以下、図面に基づき本発明の実施形態について説明する。図1はエンジンの制御方法の実施に直接使用するエンジンの制御装置の概略構成を示している。
スロットル弁23により調量される空気は、吸気コレクタ2に蓄えられた後、吸気マニホールド3を介して各気筒の燃焼室5に導入される。燃料は各気筒の吸気ポート4に配置された燃料噴射弁21より、所定のタイミングで吸気ポート内に向けて間欠的に噴射供給される。吸気ポート4に噴射された燃料は、空気と混合して混合気を作り、この混合気は吸気弁15を閉じることで燃焼室5内に閉じこめられ、ピストン6の上昇によって圧縮され、点火プラグ14により着火されて燃焼する。この燃焼によるガス圧がピストン6を押し下げる仕事を行い、このピストン6の往復運動はクランクシャフト7の回転運動へと変換される。燃焼後のガス(排気)は排気弁16が開いたとき排気通路8へと排出される。
排気通路8のうちマニホールドの集合部に第1触媒9(スタートアップ触媒)を、また車両の床下位置に第2触媒10を備えている。これら2つの触媒9、10は、例えばいずれも三元触媒で、三元触媒は排気の空燃比が理論空燃比を中心とした狭い範囲にあるとき、排気に含まれるHC、CO及びNOxを同時に効率よく除去できる。このため、エアフローメータ32からの吸入空気量の信号、クランク角センサ(ポジションセンサ33とフェーズセンサ34)からの信号が入力されるエンジンコントローラ31ではこれらの信号に基づいて燃料噴射弁21からの基本燃料噴射量を定めると共に、第1触媒9の上流に設けたO2センサ35からの信号に基づいて空燃比をフィードバック制御する。
一方、冷間始動時には触媒を早期に活性化すると共に、O2センサ35をも早期に活性化して空燃比のフィードバック制御を実行させるため、O2センサ35を始動直後よりヒータ(図示しない)によって加熱し、O2センサ35の信号をみて、O2センサ35が活性化したタイミングで空燃比のフィードバック制御を開始している。
なお、触媒9、10の構成はこれに限られるものでない。例えば、エンジン暖機完了後の燃費向上のため、低負荷側の運転領域において理論空燃比よりもリーンの空燃比で運転を行うようにしているものでは、リーン運転時に多く発生するNOxを吸収するため、第2触媒10をNOxトラップ触媒で構成し、このNOxトラップ触媒に三元触媒機能を持たせているが、こうした構成のものでもかまわない。
上記のスロットル弁23はスロットルモータ24により駆動される。運転者が要求するトルクはアクセルペダル41の踏み込み量(アクセル開度)に現れるので、エンジンコントローラ31ではアクセルセンサ42からの信号に基づいて目標トルクを定め、この目標トルクを実現するための目標空気量を定め、この目標空気量が得られるようにスロットル弁駆動装置(図示しない)ではスロットルモータ24を介してスロットル弁23の開度を制御する。
また、上記吸気弁15の弁リフト量を連続的に可変制御する多節リンク状の機構で構成される可変バルブリフト機構26と、クランクシャフト7と吸気弁用カムシャフト25との回転位相差を連続的に可変制御して、吸気弁15の開閉タイミングを進遅角する可変バルブタイミング機構27とを備えている。
さて、冷間状態でのクランキングからのエンジン回転速度が良好に吹き上がるようにすると共に、排気通路8に設けている特に第1触媒9を早期に暖機するため点火時期を遅角させている。この様子を図2を参照しながら4気筒エンジンの場合で具体的に説明する。
まず、現状の制御から説明する。現状では、図2の最上段に一点鎖線で示したように、始動のためスタータスイッチをOFFよりONへと切換えたt0のタイミングより、エンジン回転速度は3つの気筒で初回の爆発に対応して変動し、4番目の気筒の爆発でエンジン回転速度が急激に上昇し、t2のタイミングでアイドル時の目標回転速度NSETを横切って吹き上がっている(一点鎖線参照)。そして、エンジン回転速度がアイドル時の目標回転速度NSETに到達したt2のタイミングからは、図2の第5段目に一点鎖線で示したようにアイドル時の目標回転速度NSETを維持できる吸入空気が燃焼室5に導入されるようにスロットル弁開度が所定開度TVO1へとステップ的に開かれている。
また、燃料噴射量は、冷間始動当初は噴射燃料の全てが燃焼室5に吸入されるのではなく、噴射燃料量の一部が吸気ポート4壁や吸気弁15傘裏部に付着し、吸気ポート壁を液状で流れる、いわゆる燃料壁流の形成に使われるため、燃焼室5への燃料供給遅れが発生する。このため、図2の第4段目に一点鎖線で示したように始動当初で吸気ポート壁の燃料壁流として多くが奪われるあいだは余分に燃料を噴射供給しており、燃料壁流の形成に多くが奪われなくなるタイミングより徐々に燃料噴射量を減少させている。
一方、点火時期は現状では、図2の第2段目に一点鎖線で示したように、t0のタイミングより始動用の点火時期である第1点火時期ADV1に設定され、t2のタイミングからは第1触媒9の暖機促進を図るため大きく遅角させた第2点火時期ADV2へと徐々に切換えられている。
ここで、クランキングからのエンジン回転速度がアイドル時の目標回転速度に到達するt2のタイミングを境にして前と後に分けると、t2の後には、燃費向上の観点からはエンジン回転速度Neが吹き上がることなくアイドル時の目標回転速度NSETへと速やかに落ち着くことが望ましい。これは、エンジン回転速度がアイドル時の目標回転速度NSETを超えて吹き上がるとそれだけ燃料消費が増してしまうためである。
また、t2の後には実際の空燃比は理論空燃比に落ち着くことが望ましい。これは、暖機完了後の第1触媒9は理論空燃比を中心とする狭い範囲にあるときだけ有害三成分(HC、CO、NOx)を同時に浄化できるためである。
そこで、クランキングからのエンジン回転速度Neがアイドル時の目標回転速度NSETに達したt2のタイミングで、図2の第2段目に実線で示したように点火時期を第1点火時期ADV1から第2点火時期ADV2へとステップ的に遅角すると共に、燃費向上の観点より、エンジン回転速度Neがアイドル時の目標回転速度NSETに到達したt2のタイミングでエンジン回転速度Neをアイドル時の目標回転速度NSETに保持させるに必要な吸入空気量が燃焼室5に供給されるように、スロットル弁位置から燃焼室5までの吸入空気量の応答遅れを考慮して、図2の第5段目に実線で示したようにエンジン回転速度Neがアイドル時の目標回転速度NSETに到達するt2のタイミングよりも所定期間前のt1のタイミングよりスロットル弁23を開き始める構成を考えた。
