が挿入された時間収束単位構造の出射側自由飛行空間の終点に達した時点で一旦時間収束が満たされることになり、それ以降の周回回数等に関係なく時間収束性が確保される。また、周回軌道に沿って周回しているイオンが出射イオン光学系を経て周回軌道から離脱してイオン検出点に達した時点でも時間収束性が確保される。これによって、同一質量のイオンが持つエネルギーにばらつきがあった場合でも、それらイオンはほぼ同じ飛行時間を有することになるので、高い質量分解能と質量精度とを達成することができる。また、入射イオン光学系用の基本イオン光学要素や出射イオン光学系用の基本イオン光学要素の挿入位置は自由度が大きいので、例えば装置のサイズをできるだけ小さくするように適宜の配置を決めることができる。
なお、入射イオン光学系又は出射イオン光学系用の基本イオン光学要素は、少なくとも1つの扇形電場を含み、イオンの初期位置及び初期角度のばらつきに対する時間収束性を有するとともにイオンが持つエネルギーに依存した時間収差係数が正値である条件を満たすものでありさえすればよいが、多重周回イオン光学系を構成する時間収束単位構造の基本イオン光学要素と同一の構成とすれば、用意する扇形電極の種類を統一することができるのでコスト削減に有利である。
多重周回イオン光学系の一例を示す概略構成図。 図1に示した多重周回イオン光学系に入射イオン光学系を付加した概略構成図。 本発明の一実施例(実施例1)による多重周回イオン光学系において入出射イオン光学系を設ける前の状態を示す概略構成図。 図3に示した多重周回イオン光学系に入射イオン光学系を付加した概略構成図。 図3に示した多重周回イオン光学系に入出射イオン光学系を付加した概略構成図。 本発明の他の実施例(実施例2)による多重周回イオン光学系において入出射イオン光学系を設ける前の状態を示す概略構成図。 図6に示した多重周回イオン光学系に入射イオン光学系を付加した概略構成図。 図6に示した多重周回イオン光学系に入出射イオン光学系を付加した概略構成図。 イオンの軌道の表現法を説明するための参照図。
符号の説明
T1、T2、T3、T4…時間収束単位構造
P1、P2、P3、P4…時間収束点
Pd…イオン検出点
Ps…イオン出発点
10、30…基本イオン光学要素
11、31…入射側自由飛行空間
12…出射側自由飛行空間
40、41、46、50、51、55、56、60、61、70、71、75、76…扇形電場
43、48、53、57、63、68、73、77…自由飛行空間
42、47、52、62、67、72、…入射側自由飛行空間
44、49、58、64、69、78…出射側自由飛行空間
まず、以降の説明に使用するイオンの軌道の表現法について図9を参照しながら説明する。いま、イオンが図中、左方の入射面から入射し、扇形電場などを含む任意のイオン光学系を通過した後に図中、右方の出射面から出射する場合を考える。便宜上、図9ではイオンの中心軌道を直線的に描いている。このイオンの進行方向をZ方向とする。また、中心軌道を通る特定エネルギーを有し特定の質量電荷比を持つイオンを基準イオンとして定める。位置、角度(飛行方向)及び運動エネルギーに関し、基準イオンからずれた初期値を有して入射面を出発したイオンの、出射面における中心軌道に対する変位(ずれ)は、周知のイオン光学系の理論より次のような一次近似式で表される。
x=(x|x)x0+(x|a)a0+(x|d)d …(1)
a=(a|x)x0+(a|a)a0+(a|d)d …(2)
y=(y|y)y0+(y|b)b0 …(3)
b=(b|y)y0+(b|b)b0 …(4)
l=(l|x)x0+(l|a)a0+(l|d)d …(5)
ここで、x0、a0は入射面における周回軌道面内で中心軌道に直交する方向(図9中のX方向)の位置及び中心軌道に対する角度(飛行方向)のずれ量、y0、b0は入射面における周回軌道面に垂直な平面内で中心軌道に直交する方向の位置及び中心軌道に対する角度のずれ量である。x、aは出射面における周回軌道面内で中心軌道に直交する方向の位置(図9中のX方向)及び中心軌道に対する角度の変位量、y、bは出射面における周回軌道面に垂直な平面内で中心軌道に直交する方向(図9中のY方向)の位置及び中心軌道に対する角度の変位量である。dは入射面におけるエネルギーのずれの割合である。lは任意イオンの基準イオンに対する中心軌道に平行な方向への飛行距離のずれ(つまり進み又は遅れ)を表し、基準イオンに対する飛行時間のずれに対応する。また、(x|x)、…、(l|d)は1次収差係数と呼ばれ、イオン光学系において括弧()内の記号の要素により決まる定数である。(1)〜(4)式中に現れる1次収差係数が空間的な軌道安定性に影響する空間収差係数であり、(5)式中に現れる1次収差係数が時間収束性に影響する時間収差係数である。
