以下、図面に基づき本発明の実施形態について説明する。
図1は、エンジンの点火時期制御方法の実施に直接使用するエンジンの点火時期制御装置の概略構成を示している。
空気は吸気コレクタ2に蓄えられた後、吸気マニホールド3を介して各気筒の燃焼室5に導入される。燃料は各気筒の吸気ポート4に配置された燃料インジェクタ21より噴射供給される。空気中に噴射された燃料は気化しつつ空気と混合してガス(混合気)を作り、燃焼室5に流入する。この混合気は吸気弁15が閉じることで燃焼室5内に閉じこめられ、ピストン6の上昇によって圧縮される。
この圧縮混合気に対して高圧火花により点火を行うため、パワートランジスタ内蔵の点火コイルを各気筒に配した電子配電システムの点火装置11を備える。すなわち、点火装置11は、バッテリからの電気エネルギーを蓄える点火コイル13と、点火コイル13の一次側への通電、遮断を行うパワートランジスタ(図示しない)と、燃焼室5の天井に設けられ点火コイル13の一次電流の遮断によって点火コイル13の二次側に発生する高電圧を受けて、火花放電を行う点火プラグ14とからなっている。
圧縮上死点より少し手前で点火プラグ14により火花が飛ばされ圧縮混合気に着火されると、火炎が広がりやがて爆発的に燃焼し、この燃焼によるガス圧がピストン6を押し下げる仕事を行う。この仕事はクランクシャフト7の回転力として取り出される。燃焼後のガス(排気)は排気弁16が開いたときに排気通路8へと排出される。
排気通路8には三元触媒9、10を備える。三元触媒9、10は排気の空燃比が理論空燃比を中心とした狭い範囲(ウインドウ)にあるとき、排気中に含まれるHC、CO、NOxといった有害三成分を同時に効率よく除去できる。空燃比は吸入空気量と燃料量の比であるので、エンジンの1サイクル(4サイクルエンジンではクランク角で720°区間)当たりに燃焼室5に導入される吸入空気量と、燃料インジェクタ21からの燃料噴射量との比が理論空燃比となるように、エンジンコントローラ31ではエアフローメータ32からの吸入空気流量の信号とクランク角センサ(33、34)からの信号に基づいて燃料インジェクタ21からの燃料噴射量を定めると共に、三元触媒9の上流に設けたO2センサ35からの信号に基づいて空燃比をフィードバック制御している。
吸気コレクタ2の上流には絞り弁23がスロットルモータ24により駆動される、いわゆる電子制御スロットル22を備える。運転者が要求するトルクはアクセルペダル41の踏み込み量(アクセル開度)に現れるので、エンジンコントローラ31ではアクセルセンサ42からの信号に基づいて目標トルクを定め、この目標トルクを実現するための目標空気量を定め、この目標空気量が得られるようにスロットルモータ24を介して絞り弁23の開度を制御する。
吸気弁15、排気弁16は、クランクシャフト7を動力源として、各々吸気側カムシャフト25及び排気側カムシャフト26に設けられたカムの動作により開閉駆動される。吸気側には、吸気弁15のバルブリフト量及び作動角を連続的に可変制御する多節リンク状の機構で構成される可変バルブ機構(以下、「VEL機構」という。)28を備える。このVEL機構28には吸気弁15のバルブリフト量及び作動角を検出する作動角センサ(図示しない)が併設されている。
同じく吸気側には、クランクシャフト7と吸気側カムシャフト25との回転位相差を連続的に可変制御して、吸気弁15のバルブタイミングを進遅角する可変バルブタイミング機構(以下、「VTC機構」という。)27を備える。また、吸気側カムシャフト25の他端には吸気側カムシャフト25の回転位置を検出するためのカム角センサ34が併設されている。
これらVEL機構28及びVTC機構27(可変動弁装置)の具体的な構成は特開2003−3872号公報により公知であるので、その詳しい説明は省略する。
VEL機構28、VTC機構27の各アクチュエータに指令して、吸気弁15のリフト特性(バルブタイミング(開閉時期)や吸気弁15のバルブリフト量)を変えると燃焼室5に残留する不活性ガスの量が変化する。燃焼室5内の不活性ガスの量が増えるほどポンピングロスが減って燃費がよくなるので、運転条件によりどのくらいの不活性ガスが燃焼室5内に残留したらよいかを目標吸気弁閉時期や目標バルブリフト量にして予め定めており、エンジンコントローラ31ではそのときの運転条件(エンジンの負荷と回転速度)より目標吸気弁閉時期と目標バルブリフト量とを定め、それら目標値が得られるようにVTC機構27及びVEL機構28の各アクチュエータを介して吸気弁15の閉時期とバルブリフト量とを制御する。
吸気温度センサ43からの吸気温度の信号、吸気圧力センサ44からの吸気圧力の信号、排気温度センサ45からの排気温度の信号も入力されるエンジンコントローラ31では、パワートランジスタ13を介して点火プラグ14の一次側電流の遮断時期である点火時期を制御する。
さて、MBT(最大トルクの得られる最小進角値)で混合気に点火した場合に、混合気の燃焼圧力が最大値Pmaxとなるクランク角θpmaxを基準クランク角とすると、基準クランク角は燃焼方式によらずほぼ一定である。また、燃焼室内における燃焼解析によれば、燃焼室5に供給された燃料に対する燃焼質量の比率を表す燃焼質量割合は点火時に0%であり、完全燃焼によって100%に達する。そして、基準クランク角における燃焼質量割合は一定で約60%であるとして、そのときの運転条件(エンジンの負荷と回転速度)より燃焼速度を求め、この燃焼速度に基づいて燃焼期間BURNを算出し、基準クランク角よりこの燃焼期間BURNと着火遅れ時間相当角IGNDEADとの合計のクランク角区間だけ進角側のクランク角位置を基本点火時期MBTCALとして算出する点火時期制御方法を提案している(特開2004−332647号公報参照)。
燃焼解析に基づくこうした点火時期制御方法(この点火時期制御方法を、以下「先行点火時期制御方法」という。)は吸気弁15のバルブリフト量及び吸気弁15の開閉タイミングが変化しないエンジン(コンベンショナルエンジン)を対象に本出願人が開発してきた経過があるので、現在でもコンベンショナルエンジンに適用する限り先行点火時期制御方法でなんら問題ないのであるが、VEL機構28及びVTC機構27を備えるエンジンに対しても、この先行点火時期制御方法を適用したとき、上記の基本点火時期MBTCALがMBTの得られる点火時期と合わないことが判明している。その理由は、VEL機構28及びVTC機構27が非作動状態であるときに点火時期制御に用いる各種の値を適合していれば、当然ながら、VEL機構28及びVTC機構27が非作動状態であるときに基本点火時期MBTCALはMBTの得られる点火時期と一致する。
この状態つまり同じ運転条件においてVEL機構28やVTC機構27を作動させてリフト特性(吸気弁15のバルブリフト量や吸気弁閉時期)を変化させると、燃焼室5内のガス流動であるタンブルやスワールの各強度が変化し、これに伴って燃焼室内ガスの乱流状態での燃焼速度である乱流燃焼速度が変化する。すると、MBTの得られる点火時期も変化する。しかしながら、VEL機構28やVTC機構27を作動させたからといって運転条件が同じであるため、基本点火時期MBTCALは変化しない。従って、VEL機構28やVTC機構27を作動させた途端に基本点火時期MBTCALがMBTの得られる点火時期からずれて燃費が悪くなる。
例えば、VEL機構28の作動で吸気弁15のバルブリフト量が大きい状態から小さい状態に切換えられたとすると、切換前よりタンブルやスワールが形成されにくくなり乱流燃焼速度が遅くなって燃焼期間が長引く。従って、同じ運転条件で考えると、バルブリフト量が小さい状態であるときには、バルブリフト量が大きい状態のときよりMBTの得られる点火時期が進角側に移動するのであるが、バルブリフト量が小さい状態のときにも、バルブリフト量が大きい状態のときと同じ燃焼期間BURNを算出したのでは、実際より短い燃焼期間を算出してしまうことになり、基本点火時期MBTCALがMBTの得られる点火時期よりも遅すぎることとなる。
VTC機構27の作動で吸気弁閉時期が遅い状態から早い状態へと進角される場合も同様である。すなわち、吸気弁閉時期が遅い状態から早い状態へと進角されると、進角される前よりタンブルやスワールが形成されにくいために乱流燃焼速度が遅くなって燃焼期間が長くなる。従って、同じ運転条件で考えると、吸気弁閉時期が早い状態であるときには、吸気弁閉時期が遅い状態のときよりMBTの得られる点火時期が進角側に移動するのであるが、吸気弁閉時期が早いときにも吸気弁閉時期が遅い状態のときと同じ燃焼期間BURNを算出したのでは、実際より短い燃焼期間を算出してしまうことになり、基本点火時期MBTCALがMBTの得られる点火時期より遅すぎてしまう。
そこで本実施形態では、VEL機構28及びVTC機構27を備えるエンジンを対象としていても、物理モデルに従った制御構造をもち、可能な限り適合の不要な制御とするため、コンベンショナルエンジンに適用している先行点火時期制御方法に対して〈1〉燃焼速度の算出方法、〈2〉基準クランク角の設定方法、〈3〉着火遅れ時間の算出方法を変更する。
ここで、上記〈1〉だけでなく、〈2〉と〈3〉をも追加しているのは、制御方法を再検討した結果である。まず、上記〈2〉をも追加しているのは次の理由による。すなわち、コンベンショナルエンジンに適用している先行点火時期制御方法に対してこれまで正しいとされてきた、基準クランク角と燃焼質量割合が60%のときのクランク角位置との関係を、VEL機構28及びVTC機構27を備えるエンジンについて実験してみると、基準クランク角と燃焼質量割合が60%のときのクランク角位置との間に大きなずれ(クランク角差)があり、そのずれがそのまま点火時期算出値(MBTCAL)の推定誤差になってしまうため、基準クランク角位置の設定方法を改める必要が生じたためである。
上記〈3〉をも追加しているのは次の理由による。〈3〉の着火遅れ時間とは、点火タイミングを起点として燃焼質量割合が0%である間の時間のことであるが、この着火遅れ時間の推定誤差が大きい。その理由は、燃焼解析装置によって燃焼質量割合が0%より上昇を開始するタイミングを計測したときの計測誤差が大きいために、この計測した値を正にして先行点火時期制御方法における点火無駄時間DEADTIMEの適合を行うと、後述する基本点火時期MBTADVの推定誤差にこの計測誤差が含まれてしまうためである。従って、燃焼解析装置による計測誤差が入ってこないように、着火遅れ時間の算出方法を改めるようにしたものである。
以下、項を分けて説明する。
〈1〉燃焼速度の算出方法
コンベンショナルエンジンに適用している先行点火時期制御方法では、燃焼速度Sbを燃焼室内ガスの層流状態での燃焼速度である層流燃焼速度SLと、燃焼室内ガスの乱流状態での燃焼速度である乱流燃焼速度STの和、つまり次の(補1)式により燃焼速度Sbを求めている。
Sb=SL+ST …(補1)
(補1)式の層流燃焼速度SL、乱流燃焼速度STはそれぞれ次の(補2)式、(補3)式により与えている。
SL=SL0×(T/298)^n×(p/101.325)^d
×(1−b×MRESR^k) …(補2)
ST=St・Ne …(補3)
ただし、SL0 :標準状態での層流燃焼速度[m/sec]、
T :未燃ガス温度[K]、
p :燃焼室内圧力[kPa]、
MRESR :内部不活性ガス率[%]、
St :乱流燃焼速度係数、
n、d、b、k:係数、
(補3)式の乱流燃焼速度STは、燃焼室5内におけるガスの乱れ強さによって決まる。また、(補3)式のように、乱流燃焼速度Stをエンジン回転速度Neの関数としたのは、燃焼室5内におけるガスの乱れ強さは吸気弁15のバルブリフト量、開閉タイミングが同じ場合、ピストンスピード(エンジン回転速度)に比例するため、乱流燃焼速度Stの推定にはエンジン回転速度Neの感度を持たせれば十分であると考えたものである。
しかしながら、VEL機構28及びVTC機構27を備えるエンジンでは、コンベンショナルエンジンと相違して、吸気弁15のバルブリフト量や開閉タイミングが運転条件によって大きく変わり、それらバルブリフト量や開閉タイミングの変化による燃焼室5内におけるガスの乱れ強さの変化を無視できないので、本実施形態では、上記(補3)式に代え、次のようにして乱流燃焼速度を算出する。すなわち、VEL機構28の作動に伴う吸気弁15のバルブリフト量の変化と、VTC機構27の作動に伴う吸気弁閉時期の変化とに対応するため、特にタンブルの影響を燃焼速度の推定式に加える。