そしてこの構成で実験してみたところ、もくろみ通りにエンジン回転速度Neがアイドル時の目標回転速度NSETに到達した後に、このアイドル時の目標回転速度NSETを超えてエンジン回転速度度が吹き上がることはなくなったのであるが、図2の第6段目に一点鎖線で示したように、実際の空燃比は、エンジン回転速度Neがアイドル時の目標回転速度NSETに到達するt2のタイミングで理論空燃比(ストイキ)となっているものの、その後に燃焼安定限界ラインを超えてリーンとなり、この過度のリーン化によって、図2の第7段目の一点鎖線に示したようにHCが増加することが新たに判明した。
この原因は、主に吸気ポート4壁の燃料壁流にあると見当をつけて実験してみたところ、図2の第3段目に示したように、エンジン回転速度Neがアイドル時の目標回転速度NSETに到達するt2のタイミングの後も吸気圧が低下し続けていた。すなわち、吸気ポート壁の燃料壁流量は燃料壁流が流れる部位の圧力(つまり吸気圧)や燃料壁流が流れる部位の吸気流速(吸気ポート4の吸気流速)に依存し、吸気圧が小さくなるほど小さくなる(これは吸気圧が小さくなるほど燃料の気化特性が良くなることによる)特質を、また吸気ポート4の吸気流速が大きくなるほど小さくなる(これは吸気ポート4の吸気流速が大きくなるほど燃料の気化特性が良くなることによる)特質を有するので、吸気圧や吸気ポートの吸気流速が変化している途中にあるt2のタイミングでの燃料壁流量よりも、吸気圧や吸気ポートの吸気流速が所定値に落ち付くt3のタイミングでの燃料壁流量のほうが小さくなる。燃焼室5に流入する燃料量にはこの燃料壁流量も含まれるので、t2よりt3の期間で燃料壁流量が減り続けることは、燃焼室5に流入する燃料量も、この燃料壁流量の減少に合わせて減り続けることを意味し、従って、t2のタイミングで混合気の空燃比が理論空燃比となっていても、燃料壁流量の減少に合わせて実際の空燃比がリーン側へと向かい、燃焼安定限界を超えてリーン化したものと思われる。
そこで本発明は、次の3つの操作を実行する。
〔1〕エンジン回転速度Neがアイドル時の目標回転速度NSETに到達するt2のタイミングからは特に第1触媒9の暖機促進を図りながらエンジン回転速度Neのアイドル時の目標回転速度NSETを超えての吹き上がりを抑制するために、図2の第2段目に実線で示したように、点火時期をt2で第1点火時期(始動用の点火時期)ADV1から第2点火時期(触媒暖機促進用の点火時期)ADV2へとステップ的に遅角する。こうした点火時期制御は気筒別に実行する。ここで、アイドル時とは、運転者がアクセルペダル41を踏み込んでいない状態をいう。アイドル時の目標回転速度NSETは適合値である。
〔2〕t2のタイミングよりエンジン回転速度Neをアイドル時の目標回転速度NSETに保持させるには、アイドル時の目標回転速度NSETを保持させるに必要な吸入空気量を燃焼室5に供給することであり、その燃焼室5への空気供給がt2のタイミングで完了している必要がある。この場合に、現状のエンジンで吸入空気量を制御するのは、吸気コレクタ2上流の吸気通路に設けられているスロットル弁23であり、従ってスロットル弁位置から燃焼室5までの吸入空気量の応答遅れを考慮して、図2の第5段目に実線で示したように、t2よりも所定期間前のt1のタイミングよりスロットル弁23を所定値TVO1に向けて開き始め、t2のタイミングで所定値TVO1に落ち着くようにする。
〔3〕t2での点火時期のステップ遅角によりエンジン回転速度Neはアイドル時の目標回転速度NSETに落ち着くものの、その直後の吸気圧や吸気ポートの吸気流速の変化に伴う燃料壁流量の減少により空燃比の過度のリーン化が生じ、HCが増大してしまう(あるいはエンジン回転Neがアイドル時の目標回転速度NSETから却って低下してしまう)ので、このHCの増加を防ぐため、図2の第4段目に実線で示したように、スロットル弁23を開き始めるt1のタイミングを起点とし、吸気圧や吸気ポートの吸気流速の変化が収まるt3までのあいだ、燃焼室5への燃料壁流量の減少分を補うように燃料噴射量を一時的に増量する。
ここで、現状の燃料噴射制御を前提として、上記〔3〕の操作を実行するため、始動後増量補正係数KASを用いる。これについて図3により詳述すると、図3の最上段は図2の最上段と同じである。また、図3の第2段目には上記〔1〕の操作による点火時期の動きを、第4段目には上記〔2〕の操作によるスロットル弁開度の動きを改めて示している。
まず現状では、図3の第3段目に一点鎖線で示したように、スタータスイッチ36をOFFよりONに切換えるt0のタイミングより始動後増量補正係数KASとして初期値KAS0(図では0.3)を設定し、その後にエンジン回転速度Neが完爆回転速度N0に到達したt5のタイミングより所定の速度でゼロに向かって減少させている。これに対して本実施形態では、図3の第3段目に実線で示したように、t2のタイミングまで初期値KAS0を保持させ、t2のタイミングより所定の速度でゼロに向かって減少させる。すなわち、始動後増量補正係数KASを初期値KAS0から減少させるタイミングをt5よりt2まで遅らせる。これによって図3の第3段目にハッチングで示した面積部分が燃料増量分となり、空燃比の燃焼安定限界を超える過度のリーン化を防止できることとなる。
このように、始動後増量補正係数KASを初期値KAS0から減少させるタイミングをt5よりt2まで遅らせた(燃料噴射弁からの燃料噴射量を一時的に増量した)ときに得られる実際の空燃比が、理論空燃比となることを確認している。すなわち、燃料噴射弁21からの燃料噴射量を一時的に増量したときに得られる実際の空燃比が、理論空燃比となるように、始動後増量補正係数KAS(燃料噴射弁21からの燃料噴射量の増量分)を設定している。
ここでは、始動後増量補正係数KASをt5よりt2の間で一定(初期値KAS0)とし、その後に直線的に減少させているが、これに限られるものでない。要は、スロットル弁23を開き始めるt5のタイミングを起点とし、エンジン回転速度Neがアイドル時の目標回転速度NSETに到達したタイミングの後に吸気圧や吸気ポートの吸気流速の変化が落ち着く(吸気圧や吸気ポートの流速の変化割合が所定範囲内になる)t3のタイミングまでのあいだで、燃料噴射弁21からの燃料噴射量が一時的に増量されるように始動後増量補正係数KASを変化させればよい。
また、始動後増量補正係数KASを初期値KAS0から減少させるタイミングをt5よりt2まで遅らせることにより、燃料噴射弁からの燃料噴射量を一時的に増量しているが、これに限られるものでない。例えば、始動後増量補正係数KASとは別に新たに増量補正係数を導入し、この増量補正係数によって、スロットル弁23を開き始めるt5のタイミングを起点とし、エンジン回転速度Neがアイドル時の目標回転速度NSETに達したタイミングの後に吸気圧や吸気ポートの吸気流速の変化が落ち着くt3までのあいだ、燃料噴射弁21からの燃料噴射量を一時的に増量するようにしてもかまわない。
