JP4880915B2 - マイクロリソグラフィ用投影露光装置の光学システム - Google Patents

マイクロリソグラフィ用投影露光装置の光学システム Download PDF

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Description

本発明は、マイクロリソグラフィ用投影露光装置の光学システム、たとえば直線偏光を受けた光線によって形成される投影光ビームが複屈折材料からなる光学エレメントを通過する照明システム又は投影対物レンズに関する。また本発明は、その種の複屈折光学エレメントが、投影光ビームの偏光分布内に生じさせる摂動を低減するための方法にも関係する。
光学的な複屈折という用語は、異方性屈折率を持つ材料に関連する。それは、材料を通過する光線の屈折率が、その材料に対する光線の偏光とその向きに依存することを意味する。より厳密な意味において述べれば、複屈折という用語は、複屈折材料の最大可能屈折率の差Δnに関連する。屈折率が偏光に依存することから、概して偏光していない光ビームは、それが複屈折材料に入ると、互いに直交する直線偏光を伴って2つのビーム成分に分かれる。
光学材料の複屈折には、種々の原因が考えられる。真性複屈折という用語は、異方性結晶構造を有する材料に使用される。方解石等の単軸結晶がその例である。非結晶性材料及び等方性結晶構造の材料が、光学的に複屈折となることもある。これらの場合には、複屈折が近距離原子オーダ(short-range atomic order)の摂動によって生じ、たとえば外部的に作用する機械的な力、電界、又は磁界等に起因することがある。材料は、近距離原子オーダ摂動の原因がなくなったときに、複屈折を失う。たとえば、レンズ・マウンティングが、それに支持されているレンズ本体へ機械的な力を作用させるとき、これらの力が応力誘導性複屈折を引き起こすが、その場合においてもこの複屈折は、概して、そのレンズ・マウンティングが取り去られると直ちに消滅する。
外力に起因する応力が材料内に残存する場合には、それが、恒久的な応力誘導性複屈折を引き起こす可能性がある。レンズやその他の屈折光学エレメントの製造に使用される石英ガラス・ブランクは、恒久的な応力誘導性複屈折を示すことがある。この複屈折は、概して製造方法の結果であり、一般に、その材料に光線が入射する位置に関して、複屈折の大きさならびに向きが、少なくとも近似的回転対称依存性を示す。この場合、一般に、その光学エレメントの中心からの距離の増加に伴って複屈折の大きさが増加する。CaF2ならびに類似の結晶の複屈折とは対照的に、この種の応力誘導性複屈折は、通常、光線の方向と独立である。
この種の複屈折が許容不能である場合には、恒久的応力誘導性複屈折の非常に小さいブランクを使用すればよい。しかしながらその種のブランクは、一般に非常に高価である。
複屈折の問題は、深紫外域(DUV)の波長用、たとえば193nm又は157nm用に設計されるマイクロリソグラフィ投影露光装置において特に重要性が増す。この種のシステムは、大規模集積電気回路やその他のマイクロ構造コンポーネントのリソグラフィック製造のために使用される。その場合に照明システムからの投影光が、製造されるべき構造のパターンを有するマスクへ向けられる。投影対物レンズによって、このマスクが感光層上に結像される。この層は、通常シリコン・ウエーファである支持体上に配置される。
この種の投影露光装置においては、従来のレンズ材料のDUV投影光に対する低い透過性のために、程度の差こそあれ、蛍石(CaF2)、あるいはその他の立方晶材料、たとえばBaF2又はCa1‐xBaxF2が使用されている。
これらの結晶は、DUV投影光に対しても充分な透過性を有する。しかしながらこれらの結晶は、すでに明らかになっているとおり、それらの波長について真性複屈折である。投影対物レンズ内において複屈折が生じると、適切な対抗手段を講じない限り、それが、感光層が配置されているイメージ平面内に許容可能なコントラストの低下をもたらすことになる。