まず、燃焼速度Sb[m/sec]は次の(1)式により表される。(1)式右辺第2項は、乱流燃焼速度STを与える式で、このように乱流燃焼速度STを、u/SLを変数としてこの変数の指数関数で与えるとする点は公知である。
Sb=SL+b・(u/SL)^a …(1)
ただし、SL :層流燃焼速度、
u :乱れ強さ、
a,b:適合係数、
(1)式の、燃焼室内のガス流動に伴う乱れのうちの1つの特性値である乱れ強さu[m/sec]は次の(2)式により表わされる。これは、燃焼室内ガスの乱れ強さuは回転速度Neと比例の関係を持つことが、また、その比例定数は、スワール強度、タンブル強度と相関があることが知られているので、これを式に表したものである。
u=c・It・Ne …(2)
ただし、It:タンブル強度[無名数]
Ne:エンジン回転速度[rpm]、
c :適合係数、
ここで、本実施形態では(2)式にスワール強度は入れていない。これは、今回対象としているエンジンにおいては、ピストン6の中心軸に対して周方向に旋回する流れであるスワールは、ピストン6の中心軸に直交する軸に対して周方向に旋回する流れであるタンブルに比べ、乱流燃焼速度に与える影響が少ないと判断し、今回は考慮しないためである。
ただし、本発明ではスワール強度は対象外というのではない。対象とするエンジンにおいてタンブルよりスワールのほうが乱流燃焼速度に与える影響が大きいときには、スワール強度Isを、後述するタンブル強度Itの推定方法と同様の推定方法により推定すればよい。
次に、(2)式のタンブル強度It(燃焼室内のガス流動)の推定方法を説明する。まず、図2(a)〜図2(e)は燃焼室5内におけるタンブルの生成から消滅までをピストン6の動きに合わせて図解したものである。順に説明すると、図2(a)は吸気弁開時期IVO、つまり吸気弁15が開いた瞬間で、燃焼室5内においてさまざまな方向にガスが流れ込んでいる。図2(b)はピストン6が下降している吸気上死点後45deg付近(45degATDC)を示し、この45degATDC付近からタンブルが形成され始める。図2(c)は吸気弁閉時期IVC付近を示し、吸気弁閉時期IVC付近までタンブル強度が増加していく。したがって、吸気弁閉時期IVCが遅いほどタンブルが強くなる。
図2(d)は吸気上死点後315deg付近まで、つまりピストン6が上昇する圧縮行程中を示し、圧縮工程中に徐徐にタンブルが小渦(乱れ)に変換されていく。図2(e)は吸気上死点後315deg付近を示し、この315degATDC付近でタンブルは消え全て小渦に変換される。
一方、図2(f)と図2(g)はVEL機構28の作動、非作動に伴う吸気弁15のバルブリフト量の相違でタンブルの形成がどのように違うのかを示している。このうち、左側に示す図2(f)は吸気弁15のバルブリフト量が小さい場合で、バルブリフト量が小さいときには、吸気がシリンダ壁側とシリンダ中心側の両方に分かれて流れ、お互いに流れを打ち消しあうため、タンブルが形成されにくい。これに対して右側に示す図2(g)は吸気弁15のバルブリフト量が大きい場合で、バルブリフト量が大きいときには、ほとんどの吸気がシリンダ中心側へと流れるため、タンブルを形成しやすい。
さて、タンブル強度It[無名数]は次式により小渦の有する角運動量の総和として算出されることがSAEペーパーに記載されている(SAE981048)。
It=ΣMiri×vi …(3)
ただし、mi:i番目の小渦におけるガスの質量、
ri:シリンダの中心からi番目の小渦までの距離、
vi:i番目の小渦でのガス流速、
しかしながら、燃焼室内の全ての小渦についてこれらの値mi、ri、viをエンジンコントローラ31においてオンラインで算出することは現在のところ不可能であるので、上記(3)式に代えて次の(4)式でタンブル強度It[無名数]を近似する。
It=a・(m^b・Ne^c) …(4)
ただし、m :燃焼室内ガス質量[g]、
Ne :エンジン回転速度[rpm]、
a :係数、
b、c:適合係数、
(4)式のm^bはタンブル強度に対する燃焼室内ガス質量mの、またNe^cはタンブル強度に対する回転速度Neの各影響を反映させたものである。ここで、燃焼室内ガス質量mは吸気弁閉時期IVCに燃焼室5に入っているガス質量のことである。
さらに、タンブルは上記図2(a)〜図2(e)で示したように、吸気弁閉時期IVCが45degATDC付近より遅いほど強くなり、また、図2(f)、図2(g)で示したように吸気弁15のバルブリフト量が大きいほうが強くなると考え、(4)式の係数aを新たに次の(5)式で表す。
a=kVEL・(IVC−θ0t) …(5)
ただし、kVEL:タンブル強度のバルブリフト量補正係数[1/deg]、
IVC :吸気弁閉時期[degATDC]、
θ0t :タンブル形成開始角[degATDC]、
従って、(5)式を(4)式に代入した次の(6)式によりタンブル強度Itを近似する。
It=kVEL・(IVC−θ0t)・m^b・Ne^c …(6)
ただし、kVEL:タンブル強度のバルブリフト量補正係数[1/deg]、
IVC :吸気弁閉時期[degATDC]、
θ0t :タンブル形成開始角[degATDC]、
b、c :適合係数、
(6)式の吸気弁閉時期IVCの単位は吸気上死点を起点として遅角側に計測する値[degATDC]であるので、吸気弁閉時期IVCが吸気上死点より遅れるほどIVCの値が大きくなり、従って(6)式よりタンブル強度Itが大きくなる。また、(6)式のバルブリフト量補正係数kVELはバルブリフト量の関数であり、バルブリフト量が大きいときには、バルブリフト量が小さいときより大きくなり、従って(6)式よりタンブル強度Itが大きくなる。
(6)式によりタンブル強度Itを近似した新しい考え方が妥当かどうかを確認するため、VEL機構28及びVTC機構27を備えるエンジンについて、VEL機構28は非作動状態つまり吸気弁15のバルブリフト量を一定として、VTC機構27のみを作動し吸気弁閉時期IVCを変化させる実験を行ったところ、図3に示すようにタンブル強度と吸気弁閉時期IVCとの関係を示す結果が得られた。図3より吸気弁15のバルブリフト量一定の条件で、吸気弁閉時期IVCが大きくなる(つまりIVCが吸気上死点より遅れる)ほどタンブル強度Itが強くなることが確かめられた。
上記(6)式のタンブル形成開始角θ0tは一定値(例えば45degATDC)である。タンブル形成開始角θ0tはエンジン仕様に依存し、VEL機構28、VTC機構27の有無には依存しない。また、図2より、吸気弁閉時期IVCはタンブル形成開始角θ0tより必ず遅角側の値である。従って、上記(6)式の(IVC−θ0t)の値は必ず正の値になると考えている。
上記(6)式のタンブル強度のバルブリフト量補正係数kVELはバルブリフト量Lift[m](あるいはバルブ作動角)に応じて定めている。ここでは簡単のため、例えば、VEL機構28の作動、非作動により吸気弁15のバルブリフト量が大小の2段に切換可能であり、通常の運転条件(運転条件1とする)ではVEL機構28を非作動状態とし、運転条件1より所定の運転条件(運転条件2とする)に移行したときにはVEL機構28を作動させ、図4下段に示したように実線のバルブリフト特性から破線のバルブリフト特性へとバルブリフト量を小さくしているとして説明すると、VEL機構28の非作動状態でバルブリフト量が第1バルブリフト量Lift1[m]となり、VEL機構28の作動状態でバルブリフト量が第2バルブリフト量Lift2[m]となる(Lift2<Lift1)。従って、図4上段に示したように、VEL機構28の非作動時(あるいは運転条件1のとき)には第1バルブリフト量Lift1に対応する第1バルブリフト量補正係数kVEL1を、これに対してVEL機構28の作動時(あるいは運転条件2のとき)には第2バルブリフト量Lift2に対応する第2バルブリフト量補正係数kVEL2をバルブリフト量補正係数kVELとして設定する。このように、VEL機構28の作動で吸気弁15のバルブリフト量が第1バルブリフト量Lift1より第2バルブリフト量Lift2へと小さくなったときに、バルブリフト量補正係数kVELを第1バルブリフト量補正係数kVEL1より第2バルブリフト量補正係数kVEL2へと小さくするのは、バルブリフト量が小さいときのほうがタンブルが弱くなる(従って、タンブル強度Itが小さくなる)からである。
このように、(6)式によれば、タンブル強度Itを、新たに、吸気弁15のバルブリフト量、吸気弁閉時期IVC、燃焼室内ガス質量m、エンジン回転速度Neの関数としている。
〈2〉基準クランク角の設定方法
コンベンショナルエンジンに適用している先行点火時期制御方法では、次の(補4)式のように、燃焼圧が最大となるクランク角θpmaxを、燃焼質量割合が60%となるときのクランク角位置に設定すると共に、この燃焼圧が最大となるクランク角θpmaxを基準クランク角としている。なお、燃焼質量割合がx%となるときのクランク角位置を、以下、「θmb x%」で表す。例えば、燃焼質量割合が60%となるときのクランク角位置は「θmb60%」である。また、θmb x%の起点は圧縮上死点とする。
θmb60%=θpmax …(補4)
また、コンベンショナルエンジンに適用している先行点火時期制御方法では、燃焼圧が最大となるクランク角θpmaxを次の(補5)式のようにエンジン回転速度Neの関数で与えている。
θpmax=h・(Ne)^i …(補5)
ただし、h、i:適合係数、
一方、VEL機構28及びVTC機構27を備えるエンジンを対象として実験してみたところ、図5に示したように、回転速度Neが一定の条件のもとで、燃焼圧が最大となるクランク角θpmaxとθmb x%との関係を表す実験結果が得られた。ただし、図5にはθmb x%として燃焼質量割合が0%となるときのクランク角位置であるθmb0%、燃焼質量割合が10%となるときのクランク角位置であるθmb10%、燃焼質量割合が60%となるときのクランク角位置であるθmb60%の3つの場合だけを示しており、図5において左はθpmaxとθmb0%の、中央はθpmaxとθmb10%の、右はθpmaxとθmb60%の各関係を整理したものである。実際には燃焼質量割合が0%、10%、60%以外の値(つまり20%、30%、40%、50%)となるときのクランク角位置での実験結果も得ている(図7参照)。
燃焼圧が最大となるクランク角θpmaxと、燃焼質量割合が60%となるときのクランク角位置であるθmb60%とでは、図5右側に示したように最大誤差が2.6degもあり、θpmaxとθmb0%との間の誤差を示す図5左側と同様であることがわかる。
次に、図6は、吸入空気量(エンジン負荷)が一定の条件のもとでの、燃焼圧が最大となるクランク角θpmaxとエンジン回転速度Neとの関係を示したものである。図示のように、傾向としては回転速度Neが大きくなるほどθpmaxが進角側にずれているが、回転速度Neに対するθpmaxのバラツキが大きく、燃焼圧が最大となるクランク角θpmaxは上記(補5)式のようにエンジン回転速度Neだけでは表しきれないことがわかる。
図7は燃焼質量割合を横軸に、燃焼質量割合がx%となるときのクランク角位置であるθmb x%をθpmaxで直線近似した場合のRの2乗値を縦軸に採り、図5に示したθmb0%時、θmb10%時、θmb60%時の3つの実験結果及び図示しない図5と同様のθmb20%時、θmb30%時、θmb40%時、θmb50%時の残りの実験結果とを整理したものである。縦軸のRの2乗値は、この値が1.0に近づくほどθpmaxとθmb x%(x=0、10、20、30、40、50、60)との間に相関があることを表すので、図7によれば、燃焼圧が最大となるクランク角θpmaxはθmb10%付近で一番相関があることがわかる。
なお、図7にはVEL機構28及びVTC機構27を備えるエンジンでもエンジン仕様の異なる2種類のエンジンの特性を示している。2つのエンジンの違いは主に燃焼室形状にあり、第2エンジンは第1エンジンよりも燃焼室が平べったい形状のものである。第1エンジンでは燃焼圧が最大となるクランク角θpmaxは燃焼質量割合が10%となるときのクランク角位置から50%となるときのクランク角位置との間で広く相関があるのに対して、第2エンジンになると燃焼圧が最大となるクランク角θpmaxは燃焼質量割合が10%となるときのクランク角位置付近でだけ相関がある。従って、2つのエンジンに共通して燃焼圧が最大となるクランク角θpmaxが高い相関を有するのは燃焼質量割合が10%となるときのクランク角位置付近にあるときだけである。このように、エンジン機種が相違しても、燃焼圧が最大となるクランク角θpmaxはθmb10%となるときのクランク角位置付近で一番相関がある、という結果が初めて得られた。