また、図3ではエンジン回転速度Neが完爆回転速度N0に到達したt5のタイミングを、スロットル弁23を開き始めるタイミングとしているが、これに限定されるものでもない。
また、上記のように、O2センサ35が活性化したタイミングで空燃比のフィードバック制御を開始するのであるが、空燃比のフィードバック制御を開始するタイミングが、エンジン回転速度Neがアイドル時の目標回転速度NSETに到達したタイミングの後に吸気圧や吸気ポートの吸気流速の変化が落ち着くt3のタイミングよりも前にくるようであれば、上記〔3〕の操作を中止して現状の操作に戻すことが好ましい。これは、空燃比のフィードバック制御により実際の空燃比が理論空燃比を中心とした所定のウインドウの幅内に収められ、これによって過度のリーン化を防止できるためである。
エンジンコントローラ31により実行されるこの制御を以下のフローチャートにより詳述する。
図4は完爆フラグと目標回転到達フラグを設定するためのもので、一定時間毎(例えば100ms毎)に実行する。
図4において、ステップ1ではエンジン回転速度Neを読み込む。エンジン回転速度Neはクランク角センサ(33、34)の信号に基づいて算出されている。
ステップ2では完爆フラグをみる。この完爆フラグはイグニッションスイッチ(図示しない)のOFFよりONへの切換時にゼロに初期設定されるフラグである。このため、当初は完爆フラグ=0であることよりステップ2からステップ3に進み、エンジン回転速度Neと完爆回転速度N0(例えば1000rpm)を比較する。完爆回転速度N0は適合値である。エンジン回転速度Neが完爆回転速度N0に到達していなければそのまま今回の処理を終了する。
ステップ3でエンジン回転速度Neが完爆回転速度N0に到達したとき(Ne≧N0)にはステップ4に進み、完爆回転速度N0に到達したことを示すため完爆フラグ=1とする。
ステップ5ではタイマを起動する(タイマ値TIME=0)。このタイマはエンジン回転速度Neが完爆回転速度N0に到達したときからの経過時間を計測するためのものである。
上記の完爆フラグ=1により、次回からはステップ2よりステップ6に進むことになり、ステップ6でタイマ値TIMEと所定値DTを比較する。所定値DTは、エンジン回転速度Neが完爆回転速度N0に到達したタイミングからアイドル時の目標回転速度NSETに到達するタイミングまでの時間間隔で、予め適合しておく(図3参照)。タイマを起動した当初はタイマ値TIMEが所定値DT未満にあるので、ステップ7に進み、タイマ値TIMEを制御周期(100ms)の分だけインクリメントする。
ステップ7でのタイマ値TIMEのインクリメントを何度か繰り返すと、やがてタイマ値TIMEが所定値DT以上となる。このときにはステップ6よりステップ8に進み、アイドル時の目標回転速度NSETに到達したことを示すため目標回転到達フラグ(イグニッションスイッチのOFFよりONへの切換時にゼロに初期設定)=1とする。
図5は点火時期指令値及びスロットル弁目標開度を算出するするためのもので、一定時間毎(例えば100ms毎)に、図4のフローに続けて実行する。
図5において、ステップ21ではイグニッションスイッチのOFFよりONへの切換時であるか否かをみる。イグニッションスイッチのOFFよりONへの切換時であるときにはステップ22に進み、水温センサ37により検出される冷却水温TWを始動時水温TWINTとして取り込み、この始動時水温TWINTに応じて第1点火時期ADV1を算出し、この算出した第1点火時期ADV1をステップ23で点火時期指令値ADVに移す。第1点火時期ADV1は始動に最適な点火時期で、大きく進角側にある。
ステップ24ではスロットル弁目標開度tTVOに初期値(例えばゼロ)を入れる。
イグニッションスイッチのOFFよりONへの切換時のあと、つまりイグニッションスイッチのON状態になると、ステップ21よりステップ25、26に進む。ステップ25、26では完爆フラグと目標回転到達フラグ(いずれのフラグも図4により設定されている)をみる。完爆フラグ=0であるときにはステップ27に進みイグニッションスイッチのOFFよりONへの切換時に算出した第1点火時期ADV1を維持する。このときもステップ24の操作を実行する。
完爆フラグ=1かつ目標回転到達フラグ=0であるときにはステップ26よりステップ28に進み、イグニッションスイッチのOFFよりONへの切換時に算出した第1点火時期ADV1を維持する。
ステップ29ではスロットル弁目標開度tTVOを次式により算出する。
tTVO=tTVO(前回)+ΔTVO …(1)
ただし、ΔTVO :一定値、
tTVO(前回):tTVOの前回値、
ここで、(1)式の所定値ΔTVOはスロットル弁目標開度の所定時間当たりの増し分を定める値であり、この値は、エンジン回転速度Neがアイドル時の目標回転速度NSETに到達するタイミングでスロットル弁目標開度tTVOが、後述する所定値TVO1に到達するように予め定めておく。スロットル弁目標開度の前回値である「tTVO(前回)」の初期値にはゼロを入れておく。
ステップ30ではスロットル弁目標開度tTVOと所定値TVO1を比較する。所定値TVO1は、目標回転速度NSETを維持するトルクを発生させるのに必要な最低の吸入空気量が流れるときのスロットル弁開度である。所定値TVO1は予め適合により求めておく。
今回のエンジン運転時にステップ29を初めて経験した後ではスロットル弁目標開度tTVOは所定値TVO1未満であるので今回の処理をそのまま終了する。目標回転到達フラグ=1となるまではステップ29の操作を繰り返すことになり、スロットル弁目標開度tTVOが徐々に大きくなる。目標回転到達フラグ=1となる直前でスロットル弁目標開度tTVOが所定値TVO1以上となる。このときにはステップ30よりステップ31に進んでスロットル弁目標開度tTVOを前回と同じ値に維持する。
目標回転到達フラグ=1となったときにはステップ26よりステップ32に進み、水温センサ37により検出されるそのときの冷却水温TWに応じて第2点火時期ADV2を算出し、これをステップ33で点火時期指令値ADVに移す。
第2点火時期ADV2は、冷間始動時における第1触媒9の暖機促進用の点火時期で、第1触媒9の暖機完了後の点火時期よりも遅角側に設定されている。このため、点火時期は図3の第2段目に示したようにエンジン回転速度Neが目標回転速度NSETに到達するt2のタイミングで第1点火時期ADV1より第2点火時期ADV2へとステップ的に切換わることとなる。
