以下に図面を用いて、本発明に係る実施の形態につき、詳細に説明する。以下では、コンバータ制御装置が適用される電源システムとして、車両の駆動用モータ・ジェネレータに接続される車両搭載用電源システムを説明するが、車両用以外の電源システムに適用されるコンバータ制御装置であってもよい。たとえば、建物内に固定の電源システム等であってもよい。また、コンバータ制御装置が適用される電源システムとして、第1電源がニッケル水素型2次電池、第2電源が固体高分子膜型燃料電池の場合について説明するが、これら以外の種類の電源であってもよい。例えば、2次電池として、リチウムイオン型のものとすることができ、燃料電池として、固体電解質型以外のものとすることもできる。また、以下では、コンバータ装置として、コンバータ回路を3つ並列に接続する構成を説明するが、コンバータ装置を構成するコンバータ回路の数は3以外の複数であってもよい。また、以下では、PID制御によって駆動デューティを制御して所望の電圧変換を実行するものとして説明するが、場合によっては、PI制御によって電圧変換を実行するものであってもよい。
図1は、コンバータ制御装置20を含む車両用電源システムの構成を示す図である。ここでは、車両用モータ・ジェネレータ16に接続される電源システムとして、第1電源としての2次電池10と、第2電源としての燃料電池12と、その間に設けられるコンバータ装置30とが示されている。コンバータ装置30は、制御部40によってその作動が制御される。したがって、コンバータ装置30と制御部40とを含んで、コンバータ制御装置20が構成される。
なお、この電源システムは、インバータ14を介して、モータ・ジェネレータ16に接続される。インバータ14は、上記電源システムの直流電力を3相交流電力に変換して、モータ・ジェネレータ16に供給して車両の駆動源として機能させ、また、車両が制動時には、モータ・ジェネレータ16によって回収される回生エネルギを直流電力に変換し、上記電源システムに充電電力として供給する機能を有する。
2次電池10は、リチウムイオン単電池を複数組み合わせて構成され、所望の高電圧を有し、充放電可能な高電圧電源パックである。例えば、200Vから400V程度の高電圧を正極母線と負極母線の間に供給することができる。
燃料電池12は、燃料電池セルを複数組み合わせて、所望の高電圧の発電電力を取り出せるように構成された一種の組電池で、燃料電池スタックと呼ばれる。ここで、各燃料電池セルは、アノード側に燃料ガスとして水素を供給し、カソード側に酸化ガスとして空気を供給し、固体高分子膜である電解質膜を通しての電池化学反応によって必要な電力を取り出す機能を有する。燃料電池12は、例えば、200Vから400V程度の高電圧を正極母線と負極母線の間に供給することができる。
コンバータ装置30は、複数のコンバータ回路を含む装置である。コンバータ回路は、第1電源である2次電池10と、第2電源である燃料電池12との間で電圧変換を行う機能を有する直流電圧変換回路である。コンバータ回路を複数用いるのは、コンバータ回路を構成する電子素子の定格容量を大きくすることなく、大きな負荷に対応するためである。図1の例では、3つのコンバータ回路を並列接続して1つのコンバータ装置30が構成されている。例えば、3つのコンバータ回路を相互に120°ずつ位相をずらし、いわゆる3相駆動を行うことで、個々のコンバータ回路の負荷を軽くすることができる。
コンバータ装置30は、例えば、モータ・ジェネレータ16等の負荷変動に燃料電池12の発電能力が対応しきれないとき等に、2次電池10の電力を電圧変換して、燃料電池12側に供給し、電源システム全体として、モータ・ジェネレータ16等の負荷に対応する機能を有する。
コンバータ装置30を構成するコンバータ回路は、第1電源側に設けられる複数のスイッチング素子及び複数の整流器を含む1次側スイッチング回路と、同様に第2電源側に設けられる複数のスイッチング素子及び複数の整流器を含む2次側スイッチング回路と、1次側スイッチング回路と2次側スイッチング回路との間に設けられるリアクトルとで構成される。