こうした実験結果を受けて本実施形態では、燃焼圧が最大となるクランク角θpmaxに基づいて、燃焼質量割合が10%となるときのクランク角位置であるθmb10%を算出し、このθmb10%を基準クランク角として設定する、つまり次の(7)式によりθmb10%[degATDC]を算出する。
θmb10%=a・θpmax−b …(7)
ただし、a:適合係数[無名数]、
b:適合クランク角[deg]、
(7)式は燃焼圧が最大となるクランク角θpmaxをb(正の値)のクランク角だけ進角側にシフトしてθmb10%を求めるとする式である。この結果、図8に示したように本実施形態での基準クランク角(=θmb10%)はコンベンショナルエンジンに適用している先行点火時期制御方法における基準クランク角(=θmb60%)よりも進角側にくることとなる。
そして、VEL機構28及びVTC機構27を備えるエンジンでは、燃焼圧が最大となるクランク角θpmaxは、吸気弁閉時期IVCが遅いほど、また吸気弁15のバルブリフト量が大きいほど圧縮上死点より遅れると考え、また、燃焼室内ガス質量(負荷)によって影響されると判断し、さらにFTA(Fault Tree Analysis)より燃焼室内のガス流速(タンブル、スワール)の影響をもつと判断し、次の(8)式により燃焼圧が最大となるクランク角θpmax[degATDC]を算出することとした。従って、(8)式と上記(補5)式とを比較すれば、k1VEL・(IVC−θt0)・m^dを新たに導入したものである。
θpmax=k1VEL・(IVC−θt0)・m^d・Ne^e
…(8)
ただし、k1VEL:流速係数[無名数]、
IVC :吸気弁閉時期[degATDC]、
θt0 :タンブル形成開始角[degATDC]、
m :燃焼室内ガス質量[g]、
Ne :エンジン回転速度[rpm]、
d、e :適合定数[無名数]、
(8)式に示す燃焼圧が最大となるクランク角θpmaxに対するこうした新しい考え方が妥当かどうかを確認するため、吸気弁15のバルブリフト量及び吸気弁閉時期IVCを一定として、燃焼圧が最大となるクランク角θpmaxと吸入空気量(燃焼室内ガス質量mの代表値)、エンジン回転速度Ne(ガス流速の代表値)の関係を実験したところ、図9に示す結果が得られた。図9によれば、吸気弁15のバルブリフト量及び吸気弁閉時期IVCが一定の条件で、吸入空気量が同じであればエンジン回転速度Neが大きいときのほうがエンジン回転速度Neが小さいときより燃焼圧が最大となるクランク角θpmaxが大きくなる(圧縮上死点よりの遅角量が大きくなる)こと、またエンジン回転速度Neが同じであれば吸入空気量が多くなるほど燃焼圧が最大となるクランク角θpmaxが大きくなる(圧縮上死点よりの遅角量が大きくなる)ことが確かめられた。
なお、図9の縦軸の単位[degATDC]は圧縮上死点を起点とするクランク角であり、吸気上死点を起点とするものでない。
上記(8)式のタンブル形成開始角θ0tについては上記(6)式のところで前述したところと同じである。すなわち、タンブル形成開始角θ0tは一定値(例えば45degATDC)である。タンブル形成開始角θ0tはエンジンの仕様に依存し、VEL機構28、VTC機構27の有無には依存しない。図2より、吸気弁閉時期IVCはタンブル形成開始角θ0tより必ず遅角側の値である。従って、(8)式の(IVC−θ0t)の値は必ず正の値になる。
上記(8)式の流速係数k1VELは吸気弁15のバルブリフト量Lift(あるいはバルブ作動角)に応じて定めている。ここでも簡単のため、前述したようにVEL機構28の作動、非作動により吸気弁15のバルブリフト量が大小の2段に切換可能であり、運転条件1ではVEL機構28を非作動状態とし、運転条件1より運転条件2に移行したときにはVEL機構28を作動させ、図10下段に示したように実線のバルブリフト特性から破線のバルブリフト特性へとバルブリフト量を小さくしているとして説明すると、図10上段に示したように、VEL機構28の非作動時(あるいは運転条件1のとき)には第1バルブリフト量Lift1に対応する第1流速係数k1VEL1を、これに対してVEL機構28の作動時(あるいは運転条件2のとき)には第2バルブリフト量Lift2に対応する第2流速係数k1VEL2を流速係数k1VELとして設定する。このように、バルブリフト量が小さくなったときに流速係数k1VELを第1流速係数k1VEL1より第2流速係数k1VEL2へと小さくするのは、バルブリフト量が小さいときのほうがタンブルが弱くなる(従って、θpmaxがより遅角側に移動する)からである。
また、上記(8)式のm^dはθpmaxに対する筒内ガス質量mの、Ne^eはθpmaxに対する回転速度Neの各影響を反映させている。
このように、(8)式によれば、燃焼圧が最大となるクランク角θpmaxを、エンジン回転速度Neに加えて、燃焼室内ガス質量m、吸気弁15のバルブリフト量及び吸気弁閉時期IVCの関数でもあるとして新たに構成している。
〈3〉着火遅れ時間の算出方法
コンベンショナルエンジンに適用している先行点火時期制御方法では、点火タイミングを起点とし火炎形成開始時期までの時間を点火無駄時間DEADTIMEとして適合している。これを燃焼質量割合でいうと、点火タイミングを始期とし、燃焼質量割合が0%より上昇を開始するタイミングを終期とする時間である。
この場合に、火炎形成開始時期は、一般的に燃焼室内圧力に基づいて計測している。すなわち、火炎形成開始前後で燃焼室内圧力が変化するはずであるから、その燃焼室内圧力の変化タイミングをもって火炎形成開始時期としている。
しかしながら、燃焼質量割合が0%より上昇を開始するタイミングは冷却損失の算出誤差やガス漏れの影響を受けやすく、燃焼解析装置で正確に火炎形成開始時期を計測することが難しい。そのため、燃焼解析装置で計測した値を正として点火無駄時間DEADTIMEの適合を行うと、後述する基本点火時期MBTCALの推定誤差にこの点火無駄時間DEADTIMEの計測誤差が含まれてしまう。
これに対して本実施形態では、点火タイミングを起点として燃焼質量割合が2%に上昇するまでの時間を着火遅れ時間τであるとみなす。すなわち、本発明で導入しているこの着火遅れ時間τは物理的な意味での着火遅れ時間ではなく、点火タイミングから燃料が2%燃えるまでの時間である。このため、本実施形態では燃焼質量割合が2%より10%までの時間が燃焼時間となるが、これはコンベンショナルエンジンに適用している先行点火時期制御方法では主燃焼期間BURN2に相当しているので、本実施形態では、燃焼時間の推定を主燃焼期間のみとすることとなる。
ここで、2%という値は初期燃焼時の燃焼質量割合である。初期燃焼時とは、火炎形成開始時期よりも時間的に後のタイミングのことである。初期燃焼時の燃焼質量割合であるこの2%を、以下では「基準燃焼質量割合」ともいう。なお、本発明は、基準燃焼質量割合を2%とする場合に限定するものでなく、基準燃焼質量割合として2〜10%を設定すればよい。2〜10%の範囲で設定してよいとした理由は、似たような初期燃焼の範囲内にあるためである。
また、燃焼解析装置によっては、例えば燃焼質量割合が2%に上昇して以降、精度良く計測できるものと、燃焼質量割合が5%にまで上昇しないと精度良く計測できないものとがあったとして、燃焼質量割合が2%に上昇して以降、精度良く計測できる燃焼解析装置を用いるのであれば、基準燃焼質量割合として2%を設定すればよいし、燃焼質量割合が5%にまで上昇しないと精度良く計測できない燃焼解析装置を用いるのであれば、基準燃焼質量割合として5%を設定すればよい。
このように、本実施形態において点火タイミングから燃焼質量割合が2%になるまでの時間を着火遅れ時間τとして設定することとすると、コンベンショナルエンジンに適用している先行点火時期制御方法において提案しているアレニウスの式(自己着火の式)を用いることができないため、本実施形態では、着火遅れ時間τ[sec]を新たに次の(9)式により算出することとする。
τ=(Dkernel−D0)
/2[(Tad/T)・SL+{(2/3)・k}^(1/2)]
…(9)
ただし、Dkernel:θmb2%時の火炎直径[m]、
D0 :点火タイミング直後の火炎直径[m]、
Tad :火炎温度[K]、
T :未燃ガス温度[K]、
SL :層流燃焼速度[m/sec]、
k :燃焼室内ガスの運動エネルギー、
この(9)式は点火タイミングの瞬間から火炎が形成されるとみなし、点火タイミング直後の火炎速度を算出する式を用いて算出するものである。すなわち、点火タイミング直後の火炎速度SFLAME[m/sec]を算出する式とは、
SFLAME=Rkernel/t …(追1)
ただし、Rkernel:燃焼質量割合が2%になったときの火炎半径[m]、
t :燃焼質量割合が2%になるまでの時間[sec]、
であり、この(追1)式を時間について解くと次式が得られる。
t=Rkernel/SFLAME …(追2)
そして、この(追2)式の時間tを着火遅れ時間τで置き換える、つまり次の(追3)式により着火遅れ時間τ[sec]を算出するものである。
τ=Rkernel/SFLAME …(追3)
ただし、Rkernel :燃焼質量割合が2%のときの火炎半径[m]、
SFLAME:点火タイミング直後の火炎速度[m/sec]、
言い換えると、(追3)式は、点火タイミング直後に種火(火炎核)より火炎が球状に拡がっていく(成長する)ことに着目し、このときの火炎速度をSFLAMEとし、点火タイミングから時間τが経過して基準燃焼質量割合になったときに火炎半径がRkernelになっているとしてこれらSFLAME、τ、Rkernelの関係を表した式である。このようにして、点火タイミング直後の火炎速度SFLAMEと基準燃焼質量割合になったときの火炎半径Rkernelとに基づいて着火遅れ時間τを算出する。
(追3)式の点火タイミング直後の火炎速度SFLAMEは次の式により与えられる。
SFLAME=2[(Tad/T)・SL+{(2/3)・k}^(1/2)]
…(追4)
ただし、Tad :火炎温度[K]、
T :未燃ガス温度[K]、
SL :層流燃焼速度[m/sec]、
k :燃焼室内ガスの運動エネルギー、
(追4)式そのものは公知で、この(追4)式は点火タイミング直後の火炎速度SFLAMEが点火タイミング直後の層流燃焼速度SLと、燃焼室内ガスの運動エネルギーkとに依存することを表している。ここで、未燃ガス温度Tは点火タイミングから燃焼質量割合が2%に上昇するまでの時間(着火遅れ時間τ)における平均の温度である。Tad/Tは燃焼室内ガスの熱膨張率を表している。
また、火炎半径Rkernelと火炎直径Dkernelとの間には、
Rkernel=Dkernel/2 …(追5)
の関係があるので、この(追5)式と(追4)式とを(追3)式に代入すれば、上記(9)式が得られる。
(9)式の火炎直径Dkernelは燃焼質量割合が2%となったときの火炎の直径であるので、次の(10)式により新たに算出する。
Dkernel={(Vcyl・[1−(1−xb)/(3・xb+1)^(1/κ)]
・6)/π}^(1/3) …(10)
ただし、Vcyl:基準燃焼質量割合になったときの燃焼室内容積[m3]、
xb :基準燃焼質量割合(=0.02)、
κ :ポリトロープ指数(=1.34)、
(10)式は次のようにして導いたものである。点火タイミング直後の火炎の形状は球形に近いので、火炎直径Dkernelを与える式は次の(11a)式である。
Dkernel={(Vb・6)/π}^(1/3) …(11a)
ただし、Vb:基準燃焼質量割合になったときの火炎体積、
熱力学の公式より体積燃焼割合の式は次の(11b)式で表される(公知)。
体積燃焼割合=1−(1−xb)/(3・xb+1)^(1/κ)
…(11b)
ただし、xb:基準燃焼質量割合(=0.02)、
κ :ポリトロープ指数(=1.34)、
この(11b)式と、
Vb=Vcyl・体積燃焼割合 …(11c)