投影光が正確に決められた偏光で感光層へ到達することが意図されているときに、複屈折は特に好ましくない効果を有する。これは、概して複屈折によって、前に設定された偏光状態が多少なりとも損なわれることによる。たとえば、直線偏光投影光は、それが複屈折材料内を通過するとき、楕円偏光投影光へ変形されることがある。
CaF2や類似の立方晶内の複屈折を可能な限り低減させるために、複数の結晶の結晶方位を、少なくとも近似的回転対称な複屈折の方向分布が得られるように選択すること、あるいは複屈折結晶によってもたらされるリターダンスが実質的に互いに補償されるように選択することさえも提案されている。この種の装置は、たとえば特許文献1の中で説明されている。
しかしながら、複屈折の完全な補償は、結晶方位を最適に選択したとしても、概して不可能である。これは、特に、複屈折に起因するリターダンスに対する完全な補償は、材料特性として、複屈折の対応する方向分布と大きさを必要とするだけでなく、結晶内を光線が進む幾何学的光路長と光軸に対するそれらの角度に関する特定の評価基準が満たされることを必要とするという事実による。また完全な補償が有する不利点としては、さらに、たとえば[100]結晶軸が光軸と平行に整列している、非常に高価なCaF2結晶を多数必要することが挙げられる。
WO 02/093209 A2 米国特許第6,285,443A号 米国特許出願第2002/0126380A号
したがって、本発明の1つの目的は、透過される投影光の直線偏光状態に関する真性複屈折又は誘導性複屈折の好ましくない効果を単純な方法で低減させることのできるマイクロリソグラフィ投影露光装置の光学システムを提供することとする。
この目的は、材料に入る各光線が、複屈折軸、すなわちそれに沿った当該材料の屈折率がそれぞれの光線に関して最大となる軸に対して実質的に平行又は実質的に垂直に直線偏光するように材料を整列させることによって達成される。
本発明は、光学システム内に含まれる光学エレメントの複屈折効果の補償が常に必要となるとは限らないという認識を基礎としている。投影光ビームの偏光分布の摂動が確実に可能な限り小さくなることだけが重要なことが多い。本発明によれば、単に、偏光分布に関して複屈折材料を適切に整列させるだけでそれが達成される。この整列は、可能であれば、その材料を通過するすべての光線について、それらの偏光方向が、複屈折の主軸方向、すなわち、速軸又は遅軸に対して平行に、又は垂直に整列するように行われる必要がある。この種の整列は、材料内に、等しくない伝播速度を伴った異なる偏光成分を有する光線が皆無となることを確実にする。これは、恣意的な整列に伴って生じるような偏光分布の望ましくない摂動を防止する。
本発明に従った整列は、すべての光線が同一の速度で材料内を伝播することを必ずしも意味していない。これは、偏光分布をそれ自体として保つのに実際には必要でない。
材料の整列について、光線が、複屈折材料の小容積だけ、又は複数の相当に小さい小容積だけを通過するという事実を考慮に入れることができる。たとえば、ひとみ平面に近接して配置される照明システムの光学エレメントにおいては、投影光が、環状領域又は複数の個別の分離された領域(ポール)だけを横切る。その場合の材料の整列については、したがって、投影光が実際に材料を通過する領域においてのみ、その複屈折軸を考慮に入れれば充分である。これは、応力誘導性複屈折に関して特に重要となる。それは、この種の複屈折が光線の方向に依存せず、光線が材料に入射する位置にのみ依存するからである。しかしながら真性複屈折材料については、複屈折が概してこの位置と独立しており、その結果、投影光が実際に通過する小容積に制限することが、基本的に異なる結果を導くことはない。