1次側スイッチング回路は、高電圧ラインの正極母線と負極母線との間に配置され、直列に接続された2つのスイッチング素子と、各スイッチング素子にそれぞれ並列に接続された2つの整流器で構成することができる。正極母線側に接続されるスイッチング素子等を上側アーム、負極母線側に接続されるスイッチング素子を下側アームと呼ぶことがある。2次側スイッチング回路も同様の構成とすることができる。スイッチング素子としては、例えばIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)等の高電圧大電力用スイッチング素子を用いることができ、整流器としては大電力用ダイオードを用いることができる。
リアクトルは、磁気エネルギを蓄えあるいは放出することができる機能を有する素子で、空心コイルまたは鉄心を有するコイルが用いられる。リアクトルは、1次側スイッチング回路の2つのスイッチング素子の接続点と、2次側スイッチング回路の2つのスイッチング素子の接続点とを接続するように配置される。
コンバータ回路は、1次側スイッチング回路を構成する上側アームと下側アーム、及び2次側スイッチング回路を構成する上側アームと下側アームのそれぞれについて、適当なタイミングでオン・オフ制御することで、第1電源側の電力を交流エネルギに変えてリアクトルに一時的に磁気エネルギとして蓄え、その蓄えた磁気エネルギを再び交流エネルギに変換して第2電源側に電力として供給することができる。このスイッチングのオン・オフ比、すなわちデューティを変更することによって、第1電源側の電圧を昇圧して第2電源側に供給することもでき、あるいは第1電源側の電圧を降圧して第2電源側に供給することもできる。同様に、第2電源側の電力を第1電源側に電圧変換して供給することもできる。
制御部40は、コンバータ装置30と共にコンバータ制御装置20を構成し、具体的には、負荷に応じて、コンバータ装置30の電圧変換動作を制御する機能を有する。制御部40は、車両搭載用のコンピュータで構成することができる。制御部40は、独立のコンピュータで構成してもよいが、他の車載用コンピュータに、制御部40の機能を持たせることもできる。例えば、ハイブリッドCPU等が車両に設けられているときは、ハイブリッドCPUに、制御部40の機能を持たせることができる。
制御部40は、PID制御によってコンバータ装置30を制御し、所望の電圧変換を実行させるPID制御モジュール42と、コンバータ装置30の通過電力の状態を判定する状態判定モジュール44と、コンバータ装置30の通過電力に応じてコンバータ装置30の駆動相数を変更する駆動相数変更モジュール46と、駆動相数を変更する際に、PID制御の積分項補正関数を切り換える積分項補正関数切換モジュール48とを含む。積分項補正関数の詳細については後述する。これらの機能はソフトウェアで実現でき、具体的には、対応するコンバータ制御プログラムを実行することで実現できる。また、これらの機能の一部をハードウェアで実現することもできる。
制御部40におけるPID制御モジュール42は、コンバータ装置30を構成する各スイッチング素子のオン・オフのタイミングと、オン・オフのディーティ比等について、PID制御方式によって制御し、2次電池10と燃料電池12との間において所望の電圧変換を実行する機能を有する。例えば、デューティを大きくすることで2次電池10の電圧を昇圧して燃料電池12側に供給し、デューティを小さくすることで2次電池10の電圧を降圧して燃料電池12側に供給するものとすることができる。そして、指令されたデューティに対し、実際に作動しているデューティをフィードバックし、PID制御方式を用いて、指令されたデューティと実際に作動しているデューティとの間の偏差を抑制する制御を実行する。