ただし、Vcyl:基準燃焼質量割合になったときの燃焼室内容積[m3]、
の関係式とを利用すれば基準燃焼質量割合になったときの火炎体積Vbを求める次の(11d)式が得られる。
Vb=Vcyl・[1−(1−xb)/(3・xb+1)^(1/κ)]
…(11d)
この(11d)式を(11a)式に代入すれば上記(10)式が得られる。
上記(9)式の点火タイミング直後の火炎の直径D0は1mmとする。火炎温度Tadと未燃ガス温度Tの比であるTad/Tは適合定数とする。層流燃焼速度SLの算出方法はコンベンショナルエンジンに適用している先行点火時期制御方法と同じとする。
上記(9)式の、着火遅れ時間τにおける燃焼室内ガスの運動エネルギーkは次式により算出する。
k=(1/2)m(f・Ne)^2 …(12A)
ただし、m :燃焼室内ガス質量[g]、
Ne:エンジン回転速度[rpm]、
f :適合定数、
あるいは、ピストン速度を用いて次式により算出する。
k=(1/2)m(f0・ピストン速度)^2 …(12B)
ただし、m :燃焼室内ガス質量[g]、
f0:適合定数、
(12A)式、(15B)式は次のようにして導いたものである。着火遅れ時間τにおける燃焼室内ガスの平均ガス流速をVGASとすれば、燃焼室内ガスの運動エネルギーkは次の式により算出することができる。
k=0.5×m×VGAS^2 …(追6)
ただし、m :燃焼室内ガス質量[g]、
VGAS:平均ガス流速[m/sec]、
ここで、着火遅れ時間τにおける燃焼室内ガスの平均ガス流速VGASはピストン速度に依存し、ピストン速度はエンジン回転速度Neに比例するとして次の2つ式を導入する。
VGAS=f0・ピストン速度 …(追7)
VGAS=f・Ne …(追8)
ただし、f0、f:適合係数、
このうち(追8)式を(追6)式に導入すれば、上記(12A)式が、また(追7)式を(追6)式に導入すれば、上記(12B)式が得られる。
これで、項分け説明を終了する。
次に、上記〈1〉〜〈3〉の変更を行った後の新しい点火時期制御方法(この新しい点火時期制御方法を以下「変更後点火時期制御方法」という。)を、以下にまとめる。ただし、適合係数については改めて取り直している。
MBTの得られる点火時期(この点火時期を「基本点火時期」という。)MBTCAL[degBTDC]を次式により算出する。
MBTCAL=−|(τ+BT)・Ne・6−θmb10%|…(13)
ただし、BT :燃焼時間[sec]、
τ :着火遅れ時間[sec]、
θmb10%:基準クランク角[degATDC]、
これを図解したのが図11である。変更後火時期制御方法では、点火タイミングから燃焼質量割合が基準燃焼質量割合(=2%)に上昇するまでの時間である着火遅れ時間τ[sec]と、燃焼質量割合が2%から10%になるまでの時間である燃焼時間BT[sec]とを加算し、この加算値[sec]にNe[rpm]・6を乗算することによってクランク角区間[deg]に変換する。この換算されたクランク角区間((τ+BT)・Ne・6)は点火タイミングから基準クランク角(=θpmax)であるθmb10%までのクランク角区間である。従って、基準クランク角であるθmb10%[degATDC]よりこの換算されたクランク角区間だけ進角側の値を基本点火時期MBTCALとして算出する。
なお、(13)式において絶対値をとりマイナスの符号を付けているのは、θmb10%の単位は圧縮上死点より遅角側に計測するクランク角[degATDC]であるのに対して、MBTCALの単位は圧縮上死点より進角側に計測するクランク角[degBTDC]であるため、θmb10%の単位をMBTCALの単位へと変換してやる必要があるためである。
ここで、基準クランク角であるθmb10%[degATDC]は、次の(14)式により算出する。
θmb10%=k1VEL・(IVC−θt0)・m^c1・Ne^c2+c3
…(14)
ただし、k1VEL:流速係数[無名数]、
IVC :吸気弁閉時期[degATDC]、
θt0 :タンブル形成開始角[degATDC]、
m :燃焼室内ガス質量[g]、
Ne :エンジン回転速度[rpm]、
c1〜c3:適合係数、
前述したように、吸気弁閉時期IVCとタンブル形成開始角θt0の単位は吸気上死点を起点としており、一方、θmb10%は圧縮上死点を起点としている。従って、吸気上死点を起点とする単位より圧縮上死点を起点とする単位への変換は適合係数c3により行うこととなる。例えば4気筒エンジンでは吸気上死点と圧縮上死点の間に180degのずれがあるので、適合係数c3に180degを入れてやればよい。
(13)式の燃焼時間BT[sec]は次式により算出する。
BT=0.08・Vcyl/{((3・xb+1)^(1/κ))・Ab・Sb}
=0.0707・Vcyl/(Ab・Sb) …(15)
ただし、Vcyl:燃焼室内容積[m3]、
xb :燃焼時間算出時の平均燃焼質量割合(=0.06)、
κ :ポリトロープ指数、
Ab :火炎表面積[m2]、
Sb :燃焼速度[m/sec]、
(15)式はコンベンショナルエンジンに適用している先行点火時期制御方法における式と基本的に同じ式である。すなわち、(15)式においてVcyl/{(3・xb+1)^(1/κ)}は既燃ガスの質量割合であり、燃焼時間BTはこの既燃ガスの質量割合に比例し、燃焼速度Sbに反比例するとする式である。(15)式の火炎表面積Abはエンジンの仕様から算出することができる。
なお、(15)式の燃焼質量割合xbとしては、θmb2%からθmb10%までのクランク角区間(燃焼期間)における値を用いる必要がある。この場合に、燃焼質量割合はθmb2%からθmb10%までのクランク角区間で2%から10%へと変化するので、ここでは、θmb2%とθmb10%とを平均した値であるθmb6%時の燃焼質量割合の値つまり6%を用いる。
上記(15)式の燃焼速度Sb[m/sec]は次式により算出する。
Sb=SL+[{kVEL・(IVC−θt0)・m^c4・Ne^c5}
/SL]^c6 …(16)
ただし、SL :層流燃焼速度[m/sec]、
kVEL :タンブル強度のバルブリフト量補正係数[1/deg]、
IVC :吸気弁閉時期[degATDC]、
θ0t :タンブル形成開始角[degATDC]、
c4、c5:適合係数、
c6 :適合係数、
(16)式右辺第2項が乱流燃焼速度[m/sec]を与える式であり、乱流燃焼速度を(16)式右辺第2項で近似している点が新しい。つまり、本実施形態では、燃焼室内ガスの乱れ強さu[m/sec]を次の(16−1)式により算出し、この燃焼室内ガスの乱れ強さuに基づいて次の(16−2)式により乱流燃焼速度ST[m/sec]を算出している。
u=kVEL・(IVC−θt0)・m^c4・Ne^c5 …(16−1)
ST=[u/SL]^c6 …(16−2)
これに対して、(16)式の層流燃焼速度SL[m/sec]としては、コンベンショナルエンジンに適用している先行点火時期制御方法と同じでよく、従って次の(17)式により算出する。
SL=SL0・(T/298)^a・(p/101.325)^b
・(1−2.1×MRESR^c) …(17)
ただし、SL0 :標準状態での層流燃焼速度[m/sec]、
T :未燃ガス温度[K]、
p :燃焼室内圧力[kPa]、
MRESR:内部不活性ガス率[%]、
a、b、c:係数、
一方、上記(13)式の着火遅れ時間τ[sec]は次の(18)式により新たに算出する。
τ=[{{Vcyl・[1−(1−xb)/(3・xb+1)^(1/κ)]・6} /π}^(1/3)−0.001]
/{c7・SL+c8・Ne・m^(1/2)}
={0.490・Vcyl^(1/3)}
/{c7・SL+c8・Ne・m^(1/2)} …(18)
ただし、xb :基準燃焼質量割合(=0.02)、
κ :ポリトロープ指数(=1.34)、
SL :層流燃焼速度[m/sec]、
m :燃焼室内ガス質量[g]、
Ne :エンジン回転速度[rpm]、
Vcyl :基準燃焼質量割合になったときの燃焼室内容積[m3]、
c7、c8:適合定数、
上記(18)式の層流燃焼速度SL[m/sec]としては、次の(19)式により算出する。
SL=SL0・(T/298)^a・(p/101.325)^b
・(1−2.1×MRESR^c) …(19)
ただし、SL0 :標準状態での層流燃焼速度[m/sec]、
T :未燃ガス温度[K]、
p :燃焼室内圧力[kPa]、
MRESR:内部不活性ガス率[%]、
a、b、c:係数、
ここで、着火遅れ時間τを算出するのに用いる(19)式の層流燃焼速度SLと、燃焼時間BTを算出するのに用いる上記(17)式の層流燃焼速度SLとでは、式そのものは変わらず、また標準状態での層流燃焼速度SL0、内部不活性ガス率MRESRの値も変わらないが、未燃ガス温度T、燃焼室内圧力pとして代入する値が(19)式と(17)式とで、後述するように相違することとなる。
上記(17)式及び(19)式の標準状態での層流燃焼速度SL0[m/sec]、係数a、b、c[無名数]は次の(20)式〜(23)式により算出する。
SL0=(0.2632−0.8472/(φ−1.13)^2)
…(20)
a=2.18−0.80・(φ−1) …(21)
b=−0.16+0.22・(φ−1) …(22)
c=1 …(23)
ただし、φ:当量比[無名数]、
ここで、(20)式〜(23)式についてはSAEペーパーにより公知である(SAE199910175参照)。
これで変更後点火時期制御方法をまとめたものの説明を終了する。
次に、上記(11b)式に示した体積燃焼割合の求め方と、上記(17)式、(19)式に示した未燃ガス温度の算出方法とについて補足説明を行う。
まず、上記(11b)式に示した体積燃焼割合の求め方を簡単に説明する。
既燃ガスの質量燃焼割合をx、体積燃焼割合をyとして、燃焼室内の燃焼が定容燃焼同様に、
y=f(x)
=1+(x−1)/(1+x(k1−1)^(1/κ))
…(24)
ただし、k1≒4〜5、
の式により書けると仮定すると、(24)式のk1に4を代入して計算することにより、上記(11b)式が容易に得られる。
上記(17)式、(19)式に示した未燃ガス温度Tの算出方法をまとめて説明すると、断熱変化と仮定し、熱力学の次の(25)式を用いて燃焼室5のθmb x%時の未燃ガス温度Tmb x%を算出する。
Tmb x%=Tivc・(Pmb x%/Pivc)^{(κ−1)/κ} …(25)
ただし、Tmb x%:θmb x%時の未燃ガス温度[K]、
Tivc :IVC時の燃焼室内温度[K]、
Pmb x%:θmb x%時の燃焼室内圧力[kPa]、
Pivc :IVC時の燃焼室内圧力[kPa]、
κ :比熱比(固定値で1.3〜1.4)、
ここで、(25)式の燃焼室5のθmb x%時の未燃ガス圧力Pmb x%の算出方法を説明すると、この燃焼室5のθmb x%時の未燃ガス圧力Pmb x%は次の(26)式により与えられる。
Pmb x%=Pivc+Δp …(26)
ただし、Δp:燃焼室内未燃ガス圧力の変化量、
ここで、燃焼室内未燃ガス圧力の変化量Δpは、容積変化による圧力変化分Δpvと、燃焼による圧力変化分Δpcとに分けて算出する。つまり、次の(27)式により燃焼室内未燃ガス圧力の変化量Δpを算出する。
Δp=Δpv+Δpc …(27)
このうち、(27)式の容積変化による圧力変化分Δpvは熱力学の式である次の(28)式により算出することができる。
Δpv=Pivc・{(Vivc/Vmb x%)^κ−1} …(28)
ただし、Vivc :IVC時の燃焼室内容積、
Vmb x%:θmb x%時の燃焼室内容積、
ここで、燃焼室5の吸気弁閉時期における容積Vivcはピストン6の位置から求めることができる。燃焼室5のθmb x%時における未燃ガス容積Vmb x%については、図12に示したように、θmb x%とVmb x%の関係を表す特性を予め作成しておき、θmb x%から当該特性を用いて、燃焼室5のθmb x%時における未燃ガス容積Vmb x%を求めればよい。図12は要するにクランク角に対する燃焼室容積の特性である。
一方、上記(27)式の燃焼による圧力変化分Δpcは、次の(29)式により簡易に算出すればよい。
Δpc=(x/100)×Δpctotal …(29)
ただし、Δpctotal:燃焼によるトータルの圧力上昇分、