材料に入る光線が、材料の遅軸に対して可能な限り正確に平行に、あるいは垂直に偏光されることが好ましい。しかしながら、軽微な逸脱が、実質的に偏光状態を劣化させることはない。複屈折遅軸とそれぞれの光線の偏光方向と平行になる整列にあっては、材料に入るそれぞれの光線が、それぞれの複屈折軸から15°を超えない値、好ましくは5°を超えない値で偏倚している偏光方向を有する場合に、複屈折材料に起因する摂動効果が無視できる程度となる。
しかしながら、材料に入る各光線について、その偏光方向がそれぞれの複屈折遅軸に対して実質的に垂直に向けられる場合には、材料に入るそれぞれの光線が、それぞれの複屈折軸から75°を超えるが105°を超えない値で、好ましくは85°を超えるが95°を超えない値で偏倚している偏光方向を有していれば、摂動が無視できる程度に抑えられる。
偏光光ビーム内の偏光分布は、たとえば、光学エレメントに入るすべての光線の振動面が、少なくとも実質的に互いに平行となるように配置させることができる。この種の直線均等偏光にあっては、すべての光線について、複屈折遅軸もまた偏光方向と平行又は垂直となるように材料を整列させる必要がある。
これは、たとえば、[110]結晶軸がシステムの光軸に沿って配向されるように整列された立方晶材料を用いて、たとえばCaF2又はBaF2又はCa1‐xBaxF2を用いて達成される。特にアパーチャ角が小さく、たとえば40°を超えない場合、好ましくは20°を超えない場合、より好ましくは10°を超えない場合においては、この種の結晶方位における複屈折分布が、良好な近似として直線かつ均等になる。
投影露光装置内においては、接線偏光又は放射偏光が望ましいことがある。接線偏光にあっては、光学エレメントに入るすべての光線の振動面が、光学システムの光軸とそれぞれの光線の伝播方向によって定義される平面に対して、少なくとも実質的に垂直となる。放射状偏光にあっては、その振動面がこれと垂直に、すなわち上記の平面に対して実質的に平行になる。
これらの場合に偏光分布の複屈折の摂動効果を低減するために、光学エレメント用の材料として立方晶を、特に[100]結晶軸が光軸と実質的に平行に延びるように整列したCaF2又はBaF2又はCa1‐xBaxF2を使用することができる。この結晶方位を用いる場合には、複屈折分布が回転対称とならないが、それにもかかわらず良好な近似として接線になり、その結果、複屈折遅軸が個別の光線の偏光方向と平行に配向される。
放射状又は接線状であるが、必ずしも回転対称でない複屈折分布は、光学エレメントが少なくとも2つのそれぞれが立方晶からなるサブエレメントを含む場合においても達成可能であり、その際、これらの少なくとも2つのサブエレメントの結晶は、それらの全体的な複屈折方向分布が、光学システムの光軸に対して実質的に放射状又は接線状となるように整列される。
回転対称の接線状複屈折分布を達成するための1つの方法は、[100]結晶軸が実質的に光軸と平行に延びるように格子が整列されている結晶から作られる2つのサブエレメントを選択し、かつ光軸に対して相互に45°の回転又はその奇数倍の回転を与えることである。結果として得られる複屈折分布においては、複屈折遅軸が接線状に延び、光軸に対して回転対称となる。
放射状に延びる遅軸を伴う回転対称の複屈折分布を達成するための1つの方法は、[111]結晶軸が実質的に光軸と平行に延びるように整列された結晶格子を有する2つのサブエレメントを使用し、かつ光軸に対して相互に60°の回転又はその奇数倍の回転を与えた光学エレメントを形成することである。その場合には、光軸に沿って配向される[100]結晶軸を伴う高価なCaF2を不要にすることができる。
多くの光学エレメントは、真性複屈折を有していないが、それに代わり恒久的な応力誘導性複屈折を有する、たとえば石英ガラス等の材料からなる。その種の材料が、既存の複屈折の方向分布が光学システムの光軸に対して実質的に放射状に、あるいは接線状に配向されるように整列される場合には、その種の応力誘導性複屈折光学エレメントは、接線状又は放射偏光分布に(実質的に)摂動を与えない。
本発明の種々の特徴ならびに利点は、以下の詳細な説明を添付図面とともに参照することによってより容易に理解されることとなろう。