一般に、時間収束条件は、上記の1次時間収差係数(l|x)、(l|a)、(l|d)に関して次式で与えられることが知られている。
(l|x)=(l|a)=(l|d)=0 …(6)
イオンが複数のイオン光学要素(通常は電場を形成する電極)を順次通過する場合に、n番目のイオン光学要素を通過した後の各収差係数は、イオン光学の理論により次のように計算される。
(x|x)n=(x|x)(x|x)n-1+(x|a)(a|x)n-1 …(7)
(a|a)n=(a|x)(x|a)n-1+(a|a)(a|a)n-1 …(8)
(l|x)n=(l|x)(x|x)n-1+(l|a)(a|x)n-1+(l|x)n-1 …(9)
(l|a)n=(l|x)(x|a)n-1+(l|a)(a|a)n-1+(l|a)n-1 …(10)
(l|d)n=(l|x)(x|d)n-1+(l|a)(a|d)n-1+(l|d)n-1+(l|d) …(11)
上記(7)〜(11)式で下付きの添え字(例えばn−1)が付された収差係数は、その指標で示される数のイオン光学要素を順に通過した後の収差係数を表し、無指標の収差係数はn番目のイオン光学要素単体での収差係数を表す。なお、ここではX方向のみについて述べるが、Y方向についても同様である。
続いて、多重周回イオン光学系を構成する時間収束単位構造について考察する。一般に、イオン光学系の入射側及び出射側には、イオン光学要素のない、つまり電場や磁場のない自由飛行空間が確保される。図1は多重周回イオン光学系の一例を示す概略図である。この例では、1周の周回軌道が同一の2つの時間収束単位構造T1、T2により形成される。時間収束単位構造T1(及びT2)は入射側に時間収束点P1、出射側に時間収束点P2を有し、イオンを略円弧形状に飛行させる基本イオン光学要素10の前段に長さL1の自由飛行空間11、後段に長さL2の自由飛行空間12が存在する。即ち、この例では、イオンが周回軌道を半周する毎に時間収束点を持つ。
上記(7)〜(11)式を行列で表現したものはトランスファマトリクスと呼ばれ、長さLの自由飛行空間のトランスファマトリクスは、
Figure 0004883177
である。以降、トランスファマトリクスはX方向に関し(12)式と同様の構造であるものとする。時間収束単位構造のうち入出射自由飛行空間を除く部分、つまり基本イオン光学要素のトランスファマトリクスを、
Figure 0004883177
と表す。
図1に示したように、入射側自由飛行空間及び出射側自由飛行空間の長さをそれぞれL1、L2とすると、時間収束単位構造全体のトランスファマトリクスは、
Figure 0004883177
より計算され、時間収差係数はそれぞれ、
(l|x)t=(l|x) …(15)
(l|a)t=(l|x)L1+(l|a) …(16)
(l|d)t=(l|d)−(L1+L2)/2 …(17)
となる。下付きの添え字tは全体での収差係数を意味するものとする。
時間収束が達成されているとすると、(6)式より、
(l|x)t=(l|a)t=(l|d)t=0
であるから、(15)〜(17)式は、
(l|x)t=(l|x)=0 …(18)
(l|a)t=(l|x)L1+(l|a)=(l|a)=0 …(19)
(l|d)t=(l|d)−(L1+L2)/2=0 …(20)
となる。即ち、飛行時間収束のうち(l|x)及び(l|a)に関しては、入出射自由飛行空間を除いた基本イオン光学要素のみで達成しており、入出射の自由飛行空間の長さには依存しない。イオン光学特性の観点から見た入出射自由飛行空間の作用は、入出射自由飛行空間の長さの総和によって、入出射自由飛行空間を除いた基本イオン光学要素で生じるエネルギーに依存した時間収差係数(l|d)のみを打ち消すことであることが分かる。上記基本イオン光学要素の特徴としては、(18)、(19)式より、
(l|x)=(l|a)=0、(l|d)>0 …(21)
の条件を満足していることである。換言すれば、この(21)式を満たすような、入出射自由飛行空間を持たないイオン光学要素が基本イオン光学要素であると言える。