ここで、燃焼によるトータルの圧力上昇分Δpctotalについては、図13に示したように、燃料噴射パルス幅Ti[msec](または燃料噴射量)とΔpctotalの関係を表す特性を予め作成しておき、燃料噴射パルス幅Ti(または燃料噴射量)から当該特性を用いて燃焼によるトータルの圧力上昇分Δpctotalを求める。
これで補足説明を終える。
次に、エンジンコントローラ31で実行される上記変更後点火時期制御方法における基本点火時期MBTCALの算出方法を図14、図16、図17、図18、図19のフローチャートを参照しながら詳述する。
図14は基本点火時期MBTCALの算出に必要な各種の物理量を算出するためのもので、一定時間毎(例えば10msec毎)に実行する。
まずステップ1では、吸気弁閉時期IVC[degATDC]、バルブリフト量Lift[m]、温度センサ43により検出されるコレクタ内温度TCOL[K]、圧力センサ44により検出されるコレクタ内圧力PCOL[Pa]、温度センサ45により検出される排気温度TEXH[K]、内部不活性ガス率MRESR[%]、燃料噴射パルス幅Ti[msec]、クランク角センサ(33、34)により検出されるエンジン回転速度Ne[rpm]、総ガス質量MGAS[g]を読み込む。
ここで、吸気弁閉時期IVCはVTC機構27に与える指令値から既知である。あるいはカム角センサ34により実際の吸気弁閉時期を検出してもかまわない。
吸気弁15のバルブリフト量LiftはVEL機構28に与える指令値から既知である。つまり、図4下段、図10下段に示したように、VEL機構28の非作動時には第1バルブリフト量Lift1が、これに対してVEL機構28の作動時には第2バルブリフト量Lift2がバルブリフト量Liftである。
燃料噴射パルス幅Tiは図示しない燃料噴射パルス幅の算出ルーチンにおいて算出されている。例えば、シーケンシャル噴射時に燃料インジェクタ21に与える燃料噴射パルス幅Ti[msec]の算出式は次のようなものである。
Ti=Tp×Tfbya×(α+αm−1)×2+Ts …(30)
ただし、Tp :基本噴射パルス幅[msec]、
Tfbya:[無名数]、
α :空燃比フィードバック補正係数[無名数]、
αm :空燃比学習値[無名数]、
Ts :無効パルス幅[msec]、
(30)式の目標当量比Tfbyaは無名数であり、理論空燃比を14.7とすると、次の(31)式により表される値である。
Tfbya=14.7/目標空燃比 …(31)
例えば(31)式より目標空燃比が理論空燃比(14.7)のときTfbya=1.0となり、目標空燃比が例えば22.0といったリーン側の値であるとき、Tfbyaは1.0未満の正の値となる。
クランク角センサはクランクシャフト7のポジションを検出するポジションセンサ33と、吸気用カムシャフト25ポジションを検出するフェーズセンサ(=カム角センサ)34とからなり、これら2つのセンサ33、34からの信号に基づいてエンジン回転速度Ne[rpm]が算出されている。
内部不活性ガス率MRESFRは燃焼室5内に残留する不活性ガス量を燃焼室5内の総ガス量で除した値で、その算出については総ガス質量MGASと共に図16により後述する。
ステップ2では、燃焼室5の吸気弁閉時期IVCにおける容積(圧縮開始時期の容積)Vivc[m3]を算出する。燃焼室5の吸気弁閉時期における容積Vivcは、ピストン6のストローク位置によって決まる。ピストン6のストローク位置はエンジンのクランク角位置によって決まる。
図15を参照して、エンジンのクランクシャフト71の回転中心72がシリンダの中心軸73からオフセットしている場合を考える。コネクティングロッド74、コネクティングロッド74とクランクシャフト71との結節点75、コネクティングロッド74とピストンをつなぐピストンピン76が図に示す関係にあるとする。このときの、燃焼室5の吸気弁閉時期における容積Vivcは次の(41)式〜(45)式で表すことができる。
Vivc=f1(θivc)=Vc+(π/4)D2・Hivc
…(41)
Vc=(π/4)D2・Hx/(ε−1) …(42)
Hivc={(CND+ST2/2)−(CRoff−PISoff)2}1/2
−{(ST/2)・cos(θivc+θoff)}
+(CND2−X2)1/2 …(43)
X =(ST/2)・sin(θivc+θoff)−CRoff+PISoff
…(44)
θoff=arcsin{(CRoff−PISoff)/(CND・(ST/2))}
…(45)
ただし、Vc :隙間容積[m3]、
ε :圧縮比、
D :シリンダボア径[m]、
ST :ピストンの全ストローク[m]、
Hivc :吸気弁閉時期におけるピストンピン76の
TDCからの距離[m]、
Hx :ピストンピン76のTDCからの距離の最大値と最小値の差 [m]、
CND :コネクティングロッド74の長さ[m]、
CRoff :結節点75のシリンダ中心軸73からのオフセット距離
[m]、
PISoff:クランクシャフト回転中心72のシリンダ中心軸73から のオフセット距離[m]、
θivc :吸気弁閉時期のクランク角[degATDC]、
θoff :ピストンピン76とクランクシャフト回転中心72とを結ぶ 線がTDCにおいて垂直線となす角度[deg]、
X :結節点75とピストンピン76との水平距離[m]、
吸気弁閉時期のクランク角θivcは前述のように、エンジンコントローラ31からVTC機構27への指令信号によって決まるので、既知である。(41)式〜(45)式にこのときのクランク角θivc(=IVC)を代入すれば、燃焼室5の吸気弁閉時期における容積Vivcを算出することができる。したがって、実用上は燃焼室5の吸気弁閉時期における容積Vivcは吸気弁閉時期IVCをパラメータとするテーブルで設定したものを用いる。
ステップ3では、燃焼室5の吸気弁閉時期IVCにおける温度(圧縮開始時期温度)Tivc[K]を算出する。燃焼室5に流入するガスの温度は、燃焼室5に流入する新気と燃焼室5に残留する不活性ガスとが混じったガスの温度であり、燃焼室5に流入する新気の温度は吸気コレクタ2内の新気温度TCOLに等しく、また燃焼室5内に残留する不活性ガスの温度は排気ポート部近傍の排気温度TEXHで近似できるので、燃焼室5の吸気弁閉時期IVCにおける温度Tivcは吸気弁閉時期IVCになったタイミングでの、吸気コレクタ2内の新気温度TCOL、排気温度TEXH、燃焼室5内に残留する不活性ガスの割合である内部不活性ガス率MRESRから次の(46)式により求めることができる。
Tivc=TEXH×MRESR+TCOL×(1−MRESR)
…(46)
ステップ4では燃焼室5の吸気弁閉時期IVCにおける圧力(圧縮開始時期圧力)Pivc[kPa]を算出する。すなわち、吸気弁閉時期IVCになったタイミングでのコレクタ内圧力PCOLを吸気弁閉時期IVCにおける圧力Pivcとして取り込む。
ステップ5では、燃料噴射パルス幅Ti(または燃料噴射量)から図13を内容とするテーブルを検索することにより、トータルの燃焼による圧力上昇分Δptotal[Pa]を算出する。
ステップ6では、バルブリフト量Liftから図4上段を内容とするテーブルを検索することにより、タンブル強度のバルブリフト量補正係数kVEL[1/deg]を算出する。すなわち、VEL機構28の非作動時には第1バルブリフト量補正係数kVEL1を、これに対してVEL機構28の作動時には第2バルブリフト量補正係数kVEL2を、バルブリフト量補正係数kVELとして算出する。
ステップ7では、同じくバルブリフト量Liftから図10上段を内容とするテーブルを検索することにより、流速係数k1VEL[無名数]を算出する。すなわち、VEL機構28の非作動時には第1流速係数k1VEL1を、これに対してVEL機構28の作動時には第2流速係数k1VEL2を、流速係数k1VELとして算出する。
ステップ8では、このうちの流速係数k1VEL、吸気弁閉時期IVC、総ガス質量MGAS、エンジン回転速度Neを用いて、次の(47)式により燃焼質量割合が10%となるときのクランク角位置であるθmb10%[degATDC]を算出する。
θmb10%=k1VEL・(IVC−θt0)・MGAS^c1・Ne^c2
+c3 …(47)
ただし、k1VEL:流速係数[無名数]、
IVC :吸気弁閉時期[degATDC]、
θt0 :タンブル形成開始角[degATDC]、
MGAS :総ガス質量[g]、
Ne :エンジン回転速度[rpm]、
c1〜c3:適合係数、
(47)式は、上記(14)式において、燃焼室内ガス質量mとして総ガス質量MGASを用いたもので、基本的に上記(14)式と変わらない。
ここで、燃焼圧が最大となるクランク角θpmaxは(47)式右辺第1項、つまり次の(47−1)式により与えていることになる。
θpmax=k1VEL・(IVC−θt0)・MGAS^c1・Ne^c2
…(47−1)
ステップ9では燃焼質量割合が10%となるときのクランク角位置であるθmb10%から単純にクランク角で4degを差し引いた値を燃焼質量割合が6%となるときのクランク角位置であるθmb6%[degATDC]として求める。これはθmb2%よりθmb10%までのクランク角区間で燃焼質量割合が直線的に変化するとみなしてθmb6%を求めるようにしたものある。
ステップ10では、このθmb6%から図12を内容とするテーブルを検索することにより、燃焼室5のθmb6%時における容積Vmb6%を算出する。
ステップ11、12はステップ9、10と同様である。 ステップ11では燃焼質量割合が10%となるときのクランク角位置であるθmb10%から単純にクランク角で8degを差し引いた値を燃焼質量割合が2%となるときのクランク角位置であるθmb2%[degATDC]として求める。ステップ12ではこのθmb2%から図12を内容とするテーブルを検索することにより、燃焼室5のθmb2%時における容積Vmb2%を算出する。
図16は燃焼室5内の内部不活性ガス率MRESR[%]を算出するためのもので、一定時間毎(例えば10msec毎)に実行する。このフローは上記図14のフローに先立って実行する。
ステップ21ではエアフローメータ32の出力と目標当量比Tfbyaを読み込む。ステップ22ではエアフロメータ32の出力に基づいて、燃焼室5に流入する新気量(シリンダ新気量)MACYL[g]を算出する。このシリンダ新気量MACYLの算出方法については公知の方法を用いればよい(特開2001−50091号公報参照)。
ステップ23では、燃焼室5内の内部不活性ガス量MRES[g]を算出する。この内部不活性ガス量MRESの算出についても公知の方法を用いればよい(特開2005−171856号公報参照)。
ステップ24では、この内部不活性ガス量MRES、シリンダ新気量MACYL、目標当量比Tfbyaから次の(48)式により燃焼室5の総ガス質量MGAS[g]を算出する。
MGAS=MACYL×(1+Tfbya/14.7)+MRES
…(48)
(48)式右辺の括弧内の「1」は新気分、「Tfbya/14.7」は燃料分である。
ステップ25では、この総ガス質量MGAS、内部不活性ガス量MRESを用いて、次の(49)式により内部不活性ガス率MRESR(燃焼室5内の総ガス質量に対する内部不活性ガス量の割合)[%]を算出する。
MRESR=MRES/MGAS …(49)
図17は燃焼時間BT[sec]を算出するためのもの、図18は着火遅れ時間τ[sec]を算出するためのもので、それぞれ一定時間毎(例えば10msec毎)に実行する。図17、図18は図14に続けて実行する。図17、図18はどちらを先に実行してもかまわない。
ここでは図17から先に説明すると、ステップ31では、吸気弁閉時期IVC[degATDC]、図14のステップ2で算出されている燃焼室5の吸気弁閉時期における容積Vivc[m3]、図14のステップ3で算出されている燃焼室5の吸気弁閉時期における温度Tivc[K]、図14のステップ4で算出されている燃焼室5の吸気弁閉時期における圧力Pivc[Pa]、図14のステップ5で算出されているトータルの燃焼による圧力上昇分Δpctotal[kPa]、図14のステップ6で算出されているタンブル強度のバルブリフト量補正係数kVEL[1/deg]、図14のステップ10で算出されている燃焼室5のθmb6%時における容積Vmb6%[degATDC]、図16のステップ24で算出されている総ガス質量MGAS[g]、図16のステップ25で算出されている内部不活性ガス率MRESR[%]、燃料噴射パルス幅Ti[msec]、目標当量比Tfbya[無名数]、エンジン回転速度Ne[rpm]を読み込む。