図1は、全体がPEAとして示されているマイクロリソグラフィ投影露光装置を通る子午線方向の断面を、高度に略図化した表現として示している。投影露光装置PEAは、投影光ビーム14を生成するための照明システム15を含む。例示の実施形態においては、投影光の波長がλ=193nmである。照明システム15は、光源16、照明光学システム17、ダイアフラム18を含む。照明光学システム17は、異なった照明角度分布を設定することができる。そのためこの照明システムは、たとえば互換性のある回折光学エレメント又はマイクロレンズ・アレイを含むことができる。照明光学システム17は、さらに、光軸26に沿って移動できるように配置されたアキシコン・エレメントを含むことができる。この種の照明光学システムが、従来技術において、たとえば、その完全な開示が参照によって援用されている特許文献2において公知となっているので、詳細にここで説明することは無用であろう。
投影露光装置PEAは、さらに投影対物レンズ10を備えており、そこには複数のレンズが含まれている。図1においては、簡明のため、参照番号L1〜L7によっていくつかのレンズだけが示されている。投影対物レンズ10は、投影対物レンズ10の物体平面OP内に配置されるマスク11の縮小イメージを、投影対物レンズ10のイメージ平面IPに配置される感光層12上へ投影するために使用される。この感光層は、たとえばウエーファ13に塗布されたフォトレジストなどである。
以下においては、照明システム15によって生成された投影光ビーム14が接線偏光されていると仮定する。接線偏光においては、投影光ビーム14のそれぞれの光線が、光軸26とそれぞれの光線の伝播方向によって定義される平面に対して垂直に延びる偏光方向に直線偏光される。ただし偏光方向という用語は、電界ベクトルの振動方向を言う。伝播方向とともに、このベクトルは、それぞれの光線の振動面を定義する。
図2は、レンズL2の直前にあり、光軸26に対して垂直に広がっている仮想平面28内における投影光ビーム14の接線偏光分布を略図的に表している。これを参照すると、光ビームの偏光方向(双方向矢印30によって示されている)が光軸に対して接線方向に延びていることがわかるであろう。
この種の接線偏光は、投影光ビーム14を形成する光線が、感光層12に入射するとき、入射平面に対して垂直に偏光(s偏光)されるので特に有利である。その結果、感光層12上における望ましい干渉現象が、種々の回折次数が感光層12と入射する角度と独立になる。しかしながら入射平面と平行に偏光(p偏光)される投影光にあっては、それらが異なる偏光方向を有することから、異なる回折次数は完全に干渉できなくなる。
接線偏光の生成は、それ自体、従来技術において公知である。たとえば、特許文献3に記述されているような偏光回転デバイスを使用することが可能である。この公知のデバイスは、放射状に偏光された光を生成する。これは、適切な向きが与えられた2つの半波プレート内において90°に至るまで偏向方向を回転させることによって接線偏光へ容易に変換することができる。接線偏光を作り出すこの種のデバイスは、前述したとおり照明システム15内に配置してもよく、あるいはそれに代えてそれらを投影露光装置内のほかの位置に配置してもよい。
投影対物レンズ10を通過するときの投影光ビーム14の接線偏光(図2に示されているとおり)を保存するためには、投影対物レンズが、光線の偏光状態を有意に変更するいかなる光学エレメントも含むべきではない。その種の変更は、たとえば複屈折光学エレメントによってもたらされることがある。
以下においては、投影対物レンズ10のレンズL2及びL3がともにフッ化カルシウム(CaF2)から作られていることを前提とする。これらの結晶は、非常に波長の短いUV光に対して真性複屈折であるという特性を有しており、したがって193nmの波長を有する本実施形態の投影光に対しても真性複屈折である。