図2は、PID制御方式を用いて電圧変換制御を実行するPID制御回路58のブロックダイアグラムである。なお、以下の説明では、各要素について図1で説明した符号を用いる。ここでは、デューティ指令値をVref(60)として示し、実際に作動しているデューティをVraw(66)として示し、Vraw(66)のフィードバックと、2次電池10の出力電圧も考慮したフィードフォワードとに基づいて、コンバータ装置30への出力90を作り出す様子が示されている。なお、このブロックダイアグラムは、Vref(60)、Vraw(66)とあるように、電圧を基準にして示されているが、これは制御回路の構成が電圧を基準に考えることが便利なためであり、実際のデューティは、時間比あるいは、単なるディジタル数値である。また、図2は、コンバータ装置30を構成する3つのコンバータ回路の1つについてのブロックダイアグラムであるが、他のコンバータ回路のブロックダイアグラムも同じ内容である。
図2において、Vref(60)は、コンバータ装置30を構成するスイッチング素子におけるオン・オフ指令値、具体的にはデューティの指令値である。デューティとは、オン時間とオフ時間の和に対してオン時間の占める割合で、例えば、100μsecごとにオン・オフ制御を繰り返すとして、オン時間が40μsec、オフ時間が60μsecのときは、デューティが40/(40+60)=0.4である。Vref(60)は、このデューティ=0.4が、適当な電圧値のデータに換算されたものである。デューティ指令値Vref(60)は、燃料電池12と2次電池10の状態から、昇圧または降圧をどの程度にするかによって定められる。例えば、要求負荷量、そのときの燃料電池12の発電能力、2次電池10の充電状態等を入力として、予め定めてある関係式、あるいはマップ等を用いて、電圧変換すべき昇圧または降圧に対応するデューティを求めることができる。
リミッタ62は、Vref(60)が過大にならないように上下限を制限する制限回路である。1次遅れ要素64は、リミッタ62の出力のノイズを除去する等の機能を有するフィルタである。
減算器68は、1次遅れ要素64の出力から、Vraw(66)の値を減算する機能を有する。Vraw(66)は、コンバータ装置30において実際に作動している状態のデューティである。Vraw(66)は、コンバータ装置30を構成するスイッチング素子の実際のオン・オフ波形等から得られる値を用いることができる。減算器68の機能により、デューティ指令値に対し実際のデューティをフィードバックし、その間の偏差を出力することができる。
減算器68から出力されるデューティの偏差は、PID演算部69に入力される。PID演算部69は、偏差を抑制するための比例制御を実行するための比例制御ゲインKPを有する比例演算要素70と、比例制御で抑制しきれない要素を積分処理によって抑制するための積分器72及び積分制御ゲインKIを有する積分演算要素74と、微分処理によって抑制するための微分器76及び微分制御ゲインKdを有する微分演算要素78とを含んで構成される。
PID演算部69は、このように、比例制御ゲインKP、積分制御ゲインKI、微分制御ゲインKdを含む。これらの制御ゲインは、実際のコンバータ装置30について、PID制御を実行し、そのときの応答性及び制御性に基づいて、実験的に定めることができる。
比例制御、積分制御、微分制御の各結果は加算器80によって加算される。このように、PID制御方式を用い、偏差を抑制することができるように補正されたオン・オフデータが加算器80に出力される。
フィードフォワード項82は、上記の指令値Vrefと、2次電池10の出力電圧とから所定の算出式で求められる値を、デューティに反映させるフィードフォワード量とするものである。加算器84は、PID制御のあとの加算器80の出力に、このフィードフォワード項を加算する機能を有する。リミッタ86は、加算器84の出力が過大にならないように上下限を制限する制限回路である。各相バランス処理88は、他の駆動相のコンバータ回路についての結果と合わせて、3つの駆動相の間でのデューティバランスを取るための処理を行う機能を有する。各相バランス処理88の結果は、コンバータ装置を構成する各コンバータ回路のスイッチング素子に対するオン・オフ信号として、コンバータ装置30に出力(90)される。