ステップ32では、燃焼室5の吸気弁閉時期における圧力Pivc、燃焼室5の吸気弁閉時期における容積Vivc、燃焼室5のθmb6%時における容積Vmb6%から、次の(50)式により、容積変化による圧力変化分Δpv[kP]を算出する。
Δpv=Pivc・{(Vivc/Vmb6%)^κ−1} …(50)
ただし、κ:比熱比(固定値で1.3〜1.4)、
(50)式は上記(28)式と同じものである。ここでの容積変化による圧力上昇分Δpvはθmb2%よりθmb10%までのクランク角区間(燃焼期間)における圧力上昇分であるので、θmb2%とθmb10%の平均値であるθmb6%を用いている。
ステップ33では、燃焼によるトータルの圧力上昇分Δpctotalから、次の(51)式により、燃焼による圧力上昇分Δpc[kP]を算出する。
Δpc=0.06×Δpctotal …(51)
(51)式は上記(29)式において、燃焼質量割合xとして6%を用いたものである。
ステップ34では、これら燃焼による圧力上昇分Δpc、容積変化による圧力上昇分Δpvを燃焼室5の吸気弁閉時期における圧力Pivcに加算して、つまり次の(52)式により燃焼室5のθmb6%時における未燃ガス圧力Pmb6%[kP]を算出する。
Pmb6%=Pivc+Δpv+Δpc …(52)
ステップ35では、この燃焼室5のθmb6%時における未燃ガス圧力Pmb6%、燃焼室5の吸気弁閉時期における圧力Pivc、燃焼室5の吸気弁閉時期における温度Tivcを用いて、次の(53)式により燃焼室5のθmb6%時における未燃ガス温度Tmb6%[K]を算出する。
Tmb6%=Tivc・(Pmb6%/Pivc)^{(κ−1)/κ} …(53)
ただし、κ:比熱比(固定値で1.3〜1.4)、
(53)式は上記(25)式において燃焼質量割合xが6%のときの値である。
ステップ36では、目標当量比Tfbyaから次の(54)式〜(56)式により標準状態での層流燃焼速度SL0[m/sec]、係数a、b[無名数]を求め、ステップ37で、これら標準状態での層流燃焼速度SL0、係数a、bと、燃焼室5のθmb6%時における未燃ガス温度Tmb6%、燃焼室5のθmb6%時における未燃ガス圧力Pmb6%、内部不活性ガス率MRESRを用いて、次の(57)式によりθmb6%時の層流燃焼速度SL[m/s]を算出する。
SL0=(0.2632−0.8472/(Tfbya−1.13)^2)
…(54)
a=2.18−0.80・(Tfbya−1) …(55)
b=−0.16+0.22・(Tfbya−1) …(56)
SL=SL0・(Tmb6%/298)^a・(Pmb6%/101.325)^b
・(1−2.1×MRESR) …(57)
(54)式〜(56)式は、上記(20)式〜(22)式において、当量比φとして目標当量比Tfbyaを用いたもので、基本的に(20)式〜(22)式と変わらない。同様に、(57)式は、上記(17)式において、未燃ガス温度T、燃焼室内圧力pとしてTmb6%、Pmb6%を用いたもので、基本的に(17)式と変わらない。
ステップ38では、このθmb6%時の層流燃焼速度SL、タンブル強度のバルブリフト量補正係数kVEL、吸気弁閉時期IVC、総ガス質量MGAS、エンジン回転速度Neを用いて、次の(58)式により、燃焼室内のガス流動としてのタンブル強度It[無名数]を算出する。
It=kVEL・(IVC−θt0)・MGAS^c4・Ne^(c5−1)
…(58)
ただし、θt0 :タンブル形成開始角[degATDC]、
c4、c5:適合係数、
VTC機構27の作動で吸気弁閉時期IVCが遅角側に遅らされるほど、つまりタンブル開始角を起点としてIVCまでのクランク角区間(IVC−θt0)が大きくなるほど実際のタンブル強度が大きくなるが、(58)式よれば、吸気弁閉時期IVCが遅れるとき(IVCの値が大きくなるとき)タンブル強度Itも大きくなるのであり、算出値としてのItは実際のタンブル強度と良く一致することとなる。
また、VEL機構28の作動で吸気弁のバルブリフト量が大きくなるほど実際のタンブル強度が大きくなるが、図4上段によればバルブリフト量Liftが大きくなるときバルブリフト量補正係数kVELが大きくなり、(58)式よれば、バルブリフト量補正係数kVELが大きくなるときタンブル強度Itも大きくなるのであり、算出値としてのItは実際のタンブル強度と良く一致することとなる。
さらに、(58)式よれば、総ガス質量MGASが大きくなるほどタンブル強度Itが大きくなる。
ステップ39では、このタンブル強度Itと回転速度Neから次の(59)式により燃焼室内ガスの乱れ強さu[m/sec]を算出する。
u=It・Ne …(59)
これは、タンブルが圧縮工程中に小渦に変換されることにより、燃焼室内ガスの乱れが強くなるので、タンブル強度Itが強いほど燃焼室内ガスの乱れが強くなると考え、タンブル強度It(燃焼室内のガス流動)に基づいて燃焼室内ガスの乱れ強さuを推定するものである。
ステップ40では、この燃焼室内ガスの乱れ強さuから次の(60)式により乱流燃焼速度ST[m/sec]を算出する。
ST=[u/SL]^c6 …(60)
ただし、c6:適合係数、
ステップ41では、このようにして求めた乱流燃焼速度STと、ステップ37で算出している、燃焼質量割合が6%となるときのクランク角位置であるθmb6%時の層流燃焼速度SLとから、次の(61)式により燃焼質量割合が6%となるときのクランク角位置であるθmb6%時の燃焼速度Sb[m/s]を算出する。
Sb=SL+ST …(61)
なお、ステップ38〜41に代えて、燃焼質量割合が6%となるときのクランク角位置であるθmb6%時の燃焼速度Sb[m/s]を次の一つの式により算出してもかまわない。
Sb=SL+[{kVEL・(IVC−θt0)・MGAS^c4・Ne^c5}
/SL]^c6 …(62)
ただし、θt0 :タンブル形成開始角[degATDC]、
c4、c5、c6:適合係数、
(62)式は、上記(16)式において、燃焼室内ガス質量mとして総ガス質量MGASを用いたもので、基本的に(16)式と変わらない。
ステップ42では、この燃焼質量割合が6%となるときのクランク角位置であるθmb6%時の燃焼速度Sb、燃焼室5のθmb6%時におけ容積Vmb6%を用いて、次の(63)式により燃焼時間BT[s]を算出する。
BT=0.0707・Vmb6%/(Ab・Sb) …(63)
ただし、Ab:火炎表面積[m2]、
(63)式は、上記(15)式において、燃焼室内容積VcylとしてVmb6%を用いたもので、基本的に(15)式と変わらない。
図18は着火遅れ時間τ[sec]を算出するためのもので、一定時間毎(例えば10msec毎)に実行する。
ステップ51〜57は図16のステップ31〜37と同様である。すなわち、ステップ51では、吸気弁閉時期IVC[degATDC]、図14のステップ2で算出されている燃焼室5の吸気弁閉時期における容積Vivc[m3]、図14のステップ3で算出されている燃焼室5の吸気弁閉時期における温度Tivc[K]、図14のステップ4で算出されている燃焼室5の吸気弁閉時期における圧力Pivc[Pa]、図14のステップ5で算出されているトータルの燃焼による圧力上昇分Δpctotal[Pa]、図14のステップ6で算出されているタンブル強度のバルブリフト量補正係数kVEL[1/deg]、図14のステップ12で算出されている燃焼室5のθmb2%時における容積Vmb2%[degATDC]、図16のステップ24で算出されている総ガス質量MGAS[g]、図16のステップ25で算出されている内部不活性ガス率MRESR[%]、燃料噴射パルス幅Ti[ms]、目標当量比Tfbya[無名数]、エンジン回転速度Ne[rpm]を読み込む。
ステップ52では、燃焼室5の吸気弁閉時期における圧力Pivc、燃焼室5の吸気弁閉時期における容積Vivc、燃焼室5のθmb2%時における容積Vmb2%から、次の(64)式により、容積変化による圧力変化分Δpv[kP]を算出する。
Δpv=Pivc・{(Vivc/Vmb2%)^κ−1} …(64)
ただし、κ:比熱比(固定値で1.3〜1.4)、
(64)式は上記(28)式と同じものである。ここでの容積変化による圧力上昇分Δpvはθmb0%よりθmb2%までのクランク角区間(着火遅れクランク角区間)における圧力上昇分であるが、θmb0%とθmb2%の平均値であるθmb1%は用いず、着火遅れクランク角区間の終期の値であるθmb2%を用いている。
ステップ53では、燃焼によるトータルの圧力上昇分Δpctotalから、次の(65)式により、燃焼による圧力上昇分Δpc[kP]を算出する。
Δpc=0.02×Δpctotal …(65)
(65)式は上記の(29)式において、燃焼質量割合xとして2%を用いたものである。
ステップ54では、これら燃焼による圧力上昇分Δpc、容積変化による圧力上昇分Δpvを燃焼室5の吸気弁閉時期における圧力Pivcに加算して、つまり次の(66)式により燃焼室5のθmb2%時における未燃ガス圧力Pmb2%[kP]を算出する。
Pmb2%=Pivc+Δpv+Δpc …(66)
ステップ55では、この燃焼室5のθmb2%時における未燃ガス圧力Pmb2%、燃焼室5の吸気弁閉時期における圧力Pivc、燃焼室5の吸気弁閉時期における温度Tivcを用いて、次の(67)式により燃焼室5のθmb2%時における未燃ガス温度Tmb2%[K]を算出する。
Tmb2%=Tivc・(Pmb2%/Pivc)^{(κ−1)/κ} …(67)
ただし、κ:比熱比(固定値で1.3〜1.4)、
(67)式は上記(25)式において燃焼質量割合xが2%のときの値である。
ステップ56では、目標当量比Tfbyaから次の(68)式〜(70)式により標準状態での層流燃焼速度SL0[m/sec]、係数a、bを求め、ステップ57で、これら標準状態での層流燃焼速度SL0、係数a、bと、燃焼室5のθmb2%時における未燃ガス温度Tmb2%、燃焼室5のθmb2%時における未燃ガス圧力Pmb2%、内部不活性ガス率MRESRを用いて、次の(71)式によりθmb2%時の層流燃焼速度SL[m/s]を算出する。
SL0=(0.2632−0.8472/(Tfbya−1.13)^2)
…(68)
a=2.18−0.80・(Tfbya−1) …(69)
b=−0.16+0.22・(Tfbya−1) …(70)
SL=SL0・(Tmb2%/298)^a・(Pmb2%/101.325)^b
・(1−2.1×MRESR) …(71)
(68)式〜(70)式は、上記(20)式〜(22)式において、当量比φとして目標当量比Tfbyaを用いたもので、基本的に(20)式〜(22)式と変わらない。同様に、(71)式は、上記(19)式において、未燃ガス温度T、燃焼室内圧力pとしてTmb2%、Pmb2%を用いたもので、基本的に(19)式と変わらない。
ステップ58では、このθmb2%時の層流燃焼速度SL、燃焼室5のθmb2%時における容積Vmb2%、エンジン回転速度Ne、総ガス質量MGASを用いて、次の(72)式により着火遅れ時間τ[sec]を算出する。
τ={0.490・Vmb2%^(1/3)}
/{c7・SL+c8・Ne・MGAS^(1/2)}
…(72)
ただし、c7、c8:適合係数、
(72)式は、上記(18)式において、燃焼室内容積Vcyl、燃焼室内ガス質量mとして、それぞれ燃焼室5のθmb2%時における容積Vmb2%、総ガス質量MGASを用いたもので、基本的に(18)式と変わらない。
図19は基本点火時期MBTCAL[degBTDC]を算出するためのもので、一定時間毎(例えば10msec毎)に実行する。図17、図18のうち遅く実行されるフローに続けて実行する。
ステップ61では、図14のステップ8で算出されている燃焼質量割合が10%となるときのクランク角位置であるθmb10%[degATDC]、図17のステップ42で算出されている燃焼時間BT[sec]、図18のステップ58で算出されている着火遅れ時間τ[sec]、エンジン回転速度Ne[rpm]を読み込む。
ステップ62では、着火遅れ時間τ、燃焼期間BT、燃焼質量割合が10%となるときのクランク角位置であるθmb10%、エンジン回転速度Neを用いて、次の(73)式により基本点火時期MBTCAL[degATDC]を算出し、ステップ63で次の(74)式によりその絶対値を採り、マイナスの符号を付けたものを改めて基本点火時期MBTCAL[degBTDC]として算出する。