図3は、これら2つのレンズL2及びL3を拡大して示しており、結晶格子の向きを3つの脚によって示した。レンズL2及びL3が作られているフッ化カルシウム結晶は、光軸26に対して、それらの[100]結晶軸が、すなわちそれぞれ[100]2及び[100]3として示されている結晶軸が、いずれも投影対物レンズ10の光軸26と平行になるように整列されている。さらにこれらの結晶格子は、図3内に矢印によって示されているとおり、[100]結晶軸を中心に約45°にわたって相互に回転させられている。
より詳細についてはすでに示した特許文献1に述べられているが、結晶格子のこの種の配置は、図4に示されているような回転対称な複屈折分布を導く。図4内の各ラインは、それぞれの光線方向に対する大きさと方向を表しており、これらは光線がレンズL2に入射するアパーチャ角θとアジマス角αによって定義される。図5に示されているとおり、アパーチャ角θは、光軸26に一致するz軸と光線の方向の間の角度を言う。アジマス角αは、x‐y平面上における光線の投影と、基準方向とするx軸の間に形成される角度である。
図4に示されているラインの長さは、複屈折の大きさΔn(θ,α)、すなわち最大可能屈折率の差に比例している。幾何学的な点から見れば、ラインの長さは、屈折率楕円体を通る楕円断面の主軸の長さにおける差を記述しており、ラインの方向は、当該楕円断面の長い方の主軸の向きを示している。楕円断面は、屈折率楕円体を、関連する方向(θ,α)の光線に対して、その光線の方向と垂直であり、かつ屈折率楕円体の中心を含む平面を用いて切断することによって得られる。
結果として得られる、図3に示されているとおりの結晶格子の整列を伴う複屈折分布Δn(θ,α)は、図4に示されているとおり回転対称である。複屈折遅軸、すなわち、その光線についてその軸に沿った結晶の屈折率が最大となる楕円断面の長い方の主軸は、接線方向に延びている。
しかしながら、レンズL2及びL3の個別の複屈折分布の重ね合わせ、すなわち図4に示されている全体的な複屈折分布は、(a)2つのレンズL2及びL3の光線が同じ角度で透過すること、及び(b)同一の幾何学的光路長を伝播することが満たされる場合においてのみ適用可能である。この条件は、厚さの等しい平面平行プレートについて満たされる。しかしながら図3に示されているレンズL2及びL3は、これにもかかわらず、これら2つのレンズが比較的低い屈折力を有することから、少なくとも近似的に当てはまる。
図2に略図的に表されている接線偏光を伴う投影光ビーム14がレンズL2及びL3に入射する場合には、各光線について、その偏光方向が少なくとも近似的に、それぞれの光線に対して、適用可能な複屈折遅軸方向(図4内において異なる長さと向きのラインによって示されている)と平行になることが保証される。この効果は、各光線について、両方のフッ化カルシウム結晶が、偏光が角度に依存していても、偏光と独立の屈折率を有する1つの材料からなると見てよいということである。したがって、光線の異なる偏光成分が結晶内を異なる速度で伝播するとしても、偏光の望ましくない摂動が生じ得ない。
より大きなアパーチャ角θと比較してより小さいアパーチャ角θに対して、屈折率が低いという事実は、たとえば、球形又は半球形表面の透明エレメントを使用することによって補償され、屈折率プロファイルに起因する光路の偏差を補償する。しかしながら、修正後の屈折率プロファイルを、システム内に存在する複屈折又はその他のレンズの形状を設定するときに考慮することが望ましい。
各フッ化カルシウム結晶の複屈折分布は回転対称ではないが、それにもかかわらず光軸に沿って[100]結晶軸を整列させた場合には、複屈折遅軸が概略で接線方向に延びる。したがって、入射する接線偏光した光線の偏光方向は、それぞれ個別のレンズL2、L3が単独で考慮される場合であっても、結晶内の複屈折遅軸と平行になる。言い換えると光線の偏光状態は、2つのレンズL2及びL3の組み合わせを通過するときだけでなく、各個別のレンズを通過するときにおいても変更されないまま残される。これが図3内に光線32に対して表されている。各点33は、光線32の伝播方向と光軸26によって定義される平面(すなわち、図3の紙面)に対して垂直に延びる偏光方向を示している。