かかるブロックダイアグラムの内容を有するPID制御回路58は、アナログ回路またはディジタル回路によって実現することができる。また、一部をディジタル回路で、一部をアナログ回路で構成することができる。
図3は、PID制御方式による作用を説明するタイムチャート図である。これらの図において横軸は時間、縦軸は電圧であり、時間軸の原点は共通にしてある。図3(a),(b)は、仮にPID制御を実行しない場合のVrefとVrawの関係を示す図である。すなわち、コンバータ装置30におけるスイッチング素子のオン・オフ信号の指令として、Vrefが与えられると、実際にコンバータ装置30の作動においてはVrawとなる。つまり、Vrefが指令されても、遅れが生じ、デューティそのものが変化する。これによって、Vrefで指令されるデューティと、コンバータ装置30で実際に作動しているデューティであるVrawとの間に偏差が生じる。例えば、図3(a)で示されるように、Vrefで指令されるデューティ=0.6が、実際のVrawにおいては、図3(b)に示されるように、デューティ=0.4となることが生じ得る。
この原因は、Vrefを算出して出力する制御回路から、コンバータ装置30のスイッチング素子までに、多くの遅れ要素等が存在することにある。例えば、Vref算出回路の出力は、フォトカプラを介して図2で説明したPID制御回路58に供給され、PID制御回路58の出力(90)は、フォトカプラを介してコンバータ装置30の各スイッチング素子に供給されるので、このフォトカプラにおける信号の授受に伴う遅れ及び波形の歪等が存在する。また、コンバータ装置30を構成する上アームと下アームとが同時にオンとならないように、遅れを設けていることも1つの原因として作用する。また、コンバータ装置30内での遅れも存在する。
PID制御は、Vrefで指令されるデューティと、実際に作動しているVrawのデューティとの差である偏差を抑制する機能を有する。図3(c)は、PID制御が実行されるときの出力、すなわち、コンバータ装置に与えられるオン・オフ信号を示す。この信号は、図2で説明した出力90に相当する。この信号波形は、もともとのデューティ指令であるVrefの信号波形に比較し、Δだけオン時間が長く補正される。この補正量Δは、PID制御により補正項であるが、その大きさは、この出力がコンバータ装置30に入力されたときに、コンバータ装置30を構成するスイッチング素子の実際の作動におけるデューティが、もともとのVrefで指令されたデューティと同じになるようにされるものである。図3(d)には、補正された出力に対するスイッチング素子における作動デューティ、すなわちVrawが示されている。このVrawにおけるデューティは、もともとのVrefで指令されたデューティ=0.6とほぼ同じとなっている。
このようにして、指令されたデューティに対し、実際に作動しているデューティをフィードバックし、PID制御方式を用いて、指令されたデューティと実際に作動しているデューティとの間の偏差を抑制することができる。
再び図1に戻り、制御部40の駆動相数変更モジュール46は、コンバータ装置30を通過する電力に応じて、コンバータ装置30を構成する3つのコンバータ回路について駆動する数を変更する機能を有する。なお、駆動相数を変更するタイミングについては、後に詳述する。ここで、コンバータ装置30を通過する電力は、例えば、マップ等を用いて演算により求めることができる。一例を挙げると、2次電池10の出力電圧と出力電流の測定値から2次電池10のコンバータ装置30へ向けた出力電力を求め、そこから負荷損失を減じ、これにコンバータ装置30の変換効率を乗じる演算によって、コンバータ装置30の通過電力を求めることができる。また、コンバータ装置30の通過電力は、コンバータ装置30を構成するリアクトルを通過する電力であるので、リアクトルに適当な電流検出センサを設けてリアクトルを流れる電流を検出し、その検出データに基づいてコンバータ装置30の通過電力を求めるものとしてもよい。