MBTCAL=(τ+BT)・Ne・6−θmb10% …(73)
MBTCAL=−|MBTCAL| …(74)
(73)式、(74)式は、上記(13)式と同じ式である。
このようにして算出した基本点火時期MBTCALは、点火時期指令値として点火レジスタに移され、実際のクランク角がこの点火時期指令値と一致したタイミングでエンジンコントローラ31より一次電流を遮断する点火信号が点火コイル13に出力される。
ここで、本実施形態の作用効果を説明する。ここでは、上記〈1〉の燃焼速度の算出方法及び上記〈2〉の基準クランク角の設定方法による作用効果をまず説明し、その後で上記〈3〉の着火遅れ時間の算出方法による作用効果を説明する。
〔1〕上記〈1〉の燃焼速度の算出方法及び上記〈2〉の基準クランク角の設定方法による作用効果:
タンブル強度It(燃焼室内のガス流動)は、燃焼室内のさまざまな場所に分布する小渦の角運動量の総和で表されるので、例えばシリンダ(燃焼室5)の中心からi番目の小渦までの距離をri、i番目の小渦のガス質量をmi、i番目の小渦のガス流速をviとすると、上記(3)式によりタンブル強度It(燃焼室内のガス流動)が表されるのであるが、燃焼室内の全ての小渦についてこれらの値mi、ri、viをエンジンコントローラ31においてオンラインで算出することは現在のところ不可能である。
そこで、本発明者は、タンブルが圧縮工程中に小渦に変換されることにより、燃焼室内ガスの乱れuが強くなるため、タンブル強度Itが強いほど燃焼室内ガスの乱れが強くなると考え、タンブル強度It(燃焼室内のガス流動)に基づいて燃焼室内ガスの乱れ強さuを推定するものとした。すなわち、本実施形態によれば、タンブル強度It(燃焼室内のガス流動)に基づいて燃焼室内ガスの乱れ強さuを算出し(図17のステップ38、39参照)、この燃焼室内ガスの乱れ強さuに基づいて乱流燃焼速度STを算出し(図17のステップ40参照)、この乱流燃焼速度STに基づいてMBTの得られる基本点火時期を算出する(図17のステップ41、42、図19のステップ61〜63参照)ので、タンブル強度It(燃焼室内のガス流動)の影響を受けて乱流燃焼速度STが変動しても、その変動する乱流燃焼速度STを精度よく算出できることから、基本点火時期MBTCAL(MBTの得られる基本点火時期)の予測精度を向上させることができる。
上記のように、燃焼室内の全ての小渦についてmi、ri、viをエンジンコントローラ31においてオンラインで算出することは現在のところ不可能であるので、タンブル強度Itを求めるには何らかの近似が必要である。そこで、本発明者は燃焼室内のガス流動を新たに吸気弁15のリフト特性とエンジン回転速度Neとに基づいて推定するものとした。ここで、吸気弁15のリフト特性とは、吸気弁のバルブリフト量(あるいは吸気弁のバルブ作動角)または吸気弁の開閉時期のことである。
すなわち、本実施形態によれば、タンブル強度It(燃焼室内のガス流動)を吸気弁15のバルブリフト量Lift及び吸気弁閉時期IVC(リフト特性)とエンジン回転速度Neとに基づいて推定するので(図14のステップ6、図17のステップ38参照)、簡易な構成でタンブル強度It(燃焼室内のガス流動)を精度よく算出できることになった。
VEL機構28を備えるときには、VEL機構28の作動状態で吸気弁15のリフト量が小さいときと、VEL機構28の非作動状態で吸気弁15のリフト量が大きいときでは燃焼室内のガス流動の向きが変わるため(図2(f)と図2(g)を参照)、燃焼室内ガスの乱れ強さuも変わってしまうのであるが、本実施形態によれば、乱流燃焼速度STを少なくとも吸気弁15のバルブリフト量Lift(リフト特性)に基づいて算出するので(図14のステップ6、図17のステップ38、39、40参照)、VEL機構28の作動、非作動に伴う吸気弁15のバルブリフト量Liftの大小に関係なく乱流燃焼速度STの推定精度を向上できる。
VTC機構27の働きにより、吸気弁閉時期IVCが遅いほど燃焼室内ガスの乱れを形成する期間が長くなり、燃焼室内ガスの乱れ強さuが強くなることに対応し、本実施形態によれば、乱流燃焼速度STを少なくとも吸気弁閉時期IVCに基づいて算出するので(図17のステップ38、39、40参照)、吸気弁閉時期IVCの進角、遅角に関係なく乱流燃焼速度STの推定精度を向上できる。
燃焼室5の総ガス質量MGAS(燃焼室内のガス量)が多いほどガスの持つ運動エネルギーが多くなり燃焼室内ガスの乱れ強さuも強くなり燃焼が早くなることに対応し、本実施形態によれば、乱流燃焼速度STを燃焼室5の総ガス質量MGAS(燃焼室内のガス量)に基づいても算出するので(図17のステップ38、39、40参照)、燃焼室5の総ガス質量MGAS(燃焼室内のガス量)の多少に関係なく乱流燃焼速度STの推定精度を向上できる。
燃焼室内ガスの乱れが少ない状態では層流燃焼速度SLが乱流燃焼速度STに与える影響が大きいことに対応し、本実施形態によれば、層流燃焼速度STを算出する層流燃焼速度算出処理手順を含み(図17のステップ37参照)、乱流燃焼速度STをこの層流燃焼速度SLに基づいても算出するので(図17のステップ40参照)、燃焼室内ガスの乱れが少ない状態においても乱流燃焼速度STの推定精度を向上できる。
ところで、実施形態にいう吸気弁閉時期IVCは、実際に吸気弁15が閉じる瞬間のことである。実際には、吸気管内圧力の脈動による影響で、吸気弁閉時期IVCよりも早く燃焼室内圧力が上昇し始めると、吸気弁は開いているのにそれ以上空気が燃焼室5へと入らないことがある。こうした場合には、燃焼室内のガス流動(燃焼室内ガスの乱れ)に影響するのは、吸気弁閉時期IVCではなく、吸気弁閉時期IVCの前に燃焼室内圧力が実際に上昇し始める時期である。ここで、吸気弁閉時期IVCの前に燃焼室内圧力が実際に上昇し始める時期を「圧縮行程開始時期」として新たに定義すれば、吸気弁閉時期IVCと圧縮行程開始時期とは異なる値となる。
そこで、吸気弁閉時期IVCに代え、この新たに定義した圧縮行程開始時期に基づいて乱流燃焼速度STを算出することで、吸気管内圧力の脈動による影響により、吸気弁閉時期IVCよりも早く燃焼室内圧力が上昇し始め、吸気弁15は開いているのにそれ以上空気が燃焼室内に入らない場合においても、乱流燃焼速度STの推定精度を向上できることとなる。
圧縮行程開始時期を求める方法には、次のように検出する方法と推定する方法の2つが考えられる。
検出する方法:燃焼室に臨んで燃焼室内の圧力を検出するセンサ(圧縮行程開始時期検出装置)を設けておき、このセンサにより検出される燃料室内圧力に基づいて、吸気弁閉時期付近で、燃焼室内圧力が上昇を開始するときのクランク角を圧縮行程開始時期として計測(検出)する。
推定する方法:吸気弁閉時期IVC[degATDC]と圧縮行程開始時期[degATDC]の間のクランク角度差DCA[deg]はエンジン回転速度Neの感度を持っているので、次の式により圧縮行程開始時期を算出(推定)することができる。
圧縮行程開始時期=IVC−DCA …(75)
(75)式のクランク角度差DCAは、そのときのエンジン回転速度Neから所定のテーブル(エンジン回転速度Ne大きくなるほどクランク角度差DCAが大きくなる特性)を検索することにより求める。
〔2〕上記〈3〉の着火遅れ時間の算出方法による作用効果:
図20はコンベンショナルエンジンに適用している先行点火時期制御方法における点火無駄時間相当クランク角IGNDEADと、本実施形態の変更後点火時期制御方法における着火遅れクランク角区間(=τ・Ne・6)の違いを示している。なお、図20は点火タイミング直後の燃焼質量割合の変化を拡大して示すもので、縦軸、横軸の各スケールは図8と同じでない。
図20より、本実施形態における着火遅れクランク角区間(=τ・Ne・6)は、物理的な意味での着火遅れクランク角区間(つまり先行点火時期制御方法における点火無駄時間相当クランク角IGNDEAD)ではなく、点火タイミングから燃料が2%燃えるまでのクランク角区間である(第1の仮定)。すなわち、火炎形成開始直後に燃焼室内圧力の上昇(変化)が十分となれば、現状の燃焼解析装置でも燃焼質量割合の計測結果が精度の良いものとなることに着目し、本実施形態では燃焼室内圧力の上昇(変化)が十分となる初期燃焼時(火炎形成開始時期よりも時間的に後のタイミング)の燃焼質量割合を基準燃焼質量割合として定めている。この基準燃焼質量割合は本実施形態では2%である。そして、点火時期から燃焼質量割合がこの2%に上昇するまでの時間を計測するのであれば、この時間計測は現状の燃焼解析装置によっても精度の良いものとなる。
しかも、点火タイミングの瞬間から火炎が形成されるとみなし(第2の仮定)、点火タイミング直後の火炎速度と基準燃焼質量割合になったときの火炎半径とに基づいて着火遅れ時間τを算出している。
本実施形態ではこうした2つの仮定を入れることによって、実機により検証してみたところ、基本点火時期MBTCALの算出に十分な精度が得られることを確認している。
このように、本実施形態(請求項1、6に記載の発明)によれば、点火タイミングから燃焼質量割合が0%より上昇を開始するタイミングまでの時間(コンベンショナルエンジンに適用している先行点火時期制御方法における点火無駄時間DEADTIME)ではなく、点火時期から燃焼質量割合が初期燃焼時の燃焼質量割合である基準燃焼質量割合に上昇するまでの時間である着火遅れ時間τを算出(推定)し、この着火遅れ時間τに基づいて基本点火時期MBTCAL(MBTの得られる基本点火時期)を算出するので、点火タイミングから燃焼質量割合が0%より上昇を開始するタイミングまでの時間に基づいて基本点火時期MBTCALを算出する場合よりも、基本点火時期MBTCALの予測精度を向上させることができる。
点火時期から燃焼質量割合が基準燃焼割合に上昇するまでの時間は、燃焼シミュレータを用いれば算出可能であるのに対して、車載のエンジンコントローラ31で算出するには演算時間がかかりすぎることとなる。しかしながら、本実施形態(請求項1、6に記載の発明)によれば、点火タイミングの瞬間から火炎が形成されるとみなし、点火タイミング直後の火炎速度SFLAMEと基準燃焼質量割合になったときの火炎半径Rkernelとに基づいて、着火遅れ時間τ(点火時期から燃焼質量割合が基準燃焼質量割合に上昇するまでの時間)を算出するので(上記(追3)式を参照)、演算負荷が飛躍的に低減することとなり、車載のエンジンコントローラ31上でも、演算時間がかかりすぎることなく着火遅れ時間τを算出(演算)させることができる。
点火タイミング直後の火炎速度は層流燃焼速度と燃焼室内ガスの運動エネルギーの影響を多く受けることから、本実施形態(請求項1、6に記載の発明)によれば、火炎速度SFLAMEを、少なくとも層流燃焼速度SLと燃焼室内ガスの運動エネルギーkとに基づいて算出するようにしているので(上記(追4)式を参照)、点火タイミング直後の層流燃焼速度SLや燃焼室内ガスの運動エネルギーkが相違しても、点火タイミング直後の火炎速度SFLAMEを精度良く算出することができる。
本実施形態(請求項1、6に記載の発明)によれば、点火タイミング直後の火炎速度SFLAMEを、さらに燃焼室内ガスの熱膨張率(Tad/T)に基づいても算出するので(上記(追4)式を参照)、さらに点火タイミング直後の火炎速度SFLAMEを精度良く推定できる。
燃焼室内ガスの運動エネルギーを演算するには複雑なガス流動シュミレーションを行う必要があり、車載のエンジンコントローラ31ではこの演算は演算時間上不可能である。しかしながら、本実施形態(請求項2、7に記載の発明)によれば、燃焼室内ガスの運動エネルギーkを、少なくとも燃焼室内ガス質量mとピストン速度に基づいて算出するので(上記(12B)式を参照)、点火タイミング直後の燃焼室内ガスの運動エネルギーの演算時間が低減することとなり、車載のエンジンコントローラ31上でも点火タイミング直後の燃焼室内ガスの運動エネルギーを算出(演算)させることができる。