このようにして算出される点火時期指令値ADVは出力レジスタに移され、実際のクランク角がこの点火時期指令値ADVと一致したタイミングで点火コイルの一次側電流が遮断される。
また、スロットル弁目標開度tTVOを受けるスロット弁駆動装置では、実際のスロットル弁開度がこのスロットル弁目標開度tTVOと一致するようにスロットルモータ24を駆動する。
図6は目標当量比TFBYAを算出するためのもので、一定時間毎(例えば100ms毎)に実行する。
図6において、ステップ41ではイグニッションスイッチのOFFよりONへの切換時であるか否かをみる。イグニッションスイッチのOFFよりONへの切換時であるときにはステップ42に進み、始動後増量補正係数の初期値KAS0を、水温センサ37により検出される始動時水温TWINTに応じて算出し、これをステップ43で始動後増量補正係数KASに移す。始動後増量補正係数の初期値KAS0は始動時水温TWINTが低くなるほど大きくなる値である。
イグニッションスイッチのOFFよりONへの切換時のあと、つまりイグニッションスイッチのON状態になると、ステップ41よりステップ44に進む。ステップ44では目標回転到達フラグをみる(図4により設定されている)。目標回転到達フラグ=0であるときにはステップ45に進み始動後増量補正係数KASを前回と同じ値(つまり初期値KAS0)に維持する。
目標回転到達フラグ=1になったときにはステップ44よりステップ46に進み始動後増量補正係数KASとゼロを比較する。目標回転到達フラグ=1になったタイミングでは始動後増量補正係数KASはゼロより大きいため(初期値KAS0が入っているので)、ステップ47に進んで始動後増量補正係数KASを次式により算出する。
KAS=KAS(前回)−Δt×KAS(前回) …(2)
ただし、Δt :一定値、
KAS(前回):KASの前回値、
ここで、(2)式の所定値Δtは始動後増量補正係数KASの所定時間当たりの減少分を定める値であり、この値は吸気圧が一定値に落ち着く(吸気圧の変化割合が所定範囲内になる)t3のタイミングでゼロとなるように、適合により予め定めておく。始動後増量補正係数の前回値である「KAS(前回)」の初期値はKAS0である。
目標回転到達フラグ=1である場合に、ステップ47の操作を繰り返すと、始動後増量補正係数KASが徐々に小さくなってゆく。従って、ステップ48で始動後増量補正係数KASとゼロを比較し、始動後増量補正係数KASが負の値になったときにはステップ49に進んで始動後増量補正係数KAS=0とする。
このようにして、始動後増量補正係数KASは、エンジン回転速度Neがアイドル時の目標回転速度NSETと一致したタイミングより、徐々に小さくなりやがてゼロとなる値である。
現状では、始動後増量補正係数KASはエンジン回転速度Neが完爆回転速度N0に到達したタイミングより徐々に小さくなるのであるが、本発明では、エンジン回転速度Neがアイドル時の目標回転速度NSETと一致するタイミングまで初期値を維持し、エンジン回転速度Neがアイドル時の目標回転速度NSETと一致したタイミングより徐々に小さくなる。
ステップ50、51は現状と同じである。すなわち、ステップ50では水温センサ37により検出されるそのときの冷却水温Twに応じて水温増量補正係数KTWを算出する。水温増量補正係数KTWは冷却水温Twが低くなるほど大きくなる値である。
ステップ51ではこの水温増量補正係数KTWと、上記の始動後増量補正係数KASとを用いて次式により目標当量比TFBYAを算出する。
TFBYA=1+KTW+KAS …(3)
目標当量比TFBYAは1.0を中心とする値で、エンジンの暖機完了後であれば、TFBYA=1(KTW=0、KAS=0)となり、これによって理論空燃比の混合気が得られる。冷間始動時には、上記の始動後増量補正係数KASが加わるため目標当量比TFBYAは1.0を超える値となるが、これは燃料壁流量を考慮しているからである。すなわち、冷間始動時に目標当量比TFBYAは1.0を超える値になるものの、エンジン回転速度がアイドル時の目標回転速度NSETに到達するタイミングより、理論空燃比の混合気が得られることとなる。
図7は燃料噴射パルス幅Tiを算出するためのもので、一定時間毎(例えば100ms毎)に、図6のフロートは独立に実行する。このフローは現状と同じである。
図7において、ステップ61では始動時燃料噴射パルス幅Ti1を次式により算出する。
Ti1=TST×KNST×KTST …(4)
ただし、TST :始動時基本噴射パルス幅、
KNST:回転速度補正係数、
KTST:時間補正係数、
これら始動時基本噴射パルス幅TST、回転速度補正係数KNST、時間補正係数KTSTの求め方は周知であるので、詳細な説明は省略する。
ステップ62ではエアフローメータ32の出力が入力したか否かをみる。エアフローメータ32の出力が入力していなければステップ63、64を飛ばしてステップ65に進み、この始動時燃料噴射パルス幅Ti1を最終の燃料噴射パルス幅Tiに移す。
一方、エアフローメータ32の出力が入力しているときにはステップ62よりステップ63に進み、図6により得ている目標当量比TFBYAを用いて次式により通常時の燃料噴射パルス幅Ti2を算出する。
Ti2=(Tp×TFBYA+Kathos)×(α+αm−1)×2+Ts
…(5)
ただし、Tp :基本噴射パルス幅、
TFBYA :目標当量比、
Kathos:過渡補正量、
α :空燃比フィードバック補正係数、
αm :空燃比学習値、
Ts :無効噴射パルス幅、
(5)式の基本噴射パルス幅Tp、過渡補正量Kathos、空燃比フィードバック補正係数α、空燃比学習値αm、無効噴射パルス幅Tsの求め方は周知である。例えば、基本噴射パルス幅Tpは次式により算出される。
Tp=K×Qa/Ne …(6)
ただし、Qa:エアフローメータ32より算出される吸入空気量、
(6)式の定数Kにより、混合気の空燃比が理論空燃比となるように設定されている。従って、上記の始動後増量補正係数KASがゼロを超える正の値である間は、燃料噴射弁21からの燃料噴射量(燃料噴射パルス幅Ti)が増量補正されることとなる。
なお、(5)式の過渡補正量Kathosは吸気ポート壁の燃料壁流量を考慮し、基本的にエンジンの負荷、回転速度及び燃料付着部の温度に基づいて算出される値であるので、始動時にはこの過渡補正量Kathosにより、燃料噴射量のうちから吸気ポート壁の燃料壁流として奪われる分だけ燃料噴射量を増量する側に働くと考えられるが、それでも、実験によれば、上記のように空燃比の過度のリーン化を招いたことになる。これは、過渡補正量Kathosの算出に、吸気圧や吸気ポートの吸気流速の変化までは考慮していないためである。