図4は、コンバータ装置30を通過する電力と、コンバータ装置30の損失の関係を、コンバータ装置30の駆動相数をパラメータとして、模式的に説明する図である。図4において、横軸はコンバータ通過電力であり、縦軸はコンバータ装置30の損失である。コンバータ通過電力の符号は、2次電池側から燃料電池側に電流が流れるときを+とし、燃料電池側から2次電池側に電流が流れるときを−としてある。ここで、コンバータ装置30において、1つのコンバータ回路のみを駆動する単相駆動の場合の損失特性曲線51、2つのコンバータ回路を駆動する2相駆動の場合の損失特性曲線52、3つのコンバータ回路を駆動する3相駆動の場合の損失特性曲線53が示されている。
上記の特許文献1においても述べられているように、スイッチング素子とリアクトルとを用いるコンバータ装置の損失は、リアクトルのコイルによって失われるリアクトル銅損、スイッチング素子の動作によって失われるモジュール損失、リアクトルLの磁性体によって失われるリアクトル鉄損がある。そして、前2者は、通過電力が増大するにつれ増大し、単相運転の方が三相運転よりも大きく、最後のリアクトル鉄損は通過電力にほとんど依存せず、三相運転の方が単相運転よりも大きい。図4には、その様子が示されている。すなわち、通過電力が小さくてAの範囲にあるときは、単相駆動の損失特性曲線51が最も損失が少ない。次に通過電流が増加し、Bの範囲にあるときは、2相駆動の損失特性曲線52が最も損失が少ない。さらに通過電力が増加し、Cの範囲にあるときは、3相駆動の損失特性曲線53が最も損失が少ない。
図4の結果に基づき、制御部40の駆動相数変更モジュール46は、コンバータ装置30の通過電力に応じ、通過電力がAの範囲にあるときは単相駆動を指示し、通過電力がBの範囲にあるときは2相駆動を指示し、通過電力がCの範囲にあるときは3相駆動を指示する。
ここで、単相駆動のときの損失特性曲線51と、2相駆動のときの損失特性曲線52との交点が、Aの範囲とBの範囲との分岐点であり、2相駆動のときの損失特性曲線52と3相駆動のときの損失特性曲線53との交点がBの範囲とCの範囲との分岐点である。各損失特性曲線は予め求めておくことができるので、Aの範囲とBの範囲の分岐点となる単相駆動−2相駆動変更の通過電力の値、Bの範囲とCの範囲の分岐点となる2相駆動−3相駆動変更の通過電力の値は、それぞれ予め設定することができる。前者の絶対値を単相−2相変更閾値P12とし、後者の絶対値を2相−3相変更閾値P23とすれば、コンバータ装置30の通過電力の絶対値Pを求めて、P≦P12のときは単相駆動、P12<P<P23のときは2相駆動、P≧P23のときは3相駆動を指示するものとできる。
再び図1に戻り、制御部40の積分項補正関数切換モジュール48は、駆動相数を変更する際に、PID制御の積分項補正関数を切り換える機能を有する。積分項補正関数とは、コンバータ通過電力と積分項補正値との間の関係を関数の形で表わしたものである。ここで、積分項補正値とは、PID制御において、偏差を抑制するために積分制御によって実行される補正値のことで、図2における積分演算要素74が算出する補正量に相当する。
積分項補正関数は、実験的に求めることができる。例えば、実際に3相駆動の場合について、コンバータ通過電力を変化させてPID制御を実行し、デューティの指令値と実際のデューティとの偏差が抑制された制御の下での積分項補正値を求め、これを3相駆動のときの積分項補正関数とすることができる。
図5は、実験的に求められた積分項補正関数の例を示す図である。図5の横軸は、コンバータ装置30の通過電力、縦軸は、PID制御における積分項補正値である。横軸の符号は、図4で説明したものと同じで、2次電池側から燃料電池側に電流が流れるときが+で、燃料電池側から2次電池側に電流が流れるときが−である。ここでは、コンバータ装置30の駆動相数に応じた積分項補正関数が示されている。すなわち、単相駆動のときの積分項補正関数91、2相駆動のときの積分項補正関数92、3相駆動のときの積分項補正関数93がそれぞれ示されている。