しかしながら2つのレンズL2、L3の組み合わせは、全体的に回転対称な複屈折分布が獲得されるという利点を有する。接線偏光された投影光ビーム14について、この組み合わせを伴わなければ、2つのレンズL2、L3の個別のそれぞれが、4重対称性を伴ってアパーチャ角θに依存する屈折率プロファイルを有することになる。ここでは、この4重アスペクトが、単独で考慮されたそれぞれ個別の結晶に関連付けれられる複屈折分布の4重特性の結果としてもたらされる。結晶の向きが相互に回転されることから、それぞれの4重屈折率プロファイルがオーバーラップし、全体的に、すなわち全体として考慮されるレンズL2、L3について、回転対称な屈折率プロファイルが提供される。
しかしながら、投影光ビーム14の接線偏光は、複屈折遅軸が、光線の偏光方向と平行ではなく、垂直に整列される場合であっても影響を受けないまま残される。
このことを、図6に示されている複屈折分布Δn(θ,α)を参照して説明する。図4と同様に、図6内のラインの方向は、アパーチャ角θ、アジマス角αで複屈折結晶に入射するときに光線がたどる複屈折遅軸の方向を示している。しかしながら、図4に示されている場合とは対照的に、複屈折遅軸が光軸26に対して接線方向ではなく、半径方向に延びている。この場合の接線偏光された光線の偏光方向は、複屈折遅軸と平行ではなく、複屈折速軸と平行に延び、常にそれは複屈折遅軸に対して垂直になる。したがってこの場合においても同様に、個別の光線は、偏光成分、すなわち材料内の異なる屈折率となり、そのため偏光状態の変更に寄与する偏光成分を含まない。
図6に示されている回転対称な放射状複屈折分布は、2つのフッ化カルシウム結晶が、それらの[111]結晶軸が光軸26と平行に整列され、光軸26を中心に60°又はその奇数倍で相互に回転させられて組み合わされるときに得られる。
図6に示されている、ほぼ回転対称な放射状複屈折の分布は、真性複屈折でなく、恒久的な応力誘導性複屈折を生じさせる材料内に生じることが多い。レンズ製造のために使用される石英ガラス・ブランクがその一例である。それらの場合においては、複屈折が、入射する光線の方向に依存せず、材料へ光線が入射する位置に依存する。少なくとも近似的な放射状の回転対称な複屈折分布は通常製造に関連しており、それが生じてしまった場合には、立方晶材料における真性複屈折と類似の方法で補償することができる。応力誘導性複屈折が非常に小さいブランクを用いることは可能であるが、その種のブランクは非常に高価である。
恒久的な応力誘導性複屈折を有するが、その複屈折が、少なくとも良好な近似として回転対称な放射状又は接線状の局部的に変化する複屈折分布を有するブランクを選択する場合には、その種のブランクを、投影光ビーム14の接線偏光の摂動を生じさせることなく使用することができる。その場合には、複屈折の対称軸が光軸と同軸に延びることを確保するだけで足りる。
照明システムが、図2に示されているような接線状の偏光分布の光を生成しないが、放射偏光分布の光を生成する場合については、上記の説明と同じ手段によって偏光状態の摂動を防止することができる。これは、接線偏光分布内や放射状偏光分布内における偏光方向が相互に垂直となることによる。したがって、接線偏光分布内の偏光方向が複屈折遅軸と平行になる場合には常に、放射状偏光分布内の偏光方向が複屈折速軸と平行になる。いずれの場合も偏光状態は複屈折によって摂動を受けない。
以下においては、平面28内において優勢となる偏光分布が接線状でなく、均等となると仮定する。この場合においては、平面28を通過する投影光ビーム14のすべての光線が同一の偏光を有する。これが、双方向矢印30’によって図7内に示されている。