ステップ64〜66では始動時燃料噴射パルス幅Ti1と通常時燃料噴射パルス幅Ti2とを比較し、値の大きい方を最終の燃料噴射パルス幅Tiとして選択する。
上記の始動後増量補正係数KASが燃料噴射に用いられるのは、通常時燃料噴射パルス幅Ti2が最終の燃料噴射パルス幅Tiとして採用される場合である。すなわち、本実施形態では、図3においてt5のタイミング直前においては、始動時燃料噴射パルス幅Ti1より通常時燃料噴射パルス幅Ti2のほうが大きくなっていることを前提としている。
このようにして算出された燃料噴射パルス幅Tiは出力レジスタに移され、所定の燃料噴射タイミングになると、このパルス幅Tiの間だけ各気筒の燃料噴射弁21がシーケンシャルに開かれる。
ここで、本実施形態の作用効果を説明する。
本実施形態(請求項1、8に記載の発明)によれば、クランキングからのエンジン回転速度Neがアイドル時の目標回転速度NSETに到達したタイミングで点火時期を第1点火時期ADV1(始動用の点火時期)から第2点火時期ADV2(触媒暖機促進用の点火時期)へとステップ的に遅角し(図5のステップ26、32参照)、エンジン回転速度Neがアイドル時の目標回転速度NSETに到達したタイミングでエンジン回転速度Neをアイドル時の目標回転速度NSETに保持させるに必要な吸入空気量が燃焼室5に供給されるように、スロットル弁位置から燃焼室5までの吸入空気量の応答遅れを考慮して、エンジン回転速度Neがアイドル時の目標回転速度NSETに達するタイミングよりも所定期間DT前のタイミングt1よりスロットル弁23を開き始めるので(図5のステップ25、26、29、30、31参照)、エンジン回転速度Neがアイドル時の目標回転速度NSETに到達した後の吹き上がりを抑制しながら早期に排気温度を上昇させることが可能となり(図2最下段の実線参照)、無駄な燃料消費を抑制しつつ触媒活性時間を短くすることができる。
この場合に、エンジン回転速度Neがアイドル時の目標回転速度NSETに到達した後も暫くのあいだ吸気圧や吸気ポート4の吸気流速がなおも小さくなる側に変化し続けることがあり、この場合には、吸気圧や吸気ポート4の吸気流速の変化に伴って吸気ポート壁の燃料壁流量が減少し、その分燃焼室5に供給される燃料量が不足し、燃焼室内の混合気の空燃比が燃焼安定限界を超えてリーンとなり、HCの増加やアイドル時の目標回転速度NSETからの回転落ちを招くことになるのであるが、本実施形態(請求項1、8に記載の発明)によれば、スロットル弁23を開き始めるタイミングを起点とし、エンジン回転速度Neがアイドル時の目標回転速度NSETに到達した後に吸気圧または吸気ポート4の吸気流速の変化が落ち着く(吸気圧または吸気ポートの流速の変化割合が所定範囲内になる)までのあいだ、始動後増量補正係数KASを用いて、燃料噴射弁21からの燃料噴射量を一時的に増量するので(図6のステップ44、45、51参照)、エンジン回転速度Neがアイドル時の目標回転速度NSETに到達した後に吸気圧や吸気ポート4の吸気流速がなおも小さくなる側に変化し続けることがあっても、燃焼室内の混合気の空燃比が燃焼安定限界を超えてリーンとなることを防止できる。この結果、エンジン回転速度Neがアイドル時の目標回転速度NSETに到達した後におけるHCの増加やアイドル時の目標回転速度NSETからの回転落ちを抑制できる(図2第7段目の実線参照)。
図10(A)、図10(B)は第2実施形態のフローチャートで、第1実施形態の図6と置き換わるものである。図6と同一部分には同一のステップ番号を付している。
上記の実施形態(第1実施形態)では、環境条件である大気圧の相違(大気圧条件)を考慮していない。このため、始動直後のアイドル回転速度の安定に関係しあるいは影響する値(例えば始動後増量補正係数KAS、(5)式の基本噴射パルス幅Tp、過渡補正量Kathosなど)を標準大気圧(1013hPa)に対して設定している場合に、高地のように標準大気圧より低い大気圧条件では、標準大気圧からの大気圧の低下分だけ燃料噴射弁21からの燃料噴霧が拡がり、吸気ポート4壁の壁流燃料量が多くなり、燃焼室5に導入される燃料の供給が遅れ、燃焼室5内燃料が不足して燃焼状態が不安定になることから、クランキングからのエンジン回転速度がアイドル時の目標回転速度NSETに到達した直後に不安定な回転速度に伴う不快な振動が生じたり、HCが増加したり、はなはだしい場合にはエンジンストールに至ってしまうことが考えられる。同様にして、始動直後のアイドル回転速度の安定に関係しあるいは影響する値を標準大気圧に対して設定している場合に、高気圧が到来している状態や過給機を付加したエンジンにおいて過給機を働かせている状態(過給状態)のように、標準大気圧より高い大気圧条件では、標準大気圧からの大気圧の上昇分だけ燃料噴射弁21からの噴霧燃料が気化しにくく、吸気ポート壁の壁流燃料量が大きくなり、燃焼室5に導入される燃料の供給が遅れ、燃焼室5内燃料が不足して燃焼状態が不安定になることから、標準大気圧より高い大気圧条件においてもクランキングからのエンジン回転速度がアイドル時の目標回転速度NSETに到達した直後に不安定な回転速度に伴う不快な振動が生じたり、HCが増加したり、はなはだしい場合にはエンジンストールに至ってしまうことが考えられる。
そこで第2実施形態では、図8の第4段目に破線で示したように、増量後の燃料噴射量(図8の第4段目に実線で示す特性を参照。この特性は図2の第4段目に実線で示す特性と同じである。)を標準大気圧条件で設定している場合に、標準大気圧より外れた大気圧条件であるときには、実際の大気圧に基づいてその増量後の燃料噴射量をさらに増加側に補正する。詳細には、図9の第3段目に示したように、標準大気圧条件のときにはt0のタイミングよりt2のタイミングまで標準大気圧用初期値KASbを始動後増量補正係数KASとして設定し、t2のタイミングからは始動後増量補正係数KASを所定のスピードで減少させ、t3のタイミングで始動後増量補正係数KASをゼロとする(実線参照)のに対して、標準大気圧以外の大気圧条件であるときにはt5のタイミングで標準大気圧用初期値KAS0bから標準大気圧以外の大気圧用初期値(KAS0b×Katm)へと大きくし、t5のタイミングよりt2のタイミングまでこの標準大気圧以外の大気圧用初期値を始動後増量補正係数KASとして設定し、t2のタイミングからは始動後増量補正係数KASを所定のスピードで減少させ、t3より遅いタイミングで始動後増量補正係数KASをゼロとする(二点鎖線参照)。これによって標準大気圧から外れた大気圧条件のときには、標準大気圧条件のときよりも燃料噴射弁21からの燃料噴射量の増量分(増量後の燃料噴射量)が増加側に補正されるようにする。ここで、実際の大気圧は大気圧センサ(図13参照)により検出すればよい。