基準燃焼質量割合になったときの火炎半径を正確に演算(推定)するには3次元の燃焼シュミレーションを行う必要があり、車載のエンジンコントローラ31ではこの演算は演算時間上不可能である。しかしながら、本実施形態(請求項1、6に記載の発明)によれば、基準燃焼質量割合になったときの火炎半径Rkernelを基準燃焼質量割合になったtきの燃焼室容積Vcylとに基づいて算出するので(上記(追5)式、(10)式を参照)、車載のエンジンコントローラ31上において大幅に精度を落とすことなく基準燃焼質量割合になったときの火炎半径Rkernelを演算することが可能になり、高価なCPUを使う必要がなくなり、コストを低減できる。
点火タイミング直後には、火炎の形状は球形に近いため、本実施形態(請求項5、10に記載の発明)によれば、火炎の形状を球形として基準燃焼質量割合での火炎半径Rkernelを算出する(上記(追5)式、(11a)式を参照)。これにより、3次元の燃焼シュミレーションを使わずとも車載のエンジンコントローラ31上において精度よく基準燃焼質量割合になったときの火炎半径Rkernelを算出(推定)できることとなり、高価なCPUを使う必要が無くなり、コストを低減できる。
図21は第2実施形態の着火遅れ時間τ[sec]を算出するためのもので、第1実施形態の図18と置き換わるものである。図21も一定時間毎(例えば10msec毎)に実行する。図21において図18と同一の部分には同一のステップ番号を付けている。
第2実施形態では、着火遅れ時間τにおける燃焼室内ガスの平均ガス流速VGASの算出方法が第1実施形態と相違するものである。このため、図21において第1実施形態の図18と相違する部分はステップ71、72である。すなわち、ステップ71では、着火遅れ時間τにおける燃焼室内ガスの平均ガス流速VGASを算出する。この平均ガス流速VGASの算出については、図22のフローにより説明する。
図22(図21のステップ71のサブルーチン)においてステップ81では充填効率ITAC[無名数]、エンジン回転速度Ne[rpm]、吸気弁15のバルブリフト量Lift[m]、吸気弁閉時期[degATDC]を読み込む。
ここで、充填効率ITACの算出方法としては、公知の算出方法を用いればよい。また、エアフローメータ32により検出される吸入空気流量を充填効率ITACとして用いてもかまわない。
ステップ82では充填効率ITACとエンジン回転速度Neから図23を内容とするマップを検索することにより、着火遅れ時間τにおける燃焼室内ガスの基本平均ガス流速VGAS0[m/sec]を算出する。図23に示したように、基本平均ガス流速VGAS0は充填効率ITACが小さくかつ高回転速度の領域において最も大きくなり、この領域より離れるほど小さくなる値である。
ステップ83では吸気弁15のバルブリフト量Liftから図24上段を内容とするテーブルを検索することにより、着火遅れ時間τにおける燃焼室内ガスの平均ガス流速のバルブリフト量補正係数k2VEL[無名数]を算出する。すなわち、VEL機構28の非作動時には第1バルブリフト量補正係数k2VEL1を、これに対してVEL機構28の作動時には第2バルブリフト量補正係数k2VEL2を、燃焼室内ガスの平均ガス流速のバルブリフト量補正係数k2VELとして算出する。このように、VEL機構28の作動時のほうを、VEL機構28の非作動時より燃焼室内ガスの平均ガス流速のバルブリフト量補正係数k2VELを小さくしているのは、吸気弁15のバルブリフト量が小さくなるVEL機構28の作動時のほうが燃焼室内ガスの平均ガス流速が小さくなるためである。
なお、図24下段に示したように、VEL機構28の非作動時に第1バルブリフト量Lift1が、これに対してVEL機構28の作動時に第2バルブリフト量Lift2がバルブリフト量Liftになる。
ステップ84では、吸気弁閉時期IVCから図25を内容とするテーブルを検索することにより、着火遅れ時間τにおける燃焼室内ガスの平均ガス流速の吸気弁閉時期補正係数kIVC[無名数]を算出する。図25に示したように、燃焼室内ガスの平均ガス流速の吸気弁閉時期補正係数kIVCは吸気弁閉時期IVCが遅くなるほど大きくなる値である。これは、吸気弁閉時期IVCが遅くなるほど燃焼室内ガスの平均ガス流速が大きくなるためである。
ステップ85では、このようにして算出した基本平均ガス流速VGAS0、バルブリフト量補正係数k2VEL、吸気弁閉時期補正係数kIVCの3つの値を乗算することにより、つまり次式により、着火遅れ時間τにおける燃焼室内ガスの平均ガス流速VGAS[m/sec]を算出する。
VGAS=VGAS0・k2VEL・kIVC …(76)
(76)式は次のようにして導いたものである。すなわち、着火遅れ時間τにおける燃焼室内ガスの平均ガス流速VGASは、ピストン速度、吸気ポート4と燃焼室5との圧力差(圧力比)、吸気弁開口面積、吸気弁15のバルブリフト量Lift、吸気弁閉時期IVCにより変化する。これを式に表せば、次式になる。
VGAS=g(ピストン速度、吸気ポート圧力、燃焼室圧力、吸気弁開口面積)
…(77)
ただし、g:関数、
ここで、ピストン速度はエンジン回転速度Neにより決まる。吸気ポート4圧力は充填効率ITACと吸気弁15のバルブリフト量Liftで決まる。燃焼室内圧力は充填効率ITACで決まる。吸気弁開口面積は吸気弁15のバルブリフト量Liftで決まる。従って、着火遅れ時間τにおける燃焼室内ガスの平均ガス流速VGASは、(77)式に代えて、次の(78)式のようにエンジン回転速度Ne、充填効率ITAC、吸気弁15のバルブリフト量Lift、吸気弁閉時期IVCの関数f1として与えればよいことになる。
VGAS=g(Ne、ITAC、Lift、IVC) …(78)
ただし、g:関数、
しかしながら、この(78)式だと燃焼室内ガスの平均ガス流速VGASが4つの変数をパラメータとすることになり適合工数が膨大なものとなってしまうので、(78)式を次の(79)式で近似する。
VGAS=h(ITAC、Ne)×j(Lift)×n(IVC)
…(79)
ただし、h:ITACとNeを変数とする関数、
j:Liftを変数とする関数、
n:IVCを変数とする関数、
(79)式は、1つの関数gを3つの関数h、j、nの積で表したものである。(79)式の第1の関数h(ITAC、Ne)を燃焼室内ガスの基本平均ガス流速VGAS0、第2の関数j(Lift)を燃焼室内ガスの平均ガス流速のバルブリフト量補正係数k2VEL、第3の関数n(IVC)を燃焼室内ガスの平均ガス流速の吸気弁閉時期補正係数kIVCとおけば、(79)式は次のようになり、上記(76)式が得られることとなる。
VGAS=h(ITAC、Ne)×j(Lift)×n(IVC)
=VGAS0・k2VEL・kIVC
上記図23、図24上段、図25の各特性は、実機において計測し求めておくかまたはガス流動シミュレーションを行って求めておく。
このようにして着火遅れ時間τにおける燃焼室内ガスの平均ガス流速VGASを算出したら図21に戻りステップ72で次式により着火遅れ時間τ[sec]を算出する。
τ={0.490・Vmb2%^(1/3)}
/{c7・SL+c9・VGAS・MGAS^(1/2)}
…(80)
ただし、c7、c9:適合係数、
ここで、第1実施形態と相違する第2実施形形態に固有の作用効果を説明する。
吸気弁開口面積の大小、吸気ポート4と燃焼室5の圧力差(圧力比)の大小によって点火タイミング直後の燃焼室内ガス流速が大きく相違するため、これらの影響を考慮しないとすれば、点火タイミング直後の燃焼室内ガスの運動エネルギーの算出精度が低下してしまうのであるが、本実施形態(請求項3、8に記載の発明)によれば、燃焼室内ガスの運動エネルギーkを、少なくとも、吸気ポート圧力と、燃焼室内圧力と、吸気弁開口面積とに基づいて算出するので(上記(77)式を参照)、吸気弁開口面積や吸気ポート4と燃焼室5の圧力差(圧力比)が相違しても、点火タイミング直後の燃焼室内ガスの運動エネルギーkを精度良く算出することができる。
吸気弁15のプロファイル、具体的には吸気弁15のバルブリフト量Liftや吸気弁閉時期IVCに応じて点火タイミング直後の燃焼室内ガスの流れる方向が変わる。流れの方向によっては、燃焼室内で流れが打ち消され点火タイミング直後の燃焼室内ガスの流速が小さくなるケースがあり、点火タイミング直後の燃焼室内ガスの運動エネルギーに影響する。本実施形態(請求項4、9に記載の発明)によれば、点火タイミング直後の燃焼室内ガスの運動エネルギーkを、少なくとも吸気弁15のプロファイル(吸気弁15のバルブリフト量Liftと吸気弁閉時期IVCの少なくとも一方)に基づいて算出するので(上記(79)式を参照)、吸気弁15のプロファイルが相違しても、点火タイミング直後の燃焼室内ガスの運動エネルギーkを精度良く算出することができる。
第2実施形態に対して、さらに、スワールコントロールバルブ、タンブルコントロールバルブのように、燃焼室5への吸気流動を変化させ得る吸気流動可変装置を備えさせることが考えられる。
このときには、タンブルコントロールバルブ(スワールコントロールバルブ)の作動時と非作動時とで、着火遅れ時間τにおける燃焼室内ガスの平均ガス流速VGASが相違してくるので、図23を内容とする基本平均ガス流速VGASのマップ、図24上段を内容とするバルブリフト量補正係数k2VELのテーブル、図25を内容とする吸気弁閉時期補正係数kIVCのテーブルは、タンブルコントロールバルブ(スワールコントロールバルブ)の作動時と、タンブルコントロールバルブ(スワールコントロールバルブ)の非作動時とに別個に備えさせる。例えば、タンブルコントロールバルブ(スワールコントロールバルブ)の作動時のほうが、タンブルコントロールバルブ(スワールコントロールバルブ)の非作動時よりも燃焼室内のガス流速が小さくなるため、図23において同じ充填効率ITACとエンジン回転速度Neでも、タンブルコントロールバルブ(スワールコントロールバルブ)の作動時のほうが、タンブルコントロールバルブ(スワールコントロールバルブ)の非作動時よりも基本平均ガス流速VGAS0の値が小さくなるように設定する。同様にして、図24上段において同じバルブリフト量Liftでも、タンブルコントロールバルブ(スワールコントロールバルブ)の作動時のほうが、タンブルコントロールバルブ(スワールコントロールバルブ)の非作動時よりもバルブリフト量補正係数k2VELの値が小さくなるように、また図25において同じ吸気弁閉時期IVCでも、タンブルコントロールバルブ(スワールコントロールバルブ)の作動時のほうが、タンブルコントロールバルブ(スワールコントロールバルブ)の非作動時よりも吸気弁閉時期補正係数kIVCの値が小さくなるように設定する。
吸気流動可変装置はタンブルコントロールバルブ、スワールコントロールバルブに限られるものでなく、吸気管長を可変に制御可能な装置(吸気可変装置)が含まれる。この吸気可変装置を備える場合には、吸気可変装置の作動時と非作動時とで燃焼室内ガスのガス流速がどうなるかに基づいて、基本平均ガス流速VGAS0のマップ、バルブリフト量補正係数k2VELのテーブル、吸気弁閉時期補正係数kIVCのテーブルを個別に設定してやればよい。例えば、吸気可変装置の作動時のほうが、吸気可変装置の非作動時よりも燃焼室内のガス流速が小さくなるのであれば、図23において同じ充填効率ITACとエンジン回転速度Neでも、吸気可変装置の作動時のほうが、吸気可変装置の非作動時よりも基本平均ガス流速VGAS0の値が小さくなるように設定する。同様にして、図24上段において同じバルブリフト量Liftでも、吸気可変装置の作動時のほうが、吸気可変装置の非作動時よりもバルブリフト量補正係数k2VELの値が小さくなるように、また図25において同じ吸気弁閉時期IVCでも、吸気可変装置の作動時のほうが、吸気可変装置の非作動時よりも吸気弁閉時期補正係数kIVCの値が小さくなるように設定する。
実施形態では、VEL機構28及びVTC機構27を備える場合で説明したが、本発明は、VEL機構28、VTC機構27のいずれかを備える場合あるいはいずれも備えない場合にも適用がある。VEL機構28、VTC機構27のいずれも備えない場合には、バルブリフト量補正係数kVEL及び吸気弁閉時期VTCが固定値となるだけある。
請求項1に記載の発明において、時間算出処理手順は図18のステップ58により、基本点火時期算出処理手順は図19のステップ61、62、63によりそれぞれ果たされている。
請求項10に記載の発明において、時間算出手段の機能は図18のステップ58により、基本点火時期算出手段の機能は図19のステップ61、62、63によりそれぞれ果たされている。