コンバータ装置30の通過電力と、コンバータ装置30を構成する1つのコンバータ回路の通過電力とは、駆動相数の数に応じて異なる。例えば、コンバータ装置30の通過電力をPとすれば、3相駆動の場合の1つのコンバータ回路の通過電力はP/3であり、単相駆動の場合のその1つのコンバータ回路の通過電力はPである。つまり、3相駆動から単相駆動に変更すると、1つのコンバータ回路を通過する電力は3倍となる。PID制御における積分項補正は、1つのコンバータ回路の通過電力に応じて行われることになるので、3相駆動から単相駆動に変更すると、3相駆動のときの積分項補正値を基準にすると、通過電力が3倍のところの積分項補正値に変更することが必要になる。つまり、横軸にコンバータ装置30の通過電力をとった場合に、単相駆動の場合の積分項補正関数は、3相駆動の場合の積分項補正関数の横軸を1/3に縮小した形になる。このように、図5における3つの積分項補正関数91,92,93は、この通過電力の大きさの相違に応じて、互いに横軸が伸縮したものとなる。
図6は、駆動相数と、積分項補正関数の対応関係を一覧形式で示す図である。このように、駆動相数が変更されると、適用されるべき積分項補正関数が異なる。各駆動相数において適用されるべき積分項補正関数は、例えば、実験的に3相駆動のときの積分項補正関数を求め、これに基づき、上記のように、横軸を伸縮して、単相駆動及び2相駆動のときの積分項補正関数を得ることができる。このようにして予め求められた各積分項補正関数は、駆動相数を検索キーとして適当な記憶装置に記憶され、駆動相数の変更があるときに読み出されて利用されることが好ましい。記憶装置としては、適当な半導体メモリ等を用いることができ、例えば制御部40が備えるメモリを用いることができる。
なお、積分項補正関数を記憶するには、さらに簡便な方法を用いることができる。すなわち、図7に示すように、積分項補正関数は、模式的に3つの状態に分かれる。すなわち、コンバータ通過電力の状態を、第1電源側から第2電源側に電力が通過するプラス状態94と、第2電源側から第1電源側に電力が通過するマイナス状態96と、その中間のゼロクロス状態98とに区別すると、それぞれの状態において、通過電力に対しほぼ一定の傾きを有する積分項補正値となる。あるいは、それぞれの状態において、積分項補正値を一定値として近似することもできる。したがって、各状態について、それぞれの積分補正値を記憶することにすれば、積分項補正関数を関数形の形で記憶することに比較し、必要な記憶容量を削減できる。
次に、駆動相数の変更と積分項補正関数の切換タイミングについて説明する。積分項補正関数は、図7で説明したように、積分項補正値がほぼ一定値であるプラス状態94とマイナス状態96とゼロクロス状態98の3つの状態があり、これらの各状態の間は、積分項補正値が不連続である。したがって、駆動相数の変更と積分項補正関数の切換は、この不連続な領域である遷移領域を避けることが好ましい。
そこで、駆動相数の変更と積分項補正関数の切換は、変更前におけるコンバータ通過電力の状態と、変更後のコンバータ通過電力の状態とが同じとなる条件のときが好ましい。例えば、3相駆動から単相駆動に変更するとき、3相駆動していたコンバータ通過電力の状態がプラス状態であるときは、そのプラス状態の範囲にあるときに積分項補正関数を切り換え、そして単相駆動に変更する。また、3相駆動していたコンバータ通過電力の状態がゼロクロス状態であるときは、そのゼロクロス状態の範囲にあるときに積分項補正関数を切り換え、そして単相駆動に変更する。プラス状態でもなくゼロクロス状態でもなくマイナス状態でもない遷移状態のときに積分項補正関数を切り換えることはしない。