図10(A)において、第1実施形態の図6と相違する部分を主に説明すると、ステップ41でイグニッションスイッチのOFFよりONへの切換時であるときにはステップ71に進み、始動後増量補正係数の標準大気圧用初期値KAS0bを、水温センサ37により検出される始動時水温TWINTに応じて算出し、これをステップ72で始動後増量補正係数KASに移す。標準大気圧条件での初期値KAS0bは標準大気圧条件で、クランキングからのエンジン回転速度がアイドル時の目標回転速度NSETに到達するタイミングで燃焼室5内燃料から定まる空燃比が理論空燃比となるように適合しておく。
ステップ76では基準燃圧Pf0を燃圧Pfとして設定する。標準大気圧条件のときにも、燃料噴射弁21からの燃料噴霧の一部は吸気ポート4壁(あるいは吸気弁15傘裏部)に付着して壁流燃料を形成し、この壁流燃料の形成によって始動からの燃焼室5への燃料の供給が遅れることとなるが、このような壁流燃料の形成に起因する燃料の供給遅れがあっても、燃焼室5内燃料により形成される混合気の空燃比が、図2で前述したt2のタイミングで燃焼安定限界を超えたリーン空燃比とならないように予め適合している燃圧が、この基準燃圧Pf0である。しかしながら、実際には図2で前述したt2からt3までの期間における吸気流速の変化に伴い、t2のタイミング以降に空燃比が燃焼安定限界を超えたリーン空燃比となってしまうことがあることは第1実施形態において前述した通りである。
ステップ73では大気圧センサ61(図13参照)により検出される実際の大気圧が標準大気圧を中心とする所定の許容幅内にあるか否かをみる。実際の大気圧が標準大気圧を中心とする所定の許容幅内にであるときには、実際の大気圧がほぼ標準大気圧にあると判断してステップ44〜49に進み、第1実施形態と同様の操作(図6のステップ44〜49)を実行する。
実際の大気圧が標準大気圧を中心とする所定の許容幅内にない、つまり標準大気圧から外れた大気圧条件のときにはステップ73よりステップ74に進み完爆フラグをみる。完爆フラグ=0(完爆回転速度N0に到達する前)であるときにはステップ75に進み、始動後増量補正係数KASを前回と同じ値(つまり標準大気圧条件での初期値KAS0b)に維持する。
完爆フラグ=1(完爆回転速度N0に到達後)になると、ステップ74より図10(B)に進む。図10(B)においてステップ77では目標到達フラグをみる。目標到達フラグ=0(完爆回転速度N0に到達後、アイドル時の目標回転速度NSETに到達する前)であるときにはステップ78に進み、大気圧センサにより検出される実際の大気圧から、図11を内容とするテーブルを検索することにより、大気圧補正係数Katmを算出し、ステップ79でこの大気圧補正係数Katmを始動後増量補正係数の標準大気圧用初期値KAS0b(図10(A)のステップ71で算出済み)に乗算した値を、標準大気圧より外れた大気圧条件での始動後増量補正係数KASとして設定する。この操作により、始動後増量補正係数の初期値が、標準大気圧条件での初期値KAS0bから標準大気圧を外れた大気圧条件での初期値(KAS0b×Katm)へと切換えられる(始動後増量補正係数KASの大気圧による増加側への補正)。
ここで、大気圧補正係数Katmは、図11に示したように、実際の大気圧が標準大気圧(1013hPa)に等しいとき1.0であり、これより実際の大気圧が低くなるほど1.0より大きくなる値である。また、実際の大気圧が標準大気圧より高くなるほど1.0より大きくなる値である。
実際の大気圧が標準大気圧より低くなる高地で大気圧補正係数Katmを1.0より大きな値としているのは、高地では標準大気圧からの大気圧の低下分だけ燃料噴射弁21からの燃料噴霧が拡がり、吸気ポート4壁に形成される壁流燃料量が大きくなり、燃焼室5に導入される燃料の供給遅れが大きくなり、燃焼室5内燃料が不足して燃焼状態が不安定になるので、燃料噴射弁21からの供給燃料量を増量し、吸気ポート4壁の壁流燃料量が大きくなっても燃焼室5内燃料が不足しないようにするためである。また、実際の大気圧が標準大気圧より高くなる条件で大気圧補正係数Katmを1.0より大きな値としているのは、実際の大気圧が標準大気圧より高くなる条件では標準大気圧からの大気圧の上昇分だけ燃料噴射弁21からの燃料噴霧が気化しにくく、吸気ポート4壁に形成される壁流燃料量が大きくなり、燃焼室5に導入される燃料の供給遅れが大きくなり、燃焼室5内燃料が不足して燃焼状態が不安定になるので、燃料噴射弁21からの供給燃料量を増量し、吸気ポート4壁の壁流燃料量が大きくなっても燃焼室5内燃料が不足しないようにするためである。
目標到達フラグ=1(アイドル時の目標回転速度NSETに到達後)になったときにはステップ77よりステップ80に進み始動後増量補正係数KASとゼロを比較する。目標回転到達フラグ=1になったタイミングでは始動後増量補正係数KASはゼロより大きいため(標準大気圧より外れた大気圧条件での初期値(KAS0b×Katm)が入っているので)、ステップ81に進んで標準大気圧より外れた大気圧条件での始動後増量補正係数KASを次式により算出する。
KAS=KAS(前回)−Δt×KAS(前回) …(7)
ただし、Δt :一定値、
KAS(前回):KASの前回値、
(7)式そのものは上記の(2)式と同じである。すなわち、(7)式の所定値Δtは標準大気圧より外れた大気圧条件での始動後増量補正係数KASの所定時間当たりの減少分を定める値であり、適合により予め定めておく。(7)式右辺の始動後増量補正係数の前回値である「KAS(前回)」の初期値は、上記の(2)式と相違して、KAS0b×Katmである。
目標回転到達フラグ=1である場合に、ステップ81の操作を繰り返すと、標準大気圧より外れた大気圧条件での始動後増量補正係数KASが徐々に小さくなってゆく。従って、ステップ82で始動後増量補正係数KASとゼロを比較し、始動後増量補正係数KASが負の値になったときにはステップ83に進んで始動後増量補正係数KAS=0とする。
このように、標準大気圧より外れた大気圧条件での始動後増量補正係数KASも、エンジン回転速度Neがアイドル時の目標回転速度NSETと一致したタイミングより、徐々に小さくなりやがてゼロとなる値である。
ステップ84では大気圧センサにより検出される実際の大気圧から、図12を内容とするテーブルを検索することにより、標準大気圧より外れた大気圧条件での燃圧Pfを設定する。
標準大気圧より外れた大気圧条件での燃圧Pfは図12に示したように、標準大気圧条件で適合した燃圧を基準燃圧Pf0として、標準大気圧より低い大気圧条件で基準燃圧Pf0より小さくなり、また、標準大気圧より高い大気圧条件で基準燃圧Pf0より大きくなる値である。