上記のイオン光学的な知見から、多重周回イオン光学系として既に存在する時間収束単位構造とその時間収束点P(図1中のP1、P2)に対し、それと組み合わせて時間収束点Pでの時間収束を達成するようなイオン光学系の候補として、基本イオン光学要素を挙げることができる。(18)、(19)式の通り、基本イオン光学要素は既にそれ自身で初期位置及び初期角度に対する時間収束を達成している。エネルギーに対する時間収束は、自由飛行空間の距離の調整により容易に達成することが可能である。
一例として、図1において、時間収束単位構造T1の入射側自由飛行空間中に別の基本イオン光学要素を挿入し、時間収束点P2において時間収束を達成するような入射イオン光学系を設計する場合について説明する。図2にこの入射イオン光学系を付加した状態の概略図を示す。
まず、別の基本イオン光学要素30を、時間収束単位構造T1の入射側自由飛行空間11に、基本イオン光学要素10の入射端から適当な距離L1’を設けて配置する。この時点で、挿入した基本イオン光学要素30に対する入射側自由飛行空間31の距離をどのようにとっても、多重周回イオン光学系の時間収束点P2における初期位置及び初期角度に対する時間収束性は確保されている。残るのはエネルギーに対する時間収束性であるが、この時点で、入射イオン光学系に存在する2つの基本イオン光学要素30、10により生じるエネルギーに対する時間収差係数は2(l|d)である。従って、(20)式より、入射イオン光学系の中で2つの基本イオン光学要素30、10を除く自由飛行空間の総距離がL1+L2であれば、時間収束点P2におけるエネルギーに対する時間収束が達成されることが分かる。
以上のことから、挿入した基本イオン光学要素に対する入射側自由飛行空間31の長さL0は、
L0=2(L1+L2)−(L1’+L2) …(22)
であればよいと結論付けることができる。
上記のように追加的に挿入される基本イオン光学要素は、必ずしも時間収束単位構造を構成することを意図したものである必要はなく、基本イオン光学要素として要求される特性である(21)式の条件を満たすものでありさえすればよい。例えば、(l|d)’=(L3+L4)/2、であるような基本イオン光学要素を採用した場合、
L0=(L1+L2+L3+L4)−(L1’+L2) …(23)
となる。
また、出射イオン光学系についても、上述したような入射イオン光学系の場合と同様の手順で設計することが可能である。即ち、多重周回イオン光学系の時間収束点を出発点として、基本イオン光学要素を時間収束単位構造の出射側自由飛行空間に配置し、追加した基本イオン光学要素の出射側自由飛行空間の距離を調節することによって、時間収束を達成する出射イオン光学系を容易に設計することができる。
次に、本願発明者がシミュレーションを用いた軌道計算により時間収束性が達成されることを確認した具体的な構成例を説明する。
図3は本発明の一実施例(実施例1)による多重周回イオン光学系において入射イオン光学系を設ける前の、つまり周回軌道のみを実現した状態の概略図である。また、表1にはこの多重周回イオン光学系を構成する各要素のパラメータを示す。なお、表1中の括弧[]内の符号は図3中の各要素の符号に対応している(以下の各表でも同様)。
Figure 0004883177
この多重周回イオン光学系において、1周の周回軌道は2つの時間収束単位構造T1、T2により形成される。1つの時間収束単位構造T1において、基本イオン光学要素は、それぞれ外側電極と内側電極とから成る扇形電極により形成される2つの扇形電場40、41と、その2つの扇形電場40、41の間に存在する長さLの自由飛行空間43とを含む。扇形電場40、41の中心軌道半径は共通でR1=1であり、偏向角は前段の扇形電場40が23.8[deg]、後段の扇形電場41が156.2[deg]である。この基本イオン光学要素に対し、入射側に長さL1の自由飛行空間42、出射側に長さL2の自由飛行空間44が設けられ、時間収束点P1から出発したイオンが点P2で時間収束することを担保している。他の時間収束単位構造T2も時間収束単位構造T1と全く同じ構成及びパラメータである。この多重周回イオン光学系については、半周毎の時間収束点P1、P2において、(l|x)=(l|a)=(l|d)=0となることを数値計算により確認している。
図4は図3に示した多重周回イオン光学系に本発明による入射イオン光学系を設けた場合の一例の概略構成図である。また表2にはこのときの各要素のパラメータを示す。
Figure 0004883177