さらに、駆動相数の変更前における駆動相数に対応する積分項補正関数と、変更後における駆動相数に対応する積分項補正関数との間で、積分項補正値が同じとなるコンバータ通過電力のときに、駆動相数を変更することが好ましい。ここで図5を再び参照すると、例えば、コンバータ通過電力がプラス状態のとき、3相駆動でも2相駆動でも単相駆動でも積分項補正値はほぼ同じ値であるが、そのコンバータ通過電力の範囲は異なっている。例えば、単相駆動のときにプラス状態であるコンバータ通過電力の範囲は、3相駆動のときにプラス状態であるコンバータ通過電力の範囲よりも小電力側である。積分項補正関数あるいは積分項補正値の切り換えは、3相駆動のときの積分補正値と単相駆動動のときの積分補正値とが同じとなるコンバータ通過電力のときに行う。例えば、図5において、コンバータ通過電力がPとして、この状態で3相駆動から単相駆動に駆動相数が変更されたとすると、積分項補正値は、積分項補正関数93のコンバータ通過電力Pのときの値から、積分項補正関数91のコンバータ通過電力Pのときの値に切り換えられることになる。もちろん、このようにして積分項補正関数を切り換え、駆動相数の変更を行うこともできる。しかし、この場合には、駆動相数の変更のときに、異なる積分項補正値に切換を行うことになるのであまり好ましくない。もう少しコンバータ通過電力が大きく、変更前の駆動相数に対応する積分項補正値と変更後の駆動相数に対応する積分項補正値が同じときに、駆動相数を変更することが好ましいことになる。
このようにして、積分項補正関数特性を考慮した通過電力の状態における変更タイミングで、コンバータ装置30の駆動相数を変更する。そして、変更先の積分項補正関数に、今までの積分項補正関数を切り換える。この切換は、図6で説明した対応関係に基づいて記憶されている記憶装置から、駆動相数を検索キーとして対応する積分項補正関数を読み出すことで実行される。そして、切り換った積分項補正関数を用いてPID制御が実行される。
なお、プラス状態94、マイナス状態96、ゼロクロス状態98の区別は、デューティの制御周期に応じてコンバータを通過する電力が変化するピーク値と、予め任意に定めた閾値との比較に基づいて定めることができる。その様子を図8に示す。図8は、横軸がコンバータ通過電力で、縦軸がコンバータ装置30を流れる電流、例えばリアクトルを流れる電流である。リアクトルを流れる電流は、リアクトルに電流検出センサを取り付けることで検出できる。ここで、コンバータ装置30において通過電力を変化させたときのリアクトル電流の変化を見ると、デューティの制御周期に応じて増減を繰り返す波形となる。そこで、図7の積分項補正関数の3つの状態を考慮し、2つの閾値I-とI+を設定し、リアクトル電流の山側のピークが閾値I-未満のときをマイナス状態96とし、リアクトル電流の谷側のピークが閾値I+を超えるときをプラス状態94とし、いずれでもないときには、遷移幅を考慮してその内側をゼロクロス状態98とすることができる。
このように、デューティの制御周期に応じてコンバータを通過する電力が変化するピーク値と、予め任意に定めた閾値との比較に基づいて区別されたコンバータ通過電力の各状態について、それぞれの積分補正値を記憶することで、区別を明確にして積分補正値を記憶できる。
10 2次電池、12 燃料電池、14 インバータ、16 モータ・ジェネレータ、20 コンバータ制御装置、30 コンバータ装置、40 制御部、42 PID制御モジュール、44 状態判定モジュール、46 駆動相数変更モジュール、48 積分項補正関数切換モジュール、51,52,53 損失特性曲線、58 PID制御回路、60 Vref、62,86 リミッタ、64 1次遅れ要素、66 Vraw、68 減算器、69 PID演算部、70 比例演算要素、72 積分器、74 積分演算要素、76 微分器、78 微分演算要素、80,84 加算器、82 フィードフォワード項、88 各相バランス処理、90 出力、91,92,93 積分項補正関数、94 プラス状態、96 マイナス状態、98 ゼロクロス状態。