標準大気圧より低くなる高地で基準燃圧Pf0より小さな燃圧としているのは、高地では標準大気圧からの大気圧の低下分だけ燃料噴射弁21からの燃料噴霧が拡がり、吸気ポート4壁に形成される壁流燃料量が大きくなり、燃焼室5に導入される燃料の供給遅れが大きくなり、燃焼室5内燃料が不足して燃焼状態が不安定になるのであるから、燃圧を下げて燃料噴射弁21からの燃料噴霧が拡がらないようにし、吸気ポート4壁の壁流燃料量が大きくならないように抑制し、燃焼室5内燃料が不足しないようにするためである。また、標準大気圧より高くなる大気圧条件で基準燃圧Pf0より大きな燃圧としているのは、標準大気圧より高くなる大気圧条件では標準大気圧からの大気圧の上昇分だけ燃料噴射弁21からの燃料噴霧が気化しにくく、吸気ポート4壁の壁流燃料量が大きくなり、燃焼室5に導入される燃料の供給遅れが大きくなり、燃焼室5内燃料が不足して燃焼状態が不安定になるのであるから、燃圧を高めて燃料噴射弁21からの燃料噴霧の微粒化を促進し、吸気ポート4壁の壁流燃料量が大きくならないように抑制し、燃焼室5内燃料が不足しないようにするためである。
図13はリターンレス方式の燃料供給装置の概略構成図である。燃料タンク51内の燃料は燃料ポンプ52により燃料フィルタ53を介して燃料供給通路54に圧送され、燃料レール55に蓄えられる。燃料レール55に所定圧で蓄えられた燃料は気筒毎に設けられている燃料噴射弁21に分配され、所定のタイミングで燃料噴射弁21が開かれたときに吸気ポート4に向けて燃料を噴射供給される。燃料供給通路54から分岐して燃料を燃料タンク51に戻す戻すリータン通路56が燃料タンク51内に設けられており、このリターン通路56にプレッシャレギュレータ57を備える。このプレッシャレギュレータ57は、燃料レール55内燃圧を調整するためのもので、第2実施形態では、エンジンコントローラ31からの信号により、プレッシャレギュレータ57を介して燃料レール内燃圧を調整可能となっている。そして、エンジンコントローラ31では大気圧センサ61からの信号に基づき、図10(A)のステップ76、図10(B)のステップ84により設定された燃圧Pfとなるように、プレッシャレギュレータ57に制御信号を出力する。
ここで、第2実施形態の作用効果を説明する。
大気圧条件の相違によって吸気ポート4壁の壁流燃料量が異なり、標準大気圧より低い大気圧条件であっても、この逆に標準大気圧より高い大気圧条件であっても、吸気ポート4壁の壁流燃料量が標準大気圧条件のときより増加し、燃焼室5内燃料が不足して空燃比がリーン側へと外れるのであるが、第2実施形態(請求項1、8に記載の発明)によれば、大気圧センサ61(大気圧検出手段)を備え、増量後の燃料噴射量(具体的には増量後の燃料噴射量を決定する始動後増量補正係数KAS)を標準大気圧に設定している場合に、大気圧センサ61により検出される実際の大気圧が標準大気圧より外れた条件であるときに、その標準大気圧より外れた大気圧に基づいて、図8の第4段目に破線で示したように増量後の燃料噴射量を、具体的には図9の第3段目に二点鎖線で示したように増量後の燃料噴射量を決定する始動後増量補正係数KASを増加側に補正するので(図10(B)のステップ77〜83参照)、第1実施形態の作用効果に加えて、標準大気圧より外れた大気圧条件における吸気ポート4壁の壁流燃料量の増加に合わせた増量後の燃料噴射量(具体的には増量後の燃料噴射量決定する始動後増量補正係数KAS)の設定が可能となり、標準大気圧より外れた大気圧条件においても、空燃比が適正化され、始動直後のエンジンストールや不快な振動、HCの増加を防止できる。
燃料噴射弁21に作用する燃圧を標準大気圧条件に設定している場合に、実際の大気圧が標準大気圧より外れた条件であるとき、例えば実際の大気圧が標準大気圧より低い側に外れた条件であるときには標準大気圧からの大気圧の低下分だけ燃料噴射弁21からの燃料噴霧が拡がり、吸気ポート4壁の壁流燃料量が大きくなり、燃焼室5に導入される燃料の供給が遅れ、燃焼室5内燃料が不足して燃焼状態が不安定になるのであるが、第2実施形態(請求項4、11に記載の発明)によれば、実際の大気圧が標準大気圧より低い側に外れた条件であるときに、増量後の燃料噴射量(具体的には増量後の燃料噴射量を決定する始動後増量補正係数KAS)を増加側に補正するあいだ、その標準大気圧より外れた大気圧に基づいて燃圧を基準燃圧Pf0より低い側に変更するので(図10(B)のステップ84、図12参照)、標準大気圧より低い側に外れた大気圧条件で燃料噴射弁21からの燃料噴霧が拡がらないようにすることが可能となり、吸気ポート4壁の壁流燃料量の増加を抑制することができる。
この逆に、実際の大気圧が標準大気圧より高い側に外れた条件であるときには標準大気圧からの大気圧の上昇分だけ燃料噴射弁21からの燃料噴霧が気化しにくく、吸気ポート4壁の壁流燃料量が大きくなり、燃焼室5に導入される燃料の供給遅れが大きくなり、燃焼室5内燃料が不足して燃焼状態が不安定になるのであるが、第2実施形態(請求項4、11に記載の発明)によれば、実際の大気圧が標準大気圧より高い側に外れた条件であるときに、増量後の燃料噴射量(具体的には増量後の燃料噴射量を決定する始動後増量補正係数KAS)を増加側に補正するあいだ、その標準大気圧より外れた大気圧に基づいて燃圧を基準燃圧Pf0より高い側に変更するので(図10(B)のステップ84、図12参照)、標準大気圧より高い側に外れた大気圧条件で燃料噴射弁21からの燃料噴霧の微粒化を促進することが可能となり、吸気ポート4壁の壁流燃料量の増加を抑制することができる。
さらに、次のような他の実施形態が考えられる。
〈1〉第3実施形態:
第2実施形態を前提として、排気弁16の開閉タイミングを進遅角する可変バルブタイミング機構を備えている場合に、クランキングの開始から排気弁閉時期EVCを変更して吸排気弁のオーバーラップ期間を拡大する。吸排気弁のオーバーラップ期間を拡大するのは、吸気ポート4に燃焼ガスを吹き返させるためである。第3実施形態(請求項5、12に記載の発明)によれば、吸気ポート4に吹き返される高温の燃焼ガスにより吸気ポート4の壁流燃料の気化が促進されることとなり、特に吸気ポート4の壁流燃料が多いエンジンの場合においても、増量後の燃料噴射量、具体的には増量後の燃料噴射量を決定する始動後増量補正係数KASを増加側に補正するあいだにおける空燃比のリーン化を一段と防ぐことができる。
ここで、吸気ポート4の壁流燃料が多いエンジンとは、吸気ポート4が曲がっていたり吸気ポート4の長いエンジンのことである。また、第3実施形態は、可変バルブタイミング機構を備えている場合に限定されるものでなく、要は吸気ポート4への燃焼ガスの吹き返しを強化し得る排気弁用の可変動弁機構であればよい。