時間収束単位構造T1における入射側の自由飛行空間42に、扇形電場50、51と自由飛行空間53とを含む新たな基本イオン光学要素を挿入しており、その扇形電場51の出射端面と時間収束単位構造T1の扇形電場40の入射端面との間の自由飛行空間の距離L1’を0.2となるようにしている。新たに追加した基本イオン光学要素のパラメータは、時間収束単位構造T1、T2のものと全く同じである。
ここで、イオン出発点Psから扇形電場50の入射端面までの間の入射側自由飛行空間52の距離L0を(22)式により求め、L0=1.7288と決定した。こうして設計した入射イオン光学系に対し、多重周回イオン光学系の時間収束点P2において(l|x)=(l|a)=(l|d)=0が達成されることを、数値計算により確認した。即ち、イオン出発点Psから発したイオンは図4中に太い一点鎖線で示した中心軌道を通って時間収束点P2に達した時点で時間収束が達成されているので、それ以降、2つの時間収束単位構造T1、T2で形成される周回軌道上を周回するイオンの時間収束点P1、P2における時間収束性も確保することができる。また、上述した理由により、距離L1’はL1以下の範囲で任意に決めることができるから、扇形電場51を形成する電極は扇形電場46を形成する電極との干渉がないような位置に、或いは全体の装置のサイズを適当に小さくするような位置に適宜調整可能である。
なお、周回軌道を確保するために、扇形電場51を形成する電極(外側電極)にはイオン通過開口を設けることが必要である。この開口を穿設したことにより扇形電場51に乱れが生じるおそれがあるが、これを軽減するために例えば開口に金属製のメッシュやワイヤを張設したり或いは電場補正電極を設けたりすればよい。
一方、上記周回軌道上を飛行しているイオンを外部に取り出すための出射イオン光学系に関しても、上記入射イオン光学系と同様に構成することができる。図5は図4に示した多重周回イオン光学系にさらに本発明による出射イオン光学系を設けた場合の一例の概略構成図である。即ち、時間収束単位構造T1における出射側の自由飛行空間44に、扇形電場55、56と自由飛行空間57とを含む新たな基本イオン光学要素を挿入しており、その扇形電場55の入射端面と時間収束単位構造T1の扇形電場41の出射端面との間の自由飛行空間の距離L1’を0.2となるようにしている。ここで新たに追加した基本イオン光学要素のパラメータも、時間収束単位構造T1、T2のものと全く同じである。また、扇形電場56の出射端面から検出点Pdまでの間の出射側自由飛行空間58の距離L0も(22)式により求めた1.7288と決定した。このような構成の出射イオン光学系について、多重周回イオン光学系の時間収束点P1を出発点として検出点Pdでの時間収束の達成を数値計算により確認している。
なお、基本イオン光学要素を接続する際に、扇形電場による偏向の向きは時間収差係数に影響しないため、設置面積等に配慮して適宜に偏向の向きを変えることができる。
図6は上記実施例とは異なる構成の実施例2による多重周回イオン光学系において入射イオン光学系を設ける前の、つまり周回軌道のみを実現した状態の概略図である。また、表3にはこの多重周回イオン光学系を構成する各要素のパラメータを示す。
Figure 0004883177
この実施例2の多重周回イオン光学系においても、1周の周回軌道は2つの時間収束単位構造T3、T4により形成される。1つの時間収束単位構造T3において、基本イオン光学要素は、それぞれ外側電極と内側電極とから成る扇形電極により形成される2つの扇形電場60、61と、その2つの扇形電場60、61の間に存在する長さLの自由飛行空間63とを含む。扇形電場60、61は全く同一構成であり、その中心軌道半径はR1=1、偏向角は157.29[deg]である。この基本イオン光学要素に対し、入射側に長さL3の自由飛行空間62、出射側に長さL4の自由飛行空間64が設けられ、時間収束点P3から出発したイオンが点P4で時間収束することを担保している。他の時間収束単位構造T4も時間収束単位構造T3と全く同じ構成及びパラメータである。この多重周回イオン光学系についても、半周毎の時間収束点P3、P4において、(l|x)=(l|a)=(l|d)=0となることを数値計算により確認している。
図7は図6に示した多重周回イオン光学系に本発明による入射イオン光学系を設けた場合の一例の概略構成図である。また表4にはこのときの各要素のパラメータを示す。
Figure 0004883177