真性複屈折材料内を通過するときにこの偏光分布を保存するために、当該材料を、偏光方向30’が複屈折遅軸又は複屈折速軸と平行に延びるように整列させる必要がある。
図8は、[110]結晶軸が光軸26に沿って整列させたフッ化カルシウム結晶を用いて得られた複屈折分布Δn’(θ,α)を示している。この複屈折分布Δn’(θ,α)において、複屈折遅軸の方向がすべての光線について概略で同じであるという意味において、複屈折分布が、少なくともより小さいアパーチャ角θでは、同様に均等であることがわかるであろう。図8において、スレッショルド角θthに対応する半径を伴う円34は、その中の複屈折分布が良好な近似として均等である領域を示している。
図8に示されている複屈折分布を伴う真性複屈折結晶による、図7に示されている均等な偏光分布の摂動を回避するためには、結晶を光軸26の周りに回転させ、複屈折遅軸が投影光ビーム14の偏光方向と平行又は垂直のいずれかとなるように整列させるだけで足りる。そのため、たとえばその結晶からなる光学エレメントを、公知の回転メカニズムを使用して、光軸26周りにその光学エレメントを回転させることができるマウント内に保持させればよい。
ここで理解されるべきであるが、上記の、あらかじめ決定された偏光分布の複屈折光学エレメントの整列は、投影対物レンズ内だけでなく、投影露光装置の照明システム内にも使用することが好ましい。しかも本発明は、前述した、光線が接線状、放射状、又は均等に直線偏光される偏光分布に限定されることはない。
さらに、フッ化バリウム(BaF2)といったこのほかの立方晶材料をフッ化カルシウムに代えて使用することも、当然ではあるが可能である。フッ化バリウムにおいては、複屈折遅軸及び複屈折速軸が、フッ化カルシウムと比較して反転されるが、上記の整列が使用される場合には、透過される投影光の偏光がそれによって変更されない。
マイクロリソグラフィ投影露光装置を通る経線方向の高度に略図化した断面図である。 レンズL2の手前における投影光の接線偏光分布を示した平面図である。 CaF2結晶から作られた2つのレンズL2、L3を拡大して結晶方位とともに示した図1の詳細図である。 アパーチャ角とアジマス角の関係を示した説明図である。 図3に示した2つのレンズL2、L3の組み合わせによって生成される複屈折分布を示した平面図である。 異なって整列された結晶構造を伴うレンズによって、あるいは同様に応力誘導性複屈折石英ガラスによって生成されることのある複屈折分布を示した平面図である。 レンズL2の手前における投影光の均等な直線偏光分布を示した平面図である。 異なって整列された結晶構造を伴う2つのレンズL2、L3によってそれぞれ生成される複屈折分布を示した平面図である。

Claims (16)

  1. 直線偏光された複数の光線によって形成される投影光ビーム(14)が、複屈折材料からなる光学エレメント(L2,L3)を通過するマイクロリソグラフィ用投影露光装置の光学システムにおいて、前記複屈折材料に入る各光線が前記複屈折材料の複屈折軸に対して実質的に平行又は実質的に垂直に直線偏光するように前記複屈折材料が向けられ、前記複屈折軸は、前記複屈折材料の屈折率がそれぞれの光線に対して最大となる軸であり、
    前記光学エレメント(L2,L3)に入るすべての光線の振動面は、前記光学システム(10)の光軸(26)及びそれぞれの前記光線の伝播方向によって定義される平面に対して、少なくとも実質的に垂直又は平行である光学システム。
  2. 前記複屈折材料に入る各光線は、それぞれの前記複屈折軸から15°を超えない値で、好ましくは5°を超えない値で偏倚している偏光方向(30,30’)を有する請求項1に記載の光学システム。
  3. 前記複屈折材料に入る各光線は、それぞれの前記複屈折軸から75°を超えるが105°を超えない値で、好ましくは85°を超えるが95°を超えない値で偏倚している偏光方向(30,30’)を有する請求項1に記載の光学システム。