〈2〉第4実施形態:
第2実施形態において、燃料噴射弁21の取付位置を変更したもの、つまり燃料噴射弁21を燃焼室5に直接臨んで設けたものを前提として、排気弁16の開閉タイミングを進遅角する可変バルブタイミング機構を備えている場合に、クランキングの開始から吸気弁閉時期EVCを変更して吸排気弁のオーバーラップが生じないようにする。吸排気弁のオーバーラップが生じないようにするのは、燃焼室5内に燃焼ガスを封じ込めるためである。第4実施形態(請求項6、13に記載の発明)によれば、燃焼室5内に封じ込められる高温の燃焼ガスにより燃焼室5内の壁流燃料の気化が促進されることとなり、特に燃焼室5内の壁流燃料が多いエンジンの場合においても、増量後の燃料噴射量、具体的には増量後の燃料噴射量を決定する始動後増量補正係数KASを増加側に補正するあいだにおける空燃比のリーン化を一段と防ぐことができる。
ここで、第4実施形態は、可変バルブタイミング機構を備えている場合に限定されるものでなく、要は吸排気弁のオーバーラップが生じないようにし得る排気弁用の可変動弁機構であればよい。
〈3〉第5実施形態:
第2実施形態を前提としたとき、図8においてクランキングからのエンジン回転速度がアイドル時の目標回転速度NSETに到達するt2のタイミングで、第2実施形態における増量後の燃料噴射量が燃焼して適切なエンジントルクが発生することが、t2のタイミングよりエンジン回転速度をアイドル時の目標回転速度NSETに安定させるために重要である。
この場合に、標準大気圧条件下では、クランキングの開始を起点として、エンジン回転速度がアイドル時の目標回転速度NSETに到達するt2のタイミングまでの期間を予測できることから、クランキングからのエンジン回転速度がアイドル時の目標回転速度NSETに到達するt2のタイミングで燃焼行程(膨張行程)を迎える気筒を予測することができ、その予測した気筒の膨張行程のすぐ前に訪れる排気行程または吸気行程を燃料噴射タイミングとしてやればよい。
しかしながら、標準大気圧から外れた大気圧条件になると、標準大気圧からの大気圧の相違分だけエンジン回転速度の吹き上がりに差が出てアイドル目標回転速度NSETに到達するまでの時間が標準大気圧条件のときと相違する。つまり、クランキングからのエンジン回転速度Neがアイドル時の目標回転速度NSETに到達するタイミングで膨張行程を迎える気筒が、標準大気圧条件のときと異なってくることが考えられる。そうなると、エンジン回転速度がアイドル時の目標回転速度NSETに到達するタイミングで、第2実施形態における増量後の燃料噴射量を増加側に補正した値を燃焼させて適切なエンジントルクを発生させることができず、エンジン回転速度をアイドル時の目標回転速度NSETに安定させにくくなる。
そこで第5実施形態では、エンジン回転速度がアイドル時の目標回転速度NSETに到達するタイミングで膨張行程を迎える気筒を予測し、その予測した気筒の膨張行程のすぐ前に訪れる排気行程または吸気行程を燃料噴射タイミングとして、第2実施形態における増量後の燃料噴射量を増加側に補正した値を用いての燃料噴射を実行する。第5実施形態(請求項7、14に記載の発明)によれば、これにより、標準大気圧から外れた大気圧条件においても、アイドル時の目標回転速度NSETに到達するタイミングで、第2実施形態における増量後の燃料噴射量増加側に補正した値を燃焼させて適切なエンジントルクを発生させることができる。
この考え方を図14を用いて説明すると、標準大気圧条件のときには、図14実線で示したように、t2のタイミングでエンジン回転速度がアイドル時の目標回転速度NSETに到達するのに対して、標準大気圧から外れた大気圧条件のときには、図14二点鎖線で示したように、所定の回転速度N1におけるエンジン回転速度の吹き上がりの程度が、標準大気圧条件のときより緩くなり、t2よりも遅れたt2’のタイミングでエンジン回転速度がアイドル時の目標回転速度NSETに到達するものとする。このとき、標準大気圧条件であれば、所定回転速度N1からアイドル時の目標回転速度NSETに到達するまでの時間がdt1であるところ、標準大気圧から外れた大気圧条件のときには、所定回転速度N1からアイドル時の目標回転速度NSETに到達するまでの時間がdt2となってdt1より長引いている。
この場合に、所定回転速度N1からアイドル時の目標回転速度NSETへと吹き上がる回転速度の特性を直線で近似すると、標準大気圧から外れた大気圧条件のときにおける所定回転速度N1でのエンジン回転速度の傾きは、エンジン回転速度に基づいて求めることができ、この求めた直線の傾きから、アイドル時の目標回転速度NSETに到達するまでの時間dt2を次式により算出することができる。
dt2=(NSET−N1)/(直線の傾き) …(8)
この到達時間dt2と気筒判別結果とからt2’のタイミングで膨張行程を迎える気筒を予測することができる。この気筒が仮に1番気筒であったとすると、こうして膨張行程を迎える1番気筒を予測できれば、1番気筒についてその膨張行程のすぐ前に訪れる吸気行程(あるいは排気行程)がどのタイミングで訪れるかを知り得る。その吸気行程が例えば図示のt7のタイミングであったとすれば、そのt7のタイミングを1番気筒の燃料噴射タイミングとして、第2実施形態における増量後の燃料噴射量を増加側に補正した値を用いての燃料噴射を実行する。
実施形態に加えて、さらにエンジン回転速度Neがアイドル時の目標回転速度NSETに到達した後、実際のエンジン回転速度Neがアイドル時の目標回転速度NSETと一致するように、スロットル弁開度、燃料噴射量、点火時期のいずれか一つを用いてフィードバック制御するようにしてもかまわない。このような構成によれば、エンジン回転速度Neがアイドル時の目標回転速度NSETに到達した後に、実際の回転速度Neがハンチングすることがあっても、アイドル時の目標回転速度NSETへ落ち着かせることができる。
請求項1に記載の点火時期遅角処理手順は、図5のステップ26、32、33により、吸入空気量供給処理手順は図5のステップ25、26、29、30、31により、燃料噴射量増量処理手順は図6のステップ44、45、51により、大気圧補正処理手順は図10(B)のステップ77〜83によりそれぞれ果たされている。
請求項8に記載の点火時期遅角手段の機能は、図5のステップ26、32、33により、吸入空気量供給手段の機能は図5のステップ25、26、29、30、31により、燃料噴射量増量手段の機能は図6のステップ44、45、51により、大気圧補正手段の機能は図10(B)のステップ77〜83によりそれぞれ果たされている。