既に述べたように、入出射イオン光学系として組み合わせる基本イオン光学要素は必ずしもそれ自身の基本イオン光学要素である必要はない。入出射イオン光学系として追加する基本イオン光学要素の選択の判断基準としては、時間収束性だけでなくイオン透過率の特性も重要である。また、実用上、全体の設置面積も重要な判断要因となる。イオン透過率の観点からは、入出射イオン光学系を通過した後に、イオン軌道の変位や角度が広がらないような基本イオン光学要素を組み合わせることが必要である。図6及び表3に示した多重周回イオン光学系に関しては、それ自身の基本イオン光学要素を入出射イオン光学系のために組み合わせた場合、数値計算の結果、イオン軌道の変位や角度の広がりが大きくなってしまうことが判明した。そこで、ここでは、実施例1の基本イオン光学要素を図6に示した多重周回イオン光学系に組み合わせて入出射イオン光学系を構成することとした。
即ち、時間収束単位構造T3における入射側の自由飛行空間62に、扇形電場40、41、自由飛行空間43と同一の扇形電場70、71、自由飛行空間73を含む新たな基本イオン光学要素を挿入し、その扇形電場71の出射端面と時間収束単位構造T3の扇形電場60の入射端面との間の自由飛行空間の距離L3’を1.0となるようにしている。そして、イオン出発点Psから扇形電場70の入射端面までの間の入射側自由飛行空間72の距離L0を(23)式により求め、L0=1.8858と決定した。こうして設計した入射イオン光学系に対し、多重周回イオン光学系の時間収束点P4において(l|x)=(l|a)=(l|d)=0が達成されることを、数値計算により確認した。もちろん、L3’は電極の配置に無理がないように適宜調整可能である。
出射イオン光学系に関しても同様の構成が可能である。図8は図7に示した多重周回イオン光学系にさらに本発明による出射イオン光学系を設けた場合の一例の概略構成図である。即ち、時間収束単位構造T3における出射側の自由飛行空間64に、扇形電場75、76と自由飛行空間77とを含む新たな基本イオン光学要素を挿入しており、その扇形電場75の入射端面と時間収束単位構造T3の扇形電場61の出射端面との間の自由飛行空間の距離L4’を1.0となるようにしている。ここで新たに追加した基本イオン光学要素のパラメータは、入射イオン光学系を形成するために用いた時間収束単位構造T1のものと全く同じである。また、扇形電場76の出射端面から検出点Pdまでの間の出射側自由飛行空間78の距離L0も(23)式により求めた1.8858と決定した。
このような構成の出射イオン光学系について、多重周回イオン光学系の時間収束点P3を出発点として検出点Pdでの時間収束の達成を数値計算により確認している。なお、基本イオン光学要素の接続時の偏向の向きは、設置面積が小さくなるように決定している。電極同士の接触等の問題がなければ十分に実現可能な配置である。当然、偏向の向きを互いに反転した配置においても、時間収束性に影響はない。
以上、具体的に説明したように、本発明によれば、多重周回イオン光学系の周回軌道上の時間収束点を基準として時間収束を達成できる入出射イオン光学系を容易に設計することができる。また、イオン光学素子の配置の自由度が比較的広いので、装置の小形化にも有利である。
なお、上記実施例は本発明の一例にすぎないから、本発明の趣旨の範囲で適宜変形、修正、追加を行っても本願請求の範囲に包含されることは当然である。

Claims (6)

  1. 複数の扇形電場と電場のない自由飛行空間との組み合わせにより閉じた周回軌道を形成する多重周回イオン光学系を有し、該周回軌道に沿ってイオンを繰り返し飛行させることでイオンを質量電荷比に応じて分離する質量分析装置において、
    前記多重周回イオン光学系は、少なくとも1つの扇形電場を含み、イオンの初期位置及び初期角度のばらつきに対する時間収束性を有するとともにイオンが持つエネルギーに依存した時間収差係数が正値である条件を満たす基本イオン光学要素と、該基本イオン光学要素にイオンを入射するべくイオンを案内する入射側自由飛行空間と、該基本イオン光学要素から出たイオンを案内する出射側自由飛行空間と、から成る時間収束単位構造が複数接続されて成り、
    前記複数の時間収束単位構造の中の1つの時間収束単位構造における入射側自由飛行空間中に、入射イオン光学系用の基本イオン光学要素を、その出射軸が前記入射側自由飛行空間の入射軸に一致するように挿入し、