  4. 前記複屈折材料は立方晶であり、特にCaF2又はBaF2又はCa1‐xBax2であり、前記光軸(26)に対して[100]結晶軸が実質的に平行に延びるように向けられる請求項1に記載の光学システム。
  5. 前記光学エレメント(L2,L3)は、少なくとも2つのサブエレメントを含み、そのそれぞれが立方晶からなり、特にCaF2又はBaF2又はCa1‐xBax2からなり、前記少なくとも2つのサブエレメントの結晶が、それらの全体的な複屈折方向分布が前記光学システム(10)の前記光軸(26)に関して実質的に放射状又は接線状となるように整列させられる請求項1に記載の光学システム。
  6. 前記結晶は、方向分布が少なくとも実質的に回転対称となるように整列させられる請求項5に記載の光学システム。
  7. 前記光学エレメントは、[100]結晶軸が前記光軸(26)と実質的に平行に延びるように結晶格子が整列している結晶から作られ、かつ前記光軸(26)に対して、相互に45°の回転又はその奇数倍の回転が与えられた第1のサブエレメント(L2)と第2のサブエレメント(L3)を含む請求項6に記載の光学システム。
  8. 前記光学エレメントは、[111]結晶軸が前記光軸(26)と実質的に平行に延びるように結晶格子が整列している結晶から作られ、かつ前記光軸(26)に関して、相互に60°の回転又はその奇数倍の回転が与えられた第1のサブエレメントと第2のサブエレメントを含む請求項6に記載の光学システム。
  9. 前記光学エレメントは、前記システム(10)の前記光軸(26)に対して実質的に放射状又は接線状の複屈折方向分布を伴う応力誘導性複屈折を有する材料からなる請求項1に記載の光学システム。
  10. 前記システムは、マスク(11)を照明するための照明システム(15)である請求項1〜9のいずれか1項に記載の光学システム。
  11. 前記システムは、マスク(11)内に含まれる構造を感光層(12)上へ結像するための投影対物レンズ(10)である請求項1〜9のいずれか1項に記載の光学システム。
  12. マイクロリソグラフィ投影露光装置内の複屈折光学エレメント(L2,L3)が投影光ビーム(14)のあらかじめ決定済みの偏光分布に作用する摂動を低減するための方法において:
    前記光学エレメント(L2,L3)を構成する材料が、前記複屈折材料に入る各光線が前記複屈折材料の複屈折軸に対して実質的に平行又は実質的に垂直に直線偏光するように向けられ、前記複屈折軸は、それに沿った前記複屈折材料の屈折率がそれぞれの光線に関して最大となる複屈折軸であり、
    前記あらかじめ決定済みの偏光分布にあっては、前記光学エレメントに入るすべての光線の振動面が、前記投影露光装置の光軸(26)及びそれぞれの光線の伝播方向によって定義される平面に対して、少なくとも実質的に垂直又は平行である方法。
  13. 前記複屈折材料は立方晶であり、特にCaF2又はBaF2又はCa1‐xBax2であり、前記光軸(26)に対して[100]結晶軸が実質的に平行に延びるように向けられ、かつ前記結晶が、前記偏光分布の摂動を低減するために、前記光軸(26)に関して回転させられる請求項12に記載の方法。
  14. 前記複屈折材料の向きを決定するとき、前記光線が前記複屈折材料を通過する位置が考慮に入れられる請求項12〜13のいずれか1項に記載の方法。
  15. 前記複屈折材料は応力誘導性複屈折である請求項14に記載の方法。
  16. マイクロ構造コンポーネントのマイクロリソグラフィック製造のための方法であって: (a)感光性材料の層(12)を支持するための支持体(13)を提供するステップ; (b)結像されるべき構造を含むマスク(11)を提供するステップ;及び、
    (c)請求項1〜11のいずれか1項に従った光学システム(10)を含む投影露光装置を使用することによって前記マスク(11)の少なくとも一部を前記層(12)上に投影するステップ;
    を含む方法。
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