    前記入射イオン光学系用の基本イオン光学要素の入射端とイオン源であるイオン出発点との間に設けられる入射側自由飛行空間の長さが、該入射イオン光学系用の基本イオン光学要素と前記多重周回イオン光学系における複数の時間収束単位構造とで生じるエネルギーに依存した時間収差係数の総和を打ち消すように、該入射イオン光学系用の基本イオン光学要素の出射端から該基本イオン光学要素が挿入された時間収束単位構造における基本イオン光学要素の入射端までの距離、該時間収束単位構造へのイオン入射点と該単位構造の基本イオン光学要素へのイオン入射点との間の距離である入射側自由飛行空間の長さ、及び、該時間収束単位構造の基本イオン光学要素からのイオン出射点と該時間収束単位構造からのイオン出射点との間の距離である出射側自由飛行空間の長さ、から一義的に決められていることを特徴とする質量分析装置。
  2. 前記入射イオン光学系用の基本イオン光学要素の入射端と前記イオン出発点との間の入射側自由飛行空間の長さL0は、該入射イオン光学系用の基本イオン光学要素の出射端から該基本イオン光学要素が挿入された時間収束単位構造における基本イオン光学要素の入射端までの距離をL1’、該時間収束単位構造における入射側自由飛行空間の長さをL1、該時間収束単位構造における出射側自由飛行空間の長さをL2としたときに、
    L0=2(L1+L2)−(L1’+L2)
    なる式で決まることを特徴とする請求項1に記載の質量分析装置。
  3. 複数の扇形電場と電場のない自由飛行空間との組み合わせにより閉じた周回軌道を形成する多重周回イオン光学系を有し、該周回軌道に沿ってイオンを繰り返し飛行させることでイオンを質量電荷比に応じて分離する質量分析装置において、
    前記多重周回イオン光学系は、少なくとも1つの扇形電場を含み、イオンの初期位置及び初期角度のばらつきに対する時間収束性を有するとともにイオンが持つエネルギーに依存した時間収差係数が正値である条件を満たす基本イオン光学要素と、該基本イオン光学要素にイオンを入射するべくイオンを案内する入射側自由飛行空間と、該基本イオン光学要素から出たイオンを案内する出射側自由飛行空間と、から成る時間収束単位構造が複数接続されて成り、
    前記複数の時間収束単位構造の中の1つの時間収束単位構造における出射側自由飛行空間中に、出射イオン光学系用の基本イオン光学要素を、その入射軸が前記出射側自由飛行空間の出射軸に一致するように挿入し、
    前記出射イオン光学系用の基本イオン光学要素の出射端とイオン検出器であるイオン検出点との間の出射側自由飛行空間の長さが、該出射イオン光学系用の基本イオン光学要素と前記多重周回イオン光学系における複数の時間収束単位構造とで生じるエネルギーに依存した時間収差係数の総和を打ち消すように、該出射イオン光学系用の基本イオン光学要素の入射端から該基本イオン光学要素が挿入された時間収束単位構造における基本イオン光学要素の出射端までの距離、該時間収束単位構造へのイオン入射点と該単位構造の基本イオン光学要素へのイオン入射点との間の距離である入射側自由飛行空間の長さ、及び、該時間収束単位構造の基本イオン光学要素からのイオン出射点と該時間収束単位構造からのイオン出射点との間の距離である出射側自由飛行空間の長さ、から一義的に決められていることを特徴とする質量分析装置。
  4. 前記出射イオン光学系用の基本イオン光学要素の出射端と前記イオン検出点との間の出射側自由飛行空間の長さL0は、該出射イオン光学系用の基本イオン光学要素の入射端から該基本イオン光学要素が挿入された時間収束単位構造における基本イオン光学要素の出射端までの距離をL1’、該時間収束単位構造における入射側自由飛行空間の長さをL1、該時間収束単位構造における出射側自由飛行空間の長さをL2としたときに、
    L0=2(L1+L2)−(L1’+L2)
    なる式で決まることを特徴とする請求項3に記載の質量分析装置。
  5. 前記入射イオン光学系の基本イオン光学要素は前記多重周回イオン光学系を構成する時間収束単位構造の基本イオン光学要素と同一の構成であることを特徴とする請求項1又は2に記載の質量分析装置。
  6. 前記出射イオン光学系用の基本イオン光学要素は前記多重周回イオン光学系を構成する時間収束単位構造の基本イオン光学要素と同一の構成であることを特徴とする請求項3又は4に記載の質量分析装置。
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